説明

成形品の成形方法

【課題】光輝材を添加した樹脂材料を、凹凸部を含む成形空間に注入しても、「流れ模様」が発生しない光沢のある成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】外観側面を成形する金型とその反対面を成形する金型を開放して成形品を取り出す「型開き」のときに、ヒーターユニットを前進させて金型を加熱し、両金型を閉じる「型閉め」を行った後も金型の加熱を継続して、例えば90℃〜140℃まで暫時上昇させる。その後、金型の温度が140℃になった段階で、成形空間に光輝材を含む樹脂材料の注入を開始し、樹脂材料の注入が完了した段階で、金型を冷却するための冷却水を通水して金型の温度を降下させる。最後に金型が初期の温度まで下がったら、型開きして成形品を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝材を含有した樹脂材料を成形して光沢のある成形品を作製する成形方法に関し、特に金型の温度調整を、樹脂の注入以前から温度制御しつつ成形品を成形する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な樹脂成形に用いられる成形金型装置は、一対の金型すなわちキャビティ型とコア型とを有している。通常、成形金型装置は、キャビティ型とコア型の両金型の間に形成される成形空間に溶融樹脂を射出・注入して成形を行う。特に、成形品に光沢をもたらすために、アルミ粉やマイカ粉のような光輝材を成形樹脂材料に添加することが行われている。
【0003】
このような成形金型装置では、成形時に金型の成形空間内を流動する樹脂が合流する箇所に所謂ウェルドラインが生じたり、文字等の凹凸部が設けられる成形品の表面に「流れ模様」が現れたりするといった問題が生じ、成形品の見栄えが損なわれる、という不都合があった。
【0004】
すなわち、成形品に光沢を出すためにいわゆる光輝材として「魚の鱗」のような鱗片状のアルミ粉(アルミ顔料)を樹脂に混入させる。「流れ模様」が生じるのは、このアルミ顔料が、例えば文字の段差のような成形品の凹凸部において、完全に平面状に整列しないで倒れる(傾く)という現象が生じるからであろうと考えられる。つまり、樹脂を金型に注入する際に、アルミ顔料(フレーク)の整列が成形品の凹凸部において乱れ、それが外から見たときに乱反射となって現れる。その結果、その見え方の違いが「ムラ」となり流れ模様が生じるのである。
【0005】
このような流れ模様が表面に現れた成形品は、外観を損ない商品価値を低下させる。そのため、この模様を消すための塗装が不可欠となり、成形品を製作する上で新たな作業工程が発生してしまう。このため、樹脂成形品表面に「流れ模様」が現れないような樹脂成形品を製作することが求められていた。
【0006】
特許文献1に記載のものは、光輝材を添加した樹脂材料性の成形品を作製するサイドゲート式の射出成形金型であり、成形のための空間となる製品部に、樹脂材料を射出するためのサイドゲートを備え、このサイドゲートの形状を四角形状として、その角部を湾曲に形成するものである。この射出成形金型では、上述したウェルドライン発生を効果的に防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4120701号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に代表されるような従来の金型を用いた成形品の成形方法では、特に光沢を出すために光輝材としてアルミ顔料を用いた場合には、文字等の段差を持つ成形品の凹凸部に現れる「流れ模様」をなくすことができない。この「流れ模様」は、既に説明したように、成形品の凹凸部において、アルミ顔料が平面状に整列しないため、外光が乱反射するために生じると考えられる。
【0009】
発明者等は、従来の方法で作製した成形品に生じる「流れ模様」を除去するために試行錯誤した結果、成形空間に注入するアルミ顔料を、凹凸部も含めて成型品の外観表面と平行に配列することができれば、「流れ模様」の発生を防ぐことができると予測した。このため、既に開発した成型品のウェルドラインをなくすために、金型の加熱温度を制御する技術が有効であると考え、この温度制御をより緻密に制御することにより「流れ模様」が現れなくなることを発見した。
【0010】
本発明の目的は、光輝材を添加した樹脂材料を、凹凸部を含む成形空間に注入しても、外光が乱反射しない、つまり外観面に流れ模様が発生しない光沢のある成形品の成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の光沢のある成形品の成形方法は、成形品の外観側の面を成形する第一金型とその反対側の面を成形する第二金型とで形成される成形空間に、光輝材を含む樹脂材料を注入して光沢のある成形品を作製する成形方法である。
