説明

抗ウイルス性ヌクレオシド誘導体を製造する方法

レボビリン(1−(3S,4R−ジヒドロキシ−5S−ヒドロキシメチル−テトラヒドロフラン−2S−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール3−カルボン酸アミド;Id:R=R=R=H)の5−ヒドロキシメチル基の2−アミノカルボン酸エステル及びその酸付加塩を製造するための方法及び新規中間体。本方法は、製造工程数が少なく、高収率で高純度にて選択的にモノエステルを提供する。この方法は、シクロペンチリデンレボビリン化合物をN−ウレタン−N−カルボン酸無水物に縮合させ、続けて脱保護して、直接生成物の塩酸塩を提供することを含む。そのモノエステルは、ウイルス性疾患の処置に有用であり、親化合物より効率的に吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レボビリンのプロドラッグ、またはその酸付加塩、溶媒和物もしくは水和物の新規な製造方法に関する。レボビリンは、C型肝炎ウイルス(HCV)を介した疾患を処置するのに有用である。より詳細には本発明は、2−アミノカルボン酸3,4−ジヒドロキシ−5−(3−メチル−[1,2,4]トリアゾール−1−イル)−テトラヒドロフラン−2−イルメチルの塩酸塩を製造する方法に関する。本発明は更に、上記方法に有用な新規な化学中間体、およびその中間体を製造する方法に関する。
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、世界中の慢性肝疾患の大部分の原因であり、工業化諸国における慢性肝炎の症例の70%を占める。C型肝炎の世界全体の割合は、平均3%(0.1%〜5.0%の範囲)と推定され、世界全体に推定で1億7千万人の慢性キャリアが存在する。HCVへの効果的治療薬が依然として求められている。C型肝炎感染の標準的治療は目下のところ、抗ウイルス薬リバビリンと免疫調節薬インターフェロン誘導体との併用療法からなる。
【0003】
WO01/45509(J. Lau et al.)は、インビボでHCVへの抗ウイルス活性を有するL−ヌクレオシドを開示している。レボビリン(1−(3S,4R−ジヒドロキシ−5S−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2S−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド;Ia:R1=R2=R3=H)は、抗ウイルス性ヌクレオシドであるリバビリン(Ib)のL−異性体である。レボビリンは、リバビリンとは異なり、直接の検出性抗ウイルス活性を有さないが、レボビロンは抗ウイルス性Th1サイトカイン発現を増強することによって免疫応答を刺激する。レボビリンは、リバビリンに付随する毒性を持たないようである。
【0004】
【化7】

【0005】
ヌクレオシド誘導体は多くの場合、高レベルの生物活性を有しているが、物理的性質が最適状態におよばず生物学的利用能が低いため、治療的に効果のあるレベルを保持するのに多数回で大用量にする必要があることが、それらの臨床的有用性の障害となっていることが多い。ヌクレオシドの化学修飾によって化合物の物理化学的性質を変化させて、薬物送達の効率および選択性を改善することができる。
【0006】
Colla et al.(J. Med. Chem. 1983 26:602-04)は、ジイミドと塩基との従来のカップリングによって、アシクロビルの水溶性エステル誘導体を製造することを開示している。L. M. Beauchamp et al.(Antiviral Chem & Chemother. 1992 3(3):157-64)は、グリシル、D,L−アラニル、L−アラニル、L−2−アミノブチラート、D,L−バリル、L−バリル、D,L−イソロイシル、L−イソロイシル、L−メチオニル、およびL−プロリルエステルをはじめとする抗ヘルペス薬アシクロビルの18種のアミノ酸エステル、およびそれらのアシクロビルのプロドラッグとしての効果を開示している。著者によれば、アシクロビルのL−バリルエステルは、研究したエステルのうちでは最良のプロドラッグであった。これらのエステルは、Colla et al.が使用したものと類似の方法によって製造されている。
【0007】
EP0375329(L. M. Beauchamp)は、場合により塩基触媒の存在下で、場合により保護されたアミノ酸またはその等価の官能基を、DCCなどのカップリング剤と接触させることによる、ガンシクロビルのビスイソロイシンエステルの製造を開示している。そのようにして得られた生成物は、ジエステル約90%およびモノエステル約10%を含有していた。
【0008】
米国特許第6,215,017 B1(C. A. Dvorak et al.)、同第6,218,568 B1(C. A. Dvorak et al.)および同第6,040,446(C. A. Dvorak et al.)は、2−(2−アミノ−1,6−ジヒドロ−6−オキソプリン−9−イル)メトキシ−1,3−プロパンジオール(ガンシクロビル)のモノ−L−バリンエステルの製造に有用な方法および新規な中間体を開示している。WO94/29311(W. P. Jackson)は、2−オキサ−4−アザシクロアルカン−1,3−ジオン化合物(N−カルボン酸無水物、NCA)によるアシクロビルおよびガンシクロビル誘導体のエステル化方法を開示している。
【0009】
WO00/23454(A. K. Ganguly et al.)は、リバビリンIbの生体可逆性プロドラッグ(bioreversible prodrug)を開示している。Ibの5−ヒドロキシを天然または非天然のアミノ酸にエステル化した化合物が開示されている。アミノ酸エステルは、アミノ酸のO−アシルアセトンオキシムエステルのSP435リパーゼ触媒反応によって製造された。米国特許第6,423,695(R. Tam et al.)は、リバビリンのアミジンプロドラッグを投与することによるウイルス感染患者を処置する方法を開示している。
【0010】
WO01/68034(G. Wang et al.)は、レボビリンの、生体可逆性リン酸化および非リン酸化プロドラッグを開示している。5−アシルおよび2,3,5−トリアシル化合物が開示され、5−アミノ酸エステルも包括的に記載されている。米国出願番号60/432,108は、レボビリンのアシル化プロドラッグを開示している。
【0011】
本発明は、5−アシルオキシヌクレオシド化合物を製造する方法を提供する。本発明の具体的な実施形態を含む各工程が、スキーム1の反応系列に示されている。本発明は、Rがメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、C3〜7−シクロアルキルまたはフェニル(場合によりC1〜3−アルキル、C1〜3−アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される置換基によって置換されている)である、アシルオキシ化合物の酸付加塩の効率的な単離方法を更に提供する。スキーム1において、アシル化工程がN−カルボン酸無水物と共に示されているが、本発明の方法は、アルコールをエステル化するのに十分反応性がある他の活性化N−保護アミノ酸を包含する。R1aおよびR1bは別個にアルコール保護基であるか、またはR1aおよびR1bは一緒になってvic−ジオール保護基であり、そしてR4は水素であるかまたはN−保護基である。R1a、R1bおよびR4の全体の範囲は、製造工程の詳細な説明により完全に開示されている。
