説明

成膜方法、及びその成膜方法を用いて製造された薄膜材料

【課題】表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料において、散乱光が少なくSN比の高い薄膜材料を成膜する技術を提供する。
【解決手段】金薄膜12の成膜速度を0.01nm/s以上、0.6nm/s以下の範囲に設定し、ヘリコンスパッタ源52からスパッタ粒子を飛翔させる。ここで、成膜初期においては、成膜速度を第1速度に設定し、金薄膜の膜厚が一定の膜厚以上になると、成膜速度を第1速度の少なくとも倍の第2速度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料を製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオセンサに代表されるように、表面プラズモン電界増強蛍光分光法(SPFS;Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)を用いた様々なセンサが実用化されている。以下、このセンサを表面プラズモン共鳴センサと呼ぶ。表面プラズモン共鳴センサでは、プリズムに金薄膜が成膜されたクレッチマン配置が用いられている。そして、金薄膜が成膜されたプリズムに、P偏光の光を入射させると、ある入射角において金薄膜の表面の極近傍の電場が大きく増強される。この現象が金薄膜の表面における屈折率変化に対して高感度に応答する。これを利用したのが表面プラズモン共鳴センサである。
【0003】
そして、表面プラズモン共鳴センサは、極微量の物質を高感度に検出することができるため、医療分野への応用も考えられており、例えばガン診断に用いることで超早期にガンを発見することが期待されている。
【0004】
表面プラズモン共鳴センサにおいて、プリズムに成膜される薄膜は、例えば金の場合、50nm程度が好ましく、スパッタ法や蒸着法で成膜される。50nm程度の金薄膜は、成膜開始から島状構造を経て膜構造に成り始める膜である。また、金薄膜の表面の凹凸は、表面プラズモン共鳴センサでは散乱光の原因となり、SN比が稼げないという問題がある。金薄膜の表面粗さ(以下、「Ra」と記述する。)は基板表面のRaに追随するが、成膜方法に工夫を凝らせば、滑らかになると考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1では、金属薄膜と樹脂基板との剥離を防止することを目的として、スパッタ法を用いて10nm/s以上の成膜速度で、樹脂基板に20〜100nmの金又は銀の金属薄膜を成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−98262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、成膜速度が10nm/s以上に設定されているが、これでは成膜速度が速すぎるため、成膜時のマイグレーション効果が期待できず、金属薄膜のRaが増大してしまう。その結果、この金属薄膜を表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いると、この大きなRaによりノイズ成分が増大してしまいSN比が稼げず、検体を精度良く検出することができないという問題が発生する。
【0008】
また、特許文献1では、成膜速度が10nm/s以上と速いため、20〜100nmの厚みの金属薄膜を精度良く成膜することができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1では、スパッタ法が用いられているが、一般的なスパッタ法では、プラズマにより基板の表面が荒らされて基板の表面に凹凸が生じるため、金属薄膜のRaが増大してしまう。
【0010】
本発明の目的は、表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料において、散乱光が少なくSN比の高い薄膜材料を成膜する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一局面による成膜方法は、表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料を成膜する成膜方法であって、前記薄膜材料の表面粗さが4nm以下となる成膜速度で前記薄膜材料を基板上に成膜する。
【0012】
この構成によれば、薄膜材料の表面粗さが4nm以下となる成膜速度で薄膜材料が成膜される。ここで、薄膜材料に光を照射したときの散乱光は、薄膜材料の表面粗さが4nmより大きくなると、顕著に増大することに本発明者は着目した。そのため、上記の成膜速度で成膜された薄膜材料を表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いることで、ノイズ成分である散乱光を低く抑えることができ、SN比が高く、検体を精度良く検出することができる薄膜材料を成膜することができる。
【0013】
(2)前記成膜速度は、0.01nm/s以上、0.6nm/s以下であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、成膜速度が0.01nm/s以上、0.6nm/s以下にされている。この成膜速度の範囲は、薄膜材料の粗さを4nm以下にする場合の必要条件であることに本発明者は着目した。つまり、成膜速度が0.6nm/sより大きくなると、薄膜材料の表面粗さが4nmを超えてしまい、ノイズ成分である散乱光が大きくなってSN比が悪化する。一方、成膜速度を0.01nm/sより小さくすることは、成膜装置にとって容易ではない。このように成膜速度を0.01nm/s以上、0.6nm/s以下とすることで、表面粗さが4nm以下の薄膜材料を成膜することができる。
