説明

抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤の組み合わせ

【課題】E−セレクチンの発現を阻害すること。
【解決手段】抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤の組み合わせ、ならびにそれを含む医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)の組み合わせ、ならびにそれを含む医薬組成物に関する。
より詳細には、本発明は、トロンボキサンレセプター(TPレセプター)の特異的アンタゴニストおよびACEIの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
驚くべきことに、本発明者らは、前記の組み合わせが、炎症のメカニズムに関与する115kDaの接着分子であるE−セレクチンの遺伝子発現の阻害を可能にすることを確証した。E−セレクチンは実際、炎症組織において過剰発現されており、これは糖尿病、アテローム血栓性疾患、高血圧、肥満、アルツハイマー病などの種々の病態に特徴的である。
【0003】
より詳細には、E−セレクチンは、いずれもの炎症プロセスに不可欠な条件を構成する白血球と内皮細胞との間の可逆性接着を促進する(非特許文献1)。ローリング(rolling)といわれるこの工程は、セレクチンファミリーの接着分子(P−セレクチンまたはCD62P、およびE−セレクチンまたはCD62EもしくはELAM(内皮白血球接着分子))の、内皮細胞の表面での誘導を必要とし、これは次いでその白血球リガンド(「シアル酸付加糖質リガンド」、「P−セレクチン糖タンパク質リガンド1」またはPSGL1)と相互作用する。従って、血管の内皮壁上の白血球ローリングの進行は減速する。次いで、スティッキング(sticking)といわれる堅固な接着の工程がこれに続き、その間に白血球はそれ自体を血管表面に固定する。最後に、白血球は、走化成因子(TNF−α、IL−1、IL−8)の勾配を介して血管壁を通って炎症組織に向かって移動する(血管外遊出)。
【0004】
E−セレクチン発現が内皮に限定されており、そしてIL−1、TNF−αまたは細菌性リポ多糖(LPS)のような炎症刺激に応答することに留意することは重要である。細胞表面に存在するE−セレクチンのレベルは刺激の4〜6時間後に最大になる。細胞の刺激後にデノボ合成されるのでこの期間は長い。E−セレクチンレベルは活性化の24時間後にそのベースラインレベルに戻るが、インビボでは、特定の状況で、E−セレクチンは細胞表面により長く存続する。
【0005】
E−セレクチンを含む種々の接着分子の循環形態が存在する。これらの可溶性形態は、おそらく膜の挿入点付近の部位での酵素的切断によって生成される。これらの可溶性分子の量は、内皮細胞の表面に存在する接着分子のレベルと相関する(非特許文献2)。従って、可溶性接着分子(より特定するとE−セレクチン)の循環レベルの増加は、内皮細胞の活性化を示す(非特許文献3)。
【0006】
血漿E−セレクチンのレベルの増加が肥満において確証されており、そしてボディマスインデックスとの正の相関が実証されている(非特許文献4)。患者の心臓血管系における酸化ストレスの増加および/または内皮に接触したインスリンなどの代謝刺激がこの観察を説明し得る。実際、E−セレクチンレベルと血管リスクとの間の相関はまた、I型またはII型糖尿病に罹患した糖尿病患者において存在する(非特許文献5)。さらに、E−セレクチンレベルは、糖尿病に関連する血管合併症のマーカーであると考えられている。インスリン耐性、高血糖および高インスリン血症はE−セレクチン発現を増加させ、それにより患者において観察されるアテローム性動脈硬化症に対する素因を説明する。
【0007】
循環E−セレクチンのレベルの増加は高脂血症患者において広く見出されており、抗高脂血症剤処置の後にレベルが低下する(非特許文献6)。このことは、コレステロールレベルが可溶性E−セレクチンのレベルに影響することを示唆する。実際、重篤な脂質代謝異常は内皮機能不全をもたらし、内皮細胞におけるE−セレクチン発現が増加する。多数の研究が、E−セレクチンのレベルおよび発現と高コレステロール血症およびアテローム性動脈硬化症との相関を示している。E−セレクチン合成がサイトカインによって誘導されるという事実を考慮すると、E−セレクチンレベルの増加は血管炎症のマーカーとなり得る。
【0008】
また、多数の研究が、慢性静脈疾患に罹患した患者において、静脈高血圧に起因する内皮細胞の活性化およびそれゆえ接着分子の循環レベルの増加を実証している(非特許文献7、8)。
【0009】
さらに、E−セレクチンレベルの増加は、高血圧患者においても報告されている(非特許文献9)。
【0010】
同様に、多数の文献が、腎臓系の合併症におけるE−セレクチンの役割を記載している(非特許文献10、11)。
【0011】
アルツハイマー病に罹患した患者の症例におけるE−セレクチンの関与もまた実証されており、実際、E−セレクチンレベルの上昇が患者において観察されている(非特許文献12)。
【0012】
最後に、多数の刊行物が、転移プロセスおよびそれゆえガンにおけるE−セレクチンレベルの関与を実証している(非特許文献13、14)。
【非特許文献1】Frenette P.S. and Wagner D.D., Insights into selectin function from knockout mice, 1997, Thromb. and Haem., 78, 60-64
【非特許文献2】Leeuwenberg JFM, Smeets EF, Neefjes JJ et al, E-selectin and intercellular adhesion molecule-1 are released by human endothelial cells in vitro, 1992, Immunology, 77, 543-549
【非特許文献3】Smith CW, Potential significance of circulating E-selectin, 1997, Circulation, 95, 1986-1988
【非特許文献4】Ferri C, Desideri G, Valenti, et al, Early upregulation of endothelial adhesion molecules in obese hypertensive men, 1999, Hypertension, 34,568-573
【非特許文献5】Bannan S, Mansfield MW, Grant PJ, Soluble vascular cell adhesion molecule-1 and E-selectin levels in relation to vascular risk factor and to E-selectin genotype in the first degree relatives of NIDDM patients and in NIDDM patients, 1998, Diabetologia, 41,460-466
