説明

成膜装置および太陽電池

【課題】光電変換層がセレンを含有する場合、基板裏面へのセレンの回り込み、更にはセレンの付着を抑制した成膜装置、およびこの成膜装置により成膜された光電変換層を有する太陽電池を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置は、成膜チャンバ内に基材を搬送する搬送手段と、成膜チャンバ内を所定の真空度にする真空排気手段と、搬送される基材に光電変換層を形成する真空成膜手段と、基板において光電変換層が形成される側の面における搬送方向と直交する幅方向の両端に、前記搬送方向に沿って設けられた、温度調節機能を備えたマスクとを有する。搬送手段により基材が搬送されて真空成膜手段により基材に前記光電変換層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光電変換層の形成に用いられる成膜装置、およびこの成膜装置により形成された光電変換層を有する太陽電池に関し、特に、光電変換層がセレンを含有する場合、基板裏面へのセレンの回り込み、更にはセレンの付着を抑制した成膜装置および太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siもしくは多結晶Si、または薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であった。しかし、近年、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発が行われている。
化合物半導体系の太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCIS(Cu−In−Se)のCIS系およびCIGS(Cu−In−Ga−Se)のCIGS系などが知られている。CIS系の化合物半導体およびCIGS系の化合物半導体は、光吸収率が高く、光電変換効率が高いことが報告されている。
【0003】
ここで、CIS系の化合物半導体およびCIGS系の化合物半導体は、高温で成膜する方が高い光電変換効率が得られることが知られている。そのため、太陽電池において、光電変換層(光吸収層)としてCIS系膜またはCIGS系膜を用いる際には、500℃以上の高温で成膜を行うのが通常である。
ところが、このような高温でCIS系膜またはCIGS系膜を成膜すると、基板(膜)が冷却するまでの間に、再蒸発などによって、沸点が低いSeが膜から脱離してしまう。その結果、膜中のSe不足によるpn接合の形成不足、および膜の欠陥等が生じて、十分な光電変換性能を有する光電変換層(光吸収層)が得られないという問題がある。このような問題を解決するために各種の検討が行われている。
【0004】
特許文献1には、成膜チャンバと、この成膜チャンバ内で基板を一定方向に移動させる移動手段と、基板の移動方向に沿って配列されたCu、In、Ga、Seの蒸着源を備える成膜装置が記載されている。この特許文献1の成膜装置においては、蒸着源と基板移動手段との間にスリットが配置されており、移動手段により移動する基板を上流側の第一区間上で所定温度に加熱し下流側の第二区間上で徐冷可能な基板加熱ヒータが設けられている。さらに、スリット内を基板移動方向に沿って分割するとともに、第二区間にCu、In、Gaが供給されないように第二区間を遮蔽する仕切板が設けられている。
【0005】
仕切板には、温度調整機構が備わっており、117℃(Seの融点である217℃より100℃低い温度)〜1200℃以下に調整可能である。仕切板を200℃にすることにより、これに付着するSe元素の再蒸発が促進される。
特許文献1の成膜装置では、仕切板を200℃とし、第一区間では基板を400〜1000℃に加熱してCu、In、Ga、Seを多元同時蒸着し、第2区間ではSeのみ蒸発させてSeを供給してCIGS膜を形成している。なお、CIGS膜を形成する際、Se蒸気量は第一区間、第二区間で常に過剰量としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−307278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の成膜装置においては、上述のように、仕切板が設けられているものの、Se蒸気は、成膜チャンバのスリットを通り基板の裏面にまで到達する。しかも、Se蒸気量は第一区間、第二区間で常に過剰量としている。このため、基板の裏面にSeが付着してしまうという問題がある。このように、基板裏面にSeが付着した場合、後工程で、裏面に膜を形成した場合、その膜の密着性が悪くなり膜が剥離しやすくなる等の不具合が生じる虞がある。この不具合を回避するためには付着したSeを取り除く必要があるが、この場合、生産効率が低くなる。また、ロール・ツー・ロール方式の場合、付着したSeを取り除くことが困難であり、基板裏面にSeが付着したままの状態で基板が巻き取られた場合、CIGS膜に傷がつく虞があり、CIGS膜の品質が劣化する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、光電変換層がセレンを含有する場合、基板裏面へのセレンの回り込み、更にはセレンの付着を抑制した成膜装置、およびこの成膜装置により成膜された光電変換層を有する太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、成膜チャンバ内に基材を搬送する搬送手段と、前記成膜チャンバ内を所定の真空度にする真空排気手段と、前記搬送される基材に光電変換層を形成する真空成膜手段と、前記基材において前記光電変換層が形成される側の面における前記搬送方向と直交する幅方向の両端に、前記搬送方向に沿って設けられた、温度調節機能を備えたマスクとを有し、前記搬送手段により前記基材が搬送されて前記真空成膜手段により前記基材に前記光電変換層が形成されることを特徴とする成膜装置を提供するものである。
【0010】
前記マスクは、前記基材の厚さ方向に対して積層して設けられることが好ましく、例えば、マスクは2つ設けられる。この場合、前記2つのマスクのうち、前記基材側のマスクよりも他のマスクの方が温度が高いことが好ましい。
また、前記2つのマスクのうち、前記基材側のマスクは、温度が80℃以下であり、前記他のマスクは、温度が180℃以上であることが好ましい。
【0011】
前記マスクは、温度が80℃以下であるか、または前記マスクは、温度が180℃以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記基材は、長尺状で、ロール状に巻回されたものであり、前記搬送手段は、巻回された前記基材を巻き出す巻き出しローラ、および前記真空成膜手段により前記光電変換層が形成された基材をロール状に巻き取る巻取りローラを有することが好ましい。
【0013】
また、前記真空成膜手段は、真空蒸着法を用いるものであることが好ましい。
この場合、前記真空成膜手段は、少なくともセレンの蒸着源を有することが好ましい。さらに、前記真空成膜手段は、少なくとも銅の蒸発源、インジウムの蒸発源、およびガリウムの蒸発源を有することが好ましい。
また、前記基材は、最表面に金属膜が形成された可撓性を有するものであることが好ましい。
【0014】
前記成膜チャンバ内に設けられた成膜室を有し、前記成膜室は、温度180℃以上に温度調節された加熱壁と温度80℃以下に温度調節された冷却壁とにより構成されており、前記成膜室に前記真空成膜手段が設けられていることが好ましい。
前記加熱壁および前記冷却壁は、前記成膜室において搬送される前記基材を境にして対向して設けられており、前記真空成膜手段は、前記加熱壁において前記搬送される前記基材に対向する位置に設けられていることが好ましい。
前記成膜室に、搬送される前記基材の温度を調整する温度調節手段が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、前記加熱壁および前記冷却壁の少なくとも一方に排気口が設けられており、前記排気口が前記真空排気手段に接続されて、前記真空排気手段により前記成膜チャンバ内が真空にされることが好ましい。
