説明

抗アレルギー活性を有するコーヒー豆抽出物およびその製造方法

【課題】安全性が高く、違和感なく飲食品にも用いることができ、かつ、アレルギー性鼻炎などの疾患を予防・治療し得る、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する抗アレルギー剤を提供する。
【解決手段】本抗アレルギー剤は、超臨界流体二酸化炭素処理により得られたコーヒー生豆抽出物を有効成分として含有するものであり、コーヒー生豆中に含まれる抗アレルギー活性物質の本態として従来考えられてきたカフェイン、クロロゲン酸をはじめとしたフェニルプロパノイド以外の物質に因るβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の抗アレルギー活性を有する。かかるコーヒー生豆抽出物には、カフェインが含まれておらず、超臨界流体二酸化炭素処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のカフェイン量に対応する含有量のカフェイン単独水溶液の1.5倍以上の抗アレルギー活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に添加しても風味が損なわれず、長期間にわたって連続的に摂取することができる抗アレルギー性効果をもつコーヒー生豆抽出物、特に、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する抗アレルギー性効果をもつコーヒー生豆抽出物、ならびに該抗アレルギー性物質を含有するコーヒー豆抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフスタイルの変化、環境の悪化等からアレルギー性疾患は増加傾向にある。厚生労働省、平成15年度保健福祉動向調査によると、皮膚のアレルギー様症状(皮膚が赤くただれたり、かさかさしたり、かゆみが強いなどの皮膚症状)、呼吸器のアレルギー様症状(息をするとヒューヒュー・ゼーゼーなどの音がしたり、呼吸が苦しくなったり、ひどくせきこんだりするなどの症状)、目鼻のアレルギー様症状(目がひどくかゆくなり充血したり、くしゃみや鼻水が止まらなくなったり、ひどく鼻がつまるなどの症状)について、この1年間に、各症状のいずれかのアレルギー様症状があった者は全体の35.9%にも上っており、日本国民の約3分の1以上が何らかのアレルギー症状を発症しているといわれている。
【0003】
アレルギー反応は、抗原抗体反応により体内の組織に障害を与える現象であり、大別して、即時型過敏症と遅延型過敏症に分けられ、その発症機構によってI型(即時型)〜IV型(遅延型)の4種類に分類される。このうち、I型アレルギーは、主に免疫グロブリンE(以下、IgEと称する)抗体が関与することが知られている。体外からの抗原の侵入によって免疫機能が作用し、IgE抗体が生産されると、IgE抗体は、気道、皮膚、消火器系に分布する肥満細胞や、あるいは血中の好塩基球にレセプターを介し固着して感作状態となる。この感作状態で、再び抗原と接触すると、脱顆粒を伴い、ケミカルメディエーターが放出され、この結果、皮膚にかゆみを伴う発赤や浮腫、目や鼻の炎症、気管支喘息等のアレルギー症状を引き起こすことになる。
このため、アレルギーの予防または治療方法の1つとして、ケミカルメディエーターとして代表的な神経伝達物質のヒスタミンやセロトニン、ロイコトリエンを抑制する方法が提案されている。
【0004】
また、上記のヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン以外に、代表的なケミカルメディエーターとしては、β−ヘキソサミニダーゼが挙げられる。β−ヘキソサミニダーゼは、マスト細胞の顆粒中に豊富に存在するリソソーム酵素の一つである。炎症性の疾患、例えば接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天泡瘡、及びその他の肌荒れに伴う皮膚疾患等の原因や発症機構は多種多様であるが、β−ヘキソサミニダーゼは、それらの原因の一つとして知られているヒスタミン等と同時に遊離されることが知られている。このことから、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果は、I型アレルギー抑制効果の一つの指標として考えられている。
【0005】
一方、このような作用機作に基づく抗アレルギー剤として、ケトチフェン及びオキサトミドなどの合成薬剤が知られている。しかし、かかる合成薬剤は、眠気、全身の倦怠感など中枢神経抑制作用、血尿など膀胱炎様症状等の副作用の報告があり、現状、作用機作に基づく抗アレルギー剤として十分満足できる薬剤は見当たらない。
【0006】
一般に、アレルギーの治療は長期にわたることが多いことから、副作用の心配がなく日常摂取する安全な素材の中にアレルギー症状を軽減する作用を見いだそうとする試みが盛んに行われている。今まで多くの植物抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤が提案されているが、その多くはポリフェノールに関するものである。
【0007】
