説明

成膜装置

【課題】成膜不良を抑制する成膜装置を提供する。
【解決手段】被処理基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2内において被処理基板Wを戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送するホルダー3と、搬送される被処理基板Wに対向して真空容器2内に設けられるハース4A,4Bと、ハースにプラズマビームを照射するプラズマガン6,7と、ハースに対向するとともに、被処理基板Wを挟んでハースと反対側に設けられる歪曲手段15Aと、を備え、歪曲手段15Aは、N極側が材料源に対向する第1の磁石と、S極側が材料源に対向する第2の磁石と、を有し、ハース4A,4Bと被処理基板Wとの間の空間に磁界を発生させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置は、陽極と陰極との間に有機発光層(発光層)や、電子注入層などの機能層が挟持される構成の有機発光素子(有機EL素子)を複数備えている。これらのうち、陰極や電子注入層は、電子を放出しやすい特性を備える材料で形成することから、大気中に存在する水分と反応し劣化しやすい。これらが劣化すると、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を形成してしまう。そのため、有機EL装置では、有機発光素子から大気中の水分を遮断する封止構造が重要となる。
【0004】
上述の封止構造について、近年では、数μmの厚みの薄い無機封止膜を用いて有機発光素子を外部雰囲気と遮断する薄膜封止技術が提案されている。このような封止技術を用いると、内部に気体や液体を封入するための中空構造を備えない完全な固体構造が実現可能となる。固体構造を備える有機EL装置は、大幅な薄型化や軽量化が可能となり、更なる高機能・高品質な有機EL装置とすることが期待できことから、薄膜封止技術には大きな期待が寄せられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の無機封止膜の成膜には、例えば、図10に示すようなイオンプレーテイング装置が用いられている。
【0007】
このイオンプレーテイング装置1000は、真空容器(成膜室)1001と、この真空容器1001内に配設されるハース1002と、このハース1002にプラズマビームPBを照射するプラズマガン1003と、この真空容器1001内かつハース1002に対向して設けられ被処理基板Wを搬送する搬送機構1004とにより構成されている。このハース1002の貫通孔1005には成膜材料ロッド1006が挿入され、このハース1002の下方には、成膜材料ロッド1006を徐々に突き上げる供給装置1007が設けられている。
【0008】
このイオンプレーテイング装置1000では、プラズマガン1003からプラズマビームPBが真空容器1001中に照射される。このプラズマビームPBは、ハース1002の正電位を適当な値に制御することにより、確実にハース1002に導かれ、このハース1002中の成膜材料ロッド1006の上端部を加熱する。この成膜材料ロッド1006では、その上端部が加熱されることで成膜材料が蒸発し、この蒸発した成膜材料がプラズマビームPB中にてイオン化され、このイオン化した成膜材料粒子が被処理基板Wの表面に付着され成膜される。
【0009】
上述の無機封止膜を形成する有機EL装置の表面には、発光領域を画素毎に分割する隔壁や、駆動素子、あるいは表面に付着した異物等に起因した多くの段差、凹凸がある。しかし、このような表面に上記装置を用いて無機封止膜を成膜すると、ハース1002に対向していない段差部分の側壁部分や、異物や段差の陰となる部分等に成膜材料粒子が付着しにくく成膜不良となりやすい。
【0010】
このような成膜不良部分では、封止が不十分となりやすく、水分が浸入しやすいために非発光領域であるダークスポットが発生しやすい。更に、水分が浸入し続けることでダークスポットが成長し、非発光部分を周囲に広げてしまうため、製品寿命が著しく短くなってしまう。
【0011】
また、例えば半導体基板における層間絶縁膜のように、有機EL装置以外にも薄膜を有する機器は多数存在するが、形成する薄膜に成膜が不十分な箇所が存在すると、絶縁が破られて誤作動を起こすなど、機器の信頼性の低下に繋がる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、薄膜によるカバレッジ性を改善し、成膜不良を抑制する成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の成膜装置は、被処理基板を収納する真空容器と、前記被処理基板に対向して前記真空容器内に設けられる材料源と、前記材料源にプラズマビームを照射するプラズマガンと、前記材料源に対向するとともに、前記被処理基板を挟んで前記材料源と反対側に設けられる歪曲手段と、を備え、前記歪曲手段は、N極側が前記材料源に対向する第1の磁石と、S極側が前記材料源に対向する第2の磁石と、が隣り合い、前記材料源と前記被処理基板との間の空間に磁界を発生させることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、材料源から飛来する蒸着粒子は、照射されるプラズマビームの電荷に起因して電荷を有しており、蒸着粒子が有する電荷と、歪曲手段が発生させる磁界と、によって生じるローレンツ力により、蒸着粒子の飛行経路を歪曲させることができる。