説明

成形用積層シート

【課題】 鏡面状の金属光沢を有し、かつ成形加工しても光沢の低下が少なく、良好な意匠性を保つことのできる成形用積層シートを提供する。
【解決手段】 透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層と、鏡面状金属光沢を有する装飾層とを有する成形用積層シートであって、前記した装飾層が、金属薄膜細片、結着樹脂、及び、溶解度パラメーターが8.6(cal/ml)(1/2)以下の有機溶剤と、炭素数1〜5の低級モノアルコール類から選ばれた1種以上のアルコールとを併せて50質量%以上含有し溶解度パラメーターが8.6〜10.3(cal/ml)(1/2)である混合溶剤を含有する高輝性インキの乾燥皮膜層からなる装飾層であることを特徴とする成形用積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面状金属光沢の意匠性を有する成形用積層シート、特に自動車関連部材、建材部材、家電品等に有用な成形用積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に着色された樹脂成形部材を製造する場合、樹脂自体に顔料を練り込み、着色して射出成形等する方法のほか、成形した後、スプレー塗装等を施す方法がある。特に鏡面状金属光沢の意匠性を要求される場合は、顔料の練り込みの困難さ、顔料流れ跡が目立ちやすいなどの理由で、着色法より塗装法が採用されることが多い。塗装法の場合、塗膜を焼付け、架橋させれば、表面保護の効果も期待できる。しかしながら、現在の塗料は揮発性有機溶剤を用いるものが主流であるため、揮発性有機溶剤の排出に対する作業環境保護、外部環境保護の観点から、水系塗料あるいは粉体塗料を使用する等の無溶剤化が図られているが、鏡面状金属光沢の意匠性の表現は現状では困難である。これに対し、塗料を使用する代りに成形性支持樹脂層を積層した着色シートを、射出成形時に一体化して成形する方法が紹介されている。この方法によれば、鏡面状の金属光沢を有する樹脂成形部材を無溶剤で製造することが可能である。
【0003】
鏡面状の金属光沢を有するシートとしては、アルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルム等をドライラミネートした積層シートが知られている。また、鱗片状でかつ表面が平滑なアルミニウム粒子を含有するアクリレート系エマルジョンを有する塗料の硬化皮膜から成る層を有する積層シートが記載されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらのシートは平面として鏡面状の金属光沢を有しているものの、蒸着面に延伸性が十分にないため、真空成形またはインモールド成形等の成形加工を施した場合に、割れや光沢のムラを生ずる等、鏡面状金属光沢の意匠性の保持が不十分であった。
【0005】
また、金属薄膜細片を結着樹脂ワニス中に分散したインキの硬化皮膜を有する積層シートを用いることが提案されている(例えば特許文献2参照)。この方法によれば、延伸性を改善することができるが、アルミ蒸着フィルムなどに比べて光沢が劣る上、真空成形の際にさらに光沢が低下し、光沢ムラをおこす欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−111991号公報
【特許文献2】特開2002−46230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層、金属薄膜細片と結着樹脂を含有する装飾層がこの順に積層され、鏡面状の金属光沢を有し、かつ成形加工しても光沢の低下が少なく、良好な意匠性を保つことのできる成形用積層シートを提供することにある。特に、表層にアクリル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム等、装飾層を形成するために用いる高輝性インキに含まれる溶剤に対する耐溶剤性の低いフィルムを表層に用いる場合でも、鏡面状の金属光沢を有し、かつ成形加工しても光沢の低下が少なく、良好な意匠性を保つことのできる成形用積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、検討の結果、装飾層を形成するために、乾燥皮膜として用いる高輝性インキの溶剤として、結着樹脂の溶解性と、透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層の膨潤や劣化のバランスとを考慮した特定組成の混合溶剤を採用することで上記課題を解決し本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