説明

成形用金型及び光学素子の製造方法

【課題】簡単な構成でサイクルタイムの短縮を図ることができる成形用金型を提供する。
【解決手段】成形用金型は、キャビティ34を含むコアブロック32と、コアブロック32の周辺に配置され、コアブロック32を冷却可能な周辺ブロック36と、コアブロック32を加熱するカートリッジヒータ37と、を備え、周辺ブロック36がコアブロック32に対し接触及び離間の切替可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用金型及び光学素子の製造方法に関し、特にヒートサイクル成形を行うのに有用な成形用金型及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂の転写性を向上させるための技術としてヒートサイクル成形が知られている。「ヒートサイクル成形」とは、金型温度を樹脂のガラス転移点Tg以上に昇温して樹脂流動性を高めてから樹脂を射出し、射出後に金型を強制的に冷却して成形品を取り出すものであり、金型の加熱及び冷却に時間が費やされるため生産性が低下し製造コストが増大することから、サイクルタイムの短縮を図ることが課題となっている。ヒートサイクル成形の一例が特許文献1,2に開示されている。特許文献1では、キャビティの周囲に水管を設け高圧水蒸気と冷水とを選択的に流して金型を加熱・冷却している。他方、特許文献2では、金型に入れ子を嵌装してその入れ子に冷媒液路を形成し、冷媒液路中の冷媒をヒータにより加熱したり冷媒液路中に冷媒を流したりしてキャビティを加熱・冷却している。
【特許文献1】特開昭61−43169号公報
【特許文献2】特許第3438908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された技術のように、加熱時には高温の媒体を流路中で循環させ、冷却時には低温の媒体を流路中で循環させるといった従来の方法では、加熱する際には金型が冷却された状態から昇温を開始するために多くの熱量が必要となり、また冷却を開始する際には加熱された状態から放熱させなければならず効率が悪い。
【0004】
特に、ピックアップレンズ等の光学素子において、樹脂の温度特性を改善するために無機微粒子を配合した有機無機複合材料(ナノコンポジット)を用いて成形を行う際には、表面性(回折構造の転写性等)を確保するために、樹脂の充填時はキャビティの温度を高く(樹脂のガラス転移点Tg+10℃〜Tg+40℃)が必要であり、かつ、離型時の面形状変化を抑制するためには十分に冷却(Tg−5℃〜Tg−30℃)することが必要であることから、金型のキャビティの昇降温速度の向上は極めて重要である。
【0005】
その意味で、特許文献2に開示された技術では、キャビティの近傍に温度センサを設けてその温度センサの検出結果に基づき、キャビティの加熱・冷却を制御するような構成となっているから、キャビティの温度を正確に把握する上で重要であると思われるが、構成が複雑であり、ピックアップレンズ等の小径の光学素子の製造に応用するのは困難である。
【0006】
本発明の主な目的は、簡単な構成でサイクルタイムの短縮を図ることができる成形用金型及び光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
キャビティを含むコア部と、
前記コア部の周辺に配置され、前記コア部を冷却可能な周辺部と、
前記コア部を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記周辺部が前記コア部に対し接触及び離間の切替可能である成形用金型が提供される。
【0008】
前記加熱手段は、前記コア部の内部であってキャビティの近傍に設けられたヒータであってもよいし、前記周辺部が前記コア部に対し離間した際に、前記周辺部と前記コア部との間に形成される空隙に加熱媒体を供給する構成を有するものであってもよく、前記周辺部が前記コア部から離間された際に生じる流路を通して前記コア部に加熱媒体を供給する構成を有するものであってもよく、前記コア部のキャビティの近傍に設けられた流路中に加熱媒体を循環させる構成を有するものであってもよい。
【0009】
本発明の他の態様によれば、
キャビティを含むコア部と、前記コア部の周辺に配置され、前記コア部を冷却可能な周辺部と、前記コア部を加熱する加熱手段と、を備え、前記周辺部が前記コア部に対し接触及び離間の切替可能である成形用金型を用いて光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
前記コア部に対し前記周辺部を離間させた状態で前記加熱手段により前記コア部を加熱する工程と、
熱可塑性樹脂中に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を前記コア部のキャビティに充填する工程と、
前記コア部に対し前記周辺部を接触させた状態で前記周辺部により前記コア部を冷却する工程と、
前記コア部のキャビティから前記有機無機複合材料で構成された成形品を取り出す工程と、
を備える光学素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様である成形用金型によれば、周辺部がコア部に対し接触可能であるから、コア部を冷却する際には、単にコア部を冷却するだけでなく、周辺部をコア部に接触させるという構成で、コア部の熱を周辺部に伝導することができ、ヒートサイクル中の冷却時間を短縮することができる。他方、周辺部がコア部に対し離間可能でもあるから、コア部を加熱する際には、単に周辺部をコア部から離間させるという簡単な構成で、コア部から周辺部への熱の伝導(放熱)を抑えることができ、ヒートサイクル中の加熱時間を短縮することができる。以上から、簡単な構成でサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0011】
