説明

成膜方法および成膜治具

【課題】ガラス基板等の薄い基板上に形成される薄膜の内部応力に起因する薄い基板の反りの発生を防止する成膜方法を提供すること。
【解決手段】大板1に成膜し、この成膜後の大板1を切断分割して複数の短冊の基板とする成膜方法であって、前記大板1とこの大板1を保持するための保持部材2とを前記大板1の少なくとも外周縁より内側に配置した接合部3で接合する接合工程と、この接合した前記大板1を前記保持部材2とともに成膜装置内に配置される被装着部材6の窓部61に取り付ける取付工程と、前記窓部61に取り付けた前記大板1に成膜する成膜工程と、この成膜した前記大板1を切断して前記短冊の基板に分割するとともに、前記短冊の基板と前記保持部材2とを分離する切断分割工程と、を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板上に成膜する成膜方法及び成膜に用いる成膜治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着法等によってガラス基板等の基板上に光学薄膜等を形成すると、その光学薄膜の内部応力によって、基板が反るという現象が発生していた。そして、基板が反ってしまうと、基板の面内における光学特性分布にばらつきが生じてしまうという問題があった。そして、光学素子の軽量化等を目的としてこの基板の板厚は薄板化し、一方生産性の向上等を目的の為、大板に成膜してこれを切断分割して複数の短冊の基板を得る方法が採用されるようになり、ますます基板の反りが発生しやすい構造となっている。
このような薄い基板上に形成される薄膜の内部応力による基板の反りの発生を防止するために、フレーム治具を用いる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載のフレーム治具は、断面コ字形を有する棒状の材料からなるとともに、コ字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を有し、コ字型の溝部に基板の外周部を保持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−94040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12は、特許文献1に記載のフレーム治具202で基板201を保持した状態を示す概略図である。また、基板201を切断分割して取出される成膜製品204(複数の短冊の基板)の位置が一点鎖線で示されている。
基板201をフレーム治具202に装着すると、基板201の外周に保持部203が形成される。保持部203より内側が成膜製品204(複数の短冊の基板)を取出すことのできる有効領域になる。
保持部203で保持された状態で成膜すると、反りの発生は従来に比べると抑えられたが、有効領域から取出される成膜製品204(複数の短冊の基板)の中には、反りの発生が抑えられていないものも含まれていた。
【0005】
本発明の目的は、ガラス基板等の薄い基板上に形成される薄膜の内部応力に起因する薄い基板の反りの発生を防止する成膜方法および成膜治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[適用例1]
本適用例に係る成膜方法は、大板に成膜し、この成膜後の大板を切断分割して複数の短冊の基板とする成膜方法であって、前記大板とこの大板を保持するための保持部材とを前記大板の少なくとも外周縁より内側に配置した接合部で接合する接合工程と、この接合した前記大板を前記保持部材とともに成膜装置内に配置される被装着部材の窓部に取り付ける取付工程と、前記窓部に取り付けた前記大板に成膜する成膜工程と、この成膜した前記大板を切断して前記短冊の基板に分割するとともに、前記短冊の基板と前記保持部材とを分離する切断分割工程と、を有することを特徴とする。
本適用例によれば、大板の少なくとも外周縁より内側を保持部材によって接合保持することができる。そのため、フレーム治具で大板の外周縁を保持した場合のように保持部位が大板の外周側に集中してしまう方法に比べて、大板を保持する部位を効果的に配置できる。したがって、大板の反りの発生を一層低減し、切断分割後の短冊の基板の反りのレベルを向上させることができる。
【0007】
[適用例2]
本適用例に係る成膜方法は、前記接合工程では、前記大板の少なくとも中央に配置した接合部で前記保持部材と接合することを特徴とする。
本適用例によれば、大板の中央も保持部材によって接合保持することができる。そのため、適用例1に比べると、大板が保持される部位を効果的に配置でき、大板の反りの発生を低減する効果をさらに大きくすることができる。
【0008】
[適用例3]
本適用例に係る成膜方法は、前記切断分割工程では、前記保持部材を切断しないことを特徴とする。
本適用例によれば、短冊の基板を取り出す切断分割工程が終わった後の保持部材は切断されておらず、保持部材上の取出されなかった小片と保持部材との接合を解くことで、保持部材を再利用することができる。
【0009】
[適用例4]
本適用例に係る成膜方法は、前記切断分割工程では、前記接合部を避けて切断されて前記大板が前記短冊の基板に分割され、この分割された複数の前記短冊の基板について良否判定を行うことを特徴とする。
本適用例によれば、接合部を含む小片部分を成膜製品として取出さず、接合部を除いた基板部分から成膜製品を取出し、この取出した成膜製品の良否判定が行われるので、接合に用いた接着剤等からの汚れ、付着残渣等が無い高品質の成膜製品を提供することができる。
【0010】
[適用例5]
本適用例に係る成膜方法は、前記保持部材は凸部を有し、前記接合工程では、前記凸部と前記大板とを接合することを特徴とする。
本適用例によれば、保持部材が凸部を有しているので、保持部材の接合面側全体に接合層を形成した場合でも、大板と接するのは凸部の上面に形成された接合層になる。そのため、接合部の位置や大きさを凸部の位置や大きさによって簡便に調節することができる。
