説明

抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシン及びその製造法並びに抗腫瘍剤及び抗真菌剤

【課題】癌細胞の分化を誘導する及び/又はPP2Aを阻害する新規ホスラクトマイシン類の提供。
【解決手段】ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンB及びその製造法並びに該抗生物質を有効成分として含む抗腫瘍剤及び抗真菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスラクトマイシン誘導体は、従来よりプロテインホスファターゼ2A(PP2A)の阻害剤として知られており(例えば、非特許文献1)、特異性の高い研究試薬として使用されている。ホスラクトマイシン誘導体のうち、ホスラクトマイシンBを効率的に生産するための方法が開発されている(例えば、非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】Journal of Biochemistry, Vol. 125, No. 5, pp. 960-965, 1999
【非特許文献2】The Journal of Biological Chemistry, Vol. 278, NO. 37, pp. 35552-35557, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ホスラクトマイシン誘導体は動物実験の段階で副作用が大きく、臨床応用するのには問題があった。そこで、かかる欠点が少なく、癌細胞の分化を誘導する、あるいはPP2Aを阻害する新規ホスラクトマイシン類の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決する物質として、本発明者らは、抗生物質ホスラクトマイシンの類縁化合物である新規抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBを見出し、さらにヒドロキシホスラクトマイシンBが、ヒト白血病細胞HL-60細胞に顕著な分化誘導活性を有し、さらにPP2Aに対して阻害活性を有していることを見出した。
【0006】
本発明は、上記知見に基づき、完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0007】
(1) 下記式(1)で表されるヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩。
【0008】
【化1】

【0009】
(2) ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する、ヒドロキシホスラクトマイシンB生産菌を培養し、その培養物からヒドロキシホスラクトマイシンBを分離採取することを
特徴とするヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法。
(3) ヒドロキシホスラクトマイシンB生産菌が、ストレプトミセスHK-803株(Streptomyces sp. HK-803)である(2)記載の製造方法。
(4) 下記式(A)で表される化合物:
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1〜R3は各々独立に水酸基の保護基を示し;R4は水素を示す。)
において、
4に保護基を有するリン酸基を導入する工程と、
保護基R1〜R3を脱保護する工程と、
リン酸基の保護基を脱保護する工程とを含む、ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法。
(5) 下記式(A)で表される化合物。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1〜R3は各々独立に水酸基の保護基を示し;R4は水素を示す。)
(6) ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
(7) ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする分化誘導剤。
(8) ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
(9) 下記式(B)で表される化合物:
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)
において、
不斉求核付加反応によりビニル基を付加する工程を含む、下記式(C)で表される化合物:
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)
の製造方法。
(10) 下記式(B)で表される化合物。
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、抗真菌活性、PP2A阻害活性及び分化誘導活性を有するため、抗真菌剤、PP2A阻害剤及び分化誘導剤として利用することができる。さらに、本発明のヒドロキシホスラクトマイシンBは、抗腫瘍剤として利用することができる。
また、本発明のヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法によれば、ヒドロキシホスラクトマイシンBを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(1)抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンB
抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、本発明者により福島県地蔵原で採取された土壌中より発見された土壌放線菌ストレプトミセスHK-803株(Streptomyces sp. HK-803)を培養して得られた培養物から単離されたものである。
【0022】
抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、下記の構造式及び理化学的性質を有する。
【0023】
【化7】

【0024】
性状:白色個体
分子式:C23H39O9P
比旋光度:[α]22D = +75 (c 0.075, MeOH)
1H NMR データ(500 MHz, CD3OD):δ 0.94 (t, J = 7.5 Hz, 3 H), 1.02−1.98 (m), 2.08−2.22 (m, 1 H), 2.40−2.62 (m, 2 H), 3.60−3.83 (m, 2 H), 4.25 (t, J = 11 Hz, 1 H), 5.01 (dd, J = 6, 4 Hz, 1 H), 5.31 (t, J = 9 Hz, 1 H), 5.41 (t, J = 9 Hz, 1
H), 5.80−6.07 (m, 3 H), 6.24 (d, J = 10 Hz, 2 H), 7.08 (dd, J = 10, 5 Hz, 1 H)13C NMR データ(75 MHz, CD3OD):δ 11.3 (-), 22.7 (+), 26.9 (+), 27.1 (+), 34.3 (+), 37.6 (-), 38.6 (+), 40.4 (+), 40.6 (-), 59.8 (+), 64.5 (-), 78.3 (+), 78.8 (-), 82.4 (-), 121.0 (-), 123.0 (-), 124.4 (-), 126.4 (-), 134.5 (-), 138.1 (-), 140.0 (-), 152.8 (-), 166.6 (+)
【0025】
抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、後述の実施例に示すようにPP2A阻害活性及び分化誘導活性を有しているため、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩等は、PP2A阻害剤及び分化誘導剤、及びPP2A阻害剤及び分化誘導剤を含む医薬組成物、具体的には抗腫瘍剤等として有用である。したがって、本発明により、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩のいずれか又はそれらの組み合わせを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
【0026】
