説明

成膜装置とその蒸発源装置、並びに、その蒸発源容器

【課題】効率的にEL材料を気化・蒸発することが可能であり、高品質でかつ高レートで供給することが可能な、成膜装置と蒸発源装置、更には、蒸発源容器を提供する。
【解決手段】真空内において被蒸着基板表面に蒸着材料を被覆する成膜装置において使用する蒸発源装置20は、その外部にヒータを備えると共に、その内部に空間を形成して複数の蒸発源容器220を垂直方向に積層して収納するヒータケース210を備えており、各蒸発源容器220は、断面略「U」の字状に形成し、略中央部にガス放出用の貫通孔222を形成するように取り囲んで形成された高熱伝導材料からなる容器221と、容器の上面開口を覆う高熱伝導材料からなる蓋体と、そして、容器内で発生した蒸着材料のガスを隙間からガス放出用の貫通孔に導き、上記ヒータケース210の上部に設けた案内部212に集め、噴出穴213を介して被蒸着基板の表面に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置や蒸発源装置に係わり、特に、有機ELデバイスなどの製造に好適な成膜装置、蒸発源装置、更には、その蒸発源容器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスを製造するために有力な方法として、真空蒸着法がある。かかる真空蒸着法を利用して有機ELデバイスを製造する場合、特に、ガラス板などの被蒸着基板の表面に電極で挟まれた発光材料層(EL層)を形成するための成膜装置では、真空室内において、当該被蒸着基板に対向する位置に配置され、互いにその位置を移動しながら加熱して気化したガス状(又は、蒸気状)のEL材料を基板表面に蒸着する成膜装置が広く用いられている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、簡単な構成により安定したガス状のEL材料を供給することが可能な坩堝の構造が開示されており、オリフィスでの圧力を制御することにより、安定した蒸気の供給を可能にすることが記載されている。
【0004】
また、以下の特許文献2では、異なる材料を被蒸着基板の表面に供給するための蒸着装置が開示されており、複数(2個)の蒸発用容器を備え、そして、各容器内で保持された蒸発材料を、同心状に配置した異なるノズルによってガラス基板上に蒸着することが記載されている。
【0005】
加えて、以下の特許文献3では、蒸発源である坩堝から蒸着マスクへの放射熱の悪影響を軽減し、即ち、蒸着マスクの熱膨張を抑制する構造と共に、長手方向に伸びた坩堝の上面に複数の孔を設けることにより、被蒸着基板の下側表面に蒸着材料を蒸着する蒸着装置が開示されている。
【0006】
更に、以下の特許文献4では、上記特許文献3と同様、長手方向に伸びた坩堝である蒸着源容器を、平行に、複数個並べ、もって高レートで蒸着材料を蒸着することが可能な蒸着源を提案している。
【0007】
また、以下の特許文献5では、真空蒸着装置において、抵抗加熱蒸着法により昇華性蒸着材料を蒸発源により加熱する際、加熱によって固形化する昇華性蒸着材料を破裂されることがないよう、蒸発源容器に、昇華性蒸着材料を仕切って収容するための仕切りを設けたものが開示されている。
【0008】
また、以下の特許文献6では、大面性の薄膜を均一に形成するため、蒸着ソースの溝をカバーするように装着された多数のホールを有するマスクを利用する薄膜形成装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-186787号公報
【特許文献2】特開2005-336527号公報
【特許文献3】特開2004-214185号公報
【特許文献4】特開2007-46100号公報
【特許文献5】特開2004-68081号公報
【特許文献6】特開2003-160855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、有機ELデバイスの製造に必要な薄膜物質、即ち、EL材料を蒸発源容器である坩堝内において加熱し、気化したガス(又は、蒸気)を供給する場合、非常に高価で熱劣化を生じやすい材料であることから、当該EL材料を容器内に残すことなく、その全部を気化して供給することが望まれており、また、特に、近年における大形の基板に対するEL材料の蒸着では、蒸着材料の熱的なダメージを最小限にとどめて高レートで気化させることが必要となっており、そのためには、蒸発源容器内に充填した蒸着材料全体に効率良く熱伝達を行い、低温加熱で高レートが得られる蒸着材料の気化手段が望まれている。