そのため、被処理基板の被処理面に存在する段差部分の側壁部分や、異物や段差の陰となる部分等にも飛来する蒸着粒子が付着しやすくなり、成膜不良なく成膜を行うことが可能な成膜装置とすることができる。ここで、本発明において「磁石」とは、永久磁石および電磁石の両方を含むものである。
【0015】
本発明においては、前記真空容器内において前記被処理基板を戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送する搬送機構を有することが望ましい。
この構成によれば、被処理基板の表面に対して蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域を走査しながら成膜を行うことができるため、被処理基板の表面全面に不良の無い成膜が可能となる。
【0016】
本発明においては、前記第1の磁石および前記第2の磁石は、前記搬送方向に交差する方向を長手方向とした平面視帯状を呈し、互いの長辺が隣り合って延在していることが望ましい。
この構成によれば、帯状に延在する磁石間に帯状に磁場が生じ、蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域が帯状に分布することとなる。このような領域を横切って被処理基板が搬送されるため、被処理基板の表面に対する成膜走査が効果的に行われ、被処理基板の表面全面に不良の無い成膜が可能となる。
【0017】
本発明においては、前記歪曲手段は、複数の前記第1の磁石および複数の前記第2の磁石を有し、前記複数の前記第1の電極および前記第2の電極は、縞状に交互に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、被処理基板は、一度の搬送で蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域を複数回通過するため、複数回の成膜を行ったのと同様にムラの無い良好な成膜を実現できる成膜装置とすることができる。
【0018】
本発明においては、前記搬送方向に直交する方向における前記第1の磁石および前記第2の磁石の幅は、前記搬送方向に直交する方向における前記被処理基板の幅よりも長いことが望ましい。
この構成によれば、蒸着粒子の飛行経路の歪曲が被処理基板の全面に渡って行われるため、被処理基板全面に渡って成膜を均一に行うことが可能となる。
【0019】
本発明においては、前記搬送方向に沿って配列する複数の前記歪曲手段を有し、各々の前記歪曲手段が有する前記第1の磁石および前記第2の磁石は、延在方向が互いに交差する方向に設定されていることが望ましい。
この構成によれば、各々の歪曲手段において、蒸着粒子の飛行経路の歪曲方向が異なるため、個別の歪曲手段と重なって行われる成膜で成膜不良が生じたとしても、各歪曲手段が互いに成膜ムラを補完し、良好な成膜が可能な成膜装置とすることができる。
【0020】
本発明においては、前記歪曲手段は、複数の前記第1の磁石および複数の前記第2の磁石を有し、前記複数の第1の磁石および第2の磁石は、市松模様状に配置していることが望ましい。
この構成によれば、略格子状に広がる磁界が発生するために、蒸着粒子の飛行経路の歪曲方向が一方向に偏らない。そのため、成膜ムラが生じにくく、良好な成膜が可能な成膜装置とすることができる。
【0021】
本発明においては、前記第1の磁石および前記第2の磁石の間隔は、2mm以上200mm以下であることが望ましい。
離間距離が2mmよりも狭いと、隣り合う磁石間で生じる磁場が狭くなりすぎるために、目的とする飛行経路の歪曲が起こりにくい。200mmよりも広いと、磁石間における磁力が弱くなりすぎるために、やはり目的とする飛行経路の歪曲が起こりにくい。そのため、第1の磁石および第2の磁石の間隔を上記範囲とすると、良好に蒸着粒子の飛行経路を歪曲して、成膜不良を抑制する成膜装置とすることができる。
【0022】
本発明においては、前記歪曲手段は、前記被処理基板の法線方向に設定された回転軸周りに、前記被処理基板に対して相対的に回転可能に設けられていることが望ましい。
この構成によれば、被処理基板の被処理面に対して、飛行経路が歪曲する蒸着粒子を全方位的にムラ無く付着させることができ、良好な成膜を実現できる成膜装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の成膜装置の動作を説明する説明図である。
