説明

成膜方法、デバイスの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】基板に付着したスパッタ粒子を核として無電解メッキ処理時にメッキ材料が析出されることを防止し、工程を短縮できる成膜方法、デバイスの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体基板100をスパッタ用固定治具102で支持した状態で、半導体基板100の上面をスパッタする逆スパッタ工程と、逆スパッタされた半導体基板100の上面に、金属材料で構成されたシード層106を形成するシード層形成工程と、シード層106上に、無電解メッキ法により金属材料で構成されたメッキ層を形成する無電解メッキ工程とを備え、スパッタ用固定治具102の表面が、前記逆スパッタ工程時に絶縁性を維持する絶縁材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無電解メッキ処理を用いた成膜方法、デバイスの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)において、アクチュエータ基板とこれを駆動する駆動回路とを接続するための配線パターンを形成している。ここで、配線パターンの形成方法としては、無電解メッキ法を用いた方法がある(例えば、特許文献1参照)。
この方法では、まず、基板表面にスパッタ法や蒸着法によってNi−Crからなる金属膜を形成し、その上面に同様にAu(金)からなる金属膜を形成する。次に、これら金属膜上にレジストを塗布し、これを露光、現像することで配線パターンの形状に対応したレジストパターンを形成する。そして、レジストをマスクとしたドライエッチングやウェットエッチングによって上記金属膜を配線パターンの形状にパターニングし、レジストを除去する。その後、金属膜を下地とし、無電解メッキ法によって配線パターンの形状にパターニングされた金属膜上に配線材料を析出させることで基板上に配線パターンを形成する。
この方法は、スパッタ法を用いて厚膜の配線パターンを形成することと比較して、スパッタ時における基板の加熱に起因する基板の反りや、金属膜間での拡散による配線パターンの抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0003】
ここで、上記金属膜を形成する際、基板の表面に形成された酸化膜や有機物などの汚染物質の除去やエッチングして基板表面を粗面化することにより形成する金属膜との密着強度の向上を目的として、基板表面をスパッタする逆スパッタ処理を基板に施している。この逆スパッタ処理の際、基板は、SiO(石英)やアルミニウム合金、SUS(ステンレス鋼)などで構成されたスパッタ用固定治具によってその縁部が支持されている。このとき、基板に貫通孔が形成されている場合には、金属膜の形成時にスパッタ用固定治具の上面のうち貫通孔と対応する領域にも金属膜が形成される。そのため、スパッタ用固定治具は、基板上に形成された金属膜と接続されることを防止するために、基板をその下面がスパッタ用固定治具から離間するように支持している。したがって、基板とスパッタ用固定治具との間には、貫通孔を介して外部に接続される空間が形成されている。
【特許文献1】特公昭61−31188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の配線パターンの形成方法においても、以下の課題が残されている。すなわち、上記従来の配線パターンの形成方法では、基板とスパッタ用固定治具との間に空間が形成されていることから、逆スパッタ時に基板の表面がスパッタされると共に上記空間の内部におけるスパッタ用固定治具の表面もスパッタされる。そのため、スパッタ用固定治具の表面の構成物質がスパッタ粒子となって基板に付着することがある。そして、無電解メッキ処理において、基板に付着したスパッタ粒子を核として配線材料が析出した後、工程中に取れ、再付着して異物となり、配線パターンの間におけるショートなどによって歩留まりが低下することがある。そのため、無電解メッキ処理後などにスパッタ粒子及びこれに析出された配線材料を除去する必要があり、配線パターンの形成工程が増加するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、基板に付着したスパッタ粒子を核として無電解メッキ処理時にメッキ材料が析出されることを防止し、工程を短縮できる成膜方法、デバイスの製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明にかかる成膜方法は、基板を固定治具で支持した状態で、前記基板の上面をスパッタする逆スパッタ工程と、逆スパッタされた前記基板の上面に、金属材料で構成されたシード層を形成するシード層形成工程と、前記シード層上に、無電解メッキ法により金属材料で構成されたメッキ層を形成する無電解メッキ工程とを備え、前記固定治具の表面が、前記逆スパッタ工程時に絶縁性を維持する絶縁材料で構成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明では、固定治具の表面を逆スパッタ工程時においても絶縁性を維持する絶縁材料で構成することで、無電解メッキ工程において付着したスパッタ粒子を核として金属材料が析出されることを防止する。