【非特許文献6】Hackman A, Abe Y, Insull W et al, Levels of soluble cell adhesion molecules in patients with dyslipemia, 1996, Circulation, 93, 1334-1338
【非特許文献7】Saharay M, Shields DA, Georgiannos SN et al, Endothelial activation in patients with chronic venous disease, 1998, Eur J Vasc Surg, 15, 342-349
【非特許文献8】Verbeuren TJ, Bouskela E, Cohen RA et al, Regulation of adhesion molecules: a new target for the treatment of chronic venous insufficiency, 2000, Microcirculation, 7,S41-S48
【非特許文献9】Ferri C, Bellini C, Desideri G et al, Clustering of endothelial markers of vascular damage in human salt-sensitive hypertension. Influence of dietary sodium load and depletion, 1998, Hypertension, 32,862-868
【非特許文献10】Singbartl K, Ley K, Protection from ischemia-reperfusion induced severe acute renal failure by blocking E-selectin, 2000, Crit. Care. Med., 28(7), 2507-2514
【非特許文献11】Nakatani K, Fujii H, Hasegawa H et al, Endothelial adhesion molecules in glomerular lesions: association with their severity and diversity in lupus models, 2004, Kidney Int., 65(4), 1290-1300
【非特許文献12】Borroni B, Volpi R, Martini G, Del Bono R, Archetti S, Colciaghi F, Akkawi NM, Di Luca M, Romanelli G, Caimi L, and Padovani A, Peripheral blood abnormalities in Alzheimer Disease : Evidence for early endothelial dysfunction, 2002, Alzheimer's disease and Associated disorders, 16(3), 150-155
【非特許文献13】Kobayashi H, Boelte KC, Lin PC, Endothelial Cell Adhesion Molecules and Cancer Progression, 2007, Current Medical Chemistry, 14, 377-386
【非特許文献14】Kneuer C, Ehrhardt C, Radomski MW, Bakowsky U, Selectins - potential pharmacological targets ?, 2006, Drug Discovery Today, Vol.11, No.21/22, 1034-1040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、E−セレクチンの発現を阻害することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は:
[1]光学異性体または薬学的に許容されるその塩の1つの形態であってもよい式(I):
【化3】


で表される化合物(A)およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤または薬学的に許容されるその塩の1つの組み合わせ;
[2]化合物(A)がテルトロバンであることを特徴とする、[1]の組み合わせ;
[3]化合物(A)がナトリウム塩の形態であることを特徴とする、[1]または[2]の組み合わせ;
[4]アンギオテンシン変換酵素阻害剤が、その活性代謝物ペリンドプリラートの形態であってもよいペリンドプリル、その活性代謝物ラミプリラートの形態であってもよいラミプリル、その活性代謝物エナラプリラートの形態であってもよいエナラプリル、カプトプリル、リシノプリル、デラプリル、ホシノプリル、キナプリル、スピラプリル、イミダプリル、その活性代謝物トランドラプリラートの形態であってもよいトランドラプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、テモカプリル、アラセプリル、セロナプリル、モベルチプリルもしくはモエキシプリル、または薬学的に許容される酸もしくは塩基とのその付加塩であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかの組み合わせ;
[5]アンギオテンシン変換酵素阻害剤が式(B):
【化4】


で表されるペリンドプリルまたは薬学的に許容される酸もしくは塩基とのその付加塩であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかの組み合わせ;
[6]式(B)で表されるペリンドプリルがtert−ブチルアミン塩またはアルギニン塩の形態であることを特徴とする、[5]の組み合わせ;
[7]有効成分として[1]〜[6]のいずれかの組み合わせを、1つ以上の不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体とともに含む医薬組成物;
[8]アンギオテンシン変換酵素阻害剤が式(B)で表されるペリンドプリルであり、有効成分の総重量が化合物(A)について60〜90%および式(B)で表されるペリンドプリルについて10〜40%に分割されることを特徴とする、[7]の医薬組成物;
[9]糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する血管合併症の処置における使用のための、[7]または[8]の医薬組成物;
[10]糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する心臓血管および脳血管合併症の処置における使用のための、[9]の医薬組成物;
[11]心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤または下肢の動脈炎の処置における使用のための、[9]または[10]の医薬組成物;