また、大板と保持部材とを接合させるための接合層を選択的に形成する必要がない。すなわち、マスキング等を行う手間を省くことができる。
さらに、接合を接着剤で行う場合には、凸部からはみ出した接着剤は、凸部の周囲へ流れ出すので、不要な接合部の形成を防ぐとともに、接合部の位置や大きさのばらつきを低減することができる。そして、大板から取り出される短冊の基板に接着剤が付着するのを防ぐことができる。
【0011】
[適用例6]
本適用例に係る成膜方法は、前記接合工程では、前記大板と前記保持部材とを分子接合することを特徴とする。
本適用例によれば、大板と保持部材との接合が分子接合によって行われるので、強固に接合することができる。さらに、大板と保持部材とが線膨張係数の異なるもの同士であっても、熱膨張による応力が緩和され、大板と保持部材との位置ずれ等を防止することができる。したがって、大板の反りの発生を防止する効果を高めることができる。
また、高温の雰囲気に晒される成膜工程においても、接着剤のような脱ガスが皆無であるので、これらの脱ガスによる成膜製品への汚染の心配が無い。
【0012】
[適用例7]
本適用例に係る成膜方法は、前記大板および前記保持部材は水晶であって、結晶光学軸を合わせて前記大板と前記保持部材とを接合することを特徴とする。
本適用例によれば、前記大板および前記保持部材が水晶からなり、この水晶の結晶光学軸の向きを合わせて前記大板と前記保持部材とを接合するので、線膨張係数の異方性に起因して生ずる残留応力を低減することができる。上記は、線膨張係数の異方性を有する水晶の大板に線膨張係数の等方性を有する保持部材を組み合わせるよりも残留応力を低減することができる。よって、大板と保持部材の結晶光学軸の向きを合わせることにより、大板の反りの発生をさらに防止する効果を大きくすることができる。
【0013】
[適用例8]
本適用例に係る成膜方法は、前記取付工程では、前記大板を成膜治具を介して取り付けることを特徴とする。
本適用例によれば、大板を前記窓部に取り付ける作業効率を向上させることができる。
【0014】
[適用例9]
本適用例に係る成膜治具は、被成膜対象の大板と、この大板の少なくとも外周縁より内側で前記大板に配置した接合部で接合された保持部材とを収容可能な本体部と、この本体部から側方へ突き出して形成されるとともに成膜装置内に配置される被装着部材に取り付ける外フランジ部と、前記本体部の内方へ突き出して形成されるとともに前記保持部材を保持する内フランジ部と、前記本体部の底部に形成されるとともに、前記大板の成膜面を露出させる開口部と、を有することを特徴とする。
本適用例によれば、大板に接合された保持部材は本体部に収容され、内フランジ部によって保持されるため、大板および保持部材を安定させて保持することが可能になる。また、大板の成膜面は開口部から露出されるので、大板が保持部材と接合されていても、成膜面に対して確実に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る接合工程における接合状態を示す平面図。
【図2】前記実施形態に係る前記接合状態を示す断面図。
【図3】前記実施形態に係る取付工程における取付状態を示す断面図。
【図4】前記実施形態に係る被装着部材の斜視図。
【図5】プラズマ重合装置の概略図。
【図6】接合層がプラズマ重合膜から形成される接合工程を説明する概略図。
【図7】接合層がプラズマ重合膜から形成される接合工程を説明する概略図。
【図8】本発明の第2実施形態に係るマスキング状態を示す平面図(A)およびB−B線に沿った断面図(B)。
【図9】前記第2実施形態に係るプラズマ重合装置の概略図。
【図10】前記第2実施形態に係るプラズマ重合膜の形成工程を説明する概略図。
【図11】前記第2実施形態に係る取付工程における取付状態を示す断面図。
【図12】従来方法による基板を保持する状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、大板1と保持部材2とが接合された状態を表す平面図である。
図2は、大板1と保持部材2とが接合された状態を表す断面図である。
光学薄膜等を形成する基板として用いられる大板1とこの大板1を保持するための保持部材2とは、接合部3にて接合層31を介して接合されることで、積層体を構成している。接合された大板1及び保持部材2は、後述する成膜治具5に取り付けられ、成膜治具5の開口部54から大板1の成膜面が露出される(図3参照)。この成膜治具5は、後述する被装着部材6の窓部61に装着され(図3参照)、この被装着部材6は図示しない成膜装置へ搬入される。この成膜装置内で成膜処理が行われると、大板1の成膜面に光学薄膜等が形成される。成膜処理を終えた大板1から短冊の基板4が取出される。
【0017】
大板1は、ガラス、シリコン、水晶等から形成され、光学薄膜等を形成する基板として用いられる。
大板1は、本実施形態においては、約80mm×80mmの平面視略正方形で、厚みが約1mmから0.5mm程度の板状に形成されている。そして、この大板1から約10mm×10mmの短冊の基板4が取出される。なお、図1に示される一点鎖線の位置は、本実施形態の説明の都合上示されているものであって、短冊の基板4の形状、寸法、取出し個数等に応じて適宜変更される。
大板1は接合面にて保持部材2と接合される。この接合面とは反対側の面が、膜が形成される成膜面となる。
成膜面および接合面は平滑であることが好ましい。成膜面が平滑であれば、形成される膜も平滑にし易くなり、短冊の基板4の品質を高くすることができる。また、接合面が平滑であれば、接合面に形成される接合層31の表面を平滑に形成し易くなったり、接合相手の保持部材2の接合面との接触面積が大きくなるので、接合力を強くすることができる。さらに、接合面に鏡面加工が施されていれば、接合力をより強くすることができるので、より好ましい。
