説明

成型用ポリエステルフィルム

【課題】低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、帯電防止性に優れ、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、さらに環境負荷が小さい成型用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】共重合ポリエステルを含む二軸配向ポリエステルフィルムを基材とし、該基材の片面に帯電防止剤を含む帯電防止層が設けられた成型用積層ポリエステルフィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が、いずれも25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面の表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)少なくとも片面の帯電防止層の表面固有抵抗値が1×10〜1×1013Ω/□であることを特徴とする成型用帯電防止ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、帯電防止性に優れ、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、さらに環境負荷が小さい、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適な成型用ポリエステルフィルムに関する。加えて、屋外で使用される用途(自動車の外装用または建材用部材)に好適な耐光性にも優れる成型用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成型用シートとしては、ポリ塩化ビニルフィルムが代表的であり、加工性などの点で好ましく使用されてきた。一方、該フィルムは火災などによりフィルムが燃焼した際の有毒ガス発生の問題、可塑剤のブリードアウトなどの問題があり、近年の耐環境性のニーズにより、環境負荷が小さい新しい素材が求められてきている。
【0003】
上記要求を満足させるために、非塩素系素材としてポリエステル、ポリカーボネートおよびアクリル系樹脂よるなる未延伸シートが広い分野において使用されてきている。特に、ポリエステル樹脂よりなる未延伸シートは、機械的特性、透明性が良く、かつ経済性に優れており注目されている。例えば、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した、実質的に非結晶のポリエステル系樹脂を構成成分とする未延伸ポリエステル系シートが開示されている(例えば、特許文献1〜5を参照)。
【特許文献1】特開平9−156267号公報
【特許文献2】特開2001−71669号公報
【特許文献3】特開2001−80251号公報
【特許文献4】特開2001−129951号公報
【特許文献5】特開2002−249652号公報
【0004】
上記の未延伸ポリエステルシートは、成型性やラミネート適性に関しては市場要求を満足するものではあるが、未延伸シートであるため、耐熱性や耐溶剤性が充分ではなく市場の高度な要求を満足させるまでには至っていない。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いる方法が開示されている(例えば、特許文献6〜9を参照)。
【特許文献6】特開平9−187903号公報
【特許文献7】特開平10−296937号公報
【特許文献8】特開平11−10816号公報
【特許文献9】特開平11−268215号公報
【0006】
しかしながら、上記方法は、耐熱性や耐溶剤性は改善されるものの、成型性が不十分となり、総合的な品質のバランスの点で、市場要求を満足させるものではなかった。
【0007】
上記課題を解決する方法として、フィルムの100%伸張時応力を特定化する方法が開示されている(例えば、特許文献10、11を参照)
【特許文献10】特開平2−204020号公報
【特許文献11】特開2001−347565号公報
【0008】
該方法は前記の方法に比べ、成型性は改善されているものの、成型性に関する市場の高度な要求に十分に答えられるレベルには達していない。特に、成型温度の低温化に適合できる成型性や得られた成型品の仕上がり性に課題が残されていた。
【0009】
本発明者らは、上記の課題解決について検討をし、すでに、特定した組成の共重合ポリエステル樹脂を原料とし、かつフィルムの100%伸張時応力を特定化することにより上記課題を改善する方法を提案している(例えば、特許文献11を参照)。
【特許文献12】特開平2004−075713号公報
【0010】
この方法により、成型時の成型圧力の高い金型成型法においては、市場要求を満たす、成型温度の低温化に適合可能な成型性や得られた成型品の仕上がり性を大幅に改善することができる。しかしながら、市場要求が近年強くなっている圧空成型法や真空成型法等の成型時の成型圧力が低い成型方法の場合、成型品の仕上がり性をさらに改善することが要望されている。
【0011】
また、成型時の成型圧力が低い成型方法である圧空成型法や真空成型法に適用できる成型用ポリエステルフィルムとして、共重合ポリエステルを含む二軸延伸ポリエステルフィルムからなり、フィルムの25℃と100℃における100%伸張時応力、100℃と180℃における貯蔵弾性率(E’)、175℃における熱変形率を特定範囲とする成型用ポリエステルフィルムを本発明者らは提案した(例えば、特許文献13を参照)。しかしながら、このフィルムを連続的に製造し、ロール状に巻取った後、フィルムを巻き出して後加工する場合に、ブロッキングや破れが発生しやすいことがわかった。そのため、フィルムに金属や金属酸化物を蒸着またはスパッタリングする場合や印刷を行うなどの後加工時に、生産性や品質の安定性をさらに高めることが要望されている。更にフィルムロールを安定して扱うためには、帯電防止性能を高くすることも、要望されている。
【特許文献13】特開2005−290354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、前記の従来の問題点を解決するものであり、低い温度および低い圧力下での成型性、透明性、耐溶剤性、耐熱性、帯電防止性に優れ、に優れ、かつロール状に巻取った長尺のフィルムを巻き出す際にブロッキングやフィルムの破れが発生せず、さらに環境負荷が小さい、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適な成型用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決することができる本発明の成型用ポリエステルフィルムは、以下の構成からなる。
【0014】
本発明における第1の発明は、共重合ポリエステルを含む二軸配向ポリエステルフィルムよりなる成型用ポリエステルフィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が、いずれも25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が1×10〜1×1013Ω/□であることを特徴とする成型用ポリエステルフィルム。
【0015】
第2の発明は、共重合ポリエステルが、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルであることを特徴とする第1または2の発明に記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0016】
第3の発明は、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことを特徴とする第2の発明に記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0017】
第4の発明は、二軸配向ポリエステルフィルムの融点が200〜245℃であることを特徴とする第1〜3の発明のいずれかに記載の成型用ポリエステルフィルムである。
【0018】
第5の発明は、基材フィルムの片面に帯電防止剤を含む帯電防止層、他面に樹脂を含む易接着層を有する成型用帯電防止ポリエステルフィルムであって、易接着層の厚みが0.01〜1μmで、基材フィルム中には実質的に粒子を含有せず、帯電防止層または易接着層の少なくとも一方に粒子を含有させることを特徴とする第1〜4の発明のいずれかに記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルムである。
【0019】
第6の発明は、帯電防止層にさらにワックスを含有させることを特徴とする第5の発明に記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、低い温度や低い圧力下での加熱成型時の成型性に優れているので幅広い成型方法に適用でき、かつ成型品として常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性、耐熱性、および帯電防止性に優れ、さらに環境負荷が小さい。また、後加工時にロール状に巻き取った長尺のフィルムを巻き出す際に、ブロッキングや破れが起こりにくいため、生産性に優れている。さらに、平滑性と透明性が高度に優れているので、後加工時に蒸着層、スパッタリング層、または印刷層を設けた際の意匠性に優れる。そのため、各種携帯機器の筐体、家電、自動車の銘板用または建材用部材として好適である。
【0021】
また、本発明において、実質的に粒子を含有しない二軸配向ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面または両面に、粒子を含有する、厚みが0.01〜1μmの塗布層を積層することにより、フィルムの透明性を高度に改善することができる。そのため、印刷層を設けた際の印刷鮮明性に優れる。さらに、本発明において、基材フィルムの片面に帯電防止剤を含む帯電防止層、他面に樹脂を含む易接着層を有する成型用帯電防止ポリエステルフィルムであって、易接着層の厚みが0.01〜1μmで、基材フィルム中には実質的に粒子を含有せず、帯電防止層または易接着層の少なくとも一方に粒子を含有させることにより、さらに好ましくは帯電防止層にさらにワックスを含有させることにより、前記の易成型性に加えて、多色刷の高速UVオフセット印刷機における給紙安定性、インキ密着性、湿し水適性などに優れ、高品位の印刷を高速で実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の成型性ポリエステルフィルムで規定した物性の技術的意義について説明する。次いで、本発明の成型性ポリエステルフィルムを製造するための方法について説明する。
【0023】
(本発明に記載の物性の技術的意味と意義)
本発明において、100%伸長時の応力(F100)とは、フィルムの成型性と密接な関連がある尺度である。F100がフィルムの成型性と密接な関連を持つ理由として、例えば、真空成形法を用いて二軸配向ポリエステルフィルムを成型する際、金型のコーナー付近では、フィルムは局部的に100%以上に伸長する場合がある。F100が高いフィルムでは、このような局所的に伸長された部分において、部分的に極めて高い応力が発生し、この応力集中によりフィルムが破断し、成形性が低下すると考えられる。一方、F100が小さすぎるフィルムでは、成形性は良好となるものの、金型の平面部のような均一に伸長される部分において、極めて弱い張力しか発生せず、その結果、該部分におけるフィルムの均一な伸長が得られないのではないかと考えられる。
【0024】
本発明では、成型時の温度に対応する成型性と関連のある物性として、100℃における100%伸長時応力(F100100)を用いている。また、凹凸や窪みのある金型を用いて成型する際に、成型前のフィルムを事前にそれらの型に軽く追随させて成型する際の成型性と関連のある物性として、25℃における100%伸長時応力(F10025)を用いている。
【0025】
本発明における成型用ポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向及び幅方向における25℃での100%伸張時応力(F10025)がいずれも30〜300MPaである。
【0026】
フィルムの長手方向及び幅方向におけるF10025は40〜300MPaであり、下限値は、好ましくは50MPa、より好ましくは60MPaである。また上限値は、好ましくは250MPa、より好ましくは200MPa、さらに好ましくは180MPaである。F10025が40MPa未満の場合、ロール状のフィルムを引っ張って巻きだすときに、フィルムが伸びたり破れたりするため作業性が不良となる。一方、F10025が300MPaを超える場合、成型性が不良になる。特に、凹凸や窪みのある金型を用いて成型する場合に、成型前のフィルムを事前にそれらの型に軽く追随させて成型することがある。そのような場合に、フィルムの型がつきにくくなり、完成品の意匠性が不良となることがある。
【0027】
また、本発明における成型用ポリエステルフィルムは、フィルムの長手方向及び幅方向における100℃での100%伸張時応力(F100100)が、いずれも1〜100MPaであることが重要である。
【0028】
フィルムの長手方向及び幅方向におけるF100100の上限は、成型性の点から、90MPaが好ましく、80MPaがより好ましく、70MPaが特に好ましい。一方、F100100の下限は、成型品を使用する際の弾性や形態安定性の点から、5MPaが好ましく、10MPaがより好ましく、20MPaが特に好ましい。
【0029】
本発明のフィルムにおいて、150℃における長手方向及び幅方向の熱収縮率は0.01〜5.0%である。150℃における熱収縮率の下限値は、0.1%が好ましく、より好ましくは0.5%である。一方、150℃における熱収縮率の上限値は、4.5%が好ましくは、より好ましくは4.1%、さらに好ましくは3.2%である。150℃における長手方向及び幅方向のフィルムの熱収縮率が0.01%未満の成型用二軸延伸ポリエステルフィルムを製造しても、実用上の効果に顕著な差が見られず、生産性が非常に低下するため、150℃での熱収縮率を0.01%未満とする必然性はない。一方、150℃における長手方向及び幅方向のフィルムの熱収縮率が5.0%を超えると、蒸着、スパッタリングまたは印刷などの熱のかかる後処理工程において、フィルムが変形しやすくなり、後加工後のフィルムの外観や意匠性が不良となる。
