説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】低コストでかつ安定に成膜をすることができる成膜方法および成膜装置を提供すること。
【解決手段】薄膜の原料の固体を溶融して融液51aとし、融液51aを凝固させて棒状体を形成し、棒状体51bを引き出す。棒状体51bを溶融させずに保温又は加温しつつ搬送する。棒状体51bの一部を溶融させて、蒸発源51dに供給する。蒸発源51dを加熱して蒸発させた蒸発粒子を基板に堆積させることで基板上に薄膜を形成する。以上の工程を、真空槽内で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜技術は、デバイスの高性能化および小型化に広く利用されている。薄膜技術を用いてデバイスを薄膜化することによって、ユーザーの利便性が向上するとともに、地球資源の保護や消費電力の低減といった環境面でのメリットが得られる。薄膜技術の中でも、薄膜製造の高効率化や低コスト化は重要である。そのため、現在、これらの実現に向けた様々な努力が続けられている。
【0003】
薄膜製造の効率を上げるには、長時間連続して成膜することが有効である。たとえば、真空蒸着法による薄膜製造においては、蒸発源へ連続的に原料を供給することが有効である。
【0004】
蒸発源への原料の供給方法は、原料の種類や成膜条件を考慮して選択される。蒸発源に原料を連続的に供給する方法としては、たとえば、粒状の原料を蒸発源に投入する方法、棒状の原料を蒸発源に差し向ける方法、棒状の原料を蒸発源の下方から注入する方法、液状の原料を蒸発源に流し込む方法が挙げられる。
【0005】
蒸発源に原料を連続的に供給する場合、低温の原料が供給されることによって蒸発源の温度が変動しやすい。そして、蒸発源の温度の変動は、原料の蒸発速度の変動をもたらし、均一な成膜を阻害する場合がある。この課題に対して、溶融した原料を蒸発源に供給する方法が提案されている(たとえば特許文献1および2)。
【0006】
特許文献1の方法では、蒸着用のるつぼ内の原料の消費に応じて、溶融した原料がるつぼに供給される。また、特許文献2の方法では、棒状の蒸発原料の先端を加熱によって溶融し、蒸発源に供給している。特許文献2には、蒸発原料の先端の位置を光センサによって連続的に検出し、その検出信号に基づいて蒸発原料の送り速度を調整する方法が開示されている。
【0007】
一方、蒸発原料となる棒状の原料の製造方法についても、様々な方法が提案されている。たとえば、融液状の原料を原料溜めから結晶化室へ連続的又は非連続的に移し、上にある融液相を維持しながら材料を凝固させ、かつ凝固した材料を下方へ取り出す方法が開示されている(特許文献3)。
【0008】
また、無底るつぼ内でシリコンをるつぼ内壁に対して非接触の状態で電磁誘導により溶融し、下方へ下降する融液を凝固させて棒状の鋳塊とする鋳造部を備える装置が開示されている(特許文献4)。この装置は、該鋳造部の下方にセットされ、鋳造部から下方へ降下する鋳塊が導入されてこれを保温する筒状の保温容器を備える。
【0009】
さらに、ハロゲンと水素との反応火炎中にシランガス等からなるケイ素原料を供給し、出発材にケイ素微粒子を付着させた後にガスで冷却しながら回転引き上げを行う棒状高純度ケイ素の製造方法が開示されている(特許文献5)。
【特許文献1】特開昭62−177174号公報
【特許文献2】特開平2−47259号公報
【特許文献3】特開昭62−56395号公報
【特許文献4】特開平7−138012号公報
【特許文献5】特開昭62−41710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
棒状の原料を、その先端から順次溶融して蒸発源に供給する方法は、蒸発源に与える変動が小さい点で優れた方法である。しかし、従来の方法は、コストが高いという問題があった。
【0011】
コスト高の1つの要因は、棒状原料を製造する際に多くのエネルギーが必要とされることにある。棒状原料の製造には、原料を溶融させるためのエネルギーと、棒状に成形した原料を冷却するためのエネルギーが必要である。低コスト化には、これらのエネルギーを削減する必要がある。特に、融点が1500℃以上である原料を用いる場合や、冷却時に体積が膨張する原料を用いる場合には、溶融および冷却に必要なエネルギーが大きくなるため、これらのエネルギーを無視することはできない。
【0012】
コスト高の他の要因として、棒状の原料を切断するコストおよび切断面を清浄化するコストが挙げられる。硬度が高くかつ割れやすい原料(たとえばシリコンやゲルマニウム)の場合、切断速度を高めることが難しいため、切断に要するコストが特に高くなる。
【0013】
コスト高の他の要因として、原料の使用効率が低いことが挙げられる。棒状原料を、その先端から順次溶融して蒸発源に供給する場合、棒状原料の終端部を保持して棒状原料を移動させる。この場合、保持部付近の原料は溶融させることができないため、原料の利用効率が低くなるという問題がある。特に、棒状原料の長さが短い場合(たとえば1000mm以下)、原料のロスの割合が高くなる。また、残った原料を再び溶融して棒状原料に成形するとしても、再溶融および成形に要するコストが生じてしまう。
【0014】
さらに、棒状原料に水分が付着していると、その先端を溶融して蒸発源に供給する際に、様々な課題が発生する。第一の課題は真空度の変動である。棒状体溶融のための加熱により、棒状体に付着した水分が再蒸発することで棒状体の溶融時にスプラッシュが発生しやすくなる。また真空度が変動するために、蒸発用坩堝からの蒸発速度を一定に保持する事が困難になる。
【0015】
第二の課題は成膜品質の低下である。再蒸発した水分の一部は基板上の成膜面に到達し、それによって蒸着原料と水との反応物が膜中に含まれてしまうことになるため、得られる薄膜の品質が低下する。
【0016】
このような状況において、本発明の目的は、低コストでかつ安定に成膜をすることができる成膜方法及び成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を解決するために、本発明の成膜方法は、薄膜を形成する方法であって、(i)前記薄膜の原料の固体を溶融して融液とし、前記融液を凝固させて棒状体を形成し、前記棒状体を引き出す工程と、(ii)前記棒状体を溶融させずに保温又は加温しつつ搬送する工程と、(iii)前記棒状体の一部を溶融させて、蒸発源に供給する工程と、(iv)前記蒸発源を加熱して蒸発粒子を蒸発させ、前記蒸発粒子を基板に堆積させることで前記基板上に前記薄膜を形成する工程とを含み、前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)の工程が、真空槽内で行われる。
【0018】
また、本発明の成膜装置は、真空中で、一次原料から二次原料を生成し、前記二次原料を蒸発させて、基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、真空槽と、前記真空槽を排気する排気機構と、前記真空槽内に配置され、前記二次原料を蒸発させる蒸発源と、前記一次原料の固体を加熱して融液とする第1の加熱機構と、前記融液を棒状体に成形する容器と、前記棒状体を引き出す引き出し機構と、引き出した前記棒状体を溶融させずに保温又は加温する温度低下抑制機構と、前記棒状体の一部を溶融させて、溶融物を前記二次原料として前記蒸発源に供給する第2の加熱機構とを含む二次原料供給機構と、前記蒸発源から蒸発した蒸発粒子が堆積する位置に前記基材を搬送する基材搬送機構と、前記二次原料供給機構に前記一次原料の固体を補給する一次原料補給機構とを備える。
【0019】
なお、この明細書において、真空槽内に配置されている部材・装置には、真空槽の壁面の内側に配置されている部材・装置に加え、真空槽の壁面に固定されて機能部が減圧下におかれている部材・装置も含まれる。
【0020】
本発明の「膜」とは、巨視的に見て膜を構成しているものも含まれる。たとえば、複数の微小な柱状体が基材上に密に形成されており全体として見れば膜状である構造も膜に含まれる。
【0021】
なお、本発明の成膜方法及び成膜装置は、1つの観点では、蒸着方法及び成膜装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の成膜方法及び成膜装置によれば、棒状体を形成後十分に冷却しなくとも再度溶融して薄膜を形成できるので、棒状原料を製造する際の冷却コストを削減でき、また、棒状体を切断せずに連続的に薄膜原料として供給できるので、棒状原料を切断するコスト、棒状原料の切断面を清浄化するコスト、および棒状原料のロスを削減することができる。そのため、本発明によれば、低コストで成膜をすることができる。また、本発明によれば、溶融した薄膜原料の連続的補充が可能であるため、連続的に安定した成膜が可能である。さらに、本発明では棒状原料の製造時に低沸点不純物や空孔を除去できるので、成膜時のスプラッシュを抑制でき、また、低純度の原料から高純度の薄膜を形成できる。また本発明では棒状原料の製造から成膜までを一貫して真空下で行い、しかも棒状原料の温度低下を抑制することで棒状原料に水等が付着するのを防止するので、真空度が変動したり、水との反応物が膜中に取り込まれることを防止できるので、高品質な成膜を長時間にわたり実施することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0024】
