説明

成形品およびその管理方法

【課題】成形品の個別管理に対する工数を簡素化すると共に、管理情報を刻印するための平滑化処理を行なう必要がなく、かつ管理情報の読取率の向上を図ること。
【解決手段】カムシャフト10(成形品)の鋳造後の鋳肌11の一部に電子透かしパターン12を直接刻印して、その刻印された電子透かしパターン12を読み取る。また、カムシャフト10(成形品)に関する管理情報を生産工程中に収集して、個別管理ができる管理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品およびその管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品の管理方法として、その成形品を収納する容器にICタグを付与して、当該成形品を追跡できる管理方法が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−209180号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される成形品の管理方法では、その成形品を収容する容器からICタグが外れてしまうと、当該成形品を追跡することができなくなる。また、当該成形品を部品の一部として使用する生産工程や加工工程などでは、当該容器に収容したままこれらの工程処理を行なうことができないため、そのような工程内における成形品の管理方法として採用することができない。したがって、様々な工程を経て生産される成形品の場合には、当該方法によって管理をすることができない。
【0005】
また、特許文献1に開示される成形品の管理方法は、ある数量のロット単位で纏められた自動車部品と、その自動車部品を取り付けた車体とを関連付けたデータベースを構築している。そして、このデータベースを用いて、それらの自動車部品の追跡を可能にしている。しかし、このような管理方法では、たとえば成形品単位のリードタイム管理、種類管理、トレーサビリティ管理、真贋判定など、いわゆる成形品の個別管理をすることができない。
【0006】
また、成形品を個別に管理する方法としては、管理情報が記録されている2次元コードをその成形品に刻印して管理情報を読み取ることにより、当該成形品を個別に管理する方法も考えられる。
【0007】
しかし、2次元コードが成形後の鋳肌に刻印されると、その鋳肌の表面上の粗さにより2次元コードを形成するドット形状が変化してしまう。その結果、刻印された2次元コードの読取率が著しく悪化もしくは読み取れなくなる。そこで、2次元コードの刻印を行なうためには、成形品に対して鋳肌の表面上の粗さを取り除く平滑化処理を事前に行なう必要がある。この平滑化処理は、成形品の個々に対して行なう必要があるため、成形品の個別管理に対する工数を増大させ、それに伴う費用も増大させることとなる。
【0008】
更に、仮に上述した平滑化処理をおこなった加工済み面に2次元コードを刻印したとしても、その2次元コードの一部が、成形品の生産過程によって生じる切粉、水滴、切削油などの異物が付着して汚れるまたは破損して傷がつくことにより、記録されている管理情報がまったく読み取れなくなる恐れがあり、平滑化処理のみでは読取率の低下を防ぐことはできない。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、成形品の個別管理に対する工数を簡素化すると共に、管理情報を刻印するための平滑化処理を行なう必要がなく、かつ管理情報の読取率の向上が見込まれる成形品およびその管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上述した課題を解決するために、以下のように構成した。すなわち、本発明は、可視化された電子透かしによるパターンが鋳造後の鋳肌に直接刻印されている成形品である。
【0011】
このような成形品は、刻印された電子透かしによるパターンとして所望の管理情報を記録しておけば、それを読み取ることで容易に個別管理をすることができる。また、このような成形品は、電子透かしによるパターンを鋳肌に刻印するのみであるため、成形品の個別管理に対する工数が簡素化され、個別管理に対する費用も低減される。
【0012】
更に、このような成形品は、成形品を組み込んだ製品が出荷された後においても、成形品単位でのトレーサビリティを確保することもできる。更に、このような成形品は、その刻印された情報の所在が第三者に知られにくいことから、刻印された情報に基づいて成形品単位で真贋判定を行なうこともできる。更に、このような成形品は、成形品の鋳肌に管理情報が刻印されるため、成形品の外観上の美観に影響を与えることなく、個別管理を行なうこともできる。したがって、外観に影響を及ぼすと不都合が生じるような成形品であっても、同様に個別管理を行なうこともできる。
【0013】
他の発明は、上述した発明に加え、以下の特徴を有するものである。すなわち、電子透かしによるパターンは、そのパターン中に同一情報が繰り返し記録されているものである。
【0014】
