成膜方法、基板保持具及び成膜装置
【課題】成膜方法、基板保持具及び成膜装置において、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することを目的とする。
【解決手段】チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法において、チャンバ内で前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁石により磁界を発生させてチャンバ内の塵埃を磁石により吸着するように構成する。
【解決手段】チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法において、チャンバ内で前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁石により磁界を発生させてチャンバ内の塵埃を磁石により吸着するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法、基板保持具及び成膜装置に係り、特に磁性膜の形成に適した成膜方法、基板保持具及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクに代表される磁気記録媒体を製造する際には、基板を基板保持具に装着し、基板保持具を成膜装置内に搬送する。基板保持具は、キャリア(Carrier)とも呼ばれることがある。成膜装置内では、基板上にCo合金に代表される磁性膜等がスパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition)等により成膜される。磁気記録媒体によっては、磁性膜は複数成膜される。
【0003】
基板がディスク形状を有する場合、基板保持具は基板の外周部分を例えば3箇所の保持位置で保持する。各保持位置では、爪が基板の外周部分と直接接触して基板を把持する。このように基板を保持する基板保持具は、成膜装置内の各成膜ユニット間を搬送される。
【0004】
各成膜ユニットで成膜処理が行われると、基板を保持している基板保持具にも堆積膜が形成されるので、爪にも堆積膜が形成される。基板保持具は、ある回数繰り返し使用されるため、基板を基板保持具に装着する際及び基板を基板保持具から取り外す際に基板と爪との間にずれが生じると、堆積膜が擦れて堆積膜の一部が剥離し、堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。又、基板保持具の搬送時の振動等により基板と爪との間にずれが生じると、堆積膜が同様に擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。
【0005】
このような塵埃が基板面に付着すると、磁性膜に穴状の欠陥(ビット)が生じることで発生する所謂ピンホール欠陥の原因となり、磁気記録媒体の性能を低下させてしまう。特に高密度記録が要求される近年の磁気記録媒体では、磁気記録媒体の歩留まりを低下させないためには、このようなピンホール欠陥を確実に除去する必要がある。
【0006】
そこで、基板保持具に形成された堆積膜を除去することが考えられるが、基板保持具自体を損傷することなく堆積膜を完全に除去することは難しく、コストも時間もかかってしまう。又、毎回新しい基板保持具を使用することも考えられるが、コストの面で現実的ではなく、いずれにしても成膜装置内の各成膜ユニット間を搬送される際には基板保持具に堆積膜が形成されているので、基板と爪との間に生じたずれにより堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となることには変わりがない。
【0007】
一方、基板保持具の爪の形状や把持力を調整することで、基板と爪との間に生じたずれにより堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる現象を抑制することが考えられる。しかし、基板と爪との間に物理的な接触がある以上、堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる現象を抑制するにも限界がある。これは、ロボット等により基板保持具に対する基板の装着脱を行う際に、基板と爪との間にずれが生じないようにすることが非常に難しいことによる。
【特許文献1】特開平5−33133号公報
【特許文献2】特開平6−136530号公報
【特許文献3】特開平6−207270号公報
【特許文献4】特開平8−176819号公報
【特許文献5】特開昭58−100411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来は、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することは難しいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制可能な成膜方法、基板保持具及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する成膜方法が提供される。
【0011】
本発明の一観点によれば、基板を保持する基板保持具であって、前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた基板保持具が提供される。
【0012】
本発明の一観点によれば、チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
開示の成膜方法、基板保持具及び成膜装置によれば、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
開示の成膜方法、基板保持具及び成膜装置では、チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す。このチャンバ内で、基板保持具により保持されている基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させてチャンバ内の塵埃を磁場発生手段により吸着する。
【0015】
磁場発生手段は、チャンバ内に設けられていても、基板保持具に設けられていても、チャンバ内と基板保持具の両方に設けられていても良い。
【0016】
成膜装置内で発生した塵埃を磁場発生手段により吸着することで、塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することができる。
【0017】