また、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、後述の実施例に示すようにPP2A阻害活性及び分化誘導活性を有している。したがって、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩等は、PP2A阻害剤及び分化誘導剤、及びPP2A阻害剤及び分化誘導剤を含む医薬組成物等、具体的には抗腫瘍剤等として有用である。したがって、本発明により、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩のいずれか又はそれらの組み合わせからなるPP2A阻害剤又は分化誘導剤、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩のいずれか又はそれらの組み合わせを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
【0027】
さらに、ヒドロキシホスラクトマイシンBの治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する行程を含む方法、ヒドロキシホスラクトマイシンBの有効量を細胞に接触させる行程を含む方法が本発明により提供される。
【0028】
製薬上許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;又はp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩;メチルアンモニウム塩等の有機アンモニウム塩;グリシン塩等のアミノ酸塩を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0029】
本明細書中、「抗腫瘍剤」とは、殺腫瘍、腫瘍細胞増殖抑制、腫瘍転移防止、腫瘍再発防止又は腫瘍発生予防等の目的で使用されるものをいう。
【0030】
また、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、後述の実施例に示すように抗真菌活性を有しているため、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩等は、抗真菌剤、及び抗真菌剤を含む医薬組成物等として有用である。したがって、本発明により、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩のいずれか又はそれらの組み合わせからなる抗真菌剤、ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩のいずれか又はそれらの組み合わせを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
【0031】
製薬上許容される塩としては、上記と同様のものを使用することができる。
【0032】
さらに、ヒドロキシホスラクトマイシンBの治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する行程を含む方法、ヒドロキシホスラクトマイシンBの有効量を細胞に接触させる行程を含む方法が本発明により提供される。
【0033】
本明細書中、「抗真菌剤」とは、殺菌、菌増殖抑制等の目的で使用されるものをいう。
【0034】
ヒドロキシホスラクトマイシンBを有効成分とする医薬組成物は、その使用目的にあわせて投与方法、剤型、投与量を適宜決定することが可能である。例えば、ヒドロキシホスラクトマイシンBを有効成分とする医薬の投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。剤型としては、例えば錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤もしくは皮膚外用剤等の非経口投与剤を挙げることができる。これらの製剤は、賦形剤、結合剤等の製薬上許容される添加剤を用いて既知の方法で製造することができる。ヒドロキシホスラクトマイシンBを有効成分として含む医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、感受性、症状の程度等により異なるが、抗腫瘍剤用途では、通常効果的な量は、有効成分量として成人1日あたり経口投与では、0.1mg〜100mg /kg、好ましくは2mg〜20mg/kg程度であり、非経口投与では、0.1mg〜100mg /kg,
好ましくは、2mg〜20mg/kg mg/kg程度である。抗真菌剤用途では、通常効果的な量は、有効成分量として成人1日あたり経口投与では、0.1mg〜100mg /kg、好ましくは2mg〜20mg/kg程度であり、非経口投与では、0.1mg〜100mg /kg, 好ましくは、2mg〜20mg/kg程度である。上記の投与量を1日1回又は数回にわけて投与することも可能である。また、必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0035】
また、本発明の化合物を研究試薬として使用する場合には、有機溶剤又は含水有機溶剤に溶解して用いることができ、使用可能な有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、水、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。剤型としては、例えば、粉末等の固形剤、又は有機溶剤若しくは含水有機溶剤に溶解した液体剤等を挙げることができる。通常、ヒドロキシホスラクトマイシンBを研究試薬として用いて抗腫瘍活性を発揮させるための効果的な使用量は、培養細胞系中において0.1〜1μg/mlであるが、適切な使用量は培養細胞系の種類や使用目的により異なり、適宜選択可能である。また、必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0036】
(2)抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法
(a)抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの生合成
上記したとおり、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、ストレプトミセスHK-803株(Streptomyces sp. HK-803)を培養して得られた培養物から単離された。該ストレプトミセスHK-803株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年6月13日付で寄託され、その受託番号はFERM P-20933である。
【0037】
ストレプトミセスHK-803株の菌学的性質は以下のとおりである。
1.形態
無機塩・でんぷん寒天培地、イースト・マルトエキス寒天培地上の生育について顕微鏡、及び電子顕微鏡により形態観察を行った。HK-803株は、ストレプトミセス属に属する形態を示した。その形態的特徴は次のとおりである。
(1)基生菌糸:寒天上によく生育し分岐している。
(2)気菌糸:グルコース・アスパラギン寒天培地、グリセリン・アスパラギン寒天培地以外の培地上によく着生し、胞子柄の長さは短く、屈曲し、緻密なラセン糸を多数形成し、20から50の胞子連鎖を形成する。電子顕微鏡による観察によると、胞子表面は平滑であり、楕円形又は長円形であり、その大きさは0.7〜0.9 X 1.0〜1.2μmである。
【0038】
2.各種培地上での培養性状
シーリングとゴットリープ(1996年)の方法(ISP法)を用いて、菌体の培養性状を調べた。色調の記載において、( )内の記号は、ディスクリプティブ・カラー・ネームズ・ディクショナリー(Descriptive Color Names Dictionary)第4版の色名記号に従ったものである。
(1)スクロース・硝酸寒天培地
生育:普通
基生菌糸色調:薄い小麦色(2ea)〜にぶい黄色(2ic)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:クリーム色(2ba)
可溶性色素:なし
(2)グルコース・アスパラギン寒天培地
生育:不良
基生菌糸色調:明るいレモン色(3ea)
気菌糸:着生しない
可溶性色素:なし
(3)グリセリン・アスパラギン寒天培地
生育:普通
基生菌糸色調:明るい黄色(1 1/2la)
気菌糸:やや不良
可溶性色素:薄い黄色
【0039】
(4)無機塩・でんぷん寒天培地
生育:良好
基生菌糸色調:明るい小麦色(2ea)〜にぶい黄色(2ic)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:灰色(5fe)
可溶性色素:なし
(5)チロシン寒天培地
生育:良好