【0030】
また、本発明において、フィルムのヘーズは0.1〜3.0%である。ヘーズの下限値は0.3%が好ましく、より好ましくは0.5%である。一方、ヘーズの上限値は2.5%が好ましく、より好ましくは2.0%である。ヘーズが0.1%未満のフィルムはすべり性が悪いため通常の生産性で工業規模で生産することは困難である。一方、フィルムのヘーズが3.0%を超える場合、金属などの蒸着やスパッタリング面、または印刷面をフィルムの裏面から見た場合、金属や印刷面がくすんで見えるため、意匠性が乏しくなる。なお、フィルム中のハンドリング性の改良のために一般的に行われる、粒子をフィルム中に含有させてフィルム表面に凹凸を形成する方法では、ヘーズが2.0%以下のフィルムを得ることは難しい。
【0031】
本発明において、少なくとも片面のフィルムの表面粗さ(Ra)は、0.005〜0.030μmである。Raの下限値は0.006μmが好ましく、より好ましくは0.007μmである。一方、Raの上限値は0.025μmが好ましく、より好ましくは0.015μmである。少なくとも片面のフィルムのRaが小さくなるにつれ、フィルムを巻取ることが困難となり、また、一旦ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出す際に、ブロッキングやフィルムの破れが発生する頻度が増加する。また、Raが0.03μmを超えると、蒸着、スパッタリングまたは印刷などの後加工工程で突起が欠点となり、意匠性が低下する。
【0032】
本発明において、フィルムの面配向度(ΔP)も成型性と関連のある物性であり、面配向度が高いほど分子鎖が面方向に配列し、成型性が低下する。本発明では、フィルムの面配向度は0.095以下である。面配向度の上限は0.090が好ましい。また、面配向度が小さいほど成型性は良くなるが、フィルムの強度が低下し、厚み斑などの平面性が悪化しやすくなる。したがって、面配向度の下限は0.001とすることが好ましく、0.01がより好ましく、0.04が特に好ましい。
【0033】
(本発明の着想点)
本願は、従来技術に記載した特許文献12の改良発明である。
本発明のように共重合成分を5〜50モル%含む共重合ポリエステルを原料として用いて得たポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどに比較して結晶化速度が遅く、また結晶性が低い。また、面配向度と150℃の熱収縮率を小さくするために、特許文献12に記載した、通常よりも高温で熱処理するという方法を用いた場合、延伸終了後に急激に高温で熱処理をするため、熱処理ゾーンにおいて結晶性の低い材料を構成する分子の運動性が高くなる。よって、延伸工程において粒子(二軸配向フィルム中の粒子あるいはコーティング層中の粒子)が隆起することにより形成された表面突起が、熱処理ゾーンにおいて再び埋没してしまうために、十分な表面粗さを得ることができない。それゆえ、フィルムをきれいに巻き取り、かつロール状に巻き取ったフィルムを巻き出す際のブロッキングや破れを抑制するために、粒子の添加量を必要以上に増やすと、ヘーズが悪化するという問題がある。
【0034】
本発明において、熱処理ゾーンを2段(以上)にし、一段目の熱処理温度TS1と2段目の熱処理温度TS2を特定範囲に制御するという好適な方法を用いることで、上記の問題点を解決したのである。このメカニズムは以下のように考えている。
【0035】
第1段目の熱処理ゾーンにおいて、粒子がフィルム内部に埋没する前に、ある程度フィルムの結晶化を促進させておいて、さらに2段目の熱処理ゾーンにおいて十分に温度を上げても、分子の運動性は十分に低下しており、表面の突起を形成したまま、さらに結晶性を促進させ、熱収縮率の低いフィルムが得られる。また、透明性の点から、必要以上に粒子を含有させる必要がなくなる。
【0036】
(フィルムの好適な製造方法)
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、原料として共重合ポリエステルを用いる。共重合ポリエステルとしては、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルが好適である。また、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことが成型性をさらに向上させる点から好ましい。
【0037】
本発明において、フィルム原料としては、共重合ポリエステル単独、1種類以上のホモポリエステルまたは共重合ポリエステルのブレンド、またはホモポリエステルと共重合ポリエステルの組合せのいずれの方法も可能である。これらの中でも、ブレンド法が融点の低下を抑制する点から好適である。
【0038】
前記の共重合ポリエステルとして、芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルを用いる場合、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体が好適であり、全ジカルボン酸成分に対するテレフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸成分の量は70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。
【0039】
また、分岐状脂肪族グリコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどが例示される。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどが例示される。
【0040】
これらのなかでも、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。さらに、本発明においては、上記のグリコール成分に加えて1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオールを共重合成分とすることが、より好ましい実施態様である。これらのグリコールを共重合成分として使用することは、前記の特性を付与するために好適であり、さらに、透明性や耐熱性にも優れ、密着性改質層との密着性を向上させる点からも好ましい。
【0041】
また、前記の共重合ポリエステルとして、テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルを用いる場合、エチレングリコールの量は全グリコール成分に対し70モル%以上、好ましくは85モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、とりわけ好ましくは100モル%である。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、前記の分岐状脂肪族グリコールや脂環族グリコール、またはジエチレングリコールが好適である。
【0042】
前記共重合ポリエステルを製造する際に用いる触媒としては、例えば、アルカリ土類金属化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、チタン/ケイ素複合酸化物、ゲルマニウム化合物などが使用できる。これらのなかでも、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物が触媒活性の点から好ましい。
【0043】
前記共重合ポリエステルを製造する際に、熱安定剤としてリン化合物を添加することが好ましい。前記リン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸などが好ましい。
【0044】
前記共重合ポリエステルは、成型性、密着性、製膜安定性の点から、固有粘度が0.50dl/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.55dl/g以上、特に好ましくは0.60dl/g以上である。固有粘度が0.50dl/g未満では、成型性が低下する傾向がある。また、メルトラインに異物除去のためのフィルターを設けた場合、溶融樹脂の押出時における吐出安定性の点から、固有粘度の上限を1.0dl/gとすることが好ましい。
【0045】
本発明では、フィルム原料として、1種類以上のホモポリエステルまたは共重合ポリエステルを用い、これらをブレンドしてフィルムを製膜することによって、共重合ポリエステルのみを用いた場合と同等の柔軟性を維持しながら透明性と高い融点(耐熱性)を実現することができる。また、高融点のホモポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)のみを用いた場合に対し、高い透明性を維持しながら柔軟性と実用上問題のない融点(耐熱性)を実現することができる。
【0046】
また、前記共重合ポリエステルと、ポリエチレンテレフタレート以外のホモポリエステル(例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート)を少なくとも1種以上ブレンドして、本発明の成型用ポリエステルフィルムの原料として使用することは、成型性の点からもさらに好ましい。
【0047】
前記のポリエステルフィルムの融点は、耐熱性及び成型性の点から、200〜245℃であることが好ましい。使用するポリマーの種類や組成、さらに製膜条件を前記融点の範囲内に制御することにより、成型性と仕上がり性とのバランスが取れ、高品位の成型品を経済的に生産することができる。ここで、融点とは、いわゆる示差走査熱量測定(DSC)の1次昇温時に検出される融解時の吸熱ピーク温度のことである。該融点は、示差走査熱量分析装置(マックサイエンス社製、DSC3100S)を用いて、昇温速度20℃/分で測定して求めた。融点の下限値は、210℃がさらに好ましく、特に好ましくは230℃である。融点が200℃未満であると、耐熱性が悪化する傾向がある。そのため、成型時や成型品の使用時に高温にさらされた際に、問題となる場合がある。
【0048】
前記融点の上限値は、耐熱性の点からは高いほうが良いが、ポリエチレンテレフタレート単位を主体とした場合、融点が250℃を超えるフィルムでは、成型性が悪化する傾向がある。また、透明性も悪化する傾向がある。さらに、高度な成型性や透明性を得るためには、融点の上限を245℃に制御することが好ましい。
【0049】
また、フィルムの滑り性や巻き取り性などのハンドリング性を改善するために、フィルム表面に凹凸を形成させることが好ましい。フィルム表面に凹凸を形成させる方法としては、一般にフィルム中に粒子を含有させる方法が用いられる。
【0050】
前記粒子としては、平均粒子径が0.01〜10μmの内部析出粒子、無機粒子及び/又は有機粒子などの外部粒子が挙げられる。平均粒子径が10μmを越える粒子を使用すると、フィルムの欠陥が生じ易くなり、意匠性や透明性が悪化する傾向がある。一方、平均粒子径が0.01μm未満の粒子では、フィルムの滑り性や巻き取り性などのハンドリング性が低下する傾向がある。前記粒子の平均粒子径は、滑り性や巻き取り性などのハンドリング性の点から、下限は0.10μmとすることがさらに好ましく、特に好ましくは0.50μmである。一方、前記粒子の平均粒子径は、透明性や粗大突起によるフィルム欠点の低減の点から、上限は5μmとすることがさらに好ましく、特に好ましくは2μmである。
【0051】
なお、粒子の平均粒子径は、少なくとも200個以上の粒子を電子顕微鏡法により複数枚写真撮影し、OHPフィルムに粒子の輪郭をトレースし、該トレース像を画像解析装置にて円相当径に換算して算出する。
【0052】
前記外部粒子としては、例えば、湿式及び乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー、ヒドロキシアパタイト等の無機粒子及びスチレン、シリコーン、アクリル酸類等を構成成分とする有機粒子等を使用することができる。なかでも、乾式、湿式及び乾式コロイド状シリカ、アルミナ等の無機粒子及びスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼン等を構成成分とする有機粒子等が、好ましく使用される。これらの内部粒子、無機粒子及び/又は有機粒子は二種以上を、本願発明で規定した特性を損ねない範囲内で併用してもよい。
【0053】
さらに、前記粒子のフィルム中での含有量は0.001〜10質量%の範囲であることが好ましい。0.001質量%未満の場合、フィルムの滑り性が悪化したり、巻き取りが困難となったりするなどハンドリング性が低下しやすくなる。一方、10質量%を越えると、粗大突起の形成、製膜性や透明性の悪化などの原因となりやすい。
【0054】
また、フィルム中に含有させる粒子は、一般的には屈折率がポリエステルと異なるため、フィルムの透明性を低下させる要因となる。
成型品は意匠性を高めるために、フィルムを成型する前にフィルム表面に印刷が施される場合が多い。このような印刷層は、成型用フィルムの裏側に施されることが多いため、印刷鮮明性の点から、フィルムの透明性が高いことが要望されている。
【0055】
そのため、フィルムのハンドリング性を維持しながら、高度な透明性を得るために、主層の基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず、厚みが0.01〜5μmの表面層にのみ粒子を含有させた積層構造を有する積層フィルムを用いることが有効である。表面層の厚みの上限は3μmが好ましく、特に好ましくは1μmである。この場合、粒子は上記で例示したものを用いることができる。
【0056】
本発明において、フィルムのヘーズを0.1〜3.0%とするためには、上記の基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず、厚みが0.01〜5μmの表面層を形成して表面層にのみ粒子を含有させた積層構造とすることが好ましい。なお、ハンドリング性を維持しながら、フィルム中に粒子を含有させることのみで、ヘーズが3.0%以下となるフィルムを得ることは難しい。
【0057】