【0011】
これに対して、上述した従来技術では、例えば、上記の特許文献4では、上記特許文献3と同様、長手方向に伸びた坩堝を、平行に、複数個並べて高レートで蒸着材料を蒸発することが記載されているものの、しかしながら、その何れも坩堝における蒸着材料への熱伝達の効率化を図って高レートで蒸着材料を蒸発するための構造については提案していない。
【0012】
そこで、本発明では、上述した従来技術におけるも問題点に鑑み、高価であると共に加熱によって材料が劣化し易いことから、比較的低温で加熱しても容器内に残留する量が少なく、即ち、効率的に蒸着材料を気化・蒸発することが可能であり、かつ、その際にも加熱温度を過度に上昇させることなく、長期間にわたり高純度かつ高レートな成膜処理が可能な、成膜装置と蒸発源装置と共に、更には、そのための新規な蒸発源容器の構造を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、まず、真空内において被蒸着基板表面に蒸着材料を被覆する成膜装置であって、真空室と、前記真空室内において、前記蒸着材料を加熱して当該蒸着材料のガスを発生する手段と、前記ガスを発生手段からの蒸着材料のガスを、前記被蒸着基板の表面に供給する蒸発源装置を備えており、前記蒸発源装置は、複数の蒸発源容器を、1以上、垂直方向に積層して構成されている成膜装置が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、やはり上記の目的を達成するため、成膜装置の蒸発源装置であって、内部に空間を形成し、かつ、その外部に発熱手段を取り付けたヒータケースと、前記ヒータケースの空間内において、垂直方向に積層されて収納される1以上の蒸発源容器を備えており、前記蒸発源容器は、各々、その中央部に、当該容器内で発生した蒸着材料のガスを導くための貫通孔を有すると共に、前記ヒータケースは、その上部に形成され、前記貫通孔を介して前記蒸発源容器から集めた蒸着材料のガスを集めて所定の方向に供給するための案内部を備え、かつ、当該案内部の一部に、当該蒸着材料のガスを所定の方向に供給するための開口部を備えている蒸発源装置が提供される。なお、本発明では、上記の蒸発源装置において、前記開口部が前記開口部の側壁に形成されていることが好ましく、又は、前記ヒータケースの空間内で垂直方向に積層されて収納された1以上の蒸発源容器は、水平方向にも複数並べて配置されていることが好ましい。
【0015】
更に、本発明によれば、やはり上記の目的を達成するため、蒸発源装置の坩堝体を構成する蒸発源容器であって、断面略「U」の字状に形成され、かつ、略中央部にガス放出用の垂直方向の貫通孔を形成するように当該貫通孔を取り囲んで形成された、高熱伝導材料からなる容器と、前記容器の上面開口を覆う、高熱伝導材料からなる蓋体と、そして、少なくとも前記坩堝及び前記蓋体の一方に形成され、前記容器内で発生した蒸着材料のガスを前記貫通孔に導くための隙間部を備えている蒸発源容器が提供される。なお、本発明では、上記の蒸発源容器において、前記容器の上面開口部に前記蓋体が落とし込まれていることが、又は、前記容器が、積み重ねた下部の容器の蓋体を兼ねていることが、又は、前記断面略「U」の字状に形成された前記容器により取り囲まれて形成される垂直方向の前記貫通孔は、水平方向に延びて形成されていることが、又は、前記断面略「U」の字状に形成した容器は、その内部を複数の部屋に分割するための隔壁を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
即ち、上述した本発明になる成膜装置、蒸発源装置、そして、そのための蒸発源容器によれば、比較的簡単な構造により、高価なEL材料を、残留量を少なく効率的に加熱・気化し、かつ、加熱温度を上昇させることなく、高品質でかつ高レートで供給することが可能となり、こられを利用することにより、性能に優れた有機ELデバイスを効率よく、安価かつ大量に製造することが可能となるという、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態である成膜装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】上記成膜装置におけるプレートの移動機構の一例を示す部分斜視図である。