ここで、ポリフェノールとは、フェノール性水酸基を多数分子内に持つ化合物の総称で、ほとんどの植物に色素や渋み・苦みの成分として含まれており、5000種類以上あると言われている。これらのポリフェノールのなかで、普段最も多く摂取しているものはフェニルプロパノイドと称されるグループである。成人では、1日あたり500〜800mgのフェニルプロパノイドを日常的に摂取し、特にコーヒー飲用者では1g以上のフェニルプロパノイドを摂取していると言われている(非特許文献1を参照)。
【0008】
このフェニルプロパノイドの代表的なものとして、クロロゲン酸類が挙げられる。クロロゲン酸類は、コーヒー豆、果物、野菜等の植物界に広く分布する天然の抗酸化物質として知られており、主に、食品分野で抗酸化剤として利用されている。特に、コーヒー豆は、クロロゲン酸類を豊富に含有するため、従来から、クロロゲン酸類の供給源として利用されてきた。
一方、このフェニルプロパノイドには抗アレルギー活性があることが知られている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0009】
また、日常よく摂取する植物由来のアルカロイドとしてカフェインが挙げられ、このカフェインにも、抗アレルギー効果があることが知られている(例えば、特許文献4、非特許文献2を参照。)。
【0010】
抗アレルギー剤は、治療ばかりではなくその用途として予防目的で長期に使用されることも多く、その安全性は特に重要である。また、従来の抗アレルギー剤は、食品に用いることができても、特有の臭いや味を有するために、食品本来の風味を損なうものが多いという問題がある。
【0011】
このような状況下、従来のコーヒー豆抽出物は、コーヒー豆由来の不快な臭いを有するため、飲食品や化粧品には利用しにくいものであった。また、従来のコーヒー豆抽出物は、カフェインを大量に含むため、人によっては大量に摂取すると動悸、頭痛、手のふるえ、イライラ感、不眠、吐き気が生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60−192555号公報
【特許文献2】特開2002−80360号公報
【特許文献3】特開2004−292326号公報
【特許文献4】特開平7−17865号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Clifford, M N. Chlorogenic acidsand other cinnamates-nature, occurrence and dietary burden. Journal of theScience of Food and Agriculture, 79, 362-372 (1999)
【非特許文献2】Shin, H-Y, Lee, C-S, Chae, H- J, Kim, H-R, BaekS-H, An, N-H, Kim M-H. Inhibitory effect of anaphylactic shock by caffeine inrats. International Journal of immunopharmacology, 22,411-418 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記状況に鑑みて、本発明は、安全性が高く、違和感なく飲食品にも用いることができ、かつ、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、じんま疹、気管支ぜん息、消化管潰瘍などの疾患を予防・治療し得る、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する抗アレルギー剤、並びに該抗アレルギー剤を含む医薬組成物、化粧料及び飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、コーヒー豆の利用方法について鋭意研究した結果、コーヒー生豆に特定の処理を施すことにより得た抽出物が、コーヒー生豆中に含まれる抗アレルギー活性物質の本態として従来考えられてきたカフェイン、クロロゲン酸をはじめとしたフェニルプロパノイド以外の物質に因るものと考えられる顕著なβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用が存在することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の第1の観点の抗アレルギー剤は、超臨界流体処理工程を経て得られたコーヒー生豆抽出物を有効成分として含有することにより抗アレルギー活性を有するものである。特に、超臨界流体処理工程を経て得られたコーヒー生豆抽出物は、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用に顕著な抗アレルギー活性を有する。
かかるコーヒー生豆抽出物は、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用に関して、超臨界流体処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のカフェイン量に対応する含有量のカフェイン単独水溶液の1.5倍以上の抗アレルギー活性を有する。
