慢性ウイルス感染を治療又は予防するためのTSLP拮抗剤
本発明は、慢性ウイルス感染の、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)拮抗剤での治療又は予防、それによって免疫回避及びウイルスの持続性を回避することに関する。本発明はまた、子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現によって子宮頸部異形成の進行の予後を診断する方法を供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)拮抗剤での慢性ウイルス感染の治療又は予防、それによって免疫回避及びウイルスの持続性を回避することに関する。本発明はまた、子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出することによる子宮頸部異形成の進行の予後診断方法を供する。
【背景技術】
【0002】
慢性ウイルス感染は、宿主の免疫応答を回避し、従ってクリアランスを回避しそして宿主において長期感染を確立する持続性ウイルスの確立を生じる。宿主の免疫応答を害する様々なストラテジーを介した慢性ウイルス感染の原因である多数の持続性ウイルスの中で、限定的なリストには:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、伝染性軟属腫ウイルス(MCV);B型又はC型肝炎ウイルス(HBV, HCV)が含まれる(Xu X-N et al., Immunity, 2001 , vol 15, 867-870 ; Alcami et al., EMBO Rep. 2002; 3(10): 927-932 Kanodia et al., Curr Cancer Drug Targets, 2007; 7, 79-89 ; WoIfI et al., J Immunol. 2008 November 1; 181 (9): 6435-6446.)。
【0003】
慢性ウイルス感染の原因である持続性ウイルスは、宿主の免疫応答に抵抗するため、及び/又はこれを回避するために多様なストラテジーを発達させてきた。
【0004】
本発明の1つの目的は、慢性ウイルス感染の原因である持続性ウイルスによって宿主の免疫応答を回避するために誘発されるTSLPの産生を阻害する新たなストラテジーをハイライトすることである。本発明のさらなる目的は、TSLP拮抗剤を使用した、慢性ウイルス感染を治療又は予防するための分子の新たな使用及び新たな方法を供することである。
【0005】
外部環境とのインターフェースにおいて体表をカバーする上皮の完全性は、有毒因子及び病原体からの最適な宿主の保護に必須である。
【0006】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚及び粘膜の重層扁平上皮の基底細胞層に感染する、非溶解性の、二本鎖DNAウイルスである。大抵のHPV病変は、更なる結果を宿主に生じることなく自然に退縮する。しかしながら、HPVは、免疫適格性のある宿主において、複製サイクルを介して免疫原性タンパク質を産生するにもかかわらず、数ヶ月又は数年間の持続性疾患を生じる可能性がある。場合によっては、感染は、最終的に子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性のある永続的な病変を起こす。肛門生殖器及び皮膚細胞腫はまた、HPV感染症と関連付けられてきた。
【0007】
より具体的には、非発癌性(低リスク)HPVサブタイプは、良性病変、例えば疣贅(いぼ)、コンジローマ又は咽頭乳頭腫症を起こすかもしれず、一方発癌性(高リスク)サブタイプ、特にHPV16型(HPV-16)及びHPV18型(HPV-18)は、子宮頸部異形成及び癌の病原体である(Kanodia et al., Curr Cancer Drug Targets, 2007; 7, 79-89, Stanley, Vaccine, 2006; 24, S16-S22)。
【0008】
従って、HPVの高リスクの発癌型に関連した感染症の慢性的性質は、細胞形質転換及び悪性病変のリスクの増加を生じる。
【0009】
従って、HPV感染症は、世界的に主要な公衆衛生の問題となっており、HPV関連性病態の診断、経過観察、治療及び予防を最適化するために、この生理病理を一層理解することが重要である。
【0010】
HPV感染症への免疫応答は、理解が不完全の状態である。ウイルスの持続性は、様々な免疫回避メカニズムに起因する。生殖器病変において、HPV感染及び複製は上皮細胞に制限され、従ってウイルス血症、及びウイルスと真皮に存在する自然免疫細胞、例えば樹状細胞(DC)との接触を制限している。HPVは、細胞溶解性ではなく、上皮細胞による「危険」シグナル及び炎症性サイトカインの放出を誘発しない。さらに、高リスクのHPVは、感染細胞による1型IFNの産生及び1型IFN誘導遺伝子の発現を抑制するメカニズムを発達させてきた。結果として、宿主が病原体の存在に気付かない状態であることが示されてきた(Stanley, Vaccine, 2006; 24, S16-S22)。
【0011】
しかしながら、一部の証拠から、免疫応答がHPV感染症において起こることが示されている:
1)これらは、自然治癒的であり、多くは自然に退縮する;
2)これらの発生及び進行は、免疫抑制患者において増大される;
3)CD4及びCD8T細胞応答の徴候は、インサイツ(in situ)で(Coleman, Am. J. Clin. Pathol. 1994; 102(6) :768-74)及び全身で(van Poelgeest Ml, Int. J. Cancer. 2006;118(3):675-83)退縮している病変において観察されている。
【0012】
しかしながら、現在のウイルスの免疫回避メカニズムは、このような免疫応答がどのように開始され得るのか説明していない。HPVは表皮角化細胞においてウイルス複製が可能なだけなので、免疫系に影響する当該ウイルスの能力は感染した表皮の局所環境に制限されるに違いない。
【0013】
ランゲルハンス細胞(LC)は、常在上皮性DCであり、皮膚において一次抗原提示細胞(APC)を構成する。未熟のLCは、上皮を介して近接ネットワークを形成する。ランゲルハンス細胞は、抗原を捕らえることができ、いくつかの刺激に応答して皮膚流入領域リンパ節へ遊走する。従って、LCは表皮内で遭遇するウイルス性抗原に対する適応性免疫応答の開始に必須であり、これらの細胞数が減少される又はこれらの細胞が皮膚から消失する場合に、疾患に対する感受性が増加することが説明されている。特に、LCは、ウイルス感染、例えばHIV及び単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染に対する防御において重大な役割を果たすことが示されている。
【0014】
安定状態の条件下で、LCの数は恒常的に維持されているが、上皮性ウイルス感染の後に恒常性は乱される。マウス皮膚のワクシニアウイルス感染症に関して、LCの純増加が、皮膚由来の抗原負荷されたLCの遊出の増加を均衡している、炎症性サイトカインに応答したLCの皮膚中への移行の増加の結果として、恒常性のかく乱を反映する感染表皮において観察される。
【0015】
一方で、頸部HPV関連病変において、直接的にウイルス感染によって生じる、HPV感染表皮におけるLCの純減少が観察されている(Tay et al., Br. J. Obstet. Gynaecol. 1987, 94(11):1094-7; Matthews et al., J. Virol., 2003, 77(15):8378-8385)。上皮からのLCの減少は、宿主の免疫応答を回避するための関連ストラテジーと見なされてきた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、LCの遊出のトリガーとなる因子は不明のままである。
【0016】
当該因子がDCを活性化する段階が適応性免疫応答の誘発及び形成に重大な意味を持つので、HPVに対する自然免疫応答を精査する試みの中で、本発明者は当該因子に着目することに決めた。
【0017】
本発明者は、上皮細胞がアレルギー誘発性サイトカインTSLPをHPV感染病変中に発現し、そしてTSLP産生がLC減少と相関することを発見した。
【0018】
ヒト胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)は、上皮細胞によって産生されるIL−7ファミリーのサイトカインである。TSLP産生は、アトピー性皮膚炎において上方制御され、インビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)における炎症促進性Th2応答を誘発するためのDCの活性に関与する。TSLPの直接的な役割は正式には証明されていないが、DCの遊走中におけるTSLPの役割は、アトピー性皮膚炎に関して示されている(Soumelis et al., Nature Immunology, 2002, 3, 673-680; Soumelis, Medecine/Sciences, 2007, 23(8-9), 692-694; Ebner et al., J. Allergy Clin. Immunol., 1 19,(4), 982-990)。実際、TSLPが、上皮性移植片培養から遊走性LCの遊出を増加することが報告されたが(Ebner et al., J. Allergy Clin. Immunol., 119,(4), 982-990)、このモデルは上皮シート上に存在するケラチノサイトによって産生される他の因子の関与を排除することはできない。その上、これらの病変中のTSLPの存在にもかかわらず、LCはアトピー性皮膚炎病変において枯渇されない。
【0019】
本発明者は、TSLPは、DCの微小管及びアクトミオシン(actinomyosin)細胞骨格のいずれをも極性化する能力によって、任意のケモカインとは独立して、エクスビボ(ex vivo)において、直接DC遊走のトリガーとなることを顕著に証明した。この結果は、HPV感染症におけるTSLPの重大な機能を示しており、局所性免疫応答の再指示のためにTSLPを標的とすることができることを示唆している。
【0020】
全体として、本発明者は、以下を通じてHPV感染中にアレルギー誘発性サイトカインTSLPが免疫回避を促進することを証明した:(1)Th2表現型への免疫偏向及び(2)ランゲルハンス細胞(LC)の上皮からの減少。
【0021】
局所性危険シグナル(danger signal)の欠如のために、免疫系がHPVウイルスに無知の状態で存在し得ることは既に示されていた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、このモデルは、数ヶ月又は数年後であっても、大抵のHPV感染がどのように自然治癒し且つ自然に退縮するかを説明することはできず(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)、HPV特異的免疫応答がどのように開始され得るのかを説明することはできない。本明細書中に記載されるTSLP由来のモデルは、これらの見解を調和させる。初期には、TSLPは常在LCを活性化し抗HPV免疫の開始を可能にする(Offringa et al., Curr Top Microbiol Immunol, 2003, 276, 215-240)。長期には、慢性のLC減少及びTh2応答への免疫偏向を促進することによってTSLPは免疫応答を破壊し、これは効率的なウイルス性クリアランスに適当でない。免疫と免疫破壊メカニズムとの間のバランスは、通常のいぼに関して観察されるように最終的に病変の予後、あるいは子宮頸部病変の場合のように数ヶ月又は数年間の持続を決定する。TSLPは、さらに他のウイルス、ボックスウイルス伝染性軟属腫ウイルス(MCV)による感染と関連した皮膚病変において発現されることが認められた。重度に免疫抑制されていない患者において、MCVによって生じる病変は、典型的には、通常6ヶ月〜5年内に自然に退縮する。しかしながら、伝染性軟属腫ウイルスは、免疫抑制性患者、例えばHIV患者においてより持続性が高いかもしれない。
【0022】
従って、これらの結果は、TSLPがウイルス感染への宿主の応答の一部となり、不適当な免疫応答に寄与し、その結果ウイルスの免疫回避及び持続性へとつながることを初めて証明する。
【0023】
従って、慢性活動性ウイルス感染を予防又は治療するためにTSLP活性をブロックすることが提案される。
【0024】
定義
「TSLP」は、「胸腺間質性リンパ球新生因子」を意味する。TSLPは、元々胎児の肝臓造血前駆細胞由来のマウスIgM+B細胞の成長を支える胸腺間質細胞株の条件培地において同定された(Friend et al., Exp. Hematol., 1994, 22:321-328)。胸腺間質細胞株由来のマウスTSLPのクローニングは、Sims等によって記載された(J. Exp. Med. 2000, 192(5), 671-680)。ヒトTSLPのクローニング及び配列決定は、Quentmeier等において記載された(Leukemia, 2001 , 15:1286-1292)。ヒトTSLPのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を配列番号1及び2にそれぞれ示す。
【0025】
TSLPは、低親和性でヘマトポエチン受容体ファミリー由来の受容体鎖(「TSLP受容体」又は「TSLPR」)に結合することがわかった。マウス及びヒトTSLP受容体は、U.S.patent application publication No:2002/0068323に記載されている。TSLPRのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列は、配列番号3及び4にそれぞれ示される。TSLPRの可溶性ドメインは、配列番号4のおよそ25〜231個のアミノ酸である。さらに、TSLPは、高親和性で胸腺間質性リンパ球新生因子受容体及びIL−7Rα鎖から成るヘテロ二量体受容体複合体に結合する(Park et al., J. Exp. Med., 2000, 192(5):659-70)(「TSLPR複合体」)。ヒトIL−7受容体α鎖のアミノ酸配列は、配列番号5に示される。IL−7受容体αの可溶性ドメインの配列は、配列番号5の21〜239個のアミノ酸から成る。
【0026】
TSLP結合上で、TSLPRはシグナルをSTAT活性へ向けて伝達する。特に、TSLPは、ヤヌスキナーゼの関与なしにSTAT−3及びSTAT−5の活性化及びリン酸化反応を誘発することが示されている(Sebastian et al. Cell Commun Signal. 2008; 6: 5)。
【0027】
明細書で使用する場合、用語「対象」又は「宿主」は、ヒト又は非ヒト哺乳類、例えばげっ歯類、ネコ科動物、イヌ科動物、又は霊長類を意味する。
【0028】
本発明に関して、用語「治療(treating)」、又は「治療(treatment)」は、明細書で使用する場合、(1)このような用語が適用される疾患又は状態の発生の遅延又は予防;(2)このような用語が適用される病態又は症状の進行、悪化、又は増悪の減速又は停止;(3)このような用語が適用される病態又は症状の軽減又は改善をもたらすこと;及び/或いは(4)このような用語が適用される病態又は症状の回復又は治療、を目的とする方法又はプロセスを特徴づけるために使用する。治療は、予防(prophylactic)又は予防(preventive)行為のために、疾患の発生の前に行われてよい。あるいは、又はさらに、治療は治療作用のために疾患又は症状の発生後に行われてよい。
【発明の概要】
【0029】
TSLPの活性をブロックすることによる慢性ウイルス感染の治療
ウイルス感染への不適当な応答である、Th2表現型への免疫応答を偏向することによって、ウイルス感染後にTSLPが免疫回避を促進し、その結果活性ウイルスは感染宿主において持続することができることが、本発明者によって初めて証明された。
【0030】
免疫応答は完全に感染細胞を除去しウイルス複製をブロックするのに十分ではないので、ウイルスは生物中で持続する。ウイルスの持続性の2つのモード:不顕性感染及び慢性感染。
【0031】
不顕性感染は、例えばヘルペスウイルス科(HSV, CMV, EBV, VZV)の場合で観察される。一部のメカニズムは、ウイルスのゲノム再活性を引き起こし、その結果新たなウイルス複製を宿主において誘発し、再発性感染を生じる。
【0032】
「慢性感染」の場合は、ウイルスは持続し、推定(putative)免疫応答にもかかわらず複製し続ける。従って、慢性感染において、ウイルスは活性し続ける。明細書で使用する場合、及び急性ウイルス感染と比較して、ウイルス感染が少なくとも1ヶ月間持続する場合、感染は「慢性」である。慢性感染を生じる可能性があるウイルスの例には、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(特にHBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、伝染性軟属腫ウイルス(MCV)が含まれる。
【0033】
従って、本発明は、TSLP拮抗剤又はこの組成物を、それを必要としている対象に投与することを含んでなる慢性ウイルス感染の治療又は予防方法を供する。
【0034】
本発明はまた、慢性ウイルス感染の治療又は予防が意図される医薬の製造のための、TSLP拮抗剤、又はこの組成物の使用に関する。
【0035】
さらに、本発明は、慢性ウイルス感染の治療又は予防のためのTSLP拮抗剤又はこの組成物に関する。
【0036】
好適な実施形態において、慢性ウイルス感染は宿主の免疫応答を回避することができる持続性ウイルスの感染である。実際、本発明者は驚いたことに、TSLPはHPVでのウイルス感染への宿主の応答の一部となり、不適当な免疫応答、すなわちTh1プロファイルよりもむしろTh2プロファイルへの免疫偏向に寄与することを発見した。このようなTh2プロファイルへの免疫偏向は、細胞内の病原体に対する適当な応答ではない。結果として、免疫回避及びHPVの持続性が観察される。この新たなメカニズムは、宿主の免疫応答を回避することができる全持続性ウイルスについて観察される免疫回避及び持続性に関する説明を供する。従って、TSLP拮抗剤は、宿主の免疫応答を回避し感染への宿主の応答の一部としてのTSLP産生を誘発することが可能な任意の持続性ウイルスの感染の治療又は予防のために好適に使用することができる。
【0037】
従って、好適には、慢性ウイルス感染は、TSLP発現の増加と関係する。言いかえると、このような慢性ウイルス感染において、TSLPは、健康な細胞又は組織より感染細胞又は組織中で高レベルに発現される。
【0038】
より好適には、慢性ウイルス感染は、Th2サイトカイン、例えばIL−4、IL−5、IL−6、IL−10及びIL−13の分泌と関連する。このようなTh2サイトカインの分泌は、Th1プロファイルよりもむしろTh2プロファイルへの免疫偏向が起こっていることを示す。
【0039】
この慢性ウイルス感染は、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)での感染から成る群から選択されてよい。これらのウイルスは、宿主の免疫応答を回避することができる持続性ウイルスの例である。
【0040】
本発明者はまた、HPV感染症中に、TSLPはランゲルハンス細胞(LC)の上皮からの減少に関与することを発見し、この関与はウイルスが宿主の免疫応答を回避するのに関連したストラテジーと見なされる。従って、HPV感染症に関して、TSLPは、2つの異なる作用メカニズムによって免疫回避及びウイルスの持続性を引き起こすかもしれない。
【0041】
従って、好適な実施形態によれば、ウイルスはヒトパピローマウイルスである。好適には、本発明に従って治療又は予防されるHPV感染症は、HPV、特にHPV16型又はHPV18型の高リスクのサブタイプの感染である。「HPVの高リスクのサブタイプ」は、子宮頸部異形成及び癌の病原体となり得るHPV株を意味する。あるいは、本発明に従って治療又は予防することができるHPV感染症は、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、外陰上皮内腫瘍(VIN)、咽頭乳頭腫症、いぼ及びコンジローマから成る群から選択される。
【0042】
明細書で使用する場合、本発明の用語TSLP「拮抗剤(antagonist)」又は「拮抗剤(antagonistic agent)」は、TSLPの活性を抑制又はブロックする剤(すなわち、分子)を意味する。用語「拮抗剤」は、用語「抑制剤」と同義語として使用される。本発明の拮抗剤は、TSLP機能活性をブロック又は減少することによって作用する。これは、その受容体に結合しているTSLPを阻害することによって、又はTSLP又はその受容体の発現を減少又は防止することによって達成され、これらはいずれも最終的にTSLPシグナル伝達をブロック又は減少することとなり、それ故TSLP機能活性をブロック又は低下することとなる。
【0043】
明細書中で言及する場合、「TSLP機能活性」は、特に、(i)活性マーカーHLA−DR、CD40、CD80、CD86及びCD83の上方制御を検出することによって測定されるような、CD11c+樹状細胞の活性、(ii)B細胞成長因子活性、並びに(iii)Th2型サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-6, IL-10及びIL-13)の分泌の誘発を意味する。
【0044】
本発明のTSLP拮抗剤は、インビボ(in vivo)及び/又はインビトロ(in vitro)において、TSLPの機能活性を抑制又は除去することができる。拮抗剤は、TSLPの機能活性を、少なくとも約10%、好適には少なくとも約30%、好適には少なくとも約50%、好適には少なくとも約70、75又は80%、さらに好適には85、90、95又は100%まで抑制する。
【0045】
TSLPの機能活性は、周知の方法に従って、当業者によって容易に評価される。例えば、TSLP活性は、ヒトTSLPRを発現しているBAF細胞(BAF/HTR)を使用してアッセイ中で測定することができ、PCT patent application WO 03/032898に記載されるように、これには増殖のために活性TSLPを必要とする。BAF/HTRバイオアッセイは、ヒトTSLP受容体をトランスフェクトしたマウスプロBリンパ球株(Steven F. Ziegler, Benaroya Research Center, Seattle, Washから得られた細胞株)を利用する。BAF/HTR細胞は、成長に関してヒトTSLP(huTSLP)に依存しており、テスト試料に添加した活性huTSLPに応答して増殖する。インキュベーション時間の後、アラマーブルー色素Iの添加によって細胞増殖が測定される。代謝的に活性BAF/HRT細胞は、アラマーブルーを取り込み減少し、色素の蛍光特性に変化を引き起こす。huTSLP活性のためのさらなるアッセイは、例えば、U.S.Pat.No.6,555,520に記載されるようなTSLPによるヒト骨髄由来のT細胞の成長の誘発を測定するアッセイを含む。他のTSLP活性は、Levin等の,J.Immunol.162:677〜683(1999)の参考文献及びPCT application publication WO03/032898に記載されるように、STAT5を活性化することができる。
【0046】
TSLPシグナル伝達のブロック又は減少は、STATリン酸化反応、特にSTAT−3又はSTAT−5リン酸化反応の測定を通してアッセイされてよい。基本条件下で細胞の細胞質中に存在するSTATは、タンパク質のカルボキシ末端側へ位置した単一のチロシン残基上のリン酸化反応(STAT3の場合には、Tyr705上のリン酸化反応)によって活性化される。従って、抑制剤は、抑制剤がない場合にTSLPで刺激された細胞中で測定されるSTATリン酸化反応のレベルと比較して、TSLPR又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖(TSLPR複合体)を発現している細胞のTSLP刺激の、STATリン酸化反応のレベルを減少する剤として同定されてよい。細胞中のSTATリン酸化反応は、免疫細胞化学、免疫組織化学及び/又はフローサイトメトリーによって、この修飾を特異的に認識する抗体を使用して容易に検出することができる。例えばチロシン705上のSTAT3のリン酸化反応は、リン酸化Tyr705−Stat3に対して作られた市販のモノクローナル又はポリクローナル抗体を使用して、免疫細胞化学、免疫組織化学及び/又はフローサイトメトリーによって検出することができる。
【0047】
TSLP拮抗剤は、当業者に周知であり、例えば、PCT applications WO2000/029581、WO 2002/000724、WO 2006/023791、WO 2000/017362、WO 2002/068646、WO 2003/065985、WO 2005/007186、WO 2000/039149、WO 2006/023226、WO 2007/096149及びWO 2007/112146、US patent application US 2006171943に記載されるもの、並びに抗ヒトIL−7Rα抗体、抗ヒトTSLP抗体及び抗ヒトTSLP−R抗体、例えば抗ヒトIL−7Rαモノクローナル抗体MAB306(R&D Systems)、抗ヒトIL−7Rαポリクローナル抗体AF−306−PB(R&D Systems)、抗ヒトTSLPモノクローナル抗体MAB1398(R&D Systems)、抗ヒトTSLPポリクローナル抗体AF1398(R&D Systems)、抗ヒトTSLP−Rモノクローナル抗体MAB981(R&D Systems)、抗ヒトTSLPポリクローナル抗体AF981(R&D Systems)、及び抗TSLP−R抗体M505又はM38(Amgen)を含む。本発明のTSLP拮抗剤は、TSLP或いはTSLP受容体の1又は複数のサブユニット(すなわち、TSLPR, 複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖, 若しくは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR又はIL−7Rαサブユニット)に選択的に結合するものを含み、その結果TSLPシグナル伝達を減少又はブロックする。このタイプのTSLP拮抗剤は、TSLPに結合する抗体又はアプタマー、TSLP受容体の1又は複数のサブユニットに結合する抗体又はアプタマー、例えばサイトカインに結合する可溶性受容体(すなわち、可溶性TSLP受容体若しくは可溶性IL−7Rα鎖)或いは受容体に結合する可溶性リガンドのようなペプチド(例えば、20個以下のアミノ酸長のペプチド)又はポリペプチド、融合ポリペプチド、低分子、化学物質並びにペプチド模倣薬を含む。
【0048】
明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」又は「ペプチド」は、長さ又は翻訳後の修飾に関係なく、ペプチド結合によって結合された任意のアミノ酸鎖を意味する。ポリペプチドは、天然のタンパク質、合成又は組換えポリペプチド及びペプチド並びにハイブリッド、翻訳後修飾のポリペプチド、並びにペプチド模倣薬を含む。明細書で使用する場合、用語「アミノ酸」は、20個の標準的なαアミノ酸及び天然発生及び合成の誘導体を意味する。ポリペプチドは、L又はDアミノ酸或いはこれらの組合せを含む。明細書で使用する場合、用語「ペプチド模倣薬」は、置換された非アミノ酸構造を有するが、ペプチドの化学構造を模倣し且つペプチドの機能特性を保持するペプチド様構造を意味する。ペプチド模倣薬は、ペプチドの安定性、バイオアベイラビリティ、溶解性等を増大するためにデザインされる。
