説明

投射型表示装置

【課題】 黒が浮いた表示を抑制し、高コントラスト化を実現できる投射型表示装置を提供する。
【解決手段】 光変調手段を備えた投射型表示装置であって、前記光変調手段は、プレチルトを有する負の誘電異方性の液晶層80と、光軸方向に屈折率異方性を有する光学補償板92とを備え、前記光学補償板92について、その平面内における互いに直交する方位角方向の屈折率をnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzとした場合に、nz<nx若しくはnz<nyが成立し、前記光学補償板92は、nx>nyが成立することで面内位相差を有し、当該面内位相差の遅相軸92aが前記液晶層80のプレチルトの方位角方向に対して略垂直であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶装置においては、誘電異方性が負の液晶を基板に垂直に配向させ、電圧印加によってこれを倒す「VA(Vertical Alignment)モード」によって駆動する液晶装置が知られている。
このような液晶装置としては、2枚の偏光板の間に位相差板と液晶層とが配置された構成が知られており、位相差板は偏光板のクロスニコルの中でもその遅相軸が平行か垂直になるように配置するが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。このような構成を採用することにより、黒表示は位相差に影響されずに、理想的な黒色を表示することが可能となる。
【0003】
一方、近年では大画面表示を可能とした表示装置として、投射型表示装置(液晶プロジェクタ)が実用化されている。このような投射型表示装置においては、上記の垂直配向液晶を備えた液晶装置をライトバルブとして備えた構成が提案されている。
【特許文献1】特開平11−95208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者は、上記の特許文献に記載された液晶装置を投射型表示装置に適用しただけでは、黒が浮いた表示となってしまい、コントラストの低下を招いてしまうことを見出した。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、黒が浮いた表示を抑制し、高コントラスト化を実現できる投射型表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、垂直配向液晶においては液晶分子が傾倒する方向を規定するためにプレチルトを与えるのが一般的であるが、この場合ではプレチルトの方位角方向に位相差が生じ、黒が浮いた表示となってしまい、コントラストが低下してしまうことを見出した。
そこで、本発明者は、上記に基づいて以下の手段を有する本発明を想到した。
【0006】
即ち、本発明の投射型表示装置は、平面内で互いに直交する二つの方位角方向の屈折率をそれぞれnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzと定義した場合に、nz<nx且つnz<nyを満たした光軸を有し、nx>nyを満たした面内位相差を有する光学補償板と、前記面内位相差の遅相軸の方向に対して略垂直となる方位角方向にプレチルトを有した負の誘電異方性の液晶層を備える光変調手段と、を備えたことを特徴としている。
このような光学補償板を備えることにより、初期的にプレチルトを有している垂直配向液晶の位相差をキャンセルし、当該位相差を光学的に補償することができる。これによって、黒が浮いた表示を抑制することができ、高コントラスト化を実現できる。
【0007】
また、上記の投射型表示装置においては、前記面内位相差は20nm以下であることを特徴としている。
このように面内位相差を20nm以下にすることで、プレチルトが80°以上の液晶層の位相差を補償することができる。
【0008】
また、上記の投射型表示装置においては、前記液晶層を配向させる配向膜は、無機材料からなることを特徴としている。
このように無機材料を配向膜として用いることにより、垂直配向の液晶分子が所定のプレチルトを備えるように液晶層を配向させることができる。無機材料としてSiO(x=1又は2)Alなどを想定している。
【0009】
また、上記の投射型表示装置においては、前記光変調手段は、前記液晶層の光入射側に設けられた第1偏光板と、液晶層の光出射側に設けられた第2偏光板とを具備し、前記光学補償板は、前記液晶層と前記第1偏光板との間、又は前記液晶層と前記第2偏光板との間に配置されていることを特徴としている。