【図3】上記成膜装置における蒸発源装置の移動機構の一例を示す断面及び平面図である。
【図4】本発明になる蒸発源装置の全体構造を示す一部断面を含む斜視図である。
【図5】上記蒸発源装置を構成する本発明になる蒸発源容器の全体構造を示す展開斜視図である。
【図6】その使用方法について説明するため、上記蒸発源装置のヒータケース内に収容した状態の上記蒸発源容器の断面図である。
【図7】上記蒸発源容器の変形例を示す断面図である。
【図8】上記蒸発源容器の他の変形例を示す断面図である。
【図9】上記蒸発源容器の更に変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0019】
まず、添付の図1は、有機ELデバイス製造装置における、特に、ガラス板などの被蒸着基板の表面に電極で挟まれた発光材料層(EL層)を形成するための装置である、所謂、成膜装置の概略構成を示した断面図である。図において、符号10は、真空チャンバを示しており、この真空チャンバ10の内部は、10−3〜10−5Pa台の真空度を保った成膜室11として形成されている。そして、例えば、他の工程においてその表面に電極を形成した後、被蒸着基板100が、真空チャンバ10の一部(本例では、図の左下部)に設けられてゲートバルブ12を介して、当該成膜室11内に導入され、図にも示すように、プレート13上に搭載されると共に、保持機構14によりその上に保持される。なお、このプレート12の基板が搭載される面とは反対側の面には、マグネット・冷却プレート15が搭載されており、当該マグネット・冷却プレート15には、例えば、水などの冷媒が流され、反対側の面に搭載された基板100を冷却することが出来るようになっている。
【0020】
その後、成膜室11内では、図に矢印で示すように、基板100は、プレート13上に保持された状態で、以下に図示する移動機構によって、所定の位置(本例では、基板100はプレート13と共に立ち上がって直立状態となる位置)まで移動される。なお、図の符号16は、上記真空チャンバ10の一部(上下)に配置され、基板100の配列状態を確認するためのアラインメントカメラを示している。
【0021】
そして、図からも明らかなように、上述した状態では、後にその詳細構造を説明する蒸発源装置20が、上記基板100に対向して位置しており、そして、以下に図示する移動装置により上下方向に移動しながら、有機ELデバイスの発光材料層(EL層)を形成するための気化した(ガス状の)EL材料を当該基板100の表面に供給し、もって、被蒸着基板100の表面に必要なEL層を形成することとなる。なお、図の符号17は、EL材料の蒸着時に基板100の表面に配置されるフレームとシートを含むマスクと、そして、当該マスクの冷却プレートからなる部材(以下、単に「マスク冷却プレート17」と言う)を示している。
【0022】
なお、本装置で製造する有機EL発光素子は、陽極と陰極の間に形成される発光有機層を主に3つの基本構造に大別できる。それは、(1)陽極−正孔輸送層−発光層−陰極で構成されるシングルへテロ構造、(2)陽極−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−陰極で構成されるダブルへテロ構造、(3)陽極−正孔注入層−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−電子注入層−陰極で構成されるPIN構造である。
【0023】
以下では、前の工程で透明な陽極を形成した所謂ボトムエミッションと呼ばれている素子の製作について説明する。
【0024】
基板上には事前に陽極を形成しておく。陽極としては仕事関数の大きな材料が使用可能で、IPO(インジウム・スズ酸化物)又はIZO(インジウム・亜鉛酸化物)などの薄膜で透明な膜材料が好ましい。
【0025】