【0049】
好適な実施形態によれば、TSLP拮抗剤は、TSLP又はこの断片、或いはこの断片のTSLP受容体を特異的に認識し結合する抗体である。
【0050】
明細書で使用する場合、用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、同様の意味を有し、本発明において区別なく使用される。抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子、すなわち、免疫特異的に抗原を結合する抗原結合部位を含む分子の免疫学的に活性のある部分を意味する。この場合、用語「抗体」は、抗体分子全体だけでなく、抗体断片並びに抗体及び抗体断片の(誘導体を含む)変異体もまた含む。
【0051】
天然の抗体において、2つのH鎖は、ジスルフィド結合によって互いに結合され、各H鎖はジスルフィド結合によってL鎖に結合される。各鎖は、別々の配列ドメインを含む。L鎖は、2つのドメイン、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含む。H鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CH1, CH2及びCH3, まとめてCHと呼ぶ)を含む。L鎖(VL)及びH鎖(VH)のいずれの可変領域も、結合認識及び抗原への特異性を決定する。
【0052】
抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基の間の構造上の相補性に存在する。抗体結合部位は、主として超可変又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成されている。これらは、アミノ酸配列を意味すると共に、天然の(native)免疫グロブリン結合部位の天然の(natural)Fv領域の結合親和性及び特異性を規定する。免疫グロブリンのL鎖及びH鎖は各々、L−CDR1、L−CDR2、L−CDR3及びH−CDR1、H−CDR2、H−CDR3とそれぞれ命名される3つのCDRを有する。従って、抗原結合部位は、H鎖及びL鎖のそれぞれのV領域由来のCDRセットを含んでなる6個のCDRを含む。
【0053】
「フレームワーク領域(FR)」は、Kabat等, 1991によって定義されるように、CDRの間に挿入されたアミノ酸配列、すなわち、単一種において異なる免疫グロブリンの間で比較的保存される免疫グロブリンL鎖及びH鎖可変領域のそれらの部分を意味する(Kabat et al., 1991 , Sequences of Proteins Of Immunological Interest, National Institute of Health, Bethesda, Md)。明細書で使用する場合、「ヒトフレームワーク領域」は、自然に生じるヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一(約85%, より好適には, 特に, 90%, 95%又は100%)であるフレームワーク領域である。
【0054】
明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」又は「mAb」は、単一アミノ酸組成物の抗体分子を意味し、これらは特異的な抗原に対して作られ、B細胞又は雑種細胞の単一クローンによって、或いは組換え方法によって産生される。
【0055】
「ヒト化抗体」は、マウス抗体(「ドナー抗体」)由来のCDRがヒト抗体(「アクセプター抗体」)に移植された、キメラ、遺伝子改変抗体である。従って、ヒト化抗体は、ドナー抗体由来のCDR並びにヒト抗体由来の可変領域フレームワーク及び定常領域を有している抗体である。ヒト化モノクローナル抗体由来の抗体成分の使用は、マウス定常領域の免疫原性と関連した潜在的な問題を取り除く。
【0056】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部、好適にはインタクト抗体の抗原結合領域又は可変領域を含んでなる。抗体断片の例には、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fd、dAb、dsFv、scFv、sc(Fv)2、CDR、二重特異性抗体及び抗体断片から形成された多選択性抗体が含まれる。
【0057】
用語「Fab」は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有し、VL、VH、CL及びCH1ドメインから成る抗体一価断片を意味する。
【0058】
Fv断片は、Fab断片のN末端部分であり、1つのL鎖及び1つのH鎖の可変部分から成る。
【0059】
用語「F(ab’)2」は、約100,000の分子量及び抗原結合活性を有し、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって結合された2つのFab断片を含んでなる抗体二価断片を意味する。
【0060】
用語「Fab’」は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有し、F(ab’)2断片のヒンジ領域のジスルフィド結合のカットによって得られる抗体断片を意味する。
【0061】
用語「Fd」は、VH及びCH1ドメインから成る抗体断片を意味する。
【0062】
用語「dAb」(Ward et al., 1989 Nature 341 :544-546)は、単一可変ドメイン抗体、すなわちVH又はVLドメインから成る抗体断片を意味する。
【0063】
単一鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドコードリンカーによって結合されたVH及びVLをコードしている遺伝子を含む遺伝子融合から通常発現される共有結合的に結合されたVH::VLヘテロ二量体である。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。二価及び多価抗体断片は、一価のscFvsの結合によって自然に形成することができるか、又はペプチドリンカー、例えば二価Sc(Fv)2で一価のscFvsをカップリングすることによって生成することができる。
【0064】
用語「二重特異性抗体」は、2つの抗原結合部位を有する低分子の抗体断片を意味し、当該断片は同一ポリペプチド鎖中のVLドメインに結合されたVHドメイン(VH-VL)を含んでなる。同鎖上の2つのドメイン間で対合するには短かすぎるリンカーを使用することによって、ドメインは他方の鎖の相補性ドメインとペアを形成せざるを得ず、2つの抗原結合部位を生じる。
【0065】
本発明の抗体は、当技術分野で周知の任意の技術、例えば、任意の化学的、生物学的、遺伝的又は酵素的技術単独或いはこれらの組合せによって産生され、技術はこれらに限定されない。本発明の抗体は、雑種細胞を産生及び培養することによって得られる。
【0066】
当業者はまた、市販のTSLP又はTSLP受容体に対する抗体を使用する。これらには、例えば、抗ヒトIL−7Rα抗体、抗ヒトTSLP及び抗ヒトTSLP−R抗体が含まれる。例えば、抗ヒトIL−7Rαモノクローナル(MAB306)及びポリクローナル(AF-306-PB)抗体、抗ヒトTSLPモノクローナル(MAB1398)及びポリクローナル(AF1398)抗体、抗ヒトTSLP−Rモノクローナル(MAB981)及びポリクローナル(AF981)抗体は、R&D Systemsで入手できる。抗TSLP−R(M505; Amgen);又は抗TSLP(M385; Amgen)もまた、当技術分野で言及されてきた。
【0067】
アプタマーは、分子認識の点から抗体の代替物を表す分子のクラスである。アプタマーは、高親和性及び特異性を有する標的分子の任意のクラスを実質的に認識する能力を有するオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。このようなリガンドは、Tuerk C.及びGold L,Science,1990,249(4968):505〜10に記載されるように、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(SELEX)を通して分離される。ランダム配列ライブラリーは、DNAの組み合わせの化学的合成によって得られる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、最終的には化学的に修飾された、特有の配列の直線オリゴマーである。この分子のクラスの可能な修飾、使用及び利点は、Jayasena S.D.,Clin.Chem.,1999,45(9):1628〜50において概説されてきた。ペプチドアプタマーは、プラットフォームタンパク質、例えば2つのハイブリッド方法によって組み合わせライブラリーから選択される大腸菌チオレドキシンAによって示される立体構造的に制限された抗体可変領域から成る(Colas et al., Nature, 1996,380, 548-50)。
【0068】
本発明のTSLP拮抗剤はまた、TSLP又はその受容体(TSLPR若しくは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖)、例えば、標的mRNA(センス)又はDNA(アンチセンス)配列に結合し、且つメッセンジャーRNA、又はリボザイムを阻害することができる一本鎖ポリヌクレオチド配列(RNA若しくはDNA)を含んでなるアンチセンスオリゴヌクレオチドの発現を減少又は防止する分子を含む。例えば、9−cis−レチノイン酸(9-cis-RA)及びNF−κB抑制キナゾリンは、TSLP発現の負の制御因子であることが示されている(Lee et al. The Journal of Immunology, 2008, 181, 5189-5193; Ma et al. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci..2009; 50: 2702-2709)。従って、これらの化合物は、本発明のTSLP拮抗剤として使用することができる。
【0069】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、TSLP又はその受容体をコードする標的ポリヌクレオチド配列の断片を含んでなる。このような断片は、通常少なくとも約14個のヌクレオチド、典型的には約14〜約30個のヌクレオチドを含んでなる。所定のタンパク質をコードする核酸配列に基づくアンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの抽出は、例えば、Stein及びCohen(Cancer Res., 1988, 48:2659)、並びにvan der Krol等(Bio Techniques, 1988, 6:958)に記載される。
【0070】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的核酸配列への結合は、RNA分解酵素HによるmRNAの増大した分解、スプライシングの抑制、転写又は翻訳の中途終止を含む1又は複数の手段によって、或いは他の手段によって、タンパク質発現をブロック又は抑制する二本鎖の形成を生じる。従って、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、タンパク質の発現をブロックするために使用される。アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、さらに修飾糖ホスホジエステル骨格(若しくは他の糖結合, 例えばWO 91/06629に記載されるもの)を有するオリゴヌクレオチドを含んでなり、ここでこのような糖結合は内在性ヌクレアーゼに抵抗性を有する。このような抵抗性糖結合を有するオリゴヌクレオチドは、インビボ(in vivo)で安定である(すなわち、酵素分解に抵抗できる)が、標的ヌクレオチド配列に結合することができる配列特異性を保持する。
【0071】
センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の例は、標的核酸配列、例えばポリ−(L)−リジンに対するオリゴヌクレオチドの親和性を増大する部分に、共有結合的に結合されたオリゴヌクレオチド含む。さらに、挿入剤、例えばエリプチシン、及びアルキル化剤又は金属複合体は、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的ヌクレオチド配列に関する結合特異性を修飾するために、センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合される。
【0072】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、任意の遺伝子導入方法、例えば、電気穿孔、微量注入、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃の使用、又はリポフェクションによって、或いは遺伝子導入ベクター、例えばエプスタイン・バーウイルス又はアデノウイルスを使用することによって、標的核酸を含む細胞中に導入されてよい。
【0073】
センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、リガンド結合分子との複合体の形成によって、標的核酸を含む細胞中に導入されてよい。適当なリガンド結合分子には、細胞表面受容体、成長因子、他のサイトカイン、又は細胞表面受容体に結合する他のリガンドが含まれるが、これらに限定されない。好適には、リガンド結合分子の結合は、その対応分子又は受容体へ結合するリガンド結合分子の能力を実質的に阻害しない、或いはセンス若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチド又はその結合バージョンの細胞中への移行を実質的にブロックしない。
【0074】
TSLP又はTSLP受容体の発現を防止するためのさらなる方法は、例えばBosher等のNature Cell Biol 2,E31〜E36(2000)記載されるように、特異的な低分子干渉RNA(siRNA)の導入によって生じるRNA干渉(RNAi)である。
【0075】
リボザイムはまた、本発明における使用のためのTSLP又はTSLP受容体発現の抑制剤として機能し得る。リボザイムは、RNAの特異的開裂を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイム作用メカニズムは、ヌクレオチド鎖切断開裂に続く、相補的標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションを含む。従って、TSLP又はTSLP受容体mRNA配列のヌクレオチド鎖切断的開裂を特異的且つ効率的に触媒する、操作されたヘアピン又はハンマーヘッド型モチーフリボザイム分子は、本発明の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNA標的内の特異的なリボザイム開裂部位は、リボザイム開裂部位のための標的分子のスキャンによって、初期に認識され、これは典型的には次の配列、GUA、GUU、及びGUCを含む。一旦認識されると、開裂部位を含む標的遺伝子の領域に対応した、約15〜20個のリボヌクレオチドの短いRNA配列を、予想された構造上の特性、例えば、オリゴヌクレオチド配列を不適当なものにし得る二次構造に関して評価することができる。候補標的の適合性はまた、相補的オリゴヌクレオチドでのハイブリダイゼーションへのこれらの到達性をテストすることによって、例えば、リボヌクレアーゼ保護アッセイを使用することによって評価することができる。
【0076】
好適には、免疫賦活性剤は、Th1型応答への宿主の免疫応答を再指示し且つウイルスを除去するために、TSLP拮抗剤と共に同時に又は連続して投与してよい。
【0077】
従って、本発明はまた、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤の組合せ、又はこの組成物を、医薬として供する。当該組合せにおいて、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤は、同時に又は連続して投与することが意図される。
【0078】
従って、本発明は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤、又はこれらの組成物を、それを必要としている対象に投与することを含んでなり、ここで少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤は同時に又は連続して投与される、慢性ウイルス感染を治療又は予防する方法を供する。
【0079】
本発明はまた、医薬の製造のための、特に慢性ウイルス感染を治療又は予防することが意図される医薬のための、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤、又はこれらの組成物の組合せの使用に関する。当該使用において、少なくとも1つのTSLP拮抗剤は、少なくとも1つの免疫賦活性剤と共に同時に又は連続して投与することが意図される。従って、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を同時に投与することができる場合、当該医薬は免疫賦活性剤を含んでよい。
【0080】
用語「免疫賦活性剤」は、当技術分野で一般的に使用され、従って当業者に周知である(例えば, Lackmann et al. Eur J Pediatr. 2003 162:725-6; Collet et al. Can Respir J. 2001 8:27-33を参照されたい)。これは、個体(宿主)の免疫応答を刺激及び/又は誘発することができる化合物を意味する。本発明の範囲において、免疫賦活性剤は、好適には個体のTh1免疫応答を刺激及び/又は誘発する。
【0081】
用語「組合せ」は、明細書で使用する場合、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなるキットの形態であってよく;キットの成分は、同時に又は連続して投与されてよい。用語「組合せ」はまた、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を、同時に又は連続して投与されてよい別々の生成物として指定してよい。あるいは、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を同時に投与することが可能な場合、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を含んでなる組成物を提供してよい。
【0082】
別々の生成物としての、当該TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の組合せ、キット、組成物は、慢性ウイルス感染の治療が意図される。
【0083】
本発明はさらに、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の組合せであって、ここで慢性ウイルス感染の治療又は予防のために、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤が同時に又は連続して投与されることが意図される組合せの提供に関する。組合せは、上記のように、別々の生成物としての、キット、組成物、並びにTSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の形態であってよい。
【0084】
免疫賦活性剤は、Th−1サイトカインであってよい。「Th−1サイトカイン」は、Th−0細胞のTh−1細胞への分化において分泌されたサイトカイン、例えば、インターフェロン(IFN; 特にIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF; 特にTNF-α若しくはTNF-β)、及びインターロイキン−2(IL-2)、又はTh−1サイトカインの産生誘発因子を意味する。
【0085】
好ましくは、免疫賦活性剤は、IFN、IFN−γ、IFN(特にIFN-γ)の誘発因子、TNF、TNF−β、TNF(特にTNF−β)の誘発因子、IL−2、及びToll様受容体(TLR)のリガンドから成る群から選択される。
【0086】
化合物の「誘発因子」は、化合物の分泌を促進及び/又は増強する分子を意味する。Th−1サイトカインの誘発因子、特にIFN又はTNFの誘発因子は、当技術分野で周知であり、例えば、短い干渉RNA、例えばHornung等によって記載されるもの(Nature Medicine 11, 263-270 2005)、リポ多糖(Fultz et al. International Immunology, 5:1383-92,1993)、TNF関連アポトーシス誘発リガンド(Sato et al. European Journal of Immunology, 2001 , 31 :3138-46)及びインターロイキン−12(Lau et al. Pediatric Research, 1996, 39:150-55)を含む。
【0087】
TLRは、パターン認識受容体(PRR)の一種であり、病原体に広く共有されるが宿主分子から識別可能な認識分子である。Toll様受容体のリガンドは、免疫応答にアジュバント効果を有する。例えば、TLR3は、ウイルス起源のリガンドによって、特に、通常は細胞中に非常に少量存在する、非常に大量の二本鎖RNA(dsRNA)によって活性化され、IFNの産生を誘発する。TLR3のリガンドは、例えば、高分子量合成二本鎖RNAである、ポリイノシンポリシチジン酸(Poly IC, [(2R,3S,4R,5R)-5-(4-アミノ-2-オキソピリミジン-1-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素; [(2R,3S,4R,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(6-オキソ-3H-プリン-9-イル)オキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素)、及び合成ポリリボヌクレオチドの二本鎖複合体である、ポリアデニル−ポリウリジン酸(Poly AU, [(2R,3S,4R,5R)-5-(6-アミノプリン-9-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素; [(2R,3S,4R,5R)-5-(2,4-ジオキソピリミジン-1-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素)を含む。これらのTLR3リガンドは、IFN誘発因子である。IFNはまた、TLR7によって、例えばリガンドを有するTLR7、例えばイミダゾキノリン、ロキソリビン及びブロピリミンの活性によって誘発することができる。
【0088】
さらに、CpG−ODN、すなわち、非メチル化CpGモチーフ(グアノシンに続くシトシン)を含む、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)は、TLR−9を介してIFN(1型IFN)及びTNFを誘発する。
【0089】
本発明の他の目的は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤、そして究極的には少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなる組成物に関する。従って、本発明の他の目的は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤、そして究極的には少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなる、医薬的に許容される賦形剤との組合せでの医薬組成物を含んでなる。任意には、当該医薬組成物は、治療組成物を形成するために、徐放性マトリックス、例えば生分解性ポリマーをさらに含んでよい。
【0090】
「医薬的に許容される」は、堅実な医学的判断(sound medical judgment)の範囲内であり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なく、ヒト及び下等動物の細胞との接触における使用に適当であり、妥当なベネフィット/リスク比と釣り合っていることを意味する。
【0091】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所性又は直腸投与用の、本発明の医薬組成物において、活性成分単独又は他の活性成分と組合せた活性成分は、ユニット投与形態で、従来の医薬担体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。このようなユニット投与形態は、それ自体が本発明の他の目的である。適当なユニット投与形態は、経口経路形態、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁剤又は溶液、舌下及び頬投与形態、噴霧剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、くも膜下腔内及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含んでなる。
【0092】
好適には、医薬組成物は、注射可能な製剤用の医薬的に許容される溶媒を含む。これらは、特に等張、無菌、塩類溶液(1ナトリウムリン酸塩若しくは2ナトリウムリン酸塩, ナトリウム, カリウム, カルシウム若しくはマグネシウムクロライド等又はこれらの塩の混合物)、又は乾燥、特に凍結乾燥させた組成物であり、さらに、滅菌水又は生理的食塩水の場合、注射用溶液の構成が可能である。
【0093】
注射の使用に適当な医薬形態には、無菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油又は含水プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射用溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。通常、当該形態は無菌且つ注射針通過可能容易性(syringability)が存在する程度まで流動性を有する。これは製造及び保管条件下で安定であり、通常微生物、例えば細菌及び真菌の汚染作用から保存される。
【0094】
遊離塩基又は医薬的に許容される塩として本発明の化合物を含んでなる溶液は、界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースと適当に混合された水の中で調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物並びに油中で調製することができる。保管及び使用の通常の条件下で、微生物の成長を防止するために、これらの調製は防腐剤を含んでよい。
【0095】
TSLP拮抗剤は、中性又は塩形態で組成物中に製剤することができる。医薬的に許容される塩は、(タンパク質の遊離アミノで形成された)酸付加塩を含み、これらは無機酸、例えば、塩化水素又はリン酸、或いは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等で形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩はまた、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は鉄水酸化物、及び有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等由来とすることができる。