以下に、本発明の成膜方法、基板保持具及び成膜装置の各実施例を、図面と共に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の第1実施例における成膜装置を説明する図である。図1中、(a)は成膜装置1−1を基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た断面図、(b)は成膜装置1−1を基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た断面図である。
【0019】
成膜装置1−1は、チャンバ(又は、真空室)11、真空ポンプ12、チャンバ11内に設けられた支持部13、支持部13の先端に設けられた磁場発生手段15、ローディング用真空室18、及び制御部19を有する。尚、アンローディング用真空室(図示せず)がローディング用真空室18と並行に設けられているが、図1(b)においてローディング用真空室18の後ろ側に位置するので、図1(a),(b)では見えない。
【0020】
真空ポンプ12は、プロセッサ等で構成された制御部19により制御され、成膜装置1−1の成膜処理に応じてチャンバ11内の真空度を制御する。成膜処理は特に限定されないが、例えばスパッタリングやCVDである。
【0021】
基板61は、本実施例ではディスク形状を有し、ローディング用真空室18を介してチャンバ11内に供給され、チャンバ11内からアンローディング用真空室を介して大気中に取り出される。
【0022】
ローディング用真空室18内には、アーム22−1を有するロボット22が設けられている。ロボット22は、駆動装置23により周知の方法で駆動される。ベントライン24は、ローディング用真空室18に取り付けられている。ロボット22は、アーム22−1により基板61をチャンバ11内の基板装着位置にある基板保持具51−1に装着する。尚、アンローディング用真空室内には、ロボット22と同様の構成を有するロボットが設けられており、このロボットのアームによりチャンバ11内の基板取り外し位置にある基板保持具51−1から装着された基板61を取り外す。
【0023】
基板61は、基板保持具51−1に保持された状態で、搬送部41によりチャンバ11の基板装着位置、基板取り外し位置、成膜位置に搬送される。本実施例では、搬送部41は基板保持具51−1又は基板保持具51−1の足(又は、ローラ53)と係合して周知の方法で基板保持具51−1を搬送するが、基板保持具51−1を搬送する手段はこれに限定されるものではない。基板装着位置と基板取り外し位置とは異なるが、基板61に対して成膜処理を施す成膜位置は、基板装着位置及び基板取り外し位置とは異なる位置であっても、基板装着位置及び基板取り外し位置のどちらか一方と同じ位置であっても良い。尚、基板保持具51−1は、基板61の各基板面が重力の方向と平行になるようにチャンバ11内に設置される。
【0024】
基板保持具51−1は、ハウジング51、基板61を保持するためにハウジング51に設けられた開口部51A、基板61の外周部分を把持する爪52、及び足(又は、ローラ)41を有する。爪52は、基板61の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する。本実施例では、基板61の被保持箇所は図1に示す上部の2箇所と下部の1箇所である。
【0025】
磁気記録媒体の磁性膜等に生じるピンホール欠陥は、磁気記録媒体の製造段階で磁性膜の成膜前に基板に付着した塵埃が原因である。本発明者は、この塵埃がCo合金、Fe合金等を主成分としており、成膜装置内の150℃〜400℃といった比較的高温環境下においても磁性を有する場合には、成膜装置内の磁場発生手段により磁場を発生することで塵埃の移動を制御して磁場発生手段に塵埃を吸着させれば、塵埃が基板に付着しないようにすることが可能であることを見出した。
【0026】
支持部13に設けられた磁場発生手段15は、永久磁石又は電磁石で構成されている。電磁石を用いる場合には、電磁石の活性化及び非活性化(オン及びオフ)を制御部19により制御可能である。又、電磁石に印加する電流を制御することで、塵埃の発生状況の応じた強度の磁界を発生させることもできる。磁場発生手段15は、基板61の各基板面に対して別々に設けられており、搬送部51及び基板保持具51−1の搬送経路と交差しないチャンバ11内の位置に設けられている。本実施例では、磁場発生手段15は、基板保持具51−1が基板装着位置、成膜位置及び基板取り外し位置のうち少なくとも1つの位置にある時に、基板保持具51−1の爪52により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着するのに適した配置を有する。
【0027】
基板61を基板保持具51−1に装着する際、基板61を基板保持具51−1から取り外す際、基板保持具51−1をチャンバ11内で搬送する際等に振動等により基板61と爪52との間にずれが生じると、基板保持具51の特に爪52に形成された堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。しかし、本実施例では、磁場発生手段15が塵埃を吸着して塵埃の移動を制御するので、塵埃が基板61の表面に付着するのを防止することができる。
【0028】
磁場発生手段15が電磁石で構成されている場合、少なくとも成膜処理の開始前と終了後に電磁石を活性化するように制御部19により電磁石を制御しても良い。この場合、成膜処理の開始前は、基板保持具51−1が基板装着位置又は成膜位置にある状態であり、成膜処理の終了後は、基板保持具51−1が成膜位置又は基板取り外し位置にある状態である。
【0029】
尚、磁場発生手段15が設けられた支持部13を搬送部41と連動して移動可能に設ければ、磁場発生手段15は、基板保持具51−1が基板装着位置、成膜位置及び基板取り外し位置のいずれの位置にある時であっても、基板保持具51−1により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着することができる。
【0030】
図2は、基板61と磁場発生手段15の関係を説明する図である。図2中、(a)は基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た図、(b)は基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た図である。
【0031】
図2に示すように、磁場発生手段15は、基板61の各基板面に対して別々に設けられている。図2中、(b)の左側の基板面に対しては、上部の2箇所と下部の1箇所に設けられた磁場発生手段15の磁極が基板面と平行な面上に配置されている。又、磁場勾配を大きくするために、磁場発生手段15の磁極の先端形状は凸状である。更に、重力を考慮して、各爪52が基板61に接触する位置よりも下側に各対応する磁場発生手段15が配置されている。