【0018】
保持部材2は、ガラス、シリコン、水晶、セラミック、金属等から形成され、大板1を保持するために用いられる。なお、大板1と保持部材2は、同じ材質のものまたは線膨張係数が近似する材質のものを用いるのが好ましい。線膨張係数の相違に起因して生ずる残留応力を低減することができるからである。線膨張係数に方向性を有するものは互いにその方向性を合わせて接合するとなお一層好ましい。
保持部材2は、本実施形態においては、平板部21と凸部22とで構成されている。
平板部21は、本実施形態においては、大板1よりも大きな面積を有した平面視略正方形の板状に形成されている。厚みは、約0.3mm〜5mmの板状に形成されていることが好ましい。
保持部材2は接合面にて大板1と接合される。
凸部22は、保持部材2の接合面側に形成されている。この凸部22は、接合部3を形成させる位置に対応して形成されている。具体的には、大板1と保持部材2とを接合した際に、大板1の少なくとも外周縁よりも内側に接合部3が形成されるような位置に形成されている。本実施形態において、凸部22は、平板部21の4隅近傍それぞれに1個ずつ形成され、中央部近傍に1個形成されている。この凸部22の上面は、平滑であることが好ましい。凸部22の上面が平滑であれば、接合面に形成される接合層31の表面を平滑に形成し易くなったり、接合相手の大板1の表面との接触面積が大きくなるので、接合力を強くすることができる。さらに、接合面に鏡面加工が施されていれば、接合力をより強くすることができるので、より好ましい。
【0019】
接合部3は、大板1と保持部材2との少なくともいずれか一方に接合層31が形成され、大板1と保持部材2とが貼り合わされて形成される。接合部3は、大板1の少なくとも外周縁よりも内側の計5箇所に設けられている。
本実施形態においては、接合層31が分子接合可能なプラズマ重合膜131である場合を挙げて説明する(図6及び図7参照)。接合層31やプラズマ重合膜131の厚さは、図において内容を理解しやすくするために、大板1や保持部材2の厚さに比べて厚く図示されている。
このプラズマ重合膜131が大板1および保持部材2の貼り合わされるお互いの面にそれぞれ形成されていれば、大板1と保持部材2とは接合可能である。
また、プラズマ重合膜131が大板1および保持部材2の貼り合わされる一方の面に形成されている場合には、プラズマ重合膜131が形成されていない他方の部材が水晶やガラス等のケイ素含有基板であるか、もしくは当該他方の部材の接合面側に二酸化ケイ素の膜が形成されていれば、大板1と保持部材2とは接合可能である。
本実施形態においては、保持部材2の接合面側にプラズマ重合膜131が形成され、大板1としてケイ素含有基板が用いられる場合について説明する。
なお、詳細な分子接合工程は後述する。
【0020】
図3は、互いに接合された大板1と保持部材2とが、成膜治具5を介して被装着部材6の窓部61に取り付けられた状態の拡大断面図である。
図4は、被装着部材6の斜視図である。
被装着部材6には、大板1が保持部材2とともに取り付けられる。大板1と保持部材2が取り付けられた被装着部材6は、成膜装置内に配置され、成膜処理が実施される。
被装着部材6は、円錐型ドーム状に形成されている。被装着部材6には、その頂部から底部へ向かって放射状に、窓部61が配置されている。この窓部61は、大板1が取り付けられた際に、大板1の成膜面が被装着部材6の内表面側に露出するように、開いて形成されている。従って、保持部材2は被装着部材6の外表面側に向けて装着される。また、この窓部61には、大板1と保持部材2とを取り付けるための成膜治具5が装着される。被装着部材6の内表面側とは円錐型ドームの重心に近いほうであり、外表面側とは逆に当該重心よりも遠い側を意味する。
【0021】
成膜治具5は、本体部51と、本体部51の側方に突き出して形成される外フランジ部52と、本体部51の内方へ突き出して形成される内フランジ部53と、本体部の底部に形成される開口部54とを備えて構成される。
本体部51は、大板1と保持部材2とを収容可能に形成されている。
外フランジ部52は、被装着部材6の窓部61に対して着脱可能に装着されるように形成されている。本体部51と外フランジ部52は、断面逆L字状になっており、外フランジ部52が窓部61に対して引っ掛けて装着される。また、被装着部材6の外フランジ部52と接する部位に図示しない孔を設けておき、外フランジ部52の被装着部材6と接する部位に図示しないピンを設けておいても良い。当該孔に対して当該ピンを挿入すれば、成膜治具5が窓部61に対してより安定して装着される。
内フランジ部53は、保持部材2を保持可能に形成されている。本体部51と内フランジ部53は、断面L字状になっているので、保持部材2が内フランジ部53に対して引っ掛けて保持される。また、内フランジ部53の保持部材2と接する部位に図示しないピンを設けておき、保持部材2の内フランジ部53と接する部位に図示しない孔を設けておいても良い。当該孔に対して当該ピンを挿入すれば、保持部材2が内フランジ部53に対してより安定して保持される。
開口部54は、保持部材2が保持された際に、大板1の成膜面が露出されるように形成されている。
本実施形態では、保持部材2が大板1よりも大きいため、保持部材2の側端の方が、大板1の側端よりも外側へ突き出ており、段差状になっている(図2参照)。
そのため、この段差を利用して保持部材2が成膜治具5の内フランジ部53に対して保持される。その際、開口部54に大板1が配置されることになり、大板1の成膜面が露出される。
【0022】
次に、成膜方法について説明する。
本実施形態の成膜方法は、大板1と保持部材2とを接合する接合工程と、この接合した大板1と保持部材2を被装着部材6の窓部61に取り付ける取付工程と、窓部61に取り付けた大板1に成膜する成膜工程と、この成膜した大板1を切断して複数の短冊の基板4に分割する切断分割工程とを備えて構成される。