このようにすれば、液晶層と第1偏光板との間、又は液晶層と第2偏光板との間において、初期的にプレチルトを有している垂直配向液晶の位相差をキャンセルし、当該位相差を光学的に補償することができる。
【0010】
また、上記の投射型表示装置においては、前記光学補償板の表面には、反射防止膜が形成されていることを特徴としている。
このようにすれば、光変調手段に光が入射することに起因する光リークを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(投射型表示装置)
以下、本発明の投射型表示装置の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、投射型表示装置の要部を示す概略構成図である。
図1に示すように、投射型表示装置PJは、光源10と、光源10から入射した光の輝度分布を均一化する均一照明系20と、均一照明系20から入射した光の波長領域のうちのRGB3原色の輝度をそれぞれ変調する色変調部25(光変調手段としての3つの透過型液晶ライトバルブ22,23,24を含む)と、色変調部25から入射した光をスクリーン(不図示)に投射する投射レンズ27と、を含んで構成されている。
【0012】
光源10は、超高圧水銀ランプやキセノンランプ等からなるランプ11と、ランプ11からの射出光を反射・集光するリフレクタ12とを含んで構成されている。
【0013】
均一照明系20は、フライアイレンズ等からなる2つのレンズアレイ21,22と、偏光変換素子23と、集光レンズ24とを含んで構成されている。そして、光源10からの光の輝度分布を2つのレンズアレイ21,22により均一化し、均一化した光を偏光変換素子23により色変調部の入射可能偏光方向に偏光し、偏光した光を集光レンズ24により集光して色変調部25に射出する。
なお、偏光変換素子23は、例えば、PBSアレイと、1/2波長板とで構成されており、ランダム偏光を特定の直線偏光に変換するものである。
【0014】
色変調部25は、光分離手段としての2つのダイクロイックミラー13,14と、3つのミラー(反射ミラー15,16,17)と、5つのフィールドレンズ(レンズ18a、リレーレンズ18b、平行化レンズ26B,26G,26R)と、3つの液晶ライトバルブ22,23,24と、クロスダイクロイックプリズム28と、を含んで構成されている。
【0015】
ダイクロイックミラー13,14は、光源10からの光(白色光)を、赤(R)、緑(G)、青(B)のRGB3原色光に分離(分光)するものである。ダイクロイックミラー13は、ガラス板等にB光及びG光を反射し、R光を透過する性質のダイクロイック膜を形成したもので、光源10からの白色光に対して、当該白色光に含まれるB光及びG光を反射し、R光を透過する。ダイクロイックミラー14は、ガラス板等にG光を反射し、B光を透過する性質のダイクロイック膜を形成したもので、ダイクロイックミラー13を透過したG光及びB光のうち、G光を反射して平行化レンズ26Gに伝達し、青色光を透過してレンズ18aに伝達する。
【0016】
リレーレンズ18bはレンズ18a近傍の光(光強度分布)を平行化レンズ26B近傍に伝達するもので、レンズ18aはリレーレンズ18bに光を効率よく入射させる機能を有する。レンズ18aに入射したB光はその強度分布をほぼ保存された状態で、かつ光損失を殆ど伴うことなく空間的に離れた液晶ライトバルブ24に伝達される。
【0017】
平行化レンズ26B,26G,26Rは対応する液晶ライトバルブ22,23,24に入射する各色光を略平行化して入射光の角度分布を狭め、液晶ライトバルブ22,23,24の表示特性を向上させる機能を有している。そして、ダイクロイックミラー13,14で分光されたRGB3原色の光は、上述したミラー(反射ミラー17,15,16)及びフィールドレンズ(レンズ18a、リレーレンズ18b、平行化レンズ26B,26G,26R)を介して液晶ライトバルブ22,23,24に入射する。
【0018】
液晶ライトバルブ22,23,24は、画素電極及びこれを駆動するための薄膜トランジスタ素子や薄膜ダイオード等のスイッチング素子がマトリクス状に形成されたガラス基板と、全面にわたって共通電極が形成されたガラス基板との間に垂直配向液晶を挟み込むとともに、偏光板とCプレートを配置したアクティブマトリクス型の液晶表示素子である(後述)。
【0019】
また、液晶ライトバルブ22,23,24は、非選択電圧印加時で黒/暗(非透過)状態、選択電圧印加時で白/明(透過)状態となるノーマリーブラックモードで駆動され、与えられた制御値に応じて明暗間の階調がアナログ制御される。液晶ライトバルブ24は、入射されたB光を表示画像データに基づいて光変調し、光学像を内包した変調光を射出する。液晶ライトバルブ23は、入射されたG光を表示画像データに基づいて光変調し、光学像を内包した変調光を射出する。液晶ライトバルブ22は、入射されたR光を表示画像データに基づいて光変調し、光学像を内包した変調光を射出する。