【0012】
【化8】

【0013】
工程(a)シクロペンタノン、トリメチルオルトホルマート、p−TsOH;工程(b)catTEA、THF;工程(c)HCl、H2O、トルエン、イソプロパノール
【0014】
本発明の具体的な実施形態を含む各工程が、スキーム1〔式中、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、C3〜7−シクロアルキルまたはフェニル(場合によりC1〜3−アルキル、C1〜3−アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される置換基によって置換されている)である〕の反応系列によって示されている。R1aおよびR1bは、一緒になってR32C(式中、R2およびR3は(CH24〜6であるか、もしくは独立して低級アルキルであるか、またはR2は場合により置換されたフェニルもしくは低級アルコキシであり、R3は水素である)である。R1aおよびR1bは、独立してトリアルキルシリルまたはアラルキル基である。本発明の精神を逸脱することなく用い得るヒドロキシル保護基が多数同定されており、酸付加塩の効率的な単離を可能にする条件下で除去され得る保護基がいずれも本発明の範囲に含まれることは、当業者には理解されるであろう。R4はアミノ保護基または水素である。道義的に用いられ得るアミノ保護基が多数知られている。ウレタンは、本発明の方法において有用なアミン保護基のうちの一種を表し、一般に用いられるウレタン保護基としては、tert−ブトキシカルボニルおよびベンジルオキシカルボニル基が挙げられる。N−カルボン酸無水物がアシル化剤として用いられる場合、アミン保護基は必要とならない。
【0015】
本発明の一つの実施形態において、(i)IIaをアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。式中、R、R1a、R1bおよびR4は、先に定義したとおりである。
【0016】
本発明の別の実施形態において、(i)IIa(式中、R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、そしてR2およびR3は、一緒になってC3〜6−アルキレンであるか、独立して低級アルキルであるか、またはR2はフェニルもしくはアルコキシであり、R3は水素である)をアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、RおよびR4は先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0017】
本発明の別の実施形態において、(i)IIa(式中、R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、R2およびR3は一緒になってC3〜6−アルキレンである)をアシル化剤と接触させる工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、RおよびR4は先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0018】
本発明の別の実施形態において、(i)IIaを式IV:
【0019】
【化9】

【0020】
(式中、Xは、アルコールをエステル化するのに十分な反応性のある酸にする活性化基であり、R4はN−ウレタン保護基である)で示される活性化N−保護αアミノ酸と接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、R、R1aおよびR1bは先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0021】
本発明の別の実施形態において、(i)IIaを式IV(式中、Xはアルコールをエステル化するのに十分な反応性のある活性化基であり、Rはイソプロピルであり、R4はbocまたはcbzである)で示される化合物と接触させる工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、R1aおよびR1bは先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0022】
本発明の別の実施形態において、(i)IIaを式V:
【0023】
【化10】

【0024】
(式中、R4はbocまたはcbzである)で示されるN−カルボン酸無水物(NCA)と接触させる工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、R、R1aおよびR1bは先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0025】
本発明の別の実施形態において、(i)IIaを式V(式中、Rはイソプロピルであり、R4はbocである)で示される化合物と接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、R1aおよびR1bは、先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0026】
本発明の別の実施形態において、(i)IIa(式中、R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、R2およびR3は一緒になってC3〜6−アルキレンである)をアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbをトルエンとイソプロパノールと水性塩酸との混合物によって脱保護して、Idの塩酸付加塩、その溶媒和物または水和物(式中、Rは、先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0027】
本発明の別の実施形態において、(i)IIa(式中、R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、R2およびR3は一緒になって(CH24である)を式V(式中、Rはイソプロピルであり、R4はbocである)で示されるNCAと接触させてIIbを得る工程、および(ii)IIbをトルエンとイソプロパノールと水性塩酸との混合物と接触させて、Idの塩酸付加塩、その溶媒和物または水和物を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0028】
本発明の別の実施形態において、(i)1−((2S,3S,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド(IIc)をvic−ジオール保護基と接触させて、式IIaで示される化合物を得る工程、(ii)IIaをアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(iii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、R、R1a、R1bおよびR4は先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0029】