なお、上記でいう「基材フィルム中に実質的に粒子を含有させず」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に検出限界以下となる含有量を意味する。これは意識的に粒子を基材フィルムに添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分などが混入する場合があるためである。
ヘーズが低いフィルムを得るには、基材フィルム中に実質的に粒子を含有させないことが好ましいが、30ppm以下であれば基材フィルム中に粒子を添加しても構わない。
【0058】
厚みの薄い表面層の形成は、コーティング法または共押出し法によって行うことができる。なかでも、コーティング法の場合、粒子を含有する密着性改質樹脂からなる組成物を塗布層として用いることで、印刷層との密着性も改良することができるので好ましい方法である。前記の密着性改質樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル系重合体および/またはそれらの共重合体から選ばれた少なくとも1種からなる樹脂が好ましい。
【0059】
塗布層(帯電防止層または易接着層)に含有させる粒子としては、前記で記載した粒子と同様のものを使用することができる。粒子のなかでも、シリカ粒子、ガラスフィラー、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子は屈折率がポリエステルに比較的近いため、透明性の点から特に好適である。
【0060】
さらに、帯電防止層または易接着層における粒子含有量は、0.01〜25質量%の範囲であることが好ましい。0.01質量%未満の場合、フィルムの滑り性が悪化したり、巻き取りが困難となったりするなどハンドリング性が低下しやすくなる。一方、25質量%を越えると、透明性や塗布性が悪化しやすくなる。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムは、他の機能を付与するために、種類の異なるポリエステルを用い、公知の方法で積層構造とすることができる。かかる積層フィルムの形態は、特に限定されないが、例えば、A/Bの2種2層構成、B/A/B構成の2種3層構成、C/A/Bの3種3層構成の積層形態が挙げられる
【0062】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、二軸延伸フィルムであることが重要である。本発明においては、二軸延伸による分子配向により、前記のフィルムの微小張力(初期荷重49mN)下での熱変形率を本発明の範囲内に制御することができ、未延伸シートの欠点である耐溶剤性や寸法安定性が改善される。すなわち、未延伸シートの成型性の良さを維持しつつ、未延伸シートの欠点である耐溶剤性や耐熱性を改善したことが本発明の特徴の一つである。
【0063】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法は特に限定されないが、例えばポリエステル樹脂を必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加などの方式によりキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸シート(原反)を得た後、かかる未延伸シートを二軸延伸する方法が例示される。
【0064】
二軸延伸方法としては、未延伸シートをフィルムの長手方向(MD)及び幅方向(TD)に延伸、熱処理し、目的とする面内配向度を有する二軸延伸フィルムを得る方法が採用される。これらの方式の中でも、フィルム品質の点で、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸するMD/TD法、又は幅方向に延伸した後、長手方向に延伸するTD/MD法などの逐次二軸延伸方式、長手方向及び幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。また、同時二軸延伸法の場合、リニアモーターで駆動するテンターを用いてもよい。さらに、必要に応じて、同一方向の延伸を多段階に分けて行う多段延伸法を用いても構わない。
【0065】
二軸延伸する際のフィルム延伸倍率としては、長手方向と幅方向に1.6〜4.2倍とすることが好ましく、特に好ましくは1.7〜4.0倍である。この場合、長手方向と幅方向の延伸倍率はどちらを大きくしてもよいし、同一倍率としてもよい。長手方向の延伸倍率は2.8〜4.0倍、幅方向の延伸倍率は3.0〜4.5倍で行うことがより好ましい。
【0066】
本発明の成型用ポリエステルフィルムを製造する際の延伸条件としては、例えば、下記の条件を採用することが好ましい。
【0067】
縦延伸においては、後の横延伸がスムースにできるように、延伸温度は50〜110℃、延伸倍率は1.6〜4.0倍とすることがさらに好ましい。
【0068】
通常、ポリエチレンテレフタレートを延伸する際に、適切な条件に比べ延伸温度が低い場合は、横延伸の開始初期で急激に降伏応力が高くなるため、延伸ができない。また、たとえ延伸ができても厚みや延伸倍率が不均一になりやすいため好ましくない。
【0069】
また、適切な条件に比べ延伸温度が高い場合は初期の応力は低くなるが、延伸倍率が高くなっても応力は高くならない。そのため、25℃における100%伸張時応力が小さいフィルムとなる。よって、最適な延伸温度をとることにより、延伸性を確保しながら配向の高いフィルムを得ることができる。
【0070】
しかしながら、前記共重合ポリエステルが共重合成分を1〜40モル%含む場合、降伏応力をなくすように延伸温度を高くしていくと、延伸応力は急激に低下する。特に、延伸の後半でも応力が高くならないため、配向が高くならず、25℃における100%伸張時応力が低下する。
【0071】
このような現象は、フィルムの厚さが60〜500μmで発生しやすく、特に厚みが100〜300μmのフィルムで顕著に見られる。そのため、本発明の共重合したポリエステルを用いたフィルムの場合、横方向の延伸温度は、以下の条件とすることが好ましい。
【0072】
まず、予熱温度はフィルム材料を押出機で押出した後の混合物(原反)をDSCにおいて測定した場合のガラス転移温度の+10℃〜+50℃の範囲で行う。次いで、横延伸の前半部では延伸温度は予熱温度に対して−20℃〜+15℃とすることが好ましい。た、横延伸の後半部では、延伸温度は前半部の延伸温度に対して0℃〜−30℃とすることが好ましく、特に好ましくは−10℃〜−20℃とする。このような条件を採用することにより、横延伸の前半では降伏応力が小さいため延伸しやすく、また後半では配向しやすくなる。なお、横方向の延伸倍率は、2.5〜5.0倍とすることが好ましい。その結果、本発明で規定したF10025やF100100を満足するフィルムを得ることが可能である。
【0073】
さらに、二軸延伸後にフィルムの熱処理(熱固定処理)を行う。この熱処理条件は、ヘーズと表面粗さ、つまりフィルムのすべり性を両立させるために重要な条件である。延伸終了後のフィルムを引き続きテンター内で熱処理するが、この場合、熱処理は2段階以上に分けて行うことが重要である。一段目の熱処理温度(TS1)は、二段目の熱処理温度(TS2)の−5℃〜−30℃の範囲、下限値は好ましくはTS2−10℃、上限値は好ましくはTS2−25℃である。二段目の熱処理温度(TS2)は、フィルム材料を押出機で押出した後の混合物(原反)を後述のDSCにおいて測定した場合の融点の−5℃〜−35℃の範囲で行う。TS2の下限値は好ましくは融点−10℃、TS2の上限値は好ましくは融点−30℃である。なお、TS1とTS2の間に中間の熱処理ゾーンを設けることも、またTS2の後に熱処理ゾーンを設けることも可能である。これらの場合、TS2は最高の熱処理温度を示す。このような条件を取ることにより、ヘーズが低く、すべり性が良好なフィルムが得られる。
熱処理は緊張熱処理、弛緩熱処理のいずれでも構わない。熱収縮率を低くするためには、3〜10%の弛緩熱処理が好ましい。
【0074】
その理由は、以下のようなものと考える。本発明のような共重合成分が5〜50モル%程度含まれるポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどに比較して結晶化速度が遅く、また結晶性が低い。そのため、延伸終了後に急激に高温で熱処理をすると、熱処理ゾーンにおいて結晶性の低い材料を構成する分子の運動性が高くなる。よって、延伸工程において粒子(フィルム中の粒子および/またはコーティング層の粒子)が隆起することにより形成された表面突起が、熱処理ゾーンにおいて再び埋没してしまうために、十分な表面粗さを得ることができない。それゆえ、フィルムをきれいに巻き取るためには、粒子の含有量をポリエチレンテレフタレートフィルムの必要量以上に増加させることになり、ヘーズが低下する原因になる。一方、TS2の温度を所定の温度より低くすると、150℃における熱収縮率が十分低いフィルムが得られなくなる。
【0075】
よって、熱処理ゾーンを2段(以上)にする本願発明の方法をとることは、TS1において粒子がフィルム内部に埋没する前に、ある程度フィルムの結晶化を促進させておいて、さらにTS2ゾーンにおいて十分に温度を上げても、前項の状態に比べれば十分分子の運動性は低下しており表面の突起を形成したまま、さらに結晶性を促進させ、熱収縮率の低いフィルムが得られる。また、必要以上の粒子の添加を防ぐことができる。
【0076】
一般に、面配向度を下げる手段としては延伸倍率を下げる方法と共重合成分の配合量を増加させる方法が知られているが、前者の方法はフィルムの厚み斑が悪化し、後者の方法ではフィルムの融点が低下し、耐熱性が悪化するため好ましくない。本発明において、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度と150℃の熱収縮率を小さくするために、通常よりも高温で熱固定を行う。熱固定は、前述の熱処理、特に二段目の熱処理において行うことが好ましい。
【0077】
また、本発明においては二軸配向ポリエステルフィルムとして共重合ポリエステルを用いる必要があり、融点が均一重合体に比して低いため、熱固定温度を高くすると、横延伸工程でフィルムを保持するクリップにフィルムが融着して剥離しにくくなる。したがって、テンター出口でクリップがフィルムを開放するときにクリップ近傍を充分に冷却することが重要である。具体的には、フィルムとクリップとを剥離しやすくするために、(1)クリップが加熱されにくいように、クリップ部分に熱遮蔽壁を設ける方法、(2)クリップ冷却機構をテンターに付加する方法、(3)冷却能力の強化を行うために熱固定後の冷却区間を長く設定し、フィルム全体の冷却を十分行う方法、(4)冷却区間の長さ、区画数を増やすことで、冷却効率を増加させる方法、(5)クリップの戻り部分が炉の外側を走行するタイプを用いてクリップの冷却を強化する方法、などを採用することが好ましい。
【0078】
また、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、製膜工程及び加工工程における静電気による障害を防止するために、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値(23℃、50%RH下で測定)を1×10〜1×1013Ω/□に制御することが重要である。該表面固有抵抗値を前記範囲とすることで、フィルムロールを巻き出し、印刷層を設ける際に、静電気による異物の付着が防止できるため、印刷抜けなどの欠点を無くすことができる。
【0079】
表面固有抵抗値を1×1013Ω/□以下とするためには、前記基材フィルムおよび/または表面層に帯電防止性を発現する帯電防止剤を配合するのが好ましい。特に、後述する表面層に帯電防止剤を配合する方法が好適である。表面固有抵抗値を1×10Ω/□未満にしても、実用上効果に差異が見られない。
【0080】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、前記の基材の片面に接着性改質樹脂を含む易印刷性被覆層が、他面に粒子および/またはワックスを含む易滑性被覆層が積層されてなる好ましい。このことにより、多色刷の高速UVオフセット印刷機における給紙安定性、インキ密着性、湿し水適性などに優れ、高品位の印刷が可能となり、例えば、印刷面の高級感や印刷の経済性が要求される分野の市場要求に答えられる。
【0081】
本発明においては、前記の易印刷性被覆層は、前記の基材の成型用ポリエステルフィルムの印刷性を向上させる機能を有すればその組成等は限定されなく任意であるが、易印刷性被覆層が、(a)疎水性共重合ポリエステル樹脂に少なくとも1種の二重結合を有する酸無水物をグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体、(b)平均粒子径が1.0〜5.0μmの粒子、を含む組成物からなることが好ましい実施態様である。
【0082】
本発明においては、前記の易滑性被覆層は、前記の基材の成型用ポリエステルフィルムの滑り性を向上させる機能を有すればその組成等は限定されなく任意であるが、(c)共重合ポリエステル樹脂、(d)スルホン酸塩基を有する化合物、(e)平均粒子径が1.0〜5.0μmの粒子、(f)高分子系ワックス、を含む組成物からなることが好ましい実施態様である。
【0083】
前記の疎水性共重合ポリエステル樹脂に少なくとも1種の二重結合を有する酸無水物をグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体について詳しく説明する。
【0084】
前記のポリエステル系グラフト共重合体の「グラフト化」とは、幹ポリマー主鎖に、主鎖とは異なる重合体からなる枝ポリマーを導入することにある。グラフト重合は、一般には、疎水性共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解させた状態において、ラジカル開始剤を使用して少なくとも一種のラジカル重合性単量体を反応せしめることにより実施される。
【0085】