【0015】
(3)前記薄膜材料が一定の膜厚になるまでは、前記成膜速度を第1速度として前記薄膜材料を成膜する第1成膜ステップと、前記膜厚が一定の膜厚になった後は、前記成膜速度を前記第1速度の少なくとも倍の第2速度として前記薄膜材料を成膜する第2成膜ステップとを備えることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、薄膜材料が一定の膜厚になるまでは、低速である第1の速度で薄膜材料が成膜され、薄膜材料が一定の膜厚になった後は、第1速度の少なくとも倍の第2速度で薄膜材料が成膜される。
【0017】
そのため、薄膜材料の表面粗さを小さくすることができると同時に、成膜時間を短縮することが可能となり、薄膜材料を効率よく成膜することができる。つまり、ターゲットから飛翔した薄膜材料の粒子は基板に到達し、その界面で最も安定な位置に移動し、基板に馴染みながら付着する。これをマイグレーションと言う。
【0018】
上記構成では、成膜当初の第1成膜ステップは、成膜速度が遅い第1速度に設定されているため、マイグレーションの効果が十分に発揮され、基板に対して粒子を安定かつ強固に付着させることができる。これにより、基板上に表面粗さの小さな下地を形成することができる。
【0019】
そして、一旦、表面粗さの小さな下地が形成された後は、成膜速度である第2速度を速めても、薄膜材料の表面粗さはさほど大きくならない。但し、第2速度を極端に早くするとマイグレーションの効果が働かず、単に下地に乗っているだけの表面粗さの大きな薄膜材料が成膜されてしまい好ましくない。
【0020】
そこで、上記構成では、成膜速度が遅い第1成膜ステップと、成膜速度が速い第2成膜ステップとに分けて薄膜材料を成膜することで、マイグレーションの効果を充分に発揮させると同時に、成膜時間の短縮化を実現している。なお、第2速度としては、第1速度の倍以上、数十倍以下程度の値を採用してもよい。また、第1成膜ステップの終了条件である一定の膜厚としては、例えば10nm以上30nm以下程度を採用することができる。下地としてこの程度の膜厚のものを成膜すれば、後は成膜速度を速めても、薄膜材料の表面粗さを小さく抑えることができる。
【0021】
(4)前記第2の速度は、時間が経過するにつれて速くなるように段階的に切り替えられることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、第2速度は、時間が経過するにつれて段階的に速く設定されるため、成膜時間をより短縮することができる。また、成膜速度が段階的に上昇されるため、成膜装置の制御の簡便化を図ることができる。
【0023】
(5)前記薄膜材料は、RFマグネトロンスパッタ法、プラズマ支援型スパッタ法、イオンアシスト蒸着法、電子ビーム加熱式蒸着法、又はイオンプレーティング法で成膜されることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、薄膜材料が、RFマグネトロンスパッタ法、プラズマ支援型スパッタ法、イオンアシスト蒸着法、電子ビーム加熱式蒸着法、又はイオンプレーティング法で成膜されている。これらの成膜方法は、マイグレーションの効果が起こりやすい成膜方法である。そのため、これらの成膜方法を用いることで、滑らかな薄膜材料を成膜することができる。なお、これらの成膜方法以外であっても、成膜時にイオンを利用する成膜方法であれば、同様の効果が期待できる。
【0025】
(6)プラズマが前記基板に照射されることを阻止するために、薄膜材料の粒子の射出位置と前記基板との間に電極を設けたことが好ましい。
【0026】
この構成によれば、薄膜材料の粒子の射出位置と基板との間に設けられた電極によって、プラズマが基板に照射されることが防止される。プラズマを用いる成膜方法では、基板にプラズマが照射されると、基板はダメージを受ける。これは、薄膜材料が成膜されている最中でも起こる。このダメージは、直接、基板の表面粗さとなって現れるため、その上に形成される薄膜材料の表面粗さも大きくなり好ましくない。そこで、薄膜材料の粒子の射出位置と基板との間に電極を設けることで、プラズマが基板に照射されることが阻止され、基板の表面粗さを小さくすることができる。
【0027】
(7)前記電極は、接地又はプラスの電位が印加されたリング状電極であることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、リング状電極が設けられているため、射出位置から飛翔する粒子をリング状電極の孔を通じて基板に到達させることができる。また、リング状電極は接地又はプラスの電位が印加されているため、プラズマのエネルギーを低下させることができ、基板に与えるダメージをより低下させることができる。なお、リング状電極にマイナスの電位を与えるとプラズマが加速されてエネルギーが上がり、基板にダメージを与えてしまう。
【0029】
(8)本発明の別の一局面による薄膜材料は、(1)〜(7)のいずれかの成膜方法により成膜された薄膜材料であって、表面粗さが4nm以下である。
【0030】
この構成によれば、(1)〜(7)の成膜方法を用いて成膜されているため、散乱光が低くSN比の高い薄膜材料を提供することができる。