本発明の別の実施形態において、(i)1−((2S,3S,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド(IIc)をvic−ジオール保護基:R2C(=O)R3(式中、R2およびR3は、一緒になってC3〜6−アルキレンであるか、独立して低級アルキルであるか、またはR2はフェニルもしくはアルコキシで、R3は水素である)と接触させて、式IIaで示される化合物を得る工程、(ii)IIaをアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(iii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、その酸付加塩、溶媒和物または水和物(式中、RおよびR4は先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0030】
本発明の別の実施形態において、(i)1−((2S,3S,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド(IIc)をvic−ジオール保護基:R2C(=O)R3(式中、R2およびR3はC3〜6−アルキレンである)と接触させて、式IIa(R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、R2およびR3は一緒になってC3〜6−アルキレンである)で示される化合物を得る工程、(ii)IIaをアシル化剤と接触させてIIbを得る工程、および(iii)IIbを脱保護試薬と接触させてId、またはその酸付加塩、または溶媒和物もしくは水和物(式中、RおよびR4は、先に定義したとおりである)を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0031】
本発明の別の実施形態において、(i)1−((2S,3S,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド(IIc)をvic−ジオール保護基:R2C(=O)R3(式中、R2およびR3はC4〜5−アルキレンである)と接触させて、式IIa(式中、R1aおよびR1bは一緒になってR2CR3であり、R2およびR3は一緒になってC4〜5−アルキレンである)で示される化合物を得る工程、(ii)IIaを式V(式中、Rはイソプロピルであり、R4はbocまたはcbzである)で示されるN−カルボン酸無水物と接触させる工程、および(iii)IIbをトルエンとイソプロパノールと水性塩酸との混合物と接触させてIdの塩酸付加塩、その溶媒和物または水和物を得る工程を含む、式Idで示される化合物を製造する方法が提供される。
【0032】
本発明による別の実施形態において、式Idで示される化合物の合成において有用な中間体である式XI(式中、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、C3〜7−シクロアルキルまたはフェニル(場合によりC1〜3−アルキル、C1〜3−アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される置換基によって置換されている)であり;R2およびR3は一緒になって(CH2nであるか、またはR2はアルコキシであり、R3は水素であり;R5は、水素、bocまたはcbzであり;nは1〜3である)で示される化合物が提供される。
【0033】
アミノ酸の立体化学がスキームIならびに式IVおよびVの天然のS形態で示されているが、その方法は非天然のR形態を用いて同様に実施でき、特許請求の範囲がそのアミノ酸またはアミノ酸誘導体がいずれかの形態をも有する方法を包含することは、当業者には認識されよう。
【0034】
他に断りがない限り、本明細書および特許請求の範囲を含む本出願において用いられる以下の用語は、以下に示した定義を有する。本明細書で用いられる成句「1つの」実在物は、1つ以上の実在物を指し、例えば、1種の化合物は、1種以上の化合物、または少なくとも1種の化合物を指す。それゆえ本明細書においては、用語「1つの」と「1つ以上の」と「少なくとも1つ」とを、同義的に用いることができる。
【0035】
一般に、本出願において用いられる体系的命名法は、IUPAC体系的命名法を作成するためのBeilstein Instituteコンピュータシステム、AUTONOMTM v.4.0に基づいている。
【0036】
成句「先に定義したとおり」は、発明の概要において示された最も広義の定義を指す。
【0037】
本明細書において用いられる用語「アルキル」は、炭素原子を1〜10個含有する非分枝鎖または分枝鎖の飽和一価炭化水素残基を示す。用語「低級アルキル」は、炭素原子を1〜6個含有する直鎖または分枝鎖の炭化水素残基を示す。本明細書において用いられる「C1〜10アルキル」は、炭素原子1〜10個で構成されたアルキルを表す。アルキル基の例は、非限定的に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルを含む低級アルキル基を包含する。
【0038】
本明細書において用いられる用語「アルコキシ基」は、−O−アルキル基(式中、アルキル基は先に定義されたとおりである)、例えば異性体を含む、メトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシを意味する。本明細書において用いられる「C1〜10アルコキシ」は、アルキル基がC1〜10である−O−アルキルを指す。
【0039】
本明細書において用いられる用語「アルキレン」は、他に断りがない限り、炭素を4〜6個含む二価直鎖状または分枝状飽和炭化水素基を示す。アルキレン基の例としては、プロピレン、ブチレン、ペンチレンまたはヘキシレンが挙げられる。
【0040】
本明細書において用いられる用語「シクロアルキル」は、炭素原子3〜7個を含有する飽和炭素環、即ちシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチルを示す。本明細書において用いられる「C3〜7−シクロアルキル」は、炭素環内の炭素原子3〜7個で構成されたシクロアルキルを指す。
【0041】
本明細書において用いられる用語「アルカノール」は、HO−アルキル基(式中、アルキルは先に定義したとおりである)、例えば異性体を含む、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールを意味する。
【0042】
本明細書において用いられる用語「ウレタン」は、基:ROC(=O)NH−(式中、窒素原子はアミノ酸のαアミノ基である)を指す。ウレタン内のRは本明細書において用いられるアルキル、好ましくはtert−ブチルである(boc)か、またはRはベンジルである(cbz)。本明細書において用いられる「ウレタン」と同義のものが、アミノ基に結合したアルコキシカルボニルまたはベンジルオキシカルボニルである。
【0043】
本明細書において用いられる用語「オルトエステル」は、基:RC(OR')3(式中、Rはアルキルまたは水素であり、R'はアルキルである)を指す。
【0044】
溶媒「非プロトン性(または非極性)溶媒」は、有機溶媒、例えばジエチルエーテル、リグロイン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、四塩化炭素を意味する。
【0045】
本明細書において用いられる化合物の用語「誘導体」は、簡単な化学的な方法によって原化合物から得ることができる化合物を意味する。
【0046】