本発明の成形方法によれば、以下のステップ(a)〜(e)を含んでいる。
(a)外観側面を成形する第一金型とその反対面を成形する第二金型を開放して成形品を取り出す「型開き」のときに、第一金型内に配置されるヒーターユニットを前進させて第一金型を加熱するステップ、
(b)第一金型と第二金型を閉じる「型閉め」を行った後に、ヒーターユニットにより第一金型の加熱を継続し、第一金型の温度を第1の温度(例えば90℃)から第2の温度(例えば140℃)まで暫時上昇させるステップ、
(c)第一金型の温度が第2の温度になった段階で、成形空間に光輝材を含む樹脂材料の注入を開始するステップ、
(d)成形空間へ光輝材を含む樹脂材料の注入が完了した段階で、ヒーターユニットを後退させるとともに、第一金型を冷却するための冷却水を通水し、第一金型を第2の温度から第1の温度まで下降させるステップと、
(e)第一金型が第2の温度まで下降した冷却完了の段階で、第一金型と第二金型とを型開きして成形品を取り出すステップ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金型を用いた光沢のある成形品の成形方法によれば、光輝材を添加した樹脂材料の成形過程で、金型に配設されたヒーターユニットの温度を、微妙に調節したため、光輝材の向きを整えることでき、成形品の外観面に「流れ模様」を発生させることがない。本発明の成形方法により、成形品体の外観面に「流れ模様」がなく光沢が維持された成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の成型方法を用いる成形金型システムの全体構成を示した模式図である。
【図2】図1の成形金型システムの主要構成である成形金型装置を示す断面図である。
【図3】図1の成形金型システムの主要構成である温度制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】従来の方法で成形品を成形する場合に、文字の凹凸部で流れ模様が出てしまうことを説明する図である。
【図5】本発明の実施形態の成形方法で成形品を成形した場合に、文字の凹凸部での「流れ模様」がなくなることを説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態の方法で成形品を成形する手順とその温度の関係を示す図である。
【図7】図6に示した成形品の成形手順の各工程における金型成形装置の状態を説明するための図(その1)である。
【図8】図6に示した成形品の成形手順の各工程における金型成形装置の状態を説明するための図(その2)である。
【図9】本発明の実施に形態に用いられる金型を作成する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[成形金型システムの構成例]
以下、本発明の実施の形態例(以下、「本例」ということもある。)について、図1〜図9を参照して説明するが、まず、本発明の光沢のある成形品の成形方法が適用される成形金型システム全体の構成例について、図1を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の光沢のある成形品の成型方法が実施される成形金型システム1は、成形金型装置2と、温度制御装置3と、真空装置4と、チラー機(送水装置)5とから構成されている。また、成形金型システム1は、成形金型装置2内のシリンダ17cの温度等を制御するための冷却水・エア制御ボックス8を有している(図2、3参照)。
【0016】
また、本例の成形金型装置2に用いられる樹脂材料は、成形品に光沢を出すためにいわゆる光輝材として「魚の鱗」のような鱗片状のアルミ粉(アルミ顔料)やマイカ粉を樹脂に添加したものを用いる。樹脂材料としては、例えば、濤和化学株式会社製「Colored pellet」を用いる。
【0017】
成形金型装置2は、冷却水・エア制御ボックス8を介して温度制御装置3に、電気的に接続されている。また、成形金型装置2は、成形機6と、金型7とを有している。成形機6は、金型7の型閉め及び型開き動作を行う機械であるが、この成形機6は、金型7内に溶融させた樹脂材料を射出する機能も有している。温度制御装置3は、後述するヒーター17aの温度、射出指令温度、冷却下限温度等を入力する入力部31を備えている。
【0018】
なお、本例では、温度制御装置3と冷却水・エア制御ボックス8を別装置として構成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、温度制御装置3と冷却水・エア制御ボックス8を一つの装置として一体に構成してもよい。
【0019】
[成形金型装置2の構成例]
次に、図2を参照して成形金型装置2の具体的な構成について説明する。