[成膜方法]
本発明の成膜方法は、薄膜を形成する方法であり、以下の工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)を含む。
【0025】
工程(i)では、薄膜の原料の固体(一次原料)を溶融して融液とし、その融液を凝固させて棒状体を形成し、その棒状体を引き出す。原料は、形成する薄膜に応じて選択される。なお、後述する工程(iv)において蒸発した物質とガスとを反応させて薄膜を形成する場合、溶融している原料は、薄膜を構成する物質の一部であってもよい。
【0026】
形成される薄膜およびその原料は、本発明の方法が適用できる限り限定はない。原料の例としては、たとえば、シリコン、ゲルマニウムおよび錫といった14族元素や、それらを含む合金(たとえばシリコンを含む合金)、コバルトなどの元素を含む磁性材料が挙げられる。
【0027】
原料の固体の溶融方法としては、たとえば、原料の固体に電子銃から電子ビームを照射する方法が挙げられる。電子ビームの照射による加熱は、短時間で原料の固体を溶融でき、且つ不純物が少ない膜を形成できるという点で好ましい。なお、本発明の効果が得られる限り他の加熱方法を用いてもよく、たとえば、抵抗加熱や誘導加熱を用いてもよい。
【0028】
融液からの棒状体の引き出しは、通常、連続的に行われる。連続的に棒状体を引き出すことによって、均質な棒状体を形成できる。ただし、本発明の効果が得られる限り、棒状体の引き出しは、断続的に行ってもよい。原料の融液から棒状体を引き出す方法の例については、後述する。
【0029】
棒状体の大きさに限定はない。一例の棒状体は、長さが400mm〜2000mmの範囲にあり、長手方向に垂直な断面積が3cm〜100cmの範囲にある。
【0030】
通常、棒状体に含まれる不純物の濃度は、溶融前の固体原料に含まれる不純物の濃度よりも低い。これは、工程(i)で固体原料を加熱して溶融する際に、沸点が低い不純物が除去されるためである。また、通常、棒状体中の空孔の割合は、溶融前の固体原料中の空孔の割合よりも小さい。
【0031】
工程(ii)では、工程(i)で引き出した棒状体を溶融させずに保温又は加温しつつ搬送する。ここでは、工程(i)で形成した棒状体を、工程(iii)で溶融する位置まで搬送する際に、棒状体の温度が低下しないように棒状体の保温又は加温を行う。棒状体の温度は、搬送系との接触や、棒状体自身の輻射によって低下するが、搬送中の棒状体を保温又は加温することによって棒状体の温度低下を軽減することが出来る。棒状体の温度が低下すると、真空槽中の水分が棒状体の表面に付着し、結果として水分が棒状体とともに工程(iii)での溶融地点に向かって運ばれ、真空度が変動したり、成膜品質が低下する原因になる。搬送中の棒状体を保温又は加熱することによって、棒状体への水分吸着を防止し、工程(iv)での蒸発速度の一定化や高品質な成膜につなげることができる。
【0032】
この工程で、搬送中の棒状体の温度を100℃以上、望ましくは200℃以上、更に望ましくは400℃以上に保温又は加熱することによって、棒状体への水分付着を軽減して安定な成膜をすることが出来る。搬送中の棒状体の温度は融点未満にすることが必要であるが、1100℃未満にすることが好ましい。棒状体の温度を1100℃以上にすると、搬送系の構成材との反応や、棒状体の表面で、真空中の残存ガスとの反応が起きやすい。そのため、1100℃以上の領域は工程(i)での棒状体の固化及び工程(iii)での棒状体の溶融を行う領域に留めておくことが好ましい。設備構成の容易性や、搬送系及び棒状体の熱歪みによる棒状体の折損防止の観点から、棒状体の温度は800℃以下がより好ましい。
【0033】
また、棒状体への水分付着を効率よく軽減するために、棒状体の温度を、真空槽の内壁の温度よりも高く維持することが好ましい。さらには、棒状体を、棒状体への物理吸着水の蒸気圧が真空槽内圧力よりも高くなる温度で、保温又は加温することが好ましい。
【0034】
工程(ii)では、搬送中の棒状体を、断熱囲いや低輻射率囲いで包囲することによって棒状体を保温してもよい。また、電子銃から電子ビームを照射することで棒状体を加温してもよい。また、ヒーター加熱や誘導加熱により加温してもよい。
【0035】
工程(ii)における棒状体の加温は、工程(i)における原料固体の溶融に用いた電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。すなわち、工程(i)における前記原料固体の溶融と、工程(ii)における前記棒状体の加温とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。
【0036】
工程(iii)では、工程(ii)で搬送した棒状体の一部(たとえば先端)を溶融させて、蒸発源に供給する。ここでは、工程(i)で融液から引き出した棒状体を切り出さずに、棒状体を引き出して搬送しつつ、前記融液とは反対側に位置している前記先端を溶融させ、生じた融液を蒸発源に供給する。
【0037】
工程(iii)では、電子銃から電子ビームを照射することで棒状体の一部を溶融させてもよい。なお、本発明の効果が得られる限り、他の加熱方法によって棒状体を溶融させてもよく、たとえば、抵抗加熱や誘導加熱を用いてもよい。
【0038】
工程(iii)における棒状体の溶融は、工程(ii)における棒状体の加温に用いた電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。すなわち、工程(ii)における棒状体の加温と、工程(iii)における棒状体の溶融とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。
【0039】
工程(iii)では、棒状体の融液を蒸発源に滴下することで蒸発源に供給されてもよい。このとき、融液が滴下する位置は、蒸発源から原料が蒸発する位置から離れていてもよい。両者の位置を離すことによって、融液の滴下が蒸発源に与える影響を低減できる。
【0040】
工程(iv)では、前記蒸発源を加熱して蒸発粒子を蒸発させ、蒸発した原料が基材上に堆積することによって、その原料からなる薄膜、またはその原料を含む薄膜が当該基材上に形成される。蒸発源の加熱は、たとえば電子ビームの照射によって行うことができる。なお、本発明の効果が得られる限り、他の加熱方法によって蒸発源を加熱してもよく、たとえば、抵抗加熱や誘導加熱を用いてもよい。
【0041】
工程(iv)における蒸発源の加熱は、工程(ii)における棒状体の加温に用いた電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。工程(ii)における棒状体の加温と、工程(iv)における蒸発源の加熱とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行ってもよい。
【0042】
薄膜が形成される基材の材質および形状は、薄膜の用途を考慮して選択される。基材の例としては、たとえば、金属のシート、合成樹脂のシート、およびそれらの積層物が挙げられる。
【0043】
本発明の成膜方法では、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)が真空中で行われる。この方法では、融液から引き出した棒状体が、そのまま再度溶融されて、蒸発源に供給される。そのため、本発明の方法では、棒状体の冷却や切断が不要であり、棒状体のロスもない。ここで真空は、原料に含まれる低沸点不純物を工程(i)で効率よく除去するために、100Pa以上、1000Pa以下の圧力が好ましい。
【0044】
本発明の成膜方法では、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)が同時に(同時並行して)行われてもよい。また、本発明の成膜方法では、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)が同時かつ連続的に行われてもよい。連続的に成膜を行う場合には、通常、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)は同時かつ連続的に行われる。