すなわち、逆スパッタ工程時に固定治具の表面がスパッタされることで発生したスパッタ粒子は、基板に付着した状態においても絶縁性を維持している。このため、無電解メッキ工程において、スパッタ粒子を核とした金属材料の析出が防止される。したがって、無電解メッキ工程後にスパッタ粒子を核として析出された金属材料を除去する必要がなくなり、成膜工程の短縮化が図れる。
【0008】
また、本発明の成膜方法は、前記絶縁材料が、前記逆スパッタ工程時での酸素欠損を抑制した酸化物であることが好ましい。
この発明では、逆スパッタ工程において発生したスパッタ粒子の酸素欠損を抑制することで、スパッタ粒子の絶縁性を維持する。これにより、成膜工程の短縮化が図れる。
【0009】
また、本発明の成膜方法は、前記酸化物が、ZrO、MnO、FeO、Cr、SnO、Ti、CoO、ZnO、V、MoO、SnO、HfOのうち、少なくとも1種からなることとしてもよい。
この発明では、逆スパッタ工程においてスパッタ粒子の酸素欠損が発生しにくく、絶縁性を維持した状態でスパッタ粒子が基板に付着する。
【0010】
また、本発明の成膜方法は、前記逆スパッタ工程の前に、前記基板に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、前記逆スパッタ工程で、前記固定治具が、前記貫通孔に連通される空間を該固定治具と前記基板の下面との間に形成するように前記基板を支持することとしてもよい。
この発明では、貫通孔が形成された基板の上面に金属膜の成膜を行うときにおいて、スパッタ粒子を核とした金属材料の析出を効果的に防止でき、成膜工程の短縮化が図れる。
すなわち、貫通孔が形成された基板の上面に金属膜の成膜を行うために、基板の下面と固定治具との間に貫通孔を介して外部に接続される空間が形成される。そして、逆スパッタ時にこの空間内にプラズマが発生し、固定治具の表面から発生したスパッタ粒子が基板の下面に付着する。ここで、上述したように、固定治具の表面が絶縁材料で形成されていることから、スパッタ粒子を核とした金属材料の析出を防止し、成膜工程の短縮化が図れる。
【0011】
また、本発明の成膜方法は、前記シード層形成工程で、スパッタ法を用いて前記シード層を形成することが好ましい。
この発明では、スパッタ法を用いてシード層を形成することで、逆スパッタ工程とシード層形成工程とを同一のスパッタ装置を用いて連続して行うことができる。したがって、成膜工程のさらなる短縮化が可能となる。
【0012】
また、本発明のデバイスの製造方法は、配線パターンが形成された基板を有するデバイスの製造方法であって、上記記載の成膜方法により前記配線パターンを形成することを特徴とする。
この発明では、上述と同様に、無電解メッキ工程において金属材料が付着したスパッタ粒子を核として析出されることを防止し、配線パターンの形成工程を短縮化できる。
【0013】
また、本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、配線パターンが形成された基板を有し、前記配線パターンを介して供給される信号に基づいて液滴を吐出する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、上記記載の成膜方法により前記配線パターンを形成することを特徴とする。
この発明では、上述と同様に、無電解メッキ工程において金属材料が付着したスパッタ粒子を核として析出されることを防止し、配線パターンの形成工程を短縮化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法並びに液滴吐出ヘッドの一実施形態を、図面に基づいて説明する。ここで、図1は液滴吐出ヘッドの断面図、図2及び図3は配線パターン形成工程の工程図を模式的に示している。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(液滴吐出ヘッド)
本実施形態における液滴吐出ヘッドの製造方法により製造される液滴吐出ヘッド10は、インク(機能液)を液滴状にしてノズルから吐出にしてノズルから吐出するものである。