図2に示すように、成形金型装置2は、上部金型(第一金型)と下部金型(第二金型)からなる一対の金型7を備えている。この金型7のうち、上部金型はキャビティ型11と呼ばれ、下部金型はコア型12と呼ばれる。キャビティ型11とコア型12は、互いに向き合った状態で設置され、相対的に開閉する構造になっている。また、キャビティ型11の上方には、取付プレート21が配設されている。
【0020】
キャビティ型11には、その中心部に型本体としてのキャビティ入れ子13が組み込まれている。そして、このキャビティ入れ子13の周辺には断熱板14が設けられている。
このような構成を持った成形金型装置2では、キャビティ型11とコア型12を合わせた型閉め状態において、キャビティ入れ子13とコア型12との間に成形空間15が形成される。この成形空間15に不図示のゲートから溶融させた樹脂材料が射出・注入され、注入された樹脂材料が成形空間15の形状に合った成形品100として成形される。
【0021】
なお、本例では、キャビティ型11を第一金型とし、コア型12を第二金型としたが、これに限定されるものではなく、コア型12を第一金型とし、キャビティ型11を第二金型としてもよい。
【0022】
また、キャビティ入れ子13は、フロントプレート13aとバックプレート13bに分割された構造になっている。フロントプレート13aは、コア型12と対向する成形部(凹型)15aを有している。このフロントプレート13aには、図示しない複数の温度センサ16が設けられている。そして、複数の温度センサ16により、フロントプレート13a内の温度分布が検出される。この複数の温度センサ16は、温度制御装置3と電気的に接続されている。
【0023】
キャビティ入れ子13のバックプレート13bは、フロントプレート13aの背面側に配置される。このバックプレート13bは、フロントプレート13aよりも熱伝導率の低い材料を用いて構成されている。
【0024】
更に、成形金型装置2は、キャビティ入れ子13の内部に3つのヒーターユニット17を設けている。なお、ヒーターユニット17は3つに限定されるものではなく、その数は成形品の大きさや形状に応じて任意に設定できるものである。
【0025】
ヒーターユニット17は、ヒーター17aと、温度センサ17bと、シリンダ17cとを有している(図3参照)。このヒーターユニット17は、キャビティ入れ子13を構成するバックプレート13bの内部に配置されている。詳細については後述するが、このヒーターユニット17でフロントプレート13aの温度を制御することにより、特に光沢を持った成形品の表面に現れがちな「流れ模様」の発生を防ぐことができる。
【0026】
[温度制御装置の構成例]
図3は、本発明が適用される温度制御装置のブロック図である。
温度制御装置3には、上述したように、ヒーター17aの温度、射出指令温度、冷却下限温度等を入力する入力部31が設けられている。この温度制御装置3には、成形金型装置2と、真空装置4と、チラー機5と、成形機6が接続されている。
【0027】
また、温度制御装置3は、ヒーター温度制御部32と、金型温度制御部33と、射出指令部34と、冷却制御部35とを有している。
ヒーター温度制御部32は、3つのヒーターユニット17の各ヒーター17aの温度を個別に制御するものである。ヒーター温度制御部32には、3つのヒーターユニット17の各ヒーター17a及び各温度センサ17bが接続されている。
【0028】
このヒーター温度制御部32には、3つのヒーターユニット17の各温度センサ17bからヒーター温度信号が供給されるとともに、入力部31から予め設定された各ヒーター17aの温度信号が供給される。そして、ヒーター温度制御部32は、入力部31から供給される入力信号とヒーター温度信号に基づいて、3つのヒーターユニット17の各ヒーター17aの温度を個別に制御できるようになっている。
【0029】
更に、ヒーター温度制御部32は、複数のヒーターユニット17が金型7に配置された位置に応じて、各ヒーター17aの温度を制御できるようにしている。すなわち、ヒーター温度制御部32は、ヒーターユニット17と不図示のゲート(樹脂の注入口)との距離や、成形品の厚さに応じて各ヒーター17aの温度を制御している。
【0030】
ここで、ヒーター17aは、熱源ケースの内部に組み込まれている。ヒーター17aとしては、小スペースで高熱量の出力が得られるセラミックヒーターが用いられる。また、熱源ケースの材料としては、例えばBeCu(ベリリウム銅)が用いられる。これによって、熱源ケースの機械的強度を向上させることができるとともに、セラミックヒーターから発せられる熱を熱源ケースに伝わり易くすることができる。なお、ヒーター17aとしては、セラミックヒーター以外に電熱ヒーターやその他各種のヒーターを用いてもよいことは、勿論である。
【0031】