【0045】
本発明の成膜方法は、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)が、1つの真空槽内、または、連結されている複数の真空槽内で行われてもよい。
【0046】
この際、工程(i)における原料固体の溶融時の圧力(気圧)を、工程(iii)における棒状体の溶融及び工程(iv)における蒸発源の加熱時の圧力よりも低く設定することが好ましい。これによって、原料固体の溶融時に発生した、水分等のガス成分が工程(iii)の溶融領域及び工程(iv)の蒸発領域周辺に侵入することを防止できる。ガス成分の侵入を防止することで真空度が安定し蒸発速度が安定するとともに、溶融時の材料劣化や成膜面での不必要な反応を防ぎ、成膜を安定に行うことができる。
【0047】
本発明の成膜方法では、工程(iii)において棒状体の一部を電子銃によって加熱し、工程(iv)において蒸発源をその電子銃によって加熱してもよい。すなわち、棒状体と蒸発源とを1つの電子銃によって加熱してもよい。この場合、1つの電子銃から出射された電子ビームは、棒状体および蒸発源に照射されるように走査される。
【0048】
本発明の成膜方法では、前記(i)の工程において、坩堝の一端より前記原料を供給、加熱することで、前記原料を溶融して融液とし、引き続き前記坩堝のもう一方の端にて冷却を行うことで前記融液を凝固させて棒状体を形成する際に、前記坩堝を通じて下部より前記融液の冷却を行うとともに、前記融液を上部より加熱してもよい。これにより、棒状体の下部から上部に向けて一方向凝固を行うことにできるため、引け巣の抑制や、応力の緩和が可能であり、残存応力による棒状体の割れを抑制することができるほか、坩堝と棒状体との引っ掛かりを抑制することができる。
【0049】
本発明の成膜方法では、前記原料が、凝固時に体積膨張を伴う材料であってよく、具体的には、シリコン又はシリコンを含む合金であってよい。
【0050】
本発明の成膜方法では、前記坩堝が、冷却された金属、より具体的には、冷却された銅にて構成されてよい。
【0051】
本発明の成膜方法では、前記坩堝の原料供給側と棒状体形成側が異なる材料により構成され、原料供給側の坩堝材料と前記原料の融液との熱伝達率の方が棒状体形成側の坩堝材料と前記原料の融液との熱伝達率よりも小さくなるように構成されてよい。この際、前記坩堝の原料供給側が黒鉛により構成されてもよく、前記坩堝の棒状体形成側が冷却された金属にて構成されてもよい。
【0052】
本発明では、前記棒状体の凝固開始線が前記冷却された金属上に存在してよい。
【0053】
本発明の成膜方法では、前記坩堝の側面と底面が異なる材料により構成され、側面の坩堝材料と前記原料の融液との熱伝達率が底面の坩堝材料と前記原料の融液との熱伝達率よりも小さくなるように構成されてよい。
【0054】
前記凝固時の融液上部からの加熱方法が電子銃によるものでよく、あるいは、前記凝固時の融液上部からの加熱方法が抵抗加熱によるものであってもよい。前記加熱溶融時の加熱領域と前記凝固時の加熱領域が連続していてもよい。
【0055】
また、本発明の成膜方法では、前記(i)の工程で前記棒状体を回転させながら引き出してもよい。この際、前記棒状体の断面形状が略円形であってよい。
【0056】
本発明では、前記(iii)の工程で前記棒状体から前記蒸発源への供給を、前記棒状体の一部を溶融させて生じた融液の滴下によって行うことができる。
【0057】
なお、本発明の成膜方法では、イオンプレーティングの技術を用いてもよい。この場合、蒸発源から蒸発する粒子をイオン化すると共に、基材に電圧を印加し、粒子が基材にクーロン力によって引きつけられるようにする。この成膜方法を実施する成膜装置は、それらを実現するための装置を含む。たとえば、公知のイオンプレーティング装置で用いられるイオン化装置および電源を含む。
【0058】
[成膜装置]
本発明の成膜装置は、真空中で基材上に薄膜を形成するための装置である。本発明の成膜装置によれば、本発明の成膜方法を容易に実施できる。なお、本発明の成膜方法について説明した事項は本発明の成膜装置に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。
【0059】
本発明の成膜装置は、真空中で、一次原料から二次原料を生成し、二次原料を蒸発させて、基材上に薄膜を形成する装置である。この装置は、真空槽と、排気機構と、蒸発源と、二次原料供給機構と、基材搬送機構と、一次原料補給機構とを備える。
【0060】
排気機構は、真空槽を排気する。真空槽および排気機構に限定はなく、真空成膜装置に一般的に用いられている真空槽および排気機構を用いることができる。
【0061】
蒸発源は、真空槽内に配置される。蒸発源からは、二次原料が蒸発する。
【0062】
二次原料供給機構は、一次原料の固体を加熱して融液とする第1の加熱機構と、その融液を棒状体に成形する容器と、その棒状体を引き出す引き出し機構と、引き出した棒状体を溶融させずに保温又は加温する温度低下抑制機構と、棒状体の一部を溶融させて、溶融物を二次原料として蒸発源に供給する第2の加熱機構とを含む。
【0063】
基材搬送機構は、蒸発源から蒸発した蒸発粒子が堆積する位置に基材を搬送する。これによって、基材上に、薄膜が形成される。
【0064】
一次原料補給機構は、二次原料供給機構に一次原料の固体を補給する。
【0065】
本発明の成膜装置は、必要に応じて他の部材や装置を含んでもよい。
【0066】
薄膜が形成される基材は帯状の基板であってもよい。その場合、搬送機構は、基板を送り出す第1のローラと、基板を巻き取る第2のローラとを含んでもよい。この構成によれば、長尺の基板上に連続的に薄膜を形成できる。帯状の基板は、長さがたとえば30m〜5000mの範囲にある基板である。
【0067】
上記容器は、原料の融液を保持する融液保持部と、融液保持部に隣接する成形部とを含んでもよい。成形部では、原料の融液が凝固して棒状体となる。
【0068】
上記成形部には棒状体が通過する溝が形成されていてもよい。そして、その溝の幅は、融液保持部側から成形部側に向かって広がっていてもよい。
【0069】
第1の加熱機構は、電子銃を含んでもよい。また、第2の加熱機構は、電子銃を含んでもよい。この場合、第2の加熱機構は、第2の加熱機構の電子銃から出射される電子ビームを棒状体への照射と蒸発源への照射とに振り分ける走査機構を含んでもよい。そして、蒸発源に供給された原料を、第2の加熱機構の電子銃を用いて加熱してもよい。なお、棒状体の加熱と蒸発源に供給された原料の加熱とを、異なる加熱装置で加熱してもよい。走査機構には、公知の走査機構を用いることができ、たとえば誘導コイルを用いた電磁式の走査機構を用いることができる。
【0070】
引き出し機構は、棒状体を揺動する揺動機構を含んでもよい。棒状体を揺動しながら引き出すことによって、棒状体が容器に付着して破損することを防止できる。
【0071】
前記第1の加熱機構が、前記容器の上方に設けられ、前記第1の加熱機構による加熱領域の終端が前記棒状体の凝固開始線よりも棒状体形成側に設定されていてもよい。
【0072】
前記引き出し機構が、前記棒状体を回転させる回転機構を含んでもよい。これにより、断面形状が略円形等の、表面凹凸の少ない棒状体の形成が可能となるため、棒状体が折れにくくなり、また、棒状体を均一に加熱溶融することができるので、棒状体の供給における安定性を向上することが出来る。
【0073】
前記温度低下抑制機構は、前記棒状体の温度を前記真空槽の内壁の温度よりも高く維持することが好ましい。前記温度低下抑制機構は、棒状体を保温するものであり、輻射率0.2以下の材料から形成され、前記棒状体を取り囲む包囲部材であってもよい。また、前記温度低下抑制機構は、棒状体を保温するものであり、ヒーター加熱器又は高周波加熱器であってもよく、電子銃であってもよいこの際、第1の加熱機構又は前記第2の加熱機構として用いる電子銃を、前記温度低下抑制機構として使用してもよい。
【0074】
[成膜方法および成膜装置の実施の形態]
本発明の成膜装置の実施の形態の構成を、図1に模式的に示す。なお、図1では、真空槽、排気機構、基材、および基材の搬送機構の図示を省略している。図1(a)は上面図であり、図1(b)は、側面図(一部断面図)である。
【0075】
図1の成膜装置10は、坩堝(容器)11、一次原料補給機構12、電子銃13、引き出し機構20、搬送ガイド30、蒸発機構40、温度低下抑制機構60を含む。引き出し機構20は、チャックローラ21とカム機構22と回転機構38とを含む。搬送ガイド30は、ローラ31とバネ機構32とを含む。ローラ31は、バネ機構32によって、移動可能に支持されている。蒸発機構40は、蒸発用の坩堝41と、電子銃42とを含む。なお、電子銃42は、二次原料供給機構35の加熱装置と、蒸発機構40の加熱装置とを兼ねている。温度低下抑制機構60は、保温機構61と加温機構62とを含む。