【0096】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール, プロピレングリコール, 及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの適当な混合物、並びに植物油を含む溶剤又は分散媒とすることができる。適当な流動性は、例えば、コーティング剤、例えばレシチンの使用によって、分散の場合の必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物作用の予防は、様々な抗細菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらすことができる。多くの場合において、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含むことが好適である。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中における吸収を遅延させる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0097】
無菌注射用溶液は、濾過滅菌後に必要に応じて、上記に列挙した様々な他の成分と共に、適当な溶剤中で活性ポリペプチドを必要量取り込むことによって調製される。通常、分散液は、塩基性分散媒及び上記で列挙したものに由来する必須の他の成分を含む無菌溶媒への、様々な無菌活性成分の取り込みによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合に、好適な調製方法は、これらの既に無菌濾過した溶液から活性成分及び任意のさらなる目的の成分の粉末を得る、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0098】
製剤化において、溶液は投与製剤と両立する様式で且つ治療上有効量で投与される。製剤は、様々な剤形、例えば上記の注射用溶液のタイプで容易に投与され、薬剤放出カプセル等もまた、使用することができる。
【0099】
水溶液中の非経口投与のために、必要ならば、例えば溶液は適当に緩衝し、液体希釈剤はまず十分な生理食塩水又はグルコースで等張とすべきである。これらの特定水溶液は、特に静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に適当である。これに関して、現在の開示を踏まえると、使用することができる無菌水媒体は当業者に周知であろう。例えば、1投与量は、1mlの等張NaCl溶液中に溶解され、1000mlの皮下点滴療法流体に添加又は点滴の予定の部位に注射することができる。投与量中の多少の変動は、治療されている対象の条件次第で必然的に生じるであろう。投与に関与する人間は、いずれの場合も、個々の対象への適当な用量を決定するであろう。
【0100】
好適には、TSLP拮抗剤、及び任意に免疫賦活性剤は、治療上有効量で投与される。
【0101】
「治療上有効量」は、任意に治療に適用できる妥当なベネフィット/リスク比で、治療効果を供する、特に慢性ウイルス感染治療及び/又は予防するための、TSLP拮抗剤、任意に免疫賦活性剤の十分な量を意味する。
【0102】
本発明の拮抗剤及び組成物の日々の使用の総量は、医師を参加させることによる堅実な医学的判断の範囲内で決定されることは理解されるであろう。任意の特定の患者に対する特異的な治療上有効量レベルは、治療されている疾患及び疾患の重症度;使用された特異的化合物の活性;使用された特異的組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事;投与時間、投与経路、及び使用された特異的化合物の排出率;治療の持続時間;組合せで使用された又は使用された特異的ポリペプチドと同時に使用された薬物;並びに医術で周知の因子等、を含む様々な因子次第である。例えば、目的の治療効果の達成に必要なものより低いレベルで化合物の投与を開始し、目的の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。しかしながら、生成物の1日投与量は、1日成人1人当たり0.01〜1,000mgの広範囲にわたって変化してよい。好適には、組成物は、治療を施す患者に対する投与量の症候性調節(symptomatic adjustment)のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの活性成分を含む。医薬は、典型的には、約0.01mg〜約500mgの活性成分、好適には1mg〜約100mgの活性成分を含む。薬剤の有効量は、1日あたり0.0002mg/kg〜約20mg/kg体重、特に約0.001mg/kg〜7mg/kg体重の投与量レベルで通常供給される。
【0103】
HPV感染症と関連した子宮頸部異形成の予後を診断するための方法
本発明者は、HPV感染症と関連した検査した全てのいぼ(尋常性疣贅, 足底疣贅及び扁平疣贅)はTSLP発現を示した一方で、TSLP発現は全子宮頸部異形成において検出することができなかったことを観察した(図2Aを参照されたい)。
【0104】
従って、本発明は、子宮頸部異形成においてTSLPが発現されているかを決定する方法であって、子宮頸部異形成の試料においてTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法に関する。当該方法はさらに対照試料中のTSLP発現を検出する段階、及び子宮頸部異形成の試料中の発現されたTSLPのレベルを対照試料における発現されたTSLPのレベルと比較する段階を含んでなる。
【0105】
TSLPはHPV感染症中の免疫回避に関与するので、子宮頸部異形成でTSLP発現を検出することは、子宮頸部異形成が持続する又は子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があることを示しているはずである。
【0106】
従って、本発明はまた、子宮頸部異形成の進行の予後診断のための方法であって、子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出する段階であって、ここでTSLP発現が検出される場合には、子宮頸部異形成が持続するかあるいは子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があり、TSLP発現が検出されない場合には、子宮頸部異形成は退縮する可能性がある段階を含んでなる方法を供する。
【0107】
子宮頸部異形成の試料は、任意の適当な手段、例えば、子宮頸部の組織診に従って、特にHPV、さらに特にHPV16型又はHPV18型に感染した対象において得られてよい。
【0108】
対照試料は、未分化のケラチノサイトの基底層及び真皮の試料から成る。対照試料は、子宮頸部異形成の試料を得るために、子宮頸部組織診を受けた対象、又は他の対象から得た。
【0109】
用語「TSLP発現を検出すること」は、任意の定量的、半定量的、又は定性的な、TSLPタンパク質又はmRMAを検出する或いはTSLP活性を検出する方法を意味する。
【0110】
明細書で使用する場合、TSLP発現が検出される場合には、好適には、対照試料において測定されたTSLPのレベルと比較してTSLPのレベルが有意に増大される場合、TSLPは子宮頸部異形成において発現されていると考える。このような場合には、子宮頸部異形成は「TSLP陽性」と呼ぶ。TSLP発現レベルにおける有意な増大は、好適には少なくとも10%、好適には少なくとも20%、より好適には少なくとも30%、より好適には少なくとも40%、さらに好適には少なくとも50%の増大を意味する。
【0111】
TSLP発現を検出することができない場合、好適にはTSLPのレベルが対照試料において測定されるTSLPのレベルと有意に相違しない場合、子宮頸部異形成は「TSLP陰性」である。
【0112】
TSLP発現は、TSLP mRNA又はタンパク質発現を検出又は測定することによって、例えばインサイツ(in situ)における免疫組織化学又は免疫蛍光法によって、当技術分野でありふれた方法に従って当業者によって容易に検出することができる。
【0113】
例えば、TSLPタンパク質は、抗TSLP抗体、好適には検出可能標識に結合された抗TSLP抗体で、エクスビボ(ex vivo)において検出することができる。
【0114】
用語「標識」は、担体物質又は分子(例えば、抗体若しくはオリゴヌクレオチド)に付着されることができ、TSLPを検出するために使用することができる同定タグを意味する。標識は、結合又は架橋部分によって直接又は間接的にその担体物質に付着されてよい。適当な標識は、酵素、例えばβ−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ、蛍光化合物、例えばローダミン、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)又はFITC、発光化合物、例えば;ジオキセタン、ルシフェリン、放射性同位元素、例えば125I、タンパク質結合パートナー、例えば、ビオチン等を含むがこれらに限定されない。
【0115】
本実施形態のTSLPタンパク質を検出する方法は、子宮頸部異形成試料を抗TSLP抗体と接触させる段階、当該抗体をTSLPに結合する段階、及び抗体及びTSLPによって形成された複合体を検出する段階を含んでなる。
【0116】
子宮頸部異形成試料の細胞、組織においてTSLPを同定するためにプローブとして使用される抗体が蛍光色素で標識される場合、抗体及びTSLPによって形成された複合体を検出するために免疫蛍光顕微鏡を使用してよい。組織切片においてTSLPタンパク質を検出するための免疫蛍光法の代替物は免疫組織化学法であり、この方法において特異的抗体は、無色の基質を不溶性である有色の反応産物に変える酵素に化学的に結合され、インサイツ(in situ)で、すなわちこの結合が形成される場所で沈殿する。抗体が結合した有色生成物の局在性析出は、光学顕微鏡下で直接観察することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼは、これらの適用において最も一般的に使用される2つの酵素である。西洋ワサビペルオキシダーゼは、基質ジアミノベンジジンを酸化して茶色沈殿を生成し、一方アルカリホスファターゼは、使用される基質次第で赤色又は青色染色を生成することができ;通常の基質は5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸+ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)であり、紺青色又は紫色染色を生じる。
【0117】
免疫ブロッティング(ウエスタンブロッティング)は、細胞可溶化物中のTSLPタンパク質又はmRNAの存在を同定するために使用してよい。全細胞タンパク質を可溶化するために非標識細胞を洗浄剤中に置き、可溶化液のタンパク質を、例えば、可溶化液をSDS−PAGE上で流すことによって分離し、安定な担体、例えばニトロセルロース膜へ移す。抗体及び結合抗体での処理によってTSLPタンパク質を検出し、放射性同位元素又は酵素で標識された抗免疫グロブリン抗体によって明らかにする。
【0118】
同様に、サイズ分離されたRNAにおいてTSLP mRNAを検出するために、特異的にハイブリッド形成することが可能な、例えば、TSLP mRNAに相補的な検出可能プローブを使用して、ノーザンブロッティングを利用してよい。
【0119】
子宮頸癌を診断する方法
本発明はまた、子宮頸癌及び/又は子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断する方法であって、患者の試料におけるTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法に関する。当該方法は、少なくとも1つの対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び子宮頸癌又は子宮頸部異形成を患いやすい患者の試料において発現されたTSLPのレベルを、対照試料において発現されたTSLPのレベルと比較する段階をさらに含んでよい。対照試料は、好適には健康な子宮頸部を示しているものである。
【0120】
試料は、好適には子宮頸部試料、例えば、子宮頸部の未分化ケラチノサイトの基底層及び真皮を含んでなる又はから成る試料を示している。
【0121】
対照試料は、(患者由来又は患者由来でない)健康な子宮頸部の試料に相当し得る。このような対照試料は、子宮頸部の未分化ケラチノサイトの基底層及び真皮を含んでなる又はから成る試料か、或いは精製及び/又は分離されたTSLPの既知量であって、健康な子宮頸部を示している既知量を含んでなる試料に相当し得る。
【0122】
明細書中で記載するように、TSLP発現は良性子宮頸部異形成において検出することができない。これに対して、TSLPは子宮頸部上皮内腫瘍又は子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成で発現されることが示されており、子宮頸癌において発現されることもまた期待される。従って、試料においてTSLP発現を検出することは、患者が子宮頸癌を患う又は子宮頸癌に罹患するリスクにあることを示しているであろう。
【0123】
好適な実施形態において、健康な子宮頸部を示している対照試料において検出されたTSLPのレベルと比較した、患者由来の子宮頸部試料におけるTSLP発現のレベルの有意な増大は、患者が子宮頸癌を患う又は子宮頸癌に罹患するリスクがあることを示す。TSLP発現のレベルにおける有意な増大は、好適には少なくとも10%、好適には少なくとも20%、より好適には少なくとも30%、より好適には少なくとも40%、さらに好適には少なくとも50%の増大を意味する。
【0124】
TSLP発現は、当技術分野でありふれた方法に従って、例えば、「HPV感染症と関連した、子宮頸部異形成の予後を診断するための方法」とタイトル付けした段落で記載したように、当業者によって容易に検出することができる。
【0125】
本発明のキット
本発明は、さらに子宮頸部異形成の予後を診断するため、及び/又は子宮頸癌を診断するためのキットであって、TSLP発現を検出するための手段を含んでなるキットに関する。
【0126】
キットは:
−少なくとも1つの、TSLP発現の検出を行うための生化学試薬(例えば、PCR mix若しくは標識された抗TSPL抗体の標識を検出するための試薬);及び/又は、
−子宮頸部異形成の予後を診断する並びに/又は子宮頸癌及び/若しくは子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断するためのキットの使用のための説明書;並びに/或いは、
−少なくとも1つの、健康な子宮頸部、子宮頸部異形成、若しくは子宮頸癌を示している対照試料、
をさらに含んでなる。
【0127】
TSLP発現を検出するための手段は、当技術分野で周知であり、例えば、抗体及びオリゴヌクレオチド、例えばプライマー及びプローブを含む。例えば、キットは、インサイツ(in situ)免疫組織化学法、免疫蛍光法、ELISA又はフローサイトメトリーによってTSLP発現を検出するのに適当な抗TSLP抗体、ノーザンブロッティングによってTSLP発現を検出するのに適当なプローブ、PCRによってTSLP発現を検出するのに適当なプライマー、或いはRT−qPCRによってTSLP発現を検出するためのプライマー及びプローブを含んでよい。
【0128】
「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオシド(アデノシン, グアノシン, ウリジン 若しくはシチジン; 「RNA分子」)又はデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン, デオキシグアノシン, デオキシチミジン, 若しくはデオキシシチジン; 「DNA分子」)のリン酸エステル重合体形態、或いは一本鎖形態、又は二本鎖らせん状のこれらの任意のリン酸エステル類似体、例えばホスホロチオエート及びチオエステル、を意味する。
【0129】
用語「プライマー」は、プライマーと標的核酸鎖との間でハイブリッドを形成するために、核酸ハイブリダイゼーションによって相補的標的核酸分子とアニーリングすることができる、短い核酸分子、例えばDNAオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、ポリメラーゼ酵素によって標的核酸分子に沿って伸展することができる。従って、プライマーは標的核酸分子を増幅するために使用することができる。プライマー対は、例えば、PCR、リアルタイムPCR、又は当技術分野で周知の他の核酸増幅方法による、核酸配列の増幅のために使用することができる。プライマーを調製及び使用するための方法は、例えば、Sambrook等(1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York)において記載される。
【0130】
用語「プローブ」は、標的核酸とハイブリッド形成することができる分離された核酸を意味する。検出可能標識又はレポーター分子は、プローブに付着することができる。典型的な標識は、放射性同位元素、酵素基質、補助因子、リガンド、化学発光又は蛍光剤、ハプテン、及び酵素を含む。様々な目的に適当な標識のための方法及び標識の選択におけるガイダンスは、例えば、Sambrook等(1989 Molecular Cloning; A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor)において考察される。
【0131】
プライマー及びプローブは、好適には少なくとも12、15、20、25、30又は50のヌクレオチド長である。
【0132】
プライマー及びプローブは、例えば、以下の500、250、200、150、100、又は50ヌクレオチド長とすることができる。
【0133】
このようなプライマー及びプローブは、当技術分野で周知である。例えば、TSLPの発現を測定するめに適当なプライマー及びプローブは、配列番号1の配列、又はこれらに相補的な配列の断片を含んでなる又はから成ってよい。当該断片は、当該配列の少なくとも12、15、20、25、30、50、100、150、200、250、300、350、400、450又は500のヌクレオチド断片でよい。
【0134】
TSLP発現を検出するのに適当な抗体はまた当業者に周知であり、例えば、「HPV感染症と関連した、子宮頸部異形成の予後を診断するための方法」とタイトル付けした段落において記載した、検出可能標識に結合された抗TSLP抗体を含む。
【0135】
本発明を、次の図及び実施例の点からさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1A】図1は、上皮由来のLCに対するHPV感染症の影響を示す。図1Aは、組織切片上でLCをカウントしたデータを示し、示されるデータは、健康な皮膚(n=6)、プールされたHPV病変(n=31)、足底疣贅(n=8)、尋常性疣贅(n=6)、扁平疣贅(n=7)、尖形コンジローマ(n=10)、及びアトピー性皮膚炎(n=5)に関して、平均値+/−SDとして示す。(*p < 0.05)。
【図1B】図1Bは、DCのHPV又はFluでの感染中の、又はTSLPとの接触による、CD80、CD86及びCD40の細胞表面発現に基づくDC活性のレベルを示す。
【図1C】図1Cは、様々なサイトカイン及びケモカインの発現に対するHPV感染症の影響を示す(NS: 正常な皮膚, CA: コンジローマ罹患皮膚)。
【0137】
【図2A】図2は、LC細胞遊走に対するTSLPの影響を示す。図2Aは、LCを健康な子宮頸部上皮(n=9)、TSLP陽性(n=35)及びTSLP陰性(n=12)CIN1病変においてカウントしたデータを示し、データは、平均値+/−SDとして示される(* p < 0.05)。子宮頸部のTSLP陽性病変は、子宮頸部及び健康な子宮頸部のTSLP陰性病変と比較して、LCカウントの減少を示す。
【図2B】図2Bは、TSLPのLC遊走に対する用量依存的影響を示す。
【図2C】図2Cは、CD1a+遊走細胞の表面マーカー発現を示す。
【0138】
【図3A】図3は、TSLPがDC細胞にどのように作用するかを示す。図3Aは、「自由移動」又は「三次元移動」を再現するための、コーティングされていないフィルター又はコラーゲンコーティングしたフィルターにおける、TSLP、TNF、TLR、LPS又はインフルエンザウイルスでの活性後のDCの遊走性能力を示す。
【図3B】図3Bは、TSLPでの処理後に遊走を開始するのに、DCによって必要とされる時間を示す。
【0139】
【図4A】図4は、TSLP誘発されたDC極性がミオシンII依存的であることを示す。図4Aは、TSLP、TNF、Flu又はLPSでの感染又は処理後に、DCの極性を、細胞におけるアクチン細胞骨格の位置及び細胞表面にわたるポドソームの位置から評価したデータを示す。
【図4B】図4Bは、ブレビスタチン、ミオシンII抑制剤の、DC細胞極性を誘発するTSLP、Mip3α(CCL20)、TNF、Flu又はLPSの能力に対する影響を示す。
【図4C】図4Cは、TSLP誘発された細胞極性を抑制するのに必要なブレビスタチンの用量を示す。
【0140】
【図5A】図5は、閉鎖環境におけるDC運動性に対するTSLPの効果を説明する。図5Aは、マイクロチャネルシステムにおいて、非TSLP活性化DCと比較して、TSLP活性はDCの速度に影響しなかったことを示す。
【図5B】図5Bは、ブレビスタチン(50nM)の非存在又は存在下で細胞を前培養した場合に、3時間の微速度撮影中にチャネルに進入するDCの数の定量化したデータを示す。対照培地と比較して、TSLPはマイクロチャネルに進入するDCの量の4倍増加を誘発した。ブレビスタチンは、この効果を有意に抑制した。データは、平均値+/−SD、n=3として示される(* P < 0.05)。
【0141】
【図6A】図6は、HPVの存在下でさえTSLPがTH2応答を誘導することを示す。図6Aは、24時間の培養後、CD40、CD80及びCD86の表面レベルに基づいて、HPVは任意のDC活性を誘発しなかったことを示す。TSLPは、これらの3つの成熟マーカーの強度の上方制御を誘発し、HPVに影響されなかった。MFI:平均蛍光強度。
【図6B】図6Bは、48時間の培養後、TSLPは、DC上の表面OX40−リガンド(OX40L)発現(左側パネル)及びOX40Lを発現しているDCの比率(右側パネル)の上方制御を誘発したことを示す。MFI:平均蛍光強度。
【図6C】図6Cは、HPV、TSLP又はHPV+TSLPによって活性化された、DCで誘発されたT細胞によるINF−γ、IL13、IL4、IL10、TNFの産生を示す。
【図6D】図6Dは、FACSによる、HPV、TSLP又はHPV+TSLPによって活性化された、DCで誘発されたT細胞によるIL4、IL10、TNF、INF−γの産生を示す。
【図6E】図6Eは、極性化サイトカインの存在下又は非存在下で、抗CD3+抗CD28で未処理のヘルパーT細胞を5日間培養し、そして続く24時間のポリクローナル再刺激後に測定したThサイトカインTNF、IL−4、IFN−γ、IL−13、及びIL−10を示す。TH0:極性化サイトカインの添加なし;Th1:IL−12;Th2:IL−4。各ドットは独立した実験に由来する値を表す。バーは平均値を表す。
【実施例】
【0142】
実施例1:LCの減少は、HPV感染症の固有の特性である。
あらゆるタイプのHPV感染症においてLC減少が一般的特徴であるかを決定するために、異なるタイプのいぼ(尋常性、足底及び扁平疣贅)及びコンジローマにおけるLCの数を、正常な皮膚と比較して定量化した。
試験したすべての皮膚病変において、LCのプールはほとんど消失した(図1A)。従って、LCの減少は、HPV感染症の固有の特性である。よって、HPV微小環境に存在する因子は、LCの活性及び遊走を誘発すると仮定した。
【0143】
実施例2:HPVは、直接DCに感染する且つ/又はDCを活性化することはできない。
直接DCに感染する且つ/又はDCを活性化するHPVの能力を分析した。細胞数制限のため、健康なドナーの血液から直接分離した初代DCを使用した。これらはLCと多くの類似性を共有する。使用する可能性のある全ウイルスHPV−1並びにウイルス様粒子(VLP)16及びVLP18を利用した。
【0144】
全初代HPV−1ビリオンを、Orth等(J Virol, 1977, 24, 108-120)に記載されるように、足底いぼから精製した。VLP16及びVLP18は、Glaxo−Smith Klineから寄贈されたものであった。DCへのHPV移行を評価するために、107HPV−1ウイルス粒子/ml或いは10μg/ml VLP16又はVLP18と共に細胞を24時間インキュベートした。続いてDCを洗浄し、7000×10分間サイトスピンした(cytospin)。続いてスライスをドライアイス上で凍結させ、冷アセトン(-20℃)中で10分間固定し、免疫蛍光法によるウイルス検出のための使用まで−80℃で保存した。HPV及びウイルス粒子を、マウス抗L1タンパク質抗体(Visoactiv & Virofem)を使用することによって、続いてCy3蛍光色素に結合する抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Lab)によって検出した。
【0145】
24時間のインキュベーション後に、HPV−1はDCに進入することができたが、CD40、CD80及びCD86の細胞表面発現に基づくDC活性を誘発しなかった(図1B)。エクスビボ(ex vivo)又はインビトロ(in vitro)において生成されたLCで又はVLPを使用して、同様のデータが得られた。従って、HPVによるDCの直接の活性は、排除することができた。
【0146】
実施例3:HBV感染中のサイトカイン発現
次に、LC活性及び遊走は、HPV感染組織の微小環境に存在する炎症性サイトカインによって誘発することができると仮定した(Cumberbatch et al., Clin. Exp. Dermatol. 2000, 25(5):413-8, Cumberbatch et al., Br. J. Dermatol., 1999, 141 (2):192-200)。HPV病変モデルとしてコンジローマを使用し、炎症性サイトカイン及びケモカインの遺伝子発現を分析した。
【0147】
正常な皮膚と比較して、同程度のTNF−a、IFN−γ及びIL−12が観察されたが、一方IL−1β、IL−6及びIL−23は有意に減少した(図1C)。従って、これらのプロファイルにおいてDC活性を確認することができたサイトカイン候補はなかった。
【0148】
様々なケモカインの非存在又は、特にCCL20産生レベルの低下もまた、免疫組織化学によって確認した(図1C)。CCL20の下方制御はまた、子宮頸部病変において示され、LC前駆体の補充不良に関与するかもしれない。興味深いことに、抗炎症性サイトカインIL−10及びTGF−βもまた正常な皮膚と比較して下方制御され、これらがHPVに対する免疫回避に関与しないことを示しており、以前の報告と対照をなしている。
【0149】
皮膚及び子宮頸部のHPV感染病変において、著しく、高レベルのTSLPを確認した。アトピー性皮膚炎において既に観察したように、TSLP産生は未分化ケラチノサイトの基底層において存在せず、真皮においてTSLP染色はなかった。
【0150】
実施例4:DC遊走におけるTSLPの関与
HPV感染症に関するLC遊走におけるTSLPの役割を検討するために、組織診の際に約30%のCIN−1病変がTSLPを発現しなかったという事実を利用した。TSLP発現は、上皮性LCの数と相関し、TSLPを欠如した感染子宮頸部だけがLCのプールを維持することができることが分かった(図2A)。これは、TSLPがLC遊走のトリガーであるかもしれないこと示した。
