説明

成型用微細金型及びその製造方法

【課題】マイクロ流体チップ等を作製するための高品質な微細金型を簡便な製造方法で且つ短納期で、安価に提供する。
【解決手段】表面に所望の凹型パターンが形成されたエラストマー材料からなる母型に、電極膜を形成した後、金型になる金属皮膜を電解めっきにより成膜して製造された微細金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解めっき法で作製される微細成型用の金型、例えば化学分析や化学反応等を行う際に用いるマイクロ流体チップの成型用微細金型、及びその製造方法、及び該微細金型を用いて成型される成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ流体チップを用いた研究の初期段階では、例えば次のような製造方法にてマイクロ流体チップが製造されている。まず、ガラス板に感光性レジストにて凸型パターンを形成し、レジスト型を作製する。次に、前記レジスト型に硬化性シリコーンゴムを流し込み、硬化させる。次にレジスト型から前記シリコーンゴムを離型し、最後に前記シリコーンゴムとガラス板とを貼り合わせを行うことで、マイクロ流体チップを製造することができる。しかし、前述のマイクロ流体チップの製造方法では、感光性レジストとガラス板との密着性、感光性レジストの低耐久性などの点からレジスト型の耐久性に問題があり、十数個程度しかマイクロ流体チップを作製することが出来ない。これにより、初期研究から量産へ移行した際、レジスト型を作り直す必要があるため、高品質なマイクロ流体チップを量産することができなかった。
【0003】
そこで、高品質なマイクロ流体チップを量産するための耐久性に優れた微細金型の製造方法が提案される。この提案においては、感光性レジストを用いたフォトリソグラフィー法と電解めっき法により金型製造が行われている。
【特許文献1】特開平8−280247号公報
【0004】
この金型の製造においては、感光性レジストで所定のレジストパターンを得る。この際、感光性レジストとしてポジ型のレジストを用いた際は、感度の点からレジストの膜厚が薄くなり、1層ではパターンの深さ(高さ)を大きくできない。従って、パターンの深さ(高さ)を大きくする場合は多層積層しなければならず、感光性レジストの積層と感光を繰り返さなければならない。一方、ネガ型の感光性レジストを用いれば1層でパターンの深さ(高さ)を大きくできるが、レジストの深さ方向の感度の低下によりレジストパターンの底部が上部より小さくになり、電解めっき法により金型を製造した場合、金型の凹部の底部が上部よりも大きく(逆テーパー)なる。このような金型を用いた場合、成型品の金型からの離型性が悪くなり、高品質な成型品を作ることができない。
【0005】
前記した金型からの成型品の離型性の問題を解決するために、ネガ型の感光性レジストでパターンを形成し、電解めっき法により先ず金型を作る母型を作製し、この母型を用いて電解めっき法により金型を形成する方法が提案されている。
【特許文献2】特開2006−334951しかし、この金型の製造方法においても、めっきにより形成された部分が同じ金属であることから、母型と金型との剥離が難しい。また、めっき工程を2回必要とするため、短納期で、高品質な金型を提供し難いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れた高品質な微細金型を簡便な方法にて製造することができ、さらに短納期で、安価な微細金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高品質な成型用微細金型の製造において、エラストマー材料を母型とすることにより母型との離型性に優れ、且つ簡便な製法にて、短納期で、安価な微細金型を製造することが可能となる製法を確立した。
即ち、本発明は、
電解めっき法により作られる微細金型であって、該金型は、表面に所望の凹型パターンが形成されたエラストマー材料からなる母型に、電極膜を形成した後、金属の電解めっきにより作られたことを特徴とする微細金型、及び
前記エラストマー材料からなる母型の厚さが0.5〜10.0mmの範囲であることを特徴とする前記記載の微細金型、及び
前記エラストマー材料からなる母型が、感光性レジストの露光及び現像により所望の凸型パターンを表面に備えた型を転写することで形成されたものであることを特徴とする前記記載の微細金型、及び
前記エラストマー材料が、硬化性シリコーンゴムからなることを特徴とする前記記載の微細金型、及び