【0032】
図3は、磁場発生手段15に脱着可能に設けられたカバーを説明する図である。図3に示すカバー17は、非磁性材料で形成されており、磁場発生手段15の少なくとも上部を覆う構成を有する。カバー17は、磁場発生手段15が発生する磁界を著しく低下させない程度の厚みを有する。通常は、磁場発生手段15はカバー17により覆われているので、磁場発生手段15に吸着された塵埃はカバー17の表面に付着する。チャンバ11内の清掃時等には、このカバー17を取り除けば、磁場発生手段15により吸着された塵埃をチャンバ11の外部に破棄することができる。清掃後は、清掃済みのカバー17、或いは、新たなカバー17を磁場発生手段15に装着すれば良い。
【0033】
カバー17は、必要不可欠ではないが、カバー17を使用することで磁場発生手段15により吸着された塵埃をチャンバ11の外部へ破棄する処理を容易、且つ、確実に行うことが可能となる。
【実施例2】
【0034】
図4は、本発明の第2実施例における基板保持具を説明する図である。図4中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
図4に示すように、基板保持具51−1のハウジング51には、磁場発生手段を構成する電磁石115、配線55、及び接点56が設けられている。電磁石115は、基板保持具51−1の爪52により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着するのに適した配置を有し、対応する爪52の近傍に設けられている。1個の爪52に対しては、1個の電磁石115が設けられている。電磁石115は、接点56に印加される電流でオン、オフ及び発生する磁場の強度が制御される。
【0036】
尚、磁場発生手段を永久磁石で構成する場合には、配線55及び接点56は省略可能である。
【0037】
図5は、図4の基板保持具51−2を用いる成膜装置を説明する図である。図5中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図5中、(a)は成膜装置1−2を基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た断面図、(b)は成膜装置1−2を基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た断面図である。
【0038】
成膜装置1−2は、可動接点16及び電源供給部17を有する。電源供給部17は、制御部19からの制御情報に基づいて各電磁石115に印加するべき電流を出力する。可動接点16は、柔軟性を有し、対応する接点56と接触することで電源供給部17からの電流を配線55を介して対応する電磁石115に印加する。
【0039】
可動接点16をチャンバ11内の1箇所に固定した場合には、基板保持具51−2がチャンバ11内の所定位置にある時だけ電磁石115を制御することができる。一方、可動接点16を搬送部41と連動して移動可能に設ければ、基板保持具41−2がチャンバ11内の複数の位置にある時に電磁石115を制御することができる。更に、可動接点16をチャンバ11内の複数の箇所に設けることで、基板保持具41−2がチャンバ11内の複数の位置にある時に電磁石115を制御することができる。
【0040】
本実施例の場合、磁場発生手段が基板保持具51−2側に設けられているので、上記第1実施例の成膜装置1−1と比較すると、成膜装置1−2の構成が簡単であり、又、磁場発生手段をチャンバ11内の複数の箇所で容易に制御することができる。
【0041】
次に、磁場発生手段による塵埃の制御により得られる効果について、図6〜図11と共に説明する。
【0042】
図6は、実験に使用した装置の構成を説明する図である。図6に示す装置は、磁石215が取り付けられたハイトゲージ211と、塵埃の粒子(パーティクル)500を加熱するホットプレート212を有する。本発明者は、図6に示す装置を用いて、磁石215の磁力により塵埃の粒子500が吸着される瞬間の磁石215と塵埃の粒子500との距離Zをハイトゲージ211により測定した。この距離Zは、塵埃の粒子500が載置されるホットプレート212の加熱面と磁石214との間の距離とした。この測定の際、成膜装置内での状態を再現するために、塵埃の粒子500をホットプレート212により常時加熱し、加熱温度を18℃(室温)、100℃、200℃、300℃、400℃と変化させ、各加熱温度で塵埃の粒子500の移動を制御して磁石215で吸着するのに必要な磁場に関するデータを取得した。取得された磁場に関するデータは、上記の距離Z(mm)、磁場B(Gauss)、及び磁場勾配δB/δz(Gauss/mm)である。磁場に関するデータは、予めガウスメータにより磁場分布が測定済みの磁石215を使用し、塵埃の粒子500の磁石215への吸着が起こる上記距離Zをハイトゲージ211により測定することで、吸着に必要な磁場勾配δB/δzを算出した。
【0043】
図7は、実験結果を示す図である。図7において、塵埃の物性は、重量(mg)、飽和磁化(Gauss/g)、及び保磁力Hc(Oe)を含む。「水平」で示される塵埃の物性は、水平磁気記録方式を採用する水平磁気記録媒体を成膜した成膜装置で使用した基板保持具の爪から採取した塵埃の物性を示す。一方、「垂直」で示される塵埃の物性は、垂直磁気記録方式を採用する垂直磁気記録媒体を成膜した成膜装置で使用した基板保持具の爪から採取した塵埃の物性を示す。塵埃の重量(又は、質量)は、精密電子天秤により測定した。塵埃の磁気特性は、0.0025emuの感度を有する振動試料型磁力計により測定した。
【0044】
又、図7に示す距離Zは、各加熱温度において5回測定された測定結果の平均値を示す。又、磁場Bと磁場勾配δB/δzは、上記距離Z(平均値)と磁石215の磁場分布から算出した。例えば、水平磁気記録媒体から採取した塵埃の場合、加熱温度が400℃であっても、磁場勾配δB/δzが−0.28(Gauss/mm)であれば、塵埃の移動を制御して磁石215に吸着させることができることが確認された。
【0045】
図8は塵埃粒子と磁場発生手段との間の距離Zと加熱温度の関係を示す図であり、図9は磁場Bと加熱温度の関係を示す図であり、図10は磁場勾配δB/δzと加熱温度の関係を示す図である。図8〜図10は、図7に示す磁場に関するデータをプロットしたものであり、□印は上記「水平」の場合のデータ、▲印は上記「垂直」の場合のデータを示す。図8〜図10からもわかるように、距離Zは加熱温度に対して単調減少する傾向を示すことが確認された。尚、自発磁化は、加熱温度(又は、基板温度)に対して2/3乗の割合で減少することが知られている。又、磁化量が小さい、水平磁気記録媒体の成膜に使用した基板保持具の爪から採取した塵埃は、垂直磁気記録媒体の成膜に使用した基板保持具の爪から採取した塵埃と比較して2倍程度の磁場勾配δB/δzを必要とすることが確認された。