【0151】
次に、LCの遊出を試験するために、上皮性外植片を包括的なモデルとして使用した。TSLPは、CD1a+ランゲリン+TSLP受容体+CD80+細胞の遊出を有意に増大した(図2B及びC)。この点で、TSLPはTNFaより効率的であり、LC遊走を誘発するのに非常に強力なサイトカインと見なした(Cumberbatch et al., Clin. Exp. Dermatol., 2000, 25(5):413-8; Cumberbatch et al., Br. J. Dermatol. 1999, 141 (2):192-200)。
【0152】
皮膚外植片モデルにおいて、TSLPの影響は、間接的であるか又はケラチノサイトによって産生される因子によって支持され得る。TSLP活性化DC(TSLP-DC)の遊走する能力を詳細に分析するために、インビトロ(in vitro)におけるトランスウェル実験(transwell experiment)を行った。2つのタイプの移動:(i)コーティングされていないフィルターを通して細胞が遊走することができる場合の「自由移動」、及び(ii)コラーゲン1コーティングしたフィルターを使用した、インビボ(in vivo)における状況により近い「三次元移動」、を再現することを試みた。
【0153】
そのために、コーティングされていない又はコラーゲン1型(5μg/ml ラットテールコラーゲン1型, BD Biosciences)コーティングしたトランスウェル(Costar, 3μm pore)を200μlのDC培地で満たされた96ウェルプレート中に置いた。
【0154】
健康な成人ボランティアドナーの血液(Crozatier blood bank, Paris, France)のバフィーコートから、既に記載したようにFacSortingで(Soumelis et al., Nat Immunol, 2002, 3, 673-680)、CD11c+DCを99%まで精製した。10%ウシ胎仔血清、1%ピルビン酸、1%HEPES及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI中で、フレッシュな状態で選別したCD11c+DCを培養した。50ng/ml TSLP(R&D Systems)、107HPV粒子、2.5ng/ml TNF(R&D)、20μg/mlインフルエンザウイルス(H1N1 , A/PR/8/34 strain, Charles River Lab.)、1μg/ml LPS(Sigma)、又は100ng/mlGM−CSF(BruCells)の非存在(未処理細胞)又は存在下で、平底の96ウェルプレート中に1×106/mlで細胞を播種した。
オーバーナイトでTSLP、TNF、LPS、インフルエンザウイルス又はGM−CSFで処理したDC(1x106/ml)を再懸濁し、この溶液の50μlをトランスウェルの上部のチャンバーに添加し、37℃で6時間インキュベートした。MIP−3α/CCL20(500ng/ml)(R&D)を、DC遊走を誘発する陽性対照として下部チャンバーに添加した。6時間後、トランスウェルの上部及び下部チャンバー中の細胞をカウントした。一部の実験において、遊走時間24時間及び/又は6時間、DCを200ng/mlの百日咳毒素で前処理した。結果は、総DCの%として表した。
【0155】
TSLP−DCは、いずれのシステムにおいても遊走に関して非常に効率が高かった(図3A)。TSLP−DCの遊走性能力はTNF−DCより高かった。2つのToll様受容体(TLR)リガンド、LPS及びインフルエンザウイルスは、DC遊走を誘発することができなかった(図3A)。TSLP誘発された遊走は、培養中のヒトDCによるTSLP受容体の発現と調和し、TSLP曝露の3時間後位に開始した(図3B)。従って、ケモカインとは独立して、直接DCに作用することによって、TSLPは強力に遊走を誘発することができる。
【0156】
実施例5:TSLPは、ヒトDCのミオシンII依存的極性を、細胞骨格の重要な再構築と共に誘発した。
基礎をなす分子メカニズムを検討するために、細胞極性を、移動の獲得のために制御されなければならない細胞活性及び遊走の特徴として分析した。アクチン細胞骨格は、細胞増殖及びアクチン再構築に必要な機構であり、細胞極性及び移動に必須である。
【0157】
細胞骨格構造を決定するために、ポリリジンコーティングしたカバーガラス上でDCを24時間培養し、落射蛍光顕微鏡によって調べた。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%PFAの中で20分間細胞を室温で固定し、PBS中の1%トリソンX−100で5分間透過処理し、PBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)で20分間室温でブロックした。繊維状アクチンの局在化のために、細胞をCy3−ファロイジン(Molecular Probes)で30分間インキュベートした。5人の異なるドナー由来の極性化したDCの数をカウントすることで、極性指標を評価した。極性を、細胞の総数に対する極性化した細胞の比率として表した。α−チューブリンの局在化を、ラット抗ヒトα−チューブリン抗体(Serotec)での1時間のインキュベーションによって達成した。ウサギ抗ヒトミオシンII H鎖抗体(BTI)によってミオシンIIを検出し、その後30分間Alexa 488ヤギ抗ウサギ(Molecular Probes)でインキュベーションした。ProLong Gold抗フェード試薬(Invitrogen)中でカバーガラスを載せた。適当なフィルターセットを取り付けた落射蛍光顕微鏡(Leica)によって、蛍光画像が得られた。
【0158】
ポリリジンコーティングしたカバーガラス中の刺激されていないヒトDCは、細胞周辺において構築され細胞表面にわたり散在的に分布されたポドソーム中で強化されたアクチン細胞骨格と共に、非極性状態であるように見えた。インフルエンザウイルスによって活性化される場合、同一の非極性形態が維持された。LPSは、ポドソームの減少と共に複数の樹状伸展の形成を誘発し、細胞は「星」形状を獲得した。興味深いことに、細胞は、TSLP処理後、核が置換されたよく発達した先端及び他の細胞極の長く非常に薄いウロポッド(uropod)を有した状態で非常に極性化した(図4A)。ポドソームは、主に伸展領域に密集し且つ/又はアクチンフィラメントは核周辺で増強された。TNF−mDCは、極性はあまり明らかではなかったが、極性化した形状をとった(図4A)。微小管の極性化した成長はまた、細胞極性に重大である。アクチン細胞骨格と同様に、微小管は、培地で培養したヒトDC中に非極性化状態で構築され、この形状はインフルエンザウイルスの存在下で変化しなかった。LPS処理は樹状増殖の微小管の再構築を誘発した。細胞形状は、微小管骨格に関してもまた、TSLP及びTNF−a−刺激DCにおいて極性化した。結論として、TSLPは、ヒトDCの極性を細胞骨格の重要な再構築と共に誘発した。
【0159】
非筋細胞ミオシンファミリーのミオシンIIのメンバーは、アクチンを結合できるモータータンパク質であり、直接細胞増殖及び細胞移動に関与する。ミオシンIIは、N末端がアクチン及びATP結合部位と球状頭部を形成する2つのH鎖、及び2つのL鎖に存在する。アクチン結合後に、ミオシンIIは、アクチンフィラメントのプラス端へ移動することができ、アクチンフィラメント収縮を誘発する。培地又はLPS−DCではなく、TSLP−DCにおいて、細胞退縮を示しているアクチンフィラメントと共に、ミオシンIIは先端に蓄積した。結論として、TSLP処理は、遊走性能力と共に、mDC成熟、極性及びアクチン−ミオシンII再局在化を誘導した。
【0160】
アクトミオシン細胞骨格の著しい再構築を考慮すると、TSLP誘発性DC遊走がミオシンII依存的かどうかの疑問が生じた。ブレビスタチンは、アクチン脱離部位においてミオシンIIの先端をブロックする低分子抑制剤である。
【0161】
TSLP−DCの形態のミオシンIIの役割を試験するために、細胞極性を可能にするため、ポリリジンコーティングしたスライドガラス上で、20nMブレビスタチンと共に又はなしに細胞をTSLP中で12時間インキュベートした。ブレビスタチンの毒性効果を回避するために、低濃度を選択した。
【0162】
ミオシンIIの不活性化は、TSLPによって誘発された極性及び遊走を抑制した(図4B)。DC遊走は、20nMほど低用量のブレビスタチンで抑制された(図4C)。遊走の減少は、十分に構築された極性化形態の減少を伴った。ブレビスタチン処理は、非生理的なものとして既に記載した非常に伸長した細胞形状をもたらした。従って、TSLP誘発されたDC遊走及び細胞骨格の極性は、ミオシンII依存的である。
【0163】
実施例6:TSLPは、閉鎖環境においてDC運動性を促進する。
組織は、細胞遊走に関して閉鎖環境を表す(Irimia et al., Lab Chip, 2007, 7, 1783-1790)。細胞は、狭小な空間に「トラップされ」ており、多様な密度の領域を通過せざるを得ない。このようなインビボ(in vivo)状況を再現するために、マイクロチャネルシステムを使用した。このシステムによって、細胞移動を規定し且つ移動性細胞の方向を制限するための多様なパラメーターを定量化することができる。
【0164】
マイクロ流体デバイスをPDMS中で製作した(Whitesides G. M., E., O., Takayama S., X., J. & E, I. D. Ann Rev Biomed Eng, 2001 3, 335)。包埋したマイクロチャネル並びに入口及び出口のための穴を有するPDMS部分、並びにガラス製イワキチャンバー(Milian)を、プラズマクリーナー(PDC-32G Harrick)中で活性化し、互いに結合させた。チャンバーをプラズマクリーナー中で強真空下に5分間置き、PDMSの上層及び入口及び出口穴を親水性状態とするために、プラズマをオンにした。50μg/mlのフィブロネクチン溶液を入口及び出口の上部に置いた。当該溶液はチャネルに自然に浸潤し、上記の真空処理によって全ての気泡はPDMSの中に再吸収された。フィブロネクチンを1時間室温でインキュベートし、続いてPBSで洗浄し、細胞培地と取り換えた。細胞を濃縮し、細胞を含むマイクロピペットチップを入口に挿入した。細胞は入口の中に移動し、底のカバーガラスに結合し、遊走を開始した。これらは、機械的又は化学的刺激なしに、チャネルに自然に進入した。
【0165】
チャンバー中の様々な位置における位相差イメージを、6時間中、〜2分の微速度で、温度、湿度、及びCO2用環境チャンバー(Life Imaging Services)を備えた自動顕微鏡(Marzhauserのモーター駆動ステージ及びHQ2 Roperカメラが装備された、Nikon ECLIPSE TE1000-E, 及びOlympus X71)を使用して記録した。記録の全期間中、細胞は生存し且つ運動性のある状態であった。
【0166】
DC遊走におけるミオシンIIの重要性を分析するために、50nMブレビスタチンで細胞を前処理し、続いて濃縮しマイクロチャネルに挿入した。
【0167】
まず、DCの中央速度を測定し、培地で前培養したDC又はTSLPで前培養したDCとの間で、有意な違いは確認されなかった(図5A)。同様の結果が、最高及び最低DC速度に関して得られた。これは、トランスウェルシステムにおいてTSLPで観察された増大された遊走が増加した速度に起因しないことを示した。DC遊走のライブ映像を観察することによって、TSLP−DCが境界に達しマイクロチャネルに進入することにより優れていることが認められた。結果的に、TSLP前処理後の所定の時間に、培地と比較して多くのDCがチャネルの中に移動していた。チャネル中へのDC進入のTSLP誘発増加は、ミオシンII依存的であり(図5B)、他のDC活性条件下で観察されなかった。
【0168】
これは、TSLPが閉鎖環境においてDCの運動性を促進することを示し、そしてマウス白血球の三次元移動におけるミオシンIIに関する役割を説明している最近の報告と合致し(Lammermann et al., Nature 2008; 453(7191):51-5)、DCの運動性は狭小な間隙を通した移動の開始及び通り道を好むことを示す。これは、DCの移動の速度及び種類に影響するが、同様のマイクロチャネル中への進入には影響しないDCの運動性のインバリアント鎖の対照と対照的である。
【0169】
実施例7:TSLPのトリガーは、Th2応答を誘導するかもしれない。
ここに記載される結果は、HPV感染症で観察され且つ局所性免疫抑制に寄与しているLC減少に関する分子基盤を供する。しかしながら、重要な問題は、遊走しているTSLP活性化DCの運命及び抗ウイルス性T細胞応答を誘発するこの能力である。TSLPは、アレルギー誘発性Th2応答を誘発することが知られる。HPVはTSLP誘発DC活性及びそれに続くT細胞プライミングを調節することができるかが、疑問であった。
【0170】
TSLPは、同時刺激の分子の細胞表面発現に基づき、DCの強力な活性を誘発し、これはHPVの存在下で変更されなかった(図6A及び6B)。
CD11c+DCを、健康な成人ボランティア血液ドナーのバフィーコート(Crozatier blood bank, Paris, France)から、上述のように(Soumelis et al., Nat Immunol, 2002, 3, 673-680)FacSortingによって99%まで精製した。フレッシュに選別したCD11c+DCを、10%ウシ胎仔血清、1%ピルビン酸、1%HEPES及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI中で培養した。50ng/ml TSLP(R&D Systems)、107HPV粒子、TSLP+HPVの存在下又は非存在下で(未処理細胞)、平底96ウェルプレート中で1×106/mlで細胞を播種した。
培養の24時間後、刺激されたCD11c+DCを採取し、洗浄し、そして10%FCS(Hyclone)を含むYsselの培地(kind gift of Hans Yssel)中で、1:5 DC:T細胞の割合で丸底型プレート96ウェル培養プレート(Falcon)中で同種異系間の未処理のCD4+T細胞と共培養した。CD4T細胞分離キットII(Miltenyi Biotec)を使用し、続いて、CD45RO−FITC、CD45RA−PE、CD4−APCの染色、及びCD45RA+、CD4+、CD45RO−細胞のFACSAria(BD Bioscience)での細胞選別(純度>99%)をすることによって、末梢血の未処理CD4+T細胞を分離した。Dynabeads CD3/CD28T細胞エキスパンダー(1ビーズ per 細胞)(Invitrogen)及びTh1のための10ng/ml IL−12(R&D Systems)、Th2のための25ng/ml IL−4(R&D Systems)の存在下、且つTh0のための任意の極性化サイトカインの非存在下で、標準Thサブセットを生じた。
【0171】
5〜6日後、細胞を回収し、広範囲に洗浄し、トリパンブルー排除試験によって生存率を測定した。1×106細胞/mlを、Dynabeads CD3−CD28T細胞エキスパンダー(1ビース per 細胞)で24時間再刺激(ELISA)又は100ng/ml PMA及び1mg/ml ロノマイシンで6時間再刺激(FACS細胞内染色)した。培養上清中のサイトカインを、製造説明書に従って細胞数測定ビーズアッセイ(cytometric bead assay)(CBA)Flex Sets(BD Bioscience)によって測定した。再刺激の最後の3時間中、10μg/mlブレフェルジンの添加後、IFN−γ−、IL−4−、IL−10−、TNF−産生細胞を細胞内サイトカイン染色によって分析した。Cytofix−Cytoperm試薬(BD Biosciences)を使用して、細胞を透過処理した。細胞を抗IFN−γ FITC、抗IL−4 PE、抗IL−10 PE、抗TNF PE(BD Pharmingen)で染色し洗浄し、続いてフローサイトメトリー(FACScan Becton Dickinson)で分析した。
【0172】
TSLP−DCを未処理のCD4+T細胞をインビトロ(in vitro)で刺激するために使用した場合、TNF−αと一緒にIL−4、IL−5、及びIL−13の産生と共にTh2プロファイルを観察し、一方HPV−DCによって誘発されたT細胞サイトカインプロファイルは培地と同様であった(図6C及びD)。DCを活性化するためにTSLP及びHPVを結合した場合、それに続くT細胞サイトカインプロファイルはTSLP−DCと同様であり、TSLPがHPVより優位であることを示している。これは、TSLPのトリガー後の流入領域リンパ節へ遊走している残りのLC又はDCが、ウイルス性クリアランスに適当でないTh2応答を誘導することを示した。
【0173】
結論として、本明細書に供する結果は、初めてTSLPをウイルス感染の生理病理と結び付けた。この生理状況は、TSLP由来のDC活性及びそれに続くTh2プロファイルへの免疫応答の配向の結果に非常に影響を及ぼすと考えられる。アレルギーに関して、このような免疫系の活性は、炎症促進状態を引き起こし、一方、HPV感染症に関して、Th2プロファイルへの免疫応答の不適当な極性はウイルス性免疫回避を促進する。
【0174】
重要なことに、HPVは、ウイルス性クリアランスに適当でないTh2応答のためのプライミングからTSLPを保護しなかった(Kawai and Akira, Nature Immunol, 2006, 7, 131-137)。
【0175】
これは、防御Th1応答及び感染の根絶を引き起こす、他のウイルス、例えばインフルエンザウイルス又はHSVによって誘発された直接のTLR依存的DC活性と対照的である(Kawai and Akira, Nature Immunol, 2006, 7, 131-137)(Alcami, Nat Rev Immunol, 2003, 3, 36-50)。
【0176】
ランゲルハンス細胞(LC)、常在上皮性DCは、ウイルス感染、例えばHIV及び単純ヘルペスウイルス(HSV)に対する防御に重大な役割を果たす。LCがHPV感染子宮頸部上皮から激減されることは既に示されており、これによって局所性免疫抑制状態が作出され、そしてこれは免疫回避ストラテジーと見なされてきた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、LCの遊出をトリガーする因子は、未知のままである。LC減少が皮膚及び粘膜のHPV感染症の一般的特徴であり、このプロセスにおけるTSLPの重大な役割の証拠を供することを示している。
【0177】
本明細書に記載のデータは、DC遊走の誘発が、炎症性状況とは独立した、TSLPの内在特性であることを示す。興味深いことに、アトピー性皮膚炎及びHPV感染症両方のタイプの病変においてTSLPが存在するにもかかわらず、LCはアトピー性皮膚炎ではなくHPV感染症においてのみ激減される。これは、新たなLC又はLC前駆物質の上皮への補充に重要である、ケモカイン、例えば、CCL20の発現差異に起因し得る。子宮頸部異形成において、CCL20は欠如しており(MIP-3α)(Guess and McCance, J Virol, 2005, 79, 14852-14862)、一方このケモカインはADにおいて上方制御される(Dieu-Nosjean et al. J Exp Med, 2000, 192, 705-718)。従って、免疫応答の全体的な予後に対するTSLPの影響は、部分的に生理的状況に依存的である。
【0178】
細胞運動性は、抗原誘発後にDC自体が末梢組織から遊走し、第二のリンパ器官に到達することを可能とするDCの基本特性である。TSLPは、HPV感染症の経過中、閉鎖環境においてDC遊走を直接トリガーすることができる新規因子として認識された。制限された皮膚の間質腔中のDCが遭遇する微小環境を再現するマイクロチャネルシステムを使用した。さらに、TSLP誘発されたヒトDC遊走の細胞特性により、ミオシンIIに依存的なサイトカイン誘発の遊走の新規の分子メカニズムが明らかとなった。これらの結果から、閉鎖環境におけるDC遊走の基本的なメカニズム間の強いリンクの、ヒトウイルス感染の生理病理との関係が供される。
【0179】
重要なことに、これらの結果からHPV特異的免疫応答の開始に対する説明がなされ、これにより長期にわたる逆説と折り合いが付けられている。実際、本願のモデルによって、数ヶ月又は数年後にHPV感染症がどの位自然治癒し、且つ自然に退縮するか、及びHPV特異的免疫応答がどのように開始されるかを説明することが可能である。
【0180】
最初、TSLPは常在LCを活性化し、抗HPV免疫の開始を可能にする一方で、長期にわたって、慢性LC減少及びTh2応答への免疫偏向を促進することによってTSLPは免疫応答を破壊し、これは効率的なウイルス性クリアランスに適当でない。免疫と免疫破壊メカニズムとの間のバランスによって最終的に、通常のいぼに関して観察されるように病変の予後、或いは子宮頸部病変の場合のように数ヶ月又は数年間の持続性が決定される。
【0181】
従って、HPV感染患者においてTSLPの機能を標的にすることが、感染防御性Th1応答への免疫応答を再指示するのに役立つことが期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)拮抗剤での慢性ウイルス感染の治療又は予防、それによって免疫回避及びウイルスの持続性を回避することに関する。本発明はまた、子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出することによる子宮頸部異形成の進行の予後診断方法を供する。
【背景技術】
【0002】
慢性ウイルス感染は、宿主の免疫応答を回避し、従ってクリアランスを回避しそして宿主において長期感染を確立する持続性ウイルスの確立を生じる。宿主の免疫応答を害する様々なストラテジーを介した慢性ウイルス感染の原因である多数の持続性ウイルスの中で、限定的なリストには:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、伝染性軟属腫ウイルス(MCV);B型又はC型肝炎ウイルス(HBV, HCV)が含まれる(Xu X-N et al., Immunity, 2001 , vol 15, 867-870 ; Alcami et al., EMBO Rep. 2002; 3(10): 927-932 Kanodia et al., Curr Cancer Drug Targets, 2007; 7, 79-89 ; WoIfI et al., J Immunol. 2008 November 1; 181 (9): 6435-6446.)。
【0003】
慢性ウイルス感染の原因である持続性ウイルスは、宿主の免疫応答に抵抗するため、及び/又はこれを回避するために多様なストラテジーを発達させてきた。
【0004】
本発明の1つの目的は、慢性ウイルス感染の原因である持続性ウイルスによって宿主の免疫応答を回避するために誘発されるTSLPの産生を阻害する新たなストラテジーをハイライトすることである。本発明のさらなる目的は、TSLP拮抗剤を使用した、慢性ウイルス感染を治療又は予防するための分子の新たな使用及び新たな方法を供することである。
【0005】
外部環境とのインターフェースにおいて体表をカバーする上皮の完全性は、有毒因子及び病原体からの最適な宿主の保護に必須である。
【0006】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚及び粘膜の重層扁平上皮の基底細胞層に感染する、非溶解性の、二本鎖DNAウイルスである。大抵のHPV病変は、更なる結果を宿主に生じることなく自然に退縮する。しかしながら、HPVは、免疫適格性のある宿主において、複製サイクルを介して免疫原性タンパク質を産生するにもかかわらず、数ヶ月又は数年間の持続性疾患を生じる可能性がある。場合によっては、感染は、最終的に子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性のある永続的な病変を起こす。肛門生殖器及び皮膚細胞腫はまた、HPV感染症と関連付けられてきた。
【0007】
より具体的には、非発癌性(低リスク)HPVサブタイプは、良性病変、例えば疣贅(いぼ)、コンジローマ又は咽頭乳頭腫症を起こすかもしれず、一方発癌性(高リスク)サブタイプ、特にHPV16型(HPV-16)及びHPV18型(HPV-18)は、子宮頸部異形成及び癌の病原体である(Kanodia et al., Curr Cancer Drug Targets, 2007; 7, 79-89, Stanley, Vaccine, 2006; 24, S16-S22)。
【0008】
従って、HPVの高リスクの発癌型に関連した感染症の慢性的性質は、細胞形質転換及び悪性病変のリスクの増加を生じる。
【0009】
従って、HPV感染症は、世界的に主要な公衆衛生の問題となっており、HPV関連性病態の診断、経過観察、治療及び予防を最適化するために、この生理病理を一層理解することが重要である。
【0010】
HPV感染症への免疫応答は、理解が不完全の状態である。ウイルスの持続性は、様々な免疫回避メカニズムに起因する。生殖器病変において、HPV感染及び複製は上皮細胞に制限され、従ってウイルス血症、及びウイルスと真皮に存在する自然免疫細胞、例えば樹状細胞(DC)との接触を制限している。HPVは、細胞溶解性ではなく、上皮細胞による「危険」シグナル及び炎症性サイトカインの放出を誘発しない。さらに、高リスクのHPVは、感染細胞による1型IFNの産生及び1型IFN誘導遺伝子の発現を抑制するメカニズムを発達させてきた。結果として、宿主が病原体の存在に気付かない状態であることが示されてきた(Stanley, Vaccine, 2006; 24, S16-S22)。
【0011】
しかしながら、一部の証拠から、免疫応答がHPV感染症において起こることが示されている:
1)これらは、自然治癒的であり、多くは自然に退縮する;
2)これらの発生及び進行は、免疫抑制患者において増大される;
3)CD4及びCD8T細胞応答の徴候は、インサイツ(in situ)で(Coleman, Am. J. Clin. Pathol. 1994; 102(6) :768-74)及び全身で(van Poelgeest Ml, Int. J. Cancer. 2006;118(3):675-83)退縮している病変において観察されている。
【0012】
しかしながら、現在のウイルスの免疫回避メカニズムは、このような免疫応答がどのように開始され得るのか説明していない。HPVは表皮角化細胞においてウイルス複製が可能なだけなので、免疫系に影響する当該ウイルスの能力は感染した表皮の局所環境に制限されるに違いない。
【0013】
ランゲルハンス細胞(LC)は、常在上皮性DCであり、皮膚において一次抗原提示細胞(APC)を構成する。未熟のLCは、上皮を介して近接ネットワークを形成する。ランゲルハンス細胞は、抗原を捕らえることができ、いくつかの刺激に応答して皮膚流入領域リンパ節へ遊走する。従って、LCは表皮内で遭遇するウイルス性抗原に対する適応性免疫応答の開始に必須であり、これらの細胞数が減少される又はこれらの細胞が皮膚から消失する場合に、疾患に対する感受性が増加することが説明されている。特に、LCは、ウイルス感染、例えばHIV及び単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染に対する防御において重大な役割を果たすことが示されている。
【0014】
安定状態の条件下で、LCの数は恒常的に維持されているが、上皮性ウイルス感染の後に恒常性は乱される。マウス皮膚のワクシニアウイルス感染症に関して、LCの純増加が、皮膚由来の抗原負荷されたLCの遊出の増加を均衡している、炎症性サイトカインに応答したLCの皮膚中への移行の増加の結果として、恒常性のかく乱を反映する感染表皮において観察される。
