説明

扁平状軟磁性粉末および磁性体

【課題】磁性体に適用した場合に、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることができ、十分な曲げ性を付与可能な扁平状軟磁性粉末を提供する。この扁平状軟磁性粉末を用いた磁性体を提供する。
【解決手段】Fe−Si−Cr系合金よりなり、アスペクト比が100〜150の範囲内にあり、厚みが1μm以下である扁平状軟磁性粉末とする。上記扁平状軟磁性粉末は、周波数13.56MHzにて好適に適用できる。また、上記扁平状軟磁性粉末を含む磁性体とする。上記磁性体は、周波数13.56MHzにおける実数部透磁率μ’が80以上、虚数部透磁率μ”が10以下であると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平状軟磁性粉末およびその製造方法ならびに磁性体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触で電子情報の通信を行う自動認識システム(RFID:Radio Frequency Identification)が急速に普及している。RFID通信としては様々なものが実用化されているが、その中でも周波数13.56MHzを用いた清算システムやプリペイドシステム等が広く利用されている。
【0003】
周波数13.56MHzを用いたRFIDにおいて、非接触ICカード等のデータキャリアとデータを読み書きするリーダライタとの間の通信距離を長くするため、例えばリーダライタに設けられたアンテナの裏面に、透磁率の高いシート状の磁性体を配置することが行われている。
【0004】
この種の磁性体は、実数部透磁率μ’が高く、虚数部透磁率μ”が小さいことが望ましく、従来、薄板状のフェライト焼結体が適用されてきた。
【0005】
また、特許文献1に示すように、柔軟性を向上させるため、扁平状軟磁性粉末とポリマーやエラストマー等とを配合し、シート状に成形した磁性シートも適用されるようになってきている。上記特許文献1には、磁性シート中の扁平状軟磁性粉末として、Fe−Si−Al系合金からなり、アスペクト比が10〜80の範囲内にある扁平状軟磁性粉末が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、合金成分が、Fe基であって、添加元素として少なくともSiおよびCrを含み、アスペクト比が15以上の扁平状軟磁性粉末、当該軟磁性粉末を含む磁性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−39947号公報
【特許文献2】特開2007−27687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術は以下の点で改善の余地があった。すなわち、フェライト焼結体は、高い透磁率(実数部透磁率μ’が80以上)と低い磁気損失(虚数部透磁率μ”が10以下)を有しており、磁気特性に優れている。
【0009】
ところが、フェライト焼結体は、薄板状に加工することが困難であり、曲げ性に乏しい。そのため、装置への組付け時や落とした時に簡単に割れてしまい、取扱い性に劣るといった欠点があった。さらに、割れ防止のためにPETフィルム等を貼り付ける必要があり、その体積増加分だけ、磁性体の体積が減少する。そのため、通信距離を長くするにも限界がある。最近では、チップ状のフェライト焼結体を並べることにより、曲げ性を確保する試みもなされるようになってはいるが、扁平状軟磁性粉末を含む磁性シートに比べれば、十分な曲げ性を有しているとは言い難い。
【0010】
一方、上述した従来の磁性シートは、柔軟性に富み、破損の心配もなく、PETフィルムも必要ないことから、取扱い性等に優れている。しかしながら、実数部透磁率μ’が低く(特許文献1:μ’<74、特許文献2:μ’<68)、通信距離の改善効果が十分ではなかった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、磁性体に適用した場合に、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることができ、十分な曲げ性を付与可能な扁平状軟磁性粉末を提供することにある。また、この扁平状軟磁性粉末を用いた磁性体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、Fe−Si−Cr系合金よりなり、アスペクト比が100〜150の範囲内にあり、厚みが1μm以下であることを要旨とする。