なお、抗アレルギー活性は、特に、I型アレルギー症状のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離に対し特に有用な抗アレルギー活性を示す。
【0017】
また、本発明の第2の観点の抗アレルギー剤は、超臨界流体処理工程を経て得られたカフェイン未含有のコーヒー生豆抽出物を有効成分として含有することにより抗アレルギー活性を有するものである。特に、超臨界流体処理工程を経て得られたコーヒー生豆抽出物は、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用に顕著な抗アレルギー活性を有する。
かかるコーヒー生豆抽出物は、超臨界流体処理工程の前処理としてコーヒー生豆を浸水(調湿)させることにより作製する。この調湿をしない場合、コーヒー生豆からカフェインは抽出されないことになる。調湿のための水分量は50%未満とするのが好ましい。水分量を50%以上まで多くすると、機械に負担をかけることとなり、また、湿った豆に微生物が増殖しやすい条件となり、その後のクロロゲン酸類抽出に影響を及ぼすので好ましくない。
【0018】
かかるコーヒー生豆抽出物は、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用に関して、超臨界流体処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のクロロゲン酸含有量に対応する含有量のクロロゲン酸単独水溶液の10倍以上の抗アレルギー活性を有する。
【0019】
ここで、上記の超臨界流体処理工程は、超臨界流体の二酸化炭素を用いて、圧力10MPa以上の高圧、65〜80℃の高温で、処理されることが好ましい態様である。
超臨界流体の二酸化炭素を用いて、コーヒー生豆抽出物中のカフェインを溶出するときは、一般的に、超臨界流体の二酸化炭素の温度、圧力がそれぞれ高ければ高いほど溶出される。二酸化炭素は、約7.3MPa・31℃で、気体とも液体ともつかない状態になり(臨界点)、この臨界点を超える状態を超臨界流体の状態という。本発明の超臨界処理の条件としては、圧力10MPa以上、更に好ましくは45MPa以上であり、温度は65〜80℃である。温度が65℃以下であるとカフェインは除去しにくく、80℃以上にするとクロロゲン酸がコーヒー生豆から抽出・分解され始めるからである。仮に、80℃で処理した場合には10%程度ロスが発生してしまう。
【0020】
また、上記の超臨界流体処理工程において、原料となるコーヒー生豆は、粉砕径3〜5mmとされることが好ましい態様である。一般的に、コーヒー生豆を超臨界処理してカフェインを取り除く場合、コーヒー生豆そのものが商品になるため粉砕はしないのが普通である。
本発明では、コーヒー生豆の抽出成分が商品(抗アレルギー剤)になるため、抽出効率の向上を目的として豆を粉砕する方が好ましいのである。コーヒー生豆の粉砕径が3〜5mmとされるのは、3mm未満とあまり細かくしすぎるとアルコール抽出工程、濾過工程で目詰りを起こすため好ましくなく、また5mmより大きいと抽出効率の向上の観点から好ましくない。特に、好ましくは、コーヒー生豆の粉砕径は4mmである。
【0021】
上記の抗アレルギー剤は、好適に、医薬組成物、化粧品、飲料品(特に、コーヒー飲料)に利用される。
本発明の抗アレルギー剤は、上記の超臨界流体処理工程を経て得られた抽出物をそのまま直接使用することもできるし、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、副素材、増量剤、安定剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造し、使用することもできる。
また、医薬品として用いる場合、投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、乳剤、懸濁液剤、シロップ剤などによる経口投与、粉末飲料、液体飲料(ドリンク剤など)などの食品の形態、注射剤、軟膏剤、坐剤、エアゾール剤などによる非経口投与を挙げることができる。
【0022】
次に、本発明のコーヒー生豆抽出物の製造方法は、
1)コーヒー生豆を粉砕する工程と、
2)コーヒー生豆を浸水(調湿)する工程と、
3)超臨界流体の二酸化炭素を用いて、圧力10MPa以上の高圧、65〜80℃の高温で、コーヒー生豆を処理する工程と、
4)含水アルコールにて抽出する工程と、
5)濃縮・乾燥する工程と、
を備えるものであり、
β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の抗アレルギー活性に関し、カフェイン含有のコーヒー生豆抽出物中のカフェイン含有量に対応する含有量のカフェイン単独水溶液の1.5倍以上の前記抗アレルギー活性を有する、カフェイン未含有のコーヒー生豆抽出物を製造するものである。
【0023】
より好ましくは、本発明のコーヒー生豆抽出物の製造方法は、コーヒー生豆を70〜80℃、45MPaの状態にある超臨界流体二酸化炭素でS/F50(S/Fとは原料(コーヒー生豆)に対して流す二酸化炭素の重量比のこと)の条件の超臨界流体処理工程により、コーヒー生豆からカフェインやその他の物質を除去し、これら物質を除去した後のコーヒー生豆から、更に含水アルコールにて抽出、濃縮、乾燥して、コーヒー抽出物を得る。