【0046】
図11は、上記実験に使用した磁石215の磁場分布を示す図である。図11に示す磁場分布は、ガウスメータを用いて磁石215の表面から5mm〜40mmの範囲を5mmのピッチで磁場Bを測定することで求めた。磁場分布は、磁気双極子のモデルに従うと過程して、測定した磁場分布のデータから最小二乗法により各係数を決定した。磁場勾配δB/δzは、磁気双極子のモデルの式に基づいて算出した。
【0047】
上記実験結果からも、塵埃が成膜装置内の150℃〜400℃といった比較的高温環境下においても磁性を有する場合には、成膜装置内の磁場発生手段により磁場を発生することで塵埃の移動を制御して磁場発生手段に塵埃を吸着させることができ、塵埃が基板に付着しないようにすることが可能であることが確認された。従って、このような磁場発生手段を用いることにより、磁気記録媒体等の製造段階で磁性膜の成膜前に基板に付着した塵埃が原因であるピンホール欠陥を抑制することが可能となる。
【0048】
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する、成膜方法。
(付記2)
前記磁場発生手段に永久磁石を用いる、付記1記載の成膜方法。
(付記3)
前記磁場発生手段に電磁石を用いる、付記1記載の成膜方法。
(付記4)
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる、付記3記載の成膜方法。
(付記5)
前記チャンバ内に設けられた磁場発生手段を用いる、付記1乃至4のいずれか1項記載の成膜方法。
(付記6)
前記基板保持具に設けられた磁場発生手段を用いる、付記1乃至4のいずれか1項記載の成膜方法。
(付記7)
基板を保持する基板保持具であって、
前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、
前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた、基板保持具。
(付記8)
前記磁場発生手段に脱着可能に設けられ、非磁性材料からなるカバーを更に備えた、付記7記載の基板保持具。
(付記9)
前記磁場発生手段は永久磁石を有する、付記7又は8記載の基板保持具。
(付記10)
前記磁場発生手段は電磁石を有する、付記7又は8記載の基板保持具。
(付記11)
前記磁場発生手段は各爪の近傍に設けられている、付記7乃至10のいずれか1項記載の基板保持具。
(付記12)
チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた、成膜装置。
(付記13)
前記磁場発生手段は永久磁石を有する、付記12記載の成膜装置。
(付記14)
前記磁場発生手段は電磁石を有する、付記12記載の成膜装置。
(付記15)
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる手段を更に備えた、付記14記載の成膜装置。
(付記16)
前記基板保持具は前記基板の各基板面が重力の方向と平行になるように前記チャンバ内に設置され、
前記磁場発生手段は前記基板の各基板面に対して別々に設けられている、付記12乃至15のいずれか1項記載の成膜装置。
(付記17)
前記基板保持具が載置され、前記基板保持具を前記チャンバ内に搬送する搬送部を更に備え、
前記磁場発生手段は、前記搬送部及び前記基板保持具の搬送経路と交差しない前記チャンバ内の位置に設けられている、付記12乃至16のいずれか1項記載の成膜装置。
(付記18)
前記磁場発生手段は、前記チャンバ内に設けられた第1の磁場発生手段と、前記基板保持具に設けられた第2の磁場発生手段を含む、付記12乃至15のいずれか1項記載の成膜装置。
【0049】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施例における成膜装置を説明する図である。
【図2】基板と磁場発生手段の関係を説明する図である。
【図3】磁場発生手段に脱着可能に設けられたカバーを説明する図である。
【図4】本発明の第2実施例における基板保持具を説明する図である。
【図5】図4の基板保持具を用いる成膜装置を説明する図である。
【図6】実験に使用した装置の構成を説明する図である。
【図7】実験結果を示す図である。
【図8】塵埃粒子と磁場発生手段との間の距離と加熱温度の関係を示す図である。
【図9】磁場と加熱温度の関係を示す図である。
【図10】磁場勾配と加熱温度の関係を示す図である。
【図11】実験に使用した磁石の磁場分布を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1−1,1−2 成膜装置
11 チャンバ
15,115 磁場発生手段
16 可動接点
19 制御部
51−1,51−2 基板保持具
52 爪
56 接点
61 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法、基板保持具及び成膜装置に係り、特に磁性膜の形成に適した成膜方法、基板保持具及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクに代表される磁気記録媒体を製造する際には、基板を基板保持具に装着し、基板保持具を成膜装置内に搬送する。基板保持具は、キャリア(Carrier)とも呼ばれることがある。成膜装置内では、基板上にCo合金に代表される磁性膜等がスパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition)等により成膜される。磁気記録媒体によっては、磁性膜は複数成膜される。
【0003】
基板がディスク形状を有する場合、基板保持具は基板の外周部分を例えば3箇所の保持位置で保持する。各保持位置では、爪が基板の外周部分と直接接触して基板を把持する。このように基板を保持する基板保持具は、成膜装置内の各成膜ユニット間を搬送される。
【0004】
各成膜ユニットで成膜処理が行われると、基板を保持している基板保持具にも堆積膜が形成されるので、爪にも堆積膜が形成される。基板保持具は、ある回数繰り返し使用されるため、基板を基板保持具に装着する際及び基板を基板保持具から取り外す際に基板と爪との間にずれが生じると、堆積膜が擦れて堆積膜の一部が剥離し、堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。又、基板保持具の搬送時の振動等により基板と爪との間にずれが生じると、堆積膜が同様に擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。