例えば、前記加熱壁は200℃以上であることが好ましい。前記冷却壁は60℃以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の成膜装置を用いて光電変換層が形成されたことを特徴とする太陽電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度調節機能を備えたマスクにより、基材裏面に、Se等の成膜物質が付着することを抑制することができるため、後工程で、膜を形成した場合に膜の剥離等の膜欠陥の発生も抑制することができる。また、基材裏面のSeの付着が抑制されるため、基材を巻き取る際に、光電変換層に傷がつくことも抑制され、品質が良好な光電変換層が得られる。特に、ロール・ツー・ロール方式を用いて、例えば、数百mの基材に、光電変換層を形成する場合、品質が良好な光電変換層が得られる効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の成膜装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態の成膜装置に用いられる基板を示す模式的断面図である。
【図3】図1に示す成膜装置のA−A線断面図である。
【図4】本発明の実施形態の成膜装置の他の例を示す模式的断面図である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態の成膜装置に用いられるマスクの一例を示す模式図であり、(b)は、本発明の実施形態の成膜装置に用いられるマスクの他の例を示す模式図であり、(c)は、本発明の実施形態の成膜装置に用いられるマスクの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の成膜装置および太陽電池を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の成膜装置を示す模式図である。
【0020】
図1に示す成膜装置10は、長尺な基板(基材)Zをロール状に巻回してなる基板ロール12から基板Zを送り出して、長手方向(搬送方向a)に搬送しつつ、CIGS膜を形成し、成膜済みの基板Zを、再度、巻取り軸68に巻き取ってロール状にする、いわゆる、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜装置である。
成膜装置10は、成膜チャンバ内11に設けられる、供給室12と、第1の成膜室14と、第2の成膜室16と、第3の成膜室18と、巻取り室20とを有する。この成膜装置10には、制御部(図示せず)が設けられており、制御部により、成膜装置10の各構成が制御される。
【0021】
成膜装置10において、供給室12と第1の成膜室14とを区画する壁11a、第1の成膜室14と第2の成膜室16とを区画する壁11b、第2の成膜室16と第3の成膜室18とを区画する壁11c、および第3の成膜室18と巻取り室20とを区画する壁11dには基板Zが通過するスリット状の開口11eが形成されている。
また、供給室12、第1の成膜室14、第2の成膜室16、第3の成膜室18、および巻取り室20には、それぞれ内部の圧力を測定する圧力センサ(図示せず)が設けられている。
【0022】
供給室12は、長尺状の基板Zが巻回してなる基板ロール22から基板Zを送り出して、第1の成膜室14に搬送する部位であり、回転軸(巻き出しローラ)24、ガイドローラ26および真空排気手段28が設けられている。
回転軸24は、基板ロール22から基板Zを巻き出し、基板Zを連続的に送り出すものである。例えば、長尺の基板Zが反時計回りに巻回されてなる基板ロール22が回転軸24に装填される。
回転軸24は、例えば、駆動源としてモータ(図示せず)が接続されている。このモータによって回転軸24が基板Zを巻き戻す方向、本実施形態では、時計回りに回転されて、基板Zが基板ロール22から連続的に送り出す。
ガイドローラ26は、公知のガイドローラで、駆動ローラでも従動ローラでもよい。この点に関しては、後述する搬送ローラ、ガイドローラも、全て同様である。また、このガイドローラ26は、基板Zの予備加熱ローラを兼ねてもよい。
【0023】
真空排気手段28は、供給室12内を所定の真空度(圧力)にするものであり、配管(図示せず)を介して供給室12に接続されている。
成膜装置10においては、真空排気手段28は、供給室12の圧力が、第1の成膜室14の圧力よりも、若干、高い圧力となるように、供給室12を排気する。これにより、供給室12の圧力が、第1の成膜室14における成膜に悪影響を与えることを防止し、かつ、第1の成膜室14内の蒸気が供給室12に混入して、供給室12内を汚染することを防止できる。
【0024】
真空排気手段28には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプ、ドライポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。
【0025】
基板ロール22から送り出された基板Zは、搬送方向a(長手方向)に搬送され、ガイドロール26に案内されて、供給室12と第1の成膜室14とを区画する壁11aに形成されたスリット状の開口11eから、第1の成膜室14に搬送される。
【0026】
ここで、本実施形態に用いられる基板Zは、図2に示すように、鋼基材70と、アルミニウム基材72(以下、Al基材72という)と、絶縁層76とを有する。
基板Zにおいては、鋼基材70の表面70aにだけAl基材72が形成されており、鋼基材70の裏面70bには何も形成されていない。Al基材72の表面72aに絶縁層76が形成されている。また、鋼基材70とAl基材72とが積層されたものを基体74ともいう。基板Zにおいては、絶縁層76の表面76aに、すなわち、最表面に、裏面電極78が、隣り合う裏面電極78と分離溝79を設けて形成されている。
【0027】
裏面電極78は、金属膜により構成されるものであり、例えば、Mo、Cr、またはW、およびこれらを組合わせたものにより構成される。この裏面電極78は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。裏面電極78は、Moで構成することが好ましい。この裏面電極78の厚さは、厚さが400nm〜1000nm(1μm)であることが好ましい。
この裏面電極78は、例えば、DCスパッタ法により絶縁層76の表面76aの全面にMo膜を形成した後、例えば、レーザスクライブ、またはメカニカルスクライブを用いて分離溝79を形成することにより、得られるものである。
【0028】
本実施形態の基板Zは太陽電池に利用される。このため、基板Zは、例えば、平板状のものであり、その基板Zの形状および大きさ等は適用される太陽電池の大きさ等に応じて適宜決定されるものである。
【0029】
基板Zにおいて、鋼基材70には、例えば、軟鋼、耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、またはフェライト系ステンレス鋼が用いられる。
軟鋼としては、低炭素鋼で、SS400等を用いることができる。
オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS304、SUS316、SUS310、SUS309、SUS317、SUS321、SUS347等を用いることができる。
また、フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS405、SUS410、SUS436、SUS444等を用いることができる。
なお、上記以外にも、SUS403、SUS440、SUS420、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼を用いることができる。
【0030】
鋼基材70の厚さは、基板Zの可撓性に影響するので、過度の剛性不足を伴わない範囲で薄くすることが好ましい。
本実施形態の基板Zにおいては、鋼基材70の厚さは、例えば、10〜800μmであり、好ましくは30〜300μmである。より好ましくは50〜150μmである。鋼基材70の厚さを薄くすることは、原材料コストの面からも好ましい。
鋼基材70を可撓性を有するもの、すなわち、フレキシブルなものとする場合、鋼基材70は、オーステナイト系ステンレス鋼またはフェライト系ステンレス鋼が好ましい。鋼基材70について、特に耐熱強度を高くしたい場合に、オーステナイト系ステンレス鋼を使用することが好ましい。SUS304、SUS316が一般的だが、特に一層高い耐熱性を鋼基材70に求める場合には、SUS310、SUS309を用いることが好ましい。
【0031】
Al基材72は、主成分がアルミニウムで構成されるものである。主成分がアルミニウムとは、アルミニウム含有量が90質量%以上であることをいう。
