説明

手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造

【課題】グリスの温度、圧力上昇を無くして、駆動部品の潤滑性能の低下やグリス流出を防止して、駆動部品等の焼付きを防止する。
【解決手段】ギヤケース50内部を、フリクションプレート60によって、駆動部品の基端側を収容する基端側収容部55とグリスを受容する受容部58とに仕切り、駆動ギヤ及び従動ギヤのポンピング効果によって、基端側収容部55から受容部58にグリスを圧送する第2連通路54を設け、フリクションプレート60に、受容部58に圧送されたグリスを基端側収容部55に排出するための排出孔61bを設ける。排出孔61bは、従動ギヤに設けられた偏心カムに嵌合するロッドの大回動部の摺動面の回転軌道に掛かる位置に配設する。ギヤケース50内部に基端側収容部55と連通する先端側収容部57を設け、基端側収容部55及び先端側収容部57間を戻し連通路64で連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち式動力作業機、特にヘッジトリマ、刈払機等の回転運動を往復運動に変換する駆動部品を備えた手持ち式動力刈取機作業機の駆動部品潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動ギヤにより従動ギヤを回転駆動し、従動ギヤの回転運動を往復運動に変換する手持ち式動力作業機のうち、例えば、ヘッジトリマは、作業者自身の腕によって支えられるので、長時間作業をしても疲労を防止するために、部品点数を減らして作業機本体を軽量化する試みが従来から行われている。
【0003】
またヘッジトリマの従動ギヤの回転運動を往復運動に変換する駆動部品の潤滑は、一般的にグリスが用いられているが、駆動部品へのグリス供給が不十分になると、焼付きや摩耗等が発生して駆動部品が損傷する虞が生じる。
【0004】
そこで、駆動部品の回転部にボールベアリングやニードルベアリングを装着してグリス補給を減らすことが可能な手持ち作業装置や、駆動部品に動力を伝達する従動ギヤ等に凹みや切欠きを設けてグリスの受容を容易にして潤滑性を向上させた手持ち作業装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0005】
ボールベアリングやニードルベアリングを装着した手持ち作業装置では、部品点数の増加によってコストが増大するという問題が生じる。一方、特許文献1に記載の手持ち作業装置では、凹部に潤滑油を受容しても、従動ギヤや駆動部品を収容するハウジングと従動ギヤや駆動部品との間の隙間が大きいので、手持ち作業装置の姿勢によっては凹部に受容された潤滑油が漏れ出して、十分な潤滑性能を発揮させることができないという問題が生じる。
【0006】
そこで、本出願人は、駆動ギヤを囲むギヤケースの内側面部を駆動ギヤに近接して設け、従動ギヤを囲むギヤケースの内側面部を従動ギヤに近接して設け、従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合するロッドの大回動部の移動軌跡範囲の近傍位置と駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合い部近傍との間を連通する連通路をギヤケースに設け、ギヤケース内にグリスを受容する受容部を設け、駆動ギヤ及び従動ギヤの回転によるポンピング効果によって送り出されるグリスを、連通路を介して大回動部に供給する、という駆動部品潤滑構造に関する提案を行っている。この潤滑構造によれば、駆動部品の大回動部にベアリングを設けなくても、駆動部品の潤滑が十分に得られるので、部品点数を減らしてコストを安価にすることができる。またポンピング効果によって送り出されるグリスは連通路を流れて大回動部に供給され、またギヤケース内のグリスが減少しても受容部からのグリス供給が可能であるので、作業装置の姿勢に拘わらずに駆動部品への潤滑性能を十分に発揮させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平10−136784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この本出願人が提案した潤滑構造によれば、グリスは、駆動部品が駆動すると、ギヤケース内面と駆動部品との間に形成された狭い空間内でグリスの攪拌が増長されるので、不必要にグリスの温度や圧力が上昇する虞がある。このグリスの温度上昇や圧力上昇は、グリスの粘度を低下させて、駆動部品各部の潤滑性能が低下するだけでなく、刃物の摺動面からギヤケース外部にグリス自体が容易に流出して、早期にグリス切れが起きるという不都合が生じる。この場合、グリスの補給を定期的に行えばよいが、この補給作業は作業者にとって煩わしく、一方、グリス補給を行わないと、最悪の場合には潤滑不良によって駆動部品が焼付くという問題が発生する。
