説明

抗体評価試験

【課題】再現性を有し、かかる評価の妨げとなりうる抗体のFab領域による影響を受けることなく、抗体Fc領域によるFc受容体の活性化能を特異的に評価することを可能にする、抗体製剤のFc受容体活性化能の測定方法の提供。
【解決手段】a)前記抗体を相互に凝集させるステップと、b)Fc受容体を発現している細胞を、前記凝集抗体と接触させるステップと、c)前記抗体のFc領域による、前記細胞のFc受容体の活性化に起因する細胞の応答を測定するステップを含んでなる測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体製剤のFc受容体活性化能の測定方法の提供に関し、当該方法は以下のステップを含んでなる:
a)前記抗体を相互に凝集させるステップと、
b)Fc受容体を発現している細胞を、前記凝集抗体と接触させるステップと、
c)前記抗体のFc領域による、前記細胞のFc受容体の活性化に起因する細胞の応答を測定するステップ。
【背景技術】
【0002】
調査研究への抗体の使用が盛んに行われるうちに、抗体は更に診断及び治療用ツールの1つとしても用いられるようになり、従来の治療方法に対する代替的方法を提供するに至った。
【0003】
治療に用いられている多くの抗体製剤(血清若しくは生物工学的手法に由来する)が、現在市販されているか、又は臨床試験段階にある。それらの特性を改良することにより、特異的にそれらの標的と結合し、免疫細胞を効果的に補充できる治療用ツールが得られる。
【0004】
ここ数年来の開発の方向は、抗体の効果の改良、特にそれらのFc定常領域の操作が中心となっている。抗体の「エフェクター」特性の原因となるのは後者であるが、その理由は、それがエフェクター免疫細胞及び補体分子の動員を促進するからである。この活性は、特定の免疫細胞上の糖蛋白質、Fc受容体(又はFcRs)の存在によって可能となる。これらの受容体は抗体の定常領域と結合でき、その結合後、抗体の可変領域を介して標的抗原と結合する。これらの細胞との接触後、当該抗体は、異なる細胞内機構(例えばファゴサイトーシス及びADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞毒性)を活性化させる。
【0005】
これは、Fc受容体への抗体のFc領域の結合に起因するそれらの「有効性」(すなわち免疫細胞機構を活性化させる能力)に基づいて抗体を識別する方法に対する問題を提起するものである。
【0006】
特許文献1では、抗体の機能活性を測定する方法が開示されている。この方法は、CD16受容体を発現する細胞を、抗体及び前記抗体の抗原の存在下で、反応培地と接触させるステップと、CD16受容体を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインの量を測定するステップを含んでなり、この測定により、抗体による免疫系のエフェクター細胞の活性化能が示される。
【0007】
すなわち、この方法により、抗原抗体複合体を用いたエフェクター細胞の活性化の評価が可能となる。しかしながら、この方法では、エフェクター細胞の活性化は、抗体とその標的とのアフィニティ、及びFc受容体と結合するFc領域の性能の両方に依存することとなる。したがって、この試験では、抗体のFc領域単独によるエフェクター細胞の活性化の評価を行うことができない。
【0008】
この課題を解決するために、特許文献2では、抗体のFab領域の結合能に影響されることなく、抗体のFc領域の機能性を測定することを可能にする方法を開示している。この方法は、試験する抗体を固定化するステップと、それをFc受容体を発現するエフェクター細胞中と抗体のFc領域を反応させるステップと、エフェクター細胞の活性化に起因するエフェクター細胞の応答を測定するステップを含んでなる。この方法では、抗体はプレート又はビーズ上へのコーティングによって固定化される。
【0009】
このように固定化される抗体数は制御できないが、それはプレートへの抗体の正しい結合の如何、プレート又はビーズ上におけるそれらの向き、及び抗体の電荷に依存するからである。実際、抗体の電荷はそれらのアミノ化レベルに依存し、それにより、ビーズ又はプレートに固定化されるそれらの能力に影響が及ぶ。すなわち、この変動要因の存在により、試験成績が抗体の関数として随時変化し、そのため異なる配列及び/又は特異性を有する2つの抗体のFc領域の機能性を比較することが困難となる。更に、当該試験はヒトの単核球細胞株(THP−1)を使用して実施されるが、FcγRIIIa受容体が一貫して細胞表面で発現されるためには、インターフェロンγによる活性化を行う必要がある。この事前の活性化により試験成績が大きく変動し、したがって実験結果を比較することが困難となる。
【特許文献1】仏国特許第0211416号公報
【特許文献2】欧州特許第1298219号公報
【非特許文献1】Van Mirreら、(2004).Monomeric IgG in intravenous Ig preparations is a functional antiagonist of FcgRII and FcgRIIIb.The journal of Immunology;332:339
【非特許文献2】Farag S.S.,Flinn I.W.,Modali R.,Lehman T.A.,Young D.,and Byrd J.C.(2004)Blood,vol.103,n[.]4,1472−1474.
【非特許文献3】Wu J.,Edberg J.C,Redecha P.B.,Bansal V.,Guyre P.M.,Coleman K.,Salmon J.E.,and Kimberly R.P.1997,J.) Clin.Invest.Vol.100,n[.]5,1059−1070.
【非特許文献4】Shields R.L.,Lai J.,Keck R.,O’Connell L:Y.,Hong K.,Meng Y.G.,Weikert S.H.A.,and Presta L.G.:(2002)J.Biol.Chem.,vol.277,n[.]30,26733−26740.
【非特許文献5】Niwa R.,Hatanaka S.,Shoji−Hosaka E.,Sakurada M.,Kobayashi Y.,−Uehara A.,Yokoi H.,Nakamura K.,and Shitara K.(2004),Clinical Cancer Research,10,6248−6255.
【非特許文献6】Weiss A.,Wiskocil R.L.,and Stobo J.D.1984,J.Immunol.,vol.133,n[.]l,123−128.