【0005】
このような塵埃が基板面に付着すると、磁性膜に穴状の欠陥(ビット)が生じることで発生する所謂ピンホール欠陥の原因となり、磁気記録媒体の性能を低下させてしまう。特に高密度記録が要求される近年の磁気記録媒体では、磁気記録媒体の歩留まりを低下させないためには、このようなピンホール欠陥を確実に除去する必要がある。
【0006】
そこで、基板保持具に形成された堆積膜を除去することが考えられるが、基板保持具自体を損傷することなく堆積膜を完全に除去することは難しく、コストも時間もかかってしまう。又、毎回新しい基板保持具を使用することも考えられるが、コストの面で現実的ではなく、いずれにしても成膜装置内の各成膜ユニット間を搬送される際には基板保持具に堆積膜が形成されているので、基板と爪との間に生じたずれにより堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となることには変わりがない。
【0007】
一方、基板保持具の爪の形状や把持力を調整することで、基板と爪との間に生じたずれにより堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる現象を抑制することが考えられる。しかし、基板と爪との間に物理的な接触がある以上、堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる現象を抑制するにも限界がある。これは、ロボット等により基板保持具に対する基板の装着脱を行う際に、基板と爪との間にずれが生じないようにすることが非常に難しいことによる。
【特許文献1】特開平5−33133号公報
【特許文献2】特開平6−136530号公報
【特許文献3】特開平6−207270号公報
【特許文献4】特開平8−176819号公報
【特許文献5】特開昭58−100411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来は、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することは難しいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制可能な成膜方法、基板保持具及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する成膜方法が提供される。
【0011】
本発明の一観点によれば、基板を保持する基板保持具であって、前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた基板保持具が提供される。
【0012】
本発明の一観点によれば、チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
開示の成膜方法、基板保持具及び成膜装置によれば、成膜装置内で発生した塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
開示の成膜方法、基板保持具及び成膜装置では、チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す。このチャンバ内で、基板保持具により保持されている基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させてチャンバ内の塵埃を磁場発生手段により吸着する。
【0015】
磁場発生手段は、チャンバ内に設けられていても、基板保持具に設けられていても、チャンバ内と基板保持具の両方に設けられていても良い。
【0016】
成膜装置内で発生した塵埃を磁場発生手段により吸着することで、塵埃に起因するピンホール欠陥を抑制することができる。
【0017】
以下に、本発明の成膜方法、基板保持具及び成膜装置の各実施例を、図面と共に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の第1実施例における成膜装置を説明する図である。図1中、(a)は成膜装置1−1を基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た断面図、(b)は成膜装置1−1を基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た断面図である。
【0019】
成膜装置1−1は、チャンバ(又は、真空室)11、真空ポンプ12、チャンバ11内に設けられた支持部13、支持部13の先端に設けられた磁場発生手段15、ローディング用真空室18、及び制御部19を有する。尚、アンローディング用真空室(図示せず)がローディング用真空室18と並行に設けられているが、図1(b)においてローディング用真空室18の後ろ側に位置するので、図1(a),(b)では見えない。
【0020】
真空ポンプ12は、プロセッサ等で構成された制御部19により制御され、成膜装置1−1の成膜処理に応じてチャンバ11内の真空度を制御する。成膜処理は特に限定されないが、例えばスパッタリングやCVDである。
【0021】
基板61は、本実施例ではディスク形状を有し、ローディング用真空室18を介してチャンバ11内に供給され、チャンバ11内からアンローディング用真空室を介して大気中に取り出される。
【0022】
ローディング用真空室18内には、アーム22−1を有するロボット22が設けられている。ロボット22は、駆動装置23により周知の方法で駆動される。ベントライン24は、ローディング用真空室18に取り付けられている。ロボット22は、アーム22−1により基板61をチャンバ11内の基板装着位置にある基板保持具51−1に装着する。尚、アンローディング用真空室内には、ロボット22と同様の構成を有するロボットが設けられており、このロボットのアームによりチャンバ11内の基板取り外し位置にある基板保持具51−1から装着された基板61を取り外す。
【0023】
基板61は、基板保持具51−1に保持された状態で、搬送部41によりチャンバ11の基板装着位置、基板取り外し位置、成膜位置に搬送される。本実施例では、搬送部41は基板保持具51−1又は基板保持具51−1の足(又は、ローラ53)と係合して周知の方法で基板保持具51−1を搬送するが、基板保持具51−1を搬送する手段はこれに限定されるものではない。基板装着位置と基板取り外し位置とは異なるが、基板61に対して成膜処理を施す成膜位置は、基板装着位置及び基板取り外し位置とは異なる位置であっても、基板装着位置及び基板取り外し位置のどちらか一方と同じ位置であっても良い。尚、基板保持具51−1は、基板61の各基板面が重力の方向と平行になるようにチャンバ11内に設置される。
【0024】