基生菌糸色調:にぶい橙色(4lc)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:白色
可溶性色素:なし
(6)栄養寒天培地
生育:普通
基生菌糸色調:明るい小麦色(2ea)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:白色
可溶性色素:なし
【0040】
(7)イーストエキストラクト・マルトエキストラクト寒天培地
生育:普通
基生菌糸色調:明るい黄色(3ia)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:灰色(5ih)〜灰茶色(4ig)
可溶性色素:黄色
(8)オートミール寒天培地
生育:きわめて良好
基生菌糸色調:明るい小麦色(2ea)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:白色〜灰色(2fe)
可溶性色素:なし
(9)ペプトン・イーストエキストラクト・鉄寒天培地
生育:貧弱
基生菌糸色調:明るい小麦色(2ea)
気菌糸:豊富
気菌糸色調:白色
可溶性色素:なし
【0041】
3.生理的性質
(1)生育温度:23℃〜37℃
(2)でんぷん分解力:あり
(3)脱脂粉乳の凝固性:陰性
(4)脱脂粉乳のペプトン化:陽性
(5)メラニン様色素の生成:なし
(6)硝酸塩還元:陽性
(7)ゼラチン液化力:陰性
【0042】
4.炭素源の利用性
下記の糖又は炭水化物を唯一の炭素源とするプリドハムゴッドリーブ培地上にストレプトミセスHK-803株を接種し、27℃で20日間培養し、生育の有無をもって炭素源を利用性とした。++は極めて生育良好で、+は生育良好で炭素源の利用性あり、−は生育不能で炭素源の利用性無を示す。
L-アラビノース ±
D-キシロース ±
D-グルコース ++
D-フラクトース ++
スクロース ++
L-イノシトール ++
L-ラムノース ++
ラフィノース ++
D-マンニトール +
無添加 −
【0043】
以上の菌学的性質からHK-803株をストレプトミセス属に属する菌であると同定した。抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBは、上記菌株を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造される。抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの生産菌としては上記菌株に限らず、ストレプトミセス属に属し、該抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBを生産する能力を有するものであれば、すべてこの生産に使用できる。上記微
生物の培養方法は、原則的には一般微生物の培養法に準ずるが、通常は液体培養による振盪培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行なうのが好適である。培養に用いられる培地としては、ストレプトミセス属に属する微生物が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地天然培地等いずれも用いることができる。培地組成としては炭素源としてのグルコース、シュークロース、フルクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、コーン・スティーブ・リカー、有機酸等を単独又は組み合せて用い得る。窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、尿素等の有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を単独又は組み合せて用い得る。
【0044】
ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、その他の重金属塩等も必要に応じて添加使用され得る。なお、培養中発泡の著しいときは、アデカノール(登録商標)、シリコーンオイル等の公知の各種消泡剤を適宜培地中に添加することもできるが、その添加は目的物質の生産に悪影響を与えないものとする必要がある。例えば0.5%以下で使用することが好ましい。培地のpHは使用する微生物の至適pH範囲、通常中性付近とするのが望ましい。培地温度は、微生物が良好に生育する温度、通常20〜40℃、とくに好ましくは27℃付近に保つのがよい。培養時間は液体培養の場合、一般に1〜5日間程度、好ましくは約72時間である。上記培養によって目的とする抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBが生成蓄積される。もちろん上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、またそれぞれに応じて上記範囲から最適条件を選択、調節される。
【0045】
上記培養により生産される抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの単離は、該抗生物質の蓄積が最大になる時に、発酵生産物を採取する一般的方法に準じて、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBと不純物との溶解度差を利用する手段、吸着親和力の差を利用する手段、分子量の差を利用する手段のいずれによっても実施でき、それぞれの方法は単独、又は適宜組合せて、あるいは反復して使用される。具体的には、培養濾液と菌体に存在するので、その培養濾液又は菌体のアセトン抽出物を遠心液々分配クロマトグラフィー、各種のゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー等を組み合わせて精製すると、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの精製白色粉末を得ることができる。本発明の抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造法の一例を実施例として後に示すが、本発明の抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造法はこの実施例に限定されない。
【0046】
(b)抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの化学合成
ヒドロキシホスラクトマイシンBは、本発明の方法にかかる化学合成によっても製造することができる。以下、本発明のヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法における各工程について説明する。
【0047】
(第1の製造方法)
本発明のヒドロキシホスラクトマイシンBの第1の製造方法における出発原料となる下記式(A)で表される化合物[以下、単に化合物(A)ということがある]は、新規化合物であり、ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造中間体として有用である。化合物(A)は、本明細書においてその構造及び合成手法が明らかにされたので、実施例として示された具体的な合成手法及び通常の有機合成手法を用いた、当業者に理解されるその変法により得ることができる。化合物(A)は、流通時の安定性等のために、適宜、適当な塩の形態、保護基を付与された形態に変換することができ、それらの形態も本発明の範囲に含まれる。
【0048】
【化8】

【0049】
式中、R1〜R3は各々独立に水酸基の保護基を示し;R4は水素を示す。
【0050】
1〜R3が示す保護基としては、同一又は異なる保護基であってよい。R1〜R3としては、例えば、TMS(トリメチルシリル基)、TES(トリエチルシリル基)、TBS(t-ブチルジメチルシリル基)、TBDPS(t-ブチルジフェニルシリル基)等を用いることができる。
【0051】
なお、流通時の安定性や合成の前段階との関係において、R4に保護基を導入する場合、高立体制御性及び合成の高効率性等の観点からは、PMB基(4-メトキシフェニルメチル基)を用いることが好ましい。すなわち、C8位立体中心の構築における高選択性が得られるうえ、リン酸基が容易に導入されるからである。保護基の導入及び脱保護は、通常の有機合成手法で用いられる手法に基づいて行うことができる。
【0052】
化合物(A)のうち、R1及びR3がTES基、R2がTMS基、R4が水素である下記の構造式で示される化合物の理化学的性質は以下のとおりである。
【0053】
【化9】

【0054】
比旋光度:[α]28D +44 (c 0.063, CHCl3)