本明細書において用いられる用語「アシル化剤」は、N−保護αアミノ酸の無水物、酸ハロゲン化物または活性化誘導体のいずれかを指す。本明細書において用いられる用語「無水物」は、一般構造:RC(O)−O−C(O)R(式中、RはN−保護αアミノである)で示される化合物を指す。本明細書において用いられる用語「酸ハロゲン化物」は、一般構造:RC(O)X(式中、Xはハロゲンである)で示される化合物を指す。用語「活性化誘導体」は、以下に定義するとおりである。
【0047】
本明細書において用いられる化合物の用語「活性化誘導体」は、原化合物が中等度の反応性または非反応性しかない場合において、所望の化学反応において活性となる、原化合物の一時的反応形態を指す。活性化は原化合物よりも自由エネルギー量が高い誘導体または分子内原子団の形成によって実行され、別の試薬との反応をより受けやすい活性化形態にさせる。本発明に関しては、カルボキシ基の活性化は特に重要であり、カルボキシ基を活性化する対応の活性化剤または原子団を、より詳細に以下に記載する。本発明について特に関心のあるものは、アミノ酸(特にL−バリン)をエステル化させ易くする、アミノ酸の活性化形態であるアミノ酸無水物である。L−バリンの活性化誘導体の例は、RがイソプロピルでありR4がbocである、式Vの化合物である。
【0048】
本明細書において用いられる用語「保護基」は、(a)反応性基が望ましくない化学反応にあずかるのを妨げ、そして(b)反応性基の保護が必要なくなった後容易に除去し得る、化学基を指す。例えばベンジル基は、第一級ヒドロキシル官能基のための保護基である。
【0049】
本明細書において用いられる用語「アミノ保護基」は、さもなければ特定の化学反応によって修飾されるだろう反応性アミノ基を保存する保護基を指す。定義としては、炭素原子が2〜4個のホルミル基または低級アルカノイル基、詳細にはアセチルまたはプロピオニル基、トリチル基またはモノメトキシトリチル基などの置換トリチル基、4,4'−ジメトキシトリチルなどのジメトキシトリチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、シリル基、フタリル基、およびN−ウレタンなどが挙げられる。好ましいアミノ保護基は、ベンジルクロロカルボナートから誘導されるN−ベンジルオキシカルボニル基(cbz)、またはN−アルコキシカルボニル基、例えばジ(t−ブチル)ジカルボナートとの反応によって製造されるtert−ブトキシカルボニルなどである。
【0050】
用語「ヒドロキシル保護基」または「アルコール保護基」は、さもなければ特定の化学反応によって修飾されるだろうヒドロキシ基を保存する保護基を意味する。本発明に関して、「vic−ジオール」保護基は、隣接する炭素原子上にある2個のヒドロキシルを同時に保護する部分を指す。ヒドロキシ保護基は、他の反応工程全てを完了した後に容易に除去され得る、エーテル、エステル、またはシラン、例えば低級アシル基(例えばアセチルもしくはプロピオニル基、またはジメチル−t−ブチルシリル基)、またはアラルキル基(例えば、場合によりフェニル環が置換されているベンジル基)であってもよい。「vic−ジオール保護基」は、通常、容易にかつ可逆的にジオキソランを形成する、アルデヒドまたはケトン、例えばアセトン、ベンズアルデヒド、またはシクロペンタノンである。非環状オルトエステルをvic−ジオールと接触させて2−アルコキシジオキソランを形成させることによって得られる環状オルトエステルも、本発明の範囲内での効果的な保護基である。
【0051】
本明細書において用いられる用語「脱保護試薬」は、レボビリン誘導体と接触させてアミノ保護基およびvic−ジオール保護基を除去する試薬を指す。脱保護のための試薬およびプロトコルは周知であり、Greene and Wuts、またはHarrison and Harrison(以下参照)に見出すことができる。場合によりプルトコルは、個々の分子に合わせて最適化させなければならず、そのような最適化は化学分野の当業者の能力によって申し分なく行われることは、これらの当業者には理解されるであろう。
【0052】
本明細書において用いられる用語「場合による」または「場合により」は、続いて記載されるイベントまたは状況が起こってもよいが起こる必要もなく、その説明は、そのイベントまたは状況が起こる場合と起こらない場合とを含むことを意味する。例えば「場合によりアルキル基で一置換または二置換されたアリール基」は、アルキルが存在してもよいが存在する必要もなく、その説明がアリール基がアルキル基によって一置換または二置換されている状況とアリール基がアルキル基によって置換されていない状況とを含むことを意味する。
【0053】
本明細書において用いられる、化学反応に引用される場合の用語「処理」、「接触」または「反応」は、適切な条件下で2種以上の試薬を添加または混合して、指示された生成物および/または所望の生成物を製造することを意味する。指示された生成物および/または所望の生成物を製造する反応が、必ずしも最初に添加された2種の試薬の混合から直接得られなくてもよく、即ち混合物中に生成され、最終的に指示された生成物および/または所望の生成物の形成を導く中間体が1種以上存在してもよいことを理解すべきである。
【0054】
本明細書において用いられる用語「ヌクレオシド」は、C−1でのグリコシド結合によってペントース糖に結合した窒素系複素環式塩基を指す。天然由来の塩基としてはウラシル、チミン、シトシン、アデニンおよびグアニンが挙げられ、天然由来の糖はリボースおよび2−デオキシリボースである。用語ヌクレオシドは、糖および/または窒素性塩基が化学修飾された化合物を更に包含する。
【0055】
5'−アシルオキシレボビリン誘導体を製造する具体的な方法を以下に記載するが、多数の改良および変更された製造工程が、当業者には明白であろう。したがってこの説明およびこれらの実施例は例示に過ぎず、5'−アシルオキシレボビリン誘導体を製造する新規な方法を当業者に教示する目的のものである。これらの方法は、本発明の精神を逸脱することなく実質的に変更してもよく、添付の特許請求の範囲に含まれる改良の全ての排他的使用は保留される。
【0056】
略語
boc tert−ブトキシカルボニル
Bn ベンジル
cbz ベンジルオキシカルボニル
DCE 1,2−ジクロロエタン
DEAD ジエチルアゾジカルボキシラート
DIAD ジイソプロピルアゾジカルボキシラート
DMF N,N−ジメチルホルムアミド
EtOAc 酢酸エチル
Et2O ジエチルエーテル
EtOH エタノール
MeCN アセトニトリル
MeOH メタノール
NCA N−カルボン酸無水物
NMP N−メチルピロリドン
psi ポンド/平方インチ
pyr ピリジン
rt 室温
TEA トリエチルアミン
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
TLC 薄層クロマトグラフィー
TsOH p−トルエンスルホン酸一水和物
UNCA N−ウレタン−N−カルボン酸無水物
vic ビシナル
【0057】
製造工程
【0058】
工程(a)ヒドロキシル保護