【0024】
このようにして得たコーヒー生豆抽出物は、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制、特にI型アレルギー症状のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制に対し、有用な抗アレルギー剤を生成する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコーヒー生豆抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤によれば、飲食品に添加しても風味が損なわれず、長期間にわたって連続的に摂取することができる。本発明にかかるβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用を有する抗アレルギー性効果をもつコーヒー生豆抽出物は、従来懸念されてきた異臭が無く、違和感なく飲食品に添加することができる。
【0026】
また、本発明のコーヒー生豆抽出物において、既知の抗アレルギー効果を有するカフェインを含んでいないものは、カフェインの過剰摂取による不眠・めまい・焦燥感・筋肉のふるえ・動悸・頭痛・頻尿などの症状を危惧することなく摂取することができ、アレルギー原因物質であるβ−ヘキソサミニダーゼの放出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】超臨界流体処理工程の処理フロー図
【図2】カフェインとカフェイン含有/非含有の従来のコーヒー生豆抽出物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の比較グラフ
【図3】カフェインとカフェイン及びクロロゲン酸(5−CQA)の混合物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の比較グラフ
【図4】カフェインと本発明のコーヒー生豆抽出物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の比較グラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0029】
(本発明の抗アレルギー剤の有効成分であるコーヒー生豆抽出物の製造方法について)
図1に、超臨界流体処理工程の処理フローを示す。
(1)コーヒー生豆を粉砕する工程(ステップS01)
コーヒー生豆を平均粒子径が略4.0mmになるよう粉砕する。粉砕は、通常の機械的粉砕や凍結粉砕処理などで行うが、この粉砕する手段は特に限定されるものではない。
(2)コーヒー生豆を浸水(調湿)する工程(ステップS02)
コーヒー生豆を粉砕したものに対し、水を添加し調湿を行う。カフェインを除くための条件としてコーヒー生豆の水分量を43%(増減2%)にしている。カフェインをあえて除く必要がなければ、浸水(調湿)工程は省略することができる。
【0030】
(3)コーヒー生豆を超臨界流体処理する工程(ステップS03)
コーヒー生豆を70℃以上、45MPa以上の状態にある超臨界流体二酸化炭素を用いて、S/F50の条件の超臨界流体処理を施すことにより、所定時間、接触処理を行い、コーヒー生豆からカフェインやその他の物質を除去する。ここで、S/Fとは原料(コーヒー生豆)に対して流す二酸化炭素の重量比のことで、例えば、S/F=50であれば、コーヒー量が1(重量)に対して、二酸化炭素重量は、50(重量)となる。
【0031】
(4)含水アルコールにて抽出する工程(ステップS04)
上記の超臨界流体処理する工程により、コーヒー生豆からカフェインやその他の物質を除去した後、除去後のコーヒー生豆から、更に含水アルコールにて抽出、濃縮、乾燥して抽出物を得る。
なお、抽出溶媒としては、極性溶媒を使用できる。極性溶媒としては、水、または、アルコール類(例えば、エタノール、メタノールの低級アルコール、あるいは、プロピレングリコールなどの多価アルコール)などの極性有機溶媒が挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を任意に組み合わせて使用することが可能である。好ましくは、水単独または水と極性有機溶媒の混合溶媒である。水と極性有機溶媒との混合溶媒の場合、水と極性有機溶媒の混合比は特に制限されないが、極性有機溶媒の容量比が50%以上であるのが好ましい。水と混合する極性有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、メタノールまたはエタノールがより好ましい。また、抽出時間は特に制限されない。
(5)濃縮・乾燥する工程(ステップS05)
抽出した液は、減圧下で加熱することなどにより溶媒を除去して濃縮した後、スプレードライ、フリーズドライなどの手法を用いて乾燥することでコーヒー生豆粉末を得る方法等が挙げられる。あるいは、抽出液に賦形剤等を添加して乾燥してもよい。
【0032】
(β−ヘキソサミニダーゼについて)