そして、液滴吐出ヘッド10は、図1に示すように、ノズル基板11と、ノズル基板11の上面(図1に示す+Z側)に設けられた流路形成基板12と、流路形成基板12の上面に設けられて圧電素子13の駆動により変位する振動板14と、振動板14の上面に設けられた封止基板(基板)15と、封止基板15上に設けられて圧電素子13を駆動する駆動回路部16A、16Bと、駆動回路部16A、16Bに接続された複数の配線パターン17とを備えている。
【0016】
ノズル基板11は、例えばガラスセラミックス、SUS、シリコンによって構成されており、ノズル基板11を貫通する貫通孔であって機能液の液滴を吐出するノズル開口部21が複数(例えば720個)Y軸方向に配列して形成されている。そして、Y軸方向に並んで形成された複数のノズル開口部21によって、ノズル開口部群21A、21Bが構成されている。ここで、ノズル開口部群21Aは、ノズル開口部群21Bに対して+X側に位置している。
【0017】
流路形成基板12は、例えばシリコンによって構成されており、異方性エッチングによって複数の貫通孔及びこの貫通孔の側壁から内部に向けてそれぞれ突出する隔壁22が複数形成されている。この複数の隔壁22は、平面視でほぼ櫛歯状に形成されており、この貫通孔を区画している。また、流路形成基板12の下面には、ノズル基板11がこの貫通孔の下面側を覆うように接着して設けられている。また、流路形成基板12の上面には、振動板14が設けられている。
【0018】
流路形成基板12に形成された貫通孔は、流路形成基板12とノズル基板11と振動板14とで囲まれることにより圧力発生室23を形成する。
この圧力発生室23は、ノズル開口部群21A、21Bを構成するノズル開口部21に対応するように、Y軸方向に複数並んで形成されている。そして、ノズル開口部群21Aに対応して形成された複数の圧力発生室23によって圧力発生室群23Aが構成され、ノズル開口部群21Bに対応して形成された複数の圧力発生室23によって圧力発生室群23Bが形成される。
また、圧力発生室23の基板外縁部側の端部は、リザーバ24の一部を構成する供給路25を介して連通部26により互いに連通されている。この連通部26は、流路形成基板12に形成された貫通孔であって、後述するリザーバ部41に接続されている。
【0019】
振動板14は、流路形成基板12の上面に設けられた弾性膜31と、弾性膜31の上面に設けられた下電極膜32とを備えている。弾性膜31は、例えば厚さ1〜2μm程度の二酸化シリコンによって形成されている。また、下電極膜32は、例えば厚さ0.2μm程度のPt(白金)などによって形成されている。なお、下電極膜32は、圧電素子13に共通する電極となっている。
【0020】
圧電素子13は、下電極膜32の上面に設けられた圧電体膜35と、圧電体膜35の上面に設けられた上電極膜36と、上電極膜36の引出配線であるリード電極37とを備えている。
ここで、圧電体膜35は、例えば厚さ1μm程度の金属酸化物によって構成されている。また、上電極膜36は、例えば厚さ0.1μm程度のPtなどによって構成されている。そして、リード電極37は、例えば厚さ0.1μm程度のAuなどによって構成されている。なお、リード電極37と下電極膜32との間には、絶縁膜(図示略)が設けられている。
【0021】
また、圧電素子13は、複数のノズル開口部21及び圧力発生室23のそれぞれに対応するように複数設けられている。すなわち、圧電素子13は、ノズル開口部21ごと(圧力発生室23ごと)に設けられている。そして、上述のように、下電極膜32が複数の圧電素子13の共通電極として機能し、上電極膜36及びリード電極37が複数の圧電素子13の個別電極として機能する。
また、ノズル開口部群21Aを構成するノズル開口部21と対応するようにY軸方向に複数並んで設けられた圧電素子13により圧電素子群13Aが形成され、ノズル開口部群21Bと対応して設けられた圧電素子13により圧電素子群13Bが形成されている。
なお、圧電素子13は、圧電体膜35、上電極膜36及びリード電極37に加えて下電極膜32を含むものであってもよい。すなわち、本実施形態における下電極膜32は、圧電素子13としての機能と振動板14としての機能とを兼ね備える構成としてもよい。また、本実施形態では、弾性膜31及び下電極膜32によって振動板14が構成されているが、弾性膜31を省略して下電極膜32が弾性膜31の機能を兼ね備える構成としてもよい。
【0022】
封止基板15は、例えば流路形成基板12と同一材料であるシリコン単結晶によって形成されている。また、封止基板15には、連通部26のそれぞれと対応するリザーバ部41がY軸方向に延びるように形成されている。このリザーバ部41と上述した連通部26とによってリザーバ24が構成される。そして、封止基板15には、各連通部26の側壁に接続されて各連通部26に機能液を導入する導入路42が形成されている。
【0023】
また、封止基板15の上面には、コンプライアンス基板44が接合されている。このコンプライアンス基板44は、封止膜45及び固定板46を有する。