【非特許文献7】Schneider U.,Schwenk H.U.,and Bornkamm G.(1977) Int.J.Cancer.,vol.19,n[.]5,621−626.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上をまとめると、「有効性」に基づいて抗体を識別する現行の方法では、抗体のFc領域によるエフェクター細胞の活性化の評価を十分行うことができないか、あるいは再現性に乏しく、その結果標準化するのも困難となる。以上を踏まえ、新規な方法を開発すべく発明者らが鋭意研究を行った結果、再現性を有し、かかる評価の妨げとなりうる抗体のFab領域による影響を受けることなく、抗体Fc領域によるFc受容体の活性化能を特異的に評価することを可能にする、抗体製剤のFc受容体活性化能の測定方法を開発するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の本発明の目的は、抗体製剤によるFc受容体の活性化性能を測定する方法の提供に関し、当該方法は以下の工程を含んでなる。
a)前記抗体を相互に凝集させるステップと、
b)Fc受容体を発現している細胞を、前記凝集抗体と接触させるステップと、
c)前記抗体のFc領域による、前記細胞のFc受容体の活性化に起因する細胞の応答を測定するステップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の用語「前記抗体を相互に凝集させる」とは、溶液中に分散している抗体を相互に結合させ、当該抗体間の強い結合に基づくネットワークを形成することを意味する。
【0013】
抗体のこの凝集により、抗体が一定の方向を向くように制御され、それにより、全ての若しくは大多数の抗体のFc領域が、Fc受容体を発現するエフェクター細胞のFc受容体の方向に向かって好適な位置関係をとる。実際、発明者らは驚くべきことに、かかる凝集の効果として、特定の抗体のFc領域が、試験しようとする抗体の特異性又は一次構造に関係なく、特定の形式において、適切な位置関係をとるという事実が挙げられるという点を見出した。
【0014】
本発明に係る評価方法の利点としては、当該方法で利用される抗体の量とエフェクター細胞の活性化との間で用量依存的な相関が見られることと、再現性を有することが挙げられる。
【0015】
更に発明者らは驚くべきことに、かかる方法では、標的抗原が存在せずとも、Fc受容体を介したエフェクター細胞の活性化が可能となる点を見出した。実際、Fc受容体はin vivoで、抗体の定常領域がその可変領域を介して標的抗原に結合した後、抗体の定常領域と結合することができる。上記方法では抗原標的を細胞表面に発現する細胞の使用が不要となるが、それにより生物学的試験の変動性の原因がなくなり、それにより当該方法において生じうる変動性パラメータが減少するという顕著な効果を得ることができる。
【0016】
すなわち、従来技術の方法において見られる、標的細胞の存在による生物学的可変性、並びに抗体の特異性及び一次構造の影響は、本発明の方法では非常に限られるか、あるいはゼロである。
【0017】
本発明を実施するために、抗体の凝集に通常用いられている、限定されないが例えば熱的又は免疫学的方法(例えば全免疫グロブリンG)などの、当業者に公知のあらゆる手段を用いて抗体を凝集させてもよい。更に、本発明による方法には、溶液状の抗体により実施できるという効果がある。
【0018】
本発明の用語「Fc受容体」とは、CD16(FcγRIII)及びCD32(FcγRII)などの、エフェクター細胞上に存在する、抗体のFc領域と結合するあらゆる受容体のことを意味する。
【0019】
本発明の用語「抗体」とは、その特異性及びアイソタイプを問わない、あらゆる抗体のことを意味するが、但し、Fc領域又はFc領域と同じ機能を有する部位を含んでなる。それはすなわち、全長抗体又は抗体フラグメント(例えばFc抗体フラグメント)であってもよい。更に、本発明の方法で利用される抗体は、IgG(IgG1又はIgG2又はIgG3又はIgG4)、IgM、IgE、IgA又はIgD、又はこれらの混合物であってもよい。更に、本発明の方法で利用される抗体はモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体であってもよく、それらがモノクローナル抗体である場合、これらの抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体又は動物由来の抗体であってもよい。本発明の用語「Fc受容体を発現する細胞」とは、細胞表面にFc受容体を発現するあらゆる細胞(その受容体を天然において発現するか、又は遺伝子組み換えにより発現できる細胞)のことを意味する。例えばNK細胞、活性単核細胞、末梢血顆粒球、マクロファージ、好中球、CD8リンパ球、Tγδリンパ球、NKT細胞、好酸球、好塩基球又は肥満細胞などが例示されるが、これらに限定されない。好適なことに、抗体のFc領域がそれらの表面で発現するFc受容体と結合するとき、これらの細胞はある種の応答を示す。
【0020】
本発明の用語「Fc受容体を発現する細胞による応答」とは、これらの細胞のFc受容体と抗体のFc領域との間の相互作用に起因する、あらゆる測定可能な応答のことを意味する。この応答は細胞内での応答であってもよく、細胞外での応答であってもよい。その例としては、1つ以上のサイトカイン、細胞内カルシウム、パーフォリン、グランザイム又は一酸化窒素のレベルの測定が挙げられるが、これらのリストに限定されない。
【0021】
好適には、当該凝集はF(ab’)抗IgG断片を使用して実施する。この手段により、抗体のFc領域の方向が制御されるという意味で、特に好適な凝集が可能となる。実際、各F(ab’)フラグメントは試験対象となる2つの異なる抗体と結合するが、それにより、試験対象の抗体のFc領域が好適な態様の位置関係をとる。この方向性は、特にエフェクター細胞とFc受容体との相互作用にとり好適であり、それにより、エフェクター細胞の活性化にとり好適である。
【0022】
本実施形態において使用できるF(ab’)抗IgG断片は、抗体のいかなる断片、部分若しくはドメインであってもよく、例えばFc領域、Fab領域又は全IgG分子であってもよい。F(Ab’)断片はモノクローナル性であってもよく、又はポリクローナル性であってもよい。
【0023】
本発明の本実施形態では、試験される抗体及びF(ab’)の濃度は、正確に制御することができる。それにより、上記の2つの相関を算出することが可能となり、更に、試験される抗体製剤の如何に関係なく再現性を伴う形で試験を実施することが可能となる。
【0024】
特に好適には、このF(ab’)抗−IgG断片は、試験対象の抗体製剤に対する反応性を有する、抗−Fab又は抗−F(ab’)断片である。こと断片はヤギ又はウサギ由来の断片であってもよい。
【0025】
具体的実施形態では、各F(ab’)フラグメントは、試験される2つの抗体分子のFabの一部と結合し、それにより試験される抗体のFc領域が適切な位置関係をとり、その結果、それらがFcRと結合し、細胞表面でこれらのFcRsを発現する細胞が活性化される。
【0026】
他の実施形態では、当該凝集は熱による凝集である。抗体は最初に加熱され、それによりそれらが相互に凝集し(本発明の方法のステップ(a))、次にFc受容体を発現する細胞と接触する形で配置される(ステップ(b))。抗体の相互凝集に適するいかなる加熱方法も、本発明の実施態様において使用することができる。例えば、60℃で30分間の抗体を加熱してもよい(非特許文献1参照)。
【0027】
本発明の他の実施形態では、当該凝集は、Fab領域相互の架橋、又は重鎖と軽鎖との架橋により実施される。本発明の用語「架橋」とは、2つの抗体分子間のあらゆる架橋(ブリッジング)のことを意味し、例えば、これらの抗体のFc領域が一定に、エフェクター細胞のCD16受容体の方向を向いている態様が好ましい。好適には、抗体は1つ以上の架橋を有する。それにより抗体はネットワークを形成でき、またその配向性は、エフェクター細胞により担持されるCD16受容体との最適な結合を形成するのに適している。好適なことに、抗体相互の架橋(すなわちブリッジング)を可能にするいかなる手段も、本発明の実施態様に用いることができる。例えば、化学結合又は紫外線によって架橋がなされてもよいが、このリストに限定されるものではない。好適には、エフェクター細胞により発現するFc受容体は、CD16(FcγRIIIa及びFcγRIIIb)、CD32(FcγRIIa及びFcγRIIb)及びCD64である。特に好適にはCD16が選択される。
【0028】