感光性レジストの露光及び現像により所望の凸型パターンを表面に備えたものを型として、エラストマー材料にて反転パターンを形成した母型に、電極膜を形成した後、金属の電解めっきを行い、形成しためっき皮膜を母型から剥離してなることを特徴とする微細金型の製造方法、及び
前記記載の微細金型を用いて成型してなる成型品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成型用微細金型を、より簡略な工程で、且つ短時間に効率良く製造することができる。また本発明の金型を用いることにより、高品質な成型品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。
【0010】
本発明は、微細金型の製造用のめっき母型形成工程及び微細金型形成工程からなる。図1(a)〜(e)はめっき母型形成工程の一実施例を表し、図1(f)〜(g)は微細金型形成工程の一実施例を表す。
【0011】
本発明では、まず導電性基板にフォトリソグラフ法を用いて感光性レジストで画像を形成する。図1(a)に示すように、導電性基板1上に感光性レジスト層2を成膜する。この導電性基板1は、作製する微細金型の大きさ、及び微細金型の数によって異なるが、例えば、長方形でサイズは、20〜650mm×20〜550mm、厚さが1.0mm程度である。材質は、ステンレス鋼材、ニッケル、銅、鉄など、電解めっきができるもの(導電性)であれば特に限定しない。また、感光性レジスト2の材質としては、例えば、ドライフィルムレジスト、液状レジスト等を用いることができるが、これに限定されるものではない。また、該感光性レジスト2の膜厚は、本金型で作製する成型品の要求寸法を考慮すると、15μm〜350μmの厚さが必要であるが、これに限定されるものではない。
【0012】
上記感光性レジスト層2の表面にパターンが形成された露光マスク3を配置する。露光マスク3は透明或いは半透明の光透過性を有する透光板4の片面に、光が透過不可能な遮光膜5を設けて形成されるものである。透光板としては、例えば、厚み0.5〜2mmのPETフィルムやソーダガラス、石英などを用いることができる。また、遮光膜5は光を通過しないように形成すればよく、例えば、厚み0.5〜100μmのクロムなどが用いられる。
【0013】
次に、パターンが形成された露光マスク3を、その遮光膜5側を導電性基板1の感光性レジスト面に密着させるようにして重ね合わせて配置した後、図1(b)に矢印で示すように、露光マスク3側から紫外線等の光を照射する。すなわち、露光マスク3を介して感光性レジスト2に照射するものであり、これにより、光は遮光膜5に覆われていない部分(開口部)3aを通過して感光性レジスト2の光照射された部分のみが露光されて硬化する。
【0014】
次に、感光性レジスト2の未硬化部分を現像により除去することによって、図1(c)に示すように、導電性基板1の面に硬化した感光性レジストによりパターン2aを形成されたレジスト型6を形成することができる。感光性レジストの未硬化部分を現像にて除去するに当たっては、炭酸ソーダ等のアルカリ性水溶液を用いることができる。
【0015】
次に、レジスト型6にエラストマー材料を流し込み、図1(d)に示すように、レジスト型6上にエラストマー材料層7を形成する。エラストマー材料としては、シリコーンゴム、ウレタン樹脂等を用いることができるが、レジスト型からの離型性等から硬化性シリコーンゴムが好ましい。硬化性シリコーンゴムとしては、通常の2液型の室温硬化型、及び加熱硬化型のシリコーンゴムがあり、例えば、東レ・ダウコーニング社製のSILPOT 184 W/Cが好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0016】
次に、レジスト型6から離型して得られたエラストマー材料層7の凹凸面上に電極膜8を形成することによって、図1(e)に示すように、めっき母型9が得られる。電極膜形成に当っては、スパッタリング法及び真空蒸着法、無電解めっき法などを用いることができるがこれに限定されるものではない。また、電極膜の種類としては、銅、銀、アルミニウムなどがあるが、金型形成後、電極膜を除去できるものであれば、特に限定しない。
【0017】
次に、前記しためっき母型9を金属めっき浴に浸漬して、通電による金属の電解めっきを施すと、図1(f)に示すように、めっき母型9表面に微細金型10となる金属皮膜が形成される。該微細金型10となる金属皮膜の種類としては、銅、ニッケル、クロム、鉄等の金属やこれら金属の合金が挙げられる。これらの金属の中で金型の硬度、耐久性からは、ニッケル、若しくはニッケルと鉄、コバルト、タングステン等とのニッケル合金が挙げられる。又、銅等の比較的硬度の小さい金属の金型の表面をクロム等の硬度の大きい金属のめっきを施してもよい。ニッケル皮膜を形成するための電解めっきの条件は、例えば、スルファミン酸ニッケルを主成分とする電解めっき液を用いた場合、電流密度を2〜5A/dmで20〜80時間の通電を行い、厚みが所定厚さとなるまで、ニッケルを析出させる。