このような成形品は、上述した効果に加え、刻印された電子透かしによるパターンの一部が、成形品の生産過程によって生じる切粉、水滴、切削油などの異物が付着して汚れるまたは破損して傷がつくことにより、まったく読み取れなくなった場合でも、他の部分により記録されている情報を読み取ることができる。したがって、このような成形品は、2次元コードによる刻印方法に比べて読取率の向上が見込まれる。また、このような成形品は、当該成形品が有する鋳肌に対する平滑化処理を事前に行なう必要がない。
【0015】
更に、このような成形品は、電子透かしによるパターンを直接刻印する工程と検出する工程のみで実現できることから、容易に従来の生産工程に組み込んで生産することができる。
【0016】
また、他の発明は、上述した発明に加え、以下の特徴を有するものである。すなわち、電子透かしによるパターンは、素形材を加工することによって前記成形品を定品とする生産工程中に刻印されるものである。
【0017】
このような成形品は、上述した効果に加え、素形材を加工して成形品となる生産工程中に刻印されることで、成形品の生産工程と個別管理工程を一連の工程として効率よく行なうことができる。なお、成形品への刻印工程は、生産工程内の初期段階に組み込まれることが好ましい。
【0018】
また、他の発明は、上述した発明に加え、以下の特徴を有するものである。すなわち、電子透かしによるパターンは、素形材を加工することによって成形品を定品とする生産工程中に検出されるものである。
【0019】
このような成形品は、上述した効果に加え、素形材を加工して成形品となる生産工程中に情報が検出されることで、より詳細な工程段階における個別管理を行なうことができる。たとえば、生産工程中の各工程において管理情報が検出されることで、成形品単位のリードタイム管理や成形品の種類管理を行なうことができる。
【0020】
また、他の発明は、成形品の鋳造後の鋳肌に可視化された電子透かしによるパターンを直接刻印するステップと、素形材を加工することによって成形品を定品とする生産工程中またはその定品後の検査工程中に上記電子透かしによるパターンを検出するステップと、を有し、検出したパターンから記録されている情報を読み取って成形品の管理を行なうものである。
【0021】
このような管理方法は、刻印された電子透かしによるパターンとして所望の管理情報を記録しておけば、それを読み取ることで容易に成形品の個別管理をすることができる。また、このような管理方法は、鋳肌に電子透かしによるパターンを刻印するのみであるため、成形品の個別管理に対する工数が簡素化され、個別管理に対する費用も低減される。
【0022】
更に、このような管理方法は、成形品を組み込んだ製品が出荷された後においても、成形品単位でトレーサビリティを確保することもできる。更に、このような管理方法は、その刻印された情報の所在が第三者に知られにくいことから、刻印された情報に基づいて成形品単位で真贋判定方法として応用することもできる。更に、このような管理方法は、成形品の鋳肌に管理情報が刻印されるため、成形品の外観上の美観に影響を与えることなく、個別管理を行なうこともできる。したがって、外観に影響を及ぼすと不都合が生じるような成形品であっても、同様に個別管理を行なうこともできる。
【0023】
また、他の発明は、可視化された電子透かしによるパターンを成形品の鋳肌に直接刻印するステップと、成形品の個々について、生産工程および/または検査工程での情報を集約するステップと、を有し、集約した情報に基づいて所定の管理を行なうものである。
【0024】
このような管理方法は、たとえば自動車部品のような数万点にも及ぶ成形品であっても、生産工程および/または検査工程にて個々の成形品単位での所望の情報を収集し、その成形品の工程ごとに個別管理を行なうことができる。すなわち、このような管理方法で収集される情報は、各工程段階における成形品の詳細な情報であるため、成形品の品質向上のための検討情報として、あるいは生産効率の改善ための検討情報として活用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、成形品の個別管理を可能にすると共に、管理情報を刻印するための平滑化処理を行なう必要がなく、かつ管理情報の読取率の向上が見込まれる成形品およびその管理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る成形品を示す図で、(A)は、成形品であるカムシャフト10の鋳造後の鋳肌11の一部に電子透かしパターン12(電子透かしによるパターン)が刻印された図であり、(B)は、電子透かしパターン12が刻印されている鋳肌11の一部(図1(A)の点線部分)を拡大した図である。
【0028】
図1(A)に示すカムシャフト10は、自動車などに用いられるエンジンの構成部品の一つであり、バルブを開閉する各気筒のカムを纏めて1本に備えているシャフト(軸)である。また、図1(B)に示すように、カムシャフト10の未加工面である鋳肌11には可視化された電子透かしパターン12(可視化した電子透かしによるパターン)が刻印されている。なお、鋳肌とは、鋳造後の金属表面の状態のことをいう。
【0029】