[12]糖尿病、高血圧または炎症性疾患に関連する腎症の処置における使用のための、[9]の医薬組成物;
[13]糖尿病性網膜症または腎症の処置における使用のための、[9]の医薬組成物;
[14]認知症の処置における使用のための、[7]または[8]の医薬組成物;
[15]アルツハイマー病または血管性認知症の処置における使用のための、[14]の医薬組成物;
[16]糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する血管合併症の処置のための医薬の製造における、[1]〜[6]のいずれかの組み合わせの使用;
[17]糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する心臓血管および脳血管合併症の処置のための医薬の製造における、[16]の組み合わせの使用;
[18]アテローム血栓性疾患が心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤または下肢の動脈炎であることを特徴とする、[16]または[17]の組み合わせの使用;
[19]血管合併症が糖尿病、高血圧または炎症性疾患に関連する腎症であることを特徴とする、[16]の組み合わせの使用;
[20]血管合併症が糖尿病性網膜症または腎症であることを特徴とする、[16]の組み合わせの使用;
[21]糖尿病に関連する血管合併症の処置のための医薬の製造における、[1]〜[6]のいずれかの組み合わせの使用;
[22]認知症の処置のための医薬の製造における、[1]〜[6]のいずれかの組み合わせの使用;
[23]認知症がアルツハイマー病または血管性認知症であることを特徴とする、[22]の組み合わせの使用、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤の組み合わせ、ならびにそれを含む医薬組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)の組み合わせに関する。
【0017】
− 抗アテローム血栓化合物は、ラセミ形態または光学的に純粋な異性体の形態の式(I):
【化5】


で表される化合物(A)または薬学的に許容されるその付加塩である。特許出願EP648741に記載されるように、この化合物はTPレセプターの強力なアンタゴニスト、より詳細にはトロンボキサンAおよびプロスタグランジンエンドペルオキシドレセプター(PGG−PGH)の特異的アンタゴニストである。さらに、この化合物が、糖尿病性アテローム性ApoE−/−マウスにおいて接着分子VCAM−1の内皮発現を有意に減少させることが示されている(Zuccollo A, Shi C, Mastroianni R et al, The thromboxane A2 receptor antagonist S 18886 prevents enhanced atherogenesis caused by diabetes mellitus, 2005, Circulation, 112, 3001-3008)。
【0018】
− アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)は、限定するものではないが、以下の化合物から選択される:その活性代謝物ペリンドプリラートの形態であってもよいペリンドプリル、その活性代謝物ラミプリラートの形態であってもよいラミプリル、その活性代謝物エナラプリラートの形態であってもよいエナラプリル、カプトプリル、リシノプリル、デラプリル、ホシノプリル、キナプリル、スピラプリル、イミダプリル、その活性代謝物トランドラプリラートの形態であってもよいトランドラプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、テモカプリル、アラセプリル、セロナプリル、モベルチプリルおよびモエキシプリル、ならびに薬学的に許容される酸もしくは塩基とのその付加塩。特定のACEIは、アンギオテンシンIIを注入したApoE−/−マウスの内皮細胞における接着分子の発現の誘導を阻害することに留意し得る(da Cunha V, Tham DM, Martin-McNulty B et al, Enalapril attenuates angiotensin II-induced atherosclerosis and vascular inflammation, 2005, Atherosclerosis, 178, 9-17)。
【0019】
トロンボキサンA−TPレセプター系とレニン−アンギオテンシン系との間の相互作用を研究することによって、本発明者らは接着分子の発現に関するこれらの経路の実質的な相乗作用を実証した。
【0020】
この目的のために、ヒト内皮細胞においてTNF−αによって誘導されるE−セレクチンの発現に対する効果を有しない濃度でTPレセプターのアンタゴニストを使用した。次いで、同じ濃度を、種々の同様に不活性な濃度のいくつかのACEIの存在下で試験した。ヒト内皮細胞においてTNF−αによって誘導されるE−セレクチン発現の有意な減少が2つの化合物の組み合わせについて観察され、この2つの化合物の間の予想外の相乗作用が実証された。
【0021】
この相乗効果は、ラットにおける血栓症および動脈圧試験においても実証された。この試験の過程において、式(I)で表される化合物(A)の抗血栓活性が、式(B)で表されるペリンドプリルの存在下で増強され、そして非常に実質的にそして全く予想外に増加することが示された。この試験はまた、式(I)で表される化合物(A)の存在が式(B)で表されるペリンドプリルの降圧効果を実質的にそして予想外に増強することを実証する。
【0022】
式(I)で表される化合物(A)および式(B)で表されるペリンドプリルの組み合わせは、糖尿病性アテローム性マウスのモデルにおいて大動脈における血管細胞接着分子1(VCAM−1)の発現および腎臓におけるフィブロネクチンの発現を明らかにそして実質的に減少させることも可能にした。
【0023】
これらの結果により、糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する血管合併症、より詳細には心臓血管および脳血管合併症の処置における使用のための医薬の製造における組み合わせ[TPレセプターアンタゴニスト/ACEI]の使用の意図が可能になる。アテローム血栓性疾患の中で、本発明の組成物は、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害、大動脈瘤または下肢の動脈炎の処置において特に有用である。さらに、糖尿病、高血圧または炎症性疾患に関連する腎症もまた、組み合わせ[TPレセプターアンタゴニスト/ACEI]が特に有用な適応症である。最後に、糖尿病性網膜症もまた本発明の好ましい治療適応症に属する。
【0024】