また、3つのヒーターユニット17は、シリンダ17cによって、往復運動可能に支持されている。つまり、3つのヒーターユニット17は、シリンダ17cにより、それぞれ個別にフロントプレート13aと接触する方向とフロントプレート13aから離反する方向に移動可能とされる。
【0032】
また、図2に示すように、ヒーターユニット17の上部には、断熱材18及びステンレス材19が設けられている。断熱材18としては、高温耐久グレードの断熱板が用いられる。これにより、ヒーターユニット17からの熱を効率的に断熱し、取付プレート21及びキャビティ型11に熱が逃げない構造としてある。そして、このような構成を有するヒーターユニット17は、シリンダ17cを介してキャビティ型11の上方に配置された取付プレート21に連結されている。
【0033】
更に、3つのヒーターユニット17の温度は、図3に示す温度センサ17bにより、それぞれ個別に検出されるようになっている。温度センサ17bは、温度制御装置3と電気的に接続されている。
【0034】
また、図2に示すように、キャビティ入れ子13のバックプレート13b内には、3つの外枠25が設けられている。この外枠25は、それぞれのヒーターユニット17の側面を囲むように設置され、例えば筒状の枠体として構成されている。そして、外枠25の内側面に沿ってヒーターユニット17が上下方向に移動可能になっている。この外枠25の材料としては、バックプレート13bよりもさらに熱伝導率の低いチタン合金等が用いられる。
【0035】
この外枠25を設けたことによりヒーターユニット17の周囲が効果的に断熱される。その結果、ヒーターユニット17の熱がバックプレート13bに逃げることを軽減することができる。更に、この外枠25を組み込んだことでキャビティ入れ子13の強度が保たれ、射出時の内圧によるキャビティ入れ子13の変形が抑えることができる。
【0036】
なお、外枠25を除いて、ヒーターユニット17とバックプレート13bの間に隙間(空気層)を設けてもよい。すなわち、この隙間(空気層)のエアー断熱によって、ヒーターユニット17の熱がバックプレート13bに逃げることを防止しするようにしてもよい。
【0037】
また、図2に示すように、成形金型装置2には、複数の通水路27が設けられている。複数の通水路27は、キャビティ入れ子13の内部においてヒーターユニット17の近傍に配置されている。通水路27は、ヒーターユニット17の組み込み部を囲むように、バックプレート13bにおけるフロントプレート13aとの合わせ面に形成されている。この通水路27には、その入口側のニップル28に接続された冷却水・エア制御ボックス8及びチラー機5から冷却水が供給される(図1参照)。そして、通水路27に冷却水が供給されることにより、キャビティ入れ子13の冷却が行われる。
【0038】
また、本例においては、キャビティ入れ子13のバックプレート13bとフロントプレート13aとの合わせ面において、通水路27を囲むようにOリング29aが組み込まれている。これにより、通水路27からキャビティ入れ子13外部への水の漏出を防ぐことができる。更に、外枠25におけるフロントプレート13aとの当接部にもOリング29bが組み込まれている。これにより、通水路27からヒーターユニット17への水の侵入を防止することができる。
【0039】
また、図1に示すように、成形金型装置2は、温度制御装置3と電気的に接続されている。そして、温度制御装置3のヒーター温度制御部32によりヒーターユニット17の温度が制御され、このヒーター温度制御部32と接続された金型温度制御部33により金型7の温度が制御される。
【0040】
また、射出指令部34により成形機6の型開き及び型閉め動作が制御されるとともに、金型7への溶融させた樹脂材料Pの射出動作が制御されるようになっている。
更に、ヒーター温度制御部32は、ヒーターユニット17に設けられる各温度センサ17bと接続されており、この温度センサ17bからヒーター17aの温度情報を取り込み、この温度情報を金型温度制御部33に出力している。
【0041】
また、金型温度制御部33は、金型7を複数のブロックに分けて、温度制御している。具体的には、金型温度制御部33は、3つのヒーターユニット17の各シリンダ17cを個別に駆動させて、各ヒーター17aと金型7との接触及び離反を制御することで、金型7の温度を制御する。
【0042】
また、金型温度制御部33は、キャビティ入れ子13に設けられた複数の温度センサ16と3つのヒーターユニット17に設けられたシリンダ17cに接続されている。そして、金型温度制御部33には、複数の温度センサ16からキャビティ型11の金型温度信号と、入力部31から各ヒーター17aの温度、射出指令温度、冷却下限温度等の入力信号が入力される。
この金型温度制御部33は、金型温度信号と上記入力信号に基づいて、各シリンダ17cを駆動させる駆動信号を生成する。また、金型温度制御部33は、生成した駆動信号を3つのヒーターユニット17の各シリンダ17cに出力している。