この可視化された電子透かしパターン12は、カムシャフト10の鋳肌11の表面にうっすらと肉眼で確認できる程度に、模様的にかつ直接刻印されている。また、その刻印された凹凸によって可視化された電子透かしパターン12が形成されている。また、可視化された電子透かしパターン12中には、同一の情報が繰り返し含まれている。また、可視化された電子透かしパターン12に埋め込まれている情報は、同一情報が数十個繰り返し配置されている。この数十個の同じ情報の各々は、非常に小さい領域内に埋め込まれている。また、可視化された電子透かしパターン12は、可視化されている画像情報に不可視的に埋め込まれる電子透かしとは異なり、電子透かしパターン12自体が所定のアルゴリズムによって画像情報として生成され、その画像情報に基づいて、レーザーマーカ(不図示)によりカムシャフト10に刻印されるものである。
【0030】
続いて、図2を参照しながら本発明の第2実施形態について説明する。
【0031】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る成形品を示すもので、(A)は、成形品である成形品であるコネクティングロッド20(以下、コンロッド20という)の素形材の鋳肌21の一部に電透かしパターン22(電子透かしによるパターン)が刻印された図であり、(B)は、電子透かしパターン22が刻印されている鋳肌21の一部(図2(A)の点線部分)を拡大した図である。
【0032】
図2(A)に示すコンロッド20は、自動車などに用いられるエンジンの構成部品の一つであり、クランクシャフト(不図示)との連動によりピストンの往復直線運動を回転運動に変換する部品である。また、図2(B)に示すようにコンロッド20の未加工面である鋳肌22には可視化された電子透かしパターン22(可視化した電子透かしによるパターン)が刻印されている。なお、可視化された電子透かしパターン22は、上述した可視化された電子透かしパターン12と同様であるため、説明を省略する。
【0033】
上述した各実施形態における電子透かしパターン12,22に埋め込まれている情報は、成形品又は成形品に関連した製造ロット番号、日付、製造場所、製造機器、製造担当者、真贋判定情報またはこれらと関連付けられた識別情報の1つまたは複数とすることができる。ここで、関連付けられた識別情報とは、たとえば10桁の英数字から構成される識別情報であり、この識別情報がデータベース上において上述した情報と関連付けられている。
【0034】
このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、刻印された電子透かしパターン12,22として所望の管理情報を記録しておけば、それらを検出して読み取ることによりカムシャフト10およびコンロッド20単位の個別管理を行なうことができる。また、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、これらの未加工面である鋳肌11,21に電子透かしパターン12,22を直接刻印するのみで、個別管理ができる。したがって、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、個別管理に対する工数が簡素化され、個別管理に対する費用も低減することができる。また、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、可視化された電子透かしパターン12、22中に、同一の情報が繰り返し含まれているため、管理情報を刻印するための平滑化処理を行なう必要がない。
【0035】
更に、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、電子透かしパターン12,22を刻印する工程と検出する工程を追加するのみで、従来の自動車の生産工程に容易に組み込むことができる。更に、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、これらが有する鋳肌11,21に管理情報が読み取れる電子透かしパターン12,22が刻印されるため、これらの外観上の美観に影響を与えることなく、個別管理を行なうことができる。なお、このようなカムシャフト10およびコンロッド20以外の成形品であって、外観に影響を及ぼすと不都合が生じるような成形品であっても、同様に個別管理を行なうことができる。
【0036】
更に、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、製品出荷後や自動車の中に組み込まれた後でも刻印された電子透かしパターン12,22を検出して読み取ることにより、カムシャフト10およびコンロッド20単位でトレーサビリティ管理を行なうことができる。更に、このようなカムシャフト10およびコンロッド20は、その刻印された電子透かしパターン12,22の所在が第三者に知られにくいことから、電子透かしパターン12,22に記録されている情報に基づいてカムシャフト10およびコンロッド20単位で真贋判定を行なうこともできる。
【0037】
続いて、上述した本発明の第1実施形態に係るカムシャフト10と第2実施形態に係るコンロッド20に電子透かしパターン12,22を刻印し、リーダーで読み取れるか否かを所定の条件下においておこなった実験について説明する。
【0038】
図3は、図1および図2に示す本発明の第1実施形態および第2実施形態に係る成形品であるカムシャフト10およびコンロッド20に電子透かしパターン12,22を所定条件下において刻印し、読み取った実験結果を示す図である。図3に示す表の横に示す各列について簡単に説明する。