【0076】
坩堝11は、原料が溶融される溶融領域11aと、原料が成形される成形領域11bとを備える。坩堝11は、各種の耐熱材料で形成できる。坩堝11の材料としては、たとえば、銅、鉄、ニッケル、モリブデン、タンタルおよびタングステンといった金属やこれらを含む合金、アルミナ、マグネシアおよびカルシアといった酸化物や、窒化ホウ素、炭素を用いることができる。これらの材料を組み合わせて坩堝11を形成してもよい。坩堝11の典型的な一例は、水冷銅ハースである。水冷銅ハースの表面を、炭素材料(たとえば黒鉛)で構成してもよい。溶融領域11aの凹部(後述する凹部11c)の表面に10mm〜50mm程度の厚さで炭素材料を配置することによって、溶融材料の冷却効率を調整し、原料の溶融効率を高めることができる。また、成形領域11bの溝(後述する溝11g)の表面を10mm〜30mm程度の厚さの炭素材料で構成することによって、原料の冷却速度を遅くすることができるので、原料の急冷により割れなどの不具合が発生する場合に特に有効である。
【0077】
溶融領域11aには、一次原料補給機構12から固体原料51が補給される。固体原料51の形状に限定はなく、たとえば、粒状、塊状、棒状またはワイヤ状であってもよい。一次原料補給機構12において、原料を送り出す方式として、たとえば、パーツフィーダー方式、バスケット方式、押し棒方式、または傾斜すべり方式を用いてもよい。溶融領域11aには、溶融された原料が保持される凹部11cが形成されている。凹部11cの平面形状は、矩形であってもよいし、円形であってもよいし、それらの組合せであってもよいし、それ以外の形状であってもよい。凹部11cの平面形状が円形または楕円形である場合、原料を均一に溶融させやすいという利点がある。
【0078】
また、凹部11cの鉛直方向の断面形状(図1(b)参照)は、矩形、台形、太鼓形、およびそれらの底を丸くした形状であってもよい。凹部11cの鉛直方向の断面形状が、上辺が底辺よりも長い台形(図2(b)および(d)参照)や、その底辺を丸くした形状(図2(f)参照)であってもよく、それらの形状は原料を均一に溶融させやすいという利点を有する。
【0079】
図2に、凹部11cの形状の例を示す。図2(a)、(c)、(e)および(g)は開口部の平面形状を示しており、図2(b)、(d)、(f)および(h)は鉛直方向の断面形状を示している。
【0080】
溶融領域11aに供給された固体原料51は、電子銃13から照射される電子ビーム13aによって加熱されて溶融される。なお、固体原料51の加熱は、電子銃以外の方法で行ってもよく、たとえば、ヒーター加熱や誘導加熱で行ってもよい。誘導加熱および電子ビーム加熱は、短時間で原料を溶融できる点で好ましく、電子ビーム加熱が特に好ましい。
【0081】
電子銃13は、直進銃および偏向銃のいずれであってもよい。直進銃は、電子銃42及び66への磁界的影響が小さいという利点を有する。ただし、電子ビーム13aの軌道を数度程度屈曲させてもよい。その程度の屈曲は、電子銃42及び66に与える影響も小さく、また、電子銃13の鏡筒内部の汚染の抑制に寄与する。電子ビーム13aの加速電圧は、固体原料51の種類および投入速度を考慮して設定される。一例では、電子ビーム13aの加速電圧が−8kV〜−30kVの範囲にあり、その電力が5kW〜100kWの範囲にある。電力が5kW未満では、原料の溶融速度が充分でない場合がある。また、電力が100kWを超えると、固体原料51の飛散や突沸が生じる場合がある。
【0082】
凹部11cの開口部(上面)の面積は、作製する棒状体の形状、固体原料51の供給速度、加熱源(電子銃13)のパワーを考慮して設定される。凹部11cの開口部の面積は、通常、500mm以上40000mm以下であり、たとえば、1500mm以上15000mm以下である。開口部の面積が500mm未満であると、一次原料補給機構12から供給される固体原料51の一部が溶融領域11aからこぼれやすくなる。一方、開口部の面積が40000mmを超えると、固体原料51の溶融に必要な加熱エネルギーが大きくなりすぎて不経済である場合が多い。
【0083】
固体原料51は、溶融領域11aで加熱されて融液51aとなる。このとき、固体原料51に含まれる低沸点の不純物成分が除去される。その結果、融液51aから形成される棒状体に含まれる低沸点不純物の濃度は、固体原料51に含まれる低沸点不純物の濃度よりも低くなる。そのため、本発明の方法および装置によれば、安価な原料(不純物濃度が高い原料)中の低沸点不純物に起因する成膜時のスプラッシュ(splash)を顕著に抑制できる。そのような効果は、たとえば、#441グレードの金属シリコンのような比較的安価な原料を用いる場合に得られる。#441グレードの金属シリコンは、シリコンの代表的不純物である、アルミニウム、鉄、カルシウムの濃度がそれぞれ、最高0.4wt%、0.4wt%、0.1wt%であるものを指す。これらの不純物は、金属シリコンの溶融温度で低減・除去される。溶融領域11aの加熱を電子ビームで行うと、融液51aが対流によって攪拌されるとともに融液51aの表面の一部が高温になるので、低沸点不純物を効率よく除去できる。
【0084】
電子ビームのパワーが高すぎて融液51aの表面が高温になりすぎることは、原料の蒸発が顕著となるために好ましくない。従って、融液51aの表面温度は、原料の蒸発が顕著にならない範囲で高温にすることが好ましい。低沸点不純物の除去には、融液51aを高温に保持する時間の長さも重要である。固体原料51に金属シリコンを用いる場合、融液51aを数分以上高温に保持することが好ましい。そのため、溶融領域11aおよび成形領域11bでの加熱時間は、数分以上となるように設定することが好ましい。この加熱時間は、後に述べる棒状体の直径および引き出し速度と、溶融領域11aおよび成形領域11bにおける加熱領域の長さとによって調整できる。たとえば、棒状体の直径が40mmの場合、引き出し速度を5cm/分とし、溶融領域11aおよび成形領域11bにおける加熱領域の長さの合計を10cm〜50cmの範囲としてもよい。
【0085】
固体原料51は空孔を含む場合があるが、固体原料51を溶融することによって空孔を含まない融液51aになる。この融液51aを凝固させて棒状体とすることによって、棒状体に含まれる空孔を固体原料51に含まれる空孔よりも少なくすることができる。その結果、棒状体に内包されるガスを低減でき、それが、成膜時のスプラッシュを低減する効果をもたらす。金属シリコンには空孔が多く含まれるため、金属シリコンを用いて成膜する場合、低沸点不純物および空孔によってスプラッシュが生じやすい。しかし、本発明によれば、原料に含まれる空孔および低沸点不純物を低減できるため、スプラッシュの低減に顕著な効果が得られる。
【0086】
溶融領域11aで溶融した固体原料51は、融液51aとなる。固体原料51の供給に伴い、融液51aの一部が、順次、成形領域11bに移動する。成形領域11bには、融液51aが凝固するときに棒状体となるように、上面が開放されている溝11gが形成されている。融液51aの一部は成形領域11bに移動し、温度の低下とともに凝固する。その結果、融液51aの一部は、溝11gを移動する際に棒状体51bに成形される。なお、棒状体51bが形成される限り、原料(融液51a/棒状体51b)が通過する領域の形状に限定はなく、たとえば管状であってもよい。
【0087】
棒状体51bは、排出口11hから引き出され、蒸発用の坩堝41の上方に移動される。棒状体51bを、排出口11hから容易に引き出すために、溝11gは、排出口11h側が広くなっている逆テーパー形状であることが好ましい。同様に、溝11gの深さは、排出口11h側で深くなっていることが好ましい。溝11g(または管)の形状は、作製される棒状体51bの形状、固体原料51の供給速度、および加熱源のパワーを考慮して設定される。
【0088】
一例では、溝11gの断面(棒状体51bの移動方向に対して垂直の断面)は、溶融領域11aとの境界部において直径20mm〜80mmの半円形ないし円形であり、排出口11hにおいて、直径24mm〜90mmの半円形ないし円形である。ここで、溝11gの断面は、溶融領域11a側の一端から他端(排出口11h側)に向かって徐々に大きくなっている。
【0089】
成形領域11bの一部において、原料(融液51a/棒状体51b)の加熱を行ってもよい。この加熱によって、原料の冷却速度を遅くすることが可能である。また、この加熱によって、融液51aを成形領域11bにスムースに移動させることができる。また、この加熱は、成形領域11bにおける原料の冷却速度が速すぎることによる、棒状体51bの割れ、反りおよび空洞の発生を抑制する。
【0090】