紫外線吸収スペクトル:IR (neat) 3474, 1733, 1251, 1082 cm-1
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.13 (s, 9 H), 0.57 (q, J = 8 Hz, 6 H), 0.61 (q, J = 8 Hz, 6 H), 0.80−1.80 (m, 36 H), 1.86−2.06 (m, 2 H), 2.33−2.50 (m, 2 H), 3.60−3.85 (m, 3 H), 4.88 (t, J = 9 Hz, 1 H), 4.99 (dd, J = 6, 5 Hz, 1 H), 5.38 (t, J = 10 Hz, 1 H), 5.45 (t, J = 10 Hz, 1 H), 5.76 (dd, J = 16, 6 Hz, 1 H), 5.99 (d, J = 16 Hz, 1 H), 6.04 (d, J = 10 Hz, 1 H), 6.08 (t, J = 12 Hz, 1 H), 6.18 (t, J = 12 Hz, 1 H), 6.91 (dd, J = 10, 5 Hz, 1 H)
13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 2.6 (-), 4.3 (+), 4.9 (+), 6.8 (-), 6.9 (-), 11.1 (-), 21.6 (+), 25.9 (+), 26.0 (+), 33.16 (+), 33.20 (+), 36.4 (-), 39.6 (+), 39.7 (-), 40.9 (+), 58.8 (+), 66.3 (-), 72.7 (-), 79.7 (+), 80.8 (-), 120.9 (-), 121.3
(-), 122.5 (-), 124.4 (-), 134.7 (-), 137.3 (-), 139.5 (-), 149.8 (-), 164.1 (+)
【0055】
工程(1)
化合物(A)のR4に保護基を有するリン酸基を導入する。リン酸基の保護基としては、アリル基、2-シアノエチル基等を用いることができる。保護基を有するリン酸基の導入は通常の有機合成手法で用いられる条件で行うことができる。例えば、アリル基を保護基として有するリン酸基を導入する場合は、ジアリルジイソプロピルホスホルイミデートと1H-テトラゾールを加え、0〜30℃で、0.5〜2時間反応させることにより、保護基を有するリン酸基を導入することができる。得られた化合物を必要に応じて通常の有機合成物の単離・精製方法により単離・精製する。
【0056】
工程(2)
得られた化合物の保護基R1〜R3を同時に又は別々に脱保護する。脱保護は、通常の有機合成手法で用いられる保護基R1〜R3の脱保護に適した条件で行うことができる。例えば、TES、TMS等であれば、酸性条件下、0〜30℃で、10分〜12時間反応させることにより、脱保護することができる。得られた化合物を必要に応じて通常の有機合成物の単離・精製方法により単離・精製する。
【0057】
工程(3)
得られた化合物のリン酸基の保護基を脱保護する。脱保護は、通常の有機合成手法で用いられる保護基の脱保護に適した条件で行うことができる。例えば、アリル基であれば、PdCl2(PPh3)2、Bu3SnHを加え、-10〜60℃で、30分〜12時間反応させることにより、脱保護することができる。得られた化合物を必要に応じて通常の有機合成物の単離・精製方法により単離・精製する。
【0058】
(第2の製造方法)
本発明の第2の製造方法における出発原料となる下記式(B)で表される化合物[以下、単に化合物(B)ということがある]は、新規化合物であり、ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造中間体として有用である。化合物(B)は、本明細書においてその構造及び合成手法が明らかにされたので、実施例として示された具体的な合成手法及び通常の有機合成手法を用いた、当業者に理解されるその変法により得ることができる。なお、化合物(B)より下記式(C)で表される新規化合物[以下、単に化合物(C)ということがある]が製造される。化合物(C)は、ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造中間体として有用である。化合物(B)及び(C)は、流通時の安定性等のために、適宜、適当な塩の形態、保護基を付与された形態に変換することができ、それらの形態も本発明の範囲に含まれる。
【0059】
【化10】

【0060】
式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。
【0061】
【化11】

【0062】
式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。
【0063】
5〜R7が示す保護基としては、同一又は異なる保護基であってよい。R5〜R7としては、例えば、TMS、TES、TBS、TBDPS等を用いることができる。
【0064】
なお、流通時の安定性や合成の前段階との関係において、R7に保護基を導入する場合、高立体制御性及び合成の高効率性等の観点からは、PMB(4-メトキシフェニルメチル基)を用いることが好ましい。すなわち、ヒドロキシホスラクトマイシンBのC8位立体中心の構築における高選択性が得られるうえ、リン酸基が容易に導入されるからである。保護基の導入及び脱保護は、通常の有機合成手法で用いられる手法に基づいて行うことができる。
【0065】
化合物(B)のうち、R5がTBDPS基及びR6がTBS基である下記の構造式で示される化合物の理化学的性質は以下のとおりである。
【0066】
【化12】

【0067】
比旋光度:[α]28D = +15 (c 0.08, CHCl3)
紫外線吸収スペクトル: IR (neat) 3441, 1718, 1251, 1113 cm-1
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.11 (s, 3 H), 0.17 (s, 3 H), 0.92 (s, 9 H), 1.02 (s,
9 H), 1.88−2.13 (m, 2 H), 2.37 (d, J = 3 Hz, 1 H), 2.622.80 (m, 2 H), 3.80 (s,
3 H), 3.95 (t, J = 6 Hz, 2 H), 4.10 (dd, J = 10, 3 Hz, 1 H), 4.31 (d, J = 11 Hz, 1 H), 4.50 (d, J = 11 Hz, 1 H), 4.60 (dt, J = 10, 3 Hz, 1 H), 6.86 (d, J = 8.5
Hz, 2 H), 7.25 (d, J = 8.5 Hz, 2 H), 7.347.46 (m, 6 H), 7.66 (d, J = 7 Hz, 4 H)13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ -5.0, -4.3, 18.2, 19.2, 25.9, 26.9, 40.6, 40.8, 55.3,
58.8, 59.3, 72.2, 72.9, 81.3, 85.0, 113.9, 127.8, 129.7, 129.8, 133.4, 133.5, 134.9, 135.63, 135.64, 159.5, 210.5.
【0068】
化合物(C)のうち、R5がTBDPS基及びR6がTBS基である下記の構造式で示される化合物の理化学的性質は以下のとおりである。
【0069】
【化13】

【0070】
比旋光度:[α]28D +16 (c 0.09, CHCl3)
紫外線吸収スペクトル:IR (neat) 3474, 3294, 1249, 1113 cm-1
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.14 (s, 3 H), 0.18 (s, 3 H), 0.92 (s, 9 H), 1.04 (s,
9 H), 1.71−1.85 (m, 2 H), 1.98−2.14 (m, 2 H), 2.41 (d, J = 2 Hz, 1 H), 3.59 (dd, J = 8, 4 Hz, 1 H), 3.78 (s, 3 H), 3.703.92 (m, 2 H), 4.27 (s, 1 H), 4.564.70
(m, 3 H), 5.29 (dd, J = 11, 2 Hz, 1 H), 5.54 (dd, J = 17, 2 Hz, 1 H), 5.90 (dd,
J = 17, 11 Hz, 1 H), 6.83 (d, J = 9 Hz, 2 H), 7.24 (d, J = 9 Hz, 2 H), 7.337.49