最も単純なシングルへテロ構造の場合、基板に形成した陽極である透明電極上に正孔輸送層と発光層の順にそれぞれ真空蒸着により薄膜を積層し、最後に蒸着又はスパッタで陰極を積層する。この時の正孔輸送層の構成材料は有機材料を用い、例えば、α−NPB、PVK(poly(N-vinyl carbazole)、STB、PDA、CuPc(Phthalocyanine Copper)、トリフェニルアミン誘導体TPAC(1,1-Bis[4-[N,N-di(p-tolyl)amino]phenyl]cyclohexane)、ジアミン誘導体TPD(N,N’-diphenyl-N,N’-(3-methylphenyl))等が挙げられる。発光層の構成材料も有機材料で、例えば、ビス(ベンゾキノリノトラ)ベリリウム錯体Bebq2、アルミニウム錯体Alq3(tris(8-quinolinolate)aluminum)等が挙げられ、発光色を調整するために他のゲスト材料と共蒸着してもよい。
【0026】
陰極には、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、リチウム、カルシウム、セシウムなどの金属材料が使用可能で、単独又は共蒸着で陰極膜を形成する。これらの金属材料はスパッタで成膜しても構わない。
【0027】
ダブルへテロ構造では、シングルへテロ構造の発光層と陰極の間に電子輸送層が追加される。この電子輸送層の材料は、例えば、TPOB、Alq3、オキサジアゾール誘導体PBD(2-(4-biphenylyl)-5-(4-tert-butylohenyl)-1,3,4-oxadiazole)、1,2,3-トリアゾール誘導体TAZ、OXD、BND(2,5-Bis(1-naphthyl)-1,3,4-oxadiazole)、Bath、亜鉛ゼンゾチアゾール錯体Zn(BTZ)、シロール誘導体等の有機材料が挙げられる。
【0028】
PIN構造の場合、陽極と正孔輸送層の間に正孔注入層、陰極と電子輸送層との間に電子注入層が追加される。これらもまた有機材料であり、真空蒸着で形成される。
【0029】
正孔注入層を構成する材料としては、例えば、
m-MTDATA(4,4’,4”-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine),
1-TNATA((4,4’,4”-tris(1-naphthylphenylamino)triphenylamine)
2-TNATA((4,4’,4”-tris(2-naphthylphenylamino)triphenylamine) 等が挙げられる。
【0030】
電子注入層を構成する材料として、例えば、LiF, CsBr(臭化セシウム),BCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)等が挙げられる。また、アルミニウムとリチウムの共蒸着により電子注入層を形成しても良い。
【0031】
次に、添付の図2には、上述したプレート12の移動機構(具体的には、回動機構)の一例が示されている。図において、この回動機構は、上記マグネット・冷却プレート15の側面に固定されたアーム部42と、当該アーム部の一端に固定された回転シャフト41を備えており、当該回転シャフトは、真空シール部93Sを介して、真空チャンバ10の外部(大気側)へ伸び、更に、大気側に設けられた旋回用モータ93Mと、歯車93H1、93H2を介して、図の矢印Aの方向に旋回可能となっている。なお、この図中において、符号43、44は、上記マグネット・冷却プレート15に冷却水を導くための冷却水管を、そして、60は、旋回用モータ93Mを制御するための制御装置である。
【0032】
また、添付の図3には、成膜室11内において、上記蒸発源装置20を上下方向に移動するための移動機構の一例を示す。なお、図3(A)は、基板100や蒸発源装置20を含む移動機構の断面図であり、図3(B)は、当該図3(A)における矢印Bの方向から見た移動機構の平面図である。
【0033】
これら図からも明らかなように、蒸発源装置20は、上下方向にガイドするための一対のレール76、76に対して摺動可能に保持されており、そして、接続部73により連結された一対のリンク51と52からなる上下駆動手段72によって上下方向に駆動される。即ち、上下駆動手段72は、大気側に設けられた駆動モータ72M、同モータにより回転駆動され、かつ、シール部72Sにより真空シールされた回転部72C、当該回転部に固定されて同期して回転するボールネジ72P、そして、蒸発源装置20に固定され、ボールネジ72Pの回転により蒸発源装置を上下に走行する案内ガイド72Gなどから構成されている。
【0034】