好ましい実施形態では、Fc受容体を発現する細胞は、前記受容体をコードする遺伝子を導入された細胞である。本実施形態では、エフェクター細胞により提示される受容体のアロタイプを制御することが可能である。実際、所望の試験を行うという観点から、1つの受容体のみを有する細胞を特性の観点から選択して本発明の方法を実施してもよく、あるいはこれらの受容体の組合せを用いて実施してもよい。例えば、CD16をコードする遺伝子を細胞に導入し、CD16のみを発現するエフェクター細胞を使用する手段を選択して、本発明を実施してもよい。すなわち、他の可変因子(すなわちエフェクター細胞の表面に存在する1つ以上のFc受容体の性質及び量)を排除することが可能となる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、Fc受容体を発現する細胞は、CD16を発現するJurkat細胞であり、この株は、これらの細胞の非特異的な活性化物質(例えばPMA(ホルボール12−ミリステート 13−アセテート))の存在下で培養される。この株化細胞を用いた本発明の方法の実施態様の、特に有利な態様の1つは、この株が、凝集抗体と接触するエフェクター細胞を配置する前の活性化ステップを必要としないという事実に基づく。実際、ある種のエフェクター細胞株では、Fc受容体の顕著な発現のためには、1つ以上のサイトカインによる活性化が必要となる(例えば欧州特許第1298219号を参照)。サイトカインを用いたこの従来の活性化はしばしばランダムな結果に至らしめ、時間のロスや実験の標準化を困難にするなどの、克服するのが困難な問題を生じさせる。更に、CD16受容体をコードする発現ベクターを導入されたJurkat株(「Jurkat CD16株」)は、不死化されることにより、培養培地中で無限に増殖させることが可能となる。
【0030】
これらの細胞は、二重に刺激されると活性化されうるという利点を有する。本発明の方法では、Jurkat CD16細胞の活性化は、PMA(T細胞に対する非特異的な活性化物質)、及び抗体のFc領域とCD16との結合によりなされる。Jurkat細胞の活性化は、培養上清へのIL−2の放出により示される。その結果、CD16に対する抗体のFc領域の機能性が高いほど、上澄に放出されるIL−2の量はより多くなる。
【0031】
好適には、前記抗体のFc領域による、前記細胞のFc受容体の活性化に起因する細胞応答の測定は、CD16受容体を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカイン量の測定により行われる。実際、エフェクター細胞の活性化は特に、培養上清へのIL−2の放出によって示される。例えば、培地中のサイトカイン濃度は、市販のELISA(バイオアッセイ)試験により測定できる。他の方法としては、サイトカイン(例えばIL−2)の合成をアッセイすることが挙げられる。すなわち、IL−2のメッセンジャーRNAを定量的RT−PCT及びノーザンブロット法でアッセイするか、又は細胞内のIL−2及び培養上清中のIL−2をウエスタンブロット及びサイトメトリでアッセイする手法が挙げられる(このリストに限定されない)。
【0032】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのサイトカインの量の測定は、これらのサイトカインのmRNAのアッセイにより行われ、これらのmRNAの量は、対応するサイトカインの発現のレベルと相関し、それはすなわち、エフェクター細胞の活性化レベルを示す。
【0033】
好適には、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、MCP−1、TNFアルファ(TNFα)及びIFNガンマ(IFNγ)から選択される少なくとも1つのサイトカインが定量される(このリストに限定されない)。
【0034】
特に好適には、細胞応答の測定はインターロイキンIL−2の測定により実施される。
【0035】
分泌されたインターロイキンIL−2のレベルは、ADCC−タイプ活性と相関している。実際、エフェクター細胞によるサイトカインの分泌と、エフェクター細胞のCD16により媒介されるADCC活性との間の強い相関が確認されている(仏国特許第0211416号公報)。すなわち、本発明の方法は、特に治療用の細胞毒性抗体の選抜において有利である。
【0036】
本発明の他の一実施形態では、細胞応答の測定は、カルシウム流入、リン酸化、転写又はアポトーシス因子の測定により行われる。これらのパラメータの増加はエフェクター細胞の活性化と相関し、それはすなわち、エフェクター細胞のFc受容体を活性化させる抗体の性能を示すものである。
【0037】
好適には、当該方法は、CD16受容体と相互作用できるモノクローナル抗体を産生する細胞の性能を評価(すなわち抗体又は抗体製剤の細胞障害性を評価)することに適している。過去の研究においては、CD16に対する抗体のアフィニティが、Fc受容体(例えばCD16の多型[非特許文献2、3])、更にはFc領域の特性に依存することが証明されており、また、免疫グロブリンの重鎖の位置297のアスパラギンに存在するオリゴ糖のフコースレベルが、Fc受容体との結合において役割を果たすことが証明されている[非特許文献4、5]。
【0038】
抗体産生株化細胞は、増殖できるいかなる株であってもよく、特にCHO、YB2/0、SP2/0、SP2/0−AG14、IR983F、Namalwaヒト骨髄腫、PERC6株化細胞、CHO株(特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−)、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14及びP3X63Ag8.653から選択されるが、それらに限定されない。
【0039】
好適には、当該方法は、1つ以上の精製工程の後に得られた抗体製剤のFc領域の有効性及び完全性を評価することに適する。
【0040】
本発明の方法の他の用途は、変性条件下に置かれたモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含有する、特に治療用の製剤の、安定性のモニタリングである。
【0041】
ゆえに本発明の方法は特に、治療用の製剤の、時間経過に伴うモニタリングに有用である。実際、本発明者らは、数カ月にわたり抗体製剤を変性条件下で保存して活性をモニターし、それが減少することを解明した。すなわち、高温(例えば40℃)で保存した場合、治療用製剤は時間経過と共にその活性を喪失する。更に本発明の方法により、標的抗原を担持する細胞を用いた試験と異なり、抗体のどの部分が、この活性の損失に関係しているかを識別することが可能となる。変性させた場合に、CD16に対するアフィニティを喪失するのは、抗体のFc領域であることは明らかである(実施例4を参照)。
【0042】
当該方法は更に、抗体のFc領域の機能性の測定にとり好適である。本発明の用語「抗体のFc領域の機能性」とは、このFc領域による、Fc受容体に対する(特にCD16受容体に対する)結合を介したエフェクター細胞の活性化能のことを意味する。本発明の方法は非常に再現性が高く(参照実施例2、パラグラフ5)、抗体の配列及び/又は特異性が異なる場合においても測定効率が変わらないため、抗体製剤の機能性を分析するためのルーチン試験や、非常に高い細胞毒性を有する抗体のスクリーニングにしようすることができる。
【0043】
好適なことに、当該方法は、遺伝子導入植物又は遺伝子導入哺乳動物によるモノクローナル抗体の産生のアッセイに適している。本発明に係る方法の実施によって得られるかかる抗体は、そのFc領域がFc受容体を活性化させる性能を有することを特徴とする。
【0044】
好適なことに、当該方法は、治療用抗体の効率的な選抜に適している。例えば、当該抗体は、抗体が存在しないコントロール、又は、ネガティブコントロールとしての所定の抗体と比較して100%超、あるいは250%、好適には500%、より好適には1000%のレベルでサイトカイン(例えばIL−2)の放出が観察されるものが選択される。
【0045】
好適なことに、当該方法は、65%未満、好ましくは40%未満のフコース含量の抗体組成物の選抜に適している。実際、抗体製剤の活性が、重鎖の位置297のグリカン単位上のフコース含量に依存していることが証明されている。
【0046】
抗体は重鎖と軽鎖により構成され、それらはジスルフィド架橋によって結合している。各鎖は、N末端では、抗体が結合する抗原に対して特異的な可変領域(又はドメイン)により構成され、C末端では、軽鎖では単一のCL領域、重鎖では幾つかの領域(CH、CH及びCH)を含む定常領域により構成される。重鎖の可変ドメイン、CH及びCL領域、並びに軽鎖が会合して抗体のFab部分を形成し、それは非常に柔軟なヒンジ領域を介してFc領域と連結し、各Fabの標的抗原との結合を可能にする。Fc領域(抗体のエフェクタ特性の調節部分)は、エフェクター分子(例えばFcγR受容体、FcγR)に対するアクセス可能性を保持している。Fc領域(2つの球状領域CH及びCHにより構成される)は、2つの鎖の各々において、アスパラギン297(Asn297)に結合する2アンテナタイプのN−グリカンの存在により、CH2領域のレベルでグリコシル化されている。
【0047】
このタイプのN−グリカンは、以下の一般式で表される:
【化1】

【0048】
すなわち、本発明による抗体組成物において、「フコース」とは、これらのN−オリゴ糖により担持されるフコースのことを意味する。フコース分子が存在する場合、それはN−オリゴ糖のNアセチルグルコサミン(GlcNAc)に密接に結合し、このGlcNAcはそれ自体がAsn297に結合する。各抗体の各2つの重鎖により担持される各2つのN−グリカンは、フコース分子を担持してもよく、又は担持しなくともよい。すなわち、各抗体はそれぞれ0、1又は2個のフコース分子を含んでもよく、そのN−グリカンのいずれもフコースを担持しない場合、そのN−グリカンのうちの1つのみがフコース分子を担持する場合、又はそのN−グリカンの両方が各々フコース分子を担持する場合がありえる。すなわち、「65%未満のフコース含量の抗体組成物」の用語は、組成物中の抗体の各糖鎖形成部位(Asn297)に担持されるグリカン構造の全体の65%未満がフコース分子である、抗体組成物のことを意味する。