血管危険因子および血管疾患、例えば高血圧、肥満、糖尿病、心臓疾患、脳血管疾患および高脂血症ならびにアテローム性動脈硬化症は、アルツハイマー病および血管性認知症などの認知症の発生に関与している(Qiu C., De Ronchi D. and Fratiglioni L., The epidemiology of the dementias: an update, 2007, Current Opinion in Psychiatry, 20, 380-385)。さらに、アルツハイマー病のような神経変性疾患において、イソプロスタンレベルの増加が観察されている。イソプロスタンは、疾患の起源に存在する可能性のある酸化ストレスのマーカーであり、メディエーターでもある(Montuschi P., Barnes PJ. and Jackson Roberts II L., Isoprostanes: markers and mediators of oxidative stress, 2004, The FASEB Journal, 18, 1791-1800)。イソプロスタンはその活性の少なくとも一部をTPレセプターを刺激することによって発揮し(Montuschi P., Barnes PJ. and Jackson Roberts II L., Isoprostanes: markers and mediators of oxidative stress, 2004, The FASEB Journal, 18, 1791-1800)、そしてその活性はそれゆえ本発明の組み合わせによってブロックされる。
本特許出願において記載する研究によって実証されるように、本発明者らの組み合わせは、認知症の危険因子である血管疾患に対して作用する。
【0025】
好ましいACEIは式(B)で表されるペリンドプリルおよび式(C)で表されるラミプリル、ならびにその塩、より詳細には式(B)で表されるペリンドプリルおよびその塩である:
【化6】

【0026】
ペリンドプリルの付加塩の中で、限定するものではないが、tert−ブチルアミン、アルギニン、ナトリウム、カリウムなどの塩のような薬学的に許容される塩基との付加塩に言及し得る。
【0027】
ペリンドプリルは好ましくはtert−ブチルアミン塩またはアルギニン塩の形態である。
【0028】
本発明の組み合わせにおいて、化合物(A)は好ましくは3−[(6R)−6−[[(4−クロロフェニル)スルホニル]アミノ]−2−メチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフト−1−イル]プロパン酸(テルトロバンとしても知られる)である。イフェトロバンまたはラマトロバンなどの他のTPレセプターアンタゴニストを含む類似の組み合わせもまた意図され得る。
【0029】
化合物(A)の付加塩の中で、限定するものではないが、ナトリウム、カリウム、tert−ブチルアミン、ジエチルアミンなどの塩のような薬学的に許容される塩基との付加塩に言及し得る。テルトロバンのナトリウム塩が特に好ましい。
【0030】
本発明の医薬組成物において、ACEIおよびTPレセプターアンタゴニストの量はこれらの有効成分の性質に適合させられ、そしてそれらの相対的比率は有効成分に応じて変動し得る。
【0031】
化合物(A)がナトリウム塩の形態のテルトロバンであり、そしてACEIがtert−ブチルアミン塩またはアルギニン塩の形態のペリンドプリルである場合、これらの比率は、ペリンドプリルについて有効成分の総重量の10〜40%およびテルトロバンについて有効成分の総重量の60〜90%である。
【0032】
組み合わせのための好ましい百分率は、tert−ブチルアミン塩の形態のペリンドプリル15〜25%に対してナトリウム塩の形態のテルトロバン75〜85%、およびアルギニン塩の形態のペリンドプリル20〜30%に対してナトリウム塩の形態のテルトロバン70〜80%である。
【0033】
本発明はまた、化合物(A)およびACEI(その一方または両方は薬学的に許容される塩の形態であってもよい)の組み合わせを、1つ以上の適切で不活性な非毒性の担体または賦形剤とともに含む医薬組成物に関する。
【0034】
本発明の医薬組成物において、有効成分の重量比率(組成物の総重量に対する有効成分の重量)は5〜50%である。
【0035】
薬学的に許容される賦形剤に関して、限定するものではないが、結合剤、希釈剤、崩壊剤、安定化剤、保存剤、潤滑剤、香料、芳香剤または甘味剤に言及し得る。
【0036】
本発明の医薬組成物の中で、経口、非経口、特に静脈内、経皮、経鼻、直腸、経舌、眼球または呼吸経路による投与に適切なもの、より詳細には錠剤または糖衣錠、舌下錠、硬ゼラチンカプセル、カプセル、ロゼンジ、注射用調製物、エアロゾル、点眼薬、点鼻薬、坐薬、クリーム、軟膏、皮膚ゲルなどが特に選択される。
【0037】
好ましい投与経路は経口経路であり、そして対応する医薬組成物は有効成分の即時または遅延放出を可能にし得る。
【0038】
好ましい医薬組成物は錠剤である。
【0039】
単位用量は障害の性質および重篤度、投与経路ならびに患者の年齢および体重に従って変動し得る。本発明の組成物において、単位用量は、1回以上の投与で24時間当たり化合物(A)について1〜100mg、そしてACEIの性質に従って0.5〜100mgの範囲である。ACEIがペリンドプリルである場合、投与される一日用量は、1回以上の投与で0.5〜20mgである。
【実施例1】
【0040】
以下に組成物の例を示すが、これは本発明を限定するものではない。
【0041】
テルトロバン/ペリンドプリル錠剤:
例1:
【表1】


例2:
【表2】

【実施例2】
【0042】
薬理結果
E−セレクチン発現のインビトロ阻害
1)細胞培養
研究を、ヒト内皮細胞HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞、Clonetics Co)に対して実施した。細胞を2%FCS(ウシ胎児血清)を補充したEBM2培地(Endothelial Basal Medium, Clonetics Co)およびEGM2(Endothelial Growth Medium、Clonetics Co)中で培養した。
【0043】
2)E−セレクチンプロモーターのクローニング
a)PCRによるプロモーターの増幅
−800位〜+50位(アクセッション番号M64485;Tamaru et al., E-selectin gene expression is induced synergistically with the coexistence of activated classic protein kinase C and signals elicited by interleukin-1β but not tumor necrosis factor-α, 1999, J. Biol. Chem, 274, 3753-3763)のヌクレオチドに存在するヒトE−セレクチンプロモーターに対応する850bpのフラグメントをPCRによって増幅し、そしてサブクローニングした。100μlの最終反応容量で、5ユニットのネイティブなピロコッカスフリオサス(Pyrococcus furiosus)(Pfu)DNAポリメラーゼ(Stratagene)を、この酵素に特異的なバッファーを含有する媒質中に、1μlのヒトゲノムDNA(Clontech)、200μMのdNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸)(Clontech)および200ngのプライマーの存在下で入れた。使用したプライマーのセットは以下のとおりである:
5'-GGATCCGGTACCGAGATGGCGTTTCTCCATGT(配列番号1)および
5'-GAGCTTAAGCTTCTGTCTCAGGTCAGTATAGG(配列番号2)。
【0044】
Gene Amp PCR system 9700装置で、PCRプログラムは、94℃で1分間の開始、次いで35サイクル(94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で3分間)の増幅を含んだ。次いでPCR産物を0.3M酢酸ナトリウム(pH5.2)およびエタノールの存在下で−20℃で一晩沈殿させた。14000rpmで4℃で遠心分離した後、沈殿を70%エタノール中に再懸濁し、そして再度14000rpmで4℃で遠心分離した。次いで、得られた沈殿を乾燥させそして水中に取り出した。
【0045】
b)プロモーター配列の消化
次いで、増幅された配列を2段階で制限酵素KpnIおよびHindIIIによって消化した。増幅された配列を1時間30分37℃で30ユニットの酵素および100μg/mlのBSA(ウシ血清アルブミン)の存在下で消化した。各消化の後、バッファー塩を除去するために、得られた産物をMicro Bio-Spin(登録商標)Chromatography column(Bio-Rad)で系統的に精製した。
【0046】
c)PGL3/E−セレクチンプラスミドの構築
ホタルのルシフェラーゼ遺伝子を含むpGL3 Basicプラスミド(Promega)をインサートについてと同じプロトコルに従って制限酵素KpnIおよびHindIIIによって消化し、次いで低融点1%アガロースゲルで精製した。
pGL3 BasicプラスミドベクターおよびE−セレクチンプロモーターに対応するインサートのライゲーションを、T4 DNAリガーゼ(LigaFast(商標)Rapid DNA Ligation System、Promega)を使用して実施した。常法どおり、ライゲーションの間に、ベクターの量の3倍に等しい過剰のインサートを使用した。さらに、このインサートはベクターの長さの6分の1であるので(4.8kbに対して0.85kb)、化学量論的平衡の維持にはベクターの質量の6倍が必要であった。それゆえ、10.6ngのインサートおよび25ngのpGL3 Basicベクターを3ユニットのT4リガーゼの存在下で周囲温度で反応させた。
【0047】
3)HUVEC細胞のトランスフェクション
PGL3/E−セレクチンプラスミドを、4回目の継代の前にHUVEC細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションを、50%コンフルエンスの細胞を有するプレート中で、Lipofectin(登録商標)(Invitrogen)および3μgのPGL3/E−セレクチンプラスミドを各々のウェルに沈殿させて実施した。Lipofectin(登録商標)(6μg/ml)をOPTI−MEM培地(GIBCO(商標))中で30分間事前に活性化し、次いで培地で事前に希釈したプラスミドと15分間接触させた。細胞を4時間37℃で5%COおよび95%Oを含む雰囲気中でインキュベーションした。細胞を安定化するために、トランスフェクション培地を取り除き、そして一晩富化培養培地に置換した。
レポーター遺伝子の発現を4時間にわたって血清不含M199培地(GIBCO(商標))中で誘導した。細胞をかき取り、そして溶解バッファー(Dual-Luciferase(登録商標)キット、Promega)中で溶解し、次いで−20℃で保持した。
誘導期は、HUVEC細胞について100U/mlの腫瘍壊死因子α(TNF−α)の存在下4時間であった。誘導期の間、以下の様々な濃度を添加した:
− ペリンドプリラート(0〜100μM)、テルトロバンナトリウム塩(0〜100μM)、またはテルトロバンナトリウム塩(30μM)+様々な濃度のペリンドプリラート(10、30および100μM)(表1);および
− ラミプリラート(0〜100μM)、テルトロバンナトリウム塩(0〜100μM)、またはテルトロバンナトリウム塩(10μM)+様々な濃度のラミプリラート(30および100μM)(表2)。
【0048】
4)プロモーター活性の測定
E−セレクチンプロモーター活性を、生成したルシフェラーゼ活性の定量によって測定した(Dual-Luciferase(登録商標)キット、Promega)。ホタルルシフェラーゼの基質であるルシフェリンの溶液を各ウェルに添加した。これにより発光が生じる。ルシフェラーゼ活性は光感受性であるので、プレートを10分間暗所でインキュベーションし、次いで発せられた光子を定量するためにルミノメーターの読み取りを開始した(Wallac、Perkin Elmer)。得られた結果は5秒間の平均cpm(カウント毎分)である。
【0049】
5)テルトロバン−ペリンドプリルについての結果
ナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)およびその活性代謝物ペリンドプリラートの形態のペリンドプリル(化合物B)を、別々に様々な濃度(0、10、30、100μM)で、TNF−αでの誘導後のHUVEC細胞に対して試験した。同様に、ナトリウム塩の形態の化合物A(30μM)+様々な濃度(0、10、30および100μM)のその活性代謝物の形態の化合物Bを調べた。E−セレクチンプロモーターの活性を、コントロール条件下および生成物の存在下で誘導状態で測定した。活性(cpm、コントロールの観察の百分率として表す)を表1に示す。
【0050】
【表3】


表1:化合物Aのナトリウム塩、化合物Bの活性代謝物、または化合物Aのナトリウム塩(30μM)+化合物Bの活性代謝物の存在下でのTNF−α誘導条件下での(100U/ml)E−セレクチンプロモーターの活性の測定。コントロールに比較して*p<0.05;**p<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett(n=4〜5)。
【0051】
テルトロバンナトリウム塩およびその活性代謝物ペリンドプリラートの形態のペリンドプリルは、試験した濃度でE−セレクチン遺伝子の発現に効果を有しなかった。ペリンドプリラートをテルトロバンナトリウム塩(30μM)とともに同時インキュベーションした場合、E−セレクチン遺伝子発現の阻害がペリンドプリラート10μMから観察された(生成物なしの100%に対して60.8%のE−セレクチン遺伝子発現活性;p<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。
【0052】
結果は、これら2つの化合物の組み合わせでの投与が全く予想外な実質的な相乗効果を得ることを可能にすることを非常に明らかに示す。
【0053】
6)テルトロバン−ラミプリルについての結果
ナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)およびその活性代謝物ラミプリラートの形態のラミプリル(化合物C)を、別々に様々な濃度(0、30、100μM)で、TNF−αでの誘導後のHUVEC細胞に対して試験した。同様に、ナトリウム塩の形態の化合物A(10μM)+様々な濃度(0、30、100μM)のその活性代謝物の形態の化合物Cを調べた。E−セレクチンプロモーターの活性を、コントロール条件下および生成物の存在下で誘導状態で測定した。活性(cpm、コントロールの観察の百分率として表す)を表2に示す。
【0054】
【表4】


表2:化合物Aのナトリウム塩、化合物Cの活性代謝物、または化合物Aのナトリウム塩(10μM)+化合物Cの活性代謝物の存在下でのTNF−α誘導条件下での(100U/ml)E−セレクチンプロモーターの活性の測定。コントロールに比較して**p<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett(n=3)。
【0055】
ナトリウム塩の形態のテルトロバンおよびその活性代謝物ラミプリラートの形態のラミプリルは、試験した濃度でE−セレクチン遺伝子の発現に効果を有しなかった。ラミプリラートをテルトロバンナトリウム塩(10μM)とともに同時インキュベーションした場合、E−セレクチン遺伝子発現の阻害がラミプリラート30μMから観察された(生成物なしの100%に対して55.2%のE−セレクチン遺伝子発現活性;p<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。
【0056】
結果は、これら二つの化合物の組み合わせでの投与が全く予想外な実質的な相乗効果を得ることを可能にすることを非常に明らかに示す。
【0057】
ナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)およびその活性代謝物の形態のペリンドプリル(化合物B)、ならびにナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)およびその活性代謝物の形態のラミプリル(化合物C)の組み合わせについての結果は、式(I)で表される化合物(A)およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤の組み合わせが全く予想外な実質的な相乗効果を有することを示す。
【実施例3】
【0058】
ラットにおける血栓症および動脈圧の阻害
1)装置および方法
使用した血栓症技術はTanakaおよび共同研究者のものである(Eur. J. Pharmacol., 2008; 401,: 413-18)。
【0059】
a)動脈血栓症
CDラット(350〜375g)をペントバルビタール(50mg/kg、IP)を使用して麻酔し、そしてサーモスタット制御毛布上に置いた。開腹後、大動脈を露出させた。FeCl 50%で飽和させたろ紙のペレット(8mm)を10分間配置することによって血栓症を誘発した。ペレットの除去の20分後に動脈を結紮し、そして切開し;形成された血餅を秤量した。何匹かの動物を0.1mg/kgの用量のナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)で、他を1mg/kgの用量のtert−ブチルアミン塩の形態のペリンドプリル(化合物B)で、そして他を0.1mg/kgの用量のナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)および1mg/kgの用量のtert−ブチルアミン塩の形態のペリンドプリル(化合物B)で処置した。
【0060】
b)動脈圧
ペントバルビタール(50mg/kg、IP)を使用して麻酔した後、動物をサーモスタット制御毛布上に置いた。頚動脈を露出させ、そしてAcqKnowledgeソフトウェアに接続したGouldセンサーで動脈圧をモニタリングするためにカテーテルを導入した。動脈圧を、処置の1時間後に30分間記録した。何匹かの動物を0.1mg/kgの用量のナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)で、他を0.3mg/kgの用量のtert−ブチルアミン塩の形態のペリンドプリル(化合物B)で、そして他を0.1mg/kgの用量のナトリウム塩の形態のテルトロバン(化合物A)および0.3mg/kgの用量のtert−ブチルアミン塩の形態のペリンドプリル(化合物B)で処置した。
【0061】
2)結果
a)動脈血栓症
コントロールラットにおける血餅の重量は17.1±1.3mgであった;0.1mg/kgのテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩での処置はこの重量を変化させなかった:16.8±1.3mg。コントロールラットにおける血餅の重量は15.6±0.7mgであった;1mg/kgのペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩での処置はこの重量を変化させなかった:15.2±1.1mg。コントロールラットにおける血餅の重量は16.3±0.8mgであった;0.1mg/kgのテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩および1mg/kgのペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩の組み合わせでの処置は血餅の重量を10.1±0.6mgに有意に減少させた。
これらの結果は、動脈血栓症に関してのこの2つの物質の作用の予想外の相乗作用を実証する。
【0062】
b)動脈圧
コントロールラットの動脈圧は131±7mmHgであった。0.1mg/kgのテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩も0.3mg/kg(ラットにおいて不活性な用量である)のペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩もこの圧を変化させなかった:それぞれ126±7mmHgおよび120±9mmHg。テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩の組み合わせは動脈圧を95±7mmHgに顕著かつ有意に減少させた。
これらの結果は、動脈圧の調節に関してのこの2つの物質の作用の予想外の相乗作用を実証する。
【0063】
この試験はテルトロバン(化合物A)およびペリンドプリル(化合物B)の組み合わせの血栓症および動脈圧に関しての阻害活性を実証し、従ってこの組み合わせを使用した血栓性疾患(心筋梗塞、狭心症、脳血管障害、下肢の動脈炎など)および高血圧のような動脈病態の処置の潜在力を示す。
【実施例4】
【0064】
インビボでの大動脈血管細胞接着分子1(VCAM−1)および腎臓フィブロネクチンの発現の阻害