【0015】
一方で、頸部HPV関連病変において、直接的にウイルス感染によって生じる、HPV感染表皮におけるLCの純減少が観察されている(Tay et al., Br. J. Obstet. Gynaecol. 1987, 94(11):1094-7; Matthews et al., J. Virol., 2003, 77(15):8378-8385)。上皮からのLCの減少は、宿主の免疫応答を回避するための関連ストラテジーと見なされてきた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、LCの遊出のトリガーとなる因子は不明のままである。
【0016】
当該因子がDCを活性化する段階が適応性免疫応答の誘発及び形成に重大な意味を持つので、HPVに対する自然免疫応答を精査する試みの中で、本発明者は当該因子に着目することに決めた。
【0017】
本発明者は、上皮細胞がアレルギー誘発性サイトカインTSLPをHPV感染病変中に発現し、そしてTSLP産生がLC減少と相関することを発見した。
【0018】
ヒト胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)は、上皮細胞によって産生されるIL−7ファミリーのサイトカインである。TSLP産生は、アトピー性皮膚炎において上方制御され、インビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)における炎症促進性Th2応答を誘発するためのDCの活性に関与する。TSLPの直接的な役割は正式には証明されていないが、DCの遊走中におけるTSLPの役割は、アトピー性皮膚炎に関して示されている(Soumelis et al., Nature Immunology, 2002, 3, 673-680; Soumelis, Medecine/Sciences, 2007, 23(8-9), 692-694; Ebner et al., J. Allergy Clin. Immunol., 1 19,(4), 982-990)。実際、TSLPが、上皮性移植片培養から遊走性LCの遊出を増加することが報告されたが(Ebner et al., J. Allergy Clin. Immunol., 119,(4), 982-990)、このモデルは上皮シート上に存在するケラチノサイトによって産生される他の因子の関与を排除することはできない。その上、これらの病変中のTSLPの存在にもかかわらず、LCはアトピー性皮膚炎病変において枯渇されない。
【0019】
本発明者は、TSLPは、DCの微小管及びアクトミオシン(actinomyosin)細胞骨格のいずれをも極性化する能力によって、任意のケモカインとは独立して、エクスビボ(ex vivo)において、直接DC遊走のトリガーとなることを顕著に証明した。この結果は、HPV感染症におけるTSLPの重大な機能を示しており、局所性免疫応答の再指示のためにTSLPを標的とすることができることを示唆している。
【0020】
全体として、本発明者は、以下を通じてHPV感染中にアレルギー誘発性サイトカインTSLPが免疫回避を促進することを証明した:(1)Th2表現型への免疫偏向及び(2)ランゲルハンス細胞(LC)の上皮からの減少。
【0021】
局所性危険シグナル(danger signal)の欠如のために、免疫系がHPVウイルスに無知の状態で存在し得ることは既に示されていた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、このモデルは、数ヶ月又は数年後であっても、大抵のHPV感染がどのように自然治癒し且つ自然に退縮するかを説明することはできず(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)、HPV特異的免疫応答がどのように開始され得るのかを説明することはできない。本明細書中に記載されるTSLP由来のモデルは、これらの見解を調和させる。初期には、TSLPは常在LCを活性化し抗HPV免疫の開始を可能にする(Offringa et al., Curr Top Microbiol Immunol, 2003, 276, 215-240)。長期には、慢性のLC減少及びTh2応答への免疫偏向を促進することによってTSLPは免疫応答を破壊し、これは効率的なウイルス性クリアランスに適当でない。免疫と免疫破壊メカニズムとの間のバランスは、通常のいぼに関して観察されるように最終的に病変の予後、あるいは子宮頸部病変の場合のように数ヶ月又は数年間の持続を決定する。TSLPは、さらに他のウイルス、ボックスウイルス伝染性軟属腫ウイルス(MCV)による感染と関連した皮膚病変において発現されることが認められた。重度に免疫抑制されていない患者において、MCVによって生じる病変は、典型的には、通常6ヶ月〜5年内に自然に退縮する。しかしながら、伝染性軟属腫ウイルスは、免疫抑制性患者、例えばHIV患者においてより持続性が高いかもしれない。
【0022】
従って、これらの結果は、TSLPがウイルス感染への宿主の応答の一部となり、不適当な免疫応答に寄与し、その結果ウイルスの免疫回避及び持続性へとつながることを初めて証明する。
【0023】
従って、慢性活動性ウイルス感染を予防又は治療するためにTSLP活性をブロックすることが提案される。
【0024】
定義
「TSLP」は、「胸腺間質性リンパ球新生因子」を意味する。TSLPは、元々胎児の肝臓造血前駆細胞由来のマウスIgM+B細胞の成長を支える胸腺間質細胞株の条件培地において同定された(Friend et al., Exp. Hematol., 1994, 22:321-328)。胸腺間質細胞株由来のマウスTSLPのクローニングは、Sims等によって記載された(J. Exp. Med. 2000, 192(5), 671-680)。ヒトTSLPのクローニング及び配列決定は、Quentmeier等において記載された(Leukemia, 2001 , 15:1286-1292)。ヒトTSLPのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を配列番号1及び2にそれぞれ示す。
【0025】
TSLPは、低親和性でヘマトポエチン受容体ファミリー由来の受容体鎖(「TSLP受容体」又は「TSLPR」)に結合することがわかった。マウス及びヒトTSLP受容体は、U.S.patent application publication No:2002/0068323に記載されている。TSLPRのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列は、配列番号3及び4にそれぞれ示される。TSLPRの可溶性ドメインは、配列番号4のおよそ25〜231個のアミノ酸である。さらに、TSLPは、高親和性で胸腺間質性リンパ球新生因子受容体及びIL−7Rα鎖から成るヘテロ二量体受容体複合体に結合する(Park et al., J. Exp. Med., 2000, 192(5):659-70)(「TSLPR複合体」)。ヒトIL−7受容体α鎖のアミノ酸配列は、配列番号5に示される。IL−7受容体αの可溶性ドメインの配列は、配列番号5の21〜239個のアミノ酸から成る。
【0026】
TSLP結合上で、TSLPRはシグナルをSTAT活性へ向けて伝達する。特に、TSLPは、ヤヌスキナーゼの関与なしにSTAT−3及びSTAT−5の活性化及びリン酸化反応を誘発することが示されている(Sebastian et al. Cell Commun Signal. 2008; 6: 5)。
【0027】
明細書で使用する場合、用語「対象」又は「宿主」は、ヒト又は非ヒト哺乳類、例えばげっ歯類、ネコ科動物、イヌ科動物、又は霊長類を意味する。
【0028】
本発明に関して、用語「治療(treating)」、又は「治療(treatment)」は、明細書で使用する場合、(1)このような用語が適用される疾患又は状態の発生の遅延又は予防;(2)このような用語が適用される病態又は症状の進行、悪化、又は増悪の減速又は停止;(3)このような用語が適用される病態又は症状の軽減又は改善をもたらすこと;及び/或いは(4)このような用語が適用される病態又は症状の回復又は治療、を目的とする方法又はプロセスを特徴づけるために使用する。治療は、予防(prophylactic)又は予防(preventive)行為のために、疾患の発生の前に行われてよい。あるいは、又はさらに、治療は治療作用のために疾患又は症状の発生後に行われてよい。
【発明の概要】
【0029】
TSLPの活性をブロックすることによる慢性ウイルス感染の治療
ウイルス感染への不適当な応答である、Th2表現型への免疫応答を偏向することによって、ウイルス感染後にTSLPが免疫回避を促進し、その結果活性ウイルスは感染宿主において持続することができることが、本発明者によって初めて証明された。
【0030】
免疫応答は完全に感染細胞を除去しウイルス複製をブロックするのに十分ではないので、ウイルスは生物中で持続する。ウイルスの持続性の2つのモード:不顕性感染及び慢性感染。
【0031】
不顕性感染は、例えばヘルペスウイルス科(HSV, CMV, EBV, VZV)の場合で観察される。一部のメカニズムは、ウイルスのゲノム再活性を引き起こし、その結果新たなウイルス複製を宿主において誘発し、再発性感染を生じる。
【0032】
「慢性感染」の場合は、ウイルスは持続し、推定(putative)免疫応答にもかかわらず複製し続ける。従って、慢性感染において、ウイルスは活性し続ける。明細書で使用する場合、及び急性ウイルス感染と比較して、ウイルス感染が少なくとも1ヶ月間持続する場合、感染は「慢性」である。慢性感染を生じる可能性があるウイルスの例には、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(特にHBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、伝染性軟属腫ウイルス(MCV)が含まれる。
【0033】
従って、本発明は、TSLP拮抗剤又はこの組成物を、それを必要としている対象に投与することを含んでなる慢性ウイルス感染の治療又は予防方法を供する。
【0034】
本発明はまた、慢性ウイルス感染の治療又は予防が意図される医薬の製造のための、TSLP拮抗剤、又はこの組成物の使用に関する。
【0035】
さらに、本発明は、慢性ウイルス感染の治療又は予防のためのTSLP拮抗剤又はこの組成物に関する。
【0036】
好適な実施形態において、慢性ウイルス感染は宿主の免疫応答を回避することができる持続性ウイルスの感染である。実際、本発明者は驚いたことに、TSLPはHPVでのウイルス感染への宿主の応答の一部となり、不適当な免疫応答、すなわちTh1プロファイルよりもむしろTh2プロファイルへの免疫偏向に寄与することを発見した。このようなTh2プロファイルへの免疫偏向は、細胞内の病原体に対する適当な応答ではない。結果として、免疫回避及びHPVの持続性が観察される。この新たなメカニズムは、宿主の免疫応答を回避することができる全持続性ウイルスについて観察される免疫回避及び持続性に関する説明を供する。従って、TSLP拮抗剤は、宿主の免疫応答を回避し感染への宿主の応答の一部としてのTSLP産生を誘発することが可能な任意の持続性ウイルスの感染の治療又は予防のために好適に使用することができる。
【0037】
従って、好適には、慢性ウイルス感染は、TSLP発現の増加と関係する。言いかえると、このような慢性ウイルス感染において、TSLPは、健康な細胞又は組織より感染細胞又は組織中で高レベルに発現される。
【0038】
より好適には、慢性ウイルス感染は、Th2サイトカイン、例えばIL−4、IL−5、IL−6、IL−10及びIL−13の分泌と関連する。このようなTh2サイトカインの分泌は、Th1プロファイルよりもむしろTh2プロファイルへの免疫偏向が起こっていることを示す。
【0039】
この慢性ウイルス感染は、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)での感染から成る群から選択されてよい。これらのウイルスは、宿主の免疫応答を回避することができる持続性ウイルスの例である。
【0040】
本発明者はまた、HPV感染症中に、TSLPはランゲルハンス細胞(LC)の上皮からの減少に関与することを発見し、この関与はウイルスが宿主の免疫応答を回避するのに関連したストラテジーと見なされる。従って、HPV感染症に関して、TSLPは、2つの異なる作用メカニズムによって免疫回避及びウイルスの持続性を引き起こすかもしれない。
【0041】
従って、好適な実施形態によれば、ウイルスはヒトパピローマウイルスである。好適には、本発明に従って治療又は予防されるHPV感染症は、HPV、特にHPV16型又はHPV18型の高リスクのサブタイプの感染である。「HPVの高リスクのサブタイプ」は、子宮頸部異形成及び癌の病原体となり得るHPV株を意味する。あるいは、本発明に従って治療又は予防することができるHPV感染症は、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、外陰上皮内腫瘍(VIN)、咽頭乳頭腫症、いぼ及びコンジローマから成る群から選択される。
【0042】
明細書で使用する場合、本発明の用語TSLP「拮抗剤(antagonist)」又は「拮抗剤(antagonistic agent)」は、TSLPの活性を抑制又はブロックする剤(すなわち、分子)を意味する。用語「拮抗剤」は、用語「抑制剤」と同義語として使用される。本発明の拮抗剤は、TSLP機能活性をブロック又は減少することによって作用する。これは、その受容体に結合しているTSLPを阻害することによって、又はTSLP又はその受容体の発現を減少又は防止することによって達成され、これらはいずれも最終的にTSLPシグナル伝達をブロック又は減少することとなり、それ故TSLP機能活性をブロック又は低下することとなる。
【0043】
明細書中で言及する場合、「TSLP機能活性」は、特に、(i)活性マーカーHLA−DR、CD40、CD80、CD86及びCD83の上方制御を検出することによって測定されるような、CD11c+樹状細胞の活性、(ii)B細胞成長因子活性、並びに(iii)Th2型サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-6, IL-10及びIL-13)の分泌の誘発を意味する。
【0044】
本発明のTSLP拮抗剤は、インビボ(in vivo)及び/又はインビトロ(in vitro)において、TSLPの機能活性を抑制又は除去することができる。拮抗剤は、TSLPの機能活性を、少なくとも約10%、好適には少なくとも約30%、好適には少なくとも約50%、好適には少なくとも約70、75又は80%、さらに好適には85、90、95又は100%まで抑制する。
【0045】
TSLPの機能活性は、周知の方法に従って、当業者によって容易に評価される。例えば、TSLP活性は、ヒトTSLPRを発現しているBAF細胞(BAF/HTR)を使用してアッセイ中で測定することができ、PCT patent application WO 03/032898に記載されるように、これには増殖のために活性TSLPを必要とする。BAF/HTRバイオアッセイは、ヒトTSLP受容体をトランスフェクトしたマウスプロBリンパ球株(Steven F. Ziegler, Benaroya Research Center, Seattle, Washから得られた細胞株)を利用する。BAF/HTR細胞は、成長に関してヒトTSLP(huTSLP)に依存しており、テスト試料に添加した活性huTSLPに応答して増殖する。インキュベーション時間の後、アラマーブルー色素Iの添加によって細胞増殖が測定される。代謝的に活性BAF/HRT細胞は、アラマーブルーを取り込み減少し、色素の蛍光特性に変化を引き起こす。huTSLP活性のためのさらなるアッセイは、例えば、U.S.Pat.No.6,555,520に記載されるようなTSLPによるヒト骨髄由来のT細胞の成長の誘発を測定するアッセイを含む。他のTSLP活性は、Levin等の,J.Immunol.162:677〜683(1999)の参考文献及びPCT application publication WO03/032898に記載されるように、STAT5を活性化することができる。
【0046】
TSLPシグナル伝達のブロック又は減少は、STATリン酸化反応、特にSTAT−3又はSTAT−5リン酸化反応の測定を通してアッセイされてよい。基本条件下で細胞の細胞質中に存在するSTATは、タンパク質のカルボキシ末端側へ位置した単一のチロシン残基上のリン酸化反応(STAT3の場合には、Tyr705上のリン酸化反応)によって活性化される。従って、抑制剤は、抑制剤がない場合にTSLPで刺激された細胞中で測定されるSTATリン酸化反応のレベルと比較して、TSLPR又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖(TSLPR複合体)を発現している細胞のTSLP刺激の、STATリン酸化反応のレベルを減少する剤として同定されてよい。細胞中のSTATリン酸化反応は、免疫細胞化学、免疫組織化学及び/又はフローサイトメトリーによって、この修飾を特異的に認識する抗体を使用して容易に検出することができる。例えばチロシン705上のSTAT3のリン酸化反応は、リン酸化Tyr705−Stat3に対して作られた市販のモノクローナル又はポリクローナル抗体を使用して、免疫細胞化学、免疫組織化学及び/又はフローサイトメトリーによって検出することができる。
【0047】
TSLP拮抗剤は、当業者に周知であり、例えば、PCT applications WO2000/029581、WO 2002/000724、WO 2006/023791、WO 2000/017362、WO 2002/068646、WO 2003/065985、WO 2005/007186、WO 2000/039149、WO 2006/023226、WO 2007/096149及びWO 2007/112146、US patent application US 2006171943に記載されるもの、並びに抗ヒトIL−7Rα抗体、抗ヒトTSLP抗体及び抗ヒトTSLP−R抗体、例えば抗ヒトIL−7Rαモノクローナル抗体MAB306(R&D Systems)、抗ヒトIL−7Rαポリクローナル抗体AF−306−PB(R&D Systems)、抗ヒトTSLPモノクローナル抗体MAB1398(R&D Systems)、抗ヒトTSLPポリクローナル抗体AF1398(R&D Systems)、抗ヒトTSLP−Rモノクローナル抗体MAB981(R&D Systems)、抗ヒトTSLPポリクローナル抗体AF981(R&D Systems)、及び抗TSLP−R抗体M505又はM38(Amgen)を含む。本発明のTSLP拮抗剤は、TSLP或いはTSLP受容体の1又は複数のサブユニット(すなわち、TSLPR, 複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖, 若しくは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR又はIL−7Rαサブユニット)に選択的に結合するものを含み、その結果TSLPシグナル伝達を減少又はブロックする。このタイプのTSLP拮抗剤は、TSLPに結合する抗体又はアプタマー、TSLP受容体の1又は複数のサブユニットに結合する抗体又はアプタマー、例えばサイトカインに結合する可溶性受容体(すなわち、可溶性TSLP受容体若しくは可溶性IL−7Rα鎖)或いは受容体に結合する可溶性リガンドのようなペプチド(例えば、20個以下のアミノ酸長のペプチド)又はポリペプチド、融合ポリペプチド、低分子、化学物質並びにペプチド模倣薬を含む。
【0048】
明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」又は「ペプチド」は、長さ又は翻訳後の修飾に関係なく、ペプチド結合によって結合された任意のアミノ酸鎖を意味する。ポリペプチドは、天然のタンパク質、合成又は組換えポリペプチド及びペプチド並びにハイブリッド、翻訳後修飾のポリペプチド、並びにペプチド模倣薬を含む。明細書で使用する場合、用語「アミノ酸」は、20個の標準的なαアミノ酸及び天然発生及び合成の誘導体を意味する。ポリペプチドは、L又はDアミノ酸或いはこれらの組合せを含む。明細書で使用する場合、用語「ペプチド模倣薬」は、置換された非アミノ酸構造を有するが、ペプチドの化学構造を模倣し且つペプチドの機能特性を保持するペプチド様構造を意味する。ペプチド模倣薬は、ペプチドの安定性、バイオアベイラビリティ、溶解性等を増大するためにデザインされる。
【0049】
好適な実施形態によれば、TSLP拮抗剤は、TSLP又はこの断片、或いはこの断片のTSLP受容体を特異的に認識し結合する抗体である。
【0050】
明細書で使用する場合、用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、同様の意味を有し、本発明において区別なく使用される。抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子、すなわち、免疫特異的に抗原を結合する抗原結合部位を含む分子の免疫学的に活性のある部分を意味する。この場合、用語「抗体」は、抗体分子全体だけでなく、抗体断片並びに抗体及び抗体断片の(誘導体を含む)変異体もまた含む。
【0051】
天然の抗体において、2つのH鎖は、ジスルフィド結合によって互いに結合され、各H鎖はジスルフィド結合によってL鎖に結合される。各鎖は、別々の配列ドメインを含む。L鎖は、2つのドメイン、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含む。H鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CH1, CH2及びCH3, まとめてCHと呼ぶ)を含む。L鎖(VL)及びH鎖(VH)のいずれの可変領域も、結合認識及び抗原への特異性を決定する。
【0052】
抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基の間の構造上の相補性に存在する。抗体結合部位は、主として超可変又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成されている。これらは、アミノ酸配列を意味すると共に、天然の(native)免疫グロブリン結合部位の天然の(natural)Fv領域の結合親和性及び特異性を規定する。免疫グロブリンのL鎖及びH鎖は各々、L−CDR1、L−CDR2、L−CDR3及びH−CDR1、H−CDR2、H−CDR3とそれぞれ命名される3つのCDRを有する。従って、抗原結合部位は、H鎖及びL鎖のそれぞれのV領域由来のCDRセットを含んでなる6個のCDRを含む。
【0053】
「フレームワーク領域(FR)」は、Kabat等, 1991によって定義されるように、CDRの間に挿入されたアミノ酸配列、すなわち、単一種において異なる免疫グロブリンの間で比較的保存される免疫グロブリンL鎖及びH鎖可変領域のそれらの部分を意味する(Kabat et al., 1991 , Sequences of Proteins Of Immunological Interest, National Institute of Health, Bethesda, Md)。明細書で使用する場合、「ヒトフレームワーク領域」は、自然に生じるヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一(約85%, より好適には, 特に, 90%, 95%又は100%)であるフレームワーク領域である。
【0054】
明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」又は「mAb」は、単一アミノ酸組成物の抗体分子を意味し、これらは特異的な抗原に対して作られ、B細胞又は雑種細胞の単一クローンによって、或いは組換え方法によって産生される。
【0055】
「ヒト化抗体」は、マウス抗体(「ドナー抗体」)由来のCDRがヒト抗体(「アクセプター抗体」)に移植された、キメラ、遺伝子改変抗体である。従って、ヒト化抗体は、ドナー抗体由来のCDR並びにヒト抗体由来の可変領域フレームワーク及び定常領域を有している抗体である。ヒト化モノクローナル抗体由来の抗体成分の使用は、マウス定常領域の免疫原性と関連した潜在的な問題を取り除く。
【0056】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部、好適にはインタクト抗体の抗原結合領域又は可変領域を含んでなる。抗体断片の例には、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fd、dAb、dsFv、scFv、sc(Fv)2、CDR、二重特異性抗体及び抗体断片から形成された多選択性抗体が含まれる。
【0057】
用語「Fab」は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有し、VL、VH、CL及びCH1ドメインから成る抗体一価断片を意味する。
【0058】
Fv断片は、Fab断片のN末端部分であり、1つのL鎖及び1つのH鎖の可変部分から成る。
【0059】
用語「F(ab’)2」は、約100,000の分子量及び抗原結合活性を有し、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって結合された2つのFab断片を含んでなる抗体二価断片を意味する。
【0060】
用語「Fab’」は、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有し、F(ab’)2断片のヒンジ領域のジスルフィド結合のカットによって得られる抗体断片を意味する。
【0061】
用語「Fd」は、VH及びCH1ドメインから成る抗体断片を意味する。
【0062】
用語「dAb」(Ward et al., 1989 Nature 341 :544-546)は、単一可変ドメイン抗体、すなわちVH又はVLドメインから成る抗体断片を意味する。
【0063】
単一鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドコードリンカーによって結合されたVH及びVLをコードしている遺伝子を含む遺伝子融合から通常発現される共有結合的に結合されたVH::VLヘテロ二量体である。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。二価及び多価抗体断片は、一価のscFvsの結合によって自然に形成することができるか、又はペプチドリンカー、例えば二価Sc(Fv)2で一価のscFvsをカップリングすることによって生成することができる。
【0064】
用語「二重特異性抗体」は、2つの抗原結合部位を有する低分子の抗体断片を意味し、当該断片は同一ポリペプチド鎖中のVLドメインに結合されたVHドメイン(VH-VL)を含んでなる。同鎖上の2つのドメイン間で対合するには短かすぎるリンカーを使用することによって、ドメインは他方の鎖の相補性ドメインとペアを形成せざるを得ず、2つの抗原結合部位を生じる。
【0065】
本発明の抗体は、当技術分野で周知の任意の技術、例えば、任意の化学的、生物学的、遺伝的又は酵素的技術単独或いはこれらの組合せによって産生され、技術はこれらに限定されない。本発明の抗体は、雑種細胞を産生及び培養することによって得られる。
【0066】