グラフト化反応終了後の反応生成物は、所望の疎水性共重合ポリエステル樹脂とラジカル重合性単量体とのグラフト共重合体の他に、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル樹脂および疎水性共重合ポリエステル樹脂にグラフト化しなかったラジカル重合性単量体をも含有している。本発明におけるポリエステル系グラフト共重合体とは、前記のポリエステル系グラフト共重合体だけでなく、これに加えて、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル樹脂、グラフト化しなかったラジカル重合性単量体なども含む反応混合物をも包含する。
【0086】
前記の、疎水性共重合ポリエステル樹脂にラジカル重合性単量体をグラフト重合させた反応物の酸価は、600eq/10g以上であることが好ましい。より好ましくは、反応物の酸価は1200eq/10g以上である。反応物の酸価が600eq/10g未満である場合は、プライマー層(本発明でいう被覆層A)に塗布される印刷層との密着性が十分とはいえない。
【0087】
また、疎水性共重合ポリエステル樹脂とラジカル重合性単量体の質量比率は、ポリエステル/ラジカル重合性単量体=40/60〜95/5の範囲が望ましく、より望ましくは55/45〜93/7、最も望ましくは60/40〜90/10の範囲である。
【0088】
疎水性共重合ポリエステル樹脂の質量比率が40質量%未満である場合、ポリエステル樹脂の優れた密着性を発揮しにくくなる。一方、疎水性共重合ポリエステル樹脂の質量比率が95質量%より大きい場合、ポリエステル樹脂の欠点であるブロッキングが起こりやすくなる。
【0089】
前記のグラフト重合反応物は、有機溶媒の溶液もしくは分散液、または水系溶媒の溶液もしくは分散液の形態になる。特に、水系溶媒の分散液、すなわち、水分散樹脂の形態が、作業環境、塗布性の点で好ましい。この様な水分散樹脂を得るには、通常、有機溶媒中で、前記疎水性共重合ポリエステル樹脂に、親水性ラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体をグラフト重合し、次いで、水添加、有機溶媒を留去することにより達成される。
【0090】
前記の水分散樹脂は、レーザー光散乱法により測定される平均粒子径は500nm以下であり、半透明ないし乳白色の外観を呈する。重合方法の調整により、多様な粒子径の水分散樹脂が得られるが、この粒子径は10〜500nmが適当であり、分散安定性の点で、400nm以下が好ましく、より好ましくは300nm以下である。平均粒子径が500nmを越えると被覆膜表面の光沢の低下がみられ、被覆物の透明性が低下し、10nm未満では、本発明の目的である耐水性が低下するので、好ましくない。
【0091】
前記の水分散樹脂の重合に使用する親水性ラジカル重合性単量体とは、親水基を有するか、後で親水基に変化できる基を有するラジカル重合性単量体を意味する。親水基を有するラジカル重合性単量体としては、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、アミド基、第4級アンモニウム塩基などを含むラジカル重合性単量体を挙げることができる。
【0092】
一方、親水基に変化できる基を有するラジカル重合性単量体としては、酸無水物基、グリシジル基、クロル基などを含むラジカル重合性単量体を挙げることができる。これらの中で、水分散性の点から、カルボキシル基が好ましく、カルボキシル基を有するか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。
【0093】
前記の水分散性樹脂の酸価を高める点から、カルボキシル基を含有しているか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性単量体が含まれているほうが好ましい。
【0094】
グラフト共重合体のガラス転移温度は、特に限定されないが、高温高湿環境下での密着性の点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上である。
【0095】
前記の疎水性共重合ポリエステル樹脂とは、本来それ自身で水に分散または溶解しない本質的に水不溶性である必要がある。水に分散するまたは溶解するポリエステル樹脂を、グラフト重合に使用すると、本発明の目的である密着性、耐水性が悪くなる。
【0096】
この疎水性共重合ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分の組成は、芳香族ジカルボン酸60〜99.5モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸0〜40モル%、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸0.5〜10モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸が60モル%未満である場合や脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸が40モル%を越えた場合は、接着強度が低下する。
【0097】
また、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸が0.5モル%未満の場合、ポリエステル樹脂に対するラジカル重合性単量体の効率的なグラフト化が行われにくくなり、逆に10モル%を越える場合は、グラフト化反応の後期に余りにも粘度が上昇し、反応の均一な進行を妨げるので好ましくない。より好ましくは、芳香族ジカルボン酸は70〜98モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸0〜30モル%、重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸2〜7モル%である。
【0098】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸を挙げることができる。5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの親水基含有ジカルボン酸は、本発明の目的である耐水性が低下する点から、使用しない方が好ましい。
【0099】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸を挙げることができ、脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸およびその酸無水物を挙げることができる。
【0100】
重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸の例としては、α,β−不飽和ジカルボン酸として、例えば、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、不飽和二重結合を含有する脂環族ジカルボン酸として、例えば、2,5−ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸を挙げることができる。このうち好ましいのは、重合性の点から、フマル酸、マレイン酸および2,5−ノルボルネンジカルボン酸である。
【0101】
一方、グリコール成分は、炭素数2〜10の脂肪族グリコールおよび/または炭素数6〜12の脂環族グリコールおよび/またはエーテル結合含有グリコールよりなるが、炭素数2〜10の脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールを挙げることができ、炭素数6〜12の脂環族グリコールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。
【0102】
エーテル結合含有グリコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらにビスフェノール類の二つのフェノール性水酸基に、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを付加して得られるグリコール類、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンを挙げることができる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要に応じて用いることができる。
【0103】
前記の共重合ポリエステル樹脂中に、0〜5モル%の3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを共重合することができるが、3官能以上のポリカルボン酸としては、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)が用いられる。一方、3官能以上のポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが用いられる。3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールは、全酸成分または全グリコール成分に対して0〜5モル%、望ましくは0〜3モル%の範囲で共重合されるが、5モル%を越えると重合時のゲル化が起こりやすく、好ましくない。
【0104】
また、疎水性共重合ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が5,000〜50,000の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は接着強度の低下があり、逆に50,000を越えると重合時のゲル化などの問題が起きてしまう。
【0105】
前記の重合性不飽和単量体としては、例えば、(1)フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチルなどのフマル酸のモノエステルまたはジエステル、(2)マレイン酸とその無水物、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸のモノエステルまたはジエステル、(3)イタコン酸とその無水物、イタコン酸のモノエステルまたはジエステル、(4)フェニルマレイミドなどのマレイミド、(5)スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロメチルスチレンなどのスチレン誘導体、また、その他に、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0106】
また、アクリル重合性単量体としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(ここで、アルキル基は、メチル基、エチル基、N−プロピル基、イソプロピル基、N−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基など);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ含有アクリル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドなどのアミド基含有アクリル単量体;N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有アクリル単量体;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有アクリル単量体;アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)などのカルボキシル基またはその塩を含有するアクリル単量体が挙げられる。好ましくは、マレイン酸無水物とそのエステルである。上記モノマーは1種もしくは2種以上を用いて共重合させることができる。
【0107】
前記のグラフト重合は、一般には、疎水性共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解させた状態において、ラジカル開始剤およびラジカル重合性単量体混合物を反応せしめることにより実施される。グラフト化反応終了後の反応生成物は、疎水性共重合ポリエステル樹脂−ラジカル重合性単量体混合物間のグラフト共重合体の他に、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル樹脂および疎水性共重合ポリエステル樹脂にグラフト化しなかったラジカル重合体をも含有しているが、本発明におけるグラフト重合体とは、これらすべてが含まれる。
【0108】
前記のグラフト重合開始剤としては、例えば、当業者に公知の有機過酸化物類や有機アゾ化合物類が挙げられる。
【0109】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、有機アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトリル)が挙げられる。
【0110】
グラフト重合を行うための重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性単量体に対して、少なくとも0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。
【0111】
重合開始剤の他に、枝ポリマーの鎖長を調節するための連鎖移動剤、例えば、オクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールを必要に応じて用い得る。この場合、重合性モノマーに対して0〜5質量%の範囲で添加することが望ましい。
【0112】
前記のグラフト化反応溶媒は、沸点が50〜250℃の水性有機溶媒から構成されることが好ましい。水性有機溶媒とは、20℃における水に対する溶解性が少なくとも10g/L以上、望ましくは20g/L以上であるものをいう。沸点が250℃を越えるものは、蒸発速度が極めて遅く、塗膜の高温焼付によっても十分に取り除くことが困難なので不適当である。
【0113】
また、水性有機溶媒の沸点が50℃未満では、それを溶媒としてグラフト化反応を実施する場合、50℃未満の温度でラジカルに解裂する開始剤を用いる必要があるので、取扱上の危険が増大し好ましくない。
【0114】