【0013】
ここで、上記扁平状軟磁性粉末は、周波数13.56MHzにて用いられることが好ましい。
【0014】
本発明に係る磁性体は、上記扁平状軟磁性粉末を含むことを要旨とする。
【0015】
ここで、上記磁性体は、周波数13.56MHzにおける実数部透磁率μ’が80以上、虚数部透磁率μ”が10以下であることが好ましい。
【0016】
また、上記磁性体は、RFID用であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法は、未扁平の軟磁性粉末を準備する準備工程と、準備した未扁平の軟磁性粉末をメディアを用いて扁平化する扁平化処理工程とを有し、上記扁平化処理工程は、相対的に大きなメディアで扁平化処理を進めた後、相対的に小さなメディアに変更し、さらに扁平化処理を行う手順を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、Fe−Si−Cr系合金よりなり、アスペクト比が100〜150の範囲内にあり、厚みが1μm以下である。そのため、磁性シート等の磁性体に適用した場合に、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることができる。これは以下の理由によるものと推察される。
【0019】
すなわち、粉末の合金成分をFe−Si−Cr系合金とすることで、磁壁共鳴、自然共鳴による実数部透磁率μ’の低下、虚数部透磁率μ”の増大を防止しやすくなる。また、粉末のアスペクト比を100〜150の範囲内にすることで、実数部透磁率μ’を大きく向上させることができる。さらに、粉末の厚みを1μm以下とすることで、周波数13.56MHz近辺における渦電流を抑制しやすくなる。これらの結果、本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、磁性シート等の磁性体に適用した場合に、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることができるものと考えられる。
【0020】
また、本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、扁平状であり、フェライト焼結体に比べ靱性に優れるため、曲げに対して耐性を有する上、粉末を結合するマトリクス材料自体もゴム等の曲げに強い材質を選択することができるため、磁性体に十分な曲げ性を付与することができる。
【0021】
この際、周波数13.56MHzにて用いられる場合には、例えば、RFIDにおける通信距離を長くすることができるため、有用である。
【0022】
本発明に係る磁性体は、上記扁平状軟磁性粉末を含んでいる。そのため、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることができ、十分な曲げ性を付与することができる。
【0023】
ここで、周波数13.56MHzにおける実数部透磁率μ’が80以上、虚数部透磁率μ”が10以下である場合には、RFID等に好適に適用することができる。
【0024】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法は、上記扁平化処理工程が、相対的に大きなメディアで扁平化処理を進めた後、相対的に小さなメディアに変更し、さらに扁平化処理を行う手順を含んでいる。
【0025】
一般に、メディアによる扁平化処理において、メディアが大きい(例えば、メディアとしてのボールの径が大きい)と、粉末に与える衝撃力が大きいため、扁平化が促進されるが、過度の衝撃により粉末の割れが併発しやすくなる。一方、メディアが小さい(例えば、メディアとしてのボールの径が小さい)と、粉末に与える衝撃力が小さいため、高扁平化が難しくなる。
【0026】