【0009】
本発明は、グリスの温度、圧力上昇を無くして、駆動部品の潤滑性能の低下やグリスの流出を防止して、駆動部品等が焼付く事態を防止することができ、且つ軽量の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。特徴の一つは、駆動ギヤにより従動ギヤを回転駆動し、従動ギヤの回転運動を往復運動に変換し、駆動ギヤ及び従動ギヤを収容するギヤケース内部の駆動部品(例えば、実施形態における駆動ギヤ21,従動ギヤ23,偏心カム31,31',ロッド33,33')を、駆動ギヤ及び従動ギヤのポンピング効果によって圧送されるグリスで潤滑する手持ち式動力作業機(例えば、実施形態におけるヘッジトリマ1)の駆動部品潤滑構造であって、ギヤケース内部を、フリクションプレートによって、駆動部品の基端側を収容する基端側収容部とグリスを受容する受容部とに仕切り、駆動ギヤ及び従動ギヤのポンピング効果によって、基端側収容部から受容部にグリスを圧送する連通路(例えば、実施形態における第2連通路54)を設け、フリクションプレートに、受容部に圧送されたグリスを基端側収容部に排出するための排出孔を設けたことを特徴とする
【0011】
この特徴によれば、フリクションプレートによって、ギヤケース内部を基端側収容部と受容部とに仕切り、駆動ギヤ及び従動ギヤのポンピング効果によって基端側収容部から受容部にグリスを圧送する連通路を設け、フリクションプレートに排出孔を設けることにより、グリスは、ポンピング効果によって基端側収容部から受容部に圧送され、受容部の排出孔から既に受容されているグリスが排出される。このように、ポンピング効果によって圧送されるグリスは受容部で一旦受容され、排出孔から既に受容されているグリスが排出されるので、受容部においてグリス交換が適度に行われて、グリスの温度上昇を適度に抑制することができる。それによって、グリスの軟化を抑制することができ、ギヤケースからグリスが流出する事態を抑制して、駆動部品の焼付き等による損傷を防止することができる。
【0012】
また特徴の一つは、排出孔が、従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合して従動ギヤからの動力を作業部に伝達する駆動部品のロッドの大回動部が移動する移動軌跡範囲内に設けられることを特徴とする。
【0013】
この特徴によれば、排出孔をロッドの大回動部が移動する移動軌跡範囲内に設けることで、特に潤滑の必要なロッドの大回動部に効果的にグリスを供給することができ、摩耗による駆動部品の損傷をさらに防止することができる。
【0014】
また特徴の一つは、基端側収容部に連通して少なくとも駆動部品の往復運動する先端側を収容する先端側収容部と、基端側収容部から先端側収容部に圧送されたグリスを該基端側収容部に戻すための戻し連通路を、ギヤケース内部に設けたことを特徴とする。
【0015】
この特徴によれば、ギヤケース内部に先端側収容部と戻し連通路を設けることで、駆動部品の往復運動によって先端側収容部内のグリス圧力が上昇しても、すると、グリスは戻し連通路を通って基端側収容部内に戻される。このため、特に上昇し易い先端側収容部内のグリス圧力の上昇を抑制することができ、ギヤケースから外部にグリスが流出する量を低減することができ、摩耗による駆動部品の損傷をより防止することができる。
【0016】
さらに特徴の一つは、ギヤケースは、本体部と、該本体部に装着される蓋部とを備え、本体部と蓋部との間にシール部材を介在して本体部と蓋部とを液密に接続し、戻し連通路は、本体部に形成された先端側収容部に連通してギヤケース先端側から基端側へ延びる本体側連通路と、蓋部に形成されてギヤケース基端側から先端側へ延びる蓋側連通路とを有し、本体側連通路及び蓋側連通路は、蓋部が本体部に装着された状態で各先端部が互いに交差し、これら連通路の交差部分において、蓋側連通路の開口部の内側に本体側連通路の開口部が開口し、交差部分に延びるシール部材に、蓋側連通路の開口部の内側であって本体側連通路の開口部を囲むように切り込んで形成された弁体によって本体側連通路から蓋側連通路へのグリスの流れを許容すると共に蓋側連通路から本体側連通路へのグリスの流れを規制する逆止弁を設けたことを特徴とする。
【0017】