レボビリン(IIc)の5−ヒドロキシの選択的エステル化を確実に行うために、リボシル部分の2'−および3'−第二級ヒドロキシ基を保護しなければならない。ビシナルジオールのための保護基は、多くの場合ジオールをジオキソランまたはジオキサン環に変換する。ほとんど一般的にはこれらの保護基としては、ジオキソランを容易に形成するアルデヒドおよびケトンが挙げられる。ジオール保護基として特有の有用性が見出されたケトンとしては、アセトンおよびC5〜7−シクロアルカノンが挙げられる。水性酸および有機共溶媒を用いればケタールからジオールへの逆生成が達成される。ベンズアルデヒドは、vic−ジオールを用いてアセタールを容易に形成し、水添分解または酸性加水分解によって脱保護することができる。ベンズアルデヒドをメトキシ置換すると、酸性加水分解の速度が上昇し、酸化条件下、例えばCe(NH42(NO36でジオキソランの開裂も可能になる。ニトロベンズアルデヒドによって、光化学的に開裂され得るジオキシランが得られる。環状オルトエステル、例えばエトキシメチレンアセタールは、ジオール保護基として利用された。これらの化合物は、マイルドな酸性条件下で開裂することができるが、最初の生成物はエステルであるため、加水分解してジオールを再生成しなければならない。環状類似体2−オキサシクロペンチリデンオルトエステルは、直接、酸性加水分解によってジオールを与える。環状カルボナートおよび環状ボロナートも、ジオール保護基としての有用性が見出された。これらのジオール保護基はいずれも、本発明の方法に適合させることができる。アルコールの保護および脱保護に関するより詳細な情報は、T. W. Greene and P. G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd edition, John Wiley & Sons, New York, 1999、およびHarrison and Harrison et al., Compendium of Synthetic Organic Methods, Vols. 1-8 John Wiley and Sons, 1971-1996に見出すことができる。ヌクレオシド合成の方策を議論したヌクレオシド化合物製造の一般的レビューも発表されている(A. M. Michelson, The Chemistry of Nucleosides and Nucleotides, Academic Press, New York 1963; L Goodman Basic Principles in Nucleic Acid Chemistry Ed. P. O. P. Ts' O, Academic Press, New York 1974, Vol. 1, chapter 2; Synthetic Procedures in Nucleic acid Chemistry, Ed. W. W. Zorbach and R. S. Tipson, Wiley, New York, 1973, Vol. 1 and 2; Vorbruggen and C. Run-Polenz Handbook of Nucleoside Chemistry, Wiley, New York. 2001)。上記参考資料は、全体が本明細書に参考として援用される。
【0059】
好ましくは保護基を選択することで、アミノ置換されたアルカノイルエステルの酸付加塩を、最小限の更なる精製によって容易に単離することができる。保護基の選択は、エステルを部分加水分解させる厳密な脱保護条件を回避するための必要性、新たに脱保護されたヒドロキシ基によるアシル基のエピマー化または交換によっても影響を受ける。
【0060】
工程(b) エステル化
エステル化工程を実行する前に、アミノ酸のアミノ基を保護して、望ましくないアミド形成を妨げなければならない。様々な条件下で選択的に開裂され得るN−保護基が多数開発された。アミノ酸をカップリングさせるための保護方策は、広範にわたってレビューされている(例えばM. Bodanszky, Principles of Peptide Synthesis, Springer Verlag, New York 1993; P. Lloyd-Williams and F. Albericio Chemical Methods for the Synthesis of Peptides and Proteins CRC Press, Boca Raton, FL 1997)。これらの参考は、全体が本明細書に援用される。本発明に有用な様々なアミノ保護基としては、N−ベンジルオキシカルボニル−(cbz)、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、N−ホルミル−およびN−ウレタン−N−カルボン酸無水物が挙げられ、全て市販されている(SNPE Inc., Princeton, N. J., Aldrich Chemical Co., Milwaukee, Wis., and Sigma Chemical Co., St. Louis, Mo.)。N−ウレタンアミノ保護環状アミノ酸無水物も、本明細書に参考として援用された文献に記載されている(William D. Fuller et al., J. Am. Chem. Soc. 1990 112:7414-7416)。これらの多くは、本発明の方法において効果的に用いることができるが、好ましいウレタン保護基としては、tert−ブトキシカルボニルまたはベンジルオキシカルボニルが挙げられる。
【0061】
アミノ酸は、エステル化工程を実行する前に、活性も行わなければならない。N−保護アミノ酸を効率的にカップリングさせるプロトコルは、詳細に論じられており、広範にわたって最適化されている(M. Bodanszky supra; P. Lloyd-Williams and F. Alberico supra)。少なくとも1当量の保護アミノ酸および1当量の適切なカップリング剤または脱水剤、例えば塩基性基を備えた1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミドまたはそのようなジイミドの塩、例えばN−エチル−N'−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド塩酸塩を、開始時から用いた方がよい。他の脱水剤、例えばN,N'−カルボニルジイミダゾール、トリフルオロ酢酸無水物、混合無水物、酸塩化物を用いてもよい。カップリング効率を改善して、αアミノ酸のラセミ化を制限する多数の添加剤が同定されており、例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび3−ヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン(W. Konig and R. Geiger Chem. Ber. 1970 788:2024 and 2034)、N−ヒドロキシスクシンイミド(E. Wunsch and F. Drees, Chem. Ber. 1966 99:110)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(L. A. Carpino J. Am. Chem. Soc. 1993 115:4397-4398)などである。