【0023】
〔接合工程〕
本実施形態では、大板1と保持部材2とを接合層31を介して分子接合によって接合させる。その工程を図5から図7に基づいて説明する。
図5は、本実施形態で使用するプラズマ重合装置の概略図である。
図5において、プラズマ重合装置100は、チャンバー101と、このチャンバー101の内部にそれぞれ設けられる第1電極111及び第2電極112と、これらの第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加する電源回路120と、チャンバー101の内部にガスを供給するガス供給部140と、チャンバー101の内部のガスを排出する排気ポンプ150を備えた構造である。
第1電極111は、プラズマ重合膜131を形成させる対象となる基材を支持するものである。本実施形態では、基材として保持部材2が用いられるので、保持部材2の凸部22が形成されていない面が第1電極111によって支持されることになる。
そして、保持部材2を挟んで第1電極111と第2電極112とが対向配置されている。すなわち、凸部22が形成されている接合面が第1電極111に対向配置されている。
【0024】
電源回路120は、マッチングボックス121と高周波電源122とを備える。
ガス供給部140は、液状の膜材料(原料液)を貯蔵する貯液部141と、液状の膜材料を気化して原料ガスに変化させる気化装置142と、キャリアガスを貯留するガスボンベ143とを備えている。このガスボンベ143に貯留されるキャリアガスは、電界の作用によって放電し、この放電を維持するためにチャンバー101に導入するガスであって、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスが該当する。
これらの貯液部141、気化装置142及びガスボンベ143とチャンバー101とが配管102で接続されており、ガス状の膜材料とキャリアガスとの混合ガスをチャンバー101の内部に供給するように構成されている。
貯液部141に貯留される膜材料は、プラズマ重合装置100によって保持部材2にプラズマ重合膜131を形成するための原材料であり、気化装置142で気化されて原料ガスとなる。
【0025】
この原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のオルガノシロキサン、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛のような有機金属系化合物、各種炭化水素系化合物、各種フッ素系化合物等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜131は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、つまり、ポリオルガノシロキサン、有機金属ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系ポリマー等で構成されることになる。
【0026】
ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性を示すが、各種の活性化処理を施すことによって容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化することができる。つまり、ポリオルガノシロキサンは撥水性と親水性との制御を容易に行える材料である。
撥水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜131は、それ同士を接触させても、有機基によって接着が阻害されることになり、極めて接着し難い。一方、親水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜131は、それ同士を接触させると、特に容易に接着することができる。つまり、撥水性と親水性の制御を容易に行えるという利点は、接着性の制御を容易に行えるという利点につながるため、ポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜131は、本実施形態では好適に用いられることになる。そして、ポリオルガノシロキサンは比較的柔軟性に富んでいるので、大板1と保持部材2との構成材質が相違して線膨張係数が異なっても、大板1と保持部材2との間に生じる熱膨張に伴う応力を緩和することができる。さらに、ポリオルガノシロキサンは耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に効果的に用いることができる
【0027】
ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするプラズマ重合膜131は、接着性に優れていることから、本実施形態の接合方法で好適に用いられる。オクタメチルトリシロキサンの重合物は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取扱が容易である。
【0028】
次に、プラズマ重合膜131を形成させる工程を図6及び図7に基づいて説明する。
まず、図6(A)〜(C)に示される通り、保持部材2の接合面にプラズマ重合膜131を形成する(重合膜形成工程)。
この重合膜形成工程では、プラズマ重合装置100のチャンバー101の第1電極111に、基材として保持部材2を保持する。そして、チャンバー101の内部に酸素を所定量導入するとともに第1電極111と第2電極112との間に電源回路120から高周波電圧を印加して保持部材2自体の活性化(基材活性化)を実施する。
その後、ガス供給部140を作動させると、チャンバー101の内部に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが供給される。供給された混合ガスはチャンバー101の内部に充填され、図6(A)に示される通り、基材としての保持部材2に混合ガスが露出される。