ところが、本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法によれば、相対的に大きなメディアにより、優先的に摩砕処理がなされた後、相対的に小さなメディアにより、粉末の割れが抑制された状態で優先的に薄化処理(厚み低減処理)がなされる。それ故、上述した範囲のアスペクト比、厚みを有する扁平状軟磁性粉末を比較的簡単に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1に係る磁性シートの周波数−透磁率の関係を示した図である。
【図2】通信距離の測定方法を説明するための図である。
【図3】扁平状軟磁性粉末(Fe−8%Si−2%Cr合金、厚み=1μm)のアスペクト比と磁性シートの実数部透磁率μ’(周波数13.56MHz)との関係を示した図である。
【図4】扁平状軟磁性粉末(Fe−8%Si−2%Cr合金、アスペクト比=100)の厚みと磁性シートの虚数部透磁率μ”(周波数13.56MHz)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る扁平状軟磁性粉末(以下、「本粉末」ということがある。)およびその製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)、本発明の実施形態に係る磁性体(以下、「本磁性体」ということがある。)について詳細に説明する。
【0029】
1.本粉末
本粉末は、扁平状に形成された粉末であって、以下の合金組成、アスペクト比、厚みを有している。
【0030】
本粉末は、Fe−Si−Cr系合金より構成されている。ここで、Fe−Si−Cr系合金とは、Si、Crを主体として含むFe基合金をいう。本粉末の合金成分をFe−Si−Cr系合金とすることにより、磁壁共鳴、自然共鳴による実数部透磁率μ’の低下、虚数部透磁率μ”の増大を防止しやすくなる。
【0031】
具体的なFe−Si−Cr系合金としては、質量%で、Si:1%〜15%、Cr:1%〜5%を含有するFe基合金等が好適である。この場合、Si含有率の下限は、透磁率向上、耐食性確保等の観点から、好ましくは、3%以上、より好ましくは、5%以上、さらに好ましくは、7%以上であると良い。一方、Si含有率の上限は、磁歪の増大防止、扁平化加工性、劣化防止等の観点から、好ましくは、10%以下、より好ましくは、8%以下であると良い。
【0032】
また、Cr含有率の下限は、耐食性の確保等の観点から、好ましくは、2%以上であると良い。一方、Cr含有率の上限は、磁気特性の低下を防止する等の観点から、好ましくは、3%以下であると良い。なお、上記Fe−Si−Cr系合金は、Si、Cr以外にも、Al等の添加元素を含有していても良いが、好ましくは、磁壁共鳴、自然共鳴周波数を高くし、13.56MHzにおいて高μ’、低μ”とする等の観点から、上述の含有率でSi、Crを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物よりなると良い。
【0033】
なお、本粉末は、1種類のFe−Si−Cr系合金より構成されていても良いし、2種以上のFe−Si−Cr系合金より構成されていても良い。
【0034】
本粉末は、そのアスペクト比が100〜150の範囲内にある。アスペクト比を100〜150の範囲内とすることにより、実数部透磁率μ’を大きく向上させることができる。上記アスペクト比の上限は、製造工程における粉末の湾曲を抑制しやすくなる等の観点から、好ましくは、140以下、より好ましくは、130以下であると良い。一方、上記アスペクト比の下限は、粉末の形状異方性を大きくし、反磁界の影響を抑制しやすくなる等の観点から、好ましくは、110以上であると良い。
【0035】
本粉末は、その厚みが1μm以下である。厚みを1μm以下とすることで、周波数13.56MHz近辺における渦電流を抑制しやすくなる。上記厚みの上限は、渦電流の影響を抑制しやすくなる等の観点から、好ましくは、0.9μm以下、より好ましくは、0.8μm以下であると良い。なお、上記厚みの下限は、特に限定されるものではない。
【0036】
上述した本粉末のアスペクト比および本粉末の厚みは、次のようにして測定することができる。
【0037】