【0043】
この金型温度制御部33からの駆動信号によってヒーターユニット17の各シリンダ17cを進退移動させることにより、ヒーター17aをキャビティ入れ子13に接触又は離反させるようにする。このように、金型温度制御部33は、3つのヒーターユニット17におけるヒーター17aとキャビティ入れ子13との接触時間及び離反している時間を個別に制御している。なお、ヒーター17aと金型7との接触時間をヒーター前進時間とし、ヒーター17aと金型7が離反している時間をヒーター後退時間とする。
【0044】
また、金型温度制御部33は、複数のヒーターユニット17が金型7に配置された位置に応じて各シリンダ17cを制御することで、ヒーター17aとキャビティ入れ子13との接触時間を制御している。すなわち、金型温度制御部33は、ヒーターユニット17と不図示のゲート(樹脂注入口)との距離や、成形品の厚さに応じてヒーター17aと金型7との接触時間を制御するようにしている。
【0045】
例えば、ヒーター17aを金型7から離反させると、ヒーター17aの熱が金型7に伝達されなくなり、金型7の温度が下がる。これにより、金型7を冷却する冷却時間を短縮でき、成形サイクルの短縮を図ることが可能となる。
【0046】
更に、金型温度制御部33には、射出指令部34と、冷却制御部35が接続されている。そして、射出指令部34には、成形機6の射出部6aが接続されている。この射出指令部34は、金型温度制御部33から入力された信号と入力部31から入力された信号に基づいて、成形機6の射出部6aを制御する射出信号を生成し、射出部6aに出力している。金型温度制御部33から入力される信号は、金型7における各ブロックの温度情報である。
【0047】
また、射出部6aは、射出指令部34からの射出信号に基づいて、金型7の成形空間15に溶融させた樹脂材料を射出し、又はその射出を停止する。この射出指令部34は、金型温度制御部33から入力された信号と入力部31から入力された入力信号に基づいて、射出指令部34に接続されている真空装置4を駆動させるための駆動信号を生成している。なお、真空装置4は、射出成形時に成形空間15から気体を排出する機能を備えている。
【0048】
また、冷却制御部35は、チラー機5と接続されており、このチラー機5には、複数の電磁弁5aが接続されている。そして、チラー機5は、複数の電磁弁5aを介して複数の通水路27に接続されている。
そして、冷却制御部35は、金型温度制御部33から入力された信号と入力部31からの入力された信号に基づいて、複数の通水路27に供給する冷却水の通水時間及びその水量を個別に制御している。具体的には、冷却制御部35は、チラー機5に接続された複数の電磁弁5aの開閉時間を制御することで、各通水路27に供給する冷却水の通水時間(結果的には水量)を制御できるようになっている。
【0049】
言うまでもなく、各通水路における冷却水の通水時間とその水量は、例えば各樹脂における熱変形温度を基準として、成形品を金型から取り出することが可能な温度により設定される。このように、各通水路27に供給する冷却水の通水時間を個別に制御することで、水量も個別に制御され、金型7及び成形品を効率よく冷却することができる。その結果、金型7及び成形品を冷却する冷却時間の短縮を図ることができ、成形サイクルの短縮を行うことができる。
【0050】
次に、図4と図5に基づいて、通常の温度制御による樹脂材料の射出成形と本発明の温度制御による射出成形の方法について比較説明する。
<従来の通常成形と流れ模様が発生する理由>
図4は、従来から用いられている通常成形法で樹脂成形を行う場合の例であり、樹脂材料の注入開始から成形の終了まで一定の温度(例えば90℃)で金型7を加熱している。
【0051】
図4(a)〜(f)は、成形品の外観面である一面を形成する金型(キャビティ型)11と成形品の外観面ではない他方の面を形成する金型(コア型)12とで形成される成形空間に光輝材(例えば、アルミ顔料)を含む樹脂材料Pが注入される様子を段階的に示したものである。点線の部分は、成形空間内のアルミ顔料Kの位置を示している。
【0052】
図4の例は、外観金型であるキャビティ型11の温度を例えば90℃一定に保つように制御して、樹脂材料Pを注入した例である。この通常の型温度90℃の場合は、成形品の外観面とアルミ顔料(アルミ成分)Kとの間のスキン層Sが比較的薄くなり、アルミ成分が外観金型(キャビティ型11)表面に近い位置にくる。そして、このようにアルミ顔料Kが金型であるキャビティ型11の表面に近い位置にあると、金型に接触しているスキン層Sが冷えて固化層を形成し、流動しているコア層との間に流動抵抗を生じる。そのため、せん断応力が発生し表層部(スキン層S)内のアルミ顔料Kが傾く。その結果、外光が乱反射して輝度が低くなってしまう。
【0053】