Al基材72としては、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられる。アルミニウムまたはアルミニウム合金は、不要な金属間化合物を含まないことが好ましい。具体的には不純物の少ない、99質量%以上の純度のアルミであることが好ましい。例えば、99.99質量%Al、99.96質量%Al、99.9質量%Al、99.85質量%Al、99.7質量%Al、99.5質量%Al等が好ましい。また、アルミニウム合金には、金属間化合物を作りにくい元素を添加したものを用いることができる。例えば、99.9質量%のAlにマグネシウムを2.0〜7.0質量%添加したアルミニウム合金である。マグネシウム以外では、Cu、Siなど、固溶限界の高い元素を添加することができる。
【0032】
また、Al基材72の厚さは、例えば、5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。より好ましくは20〜50μmである。
【0033】
基板Zにおいて、絶縁層76は、電気絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止するためのものである。この絶縁層76は、例えば、陽極酸化膜により構成されるものである。Al基材72が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の場合には、絶縁層76はアルミニウム陽極酸化膜(アルミナ膜)となる。
絶縁層76は、陽極酸化膜に限定されるものではなく、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法により形成されたものであってもよい。
【0034】
絶縁層76の厚さは0.5μm以上が好ましく、10μm以上が更に好ましい。絶縁層76の厚さが過度に厚い場合、可撓性が低下すること、および絶縁層76の形成に要するコスト、時間がかかるため好ましくない。現実的には、絶縁層76の厚さは、最大50μm以下、好ましくは30μm以下である。このため、絶縁層76の好ましい厚さは、0.5〜50μmである。
【0035】
なお、基板Zは、鋼基材70、Al基材72および絶縁層76のいずれも可撓性を有するもの、すなわち、フレキシブルなものとすることにより、基板Z全体として、フレキシブルなものになる。これにより、ロール・ツー・ロール方式に利用可能である。
【0036】
また、本実施形態の基板Zにおいては、鋼基材70とAl基材72の2層構造の基体74を有する構成としたが、本発明は、これに限定されるものではない。基板Zにおいて、絶縁層76を除いた状態で、鋼基材70とAl基材72とが最外層、すなわち、積層方向における一方の端に鋼基材70を配置し、他方の端にAl基材72を配置して積層すれば、基体74において、鋼基材70とAl基材72との間に他の金属または合金からなる基材が1つまたは複数あってもよい。
さらには、基板としては、鋼基材70の裏面70bにAl基材72および絶縁層76が形成される構成でもよい。
また、基板Zには、裏面電極78と絶縁層76との間にNaOまたはNaS等のアルカリ金属を含む化合物を含有するアルカリ供給層を設けてもよい。
【0037】
第1の成膜室14は、第2の成膜室16と第3の成膜室18とともに、基板Zに形成された裏面電極78の表面78aに光電変換層として、CIGS膜を成膜する部位である。
第1の成膜室14は、真空成膜部30と、加熱手段32と、ガイドローラ34と、加熱壁36と、冷却壁38と、真空排気手段40と、搬送ローラ46とが設けられている。搬送ローラ46は、供給室12と第1の成膜室14とを区画する壁11aの開口11eに近接して設けられている。真空成膜部30、加熱手段32、ガイドローラ34、加熱壁36および冷却壁38によりCIGS膜形成部48が構成される。
【0038】
光電変換層であるCIGS膜は、例えば、カルコパイライト結晶構造を有するCu(In,Ga)Seにより構成される。光電変換層であるCIGS膜の膜厚は、例えば、1〜3μmである。この光電変換層は、カルコパイライト結晶構造を有するものであるため、光吸収率が高く、光電変換効率が高い。しかも、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
光電変換層においては、光電変換層の厚さ方向にGa量の分布を持たせることにより、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御できる。これにより、光電変換層について、シングルグレーデッドバンドギャップ構造、またはダブルグレーデッドバンドギャップ構造にすることができる。
【0039】
第1の成膜室14においては、下方に加熱壁36が設けられ、基板Zを境にして対向する位置、すなわち、上方に冷却壁38が設けられている。加熱壁36と冷却壁38とにより、第1の成膜室14内で隔離されて空間が構成され、CIGS膜を形成するCIGS膜形成室が構成される。
加熱壁36は、基板Zに対向する下壁36aと、この下壁36aの各辺に対して起立して設けられた2組の側壁36b、36cとを有し、搬送ローラ46側の側壁36bに基板Zが通過するスリット37が形成されている。下壁36aおよび側壁36b、36cにより囲まれる空間が成膜空間αとなる。側壁36b、36cにより形成される開口の上方を基板Zが通過する。
【0040】
加熱壁36を構成する下壁36aおよび側壁36b、36cには、例えば、赤外ヒータ等の加熱手段が設けられており、温度が180℃以上に温度調節されるものである。
また、側壁36cには、成膜チャンバ11の外部に突出する第1の排気口42が設けられている。この第1の排気口42は、真空排気手段40に接続されている。
【0041】
ここで、Se蒸気は、温度が180℃以上であるものと接触した場合、Se蒸気が反射されて膜とはならず、付着することがない。このため、加熱壁36においては温度を180℃以上としている。これにより、加熱壁36へのSeの付着が抑制され、ひいては成膜チャンバ11内にSeが付着することが抑制される。このため、CIGS膜の成膜時に、CIGS膜形成部48のガイドローラ34(基板搬送機構)、真空成膜部30(成膜機構)、第1の排気口42等のSeの付着が抑制されて、これらの部材の劣化が抑制されるとともに、付着したSeを取り除く必要もなく、成膜チャンバ11のメンテナンス性が大幅に改善される。
また、加熱壁36において、温度を180℃以上とすることにより、加熱壁36にSeが付着しないため、基板ZのCIGS膜の形成に利用されるSeの利用効率を高くすることができる。これにより、CIGS膜の成膜に要するSeの使用量を少なくすることができる。
【0042】
なお、加熱壁36の温度は、180℃以上であるが、好ましくは200℃以上である。また、加熱壁36の温度の上限は、基板Zの温度であることが好ましい。このため、加熱壁36の温度の上限は、後述するように、例えば、550〜600℃である。また、望ましくは、加熱壁36の温度は、基板Zの温度よりも低い。
【0043】
冷却壁38は、基板Zに対向する上面38aと、この上面38aの各辺に対して起立して設けられた2組の側壁38b、38cとを有する。加熱壁36においてスリット37が形成された側壁36bと対向する側壁38bに基板Zが通過するスリット39が形成されている。基板Zは、上流側から加熱壁36のスリット37を通過した後、冷却壁38のスリット39を通過する。
冷却壁38を構成する上面38aおよび側壁38b、38cには、例えば、水冷管等の冷却手段が設けられており、温度が80℃以下に温度調節されるものである。
また、側壁38cには、成膜チャンバ11から突出する第2の排気口44が設けられている。この第2の排気口44は、真空排気手段40に接続されている。
【0044】
ここで、Se蒸気は、温度が80℃以下であるものと接触した場合、安定したSeの膜が形成される。このため、冷却壁38において、温度を80℃以下としている。これにより、Se蒸気が冷却壁38に付着した場合、Seを着実に冷却壁38に付着させて安定したSe膜とすることができ、Se膜の剥離等を抑制することができる。よって、CIGS膜形成部48のガイドローラ34(基板搬送機構)、真空成膜部30(成膜機構)、第2の排気口44等のSeの付着が抑制され、成膜チャンバ11内にSeの付着が抑制される。そこで、CIGS膜形成部48の部材の劣化が抑制されるとともに、成膜チャンバ11のメンテナンス性が大幅に改善される。
なお、冷却壁38の温度は、80℃以下であるが、好ましくは60℃以下である。また、冷却壁38の温度の下限は、室温であることが好ましい。このため、冷却38の温度の下限は25℃程度である。
【0045】