【0049】
本発明者らによって、かかる組成物が特に好適なADCC活性を有することが証明されている。
【0050】
好ましくは、フコース含量が20%〜45%、又は25%〜40%である抗体の組成物が選択される。本発明の方法において、抗体組成物(製剤)中のフコースレベルが減少するとき、CD16に関連する抗体の機能的な活性の増加がみられたことから、機能的な活性とフコースレベルとの間の定量的な関係が示されている。
【0051】
本発明の別の目的は、以下の工程を含んでなるモノクローナル抗体組成物の調製方法に関する。
a)ハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマ、又は1つ以上の前記抗体の発現用のベクトルを使用して遺伝子導入した動物、植物若しくはヒト由来の株化細胞から抗体を得るステップと、
b)F(ab’)抗IgG断片によってステップa)において得られた抗体を凝集させるステップと、
c)ステップb)において得られた抗体を、−CD16を発現する細胞を有するエフェクター細胞と、−ホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(PMA)を含有する反応混合液に添加するステップと、
d)CD16を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインの量を測定するステップと、
e)抗体が存在しない場合、又はネガティブコントロールとしての所定の抗体が存在する場合と比較し、0.5、1、2、5、10、100又は500倍超のサイトカイン産生量が測定される抗体組成物を選抜するステップ。
【0052】
好適には、CD16を発現する細胞からなるエフェクター細胞は、Jurkat CD16細胞である。
【0053】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのサイトカイン量の測定は、これらのサイトカインのmRNAのアッセイによりなされる。これらのmRNAの量は対応するサイトカインの発現レベルと相関し、それはすなわちエフェクター細胞の活性化レベルを示す。
【0054】
例えば、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、MCP−1、TNFアルファ(TNFα)及びIFNガンマ(IFNγ)から選択される少なくとも1つのサイトカインが定量される(このリストに限定されない)。
【0055】
好適には、細胞応答の測定は、インターロイキンIL−2の測定によりなされる。
【0056】
分泌されたインターロイキン(例えばIL−2)のレベルは、ADCC−タイプ活性と相関している。実際、エフェクター細胞によるサイトカインの分泌と、エフェクター細胞のCD16により媒介されるADCC活性との間に、強い相関が存在することが確認されている(仏国特許第0211416号公報)。
【0057】
本発明の他の一実施形態では、細胞応答の測定は、カルシウム流入、リン酸化、転写制御因子又はアポトーシスの測定によりなされる。これらのパラメータの増加はエフェクター細胞の活性化と相関し、それはすなわち、抗体がエフェクター細胞のFc受容体を活性化させる性能を有することを示す。
【0058】
好適には、CD16を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインの量の測定は、CD16を発現する細胞によって産生されるIL−2の量の測定によってなされる。
【0059】
本発明の他の目的は、上記の方法のうちの1つの実施態様に必要な構成要素を含んでなる、治療用抗体の活性測定用の生物学的試験キットに関し、当該キットは特に以下の構成要素を含んでなる。
(i)前記治療用抗体を凝集させる手段と、
(ii)Fc受容体を発現することができる細胞と、
(iii)前記細胞のFc受容体が前記抗体のFc領域によって活性化されたときの、Fc受容体を発現できる前記細胞における応答を測定するための手段と、
(iv)上記のいずれか1つの方法の実施に必要な他の構成要素。
【0060】
治療用抗体の活性を測定するための生物学的試験キットは、
(i)前記治療用抗体を凝集させる手段と、
(ii)Fc受容体を発現することができる細胞と、
(iii)前記細胞のFc受容体が前記抗体のFc領域によって活性化されたときの、Fc受容体を発現できる前記細胞における応答を測定するための手段と、
(iv)上記のいずれか1つの方法の実施に必要な他の構成要素を含んでなる。
【0061】
本発明の好適な実施形態では、前記キットに含まれる、前記細胞の応答を測定するための手段は、前記細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインを定量化するための手段である。
【0062】
本発明の有利な実施形態では、前記キットに含まれる、少なくとも1つのサイトカインを定量化するための前記手段は、前記サイトカインのmRNAをアッセイするための手段である。
【0063】
本発明の他の一実施形態では、前記キットの前記細胞の応答を測定するための手段は、カルシウム流入、リン酸化、転写制御因子又はアポトーシスを測定するための手段である。
【0064】
本発明の他の態様及び効果を以下の実施例に記載するが、それは例示を目的とするものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0065】
1. 細胞培養
1.1 細胞株
Jurkat細胞、クローンE6−1、(ATCC TIB−152)は、1984年にA.Weiss[非特許文献6]によってATCCに寄託された。クローンE6−1は野生型Jurkat株から得た。これは、Schneiderその他によって、1977年、急性リンパ球性白血病に罹患する14歳の子供の末梢血から分離された[非特許文献7]。T細胞マーカーを発現するこの株は、2つの異なる活性化シグナルにより刺激されると、インターロイキン2(IL−2)を産生することができる。しかしながら、IL−2の分泌レベルは、株及び取扱条件により変化する。ゆえに、それらが膜レベルでFcγRIIIa受容体を発現するように、異なる由来のJurkatクローンをトランスフェクションした。ヒトのFcγRIIIa(γ鎖の膜貫通領域及び細胞内領域と、CD16の細胞外領域が結合)及びネオマイシン選択遺伝子をコードするキメラ発現ベクターによってトランスフェクションし、細胞株を得た。位置158のフェニルアラニンを有するヒトCD16を発現することから、これらの細胞をJCD16Pheと称する。
【0066】
1.2 培養培地及びサブカルチャー用培地
JCD16Phe細胞を、IMDM培養液(Iscoveの修飾ダルベッコ培地)(+4mMのL−グルタミン+25mMのHEPES緩衝液(Gibco、Invitrogen)、γ線照射を受け、非働化したウシ胎児血清(FCS)(Invitrogen社製)10%、及び0.5mg/ml(プロメガ)のネオマイシン類縁体(G418スルフェート)を含有)中で培養した。この株化細胞を、0.2×10細胞/mlの接種で、1週当たり2つのサブカルチャーの割合で維持培養した。
【0067】
2. フローサイトメトリ
それぞれの標識を、EPICS XL血球計測器(ベックマン・クールター社製)で分析した。
【0068】
2.1 JCDl6Phe株化細胞のフェノタイプ解析
この表現型のタイピングは、CD45(白血球細胞のマーカー)、CD19(Bリンパ球の特異性のマーカー)、CD2、CD3、CD4及びCD8(Tリンパ球の特異性のマーカー)、CD58(CD2のリガンド)、更にIL−2受容体の異なる鎖(CD25又はIL−2 Rα、CD122又はIL−2 Rβ、並びにCD132又はIL−2 Rγ)を用いた、各種膜マーカーの解析により行った。ラベリングは、100μlの1×PBS(リン酸緩衝液)中の10個の細胞に対して実施した。処理条件は以下のとおりである:10μlの抗CD2 FITC(2−フルオレセインイソチオシアネート、クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD3 RD1(R−フィコエリトリン、クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CDl9 ECD(R−フィコエリトリン/テキサスレッドタンデムダイ、クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD16 PC5(R−フィコエリトリン/シアニン5タンデムダイ、IOTest、ベックマン・クールター社製)。
【0069】
10μlの抗CD45 FITC(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD3 RD1(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD4 ECD(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD8 PC5(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)。
【0070】
− 10μlの抗CD58 PC5(IOTest、クールタークローン)。