【0020】
クロスダイクロイックプリズム28は、4つの直角プリズムが貼り合わされた構造からなり、その内部には、B光を反射する誘電体多層膜(B光反射ダイクロイック膜28B)及びR光を反射する誘電体多層膜(R光反射ダイクロイック膜28R)が断面X字状に形成されている。そして、液晶ライトバルブ23からのG光を透過し、液晶ライトバルブ22からのR光と液晶ライトバルブ24からのB光とを折り曲げてこれらの3色の光を合成し、カラー画像を形成する。
【0021】
投射レンズ27は、液晶ライトバルブ100の表示面上に形成された光学像を図示しないスクリーン上に投射してカラー画像を表示する。
【0022】
液晶ライトバルブ22,23,24は、透過光の強度を変調し、その変調度合いに応じた光学像を内包する機能を有している。また、液晶ライトバルブ22,23,24は光分離手段であるダイクロイックミラー13,14で分光された特定波長領域の光(R,G,Bなどの色光)を変調するようになっている。
【0023】
次に、投射型表示装置PJの全体的な光伝達の流れを説明する。
光源10からの白色光はダイクロイックミラー13,14により赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の3原色光に分光されるとともに、平行化レンズ26B,26G,26Rを含むレンズ及びミラーを介して、液晶ライトバルブ22,23,24に入射される。液晶ライトバルブ22,23,24に入射した各々の色光はそれぞれの波長領域に応じた外部データに基づいて色変調され、光学像を内包した変調光として射出される。液晶ライトバルブ22,23,24からの各変調光は、それぞれクロスダイクロイックプリズム28に入射し、そこで一つの光に合成され、投射レンズ27へ射出される。そして、投射レンズ27において、液晶ライトバルブ100からの最終的な合成光を図示しないスクリーン上に投射し所望の画像を表示する。
【0024】
(液晶ライトバルブの第1実施形態)
次に、図2〜図6を参照し、上記の投射型表示装置が備える液晶ライトバルブ(光変調手段)22、23、24について説明する。ここでは、液晶ライトバルブ22を代表して説明し、液晶ライトバルブ23、24の説明を省略する。
液晶ライトバルブ22は、一対の基板により液晶層が挟持された液晶パネルと、その液晶パネルの外側にCプレート(光学補償板)と偏光板とを備えて構成されている。なお、本実施形態では、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTという)素子を用いたアクティブマトリクス方式の液晶ライトバルブについて説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、本明細書では、液晶ライトバルブの各構成部材における液晶層側を内側と呼び、その反対側を外側と呼ぶことにする。また、「非選択電圧印加時」および「選択電圧印加時」とは、それぞれ「液晶層への印加電圧が液晶のしきい値電圧近傍である時」および「液晶層への印加電圧が液晶のしきい値電圧に比べて十分高い時」を意味しているものとする。
【0025】
図2は、液晶パネルの等価回路図である。
液晶パネルの画像表示領域を構成すべくマトリクス状に配置された複数のドットには、画素電極39が形成されている。また、その画素電極39の側方には、当該画素電極39への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子60が形成されている。このTFT素子60のソースには、データ線36aが電気的に接続されている。各データ線36aには画像信号S1、S2、…、Snが供給される。なお、画像信号S1、S2、…、Snは、各データ線36aに対してこの順に線順次で供給してもよく、相隣接する複数のデータ線36aに対してグループ毎に供給してもよい。
【0026】
また、TFT素子60のゲートには、走査線63aが電気的に接続されている。走査線63aには、所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。走査信号G1、G2、…、Gmは、各走査線63aに対してこの順に線順次で印加する。また、TFT素子60のドレインには、画素電極39が電気的に接続されている。そして、走査線63aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子60を一定期間だけオン状態にすると、データ線36aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれる。