真空成膜部30は、真空成膜法の一種である多元蒸着法を用いたものである。真空成膜部30は、銅(Cu)の蒸着源30C、ガリウム(Ga)の蒸着源30G、インジウム(In)の蒸着源30Iおよびセレン(Se)の蒸着源30Sを備える。
各蒸着源30C、30G、30I、30Sは、基板Zの幅方向に長い線状の蒸発源であり、下壁36aに取り付けられて、かつ第1の成膜室14内に設けられている。
各蒸着源30C、30G、30I、30Sは、例えば、Kセルと呼ばれるものが用いられ、開口部を有する。蒸着源30C、30G、30I、30Sの開口部から、それぞれCu、In、Ga、Seの蒸気が放出される。上述のように、加熱壁36の下壁36aは温度が180℃以上にされるものであり、各蒸着源30C、30G、30I、30Sにおいては、開口部が加熱された状態で、蒸気が放出される。
【0046】
各蒸着源30C、30G、30I、30Sの上方には、シャッタ(図示せず)が設けられている。各シャッタは、それぞれ、各蒸着源30C、30G、30I、30Sの開口部からの蒸気の基板Zへの到達を制御するものであり、開口部に対して、例えば、移動機構(図示せず)により開閉自在に設けられている。各シャッタにより、各蒸着源30C、30G、30I、30Sの開口部が開放または閉塞される。
【0047】
各蒸着源30C、30G、30I、30Sには、成膜チャンバ11外に設けられた電源部(図示せず)が接続されている。この電源部により、各蒸着源30C、30G、30I、30Sについて、それぞれ、銅(Cu)の蒸着源30Cの温度を、例えば、1300℃にし、インジウム(In)の蒸着源36Iの温度を、例えば、930℃にし、ガリウム(Ga)の蒸着源30Gの温度を、例えば、1015℃にし、セレン(Se)の蒸着源30Sの温度を、例えば、270℃にして、各蒸着源30C、30G、30I、30Sから銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびセレン(Se)の各蒸気が放出される。
【0048】
また、電源部は、各蒸着源30C、30G、30I、30Sの温度を、例えば、単位時間毎に上昇または下降させる機能も有する。この単位時間毎の温度上昇または温度下降は、制御部で設定されるとともに制御される。
【0049】
基板Zの裏面、すなわち、鋼基材70の裏面70bに接するようにガイドローラ34が設けられている。搬送方向aにおいて、ガイドローラ34を挟んで上流側から第1のヒータ32aおよび第2のヒータ32bが設けられている。第1のヒータ32aおよび第2のヒータ32bにより加熱手段32が構成される。
第1のヒータ32aおよび第2のヒータ32bは、例えば、IRヒータが用いられる。本実施形態においては、光電変換層の形成時に、第1のヒータ32aおよび第2のヒータ32bにより、基板Zを、例えば、温度550〜600℃に加熱する。
【0050】
搬送ローラ46は、基板ZをCIGS成膜部48に搬送するものであり、基板Zの温度を下げないために加熱ローラにより構成されている。加熱ローラは、例えば、温度550〜600℃に加熱される。
【0051】
第2の成膜室16は、第1の成膜室14に続いて、光電変換層として、CIGS膜を形成するものである。この第2の成膜室16は、第1の成膜室14と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
第2の成膜室16においては、第1の成膜室14と第2の成膜室16とを区画する壁11bの開口11eに近接して、搬送ローラ46が設けられている。この搬送ローラ46は、第1の成膜室14の搬送ローラ46と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0052】
第3の成膜室18は、第2の成膜室16に続いて、光電変換層として、CIGS膜を形成するものである。この第3の成膜室18においては、第1の成膜室14に比して、更にSe蒸着部50と、冷却ローラ60、62とを有する点以外は、第1の成膜室14と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0053】
第3の成膜室18においては、第2の成膜室16と第3の成膜室18とを区画する壁11cの開口11eに近接して搬送ローラ46が設けられている。この搬送ローラ46は、第1の成膜室14の搬送ローラ46と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。また、CIGS膜形成部48とSe蒸着部50との間に冷却ローラ60が設けられている。Se蒸着部50の下流側に冷却ローラ62が設けられている。
【0054】
Se蒸着部50は、基板ZのCIGS膜にSeだけを蒸着するものである。このSe蒸着部50は、基板Zの温度を調整する温度調整手段52と、ガイドローラ54と、加熱壁56と、冷却壁58とを有する。
【0055】
Se蒸着部50において、加熱壁56は下方に設けられ、基板Zを境にして対向する位置、すなわち、上方に冷却壁58が設けられている。加熱壁56と冷却壁58とにより、第3の成膜室18内で隔離されて空間が構成され、Se蒸着するSe蒸着室が構成される。
Se蒸着部50においては、基板Zに対向する冷却壁57が設けられており、加熱壁56は、この冷却壁57の各辺に対して起立して設けられた側壁56aを有する。冷却壁57と側壁56aとにより囲まれる空間が成膜空間βとなり、側壁56aにより形成される開口の上方を基板Zが通過する。
加熱壁56は、CISG成膜部48の加熱壁36と同様に、側壁56aには、例えば、赤外ヒータ等の加熱手段が設けられており、温度が180℃以上に温度調節されるものである。
【0056】
加熱壁56においても、温度を180℃以上とすることにより、Se蒸気が反射されてSeの付着が抑制され、基板ZのCIGS膜の形成に利用されるSeの利用効率を高くすることができる。このため、基板ZのCIGS膜に更にSeを蒸着する際に、蒸着に要するSeの使用量を少なくすることができる。
なお、加熱壁56の温度は、180℃以上であるが、200℃以上であることが好ましい。加熱壁56の上限は、基板Zの温度であることが好ましい。このため、加熱壁56の温度の上限は、後述するように、例えば、250℃〜350℃である。この場合も、加熱壁56の温度は、基板Zの温度よりも低いことが望ましい。
【0057】
冷却壁58は、基板Zに対向する上壁58aと、この上壁58aの各辺に対して起立した設けられた側壁58bとを有する。搬送方向aにおいて対向して設けられた側壁58bに基板Zが通過するスリット59が形成されており、基板ZはSe蒸着部50の冷却壁58を通過する。
また、冷却壁58を構成する上壁58aおよび側壁58bには、例えば、水冷管等の冷却手段が設けられており、温度が80℃以下に温度調節されるものである。この冷却壁58も、60℃以下であることが好ましく、その下限値は、室温、例えば、25℃程度である。なお、冷却壁57は、冷却壁58と同様の構成であり、温度が80℃以下に温度調節されるものである。
【0058】
冷却壁57に、真空成膜部として、セレン(Se)の蒸着源31Sが設けられている。このセレン(Se)の蒸着源31Sは、真空成膜部30の蒸着源30Sと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。なお、上述のように、冷却壁57は温度が80℃以下にされるものであり、セレン(Se)の蒸着源31Sにおいては、開口部が冷却された状態で蒸気が放出される。
【0059】
Seの供給部50において、基板Zの温度を検出して、この温度結果に応じてSeの供給量、例えば、Seの蒸着源30Sにおける加熱条件を調整することが好ましい。
冷却中の基板ZがSeを取り込む量(取り込み易さ)は、基板Zの温度によって異なると考えられる。従って、Se供給部において基板Zの温度を測定して、Seの供給量を調整することにより、CIGS膜中のSe不足、Seの過剰を好適に防止して、Seの量が適正な、優れた光電変換特性を有する高品質なCIGS膜を形成することができる。
【0060】
基板Zの温度に応じたSe供給量の制御方法には、特に限定はなく、各種の方法が利用可能である。例えば、基板Zの温度とCIGS膜のSeの取り込み易さとの関係、Seの蒸着源30Sの温度等の加熱条件とSe蒸発量との関係などを、シミュレーションまたは実験によって予め調べておき、その結果から、基板Zの温度と、基板温度に対する好適なSeの蒸着源30Sの加熱条件との関係をテーブル化しておく。その上で、Se蒸着部50において、基板Zの温度を測定して、この測定結果から、上記テーブルを参照して、Seの蒸着源30Sの加熱条件を適宜調整すればよい。
【0061】