本発明の他の態様である光学素子の製造方法によれば、コア部を加熱する工程では、コア部に対し周辺部を離間させるから、このような簡単な構成で、コア部から周辺部への熱の伝導(放熱)を抑えることができ、ヒートサイクル中の加熱時間を短縮することができる。他方、コア部を冷却する工程では、コア部に対し周辺部を接触させるから、このような簡単な構成で、コア部の熱を周辺部に容易に伝導することができ、ヒートサイクル中の冷却時間を短縮することができる。以上から、簡単な構成でサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例は、熱可塑性樹脂中に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形し、光学素子を製造する成形用金型を提供するものであり、更にはその成形用金型を用いた光学素子の製造方法を提供するものである。
下記では、始めに(1)金型の構成について説明し、その後に有機無機複合材料を構成する(2)熱可塑性樹脂と(3)無機微粒子とについて説明し、最後に(4)その金型を用いて光学素子を製造する方法(射出成形方法を含む。)について説明する。
【0014】
(1)金型の構成
図1に示す通り、金型1は固定型2と可動型3とで構成されており、射出成形機にセットされた状態において固定型2が当該射出成形機の所定位置に固定され、可動型3が固定型2に対し図1中左右方向に可動するようになっている。
【0015】
固定型2は射出成形機の所定位置に取り付けられる固定側取付け板20を有している。固定側取付け板20の中央部にはコアブロック22が設けられており、コアブロック22には被成形材料(本実施例では有機無機複合材料に相当する。)が流入するスプルー24が形成されている。
【0016】
コアブロック22の周辺には4つの周辺ブロック26が設けられている。4つの周辺ブロック26のうち、2つの周辺ブロック26はコアブロック22の図1中上方と下方とに1つずつ設けられ、残り2つの周辺ブロック26は図1紙面中の表側と裏側とに1つずつ設けられている。つまり、周辺ブロック26はコアブロック22に対し4方向に1つずつ設けられている。
【0017】
コアブロック22にはカートリッジヒータ27が設けられており、周辺ブロック26には冷媒が流通可能な流路(図示略)が形成されている。以上の固定型2では、固定側取付け板20と周辺ブロック26との外壁に断熱板29が設けられており、固定型2で発生する熱の放熱が抑制される構成となっている。
【0018】
他方、可動型3は射出成形機の所定位置に取り付けられる可動側取付け板30を有している。可動側取付け板30の中央部にはスペーサ31が設けられており、スペーサ31の中央部にはコアブロック32が設けられている。図1及び図2に示す通り、コアブロック32には被成形材料が流通するランナー33と、被成形材料の充填を受けるキャビティ34が形成されている。
【0019】
コアブロック32の周辺には4つの周辺ブロック36が設けられている。図1では、4つの周辺ブロック36のうち、2つの周辺ブロック36はコアブロック32の上方と下方とに1つずつ設けられ、残り2つの周辺ブロック26は紙面の表側と裏側とに1つずつ設けられている。つまり、図2に示す通り、周辺ブロック36はコアブロック32に対し4方向に1つずつ設けられている。
【0020】
コアブロック32には4つのカートリッジヒータ37が設けられており、周辺ブロック36には冷媒が流通可能な流路38が形成されている。これら4つの周辺ブロック36は、図2に示す通りにコアブロック32に対し接触したり、図3に示す通りにコアブロック32から分離するようにコアブロック32に対し離間したりすることができるようになっている(このような構成は固定型2の周辺ブロック26においても同様となっている。)。以上の可動型3では、可動側取付け板30と周辺ブロック36との外壁に断熱板39が設けられており、可動型3で発生する熱の放熱が抑制される構成となっている。
【0021】
(2)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては、光学素子としての加工性の観点から、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリイミド樹脂であることが好ましく、環状オレフィンであることが特に好ましい。具体例として、特開2003−73559号公報に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を下記表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
なお、上述した熱可塑性樹脂は、光学材料としての寸法安定性の観点から、吸湿率が0.2%以下であることが望ましいため、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF:デュポン社製)、環状オレフィン樹脂(日本ゼオン製:ZEONEX、三井化学製:APEL、JSR製:アートン、チコナ製:TOPAS)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好適に用いられる。
【0024】
(3)無機微粒子
無機微粒子としては、酸化物微粒子、金属塩微粒子、半導体微粒子などが挙げられ、この中から、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものを適宜選択して使用することができる。
【0025】