【0031】
(9)前記薄膜材料は、金、銀、アルミニウム、又はこれらを含む合金の金属により構成されることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、表面プラズモン共鳴センサの検出素子として好ましい、金、銀、アルミニウム、又はこれらの合金からなる薄膜材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料において、散乱光が少なくSN比の高い薄膜材料を成膜する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態による薄膜材料が適用される表面プラズモン共鳴センサの原理を説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施の形態による薄膜材料が適用される表面プラズモン共鳴センサの原理を説明するための概略図である。
【図3】金薄膜に発生する散乱光を示した模式図である。
【図4】金薄膜の表面粗さ(Ra(nm))と、散乱光の光量との関係を調べるために行った実験の実験結果を表したグラフである。
【図5】本発明の実施の形態による成膜方法で用いられる成膜装置の一例の概略構成図を示している。
【図6】成膜速度とRaとの関係を示す実験の実験結果を示すグラフである。
【図7】成膜速度とRaとの関係を示す実験の実験結果を示すグラフである。
【図8】本発明の成膜方法に用いられる成膜装置の他の一例の概略構成図を示している。
【図9】本発明の実施の形態による成膜方法で用いられる成膜装置の更に他の一例の概略構成図を示している。
【図10】図9に示す成膜装置を用いて成膜速度を変えて金薄膜を成膜したときの、金薄膜のRaと成膜速度との測定結果を示したグラフである。
【図11】図9に示す成膜装置を用いて成膜速度を変えて金薄膜を成膜したときの、金薄膜のRaと成膜速度との測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態による成膜方法及びその成膜方法により製造された薄膜材料について説明する。図1及び図2は、本発明の実施の形態による薄膜材料が適用される表面プラズモン共鳴センサの原理を説明するための概略図である。この図に示す表面プラズモン共鳴センサは、SPFSを用いた表面プラズモン共鳴センサである。
【0036】
図1に示すように、表面プラズモン共鳴センサは、表面に金薄膜12(薄膜材料の一例)が形成されたプリズム11が用いられる。金薄膜12の表面には、標的物質15を捕らえるための抗体14が予め固定されている。ここで、標的物質15としては、例えば、ある病気の指標となる抗原が該当する。また、プリズム11の上面には、筒状の流路20が設けられている。そして、流路20の内部に検体を流す。すると、抗原−抗体反応により検体中の標的物質15が抗体14により捕捉される。
【0037】
ここで、蛍光標識された検体を流すと、標的物質15を捕捉した抗体14が蛍光物質16により蛍光標識される。そして、プリズム11に光17を照射すると、金薄膜12の表面において表面プラズモン共鳴が起こり、増強された電場18が発生する。この電場18により蛍光物質が励起されて光19が発光する。そして、光19が検出器13によりシグナルとして検出される。
【0038】
ここで、表面プラズモン共鳴により生じた電場18は増強されているため、蛍光物質16から発する光19の光量は、他の手法を用いて蛍光物質16を発光させたときの光量に比べ、数倍から数十倍大きくなる。そのため、僅かな標的物質15しか持たない検体から標的物質15を検出することができ、病気の症状がほとんど現れていない患者であっても、早期に病気を検出することが可能になる。なお、検出器13としては、例えば、光電子増倍管やCCDを採用することができる。
【0039】
図3は、金薄膜12に発生する散乱光21を示した模式図である。図3に示すように、金薄膜12の表面粗さ(以下、「Ra」と記述する。)が大きい場合、金薄膜12の表面に多くの散乱光21が発生する。この散乱光21は、シグナルとは無関係の成分であるが、検出器13に到達すると、検出器13により検出されてしまう。これはノイズ成分であり、微小なシグナルを検出する場合には問題となる。つまり、金薄膜12のRaが大きいほど散乱光21は大きくなり、ノイズ成分が増大し、SN比が低下するのである。
【0040】
図4は、金薄膜12のRa(nm)と、散乱光21の光量との関係を調べるために行った実験の実験結果を表したグラフである。図4において、縦軸は散乱光21の光量を示し、横軸はRaを示している。また、縦軸の数値は、Ra=1.6nmの時の散乱光21の光量を1として規格化したときの光量を示しており、無次元量である。
【0041】
つまり、この実験では、Raの異なる複数の金薄膜12を作製し、各金薄膜12を用いて散乱光21の光量を測定した。図4に示すように、Raが増大するにつれて散乱光21の光量は増えていることが分かる。
【0042】
そして、本発明者は、この実験を通じて、Ra=4nm付近から散乱光21の光量が急激に増大することに着目した。つまり、Raが4nmより大きくなると散乱光21が増大してSN比が悪化して検出精度が落ちる。一方、Raが4nm以下の場合、Raが4nmより大きい場合に比べて、散乱光21の光量が大幅に小さく、SN比が悪化しない。
【0043】
そこで、金薄膜12は、Raが4nm以下となる成膜速度で成膜されている。具体的には、成膜速度としては、0.01nm/s以上、0.6nm/s以下を採用する。