すなわち、先ず、本粉末について、平均粒径D50を測定する。なお、平均粒径D50とは、レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置により測定される体積分布の積算で50%になるときの粒径のことである。次いで、本粉末を樹脂に埋め込んで研磨し、粉末の厚さ方向を光学顕微鏡で観察して最大厚みtmaxと最小厚みtminとを求め、その平均値(tmax+tmin)/2を平均の厚みtとする。tの値を任意の粒子100個について求め、それらの平均値を求める。この平均厚みtaveが、本発明における粉末の厚みとなる。そして、上記平均厚みtaveで上記平均粒径D50を除算する(つまり、平均粒径D50/tave)ことにより、本粉末のアスペクト比を算出することができる。
【0038】
本粉末は、周波数13.56MHzにて好適に用いることができる。この場合には、具体的には、例えば、RFIDに適用したときに通信距離を長くすることが可能となる等の利点がある。
【0039】
1.本製造方法
本製造方法は、上述した本粉末を好適に製造することが可能な方法である。本製造方法は、基本的に、粉末準備工程と、扁平化処理工程とを有している。以下、各工程順に説明する。
【0040】
(1)粉末準備工程
粉末準備工程は、未だ扁平化処理されていない未扁平の軟磁性粉末を準備する工程である。上記軟磁性粉末を構成する材質は、上述した各種のFe−Si−Cr系合金である。粉末準備工程で準備する軟磁性粉末は、1種のFe−Si−Cr系合金より構成されていても良いし、2種以上のFe−Si−Cr系合金より構成されていても良い。
【0041】
本粉末準備工程において、上記軟磁性粉末は、自ら製粉しても良いし、他から供給を受けても良い。上記粉末の製粉方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、合金組成の均一化等の観点から、溶湯噴霧法を好適な方法として例示することができる。溶湯噴霧法では、酸素含有量を低減し、保磁力を低く抑える等の観点から、窒素、アルゴン等の酸素を含まないガスを用いて噴霧を行うと良く、さらに、製粉後も空気を遮断しておくことが望ましい。
【0042】
なお、原料となる未扁平の軟磁性粉末の平均粒径D50(上記測定方法による)の上限は、扁平化後の粉末の粗大化防止等の観点から、好ましくは、40μm以下、より好ましくは、30μm以下の範囲内にあると良い。一方、原料となる未扁平の軟磁性粉末の平均粒径D50(上記測定方法による)の下限は、取扱い容易性、量産性等の観点から、好ましくは、1μm以上、より好ましくは、10μm以上であると良い。
【0043】
(2)扁平化処理工程
扁平化処理工程は、上記粉末準備工程にて準備した未扁平の軟磁性粉末をメディアを用いて扁平化処理する工程である。
【0044】
ここで、本製造方法における扁平化処理工程は、相対的に大きなメディアで扁平化処理を進めた後(以下、「前半処理」ということがある。)、相対的に小さなメディアに変更し、さらに扁平化処理を行う(以下、「後半処理」ということがある。)手順を含んでいる。これにより、相対的に大きなメディアによって優先的に摩砕処理がなされた後、相対的に小さなメディアによって粉末の割れが抑制された状態で優先的に薄化処理(厚み低減処理)がなされる。その結果、上述した範囲のアスペクト比、厚みを有する本粉末を比較的簡単に得ることが可能となる。
【0045】
扁平化手段としては、アトライタ、ボールミル等を例示することができる。アトライタ、ボールミルの場合、メディアとしては、具体的には、SUJ2等のステンレス製ボール等を好適に用いることができる。
【0046】
メディア形態は、加工性等の観点から、ボール状であることが好ましい。この場合、前半処理時のメディア径は、優先的に摩砕処理を生じさせやすくなる等の観点から、好ましくは、3.5〜6mmの範囲内、より好ましくは、4〜5mmの範囲内にあると良い。一方、後半処理時のメディア径は、粉末の割れが抑制された状態で優先的に薄化処理(厚み低減処理)を図りやすくなる、厚み低減効率が良い等の観点から、好ましくは、1〜3mmの範囲内、より好ましくは、2〜3mmの範囲内にあると良い。
【0047】
前半処理および後半処理の時間は、扁平化手段の種類や、合金組成等を考慮して、最適な範囲を選択することができる。
【0048】