特に、図3(A)は、真空シールの一例、即ち、リンク51とリンク52との接続部53の真空シールの構成を示しており、この図において、接続部53では、ここでは図示しないが、一方のリンク51が他のリンク52に対し、例えば、クロスローラベアリングにより回転可能に保持され、かつ、パッキンやガスケット(Oリング)により真空シールされ、もって、その内部に中空の回転部を形成している。かかる機構によれば、真空側と大気側とが完全に遮断され、そして、当該中空部を介すことにより、配線54を真空チャンバ10内に敷設することを可能としている。
【0035】
即ち、蒸発源装置20は真空雰囲気中にあり、そして、以下にも述べる複数個の蒸発源容器と共に、蒸着材料を加熱するためのヒータ71H、蒸発温度を検知する温度センサ71Sを有している。一方、大気雰囲気中に配置された制御装置60は、上述した配線54を介して、温度センサ71Sからの温度検出信号を入力し、もって、所望の蒸発速度で、蒸発源装置20から気化した(ガス状の)EL材料を安定して得られるよう、ヒータ71Hに対して供給する電力(加熱温度)を制御する。
【0036】
続いて、添付の図4には、上述した蒸発源装置20の全体構造を示すため、その一部断面を含む斜視図が示されている。なお、この図からも明らかなように、蒸発源装置20は、被蒸着基板100の幅W(図2を参照)とほぼ同様の、又は、それよりも僅かに大きな幅W’(W’≧W)を有しており、その周囲には、ここでは図示しないヒータ71H(図3や図6を参照)が取り付けられたヒータケース210と、当該ヒータケースの内部に収納された複数の蒸発源容器220、220…とから構成されている。
【0037】
なお、このヒータケース210は、例えば、銅やステンレスやアルミニウムなどの熱伝導性に優れた金属材料からなる形成されており、その内部には、上述した複数の蒸発源容器220、220…を積み重ねて収納する空洞(空間)部211を有すると共に、その上部には、容器内で発生したガス状のEL材料を集めて所望の方向へ導く(本例では、水平方向に伸びた)案内部212が形成されている。更に、当該案内部212の側面(即ち、被蒸着基板100の表面に対向する面)には、円形の噴出穴213、213…が多数、例えば、等間隔に形成されている。即ち、この蒸発源装置20では、ヒータケース210の内部に収容された複数の蒸発源容器220、220…の各々の内部には、予め、EL材料である蒸発(蒸着)材料が収納されており、ヒータ71Hによりその周囲から加熱されて気化したガス状のEL材料が、図に矢印で示すように、ヒータケース210上部の案内部212に導かれ、その後、複数の噴出穴213、213…から被蒸着基板100の表面に向かって、供給(放出)される。
【0038】
次に、添付の図5には、上記ヒータケース210内部に収容される各蒸発源容器220が、展開斜視図により示されている。この蒸発源容器(坩堝)220は、例えば、グラファイト、モリブデン、タングステンなどに代表される、所謂、高熱伝導材料により、その断面を略「U」字状に形成し、もって、その内部に蒸発材料を収納するための容器(坩堝)221を形成しており、更に、この断面「U」字状の容器(坩堝)221は、その中央部にガス放出用の横に延びた貫通孔222を形成するように、即ち、当該貫通孔を取り囲んで、リング状に連結して形成されている。また、本例では、上記リング状に連結して形成した容器(坩堝)221の内部には仕切壁223、223…が設けられ、これによって、複数の部屋(本例では、4部屋)に分割されている。
【0039】
また、図からも明らかなように、上記容器(坩堝)221の外部の底面には、その働きについては後に述べるが、容器(坩堝)221が伸びる方向に沿って、2本の脚部224、224が形成されている。更に、上記容器221の上面には、その開口部を覆うように蓋体225が設けられている。この蓋体225も、上記容器(坩堝)221と同様に高熱伝導材料により形成されており、その外形を板状に形成すると共に、その中央部には、上記貫通孔222に対応し、より具体的には、当該貫通孔よりも大きな横長の開口226を形成している。
【0040】