酸化物微粒子としては、金属酸化物を構成する金属が、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属である金属酸化物を用いることができ、具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物(MgAl24)等が挙げられる。
【0026】
その他の酸化物微粒子として希土類酸化物を用いることもでき、具体的には酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。金属塩微粒子としては、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられ、具体的には炭酸カルシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0027】
半導体微粒子とは、半導体結晶組成の微粒子を意味し、該半導体結晶組成の具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF1515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0028】
上記の無機微粒子の中でも、光学材料として用いられる樹脂の屈折率が1.4〜1.7程度である場合が多いことから、これに近い屈折率をもつ酸化物微粒子が、好ましく用いられる。具体的には、シリカ(酸化ケイ素)、炭酸カルシウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物などが挙げられる。任意に屈折率を調節できるという観点から、SiとSi以外の金属元素を含む複合酸化物微粒子がさらに好ましく用いられる。また、複合粒子の形態については、同一粒子内で成分がほぼ均一である複合構造であっても、粒子を構成する内層の成分と外層の成分とが異なる所謂コアシェル構造と呼ばれる複合構造であってもよい。
【0029】
本実施例において熱可塑性樹脂中に分散される無機微粒子は、光線透過率を劣化させない範囲であれば、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また複数種類の無機微粒子を併用してもよい。異なる性質を有する複数種類の微粒子を用いることで、必要とされる特性を更に効率よく向上させることもできる。
【0030】
無機微粒子の平均一次粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましく、1〜15nmであることが特に好ましい。無機微粒子の平均一次粒子径は、無機微粒子を同体積の球に換算したときの直径の平均値を示し、この値は透過型電子顕微鏡写真から評価することができる。
【0031】
無機微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状の微粒子が好適に用いられる。具体的には、粒子の最小径(微粒子の外周に接する2本の接線を引く場合における当該接線間の距離の最小値)/最大径(微粒子の外周に接する2本の接線を引く場合における当該接線間の距離の最大値)が0.5〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることが更に好ましい。
【0032】
また、有機無機複合材料とされた状態(熱可塑性樹脂中に分散された状態)において、その有機無機複合材料全体に対する無機微粒子の混合比は、下限が5体積%以上であり、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは20体積%以上であり、上限が50体積%以下であり、好ましくは40体積%以下である。
【0033】
(4)光学素子の製造方法
始めに、樹脂可塑性樹脂に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を製造する。具体的には、無機微粒子存在下で熱可塑性樹脂を重合させることで複合化する方法、熱可塑性樹脂の存在下で無機微粒子を形成し複合化する方法、無機微粒子を熱可塑性樹脂の溶媒になる液中に分散液とし、その後溶媒を除去することで複合化する方法、無機微粒子と熱可塑性樹脂を別々に用意し、溶融混練、溶媒を含んだ状態での溶融混練などで複合化する方法等、何れの方法によっても製造することができる。
【0034】
これらの中で、無機微粒子と熱可塑性樹脂を別々に用意し、溶融混練で複合化する方法は、簡便で製造コストを抑えることが可能なことから、好ましく用いられる。溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いて製造することもできる。
【0035】
有機無機複合材料の製造方法において、溶融混練を用いる場合、熱可塑性樹脂と無機微粒子を一括で添加し混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。この場合、押出機などの溶融混練装置では、段階的に添加する成分をシリンダーの途中から添加することも可能である。また、予め混練後、熱可塑性樹脂以外の成分で予め添加しなかった成分を添加して更に溶融混練する際も、これらを一括で添加して、混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。分割して添加する方法も、一成分を数回に分けて添加する方法も採用でき、一成分は一括で添加し、異なる成分を段階的に添加する方法も採用でき、そのいずれをも合わせた方法でも良い。
【0036】