アミニウム/ウロニウム−ベースおよびホスホニウムHOBt/HOAt−ベースのカップリング試薬、例えば前記ベースのペプチドカップリング試薬、例えば1−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシビス(ピロリジノ)ウロニウムヘキサフルオロホスファート(J. Xu and S. Chen Tetrahedron Lett. 1992 33:647)、1−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−N,N−ジメチルメタンアニミニウムヘキサクロロアンチモナート(P. Li and J. Xu, Tetrahedron Lett. 1999 40:3606)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルアンモニウムウロニウムヘキサフルオロホスファート(L. A. Carpino, J. Am. Chem. Soc. 1993 115:4397)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−ビス(テトラメチレン)ウロニウムヘキサフルオロホスファート(A. Erlich et al. Tetrahedron Lett. 1993 34:4781)、2−(3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン−3−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(R. Knorr et al. Tetrahedron Lett. 1989 30:1927)、7−アゾベンゾトリアゾリルオキシトリス−(ピロリジノ)ヘキサフルオロホスファート(F. Albericio et al., Tetrahedron Lett. 1997 38:4853)、1−ベンゾトリアゾリルオキシトリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(B. Castro et al. Tetrahedron Lett. 1976 14: 1219)、および1−ベンゾトリアゾールオキシトリスピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(J. Coste et al. Tetrahedron Lett. 1990 31:205)が、開発された。
【0062】
本発明に特に有用なものは、N−ウレタン−N−カルボン酸無水物(UNCA)(本明細書に参考として援用されるWilliam D. Fuller et al. J. Am. Chem. Soc. 1990 112:7414-7416)である。他の保護アミノ酸N−カルボン酸無水物は、PCT特許出願WO94/29311に記載されている。UNCAのVは、カップリングの前に活性化工程を必要としない。カップリング時にCO2を形成させると、VIへのカップリング反応が不可逆的に進行する。しかし、反応が選択的に進行し収率が良好で不斉中心がラセミ化しない限りは、多数の試薬を使用してIIaの残りの5−ヒドロキシ基をエステル化できることが、化学の当業者には認識されよう。実験法を損なわずに、別のカップリング試薬を容易に同定することができる。
【0063】
工程(c)脱保護工程
N−アミノ酸保護基およびリボシルヒドロキシル保護基を、脱保護反応によって除去する。保護基を除去するのに最適な条件は、その方法において用いられる各保護基に依存する。酸性条件下で脱保護することによって確実に、脱保護反応で遊離するアミノ基はプロトン化され、即ち酸付加塩が少なくとも存在する酸の理論量から形成される。式(Id)で示される化合物を酸付加塩として単離することは、アミノメチレン炭素のラセミ化の抑制および生成物単離の促進の一助となる。それゆえ以下に示したそれらの実施例は、酸付加塩が同時に形成する脱保護工程を示している。その方法は更に、酸付加塩の遊離塩基への変換を含んでいてもよく、あるいは他の薬学的に許容され得る酸付加塩と互いに交換してもよい。
【0064】
tert−ブチルオキシカルボニル基が、アミノ保護基として用いられている場合、それの除去は、水性HClなどの酸と有機共溶媒を用いるか、または未希釈のトリフルオロ酢酸を用いて実行する。前者の条件では塩酸塩が直接得られ、後者の条件ではトリフルオロ酢酸塩が得られる。シクロペンチリデンvic−ジオール保護基は、同時に除去され得る。従来のTLC分析を利用して、反応の完了をモニタリングすることができる。再結晶化、または液体クロマトグラフィー法などの他の精製法によって、生成物の精製および結晶性エステルの単離を実行する。
【0065】
cbz基をアミノ保護基として用いる場合、それの除去を水添分解によって実行する。水素化触媒、例えばパラジウム担持炭素または水酸化パラジウム担持炭素(Pearlman触媒)を用い、1〜2000psi(0.1〜140atm)、好ましくは20〜200psi(1.4〜14atm)の高い水素圧を利用して、不活性溶媒、好ましくは酸性溶媒にエステル化工程(c)の生成物を溶解することによって、脱保護反応を実行する。
【0066】
塩の製造
式Idで示される化合物が、酸付加塩としてまたは対応する遊離塩基として製造されてもよいことは、当業者には認識されよう。酸付加塩として製造される場合、適切な塩基、例えば水酸化アンモニウム溶液、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどで処理することによって、化合物を遊離塩基に変換することができる。しかし、式Idで示される遊離塩基が、多くの場合その酸付加塩よりも特徴づけが困難であることに留意することが重要である。
【0067】
酸性および塩基性化合物の塩も、親化合物の物理的性質を改善することができる。理想的には活性化合物は、(i)製造工程の際に適切な化学安定性を有しており、(ii)効率的に製造、精製および回収され、(iii)薬学的に許容され得る溶媒への許容され得る溶解度を示し、(iv)取り扱い(例えば流動性および粒度)および製剤化が容易で、化合物の分解ならびに物理的および化学的性質の変化が無視できる程度であり、(v)配合物中における許容し得る程度の長期化学安定性を示す。治療的に有効な用量を提供するために配合および投与されるべき原料の量を最小限に抑えるためには、対イオンに起因して活性成分が低モル%となる塩が非常に望ましい。しかし、投与形態での親化合物の挙動に対する塩類の影響を予測するための信頼できる方法がないため、薬剤師はこれらの塩形成剤を経験的に同定しなければならない。残念ながら、選択方法を簡便化し得る効果的スクリーニング法が不足している(G. W. Radebaugh and L. J. Ravin Preformulation. In, Remington: The Science and Practice of Pharmacy; A. R. Gennaro Ed; Mack Publishing Co. Easton, PA, 1995; pp 1456-1457)。
【0068】
必要に応じて、遊離塩基を別の塩に変換してもよい。遊離塩基を酸付加塩に変換する場合、化合物を適切な有機または無機酸と反応させる。酸付加塩の形成工程において、遊離塩基を、極性溶媒、例えば水もしくは低級アルカノール(好ましくはイソプロパノール)またはそれらの混合物に溶解し、必要量の酸を水または低級アルカノールに添加する。代表的には遊離塩基は、少なくとも理論量の適切な酸で処理する。反応温度は通常、約0℃〜50℃、好ましくはほぼ室温に保持する。対応する塩は、自然に沈殿するか、あるいは極性の低い溶媒、例えばエーテルもしくはヘキサンを添加するか、蒸発によるかもしくは真空下で溶媒を除去するか、または溶液を冷却することによって、溶液から生成させることができる。
【0069】