また、Se蒸着部50において、基板Zの裏面に接するようにガイドローラ54が設けられている。搬送方向aにおいて、ガイドローラ54を挟んで上流側から第1の冷却ユニット52aおよび第2の冷却ユニット52bが設けられている。第1の冷却ユニット52aおよび第2の冷却ユニット52bにより温度調整手段52が構成される。
第1の冷却ユニット52aおよび第2の冷却ユニット52bは、例えば、輻射伝熱板が用いられる。本実施形態においては、光電変換層の成膜時に、第1の冷却ユニット52aにより基板Zの温度を、例えば、350℃にし、第2の冷却ユニット52bにより基板Zの温度を、例えば、250℃にする。
【0062】
冷却ローラ60は、CIGS成膜部48から搬送される基板Zを冷却しつつ、Se蒸着部50に搬送するものであり、冷却ローラ62は、Se蒸着部50でSeが蒸着された基板Zを巻取り室20に搬送するものである。
冷却ローラ60および冷却ローラ62は、同じ構成であり、内部に冷却手段を内蔵する、公知の冷却ローラである。
【0063】
第3の成膜室18においては、CIGS膜形成部48で基板ZにCIGS膜を形成した後、更に、Se蒸着部50で基板ZのCIGS膜にSeを蒸着し、CIGS膜の成膜中に脱離したSeを供給して、CIGS膜の欠陥等の発生を抑制する。これにより、Seの脱離に起因する光電変換効率の低下等を低減した、高品質なCIGS膜を、安価に安定して製造することができる。
【0064】
巻取り室20は、CIGS膜が形成された基板Zを巻き取る部位である。
この巻取り室20には、ガイドローラ64a、64bと、真空排気手段66と、巻取り軸(巻取りローラ)68と、冷却部63とを有する。
冷却部63は、冷却ローラ63aと、ローラ63bと、冷却ローラ63aおよびローラ63bの両ローラに張架されるエンドレスベルト63cとを有する。
冷却部63は、基板Zの搬送経路において、エンドレスベルト63cが基板Zの裏面(CIGS膜の非成膜面)に当接するように配置されている。
冷却ローラ63aは、内部に冷却手段を内蔵する公知の冷却ローラである。従って、冷却ローラ63aとローラ63bとに張架されるエンドレスベルト63cは張架される冷却ローラ63aによって冷却される。
【0065】
第3の成膜室18から搬送された基板Zは、冷却部63により冷却されつつガイドローラ64a、64bによって所定の搬送経路を案内されて、巻取り軸68によって巻き取られ、再度、ロール状の巻回物とされる。
なお、真空排気手段66は、巻取り室20の圧力が第3の成膜室18の圧力よりも、若干、高い圧力となるように巻取り室20を減圧する。これにより、巻取り室20の圧力が第3の成膜室18でのSe供給に悪影響を与えることを防止し、かつ、第3の成膜室18内の蒸気が巻取り室20に混入して、巻取り室20内部の汚染、および基板Zの汚染することを防止できる。
【0066】
ここで、ロール状に巻き取った際の基板裏面との接触によるCIGS膜の損傷、ロールにおける基板Zの巻き締まりの防止等を考慮すると、基板Zの巻取りは、基板Zの温度が常温になった後に行うのが好ましい。そのため、冷却部63を設けている。しかしながら、ガイドローラ64a、64bの1以上が、基板Zを常温まで冷却するための、冷却ローラであってもよい。また、基板Zの搬送経路に、輻射式の冷却手段を設けてもよい。
【0067】
なお、本実施形態においては、真空成膜部30の各蒸着源30C、30G、30I、30S、およびSe蒸着部50の蒸着源31Sを基板Zの幅方向に長い線状の蒸発源としたが、これに限定されるものではない。例えば、図4に示す銅の蒸着源35C、ガリウムの蒸着源35Gのように蒸着源を小さくした点状の蒸発源を用いることもできる。なお、図4に図示していないインジウムの蒸着源、セレンの蒸着源についても点状の蒸発源を用いることができる。
【0068】
また、本実施形態においては、CIGS膜成膜部48およびSe蒸着部50には、Seの基板Zの裏面への回り込みを抑制するために、温度調節機能を有するマスク80が設けられている。このマスク80は、基板Zにおいて光電変換層が形成される側の面、すなわち、基板Zの裏面電極78が形成された側において、搬送方向aと直交する幅方向の両端(図3参照)に、搬送方向aに沿って設けられている。
図5(a)に示すように、マスク80は、冷却壁38の側壁38cの端部に、基板Zの表面の片端を覆うマスク材82が搬送方向aに沿って設けられている。なお、基板Zの幅方向の反対側の端にも、図3に示すように、マスク80が設けられている。
【0069】
マスク材82は、先端部82aに斜面が形成されており、この斜面が真空成膜部30側(図5(a)では下側)に向けられている。このマスク材82にも、冷却壁38と同じく、例えば、水冷管等の冷却手段が設けられており、80℃以下に温度調節可能なものである。このため、冷却壁38と同じ理由で、マスク80により、Se蒸気を確実にマスク材82に付着させて、Seの基板Zの裏面への回り込みを抑制することができる。
なお、マスク80においても、60℃以下であることが好ましく、下限値は、室温、例えば、25℃程度である。
【0070】
また、本実施形態においては、マスク80に限定されるものではない。例えば、図5(b)に示すマスク80aのように、加熱壁36の側壁36cの端部に、基板Zの表面の端を覆うマスク材84を搬送方向aに沿って設けた温度調節が可能な構成とすることができる。マスク材84は、先端部84aに斜面が形成されており、この斜面が真空成膜部30側(図5(b)では下側)に向けられている。
【0071】
マスク80aにおいて、マスク材84には、加熱壁36と同じく、例えば、赤外ヒータ等の加熱手段が設けられている。このため、マスク材84も180℃以上に温度調節が可能である。マスク材84も、加熱壁36と同じ理由で、Se蒸気を反射してSeの付着を抑制することができる。このため、ロール・ツー・ロール方式のように長時間成膜する場合において、マスク80aの構造は、特に有効である。
なお、マスク80aにおいても、200℃以上であることが好ましく、上限値は、基板Zの温度、例えば、550〜600℃である。
【0072】
さらに、図5(c)に示すマスク88のように、基板Zの厚さ方向に積層して2つのマスクを設けた構成としてもよい。なお、マスクの積層数は2に限定されるものではない。
図5(c)に示すマスク88は、図5(a)のマスク80と、マスク85とを組わせた温度調節が可能なものである。マスク88においては、図5(a)のマスク80が基板Z側に配置され、マスク85が真空成膜部30側(図5(c)では下側)に配置されている。このマスク80は、上述のように、温度を80℃以下にすることができるものである。
【0073】
マスク85は、図5(b)のマスク80aと同じく、加熱壁36の側壁36cの端部に、基板Zの表面の端を覆うマスク材86が搬送方向aに沿って設けられたものである。マスク材86は、その先端部86aがマスク80のマスク材82の先端82aを覆うように形成されている。
マスク材86には、加熱壁36と同じく、例えば、赤外ヒータ等の加熱手段が設けられている。このため、マスク材86も180℃以上に温度調節が可能である。
【0074】
マスク88においては、Se蒸気は、マスク材82よりも先にマスク材86に接触する。このため、マスク材86でSe蒸気が反射されてSeの付着を抑制する。マスク材82にSe蒸気が到達した場合にでも、マスク材82にSeを確実に付着させることができる。これにより、Seの基板Zの裏面への回り込み、更にはSeの基板Zの裏面の付着を抑制することができる。
なお、基板Z側のマスク80の温度を、他のマスク85よりも低くすることにより、すなわち、真空成膜部30側のマスク85の温度を、基板Z側のマスク80よりも高くすることにより、成膜空間αにSeが付着しないので好ましい。
【0075】
本実施形態において、マスクを温度調整機能を有するものとすることにより、Seの基板Zの裏面への回り込み、更にはSeの基板Zの裏面の付着を抑抑制することができる。これにより、基板Zの腐食、および基板の裏面にSeが付着することによるCIGS膜に傷が付くなどが抑制される。このため、最終的に得られる太陽電池の品質の低下を抑制することができ、高い変換効率の有する太陽電池を得ることができる。
【0076】
本実施形態の成膜装置10によりCIGS膜を形成した後、基板Zについて、CIGS膜上に、例えば、CdSバッファ層を50nmの厚さにCBD法(化学析出法)により成膜し、このCdSバッファ層の表面に、例えば、ZnO層を50nmの厚さにスパッタ法により形成する。さらに、このZnO層上に、透明電極層として、例えば、Al−ZnO層を300nmの厚さにスパッタ法により形成する。そして、Al−ZnO層の表面に、取出し電極として、例えば、Al層を蒸着法により形成する。このようにして、太陽電池を得ることができる。なお、太陽電池のCIGS層よりも上層の構成は、上述の構成に、特に限定されるものではない。