共重合ポリエステル樹脂をよく溶解し、かつカルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体混合物およびその重合体を比較的良く溶解することができる、第一群の水性有機溶媒としては、例えば、酢酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのカルビトール類;エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテートなどの、グリコール類またはグリコールエーテルの低級エステル類;ダイアセトンアルコールなどのケトンアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの置換アミド類が挙げられる。
【0115】
これに対し、共重合ポリエステル樹脂をほとんど溶解しないが、カルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体混合物およびその重合体を比較的よく溶解することができる第二群の水性有機溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類、低級カルボン酸類、低級アミン類が挙げられるが、特に好ましくは、炭素数1〜4のアルコール類およびグリコール類である。
【0116】
グラフト化反応を単一溶媒で行なう場合は、第一群の水性有機溶媒からただ一種を選んで行なうことができる。混合溶媒で行なう場合は第一群の水性有機溶媒からのみ複数種選ぶ場合と、第一群の水性有機溶媒から少なくとも一種を選びそれに第二群の水性有機溶媒から少なくとも一種を加える場合がある。
【0117】
グラフト重合反応溶媒を第一群の水性有機溶媒からの単一溶媒とした場合と、第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒とした場合のいずれにおいてもグラフト重合反応を行なうことができる。
【0118】
しかし、グラフト化反応の進行挙動、グラフト化反応生成物およびそれから導かれる水分散体の外観、性状などに差異がみられ、第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒を使用する方が好ましい。
【0119】
第一群の溶媒中では、共重合ポリエステル分子鎖は広がりの大きい鎖が伸びた状態にあり、一方、第一群/第二群の混合溶媒中では広がりの小さい糸まり状に絡まった状態にあることが、これら溶液中の共重合ポリエステルの粘度測定により確認できる。
【0120】
共重合ポリエステルの溶解状態を調節し、かつ分子間架橋を起こりにくくすることがゲル化防止に有効である。効率の高いグラフト化とゲル化抑制の両立は後者の混合溶媒系において達成される。第1群/第2群の混合溶媒の質量比率は、より望ましくは95/5〜10/90、さらに望ましくは90/10〜20/80、最も望ましくは85/15〜30/70の範囲である。最適の混合比率は、使用するポリエステルの溶解性などに応じて決定される。
【0121】
前記のグラフト化反応生成物は、塩基性化合物で中和することが好ましく、中和することによって容易に水分散化することができる。
【0122】
塩基性化合物としては、塗膜形成時、または硬化剤配合による焼付硬化時に揮散する化合物が望ましく、アンモニア、有機アミン類などが好適である。望ましい化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンを挙げることができる。
【0123】
塩基性化合物は、グラフト化反応生成物中に含まれるカルボキシル基含有量に応じて、少なくとも部分中和または完全中和によって水分散体のpH値が5.0〜9.0の範囲であるように使用するのが望ましい。沸点が100℃以下の塩基性化合物を使用した場合であれば、乾燥後の塗膜中の残留塩基性化合物も少なく、金属や無機蒸着膜の密着性や他材料と積層した時の耐水性や耐熱水密着性が優れる。
【0124】
また、100℃以上の塩基性化合物使用した場合や乾燥条件を制御し、乾燥後の塗膜中に塩基化合物を500ppm以上残留させることにより、印刷インクの転移性が向上する。
【0125】
前記の水系分散体では、ラジカル重合性単量体の重合物の重量平均分子量は500〜50,000であるのが好ましい。
【0126】
ラジカル重合性単量体の重合物の重量平均分子量を500未満にコントロールすることは一般に困難であり、グラフト効率が低下し、共重合ポリエステルへの親水性基の付与が十分に行なわれない傾向がある。また、ラジカル重合性単量体のグラフト重合物は分散粒子の水和層を形成するが、十分な厚みの水和層をもたせ、安定な分散体を得るためにはラジカル重合性単量体のグラフト重合物の重量平均分子量は500以上であることが望ましい。
【0127】
ラジカル重合性単量体のグラフト重合物の重量平均分子量は、溶液重合における重合性の点より、その上限値が50,000であることが好ましい。ラジカル重合性単量体のグラフト重合物の重量平均分子量を500〜50,000の範囲内とするためには、開始剤量、モノマー滴下時間、重合時間、反応溶媒、モノマー組成、または必要に応じて連鎖移動剤や重合禁止剤を適宜組み合わせることにより行なうことが好ましい。
【0128】
前記の、疎水性共重合ポリエステル樹脂にラジカル重合性単量体をグラフト重合させた反応物は、自己架橋性を有するので、高度な耐溶剤性を発揮する。常温では架橋しないが、乾燥時の熱で、熱ラジカルによる水素引き抜き反応などの分子間反応を行い、架橋剤なしで架橋する。これにより初めて、本発明の目的である密着性、耐水性を発現できる。塗膜の架橋性については、様々の方法で評価できるが、例えば、疎水性共重合ポリエステル樹脂およびラジカル重合体の両方を溶解するクロロホルム溶媒での不溶分率を測定する方法が挙げられる。
【0129】
80℃以下で乾燥し、120℃で5分間熱処理して得られる塗膜の不溶分率が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。塗膜の不溶分率が50質量%未満の場合は、密着性、耐水性が十分でないばかりでなく、ブロッキングも起こしてしまう。
【0130】
本発明において、易滑性被覆層を形成する共重合ポリエステル樹脂は、少なくとも1種のジカルボン酸成分と少なくとも1種のジオール成分およびそれらのエステル形成成分を構成単位とする共重合ポリエステル重縮合物であり、上記被覆層A(以後、被印刷層と記載する場合もある)と同種のポリエステル樹脂でもよいし、一般的に使用されている共重合ポリエステル樹脂でもかまわない。
【0131】
共重合ポリエステル樹脂の構成成分であるジカルボン酸成分としては、例えば、(1)テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、(2)コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、(3)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(4)マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸などの不飽和ジカルボン酸を挙げることができる。なかでも、テレフタル酸およびイソフタル酸が好ましく、その他少量であれば他のジカルボン酸を加えてもよい。
【0132】
共重合ポリエステル樹脂のもう一方の構成成分であるジオール成分としては、例えば、(1)エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、(2)1,4−シクロヘキサンジメタールなどの脂環族ジオール、(3)4,4’−ビス(ヒドロキシエチル)ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、さらにビス(ポリオキシエチレングリコール)ビスフェノールエーテルを挙げることができる。なかでも、エチレングリコールおよびジエチレングリコールが最も好ましく、その他少量のジオール成分を用いてもよい。
【0133】
上記ジカルボン酸成分の他に、共重合ポリエステル樹脂に水分散性を付与させるために、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1〜10モル%の範囲で使用することが好ましく、その他、スルホテレフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,6ジカルボン酸、5−(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸などを用いることができる。
【0134】
これらの易印刷性被覆層および易滑性被覆層の樹脂成分は、被覆層中に30〜95質量%の範囲で含有していることが好ましい。30質量%未満の場合には膜強度が不足し、摩擦などの外力が加わった際に膜の脱落が生じ易くなる。さらに、粒子の脱落が生じ易くなる。また、95質量%を越える場合は膜としての強度は向上するが、帯電防止性、滑り性などの目的とする性能が発現しにくくなる。好ましくは50〜90質量%である。
【0135】
前記のスルホン酸塩基を有する化合物は、帯電防止性を付与する目的で使用する化合物であり、例えば、スルホン酸塩基を有する不飽和単量体(例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸アンモニウム、メタクリルスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸リチウムなど)の1種以上の重合体からなる高分子型帯電防止剤や、R−SO3X(ここで、Rはアルキル基、アリール基、またはアルキル基を有する芳香族基を、Xは金属イオン(例えば、Li、Na、Kなど)、アンモニウムイオン、アミンイオン、リン酸エステルイオンを示す)の低分子型帯電防止剤やその2量体などが挙げられるが、耐熱性に優れたスルホン酸塩基を有し、帯電防止性を有していれば、前記化合物に限定されるものではない。
【0136】
アルキルスルホン酸塩としては、例えば、ペンタンスルホン酸ナトリウム、オクタンスルホン酸ナトリウム、オクタンスルホン酸リチウム、オクタンスルホン酸カリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0137】
また、アリールスルホン酸塩としては、例えば、ベンジルスルホン酸ナトリウム、トルイルスルホン酸ナトリウム、ナフチルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。さらに、アルキル基を有する芳香族スルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキル(炭素数:8〜20)ベンゼンスルホン酸金属塩(例えば、Li、K、Na塩)、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルフェニールエーテルジスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0138】
また、スルホン酸塩基を有する不飽和単量体の重合体からなる高分子型帯電防止剤は、例えば、ポリスチレンスルホン酸塩のような分子内にスルホン酸塩基成分を含有するスチレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0139】
この高分子型帯電防止剤の特徴は、そのスルホン酸成分の親水性の高さにある。分子内にスルホン酸塩基成分を含有するスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などのホモポリマー、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルなどのアクリル系単量体とスチレンスルホン酸単量体との共重合物が挙げられる。
【0140】
前記のポリスチレンスルホン酸塩の重量平均分子量は、1千〜15万、好ましくは1万〜7万が好ましい。分子量が1千未満になると塗膜の耐水性が得られにくくなり、15万を越えると、共重合ポリエステルとの均一混合が困難になりやすい。
【0141】
前記のスルホン酸塩基を有する化合物が低分子の場合は、各層における混合比率は0.5〜15質量%が好ましく、特に好ましくは2〜10質量%である。また、スルホン酸塩基を有する化合物が高分子の場合は、5〜50質量%が好ましく、特に好ましくは10〜30質量%である。前記低分子化合物および高分子化合物を混合して使用してもかまわない。前記スルホン酸塩基を有する化合物を含有する被覆層の表面固有抵抗値は、23℃、50%RHの条件で1×1013Ω/□以下でない場合には、枚葉フィルムとした際に自重のみの低荷重下で滑り性が不十分となり、高速印刷機において重送するなどの搬送性が悪化しやすくなる。
【0142】
また、スルホン酸塩基を有する化合物の含有量が多すぎると、裏移りや粒子脱落による印刷面への汚染が生じやすくなる。
【0143】
易滑性被覆層に用いる平均粒子径が1〜5μmの粒子としては、市販の無機粒子および/または有機粒子を使用することができる。平均粒子径は、より好ましくは1〜3μmの範囲である。なお、前記の平均粒子径は、200個以上の粒子を電子顕微鏡を用いて、500〜3000倍に拡大した粒子像を写真撮影し、個々の粒子の最大粒子径を数基準で算出し、それらの平均値から求めた。
【0144】
また、無機粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナが挙げられ、有機粒子としては、例えば、PMMA架橋粒子、架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、ポリオレフィン、ウレタン、ポリアミド、ポリエステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
また、被覆層における前記粒子の樹脂成分に対する含有量は、0.3〜10質量%、好ましくは0.7〜5質量%である。平均粒子径が1μm未満または粒子含有量が0.3質量%未満であると、被覆層表面に適度な凹凸が形成されにくくなる。その結果、枚葉フィルムとした際に、フィルム間に空気層が溜まりにくく、加重解放直後の摩擦を低減することができず、印刷速度を上げることが困難となる。平均粒子径が10μmを超える場合や、粒子含有量が10質量%を超える場合には、フィルムのヘイズが高くなり、透明性の悪化、または粒子脱落により、印刷面の汚れ、印刷品位の問題、機台の汚染などが発生する。