− 5μlの抗CD122 FITC(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlの抗CD132ポリエチレン(フィコエリトリン、BD Pharmigen)+10μlの抗CD25 PC5(IOTest、クールタークローン)。
【0071】
これらの4つのラベリングと並列して、アイソタイプコントロールとして以下のものを調製した:
− 10μlのIgG1−FITC(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−RDl(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG2b−ECD(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−PC5(IOTest、ベックマン・クールター社製)。
− 10μlのIgG1−FITC(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−RDl(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−CD4 ECD(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−PC5(IOTest、ベックマン・クールター社製)。
− 10μlのIgG2a−PC5(IOTest、クールタークローン)。
− 5μlのIgG1−FITC(クールタークローン、ベックマン・クールター社製)+10μlのIgG1−ポリエチレン(BD Pharmigen)+10μlのIgG2a−PC5(IOTest、クールタークローン)。
【0072】
細胞を、室温で、暗所で30分間、各モノクローナル抗体の存在下でインキュベートした。細胞を1×PBSで洗浄した後、1200回転/分で5分間遠心沈降させ、ラベリングをサイトメトリによって直接分析した。
【0073】
2.2 CD16部位の数の決定
細胞表面で発現するFcγRIIIa受容体の数を、QIFIKIT(Dako Cytomation)を用いてアッセイした。この技術の実施においては、細胞表面で全ての抗原性部位を占めるのに必要な抗CD16抗体(クローン3G8、フルオレセインコンジュゲート抗CD16 IgG1(Immunotech社製))の飽和投与量を事前に定量する必要がある。細胞(生理食塩水中、0.25×10/100μl)を、室温で30分間、抗CD16 3G8の添加量を変化させ、インキュベートした。生理食塩水で洗浄した後、1200回転/分で5分間遠心沈降させ、更に細胞を暗所で30分間、の1/20thに希釈したPEラベル付き抗マウスIgG F(ab’)(H+L)(ベックマン・クールター社製)50μlと共にインキュベートした。インキュベート終了後、細胞を洗浄し、FACS(蛍光活性化細胞分取)によって直接分析した。
【0074】
キット(No.K0078)の手順に従い、CD16部位の数を、2.5×10個の細胞を用いて解析した。細胞を室温で30分間、試験対象の500ngの抗体でインキュベートした。洗浄及び遠心沈降(1200回転/分、5分)の後、細胞を、室温で30分間、暗所で、1/50thに希釈したFITC結合抗マウスIgG F(ab’)(Qifikit社製)100μlによりインキュベートした。細胞を更に洗浄し、FACSによって直接分析した。
【0075】
3. Jurkat細胞によるIL−2産生試験
3.1 特異性抗原を担持する赤血球の存在下における試験
3.1.1 試験サンプルの調製
抗D抗体のサンプルは、以下の8ポイントの濃度スケールに従って試験した:3.125ng/ml、6.25ng/ml、9.4ng/ml、12.5ng/ml、18.75ng/ml、25ng/ml、37.5ng/ml及び50ng/ml。各濃度は、IMDM+5%の不働化ウシ胎児血清でサンプルを希釈することにより調整した。
【0076】
3.1.2 標的細胞の調製
標的細胞は、ドナー(好ましくはO)から得たRhesus D赤血球である。それはパパイン(Bio−Rad社製)で事前に処理されている。これをボリューム/ボリュームで球状のペレットに添加し、37℃で10分間インキュベートした。生理食塩水(0.9% NaCl、Ecotainer、B BRAUN)を過剰量添加し、反応を停止させた。細胞を0.9%のNaCl水で3回洗浄し、最初2回の洗浄液を5分、及び最後の洗浄液を10分間、3000回転/分で遠心分離した。赤血球ペレットを更に8×10細胞/ml(0.08%)の濃度でIMDM+5%ウシ胎児血清で希釈し、細胞懸濁液を得た。
【0077】
3.1.3 PMA溶液の調製
40ng/mlの濃度のPMA溶液(10μg/ml、Sigma)を、IMDM+5%のウシ胎児血清で1/250thで希釈して調製した。
【0078】
3.1.4 エフェクター細胞の調製
Jurkat細胞(試験前48〜72時間においてサブカルチャー)をMarassezスライドで計数し、10細胞(1つのマイクロプレートに必要な量)となるようにサンプリングする細胞懸濁液の量を算出した。細胞懸濁液を1200回転/分で10分間遠心分離した。得られた細胞ペレットを更に、2×10細胞/mlの濃度となるように、IMDM+5%ウシ胎児血清中に再懸濁した。懸濁液の濃縮を検査するために再度カウントを実施し、必要に応じて、IMDM+5%ウシ胎児血清を添加して正確に調整した。
【0079】
3.1.5 試験の実施
96穴のU型ウェルを有するプレートの各ウェルに、以下のものを添加した:50μlの試験対象の抗D抗体、50μlの赤血球懸濁液(すなわち50μlあたり4×10赤血球)、50μlの細胞懸濁液(すなわち50μlあたり10細胞)、50μlのPMA(すなわち50μlあたり2ng)。
【0080】
プレートごとに、抗D対照溶液、並びに抗Dポリクローナル抗体(Rhophylac 300 TM、Biotest)に対応するコントロールサンプルを添加した。撹拌しながらウェルをホモジナイズした。プレートを37℃で一晩インキュベートした。翌日、細胞を125gで1分間遠心沈降し、デカントした。上澄を除去し、IL−2濃度をELISA試験で測定した。
【0081】
3.2 抗原標的の非存在下における試験
試験される抗体は、3.1.1において定義した8つの濃度スケールにより試験した。この試験においては、赤血球を、特異的なF(ab’)抗IgG断片(1.3mg/ml、Jackson Immuno Laboratories)で置換した。これも同様に、IMDM+5%ウシ胎児血清を用いて8つの異なる濃度となるように希釈した。抗D抗体及びF(ab’)抗IgG抗体を、1/1.5の比率において試験した。PMA溶液を10ng/mlの濃縮で調製した。Jurkat細胞は、IMDM+5%のウシ胎児血清を用いて、2.1.4において定義した濃度となるように希釈した。
【0082】
96穴のU型ウェルを有するプレートの各ウェルに、以下のものを添加した:50μlの試験対象の抗D抗体、50μlの特異的F(ab’)抗IgG断片、50μlの細胞懸濁液、50μlのPMA(すなわち50μlあたり0.5ng)。
【0083】
撹拌しながらウェルをホモジナイズした。プレートを37℃で一晩インキュベートした。翌日、細胞を125gで1分間遠心沈降し、デカントした。上澄を除去し、IL−2濃度をELISA試験により、又はIL−2をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)のアッセイにより測定した。
【0084】
3.3 ELISA法による細胞上澄中のIL−2量
3.3.1 材料及び方法
分泌されるIL−2の量を、Duoset(登録商標)ヒトIL−2キット(DY202、R&D Systems社製)の操作マニュアル従ってアッセイした。マイクロプレートの各ウェルに捕捉抗体を分散させた。ウシアルブミン溶液で飽和させた後、アッセイされる上澄を、異なる希釈度(IL−2の参照スケールと同様に)でアプライした。次にビオチン化ヒト抗IL−2抗体を添加し、ストレプトアビジンペルオキシダーゼHRPの溶液を更に添加した。基質(テトラメチルベンジジン)の添加後、青色に発色した。硫酸(HSO)で反応を停止させた後、各ウェルの光学濃度を、450nmによるプレートの測定により決定した。各ウェルのIL−2濃度測定は、IL−2スケールの回帰曲線([IL−2]=[抗体]+b[抗体]+c)をBioliseソフトウェアによって決定し、各ウェルのサンプルの希釈比を考慮することにより行った。
【0085】
3.3.2 結果の考察
ELISA試験で測定されたIL−2濃度により、試験される各抗D抗体の活性を測定することが可能となる。その測定方法は以下のとおりである
:参照抗体を用い、測定されるIL−2濃度を抗体濃度範囲の関数としてプロットし、2次曲線を決定した。アプライされるサンプル濃度ごとに、等量の参照抗D濃度を、上記2次曲線を用いて算出した。等量の抗D値の各々を、試験される抗体の希釈度を考慮しながら、標的細胞を有する試験では50ng/ml、又は標的細胞を有さない試験では10μg/mlの理論濃度となるようにした。次に各サンプルの平均値を算出した。サンプルの活性パーセンテージを測定する際、便宜上、参照サンプルの活性を100%の活性とした。それにより、以下の式で簡便に算出することが可能となる:
(再計算されたサンプル濃度の平均)/(再計算された参照サンプル濃度の平均)。
【0086】
すなわち、活性のパーセンテージが未知の抗Dにおいて100未満である場合、この抗体の活性が参照抗体のそれより低いことを意味する。一方、活性のパーセンテージが100超である場合、試験した抗Dが参照よりも大きい活性を有することを意味する。