以下、実験結果に基づいて、この成膜速度の根拠を説明する。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態による成膜方法で用いられる成膜装置の一例の概略構成図を示している。図5に示す成膜装置は、プラズマ支援型スパッタ法を実行する成膜装置である。そして、図5に示す成膜装置は、箱状の真空槽51を備えている。この真空槽51の底面の中央部には、ヘリコンスパッタ源52が設けられている。ヘリコンスパッタ源52は、ヘリコン波によりプラズマを発生させるものであり、カソード521と、カソードの上面に設けられたAuターゲット522と、Auターゲット522に対向して配置された支援コイル523とを備えている。
【0045】
カソード521には、一端が接地された高周波電源524が接続されている。支援コイル523には、一端が接地された高周波電源525が接続されている。また、支援コイル523には、一端が接地された直流電圧源526が接続されている。直流電圧源526は、例えば200V〜300Vの直流電圧を生成する。
【0046】
そして、ヘリコンスパッタ源52により発生されたプラズマがAuターゲット522に衝突することで、Auターゲット522からスパッタ粒子が飛翔し、スパッタ粒子は、支援コイル523の上側の開口部527(粒子の射出位置の一例)から基板56に向けて飛翔する。
【0047】
基板ホルダ57は、真空槽51の上面に吊されている。基板ホルダ57の下面には基板56が取り付けられている。また、基板ホルダ57の下面であって、基板56の近傍には、基板56に成膜される金薄膜12の膜厚を測定するための水晶膜厚計55が設けられている。
【0048】
ヘリコンスパッタ源52の上側にはシャッタ53が設けられている。シャッタ53の開度を調節することで、基板56側への飛翔するスパッタ粒子の量が調節される。
【0049】
基板56とシャッタ53との間には、リング状電極54が設けられている。このリング状電極54は、接地されており、プラズマが基板56に照射されることを阻止する。
【0050】
ヘリコンスパッタ源52から飛翔したスパッタ粒子は、シャッタ53、リング状電極54を通過して、基板56に到達する。なお、図5では、真空槽51へのガスの導入機構、及び真空槽51からガスを排気する排気機構については図示を省略している。
【0051】
そして、この成膜装置を用いて、本成膜方法の効果を確認するために以下の実験を行った。以下の実験では、純度が4Nで2インチのAuターゲット522を有するヘリコンスパッタ源52を用いた。また、Auターゲット522と基板56との間の距離を30cmとした。また、支援コイル523に印加する高周波電力をパワーが50W、周波数が13.56MHzとした。ここで、支援コイル523に印加する高周波電力は、カソード521の高周波電力とは若干周波数が異なり、両高周波電力の相互干渉の防止が図られている。
【0052】
また、真空槽51の成膜時の真空度は5×10−4Torr(Ar雰囲気)とされている。また、膜厚及び成膜速度を水晶膜厚計55で監視した。また、基板56は加熱しなかった。
【0053】
基板56としては、25mm角、厚さ1mmのBK7ガラスを用いた。また、リング状電極54としては、内径が50mm、外径が100mmのリング状の金属板電極を用いた。
【0054】
カソード521には、周波数が13.56MHzの高周波電力を印加した。そして、この高周波電力のパワーを30W〜200Wの範囲で変化させ、成膜速度を変え、厚さが50nmの金薄膜12を成膜した。そのときの金薄膜12のRaを、AMBIOS TECHNOLOGY社のXP−200を用いて測定した。
【0055】
図6及び図7は、成膜速度を変化させて金薄膜12のRaを測定したときの成膜速度とRaとの関係を示すグラフである。図6及び図7において、縦軸はRa(nm)を示し、横軸は成膜速度(nm/s)を示している。図6及び図7に示すように、成膜速度が増大するにつれて、Raが増大していることが分かる。
【0056】
この実験結果から、Raの上限を4nmとするならば、成膜速度は0.7nm/s以下にする必要があることが分かる。そこで、本成膜方法では、少し余裕を見て、成膜速度の上限値を0.6nmとしている。そのため、金薄膜12のRaを4nm以下にすることができ、SN比の高い金薄膜12を成膜することができる。
【0057】
また、成膜速度の下限値を0.1nm/sに以下に設定することは、通常の成膜装置では容易ではないため、成膜速度の下限値を0.1nm/sとしている。
【0058】
この実験結果から、成膜速度を0.01nm/s以上、0.6nm/s以下とすることで、金薄膜12のRaを4nm以下にすることができることが分かる。そして、図4に示すように、金薄膜12の散乱光の光量は、4nm以下では小さいが、4nmを超えると大幅に増大することが分かる。
【0059】
次に、図5に示す成膜装置を用いて、成膜速度を0.2nm/sとし、25mm角、厚さ1mmのSLAL10高屈折率ガラス基板に、50nmの厚みの金薄膜12を250秒かけて作製した。以下、この金薄膜12をサンプルAと記述する。
【0060】
ここで、Raをより小さくするためには、図8に示す成膜装置を用いることが好ましい。図8は、本発明の成膜方法に用いられる成膜装置の他の一例の概略構成図を示している。なお、図8に示す成膜装置は、プラズマ支援型スパッタ法を実行する成膜装置である。また、図8において、真空槽51へのガスの導入機構、及び真空槽51からガスを排気する排気機構については図示を省略している。また、図8において、高周波電源524,525、及び直流電圧源526の電力供給部の接続関係は図5と同一であるため、図示を省略している。