【0146】
前記の高分子系ワックス成分は、透明性を阻害しないものであれば特に限定されるものではなく、従来公知のものが使用可能である。例えば、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、脂肪酸系が挙げられる。これらワックス成分の重量平均分子量は1,000〜10,000が好ましく、より好ましくは1,500〜6,000の範囲である。分子量が1,000未満の場合には、被覆層の内部から表面への滲み出しにより、印刷面への転移汚染が生じやすく、インキ密着力に悪影響を与える。
【0147】
分子量が10,000を超える場合には、滑り性の改善効果が不十分になる。被覆層におけるワックス成分の樹脂成分に対する含有量は1〜10質量%、好ましくは2〜8質量%である。被覆層におけるワックス成分の樹脂成分に対する含有量が1質量%未満の場合は、十分に摩擦係数を下げることができず、印刷速度が上げられない。被覆層におけるワックス成分の樹脂成分に対する含有量が10質量%を越える場合は、ワックス成分の脱落により、印刷面への汚染、さらには透明性の悪化が起こりやすくなる。
【0148】
本発明においては、前記の両面に被覆層を形成した成型用ポリエステルフィルムの滑り性は、例えば、前記の本発明の特徴である高速UVオフセット印刷機における給紙安定性が付与できれば良く、市場要求に従い設定すれば良いが、前記の易印刷性被覆層と易滑性被覆層を重ね合せた際の静摩擦係数および動摩擦係数がともに0.5以下であることが好ましい実施態様である。
【0149】
動摩擦係数が0.5を超える状態では、滑り性が不十分であり、枚葉印刷機での給紙時に搬送不良を生じる。一般的には、静摩擦係数はフィルムを摩擦走行させた際に極大値を示し、動摩擦係数より高い値を示す。しかし、少なくとも一方の被覆層に潤滑剤を含む場合、摩擦係数は摩擦走行とともに緩やかに立ち上がるため、静摩擦係数の値は動摩擦係数と同等またはより低い値を示すようになる。静摩擦係数が低いことは、枚葉時の動かし始めがより滑らかになる。これにより枚葉印刷機では、印刷速度の向上が可能となる。
【0150】
本発明の成型用ポリエステルフィルムを製造する際、ポリエステル基材フィルムの両面に前記の被覆層を形成する方法は限定されず任意であるが、塗布法で実施する方法が好適である。該方法に於ける塗布液を塗工する段階としては、未延伸フィルムに塗布し、次いで少なくとも一方向に延伸する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法など、いずれの方法も可能である。なかでも、ポリエステル基材フィルムを製造する際、フィルムの結晶配向が完了する前に塗布し、その後、少なくとも1方向に延伸した後、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる、いわゆるインラインコート法が本発明の効果をより顕著に発現させることができる好ましい方法である。
【0151】
前記の共重合ポリエステル樹脂とスルホン酸塩基を有する化合物は、両者に親水性の差があり分離し易いので、塗布液は塗布直前に1000(1/秒)以上のせん断速度をかけた直後2秒以内に基材に塗布し、その後2秒以内に70℃以下、湿度50%RH、風速10〜20m/秒で1〜3秒予備乾燥後、90℃以上で乾燥する方法で行うことが好ましい。この方法で塗布を行うことにより、共重合ポリエステル樹脂とスルホン酸塩基を有する化合物が均一に分散し、良好な表面抵抗値が得られる。
【0152】
前記のインラインコート法で実施した場合の塗布乾燥後、延伸後の熱固定条件は、特に限定はないが、特に易印刷性被覆層の構成成分であるポリエステル系グラフト共重合体が有する自己架橋性を発現するために、基材フィルムおよび該グラフト共重合体に熱劣化が起こらない範囲内で、熱量を多くする条件を採用することが好ましい。具体的には、200℃〜250℃、好ましくは220℃〜250℃である。ただし、熱固定時間を長くすることにより、比較的低い温度でも、十分な自己架橋性を発現することもできる。
【0153】
前記の被覆層を設ける方法としては、グラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレイコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式など通常用いられている方法を適用することができる。
【0154】
前記の両被覆層の厚みは特に限定しないが、本発明においては、乾燥後の最終厚みが0.05〜1.0μmとすることが好ましく、より好ましくは0.07〜0.5μm、特に好ましくは0.09〜0.3μmである。
【0155】
前記の被覆層形成用塗布液中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機潤滑剤を含有させてもよい。
【0156】
本発明においては、易印刷性被覆層とその反対面の易滑性被覆との滑り性が、従来公知の方法と比べ極めて良好である。枚葉状にフィルムを積み重ねた場合のこの顕著な滑り性改良効果は、(1)両面の被覆層中に含有する平均粒子径1〜10μmの粒子に起因する表面凹凸によるフィルム間での空気保持効果、(2)易滑性被覆層に含有されるスルホン酸金属塩による静電気密着防止効果、(3)さらに易滑性被覆層に含有する高分子系ワックス成分による静摩擦係数の低下によりもたらされる。これら3つの効果がすべて揃わないと、断裁したフィルムが静止状態から動き始めた時の滑らかさの不足、枚葉状に棒積みした状態からの搬送性、給紙時の噛み込み安定性に劣り、印刷速度を高めることが困難になる。
【0157】
通常の被覆層を有する積層フィルムは、ハンドリング性(易滑性、巻き取り性、耐ブロッキング性など)や耐スクラッチ性などの改良を目的に、フィルム表面に凹凸を形成させるために不活性粒子が含有されている。しかしながら、本発明の成型用ポリエステルフィルムは前述のごとく透明性向上のために、表面層(被覆層)に粒子を含有させ、基材フィルム中の粒子の含有量を少なくすることが好ましく、基材フィルム中には実質上粒子を含有させないことが特に好ましい。
【0158】
本発明の成型用ポリエステルフィルムにおいては、実質上内部に粒子を含有していない基材フィルムを用いることで、両面に被覆層を有しながらも高い透明性を得ることができる。そのため、透過光による照明時の明るさに優れ、易滑面(被覆層B/非印刷面)側からフィルムを通して印刷面を見た場合の文字や画像の鮮鋭性に極めて優れる。
【0159】
また、本発明において、一般的に用いられるUV硬化型印刷インキおよび溶剤型印刷インキに対する被覆層Aとの密着力が、JIS−K5400に準拠した碁盤目によるクロスカット評価にて、1mm角のマス目の数が90%以上残存させることが好ましく、より好ましくは96%以上残存させる。
【0160】
密着力が90%未満では、印刷後のインキ脱落が生じ、外観の低下、搬送性の低下につながる。一般的にオフセット印刷ではインキ厚みが1μm〜数μmであるためインキ脱落は生じにくいが、スクリーン印刷では数μm〜10μm以上の場合があり、スクリーン印刷インキにも対応できる密着力を有する性能が印刷用透明ポリエステルフィルムには必要である。
【0161】
以上説明したように、本発明の成型用ポリエステルフィルムを用いることで、従来の二軸配向ポリエステルフィルムでは成型することが困難であった、成型時の成型圧力が10気圧以下の低圧下での真空成型や圧空成型などの成型方法においても、仕上がり性の良好な成型品を得ることができる。また、これらの成型法は成型コストが安いので、成型品の製造における経済性において優位である。したがって、これらの成型法に適用することが本発明の成型用ポリエステルフィルムの効果を最も有効に発揮することができる。
【0162】
一方、金型成型は金型や成型装置が高価であり、経済性の点では不利であるが、前記の成型法よりも複雑な形状の成型品が高精度に成型されるという特徴がある。そのため、本発明の成型用ポリエステルフィルムを用いて金型成型した場合は、従来の二軸配向ポリエステルフィルムに比べて、より低い成型温度で成型が可能で、かつ成型品の仕上がり性が改善されるという顕著な効果が発現される。
【0163】
さらに、このように成型された成型品は、常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性や耐熱性に優れ、さらに環境負荷も小さいので、各種携帯機器の筐体、家電用銘板、自動車用銘板、ダミー缶、建材、化粧板、化粧鋼鈑、転写シートなどの成型部材として好適に使用することができる。
【0164】
なお、本発明の成型用ポリエステルフィルムは、前記の成型方法以外にも、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型などの成型方法を用いて成型する成型用材料としても好適である。
【実施例】
【0165】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、各実施例で得られたフィルム特性は以下の方法により測定、評価した。
【0166】
(1)固有粘度
チップサンプル0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。
【0167】
(2)厚みムラ
横延伸方向に長さ3m、縦延伸方向に幅5cmのの連続したテープ状サンプルを巻き取り、フィルム厚み連続測定機(アンリツ株式会社製)にてフィルムの厚みを測定し、レコーダーに記録する。チャートより、厚みの最大値(Tmax)、最小値(Tmin)、平均値(Tav)を求め、下記式にて厚みムラ(%)を算出した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。また、横延伸方向の長さが3mに満たない場合は、つなぎ合せて行う。なお、つなぎの部分における測定データは削除した。
厚みムラ(%)=((Tmax−Tmin)/Tav)×100
【0168】
(3)ヘーズ
JIS−K7136−2000に準拠し、ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0169】
(4)フィルムの厚み
ミリトロンを用い、1枚当たり5点を計3枚の15点を測定し、その平均値を求めた。
【0170】
(5)100%伸張時応力、破断伸度
二軸延伸フィルムの長手方向及び幅方向に対して、それぞれ長さ180mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、引っ張り試験機(東洋精機株式会社製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重−歪曲線から各方向の100%伸張時応力(MPa)及び破断伸度(%)を求めた。
【0171】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、初期長(標線間距離)40mm、チャック間距離100mm、クロスヘッドスピード100mm/min、記録計のチャートスピード200mm/min、ロードセル25kgfの条件にて行った。なお、この測定は10回行い平均値を用いた。
【0172】
また、100℃の雰囲気下でも、上記と同様の条件で引っ張り試験を行った。この際、試料は100℃の雰囲気下で30秒保持した後、測定を行った。なお、測定は10回行い平均値を用いた。
【0173】
(6)表面粗さ(Ra)
JIS−B601−2001に基づいて、サーフコム304B(株式会社 東京精密製)にてRaを測定した。なお測定条件は、カットオフ 0.08μm、触針半径2μm、測定長 0.8mm、測定速度 0.03mm/秒で行った。
【0174】
(7)150℃での熱収縮率
フィルムの長手方向及び幅方向に対し、それぞれ長さ150mm及び幅20mmの短冊状試料を切り出す。各試料の長さ方向に100mm間隔で2つの印を付け、無荷重下で2つの印の間隔Aを測定する。続いて、短冊状の各試料の片側をカゴに無荷重下でクリップにてつるし、150℃の雰囲気下のギアオーブンに入れると同時に時間を計る。30分後、ギアオーブンからカゴを取り出し、30分間室温で放置する。次いで、各試料について、無荷重下で、間隔Bを読み取る。読み取った間隔A及びBより、各試料の150℃での熱収縮率を下記式により算出する。
熱収縮率(%)=((A−B)/A)×100
【0175】
(8)面配向度(ΔP)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの長手方向の屈折率(Nz)、幅方向の屈折率(Ny)、厚み方向の屈折率(Nz)を測定し下記式から面配向度(ΔP)を算出した。
ΔP=((Nx+Ny)/2)−Nz
(9)ロール状のフィルムの巻き出し性
製膜したフィルムを、300mm幅×200m長で3インチ紙管に巻きつけ、23℃65RH%雰囲気下で72時間放置する。その後、真空蒸着機内にフィルムを設置し、1×10−4torrの雰囲気下にて、50m/分の速度で巻き出したときに、巻き終わるまでに以下のような評価をした。判定基準は、すべての観点から問題のないものを○、少なくとも1つの問題がある場合を×とした。
a.フィルムの破れ
b.ばたつきの発生
c.フィルム同士またはフィルム/ロール間での摩擦による大きい音の発生
【0176】
(10)原料のガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)
示差走査熱量分析装置(マックサイエンス社製、DSC3100S)を用いて、各実施例の条件で押出した原料約7mgをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で室温から300℃に20℃/分の昇温速度で昇温して測定した。Tg(℃)はJIS−K7121−1987、9・3項に基づいて、融点は、9・1項に定義される融解ピーク温度(Tpm)、にて求めた。
【0177】
(11)成型性
(a)真空成型性
フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、500℃に加熱した赤外線ヒーターでフィルムを10〜15秒加熱した後、金型温度30〜100℃で真空成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が50mmであり、底面部は直径が40mmで、深さが50mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0178】