【0087】
3.4 IL−2をコードするmRNAのアッセイによる、IL−2の測定
この技術は、IL−2をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)のアッセイに基づく。最初に、全RNAを細胞から抽出した。RNAを、逆転写酵素と呼ばれる酵素を使用して相補DNA(cDNA)に変換した。IL−2に対応する遺伝子配列を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって特異的プライマにより検出した。サンプルを各々比較するため、当該アッセイを標準化することが必要である。この試験は、遍在型(ユビキタス)若しくは構成的の遺伝子をコードするmRNAの同時試験により実施し、その発現量は、培養組織及び刺激作用状態に関係なく、全ての細胞において同一であった。これらの試験において選択されたユビキタス遺伝子はb−アクチン(細胞骨格成分の1つ)である。細胞が活性化されると、IL−2 cDNA/b−アクチンcDNA比率が高くなる。IL−2をコードするmRNAは一過性のものである。すなわち、実験条件下で、刺激の後の遺伝子発現が最大となる時間(4〜6時間)を測定した。
【0088】
3.4.1 材料及び方法1)細胞培養以下の条件下で試験を実施した:
− 200μlの10細胞/mlのJURKAT CD16+細胞懸濁液、
− F(ab’)を有する抗Dモノクローナル抗体(mAb)、
− 200μlの10μg/mlの抗DmAb、及び200μlの15μg/mlのF(ab’)(Jackson Immuno−Research社製)特異的抗フラグメント、又は、
− 200μlの5μg/mlの抗DmAb、及び200μlの7.5μg/mlのF(ab’)(Jackson Immuno−Research)特異的抗フラグメント、
− 200μlの40ng/mlのPMA。
【0089】
使用する全ての溶液は、IMDM培養液+5%のウシ胎児血清を用いて調製した。
【0090】
次に細胞を、制御された雰囲気(95%の空気+5%のCO)下で、インキュベーター中で37℃でインキュベートした。
【0091】
2)全RNAの抽出
以下の2つの市販のキットを使用して、全RNAを抽出した。
(QIAGEN):
−QIAshredderキット、
−RNeasy Protectミニキット。
次に、抽出RNAを260nmで分光光度測定した。
【0092】
3)逆転写酵素反応
42℃で1時間インキュベートし、cDNAを得た。
− 1μgの線形RNA(65℃で加熱し、即座に4℃で冷却)、
− オリゴdTプライマー、
− dATP、dCTP、dGTP及びdTTP、
− ジチオトレイトール(DTT)、
− RNAase阻害剤、
− 逆転写酵素。
【0093】
4)PCR反応
PCR反応は、以下の特異的プライマを使用して実施した:
(IL−2用)
IL−2 H1:AAC AGT GCA CCT ACT TCA AG
IL−2 H2:GTT GAG ATG ATG CTT TGA CA
(b−アクチン用)
BACT H1:GGG TCA GAA GGA TTC CTA TG
BACT H2:GGT CTC AAA CAT GAT CTG GG。
【0094】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応法は、Applied Biosystems 7300装置、及びPower Syber Green マスターミックスキット(Applied Biosystems社製)を使用して実施した。2つのプライマーペアに使用したプログラムは、以下のとおりである:
− 95℃で10分間、脱ハイブリッドサイクル 1サイクル、
− 以下を40サイクル:
− 95℃で10秒間、脱ハイブリッド、
− 60℃で15秒間、「アニーリング」(プライマーカップリング)、
− 72℃で60秒間、伸長。
【0095】
PCR終了後、増幅産物を徐々に変性させ、増幅生成物に特異的な解離曲線及びTm(融解温度(℃))を決定した。
【0096】
3.4.2 結果
2つの異なる濃度(5及び10μg/ml)の2つの抗D mAb調製物を比較した。調製物のうちの1つを5℃で、その他を40℃で、3ヵ月間保存した。
【0097】
定量的RT−PCRを行う際、試験細胞の培養開始から4時間においてRNAの抽出を行い、サンプルを調製した。
【0098】
培養上清中のIL−2のELISAアッセイを行う際、培養開始から16時間においてサンプルを調製した。
【0099】
1)ELISA結果
上澄に存在するIL−2濃度を、試験開始後16時間において、試験キット(R&D Systems社製)を使用して定量化した。得られた結果を図6に示す。
【0100】
2)定量的RT−PCR結果
Jurkat CD16+細胞のIL−2遺伝子発現を、試験開始の4時間後において、リアルタイムRT−PCRにより推定した。結果を、b−アクチンユビキタス遺伝子に関して標準化した。結果を図7に示す。
【0101】
3.4.3 考察
刺激されたJurkat CD16+細胞の上澄中のサイトカインIL−2濃度に関する直接的な試験法方法の結果と、定量的RT−PCRによる、その遺伝子発現のアッセイ方法の結果との相関が見られた。
【0102】
ELISA試験に関しては、IL−2遺伝子の発現強度は、試験したmAbの性質及びその濃度に依存した。したがって、この技術は、mAbのFc領域とCD16受容体との間の相互作用の解析に用いることができる。
【0103】
<実施例1>1. 株化細胞の特性評価
1.1 株の遺伝子タイピング
この試験方法の開発の前に、各細胞株の遺伝子タイピングを、Q−PCR(7300を適用した)による対立遺伝子の識別により実施した。遺伝子タイピングはRT−PCRにより試験した。
【0104】
【表1】

【0105】
Q−PCR(DNA)及びRT−PCR(RNA)による細胞株の遺伝子型の解析
Jurkat CD16lineは、その細胞表面の膜上にFcγRIII受容体を発現しない。Pheと称するJurkat CD16細胞株はT(Phe)遺伝子型を示す。
【0106】
1.2 細胞株のフェノタイピング
F ACS標識による膜マーカーの解析を行い、以下の結果を得た。
【表2】

【0107】
トランスフェクトしたJurkat細胞株における、2つの膜マーカーを用いたサイトメトリ解析
細胞株は以下の表現型:CD45、CD2、CD3、CD4CD16、CD58及びCD132を有する。
【0108】
1.3 CD16部位の数の決定
この実験の目的は、サイトメトリ分析される間接的なマーキングにより、CD16抗原部位の数を定量化することである。当該技術は、所定量(10〜10の抗体結合能力(又はABC))のモノクローナル抗体(マウス抗ヒトCD5)をコーティングされた10μm直径のビーズの5つの集合体の使用に基づく。これらの異なる集合体の使用により、抗体結合能力(ABC)に対する平均蛍光強度(MFI)に該当するキャリブレーション曲線の作成が可能となる。細胞を、標識二次抗体で示される目的の一次抗体(抗CD16)で飽和させ、飽和条件下に置いた。これらの状態を維持し、細胞表面に存在する抗原部位の数に対応する結合した一次抗体の数を測定した。その結果、蛍光強度は、細胞と結合した一次抗体の数と相関していた。細胞のABCを、キャリブレーション曲線により測定した。
【0109】
下表は、試験した細胞株のCD16部位の数の測定結果(幾つかのサブカルチャーに関して実施した試験)を要約したものである。
【0110】
【表3】

【0111】
ライブラリから得られるバイアルを解凍した後、各細胞株を、CD16発現が維持されていることを確かめるために、選択培地中で、幾つかのサブカルチャーに関してモニターした。
【0112】
すなわち、若干の時間経過後、CD16の発現は維持され、サブカルチャー間では、同一の培養条件下ではほとんど変化が見られなかった点に留意すべきである。更に、選抜条件及びその結果から、高い発現能力を有するクローンの選抜が可能であることが示唆された。更に、端部の集合(下の10%及び上の10%集団)の部位数測定の結果、この技術を用いることにより、細胞表面におけるCD16発現が外来遺伝子によるものであることが正確に分析された。
【0113】
<実施例2>:CD16活性化試験
1. 特異性試験
特異性試験を、以下の通りに実施した:幾つかのコントロールを、Jurkat細胞によるIL−2分泌試験に供し、細胞活性化メカニズムを確認した。15pg/mlの検出限界は、試験キットのIL−2参照スケールの最低ポイントとして定義されている。この閾値下では、細胞によるIL−2の分泌は検出不可能と考えられる。下表は、IL−2レベルのn回の実験における平均、及びIL−2産生試験に供される各コントロールにおける標準偏差を示す(<LT:15pg/mlの検出限界以下)。
【0114】
【表4】

【0115】
細胞のみの培養上清を用いた試験により、検出不可能なそれらの基本分泌レベルの測定が可能となる。このコントロールの使用により、いかなる刺激が存在しない場合でも、細胞からのIL−2分泌がなされないことが確認できる。更に、これらのコントロールの使用により、2つの刺激(PMA及び抗−D/F(ab’)複合体)が細胞の活性化に必要であることが確認できる。実際、2つの刺激のうちの1つが存在しない(コントロールPMA+F(ab’)又はF(ab’)+抗D)とき、IL−2の分泌は極小であるか、ゼロである。同様に、CD16の活性化は抗体の凝集が必要であるが、それは、F(ab’)の非存在の場合、IL−2の分泌が若干見られるものの、PMA及びアンチ−D/F(ab’)凝集体の存在下での分泌よりもはるかに少ないからである。更に、各実験において、最大の活性化レベルを、PMA及びイオノマイシンを用いて測定した。ゆえにこれらの結果は、IL−2分泌を生じさせるためには、JCD16細胞を二重に刺激する必要があることを示すものである。