【0077】
本実施形態の成膜装置10においては、供給室12および巻取り室20を、内部が真空にされる成膜チャンバ11内に設けたが、これに限定されるものではない。例えば、供給室12および巻取り室20の少なくとも一方を、成膜チャンバ11に対して、真空分離可能な機構を有する構成であってもよい。これにより、基板ロール22の取り付け、またはCIGS膜形成後に巻き取られた基板Zの取り外しを大気中ですることができ、作業性を高めることができる。
【0078】
次に、成膜装置10によるCIGS層の形成方法について説明する。
先ず、図2に示すように最表面に裏面電極78が形成された長尺状の基板Zの基板ロール22を回転軸24に装着する。
次に、基板Zが基板ロール22から引き出され、ガイドローラ26、第1の成膜室14の搬送ローラ46およびガイドローラ34、第2の成膜室16の搬送ローラ46およびガイドローラ34、第3の成膜室の搬送ローラ46およびガイドローラ34、冷却ローラ60、ガイドローラ54および冷却ローラ62、ならびに巻取り室20のガイドローラ64a、64bを経て巻取り軸68に至る所定の搬送経路で挿通される。
また、第1の成膜室14の成膜部30、第2の成膜室16の成膜部30および第3の成膜室の成膜部30の各蒸着源30C、30G、30I、30Sに成膜材料が充填され、さらに、Se蒸着部50の蒸着源31SにSeが充填される。
【0079】
基板Zが所定の搬送経路で挿通され、成膜材料等の充填が終了したら、成膜チャンバ11を閉塞して真空排気手段28、40および66を駆動する。第1の成膜室14の成膜部30、第2の成膜室16の成膜部30および第3の成膜室の成膜部30においては、各蒸着源30C、30G、30I、30Sにおける成膜材料の加熱を開始する。
この場合、銅(Cu)の蒸着源30Cの温度を、例えば、1300℃、インジウム(In)の蒸着源36Iの温度を、例えば、930℃、ガリウム(Ga)の蒸着源30Gの温度を、例えば、1015℃、セレン(Se)の蒸着源30Sの温度を、例えば、270℃に加熱する。
【0080】
さらには、加熱手段32による基板Zの加熱を開始する。この場合、加熱手段32では、第1のヒータ32aおよび第2のヒータ32bにより、基板Zを、例えば、温度550〜600℃に加熱する。また、加熱手段により、加熱壁36を温度180℃以上にし、冷却手段により、冷却壁38を温度80℃以下にする。
【0081】
また、Se蒸着部50では、蒸着源31Sの加熱、および温度調整手段52による基板Zの加熱を開始する。この場合、温度調整手段52では、第1の冷却ユニット52aにより、基板Zの温度が、例えば、350℃になるように調整し、第2の冷却ユニット52bにより、基板Zの温度が、例えば、250℃になるように調整する。
また、加熱手段により、加熱壁56を温度180℃以上にし、冷却手段により、冷却壁58を温度80℃以下にする。
更には、搬送ローラ46を、例えば、温度550〜600℃に加熱する。冷却ローラ60を、冷却ローラ60により基板Zの温度が、例えば、350℃になるように調整し、冷却ローラ62を、冷却ローラ62により基板Zの温度が、例えば、250℃になるように調整する。
【0082】
供給室12、第1の成膜室14、第2の成膜室16、第3の成膜室18、巻取り室20内の圧力が安定し、かつ各蒸着源30C、30G、30I、30S、Se蒸着部50の蒸着源31Sの温度、加熱手段32の温度、温度調整手段52の温度が安定したら、基板Zの搬送を開始する。基板Zの搬送速度が安定した時点で、第1の成膜室14の成膜部30、第2の成膜室16の成膜部30および第3の成膜室の成膜部30の各蒸着源30C、30G、30I、30Sのシャッタを開放して、多元同時蒸着法により、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を所定の蒸着量で、基板ZへのCIGS膜の成膜を開始する。
【0083】
基板ロール22から送り出された基板Zは、供給室12から第1の成膜室14に長手方向(搬送方向a)に搬送されつつ、加熱手段32により550〜600℃に加熱され、CIGS膜形成部48の成膜部30により、多元同時蒸着法で裏面電極78を覆うようにCIGS膜を形成する。
次に、基板Zは、第2の成膜室16に搬送ローラ46を介して搬送される。第2の成膜室16においても、第1の成膜室14と同様に基板Zが長手方向(搬送方向a)に搬送されつつ、加熱手段32により550〜600℃に加熱され、CIGS膜形成部48の成膜部30で、多元同時蒸着法により、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を所定の蒸着量で、第1の成膜室14で形成されたCIGS膜の上に更にCIGS膜を形成する。
【0084】
次に、基板Zは、第3の成膜室16に搬送ローラ46を介して搬送される。第3の成膜室16においても、第1の成膜室14と同様に基板Zが長手方向(搬送方向a)に搬送されつつ、加熱手段32により550〜600℃に加熱され、第3の成膜室16のCIGS膜形成部48の成膜部30で、多元同時蒸着法により、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を所定の蒸着量で第2の成膜室16で形成されたCIGS膜の上に更にCIGS膜を形成する。
【0085】
本実施形態においては、真空成膜部30に、Cuの蒸着源30C、Inの蒸着源30I、Gaの蒸着源30G、およびSeの蒸着源30Sを配列して、基板Zに対し、4つの蒸着源から、同時に、所定の蒸着量で真空蒸着を行うことによりCIGS膜を成膜する。
【0086】
また、光電変換層の形成方法として、例えば、第1の成膜室14のCIGS膜形成部48と、第2の成膜室16のCIGS膜形成部48と、第3の成膜室18のCIGS膜形成部48とで、それぞれ各蒸着源30C、30G、30I、30SによるCu、In、Gaの蒸着量を変える。これにより、CIGS膜の厚さ方向についてGaの組成を変化させて、シングルグレーデッドバンドギャップ構造、またはダブルグレーデッドバンドギャップ構造の光電変換層を得ることができる。
なお、成膜するCIGS膜の膜厚は、例えば、膜厚が1〜3μmであるが、特に限定はなく、例えば、太陽電池等の構成およい要求性能等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0087】
次に、基板Zが冷却ローラ60により冷却されつつ長手方向(搬送方向a)にSe蒸着部50に搬送される。
Se蒸着部50においては、第1の冷却ユニット52aにより、基板Zの温度が、例えば、350℃に冷却され、第2の冷却ユニット52bにより、基板Zの温度が、例えば、250℃に冷却された状態で、CIGS膜にSeだけが供給される。これにより、CIGS膜から脱離したSeが供給されて欠陥の発生が抑制される。そして、基板Zが、冷却ロール62により巻取り室20に搬送される。
巻取り室20に搬送された基板Zは、冷却部63で冷却されつつ、ガイドローラ64a、64bによって、所定の搬送経路で搬送され、巻取り軸68によって巻き取られる。このようにして、光電変換層となるCIGS膜が基板Zの裏面電極78の表面78aに形成される。
【0088】
本実施形態の成膜装置10の成膜方法によれば、CIGS膜を形成する際に、加熱壁36を180℃以上とし、CIGS膜を形成した場合、加熱壁36へのSeの付着が抑制され、ひいては成膜チャンバ11内にSeが付着することが抑制される。これにより、Seの利用効率が高くなり、成膜に必要なSeの量を減らすことができる。このため、歩留まりが向上し、コストダウンを図ることができる。さらには、加熱壁36へのSeの付着が抑制されることから、加熱壁36からSeを取り除く必要がなく、メンテナンス性を向上させることができる。
【0089】
また、冷却壁38を80℃以下としているため、マスク80を超えたSe蒸気を、冷却壁38に付着させて安定したSe膜にすることができる。このため、Seが粉塵となって飛散することが抑制され、基板Zの裏面、その他、冷却壁38内部、更には成膜チャンバ11内にSeが付着することが抑制される。これにより、冷却壁38からSeを取り除く頻度が少なくなり、メンテナンス性を向上させることができる。しかも、基板Zの裏面に、Seが付着しないことから、基板Zが鉄系材料である場合、基板Zの裏面の腐食が防止される。