本発明の方法において、IIb(式中、R1はケタール保護基であり、R4はbocである)を希塩酸で処理すると、直接、塩酸塩が得られる。本発明の方法は、他の手順よりも明白な利点を付与する、レボビリン(Id)のαアミノアシル誘導体を生成する改善された方法を提供する。所望の化合物Idは、反応混合物から直接、結晶生成物として得られ、残りの副生成物は溶液中に残留する。結晶性塩酸塩は、溶媒和物または水和物であってもよい。更にその水溶性塩は吸湿性ではなく、塩の容積密度が>0.4gm/cm3で粒度が大きいため、迅速なろ過、乾燥、ならびに後の取り扱いおよび処理が可能である。純粋な結晶生成物が形成するため、余分に時間をとる精製段階が工程から除かれる。
【0070】
本発明の前述の議論は、当業者が本発明をより明白に理解でき、実行できるよう例示および説明の目的で示した。本発明の説明は、1例以上の実施形態と、特定の変法および改良の説明を包含するが、他の変形および改良は、例えば本発明の開示を理解した後は当業者の熟練および知識の範囲内であるため、本発明の範囲に含まれる。考察は本発明の範囲を限定するものとみなすのではなく、単に例示および代表例とみなすべきである。特許請求の範囲は、許容される範囲までの別の実施形態、例えば請求項に記載されたものの代替の、交換可能な、かつ/または等価の構造、機能、範囲または工程を包含する権利を得るためのものであり、いずれにせよそのような代替の、交換可能な、かつ/または同等の構造、機能、範囲または工程は、本明細書に開示されており、特許性のある内容を公やけに供するものではない。
【0071】
合成反応パラメータ
逆の事柄が明記されない限り、本明細書に記載された反応は、5℃〜170℃(好ましくは10℃〜50℃、最も好ましくは「室温」または「周囲」温度、即ち約20℃〜30℃)の温度の範囲内で、大気圧下で実施する。しかし、化学反応に用いた温度範囲がこれらの温度範囲を超えるかまたは下回る反応も明らかに幾つか存在する。更に、他に明記されない限りは、反応時間および条件は近似的であり、例えば約5℃〜約100℃(好ましくは約10℃〜約50℃、最も好ましくは約20℃〜30℃)の温度範囲内で、ほぼ大気圧下で、約1〜約100時間(好ましくは約5〜約60時間)実施するものとする。実施例に示したパラメータは近似的なものとする。所望なら、適切な分離または精製手順、例えばろ過、抽出、結晶化、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーもしくは厚層クロマトグラフィー(thick layer chromatography)、またはこれらの手順の併用によって、本明細書に記載された化合物および中間体の単離および精製を実行することができる。適切な分離および単離手順の具体的な例示は、以下の実施例を参照することによって示すことができる。しかし、もちろん他の等価の分離または単離手順も、本発明を逸脱することなく利用することができる。
【0072】
実施例1
(S)−2−アミノ−3−メチル酪酸(2S,3R,4S,5S)−5−(3−カルバモイル−[1,2,4]トリアゾール−1−イル)−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イルメチルエステル塩酸塩(boc保護をとおして)
【0073】
工程1
レボビリン(100g;0.453mol)とシクロペンタノン(70g;0.839mol)とトリメチルオルトホルマート(90g;0.857mol)とpTsOH(6.8g;35.8mmol)との混合物およびMeCN(1.0L)の上記試薬を、撹拌しながら35℃に加熱した。2時間後に、温度を40℃に上昇させて、更に2時間加熱した。混合物が均質になり、この時点で反応が完了したと判断した。反応混合物をトリエチルアミン2.5gで塩基性にして、真空内でMeCNを除去した。残渣を60〜65℃で撹拌し、トルエン350mLとMeOH120mLと水600mLとの間で分配させた。水層を分離し、手短に蒸留してメタノールを除去した。水溶液を冷却して、シクロペンチリデンを結晶化させ、ろ過し乾燥させて、VII(97g;理論量の74.9%)を得た。
【0074】
工程2
THF 1.25L中の4−イソプロピル−2,5−ジオキソオキサゾリジン−3−カルボン酸tert−ブチルエステル(VIIIa;450g)の溶液を、レボビリンシクロペンチリデン(VII;500g、1.72mol)とTEA(18g;0.178mol)とTHF 3.75Lとの混合物に緩やかに添加した。混合物を16〜24時間撹拌した。溶液を真空の揮発性溶媒中に濃縮し、残渣をEtOAc(2.5L)に溶解して、水55mLを溶液に添加した。混合物をCELITE(登録商標)ろ過助剤に注ぎ、撹拌した溶液にNa2CO3飽和水溶液(166mL)を添加した。短時間後にトルエン(3.5L)を添加し、混合物をろ過した。ろ液を水650mLで2回洗浄した。有機層を分離し、炭酸ナトリウムに通してろ過して、ろ液をストリッピングして(stripped)溶媒を除去し、IX 800g(理論量の98%)を粘性液として得、冷却して結晶化させた。
【0075】
工程3
トルエン(2.4L)とイソプロパノール(500mL)との混合物に溶解させたレボビリンシクロペンチリデン(S)−2−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−メチルブチラート(IX;800g;1.57mol)の撹拌溶液に、水で600mL容量に希釈した塩酸(315g;37%)を添加した。反応混合物を16〜24時間撹拌した。下層の水層を分離し、35〜50℃に加温して、同温に加温したイソプロパノール(4.5L)で緩やかに希釈した。混合物を冷却して、数時間撹拌した。結晶沈殿物をろ過により回収して乾燥させ、レボビリンバリナート塩酸塩(X;510g)を得た。
【0076】
実施例2
(S)−2−アミノ−3−メチル酪酸(2S,3R,4S,5S)−5−(3−カルバモイル−[1,2,4]トリアゾール−1−イル)−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イルメチルエステル塩酸塩(代替のカップリング手順)
4−イソプロピル−2,5−ジオキソオキサゾリジン−3−カルボン酸tert−ブチルエステル(VIIIa;450g)、DMF(100mL)およびトルエン(2.0L)の溶液を、DMF(900mL)中のVIIおよびTEA(26g)の溶液に添加した。数時間撹拌した後、溶液を水(1.0L)で緩やかに希釈した。有機層を分離して、トルエン(500mL)で希釈した。有機層をHO(500mL×2)で洗浄して、炭酸ナトリウム(500g)に通してろ過した。有機層を炭酸ナトリウム上でろ過して、ろ液を真空中で濃縮し、IX800gを粘性油状物として得、冷却して結晶化させた。
【0077】
実施例3
(S)−2−アミノ−3−メチル酪酸(2S,3R,4S,5S)−5−(3−カルバモイル−[1,2,4]トリアゾール−1−イル)−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イルメチルエステル塩酸塩(cbz保護を介して)
【0078】
工程1
撹拌機、熱電対、窒素流入口を取り付けた500mLの三ツ口フラスコに、レボビリンシクロペンチリデン(VII;30g;96.68mmol)および4−イソプロピル−2,5−ジオキソオキサゾリジン−3−カルボン酸ベンジルエステル(VIIIb)およびEtOAc(240mL)を投入した。得られたスラリーにTEA(1.34mL;9.67mmol)を添加した。1.5時間後に反応混合物は均質な溶液になり、混合物をrtで一晩撹拌した。EtOAc約170mLを真空蒸留によって除去し、同程度の容量のイソプロパノールに交換した。更に溶媒170mLが除去されるまで蒸留を続けて、イソプロパノールを更に200mL添加した。