9匹のアポリポタンパク質E欠損マウス(ApoE−/−、その大動脈にアテローム斑を自然に発達する)の群4つをこの研究において使用した。8週齢の時点で、5日間にわたるストレプトゾトシン70mg/kgの5回の腹腔内注射によってマウスを糖尿病にした。第9週に、動物を以下の4つの群に分割した:非処置コントロール群、テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩(食物中1mg/kg/日)で処置した群、ペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩(飲料水中0.1mg/kg/日)で処置した群、およびテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩(食物中1mg/kg/日)およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩(飲料水中0.1mg/kg/日)の組み合わせで処置した群。
腎臓フィブロネクチンの発現については、マウスを6週間処置し、次いでイソフルランを使用した麻酔の後に屠殺した。
大動脈VCAM−1の発現については、マウスを13週間処置し、次いで屠殺した。大動脈および右側腎臓を取り出し、切開し、そして液体窒素中で凍結した。
組織を低温粉砕し、そして全RNAをRNeasy(登録商標)micro kit(Qiagen)を使用して抽出した。次いで、1μgの全RNAに対してSuperscript(商標)III first-strand cDNA synthesis kit(Invitrogen)を使用して逆転写を実施した。大動脈VCAM−1の発現および腎臓フィブロネクチンの発現をリアルタイムPCRによって定量し、そして以下の3つの参照遺伝子に関して標準化した:βアクチン、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)およびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)。IQ(商標)SYBR(登録商標)Green supermix kit(Biorad)を2μlのcDNAおよび各150nMのプライマーとともに使用した。サンプルを5分間95℃で変性し、そして以下のプロトコルに従って40サイクル増幅した:20秒間95℃での変性および1分間52℃(フィブロネクチン)、54℃(VCAM−1、βアクチンおよびHPRT)および56℃(GAPDH)でのハイブリダイゼーションおよび伸張。非処置動物の大動脈VCAM−1および腎臓フィブロネクチンについての閾値サイクル(蛍光がバックグラウンドノイズより有意に高いと考えられるサイクルと定義する)を参照遺伝子に関して標準化し(100%とみなす)、次いで処置動物のものと比較した。
【0065】
使用した特異的プライマーは以下のとおりである:
VCAM−1:
5'-AGA GCA GAC TTT CTA TTT CAC-3'(センス)(配列番号3)および
5'-CCA TCT TCA CAG GCA TTT C-3'(アンチセンス)(配列番号4);
フィブロネクチン:
5'-TGA CAA ATA CAC TGG GAA C-3'(センス)(配列番号5)および
5'-GCC AAT CTT GTA GGA CTG-3'(アンチセンス)(配列番号6);
βアクチン:
5'-AAG ACC TCT ATG CCA ACA CAG-3'(センス)(配列番号7)および
5'-AGC CAC CGA TCC ACA CAG-3'(アンチセンス)(配列番号8);
HPRT:
5'-AGC TAC TGT AAT GAT CAG TCA ACG-3'(センス)(配列番号9)および
5'-AGA GGT CCT TTT CAC CAG CA-3'(アンチセンス)(配列番号10);
GAPDH:
5'-GCC TTC CGT GTT CCT ACC C-3'(センス)(配列番号11)および
5'-TGC CTG CTT CAC CAC CTT-3'(アンチセンス)(配列番号12)。
【0066】
化合物(テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩、ペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩、およびそれらの組み合わせ)の活性を、大動脈VCAM−1および腎臓フィブロネクチンの発現レベルを非処置動物のもの(100%とみなす)に対して比較することによって評価した。
【0067】
腎臓フィブロネクチン:
テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩またはペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩単独でのマウスの処置は腎臓フィブロネクチン遺伝子の発現に対して有意な効果を有しなかった(処置なしの100%に対してテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩について69±16%およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩について86±9.9%、有意差なし、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。マウスをテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩の組み合わせで処置した場合、フィブロネクチン遺伝子発現の阻害が観察された(処置なしの100%に対して43±9.1%、P<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。
【0068】
大動脈VCAM−1:
テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩またはペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩単独でのマウスの処置は大動脈VCAM−1遺伝子の発現に対して有意な効果を有しなかった(残存発現は処置なしの100%に対してテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩について88±22%およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩について76±21%、有意差なし、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。マウスをテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩およびペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩の組み合わせで処置した場合、VCAM−1遺伝子発現の阻害が観察された(残存発現は処置なしの100%に対して27±6.2%、P<0.01、一元配置ANOVA、post-test Dunnett)。
【0069】