封止膜45は、例えば厚さ6μm程度のポリフェニレンスルフィドフィルムのような剛性が低く可撓性を有する材料によって形成されており、リザーバ部41の上部を封止している。
また、固定板46は、例えば厚さ30μm程度のステンレス鋼のような金属などの硬質の材料によって形成されている。この固定板46のうち、リザーバ部41に対応する領域は、厚さ方向で完全に除去された開口部47となっている。したがって、リザーバ部41の上部は、可撓性を有する封止膜45のみによって封止されているので、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部48となっている。また、リザーバ部41の外側のコンプライアンス基板44上には、導入路42に連通してリザーバ部41に機能液を供給するための機能液導入口49が形成されている。
【0024】
通常、機能液導入口49からリザーバ部41に機能液が供給されると、例えば圧電素子13の駆動時の機能液の流れや周囲の熱などによってリザーバ部41内に圧力変化が生じる。しかしながら、上述のように、リザーバ部41の上部が封止膜45のみによって封止された可撓部48となっているので、この可撓部48が撓み変形してその圧力変化を吸収する。したがって、リザーバ部41内は一定の圧力に保持される。なお、他の部分は固定板46によって十分な強度に保持されている。
ここで、1つの機能液導入口49及び導入路42によってリザーバ部41に機能液を供給する構成となっているが、所望の機能液の供給量に応じて、複数の機能液導入口49及び導入路42を設ける構成としてもよい。また、機能液導入口49の開口面積を適宜変更して機能液の供給量を調整してもよい。
【0025】
また、封止基板15のうち、X軸方向における中央部には、Y軸方向に延びる溝部51が形成されている。この溝部51により、封止基板15は、圧力発生室群23Aに対応する圧電素子群13Aを封止する封止部52Aと、圧電素子群13Bに対応する圧電素子群13Bを封止する封止部52Bとに分けられる。この溝部51により、封止基板15に段差部が形成される。
すなわち、封止基板15のうち、圧電素子13と対向する領域には、圧電素子13の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部53が形成されている。圧電素子保持部53は、圧電素子群13A、13Bを覆う大きさで形成されている。また、圧電素子13のうち、少なくとも圧電体膜35は、この圧電素子保持部53内に密封されている。
【0026】
このように、封止基板15は、圧電素子13を外部環境から遮断し、圧電素子13を封止するための封止部材としての機能を有している。封止基板15で圧電素子13を封止することにより、水分などの外部環境による圧電素子13の破壊を防止することができる。なお、本実施形態では、圧電素子保持部53の内部を密封した状態としただけであるが、例えば圧電素子保持部53内の空間を真空や、N(窒素)またはAr(アルゴン)雰囲気などとすることで圧電素子保持部53内を低湿度に保持することができ、圧電素子13の破壊をより確実に防止することができる。
【0027】
図1に示すように、圧電素子保持部53によって封止されている圧電素子13のうち、リード電極37の基板中央部側の端部は、溝部51において露出した流路形成基板12上に配置されている。ここで、このように溝部51において露出した流路形成基板12上に位置するリード電極37の一部が、圧電素子13の電気的接続部となっている。
【0028】
駆動回路部16A、16Bは、それぞれ封止基板15の上に配設されている。この駆動回路部16A、16Bは、例えば回路基板または駆動回路を含む半導体集積回路(IC)を有している。また、駆動回路部16A、16Bは、液滴吐出ヘッド10の外部に設けられた外部コントローラ(図示略)と電気的に接続されており、液滴吐出ヘッド10がこの外部コントローラによって制御される。
そして、駆動回路部16A、16Bは、それぞれ複数の接続端子(図示略)を備えており、この接続端子の一部が封止基板15の上面に形成された配線パターン17に対してワイヤ55によって接続されている。また、駆動回路部16A、16Bの接続端子のうち他の一部は、溝部51において露出しているリード電極37とワイヤ56によって接続されている。なお、圧電素子13の上電極膜36とワイヤ56とがリード電極37を介して接続されているが、リード電極37を設けずに上電極膜36を溝部51において露出させてワイヤ56と接続する構成としてもよい。
【0029】
このような構成の液滴吐出ヘッド10により機能液の液滴を吐出するには、上記外部コントローラによって外部に設けられて機能液導入口49に接続された機能液供給装置(図示略)を駆動する。そして、上記機能液供給装置から送出された機能液は、機能液導入口49を介してリザーバ24に供給された後、ノズル開口部21に至るまでの液滴吐出ヘッド10の内部流路を満たす。