【0061】
図8に示す成膜装置は、図5の成膜装置に比べて、リング状電極54とシャッタ53との間に、更に別のリング状電極58を設けたことを特徴としている。それ以外の構成は、図5と同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
そして、図8に示す成膜装置を用いて、下記の条件で動作させてサンプルBを作製した。
・Auターゲット522−基板56間の距離:30cm
・カソード521に印加する高周波電力:パワーが100W、周波数が13.56MHz
・支援コイル523に印加する高周波電力:パワーが50W、周波数が13.56MHz(カソードとは若干周波数を変えて相互干渉しないようにしている。)
・真空槽51の成膜時の真空度:5×10−4Torr(Ar雰囲気)
・膜厚及び成膜速度の測定:水晶膜厚計55
・基板56の加熱:なし
基板56としては、25mm角、厚さ1mmのSLAL10高屈折率ガラスを用いた。リング状電極58としては、直径50mmのリング状の金属板電極を用いた。リング状電極54としては、内径50mm、外径100mmのリング状の金属板電極を用いた。つまり、リング状電極58の直径は、リング状電極54の内径と同一のサイズとされている。
【0063】
そして、リング状電極54とリング状電極58とを、図8に示すように配置し、成膜速度を平均0.03nm/sとし、水晶膜厚計55による金薄膜12の膜厚の計測値が10nmになるまで成膜を行った。
【0064】
引き続いて、リング状電極54を取り外し、成膜速度を平均0.18nm/sとし、水晶膜厚計55による金薄膜12の膜厚の測定値が50nmになるまで成膜を行った。
【0065】
つまり、サンプルBは、金薄膜12の膜厚が10nmになるまでの成膜初期では、成膜速度が0.03nm/sに設定された第1成膜ステップが実行され、金薄膜12の膜厚が10nmになった後は、成膜速度が0.18nm/sに設定された第2成膜ステップが実行されて作製された。
【0066】
また、比較例として、サンプルAと同一の作製条件で成膜速度を2nm/sに設定してサンプルCの金薄膜12を作製した。更に、比較例として、サンプルCと同一の作製条件でリング状電極54を設けずに、サンプルDの金薄膜12を作製した。つまり、サンプルC,Dは、いずれも成膜速度が2nm/sで作製されたものあり、本成膜方法の成膜速度の上限値である0.6nm/sを超える成膜速度で作製されたものである。
【0067】
そして、サンプルA〜DのRaの測定値と、これらのサンプルA〜Dを表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いたときの散乱光の光量の測定値とを表1にまとめた。
【0068】
【表1】

【0069】
なお、表1において、「条件」は成膜速度を示している。「リング電極」は1枚がリング状電極54のみを設けた場合を示し、2枚がリング状電極54とリング状電極58とを設けた場合を示している。「Ra」はサンプルA〜Dのそれぞれの表面粗さの測定値を示している。「散乱光量」は、サンプルA〜Dのそれぞれを表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いたときに計測される散乱光21(図3参照)の光量の測定値を示している。なお、この散乱光21の光量は、図4の縦軸と同様、Ra=1.6nmの金薄膜12の散乱光21の光量を1として規格化した無次元量である。
【0070】
また、「SPFS判定」は散乱光21の光量に基づいて、散乱光21の光量が許容範囲に入っているか否かを示している。散乱小の場合は、散乱光19の光量が図4のグラフにおいて、直線の傾きが緩やかな領域に属しており、散乱光の光量が小さいことを示している。散乱大の場合は、散乱光19の光量が図4のグラフにおいて、直線の傾きが急峻な領域に属しており、散乱光の光量が大きいことを示している。
【0071】
サンプルAは、成膜速度が0.2nm/sであり、本成膜方法により成膜速度の範囲内である0.01nm/s以上、0.6nm/s以下の範囲内にある。よって、Raは2nmであり、本成膜方法のRaの上限値である4nm以下となっている。そのため、散乱光量は1.19であり、散乱小と判定されていることが分かる。したがって、サンプルAを、表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いた場合、SN比の大きな金薄膜12を提供することができる。
【0072】
サンプルBは、成膜速度が最初、0.03nm/sとされ、膜厚が10nmとなると、成膜速度が0.18nm/sに切り替えられている。そのため、サンプルBは、Raが1.2nmと小さく、散乱光量も0.74と低くなっており、サンプルAに比べて良好な測定結果が得られている。
【0073】
このサンプルBの測定結果から、成膜当初には成膜速度を遅くすることで、マイグレーションの効果が発揮されて、Raの小さな金薄膜12が成膜されていることが分かる。そして、膜厚が一定の厚みを超えて金薄膜12の下地が形成されると、成膜速度をサンプルAの成膜速度程度に上げても、Raが増大することなく、良好な金薄膜12が成膜されていることが分かる。
【0074】