この特徴によれば、本体側連通路と蓋側連通路の各先端部の交差部分に逆止弁を設けることにより、蓋側連通路から本体側連通路へのグリスの逆流を防止することができるとともに、基端側収容部と先端側収容部との間でグリスの環流経路を構築することができる。これによって、圧力上昇し易い先端側収容部の圧力上昇が防止され、グリスのギヤケースから外部への流出を抑制することができ、駆動部品の損傷を防止することができる。また逆止弁は、本体部と蓋部との間に介在されたシール部材に切り込みを入れて形成されるものであり、容易に逆止弁を設けることができる。
【0018】
また特徴の一つは、連通路は、駆動部品の運動によって変化する基端側収容部内の空間部のうちの縮小される空間部の容積が略最小となる位置の付近で、縮小された空間部と受容部とを連通する第1連通路を備えることを特徴とする。
【0019】
この特徴によれば、連通路は縮小された空間部と受容部とを連通する第1連通路を備えることで、空間部の容積が略最小となる空間部では、グリスは圧縮されて温度上昇を招いて軟化し易いが、この圧縮されたグリスは、第1連通路を流れて受容部に圧送されるので、受容部において速やかにグリス交換が行われて、グリスの軟化を防止することができ、且つギヤケースからグリスが流出する事態を防止することができる。これによって、駆動部品の損傷を防止することができる。
【0020】
また特徴の一つは、連通路は、駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合い部近傍と受容部とを連通する第2連通路を備えることを特徴とする。
【0021】
この特徴によれば、駆動ギヤ及び従動ギヤの噛合い部近傍と受容部とを第2連通路で繋ぐことで、噛合い部から供給されるグリスは常に受容部でグリス交換が行われるので、グリスの軟化を防止することができ、ギヤケースからグリスが流出する事態を防止することができ、これによって、駆動部品の損傷を防止することができる。また常にグリス交換ができるので、グリスの劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係わる手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造によれば、前述した特徴を有することで、ボールベアリング等を必要とせず、グリスの温度、圧力上昇を無くして、駆動部品各部の潤滑性能の低下やグリスの流出を防止して、駆動部品等が焼付く事態を防止することが可能で、軽量な手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係わる手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造の実施形態を図1から図11に基づいて説明する。本実施形態は、手持ち式動力作業機のうち枝や葉を刈り取るヘッジトリマを例にして説明する。図1はヘッジトリマ1の分解斜視図を示しており、ヘッジトリマ1は、同図に示すように、先端側に刈り取り作業を行う作業部10を備え、基端側に図示しないエンジンからの動力を作業部10に伝達する動力伝達装置20を備えて構成される。
【0024】
動力伝達装置20は、エンジンからの動力を受けて回転動する駆動ギヤ21と、この駆動ギヤ21に歯合して駆動ギヤ21からの動力を受けて回転動する従動ギヤ23と、この従動ギヤ23の側面に取り付けられて従動ギヤ23と連動して従動ギヤ23からの動力を伝達する伝動機構部30と、これら駆動ギヤ21、従動ギヤ23、伝動機構部30を回転自在に支持してグリスを収容するギヤケース50とを有してなる。
【0025】
従動ギヤ23は駆動ギヤ21のピッチ円直径より大径であり、従動ギヤ23の両側面には従動ギヤ23の回転中心軸線Sより外側に偏心した円板状の偏心カム31,31'が一体的に設けられている。これらの偏心カム31,31'は従動ギヤ23より小径であり、従動ギヤ23の回転中心軸線Sを挟んで一直線上に配設されている。
【0026】
伝動機構部30は、前述した一対の偏心カム31,31’と、各偏心カム31,31’に回動自在に嵌合したロッド33,33’とを有してなる。ロッド33,33’は板状であり、連結棒34,34’と連結棒34,34’の一端側に形成されて偏心カム31,31’に回動自在に嵌合する円環状の大回動部35,35’と、連結棒34,34’の他端側に形成されて作業部10の基部に回動自在に嵌合して大回動部35,35’より小径の円環状の小回動部37,37’とを有してなる。
【0027】
作業部10は、動力伝達装置20から延出する一対のブレード11,11’を有して構成される。ブレード11,11’は板状であり、先端側に複数の刃をブレード11,11’の延びる方向に沿って配設している。一対のブレード11,11’は側面同士が対向するように配置されて、一方のブレード11が一方の偏心カム31に嵌合したロッド33に連結され、他方のブレード11’が他方の偏心カム31’に嵌合したロッド33’に連結されている。このため、駆動ギヤ21が回転すると、伝動機構部30を介して一対のブレード11,11’が互いに異なる方向に往復動する。