扁平化手段としてアトライタを用いる場合、前半処理時間は、粉末が破砕を起こさない範囲にて効率良く扁平化を行うことができる等の観点から、好ましくは、5〜30時間、より好ましくは、10〜20時間、さらに好ましくは、13〜17時間であると良い。一方、後半処理時間は、厚みのみを低減し、粉末径への影響を抑制しやすくなる等の観点から、好ましくは、1〜10時間、より好ましくは、1〜5時間、さらに好ましくは、2〜3時間であると良い。
【0049】
本粉末は、基本的に以上の工程を経ることにより製造することができるが、扁平化処理後の粉末を熱処理する熱処理工程を任意に追加することもできる。熱処理工程を追加した場合には、主として、扁平化処理により粉末に生じた加工歪を除去し、透磁率特性を改善することができる。
【0050】
具体的に、熱処理工程における熱処理温度の下限は、扁平化処理工程にいて導入された歪を取り除き、透磁率を向上させやすい等の観点から、好ましくは、200℃以上、より好ましくは、300℃以上、さらに好ましくは、350℃以上であると良い。一方、熱処理工程における熱処理温度の上限は、粉末同士の融着を抑制する等の観点から、好ましくは、850℃以下、より好ましくは、800℃以下、さらに好ましくは、600℃以下であると良い。よって、総合的な磁気特性(実数部透磁率μ’、虚数部透磁率μ”)向上の観点からは、380〜430℃が最も好ましい。
【0051】
熱処理工程における熱処理時間の下限は、粉末への均一な熱拡散等の観点から、好ましくは、30分以上、より好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、2時間以上であると良い。一方、熱処理工程における熱処理時間の上限は、生産性の向上等の観点から、好ましくは、5時間以下、より好ましくは、3時間以下であると良い。
【0052】
熱処理工程における熱処理は、粉末の酸化防止と融着防止等の観点から、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気下にて行うことが好ましい。
【0053】
なお、熱処理工程における熱処理方法としては、真空焼成炉、ロータリーキルン等を例示することができる。
【0054】
2.本磁性体
本磁性体は、本粉末を含有している。具体的には、本磁性体は、ゴム、エラストマー、樹脂等のマトリクス材料中に本粉末が分散された構造を有している。
【0055】
上記マトリクス材料としては、塩素化ポリエチレン、アクリル系ゴム、エチレンアクリルゴム等を好適な材料として例示することができる。なお、マトリクス材料は1種または2種以上の材料を併用することも可能である。
【0056】
本磁性体中に含まれる本粉末の含有量は、要求される透磁率特性、本磁性体の厚み等を考慮して選択することができる。透磁率特性、厚み等のバランスなどの観点から、好ましくは、20〜60体積%、より好ましくは、40〜55体積%の範囲内にあると良い。
【0057】
本磁性体は、その適用周波数範囲が13.56MHzであると良い。RFIDに好適に用いることができ、通信距離を長くすることができる等、本発明の有用性が高まるからである。
【0058】
本磁性体の実数部透磁率μ’は、好ましくは、80以上、より好ましくは、100以上であると良い。また、本磁性体の虚数部透磁率μ”は、好ましくは、10以下、より好ましくは、6以下、さらに好ましくは、4以下であると良い。RFIDに好適に用いることができるからである。
【0059】
本磁性体の形状は、用途に応じて適宜選択することができる。各種用途への適用範囲が広くなる等の観点から、好ましくは、シート状等の平面状であると良い。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
1.実施例および比較例に係る扁平状軟磁性粉末、磁性体の作製
(実施例1、実施例2)
表1に示すように、Fe−8%Si−2%Crの化学組成(質量%)を有する合金溶湯(実施例1)、Fe−10%Si−2%Crの化学組成(質量%)を有する合金溶湯(実施例2)をアルゴンガス雰囲気中でそれぞれ噴霧し、原料となる各軟磁性粉末を製粉した。
【0061】
次いで、得られた各軟磁性粉末をアトライタを用いて扁平化処理した。この際、始めの15時間は、以下の配合1にて扁平化処理を行った。その後の2時間は、以下の配合2にて扁平化処理を行った。