層と、鏡面状金属光沢を有する装飾層とを有する成形用積層シートであって、前記した装飾層が、顔料成分としての金属薄膜細片、バインダー成分としての結着樹脂、及び、溶剤成分としての、溶解度パラメーターが8.6(cal/ml)(1/2)以下の有機溶剤と、炭素数1〜5の低級モノアルコール類から選ばれた1種以上のアルコールとを併せて50質量%以上含有し溶解度パラメーターが8.6〜10.3(cal/ml)(1/2)である混合溶剤を含有する高輝性インキの乾燥皮膜層からなる装飾層であることを特徴とする成形用積層シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記手段により、鏡面状の金属光沢を有し、かつ、加熱真空成形法による200%延伸後も良好な鏡面状金属光沢を有する意匠性を与える成形用積層シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明が提供する成形用積層シートは、透明または半透明の熱可塑性樹脂フィルムに金属薄膜細片及び結着樹脂を有する装飾層が積層された成形用積層シートである。また、前記した装飾層側にさらに、成形用合成樹脂フィルム層を有していても良い。以下にその実施の形態について説明する。
【0012】
(透明または半透明の熱可塑性樹脂フィルム)
本発明の成形用積層シートに用いる透明または半透明の熱可塑性樹脂フィルムとしては、透明又は半透明の単層又は多層フィルムであって、加熱により延伸性を有するフィルムが用いられる。該フィルムは着色剤を含有していても良い。
【0013】
前記した透明または半透明の熱可塑性フィルムは、真空成形等の熱による成形工程を行うため、軟化点が60〜300℃の範囲である熱可塑性樹脂を主体とするフィルムが好ましい。なかでも、一般のインキ用の溶剤に膨潤しやすい傾向に有るものの、透明性、耐候性、表面平滑性、比較的低温で成形できることなどの点に優れるアクリル系樹脂から成るフィルムを用いる場合に特に効果を発揮する。
【0014】
(高輝性インキ)
本発明の成形用積層シートの装飾層に用いる高輝性インキは、金属薄膜細片を結着樹脂ワニス中に分散した、鏡面状の金属光沢を有する高輝性インキである。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は10〜60質量%の範囲である。通常のメタリックインキには金属粉が使用されるが、金属薄膜細片を使用した場合は、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、従来の金属粉では得られない鏡面状金属光沢が得られる。
【0015】
(金属薄膜細片)
装飾層に使用する高輝性インキに用いられる金属薄膜細片の金属としては、アルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等を使用することができる。金属を薄膜にする方法としては、アルミニウムのように融点の低い金属の場合は蒸着、金、銀、銅など展性を有する場合は展延、融点が高く展性も持たない金属の場合は、スパッタリング等を挙げることができる。これらの中でも、蒸着金属薄膜から得た金属薄膜細片が好ましく用いられる。金属薄膜の厚さは、0.01〜0.1μmが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.08μmである。高輝性インキ中に分散させる金属薄膜細片の粒径は、5〜25μmが好ましく、さらに好ましくは10〜15μmである。粒径が5μm未満の場合は、塗膜の輝度が不十分となり、25μmを超えると金属薄膜細片が配向しにくくなるので輝度が低下するほか、高輝性インキをグラビア方式あるいはスクリーン印刷方式で印刷又は塗布する場合に、版の目詰まりの原因となる。
【0016】
以下に金属薄膜細片の作成方法を、特に好ましい蒸着法を例として説明する。金属を蒸着する支持体フィルムには、ポリオレフィンフィルムやポリエステルフィルムなどを使用することができる。まず支持体フィルム上に塗布によって剥離層を設けた後、剥離層上に所定の厚さになるよう金属を蒸着する。蒸着膜面には、酸化を防ぐためトップコート層を塗布する。剥離層およびトップコート層形成用のコーティング剤は同一のものを使用することができる。
【0017】
剥離層、あるいはトップコート層に使用する樹脂は、特に限定されない。具体的にはたとえば、セルロース誘導体、アクリル樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、EVA樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化EVA樹脂、石油系樹脂等を挙げることができる。また溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等を使用することができる。