図4(a)は不図示のゲートから樹脂材料Pの注入が始まった初期の段階であり、時間経過とともに、図4(b)〜(f)に進んでいく。
図4(c)では、下側の金型(コア型12)に形成された文字などの凹部41に樹脂材料Pが進んできた場合を示す。注入される樹脂材料Pには、樹脂材料Pが進む方向の力がかかり、樹脂材料Pが進む方向である横方向のベクトルが強いので、主に横に進んでいく。しかし、図4(c)のように、樹脂材料Pが注入した部分の下にリブ等の凹部41があると、樹脂材料Pには、凹部41の部分で凹部41内に向かう力が加わる。そのため、この樹脂材料Pが凹部41内に侵入することで、アルミ顔料Kも凹部41内に向かう方向であるやや下に向かうようになる。
【0054】
図4の例では、スキン層Sが薄くアルミ顔料Kの位置がキャビティ型11の表面に近いため、アルミ顔料Kの周囲にある樹脂材料Pが冷やされてすぐに硬化する。そのため、アルミ顔料Kは、ナナメ下を向いた状態でその位置と傾きが固定されてしまう。これは、図4に示す従来方法では、外観金型であるキャビティ型11の温度が90℃であり、図5で後述する本発明の方法と比較するとその温度が低いためであると考えられる。
【0055】
続いて、樹脂材料Pの注入が進み、凹部41を越えて図4(d)から図4(e)に進むと、再び樹脂材料Pとアルミ顔料Kの流れは真横の流れとなる。そして、図4(f)に示すように、凹部41内の充填が終了すると、下方向に向かう流れはほとんどなくなり、ほぼ真横の流れとなる。しかしながら、キャビティ型11の表面に近いアルミ顔料Kは既に固まっているため、凹部41において凹部41内を向いたままとなり、その見え方の違いが「ムラ」となって現れる。すなわち、「流れ模様」が発生してしまうのである。
【0056】
<本発明の実施形態例のウェルドレス成形法>
次に、図5と図6、及び適宜図7、8を参照して、成形品に「流れ模様」を発生させない、本発明の温度制御による成形方法について詳細に説明する。図4の従来の通常成形法に対して、図5〜図8に示す本発明の方法をウェルドレス成形法と呼ぶことにする。
【0057】
<「流れ模様」が発生しないウェルドレス成形法>
まず、図5に示す本発明のウェルドレス成形法によると、図4に示す通常成形法と異なり、流れ模様が発生しないことと原理的に説明する。
図5(a)〜図5(f)は、図4(a)〜図4(f)に対応しているので、共通した部分の説明は省き、図5が図4の通常方法と異なる点についてのみ説明する。
【0058】
図5で説明する本発明のウェルドレス成形法では、図4で説明した従来の方法(温度90℃一定)と比べて金型温度を高く(例えば140℃)設定する(図6参照)。このように、金型の温度を高く設定すると、成形品のスキン層Sが厚くなるため、外観金型であるキャビティ型11の表面とアルミ顔料Kとの距離が大きくなる。
【0059】
つまり、キャビティ型11の温度が高いと、アルミ顔料Kが注入する樹脂材料Pの内部中心に近い位置に沈み込むようになる。樹脂材料Pの内部の中心付近は流動し続けるコア層に近い位置になるので、アルミ顔料Kがキャビティ型11の表面の摩擦抵抗の影響を受けることがなく、その結果として複数のアルミ顔料Kがその面を互いに略平行にして、きれいに並ぶため、高い輝度が得られるのである。
【0060】
図5(c)になると樹脂材料Pが凹部41に到達し、アルミ顔料Kは凹部41内部へ向かう方向であるやや下に向かうことになるが、アルミ顔料Kは流動し続ける樹脂材料Pのコア層に近い位置にあるため、ほとんど固まらない状態で残ることになる。
【0061】
更に、図5(d)〜(e)に示すように、樹脂材料Pの注入が進むと、樹脂材料Pとともにアルミ顔料Kもほぼ真横方向に流れ、図5(f)の最終段階では、凹部41内の充填が終了し、凹部41内に向かう流れはほとんど発生しなくなる。したがって、アルミ顔料Kもほとんど真横に向かう流れのみとなって、図5(e)に示されるように、固まらないで傾いた状態になっていたアルミ顔料Kも樹脂材料Pに押し上げられる。すなわち、図5(e)でやや下向きであったアルミ顔料Kも、元の水平に近い状態まで戻るため、外光が乱反射することがない。したがって、ほとんどムラのない、つまり「流れ模様」が現出しない成形品を作製することができる。
【0062】
このように、本発明の成形方法によれば、樹脂材料Pの滞留が起こりやすいリブ部分等の凹部や凸部の表面がヒーターで加熱されているので、樹脂材料Pの流れが良くなり、リブ部分において外観に近いところを先に流すことができる。このため、表面側のウェルドをなくし、鏡面仕上げをしたのと同じように、成形品の表面に光沢を持たせることができる。
【0063】
なお、本例ではキャビティ型11を外観金型として説明したが、これに限定されるものではなく、コア型12を外観金型として構成してもよい。
【0064】
<本発明の実施形態例のウェルドレス成形法における温度制御方法>