(m, 6 H), 7.627.72 (m, 4 H)
13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ -4.7, -4.0, 18.3, 19.0, 26.0, 26.8, 37.2, 40.2, 55.3,
60.6, 62.0, 72.7, 73.4, 79.2, 81.3, 86.1, 113.8, 115.6, 127.8, 127.9, 129.2, 129.9, 131.2, 132.7, 132.8, 135.6, 140.3, 159.1
【0071】
工程(1)
化合物(B)に不斉求核付加反応によりビニル基を付加する。不斉求核付加反応は通常の有機合成手法で用いられる条件で行うことができる。例えば、CH2=CHMgBr等の求核試薬を加え、-78〜0℃で、1〜4時間反応させることにより、不斉求核付加反応によりビニル基を付加することができる。得られた化合物を必要に応じて通常の有機合成物の単離・精製方法により単離・精製する。
【0072】
なお、本発明のヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法は、以下の実施例において、さらに具体的に説明される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0074】
[実施例1]抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの生合成による製造
グルコース2%、可溶性デンプン1%、肉エキス0.1%、乾燥酵母0.4%、大豆粉2.5%、食塩0.2%、リン酸二カリウム0.005%の組成からなる30リットルの培地に、ストレプトミセスHK-803株を接種し、27℃で72時間の通気攪拌培養をした。この全培養液の濾液を等量のn-ブタノールで抽出した。再び等量のn-ブタノールで抽出し、n-ブタノール層を減圧濃縮して粗活性物質を得た。粗活性物質をクロロホルム、メタノールと水からなる溶媒系でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、ヒドロキシホスラクトマイシンBが含まれる画分を濃縮・乾固した。少量のメタノールに溶解後、メタノールと水からなる溶媒系で逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを行い、最終的に抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBを含む画分を減圧濃縮乾固し、白色粉末として、抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBを2mg得た。図1は、ヒドロキシホスラクトマイシンBを高速液体クロマトグラフィーで分取した際のクロマトグラフである。
【0075】
[実施例2]抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの化学合成による製造
i-Pr2NH (24.4 mL, 174.1 mmol) の入った THF (70 mL) 溶液を 0 ℃ に冷却し,この中に n-BuLi のヘキサン溶液 (66.5 mL, 2.24 M, 149 mmol) を加えた。10 分かきまぜた
後,-78 ℃ に冷却し,EtOAc (14.6 mL, 149 mmol) を加えた。40 分後,“2” (10.0 mL, 124.1 mmol) の THF (10 mL) 溶液を加え,1 時間かき混ぜた。その後,飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルの混合溶液に注ぎ,有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“rac-3” が 18.9 g 得られた (収率 96%)。
【0076】
4A モレキュラーシーブス (9.48 g), Ti(O-i-Pr)4 (23.2 mL, 78.9 mmol) 及び CH2Cl2
(140 mL) から成る混合物を -20 ℃ に冷却し,この中に L-(+)-DIPT (19.8 mL, 94.7 mmol) を加えた。30 分後、 “rac-3” の CH2Cl2 (20 mL) 溶液を加えた。再び30分かきまぜ,t-BuOOH の CH2Cl2 溶液 (43.6 mL, 7.26 M, 317 mmol) を加えた。-20 ℃ にて 30 時間反応を行い,Me2S (23.2 mL, 315.9 mmol),10% 酒石酸水溶液 (40 mL), NaF (16.6 g, 395 mmol), 及び セライト (15 g) を加えて反応を止めた。生じた混合物を セライトろ過し,ろ液を減圧濃縮,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると “(R)-3” が 22.0
g 得られた (収率 44%)。
【0077】
“(R)-3” (13.3 g, 84.1 mmol), 4-メトキシベンジル 2,2,2-トリクロロアセトイミダート (47.5 g, 168.1 mmol) 及び (+)-10-カンファースルホン酸 (586 mg, 2.52 mmol) の入った CH2Cl2 (90 mL) 溶液を室温下,10 時間かき混ぜた。ヘキサンで希釈し,生じた混合物をろ過し,ろ液を減圧濃縮して生成した “4”を得た。この“4”はこのまま次の反応に用いた。
【0078】
“4”を THF (100 mL) に溶かし,0 ℃ に冷却後,LiAlH4 (2.23 g, 58.8 mmol) を数回に分けて加えた。氷浴を外し,1 時間かきまぜた。過剰のハイドライドを水 (10.6 mL,
590 mmol) を加えて処理し,生成した混合物を3規定の塩酸 (98 mL, 294 mmol) と酢酸エチルの混合溶液に注いだ。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“5” が 17.3 g 得られた (“(R)-3” からの収率 87%)。
【0079】
(COCl)2 (6.49 mL, 74.1 mmol) の CH2Cl2 (180 mL) 溶液を -78 ℃ に 冷却し,この中に DMSO (13.2 mL, 186 mmol) を加えた。15 分後,“5” (14.6 g, 61.8 mmol) の CH2Cl2 (20 mL) 溶液を加えた。-78 ℃ 〜 -40 ℃ の間で30 分反応を行い,その後 Et3N (34.4 mL, 246.8 mmol) を加えた。-40 ℃ にて 1 時間かきまぜ,氷冷した飽和塩化アンモニウム水溶液と CH2Cl2 の混合溶液に注いだ。有機層と水層を分ち,水層を2回 CH2Cl2
抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮すると“6”が粗生成物として得られ,このまま次の反応に用いた。
【0080】
LiCl (3.67 g, 86.6 mmol),DBU (12.5 mL, 83.6 mmol),(EtO)2P(O)CH2CO2Et (16.1 mL, 80.4 mmol) 及び MeCN (85 mL) から成る混合物を 0 ℃ に冷却し,この中に上の反応で得た“6”を加えた。氷浴を外し,室温下,1時間かきまぜ,飽和重曹水と酢酸エチルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“7”が 15.7 g 得られた (“5”からの収率 83%)。
【0081】
“7” (15.0 g, 49.3 mmol) の THF (40 mL) 溶液を -78 ℃ に冷却し,この中に DIBAL-H のヘキサン溶液 (115 mL, 0.94 M, 108 mmol) をゆっくりと加えた。-78 ℃ 〜 -60 ℃ の間で 1 時間かきまぜ,3 規定塩酸 (180 mL, 540 mmol) を加えて反応を停止した。生成した混合物を2回酢酸エチル抽出し,1つに集めた抽出液を無水硫酸マグネシウム上で乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると相当する“8”が 12.4 g 得られた (収率 96%)。
【0082】
4A molecular sieves (2.88 g), Ti(O-i-Pr)4 (4.24 mL, 14.4 mmol), 及び CH2Cl2 (35 mL) から成る混合物を -20 ℃ に冷却し,この中に D-(-)-DIPT (3.62 mL, 17.3 mmol)