成形領域11bにおける原料の加熱の方法は、溶融領域11aにおける加熱の方法と同じであってもよいし異なってもよい。たとえば、溶融領域11aにおける加熱を電子銃13によって行い、成形領域11bにおける加熱を抵抗ヒーターによって行ってもよい。また、溶融領域11aにおける加熱と成形領域11bにおける加熱とを、電子銃13からの電子ビームを振り分けることによって行ってもよい。
【0091】
成形領域11bの一部における加熱は、融液51aが溶融している状態を維持するように行ってもよい。また、成形領域11bの一部における加熱は、成形領域11bで凝固した原料が再度溶融するように行ってもよい。
【0092】
成膜装置10では、原料の融液51aが上方(開放面側)から加熱される。また、融液51aは、坩堝11との接触面から冷却することができる。このように、本発明の成膜方法および成膜装置では、融液51aを、開放面(上方)から加熱するとともに容器側(下方)から冷却してもよい。この構成によれば、融液51aの凝固は、容器との接触面から始まって開放面において完了する。すなわち、融液51a上面の凝固を抑制し、融液51a下部から上部に向けて一方向凝固を行うことで、凝固時の応力やそれに伴う体積変化の逃げ場を融液51a上部に確保し、残存応力による棒状体の割れを抑制することができる。これに加えて、棒状体と坩堝との引っ掛かりを緩和することができる。また、これにより、凝固面には上方より常に融液51aが供給されるため、引け巣の抑制も期待できる。本態様は、原料がシリコンやシリコンを含む合金などの、凝固時に体積膨張を伴う材料である場合に特に有用である。
【0093】
棒状体51bは、引き出し機構20によって成形領域11bから引き出される。引き出し機構20は、凸部を有するチャックローラ21を含む。複数のチャックローラ21で棒状体51bを挟み、チャックローラ21を回転させることによって棒状体51bを移動できる。棒状体51bを挟む力は、棒状体51bの材質、形状および引き出し速度を考慮して設定される。その力は、たとえば、29.4N〜490N(3kgf〜50kgf)の範囲にあってもよい。挟む力が小さすぎると、棒状体51bが滑って棒状体51bを円滑に移動させることができない場合がある。一方、挟む力が大きすぎると、棒状体51bの変形や破壊が生じる場合がある。
【0094】
棒状体51bの側面の形状は、一定しない場合が多い。そのため、側面の形状の変化に対応できるように、チャックローラ21は、バネ等の緩衝機構によって支持されていることが好ましい。
【0095】
チャックローラ21の外周面には、複数の凸部が形成されている。凸部は、針状、円錐状、角錐状、円錐台状または角錐台状であってもよい。円錐台状または角錐台状の凸部は、耐久性が高いという利点を有する。また、歯車状のチャックローラも、耐久性が高いという利点を有する。円錐台状の凸部は、たとえば、上面の半径が0.3mm〜2mm、底面の半径が0.5mm〜4mm、高さが0.5mm〜5mmの範囲にあってもよい。
【0096】
チャックローラ21の径は、一定であってもよいし、場所によって変化させてもよい。棒状体51bを挟む部分の径を他の部分の径よりも小さくすることによって、チャック性の向上、および棒状体51bの蛇行防止の効果が得られる。チャックローラ21の径は、棒状体51bのチャック位置で、たとえば10mm〜70mmの範囲にある。チャックローラ21の径が小さすぎると、チャックローラ21が曲がる場合がある。また、チャックローラ21の径が大きすぎると、設備が大型になって設備コストが増大する。棒状体51bの蛇行防止には、チャックローラ21のチャック位置での径を細くし、且つ、複数組のチャックローラ21を用いることが効果的である。
【0097】
棒状体51bを引き出す際に、棒状体51bを揺動しながら引き出してもよい。揺動によって、棒状体51bと坩堝11との固着を防止することができ、また、棒状体51bと坩堝11との間の摩擦を低減できる。棒状体51bの揺動は、成形領域11bに溝11gが形成されている場合に特に有効である。揺動方向は、たとえば上下方向および/または左右方向である。棒状体51bを上下方向に揺動しながら引き出すことによって、棒状体51bをスムースに引き出すことができる。棒状体51bの揺動は、たとえば、引き出し機構20のうち棒状体51bを挟む部分を揺動させることによって行うことができる。成膜装置10では、チャックローラ21がカム機構22によって上下に揺動される。揺動幅は、たとえば1mm〜10mmの範囲にあってもよい。
【0098】
なお、棒状体51bを引き出す機構および方法は、成膜装置10の機構および方法に限定されない。たとえば、チャックローラ21とは異なる形状のローラを用いてもよい。また、チャックローラ21の代わりに、チャック部分がスライドする機構を用いてもよい。この場合、チャック部分がスライドすることによって棒状体51bが引き出される。
【0099】
引き出し機構20は、回転機構38を備えている。回転機構38によって棒状体51bは回転し、かつチャックローラ21などによって引き出される。回転機構38にはローラ式、歯車式などの方式を用いることが出来る。例えば凸部のある棒状体回転用ローラ39(図3に示す)により、上下左右から棒状体を挟み込みながら回転することが出来る。挟み込みの圧力は、作成する棒状体の材質、形状、引き出し速度によって異なるが、例えば3〜50kgfである。挟み込みの圧力が小さすぎるとすべりが生じて円滑な引き出しが行われない場合があり、逆に挟み込みの圧力が大きすぎると、棒状体の変形や破壊につながる場合がある。棒状体は完全円柱形状から外れた不定型な側面を持つ場合が多いので、棒状体回転用ローラ39の挟み込み状態も安定しにくい。そこで棒状体回転用ローラ39の挟み込み機構にバネ等による緩衝機構を設けておくことが望ましい。歯車状の回転体を棒状体に押し当てることによっても棒状体を回転することが出来る。
【0100】
棒状体の回転と引き出しを両立させるために、必要に応じて例えば棒状体の回転運動と水平運動のための挟み込みを交互に行うことが好ましい。これにより、棒状体にかかるねじれ応力を軽減することが出来、ねじれ応力による棒状体の破損を防止することが出来る。また、回転と引き出しを両立する駆動機構として、図3のように棒状体に対して斜め方向に駆動するチャックローラを用いることで回転機構を兼用することも出来る。
【0101】
棒状体の回転数は、作成する棒状体の材質、形状、引き出し速度によって異なるが、例えば引き出し速度1〜10cm/minに対して0.5〜4rpmである。
【0102】
成形領域11bの溝11gの断面形状が半円形の場合、棒状体の回転に伴い溝部に順次空隙が生じる。この空隙に溶融領域11aで溶融した原材料が順次流れ込むので、棒状体を回転しながら引き出すことによって断面形状が略円形の棒状体を得ることが出来る。
【0103】
本発明の成膜装置は回転機構38を備えていなくてもよいが、その場合に得られる棒状体の上面は形状が規制されておらず、凹凸が多く存在する。しかし、回転機構38を備えている場合に得られる断面形状が略円形の棒状体は、表面凹凸が比較的少なくなる。そのため、引き出し機構20や搬送ガイド30によって棒状体が破損されにくい。
【0104】
また、図1では、棒状体の断面形状が略円形であり、かつ棒状体が回転しているので、棒状体の先端部付近に均一に電子ビーム42aを照射することが可能になる。このため、棒状体の溶け残りが発生しにくく、また溶融状態の変動が小さくなる。この結果、坩堝41に滴下する液滴の滴下速度や滴下位置が安定することになり、坩堝41からの蒸発速度も安定することが出来る。
【0105】
棒状体51bは一旦形成されてしまえば、融液51aから連続的に引き出すことが可能である。また、融液51aから最初に棒状体51bを形成する際には、予め作製した原料の棒状体51bを装置にセットしたり、原料の種結晶を用いて棒状体51bを引き出したりすればよい。
【0106】
引き出し機構20によって引き出された棒状体51bは、搬送ガイド30に沿って搬送される。搬送ガイド30は、ローラ31およびバネ機構32を備える。これらは、固定ポストや固定ガイドなどによって固定される。搬送ガイド30を用いることによって、棒状体51bの蛇行の防止、チャック機構を支点とする応力による棒状体51bの破損の防止、引き出し機構20の駆動負荷の低減といった効果が得られる。ローラ31は、バネ機構32によって移動可能にされている。ローラ31を移動可能にすることによって、棒状体51bの形状や位置の変動に対する追随性が向上し、棒状体51bの搬送を安定して行うことができる。なお、状況(設備の形状に対する制約で搬送ガイドを設ける余裕が無い場合など)に応じて、搬送ガイド30を省略してもよい。また、本発明の効果が得られる限り、ローラ31の位置は、固定でもよい。
【0107】