<配合1>
製粉した軟磁性粉末 :1.0kg
媒体 :2.0L(ナフテゾール)
メディア :ボール(SUJ2、直径4.8mm)、使用量18kg
潤滑剤 :10g(ステアリン酸亜鉛)
<配合2>
配合1の扁平化処理により
得られた軟磁性粉末:1.0kg
媒体 :2.0L(ナフテゾール)
メディア :ボール(SUJ2、直径2.4mm)、使用量18kg
潤滑剤 :10g(ステアリン酸亜鉛)
【0062】
次いで、上記扁平化処理がなされた軟磁性粉末を、アルゴンガス雰囲気下、400℃で2時間の熱処理温を施した。以上により、実施例1、実施例2に係る扁平状軟磁性粉末を得た。
【0063】
次に、得られた実施例1、実施例2に係る扁平状軟磁性粉末を用いて実施例1、実施例2に係る磁性シートを作製した。すなわち、トルエン300重量部に塩素化ポリエチレン15重量部を溶解し、ゴムの溶液を作製し、当該溶液中に、各扁平状軟磁性粉末を85重量部投入、混合して分散液とした。
【0064】
次いで、得られた分散液を、ポリエステル樹脂フィルム(基材)上にドクターブレード法により塗布した。塗布に当たり、乾燥後に得られるシートの厚みが0.1mmとなるようにブレード間隙を調節した。
【0065】
次いで、塗布した溶液を自然乾燥させた後、温度130℃、圧力15MPa、時間3分間の条件にてプレスした。これにより、実施例1、実施例2に係る磁性シートを作製した。
【0066】
(比較例1)
市販のチップ状のフェライト焼結体が並んで埋め込まれたものを比較例1に係る磁性シートとした。
【0067】
(比較例2)
上述した実施例に係る扁平状軟磁性粉末の作製において、Fe−8%Si−2%Crの化学組成(質量%)を有する合金溶湯を用いて、原料となる軟磁性粉末を製粉後、この原料粉末を用いて、配合1の扁平化処理のみを15時間行う扁平化処理を行った以外は同様にして、比較例2に係る扁平状軟磁性粉末を得た。
【0068】
また、上述した実施例に係る磁性シートの作製において、実施例に係る扁平状軟磁性粉末に代えて比較例2に係る扁平状軟磁性粉末を用いた以外は同様にして、比較例2に係る磁性シートを作製した。
【0069】
2.評価
(平均粒径D50、平均厚みtave、アスペクト比)
作製した各扁平状軟磁性粉末について、上述した測定方法により、平均粒径D50、平均厚みtave、アスペクト比を求めた。
【0070】
(曲げ試験)
作製した各磁性シートにつき、90°曲げ試験を行った。90°に曲げることができたものを十分な曲げ性を有するとして「○」、90°に曲げることができなかったが、全く曲げることができないわけではなかったものを曲げ性が不十分であるとして「△」、全く曲げができなかったものを曲げ性に劣るとして「×」と評価した。
【0071】
(割れ試験)
作製した各磁性シートを直径10mmの円柱体に巻き付け、割れ発生の有無を確認した。割れが発生しなかった場合を「○」、割れが発生した場合を「×」と評価した。
【0072】
(透磁率特性)
各磁性シートにつき、実数部透磁率μ’および虚数部透磁率μ”を以下のようにして測定した。
【0073】
すなわち、作製した磁性シート(実施例1、実施例2、比較例2)を外径7mm×内径3mmのリング形状に打ち抜いて各サンプルを作製するとともに、比較例1の磁性シートを切削加工してサンプルを作製した。これら各サンプルについて、インピーダンスアナライザHP4294A(アジレントテクノロジー社製)を用いて、1MHz〜100MHzの範囲にわたって上記各サンプルのインピーダンス特性を測定し、周波数13.56MHzにおける実数部透磁率μ’および虚数部透磁率μ”を算出した。実施例1に係る磁性シートの周波数−透磁率の関係を図1に示す。図1に示すように、実施例1に係る磁性シートによれば、1MHz〜20MHzの範囲にわたって良好な透磁率となっていることが分かる。
【0074】
(限界通信距離の測定)
図2は、通信距離の測定方法を説明するための図である。図2に示すように、実機携帯電話1のアンテナ2に各磁性シート3を貼り付け、この実機携帯電話1に近づけたリーダ4を離間させていき、ビットエラーが初めて発生した地点と実機携帯電話1との距離を限界通信距離として求めた。表1に、試験結果をまとめて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