また、上記外部コントローラは、封止基板15上に実装された駆動回路部16A、16Bなどに、例えば配線パターン17を介して駆動電力や指令信号を送信する。そして、指令信号を受信した駆動回路部16A、16Bは、上記外部コントローラからの指令に基づく駆動信号を各圧電素子13に送信する。これにより、圧力発生室23に対応するそれぞれの下電極膜32及び上電極膜36の間に電圧が印加され、弾性膜31、下電極膜32及び圧電体膜35に変異が生じ、この変異によって各圧力発生室23の容積が変化して内部圧力が高まり、ノズル開口部21から液滴が吐出される。
【0030】
(液滴吐出ヘッドの製造方法)
次に、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。なお、以下の説明では、本発明が封止基板15上に配線パターン17を形成する配線パターン形成工程(成膜工程)に特徴を有しているため、他の工程についての説明を省略し、配線パターン形成工程について説明する。
【0031】
最初に、貫通孔形成工程を行う。これは、シリコンからなる半導体基板(基板)100上に実装される駆動回路部16A、16Bと半導体基板100の下面に設けられる圧電素子13とを電気的に接続するためである。ここでは、最初に、半導体基板100の表面を熱酸化処理し、半導体基板100の表面にSiO(二酸化ケイ素)からなる熱酸化膜(図示略)を形成する。そして、熱酸化膜上にレジストを塗布し、これを露光、現像することでパターニングする。その後、パターニングしたレジストをマスクとして、HF(フッ酸)によりSiOからなる熱酸化膜を除去する。そして、KOH(水酸化カリウム)などのアルカリ溶液でウェットエッチングすることにより、半導体基板100に貫通孔101を形成する(図2(a)、図4)。
このようにして形成された貫通孔101が、図1に示すリザーバ部41や導入路42、溝部51を構成する。この後、再び半導体基板100に熱酸化処理を施し、半導体基板100の全面にSiOからなる熱酸化膜(図示略)を形成する。
【0032】
次に、逆スパッタ工程を行う。これは、貫通孔101が形成された半導体基板100をスパッタ用固定治具(固定治具)102で支持、固定させた状態で、逆スパッタ法により半導体基板100の表面をスパッタする。ここで、逆スパッタ条件は、例えば、出力をRF200W、使用するArガスの流量を40sccm、圧力を0.4Pa、スパッタ時間を130秒としている。
【0033】
逆スパッタ工程において使用するスパッタ用固定治具102は、図2(b)に示すように、平面視でほほ半導体基板100と同様の形状を有する板状部材である治具本体102aと、治具本体102aの上面から突出して設けられて半導体基板100の縁部を支持する突出支持部102bとを備えている。したがって、半導体基板100はその下面が治具本体102aの上面から離間した位置で支持されており、半導体基板100とスパッタ用固定治具102との間には貫通孔101に連通する空間が形成されている。これは、後述するシード層形成工程や無電解メッキ工程において平面視で貫通孔101と対応する領域にも金属膜が形成されることで、半導体基板100上に形成された金属膜と接続することを回避するためである。
【0034】
また、スパッタ用固定治具102は、例えばZrO(酸化ジルコニア)、MnO(酸化マンガン)、FeO(酸化第一鉄)、Cr(酸化クロム)、SnO、SnO(酸化スズ)、Ti(酸化チタン)、CoO(酸化コバルト)、ZnO(酸化亜鉛)、V(酸化バナジウム)、MoO(酸化モリブデン)、HfO(酸化ハフニウム)のうち少なくとも1種からなる絶縁材料で構成されている。したがって、スパッタ用固定治具102の表面は、この絶縁材料によって構成されていることとなる。
【0035】
この逆スパッタ工程では、半導体基板100の上面をスパッタすると、治具本体102aと半導体基板100との間に貫通孔101に連通する空間が形成されていることから、図2(b)に示すように、スパッタ用固定治具102の側面や治具本体102aの上面もプラズマが発生してスパッタされる。このため、スパッタ用固定治具102の表面に形成された上記絶縁膜を構成する絶縁材料からなるスパッタ粒子103が、半導体基板100の下面や側面に付着する。ここで、スパッタ粒子103は、絶縁膜が上述した絶縁材料であることから逆スパッタ工程を経ても酸素欠損が発生しにくいので、その絶縁性が維持されている。
これにより、半導体基板100の表面に付着した汚染物質の除去や、半導体基板100の表面の粗面化が行われる(図2(b))。
【0036】