を加えた。20 分後,上で合成した“8” (12.6 g, 48.0 mmol) の CH2Cl2 (5 mL) 溶液を加え,再び 30 分かき混ぜた。次に,t-BuOOH の CH2Cl2 溶液 (10.9 mL, 6.64 M, 72.4 mmol) を加えた。-20 ℃ にて 10 時間反応を行い,Me2S (5.29 mL, 72.0 mmol),10%
酒石酸水溶液 (7 mL),及び NaF (6.05 g, 144 mmol) を加えた。混合物を室温下,1 時間かきまぜ、セライトろ過した。次にこの中に 3 規定水酸化ナトリウム (28.8 mL, 86.4
mmol) を加え,室温下,20 分かきまぜた。有機層と水層を分ち,水層を酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し,減圧濃縮して得た粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“9” が 12.4 g 得られた (収率 93%)。
【0083】
“9” (15.6 g, 56.1 mmol), PPh3 (17.6 g, 67.1 mmol), 重曹 (1.06 g, 12.6 mmol) 及び CCl4 (120 mL) から成る混合物を 3 時間加熱還流した。減圧下,揮発性の物質を除去し,ヘキサンを加えた。生じた混合物をセライトろ過し,ろ過を減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“10”が 14.7 g 得られた (収率 88%)。
【0084】
得られた“10” (8.0 g, 27.0 mmol) の THF (40 mL) 溶液を -78 ℃ に冷却し,この中に n-BuLi のヘキサン溶液 (31.2 mL, 2.72 M, 84.9 mmol) をゆっくり滴下した。20 分かき混ぜ,飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルの混合溶液の中に注いだ。数分間激しくかきまぜた後,有機層を分かち,水層2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮して得た“11”はそのまま次の反応に用いた。
【0085】
得られた“11”,TBSCl (4.88 g, 32.4 mmol), イミダゾール (3.67 g, 53.9 mmol) 及び DMF (50 mL) から成る混合溶液を室温下,1 時間かきまぜた。飽和重曹水とヘキサンを加えて,数分間激しくかきまぜた後,有機層を分かち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“12”が 9.22 g 得られた (“10”からの収率 91%)。
【0086】
“12” (12.1 g, 32.3 mmol) と 2,6-ルチジン (5.64 mL, 48.4 mmol) の入った MeOH (70 mL) 溶液を -78 ℃ に冷却し,この中にオゾンを含んだ酸素ガスを 2 時間吹き込んだ。アルゴンを吹き込み過剰のオゾンを除去した後,Me2S (7.12 mL, 97.0 mmol) を加え,冷媒を外し,1 時間かき混ぜた。その後,溶液を減圧濃縮すると“13”が得られた。この化合物は短いシリカゲルカラムを通して次の反応に用いた。
【0087】
i-Pr2NH (11.3 mL, 80.6 mmol) の入った THF (50 mL) 溶液に n-BuLi のヘキサン溶液
(30.0 mL, 2.26 M, 67.8 mmol) を加えた。0 ℃にて 10 分かきまぜた後,-78 ℃ に冷却し,EtOAc (6.64 mL, 67.8 mmol) を加えた。1 時間後,“13” の THF (10 mL) 溶液を加え,さらに 30 分かきまぜた。反応終了後,氷冷した飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルの混合溶液に注いだ。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,得られた“14”はこのまま次の反応に用いた。
【0088】
得た“14”を THF (60 mL) に溶かし,0 ℃ に冷却後,LiAlH4 (1.84 g, 48.5 mmol) をゆっくりと加えた。30 分かきまぜ,過剰に残っているハイドライドを水 (4.36 mL, 242 mmol) を加えて処理した。さらに,NaF (10.2 g, 243 mmol) も加えた。30 分かきまぜた後,セライトろ過した。ろ液を減圧濃縮し,シリカゲルカラム精製すると“15” が 8.42 g 得られた (“12” からの収率 64%)。
【0089】
“15” (5.35 g, 13.2 mmol),TBDPSCl (4.06 mL, 15.8 mmol), イミダゾール (1.79 g, 26.3 mmol) 及び DMF (35 mL) から成る混合溶液を室温下,1 時間かきまぜた。飽和重曹水とエーテルを加えて希釈し,数分間激しくかきまぜた後,有機層を分かち,水層を2回エーテル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,得られた粗生成物を短いシリカゲルカラムを通すと“16”が得られた。この化合物はこのまま次の反応に用いた。
【0090】
-78 ℃ に冷却した (COCl)2 (1.50 mL, 17.1 mmol) の CH2Cl2 (55 mL) 溶液に DMSO (2.80 mL, 39.4 mmol) を加えた。5 分後,“16” の CH2Cl2 (5 mL) 溶液を加えた。-78 ℃ 〜 -50 ℃ の間で 30 分かきまぜ,その後 Et3N (9.17 mL, 65.8 mmol) を加えた。さらに 30 分かきまぜ,この中に飽和重曹水を加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回 CH2Cl2 抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧下濃縮し,粗生成物を短いシリカゲルカラムを通すと“17” が得られた。この生成物はこのまま次の反応に用いた。
【0091】
“17” を THF (50 mL) に溶かし,-78 ℃ に冷却後,CH2=CHMgBr の THF 溶液を (29.2 mL, 0.90 M, 26.3 mmol) を 10 分かけてゆっくりと滴下した。1 時間後,この溶液を氷冷した飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルの混合溶液に注いだ。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“18” が 7.68 g
得られた (“15” からの収率 87%)。
【0092】
“18” (5.58 g, 10.2 mmol) 及び 2,6-ルチジン (2.37 mL, 20.4 mmol) の入った CH2Cl2 (20 mL) 溶液を氷冷し,この中に TESOTf (2.53 mL, 11.2 mmol) をゆっくりと滴下した。そのままの温度で 30 分かきまぜ,飽和重曹水を加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回 CH2Cl2 抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると “19” が 6.13 g 得られた
(収率 91%)。
【0093】
“19” (13.5 g, 17.2 mmol) と 2,6-ルチジン (4.0 mL, 34.3 mmol) の入った MeOH と i-PrOH の混合溶液 (1 : 1, 100 mL)を -78 ℃ に冷却し,この中にオゾンを含んだ酸素ガスを 5 時間吹き込んだ。アルゴンを吹き込み過剰のオゾンを除去した後,Me2S (3.8
mL, 51.74 mmol) を加え,冷媒を外し,1 時間かき混ぜた。その後,溶液を減圧濃縮すると“20”が得られた。
【0094】
鉱油に入った 60% NaH (1.37 g, 34.3 mmol) をヘキサンで3回洗浄して,鉱油を除いた。この中に THF (80 mL) を加え,0 ℃に冷却後,(EtO)2P(O)CH2CO2Et (7.21 mL, 36.0 mmol) を加えた。20 分後,“20”の THF (20 mL) をゆっくりと滴下した。氷浴を外し,一夜かきまぜた後,飽和塩化アンモニウム水溶液に注いだ。有機層と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“21” が 7.14 g 得られた (“19” からの収率 48%)。