【0029】
混合ガスにおける原料ガスの割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合は20〜70%程度に設定することが好ましく、30〜60%程度に設定することがより好ましい。
第1電極111と第2電極112との間に印加する周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度がより好ましい。高周波の出力密度は特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であることが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
【0030】
成膜時のチャンバー101の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度が好ましく、1〜100sccm程度がより好ましい。
キャリアガス流量は、5〜750sccm程度が好ましく、10〜500sccm程度がより好ましい。
処理時間は1〜10分程度であることが好ましく、4〜7分程度がより好ましい。
基材としての保持部材2の温度は、25℃以上が好ましく、25〜100℃がより好ましい。
【0031】
第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加することにより、これらの電極111,112の間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図6(B)に示される通り、重合物が保持部材2の表面(平板部21および凸部22)に付着、堆積する。これにより、図6(C)に示される通り、保持部材2の接合面にプラズマ重合膜131が形成される。
プラズマ重合膜131は、その平均厚さが10〜1000nmであり、50〜500nmが好ましい。プラズマ重合膜131の平均厚さが10nmを下回ると、十分な接合強度を得ることができず、1000nmを超えると、接合体の寸法精度が著しく低下する。
【0032】
その後、図6(D)に示される通り、プラズマ重合膜131を活性化して表面を活性化させる(表面活性化工程)。
表面活性化工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。
ここで、活性化させる、とは、プラズマ重合膜131の表面及び内部の分子結合が切断されて終端化されていない結合手が生じた状態や、その切断された結合手にOH基が結合した状態、又は、これらの状態が混在した状態をいう。
この表面活性化工程では、プラズマ重合膜131の表面を効率よく活性化させるためにプラズマを照射する方法が好ましい。プラズマ重合膜131の表面に照射するとしたのは、プラズマ重合膜131の分子構造を必要以上に、例えば、プラズマ重合膜131と保持部材2との境界に至るまで切断しないので、プラズマ重合膜131の特性の低下を避けるためである。
【0033】
本実施形態で使用されるプラズマとしては、例えば、酸素、アルゴン、チッソ、空気、水等を1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの中で、酸素を使用するこ
とが好ましい。
このようなプラズマを使用することで、プラズマ重合膜131の特性の著しい低下を防止するとともに、広範囲のムラをなくし、より短時間で処理することができる。そして、プラズマはプラズマ重合膜を形成する装置と同設備で発生させることができるから、製造コストが低減できるという利点もある。
プラズマを照射する時間は、プラズマ重合膜131の表面付近の分子結合を切断し得る程度の時間であれば特に限定されるものではないが、5sec〜30min程度であるのが好ましく、10〜60secがより好ましい。
このようにして活性化されたプラズマ重合膜131の表面には、OH基が導入される。
なお、本実施形態では、プラズマ重合膜形成工程と表面活性化工程との間に保持部材2を洗浄する工程を設けても良い。この洗浄工程は、薬品、水、その他の適宜な手段を用いて行われる。
【0034】
次に、プラズマ重合膜131の表面が活性化された保持部材2と、ケイ素含有基板からなる大板1とを貼り合わせて一体化する(貼合工程)。
つまり、図7(A)(B)に示される通り、プラズマ重合膜131が形成された保持部材2の接合面に対して大板1を押し付ける。この際、保持部材2の凸部22を、大板1の外周縁よりも内側の接合部3となる位置に当接させて押し付ける。なお、接合部3の位置がずれないように、貼り合せ用の治具を用いても良い。
押し付けることによって、凸部22に形成されたプラズマ重合膜131の表面とケイ素含有基板である大板1の表面との間で結合が形成され、大板1と保持部材2とが接合される(分子接合)。
表面が活性化されたプラズマ重合膜131は、その活性状態が経時的に緩和するので、表面活性化工程の後速やかに貼合工程に移行する。具体的には、表面活性化工程の後、60分以内に貼合工程に移行するのが好ましく、5分以内に移行するのがより好ましい。この時間内であれば、プラズマ重合膜131の表面が十分な活性状態を維持しているので、貼り合わせに際して十分な結合強度を得ることができる。なお、本実施例では保持部材2の接合面のみにプラズマ重合膜131を形成した後に、これを活性化して接合することを例示したが、大板1の接合面にも同様にプラズマ重合膜131を形成後これを活性化して接合してもよい。
【0035】
なお、大板1と保持部材2が、どちらも水晶からなるものである場合には、互いの結晶光学軸の向きを合わせて貼り合わせて一体化することが好ましい。このように一体化することで、水晶の線膨張係数の異方性に起因して生ずる残留応力を低減することができるからである。よって、大板1の反りの発生を防止する効果を大きくすることができる。
【0036】