【0079】
工程2
得られた溶液にHO 30mL、10%Pd/C(1.32g)および濃HCl(16.1ml)を添加した。フラスコにH充填バルーンを取り付けて、H雰囲気下に保持した。フラスコを定期的に緩やかに真空にしてCOを脱気し、水素を再充填した。2.5時間後に、水を更に30mL添加して、均質な溶液を保持し、定期的なCO除去を続けた。反応混合物を一晩撹拌した。翌朝、更に水25mLを少しずつ添加して生成物を溶解し、CELITE(登録商標)でろ過することにより触媒を除去した。イソプロパノールおよび水約350mLを蒸留によって除去し、更にIPA340mLを添加した。反応混合物を緩やかに放冷し、約56℃で生成物の結晶をシーティングして、rtまでに冷却し続け、最後にアイスバスで0℃に冷却した。固形生成物をろ過してIPA(75mL)で洗浄した。固形物をろ過し40℃の真空オーブン内で一晩乾燥させて、X(26.48g;理論量の72%)を得た。
【0080】
前述の説明または以下の特許請求の範囲に開示された特徴は、具体的形態で、または開示された機能を実施するための手法に関して、または開示された結果を達成するための方法もしくは工程に関して表現しており、適宜、別個にまたはそれらの特徴を組み合わせて、本発明を異なる形態で理解するために利用してもよい。
【0081】
前述の本発明は、明瞭性および理解を目的として例示および実施例を用いて詳細に記載した。添付の特許請求の範囲内で変更および改良を実施し得ることは、当業者には自明であろう。つまり上記説明が、例示であり限定するものでないことを理解すべきである。それゆえ本発明の範囲は、上記説明を参照して決定すべきではなく、代わりに以下の添付の特許請求の範囲で権利を与えられた全範囲の均等物と共に、そのような特許請求の範囲を参照して決定すべきである。
【0082】
本出願で引用された全ての特許、特許出願および特許公開は、各特許、特許出願または特許公開が個々に示されていたとしても、同程度の全ての目的のために、全体が参考として本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Id:
【化1】


〔式中、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、C3〜7−シクロアルキルまたはフェニル(場合によりC1〜3−アルキル、C1〜3−アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される置換基によって置換されている)である〕で示される化合物を製造する方法であって、
(a)1−((2S,3S,4R,5S)−3,4−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン−2−イル)−1H−[1,2,4]トリアゾール−3−カルボン酸アミド(IIc)をvic−ジオール試薬と接触させて、式IIa(式中、R1aおよびR1bは、vic−ジオールまたはアルコール保護基である)で示される化合物を得る工程;
【化2】


(b)式IIaで示される化合物をアシル化剤と接触させて、式IIb(式中、R1aおよびR1bは先に定義したとおりであり、R4はアミン保護基である)で示される化合物を生成する工程;
【化3】


(c)式IIbで示される化合物を脱保護試薬と接触させて、式Idで示される化合物を得る工程;
(d)所望なら、式Idで示される化合物をその酸付加塩または溶媒和物もしくは水和物に変換する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記vic−ジオール保護試薬が、式:R2C(=O)R3〔式中、R2およびR3は、(i)一緒になってC3〜6−アルキレンであるか、(ii)独立して低級アルキルであるか、またはR2はフェニルもしくはアルコキシであり、R3は水素もしくはオルトエステル誘導体である〕で示される化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
2およびR3が一緒になってC3〜6−アルキレンである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記vic−ジオール保護基が、R2CR3(式中、R2およびR3は一緒になってC3〜6−アルキレンであるか、独立して低級アルキルであるか、またはR2はフェニルもしくはアルコキシであり、R3は水素である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
2およびR3が一緒になってC3-6−アルキレンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記アシル化剤が、式IV(式中、Rは先に定義したとおりであり、Xはアルコールをエステル化するのに適した活性化基であり、R4はアミン保護基である)で示される活性化N−保護αアミノ酸である、請求項1記載の方法。
【化4】

【請求項7】
Rがイソプロピル基であり、R4がtert−ブトキシカルボニルまたはベンジルオキシカルボニルである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記アシル化剤が、式V(式中、RおよびR4は先に定義したとおりである)で示されるN−カルボン酸無水物である、請求項1記載の方法。
【化5】

【請求項9】
前記脱保護試薬が、トルエンとイソプロパノールと水性塩酸との混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記vic−ジオール保護基がR2CR3(式中、R2およびR3は一緒になって(CH24である)で示され、前記アシル化剤が式V(式中、Rはイソプロピルであり、R4はtert−ブトキシカルボニルである)で示されるN−カルボン酸無水物であり、前記脱保護試薬が水性塩酸とトルエンとの混合物であり、前記酸付加塩が塩酸塩である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
式XI:
【化6】


〔式中、
Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、C3〜7−シクロアルキルまたはフェニル(場合によりC1〜3−アルキル、C1-3−アルコキシおよびハロゲンからなる群から選択される置換基によって置換されている)であり;
2およびR3は、一緒になって、(CH2nであるか、またはR2はアルコキシであり、R3は水素であり;
5は、水素、tert−ブトキシカルボニルまたはベンジルオキシカルボニルであり;
nは、1〜3である〕で示される化合物。

【公表番号】特表2007−505070(P2007−505070A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525732(P2006−525732)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009911
【国際公開番号】WO2005/023827
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】