最適条件下で真空成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けを行った。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.1
mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv) 印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0179】
(b)圧空成型性
フィルムに5mm四方のマス目印刷を施した後、500℃に加熱した赤外線ヒーターでフィルムを10〜15秒加熱した後、金型温度30〜100℃で、4気圧の加圧下で圧空成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が60mmであり、底面部は直径が55mmで、深さが50mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0180】
最適条件下で圧空成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けをした。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.1
mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv) 印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0181】
(c)金型成型性
フィルムに印刷を施した後、100〜140℃に加熱した熱板で4秒間接触加熱後、金型温度30〜70℃、保圧時間5秒にてプレス成型を行った。なお、加熱条件は各フィルムに対し、上記範囲内で最適条件を選択した。金型の形状はカップ型で、開口部は直径が50mmであり、底面部は直径が40mmで、深さが30mmであり、全てのコーナーは直径0.5mmの湾曲をつけたものを用いた。
【0182】
最適条件下で金型成型した成型品5個について成型性及び仕上がり性を評価し、下記基準にてランク付けをした。なお、◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
◎:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mm以下で、かつ印刷ずれが0.1mm以下であり、
(iii)さらに×に該当する外観不良がないもの
○:(i) 成型品に破れがなく、
(ii) 角の曲率半径が1mmを超え1.5mm以下、または印刷ずれが0.1
mmを超え0.2mm以下で、
(iii)さらに×に該当する外観不良がなく、実用上問題ないレベルのもの
×:成型品に破れがあるもの、または破れがなくとも以下の項目(i)〜(iv)の
いずれかに該当するもの
(i) 角の曲率半径が1.5mmを超えるもの
(ii) 大きな皺が入り外観が悪いもの
(iii)フィルムが白化し透明性が低下したもの
(iv) 印刷のずれが0.2mmを超えるもの
【0183】
(12)耐溶剤性
25℃に調温したトルエンに試料を30分間浸漬し、浸漬前後の外観変化について下記の基準で判定し、○を合格とした。なお、ヘーズ値は前記の方法で測定した。
○:外観変化がほとんど無く、ヘーズ値の変化が1%未満
×:外観変化が認められる、あるいはヘーズ値の変化が1%以上
【0184】
(13)表面固有抵抗率
表面抵抗計(三菱油化社製、HIRESUTA MCP HT−260)を用い、23℃、50%RHの雰囲気中におけるポリエステルフィルムの帯電防止層の表面固有抵抗率(Ω/□)を下記条件にて測定した。
印加電圧:500V
測定時間:10秒
使用プローブ:タイプ HRS
【0185】
(14)インキ密着力
JIS−K5400に記載の碁盤目評価に準拠し、フィルムの被印刷面(本発明における易印刷性被覆層に下記インキを印刷後、クロスカットガイドを用いて1mmマス目をカッター刃で100個作成した後、粘着テープ(ニチバン社製、セロハンテープ)を用いてマス目部分の密着力を評価した。
【0186】
UV硬化型インキとの密着力は、UV硬化型インキ(東華色素社製、ベストキュアー161)を用い、フィルムの被覆層面(本発明の易印刷性被覆層)にRIテスターで印刷後100mJのUVを照射し、上記方法にしたがって評価した。また、他のUV硬化型インキ(セイコーアドバンス社製、UVA)を用い、フィルムの被覆層面(本発明の易印刷性被覆層)に#300のスクリーン印刷後500mJのUVを照射し、上記方法にしたがって同様に評価した。
【0187】
溶剤型インキとの密着力は、溶剤型インキ(東洋インキ社製、TSP−400G)を用い、フィルムの被覆層面(本発明の易印刷性被覆層)にRIテスターで印刷後24時間放置乾燥し、上記方法にしたがって評価した。また、他の溶剤型インキ(十條インキ社製、テトロン)を用い、フィルムの被覆層面(本発明の易印刷性被覆層)に#250のスクリーン印刷後24時間放置乾燥し、上記方法にしたがって同様に評価した。
【0188】
(15)湿し水適性
溶剤型オフセット印刷インキ(東洋インキ社製、TSP−400G)を用い、フィルムの被覆層面(本発明の易印刷性被覆層)にRIテスターで印刷する際、インキ展色前のフィルム印刷面を、スポイドを用いてイオン交換水を0.2ml、0.4ml、0.6ml滴下して湿らせたモルトンローラーで圧着した後、インキを展色、インキの転移不良の有無を確認した。
【0189】
(16)給紙安定性
枚葉オフセット印刷機(ハイデルベルグ社製、スピードマスター、8色刷り機)を用いて、寸法が菊全判(636×939mm)サイズの枚葉フィルムを積み重ね、印刷速度を低速時(4,000枚/時間)および高速時(8,000枚/時間)で給紙、印刷させた際の給紙安定性を評価した。
【0190】
(17)印刷品位
給紙安定性評価で用いた印刷サンプルの印刷外観を目視で判定した。この際、印刷面からではなく、裏側からフィルムを通して外観を目視判定した。判定基準は次の通りである。
・クリアー感:印刷した図柄が、基材フィルムや塗布層に遮られることなく
鮮明に見えること。
・印刷適性 :印刷インキの転移不良による、色むらやヌケが生じないこと
【0191】
実施例1
(疎水性共重合ポリエステル樹脂の調製)
攪拌機、温度計および部分還流式冷却器を具備したステンレス製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート218質量部、ジメチルイソフタレート194質量部、エチレングリコール488質量部、ネオペンチルグリコール200質量部およびテトラ−N−ブチルチタネート0.5質量部を仕込み、160℃から220℃まで4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、フマル酸13質量部およびセバシン酸51質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温しエステル化反応を行った。次いで、255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間30分反応させ、疎水性共重合ポリエステル樹脂を得た。得られた疎水性共重合ポリエステルは淡黄色透明であった。
【0192】
(水分散したポリエステル系グラフト共重合体の調製)
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、疎水性共重合ポリエステル75質量部、メチルエチルケトン56質量部およびイソプロピルアルコール19質量部を入れ、65℃で加熱、撹拌し樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15質量部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10質量部およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5質量部を12質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/分でポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノールを5質量部添加した。次いで、イオン交換水300質量部とトリエチルアミン15質量部を反応溶液に加え、1時間半撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げメチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散したポリエステル系グラフト共重合体を得た。得られたポリエステル系グラフト共重合体は、淡黄色透明で、ガラス転移温度は40℃であった。
【0193】
(易印刷性被覆層用塗布液Aの調製)
イオン交換水とイソプルピルアルコールの混合溶媒(質量比:60/40)に、全固形分濃度が5質量%となるように、水分散したポリエステル系グラフト共重合体と、粒子として平均粒径2.2μmのスチレン−ベンゾグアナミン系球状有機粒子(日本触媒工業社製)、平均粒径0.02μmのコロイダルシリカ(触媒化成社製)をそれぞれ固形分質量比で50/1/3になるよう混合し、塗布液Aを調製した。
【0194】
(易滑性被覆層用塗布液Bの調製)
イオン交換水とイソプルピルアルコールの混合溶媒(質量比:60/40)に、全固形分濃度が5質量%となるように、水分散性ポリエステル系共重合体(東洋紡績社製、バイロナ−ルMD−16)と、スルホン酸金属塩としてドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム(松本油脂社製、アニオン系帯電防止剤)、高分子系ワックス剤としてポリエチレン系エマルジョンワックス(東邦化学社製)、粒子として平均粒径2.2μmのスチレン−ベンゾグアナミン系球状有機粒子(日本触媒工業社製)、平均粒径0.04μmのコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスOL)をそれぞれ固形分質量比で50/2.5/2.5/0.5/5になるよう混合し、塗布液Bを調製した。
【0195】
(積層ポリエステルフィルムの調製)
芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位40モル%及びネオペンチルグリコール単位60モル%を構成成分とする、固有粘度が0.69dl/gの共重合ポリエステルのチップ(A)と、固有粘度が0.69dl/gで、かつ平均粒子径(SEM法)が1.5μmの無定形シリカを0.04質量%、含有するポリエチレンテレフタレートのチップ(B)をそれぞれ乾燥させた。さらに、チップ(A)とチップ(B)を25:75の質量比となるように混合した。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0196】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に90℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸配向ポリエステルフィルムの片面に上記の塗布液Aを、他面に塗布液Bをリバースコート法で塗布した。なお、各塗布液はロールギャップ間で1000(1/秒)以上のせん断速度をかけ、2秒以内に基材フィルムに塗布し、65℃、60%RH、風速15m/秒の環境下で、2秒間乾燥した。さらに、130℃、風速20m/秒の環境下で3秒間乾燥し水分を除去し、両面に塗布層を有する一軸延伸フィルムをテンターに導き、次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、120℃で10秒間予熱し、横延伸の前半部を110℃、後半部を100℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を205℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら235℃で熱固定処理を行い、厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0197】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0198】
比較例1
実施例1において、一軸配向ポリエステルフィルムの各表面に易印刷性被覆層および易滑性被覆層を形成する塗布液の塗布を取り止めること以外は、実施例1と同様にして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0199】
比較例2
比較例1において、熱固定温度をTS1およびTS2ともに235℃に変更すること以外は、比較例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0200】
比較例3
比較例1において、熱固定温度をTS1およびTS2ともに205℃に変更すること以外は、比較例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0201】
比較例4
(塗布液Cの調整)
イソプロパノール40質量%水溶液に共重合ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製、バイロナールMD−1250)を固形分で3.15質量%,末端イソシアネート基を親水性基でブロックした水溶性ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、エラストロンH−3)を固形分で5.85質量%、平均粒径1.0μmのシリカ粒子を全樹脂に対し0.8質量%及び平均粒径0.05μmのシリカ粒子を全樹脂に対し10質量%含有するように、塗布液を調整した。得られた塗布液を、5質量%の重曹水溶液を用いてpH6.5に調整した。次いで、バッグ式フィルター(住友スリーエム(株)製、リキッドフィルターバッグ)で濾過し、塗布液循環系ストックタンク内で、15℃で2時間撹拌した。
【0202】
フィルム原料として、下記のチップ(D)、(J)、(F)を準備した。