本実施形態では、図7(C)に示される通り、貼合工程の後に、必要に応じて、大板1と保持部材2とを加圧する(加圧工程)。
この加圧工程では、接合強度を大きくするために、大板1と保持部材2とを大きな力で加圧することが好ましい。具体的には、加圧するための圧力は、大板1や保持部材2の厚さ寸法や装置等の条件によって異なるものの、1〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPaがより好ましい。加圧時間は特に限定されないが、10sec〜30min程度であるのが好ましい。
【0037】
大板1と保持部材2とを加圧した後に、これらを加熱する(加熱工程)。加熱することで、接合強度を高めることができる。
この加熱工程は必要に応じて設けられるものであり、その加熱温度は、25〜100℃であり、好ましくは、50〜100℃である。100℃を超えると、大板1や保持部材2が変質・劣化するおそれがある。加熱時間は1〜30min程度であることが好ましい。
なお、この加熱工程は加圧工程の後で単独に行っても良いが、加圧工程と同時に行うことが接合強度を強める上で好ましい。
【0038】
〔取付工程〕
次に、接合工程にて互いに接合された大板1と保持部材2とを、成膜治具5を介して被装着部材6の窓部61に取り付ける。
成膜治具5の外フランジ部52を被装着部材6の窓部61に対して予め装着しておく。そして、図3に示される通り、保持部材2の側端と大板1の側端とが段差状になっている形状を利用して、保持部材2を成膜治具5の内フランジ部53で保持する。このとき、開口部54に大板1が配置され、大板1の成膜面が被装着部材6の内表面側に露出される。
【0039】
〔成膜工程〕
次の成膜工程にて、大板1の成膜面に光学薄膜を形成する。
光学薄膜の形成は、成膜治具5を介して大板1と保持部材2とが取り付けられた被装着部材6を成膜装置内へ搬入し、所定の成膜方法を用いて行われる。
本実施家形態では、屈折率が異なる高屈折率材料と低屈折率材料の二種類の膜が交互に積層された誘電体多層膜を光学薄膜の例に挙げて説明する。
誘電体多層膜は、真空蒸着法を用いてTiO2の高屈折率材料層とSiO2の低屈折率材料層とを交互に多層で成膜することによって形成される。大板1の成膜面上に形成された誘電体多層膜は、低屈折率材料のSiO2膜の強い圧縮応力と、高屈折率材料のTiO2膜の弱い引張応力により、大板1の成膜面が凸に反る内部応力が発生する。
誘電体多層膜が形成された後、被装着部材6を成膜装置から搬出する。
【0040】
〔切断分割工程〕
次に、切断分割工程にて、光学薄膜が形成された大板1から短冊の基板4を取出す。
格子状に形成されたダイシングラインに沿って、ダイシングマシンで接合部を避けて切断分割することで、短冊の基板4を得ることができる。この短冊の基板4に対して、目視等による反りの有無の検査を行い、良否判定を行う。
ダイシングラインが交差して形成されるそれぞれの格子は、保持部材2の凸部22の上面よりも大きく形成されている。そのため、ダイシングマシンの刃先と凸部22との接触を防ぐことができる。
また、大板1を切断分割する際は、保持部材2を切断しないようにする。そのため、短冊の基板4を取り出した後は、保持部材2の凸部22上に大板1の小片が残留した状態になっている。この大板1の小片は短冊の基板4の対象としない。
【0041】
この切断分割工程の後に、保持部材再生工程を行っても良い。
前述した通り、切断分割工程では保持部材2はダイシングマシンによって切断されていないため、平板部21と凸部22とが切断分割されていない。
そのため、凸部22の上に残留している大板1の小片を取り除けば、再び保持部材2として再生利用することができる。例えば大板1が酸化ケイ素含有基板であれば、濃度が数vol%のフッ酸水溶液に、保持部材2とともに数時間浸漬させることで、大板1の小片を凸部22から剥離させることができる。
剥離後は、保持部材2を洗浄・乾燥することで、保持部材2として再利用することができる。
【0042】
〔第1実施形態の作用効果〕
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る成膜方法では、接合層31を介して保持部材2の凸部22によって大板1を接合保持し、接合部3を大板1の少なくとも外周縁より内側に形成することができる。そのため、大板1を保持する部位を効果的に配置できる。従って、大板1の反りの発生を一層低減し、切断分割後の短冊の基板の反りのレベルを向上することができる。
【0043】
(2)特に、大板1の中央近傍にも接合部3を形成したので、大板1を保持する部位を効果的に配置できる。したがって、大板1の反りの発生を一層低減し、切断分割後の短冊の基板の反りを防止する効果を大きくすることができる。
【0044】
(3)接合工程では、保持部材2が凸部22を有しているので、保持部材2の接合面側全体に接合層31を形成した場合でも、大板1と接するのは凸部22の上面に形成された接合層31になる。そのため、接合部3の位置や大きさを凸部22の位置や大きさによって簡便に調節することができる。
さらに、保持部材2の接合面側に接合層31を選択的に形成する必要がなく、保持部材2にマスキングを施す工程を省くこともできる。
【0045】
(4)接合工程では、大板1と保持部材2との接合が分子接合によって行われるので、強固に接合することができる。さらに、大板1と保持部材2とが線膨張係数の異なるもの同士であっても、熱膨張による応力が緩和され、成膜中の大板1と保持部材2との位置ずれ等を防止することができる。したがって、大板1の反りの発生を防止する効果を高めることができる。
また、高温の雰囲気に晒される成膜工程においても、接着剤のような脱ガスが皆無であるので、これらの脱ガスによる成膜製品への汚染の心配が無い。
【0046】