【図5】本発明の成膜装置の効果を示す予備実験の結果を示す図である。
【図6】本発明の成膜装置の動作を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図8】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図9】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図10】従来の成膜装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、図1〜図9を参照しながら、本発明の実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0025】
ここでは、まず図1を用いて、本発明が製造に適用される有機EL装置について説明した後に、図2,3を用いて成膜装置1について説明を行う。
【0026】
図1は、有機EL装置100の構成を示す断面図である。有機EL装置100は、基材101aに素子層101bが設けられた素子基板101と、素子層101b上に設けられた画素電極102と、画素電極102上に設けられた有機発光層103と、有機発光層103を覆って設けられた共通電極104と、を有している。
【0027】
有機発光層103は、複数の隔壁105で分割されており、分割された有機発光層103は、これを挟持する画素電極102,共通電極104と複数の有機EL素子110を形成している。また、素子基板101に対向配置され有機EL素子110を保護する保護基板120を備えており、素子基板101と保護基板120とは、シール層130および接着層135を介して貼り合わされている。
【0028】
また、複数の有機EL素子110は、順に積層して形成される電極保護層107と有機緩衝層108とガスバリア層109と、からなる保護層に覆われている。
【0029】
これらの保護層のうち、有機緩衝層108は、隔壁105の形状を反映して凹凸状に形成された電極保護層107の凹凸部分を埋め平坦化するために設けられ、エポキシ樹脂などの樹脂材料を用いて形成される。また、電極保護層107およびガスバリア層109は、透明性や密着性、耐水性、絶縁性、更にはガスバリア性を考慮し、無機材料を形成材料として形成されており、有機EL素子110への水分浸入を防ぐ機能を有している。本実施形態では、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)などのケイ素化合物を用いて形成される。
【0030】
電極保護層107は気相反応を用いて形成されるが、隔壁105の上に形成されるため、図において符号AR1で示す隔壁105の頂面部と重なる領域と比べ、符号AR2で示す隔壁105の側壁部と重なる部分では段差の陰となり成膜不良が生じ易い。また、電極保護層107やガスバリア層109の形成面に異物が付着した状態で成膜を行うと、ピンホールを生じやすく、信頼性が低下する。
【0031】
本発明の成膜装置は、隔壁105、有機EL素子110が形成された素子基板101(被処理基板W)に対し、このような電極保護層107およびガスバリア層109を形成する際に好適に用いられる。
【0032】
図2は、本実施形態の成膜装置1を示す断面図である。図に示すように、成膜装置1は、被処理基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2の上部に設けられ被処理基板Wを真空容器2内に搬送するためのホルダー(搬送機構)3と、真空容器2内の底部において被処理基板Wの被処理面Wsに対向して配設されたハース(材料源)4A、4Bと、ハース4Aに高密度プラズマHPを入射させるプラズマガン6と、ハース4Bに高密度プラズマHPを入射させるプラズマガン7と、真空容器2には、窒素ガス(N)等を導入するための配管10と、真空容器2の上部に設けられホルダー3を挟んでハース4A,4Bに対向する歪曲手段15Aと、を備えている。
【0033】
ハース4A、4B各々には、酸化ケイ素(SiO)等の成膜材料が充填され、これらハース4A、4B各々の周囲には、各々に入射する高密度プラズマHPの向きを制御するハースコイル8が設けられている。また、プラズマガン6の高密度プラズマHPの出射側にも高密度プラズマHPの向きを制御するステアリングコイル9が設けられている。
【0034】
プラズマガン6から出射された高密度プラズマHPは、制御装置(図示略)にてハース4Aの放電電圧を適当な値に制御することにより、確実にハース4Aに導かれ、ハース4A中の成膜材料を加熱し蒸発させる。同様に、プラズマガン7から出射された高密度プラズマHPもハース4Bに導かれ、ハース4B中の成膜材料を加熱し蒸発させる。この蒸発した成膜材料は、高密度プラズマHP中にてイオン化するとともに窒素ガス等の雰囲気ガスと反応し、この反応生成物が被処理基板Wの表面に付着し、成膜される。