以上、本発明の成形方法の原理と成形品表面に「流れ模様」が現れない理由を説明した。続いて、図6と図7、8に基づいて、このような成形を実現するための温度制御方法について説明する。
【0065】
本発明の実施形態例のウェルドレス成形法では、キャビティ型金型とコア型金型をオープンにした時(これを「型開き」という。)からキャビティ金型の温度制御が開始される。つまり、型開きが開始すると、図7(A)に示すように、ヒーターを前進させて、キャビティ型11のフロントプレート13a(図2参照)の加熱が開始される。
【0066】
図7(B)の成形品の取り出す段階でも、図6に示すようにキャビティ型11のフロントプレート13aの加熱が継続され、図6の温度曲線で示すように金型温度が暫時上昇していく。つまり、型開き時に第1の温度である90℃であった金型温度が、樹脂の注入開始前の「型閉め」時には、第2の温度である140℃まで上昇させるように制御される。
【0067】
この段階で、図7(C)に示すように、不図示のゲートから光輝材を含む樹脂材料Pの注入が開始される。型閉め状態から樹脂材料Pの注入を行っている間は、ヒーターユニット17を前進させたままの状態にしておき、この時の金型の温度を140℃一定に保つように制御する。そして、樹脂材料Pが成形空間全体に充填された後に、図8(D)に示すように、ヒーターユニット17を後退させ、樹脂材料Pの充填を終了して射出を完了する。
【0068】
なお、射出完了の所定時間前から射出完了後の所定時間の間は、キャビティ型11に通水路27より冷却水を通水し、金型温度が上昇しすぎないように制御する(図8(E)参照)。そして、射出が環境すると、金型温度も暫時下降していき、金型温度が100℃くらいになったときに、通水路27からの冷却水の通水が停止される。
【0069】
金型温度は冷却水の通水が停止された後も、約90℃くらいの温度まで暫時低下していく。そして、成形品を取り出すための型開きが行われ(図8(F)及び図7(A)参照)る。この型開きの際に、ヒーターユニット17を前進させてキャビティ型11を加熱する。これにより、次の成形サイクルにおける金型7の加熱時間を短縮することができる。そして、図7(B)に示すように、成形品100が金型から取り外されて再び最初の段階に戻る。
【0070】
図6に示すように、ウェルドレス成形法では、金型温度を90℃から140℃まで所定の時間かけて上げていき、金型温度が140℃のときに樹脂材料Pを成形空間に注入し、再び金型温度を90℃まで冷却する過程をたどるように温度制御がなされる。この温度制御は、図2に示す複数(単数でも構わないが)のヒーターユニットの温度を点線に示すように400℃〜300℃の範囲に制御することにより、実現することができる。
【0071】
なお、本例では、第1の温度を90℃に設定し、第2の温度を140℃に設定した例を説明したが、これに限定されるものではなく、第1の温度及び第2の温度は、樹脂材料Pの種類に応じて適宜設定されるものである。
【0072】
<金型を完成させるまでの手順>
図9は、本発明の成形方法に使用される金型(キャビティ型とコア型)を設計、製作する際の手順を示すフローチャートである。
【0073】
まず、成形品の3次元モデルを決定し、この成形品の形状をコンピュータ上で流動解析を行う(ステップS1)。この流動解析はコンピュータ上で成形空間に溶融させた樹脂材料Pを注入した場合にどのような問題が発生するかを解析するためのシミュレーション解析であり、この結果により問題点を確認するとともに、問題点の対策を洗い出す検討を行う(ステップS2)。
【0074】
ステップS2で問題点の確認と対策の検討が終わると、その対策に対して効果確認のためのシミュレーション解析を行って、問題点が解消されたか否かが判断される(ステップS3)。ステップS3で問題点が解消されないと判断されると、再びステップS2に戻り、新たな対策の検討が行われる。
【0075】
ステップS3で問題点が解消されていると判断された場合は、ステップS2で検討した対策が提案され(ステップS4)、続いて提案された対策内容が、機能的に使用可能か否かが判断される(ステップS5)。ここで機能的に使用可能であるということは、流動解析により流れ模様やヒケ、ウエルド位置などの外観、ショート、反り、ゲートバランスなどの面において適正な成形性が確認できた場合を意味する。ステップS5で対策内容が機能的に使用不可であると判断されたときは、再びステップS2に戻り、新たな対策の検討が行われる。一方、ステップS5で対策が機能的に使用可能であると判断されたときは、金型の設計と試作が行われる(ステップS6)。
【0076】
次に、ステップS6で作成された試作品を使って、再び問題点の確認がなされ、更に試作品について流動解析により実際の状態を再現し、さまざまな対策が検討される(ステップS7)。そして、ステップS3と同様な方法で、その対策によって問題点が解消されたか否かが判断される(ステップS8)。