成形領域11bで固化した棒状体51bは、成形領域11bから引き出された後、引き出し機構20及び搬送ガイド30からなる搬送系によって搬送される際に、保温機構61によって保温され、加温機構62によって加温される。保温機構61と加温機構62はいずれか一方のみを用いてもよい。
【0108】
保温機構61は、例えば図4(a)に示すように、棒状体51bを包囲するトンネル状の断熱囲い61aであってもよい。断熱囲い61aは、アルミナやマグネシア、カーボン等の耐火物によって構成され得る。この際、棒状体51bだけではなく、チャックローラ21等の搬送系の部材も、断熱囲い61aの中に配置することができる。また、棒状体に接触する搬送系の部材に各種セラミック材料などからなる熱伝導率の低い材料を用いることで、熱伝導による棒状体の温度低下を抑制することができる。
【0109】
また、保温機構61は、例えば図4(b)に示すように、棒状体51bを包囲するトンネル状の低輻射率囲い61bであってもよい。低輻射率囲い61bは、鏡面金属等の低輻射率材料から構成され得る。低輻射率材料の示す輻射率は、例えば、0.2以下が望ましい。棒状体51bだけではなく、搬送系の部材も、低輻射率囲い61bの中に配置することによって、輻射冷却による棒状体の温度低下を抑制することができる。
【0110】
保温機構61としては、以上の機構を組み合わせてもよく、また、その他の機構を用いることもできる。また、棒状体を保温する位置は本発明の図面の位置によって制限されるものではない。すなわち、棒状体を搬送する搬送系における保温機構の位置には特に制約はなく、搬送系の設計と調和する場所で適切に保温を行うことができる。
【0111】
加温機構62は、例えば図5(a)に示すように、棒状体に近接配置した、棒状や面状の金属ヒーター62aであってもよい。また、例えば図5(b)に示すように、棒状体に対向した、ハロゲンランプ等の光源ヒーター62bであってもよい。以上により、熱輻射や光加熱によって棒状体を加温することができる。加温に用いるヒーターの形状や、光源の波長は棒状体の材料特性によって適宜選択される。金属ヒーターの温度は特に制限されないが、構造が簡便であり制御が容易であることから、300〜900℃が望ましい。
【0112】
加温機構62は、例えば図6に示すように、誘導加熱器であってもよい。誘導体加熱器は、棒状体を囲むように配置された誘導コイル63と、高周波電源(図示せず)から構成される。必要に応じて、誘導コイル63内に配置されたカーボン円筒等の加温補助材64の中で棒状体を搬送することで加熱効率を高めることができる。誘導周波数は例えば13.56MHzであるが、この限りではない。
【0113】
加温機構62は、例えば図1及び図7に示すように、電子銃66であってもよい。搬送中の棒状体に加温用電子銃66から加温用電子ビーム66aを照射することによって棒状体を加温することができる。棒状体上で電子ビーム66aを走査することで、棒状体の局部加熱による折損を防止することが出来る。加熱用電子ビーム66の加速電圧は特に制限されないが、−2kV〜−40kVであることが設備制御の上で望ましい。なお、図1において加温機構62が電子銃66である場合を図示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
加温機構62は、以上で説明した機構に限定されず、レーザー加熱などのその他の機構を用いることもできる。また棒状体を加温する位置は本発明の図面の位置によって制限されるものではない。すなわち、棒状体を搬送する搬送系における加温機構の位置には特に制約はなく、搬送系の設計と調和する場所で適切に加熱を行うことができる。
【0115】
また、例えば図8(a)に示すように、棒状体を加温する電子銃66として、固体原料51を溶融する電子銃13を使用することもできる。すなわち、溶融用電子銃13から射出された電子ビームを偏向磁場で偏向し、大半を溶融領域11aに溶融用電子ビーム13aとして照射するとともに、一部を搬送系で搬送中の棒状体に加温用電子ビーム66aとして照射する。これにより、溶融用電子ビームと加温用電子ビームを一台の電子銃で賄うことができ、設備コストを低減できる。偏向磁場による偏向は、例えば電磁石である偏向コイルに流す電流の強度と時間を制御することで行われる。ステップ状にコイル電流を変化させることで溶融用電子ビームの照射領域と加温用電子ビームの照射位置とを非連続的に分離することができる。
【0116】
加温することで搬送中の棒状体の温度を、真空槽の内壁の温度よりも高く維持することが望ましい。これにより、真空槽中の残存水分が搬送中の棒状体に付着するのを防止することができる。
【0117】
また、棒状体の材料や表面性状、真空槽の真空度によって個々の数値は異なるが、棒状体への物理吸着水の蒸気圧が真空槽の内部圧力よりも高くなる温度で、棒状体を保温または加熱しながら搬送することが望ましい。
【0118】
棒状体51bは、坩堝41の上方に向かって移動される。棒状体51bの先端部付近には、電子銃42から電子ビーム42aが照射される。電子ビーム42aの照射によって棒状体51bの先端部は溶融し、液滴51cとなって坩堝41内に滴下する。電子ビーム42aの電力は、原料の種類、棒状体51bの形状および搬送速度を考慮して設定される。電子ビーム42aの電力は、たとえば5kW〜100kW程度である。電子ビーム42aの電力が5kW未満であると、棒状体51bの溶融速度が充分でない場合がある。また、その電力が100kWを超えると、液滴51cが坩堝41の手前で滴下する場合がある。
【0119】
棒状体51bの切断工程や冷却工程を不要とするため、さらに棒状体51bを有効に利用するため、坩堝11から坩堝41に至る空間は、1つの真空槽内に配置されることが好ましい。一方、一次原料補給機構12は、坩堝11および坩堝41が配置される真空槽(第1の真空槽)に連結された第2の真空槽に配置されてもよい。それら2つの真空槽は、開閉可能な仕切り板で仕切られる。一次原料補給機構12に固体原料51を補給する場合、2つの真空槽を仕切り板で遮断し、一次原料補給機構12が配置された第2の真空槽を大気開放して固体原料51を補給する。その後、第2の真空槽を減圧したのち、仕切り板を開放し、一次原料補給機構12から溶融領域11aに固体原料51を補給する。この構成によれば、坩堝11および坩堝41が配置される第1の真空槽の真空度を低下させることなく固体原料51を補給することが可能である。
【0120】
溶融領域11aでの原料固体の溶融と、坩堝41上方での棒状体の溶融及び原料の蒸発とは、連続した真空槽内で行うとともに、両領域に差圧を導入するための隔壁(図示せず)を設けて行うことが望ましい。当該隔壁の両側にはそれぞれ個別の排気ポンプを配置し、原料固体の溶融領域を、棒状体の溶融及び原料の蒸発領域よりも低い気圧に設定することが望ましい。前記隔壁は、例えば棒状体の通過に必要な切り欠き等を有する差圧板であってよい。圧力の設計は、隔壁の両側での真空槽の形状や、導入ガス、アウトガス等を加味した上で、原料固体の溶融領域側の排気ポンプの能力を高くすることで適切に達成することができる。原料固体の溶融領域から差圧板を通過するまでの棒状体に対しては、水分付着防止のために、上述した保温や加熱を行うことが重要になる。
【0121】
坩堝41には、固体原料51の融液(蒸発源)51dがためられる。融液51dは、電子銃42からの電子ビーム42bによって加熱され、その一部が蒸発する。蒸発した粒子が基材上に堆積することによって、薄膜が形成される。
【0122】
電子銃42からの電子ビームは、走査機構によって電子ビーム42aおよび42bに振り分けられ、それぞれ、棒状体51bと融液51dとに照射される。1つの電子銃42を用いて棒状体51bと融液51dとを加熱することによって、装置を簡素化することができ、装置コストを軽減できる。なお、棒状体51bと融液51dとを異なる加熱機構によって加熱してもよい。また、それらは、本発明の効果が得られる限り、電子ビームの照射以外の方法によって加熱してもよい。
【0123】
例えば図8(b)に示すように、棒状体の溶融又は融液51dの加熱に用いる供給用電子銃42は、棒状体を加温する電子銃66として使用することもできる。供給用電子銃42から射出された電子ビームを偏向磁場で偏向し、大半を棒状体の先端に供給用電子ビーム42aや42bとして照射するとともに、一部を搬送系で搬送中の棒状体に加熱用電子ビーム66aとして照射することで、供給用電子ビームと加温用電子ビームを一台の電子銃で賄うことができ、設備コストが低減できる。偏向磁場による偏向は、例えば電磁石である偏向コイルに流す電流の強度と時間を制御することで行われる。ステップ状にコイル電流を変化させることで、供給用電子ビームの照射領域と加温用電子ビームの照射位置とを非連続的に分離することができる。
【0124】