【0035】
歪曲手段15Aは、ハース4A,4Bから直線状に飛来する成膜材料または反応生成物(以下、両者を併せて膜材料と称する)の飛行経路を、ホルダー3の近傍で歪曲する機能を有する。
【0036】
図3は、歪曲手段15Aの概要を示す模式図である。図に示すように、歪曲手段15Aは、平面視略矩形で帯状に延在する板体であり、一方向に延在する複数の第1の磁石(磁石)15a、第2の磁石(磁石)15bと、同様に平面視略矩形を呈し一方向に延在する複数の緩衝材15cと、を有している。磁石15a,15bはそれぞれの長辺同士が隣り合うように所定の配列軸に沿って縞状に交互に配列しており、隣り合う磁石15a,15bの間には、それぞれの長辺と自身の長辺とが隣り合うように緩衝材15cが配置されている。
【0037】
第1の磁石15aは、図2に示す真空容器下部に配置されるハース側にN極が対向しており、一方、第2の磁石15bは、ハース側にS極が対向している。
【0038】
磁石15a,15bの長辺の長さL1は、被処理基板Wにおける磁石15a,15bの長辺と同方向の長さL2よりも長いことが望ましい。これは、磁石15a,15bの端部では、発生する磁界の向き(磁力線の向き)が中央部と違うためであり、後述する膜材料へ働く力の向きが揃う磁石中央部を用いて均一な成膜を行うためである。
【0039】
不図示のホルダーに保持された被処理基板Wは、磁石15a,15bの延在方向と交差する方向に移動し、被処理基板Wに対して歪曲手段15Aと反対の方向から飛来する膜材料Mを用いて被処理面に成膜される。
【0040】
このような歪曲手段15Aの近傍においては、飛来する膜材料Mは次のような挙動を示す。図4は、歪曲手段15A近傍の様子について示した概略図であり、歪曲手段15Aを図2に示す真空容器下方から平面視した図である。即ち、膜材料Mは、紙面手前から紙面奥方向に飛来する。
【0041】
成膜装置内において歪曲手段15Aに向かって飛来する膜材料Mは、加熱に用いられる高密度プラズマの電荷に起因して電荷を有している。成膜材料としてSiOを用いる場合、膜材料Mはマイナスに帯電する。
【0042】
一方、歪曲手段15Aでは、隣り合う磁石15a,15b間において磁界MFが発生している。このような歪曲手段15Aに向かって飛来する膜材料Mには、磁界MFの影響により図中両矢印で示すローレンツ力が磁石15a,15bの延在方向に平行な方向に働くため、磁石15a,15bの延在方向に平行な方向に飛行経路が歪曲する。その結果、膜材料Mは、被処理基板に対して斜め方向から付着して成膜が行われる。
【0043】
上述のローレンツ力が有効に生じるために、第1の磁石15aと第2の磁石15bとの間の間隔は、2mm以上200mm以下となっている。離間距離が2mmよりも狭いと、隣り合う磁石間で生じる磁場が狭くなりすぎるために、目的とする飛行経路の歪曲が起こりにくい。200mmよりも広いと、磁石間における磁力が弱くなりすぎるために、やはり目的とする飛行経路の歪曲が起こりにくい。
本実施形態の成膜装置1は、以上のような構成となっている。
【0044】
発明者は、上述の歪曲手段15Aの表面に、段差を有する試験用パネルを配置して固定し、走査を行わないでSiON膜を評価膜として成膜する予備実験を行い、上述のローレンツ力により膜材料Mの飛行経路が歪曲して付着することを確かめている。
【0045】
図5は、符号Sで示す段差部分を有する試験用パネルPに評価膜Fを成膜した結果を示すSEM写真である。図5(a)は、予備実験の結果を示す試験用パネルの断面写真であり、図5(b)は、比較例として行った歪曲手段を用いない従来の成膜による試験用パネルの断面写真である。
【0046】
予備実験の結果、図5(a)に示す歪曲手段を用いた試験用パネルPでは、符号A1で示す段差部分Sの側壁部においても、途切れずに評価膜Fが成膜されているのに対し、図5(b)に示す試験用パネルPでは、符号A2で示す部分で評価膜Fが途切れており、成膜不良が生じていた。また、この予備実験では、N極と重なる領域において厚く成膜がなされる現象が観察された。
【0047】
次に、上記の成膜装置1の機能について、例を示して説明する。図6は、被処理基板Wに成膜する様子を示す工程図である。ここでは、説明のためにXYZ直交座標系を設定する。被処理基板Wの搬送方向を+X軸方向、被処理基板Wを含む面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち膜材料Mが飛来する鉛直方向)を+Z軸方向とする。
【0048】
また、ここでは、図1で示した有機EL装置100の製造工程において、隔壁105、有機EL素子110が形成された素子基板101(被処理基板W)に対し、電極保護層を形成する様子を示す。被処理基板Wは、隔壁105や有機EL素子110が形成された側を被処理面Wsとして膜材料Mの飛来する側に向け、歪曲手段15Aと平面的に重なるように移動し、被処理面Wsに成膜される。