【0077】
また、この流動解析を行うときに、成形品の外観面に「流れ模様」が発生しやすい箇所、例えばリブや文字などの凹凸部や樹脂が合流する箇所を予測することができる。そして、予測した「流れ模様」が発生しやすい箇所にヒーターユニット17を設けるように設計してもよい。更に、流動解析を行うことで、樹脂を射出するゲートの位置や形状の他に、成形品の肉厚や、樹脂を金型に流し入れる際の射出速度や圧力も検討される。
【0078】
このステップS8で未だに問題点が解消されていないと判断されると、再びステップS7に戻り、新たな対策の検討が行われ、問題点が解消されていると判断された場合は、ステップS7で検討した対策が提案される(ステップS9)。
【0079】
そして、ステップS7の提案された対策の内容が、機能的に使用可能か否かが判断される(ステップS10)。ステップS10で対策内容が機能的に使用不可であると判断されたときは、再びステップS7に戻り、対策の再検討が行われる。一方、ステップS10で対策が機能的に使用可能であると判断されたときは、金型の修正と試作が行われて、すべての問題の確認がなされる(ステップS11)。
【0080】
最後に、すべての問題が解消されているか否かを判断し(ステップS12)、問題が解消されていると判断されて、初めて金型が完成する。つまり、試作、修正した金型が完成品とされる(ステップS13)。ステップS12で一つでも未解決の問題が残っていると判断されると、再びステップS7に戻り、問題解決の対策のための手法について検討される。
【0081】
以上、図9は、本発明の金型を作製する際の、流動解析と金型が完成するまでの手順を述べたものであるが、この手順はあくまでも一例であり、本発明の金型を用いて成形品を成形する手法とは直接関係しないものである。
【0082】
以上、本発明の実施の形態例について説明したが、本発明上述の実施形態例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の応用例、変形例を含むことは勿論である。なお、上述した実施の形態例では、
【符号の説明】
【0083】
1…成形金型システム、 2…成形金型装置、 3…温度制御装置、 4…真空装置、5…チラー機(送水装置)、 5a…電磁弁、 6…成形機、 6a…射出部、 7…金型、 8…冷却水・エア制御ボックス、 11…キャビティ型(第一金型)、 12…コア型(第二金型)、 13…キャビティ入れ子、 13a…フロントプレート、 13b…バックプレート、 15…成形空間、 16…温度センサ、 17…ヒーターユニット、 17a…ヒーター、 17b…温度センサ、 17c…シリンダ、 18…断熱材、 19…ステンレス材、 27…通水路、 31…入力部、 32…ヒーター温度制御部、 33…金型温度制御部、 34…射出指令部、 35…冷却制御部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の外観側の面を成形する第一金型とその反対側の面を成形する第二金型とで形成される成形空間に、光輝材を含む樹脂材料を注入して光沢のある成形品を作製する、光沢のある成形品の成形方法であって、
前記第一金型と第二金型を開放して前記成形品を取り出す型開きのときに、前記第一金型内に配置されるヒーターユニットを前進させて前記第一金型を加熱するステップと、
前記第一金型と前記第二金型を閉じる型閉めを行った後に、前記ヒーターユニットにより前記第一金型の加熱を継続し、前記第一金型の温度を第1の温度から第2の温度まで暫時上昇させるステップと、
前記第一金型の温度が前記第2の温度になった段階で、前記成形空間に前記光輝材を含む樹脂材料の注入を開始するステップと、
前記成形空間への前記光輝材を含む樹脂材料の注入が完了した段階で、前記ヒーターユニットを後退させるとともに、前記第一金型を冷却するための冷却水を通水し、前記第一金型を前記第2の温度から前記第1の温度まで下降させるステップと、
前記第一金型が前記第2の温度まで下降した冷却完了の段階で、前記第一金型と前記第二金型とを型開きして成形品を取り出すステップと、
を含む光沢のある成形品の成形方法。
【請求項2】
前記第1の温度は約90℃であり、前記第2の温度は約140℃である、請求項1に記載の成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206979(P2011−206979A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75554(P2010−75554)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(505249067)株式会社柴田合成 (13)
【Fターム(参考)】