このように、180℃以上の加熱壁36と、80℃以下の冷却壁38とを有することにより、特に、CIGS膜を形成するために融点が低いSeを共蒸着する際、このSeを成膜に有効に用いることができ、かつ汚染源となることを抑制することができる。
【0090】
さらには、80℃以下に温度調節したマスク80を設けることにより、Seがマスク80に付着して、基板Zの裏面に回り込むことが抑制される。このため、基板Zが鉄系材料である場合、Seによる基板Zの裏面の腐食が防止され、更には基板Zの巻取りの際等のハンドリング時にCIGS膜が傷つくことも抑制される。また、基板Zの裏面に回り込むことが抑制されることにより、後工程の成膜工程等で密着性等の膜質を劣化させることもなく、更には搬送ローラ等にSeが付着することも抑制されるため、成膜チャンバ11内の汚染を抑制することができる。
このように、本実施形態においては、Seを成膜に有効に用いることができ、かつ汚染源となることを抑制することができることから、例えば、数百mの基板ZにCIGS膜を、長時間にわたり形成する場合、特に有効である。
なお、図5(b)に示すマスク80a、図5(c)に示すマスク85であっても、成膜工程において、上述のマスク80と同様の効果を得ることができる。
【0091】
上述のように、成膜チャンバ11内に加熱壁36および冷却壁38を設けることにより、CIGS成膜部48、Se蒸着部50の外部へのSeの飛散が抑制される。このため、CIGS成膜部48、Se蒸着部50の外部はSe濃度が低い空間となり、冷却ロール60、62、および加熱ロールとして機能する搬送ロール46等は、Se濃度の低い空間に設置されることになる。これにより、搬送ロール46および冷却ロール60、62へのSeの付着が抑制されて、搬送ロール46および冷却ロール60、62のメンテナンス頻度を低減することができ、メンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0092】
また、冷却壁38によって形成されるSe濃度の低い空間に、第2の排気口44を設け、この第2の排気口44を介して、蒸着中の真空排気を行うことにより、排気中のSe量を削減することができる。これにより、更なるSe量を削減することができ、真空排気ポンプ等の真空排気手段のメンテナンスサイクルを長くできる。このように、メンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0093】
なお、成膜チャンバ11内を大気から真空引きを行う際、加熱壁36に設けられた第1の排気口42を介して荒引きを行うことにより、加熱壁36はSeの付着が抑制されるものであるため、基板ZへのSeの塵埃等の付着量を低減することができる。
このようなことから、成膜状況に応じて、第1の排気口42および第2の排気口44のいずれかから排気手段40で排気できるように、バルブ等の排気の切替手段を有することが好ましい。
【0094】
また、真空成膜部30による、CIGS膜の成膜方法は、特に限定されるものではなく、公知の成膜方法、例えば、多源同時蒸着法、バイレイヤー法を用いることができる。
多源同時蒸着法は、複数種の成膜材料を、同じ成膜空間に配置された異なる蒸着源(蒸発源)に充填して、異なる成膜材料を充填する複数の蒸着源から、真空蒸着によって同時に成膜を行う方法である。
【0095】
多源同時蒸着法としては、3段階法(J.R.Tuttle et.al,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.等)や、ECグループの同時蒸着法(L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.等)も知られている。3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、及びSeを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着する方法である。後者のECグループの同時蒸着法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着する方法である。
【0096】
バイレイヤー法は、第1段階でCu、In、Ga、Seの4元素を蒸着し、引き続く第2段階においてはCuを除いたIn、Ga、Seの3元素を蒸着してCIGS膜を成膜する方法である。この場合、例えば、第1の成膜室14、第2の成膜室16のCIGS膜形成部48で、Cu、In、Ga、Seの4元素を蒸着し、第3の成膜室18のCIGS膜形成部48で、Cuを除いたIn、Ga、Seの3元素を蒸着する。
【0097】
なお、CIGS膜の形成方法として、上記以外にも、セレン化法、スパッタ法、ハイブリッドスパッタ法、および、メカノケミカルプロセス法、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、スプレー法等を用いることができる。
【0098】
セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層または(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プリカーサをスパッタ法、蒸着法、または電着法などで成膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1-xGax)Se2等のセレン化合物を生成する方法である。
このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法も知られている。
【0099】
スパッタ法としては、CuInSe2多結晶をターゲットとした方法、Cu2SeとIn2Se3をターゲットとし、スパッタガスにH2Se/Ar混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic SpecialistsConf.(1985)1655-1658.等)、および、Cuターゲットと、Inターゲットと、SeまたはCuSeターゲットとをArガス中でスパッタする3源スパッタ法(T.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)が知られている。
【0100】
ハイブリッドスパッタ法としては、前述のスパッタ法において、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)が知られている。
【0101】
メカノケミカルプロセス法は、CIGSの組成に応じた原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得、その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施して、CIGSの膜を得る方法である(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)。
【0102】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の成膜装置および太陽電池について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の成膜装置の実施例について具体的に説明する。
本実施例では、以下に示すフレキシブル基板を用いた。フレキシブル基板においては、SUS430のフェライト系ステンレス鋼の鋼基材に純度が4NのAl基材が形成された基体を用いた。鋼基材は長さが500mであり、厚さが50μmである。また、Al基材の厚さは15μmである。なお、基体は、Al基材を鋼基材にロール・ツー・ロール方式の加圧接合装置を用いて形成したものである。
【0104】
基体について、鋼基材が直接溶液に触れないようにするために、鋼基材の裏面および側面に保護シートを、ロール・ツー・ロール方式の貼付装置を用いて貼り付けた。その後、ロール・ツー・ロール方式の陽極酸化処理装置を用いて、0.1Mのシュウ酸を温度16℃に調整した溶液に、基体をAl対向電極とともに浸漬し、40Vの直流電圧を印加して、基体のAl基材を陽極酸化し、絶縁層として、厚さが約10μmの陽極酸化膜を形成した。
そして、ロール・ツー・ロール方式の真空成膜装置を用いて、陽極酸化膜上に、Mo金属膜を500nmの厚さにDCスパッタ法により形成した後、レーザスクライブまたはメカニカルスクライブにより分離溝を形成して裏面電極とした。このように形成した、Mo金属膜(500nm)/陽極酸化膜(10μm)/Al材(15μm)/フェライト系ステンレス鋼材(50μm)の構造のフレキシブル基板を用いた。