溶融混練による複合化を行う場合、無機微粒子は粉体のまま添加することも可能であるし、又は液中に分散された状態で添加することも可能であるが、予め所定の混合比で無機微粒子と樹脂とを予備混合したマスターバッチを作製し、その後にそのマスターバッチと樹脂とを溶融混練で複合化する方法が好適である。この場合に、マスターバッチの作製方法としては、有機無機複合材料へのダメージが少なく、均一に混合することができるという観点から、湿式混合方式を適用するのが好ましい。湿式混合方式とは、適宜選択された溶媒中に樹脂を溶解させ、この樹脂が溶解した溶媒と無機微粒子とを混合することによりマスターバッチを作製する方法であり、前記溶媒を揮発させることにより最終的にマスターバッチを得ることができる。
【0037】
マスターバッチの作製に適用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘプタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−t−ブチル、酢酸−n−ブチル、酢酸−n−ヘキシル等のエステル類、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用することもできるし、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0038】
有機無機複合材料の製造を終えたら、金型1を用いてその有機無機複合材料を射出・成形し、光学素子を製造する。始めに、金型1を一定の射出成形機の所定位置にセットし、図4(a)に示す通りに固定型2と可動型3とを密着させるとともにコアブロック22,32に対し周辺ブロック26,36を離間させる。この状態において、コアブロック22,32のカートリッジヒータ27,37を作動させ、コアブロック22,32を加熱する。
【0039】
コアブロック22,32が一定の温度に上昇したら、カートリッジヒータ27,37の作動を停止させ、図4(b)に示す通り、溶融させた有機無機複合材料をスプルー24に流入させ、その有機無機複合材料をランナー33からキャビティ34に充填する。
【0040】
有機無機複合材料をキャビティ34に充填したら、図4(c)に示す通り、コアブロック22,32に対し周辺ブロック26,36を接触させる。この状態において、周辺ブロック26,36の流路38に冷媒を流通させて、コアブロック22,32を冷却し、キャビティ34に充填した有機無機複合材料を硬化させる。流路38に循環させる「冷媒」としては、有機無機複合材料中の熱可塑性樹脂のガラス転移温度より温度の低いものであればその種類は問わず、例えばエアー等の気体やオイル等の液体を使用する。
【0041】
コアブロック22,32が一定の温度まで下降したら、図4(d)に示す通り、周辺ブロック26,36をコアブロック22,32から離間させるとともに可動型3を移動(後退)させ、キャビティ34において有機無機複合材料を硬化させて成形した成形品を取り出す。これにより、本実施例に係る光学素子を製造することができる。
【0042】
以上の本実施例では、周辺ブロック26,36がコアブロック22,32に対し離間可能であって、コアブロック22,32を加熱する際には、単に周辺ブロック26,36をコアブロック22,32から離間させているから(図4(a)参照)、このような簡単な構成で、コアブロック22,32から周辺ブロック26,36への熱の伝導(放熱)を抑えることができ、ヒートサイクル中の加熱時間を短縮することができる。また、コアブロック22,32を加熱中も、周辺ブロック26,36は離間されている為、独立して冷却することが可能である。
【0043】
更に、周辺ブロック26,36がコアブロック22,32に対し接触可能であって、コアブロック22,32を冷却する際には、単に周辺ブロック26,36をコアブロック22,32に接触させているから(図4(c)参照)、このような簡単な構成で、コアブロック22,32の熱を周辺ブロック26,36に容易に伝導することができ、ヒートサイクル中の冷却時間を短縮することができる。
以上から、簡単な構成でサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【実施例2】
【0044】
本実施例は主には下記の点で実施例1と異なっており、それ以外は同様となっている。
すなわち、図5に示す通り、コアブロック32にはカートリッジヒータ37が設けられておらず、その代わりに加熱媒体供給管40がコアブロック32の角部に設けられている。本実施例でも、周辺ブロック36は、図5に示す通りにコアブロック32に対し接触したり、図6に示す通りにコアブロック32から分離するようにコアブロック32に対し離間したりすることができるようになっている。
【0045】
このような構成は固定型2のコアブロック22においても同様となっており、コアブロック22の角部には加熱媒体供給管40と同様の加熱媒体供給管が設けられている。
【0046】
そして光学素子を製造する場合には、コアブロック22,32を加熱する工程において、図6に示す通り、コアブロック22,32に対し周辺ブロック26,36を離間(後退)させる。この状態において、加熱媒体供給管40とそれと同様のコアブロック22用の加熱媒体供給管とからコアブロック22,32に向けて加熱媒体ガスを噴き付ける。このとき、周辺ブロック26,36とコアブロック22,32との間に空隙41が形成され、加熱媒体ガスが空隙41を流通してコアブロック22,32を加熱する。また、本実施例においては、冷却時には周辺ブロック26,36が、コアブロック22,32をそれぞれ隙間なく覆っているが、加熱時に周辺ブロック26,36をコアブロック22,32から離間させた際には、各周辺ブロック26,36の間に隙間が生じ、そこから加熱媒体ガスが供給されるように構成されている。コアブロック22,32に噴き付ける「加熱媒体ガス」としては、有機無機複合材料中の熱可塑性樹脂のガラス転移温度より温度の高いものであればその種類は問わず、例えばエアーを使用する。具体的には、インフリッヂ工業社製エアーヒータ等の装置を用いて加熱媒体ガスを供給することができる。