【0039】
「成形品」は、対象となる成形品を示す項目である。図3に示すように本発明の第1実施形態であるカムシャフト10(図3中のカムシャフト(A−1)〜(B−4))および第2実施形態であるコンロッド20(図3中のコンロッド(C−1)〜(G−1))がそれぞれ示されている。
【0040】
「点間隔(ミクロン)」は、電子透かしパターン12,22のドット(点)間隔の設定を示している。「表示サイズ(ミリ)」は電子透かしパターン12,22を表示させる領域サイズ(縦×横)の設定を示している。「照射時間」は、レーザーマーカから電子透かしパターン12,22を刻印するための照射時間の設定を示している。「刻印時間」は、レーザーマーカーでの電子透かしを刻印する時間を示している。
【0041】
「MC70」、「MC3090」は、本実験にて用いたモトローラ株式会社製の携帯型のイメージリーダーを示している。また、「MC70」、「MC3090」は、更にこれらのイメージリーダーに搭載されたライト状態を示す「Light On」と「Light Off」と、外部環境を示す「照度(500lx)昼・室内」、「照度(420lx)夜・室内」とを示す項目を有している。また、「成形品」の各項目と上述したイメージリーダーの各項目が交わる項目欄には、それぞれの状況で複数回実験した場合において、電子透かしパターンがすべて読み取れた場合には「○」、電子透かしパターンがまったく読み取れなかった場合には「×」、電子透かしパターンが読み取れたり、読み取れなかったりする場合には「△」と表示している。また、上記「○」、「×」、「△」が表示されていない空欄部分は、実験をしていないことを示している。なお、照度は室内のおおよその数値であり、イメージリーダーの照度は含まれていない。また、MC3090の読取プログラムはα版を使用した。
【0042】
図3に示す実験データからわかるように、カムシャフト10においては、「点間隔(ミクロン)」が120ミクロンよりは100ミクロンのほうが望ましい結果となった。また、「照射時間」については、2000から5000までの実験を行なったが、カムシャフト(B−2)の4000を照射した場合が、全ての環境において電子透かしパターン12を読み取ることができ、好ましい結果となった。また、「刻印時間(秒)」については、48秒〜101秒とばらつきがあるが、ほとんどの場合に読み取ることができた。
【0043】
一方、コンロッド20は、読み取れる場合よりも読み取れない場合が多く、ほぼ読み取れた結果となったのは、コンロッド(C−1)とコンロッド(E−2)のみであった。「点間隔(ミクロン)」については、140ミクロンである場合(たとえば、E−1、E−2、F−2)が、読み取れることが多く、最も好ましい結果となった。また、「表示サイズ(ミリ)」については、42×42(たとえば、E−1、E−2、F−2)が多く、最も好ましい結果となった。また、「照射時間」については、4000と7000(たとえば、E−2、F−2)が好ましい結果となった。「刻印時間(秒)」については、48秒〜136秒とばらつきがあったが、特に刻印時間に相関した読取結果については得られなかった。
【0044】
続いて、成形品の管理方法について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る成形品Yの生産工程Pに刻印工程30と、加工工程31,32,33と、検査工程41,42,43と、を含んだ図である。
【0045】
図4に示すように、この生産工程Pは、成形品の加工前の素形材Xを成形品Yとするものである。なお、加工前の素形材Xとしては、たとえば鋳造後のカムシャフト10であったり、鋳造後のコンロッド20であったりする。生産工程P中には、刻印工程30, 加工工程31,32,33,検査工程41,42,43を含んでいる。
【0046】
すなわち、生産工程P中に、素形材Xの鋳造後の鋳肌に可視化された電子透かしパターンを直接刻印するステップである刻印工程30と、素形材Xに対して所定の加工を行なう加工工程31,32,33と、各加工工程31,32,33の後に電子透かしによるパターンに記録されている情報を素形材Xから検出するステップである検査工程41,42,43と、を有している。
【0047】
そして、生産工程Pは、各検査工程41,42,43において検出したパターンから記録されている情報を収集してデータベース50に保存することで、加工前の成形品である素形材Xから成形品Yを生産する際の生産過程におけるリードタイム、個数、品質検査結果などの管理を可能としているものである。なお、生産工程P中の検査工程41,42,43の各工程間には、素形材Xに対して行なわれる加工工程31,32,33の他に品質検査工程等(不図示)が含まれていてもよいものとする。
【0048】
続いて、図4に示した生産工程P中の各工程について説明する。なお、説明にあたっては、図1に示したカムシャフト10を例示する。
【0049】
刻印工程30は、鋳造後の素形材Xの鋳肌に可視化された電子透かしによるパターンを刻印する工程である。刻印工程30では、たとえば図5(A)に示すようにレーザーマーカ13から放射されるレーザービームにより、カムシャフト10の鋳肌11に電子透かしパターン12を刻印する。なお、電子透かしパターン12は、予めレーザーマーカ13が有する記憶部(不図示)に画像情報として保存されているものとする。