【0027】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極39と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極39と容量線33bとの間に蓄積容量47が形成され、液晶容量と並列に配置されている。このように、液晶に電圧信号が印加されると、印加された電圧レベルにより液晶分子の配向状態が変化する。これにより、液晶に入射した光が変調されて階調表示が可能となる。
【0028】
図3は、液晶パネルの平面構造の説明図である。
本実施形態の液晶パネルでは、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、以下ITOという)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極39(破線39aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。また、画素電極39の縦横の境界に沿って、データ線36a、走査線63aおよび容量線33bが設けられている。本実施形態では、各画素電極39の形成された領域がドットであり、マトリクス状に配置されたドットごとに表示を行うことが可能な構造になっている。
【0029】
TFT素子60は、ポリシリコン膜等からなる半導体層31aを中心として形成されている。半導体層31aのソース領域(後述)には、コンタクトホール35を介して、データ線36aが電気的に接続されている。また、半導体層31aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール38を介して、画素電極39が電気的に接続されている。一方、半導体層31aにおける走査線63aとの対向部分には、チャネル領域31a’が形成されている。なお、走査線63aは、チャネル領域31a’との対向部分においてゲート電極として機能する。
【0030】
容量線33bは、走査線63aに沿って略直線状に伸びる本線部(すなわち平面的に見て、走査線63aに沿って形成された第1領域)と、データ線36aとの交点からデータ線36aに沿って前段側(図中上向き)に突出した突出部(すなわち平面的に見て、データ線36aに沿って延設された第2領域)とによって構成されている。また、図3中に右上がりの斜線で示した領域には、第1遮光膜41aが形成されている。そして、容量線33bの突出部と第1遮光膜41aとがコンタクトホール13を介して電気的に接続され、後述する蓄積容量が形成されている。
【0031】
図4は、液晶パネルの断面構造の説明図であり、図3のA−A’線における側面断面図である。
図4に示すように、液晶パネル90は、TFTアレイ基板40と、これに対向配置された対向基板50と、これらの間に挟持された液晶層80とを主体として構成されている。TFTアレイ基板40は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体40A、およびその内側に形成されたTFT素子60や画素電極39、配向膜46などを主体として構成されている。一方の対向基板50は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体50A、およびその内側に形成された共通電極51や配向膜52などを主体として構成されている。
【0032】
TFTアレイ基板40の表面には、後述する第1遮光膜41aおよび第1層間絶縁膜42が形成されている。そして、第1層間絶縁膜42の表面に半導体層31aが形成され、この半導体層31aを中心としてTFT素子60が形成されている。半導体層31aにおける走査線63aとの対向部分にはチャネル領域31a’が形成され、その両側にソース領域およびドレイン領域が形成されている。なお、このTFT素子60はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しているため、ソース領域およびドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。すなわち、ソース領域には低濃度ソース領域31bと高濃度ソース領域31dとが形成され、ドレイン領域には低濃度ドレイン領域31cと高濃度ドレイン領域31eとが形成されている。
【0033】