【0095】
“21” (7.14 g, 8.31 mmol) と “22” (2.35 g, 9.95 mmol) を ベンゼン (40 mL) に溶かし,この中に t-BuNH2 (8.68 mL, 83.1 mmol),Pd(PPh3)4 (0.481 g, 0.416 mmol)
及び CuI (0.238 g, 1.25 mmol) を加えた。室温・遮光下で一夜かきまぜ,飽和塩化アンモニウム水溶液とヘキサンを加えて反応を停止した。有機層と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“23” が 7.0 g 得られた (収率 87%
)。
【0096】
“23” (4.32 g, 4.46 mmol) の THF (30 mL) 溶液を -70 ℃ に冷却し,この中に DIBAL-H のヘキサン溶液 (11.9 mL, 0.94 M, 11.2 mmol) をゆっくりと滴下した。-78 ℃ 〜
-60 ℃ の間で 30 分かきまぜ,水 (1.0 mL, 56 mmol) を加えて反応を停止した。0 ℃ に昇温後,NaF (2.34g, 56 mmol) を加えた。混合物を 30 分激しくかきまぜ,セライトろ過した。ろ液を減圧濃縮し,シリカゲルカラム精製すると相当する“24”が 4.01 g 得られた (収率 97%)。
【0097】
“24” (6.30 g, 6.81 mmol) の CH2Cl2 (40 mL) 溶液の中に Et3N (9.49 mL, 68.1 mmol) と DMSO (14.4 mL, 204.1 mmol) を加え,0 ℃ に冷却後,SO3・Py (3.25 g, 20.4 mmol) を少しずつ加えた。氷浴を外して 30 分かきまぜた後,飽和重曹水とヘキサンを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“25” が 6.10 g 得られた (収率 97%)。
【0098】
氷冷した (R)-N-ブチリル-4-ベンジル-2-オキサゾリジノン (“26”) (2.53 g, 10.2 mmol) の CH2Cl2 (40 mL) 溶液の中に Bu2BOTf の CH2Cl2 溶液 (9.91 mL, 1.0 M, 9.91 mmol) と (i-Pr)2NEt (2.53 mL, 14.5 mmol) を加え,30 分かきまぜた後,-78 ℃ に冷却し,その中に“25” (6.10 g, 6.61 mmol) の CH2Cl2 (10 mL) 溶液を 10 分かけて滴下した。-78 ℃ で 10 分,室温にて 3.5 時間かきまぜ,飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回 CH2Cl2 抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“27”が得られた。
【0099】
“27” と ピリジン (7.96 mL, 99 mmol) の入った CH2Cl2 (5 mL) 溶液を氷冷し,この中に TESCl (2.21 mL, 13.2 mmol) を滴下した。そのままの温度で 30 分かきまぜ,飽和重曹水とヘキサンを加えて反応を停止した。有機層と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると相当する“28”が 8.10 g 得られた (“25” からの収率 95%)。
【0100】
氷冷した EtSH (2.36 mL, 31.5 mmol) の THF (20 mL) の中に n-BuLi のヘキサン溶液
(6.95 mL, 2.72 M, 18.9 mmol) を加えて EtSLi/THF 溶液を調製した。一方,“28” (8.10 g, 6.30 mmol) の THF (20 mL) 溶液を用意し,これを氷冷した後,EtSLi/THF 溶液を加えた。1.5 時間かきまぜ,飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“29” が 6.80 g 得られた (収率 90%)。
【0101】
“29” (2.77 g, 2.37 mmol) の トルエン (20 mL) 溶液を -78 ℃ に冷却し,この中に DIBAL-H のヘキサン溶液 (3.27 mL, 0.94 M, 3.07 mmol) をゆっくりと加えた。-78 ℃ で 30 分かきまぜ,酢酸エチルを数滴加え,0 ℃ に昇温した。水 (0.24 mL, 13 mmol) と NaF (550 mg, 13 mmol) を加え 30 分激しくかきまぜた後,セライトろ過した。ろ液を減圧濃縮し,“30”はそのまま次の反応に用いた。
【0102】
(PhO)2P(O)CH2CO2Et (1.37 g, 4.27 mmol) の THF (20 mL) 溶液の中に Bu4NOH の MeOH 溶液 (4.15 mL, 1.0 M, 4.15 mmol) を加えた。20 分後,-78 ℃ に冷却し,上で合成したアルデヒドの THF (5 mL) 溶液を滴下した。その後,-18 ℃ の冷媒に移し,そのままの温度で 6 時間かきまぜ,飽和塩化アンモニウム水溶液とヘキサンを加えた。有機層
と水層を分ち,水層を2回ヘキサン抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“31” が 2.40 g 得られた (“29” からの収率 86%)。
【0103】
“31” (4.86 g, 4.12 mmol) を THF (10 mL)/MeOH (30 mL) 混合溶媒に溶解し,この中に PPTS (31 mg, 0.12 mmol) を加えた。室温下,一夜かきまぜ,飽和重曹水と酢酸エチルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“32” が 3.78 g 得られた (収率 86%)。
【0104】
Ti(O-i-Pr)4 (0.21 mL, 0.71 mmol) を“32” (3.78 g, 3.54 mmol) の ベンゼン (30 mL) 溶液に加え,80 ℃ にて 20 分加熱した。室温に戻した後,水を数滴加えて Ti(O-i-Pr)4 を処理した後,酢酸エチルで希釈した。生じた混合物をセライトろ過し,ろ液を減圧濃縮,シリカゲルカラム精製すると“33”が 3.40 g 得られた (収率 94%)。
【0105】
“33” (3.10 g, 3.04 mmol) の THF 溶液を氷浴につけ,Bu4NF の THF 溶液 (12.2 mL, 1.0 M, 12.2 mmol) を滴下した。0 ℃ で 20 分かきまぜ,その後,30 分かけて室温に戻し,飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“34” が 1.48 g 得られた (収率 88%)。
【0106】
80 ℃ に加熱した亜鉛末 (24.1 g, 369 mmol) と EtOH (50 mL) の混合物の中に ジブロモエタン (1.35 mL, 15.7 mmol) を滴下した。直ちにガスが発生するが,発生が止まってからもう一度 ジブロモエタン (1.40 mL, 16.2 mmol) を加えた。80 ℃ にて 15 分かきまぜ,その後,50 ℃ に下温し,この中に LiBr (8.27 g, 95.2 mmol) と CuBr (5.52 g, 38.5 mmol) の入った THF (35 mL) 溶液を加えた。こうして活性化した亜鉛末の中に“34” (1.33 g, 2.41 mmol) の EtOH (5 mL) 溶液を加えた。再び 80 ℃ に加熱して 2 時間反応させ,室温に戻した後,酢酸エチルで希釈した。混合物をセライトろ過し,ろ液を減圧濃縮し,残液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“35” が 1.10
g 得られた (収率 83%)。
【0107】
“35” (910 mg, 1.64 mmol) と ピリジン (3.95 mL, 49.2 mmol) の入った CH2Cl2 (2
mL) 溶液を氷冷し,この中に TESCl (1.10 mL, 6.57 mmol) を滴下した。そのままの温度で 30 分かきまぜ,飽和重曹水とエーテルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回エーテル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥,減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると相当する “36” が 1.10 g 得られた (収率