【0116】
2. 投与量効果及び抗体濃度範囲の定量
残りの実験において抗Dの最適濃度範囲を解析するため、用量反応試験(以下の2本の曲線により示される)を実施した。この目的のため、1〜100μg/mlの濃度範囲のR297抗体(バッチC029−025)を反応培地中で試験した。実験は、5回の反復試験により実施した(図2を参照)。
【0117】
低い抗D濃度の場合、刺激後24時間における上澄中のIL−2濃度曲線は、試験に供した抗Dの濃度に比例していた。高い抗D濃度では、曲線はプラトーに至った。
【0118】
3. 活性化の動態、及びインキュベーション時間の決定
最適インキュベート時間を決定するため、2つの株化細胞におけるIL−2分泌の動態を解析した。この目的のため、細胞を、所定の抗D濃度範囲(0.625〜10μg/ml、バッチC029−025)において、8、24、32、48、56又は72時間刺激した。上澄中のIL−2濃度を、抗D濃度、及びインキュベート時間ごとにアッセイし、図3の直線を得た。
【0119】
この試験結果から、刺激後8時間では、細胞がごくわずかなIL−2しか分泌しないことが示された。またIL−2レベルは24時間後において最大値に至った。刺激後24時間で、曲線は更に上昇する傾向さえ示した。試験時間を制限するため、インキュベートの最適時間を24時間と設定した。
【0120】
4. 試験における細胞濃度の効果
生物学的試験において、細胞濃度を標準化することは比較的困難である。この研究の目的は、所定のサンプルの活性(%)が細胞濃縮に依存するか否かを確認することである。このため、3つの独立の試験を、抗Dモノクローナル抗体のサンプル(バッチR297 No.05−081、T)を、5つの異なる細胞濃度(C=10細胞/ウェル、C2=2.5×10細胞/ウェル、C3=5×10細胞/ウェル、C4=7.5×10細胞/ウェル及びC5=10細胞/ウェル)で試験した。活性(%)は、参照抗D(バッチC029−025)との比較により測定し、参照サンプルにおける活性を便宜上100%活性とした。3つの実験における、各濃度において得られた結果を以下の表に示す。
【0121】
【表5】

【0122】
【表6】

【0123】
5つの細胞濃度条件における3つの独立の試験において、Jurkat CD16Phe細胞における、サンプルR297 No.05−081の活性(%)を試験した。この試験では、変動係数(CV)の解析により、試験した細胞の濃度に関係なく、3つの試験において、サンプルNo.05−081による同等の活性が得られたことを示す。
【0124】
5. 試験の再現性
試験において細胞を用いる場合、株化細胞の場合でさえも、生物学的変動性の問題が存在する。すなわち、試験を標準化する目的においては、試験の再現性を担保する必要がある。抗体の活性に対する精製方法の影響を試験する場合、更に、安定性試験が治療用製剤を用いて何度も実施される場合には、この点は更に重要である。
【0125】
サンプル(バッチC029−025)の活性に関して、複数回にわたり試験した。その活性(%)は同じサンプルに対応する参照との比較において算出し、その活性は、便宜上参照の場合を100%とした。
【0126】
【表7】

【0127】
【表8】

【0128】
再現性試験:n回の試験における、サンプル(バッチC029−025)の活性(%)の測定
生物学的試験の場合、15〜20%の最大変動係数であれば、試験が有効であるとされる。ゆえに本発明の試験の場合、得られたCV(JCD16Phe細胞の場合で5%)は承認できるレベル以下である。ゆえにこの試験のルーチン使用は、サンプルの安定性をモニターする以外にも、その精製工程の間のサンプル活性レベルを確認することも可能となる。
【0129】
<実施例3>:CD16と比較した、抗体の細胞障害性の評価
過去の研究において、免疫グロブリンの重鎖のレベルに存在する、オリゴ糖中のフコシル化レベルが、抗体のエフェクタ特性に影響を与えることが証明されている。実際、低いフコースレベルは、CD16に結合する抗体の性能を向上させる[26]。更にこの機構は、CD16の多型現象からは全く独立している[27]。本発明において、発明者らは、抗体の機能活性に対するフコースレベルの影響に関して検討を行った。LFBは、グリカン鎖に存在するそれらのフコースレベルによって特徴付けられる様々なモノクローナル抗体製剤を含有する。100%フコシル化された抗体は免疫グロブリンに対応し、その2つのグリカン鎖は、重鎖の位置297において完全にフコシル化されている。様々なフコースレベル(以下)を有する異なるサンプルを、標的細胞の存在下での試験、並びに標的細胞の非存在下での試験に供した:
− 抗HIV Gp120(100%のフコース)、
− AD1(抗D)(100%のフコース)、
− T125 CHO(CHO細胞で産生される抗D)(81%のフコース)、
− R270(抗D)(64%のフコース)、
− R297(40%のフコース)、
− C029−025(33%のフコース)、
− R297(25%のフコース)。
【0130】
図4A及び4Bは、標的細胞の存在下での試験(4A)、及び標的細胞の非存在下であるがF(ab’)を使用して凝集した抗体製剤を含有する試験により得られた結果を表す。サンプルの活性測定に使用する試験に関わりなく、フコースレベルが増加すると、CD16と比較した抗体の機能活性の減少が顕著となった。100%のフコースレベルを有する抗体(AD1など)は、この受容体と比較し、活性が全く見られなかった。この試験により、フコースレベルが、CD16の抗体との結合に影響することが示された。重鎖の位置297のアスパラギンのオリゴ糖レベルにおいて完全にフコシル化された免疫グロブリンは、CD16と抗体とのいかなる相互作用も防止し、それによりその活性化をもたらさない。
【0131】
<実施例4>:モノクローナル抗体の安定性のモニタリング試験
この試験の他の応用は、変性条件下に配置した治療用製剤の安定性の迅速なモニタリングである(図5参照)。このモニタリングは、毎月、数カ月にわたってサンプルの活性を測定することによって行われる。この試験を、40℃に配置したサンプルNo.05−081に関して実施した。その活性は、標的細胞を有する試験、及び標的細胞のない試験(ジェネリック試験と呼ばれる)において、異なる期間(T0、T+1月及びT+2月)において試験した。参照抗体(標的細胞を有する試験では試験バッチR297、及びジェネリック試験では試験バッチC029−025)による測定結果を100%活性とした。
【0132】
この試験により、高温に曝露されたサンプルの活性損失を検出することが可能となる。この損失は、サンプルの加温暴露時間に比例していた。この試験ではまた、同様の結果が両方の試験において得られたことを示す。したがって、これらの2つの試験は、治療用製剤の時間経過に伴う安定性のモニタリングに使用できる。
【0133】
<実施例5>:熱、又は、(Fab)IgG断片と反応するF(ab)’断片により凝集する抗体による、IL−2の特異的産生の比較
熱(63℃で20分)、又は(Fab)IgG断片と結合するF(ab)’断片によって凝集させた抗−Dモノクローナル抗体製剤を用いた、CD16を発現するように遺伝子組み換えされたJurkat細胞株によるIL−2産生に対する用量効果を試験した。
【0134】
塊状のモノクローナル抗体を、上澄にIL−2を添加する前に、37℃で16時間、Jurkat CD16細胞とインキュベートした。結果を以下の表1に示す。
【0135】
【表9】

表1
【0136】
モノクローナル抗体の凝集に使用する方法に関係なく、表1は、細胞により上澄中に分泌されたIL−2の量と、試験系に存在する凝集モノクローナル抗体の濃度との間に、添加量/効果の関係が存在することを示す。
【0137】
しかしながら、熱により凝集したモノクローナル抗体により分泌されたIL−2の量は、IgG 抗−F(ab)’抗体により凝集されたものよりも低かった。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】(A)5つのビーズ集団の平均蛍光強度の測定により定義される校正曲線。(B)抗CD16標識のFACS解析によって得られた、JCD16Val集団のCD16発現プロファイル。
【図2】塊状の抗D抗体(バッチC029−025)の用量応答曲線。曲線はJCD16+Phe細胞に特異的である。赤い垂直線は、試験で使用した残りの濃度範囲(0.625〜10μg/ml)を示す。
【図3】JCD16Phe細胞における、IL−2分泌動態を示す図。
【図4A】抗体活性の、フコース濃度による影響を示す。標的細胞の存在下における、抗Gp120抗体VIH(100%のフコース)、AD1(100%のフコース)、T125 CHO(81%のフコース)、R270(64%のフコース)、R297(40%のフコース)及びR297(25%のフコース)の活性試験。
【図4B】標的細胞の非存在下における、抗Gp120抗体VIH(100%のフコース)、AD1(100%のフコース)、T125 CHO(81%のフコース)、R270(64%のフコース)、R297(40%のフコース)及びR297(25%のフコース)の活性試験。