半導体層31aの表面には、ゲート絶縁膜32が形成されている。そして、ゲート絶縁膜32の表面に走査線63aが形成されて、その一部がゲート電極を構成している。また、ゲート絶縁膜32および走査線63aの表面には、第2層間絶縁膜34が形成されている。そして、第2層間絶縁膜34の表面にデータ線36aが形成され、第2層間絶縁膜34に形成されたコンタクトホール35を介して、データ線36aが高濃度ソース領域31dと電気的に接続されている。更に、第2層間絶縁膜34およびデータ線36aの表面には、第3層間絶縁膜37が形成されている。そして、第3層間絶縁膜37の表面に画素電極39が形成され、第2層間絶縁膜34および第3層間絶縁膜37に形成されたコンタクトホール38を介して、画素電極39が高濃度ドレイン領域31eと電気的に接続されている。更に、画素電極39を覆うように、ポリイミド等からなる配向膜46が形成されている。配向膜46の表面にはラビング等が施され、非選択電圧印加時における液晶分子の配向方向を規制しうるようになっている。
【0034】
なお、本実施形態では、半導体層31aを延設して第1蓄積容量電極31fが形成されている。また、ゲート絶縁膜32を延設して誘電体膜が形成され、その表面に容量線33bが配置されて第2蓄積容量電極が形成されている。これらにより、上述した蓄積容量47が構成されている。
【0035】
また、TFT素子60の形成領域に対応するTFTアレイ基板40の表面に、第1遮光膜41aが形成されている。第1遮光膜41aは、液晶パネルに入射した光が、半導体層31aのチャネル領域31a'、低濃度ソース領域31bおよび低濃度ドレイン領域31cに侵入することを防止するものである。なお、第1遮光膜41aは、第1層間絶縁膜42に形成されたコンタクトホール13を介して、前段あるいは後段の容量線33bと電気的に接続されている。これにより、第1遮光膜41aは第3蓄積容量電極として機能し、第1層間絶縁膜42を誘電体膜として、第1蓄積容量電極31fとの間に新たな蓄積容量が形成されている。
【0036】
一方、データ線36a、走査線63aおよびTFT素子60の形成領域に対応する対向基板50の表面には、第2遮光膜23が形成されている。第2遮光膜23は、液晶パネルに入射した光が、半導体層31aのチャネル領域31a’や低濃度ソース領域31b、低濃度ドレイン領域31cに侵入するのを防止するものである。また、対向基板50および第2遮光膜23の表面には、ほぼ全面にわたってITO等の導電体からなる共通電極51が形成されている。
更に、共通電極51の表面には、配向膜52が形成されている。配向膜52は、シリコン酸化膜等の無機材料を蒸着することによって形成されたものである。このような配向膜52は、非選択電圧印加時における液晶分子の配向方向を規制し、液晶分子にプレチルトを付与することが可能となっている。なお、本明細書におけるプレチルトとは、基板面と液晶分子の配向方向とがなす角度を意味している。
【0037】
そして、TFTアレイ基板40と対向基板50との間には、液晶層80が挟持されている。当該液晶層80は、初期配向状態が略垂直配向を呈する誘電率異方性が負の液晶材料からなるものであって、プレチルトを有している。換言すれば、選択電圧印加時において、液晶分子が傾倒する方向が決まっているものである。
また、このような液晶層80は、非選択電圧印加時においてプレチルトを有しており、即ち、自らが位相差を有するものとなる。当該プレチルトは配向膜52によって85°に設定されている。
【0038】
図5は、液晶ライトバルブ22の構成を説明するための図であって、図5(a)は分解斜視図であり、図5(b)は図5(a)に対応する平面図である。
本実施形態の液晶ライトバルブ22は、上述した液晶パネル90と、液晶パネル90の外側に配置されたCプレート(光学補償板)92と、Cプレート92の外側及び液晶パネル90の外側に配置された偏光板(第1偏光板)93、偏光板(第2偏光板)94とによって構成されている。ここで、偏光板93は、液晶層80の光入射側に設けられたものであり、偏光板94は、液晶層80の光出射側に設けられたものである。
【0039】
図5に示すように、液晶パネル90の光入射側には偏光板93が配置され、光出射側には偏光板94が配置されている。各偏光板93,94は、その吸収軸方向の直線偏光を吸収し、透過軸方向の直線偏光を透過する機能を有する。そして各偏光板93,94は、それぞれの吸収軸および透過軸が直交するように配置されている。
【0040】
また、Cプレート92は、厚み方向に位相差を有する位相差フィルムであり、その厚み方向の屈折率(nz)が平面内の方位角方向の屈折率(nx,ny)よりも小さくなるような光学特性を有している。即ち、nz<nx且つnz<nyが成立している。更に、平面内の屈折率においては、nx>nyが成立しており、Cプレート92は面内位相差を有し、即ち、遅相軸92aを有するものとなっている。更に、当該遅相軸92aは、液晶層80のプレチルト方位角方向80aに対して垂直に配置されている。