【0018】
上記金属蒸着フィルムを、剥離層およびトップコート層を溶解する溶剤中に浸積して撹拌し、金属蒸着膜を支持体フィルムから剥離した後、さらに撹拌して金属薄膜細片の粒径を約5〜25μmとし、濾別、乾燥する。溶剤は、剥離層あるいはトップコート層に使用する樹脂を溶解するものであること以外に、特に限定はない。金属薄膜をスパッタリングで作成した場合も、上記と同様の方法で金属薄膜細片とすることができる。金属箔を用いる場合は、溶剤中でそのまま攪拌機で所定の大きさに粉砕すればよい。
【0019】
金属薄膜細片は、高輝性中における分散性を高めるために表面処理するのが好ましい。表面処理剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の有機脂肪酸、メチルシリルイソシアネート、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。
【0020】
(結着樹脂)
装飾層に使用する高輝性インキに用いられる結着樹脂としては、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に通常使われている樹脂を用いることができる。具体的には、例えば、塗料用アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢ビ樹脂、エチレン−酢ビ樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂、あるいは、塗料用ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、石油系樹脂、セルロース誘導体樹脂等が好ましく用いられる。
【0021】
また、結着樹脂と金属薄膜細片との密着性をより向上させ、装飾層を形成する高輝性インキの乾燥皮膜層の凝集剥離を防止するために、結着樹脂として、カルボキシル基、燐酸基、スルホン酸基及びそれらの金属塩ならびにアミノ基の何れか一種以上の基を有する樹脂を用いることができる。樹脂中にこれらの基を50〜500mmol/kg程度有することが好ましく、より好ましくは50〜250mmol/kg程度である。具体的には例えば、塗料用アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢ビ樹脂、エチレン−酢ビ樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂などの重合系樹脂の重合時に共重合成分として、(メタ)アクリル酸や無水マレイン酸、フマル酸および/またはその塩、(メタ)アクリロイロキシエチルスルホニルナトリウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリル酸エステル等を用いたもの;あるいは塗料用ポリウレタン樹脂(アミド変性、ウレア変性、エポキシ変性したものでもよい)、ポリエステル樹脂(アミド変性、ウレア変性、エポキシ変性したものでもよい)等の縮合系樹脂の縮合時に、共縮合成分として、ポリオール成分、ポリカルボン酸成分の一部に、2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、スルホン酸基を有するフタル酸、ジエタノールアミノエチルジイソプロピル燐酸エステル等を用いたもの;石油系樹脂、エポキシ樹脂、セルロース誘導体樹脂等を塩化酢酸、ブロム酢酸、濃硫酸などで変性したもの等が好ましく用いられる。
【0022】
更に、成形工程に於いて、装飾層が十分に延伸するために、成形用合成樹脂フィルムまたは透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層のいずれか高い方の軟化点よりも低い軟化点を有する樹脂が好ましい。その差が20℃以上有ることがさらに好ましい。これらの結着樹脂を用いることによって、積層シート中の装飾層が、容易に凝集剥離することを防止することが出来る。
【0023】
また、これらの結着樹脂の他に、本発明の趣旨を損なわない範囲で、一般にインキまたは塗料に用いられるアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢ビ樹脂、エチレン−酢ビ樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂を併用しても差し支えない。
【0024】
(溶剤)