【0018】
最後に微細金型10となる金属皮膜をめっき母型9から剥離すると、図1(g)に示した本発明の微細金型10が得られる。得られた微細金型10はめっき母型9の形状を反転させた形状となる。
【0019】
本発明の微細金型を、例えば射出成形機に装着して、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等のプラスチックを射出成形機の微細金型に充填する方法や金型に硬化性シリコーンゴムを流し込み、硬化させる方法により、本発明の成型品を作ることができる。更に、この成型品の上面をフィルムや樹脂板、又はガラス板で封止し、流路の両末端部分の封止材に流入、流出用の穴を形成するとマイクロ流体チップとなる。前記チップの用途及び具体例としては、医療分野、工業分野、バイオテクノロジー分野等に於ける診断、反応、分離、計測等に使用される。例えば、医療分野で使用される成型品は、その微細構造により、測定時間の短縮、少サンプル化、並列処理が可能であることから、病院の臨床検査科、ベッドサイト、手術室、診療所、在宅での診断に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、成型用微細金型を、より簡略な製法で、且つ短時間に効率良く製造することができる。また本発明の金型を用いることにより、高品質な成型品を製造することができる。さらに、めっき母型を並べて配置し、めっきを施すことで多数個取りの金型を作製できる。又、流路パターンが異なる母型を並べて配置し、めっきすることで、一つの金型で多種類の成型品を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の微細金型の製造工程の一実施様態を示す断面図。
【符号の説明】
【0022】
1.導電性基板
2.感光性レジスト層
3.露光マスク
4.透光板
5.遮光膜
6.レジスト型
7.エラストマー材料層
8.電極膜
9.めっき母型
10.微細金型
2a.硬化した感光性レジストによるパターン
3a.遮光膜に覆われていない部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解めっき法により作られる微細金型であって、該金型は、表面に所望の凹型パターンが形成されたエラストマー材料からなる母型に、電極膜を形成した後、金属の電解めっきにより作られたことを特徴とする微細金型。
【請求項2】
前記エラストマー材料からなる母型の厚さが0.5〜10.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の微細金型。
【請求項3】
前記エラストマー材料からなる母型が、感光性レジストの露光及び現像により所望の凸型パターンを表面に備えた型を転写することで形成されたものであることを特徴とする請求項1〜2記載の微細金型。
【請求項4】
前記エラストマー材料が、硬化性シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1〜3記載の微細金型。
【請求項5】
感光性レジストの露光及び現像により所望の凸型パターンを表面に備えたものを型として、エラストマー材料にて反転パターンを形成した母型に、電極膜を形成した後、金属の電解めっきを行い、形成しためっき皮膜を母型から剥離してなることを特徴とする微細金型の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の微細金型を用いて成型してなる成型品。


【図1】
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【公開番号】特開2009−56659(P2009−56659A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224892(P2007−224892)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(592173412)株式会社プロセス・ラボ・ミクロン (30)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】