続いて、シード層形成工程を行う。ここでは、最初に、半導体基板100上に、スパッタ法によってNi(ニッケル)−Cr(クロム)合金(Cr20%)からなる第1金属膜104を形成する。ここで、第1金属膜104の膜厚は、例えば0.03〜0.2μm(本実施形態では0.1μm)となっている。さらに、第1金属膜104上に、スパッタ法によってAuからなる第2金属膜105を形成する。ここで、第2金属膜105の膜厚は、例えば0.1〜0.3μm(本実施形態では0.2μm)となっている。以上のようにして、第1及び第2金属膜104、105からなるシード層106を形成する(図2(c))。この後、スパッタ用固定治具102による半導体基板100の支持を解除する。このとき、上述したように、半導体基板100の上面を粗面化することで、半導体基板100の上面と第1金属膜104とが強固に密着している。なお、シード層106を構成する第1及び第2金属膜104、105は、スパッタ法に限らず、蒸着法などによって形成されてもよい。
【0037】
次に、パターニング工程を行う。ここでは、シード層106が形成された半導体基板100上にレジストを塗布し、これを露光、現像してパターニングすることでレジスト層107を形成する。このとき、レジスト層107開口形状は、後述する配線パターン109を形成しない非形成領域に対応した位置のシード層106が露出すると共に、配線パターン109を形成する形成領域に対応した位置のシード層106がレジスト層107で被覆されるような形状となっている(図2(d))。
【0038】
そして、レジスト層107をマスクとしてウェットエッチング処理を半導体基板100の第2金属膜105に施す。このとき使用するエッチャントとしては、例えばI(ヨウ素)とKI(ヨウ化カリウム)とをベースとしたエッチャントが挙げられる。このウェットエッチング処理により、レジスト層107で被覆されていない非形成領域に位置する第2金属膜105がエッチングされる。
【0039】
さらに、レジスト層107あるいは第2金属膜105をマスクとしてウェットエッチング処理を第1金属膜104に施す。このとき使用するエッチャントとしては、例えばHNO(硝酸)とCe(NH(NO(硝酸第二セリウムアンモニウム)とをベースとしたエッチャントが挙げられる。このウェットエッチング処理により、レジスト層107あるいは第2金属膜105で被覆されていない非形成領域に位置する第1金属膜104がエッチングされる(図3(a))。
その後、半導体基板100を剥離液に10分程度浸漬させ、レジスト層107を除去する(図3(b))。なお、レジスト層107の除去には、バレルアッシャーを使用した酸素プラズマアッシングを行う方法を用いてもよい。
【0040】
続いて、無電解メッキ工程を行う。ここでは、最初に第2金属膜105の表面に対する活性化処理を行う。このとき、表面活性化処理として、例えば酸素プラズマなどの乾式方法や硫酸過水などの湿式方法を採用することで、第2金属膜105の表面に付着している有機物を除去できる。また、硫酸などの湿式方式を採用することで、第2金属膜105の表面に形成された酸化物を除去できる。
【0041】
そして、45〜70℃に加温した自己触媒還元無電解Auメッキ浴中に半導体基板100を1〜8時間浸漬し、シード層106を構成する第2金属膜105上にAuを析出させることで、メッキ層108を形成する(図3(c))。ここで、メッキ層108の層厚は、例えば0.7〜1.2μmとなっている。このシード層106及びメッキ層108によって配線パターン109が構成される。なお、化学処理と次の化学処理との間には、純水による洗浄を3〜15分行っている。
このとき、逆スパッタ工程において半導体基板100の下面には、スパッタ粒子103が付着しているが、上述したように、このスパッタ粒子103は逆スパッタ工程を経ても絶縁性が維持されているため、スパッタ粒子103を核とした導電材料の析出が抑制される。
【0042】
すなわち、スパッタ用固定治具102の表面が例えば石英で構成されている場合には、スパッタ粒子が絶縁性を有していても、逆スパッタ工程において酸素欠損してしまう。そのため、半導体基板100の下面に付着したときに、スパッタ粒子は絶縁性を有していない。したがって、図5に示すように、無電解メッキ工程においてスパッタ粒子103’を核として導電材料110が析出される。なお、スパッタ用固定治具102の表面がアルミニウムなどの金属材料で構成されている場合でも、同様にスパッタ粒子103’を核として導電材料110が析出される。このため、各配線パターン109の間におけるショートや製造された封止基板15と流路形成基板12などとの貼り合わせ時に生じるクラックを防止するために半導体基板100の下面にエッチング処理を施すなど、スパッタ粒子103’及び導電材料110を除去する必要がある。
【0043】
以上より、スパッタ粒子103を核として導電材料が析出されないので、無電解メッキ工程の後に各配線パターン109の間におけるショートや製造された封止基板15と流路形成基板12などとの貼り合わせ時に生じるクラックが発生することを防止するための処理を施す必要がない。また、無電解メッキ法を用いて配線パターン109を形成しているので、スパッタ法を用いて厚膜の配線パターンを形成することと比較して、抵抗値を小さくすると共に半導体基板100の反りを抑制することができる。