装飾層に使用する高輝性インキに用いられる溶剤について説明する。前記した結着樹脂、特に、カルボキシル基、燐酸基、スルホン酸基、スルホン酸基及びそれらの金属塩ならびにアミノ基の何れか一種以上の基を含有させた結着樹脂は比較的極性が高く、これらを溶解するためには、溶解度パラメーターが、8.6〜10.3の範囲内の溶剤でないと溶解することが出来ない。しかし、この範囲の溶剤は、透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム、アクリル系フィルムや、ポリカーボネート系フィルムの場合、これらのフィルムをも膨潤、劣化させ、塗工された装飾層の光沢を損うばかりでなく、成形時の光沢をも低下させる傾向にある。しかしながら、高輝性インキの溶剤を、溶解度パラメーターが8.6以下の有機溶剤と、炭素数1〜5の低級モノアルコール類から選ばれた少なくとも1種以上のアルコールとを併せて50質量%以上含む混合溶剤とし、該混合溶剤の溶解度パラメーターを8.6〜10.3とすれば、極性の高い結着樹脂を溶解し、かつアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の基材を侵さないことを見出した。すなわち、本発明の成形用積層シートに用いる高輝性インキの溶剤は、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使われている公知慣用の溶剤の中から以下の観点で選択することができる。具体的には溶解度パラメーター8.6以下のものとして、たとえば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等を挙げることができる。炭素数1〜5の低級モノアルコール類としてはメタノール(溶解度パラメータ:14.5)、エタノール(同:12.7)、イソプロピルアルコール(同:11.5)、ノルマルプロピルアルコール(同:11.9)、ノルマルブチルアルコール(同:11.4)、イソブチルアルコール(同:11.1)、2−ブチルアルコール(同:10.8)、t−ブチルアルコール(同:10.6)、アミルアルコール(同:10.9)。イソアミルアルコール(同:10.0)等が挙げられる。なお、本発明の趣旨を損なわない範囲で、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等を併用することもできる。
【0025】
(添加剤)
装飾層に使用する高輝性インキには、必要に応じて、意匠性、延伸性を阻害しない限り、高輝性中に消泡、沈降防止、顔料分散、流動性改質、ブロッキング防止、帯電防止、酸化防止、光安定性、紫外線吸収、内部架橋等を目的として、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使用されている各種添加剤を使用することができる。このような添加剤としては、着色用顔料、染料、ワックス、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、キレート化剤、ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0026】
(着色剤)
高輝性インキ層には、鏡面状金属光沢の意匠性を損なわない範囲で、着色剤を用いることができる。着色剤としては、顔料が好ましく用いられる。用いられる顔料としては特に限定されず、着色顔料、メタリック顔料、干渉色顔料、蛍光顔料、体質顔料等のそれ自体公知の顔料を使用することができる。着色顔料としては、例えば、キナクリドンレッド等のキナクリドン系、ピグメントレッド等のアゾ系、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、ペリレンレッド等のペリレン系等の有機顔料;酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。メタリック顔料としては、例えば、アルミニウム粉、ニッケル粉、銅粉、真鍮粉、クロム粉等が挙げられる。
【0027】
干渉色顔料として、真珠光沢状のパールマイカ粉、真珠光沢状の着色パールマイカ粉等を挙げられる。蛍光顔料としては、ベイシックイエロー、ローダミンB等の蛍光染料をメラミン樹脂等に固溶させた合成樹脂固溶体タイプが挙げられる。体質顔料としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機顔料を挙げることができる。顔料は、直に添加することもできるし、カラーコンパウンドやコンセントレーテッドマスターバッチ、粉末状着色剤、顆粒状着色剤、液状着色剤等のプラスチック用着色剤として添加することもできる。
【0028】
(意匠層)