それゆえ、テルトロバン(化合物A)ナトリウム塩/ペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩の組み合わせでのアテローム性糖尿病性の動物の処置は、非処置動物またはテルトロバン(化合物A)ナトリウム塩もしくはペリンドプリル(化合物B)tert−ブチルアミン塩単独で処置した動物に比較した場合に、大動脈におけるVCAM−1の発現および腎臓におけるフィブロネクチンの発現を明らかにそして有意に減少させることを可能にする。結果は、これら2つの化合物の組み合わせでの投与が全く予想外な実質的な相乗効果を得ることを可能にすることを非常に明らかに示す。
【0070】
この試験は、テルトロバン(化合物A)/ペリンドプリル(化合物B)の組み合わせの、接着分子の発現に対する阻害活性および腎臓フィブロネクチンに対する阻害活性ならびに動脈病態、例えば糖尿病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、炎症、肥満関連メタボリックシンドロームに関連する血管合併症、肥満、狭心症、下肢の動脈炎および脳血管障害に関連する血管合併症の処置の潜在力を実証する。静脈疾患において接着分子によって担われる役割を考慮すると、この組み合わせはこの疾患もまた処置し得る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、抗アテローム血栓剤およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤の組み合わせ、ならびにそれを含む医薬組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異性体または薬学的に許容されるその塩の1つの形態であってもよい式(I):
【化1】


で表される化合物(A)およびアンギオテンシン変換酵素阻害剤または薬学的に許容されるその塩の1つの組み合わせ。
【請求項2】
化合物(A)がテルトロバンであることを特徴とする、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項3】
化合物(A)がナトリウム塩の形態であることを特徴とする、請求項1または2記載の組み合わせ。
【請求項4】
アンギオテンシン変換酵素阻害剤が、その活性代謝物ペリンドプリラートの形態であってもよいペリンドプリル、その活性代謝物ラミプリラートの形態であってもよいラミプリル、その活性代謝物エナラプリラートの形態であってもよいエナラプリル、カプトプリル、リシノプリル、デラプリル、ホシノプリル、キナプリル、スピラプリル、イミダプリル、その活性代謝物トランドラプリラートの形態であってもよいトランドラプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、テモカプリル、アラセプリル、セロナプリル、モベルチプリルもしくはモエキシプリル、または薬学的に許容される酸もしくは塩基とのその付加塩であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の組み合わせ。
【請求項5】
アンギオテンシン変換酵素阻害剤が式(B):
【化2】


で表されるペリンドプリルまたは薬学的に許容される酸もしくは塩基とのその付加塩であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の組み合わせ。
【請求項6】
式(B)で表されるペリンドプリルがtert−ブチルアミン塩またはアルギニン塩の形態であることを特徴とする、請求項5記載の組み合わせ。
【請求項7】
有効成分として請求項1〜6のいずれか1項記載の組み合わせを、1つ以上の不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体とともに含む医薬組成物。
【請求項8】
アンギオテンシン変換酵素阻害剤が式(B)で表されるペリンドプリルであり、有効成分の総重量が化合物(A)について60〜90%および式(B)で表されるペリンドプリルについて10〜40%に分割されることを特徴とする、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する血管合併症の処置における使用のための、請求項7または8記載の医薬組成物。
【請求項10】
糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する心臓血管および脳血管合併症の処置における使用のための、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤または下肢の動脈炎の処置における使用のための、請求項9または10記載の医薬組成物。
【請求項12】
糖尿病、高血圧または炎症性疾患に関連する腎症の処置における使用のための、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項13】
糖尿病性網膜症または腎症の処置における使用のための、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項14】
認知症の処置における使用のための、請求項7または8記載の医薬組成物。
【請求項15】
アルツハイマー病または血管性認知症の処置における使用のための、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する血管合併症の処置のための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか1項記載の組み合わせの使用。
【請求項17】
糖尿病、アテローム血栓性疾患、高脂血症、高血圧、慢性静脈疾患、炎症、肥満関連メタボリックシンドローム、またはガンに関連する心臓血管および脳血管合併症の処置のための医薬の製造における、請求項16記載の組み合わせの使用。
【請求項18】
アテローム血栓性疾患が心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤または下肢の動脈炎であることを特徴とする、請求項16または17記載の組み合わせの使用。
【請求項19】
血管合併症が糖尿病、高血圧または炎症性疾患に関連する腎症であることを特徴とする、請求項16記載の組み合わせの使用。
【請求項20】
血管合併症が糖尿病性網膜症または腎症であることを特徴とする、請求項16記載の組み合わせの使用。
【請求項21】
糖尿病に関連する血管合併症の処置のための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか1項記載の組み合わせの使用。
【請求項22】
認知症の処置のための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか1項記載の組み合わせの使用。
【請求項23】
認知症がアルツハイマー病または血管性認知症であることを特徴とする、請求項22記載の組み合わせの使用。

【公開番号】特開2009−67793(P2009−67793A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230403(P2008−230403)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】