【0044】
以上のようにして、半導体基板100の上面に配線パターン109を形成する。そして、配線パターン109が形成された半導体基板100を適宜の形状で切断することで、図1に示すような配線パターン17を有する封止基板15を形成する。
その後、封止基板15上にコンプライアンス基板44を接合する。そして、別途上面に圧電素子13が設けられた流路形成基板12を製造し、これと封止基板15とを接合する。さらに、配線パターン17上に駆動回路部16A、16Bを載置した後、ワイヤ55、56で駆動回路部16A、16Bと配線パターン17及び圧電素子13のリード電極37とを接続する。以上のようにして、液滴吐出ヘッド10を製造する。
【0045】
(液滴吐出装置)
このようにして製造された液滴吐出ヘッド10は、図6に示すような液滴吐出装置120に設けられる。この液滴吐出装置120は、液滴吐出ヘッド10を備えるインクジェット式記録装置である。
液滴吐出ヘッド10は、インクカートリッジなどと連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成しており、インクジェット式記録装置に搭載されている。液滴吐出ヘッドを有する記録ヘッドユニット121、122には、図6に示すように、インク供給手段を構成するカートリッジ123、124が着脱可能に設けられている。そして、この記録ヘッドユニット121、122を搭載したキャリッジ125が装置本体126に取り付けられたキャリッジ軸127に軸方向で移動自在に取り付けられている。
【0046】
記録ヘッドユニット121、122は、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ128の駆動力が複数の歯車(図示略)及びタイミングベルト129を介してキャリッジ125に伝達されることで、記録ヘッドユニット121、122を搭載したキャリッジ125がキャリッジ軸127に沿って移動するようになっている。一方、装置本体126には、キャリッジ軸127に沿ってプラテン130が設けられており、給紙ローラ(図示略)などにより給紙された紙などの記録媒体である記録シート131がプラテン130上に搬送されるようになっている。
【0047】
以上のように、本実施形態における配線パターン17、109の形成方法及び液滴吐出ヘッド10の製造方法によれば、スパッタ用固定治具102の表面を逆スパッタ工程においても絶縁性を維持する絶縁材料で構成することで、無電解メッキ工程でスパッタ粒子103を核として金属材料が析出されることを防止する。したがって、配線パターン形成工程が短縮化され、液滴吐出ヘッド10を容易に製造することができる。
ここで、絶縁材料がZrO、MnO、FeO、Cr、SnO、Ti、CoO、ZnO、V、MoO、SnO、HfOのうち、少なくとも1種からなっているため、スパッタされてもスパッタ粒子103に酸素欠損が発生しにくいため絶縁性が維持される。
また、スパッタ法を用いてシード層106を形成することで、逆スパッタ工程とシード層形成工程とを同一のスパッタ装置を用いて行うことができる。したがって、成膜工程のさらなる短縮化が可能となる。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、スパッタ用固定治具の表面を構成する絶縁材料としてZrO、MnO、FeO、Cr、SnO、Ti、CoO、ZnO、V、MoO、SnO、HfOを挙げているが、逆スパッタ工程時に酸素欠損が生じないなど、逆スパッタ工程において絶縁性が維持されれば他の絶縁材料であってもよい。
また、スパッタ用固定治具の全体が絶縁材料で構成されているが、表面が絶縁材料で構成されていればよく、例えば石英など従来のスパッタ用固定治具と同様の材料の表面に絶縁材料からなる絶縁膜を形成した構成としてもよい。ここで、この絶縁膜の膜厚は、逆スパッタ工程において半導体基板がエッチングされるエッチング深さよりも大きければよく、例えば10〜20nmとしてもよい。
また、基板として貫通孔が形成された封止基板を用いて配線パターンを形成しているが、貫通孔が形成されていない基板上に金属材料で構成された膜を形成してもよい。この場合でも、逆スパッタ工程においてスパッタ用固定治具から発生したスパッタ粒子が基板の側面に付着することがあるので、このスパッタ粒子を核とした金属材料の析出を防止できる。
【0049】
また、シード層を構成する第1及び第2金属膜としては、Ni−Cr合金やAuの他、Cu(銅)やNi、Cr、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、またはこれらにAuを含めた少なくとも2種以上で構成された合金など、他の金属材料であってもよい。