本発明の成形用積層シートには、高輝性インキ層の鏡面状金属光沢の意匠性を損わない範囲で、装飾層と、透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層の間、又は装飾層と成形用合成樹脂フィルム層の間に、全面、または一部分に着色層を設けることができる。あるいは透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層表面に規則的、または不規則的な凹凸を設け、ホログラム調、あるいはマット調の意匠を表現することも可能である。着色層には、上記の着色剤を用いることができ、結着樹脂としては、一般にインキまたは塗料に用いられるアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢ビ樹脂、エチレン−酢ビ樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0029】
(高輝性インキの調製方法)
一般にインキの配合原料を安定して分散させるには、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、あるいはサンドミル等を使用して練肉することにより、顔料その他添加剤をサブミクロンまで微粒子化する。しかし、本発明の成形用積層シートの装飾層に使用する高輝性インキに、金属光沢を発現させるために配合する金属薄膜細片は粒径5〜25μmが好ましい。上記練肉を行った場合は金属薄膜細片が微粒子化してしまい、金属光沢が極端に低下する。したがって、本発明においては練肉を行わず、単に上記配合原料をミキサー等で混合して高輝性インキとすることが望ましい。
【0030】
(印刷または塗工方法)
本発明の成形用積層シートの装飾層、該装飾層にさらに積層してもよいインキ層および接着剤の印刷又は塗工方式は、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター及びコンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方式を用いることができる。なかでも、グラビアリバースコーター、キスタッチリバースコーター及びコンマコーター、マイクログラビアコーターが好ましい。
【0031】
(成形用合成樹脂フィルム層)
本発明の成形用積層シートは、そのまま真空成形し、金型にインサートして射出成形することができるが、射出する樹脂の種類によっては密着性に問題が起きる場合もあるので、あらかじめ、射出成形する樹脂との接着性を有する成形用合成樹脂フィルム層を、裏側に設けておくことが好ましい。成形用合成樹脂フィルム層としては、真空成形等の熱による成形工程を行う場合には、熱可塑性樹脂を主体とするフィルムが好ましい。
【0032】
成形用合成樹脂フィルム層としては、例えば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン(AAS)樹脂、アクリロニトリル/エチレンゴム/スチレン(AES)樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、塩ビ系(PVC)系樹脂等の汎用樹脂、並びに、オレフィン系エラストマー(TPO)、塩ビ系エラストマー(TPVC)、スチレン系エラストマー(SBC)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができる。また、これらの素材は単独で用いてもよく、2種以上の素材を混合(ブレンド)して用いてもよく、特性の異なる素材を共押出しした積層シートとして用いても良い。
【0033】
(積層)
印刷又は塗工された装飾層にさらに前記した各種の樹脂フィルム又はシートから選ばれた成形用合成樹脂フィルム層を積層する。この積層の方法は、装飾層と成形用合成樹脂フィルム層の界面に接着剤を介する方法でも、介さない方法でも良い。接着剤としては、ドライラミネート接着剤、ウェットラミネート接着剤、ヒートシール接着剤、ホットメルト接着剤等が好ましく用いられる。また、特別の接着剤層を用いない熱ラミネートでもよい。この場合は、装飾層の結着樹脂に常温から60℃程度で接着性を有する樹脂を用いればよい。
【0034】
(粘着剤)
また、接着剤層に代えて、粘着剤層を設けることも出来る。粘着剤としては、アクリル系、ゴム系、ポリアルキルシリコン系、ウレタン系、ポリエステル系等が好ましく用いられる。
【0035】
(表面保護層)
本発明の成形用積層シートでは、成形の際の表面層側に、意匠性、耐摩擦性、耐擦傷性、耐候性、耐汚染性、耐水性、耐薬品性及び耐熱性等の性能を付与するために、透明、半透明若しくは着色クリアのトップコート層を1層以上設けてもよい。トップコート剤としては成形用積層シートの延伸性を阻害しない限り、ラッカータイプ、イソシアネート又はエポキシ等による架橋タイプ、UV架橋タイプ又はEB架橋タイプが好ましく用いられる。
