説明

成形体の製造方法

【課題】 ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムと無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とを混合し、射出成形または押出成形する成形体の製造方法であって、耐衝撃性に優れた成形体が得られる成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリプロピレン系樹脂100重量部あたり20〜300重量部の無機充填剤を含有する無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂と、エチレン系共重合体ゴムとを、無機充填剤、ポリプロピレン系樹脂およびエチレン系共重合体ゴムの総量100重量部あたり、0.1〜2重量部のポリアルキレングリコールの存在下で混合し、射出成形または押出成形することを特徴とする成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂を用いる成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バンパーやインストルメントパネル等の自動車部品、テレビや洗濯機等の家電製品の部品などには、剛性、耐衝撃性に優れ、軽量であることなどが求められており、これらの部品には、ポリプロピレン系樹脂に、タルクなどの無機充填剤とエチレン系共重合体ゴムとを配合したポリプロピレン複合材料が多く用いられている。
昨今、該部品にはコストの低減がより求められており、ポリプロピレン複合材料のグレード削減による材料コスト低減や混練コストの低減を目的として、ポリプロピレン系樹脂に無機充填剤をマスターバッチ方式で混合し、得られた混合物を射出成形あるいは押出成形して、成形体を製造する方法が検討されている。
【0003】
例えば、ポリプロピレン系樹脂とエチレン−プロピレン共重合体ゴムとタルク含有ポリプロピレン系樹脂とを混合し、得られた混合物を射出成形する方法、エチレン−プロピレン共重合体ゴム含有ポリプロピレン系樹脂とタルク含有ポリプロピレン系樹脂とを混合し、得られた混合物を射出成形する方法(特許文献1参照。)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−25447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タルク含有ポリプロピレン系樹脂を用いた従来の成形体の製造方法では、ポリプロピレン系樹脂とタルクとエチレン系共重合体ゴムとを予め溶融混練して得られた複合材料を用いた成形体の製造方法に比べ、成形体の耐衝撃性が低下することがあり、充分満足のいくものではなかった。
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムと無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とを混合し、射出成形または押出成形する成形体の製造方法であって、耐衝撃性に優れた成形体が得られる成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂100重量部あたり20〜300重量部の無機充填剤を含有する無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂と、エチレン系共重合体ゴムとを、無機充填剤、ポリプロピレン系樹脂およびエチレン系共重合体ゴムの総量100重量部あたり、0.1〜2重量部のポリアルキレングリコールの存在下で混合し、射出成形または押出成形することを特徴とする成形体の製造方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムと無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とを混合し、射出成形または押出成形する成形体の製造方法であって、耐衝撃性に優れる成形体が得られる成形体の製造方法を提供することができる。更には、本発明の製造方法は、経済性にも優れうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ポリプロピレン系樹脂とは、結晶性を有するポリプロピレン系重合体であり、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンに基づく単量体単位の含有量が50重量%以上であるプロピレンとオレフィン(エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなど)との共重合体があげられる。該共重合体の具体例としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体などがあげられ、これらの共重合体は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。また、これらの共重合体は、1種で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0009】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、通常、0.5〜300g/10分であり、加工性と物性のバランスを高める観点から、好ましくは、1〜150g/10分である。該MFRは、JIS K7210−1995に従い、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定されるものである。
【0010】
ポリプロピレン系樹脂は、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体などの錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等により製造される。また、市販の該当品を用いてもよい。
【0011】
また、ポリプロピレン系樹脂には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、核剤などの添加剤などを配合してもよい。
【0012】
無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と無機充填剤とを混練することにより得られる。該無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、結晶性ケイ酸カルシウム、硫酸マグネシウム繊維等があげられ、好ましくはタルクである。該タルクは、公知の各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類あるいは他の界面活性剤で表面処理されていてもよい。