(5)本実施形態に係る成膜治具5は、大板1に接合された保持部材2を本体部51に収容するとともに、保持部材2の側端と大板1の側端とが段差状になっている形状を利用して、保持部材2を成膜治具5の内フランジ部53で保持することができる。そのため、大板1および保持部材2を安定させて保持することが可能になる。また、大板1の成膜面は開口部54から露出されるので、大板1が保持部材2と接合されていても、成膜面に対して確実に成膜することができる。
【0047】
(6)取付工程では、互いに接合された大板1と保持部材2とを成膜治具5を介して被装着部材6に取り付けることができるので、大板1を窓部61に取り付ける作業効率を向上させることができる。
【0048】
(7)切断分割工程では、保持部材2を切断しないので、凸部22の上に残留している大板1の小片を剥離すれば、保持部材2を再生利用することができる。
【0049】
[第2実施形態]
本実施形態は、保持部材に凸部が形成されていない点で、上述の第1実施形態と異なる。第1実施形態と共通の構成については同一の符号を用い、説明を省略する。
【0050】
図8は、プラズマ重合装置100の第1電極111上に、マスキング7とともに支持された保持部材2’の平面図および断面図である。本実施形態では、保持部材2’に凸部が形成されていないため、保持部材2’にマスキング7を装着し、接合層31を選択的に形成する。
保持部材2’は、ガラス、シリコン、水晶、セラミック、金属等から形成される。
また、保持部材2’は、本実施形態においては、平面視略正方形の板状に形成されている。接合面は、第1実施形態の場合と同様に、平滑であることが好ましく、鏡面加工が施されていることがより好ましい。
【0051】
マスキング7には、保持部材2’の接合面に接合層31として形成させるプラズマ重合膜131の位置・大きさに対応させた開口部71が設けられている。なお、ここでは、開口部71は、第1実施形態の保持部材2の凸部22によって形成される接合層31と同様の位置・大きさとなるように設けられている。
マスキング7を保持部材2’に装着すると、開口部71から保持部材2’の接合面が露出する。このとき、マスキング7と保持部材2’との間に隙間が生じていると、開口部71からその隙間に重合物が侵入、付着、堆積し、接合部3以外の部位にもプラズマ重合膜が形成されてしまうおそれがあるので、マスキング7と保持部材2’との間に隙間が生じないように密着させておくのが好ましい。例えば、マスキング7の内表面と保持部材2’の接合面を平滑に形成させておいて隙間が生じないように密着させたり、隙間を封止部材等で封止したりするとよい。
【0052】
図9は、マスキング7が装着された保持部材2’がプラズマ重合装置100内に配置された状態の概略図である。
図10は、プラズマ重合膜131を形成する工程を示す概略図である。
プラズマ重合装置100内では、保持部材2’およびマスキング7を挟んで第1電極111と第2電極112とが対向配置されている。すなわち、開口部71から露出している保持部材2’の接合面が第2電極112に対向配置されている。
マスキング7を装着した状態で、第1実施形態と同様にしてプラズマ重合膜131の形成工程を実施すると、まず、図10(A)に示される通り、基材としての保持部材2’及びマスキング7に混合ガスが露出される。
その後、発生したプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図10(B)に示される通り、重合物が開口部71から露出している保持部材2’の接合面およびマスキング7に付着、堆積する。これにより、図10(C)に示される通り、保持部材2’の接合面にプラズマ重合膜131が形成される。この後、マスキング7を取り外せば、開口部71から露出していた保持部材2’の接合面に選択的に重合物が付着、堆積した状態となる。
その後、図10(D)に示される通り、プラズマ重合膜131を活性化して表面を活性化させる(表面活性化工程)。
そして、第1実施形態と同様にして大板1と保持部材2’とを接合させると、接合部3が形成される。
【0053】
図11は、本実施形態において、保持部材2’と接合された大板1を被装着部材6に取り付けた状態の断面図である。第1実施形態と同様に、成膜治具5を介して被装着部材6の窓部61に取り付けられている。
その後、第1実施形態と同様にして、成膜工程、切断分割工程を経て、短冊の基板4を得ることができる。
【0054】
〔第2実施形態の作用効果〕
従って、本実施形態では、上述の第1実施形態の作用効果(2)、(4)、(5)、(6)、(7)に加え、次の作用効果を奏することができる。
(8)本実施形態に係る成膜方法では、保持部材2’に凸部を設けることなく、大板1を接合層31を介して接合保持し、接合部3を大板1の少なくとも外周縁より内側に形成することができる。そのため、大板1を保持する部位を効果的に配置できる。したがって、大板1の反りの発生を一層低減し、切断分割後の短冊の基板の反りを防止する効果を大きくすることができる。
(9)保持部材2’にマスキング7を装着させて、プラズマ重合膜131を形成させるので、保持部材2’の成膜面上に、正確な位置・大きさで接合層31を形成することが出来る。
【0055】
[第3実施形態]
本実施形態は、接合層31として接着剤層を形成させる点で、上述の第1実施形態と異なる。第1実施形態と共通の構成については同一の符号を用い、説明を省略する。
【0056】
本実施形態に用いる接着剤としては、耐熱性接着剤が用いられる。
接合工程において、接着剤を保持部材2の凸部22に塗布する。この際、凸部22上から流れ出した接着剤は、凸部22の側面を伝わって、平板部21へと広がる。
大板1と保持部材2とを接合する際に、平板部21へと広がった接着剤が大板1に接触しないように、凸部22高さを高く形成しておくか、凸部22の根元周辺に窪みを設けておいて、窪みに接着剤が流れ込むようにしておくことが好ましい。また、耐熱性接着剤の接着力を発現させるためには、接着剤層厚みは数十μmに設定されるので、大板1への接着剤の接触をより効果的に防止するために、平板部21の表面から凸部22の上面までの高さを100μm以上に設定しておくことも好ましい。