このことから、金薄膜12が一定の膜厚になるまでは、成膜速度を第1速度として金薄膜12を成膜する第1成膜ステップで金薄膜12を作製し、金薄膜12の膜厚が一定の膜厚になった後は、金薄膜12を第1速度の少なくとも倍の第2速度として金薄膜12を成膜する第2成膜ステップで金薄膜を作製することにより、Raのより小さな金薄膜12を作製できることが分かる。
【0075】
更に、サンプルBでは、リング電極が2枚設けられているため、基板56へのプラズマ照射が阻止され、プラズマによる基板56のダメージが低下され、Raがより小さくなっていることが確認できる。
【0076】
サンプルCは、成膜速度が2nm/sであり、本成膜方法の成膜速度の上限値である0.6nm/sより大きいため、Raが6.6nmとなり、散乱光量が5.13となり、散乱光量がサンプルA,Bに比べて大幅に増大していることが分かる。そのため、本成膜方法による成膜速度の上限値を超えた成膜速度で金薄膜12を成膜すると、SN比の高い金薄膜12を製造することができないことが分かる。
【0077】
サンプルDは、成膜速度が2nm/sであり、Raが8.9nmであり、散乱光量が8.87であり、サンプルCに比べて、更に散乱光量が増大していることが分かる。ここで、サンプルCは1枚のリング状電極54を設けて成膜されているが、サンプルDはリング状電極54を設けて成膜されていない。このことから、ヘリコンスパッタ源52と基板56との間に接地されたリング状電極54,58を設けることで、真空槽51内のプラズマが基板56に照射されることが阻止され、Raのより小さな金薄膜12を作製できることが分かる。また、リング状電極54,58は、中央に孔が設けられているため、この孔を通じてスパッタ粒子を基板56に導くことができる。なお、図5及び図8では、リング状電極54,58を接地させたが、これに限定されず、プラスの電位を付与してもよい。但し、プラスの電位を付与する場合は、別途、電圧源を設ける必要があるため、装置の簡便化の観点からは、リング状電極54,58を接地させることが好ましい。
【0078】
また、リング状電極54と基板56とは一定の距離以上、離間させることが好ましい。リング状電極54と基板56とを近接させると、リング状電極54により減速されたプラズマが基板56まで到達してしまう。一方、リング状電極54と基板56とを離間させると、リング状電極54により減速されたプラズマが基板56に到達することを防止することができる。これにより、プラズマが基板56に与えるダメージをより低下させることができる。
【0079】
なお、第2ステップの成膜速度である第2速度も、第1速度と同様、0.01nm/s以上、0.6nm/s以下の範囲内に設定される。第2成膜ステップは、第1成膜ステップにより滑らかな下地が形成された後に実行されるといえども、0.6nm/sを超えると、マイグレーションの効果が十分発揮されず、金薄膜12のRaが大きくなる。そのため、サンプルBは、第2成膜ステップにおける成膜速度が0.18nm/sに設定されており、本成膜方法の上限値である0.6nm/sより低く設定されている。
【0080】
また、第1成膜ステップの終了条件としての金薄膜12の膜厚は、基板56の表面に滑らかな下地を成膜することができる膜厚を採用することが好ましく、例えば、10nm以上、30nm以下の範囲を採用することが好ましい。滑らかな下地を成膜するという観点からは、第1成膜ステップを長時間実行することが好ましいが、そうすると金薄膜12が完成するまでに長時間を要してしまう。
【0081】
一方、短時間で金薄膜12を完成させるという観点からは、第1成膜ステップを短時間に設定することが好ましいが、そうすると、滑らかな下地を成膜することができない。これらの観点から、第1成膜ステップの終了条件である膜厚としては、10nm以上、30nm以下の範囲を採用することが好ましい。
【0082】
また、第2成膜ステップにおいて、第2速度を時間が経過するにつれて速くなるように段階的に切り替えるようにしてもよい。ここで、段階的に切り替えるとしたのは、成膜装置の制御の簡略化や装置構成の簡略化を図るためである。時間が経過するにつれて連続的に第2速度を増大させてもよいが、そうすると、成膜装置の装置構成や制御プログラムが複雑化する。
【0083】
具体的には、図5及び図8の成膜装置においては、成膜速度の調節は、カソード521に印加する高周波電力のパワーを調節することで行われている。したがって、第2速度を連続的に増大させるには、この高周波電力のパワーを連続的に増大させる必要がある。そのためには、このパワーを高分解能で調節する高周波電源を設ける必要があることに加えて、この高周波電源から出力される高周波電力を連続的に増大させるための制御プログラム等が必要となる。
【0084】
一方、第2速度を段階的に切り替えることができるようにすれば、高周波電力のパワーを高分解能で調節する高周波電源や、この高周波電源から出力される高周波電力のパワーを連続的に変化させるための制御プログラムは必要ない。そこで、本成膜装置では、第2速度を段階的に切り替えるようにしているのである。
【0085】
また、第2速度の切替段階としては、2段階、3段階、4段階等の値を採用することができる。但し、第2速度の切替段階を増大させると、第2速度を連続的に増大させることに近づいていくため、成膜装置の制御や装置構成が複雑化する。そのため、制御の簡略化の観点からは、第2速度の切替段数を増大させすぎることは好ましくない。したがって、第2速度の切替段数としては、2段階又は3段階程度であることが好ましい。
【0086】