【0049】
ここで、歪曲手段15Aは、被処理基板Wの搬送方向に交わる方向に、被処理基板W側にN極が対向する磁石15aと被処理基板W側にS極が対向する15bとが交互に配列している。従って、歪曲手段15Aの近傍では、被処理基板Wの搬送方向に交わる方向に生じる磁界の向きが、規則的に交互に反転している。
【0050】
図6(a)には、+X方向に生じる磁界の中における成膜の様子を示す。この場合、飛来する膜材料Mは、歪曲手段15Aから生じる磁界によりローレンツ力を受け、飛行経路が+Y方向に歪曲、あるいは旋回運動(サイクロトロン運動)を起こしながら被処理面Wsに達する。
【0051】
また、図6(a)には、−X方向に生じる磁界の中における成膜の様子を示す。この場合、飛来する膜材料Mは、歪曲手段15Aから生じる磁界によりローレンツ力を受け、飛行経路が−Y方向に歪曲、あるいはサイクロトロン運動を起こしながら被処理面Wsに達する。
【0052】
このような成膜状態では、膜材料Mが直進して飛来するよりも、符号AR2で示す隔壁105の側壁部と重なる部分に膜材料Mが付着しやすく、結果、成膜不良が生じにくい。また、被処理基板Wを搬送させながら成膜を行うため、図6(a)(b)に示す成膜状態が交互に起こり、結果、被処理面Wsが有する段差部分の全面において膜材料Mが良好に付着し、成膜が行われる。更に、必要に応じて被処理基板Wを往復させながら複数回の成膜を行うことで、成膜不良が無い良好な電極保護層が形成される。
【0053】
被処理基板Wと歪曲手段15Aとの離間距離は、歪曲手段15Aに用いる磁石15a,15bの磁力の強さや膜材料Mの成膜レート等によって任意に決める事が出来るが、上記のようなローレンツ力を良好に生じるためには、被処理基板Wの被処理面近傍における磁束密度が30mT以上となる離間距離であることが望ましい。磁束密度は、被処理基板Wと歪曲手段15Aとの離間距離を変更することで調整することができる。
以上のようにして、本実施形態の成膜装置を用いた成膜が行われる。
【0054】
以上のような構成の成膜装置1によれば、飛来する膜材料Mが有する電荷と、歪曲手段15Aが発生させる磁界と、によって生じるローレンツ力により、膜材料Mの飛行経路を歪曲させることができる。そのため、被処理基板Wの被処理面Wsに存在する隔壁の側壁部分にも歪曲して飛来する膜材料Mが付着しやすくなり、成膜不良なく成膜を行うことが可能な成膜装置1とすることができる。
【0055】
また、本実施形態では、歪曲手段15Aは、磁石15aと磁石15bとが縞状に交互に配置されていることとしている。被処理基板Wは、一度の搬送で膜材料Mの飛行経路が歪曲する領域を複数回通過するため、複数回の成膜を行ったのと同様にムラの無い良好な成膜を実現できる成膜装置1とすることができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、歪曲手段15Aには帯状の磁石15a,15bが縞状に配列することとしているがこれに限らない。図7は、歪曲手段の変形例を示す模式図であり、図4に対応する図である。
【0057】
図に示すように、歪曲手段15Bは、複数の磁石15a,15bが、市松模様状に配置している。この場合、例えば、任意の第1の磁石15aの周囲には、4つの第2の磁石15bが配置しており、略十字の方向に磁界が生じる。即ち、歪曲手段15B全体では、略格子状に広がる磁界が発生する。飛来する膜材料は、このような磁界からローレンツ力を受けるために、蒸着粒子の飛行経路の歪曲方向が一方向に偏らない。そのため、成膜ムラが生じにくく、良好な成膜が可能な成膜装置とすることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、被処理基板Wの搬送方向と交わる方向に延在する磁石を有する歪曲手段15Aを1つ設けることとしているが、複数の歪曲手段を備える成膜装置とすることとしても良い。
【0059】
例えば、図8に示すように、2つの歪曲手段15C,15Dが有する磁石15a,15bの延在方向が交わるように配置すると、歪曲手段と重なって行われる成膜毎に膜材料Mの付着する方位が異なるため、被処理基板Wに対して複数の方位から膜材料Mの付着を行う事が出来る。従って、膜材料Mの付着方向の偏りを無くし、成膜不良を良好に防ぐことができる。
【0060】
また、本実施形態においては、被処理基板Wと歪曲手段15Aとは、相対的な直線運動を行うこととしているが、平面的に重なる被処理基板Wと歪曲手段15Aとが、相対的に回転運動を行う構成とすることとしても良い。
【0061】