【0050】
レーザーマーカ13は、たとえばYAG(Yttrium Aluminum Garnet 以下、単にYAGとする)レーザーやCO2レーザーを発振するレーザー発振機を有するレーザーマーカなどを使用することができる。
【0051】
このような素形材X(のちの成形品Y)としてのカムシャフト10は、生産工程P中に電子透かしパターン12が刻印されるため、カムシャフト10の生産工程と個別管理工程を一連の工程として効率よく行なうことができる。なお、カムシャフト10の刻印工程30は、図4に示すように、カムシャフト10の生産工程Pの初期段階に組み込まれることが好ましい。
【0052】
また、このような素形材X(のちの成形品Y)としてのカムシャフト10は、たとえば図5(B)に示すように電子透かしパターン12の一部が、生産工程Pの過程によって生じる切粉、水滴、油滴などの異物Gが付着して汚れるまたは破損して傷Jがつくことにより、まったく読み取れなくなっても、可視化された電子透かしパターン12中に、同一の情報が繰り返し含まれているため、他の部分により記録されている情報を読み取ることができる。したがって、このような素形材Xとしてのカムシャフト10は、2次元コードによる刻印方法に比べて読取率の向上が見込まれる。
【0053】
加工工程31,32,33は、素形材Xに対して行なわれる種々の加工工程である。加工工程31,32,33は、たとえば、カムシャフト10の場合には、素形材Xの成形工程、熱処理、ブライト処理やデフリック処理などの表面処理が含まれる。
【0054】
検査工程41,42,43は、素形材Xに対して行なわれる種々の検査工程である。検査工程41,42,43は、たとえば、図5(B)に示すように、CCD機能を有する検査カメラ14を含むものである。検査カメラ14は、刻印工程30においてカムシャフト10の鋳肌11の一部に刻印された電子透かしパターン12を検出する。
【0055】
検出された電子透かしパターン12は、検査カメラ14と接続されている制御部(不図示)により所定のアルゴリズムにしたがって記録されている情報として読み取られ、検査工程41において情報Aとして収集されて、データベース50に記録される。また、検査工程42,43および完成した成形品Yの最終検査工程における各情報(情報B,C,D)も同様に上述した制御部により収集されてデータベース50に記録される。
【0056】
このような素形材X(のちの成形品Y)としてのカムシャフト10は、生産工程P中に情報A,B,C,Dが検出されることで、検査工程41,42,43の間に行なわれる詳細な工程段階においても個別管理を行なうことができる。たとえば、生産工程での製品情報管理手順としては、各検査工程41,42,43で刻印部を認識することで、カムシャフト10の生産種類やリードタイム管理をすることもできる。
【0057】
また、たとえば検査工程41,42,43において刻印部を認識させ、人や設備などによるカムシャフト10の品質検査結果と関連付けて管理することもできる。また、たとえば、最終検査工程である検査工程43においてカムシャフト10の生産品種、個数、リードタイム等の生産情報管理を行なうこともできる。
【0058】
生産工程Pを管理するためのデータベース50は、検査工程41,42,43における検査結果となる情報A,B,Cと、成形品Yの検査結果となる情報Dを収集して管理する。なお、データベース50は、たとえばPCなどの制御部、記憶部などを有した情報処理装置(不図示)にRMDB(Relational Management DataBase)として構築することにより実現することができる。
【0059】
このような管理方法とすることで、成形品Yの鋳肌に電子透かしによるパターンを刻印するのみで、あらゆる管理方法に容易に採用することができる。また、このような管理方法は、2次元コードによる刻印方法のように刻印できる箇所が加工済み面に限定されることがないため、多種多様な成形品に対して容易に採用することができる。
【0060】
また、このような管理方法は、製品出荷後においても問題なくトレーサビリティ管理ができる。また、このような管理方法は、その刻印された情報の所在が第三者に知られにくいことから、刻印された情報に基づいて真贋判定をする場合にも応用することができる。
【0061】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない限り種々変更実施できる。たとえば、成形品およびその管理方法としてカムシャフト10やコンロッド20を例として挙げたが、この他にも、エンジンブロック、クランク、カムヘットボルト、ワッシャ−、シール、ステッカーなどの自動車部品全般の製品または部品などのいずれか一つまたはこれらを複数組み合わせて構成されるものであって、それらの鋳肌に可視化された電子透かしによるパターンが刻印または印刷が可能である成形品やその管理方法としてもよい。また、他の成形品およびその管理方法は、金属、ガラス、樹脂、紙、包装紙、パッケージなどの民生品全般の製品または部品などのいずれか一つまたはこれらを複数組み合わせて構成されるものであって、成形後の肌面に可視化された電子透かしによるパターンが刻印または印刷が可能である成形品やその管理方法としてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、電子透かしによるパターンを検出工程41,42,43において検査カメラ14による自動認識としている。この他にもたとえば、図6に示すように検出工程で人間による認識(目視検査)も併せて行なうべく、電子透かしによるパターンを文字12Aや数字12Bとして鋳肌11に刻印してもよい。これにより、検出工程41,42,43における検査カメラ14による自動認識に加えて、人間による目視検査も行なうことができる。