また、第2速度の切替段数を1段階としても、第1成膜ステップにおいて、第1速度が設定されているため、成膜装置に2段階の速度設定をさせる必要がある。そのため、成膜装置の制御や装置構成の更なる簡略化を図るという観点からは、第2速度の切替段数として1段階を採用することが好ましい。
【0087】
次に、本成膜方法を他の成膜装置で実行させた場合の実験結果について説明する。図9は、本発明の実施の形態による成膜方法で用いられる成膜装置の更に他の一例の概略構成図を示している。図9に示す成膜装置は、イオンアシスト蒸着法を実行する成膜装置である。そして、図9に示す成膜装置は、図5に示す成膜装置において、ヘリコンスパッタ源52に代えて電子ビーム蒸発源60とアシスト用イオンガン70とを設け、リング状電極54に代えてメッシュ状電極80を設けたことを特徴とする。それ以外の構成は、図5の成膜装置と同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0088】
なお、メッシュ状電極80は、複数の金属棒を格子状に組み合わせた網により構成されており、接地されている。また、メッシュ状電極80としては、金属板に多数の孔があけられたものを採用してもよい。
【0089】
電子ビーム蒸発源60は上部に設けられた金61を蒸発させ、基板56に向けて金の粒子を飛翔させる。アシスト用イオンガン70は、アルゴンイオンを基板56に向けて照射することで、電子ビーム蒸発源60から飛翔された金の粒子をより高速に基板56に向けて飛翔させ、基板56に金の粒子を蒸着させる。
【0090】
なお、図9において、真空槽51へのガスの導入機構、及び真空槽51からガスを排気する排気機構については図示を省略している。そして、図9に示す成膜装置を下記の条件で動作させた。
・電子ビーム蒸発源60−基板56間の距離:70cm
・電子ビーム蒸発源に印加する印加電力:電圧が6kV、電流が70mA
・イオン電流密度:Ar,50μA/cm(基板56の位置)
・真空槽51の成膜時の真空度:1×10−4Torr(Ar雰囲気)
・膜厚及び成膜速度の測定:水晶膜厚計55
・基板56の加熱:なし
基板56としては、25mm角、厚さ1mmのBK7ガラスを用いた。また、メッシュ状電極80は、基板56から下側に20cmの位置に設けて接地させた。
【0091】
この条件で、電子ビーム蒸発源60に印加する印加電力を変化させて成膜速度を変えて、厚さ50nmの金薄膜12を成膜した。そのときの金薄膜12の表面粗さをAMBIOS TECHNOLOGY社のXP−200を用いて測定した。図10及び図11は、図9に示す成膜装置を用いて成膜速度を変えて金薄膜12を成膜したときの、金薄膜のRaと成膜速度との測定結果を示したグラフである。
【0092】
図10及び図11に示す実験結果から、Raの上限を4nmとするならば、成膜速度は0.6nm/s以下に設定する必要がある。したがって、図9に示す成膜装置を用いた場合であっても、成膜速度を0.6nm/s以下に設定することで、Raが4nm以下の金薄膜12を成膜できることが分かる。
【0093】
次に、図9に示す成膜装置を用いてサンプルEの金薄膜12を作製した。サンプルEを作製するにあたり、基板56としては、25mm角、厚さ1mmのE48R光学樹脂基板を用いた。また、サンプルEは、0.5nm/secの成膜速度で90秒かけて作製され、その膜厚は45nmである。
【0094】
次に、よりRaを小さくするために、図9に示す成膜装置を下記の条件で動作させてサンプルFの金薄膜12を作製した。
・電子ビーム蒸発源60−基板56間の距離:70cm
・電子ビーム蒸発源60への印加電力:第1成膜ステップでは電圧が6kV,電流が30mA、第2成膜ステップでは電圧が6kV、電流が70mA
・イオン電流密度:Ar,50μA/cm(基板位置)
・真空槽51の成膜時の真空度:1X10−4Torr(Ar雰囲気)
・膜厚及び成膜速度の測定:水晶膜厚計55
・基板56の加熱:なし
サンプルFの作製にあたり、基板56としては、25mm角、厚さ1mmのE48R光学樹脂基板を用いた。
【0095】
そして、電子ビーム蒸発源60の印加電力を電圧が6kV、電流が30mAとして、金薄膜12を15nm成膜した。このときの成膜速度は、平均0.05nm/sとした。
【0096】
引き続いて、電子ビーム蒸発源60の印加電力を電圧が6kV、電流が70mAとして、水晶膜厚計55により計測された金薄膜12の膜厚が45nmになるまで成膜を行った。このときの成膜速度は、平均0.5nm/sとした。
【0097】
つまり、サンプルFは、金薄膜12の膜厚が15nmとなるまでの成膜初期では、成膜速度が0.05nm/sに設定された第1成膜ステップが実行され、金薄膜12の膜厚が15nmになった後は、成膜速度が0.5nm/sに設定された第2成膜ステップが実行されて作製された。
【0098】
また、比較例として、サンプルEの作製条件で成膜速度を2nm/sに設定してサンプルGの金薄膜12を作製した。更に、比較例として、メッシュ状電極80を設けずに、サンプルEと同一の作製条件で成膜速度を2nm/sに設定してサンプルHの金薄膜12を作製した。
【0099】
そして、サンプルE〜HのRaの測定値と、これらのサンプルE〜Hを表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いたときの散乱光の光量の測定値とを表2にまとめた。
【0100】
【表2】

【0101】