坩堝41には、融液51dをためる凹部41aが形成されている。凹部41aの平面形状は、目的とする成膜に応じて、円形、小判型、矩形、ドーナツ型など様々な形状とすることができる。坩堝41は、耐熱性の材料で形成でき、たとえば、銅、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属やこれらを含む合金、アルミナ、マグネシア、カルシア等の酸化物、窒化ホウ素、炭素などを用いることができる。坩堝41の一例は、水冷銅ハースである。
【0125】
巻き取り式に代表される連続式の真空蒸着において、成膜の幅よりも長い矩形型の凹部41aが形成された坩堝41を用いてもよい。そのような坩堝41は、厚さが均一な膜を形成するのに効果的である。
【0126】
電子ビーム42aおよび42bの照射範囲の一例を、図9に示す。棒状体51bに照射される電子ビーム42aの照射位置61は、融液51dに照射される電子ビーム42bの走査範囲62から離れた位置に設定されている。そのため、原料の液滴51cは、電子ビーム42bの走査範囲62から離れた位置に滴下される。この構成によれば、液滴51cが連続的に供給されることによる悪影響(融液51dの温度変化および表面振動など)を小さくできる。その結果、均一性のよい膜を形成することができる。なお、図9の一例では、走査範囲62の長さは、成膜の幅63よりも広く設定されている。
【0127】
成膜装置10の全体を、図10に模式的に示す。真空槽(vacuum chamber)71は、内部空間を有する耐圧性の槽である。真空槽71には、排気手段72が接続されている。排気手段72は、真空槽71の内部を成膜に適する減圧状態にする。排気手段72には、たとえば、減圧ポンプなどを使用できる。
【0128】
真空槽71の内部空間には、坩堝11、一次原料補給機構12、引き出し機構20、搬送ガイド30(図10では図示せず)、坩堝41、送り出しローラ73、搬送ローラ74a〜74c、キャン75、巻き取りローラ76、遮蔽板77および原料ガスの導入管78が配置されている。また、真空槽71の壁面には、電子銃13および42が固定されている。
【0129】
真空槽71は、遮蔽板77によって、基板80が搬送される基板搬送領域と、固体原料51が処理される原料処理領域とに分けられている。遮蔽板77のうち坩堝41の上方の領域には、開口77aが形成されている。なお、真空槽71は、基板搬送領域が含まれる真空槽と、二次原料供給機構35が含まれる真空槽とが連結された真空槽であってもよい。その場合、開口77aには、開閉可能な仕切り板が配置され、基板搬送領域が含まれる真空槽にも排気手段が接続される。
【0130】
送り出しローラ73、搬送ローラ74a〜74c、キャン75および巻き取りローラ76は、それぞれ、回転自在のローラである。これらは、基板80を搬送する搬送機構として機能する。送り出しローラ73は、蒸発した原料で汚染されないように、キャン75の上方に配置されている。送り出しローラ73には、成膜前の基板(基材)80が巻かれている。基板80は、帯状の基板である。
【0131】
基板80は、送り出しローラ73から送り出され、搬送ローラ74aおよび74bを介してキャン75に送られる。キャン75の内部には、冷却手段(図示せず)が設けられている。冷却手段には、たとえば、冷却水の循環によって冷却を行う冷却装置を使用できる。キャン75の外周面を基板80が走行する際に、蒸発源(融液51d)から飛来した原料の粒子が基板80上に堆積し、薄膜が形成される。なお、固体原料51とガスとを反応させて成膜を行う場合には、導入管78からガスが導入される。巻き取りローラ76は、キャン75の上方に配置されている。巻き取りローラ76は、駆動手段(図示せず)によって回転され、薄膜が形成された基板80を巻き取る。
【0132】
キャン75は、開口77aを挟んで、蒸発源(融液51d)の上方に配置している。蒸発源で発生した原料の蒸気は、開口77aを通ってキャン75上の基板80に到達する。基板80上に原料が堆積することによって、基板80上に薄膜が形成される。遮蔽板77は、坩堝41から飛来する原料の粒子が基板80に到達する経路を、開口77aを通る経路のみに限定する。
【0133】
導入管78は、必要に応じて設置される。一例では、導入管78の一端が坩堝41の上方に配置され、他端が、真空槽71の外部の原料ガス供給手段(図示せず)に接続される。導入管78を通って、酸素ガスや窒素ガスなどが供給される。それらのガスを供給することによって、蒸発源から飛来する原料の酸化物、窒化物または酸窒化物を主成分とする薄膜を形成できる。原料ガス供給手段には、ガスボンベやガス発生装置などを適用できる。
【0134】
本発明の成膜装置10では、坩堝(容器)11、電子銃13、引き出し機構20、温度低下抑制機構60、搬送ガイド30および電子銃42が二次原料供給機構35として機能する。二次原料供給機構35によれば蒸発源に原料を連続的に供給できるため、本発明の成膜装置10では、連続的かつ安定に薄膜を形成できる。通常、成膜装置10では、固体原料51の補給および溶融、棒状体51bの引き出し、棒状体51bの保温又は加温、棒状体51bの溶融、融液51dの加熱による成膜が、同時かつ連続的に行われる。ただし、本発明の効果が得られる限り、それらの工程は同時に行われなくてもよいし、断続的に行われてもよい。
【0135】
なお、成膜装置10では、キャン75を省略することも可能である。たとえば、2つの搬送ローラ間を直線状に走行している基板80の一部に薄膜を形成してもよい。2つの搬送ローラの位置によって、原料の粒子が基板80上に飛来する角度を変化させることができる。たとえば、基板80の表面に対して原料の粒子をほぼ垂直に入射させることもできるし、基板80の表面に対して原料の粒子を斜めに入射させることもできる。基板80の表面に対して原料粒子を斜めに入射させる成膜法によれば、自己陰影効果によって、微小空間を含む薄膜を形成できる。そのため、この成膜法は、たとえば、高C/Nの磁気テープの形成や、サイクル特性に優れる電池の負極の形成に有効である。
【0136】
本発明の成膜装置10では、基板80として長尺の銅箔を用い固体原料51としてシリコンを用いることによって、電池用の長尺の負極が得られる。また、類似の方法で電気化学キャパシタ用の極板を得ることもできる。
【0137】
シリコン薄膜の形成方法の一例について説明する。この一例では、#441グレードの金属シリコンが3g/秒の速度で一次原料補給機構12から坩堝11に供給される。金属シリコンは、電子銃13から50kWの電子ビームが照射することによって、溶融される。金属シリコンの融液から、6cm/分の速度で、直径50mm程度の不定形の棒状体51bが形成される。蒸着用の坩堝41の上方で、棒状体51bの先端に電子銃42から40kWの電子ビームが照射される。電子ビームの照射によって棒状体51bの先端が溶融し、シリコンが坩堝41に供給される。また、90kWの電子ビームが電子銃42から坩堝41に照射される。坩堝41への電子ビームの照射によって、基板上にシリコン薄膜が形成される。
【0138】
また、コバルトを含む磁気テープの形成方法の一例について説明する。この一例では、基板としてポリエチレンテレフタレートを用い、固体原料51としてコバルトを用いる。坩堝41からは、コバルトが蒸発する。また、導入管78からは、酸素ガスが導入される。その結果、長尺の磁気テープが得られる。
【0139】
[リチウムイオン二次電池用負極の製造]
上述したように、本発明の成膜方法および成膜装置は、二次電池の極板の製造に適用でき、具体的には、リチウムイオン二次電池の負極の製造に適用できる。この場合、成膜の原料には、負極活物質を構成する原料を用いることができる。負極活物質を構成する原料としては、シリコンや錫を用いることができ、典型的には金属シリコンやシリコン合金を用いることができる。また、基材(基板)には、導電性を有する基材が用いられる。たとえば、基材として、銅箔(厚さがたとえば5μm〜30μm)や、銅薄膜(厚さがたとえば0.2μm〜20μm)が蒸着された高分子フィルム(たとえばPET、PEN、PPS(ポリフェニルサルファイド)、ポリアミド、ポリイミドフィルム)を用いることができる。また、表面に凹凸を形成した金属箔(たとえば銅箔)を用いてもよい。
【0140】
基材上に形成される負極活物質層の厚さは、たとえば5μm〜30μmである。負極活物質層は、基材の片面または両面に形成される。
【0141】
負極活物質層は、蒸発源にシリコンを用いるとともに酸素ガスを導入することによって形成してもよい。また、負極活物質層は、シリコンに加えてリチウムを含んでもよい。リチウムは、シリコンとの共蒸着などによって負極活物質層に加えることができる。
【0142】