【0041】
このようなCプレート92は、トリアセチルセルロース(以下、TAC基材と称する。)等からなる基材上に反射防止フィルム(反射防止膜)が設けられた構成となっている。また、TAC基材は面内に3〜5nmの面内位相差を有している。具体的に、3〜5nmの面内位相差とは、Cプレート92の厚みをdとしたときのリタデーション値(nx−ny)・dが、3〜5nmになることを意味している。
また、Cプレート92は、TAC基材の表面に反射防止フィルム(反射防止膜)が形成された構成を有しており、図5における入射光Lに起因するTFTの光リークを抑制している。
【0042】
図6は、上記のCプレート92の面内位相差を0〜8nmまで異ならせた場合において、液晶ライトバルブ22を透過する光の波長と透過率の関係を示す透過率特性図である。
図6において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示している。なお、図中Pは、ポーラライザを意味し、偏光板93、94のみの透過率特性であって、理想的な透過率特性を示すものである。
【0043】
図6に示すように、面内位相差が0nmの場合、換言すればCプレート92を用いていない、液晶層80のみの場合では、ポーラライザPから離れてしまうのに対して、面内位相差が3〜5nmの場合ではポーラライザPに近い透過率特性が得られる。
また、Cプレート92と液晶層80のチルトが直交することで黒の表示が沈み、コントラストが従来1000であったのに対して1500まで向上することが、本発明者によって確認された。
【0044】
上述したように、本実施形態においては、液晶ライトバルブ22がCプレート92を備えることにより、Cプレート92の面内位相差が、初期的にプレチルトを有している垂直配向の液晶層80の位相差をキャンセルし、光学的に補償することができる。これによって、黒が浮いた表示を抑制することができ、高コントラスト化を実現できる。
また、無機材料からなる配向膜52が形成されているので、非選択電圧印加時における液晶分子の配向方向を規制し、液晶分子にプレチルトを付与することができる。
また、Cプレート92は、偏光板93と液晶パネル90の間に配置されているので、液晶パネル90と偏光板93との間において、初期的にプレチルトを有している垂直配向液晶の位相差をキャンセルし、当該位相差を光学的に補償することができる。なお、当該Cプレート92は、偏光板93と液晶パネル90の間に配置することを限定するものではない。偏光板94と液晶パネル90の間にCプレート92を配置した構成を採用してもよい。
また、Cプレート92は、TAC基材の表面に形成された反射防止フィルムを備えるので、液晶パネル90に光が入射することに起因する光リークを抑制することができる。
【0045】
(液晶ライトバルブの第2実施形態)
次に、液晶ライトバルブの第2実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、本実施形態においては、先に記載の第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を簡略化し、異なる部分についてのみ説明する。
第1実施形態の液晶ライトバルブにおいては、液晶層80が85°のプレチルトを有すると共に面内位相差が3〜5nmのCプレート92を採用したが、本実施形態では液晶層80が83°のプレチルトを有すると共に面内位相差が7nmのCプレート92を採用している。
【0046】
図7は、上記のCプレート92の面内位相差を0〜8nmまで異ならせた場合において、液晶ライトバルブ22を透過する光の波長と透過率の関係を示す透過率特性図である。
図7において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示している。なお、図中Pは、ポーラライザを意味し、偏光板93、94のみの透過率特性であって、理想的な透過率特性を示すものである。
【0047】
図7に示すように、面内位相差が0nmの場合、換言すれば液晶層80のみの場合では、ポーラライザPから離れてしまうのに対して、面内位相差が7nmの場合ではポーラライザPに近い透過率特性が得られる。
【0048】
上述したように、本実施形態においては、先に記載した第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、非選択電圧印加時における液晶層80の位相差、所謂残留位相差が大きくなるものの、選択電圧印加時において液晶分子が傾倒しやすくなり、また、横電界に対する耐性が得られるので、配向制御性が向上し、応答が速くなる。