【0028】
ギヤケース50は、駆動ギヤ21を駆動ギヤ収容部52に、従動ギヤ23を基端側収容部55に、伝動機構部30を基端側収容部55及び先端側収容部57に、作業部10の基端側端部を先端側収容部57に収容し、本体部51とこれを覆う蓋部70とで構成され、本体部51と蓋部70の間にガスケット82が挿入されて締結手段等によって一体化される。
【0029】
従動ギヤ23と本体部51、及び従動ギヤ23と蓋部70の各間には、フリクションプレート60がロッド33,33’の大回動部35,35’と概ね当接するように敷かれている。駆動ギヤ収容部52の内側面部52aは、駆動ギヤ21に近接して配置され、基端側収容部55の内側面部55aは従動ギヤ23及び伝動機構部30に近接して配置されている。
【0030】
駆動ギヤ収容部52と基端側収容部55は互いに交差しており、各交差部分は互いに開口して駆動ギヤ収容部52と基端側収容部55とを連通している。この交差部分に駆動ギヤ21と従動ギヤ23の歯部が突出して噛み合っている。以下、この駆動ギヤ21と従動ギヤ23とが噛合った部分を「噛合い部25」と記す。
【0031】
ギヤケース50内部は潤滑油となるグリスが注入されている。図示しないが、蓋部70には、噛合い部25の近傍位置と基端側収容部55とを連通する第1連通溝が形成され、この第1連通溝は、偏心カム31'及びロッド33'の大回動部35'の回転軌道上で一定時間の間塞がれない位置に配置されている。このため、駆動ギヤ21及び従動ギヤ23のポンピング効果によって噛合い部近傍からグリスが容易に大回動部35'に注入されて、大回動部35'の潤滑性を向上させることができる。
【0032】
ロッド33,33’の大回動部35,35’の偏心カム31,31’との摺動面35a,35a’には凹部35b,35b’が形成されている。凹部35b,35b’はグリスを受容して大回動部35,35’の摺動面35a,35a’の潤滑性能を高める。蓋部側の大回動部35’には、凹部35b’と大回動部外周側を連通する図示しない第2連通溝が設けられている。より詳細には、ロッド33’の回転で縮小して形成される基端側収容部55の空間部55bの容積が最小となる位置の近傍(以下、「圧縮上死点付近」と記す。)で、空間部55bと凹部35b’は第2連通溝を介して連通する。そのため、空間部55bからグリスが容易に摺動面35a’に注入されて、摺動面35a’の潤滑性を向上させることができる。
【0033】
図2はギヤケース50の本体部51における裏面図を示し、図3は本体部51内にフリクションプレート60を装着した本体部51の裏面図を示し、図4はギヤケース50の断面図を示す。ギヤケース50の本体部51の基端側収容部55には、これらの図に示すように、一時的にグリスを貯留する受容部58が設けられている。受容部58は、基端側収容部55の中央部に設けられた軸部55cを境にして本体部51の幅方向両側に設けられた第1受容部58aと第2受容部58bとを有して構成される。第1受容部58a及び第2受容部58bは、従動ギヤ23が回転する基端側収容部55をフリクションプレート60によって仕切るようにして隔てて形成される。
【0034】
第2受容部58bは、駆動ギヤ21と従動ギヤ23の噛合い部25近傍から延びる第2連通路54と連通しており、これらのギヤの噛合いによるギヤポンプ効果により、第2受容部58bには常にグリスが圧送される。
【0035】
フリクションプレート60は、図5(斜視図)に示すように、基端側収容部55内に挿着される円盤状の蓋体部61と、蓋体部61の一端部から延びる突出部62を有してなる。蓋体部61の中央部には前述した軸部55cを挿通する孔部61aが設けられ、孔部61aを中央にして左右両側には排出孔61bが設けられている。排出孔61bは、基端側収容部55に受容されたグリスを排出するためのものである。排出孔61bの位置については後述する。
【0036】
図6及び図7は、ギヤケース50内にフリクションプレート60及びロッド33が装着された本体部51の裏面図を示す。なお、大回動部35は、図面上、中心軸線Sを中心として時計方向に回動する。これらの図に示すように、ロッド33が回転して移動する大回動部35の回転運動により得られる基端側収容部55内の空間部55bの容積変動を利用してグリスを流動させるため、本体部51の内周面部はロッド33の大回動部35の回転軌道に近接した位置に設けられている。そして、この容積変動の前述した圧縮上死点付近の状態で、空間部55bと第1受容部58aとを連通する第1連通路53が本体部51に設けられている。この第1連通路53によって、空間部55bから第1受容部58aにグリスが圧送される。