リチウムイオン二次電池の負極を製造する場合、基材の法線方向に対する、蒸発源から飛来する蒸発粒子の基材への入射方向の角度を10°〜80°の範囲としてもよい。また、この角度を、基材の進行方向に対する傾斜角度を正として、+10°〜+80°の範囲の角度と−10°〜−80°の範囲の角度とで一定時間ごとに変化させてもよい。なお、原料粒子の入射方向とは、原料粒子全体の入射方向の平均であり、たとえば、電子ビーム42aの照射範囲の中央部と開口77aの中央部とを結ぶ方向で代表される。
【0143】
原料粒子の入射方向に対して基材の表面の角度を変化させることによって、基材の表面上に、柱状またはジグザグ状に原料を堆積させることが可能である。これらの技術は、たとえば、国際公開第2007/052803号や国際公開第2007/015419号に開示されている。原料粒子の入射方向に対して基材の表面の角度を変化させる方法としては、たとえば、搬送ローラの位置を変化させる方法や、原料粒子の入射角度が異なる2つの蒸着領域を設ける方法が挙げられる。
【0144】
以上、本発明の実施形態として例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明は、安定な成膜が必要とされる様々なデバイスに適用でき、たとえば、各種コンデンサ、各種センサー、太陽電池、各種光学膜、防湿膜、導電膜などに適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明により、高品質の薄膜を低コストで、長時間にわたり安定して製造することが可能になる。なかでも、膜厚の大きい薄膜が必要であり、かつ冷却コストや切断コストの影響が大きく、さらには割れの発生しやすい材料(例えばシリコン、ゲルマニウム等)を使用して成膜する場合において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の成膜装置の実施形態の一部を模式的に示す図である。図1(a)は上面図、図1(b)は側面図(一部断面図)である。
【図2】溶融領域の凹部の形状の例を示す模式図である。
【図3】回転機構を兼用するチャックローラの一例を示す図である。
【図4】棒状体の保温機構の例を示す模式図(上面図、側面図、縦断面図)である。
【図5】棒状体の加温機構の例を示す模式図(上面図、側面図、縦断面図)である。
【図6】棒状体の加温機構の例を示す模式図(上面図、側面図、縦断面図)である。
【図7】棒状体の加温機構の例を示す模式図(上面図、側面図、縦断面図)である。
【図8(a)】電子銃の共用方法の例を示す模式図である。
【図8(b)】電子銃の共用方法の例を示す模式図である。
【図9】棒状体および蒸発用坩堝への電子ビームの照射範囲を模式的に示す図である。
【図10】本発明の成膜装置全体の構成の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0147】
10 成膜装置
11 坩堝(容器)
11a 溶融領域
11b 成形領域
11c 凹部
11g 溝
11h 排出口
12 一次原料補給機構
13 電子銃(第1の加熱機構)
13a、42a、42b、66a 電子ビーム
20 引き出し機構
21 チャックローラ
22 カム機構(揺動機構)
30 搬送ガイド
31 ローラ
32 バネ機構
35 二次原料供給機構
38 回転機構
39 棒状体回転用ローラ
40 蒸発機構
41 (蒸発用)坩堝
41a 凹部
42 電子銃(第2の加熱機構)
51 固体原料
51a 融液
51b 棒状体
51c 液滴(融液)
51d 融液(蒸発源)
60 温度低下抑制機構
61 保温機構
61a 断熱囲い
61b 低輻射率囲い
62 加温機構
62a 金属ヒーター
62b 光源ヒーター
63 誘導コイル
64 加温補助材
66 電子銃
71 真空槽
72 排気手段
73 送り出しローラ
74a、74b、74c 搬送ローラ
75 キャン
76 巻き取りローラ
77 遮蔽板
77a 開口
78 導入管
80 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜を形成する方法であって、
(i)前記薄膜の原料の固体を溶融して融液とし、前記融液を凝固させて棒状体を形成し、前記棒状体を引き出す工程と、
(ii)前記棒状体を溶融させずに保温又は加温しつつ搬送する工程と、
(iii)前記棒状体の一部を溶融させて、蒸発源に供給する工程と、
(iv)前記蒸発源を加熱して蒸発粒子を蒸発させ、前記蒸発粒子を基板に堆積させることで前記基板上に前記薄膜を形成する工程とを含み、
前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)の工程が、真空槽内で行われる成膜方法。
【請求項2】
前記工程(ii)において、前記棒状体の温度を、前記真空槽の内壁の温度よりも高く維持する請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記工程(ii)において、前記棒状体を、前記棒状体への物理吸着水の蒸気圧が前記真空槽内圧力よりも高くなる温度で、保温又は加温する請求項1記載の成膜方法。
【請求項4】
前記工程(iii)において、電子銃から電子ビームを照射することで前記棒状体の一部を溶融する請求項1記載の成膜方法。
【請求項5】
前記工程(i)における前記原料固体の溶融と、前記工程(ii)における前記棒状体の加温とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行う請求項1記載の成膜方法。
【請求項6】
前記工程(ii)における前記棒状体の加温と、前記工程(iii)における前記棒状体の溶融とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行う請求項4記載の成膜方法。
【請求項7】
前記工程(ii)における前記棒状体の加温と、前記工程(iv)における前記蒸発源の加熱とを、共通の電子銃から電子ビームを照射することによって行う請求項1記載の成膜方法。
【請求項8】
前記工程(i)における前記原料固体の溶融時の圧力を、前記工程(iii)における前記棒状体の溶融及び前記工程(iv)における前記蒸発源の加熱時の圧力よりも低く設定する請求項1記載の成膜方法。
【請求項9】
真空中で、一次原料から二次原料を生成し、前記二次原料を蒸発させて、基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、
真空槽と、
前記真空槽を排気する排気機構と、
前記真空槽内に配置され、前記二次原料を蒸発させる蒸発源と、
前記一次原料の固体を加熱して融液とする第1の加熱機構と、前記融液を棒状体に成形する容器と、前記棒状体を引き出す引き出し機構と、引き出した前記棒状体を溶融させずに保温又は加温する温度低下抑制機構と、前記棒状体の一部を溶融させて、溶融物を前記二次原料として前記蒸発源に供給する第2の加熱機構とを含む二次原料供給機構と、
前記蒸発源から蒸発した蒸発粒子が堆積する位置に前記基材を搬送する基材搬送機構と、
前記二次原料供給機構に前記一次原料の固体を補給する一次原料補給機構とを備える成膜装置。
【請求項10】
前記温度低下抑制機構が、前記棒状体の温度を前記真空槽の内壁の温度よりも高く維持する請求項9記載の成膜装置。
【請求項11】
前記温度低下抑制機構が、輻射率0.2以下の材料から形成され、前記棒状体を取り囲む包囲部材である請求項9記載の成膜装置。
【請求項12】
前記温度低下抑制機構が、ヒーター加熱器又は誘導加熱器である請求項9記載の成膜装置。
【請求項13】
前記温度低下抑制機構が電子銃である請求項9記載の成膜装置。
【請求項14】
前記第1の加熱機構又は前記第2の加熱機構が電子銃である請求項9記載の成膜装置。
【請求項15】
前記第1の加熱機構又は前記第2の加熱機構である電子銃が、前記温度低下抑制機構でもある請求項14記載の成膜装置。
【請求項16】
前記電子銃から照射される電子線の照射領域は、前記温度低下抑制機構のための照射領域と、前記第1の加熱機構又は前記第2の加熱機構のための照射領域とに非連続的に分割されている請求項15記載の成膜装置。
【請求項17】
前記第1の加熱機構により前記一次原料の融液を形成する領域と、前記第2の加熱機構により前記棒状体を溶融して溶融物を前記蒸発源に供給する領域及び前記二次原料を蒸発させる領域とのあいだに、差圧を導入するための隔壁を備え、さらに各領域に個別の前記排気機構を備える請求項9記載の成膜装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−189683(P2010−189683A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33506(P2009−33506)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】