チップ(D)は、樹脂成分が芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位70モル%及びネオペンチルグリコール単位30モル%を構成成分とし、固有粘度が0.77dl/gの共重合ポリエステルのチップである。
【0203】
チップ(J)は、固有粘度が0.77dl/gのポリエチレンテレフタレートのチップである。
【0204】
チップ(F)は、固有粘度が0.75dl/gのポリプロピレンテレフタレート(PPT)のチップである。
【0205】
前記のチップをそれぞれ乾燥させた後、チップ(D)、チップ(J)、及びチップ(F)を50:10:40の質量比となるように混合した。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0206】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に83℃で3.5倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムのチルロール面側(F面)に、上記塗布液をリバースキスコート法により延伸前の樹脂固形分の厚みが0.9μmとなるように塗布した。塗布層を有する積層フィルムを乾燥しつつテンターに導き、95℃で10秒予熱し、横延伸の前半部を80℃、後半部を75℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を190℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら210℃で熱固定処理を行い、厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0207】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0208】
実施例2
比較例4の塗布液Cを使用せずに、実施例1の処方に従って、一軸配向ポリエステルフィルムの片面に上記の塗布液Aを、他面に塗布液Bをリバースコート法で塗布した。なお、各塗布液はロールギャップ間で1000(1/秒)以上のせん断速度をかけ、2秒以内に基材フィルムに塗布し、65℃、60%RH、風速15m/秒の環境下で、2秒間乾燥した。さらに、130℃、風速20m/秒の環境下で3秒間乾燥し水分を除去し、両面に塗布層を有する一軸延伸フィルムを使用する以外は、比較例4と同様にして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0209】
比較例5
実施例2において、熱固定温度をTS1及びTS2ともに205℃に変更すること以外は、実施例2と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0210】
比較例6
実施例2において、熱固定温度を180℃(TS1)及び220℃(TS2)に変更すること以外は、実施例2と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0211】
実施例3
実施例2の原料構成をコア層とし、スキン層用原料として別の押出機にチップ(D)とチップ(J)を50:50の質量比で混合したチップを投入し、280℃で溶融し、コア層の原料と、スキン層/コア層/スキン層=10/80/10となるようにフィードブロックで接合後に270℃でT−ダイから押出した以外は、実施例2と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
なお、表4における原料の融点の値はコア層の値であり、スキン層の融点は243℃であった。
比較例7
実施例3の各層の表面被覆を取りやめて、比較例4で用いた塗布液Cを用いて、比較例4の方法で、フィルムの表面被覆を行う以外は実施例3と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
なお、表5における原反の融点の値はコア層の値であり、スキン層の融点は243℃であった。
【0212】
比較例8
比較例8の原料として、前記のチップ(J)以外に、下記のチップ(O)とチップ(P)を準備した。
チップ(O)は、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位60モル%とイソフタル酸成分が40モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位100モル%を構成成分とする、固有粘度が0.71dl/gの共重合ポリエステルのチップである。
チップ(P)は、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位60モル%とナフタレンジカルボン酸成分が40モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位100モル%を構成成分とする、固有粘度が0.71dl/gの共重合ポリエステルのチップである。
【0213】
チップ(J)および前記の共重合ポリエステルのチップ(O)と、ポリエチレンテレフタレートのチップ(P)を50:25:25の質量比となるように混合し、乾燥させた。次いで、これらのチップ混合物を押出し機によりTダイのスリットから270℃で溶融押出し、表面温度40℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0214】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に90℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、120℃で10秒予熱し、横延伸の前半部を110℃、後半部を100℃で3.9倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を205℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら238℃で熱固定処理を行い、厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0215】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0216】
実施例4
比較例8の1軸延伸原反に対して、実施例1の処方に従って、一軸配向ポリエステルフィルムの片面に上記の塗布液Aを、他面に塗布液Bをリバースコート法で塗布した。なお、各塗布液はロールギャップ間で1000(1/秒)以上のせん断速度をかけ、2秒以内に基材フィルムに塗布し、65℃、60%RH、風速15m/秒の環境下で、2秒間乾燥した。さらに、130℃、風速20m/秒の環境下で3秒間乾燥し水分を除去し、両面に塗布層を有する一軸延伸フィルムを使用する以外は、比較例8と同様にして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0217】
比較例9
芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位40モル%及びネオペンチルグリコール単位60モル%を構成成分とする、固有粘度0.69dl/gの共重合ポリエステルのチップ(A)と、固有粘度が1.00dl/gで、かつ平均粒子径(SEM法)が1.5μmの無定形シリカを0.04質量%含有するポリブチレンテレフタレートのチップ(I)を乾燥させた。
次いで、チップ(A)、チップ(I)、を、25:75の質量比となるように混合した。次いで、これらの混合物を押出し機によりTダイのスリットから265℃で溶融押出し、表面温度20℃のチルロール上で急冷固化させ、同時に静電印加法を用いてチルロールに密着させながら無定形の未延伸シートを得た。
【0218】
得られた未延伸シートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に80℃で3.3倍に延伸した。次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、95℃で10秒予熱し、横延伸の前半部を85℃、後半部を80℃で3.8倍延伸した。さらに、一段目の熱処理(TS1)を185℃、二段目の熱処理(TS2)を横方向に7%の弛緩処理を行いながら200℃で熱固定処理を行い、厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0219】
なお、熱固定処理ゾーンには、延伸区間との間に2mの中間区間を設け、熱固定ゾーンの加熱用区間には遠赤外線ヒーターを設置し、区間ごとの遮蔽板をフィルムに接触しない限界位置まで拡大し、設置した。加熱後の冷却区間においても区間遮蔽を強化し、クリップの戻り方法として外部リターン方式を用い、かつクリップ冷却装置を設置し、さらに20℃の冷風で強制冷却し、テンター出口でのクリップ温度を40℃以下とするクリップ融着防止対策を行った。
【0220】
実施例5
比較例9の1軸延伸原反に対して、実施例1の処方に従って、一軸配向ポリエステルフィルムの片面に上記の塗布液Aを、他面に塗布液Bをリバースコート法で塗布した。なお、各塗布液はロールギャップ間で1000(1/秒)以上のせん断速度をかけ、2秒以内に基材フィルムに塗布し、65℃、60%RH、風速15m/秒の環境下で、2秒間乾燥した。さらに、130℃、風速20m/秒の環境下で3秒間乾燥し水分を除去し、両面に塗布層を有する一軸延伸フィルムを使用する以外は、比較例9と同様にして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0221】
実施例1〜5及び比較例1〜9に関し、使用したポリマーの原料組成とポリマー特性を表1に、フィルムの製造条件と特性を表2〜8に示す。
【0222】
【表1】

【0223】
【表2】

【0224】
【表3】

【0225】
【表4】

【0226】
【表5】

【0227】
【表6】

【0228】
【表7】

【0229】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0230】
本発明の成型用ポリエステルフィルムは、低い温度および低い圧力での加熱成型時の成型性に優れているので幅広い成型方法に適用ができ、かつ成型品として常温雰囲気下で使用する際に、弾性および形態安定性(熱収縮特性、厚み斑)に優れ、そのうえ耐溶剤性、耐熱性、帯電防止性能に優れ、さらに環境負荷が小さいという利点がある。また、後加工時にロール状に巻き取った長尺のフィルムを巻き出す際に、ブロッキングや破れが起こりにくいため、生産性に優れている。さらに、平滑性と透明性に高度に優れているため、前記フィルムの印刷性改良層に、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷など各種の印刷加飾法、及び捺染、転写、塗装、ペインティング、蒸着、スパッタリング、CVD、ラミネートなどの加飾方法により印刷層、図柄層などの意匠を施し、次いで金型成型、圧空成型、真空成形などの各種成型法により成型する3次元加飾方法に適し、かつインモールド成型性やエンボス成型性に優れている。そのため、各種携帯機器の筐体、家電や自動車の銘板用部材又は建材用部材として好適であり、産業界への寄与は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステルを含む二軸配向ポリエステルフィルムを基材とし、該基材の片面に帯電防止剤を含む帯電防止層が設けられた成型用積層ポリエステルフィルムであって、(1)フィルムの長手方向及び幅方向における100%伸張時応力が、いずれも25℃において40〜300MPa及び100℃において1〜100MPa、(2)フィルムの150℃での長手方向及び幅方向の熱収縮率が0.01〜5.0%、(3)ヘーズが0.1〜3.0%、(4)少なくとも片面の表面粗さ(Ra)が0.005〜0.030μm、(5)面配向度が0.095以下、(6)少なくとも片面の帯電防止層の表面固有抵抗値が1×10〜1×1013Ω/□であることを特徴とする成型用帯電防止ポリエステルフィルム。
【請求項2】
共重合ポリエステルが、(a)芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールと、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステル、あるいは(b)テレフタル酸及びイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むグリコール成分から構成される共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルム。
【請求項3】
二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルが、さらにグリコール成分として1,3−プロパンジオール単位または1,4−ブタンジオール単位を含むことを特徴とする請求項3記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルム。
【請求項4】
二軸配向ポリエステルフィルムの融点が200〜245℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルム。
【請求項5】
基材フィルムの片面に帯電防止剤を含む帯電防止層、他面に樹脂を含む易接着層を有する成型用帯電防止ポリエステルフィルムであって、易接着層の厚みが0.01〜1μmで、基材フィルム中には実質的に粒子を含有せず、帯電防止層または易接着層の少なくとも一方に粒子を含有させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルム。
【請求項6】
帯電防止層がさらにワックスを含有することを特徴とする請求項5に記載の成型用帯電防止ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2008−94089(P2008−94089A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235083(P2007−235083)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】