【0036】
(用途)
本発明の成形用積層シートは各種成形法の表面層として用いることができる。例を挙げると、透明又は半透明の熱可塑性フィルムを表面側に配置し、熱成形により三次元形状を有する予備成形体とした後、射出成形金型内にインサートし、射出樹脂と一体化するインサート射出成形法で成形することが出来る。更には、射出成形金型にシート状で挿入し、金型内で射出樹脂と一体化するインモールド射出成形法で成形することも出来る。本発明の成形用積層シートの優れた延伸性により、延伸度合いの大きい箇所でも優れた鏡面状金属光沢を有する意匠性を保つことができる。
【0037】
本発明においては、延伸性を次の様に定義する。成形用積層シートを構成する材料の軟化点よりも高い温度で成形加工を行った後、成形用積層シートの厚さを測定し、成形加工前の厚さに対して1/2の厚さを有する部分、すなわち面積が2倍となる部分を200%延伸部と称する。同様に、延伸後、厚さで1/1.3倍、すなわち面積が1.3倍となる部分を130%延伸部、厚さで1/1.5倍、すなわち面積が1.5倍となる部分を150%延伸部として、光沢を測定した。
【0038】
(高輝性)
本発明に於いては、延伸されたシートの高輝性の変化を、光沢計:mirror−TRI−gloss(BYK Gardner社製)を用い、透明又は半透明の熱可塑性フィルムの側から、20゜/20゜の条件で測定した表面光沢値の変化率で定義する。
表面光沢値の変化率=(非延伸部の光沢値−延伸部の光沢値)÷(非延伸部の光沢値)×100(%)と定義する。
【0039】
成形加工は、延伸率130%の場合、底面が1辺126mm、間口が1辺160mmの正方形で、深さが35mmの試験用金型を用い、底面部分が130%延伸するように加工した。同様に、延伸率150%の場合、底面が1辺126mm、間口が1辺160mmの正方形で、深さが40mmの試験用金型を用い、底面部分が150%延伸するように加工した。更に、延伸率200%の場合、底面が1辺126mm、間口が1辺160mmの正方形で、深さが55mmの試験用金型を用い、底面部分が200%延伸するように加工した。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例をもって、本発明を具体的に説明するが、これらに何ら制限されるものではない。実施例中の、部および%は、質量部、質量%を表す。
(1)アルミニウム薄膜細片
ニトロセルロース(HIG7)を、酢酸エチル:イソプロピルアルコール=6:4の混合溶剤に溶解して6%溶液とした。該溶液を、スクリーン線数175線/インチ、セル深度25μmのグラビア版でポリエステルフィルム上に塗布して剥離層を形成した。十分乾燥した後、剥離層上に厚さが0.03μmとなるようにアルミニウムを蒸着し、蒸着膜面に、剥離層に使用したものと同じニトロセルロース溶液を、剥離層の場合と同じ条件で塗布し、トップコート層を形成した。
【0041】
上記蒸着フィルムを、酢酸エチル:イソプロピルアルコール=6:4の混合溶剤中に浸積してポリエステルフィルムからアルミニウム蒸着膜を剥離したのち、大きさが約150μmとなるよう攪拌機でアルミニウム蒸着膜を粉砕し、アルミニウム薄膜細片を調製した。
【0042】
(2)アルミニウム薄膜細片スラリー
アルミニウム薄膜細片 10部
酢酸エチル 35部
メチルエチルケトン 30部
イソプロピルアルコール 30部
上記を混合し撹拌しながら、下記組成のニトロセルロース溶液5部を加えた。
【0043】
ニトロセルロース(HIG1/4) 25%
酢酸エチル:イソプロピルアルコール=6:4混合溶剤 75%
上記混合物を、温度を35℃以下に保ちながら、ターボミキサーを使用して、アルミニウム薄膜細片の大きさが5〜25μmになるまで攪拌し、アルミニウム薄膜細片スラリー(不揮発分10%)を調製した。
【0044】
(4)高輝性インキ
(高輝性インキ調製例B−1)
アルミニウム薄膜細片スラリー(不揮発分10%) 30部
結着樹脂 カルボン酸含有塩ビ−酢ビ樹脂(ダウケミカル社製
「UCAR VMCH」) 3部
カルボン酸含有ウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製
「タイフォースNT−810−45」不揮発分45%) 6部
メチルイソブチルケトン 12部
酢酸ブチル 23部
イソプロパノール 10部
上記を混合し、高輝性インキB−1を調製した。
溶解度パラメーター8.6以下の溶剤(メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル)と炭素数1〜5のモノアルコール(イソプロパノール)の合計は71.3%、混合溶剤の平均溶解度パラメーターは、9.5であった。