基板保持具51−1は、ハウジング51、基板61を保持するためにハウジング51に設けられた開口部51A、基板61の外周部分を把持する爪52、及び足(又は、ローラ)41を有する。爪52は、基板61の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する。本実施例では、基板61の被保持箇所は図1に示す上部の2箇所と下部の1箇所である。
【0025】
磁気記録媒体の磁性膜等に生じるピンホール欠陥は、磁気記録媒体の製造段階で磁性膜の成膜前に基板に付着した塵埃が原因である。本発明者は、この塵埃がCo合金、Fe合金等を主成分としており、成膜装置内の150℃〜400℃といった比較的高温環境下においても磁性を有する場合には、成膜装置内の磁場発生手段により磁場を発生することで塵埃の移動を制御して磁場発生手段に塵埃を吸着させれば、塵埃が基板に付着しないようにすることが可能であることを見出した。
【0026】
支持部13に設けられた磁場発生手段15は、永久磁石又は電磁石で構成されている。電磁石を用いる場合には、電磁石の活性化及び非活性化(オン及びオフ)を制御部19により制御可能である。又、電磁石に印加する電流を制御することで、塵埃の発生状況の応じた強度の磁界を発生させることもできる。磁場発生手段15は、基板61の各基板面に対して別々に設けられており、搬送部51及び基板保持具51−1の搬送経路と交差しないチャンバ11内の位置に設けられている。本実施例では、磁場発生手段15は、基板保持具51−1が基板装着位置、成膜位置及び基板取り外し位置のうち少なくとも1つの位置にある時に、基板保持具51−1の爪52により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着するのに適した配置を有する。
【0027】
基板61を基板保持具51−1に装着する際、基板61を基板保持具51−1から取り外す際、基板保持具51−1をチャンバ11内で搬送する際等に振動等により基板61と爪52との間にずれが生じると、基板保持具51の特に爪52に形成された堆積膜が擦れて堆積膜の粒子が脱落して塵埃の発生源となる。しかし、本実施例では、磁場発生手段15が塵埃を吸着して塵埃の移動を制御するので、塵埃が基板61の表面に付着するのを防止することができる。
【0028】
磁場発生手段15が電磁石で構成されている場合、少なくとも成膜処理の開始前と終了後に電磁石を活性化するように制御部19により電磁石を制御しても良い。この場合、成膜処理の開始前は、基板保持具51−1が基板装着位置又は成膜位置にある状態であり、成膜処理の終了後は、基板保持具51−1が成膜位置又は基板取り外し位置にある状態である。
【0029】
尚、磁場発生手段15が設けられた支持部13を搬送部41と連動して移動可能に設ければ、磁場発生手段15は、基板保持具51−1が基板装着位置、成膜位置及び基板取り外し位置のいずれの位置にある時であっても、基板保持具51−1により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着することができる。
【0030】
図2は、基板61と磁場発生手段15の関係を説明する図である。図2中、(a)は基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た図、(b)は基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た図である。
【0031】
図2に示すように、磁場発生手段15は、基板61の各基板面に対して別々に設けられている。図2中、(b)の左側の基板面に対しては、上部の2箇所と下部の1箇所に設けられた磁場発生手段15の磁極が基板面と平行な面上に配置されている。又、磁場勾配を大きくするために、磁場発生手段15の磁極の先端形状は凸状である。更に、重力を考慮して、各爪52が基板61に接触する位置よりも下側に各対応する磁場発生手段15が配置されている。
【0032】
図3は、磁場発生手段15に脱着可能に設けられたカバーを説明する図である。図3に示すカバー17は、非磁性材料で形成されており、磁場発生手段15の少なくとも上部を覆う構成を有する。カバー17は、磁場発生手段15が発生する磁界を著しく低下させない程度の厚みを有する。通常は、磁場発生手段15はカバー17により覆われているので、磁場発生手段15に吸着された塵埃はカバー17の表面に付着する。チャンバ11内の清掃時等には、このカバー17を取り除けば、磁場発生手段15により吸着された塵埃をチャンバ11の外部に破棄することができる。清掃後は、清掃済みのカバー17、或いは、新たなカバー17を磁場発生手段15に装着すれば良い。
【0033】
カバー17は、必要不可欠ではないが、カバー17を使用することで磁場発生手段15により吸着された塵埃をチャンバ11の外部へ破棄する処理を容易、且つ、確実に行うことが可能となる。
【実施例2】
【0034】
図4は、本発明の第2実施例における基板保持具を説明する図である。図4中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
図4に示すように、基板保持具51−1のハウジング51には、磁場発生手段を構成する電磁石115、配線55、及び接点56が設けられている。電磁石115は、基板保持具51−1の爪52により保持されている基板61の被保持箇所の近傍で磁界を発生してチャンバ11内の塵埃を吸着するのに適した配置を有し、対応する爪52の近傍に設けられている。1個の爪52に対しては、1個の電磁石115が設けられている。電磁石115は、接点56に印加される電流でオン、オフ及び発生する磁場の強度が制御される。
【0036】
尚、磁場発生手段を永久磁石で構成する場合には、配線55及び接点56は省略可能である。
【0037】
図5は、図4の基板保持具51−2を用いる成膜装置を説明する図である。図5中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図5中、(a)は成膜装置1−2を基板61の基板面に対して垂直な正面方向から見た断面図、(b)は成膜装置1−2を基板61の基板面に対して平行な側面方向から見た断面図である。
【0038】
成膜装置1−2は、可動接点16及び電源供給部17を有する。電源供給部17は、制御部19からの制御情報に基づいて各電磁石115に印加するべき電流を出力する。可動接点16は、柔軟性を有し、対応する接点56と接触することで電源供給部17からの電流を配線55を介して対応する電磁石115に印加する。
【0039】