【0049】
なお、上記の第1及び第2実施形態においては、Cプレート92の面内位相差が3〜5nmの場合と、7nmの場合とについて説明したが、当該面内位相差は、20nm以下であれば、その値を限定するものではない。
その理由としては、プレチルトが80°を下回る垂直配向液晶においては、コントラストの低下を招き、良好な表示が得られにくくなる。そこで、高コントラストな表示を得るためには、プレチルトが80°よりも高いことが好ましい。このような80°以上のプレチルトを有する垂直配向液晶の位相差を補償するために必要なCプレート92の面内位相差は20nmである。従って、Cプレート92の面内位相差は20nm以下であることが好ましい。
【0050】
また、上記の上記の第1及び第2実施形態においては、Cプレート92を1枚設けた構成を採用しているが、当該Cプレート92を複数設けた構成を採用してもよい。この場合には、複数のCプレート92の各々の面内位相差の和の値が、図6や図7に示すポーラライザの値に近くなるように調整することが好ましい。
【0051】
また、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。たとえば、実施形態ではスイッチング素子としてTFTを備えた液晶ライトバルブを例にして説明したが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode)等の二端子型素子を採用してもよい。また、実施形態では透過型液晶ライトバルブを備えた3板式の投射型表示装置を例にして説明したが、単板式の投射型表示装置や直視型表示装置に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の投射型表示装置の要部を示す構成図。
【図2】本発明の投射型表示装置における液晶パネルの等価回路図。
【図3】本発明の投射型表示装置における液晶パネルの平面構造の説明図。
【図4】本発明の投射型表示装置における液晶パネルの断面構造の説明図。
【図5】本発明の投射型表示装置における液晶ライトバルブの分解斜視図。
【図6】本発明の投射型表示装置における第1実施形態の透過率特性を示す図。
【図7】本発明の投射型表示装置における第2実施形態の透過率特性を示す図。
【符号の説明】
【0053】
22、23、24 液晶ライトバルブ(光変調手段)、52 配向膜、80 液晶層、92 Cプレート(光学補償板)、93 偏光板(第1偏光板)、94 偏光板(第2偏光板)、PJ 投射型表示装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内で互いに直交する二つの方位角方向の屈折率をそれぞれnx、nyとし、厚さ方向の屈折率をnzと定義した場合に、nz<nx且つnz<nyを満たした光軸を有し、nx>nyを満たした面内位相差を有する光学補償板と、
前記面内位相差の遅相軸の方向に対して略垂直となる方位角方向にプレチルトを有した負の誘電異方性の液晶層を備える光変調手段と、
を備えたことを特徴とする投射型表示装置。
【請求項2】
前記面内位相差は20nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の投射型表示装置。
【請求項3】
前記液晶層を配向させる配向膜は、無機材料からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の投射型表示装置。
【請求項4】
前記光変調手段は、前記液晶層の光入射側に設けられた第1偏光板と、液晶層の光出射側に設けられた第2偏光板とを具備し、
前記光学補償板は、前記液晶層と前記第1偏光板との間、又は前記液晶層と前記第2偏光板との間に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の投射型表示装置。
【請求項5】
前記光学補償板の表面には、反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の投射型表示装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−30748(P2006−30748A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211295(P2004−211295)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】