上述したように、β−ヘキソサミニダーゼは、化学伝達物質(ケミカルメディエーター)の一つであり、アレルギーの原因物質であるヒスタミンとほぼ同時に放出されることが知られている。また、ラット好塩基球性白血病細胞(RBL−2H3)は、人の好塩基球や肥満細胞における即時型アレルギー反応の場合と同様に、抗原の刺激によりβ−ヘキソサミニダーゼ、ヒスタミン、セロトニン等を遊離することが知られている。
そのため、RBL−2H3からのβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制を測定することにより、抗炎症効果を評価することが可能である。
なお、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を評価することは、in
vivoの評価との相関性が高いとされている。
【実施例1】
【0033】
1.コーヒー生豆抽出物の作製方法
本発明の抗アレルギー剤の有効成分であるコーヒー生豆抽出物(超臨界流体二酸化炭素処理工程を経て得られるもの)の作製方法について、以下の(a)〜(f)に説明する。
(a)コーヒー生豆(Indonesia AP−1/カフェイン含有量1.94%)を平均粒子径4.0mmになるよう粉砕した。
(b)コーヒー生豆を粉砕したもの87.3kgに対し、水43.2kgを添加し調湿を行った。
(c)その後、このコーヒー生豆を80℃、45MPaの状態にある超臨界流体二酸化炭素を用いて、S/F50の条件にて200分間接触処理を行った。
(d)次に、超臨界二酸化炭素処理後のコーヒー生豆160.0kgに対し、56%(w/v)エタノール1600Lを添加し、バブリングを行いつつ、50℃で1時間抽出を行った。
(e)抽出物に対して固液分離を行なった後、56%(w/v)エタノール800Lを添加し、バブリングを行いつつ、再度50℃で1時間抽出を行った。
(f)上記の2回の抽出で得られた抽出液を濾過、125℃、1分間殺菌した後、50℃で減圧濃縮し、180℃でスプレードライを行ない、27.8kgのコーヒー生豆抽出物が得た。
【0034】
2.クロロゲン酸およびカフェイン濃度測定方法
クロロゲン酸およびカフェイン濃度は下記の方法で測定した。コーヒー生豆抽出物のカフェイン及び総クロロゲン酸類含有量は、それぞれ0.0%、39.5%であった。
一方で、食品添加物として市販されているコーヒー生豆抽出液A(カフェイン含有)、コーヒー生豆抽出液B(カフェイン非含有)について同様に測定したところ、コーヒー生豆抽出液A(カフェイン含有)のカフェイン及びクロロゲン酸含有量は、それぞれ8.0%、41.9%であった。コーヒー生豆抽出液B(カフェイン非含有)のカフェイン及びクロロゲン酸含有量は、それぞれ0.0%、40.0%であった。
【0035】
2.1 カフェイン含量(%)の測定方法について
カフェイン含量(%)の測定は、試料0.4gを秤量し、純水100mLに溶解・定容してHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析することにより行った。内部標準液は、4000ppm β-フェネチルアルコール/メタノールを用いた。測定に用いたHPLC条件を下記に示す。
・検出器:紫外線分光光度計
・カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II 4.6×150mm/温度:40℃
・ガードカラム:COSMOSIL 5C18−AR−II 4.6×10mm
・移動相:0.2M 過塩素酸-メタノール(8:2)
・検出波長:270nm
・流速:1.0mL/min
【0036】
2.2 クロロゲン酸含量(%)の測定方法について
クロロゲン酸含量(%)の測定は、試料0.4gを秤量し、純水100mLに溶解・定容してHPLC分析することにより行った。測定に用いたHPLC条件を下記に示す。
・検出器:紫外線分光光度計
・カラム:Inertsil ODS−3 4.6×150mm 温度:40℃
・移動相:A液;0.2%酢酸/MeOH=80/20,B液;MeOH
・検出波長:UV 325nm
・流速:1.0mL/min
【0037】
3.β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果の検証方法
ヒューマンサイエンス研究資源バンクから購入したRBL−2H3細胞を10%ウシ胎児血清(FCS)、100unit/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン含有
Minimun Essential Medium Eagle培地(MEM、Sigma社)で培養 (5%CO、37℃) した。
【0038】
次に、細胞培養用24ウェル平底マイクロプレートに5.0×10cells(400μL培地/ウェル)ずつ播種し、1時間培養した後、ラットモノクローナル抗DNP−IgE抗体(Sigma社)を培養液に加え (ウェルあたり50ng)、3時間培養(5%CO、37℃)することによって細胞を感作させた。
【0039】
その後、感作した細胞を500μLのPBS(phosphate
buffered saline(10mM、pH7.4)で2回洗浄し、ウェルあたり被験物質溶液を930μL加え、37℃、10分培養後に 10μg/mLの抗原(DNP−BSA)を70μL加えて37℃、60分間インキュベートして細胞を刺激した。