【0013】
無機充填剤の平均粒径は、通常、0.1〜100μmであり、剛性と耐衝撃性を高める観点から、好ましくは1〜20μmである。なお、無機充填剤の平均粒径は一般的な方法、例えばレーザー回折法で測定される。また、無機充填剤は剛性を高める上で、針状もしくは板状であることが好ましい。アスペクト比が高い程、剛性を向上できるが、好ましくは3〜100である。
【0014】
無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂の製造において、上記ポリプロピレン系樹脂と上記無機充填剤との混練方法としては、公知の方法、例えば、エチレン系共重合体ゴムと無機充填剤とを、ヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合機でドライブレンドした後、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等により混練する方法があげられる。
【0015】
無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂中の無機充填剤の含有量は、経済性を高める観点から、ポリプロピレン系樹脂100重量部あたり、20重量部以上であり、好ましくは40重量部以上である。また、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂の製造の容易性を高める観点から、ポリプロピレン系樹脂100重量部あたり、300重量部以下であり、好ましくは200重量部以下である。
【0016】
無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、核剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤;ゴムなどを配合してもよい。
【0017】
なお、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂中のポリプロピレン系樹脂の含有量は、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂中の成分のうち、無機充填剤と後述のポリアルキレングリコールとを除いた成分を100重量%として、通常、60重量%以上であり、好ましくは80重量%以上である。
【0018】
エチレン系共重合体ゴムは、非晶性のエチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、該α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等があげられ、これらは1種以上用いられる。また、エチレン系共重合体ゴムは、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエンなどのジエンを共重合したゴムであってもよい。
【0019】
エチレン系共重合体ゴムの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−1−オクテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体などがあげられ、これらエチレン系共重合体ゴムは1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
エチレン系共重合体ゴム中のエチレンに基づく単量体単位(エチレン単位)の含有量とα−オレフィンに基づく単量体単位(α−オレフィン単位)としては、エチレン単位の含有量/α−オレフィン単位の含有量の重量比が、通常、80/20〜50/50である。なお、該エチレン単位及び該α−オレフィン単位は、赤外分光法により測定される。
【0021】
エチレン系共重合体ゴムのメルトフローレート(MFR)は、通常、1〜50g/10分であり、該MFRは、JIS K7210−1995に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定されるものである。
【0022】
エチレン系共重合体ゴムは、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体などの錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法等により製造される。なお、エチレン系共重合体ゴムとポリプロピレン系樹脂とを多段重合法で製造するなど、エチレン系共重合体ゴムをポリプロピレン系樹脂に含有させる方法を用いてもよい。また、市販の該当品を用いてもよい。
【0023】
エチレン系共重合体ゴムには、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの添加剤などを配合してもよい。
【0024】
本製造方法では、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂(ただし、該無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂を除く。)とエチレン系共重合体ゴムとをポリアルキレングリコールの存在下で混合した後、射出成形または押出成形することにより各種成形体を得る。無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとを混合する際に、ポリアルキレングリコールを存在させる方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂に予めポリアルキレングリコールを含有させておく方法、エチレン系共重合体ゴムベースのポリアルキレングリコールのマスターバッチを添加する方法、ポリアルキレングリコールを直接添加する方法などや、これらを組み合わせた方法などを用いることができる。また、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとをポリアルキレングリコールの存在下で混合する際に、必要に応じて、添加剤、添加剤マスターバッチなどを添加してもよい。好ましい態様としては、ポリアルキレングリコールを有する無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとポリプロピレン系樹脂とをペレットブレンドする方法(必要に応じて他のペレットをブレンドしてもよい)、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリアルキレングリコール含有エチレン系共重合体ゴムとポリプロピレン系樹脂とをペレットブレンドする方法(必要に応じて他のペレットをブレンドしてもよい)などをあげることができる。