なお、表2に示す各欄の用語は表1と同一であるため、説明を省く。サンプルEは、成膜速度が0.5nm/sであり、本成膜方法により成膜速度の範囲内である0.01nm/s以上、0.6nm/s以下の範囲内にある。よって、Raは3.6nmであり、本成膜方法のRaの上限値である4nm以下となっている。そのため、散乱光量は2.22であり、散乱小と判定されていることが分かる。したがって、サンプルEを、表面プラズモン共鳴センサの検出素子として用いた場合、SN比の大きな金薄膜12を提供することができる。
【0102】
サンプルFは、成膜速度が最初、0.05nm/sとされ、膜厚が15nmとなると、成膜速度が0.5nm/sに切り替えられている。そのため、サンプルBは、Raが2.8nmと小さく、散乱光量も1.66と低くなっており、サンプルAに比べて良好な測定結果が得られている。
【0103】
サンプルGは、成膜速度が2nm/sであり、本成膜方法の成膜速度の上限値である0.6nm/sより大きいため、Raが9.6nmとなり、散乱光量が8.43となり、散乱光量がサンプルE,Fに比べて大幅に増大していることが分かる。そのため、本成膜方法による成膜速度の上限値を超えた成膜速度で金薄膜12を成膜すると、SN比の高い金薄膜12を製造することができないことが分かる。
【0104】
サンプルHは、Raが8.9nmであり、散乱光量が8.87であり、サンプルGに比べて、更に散乱光量が増大していることが分かる。ここで、サンプルHは1枚のメッシュ状電極80を設けて成膜されているが、サンプルHはメッシュ状電極80を設けて成膜されていない。このことから、メッシュ状電極80を設けることにより、真空槽51内のプラズマ(アルゴンイオン)が基板56に照射されることが防止され、Raの小さな金薄膜12を成膜できること分かる。
【0105】
このように、本成膜方法によれば、Raが4nm/s以下となる成膜速度で金薄膜12が成膜されているため、表面プラズモン共鳴センサの検出素子としてSN比が小さくて好ましい金薄膜12を提供することができる。
【0106】
なお、上記説明では、薄膜材料として、金薄膜12を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、アルミニウム又は銀を用いてもよい。また、薄膜材料として、金、アルミニウム及び銀のうち少なくともいずれか2つを含む合金を採用してもよい。アルミニウム及び銀は金と類似の性質を有しているため、本成膜方法を採用することで金と同様のRaを有する薄膜材料を成膜することができる。
【0107】
また、図5及び図8ではプラズマ支援型スパッタ法による成膜装置を用いて金薄膜12を成膜し、図9ではイオンアシスト蒸着法による成膜装置を用いて金薄膜12を成膜したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、RFマグネトロンスパッタ法、電子ビーム加熱蒸着法、又はイオンプレーティング法を用いて金薄膜12を成膜してもよい。
【符号の説明】
【0108】
51 真空槽
52 ヘリコンスパッタ源
53 シャッタ
54,58 リング状電極
55 水晶膜厚計
56 基板
57 基板ホルダ
60 電子ビーム蒸発源
521 カソード
522 ターゲット
523 支援コイル
524,525 高周波電源
526 直流電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴センサの検出素子に用いられる薄膜材料を成膜する成膜方法であって、
前記薄膜材料の表面粗さが4nm以下となる成膜速度で前記薄膜材料を基板上に成膜する成膜方法。
【請求項2】
前記成膜速度は、0.01nm/s以上、0.6nm/s以下である請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜材料が一定の膜厚になるまでは、前記成膜速度を第1速度として前記薄膜材料を成膜する第1成膜ステップと、
前記膜厚が一定の膜厚になった後は、前記成膜速度を前記第1速度の少なくとも倍の第2速度として前記薄膜材料を成膜する第2成膜ステップとを備える請求項1又は2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第2の速度は、時間が経過するにつれて速くなるように段階的に切り替えられる請求項3記載の成膜方法。
【請求項5】
前記薄膜材料は、RFマグネトロンスパッタ法、プラズマ支援型スパッタ法、イオンアシスト蒸着法、電子ビーム加熱式蒸着法、又はイオンプレーティング法で成膜される請求項1〜4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
プラズマが前記基板に照射されることを阻止するために、薄膜材料の粒子の射出位置と前記基板との間に電極を設けた請求項5記載の成膜方法。
【請求項7】
前記電極は、接地又はプラスの電位が印加されたリング状の電極である請求項6記載の成膜方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの成膜方法により成膜された薄膜材料であって、
表面粗さが4nm以下である薄膜材料。
【請求項9】
金、銀、アルミニウム、又はこれらを含む合金の金属により構成される請求項8記載の薄膜材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−184706(P2011−184706A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47946(P2010−47946)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】