【0040】
10 分間氷冷して反応を止めた後、上清40μLを96ウェル平底マイクロプレートに移し、50mMクエン酸緩衝液(pH4.5)に溶解した2mM
p−nitrophenyl−N−acetyl−β―D−Glucosaminide(Sigma社)40μL
を加えて、混和後は37℃で30分反応させた。そして、反応溶液に、170μLの100mM炭酸緩衝液(NaHCO/NaCO、pH10.0)を加えて混和し酵素反応を止めた。
【0041】
マイクロプレートリーダー(CORONA社)にて405nmの吸光度を測定し、下記式1により被験物質のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離率(%)を求めた。また、被験物質のみの吸光度も併せて測定し補正した。
【0042】
【数1】

【0043】
細胞内全β−ヘキソサミニダーゼの測定には、−80℃で20分凍結させたあと60℃、90秒で溶解させる処理を3回繰り返し、破砕した細胞を遠心分離した上清を用いた。
被験物質のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害率(%)は、下記式2により求めた。
【0044】
【数2】

【0045】
4.作製したコーヒー生豆抽出物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の測定
上述の超臨界流体二酸化炭素処理工程を経て作製したコーヒー生豆抽出物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の測定結果を図2〜図4に示す。
ここで、評価については、RBL−2H3細胞の状態や、β−ヘキソサミニダーゼ遊離の程度によって実験毎にコンディションが異なるため、既知のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を示すカフェインを指標として比較評価を行なっている。
【0046】
(比較評価1)
図2および下記表1は、カフェインとカフェイン含有/非含有コーヒー生豆抽出物のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の比較についての測定結果を示す。
図2および下記表1で示すように、カフェインは高いβ−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害効果を示した。一方で、図2および下記表1から、カフェインを8.0重量%含んでいる市販コーヒー生豆抽出物Aにも高いβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を有していることが示された。また、一方で、カフェインを含まない市販コーヒー生豆抽出物Bについては、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果は低く、カフェインのβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果と比較して1/4以下の効果となっていた。
【0047】
【表1】

【0048】
(比較評価2)
次に、図3および下記表2は、カフェインのβ−ヘキソサミニダーゼ阻害効果と、カフェイン及びクロロゲン酸(5−CQA)との相乗効果について示したものである。
図3および下記表2に示すように、カフェインは高いβ−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害効果を示す。また一方で、カフェインを8.0重量%含んでいる市販コーヒー生豆抽出物Aにもほぼ同程度のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を有することがわかった(有意差なし)。
【0049】
市販コーヒー生豆抽出物Aは、コーヒー生豆に含まれる代表的なポリフェノールとしてクロロゲン酸(5−CQA)が32重量%含有していたことから、このクロロゲン酸について同様にβ−ヘキソサミニダーゼ遊離阻害効果を評価した。評価の結果、クロロゲン酸(5−CQA)については、ほとんどβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を示さないことがわかった(図3および下記表2を参照)。
【0050】
また、カフェインとクロロゲン酸を、それぞれ、市販コーヒー生豆抽出物Aの含有割合と同様に混合して、β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果について評価した。その結果、市販コーヒー生豆抽出物Aと同等のβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果は確認されたものの、有意差は見られなかった。
また、実験で得られたデータについて、カフェイン試験区、市販コーヒー生豆抽出物A試験区、およびカフェインと5−CQA混合試験区間で一元配置分散分析(one−factor ANOVA)を行なったが、いずれの試験区でも有意な差は見られなかった。