【0025】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体等をあげることができる。これらは、公知の方法、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド等のアルキレンオキシドを開環重合する方法により製造される。
【0026】
ポリアルキレングリコールの重合度は、耐衝撃性を高める観点から、好ましくは20〜300であり、より好ましくは50〜200である。
【0027】
無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとをポリアルキレングリコールの存在下で混合する際のポリアルキレングリコールの所要量は、ポリプロピレン系樹脂、無機充填剤およびエチレン系共重合体ゴムの総量100重量部あたり、成形体の耐衝撃性を高める観点から、好ましくは0.1重量部以上であり、より好ましくは0.3重量部以上であり、成形体の剛性を高める観点から、好ましくは2重量部以下であり、より好ましくは1重量部以下である。
【0028】
本製造方法での射出成形および押出成形においては公知の成形方法が採用され、成形温度は、通常170〜250℃、金型温度は、通常30〜50℃が好ましい。本製造方法は、好適には射出成形に採用され、好ましい態様としては、ポリアルキレングリコールを有する無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとポリプロピレン系樹脂とをペレットブレンドした物(必要に応じて他のペレットをブレンドしてもよい)を射出成形する方法、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂とポリアルキレングリコール含有エチレン系共重合体ゴムとポリプロピレン系樹脂とをペレットブレンドした物(必要に応じて他のペレットをブレンドしてもよい)を射出成形する方法などをあげることができる。
【0029】
本製造方法において、ポリプロピレン系樹脂、エチレン系共重合体ゴム、無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂を混合する際の各成分の配合量としては、耐衝撃性と剛性のバランスを高める観点から、成形体中のポリプロピレン系樹脂100重量部あたり、5〜60重量部のエチレン系共重合体ゴムと、5〜60重量部の無機充填剤となる配合量であることが好ましく、成形体中のポリプロピレン系樹脂100重量部あたり、10〜40重量部のエチレン系共重合体ゴムと、10〜40重量部の無機充填剤となる配合量であることがより好ましい。
【0030】
本製造方法により得られる成形体は、バンパー、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックスなどの自動車部品;家電部品などに好適に用いられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により説明する。
I.物性測定方法
(1)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210−1995に従って測定した。ポリプロピレン系樹脂は、温度230℃、荷重21.18Nの条件で、エチレン系共重合体ゴムは、温度190℃、荷重21.18Nの条件で行った。
(2)密度(単位:kg/cm3
JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定した。
(3)衝撃強度(単位:KJ/m2
ASTM D256に従って測定した。試験温度は23℃とし、射出成形により得られ、幅が3.2mm、射出成形後にVノッチタイプの切り欠きを施した試験片を使用した。本値が高いほど耐衝撃性に優れる。
(4)曲げ弾性率(単位:MPa)
ASTM D790に従って測定した。射出成形により得られ、厚みが6.4mm、長さが100mm、幅が12.8mmの試験片を用い、荷重速度2mm/分、試験温度を23℃とした。本値が高いほど剛性に優れる。
【0032】
II.材料
(1)ポリプロピレン系樹脂
PP:住友化学工業(株)製ノーブレン AZ161C(MFR=30g/10分)
(2)エチレン系共重合体ゴム
ゴム:エチレン・1−ブテン共重合ゴム(MFR=15g/10分、密度=870kg/m3
(3)タルク含有ポリプロピレン系樹脂
下記、ポリプロピレン系樹脂(PP−M)、タルクおよびポリエチレングリコール(PEG)を、表1に示す割合で二軸押出機(東芝機械(株)製 TEM35B)を用いて220℃で溶融混練して、MB1およびMB2の各タルク含有ポリプロピレン系樹脂のペレットを製造した。
PP−M:住友化学工業(株)製ノーブレン AZ161C(MFR=30g/10分)
タルク:林化成(株)製 MW HS−T(平均粒径=2.7μm)
PEG:第一工業製薬(株)製 PEG4000(平均分子量=3060)
【0033】
【表1】

【0034】
III.実験例
実施例1および比較例1
ポリプロピレン系樹脂とエチレン系共重合体ゴムとタルク含有ポリプロピレン系樹脂とを表2に示す割合で混合(ドライブレンド)して、射出成形機に供し、射出成形した。得られた成形体の物性評価結果を表2に示す。
【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂100重量部あたり20〜300重量部の無機充填剤を含有する無機充填剤含有ポリプロピレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂と、エチレン系共重合体ゴムとを、無機充填剤、ポリプロピレン系樹脂およびエチレン系共重合体ゴムの総量100重量部あたり、0.1〜2重量部のポリアルキレングリコールの存在下で混合し、射出成形または押出成形することを特徴とする成形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−83198(P2006−83198A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266331(P2004−266331)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(591229440)住化カラー株式会社 (22)
【Fターム(参考)】