【0037】
第1受容部58a及び第2受容部58bと基端側収容部55は、フリクションプレート60に設けられた前述した排出孔61bを介して連通している。この排出孔61bは、ロッド33の大回動部35にける摺動面35aの回転軌跡に掛かるように設けられている。このように第1連通路53及び前述した第2連通路54から第1受容部58a及び第2受容部58bにグリスが圧送されるので、これら受容部58内のグリス圧が高まり、排出孔61bから基端側収容部55にグリスが供給される。
【0038】
このように、駆動部品(駆動ギヤ21、従動ギヤ23、偏心カム31,31’、ロッド33,33’)の一連の動作によって、ギヤケース50の本体部51内のグリスは循環して、本体部51内の駆動部品が潤滑される。また排出孔61bから排出されるグリスによって、ロッド33,33’の大回動部35,35’の潤滑が強化される。
【0039】
一方、駆動部品の一連の動作の過程で、グリスの一部は先端側収容部57へと流動して更に作業部10の基端側端部の往復運動により先端側収容部57の前側から外部に漏れ出す虞が生じる。そこで、このグリスの流出を避けるため、先端側収容部57の前部にグランドパッキン80を配設している。しかしながら、先端側収容部57へのグリスの流動が過剰になると、先端側収容部57内の圧力が上昇してグリスがグランドパッキン80をすり抜けて外部に流出する虞が生じるので、先端側収容部57から基端側収容部55にグリスを回収する戻し連通路64を設けている。
【0040】
この戻し連通路64は、図8(裏面図)及び図9(説明図)に示すように、本体部51に形成された先端側収容部57の前側に連通してギヤケース先端側から基端側へ延びる本体側連通路64aと、蓋部70に形成されてギヤケース基端側から先端側へ延びる蓋側連通路64bとを有している。本体側連通路64a及び蓋側連通路64bは、蓋部70が本体部51に装着された状態で各先端部が互いに交差し、これら連通路の交差部分において、蓋側連通路64bの開口部64b1の内側に本体側連通路64aの開口部64a1が開口して本体側連通路64a及び蓋側連通路64bが連通している。このため、先端側収容部57内のグリスは、この収容部内の圧力の上昇を受けて、本体側連通路64a及び蓋側連通路64bを通って基端側収容部55内に回収される。
【0041】
本実施例では、ギヤケース50の本体部51と蓋部70との間に、図10(平面図)及び図11(部分拡大図)に示すように、ゴム製のシール部材82(例えば、ガスケット)を介在して本体部51と蓋部70とを液密に封止し、戻し連通路64の交差部分に延びるシール部材82に、蓋側連通路64bの開口部64b1の内側であって本体側連通路64aの開口部64a1を囲むように切り込み83を入れて形成された弁体84aによって本体側連通路64aから蓋側連通路64bへのグリスの流れを許容すると共に蓋側連通路64bから本体側連通路64aへのグリスの流れを規制する逆止弁84を設けている。
【0042】
このように構成することで、基端側収容部55から先端側収容部57へのグリスの逆流を防止することができ、グリスの外部への流出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係わるヘッジトリマのギヤケースの分解斜視図を示す。
【図2】本発明の一実施形態に係わるギヤケースの裏面図を示す。
【図3】フリクションプレートが挿着されたギヤケースの裏面図を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係わるギヤケースの断面図を示す。
【図5】フリクションプレートの斜視図を示す。
【図6】本発明の一実施形態に係わるロッドが装着されたギヤケースの裏面図を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係わるロッドが装着されたギヤケースの裏面図を示す。
【図8】本発明の一実施形態に係わるギヤケースの一部を構成する蓋部の裏面図を示す。
【図9】ギヤケースに設けられた基端側収容部と先端側収容部を連通する戻し連通路を備えたギヤケースの説明図を示す。
【図10】ギヤケースの本体部と蓋部との間に挿入されるシール部材の平面図を示す。
【図11】戻し連通路に設けられた逆止弁の平面図を示す。
【符号の説明】
【0044】
1 ヘッジトリマ(手持ち式動力作業機)
10 作業部
21 駆動ギヤ(駆動部品)
23 従動ギヤ(駆動部品)
25 噛合い部
31,31' 偏心カム(駆動部品)
33,33' ロッド(駆動部品)
35,35' 大回動部
50 ギヤケース
51 本体部
53 第1連通路
54 第2連通路(連通路)
55 基端側収容部