例えば、図9(a)に示すように、歪曲手段15Eの法線と平行に設定された回転軸R1のまわりを歪曲手段15Eが回転可能とし、歪曲手段15Eを回転させながら本実施形態と同様に歪曲手段15Eに対向する被処理基板Wを移動させる。このような動作を行う成膜装置で成膜を行うと、膜材料Mは、被処理面に対して全方位的に様々な方向から飛来して成膜される。そのため、例えば、凹凸形状が格子状に設けられているような場合であっても、成膜の陰となる箇所がなくなり、好適に成膜を行うことができる。
【0062】
上記のように複数の歪曲手段を用いる場合には、歪曲手段毎に各々回転可能とすることとしても良い。
【0063】
あるいは、図9(b)に示すように、被処理基板Wの法線と平行に設定された回転軸R2のまわりを被処理基板Wが回転可能とし、被処理基板Wを回転させながら、歪曲手段15Aに対向する被処理基板Wを移動させることとしても良い。
【0064】
図9で示した歪曲手段15Eまたは被処理基板Wの回転運動は、一方向に回転し続ける回転運動であっても良く、あるいは、一方向に一定の角度回転した後に逆方向に一定の角度回転することを繰り返すこととしても良い。この構成だと、例えば90度の角度変更が可能であれば、結果として被処理面に対し全方位的に様々な方向から膜材料Mを付着させて成膜を行うことができる。
【0065】
更に、例えば、被処理基板Wを往復させて複数回の走査により成膜を行う場合には、往復の切り替え時に被処理基板Wと歪曲手段との相対角度を変更することとして、搬送中は互いの相対角度を固定した状態で成膜を行っても良い。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…成膜装置、2…真空容器、3…ホルダー(搬送機構)、4A,4B…ハース(材料源)、6,7…プラズマガン、15A〜15E…歪曲手段、15a…第1の磁石、15b…第2の磁石、15c…緩衝材、M…膜材料(蒸着粒子)、ME…磁界、W…被処理基板、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を収納する真空容器と、
前記被処理基板に対向して前記真空容器内に設けられる材料源と、
前記材料源にプラズマビームを照射するプラズマガンと、
前記材料源に対向するとともに、前記被処理基板を挟んで前記材料源と反対側に設けられる歪曲手段と、を備え、
前記歪曲手段は、N極側が前記材料源に対向する第1の磁石と、S極側が前記材料源に対向する第2の磁石と、を有し、前記材料源と前記被処理基板との間の空間に磁界を発生させることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記真空容器内において前記被処理基板を戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送する搬送機構を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1の磁石および前記第2の磁石は、前記搬送方向に交差する方向を長手方向とした平面視帯状を呈し、互いの長辺が隣り合って延在していることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記歪曲手段は、複数の前記第1の磁石および複数の前記第2の磁石を有し、
前記複数の前記第1の電極および前記第2の電極は、縞状に交互に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記搬送方向に直交する方向における前記第1の磁石および前記第2の磁石の幅は、前記搬送方向に直交する方向における前記被処理基板の幅よりも長いことを特徴とする請求項3または4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記搬送方向に沿って配列する複数の前記歪曲手段を有し、
各々の前記歪曲手段が有する前記第1の磁石および前記第2の磁石は、延在方向が互いに交差する方向に設定されていることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記歪曲手段は、複数の前記第1の磁石および複数の前記第2の磁石を有し、
前記複数の第1の磁石および第2の磁石は、市松模様状に配置していることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記第1の磁石および前記第2の磁石の間隔は、2mm以上200mm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記歪曲手段は、前記被処理基板の法線方向に設定された回転軸周りに、前記被処理基板に対して相対的に回転可能に設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174362(P2010−174362A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21223(P2009−21223)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】