続いて、上記にその構造を説明した容器(坩堝)221と蓋体225とからなる蒸発源容器220の使用方法について、以下に、添付の図6を参照しながら説明する。まず、各容器(坩堝)221の内部に粉末状の蒸発(蒸着)材料PMを収納した後、その上面に蓋体225を被せ、もって、蒸発源容器220とする。この蒸発源容器220を、上記ヒータケース210の内部において、複数、垂直方向に積み重ね、もって、上述した蒸発源装置20を構成して有機ELデバイス製造装置における上記成膜装置の真空チャンバ10内(上記図1を参照)に挿入する。なお、この図6は、上記複数の蒸発源容器220、220…をヒータケース210の内部に収容した状態を示すための一部拡大断面図である。
【0041】
この図6からも明らかなように、上述した状態においてヒータケース210のヒータ71Hに電流が給電されると、当該ヒータ71Hによる発熱は、熱伝導性に優れたケース210を介して、各蒸発源容器220を構成する、容器(坩堝)221と蓋体225に対して均一に伝達される。その結果、容器の内面(底面及び側面)からの熱の伝達、更には、蓋体の内面からの輻射熱により、各容器(坩堝)221の内部に収納した蒸発(蒸着)材料が加熱(約300〜400℃程度)されて気化し、ガス状のEL材料となる。そして、この気化したガス状のEL材料は、図に矢印で示すように、容器(坩堝)221の上に載せられた蓋体225の開口226を介して外部に放出される。そして、各蒸発源容器220から放出された気化した(ガス状の)EL材料は、当該容器の中央部に形成したガス放出用の横長の貫通孔222を介して、ヒータケース210の上部に設けられた案内部212(上記図4を参照)に導かれる。なお、この時、各蒸発源容器220内に収容される粉末状のEL材料は、当該容器の高さH(例えば、25〜30mm程度)に対し、約1/2〜1/5の高さh(例えば、5〜15mm程度)にすることが好ましい。
【0042】
以上からも明らかなように、上述した本発明の実施例になる蒸発源容器220によれば、その内部に収納された有機材料であるEL材料は、各容器(坩堝)221の内表面からの熱伝達及び蓋体225の内面からの輻射熱による加熱により、全ての面から加熱して気化することが可能となる。これにより、従来のように、容器内において高価なEL材料の一部が気化せずに残留してしまうことがなく(残留量が少なくなり)、そのため、容器(坩堝)の温度を上昇するなどの必要もなく、即ち、材料が劣化し難い比較的低温でかつ高レートで発生し、もって、良質のガス状のEL材料を、効率よく、供給することが可能となる。また、上記の蒸発源容器220は、ヒータケース210の内部において、複数を積層した状態で配置することにより、これら複数の蒸発源容器220からのガス状のEL材料を案内部212(上記図4を参照)に集めることが出来ることから、容易に、高レートの気化した(ガス状の)EL材料を得ることが可能となる。
【0043】
なお、以上の実施例においては、上記図6からも明らかなように、各容器(坩堝)221の内部で加熱・気化されたガス状のEL材料は、容器(坩堝)221の上に載せられた蓋体225の開口226を、更には、その上面に積層された容器(坩堝)221の底面に形成した脚部224によって蓋体225との間に形成される隙間(空間)を介して貫通孔222に導き、外部に放出される。しかしながら、必ずしも、かかる脚部224は形成する必要はなく、例えば、添付の図7に示すように、容器の底面に脚部を形成せず、容器(坩堝)221の内側壁に隙間227を設け、当該隙間227を介してガス状のEL材料を貫通孔222に導いて、外部に放出するようにしてもよい。
【0044】
加えて、容器(坩堝)221の底面には上述した脚部224を形成するものであるが、添付の図8にも示すように、上記図7と同様、容器(坩堝)221の内側壁に隙間227を設けることにより、当該隙間227を介してガス状のEL材料を貫通孔222に導いた後、外部(上方)に放出するようにしてもよい。又は、添付の図9にも示すように、上記蓋体225’の外輪を容器(坩堝)221の開口部よりも小さくして、所謂、落し蓋とする(落としこむ)と共に、当該蓋体225’の内端と容器(坩堝)221の内側壁との間に隙間Sを設け、もって、当該隙間26を介してガス状のEL材料を貫通孔222に導いて、外部に放出するようにしてもよい。なお、図の符号228は、上記蓋体225’を容器(坩堝)221内の所定の位置に保持するため、外側壁の内面に形成した突起部を示している。
【0045】