【0045】
(高輝性インキ調製例B−2)
アルミニウム薄膜細片スラリー(不揮発分10%) 30部
結着樹脂 カルボン酸含有塩ビ−酢ビ樹脂ダウケミカル社製
「UCAR VMCH」) 3部
カルボン酸含有ウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製
「タイフォースNT−810−45」不揮発分45%) 6部
酢酸エチル 30部
イソプロパノール 15部
上記を混合し、高輝性インキB−2を調製した。
溶解度パラメーター8.6以下の溶剤と炭素数1〜5のモノアルコール(イソプロパノール)の合計は31.4%、混合溶剤の平均溶解度パラメーターは、9.9であった。
【0046】
(5)接着剤
(接着剤調製例)
主剤として、芳香族ポリエーテルウレタン樹脂(ディックドライAS−106A:大日本インキ化学工業社製)100部及び硬化剤として、エポキシ(LR−100:大日本インキ化学工業社製)10部からなる2液型接着剤D−1を得た。
【0047】
透明熱可塑性樹脂フィルムとして、透明で表面光沢値が150(60°/60°)、厚さ125μmのゴム変性PMMAフィルム(以下、フィルムA)、及び、成形用合成樹脂フィルムとして、グレー、不透明で厚さ300μmのABSフィルム(以下、フィルムC)を用いた。
【0048】
(実施例1)
層構成を、フィルムA/高輝性インキB−1/接着剤D−1/フィルムCとし、高輝性インキB−1はキスリバースコーターにて乾燥膜厚が2.0μmとなるように塗工乾燥後、接着剤D−1をグラビアコーターにて、塗布量5.0g/mに塗工し、直ちにフィルムCを積層した。得られた成形用積層シートを40℃で3日間エージングし、その後、シート温度155℃、金型温度60〜80℃の条件にて真空成形法により成形加工した。
【0049】
(比較例1)
層構成を、フィルムA/高輝性インキB−2/接着剤D−1/フィルムCとし、高輝性インキB−2はキスリバースコーターにて乾燥膜厚が2.0μmとなるように塗工、乾燥後、接着剤D−1をグラビアコーターにて、塗布量5.0g/mに塗工し、直ちにフィルムCを積層した。得られた成形用積層シートを40℃で3日間エージングし、その後、シート温度155℃、金型温度60〜80℃の条件にて真空成形法により成形加工した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の、鏡面状金属光沢の意匠性を有する成形用積層シートは、特に自動車関連部材、建材部材、家電品等の表面基材として有用に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層と、鏡面状金属光沢を有する装飾層とを有する成形用積層シートであって、前記した装飾層が、金属薄膜細片、結着樹脂、及び、溶解度パラメーターが8.6(cal/ml)(1/2)以下の有機溶剤と、炭素数1〜5の低級モノアルコール類から選ばれた1種以上のアルコールとを併せて50質量%以上含有し溶解度パラメーターが8.6〜10.3(cal/ml)(1/2)である混合溶剤を含有する高輝性インキの乾燥皮膜層からなる装飾層であることを特徴とする成形用積層シート。
【請求項2】
前記した高輝性インキ中の結着樹脂がカルボキシル基、燐酸基、スルホン酸基及びそれらの金属塩並びにアミノ基の何れか一種以上を有するものである請求項1に記載の成形用積層シート。
【請求項3】
前記した透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層がアクリル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂フィルム層である請求項1記載の成形用積層シート。
【請求項4】
前記した装飾層側にさらに成形用合成樹脂フィルム層を有する請求項1に記載の成形用積層シート。
【請求項5】
前記した成形用合成樹脂フィルムが熱可塑性を有し、前記した装飾層の結着樹脂の軟化点が、該成形用合成樹脂フィルムまたは前記した透明又は半透明の熱可塑性樹脂フィルム層のいずれか高い方の軟化点よりも低いものである請求項1〜4の何れかに記載の成形用積層シート。
【請求項6】
成形用積層シートを200%展延成形した時に、前記した透明又は半透明の成形用熱可塑性樹脂フィルム層側の表面光沢値の変化率が30%以下である請求項1〜4の何れかに記載の成形用積層シート。


【公開番号】特開2006−35682(P2006−35682A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220004(P2004−220004)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】