【図5】40℃における、バッチ05−081の活性の、毎月の測定によるその安定性のモニタリング結果。
【図6】10及び5μg/mlのCD16を活性化させる能力に対する、抗Dモノクローナル抗体活性の温度による影響を示す(ELISAにより測定)。
【図7】10及び5μg/mlのCD16を活性化させる能力に対する、抗Dモノクローナル抗体活性の温度による影響を示す(定量的RT−PCRにより測定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体製剤の、Fc受容体を活性化させる性能を測定する方法であって、
a)前記抗体を相互に凝集させるステップと、
b)Fc受容体を発現する細胞を前記凝集抗体と接触させるステップと、
c)前記抗体のFc領域による、前記細胞のFc受容体の活性化に起因する前記細胞の応答を測定するステップを含んでなる方法。
【請求項2】
前記凝集が、抗IgG F(ab’)フラグメントを用いて実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗IgG F(ab’)フラグメントが、試験される抗体製剤を認識する抗Fab又は抗F(ab’)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記凝集が、熱による凝集である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記凝集が、前記Fab領域相互間、又は重鎖及び軽鎖相互間における架橋により実施される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記Fc受容体が、CD16(FcγRIIIa及びFcγRIIIb)、CD32(FcγRIIa及びFcγRIIb)、及びCD64(FcγRI)から選択される、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記Fc受容体を発現する前記細胞が、前記受容体をコードする遺伝子を導入された細胞である、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記Fc受容体を発現する前記細胞が、CD16を発現するJurkat細胞であり、この細胞株が、これらの細胞の非特異的活性化剤(例えばPMA(ホルボール12−ミリステート 13−アセテート))の存在下で培養される、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記抗体のFc領域による前記細胞のFc受容体の活性化に起因する細胞の応答の測定が、前記Fc受容体を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカイン量の測定により実施される、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのサイトカインの測定が、前記サイトカインのmRNAのアッセイにより実施される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、MCP−1、TNFアルファ(TNFα)及びIFNガンマ(IFNγ)から選択される少なくとも1つのサイトカインが測定される、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
インターロイキンIL−2が測定される、請求項9から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
分泌されるインターロイキンIL−2のレベルが、ADCC−タイプの活性と相関する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記細胞応答の測定が、カルシウム流入、リン酸エステル化、転写制御因子又はアポトーシスの測定である、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
細胞の、CD16受容体と相互作用できるモノクローナル抗体を産生する能力を評価するための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記抗体産生細胞が、CHO、YB2/0、SP2/0、SP2/0−AG14、IR983F、Namalwaヒトの骨髄腫、PERC6細胞、CHO細胞(特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−)、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14及びP3X63Ag8.653から選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
1つ以上の精製工程後における、抗体のFc領域の有効性及び完全性を評価するための、又は、変性条件下における治療用製剤の安定性をモニターするための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
抗体のFc領域の機能を測定するための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
遺伝子導入植物又は遺伝子導入哺乳類によるモノクローナル抗体の産生能を評価するための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
効果的な治療用抗体を選抜するための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
フコース含量が65%未満、好ましくは40%未満である抗体組成物を選抜するための、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
CD16(FcγRIII)受容体を活性化できるモノクローナル抗体組成物の調製方法であって、
a)ハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマ、又は1つ以上の前記抗体の発現用のベクトルを使用して遺伝子導入した動物、植物若しくはヒト由来の株化細胞から抗体を得るステップと、
b)F(ab’)抗IgG断片によってステップa)において得られた抗体を凝集させるステップと、
c)ステップb)において得られた抗体を、
a.CD16を発現する細胞を有するエフェクター細胞と、
b.ホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(PMA)を含有する反応混合液に添加するステップと、
d)CD16を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインの量を測定するステップと、
e)抗体が存在しない場合、又はネガティブコントロールとしての所定の抗体が存在する場合と比較し、0.5、1、2、5、10、100又は500倍超のサイトカイン産生量が測定される抗体組成物を選抜するステップを含んでなる方法。
【請求項23】
CD16を発現する細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカイン量の測定が、CD16を発現する細胞によって産生されるIL−2量の測定である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
治療用抗体の活性測定用の生物学的試験キットであって、
(i)前記治療用抗体を凝集させる手段と、
(ii)Fc受容体を発現することができる細胞と、
(iii)前記細胞のFc受容体が前記抗体のFc領域によって活性化されたときの、Fc受容体を発現できる前記細胞における応答を測定するための手段と、
(iv)上記のいずれか1つの方法の実施に必要な他の構成要素を含んでなるキット。
【請求項25】
請求項24記載の治療用抗体の活性測定用の生物学的試験キットであって、前記細胞の応答を測定するための手段が、前記細胞によって産生される少なくとも1つのサイトカインを定量化するための手段である、前記キット。
【請求項26】
請求項25記載の治療用抗体の活性測定用の生物学的試験キットであって、前記少なくとも1つのサイトカインを定量化するための手段が、前記サイトカインのmRNAをアッセイする手段である、前記キット。
【請求項27】
請求項24記載の治療用抗体の活性測定用の生物学的試験キットであって、前記細胞の応答を測定するための手段が、カルシウム流入、リン酸化、転写制御因子又はアポトーシスを測定するための手段である、前記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−519455(P2009−519455A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545044(P2008−545044)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002744
【国際公開番号】WO2007/080274
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508177460)エルエフビー バイオテクノロジーズ (3)
【Fターム(参考)】