その他は、第1実施形態と同様にして、成膜方法が実施される。
【0057】
〔第3実施形態の作用効果〕
従って、本実施形態では、上述の第1実施形態の作用効果(1)、(2)、(5)、(6)に加え、次の作用効果を奏することができる。
(10)保持部材2に形成された凸部22に接着剤を塗布するので、凸部22上から流れ出した接着剤は、凸部22の側面を伝わって、平板部21へと広げることができる。そのため、不要な接合部3の形成を防ぐとともに、接合部3の位置や大きさのばらつきを低減することができる。また、大板1から取り出される短冊の基板4に接着剤が付着するのを防ぐことができる。
【0058】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、大板1と保持部材2の形状を平面視略正方形状としたが、その他、矩形、多角形、円形等の他の形状であっても良い。すなわち、短冊の基板4の形状、寸法、取出し個数等に応じて、形状や寸法を適宜変更した大板1を用いることができるし、大板1を保持可能な形状や寸法に適宜変更した保持部材2を用いることができる。
【0059】
また、前記実施形態では、保持部材2を成膜治具5の内フランジ部53で保持する形態について説明したが、大板1を内フランジ部53で保持しても良い。
【0060】
また、接合部3の位置や大きさは、前記実施形態で示した形態に限られない。例えば、大板1の少なくとも外周縁よりも内側に、外周縁に沿った枠状の接合部3を形成しても良いし、さらにその枠に橋架け状の接合部3を形成しても良い。
【0061】
また、前記実施形態では、接合層31を保持部材2の接合面に形成させたが、大板1の接合面に形成させても良いし、両者の接合面に形成させても良い。
なお、大板と記述しているものは基板の大小を意味していない。成膜後に切断分割して短冊の基板(成膜製品)を得る成膜方法において、成膜前に準備される基板を大板として記述している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、光学薄膜等の成膜方法および成膜に用いる成膜治具として利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1…大板、2,2’…保持部材、3…接合部、4…短冊の基板、5…成膜治具、6…被装着部材、22…凸部、51…本体部、52…外フランジ部、53…内フランジ部、54…開口部、61…窓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大板に成膜し、この成膜後の大板を切断分割して複数の短冊の基板とする成膜方法であって、
前記大板とこの大板を保持するための保持部材とを前記大板の少なくとも外周縁より内側に配置した接合部で接合する接合工程と、
この接合した前記大板を前記保持部材とともに成膜装置内に配置される被装着部材の窓部に取り付ける取付工程と、
前記窓部に取り付けた前記大板に成膜する成膜工程と、
この成膜した前記大板を切断して前記短冊の基板に分割するとともに、前記短冊の基板と前記保持部材とを分離する切断分割工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法において、
前記接合工程では、前記大板の少なくとも中央に配置した接合部で前記保持部材と接合することを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の成膜方法において、
前記切断分割工程では、前記保持部材を切断しないことを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の成膜方法において、
前記切断分割工程では、前記接合部を避けて切断されて前記大板が前記短冊の基板に分割され、
この分割された複数の前記短冊の基板について良否判定を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載された成膜方法において、
前記保持部材は凸部を有し、
前記接合工程では、前記凸部と前記大板とを接合することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載された成膜方法において、
前記接合工程では、前記大板と前記保持部材とを分子接合することを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載された成膜方法において、
前記大板および前記保持部材は水晶であって、結晶光学軸を合わせて前記大板と前記保持部材とを接合することを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載された成膜方法において、
前記取付工程では、前記大板を成膜治具を介して取り付けることを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
被成膜対象の大板と、この大板の少なくとも外周縁より内側で前記大板に配置した接合部で接合された保持部材とを収容可能な本体部と、
この本体部から側方へ突き出して形成されるとともに成膜装置内に配置される被装着部材に取り付ける外フランジ部と、
前記本体部の内方へ突き出して形成されるとともに前記保持部材を保持する内フランジ部と、
前記本体部の底部に形成されるとともに、前記大板の成膜面を露出させる開口部と、を有することを特徴とする成膜治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−215931(P2010−215931A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60712(P2009−60712)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】