当業者はまた、市販のTSLP又はTSLP受容体に対する抗体を使用する。これらには、例えば、抗ヒトIL−7Rα抗体、抗ヒトTSLP及び抗ヒトTSLP−R抗体が含まれる。例えば、抗ヒトIL−7Rαモノクローナル(MAB306)及びポリクローナル(AF-306-PB)抗体、抗ヒトTSLPモノクローナル(MAB1398)及びポリクローナル(AF1398)抗体、抗ヒトTSLP−Rモノクローナル(MAB981)及びポリクローナル(AF981)抗体は、R&D Systemsで入手できる。抗TSLP−R(M505; Amgen);又は抗TSLP(M385; Amgen)もまた、当技術分野で言及されてきた。
【0067】
アプタマーは、分子認識の点から抗体の代替物を表す分子のクラスである。アプタマーは、高親和性及び特異性を有する標的分子の任意のクラスを実質的に認識する能力を有するオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチド配列である。このようなリガンドは、Tuerk C.及びGold L,Science,1990,249(4968):505〜10に記載されるように、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(SELEX)を通して分離される。ランダム配列ライブラリーは、DNAの組み合わせの化学的合成によって得られる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、最終的には化学的に修飾された、特有の配列の直線オリゴマーである。この分子のクラスの可能な修飾、使用及び利点は、Jayasena S.D.,Clin.Chem.,1999,45(9):1628〜50において概説されてきた。ペプチドアプタマーは、プラットフォームタンパク質、例えば2つのハイブリッド方法によって組み合わせライブラリーから選択される大腸菌チオレドキシンAによって示される立体構造的に制限された抗体可変領域から成る(Colas et al., Nature, 1996,380, 548-50)。
【0068】
本発明のTSLP拮抗剤はまた、TSLP又はその受容体(TSLPR若しくは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖)、例えば、標的mRNA(センス)又はDNA(アンチセンス)配列に結合し、且つメッセンジャーRNA、又はリボザイムを阻害することができる一本鎖ポリヌクレオチド配列(RNA若しくはDNA)を含んでなるアンチセンスオリゴヌクレオチドの発現を減少又は防止する分子を含む。例えば、9−cis−レチノイン酸(9-cis-RA)及びNF−κB抑制キナゾリンは、TSLP発現の負の制御因子であることが示されている(Lee et al. The Journal of Immunology, 2008, 181, 5189-5193; Ma et al. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci..2009; 50: 2702-2709)。従って、これらの化合物は、本発明のTSLP拮抗剤として使用することができる。
【0069】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、TSLP又はその受容体をコードする標的ポリヌクレオチド配列の断片を含んでなる。このような断片は、通常少なくとも約14個のヌクレオチド、典型的には約14〜約30個のヌクレオチドを含んでなる。所定のタンパク質をコードする核酸配列に基づくアンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの抽出は、例えば、Stein及びCohen(Cancer Res., 1988, 48:2659)、並びにvan der Krol等(Bio Techniques, 1988, 6:958)に記載される。
【0070】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的核酸配列への結合は、RNA分解酵素HによるmRNAの増大した分解、スプライシングの抑制、転写又は翻訳の中途終止を含む1又は複数の手段によって、或いは他の手段によって、タンパク質発現をブロック又は抑制する二本鎖の形成を生じる。従って、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、タンパク質の発現をブロックするために使用される。アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、さらに修飾糖ホスホジエステル骨格(若しくは他の糖結合, 例えばWO 91/06629に記載されるもの)を有するオリゴヌクレオチドを含んでなり、ここでこのような糖結合は内在性ヌクレアーゼに抵抗性を有する。このような抵抗性糖結合を有するオリゴヌクレオチドは、インビボ(in vivo)で安定である(すなわち、酵素分解に抵抗できる)が、標的ヌクレオチド配列に結合することができる配列特異性を保持する。
【0071】
センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の例は、標的核酸配列、例えばポリ−(L)−リジンに対するオリゴヌクレオチドの親和性を増大する部分に、共有結合的に結合されたオリゴヌクレオチド含む。さらに、挿入剤、例えばエリプチシン、及びアルキル化剤又は金属複合体は、アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドの標的ヌクレオチド配列に関する結合特異性を修飾するために、センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合される。
【0072】
アンチセンス又はセンスオリゴヌクレオチドは、任意の遺伝子導入方法、例えば、電気穿孔、微量注入、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃の使用、又はリポフェクションによって、或いは遺伝子導入ベクター、例えばエプスタイン・バーウイルス又はアデノウイルスを使用することによって、標的核酸を含む細胞中に導入されてよい。
【0073】
センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、リガンド結合分子との複合体の形成によって、標的核酸を含む細胞中に導入されてよい。適当なリガンド結合分子には、細胞表面受容体、成長因子、他のサイトカイン、又は細胞表面受容体に結合する他のリガンドが含まれるが、これらに限定されない。好適には、リガンド結合分子の結合は、その対応分子又は受容体へ結合するリガンド結合分子の能力を実質的に阻害しない、或いはセンス若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチド又はその結合バージョンの細胞中への移行を実質的にブロックしない。
【0074】
TSLP又はTSLP受容体の発現を防止するためのさらなる方法は、例えばBosher等のNature Cell Biol 2,E31〜E36(2000)記載されるように、特異的な低分子干渉RNA(siRNA)の導入によって生じるRNA干渉(RNAi)である。
【0075】
リボザイムはまた、本発明における使用のためのTSLP又はTSLP受容体発現の抑制剤として機能し得る。リボザイムは、RNAの特異的開裂を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイム作用メカニズムは、ヌクレオチド鎖切断開裂に続く、相補的標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションを含む。従って、TSLP又はTSLP受容体mRNA配列のヌクレオチド鎖切断的開裂を特異的且つ効率的に触媒する、操作されたヘアピン又はハンマーヘッド型モチーフリボザイム分子は、本発明の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNA標的内の特異的なリボザイム開裂部位は、リボザイム開裂部位のための標的分子のスキャンによって、初期に認識され、これは典型的には次の配列、GUA、GUU、及びGUCを含む。一旦認識されると、開裂部位を含む標的遺伝子の領域に対応した、約15〜20個のリボヌクレオチドの短いRNA配列を、予想された構造上の特性、例えば、オリゴヌクレオチド配列を不適当なものにし得る二次構造に関して評価することができる。候補標的の適合性はまた、相補的オリゴヌクレオチドでのハイブリダイゼーションへのこれらの到達性をテストすることによって、例えば、リボヌクレアーゼ保護アッセイを使用することによって評価することができる。
【0076】
好適には、免疫賦活性剤は、Th1型応答への宿主の免疫応答を再指示し且つウイルスを除去するために、TSLP拮抗剤と共に同時に又は連続して投与してよい。
【0077】
従って、本発明はまた、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤の組合せ、又はこの組成物を、医薬として供する。当該組合せにおいて、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤は、同時に又は連続して投与することが意図される。
【0078】
従って、本発明は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤、又はこれらの組成物を、それを必要としている対象に投与することを含んでなり、ここで少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤は同時に又は連続して投与される、慢性ウイルス感染を治療又は予防する方法を供する。
【0079】
本発明はまた、医薬の製造のための、特に慢性ウイルス感染を治療又は予防することが意図される医薬のための、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤、又はこれらの組成物の組合せの使用に関する。当該使用において、少なくとも1つのTSLP拮抗剤は、少なくとも1つの免疫賦活性剤と共に同時に又は連続して投与することが意図される。従って、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を同時に投与することができる場合、当該医薬は免疫賦活性剤を含んでよい。
【0080】
用語「免疫賦活性剤」は、当技術分野で一般的に使用され、従って当業者に周知である(例えば, Lackmann et al. Eur J Pediatr. 2003 162:725-6; Collet et al. Can Respir J. 2001 8:27-33を参照されたい)。これは、個体(宿主)の免疫応答を刺激及び/又は誘発することができる化合物を意味する。本発明の範囲において、免疫賦活性剤は、好適には個体のTh1免疫応答を刺激及び/又は誘発する。
【0081】
用語「組合せ」は、明細書で使用する場合、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなるキットの形態であってよく;キットの成分は、同時に又は連続して投与されてよい。用語「組合せ」はまた、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を、同時に又は連続して投与されてよい別々の生成物として指定してよい。あるいは、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を同時に投与することが可能な場合、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤を含んでなる組成物を提供してよい。
【0082】
別々の生成物としての、当該TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の組合せ、キット、組成物は、慢性ウイルス感染の治療が意図される。
【0083】
本発明はさらに、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の組合せであって、ここで慢性ウイルス感染の治療又は予防のために、TSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤が同時に又は連続して投与されることが意図される組合せの提供に関する。組合せは、上記のように、別々の生成物としての、キット、組成物、並びにTSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤の形態であってよい。
【0084】
免疫賦活性剤は、Th−1サイトカインであってよい。「Th−1サイトカイン」は、Th−0細胞のTh−1細胞への分化において分泌されたサイトカイン、例えば、インターフェロン(IFN; 特にIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF; 特にTNF-α若しくはTNF-β)、及びインターロイキン−2(IL-2)、又はTh−1サイトカインの産生誘発因子を意味する。
【0085】
好ましくは、免疫賦活性剤は、IFN、IFN−γ、IFN(特にIFN-γ)の誘発因子、TNF、TNF−β、TNF(特にTNF−β)の誘発因子、IL−2、及びToll様受容体(TLR)のリガンドから成る群から選択される。
【0086】
化合物の「誘発因子」は、化合物の分泌を促進及び/又は増強する分子を意味する。Th−1サイトカインの誘発因子、特にIFN又はTNFの誘発因子は、当技術分野で周知であり、例えば、短い干渉RNA、例えばHornung等によって記載されるもの(Nature Medicine 11, 263-270 2005)、リポ多糖(Fultz et al. International Immunology, 5:1383-92,1993)、TNF関連アポトーシス誘発リガンド(Sato et al. European Journal of Immunology, 2001 , 31 :3138-46)及びインターロイキン−12(Lau et al. Pediatric Research, 1996, 39:150-55)を含む。
【0087】
TLRは、パターン認識受容体(PRR)の一種であり、病原体に広く共有されるが宿主分子から識別可能な認識分子である。Toll様受容体のリガンドは、免疫応答にアジュバント効果を有する。例えば、TLR3は、ウイルス起源のリガンドによって、特に、通常は細胞中に非常に少量存在する、非常に大量の二本鎖RNA(dsRNA)によって活性化され、IFNの産生を誘発する。TLR3のリガンドは、例えば、高分子量合成二本鎖RNAである、ポリイノシンポリシチジン酸(Poly IC, [(2R,3S,4R,5R)-5-(4-アミノ-2-オキソピリミジン-1-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素; [(2R,3S,4R,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(6-オキソ-3H-プリン-9-イル)オキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素)、及び合成ポリリボヌクレオチドの二本鎖複合体である、ポリアデニル−ポリウリジン酸(Poly AU, [(2R,3S,4R,5R)-5-(6-アミノプリン-9-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素; [(2R,3S,4R,5R)-5-(2,4-ジオキソピリミジン-1-イル)-3,4-ジヒドロキシオキソラン-2-イル]メチルリン酸二水素)を含む。これらのTLR3リガンドは、IFN誘発因子である。IFNはまた、TLR7によって、例えばリガンドを有するTLR7、例えばイミダゾキノリン、ロキソリビン及びブロピリミンの活性によって誘発することができる。
【0088】
さらに、CpG−ODN、すなわち、非メチル化CpGモチーフ(グアノシンに続くシトシン)を含む、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)は、TLR−9を介してIFN(1型IFN)及びTNFを誘発する。
【0089】
本発明の他の目的は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤、そして究極的には少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなる組成物に関する。従って、本発明の他の目的は、少なくとも1つのTSLP拮抗剤、そして究極的には少なくとも1つの免疫賦活性剤を含んでなる、医薬的に許容される賦形剤との組合せでの医薬組成物を含んでなる。任意には、当該医薬組成物は、治療組成物を形成するために、徐放性マトリックス、例えば生分解性ポリマーをさらに含んでよい。
【0090】
「医薬的に許容される」は、堅実な医学的判断(sound medical judgment)の範囲内であり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なく、ヒト及び下等動物の細胞との接触における使用に適当であり、妥当なベネフィット/リスク比と釣り合っていることを意味する。
【0091】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所性又は直腸投与用の、本発明の医薬組成物において、活性成分単独又は他の活性成分と組合せた活性成分は、ユニット投与形態で、従来の医薬担体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。このようなユニット投与形態は、それ自体が本発明の他の目的である。適当なユニット投与形態は、経口経路形態、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒及び経口懸濁剤又は溶液、舌下及び頬投与形態、噴霧剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、くも膜下腔内及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含んでなる。
【0092】
好適には、医薬組成物は、注射可能な製剤用の医薬的に許容される溶媒を含む。これらは、特に等張、無菌、塩類溶液(1ナトリウムリン酸塩若しくは2ナトリウムリン酸塩, ナトリウム, カリウム, カルシウム若しくはマグネシウムクロライド等又はこれらの塩の混合物)、又は乾燥、特に凍結乾燥させた組成物であり、さらに、滅菌水又は生理的食塩水の場合、注射用溶液の構成が可能である。
【0093】
注射の使用に適当な医薬形態には、無菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油又は含水プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射用溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。通常、当該形態は無菌且つ注射針通過可能容易性(syringability)が存在する程度まで流動性を有する。これは製造及び保管条件下で安定であり、通常微生物、例えば細菌及び真菌の汚染作用から保存される。
【0094】
遊離塩基又は医薬的に許容される塩として本発明の化合物を含んでなる溶液は、界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースと適当に混合された水の中で調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物並びに油中で調製することができる。保管及び使用の通常の条件下で、微生物の成長を防止するために、これらの調製は防腐剤を含んでよい。
【0095】
TSLP拮抗剤は、中性又は塩形態で組成物中に製剤することができる。医薬的に許容される塩は、(タンパク質の遊離アミノで形成された)酸付加塩を含み、これらは無機酸、例えば、塩化水素又はリン酸、或いは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等で形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩はまた、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は鉄水酸化物、及び有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等由来とすることができる。
【0096】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール, プロピレングリコール, 及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの適当な混合物、並びに植物油を含む溶剤又は分散媒とすることができる。適当な流動性は、例えば、コーティング剤、例えばレシチンの使用によって、分散の場合の必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物作用の予防は、様々な抗細菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらすことができる。多くの場合において、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含むことが好適である。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中における吸収を遅延させる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0097】
無菌注射用溶液は、濾過滅菌後に必要に応じて、上記に列挙した様々な他の成分と共に、適当な溶剤中で活性ポリペプチドを必要量取り込むことによって調製される。通常、分散液は、塩基性分散媒及び上記で列挙したものに由来する必須の他の成分を含む無菌溶媒への、様々な無菌活性成分の取り込みによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合に、好適な調製方法は、これらの既に無菌濾過した溶液から活性成分及び任意のさらなる目的の成分の粉末を得る、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0098】
製剤化において、溶液は投与製剤と両立する様式で且つ治療上有効量で投与される。製剤は、様々な剤形、例えば上記の注射用溶液のタイプで容易に投与され、薬剤放出カプセル等もまた、使用することができる。
【0099】
水溶液中の非経口投与のために、必要ならば、例えば溶液は適当に緩衝し、液体希釈剤はまず十分な生理食塩水又はグルコースで等張とすべきである。これらの特定水溶液は、特に静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に適当である。これに関して、現在の開示を踏まえると、使用することができる無菌水媒体は当業者に周知であろう。例えば、1投与量は、1mlの等張NaCl溶液中に溶解され、1000mlの皮下点滴療法流体に添加又は点滴の予定の部位に注射することができる。投与量中の多少の変動は、治療されている対象の条件次第で必然的に生じるであろう。投与に関与する人間は、いずれの場合も、個々の対象への適当な用量を決定するであろう。
【0100】
好適には、TSLP拮抗剤、及び任意に免疫賦活性剤は、治療上有効量で投与される。
【0101】
「治療上有効量」は、任意に治療に適用できる妥当なベネフィット/リスク比で、治療効果を供する、特に慢性ウイルス感染治療及び/又は予防するための、TSLP拮抗剤、任意に免疫賦活性剤の十分な量を意味する。
【0102】
本発明の拮抗剤及び組成物の日々の使用の総量は、医師を参加させることによる堅実な医学的判断の範囲内で決定されることは理解されるであろう。任意の特定の患者に対する特異的な治療上有効量レベルは、治療されている疾患及び疾患の重症度;使用された特異的化合物の活性;使用された特異的組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事;投与時間、投与経路、及び使用された特異的化合物の排出率;治療の持続時間;組合せで使用された又は使用された特異的ポリペプチドと同時に使用された薬物;並びに医術で周知の因子等、を含む様々な因子次第である。例えば、目的の治療効果の達成に必要なものより低いレベルで化合物の投与を開始し、目的の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。しかしながら、生成物の1日投与量は、1日成人1人当たり0.01〜1,000mgの広範囲にわたって変化してよい。好適には、組成物は、治療を施す患者に対する投与量の症候性調節(symptomatic adjustment)のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの活性成分を含む。医薬は、典型的には、約0.01mg〜約500mgの活性成分、好適には1mg〜約100mgの活性成分を含む。薬剤の有効量は、1日あたり0.0002mg/kg〜約20mg/kg体重、特に約0.001mg/kg〜7mg/kg体重の投与量レベルで通常供給される。
【0103】
HPV感染症と関連した子宮頸部異形成の予後を診断するための方法
本発明者は、HPV感染症と関連した検査した全てのいぼ(尋常性疣贅, 足底疣贅及び扁平疣贅)はTSLP発現を示した一方で、TSLP発現は全子宮頸部異形成において検出することができなかったことを観察した(図2Aを参照されたい)。
【0104】
従って、本発明は、子宮頸部異形成においてTSLPが発現されているかを決定する方法であって、子宮頸部異形成の試料においてTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法に関する。当該方法はさらに対照試料中のTSLP発現を検出する段階、及び子宮頸部異形成の試料中の発現されたTSLPのレベルを対照試料における発現されたTSLPのレベルと比較する段階を含んでなる。
【0105】
TSLPはHPV感染症中の免疫回避に関与するので、子宮頸部異形成でTSLP発現を検出することは、子宮頸部異形成が持続する又は子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があることを示しているはずである。
【0106】
従って、本発明はまた、子宮頸部異形成の進行の予後診断のための方法であって、子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出する段階であって、ここでTSLP発現が検出される場合には、子宮頸部異形成が持続するかあるいは子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があり、TSLP発現が検出されない場合には、子宮頸部異形成は退縮する可能性がある段階を含んでなる方法を供する。
【0107】
子宮頸部異形成の試料は、任意の適当な手段、例えば、子宮頸部の組織診に従って、特にHPV、さらに特にHPV16型又はHPV18型に感染した対象において得られてよい。
【0108】
対照試料は、未分化のケラチノサイトの基底層及び真皮の試料から成る。対照試料は、子宮頸部異形成の試料を得るために、子宮頸部組織診を受けた対象、又は他の対象から得た。
【0109】
用語「TSLP発現を検出すること」は、任意の定量的、半定量的、又は定性的な、TSLPタンパク質又はmRMAを検出する或いはTSLP活性を検出する方法を意味する。
【0110】
明細書で使用する場合、TSLP発現が検出される場合には、好適には、対照試料において測定されたTSLPのレベルと比較してTSLPのレベルが有意に増大される場合、TSLPは子宮頸部異形成において発現されていると考える。このような場合には、子宮頸部異形成は「TSLP陽性」と呼ぶ。TSLP発現レベルにおける有意な増大は、好適には少なくとも10%、好適には少なくとも20%、より好適には少なくとも30%、より好適には少なくとも40%、さらに好適には少なくとも50%の増大を意味する。