以上のことから、カフェインを含む市販コーヒー生豆抽出物Aのβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果は、カフェインが主体となって効果を示していることが確認できた。
【0051】
【表2】

【0052】
(比較評価3)
次に、図4および下記表3は、カフェインと上記の超臨界流体二酸化炭素処理工程を経て作製したコーヒー生豆抽出物(以下、本発明抽出物)のβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性の比較を示す。
図4および下記表3に示すように、本発明抽出物はカフェインを含まないが高いβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果をすることが確認できる。図4および下記表3から、カフェインを含んでいない市販コーヒー生豆抽出物Bのβ−ヘキソサミニダーゼ阻害活性効果は、カフェインの1/4程度であるのに対して、本発明抽出物の場合は、カフェインの2倍近いβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を有していることがわかる。
このことから、本発明抽出物は、既に上市されているカフェインを含まないコーヒー生豆抽出物と比較して、顕著なβ−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制効果を有していることが理解できるであろう。
【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、抗アレルギー活性の医薬組成物、化粧料及び飲食品に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体処理工程を経て得られたコーヒー生豆抽出物を有効成分として含有する抗アレルギー剤。
【請求項2】
超臨界流体処理工程を経て得られたカフェイン未含有のコーヒー生豆抽出物を有効成分として含有する抗アレルギー剤。
【請求項3】
β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の抗アレルギー活性を備えたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
【請求項4】
前記超臨界流体処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のカフェイン量に対応する含有量のカフェイン単独水溶液の1.5倍以上の前記抗アレルギー活性を有することを特徴とする請求項3に記載の抗アレルギー剤。
【請求項5】
前記超臨界流体処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のクロロゲン酸含有量に対応する含有量のクロロゲン酸単独水溶液の10倍以上の前記抗アレルギー活性を有することを特徴とする請求項3に記載の抗アレルギー剤。
【請求項6】
前記超臨界流体処理工程は、超臨界流体の二酸化炭素を用いて、圧力10MPa以上の高圧、65〜80℃の高温で処理されることを特徴とする請求項1,2,4,5のいずれかに記載の抗アレルギー剤。
【請求項7】
前記超臨界流体処理工程において、原料となるコーヒー生豆は、粉砕径3〜5mmとしたことを特徴とする請求項6の抗アレルギー剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗アレルギー剤を含有する医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗アレルギー剤を含有する化粧品。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗アレルギー剤を含有する飲料品。
【請求項11】
コーヒー生豆を粉砕する工程と、
コーヒー生豆を浸水(調湿)する工程と、
超臨界流体の二酸化炭素を用いて、圧力10MPa以上の高圧、65〜80℃の高温で、コーヒー生豆を処理(超臨界流体処理)する工程と、
含水アルコールにて抽出する工程と、
濃縮・乾燥する工程と、
を備え、
β−ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の抗アレルギー活性に関し、
前記超臨界流体処理を施さない従来法による抽出により得られるコーヒー生豆抽出物中のカフェイン含有量に対応する含有量のカフェイン単独水溶液の1.5倍以上の前記抗アレルギー活性を有する、カフェイン未含有のコーヒー豆抽出物の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−57562(P2011−57562A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205385(P2009−205385)
【出願日】平成21年9月5日(2009.9.5)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(592156482)大峰堂薬品工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】