55b 空間部
57 先端側収容部
58 受容部
60 フリクションプレート
60b 排出孔
64 戻し連通路
64a 本体側連通路
64a1,64b1 開口部
64b 蓋側連通路
70 蓋部
82 シール部材
84 逆止弁
84a 弁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ギヤにより従動ギヤを回転駆動し、前記従動ギヤの回転運動を往復運動に変換し、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するギヤケース内部の駆動部品を、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤのポンピング効果によって圧送されるグリスで潤滑する手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造であって、
前記ギヤケース内部を、フリクションプレートによって、前記駆動部品の基端側を収容する基端側収容部と前記グリスを受容する受容部とに仕切り、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤのポンピング効果によって、前記基端側収容部から前記受容部に前記グリスを圧送する連通路を設け、
前記フリクションプレートに、前記受容部に圧送されたグリスを前記基端側収容部に排出するための排出孔を設けたことを特徴とする手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。
【請求項2】
前記排出孔は、前記従動ギヤに設けられた偏心カムに摺動可能に嵌合して前記従動ギヤからの動力を作業部に伝達する前記駆動部品のロッドの大回動部が移動する移動軌跡範囲内に設けられることを特徴とする請求項1に記載の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。
【請求項3】
前記基端側収容部に連通して少なくとも前記駆動部品の往復運動する先端側を収容する先端側収容部と、前記基端側収容部から前記先端側収容部に圧送されたグリスを該基端側収容部に戻すための戻し連通路を、前記ギヤケース内部に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。
【請求項4】
前記ギヤケースは、本体部と、該本体部に装着される蓋部とを備え、
前記本体部と前記蓋部との間にシール部材を介在して前記本体部と前記蓋部とを液密に接続し、
前記戻し連通路は、前記本体部に形成された前記先端側収容部に連通してギヤケース先端側から基端側へ延びる本体側連通路と、前記蓋部に形成されてギヤケース基端側から先端側へ延びる蓋側連通路とを有し、
前記本体側連通路及び前記蓋側連通路は、前記蓋部が前記本体部に装着された状態で各先端部が互いに交差し、これら連通路の交差部分において、前記蓋側連通路の開口部の内側に前記本体側連通路の開口部が開口し、
前記交差部分に延びるシール部材に、前記蓋側連通路の開口部の内側であって前記本体側連通路の開口部を囲むように切り込んで形成された弁体によって前記本体側連通路から前記蓋側連通路へのグリスの流れを許容すると共に前記蓋側連通路から前記本体側連通路へのグリスの流れを規制する逆止弁を設けたことを特徴とする請求項3に記載の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。
【請求項5】
前記連通路は、前記駆動部品の運動によって変化する前記基端側収容部内の空間部のうちの縮小される空間部の容積が略最小となる位置の付近で、縮小された空間部と前記受容部とを連通する第1連通路を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。
【請求項6】
前記連通路は、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの噛合い部近傍と前記受容部とを連通する第2連通路を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の手持ち式動力作業機の駆動部品潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−35821(P2008−35821A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216920(P2006−216920)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000237215)株式会社マキタ沼津 (27)
【Fターム(参考)】