【0111】
TSLP発現を検出することができない場合、好適にはTSLPのレベルが対照試料において測定されるTSLPのレベルと有意に相違しない場合、子宮頸部異形成は「TSLP陰性」である。
【0112】
TSLP発現は、TSLP mRNA又はタンパク質発現を検出又は測定することによって、例えばインサイツ(in situ)における免疫組織化学又は免疫蛍光法によって、当技術分野でありふれた方法に従って当業者によって容易に検出することができる。
【0113】
例えば、TSLPタンパク質は、抗TSLP抗体、好適には検出可能標識に結合された抗TSLP抗体で、エクスビボ(ex vivo)において検出することができる。
【0114】
用語「標識」は、担体物質又は分子(例えば、抗体若しくはオリゴヌクレオチド)に付着されることができ、TSLPを検出するために使用することができる同定タグを意味する。標識は、結合又は架橋部分によって直接又は間接的にその担体物質に付着されてよい。適当な標識は、酵素、例えばβ−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ、蛍光化合物、例えばローダミン、フルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)又はFITC、発光化合物、例えば;ジオキセタン、ルシフェリン、放射性同位元素、例えば125I、タンパク質結合パートナー、例えば、ビオチン等を含むがこれらに限定されない。
【0115】
本実施形態のTSLPタンパク質を検出する方法は、子宮頸部異形成試料を抗TSLP抗体と接触させる段階、当該抗体をTSLPに結合する段階、及び抗体及びTSLPによって形成された複合体を検出する段階を含んでなる。
【0116】
子宮頸部異形成試料の細胞、組織においてTSLPを同定するためにプローブとして使用される抗体が蛍光色素で標識される場合、抗体及びTSLPによって形成された複合体を検出するために免疫蛍光顕微鏡を使用してよい。組織切片においてTSLPタンパク質を検出するための免疫蛍光法の代替物は免疫組織化学法であり、この方法において特異的抗体は、無色の基質を不溶性である有色の反応産物に変える酵素に化学的に結合され、インサイツ(in situ)で、すなわちこの結合が形成される場所で沈殿する。抗体が結合した有色生成物の局在性析出は、光学顕微鏡下で直接観察することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼは、これらの適用において最も一般的に使用される2つの酵素である。西洋ワサビペルオキシダーゼは、基質ジアミノベンジジンを酸化して茶色沈殿を生成し、一方アルカリホスファターゼは、使用される基質次第で赤色又は青色染色を生成することができ;通常の基質は5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸+ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)であり、紺青色又は紫色染色を生じる。
【0117】
免疫ブロッティング(ウエスタンブロッティング)は、細胞可溶化物中のTSLPタンパク質又はmRNAの存在を同定するために使用してよい。全細胞タンパク質を可溶化するために非標識細胞を洗浄剤中に置き、可溶化液のタンパク質を、例えば、可溶化液をSDS−PAGE上で流すことによって分離し、安定な担体、例えばニトロセルロース膜へ移す。抗体及び結合抗体での処理によってTSLPタンパク質を検出し、放射性同位元素又は酵素で標識された抗免疫グロブリン抗体によって明らかにする。
【0118】
同様に、サイズ分離されたRNAにおいてTSLP mRNAを検出するために、特異的にハイブリッド形成することが可能な、例えば、TSLP mRNAに相補的な検出可能プローブを使用して、ノーザンブロッティングを利用してよい。
【0119】
子宮頸癌を診断する方法
本発明はまた、子宮頸癌及び/又は子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断する方法であって、患者の試料におけるTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法に関する。当該方法は、少なくとも1つの対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び子宮頸癌又は子宮頸部異形成を患いやすい患者の試料において発現されたTSLPのレベルを、対照試料において発現されたTSLPのレベルと比較する段階をさらに含んでよい。対照試料は、好適には健康な子宮頸部を示しているものである。
【0120】
試料は、好適には子宮頸部試料、例えば、子宮頸部の未分化ケラチノサイトの基底層及び真皮を含んでなる又はから成る試料を示している。
【0121】
対照試料は、(患者由来又は患者由来でない)健康な子宮頸部の試料に相当し得る。このような対照試料は、子宮頸部の未分化ケラチノサイトの基底層及び真皮を含んでなる又はから成る試料か、或いは精製及び/又は分離されたTSLPの既知量であって、健康な子宮頸部を示している既知量を含んでなる試料に相当し得る。
【0122】
明細書中で記載するように、TSLP発現は良性子宮頸部異形成において検出することができない。これに対して、TSLPは子宮頸部上皮内腫瘍又は子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成で発現されることが示されており、子宮頸癌において発現されることもまた期待される。従って、試料においてTSLP発現を検出することは、患者が子宮頸癌を患う又は子宮頸癌に罹患するリスクにあることを示しているであろう。
【0123】
好適な実施形態において、健康な子宮頸部を示している対照試料において検出されたTSLPのレベルと比較した、患者由来の子宮頸部試料におけるTSLP発現のレベルの有意な増大は、患者が子宮頸癌を患う又は子宮頸癌に罹患するリスクがあることを示す。TSLP発現のレベルにおける有意な増大は、好適には少なくとも10%、好適には少なくとも20%、より好適には少なくとも30%、より好適には少なくとも40%、さらに好適には少なくとも50%の増大を意味する。
【0124】
TSLP発現は、当技術分野でありふれた方法に従って、例えば、「HPV感染症と関連した、子宮頸部異形成の予後を診断するための方法」とタイトル付けした段落で記載したように、当業者によって容易に検出することができる。
【0125】
本発明のキット
本発明は、さらに子宮頸部異形成の予後を診断するため、及び/又は子宮頸癌を診断するためのキットであって、TSLP発現を検出するための手段を含んでなるキットに関する。
【0126】
キットは:
−少なくとも1つの、TSLP発現の検出を行うための生化学試薬(例えば、PCR mix若しくは標識された抗TSPL抗体の標識を検出するための試薬);及び/又は、
−子宮頸部異形成の予後を診断する並びに/又は子宮頸癌及び/若しくは子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断するためのキットの使用のための説明書;並びに/或いは、
−少なくとも1つの、健康な子宮頸部、子宮頸部異形成、若しくは子宮頸癌を示している対照試料、
をさらに含んでなる。
【0127】
TSLP発現を検出するための手段は、当技術分野で周知であり、例えば、抗体及びオリゴヌクレオチド、例えばプライマー及びプローブを含む。例えば、キットは、インサイツ(in situ)免疫組織化学法、免疫蛍光法、ELISA又はフローサイトメトリーによってTSLP発現を検出するのに適当な抗TSLP抗体、ノーザンブロッティングによってTSLP発現を検出するのに適当なプローブ、PCRによってTSLP発現を検出するのに適当なプライマー、或いはRT−qPCRによってTSLP発現を検出するためのプライマー及びプローブを含んでよい。
【0128】
「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオシド(アデノシン, グアノシン, ウリジン 若しくはシチジン; 「RNA分子」)又はデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン, デオキシグアノシン, デオキシチミジン, 若しくはデオキシシチジン; 「DNA分子」)のリン酸エステル重合体形態、或いは一本鎖形態、又は二本鎖らせん状のこれらの任意のリン酸エステル類似体、例えばホスホロチオエート及びチオエステル、を意味する。
【0129】
用語「プライマー」は、プライマーと標的核酸鎖との間でハイブリッドを形成するために、核酸ハイブリダイゼーションによって相補的標的核酸分子とアニーリングすることができる、短い核酸分子、例えばDNAオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、ポリメラーゼ酵素によって標的核酸分子に沿って伸展することができる。従って、プライマーは標的核酸分子を増幅するために使用することができる。プライマー対は、例えば、PCR、リアルタイムPCR、又は当技術分野で周知の他の核酸増幅方法による、核酸配列の増幅のために使用することができる。プライマーを調製及び使用するための方法は、例えば、Sambrook等(1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York)において記載される。
【0130】
用語「プローブ」は、標的核酸とハイブリッド形成することができる分離された核酸を意味する。検出可能標識又はレポーター分子は、プローブに付着することができる。典型的な標識は、放射性同位元素、酵素基質、補助因子、リガンド、化学発光又は蛍光剤、ハプテン、及び酵素を含む。様々な目的に適当な標識のための方法及び標識の選択におけるガイダンスは、例えば、Sambrook等(1989 Molecular Cloning; A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor)において考察される。
【0131】
プライマー及びプローブは、好適には少なくとも12、15、20、25、30又は50のヌクレオチド長である。
【0132】
プライマー及びプローブは、例えば、以下の500、250、200、150、100、又は50ヌクレオチド長とすることができる。
【0133】
このようなプライマー及びプローブは、当技術分野で周知である。例えば、TSLPの発現を測定するめに適当なプライマー及びプローブは、配列番号1の配列、又はこれらに相補的な配列の断片を含んでなる又はから成ってよい。当該断片は、当該配列の少なくとも12、15、20、25、30、50、100、150、200、250、300、350、400、450又は500のヌクレオチド断片でよい。
【0134】
TSLP発現を検出するのに適当な抗体はまた当業者に周知であり、例えば、「HPV感染症と関連した、子宮頸部異形成の予後を診断するための方法」とタイトル付けした段落において記載した、検出可能標識に結合された抗TSLP抗体を含む。
【0135】
本発明を、次の図及び実施例の点からさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1A】図1は、上皮由来のLCに対するHPV感染症の影響を示す。図1Aは、組織切片上でLCをカウントしたデータを示し、示されるデータは、健康な皮膚(n=6)、プールされたHPV病変(n=31)、足底疣贅(n=8)、尋常性疣贅(n=6)、扁平疣贅(n=7)、尖形コンジローマ(n=10)、及びアトピー性皮膚炎(n=5)に関して、平均値+/−SDとして示す。(*p < 0.05)。
【図1B】図1Bは、DCのHPV又はFluでの感染中の、又はTSLPとの接触による、CD80、CD86及びCD40の細胞表面発現に基づくDC活性のレベルを示す。
【図1C】図1Cは、様々なサイトカイン及びケモカインの発現に対するHPV感染症の影響を示す(NS: 正常な皮膚, CA: コンジローマ罹患皮膚)。
【0137】
【図2A】図2は、LC細胞遊走に対するTSLPの影響を示す。図2Aは、LCを健康な子宮頸部上皮(n=9)、TSLP陽性(n=35)及びTSLP陰性(n=12)CIN1病変においてカウントしたデータを示し、データは、平均値+/−SDとして示される(* p < 0.05)。子宮頸部のTSLP陽性病変は、子宮頸部及び健康な子宮頸部のTSLP陰性病変と比較して、LCカウントの減少を示す。
【図2B】図2Bは、TSLPのLC遊走に対する用量依存的影響を示す。
【図2C】図2Cは、CD1a+遊走細胞の表面マーカー発現を示す。
【0138】
【図3A】図3は、TSLPがDC細胞にどのように作用するかを示す。図3Aは、「自由移動」又は「三次元移動」を再現するための、コーティングされていないフィルター又はコラーゲンコーティングしたフィルターにおける、TSLP、TNF、TLR、LPS又はインフルエンザウイルスでの活性後のDCの遊走性能力を示す。
【図3B】図3Bは、TSLPでの処理後に遊走を開始するのに、DCによって必要とされる時間を示す。
【0139】
【図4A】図4は、TSLP誘発されたDC極性がミオシンII依存的であることを示す。図4Aは、TSLP、TNF、Flu又はLPSでの感染又は処理後に、DCの極性を、細胞におけるアクチン細胞骨格の位置及び細胞表面にわたるポドソームの位置から評価したデータを示す。
【図4B】図4Bは、ブレビスタチン、ミオシンII抑制剤の、DC細胞極性を誘発するTSLP、Mip3α(CCL20)、TNF、Flu又はLPSの能力に対する影響を示す。
【図4C】図4Cは、TSLP誘発された細胞極性を抑制するのに必要なブレビスタチンの用量を示す。
【0140】
【図5A】図5は、閉鎖環境におけるDC運動性に対するTSLPの効果を説明する。図5Aは、マイクロチャネルシステムにおいて、非TSLP活性化DCと比較して、TSLP活性はDCの速度に影響しなかったことを示す。
【図5B】図5Bは、ブレビスタチン(50nM)の非存在又は存在下で細胞を前培養した場合に、3時間の微速度撮影中にチャネルに進入するDCの数の定量化したデータを示す。対照培地と比較して、TSLPはマイクロチャネルに進入するDCの量の4倍増加を誘発した。ブレビスタチンは、この効果を有意に抑制した。データは、平均値+/−SD、n=3として示される(* P < 0.05)。
【0141】
【図6A】図6は、HPVの存在下でさえTSLPがTH2応答を誘導することを示す。図6Aは、24時間の培養後、CD40、CD80及びCD86の表面レベルに基づいて、HPVは任意のDC活性を誘発しなかったことを示す。TSLPは、これらの3つの成熟マーカーの強度の上方制御を誘発し、HPVに影響されなかった。MFI:平均蛍光強度。
【図6B】図6Bは、48時間の培養後、TSLPは、DC上の表面OX40−リガンド(OX40L)発現(左側パネル)及びOX40Lを発現しているDCの比率(右側パネル)の上方制御を誘発したことを示す。MFI:平均蛍光強度。
【図6C】図6Cは、HPV、TSLP又はHPV+TSLPによって活性化された、DCで誘発されたT細胞によるINF−γ、IL13、IL4、IL10、TNFの産生を示す。
【図6D】図6Dは、FACSによる、HPV、TSLP又はHPV+TSLPによって活性化された、DCで誘発されたT細胞によるIL4、IL10、TNF、INF−γの産生を示す。
【図6E】図6Eは、極性化サイトカインの存在下又は非存在下で、抗CD3+抗CD28で未処理のヘルパーT細胞を5日間培養し、そして続く24時間のポリクローナル再刺激後に測定したThサイトカインTNF、IL−4、IFN−γ、IL−13、及びIL−10を示す。TH0:極性化サイトカインの添加なし;Th1:IL−12;Th2:IL−4。各ドットは独立した実験に由来する値を表す。バーは平均値を表す。
【実施例】
【0142】
実施例1:LCの減少は、HPV感染症の固有の特性である。
あらゆるタイプのHPV感染症においてLC減少が一般的特徴であるかを決定するために、異なるタイプのいぼ(尋常性、足底及び扁平疣贅)及びコンジローマにおけるLCの数を、正常な皮膚と比較して定量化した。
試験したすべての皮膚病変において、LCのプールはほとんど消失した(図1A)。従って、LCの減少は、HPV感染症の固有の特性である。よって、HPV微小環境に存在する因子は、LCの活性及び遊走を誘発すると仮定した。
【0143】
実施例2:HPVは、直接DCに感染する且つ/又はDCを活性化することはできない。
直接DCに感染する且つ/又はDCを活性化するHPVの能力を分析した。細胞数制限のため、健康なドナーの血液から直接分離した初代DCを使用した。これらはLCと多くの類似性を共有する。使用する可能性のある全ウイルスHPV−1並びにウイルス様粒子(VLP)16及びVLP18を利用した。
【0144】
全初代HPV−1ビリオンを、Orth等(J Virol, 1977, 24, 108-120)に記載されるように、足底いぼから精製した。VLP16及びVLP18は、Glaxo−Smith Klineから寄贈されたものであった。DCへのHPV移行を評価するために、107HPV−1ウイルス粒子/ml或いは10μg/ml VLP16又はVLP18と共に細胞を24時間インキュベートした。続いてDCを洗浄し、7000×10分間サイトスピンした(cytospin)。続いてスライスをドライアイス上で凍結させ、冷アセトン(-20℃)中で10分間固定し、免疫蛍光法によるウイルス検出のための使用まで−80℃で保存した。HPV及びウイルス粒子を、マウス抗L1タンパク質抗体(Visoactiv & Virofem)を使用することによって、続いてCy3蛍光色素に結合する抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Lab)によって検出した。
【0145】
24時間のインキュベーション後に、HPV−1はDCに進入することができたが、CD40、CD80及びCD86の細胞表面発現に基づくDC活性を誘発しなかった(図1B)。エクスビボ(ex vivo)又はインビトロ(in vitro)において生成されたLCで又はVLPを使用して、同様のデータが得られた。従って、HPVによるDCの直接の活性は、排除することができた。
【0146】
実施例3:HBV感染中のサイトカイン発現
次に、LC活性及び遊走は、HPV感染組織の微小環境に存在する炎症性サイトカインによって誘発することができると仮定した(Cumberbatch et al., Clin. Exp. Dermatol. 2000, 25(5):413-8, Cumberbatch et al., Br. J. Dermatol., 1999, 141 (2):192-200)。HPV病変モデルとしてコンジローマを使用し、炎症性サイトカイン及びケモカインの遺伝子発現を分析した。
【0147】
正常な皮膚と比較して、同程度のTNF−a、IFN−γ及びIL−12が観察されたが、一方IL−1β、IL−6及びIL−23は有意に減少した(図1C)。従って、これらのプロファイルにおいてDC活性を確認することができたサイトカイン候補はなかった。
【0148】
様々なケモカインの非存在又は、特にCCL20産生レベルの低下もまた、免疫組織化学によって確認した(図1C)。CCL20の下方制御はまた、子宮頸部病変において示され、LC前駆体の補充不良に関与するかもしれない。興味深いことに、抗炎症性サイトカインIL−10及びTGF−βもまた正常な皮膚と比較して下方制御され、これらがHPVに対する免疫回避に関与しないことを示しており、以前の報告と対照をなしている。
【0149】
皮膚及び子宮頸部のHPV感染病変において、著しく、高レベルのTSLPを確認した。アトピー性皮膚炎において既に観察したように、TSLP産生は未分化ケラチノサイトの基底層において存在せず、真皮においてTSLP染色はなかった。
【0150】
実施例4:DC遊走におけるTSLPの関与
HPV感染症に関するLC遊走におけるTSLPの役割を検討するために、組織診の際に約30%のCIN−1病変がTSLPを発現しなかったという事実を利用した。TSLP発現は、上皮性LCの数と相関し、TSLPを欠如した感染子宮頸部だけがLCのプールを維持することができることが分かった(図2A)。これは、TSLPがLC遊走のトリガーであるかもしれないこと示した。
【0151】
次に、LCの遊出を試験するために、上皮性外植片を包括的なモデルとして使用した。TSLPは、CD1a+ランゲリン+TSLP受容体+CD80+細胞の遊出を有意に増大した(図2B及びC)。この点で、TSLPはTNFaより効率的であり、LC遊走を誘発するのに非常に強力なサイトカインと見なした(Cumberbatch et al., Clin. Exp. Dermatol., 2000, 25(5):413-8; Cumberbatch et al., Br. J. Dermatol. 1999, 141 (2):192-200)。
【0152】
皮膚外植片モデルにおいて、TSLPの影響は、間接的であるか又はケラチノサイトによって産生される因子によって支持され得る。TSLP活性化DC(TSLP-DC)の遊走する能力を詳細に分析するために、インビトロ(in vitro)におけるトランスウェル実験(transwell experiment)を行った。2つのタイプの移動:(i)コーティングされていないフィルターを通して細胞が遊走することができる場合の「自由移動」、及び(ii)コラーゲン1コーティングしたフィルターを使用した、インビボ(in vivo)における状況により近い「三次元移動」、を再現することを試みた。
【0153】
そのために、コーティングされていない又はコラーゲン1型(5μg/ml ラットテールコラーゲン1型, BD Biosciences)コーティングしたトランスウェル(Costar, 3μm pore)を200μlのDC培地で満たされた96ウェルプレート中に置いた。
【0154】
健康な成人ボランティアドナーの血液(Crozatier blood bank, Paris, France)のバフィーコートから、既に記載したようにFacSortingで(Soumelis et al., Nat Immunol, 2002, 3, 673-680)、CD11c+DCを99%まで精製した。10%ウシ胎仔血清、1%ピルビン酸、1%HEPES及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI中で、フレッシュな状態で選別したCD11c+DCを培養した。50ng/ml TSLP(R&D Systems)、107HPV粒子、2.5ng/ml TNF(R&D)、20μg/mlインフルエンザウイルス(H1N1 , A/PR/8/34 strain, Charles River Lab.)、1μg/ml LPS(Sigma)、又は100ng/mlGM−CSF(BruCells)の非存在(未処理細胞)又は存在下で、平底の96ウェルプレート中に1×106/mlで細胞を播種した。
オーバーナイトでTSLP、TNF、LPS、インフルエンザウイルス又はGM−CSFで処理したDC(1x106/ml)を再懸濁し、この溶液の50μlをトランスウェルの上部のチャンバーに添加し、37℃で6時間インキュベートした。MIP−3α/CCL20(500ng/ml)(R&D)を、DC遊走を誘発する陽性対照として下部チャンバーに添加した。6時間後、トランスウェルの上部及び下部チャンバー中の細胞をカウントした。一部の実験において、遊走時間24時間及び/又は6時間、DCを200ng/mlの百日咳毒素で前処理した。結果は、総DCの%として表した。
【0155】
TSLP−DCは、いずれのシステムにおいても遊走に関して非常に効率が高かった(図3A)。TSLP−DCの遊走性能力はTNF−DCより高かった。2つのToll様受容体(TLR)リガンド、LPS及びインフルエンザウイルスは、DC遊走を誘発することができなかった(図3A)。TSLP誘発された遊走は、培養中のヒトDCによるTSLP受容体の発現と調和し、TSLP曝露の3時間後位に開始した(図3B)。従って、ケモカインとは独立して、直接DCに作用することによって、TSLPは強力に遊走を誘発することができる。
【0156】
実施例5:TSLPは、ヒトDCのミオシンII依存的極性を、細胞骨格の重要な再構築と共に誘発した。
基礎をなす分子メカニズムを検討するために、細胞極性を、移動の獲得のために制御されなければならない細胞活性及び遊走の特徴として分析した。アクチン細胞骨格は、細胞増殖及びアクチン再構築に必要な機構であり、細胞極性及び移動に必須である。
【0157】
細胞骨格構造を決定するために、ポリリジンコーティングしたカバーガラス上でDCを24時間培養し、落射蛍光顕微鏡によって調べた。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%PFAの中で20分間細胞を室温で固定し、PBS中の1%トリソンX−100で5分間透過処理し、PBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)で20分間室温でブロックした。繊維状アクチンの局在化のために、細胞をCy3−ファロイジン(Molecular Probes)で30分間インキュベートした。5人の異なるドナー由来の極性化したDCの数をカウントすることで、極性指標を評価した。極性を、細胞の総数に対する極性化した細胞の比率として表した。α−チューブリンの局在化を、ラット抗ヒトα−チューブリン抗体(Serotec)での1時間のインキュベーションによって達成した。ウサギ抗ヒトミオシンII H鎖抗体(BTI)によってミオシンIIを検出し、その後30分間Alexa 488ヤギ抗ウサギ(Molecular Probes)でインキュベーションした。ProLong Gold抗フェード試薬(Invitrogen)中でカバーガラスを載せた。適当なフィルターセットを取り付けた落射蛍光顕微鏡(Leica)によって、蛍光画像が得られた。
【0158】
ポリリジンコーティングしたカバーガラス中の刺激されていないヒトDCは、細胞周辺において構築され細胞表面にわたり散在的に分布されたポドソーム中で強化されたアクチン細胞骨格と共に、非極性状態であるように見えた。インフルエンザウイルスによって活性化される場合、同一の非極性形態が維持された。LPSは、ポドソームの減少と共に複数の樹状伸展の形成を誘発し、細胞は「星」形状を獲得した。興味深いことに、細胞は、TSLP処理後、核が置換されたよく発達した先端及び他の細胞極の長く非常に薄いウロポッド(uropod)を有した状態で非常に極性化した(図4A)。ポドソームは、主に伸展領域に密集し且つ/又はアクチンフィラメントは核周辺で増強された。TNF−mDCは、極性はあまり明らかではなかったが、極性化した形状をとった(図4A)。微小管の極性化した成長はまた、細胞極性に重大である。アクチン細胞骨格と同様に、微小管は、培地で培養したヒトDC中に非極性化状態で構築され、この形状はインフルエンザウイルスの存在下で変化しなかった。LPS処理は樹状増殖の微小管の再構築を誘発した。細胞形状は、微小管骨格に関してもまた、TSLP及びTNF−a−刺激DCにおいて極性化した。結論として、TSLPは、ヒトDCの極性を細胞骨格の重要な再構築と共に誘発した。
【0159】
非筋細胞ミオシンファミリーのミオシンIIのメンバーは、アクチンを結合できるモータータンパク質であり、直接細胞増殖及び細胞移動に関与する。ミオシンIIは、N末端がアクチン及びATP結合部位と球状頭部を形成する2つのH鎖、及び2つのL鎖に存在する。アクチン結合後に、ミオシンIIは、アクチンフィラメントのプラス端へ移動することができ、アクチンフィラメント収縮を誘発する。培地又はLPS−DCではなく、TSLP−DCにおいて、細胞退縮を示しているアクチンフィラメントと共に、ミオシンIIは先端に蓄積した。結論として、TSLP処理は、遊走性能力と共に、mDC成熟、極性及びアクチン−ミオシンII再局在化を誘導した。