【0063】
また、本実施形態では、管理対象となる成形品の単一箇所に電子透かしによるパターンを刻印している。この他にもたとえば、管理対象となる成形品の複数箇所に、異なる管理情報が埋め込まれた電子透かしパターンをそれぞれ刻印することによって管理目的に応じた成形品やその管理方法としてもよい。たとえば、真贋判定を目的として成形品Yの鋳肌に真贋情報が記録された電子透かしパターンとして刻印する一方で、当該成形品Yの底面には、トレーサビリティを確保する目的で他の管理情報が記録された電子透かしパターンを刻印するなどである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、すべての成形品の管理方法として適用できる。特に、自動車部品のように鋳肌を有する成形品の管理方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態に係る成形品を示す図で、(A)は、成形品であるカムシャフトの鋳肌の一部に電子透かしパターンを刻印した図で、(B)は、電子透かしパターンが刻印されている鋳肌の一部(図1(A)の点線部分)を拡大した図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る成形品を示す図で、(A)は、成形品であるコンロッドの鋳肌の一部に電子透かしパターンを刻印した図で、(B)は、電子透かしパターンが刻印されている鋳肌の一部(図2(A)の点線部分)を拡大した図である。
【図3】図1および図2に示す本発明の第1実施形態および第2実施形態に係る成形品であるカムシャフトおよびコンロッドに電子透かしパターンを所定条件下において刻印し、読み取った実験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る成形品の生産工程に刻印工程および検査工程を含んだ図である。
【図5】図4に示す生産工程に含まれる工程を示す図であり、(A)は刻印工程を示す図であり、(B)は検査工程を示す図である。
【図6】図4に示す検査工程において電子透かしパターンによる文字や数字による刻印の例である。
【符号の説明】
【0066】
10 カムシャフト(成形品の実施形態1)、20 コンロッド(成形品の実施形態2)、11,21 鋳肌、12,22 電子透かしパターン(電子透かしによるパターン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視化された電子透かしによるパターンが鋳造後の鋳肌に直接刻印されていることを特徴とする成形品。
【請求項2】
前記電子透かしによるパターンは、そのパターン中に同一情報が繰り返し記録されていることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記電子透かしによるパターンは、素形材を加工することによって前記成形品を定品とする生産工程中に刻印されることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項4】
前記電子透かしによるパターンは、素形材を加工することによって前記成形品を定品とする生産工程中に検出されることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
【請求項5】
成形品の鋳造後の鋳肌に可視化された電子透かしによるパターンを直接刻印するステップと、
素形材を加工することによって上記成形品を定品とする生産工程中またはその定品後の検査工程中に上記電子透かしによるパターンを検出するステップと、を有し、
上記検出したパターンから記録されている情報を読み取って上記成形品の管理を行なうことを特徴とする成形品の管理方法。
【請求項6】
可視化された電子透かしによるパターンを成形品の鋳肌に直接刻印するステップと、
上記成形品の個々について、生産工程および/または検査工程での情報を集約するステップと、を有し、
上記集約した情報に基づいて所定の管理を行なうことを特徴とする成形品の管理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−262165(P2009−262165A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111766(P2008−111766)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(506118836)デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社 (28)
【Fターム(参考)】