可動接点16をチャンバ11内の1箇所に固定した場合には、基板保持具51−2がチャンバ11内の所定位置にある時だけ電磁石115を制御することができる。一方、可動接点16を搬送部41と連動して移動可能に設ければ、基板保持具41−2がチャンバ11内の複数の位置にある時に電磁石115を制御することができる。更に、可動接点16をチャンバ11内の複数の箇所に設けることで、基板保持具41−2がチャンバ11内の複数の位置にある時に電磁石115を制御することができる。
【0040】
本実施例の場合、磁場発生手段が基板保持具51−2側に設けられているので、上記第1実施例の成膜装置1−1と比較すると、成膜装置1−2の構成が簡単であり、又、磁場発生手段をチャンバ11内の複数の箇所で容易に制御することができる。
【0041】
次に、磁場発生手段による塵埃の制御により得られる効果について、図6〜図11と共に説明する。
【0042】
図6は、実験に使用した装置の構成を説明する図である。図6に示す装置は、磁石215が取り付けられたハイトゲージ211と、塵埃の粒子(パーティクル)500を加熱するホットプレート212を有する。本発明者は、図6に示す装置を用いて、磁石215の磁力により塵埃の粒子500が吸着される瞬間の磁石215と塵埃の粒子500との距離Zをハイトゲージ211により測定した。この距離Zは、塵埃の粒子500が載置されるホットプレート212の加熱面と磁石214との間の距離とした。この測定の際、成膜装置内での状態を再現するために、塵埃の粒子500をホットプレート212により常時加熱し、加熱温度を18℃(室温)、100℃、200℃、300℃、400℃と変化させ、各加熱温度で塵埃の粒子500の移動を制御して磁石215で吸着するのに必要な磁場に関するデータを取得した。取得された磁場に関するデータは、上記の距離Z(mm)、磁場B(Gauss)、及び磁場勾配δB/δz(Gauss/mm)である。磁場に関するデータは、予めガウスメータにより磁場分布が測定済みの磁石215を使用し、塵埃の粒子500の磁石215への吸着が起こる上記距離Zをハイトゲージ211により測定することで、吸着に必要な磁場勾配δB/δzを算出した。
【0043】
図7は、実験結果を示す図である。図7において、塵埃の物性は、重量(mg)、飽和磁化(Gauss/g)、及び保磁力Hc(Oe)を含む。「水平」で示される塵埃の物性は、水平磁気記録方式を採用する水平磁気記録媒体を成膜した成膜装置で使用した基板保持具の爪から採取した塵埃の物性を示す。一方、「垂直」で示される塵埃の物性は、垂直磁気記録方式を採用する垂直磁気記録媒体を成膜した成膜装置で使用した基板保持具の爪から採取した塵埃の物性を示す。塵埃の重量(又は、質量)は、精密電子天秤により測定した。塵埃の磁気特性は、0.0025emuの感度を有する振動試料型磁力計により測定した。
【0044】
又、図7に示す距離Zは、各加熱温度において5回測定された測定結果の平均値を示す。又、磁場Bと磁場勾配δB/δzは、上記距離Z(平均値)と磁石215の磁場分布から算出した。例えば、水平磁気記録媒体から採取した塵埃の場合、加熱温度が400℃であっても、磁場勾配δB/δzが−0.28(Gauss/mm)であれば、塵埃の移動を制御して磁石215に吸着させることができることが確認された。
【0045】
図8は塵埃粒子と磁場発生手段との間の距離Zと加熱温度の関係を示す図であり、図9は磁場Bと加熱温度の関係を示す図であり、図10は磁場勾配δB/δzと加熱温度の関係を示す図である。図8〜図10は、図7に示す磁場に関するデータをプロットしたものであり、□印は上記「水平」の場合のデータ、▲印は上記「垂直」の場合のデータを示す。図8〜図10からもわかるように、距離Zは加熱温度に対して単調減少する傾向を示すことが確認された。尚、自発磁化は、加熱温度(又は、基板温度)に対して2/3乗の割合で減少することが知られている。又、磁化量が小さい、水平磁気記録媒体の成膜に使用した基板保持具の爪から採取した塵埃は、垂直磁気記録媒体の成膜に使用した基板保持具の爪から採取した塵埃と比較して2倍程度の磁場勾配δB/δzを必要とすることが確認された。
【0046】
図11は、上記実験に使用した磁石215の磁場分布を示す図である。図11に示す磁場分布は、ガウスメータを用いて磁石215の表面から5mm〜40mmの範囲を5mmのピッチで磁場Bを測定することで求めた。磁場分布は、磁気双極子のモデルに従うと過程して、測定した磁場分布のデータから最小二乗法により各係数を決定した。磁場勾配δB/δzは、磁気双極子のモデルの式に基づいて算出した。
【0047】
上記実験結果からも、塵埃が成膜装置内の150℃〜400℃といった比較的高温環境下においても磁性を有する場合には、成膜装置内の磁場発生手段により磁場を発生することで塵埃の移動を制御して磁場発生手段に塵埃を吸着させることができ、塵埃が基板に付着しないようにすることが可能であることが確認された。従って、このような磁場発生手段を用いることにより、磁気記録媒体等の製造段階で磁性膜の成膜前に基板に付着した塵埃が原因であるピンホール欠陥を抑制することが可能となる。
【0048】
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する、成膜方法。
(付記2)
前記磁場発生手段に永久磁石を用いる、付記1記載の成膜方法。
(付記3)
前記磁場発生手段に電磁石を用いる、付記1記載の成膜方法。
(付記4)
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる、付記3記載の成膜方法。
(付記5)
前記チャンバ内に設けられた磁場発生手段を用いる、付記1乃至4のいずれか1項記載の成膜方法。
(付記6)
前記基板保持具に設けられた磁場発生手段を用いる、付記1乃至4のいずれか1項記載の成膜方法。
(付記7)
基板を保持する基板保持具であって、
前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、
前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた、基板保持具。
(付記8)
前記磁場発生手段に脱着可能に設けられ、非磁性材料からなるカバーを更に備えた、付記7記載の基板保持具。
(付記9)
前記磁場発生手段は永久磁石を有する、付記7又は8記載の基板保持具。
(付記10)
前記磁場発生手段は電磁石を有する、付記7又は8記載の基板保持具。
(付記11)
前記磁場発生手段は各爪の近傍に設けられている、付記7乃至10のいずれか1項記載の基板保持具。
(付記12)
チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた、成膜装置。
(付記13)
前記磁場発生手段は永久磁石を有する、付記12記載の成膜装置。
(付記14)
前記磁場発生手段は電磁石を有する、付記12記載の成膜装置。
(付記15)