【0160】
アクトミオシン細胞骨格の著しい再構築を考慮すると、TSLP誘発性DC遊走がミオシンII依存的かどうかの疑問が生じた。ブレビスタチンは、アクチン脱離部位においてミオシンIIの先端をブロックする低分子抑制剤である。
【0161】
TSLP−DCの形態のミオシンIIの役割を試験するために、細胞極性を可能にするため、ポリリジンコーティングしたスライドガラス上で、20nMブレビスタチンと共に又はなしに細胞をTSLP中で12時間インキュベートした。ブレビスタチンの毒性効果を回避するために、低濃度を選択した。
【0162】
ミオシンIIの不活性化は、TSLPによって誘発された極性及び遊走を抑制した(図4B)。DC遊走は、20nMほど低用量のブレビスタチンで抑制された(図4C)。遊走の減少は、十分に構築された極性化形態の減少を伴った。ブレビスタチン処理は、非生理的なものとして既に記載した非常に伸長した細胞形状をもたらした。従って、TSLP誘発されたDC遊走及び細胞骨格の極性は、ミオシンII依存的である。
【0163】
実施例6:TSLPは、閉鎖環境においてDC運動性を促進する。
組織は、細胞遊走に関して閉鎖環境を表す(Irimia et al., Lab Chip, 2007, 7, 1783-1790)。細胞は、狭小な空間に「トラップされ」ており、多様な密度の領域を通過せざるを得ない。このようなインビボ(in vivo)状況を再現するために、マイクロチャネルシステムを使用した。このシステムによって、細胞移動を規定し且つ移動性細胞の方向を制限するための多様なパラメーターを定量化することができる。
【0164】
マイクロ流体デバイスをPDMS中で製作した(Whitesides G. M., E., O., Takayama S., X., J. & E, I. D. Ann Rev Biomed Eng, 2001 3, 335)。包埋したマイクロチャネル並びに入口及び出口のための穴を有するPDMS部分、並びにガラス製イワキチャンバー(Milian)を、プラズマクリーナー(PDC-32G Harrick)中で活性化し、互いに結合させた。チャンバーをプラズマクリーナー中で強真空下に5分間置き、PDMSの上層及び入口及び出口穴を親水性状態とするために、プラズマをオンにした。50μg/mlのフィブロネクチン溶液を入口及び出口の上部に置いた。当該溶液はチャネルに自然に浸潤し、上記の真空処理によって全ての気泡はPDMSの中に再吸収された。フィブロネクチンを1時間室温でインキュベートし、続いてPBSで洗浄し、細胞培地と取り換えた。細胞を濃縮し、細胞を含むマイクロピペットチップを入口に挿入した。細胞は入口の中に移動し、底のカバーガラスに結合し、遊走を開始した。これらは、機械的又は化学的刺激なしに、チャネルに自然に進入した。
【0165】
チャンバー中の様々な位置における位相差イメージを、6時間中、〜2分の微速度で、温度、湿度、及びCO2用環境チャンバー(Life Imaging Services)を備えた自動顕微鏡(Marzhauserのモーター駆動ステージ及びHQ2 Roperカメラが装備された、Nikon ECLIPSE TE1000-E, 及びOlympus X71)を使用して記録した。記録の全期間中、細胞は生存し且つ運動性のある状態であった。
【0166】
DC遊走におけるミオシンIIの重要性を分析するために、50nMブレビスタチンで細胞を前処理し、続いて濃縮しマイクロチャネルに挿入した。
【0167】
まず、DCの中央速度を測定し、培地で前培養したDC又はTSLPで前培養したDCとの間で、有意な違いは確認されなかった(図5A)。同様の結果が、最高及び最低DC速度に関して得られた。これは、トランスウェルシステムにおいてTSLPで観察された増大された遊走が増加した速度に起因しないことを示した。DC遊走のライブ映像を観察することによって、TSLP−DCが境界に達しマイクロチャネルに進入することにより優れていることが認められた。結果的に、TSLP前処理後の所定の時間に、培地と比較して多くのDCがチャネルの中に移動していた。チャネル中へのDC進入のTSLP誘発増加は、ミオシンII依存的であり(図5B)、他のDC活性条件下で観察されなかった。
【0168】
これは、TSLPが閉鎖環境においてDCの運動性を促進することを示し、そしてマウス白血球の三次元移動におけるミオシンIIに関する役割を説明している最近の報告と合致し(Lammermann et al., Nature 2008; 453(7191):51-5)、DCの運動性は狭小な間隙を通した移動の開始及び通り道を好むことを示す。これは、DCの移動の速度及び種類に影響するが、同様のマイクロチャネル中への進入には影響しないDCの運動性のインバリアント鎖の対照と対照的である。
【0169】
実施例7:TSLPのトリガーは、Th2応答を誘導するかもしれない。
ここに記載される結果は、HPV感染症で観察され且つ局所性免疫抑制に寄与しているLC減少に関する分子基盤を供する。しかしながら、重要な問題は、遊走しているTSLP活性化DCの運命及び抗ウイルス性T細胞応答を誘発するこの能力である。TSLPは、アレルギー誘発性Th2応答を誘発することが知られる。HPVはTSLP誘発DC活性及びそれに続くT細胞プライミングを調節することができるかが、疑問であった。
【0170】
TSLPは、同時刺激の分子の細胞表面発現に基づき、DCの強力な活性を誘発し、これはHPVの存在下で変更されなかった(図6A及び6B)。
CD11c+DCを、健康な成人ボランティア血液ドナーのバフィーコート(Crozatier blood bank, Paris, France)から、上述のように(Soumelis et al., Nat Immunol, 2002, 3, 673-680)FacSortingによって99%まで精製した。フレッシュに選別したCD11c+DCを、10%ウシ胎仔血清、1%ピルビン酸、1%HEPES及び1%ペニシリンストレプトマイシンを含むRPMI中で培養した。50ng/ml TSLP(R&D Systems)、107HPV粒子、TSLP+HPVの存在下又は非存在下で(未処理細胞)、平底96ウェルプレート中で1×106/mlで細胞を播種した。
培養の24時間後、刺激されたCD11c+DCを採取し、洗浄し、そして10%FCS(Hyclone)を含むYsselの培地(kind gift of Hans Yssel)中で、1:5 DC:T細胞の割合で丸底型プレート96ウェル培養プレート(Falcon)中で同種異系間の未処理のCD4+T細胞と共培養した。CD4T細胞分離キットII(Miltenyi Biotec)を使用し、続いて、CD45RO−FITC、CD45RA−PE、CD4−APCの染色、及びCD45RA+、CD4+、CD45RO−細胞のFACSAria(BD Bioscience)での細胞選別(純度>99%)をすることによって、末梢血の未処理CD4+T細胞を分離した。Dynabeads CD3/CD28T細胞エキスパンダー(1ビーズ per 細胞)(Invitrogen)及びTh1のための10ng/ml IL−12(R&D Systems)、Th2のための25ng/ml IL−4(R&D Systems)の存在下、且つTh0のための任意の極性化サイトカインの非存在下で、標準Thサブセットを生じた。
【0171】
5〜6日後、細胞を回収し、広範囲に洗浄し、トリパンブルー排除試験によって生存率を測定した。1×106細胞/mlを、Dynabeads CD3−CD28T細胞エキスパンダー(1ビース per 細胞)で24時間再刺激(ELISA)又は100ng/ml PMA及び1mg/ml ロノマイシンで6時間再刺激(FACS細胞内染色)した。培養上清中のサイトカインを、製造説明書に従って細胞数測定ビーズアッセイ(cytometric bead assay)(CBA)Flex Sets(BD Bioscience)によって測定した。再刺激の最後の3時間中、10μg/mlブレフェルジンの添加後、IFN−γ−、IL−4−、IL−10−、TNF−産生細胞を細胞内サイトカイン染色によって分析した。Cytofix−Cytoperm試薬(BD Biosciences)を使用して、細胞を透過処理した。細胞を抗IFN−γ FITC、抗IL−4 PE、抗IL−10 PE、抗TNF PE(BD Pharmingen)で染色し洗浄し、続いてフローサイトメトリー(FACScan Becton Dickinson)で分析した。
【0172】
TSLP−DCを未処理のCD4+T細胞をインビトロ(in vitro)で刺激するために使用した場合、TNF−αと一緒にIL−4、IL−5、及びIL−13の産生と共にTh2プロファイルを観察し、一方HPV−DCによって誘発されたT細胞サイトカインプロファイルは培地と同様であった(図6C及びD)。DCを活性化するためにTSLP及びHPVを結合した場合、それに続くT細胞サイトカインプロファイルはTSLP−DCと同様であり、TSLPがHPVより優位であることを示している。これは、TSLPのトリガー後の流入領域リンパ節へ遊走している残りのLC又はDCが、ウイルス性クリアランスに適当でないTh2応答を誘導することを示した。
【0173】
結論として、本明細書に供する結果は、初めてTSLPをウイルス感染の生理病理と結び付けた。この生理状況は、TSLP由来のDC活性及びそれに続くTh2プロファイルへの免疫応答の配向の結果に非常に影響を及ぼすと考えられる。アレルギーに関して、このような免疫系の活性は、炎症促進状態を引き起こし、一方、HPV感染症に関して、Th2プロファイルへの免疫応答の不適当な極性はウイルス性免疫回避を促進する。
【0174】
重要なことに、HPVは、ウイルス性クリアランスに適当でないTh2応答のためのプライミングからTSLPを保護しなかった(Kawai and Akira, Nature Immunol, 2006, 7, 131-137)。
【0175】
これは、防御Th1応答及び感染の根絶を引き起こす、他のウイルス、例えばインフルエンザウイルス又はHSVによって誘発された直接のTLR依存的DC活性と対照的である(Kawai and Akira, Nature Immunol, 2006, 7, 131-137)(Alcami, Nat Rev Immunol, 2003, 3, 36-50)。
【0176】
ランゲルハンス細胞(LC)、常在上皮性DCは、ウイルス感染、例えばHIV及び単純ヘルペスウイルス(HSV)に対する防御に重大な役割を果たす。LCがHPV感染子宮頸部上皮から激減されることは既に示されており、これによって局所性免疫抑制状態が作出され、そしてこれは免疫回避ストラテジーと見なされてきた(Stanley, Vaccine, 2006, 24, S16-S22)。しかしながら、LCの遊出をトリガーする因子は、未知のままである。LC減少が皮膚及び粘膜のHPV感染症の一般的特徴であり、このプロセスにおけるTSLPの重大な役割の証拠を供することを示している。
【0177】
本明細書に記載のデータは、DC遊走の誘発が、炎症性状況とは独立した、TSLPの内在特性であることを示す。興味深いことに、アトピー性皮膚炎及びHPV感染症両方のタイプの病変においてTSLPが存在するにもかかわらず、LCはアトピー性皮膚炎ではなくHPV感染症においてのみ激減される。これは、新たなLC又はLC前駆物質の上皮への補充に重要である、ケモカイン、例えば、CCL20の発現差異に起因し得る。子宮頸部異形成において、CCL20は欠如しており(MIP-3α)(Guess and McCance, J Virol, 2005, 79, 14852-14862)、一方このケモカインはADにおいて上方制御される(Dieu-Nosjean et al. J Exp Med, 2000, 192, 705-718)。従って、免疫応答の全体的な予後に対するTSLPの影響は、部分的に生理的状況に依存的である。
【0178】
細胞運動性は、抗原誘発後にDC自体が末梢組織から遊走し、第二のリンパ器官に到達することを可能とするDCの基本特性である。TSLPは、HPV感染症の経過中、閉鎖環境においてDC遊走を直接トリガーすることができる新規因子として認識された。制限された皮膚の間質腔中のDCが遭遇する微小環境を再現するマイクロチャネルシステムを使用した。さらに、TSLP誘発されたヒトDC遊走の細胞特性により、ミオシンIIに依存的なサイトカイン誘発の遊走の新規の分子メカニズムが明らかとなった。これらの結果から、閉鎖環境におけるDC遊走の基本的なメカニズム間の強いリンクの、ヒトウイルス感染の生理病理との関係が供される。
【0179】
重要なことに、これらの結果からHPV特異的免疫応答の開始に対する説明がなされ、これにより長期にわたる逆説と折り合いが付けられている。実際、本願のモデルによって、数ヶ月又は数年後にHPV感染症がどの位自然治癒し、且つ自然に退縮するか、及びHPV特異的免疫応答がどのように開始されるかを説明することが可能である。
【0180】
最初、TSLPは常在LCを活性化し、抗HPV免疫の開始を可能にする一方で、長期にわたって、慢性LC減少及びTh2応答への免疫偏向を促進することによってTSLPは免疫応答を破壊し、これは効率的なウイルス性クリアランスに適当でない。免疫と免疫破壊メカニズムとの間のバランスによって最終的に、通常のいぼに関して観察されるように病変の予後、或いは子宮頸部病変の場合のように数ヶ月又は数年間の持続性が決定される。
【0181】
従って、HPV感染患者においてTSLPの機能を標的にすることが、感染防御性Th1応答への免疫応答を再指示するのに役立つことが期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性ウイルス感染を治療又は予防するためのTSLP拮抗剤。
【請求項2】
前記慢性ウイルス感染がTSLP発現の増加と関連する、請求項1に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項3】
前記慢性ウイルス感染がTh2サイトカインの分泌と関連する、請求項1又は2に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項4】
前記慢性ウイルス感染が、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)の感染から成る群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項5】
前記慢性ウイルス感染が、HPVの高リスクのサブタイプ、好適にはHPV16型又はHPV18型の感染である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項6】
前記TSLP拮抗剤が、TSLP又はTSLPR、複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖、或いは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR又はIL−7Rαサブユニットに選択的に結合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項7】
前記TSLP拮抗剤が、TSLPに結合する抗体又はアプタマー、TSLPR、複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖、又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR若しくはIL−7Rαのサブユニットに結合する抗体又はアプタマー、可溶性TSLP受容体、可溶性IL−7Rα鎖から成る群から選択される、請求項6に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項8】
前記TSLP拮抗剤が、TSLP、TSLPR又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖の発現を減少又は防止する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項9】
前記TSLP拮抗剤が、メッセンジャーRNA又はリボザイムを阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含んでなる、請求項8に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項10】
医薬としての、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤の組合せ、又はこの組成物であって、ここでTSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤が、同時に又は連続して投与されることが意図される組合せ。
【請求項11】
慢性ウイルス感染を治療又は予防するための、請求項10に記載の組合せ。
【請求項12】
前記慢性ウイルス感染が、ヒトパピローマウイルス(HPV)、好適にはHPVの高リスクのサブタイプ、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)の感染から成る群から選択される、請求項11に記載の組合せ。
【請求項13】
前記免疫賦活性剤が、Th1サイトカイン又はTh1サイトカインの産生の誘発因子である、請求項11又は12に記載の組合せ。
【請求項14】
前記免疫賦活性剤が、インターフェロン(IFN)、IFNの誘発因子、腫瘍壊死因子(TNF)、TNFの誘発因子、インターロイキン−2(IL-2)、及びToll様受容体(TLR)のリガンドから成る群から選択される、請求項11〜13のいずれか1項に記載の組合せ。
【請求項15】
子宮頸部異形成においてTSLPが発現されているかを決定する方法であって、子宮頸部異形成の試料においてTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法。
【請求項16】
対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び対照試料において発現されたTSLPのレベルと子宮頸部異形成の試料において発現されたTSLPのレベルを比較する段階をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
子宮頸部異形成の進行を診断する方法であって、
子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出することからなる段階であって、ここでTSLP発現が検出される場合には、その後子宮頸部異形成が持続するか、あるいは子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があり、TSLP発現が検出されない場合には、その後子宮頸部異形成が退縮する可能性がある段階、
を含んでなる方法。
【請求項18】
子宮頸癌及び子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断する方法であって:
a)患者の試料において、TSLP発現を検出する段階;
b)健康な子宮頸部を示している少なくとも1つの対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び
c)段階(a)で検出されたTSLP発現のレベルを、段階(b)で検出されたTSLP発現のレベルと比較する段階、
を含んでなり、ここで、段階(b)において検出されたTSLP発現のレベルと比較した、段階(a)において検出されたTSLP発現のレベルの有意な増大が、患者が子宮頸癌に罹患している又は罹患するリスクにあることを示す方法。
【請求項19】
子宮頸部異形成の予後を診断するため及び/又は子宮頸癌を診断するためのキットであって、ここでキットが、TSLP発現を検出するための手段、及び任意に:
a)TSLP発現の検出を行うための少なくとも1つの生化学試薬;
b)子宮頸部異形成の予後を診断する又は子宮頸癌を診断するためのキットの使用のための説明書;又は
c)健康な子宮頸部、子宮頸部異形成又は子宮頸癌を示している少なくとも1つの対照試料、
を含んでなるキット。
【請求項1】
慢性ウイルス感染を治療又は予防するためのTSLP拮抗剤。
【請求項2】
前記慢性ウイルス感染がTSLP発現の増加と関連する、請求項1に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項3】
前記慢性ウイルス感染がTh2サイトカインの分泌と関連する、請求項1又は2に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項4】
前記慢性ウイルス感染が、ヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)の感染から成る群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項5】
前記慢性ウイルス感染が、HPVの高リスクのサブタイプ、好適にはHPV16型又はHPV18型の感染である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項6】
前記TSLP拮抗剤が、TSLP又はTSLPR、複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖、或いは複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR又はIL−7Rαサブユニットに選択的に結合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項7】
前記TSLP拮抗剤が、TSLPに結合する抗体又はアプタマー、TSLPR、複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖、又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖のTSLPR若しくはIL−7Rαのサブユニットに結合する抗体又はアプタマー、可溶性TSLP受容体、可溶性IL−7Rα鎖から成る群から選択される、請求項6に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項8】
前記TSLP拮抗剤が、TSLP、TSLPR又は複合受容体TSLPR/IL−7Rα鎖の発現を減少又は防止する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項9】
前記TSLP拮抗剤が、メッセンジャーRNA又はリボザイムを阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドを含んでなる、請求項8に記載のTSLP拮抗剤。
【請求項10】
医薬としての、少なくとも1つのTSLP拮抗剤及び少なくとも1つの免疫賦活性剤の組合せ、又はこの組成物であって、ここでTSLP拮抗剤及び免疫賦活性剤が、同時に又は連続して投与されることが意図される組合せ。
【請求項11】
慢性ウイルス感染を治療又は予防するための、請求項10に記載の組合せ。
【請求項12】
前記慢性ウイルス感染が、ヒトパピローマウイルス(HPV)、好適にはHPVの高リスクのサブタイプ、肝炎ウイルス(HBV, HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及び伝染性軟属腫ウイルス(MCV)の感染から成る群から選択される、請求項11に記載の組合せ。
【請求項13】
前記免疫賦活性剤が、Th1サイトカイン又はTh1サイトカインの産生の誘発因子である、請求項11又は12に記載の組合せ。
【請求項14】
前記免疫賦活性剤が、インターフェロン(IFN)、IFNの誘発因子、腫瘍壊死因子(TNF)、TNFの誘発因子、インターロイキン−2(IL-2)、及びToll様受容体(TLR)のリガンドから成る群から選択される、請求項11〜13のいずれか1項に記載の組合せ。
【請求項15】
子宮頸部異形成においてTSLPが発現されているかを決定する方法であって、子宮頸部異形成の試料においてTSLP発現を検出する段階を含んでなる方法。
【請求項16】
対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び対照試料において発現されたTSLPのレベルと子宮頸部異形成の試料において発現されたTSLPのレベルを比較する段階をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
子宮頸部異形成の進行を診断する方法であって、
子宮頸部異形成の試料におけるTSLP発現を検出することからなる段階であって、ここでTSLP発現が検出される場合には、その後子宮頸部異形成が持続するか、あるいは子宮頸部上皮内腫瘍及び子宮頸癌に進行する可能性があり、TSLP発現が検出されない場合には、その後子宮頸部異形成が退縮する可能性がある段階、
を含んでなる方法。
【請求項18】
子宮頸癌及び子宮頸癌に進行する可能性がある子宮頸部異形成を診断する方法であって:
a)患者の試料において、TSLP発現を検出する段階;
b)健康な子宮頸部を示している少なくとも1つの対照試料においてTSLP発現を検出する段階、及び
c)段階(a)で検出されたTSLP発現のレベルを、段階(b)で検出されたTSLP発現のレベルと比較する段階、
を含んでなり、ここで、段階(b)において検出されたTSLP発現のレベルと比較した、段階(a)において検出されたTSLP発現のレベルの有意な増大が、患者が子宮頸癌に罹患している又は罹患するリスクにあることを示す方法。
【請求項19】
子宮頸部異形成の予後を診断するため及び/又は子宮頸癌を診断するためのキットであって、ここでキットが、TSLP発現を検出するための手段、及び任意に:
a)TSLP発現の検出を行うための少なくとも1つの生化学試薬;
b)子宮頸部異形成の予後を診断する又は子宮頸癌を診断するためのキットの使用のための説明書;又は
c)健康な子宮頸部、子宮頸部異形成又は子宮頸癌を示している少なくとも1つの対照試料、
を含んでなるキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【公表番号】特表2012−516310(P2012−516310A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546869(P2011−546869)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051198
【国際公開番号】WO2010/086445
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(500056471)
【出願人】(500248467)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム) (19)
【出願人】(511185575)ハインリッヒ−ハイネ−ウニベルジテート (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051198
【国際公開番号】WO2010/086445
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(500056471)
【出願人】(500248467)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム) (19)
【出願人】(511185575)ハインリッヒ−ハイネ−ウニベルジテート (1)
【Fターム(参考)】
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