【実施例3】
【0047】
本実施例は主には下記の点で実施例1と異なっており、それ以外は同様となっている。
すなわち、図7に示す通り、コアブロック32にはカートリッジヒータ37が設けられておらず、その代わりにコアブロック32に流路50が形成されている。流路50はキャビティ34を取り囲むようにコアブロック32の周縁部を周回しており、加熱媒体が流路50を循環することができるようになっている。本実施例でも、周辺ブロック36は、図7に示す通りにコアブロック32に対し接触したり、図8に示す通りにコアブロック32から分離するようにコアブロック32に対し離間したりすることができるようになっている。
【0048】
このような構成は固定型2のコアブロック22と周辺ブロック26とにおいても同様となっており、コアブロック22の周縁部には流路50と同様の流路が設けられている。
【0049】
そして光学素子を製造する場合には、コアブロック22,32を加熱する工程において、図8に示す通り、コアブロック22,32に対し周辺ブロック26,36を離間(後退)させる。この状態において、流路50とそれと同様のコアブロック22用の流路中に加熱媒体を循環させ、コアブロック22,32を加熱する。流路50に循環させる「加熱媒体」としては、有機無機複合材料中の熱可塑性樹脂のガラス転移温度より温度の高いものであればその種類は問わず、例えばエアー等の気体やオイル等の液体を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の好ましい実施例(実施例1)に係る金型の概略構成を示す断面図である。
【図2】実施例1に係る可動型のコアブロックと周辺ブロックとの概略構成を示す平面図である。
【図3】実施例1に係る固定型,可動型の周辺ブロックがコアブロックに対し離間した際の概略的な状態を示す平面図である。
【図4】実施例1に係る光学素子の製造方法を説明するための図面である。
【図5】本発明の好ましい実施例(実施例2)に係る金型であって特に可動型付近の概略構成を示す平面図である。
【図6】実施例2に係る可動型の周辺ブロックがコアブロックに対し離間した際の概略的な状態を示す平面図である。
【図7】本発明の好ましい実施例(実施例3)に係る金型であって特に可動型付近の概略構成を示す平面図である。
【図8】実施例3に係る可動型の周辺ブロックがコアブロックに対し離間した際の概略的な状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 金型
2 固定型
20 固定側取付け板
22 コアブロック
24 スプルー
26 周辺ブロック
27 カートリッジヒータ
28 流路
29 断熱板
3 可動型
30 可動側取付け板
31 スペーサ
32 コアブロック
33 ランナー
34 キャビティ
36 周辺ブロック
37 カートリッジヒータ
38 流路
39 断熱板
40 加熱媒体供給管
50 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを含むコア部と、
前記コア部の周辺に配置され、前記コア部を冷却可能な周辺部と、
前記コア部を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記周辺部が前記コア部に対し接触及び離間の切替可能であることを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
請求項1に記載の成形用金型において、
前記加熱手段が、前記コア部の内部であってキャビティの近傍に設けられたヒータであることを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
請求項1に記載の成形用金型において、
前記加熱手段が、前記周辺部が前記コア部に対し離間した際に、前記周辺部と前記コア部との間に形成される空隙に加熱媒体を供給する構成を有することを特徴とする成形用金型。
【請求項4】
請求項1に記載の成形用金型において、
前記加熱手段が、前記周辺部が前記コア部から離間された際に生じる流路を通して前記コア部に加熱媒体を供給する構成を有することを特徴とする成形用金型。
【請求項5】
請求項1に記載の成形用金型において、
前記加熱手段が、前記コア部のキャビティの近傍に設けられた流路中に加熱媒体を循環させる構成を有することを特徴とする成形用金型。
【請求項6】
キャビティを含むコア部と、前記コア部の周辺に配置され、前記コア部を冷却可能な周辺部と、前記コア部を加熱する加熱手段と、を備え、前記周辺部が前記コア部に対し接触及び離間の切替可能である成形用金型を用いて光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
前記コア部に対し前記周辺部を離間させた状態で前記加熱手段により前記コア部を加熱する工程と、
熱可塑性樹脂中に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を前記コア部のキャビティに充填する工程と、
前記コア部に対し前記周辺部を接触させた状態で前記周辺部により前記コア部を冷却する工程と、
前記コア部のキャビティから前記有機無機複合材料で構成された成形品を取り出す工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−238703(P2008−238703A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84853(P2007−84853)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】