また、シード層として第1及び第2金属膜を積層しているが、いずれか一方の金属膜みであってもよい。ここで、シード層が第1金属膜のみで構成される場合には、無電解メッキ工程において、自己触媒還元無電解Auメッキ浴中で無電解メッキ処理を行う前に、60〜80℃に加温した無電解置換Auメッキ浴中に封止基板を5〜20分浸漬し、第1金属膜上に下地用のメッキ層を形成しておく。このとき、下地用のメッキ層の層厚は、例えば0.05〜0.2μmとなっている。
【0050】
また、無電解メッキ工程において形成されるメッキ層をAuで構成しているが、NiやCu、Ag(銀)、Co(コバルト)、Pd(パラジウム)など、他の金属材料で構成されてもよい。このとき、メッキ層を構成する金属材料に合わせて、シード層を構成する金属材料を適宜変更してもよい。
また、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明したが、本願の成膜方法を用いて形成された配線パターンを有する基板を備えていれば、液滴吐出ヘッドに限らず、他のデバイスに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態における液滴吐出ヘッドを示す断面図である。
【図2】配線パターン形成工程を示す工程図である。
【図3】同じく、配線パターン形成工程を示す工程図である。
【図4】貫通孔が形成された半導体基板を示す平面図である。
【図5】導電材料がスパッタ粒子を核として析出された状態を示す断面図である。
【図6】液滴吐出ヘッドを備える液滴吐出装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
10 液滴吐出ヘッド、15 封止基板(基板)、17、109 配線パターン、100 半導体基板(基板)、101 貫通孔、102 スパッタ用固定治具(固定治具)、106 シード層、108 メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を固定治具で支持した状態で、前記基板の上面をスパッタする逆スパッタ工程と、
逆スパッタされた前記基板の上面に、金属材料で構成されたシード層を形成するシード層形成工程と、
前記シード層上に、無電解メッキ法により金属材料で構成されたメッキ層を形成する無電解メッキ工程とを備え、
前記固定治具の表面が、前記逆スパッタ工程時に絶縁性を維持する絶縁材料で構成されていることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記絶縁材料が、前記逆スパッタ工程時での酸素欠損を抑制した酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記酸化物が、ZrO、MnO、FeO、Cr、SnO、Ti、CoO、ZnO、V、MoO、SnO、HfOのうち、少なくとも1種からなることを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記逆スパッタ工程の前に、前記基板に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を備え、
前記逆スパッタ工程で、前記固定治具が、前記貫通孔に連通される空間を該固定治具と前記基板の下面との間に形成するように前記基板を支持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記シード層形成工程で、スパッタ法を用いて前記シード層を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
配線パターンが形成された基板を有するデバイスの製造方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の成膜方法により前記配線パターンを形成することを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項7】
配線パターンが形成された基板を有し、前記配線パターンを介して供給される信号に基づいて液滴を吐出する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の成膜方法により前記配線パターンを形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−290161(P2007−290161A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117926(P2006−117926)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】