3.アスペクト比−透磁率特性
扁平状軟磁性粉末の化学組成(質量%)をFe−8%Si−2%Cr、厚みを1μmに固定し、アスペクト比を変化させた場合の磁性シートの実数部透磁率μ’(周波数13.56MHz)の変化を求めた。その結果を図3に示す。
【0077】
4.厚み−透磁率特性
扁平状軟磁性粉末の化学組成(質量%)をFe−8%Si−2%Cr、アスペクト比を100に固定し、当該粉末の厚みを変化させた場合の磁性シートの虚数部透磁率μ”(周波数13.56MHz)の変化を求めた。その結果を図4に示す。
【0078】
5.考察
以上の結果から次のことが分かる。すなわち、図3によれば、扁平状軟磁性粉末を構成する合金がFe−Si−Cr系合金である場合、アスペクト比が100未満、アスペクト比が150超になると、実数部透磁率μ’が100未満と小さくなる傾向があることが分かる。これはアスペクト比が100未満になると、形状異方性が小さくなり、反磁界が大きくなるためであると推察される。一方、アスペクト比が150超になると、シート作製時におけるマトリクスポリマーとの混練の際等に、応力によって扁平状軟磁性粉末が湾曲してしまうためであると推察される。この結果から、アスペクト比は100〜150の範囲にあると良いことが分かる。
【0079】
次に、図4によれば、扁平状軟磁性粉末の厚みが1μm超になると、急激に虚数部透磁率μ”が増大し始める傾向があることが分かる。扁平状軟磁性粉末の厚みが1μm超になると、渦電流の影響が大きくなるためであると推察される。この結果から、扁平状軟磁性粉末の厚みは1μm以下であると良いことが分かる。
【0080】
そして、表1および図1によれば、比較例1に係る磁性シートは、透磁率特性が良好であるものの、チップ状フェライト焼結体を基材に並べて埋め込んでいるので、チップ状フェライト焼結体の並びに沿って若干曲がる程度であり、割れも生じやすいことが分かる。
【0081】
また、比較例2は、扁平状軟磁性粉末がマトリクスポリマー中に分散された構造を有しているため、曲げ性に優れ、割れも発生しないが、本願に規定される条件を満たしていないので、実数部透磁率μ’が低く、限界通信距離が短いことが分かる。
【0082】
これらに対し、実施例1、2に係る磁性シートは、実施例1、2に係る扁平状軟磁性粉末を用いている。そのため、柔軟性に富み、破損の心配もなく、フェライト焼結体と同等の高い実数部透磁率μ’、低い虚数部透磁率μ”を発現させることが可能であることが確認できた。
【0083】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態、実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Si−Cr系合金よりなり、アスペクト比が100〜150の範囲内にあり、厚みが1μm以下であることを特徴とする扁平状軟磁性粉末。
【請求項2】
周波数13.56MHzにて用いられることを特徴とする請求項1に記載の扁平状軟磁性粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の扁平状軟磁性粉末を含むことを特徴とする磁性体。
【請求項4】
周波数13.56MHzにおける実数部透磁率μ’が80以上、虚数部透磁率μ”が10以下であることを特徴とする請求項3に記載の磁性体。
【請求項5】
RFID用であることを特徴とする請求項3または4に記載の磁性体。
【請求項6】
未扁平の軟磁性粉末を準備する準備工程と、
準備した未扁平の軟磁性粉末をメディアを用いて扁平化する扁平化処理工程とを有し、
前記扁平化処理工程は、
相対的に大きなメディアで扁平化処理を進めた後、相対的に小さなメディアに変更し、さらに扁平化処理を行う手順を含むことを特徴とする扁平状軟磁性粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−18663(P2011−18663A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160313(P2009−160313)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】