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる手段を更に備えた、付記14記載の成膜装置。
(付記16)
前記基板保持具は前記基板の各基板面が重力の方向と平行になるように前記チャンバ内に設置され、
前記磁場発生手段は前記基板の各基板面に対して別々に設けられている、付記12乃至15のいずれか1項記載の成膜装置。
(付記17)
前記基板保持具が載置され、前記基板保持具を前記チャンバ内に搬送する搬送部を更に備え、
前記磁場発生手段は、前記搬送部及び前記基板保持具の搬送経路と交差しない前記チャンバ内の位置に設けられている、付記12乃至16のいずれか1項記載の成膜装置。
(付記18)
前記磁場発生手段は、前記チャンバ内に設けられた第1の磁場発生手段と、前記基板保持具に設けられた第2の磁場発生手段を含む、付記12乃至15のいずれか1項記載の成膜装置。
【0049】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施例における成膜装置を説明する図である。
【図2】基板と磁場発生手段の関係を説明する図である。
【図3】磁場発生手段に脱着可能に設けられたカバーを説明する図である。
【図4】本発明の第2実施例における基板保持具を説明する図である。
【図5】図4の基板保持具を用いる成膜装置を説明する図である。
【図6】実験に使用した装置の構成を説明する図である。
【図7】実験結果を示す図である。
【図8】塵埃粒子と磁場発生手段との間の距離と加熱温度の関係を示す図である。
【図9】磁場と加熱温度の関係を示す図である。
【図10】磁場勾配と加熱温度の関係を示す図である。
【図11】実験に使用した磁石の磁場分布を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1−1,1−2 成膜装置
11 チャンバ
15,115 磁場発生手段
16 可動接点
19 制御部
51−1,51−2 基板保持具
52 爪
56 接点
61 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する、成膜方法。
【請求項2】
前記チャンバ内に設けられた磁場発生手段を用いる、請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記基板保持具に設けられた磁場発生手段を用いる、請求項1記載の成膜方法。
【請求項4】
基板を保持する基板保持具であって、
前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、
前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた、基板保持具。
【請求項5】
前記磁場発生手段に脱着可能に設けられ、非磁性材料からなるカバーを更に備えた、請求項4記載の基板保持具。
【請求項6】
前記磁場発生手段は各爪の近傍に設けられている、請求項4又は5記載の基板保持具。
【請求項7】
チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた、成膜装置。
【請求項8】
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる手段を更に備えた、請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基板保持具は前記基板の各基板面が重力の方向と平行になるように前記チャンバ内に設置され、
前記磁場発生手段は前記基板の各基板面に対して別々に設けられている、請求項8項記載の成膜装置。
【請求項10】
前記基板保持具が載置され、前記基板保持具を前記チャンバ内に搬送する搬送部を更に備え、
前記磁場発生手段は、前記搬送部及び前記基板保持具の搬送経路と交差しない前記チャンバ内の位置に設けられている、請求項7乃至9のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項1】
チャンバ内で、基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜方法であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁場発生手段により磁界を発生させて前記チャンバ内の塵埃を前記磁場発生手段により吸着する、成膜方法。
【請求項2】
前記チャンバ内に設けられた磁場発生手段を用いる、請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記基板保持具に設けられた磁場発生手段を用いる、請求項1記載の成膜方法。
【請求項4】
基板を保持する基板保持具であって、
前記基板を保持する開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記基板の外周部分を少なくとも3箇所の保持位置で保持する爪と、
前記爪の近傍に設けられた磁場発生手段
を備えた、基板保持具。
【請求項5】
前記磁場発生手段に脱着可能に設けられ、非磁性材料からなるカバーを更に備えた、請求項4記載の基板保持具。
【請求項6】
前記磁場発生手段は各爪の近傍に設けられている、請求項4又は5記載の基板保持具。
【請求項7】
チャンバ内で基板保持具に保持された基板に対して成膜処理を施す成膜装置であって、
前記チャンバ内で、前記基板保持具により保持されている前記基板の被保持箇所の近傍で磁界を発生して前記チャンバ内の塵埃を吸着する磁場発生手段を備えた、成膜装置。
【請求項8】
前記電磁石を、少なくとも前記成膜処理の開始前と終了後に活性化させる手段を更に備えた、請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基板保持具は前記基板の各基板面が重力の方向と平行になるように前記チャンバ内に設置され、
前記磁場発生手段は前記基板の各基板面に対して別々に設けられている、請求項8項記載の成膜装置。
【請求項10】
前記基板保持具が載置され、前記基板保持具を前記チャンバ内に搬送する搬送部を更に備え、
前記磁場発生手段は、前記搬送部及び前記基板保持具の搬送経路と交差しない前記チャンバ内の位置に設けられている、請求項7乃至9のいずれか1項記載の成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−90449(P2010−90449A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262836(P2008−262836)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]