【0105】
上述のフレキシブル基板を用いて、下記に示す実施例1〜4、および比較例1、2のようにして、CIGS膜を形成した。
実施例1においては、図1に示す成膜装置10を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、実施例1では、マスク80の温度を80℃とし、加熱壁および冷却壁については温度制御しなかった。
実施例2においては、図1に示す成膜装置10を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、実施例2では、マスク80の温度を180℃とし、加熱壁および冷却壁については温度制御しなかった。
【0106】
実施例3においては、図1に示す成膜装置10を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、実施例3では、図5(c)に示す2層構造のマスク88とした。基板側のマスク80の温度を80℃とし、残りのマスク85の温度を180℃とした。また、加熱壁および冷却壁については温度制御しなかった。
実施例4においては、図1に示す成膜装置10を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、実施例4では、マスクを2層構造のものとした。基板側のマスクの温度を180℃とし、残りのマスクの温度を80℃とした。また、加熱壁および冷却壁については温度制御しなかった。
【0107】
比較例1においては、図1に示す成膜装置10を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、比較例1では、マスク80の温度制御はせず、さらに加熱壁および冷却壁についても温度制御しなかった。
比較例2においては、図1に示す成膜装置10からマスクを取り除いた構成の成膜装置を用いて、長さ500mのフレキシブル基板上にインラインで、基板温度を550℃として、CIGS膜を形成した。なお、比較例2では、加熱壁および冷却壁について温度制御しなかった。
【0108】
上記実施例1〜4および比較例1、2について、基板の裏面側へのSeの回り込み、基板の裏面へのSeの付着、形成したCIGS膜の膜面均一性およびCIGS膜の膜面デブリについて評価した。
基板の裏面側へのSeの回り込みは、冷却壁に付着した付着物の有無を確認し、付着物がある場合には、その厚さにより相対的に評価した。その結果を下記表1の「Se回り込み」の欄に示す。なお、冷却壁に付着物がわずかにあった場合を「△」とし、冷却壁に付着物が多い場合を「×」とし、冷却壁に付着物がない場合を「○」とした。
基板の裏面へのSeの付着は、基板の裏面に付着した付着物の有無を確認し、付着物がある場合には、その厚さにより相対的に評価した。その結果を下記表1の「基板裏面付着」の欄に示す。なお、基板裏面に付着物がわずかにあった場合を「△」とし、基板裏面に付着物が多い場合を「×」とし、基板裏面に付着物がない場合を「○」とした。
【0109】
CIGS膜の膜面均一性は、実施例1〜4および比較例1、2の各CIGS膜について、基板の幅方向における膜厚の均一性を相対的に評価した。その結果を下記表1の「膜面均一性」の欄に示す。なお、膜面均一性は、最も均一性が優れていたものから順に「◎」、「○」、「△」、「×」とした。
CIGS膜の膜面デブリは、CIGS膜の表面に付着した、成膜に寄与していない付着物(デブリ)の有無を確認し、この付着物がある場合には、その量により相対的に評価した。その結果を下記表1の「膜面デブリ」の欄に示す。なお、膜面デブリは、CIGS膜の表面に付着物がわずかにあった場合を「○」とし、基板裏面に付着物が多い場合を「×」とし、基板裏面に付着物がない場合を「◎」とした。
【0110】
【表1】

【0111】
上記表1に示すように、実施例1〜3は、基板の裏面側へのSeの回り込みがなく、基板の裏面へのSeの付着もなく、膜面均一性および膜面デブリについても良好な結果が得られた。特に、実施例3は、基板側のマスクの方が温度が低く、基板に回り込んでくるSeを、基板側のマスクに付着させることができる。このため、基板の幅方向の端部の膜厚の均一性が優れるとともに、膜面デブリについても最も良い結果が得られた。
真空成膜部側のマスクの温度が低い実施例4は、基板の裏面側へのSeの回り込みがなく、基板の裏面へのSeの付着もなく、膜面デブリについても良好な結果が得られたものの、基板裏面に僅かにSeが付着した。
【0112】
これに対して、比較例1はマスクがあるものの、温度調節していないため、基板の裏面側にSeが回り込みやすくなり、基板の裏面へのSeの付着を抑制することができなかった。さらに、比較例1は、マスクにSeが付着してしまい、成膜のための蒸気が基板の端部にあたりにくくなり、膜面均一性が悪くなった。また、マスクに付着したSeにより、CIGS膜に多くの付着物が堆積し、CIGS膜に傷がついた。
比較例2は、マスクがないため、基板の裏面側へのSeの回り込み、基板の裏面へのSeの付着のいずれも防ぐことが出来なかった。しかも、比較例2は、膜面均一性が最も悪かった。
【符号の説明】
【0113】
10 成膜装置
11 成膜チャンバ
12 供給室
14 第1の成膜室
16 第2の成膜室
18 第3の成膜室
20 巻取り室
28、40、66 真空排気手段
30 真空成膜部
32 加熱手段
34 ガイドローラ
36 加熱壁
38 冷却壁
42 第1の排気口
44 第2の排気口
48 CIGS膜形成部
50 Se供給部
52 温度調整手段
70 鋼基材
72 アルミニウム基材(Al基材)
76 絶縁層
78 裏面電極
80、80a、88 マスク
Z 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜チャンバ内に基材を搬送する搬送手段と、
前記成膜チャンバ内を所定の真空度にする真空排気手段と、
前記搬送される基材に光電変換層を形成する真空成膜手段と、
前記基材において前記光電変換層が形成される側の面における前記搬送方向と直交する幅方向の両端に、前記搬送方向に沿って設けられた、温度調節機能を備えたマスクとを有し、
前記搬送手段により前記基材が搬送されて前記真空成膜手段により前記基材に前記光電変換層が形成されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記マスクは、前記基材の厚さ方向に対して積層して設けられている請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記マスクは、2つ設けられている請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記2つのマスクのうち、前記基材側のマスクよりも他のマスクの方が温度が高い請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基材は、長尺状で、ロール状に巻回されたものであり、
前記搬送手段は、巻回された前記基材を巻き出す巻き出しローラ、および前記真空成膜手段により前記光電変換層が形成された基材をロール状に巻き取る巻取りローラを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記真空成膜手段は、真空蒸着法を用いるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記真空成膜手段は、少なくともセレンの蒸着源を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記真空成膜手段は、少なくとも銅の蒸発源、インジウムの蒸発源、およびガリウムの蒸発源を有する請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基材は、最表面に金属膜が形成された可撓性を有するものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の成膜装置を用いて光電変換層が形成されたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12662(P2012−12662A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150234(P2010−150234)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】