また、上述した実施例の説明、特に、図4に示した例では、上記蒸発源装置20を構成するヒータケース210の空洞(空間)部211には、複数の蒸発源容器220、220…を垂直方向に積層すると共に、水平(幅)方向にも2個並べて収納した構造を示したが、しかしながら、本発明はこれに限定されることなく、例えば、各蒸発源容器220の幅を延長し、1個の蒸発源容器220だけを垂直方向に積層する構造としてもよく、又は、3個又はそれ以上の蒸発源容器220を幅方向に配置し、かつ、垂直方向に積層する構造としてもよい。なお、後者の場合には、各蒸発源容器220の幅を予め所定の幅に設定し、これを、適宜、組み合われて用いることによれば、異なる幅Wを有する複数の種類の被蒸着基板100に対しても容易に対応することが可能となり、もって、優れた蒸発源装置20とすることが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
10…真空チャンバ、11…成膜室、100…基板、20…蒸発源装置、71H…ヒータ、210…ヒータケース、211…空洞(空間)部、212…案内部、213…噴出穴、220…蒸発源容器、221…容器(坩堝)、222…貫通孔、223…仕切壁、224…脚部、225…蓋体、226…開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空内において被蒸着基板表面に蒸着材料を被覆する成膜装置であって、
真空室と、
前記真空室内において、前記蒸着材料を加熱して当該蒸着材料のガスを発生する手段と、
前記ガスを発生手段からの蒸着材料のガスを、前記被蒸着基板の表面に供給する蒸発源装置を備えており、
前記蒸発源装置は、複数の蒸発源容器を、1以上、垂直方向に積層して構成されていることを特長とする成膜装置。
【請求項2】
成膜装置の蒸発源装置であって、
内部に空間を形成し、かつ、その外部に発熱手段を取り付けたヒータケースと、
前記ヒータケースの空間内において、垂直方向に積層されて収納される1以上の蒸発源容器を備えており、
前記蒸発源容器は、各々、その中央部に、当該容器内で発生した蒸着材料のガスを導くための貫通孔を有すると共に、
前記ヒータケースは、その上部に形成され、前記貫通孔を介して前記蒸発源容器から集めた蒸着材料のガスを集めて所定の方向に供給するための案内部を備え、かつ、当該案内部の一部に、当該蒸着材料のガスを所定の方向に供給するための開口部を備えていることを特徴とする蒸発源装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載した蒸発源装置において、前記開口部が前記開口部の側壁に形成されていることを特徴とする蒸発源装置。
【請求項4】
前記請求項2に記載した蒸発源装置において、前記ヒータケースの空間内で垂直方向に積層されて収納された1以上の蒸発源容器は、水平方向にも複数並べて配置されていることを特徴とする蒸発源装置。
【請求項5】
蒸発源装置の坩堝体を構成する蒸発源容器であって、
断面略「U」の字状に形成され、かつ、略中央部にガス放出用の垂直方向の貫通孔を形成するように当該貫通孔を取り囲んで形成された、高熱伝導材料からなる容器と、
前記容器の上面開口を覆う、高熱伝導材料からなる蓋体と、そして、
少なくとも前記坩堝及び前記蓋体の一方に形成され、前記容器内で発生した蒸着材料のガスを前記貫通孔に導くための隙間部を備えていることを特徴とする蒸発源容器。
【請求項6】
前記請求項5に記載した蒸発源容器において、前記容器の上面開口部に前記蓋体が落とし込まれていることを特徴とする蒸発源容器。
【請求項7】
前記請求項5に記載した蒸発源容器において、前記容器が、積み重ねた下部の容器の蓋体を兼ねていることを特徴とする蒸発源容器。
【請求項8】
前記請求項5に記載した蒸発源容器において、前記断面略「U」の字状に形成された前記容器により取り囲まれて形成される垂直方向の前記貫通孔は、水平方向に延びて形成されていることを特徴とする蒸発源容器。
【請求項9】
前記請求項5に記載した蒸発源容器において、前記断面略「U」の字状に形成した容器は、その内部を複数の部屋に分割するための隔壁を設けたことを特徴とする蒸発源容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−17065(P2011−17065A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163894(P2009−163894)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】