85%)。
【0108】
“36” (1.10 g, 1.40 mmol) と 2,6-ルチジン (4.91 mL, 42.2 mmol) の入った CH2Cl2 (2 mL) 溶液を氷冷し,この中に TMSOTf (1.00 mL, 5.67 mmol) を滴下した。そのままの温度で 20 分かきまぜ,飽和重曹水とエーテルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回エーテル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,短いシリカゲルカラムを通すと “37” が 1.04 g 得られた (収率 86%)。
【0109】
“37” (280 mg, 0.327 mmol) の CH2Cl2/H2O (19 : 1, 5 mL) 溶液を氷冷し,この中に DDQ (89 mg, 0.39 mmol) を加えた。そのままの温度で 30 分かきまぜ,飽和重曹水を
加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回 CH2Cl2 抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“38”が 172 mg 得られた (収率 87%)。
【0110】
“38” (131 mg, 0.217 mmol) の CH2Cl2 (3 mL) 溶液を氷冷し,この中に 1H-テトラゾール (30 mg, 0.43 mmol) とジアリルジイソプロピルホスホルイミデート (75 mg, 0.31 mmol) を加えた。氷浴を外して 30 分かきまぜ,再び氷浴につけ,35% H2O2 (0.15 mL,
0.84 mmol) を滴下した。2時間かきまぜ,飽和重曹水と CH2Cl2 を加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“39” が 121 mg 得られた (収率 73%)。
【0111】
AcCl (0.0053 mL, 0.075 mmol) を MeOH (0.20 mL) に加え,HCl/MeOH 溶液を調製した。この溶液を,氷冷した“39” (95 mg, 0.12 mmol) の CH2Cl2/THF/MeOH (5 : 5 : 1, 4.4 mL) 溶液に加えた。0 ℃ に保ったまま 20 分かきまぜ,飽和重曹水と酢酸エチルを加えた。有機層と水層を分ち,水層を2回酢酸エチル抽出した。抽出液を1つに集め,無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。減圧濃縮し,粗生成物をシリカゲルカラム精製すると“40” が 68 mg 得られた (収率 92%)。
【0112】
“40” (21 mg, 0.035 mmol) と 水 (0.019 mL, 1.06 mmol) の入った CH2Cl2 (0.4 mL) 溶液を氷冷し,この中に PdCl2(PPh3)2 (1.3 mg, 0.0018 mmol) 及び Bu3SnH (0.024 mL, 0.089 mmol) を加えた。このままの温度で 1 時間かきまぜ,水とヘキサンを加えると白色の固体が析出した。水層とヘキサン層を除き,白色固体をシリカゲルカラム精製するとヒドロキシホスラクトマイシンB “1” が 14 mg 得られた (収率 77%)。
【0113】
この合成スキームを次に示す。
【0114】
【化14】

【0115】
[実施例3]抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBのPP2A阻害活性試験
反応緩衝液中(20 mM HEPES, 0.5 mM MgCl2, 10 mM NaCl, 1 mM ジチオスレイトール, [pH 7.5])に、150 μM合成ペプチド(K-R-pT-I-R-R; Sigma社)と1%評価サンプル溶液(DMSO溶液)を入れて総量を100 μlとし、0.01 unitの精製PP2A(Upstate社)を添加後、30℃のインキュベーター内で30分間静置した。反応後、100 μlのマラカイトグリーン溶液
(1N HCl水溶液中0.034% マラカイトグリーン, 4.2% モリブデン酸アンモニウム, 0.01% Tween 20)を添加し,室温で15分静置して十分に呈色させて、遊離したリン酸の量を600 nm波長における吸光度を指標に測定した。合成ペプチドと緩衝液のみのサンプルをブランクとし、それに精製酵素を添加したものを100%のホスファターゼ活性として、それぞれの阻害率を算出した。その結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
[実施例4]抗生物質ヒドロキシホスラクトマイシンBの分化誘導活性試験
ヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60は、RMPI1640培地(Sigma社)に10% 熱非活性化ウシ胎児血清(JRH Bioscience社)及び50 units/ml ペニシリン, 50 μg/ml ストレプトマイシン(Sigma社)を添加したものを培地として用い、5%二酸化炭素が存在する加湿雰囲気下37℃で培養した。
【0118】
96穴マルチウェルプレートに5×103 /100 μlのHL-60細胞を分注し、静置後に1%評価サンプル溶液(50% 2-プロパノール水溶液)を添加した。これを5%二酸化炭素が存在する加湿雰囲気下37℃で96時間インキュベーションした後、100 μlのNBT試薬(1 mg/ml ニトロブルーテトラゾリウム, 0.6 mg/ml ホルボールブチルエステル)を添加して、さらに2時間インキュベーションした。分化したHL-60細胞、すなわちNBT試薬によって紫色に染色された細胞を、顕微鏡観察によって計測して、全細胞数のうち、10%以上の細胞において紫色染色が見られた時を、分化誘導があったと判断した。
【0119】
【表2】

【0120】
[実施例5]ヒドロキシホスラクトマイシンBの抗真菌活性試験
アスペルギルスフミガタス(Aspergillus fumigatus)を、PS寒天培地(ポテトデキストロース(Difco社)2.4 %、酵母エキス(Difco社)0.1 %、寒天(和光純薬)1.3 %)上に接種し、1週間から10日程度、30℃で静置培養して、十分に胞子を着生させた。滅菌水にその胞子を懸濁し、105個/mlになるように調製した。
【0121】
50% 2-プロパノールで段階的に濃度希釈したヒドロキシホスラクトマイシンBを、PS寒天培地に添加し、96穴のウェルに100μlずつ流し込んで固化させた。寒天培地の上に、上で調製した胞子懸濁液 10μlを添加し、37℃で一晩培養して、その生育を肉眼で観察して、ヒドロキシホスラクトマイシンBのアスペルギルスフミガタスに対する抗真菌活性を測定した。その結果、最小生育阻止濃度は、10μg/mlであった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
上記ヒドロキシホスラクトマイシンBは、抗真菌活性、PP2A阻害活性及び分化誘導活性
を示すので、ヒドロキシホスラクトマイシンBを含有する組成物は、抗真菌剤及び制癌剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、ヒドロキシホスラクトマイシンBを、培養物より高速液体クロマトグラフィーで分取した際のクロマトグラフを示す。逆相ODSカラムを用いて、アセトニトリルと水、酢酸からなる溶媒系で、アセトニトリルの濃度勾配を17%から60%として分取を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩。
【化1】

【請求項2】
ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する、ヒドロキシホスラクトマイシンB生産菌を培養し、その培養物からヒドロキシホスラクトマイシンBを分離採取することを特徴とするヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法。
【請求項3】
ヒドロキシホスラクトマイシンB生産菌が、ストレプトミセスHK-803株(Streptomyces sp. HK-803)である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
下記式(A)で表される化合物:
【化2】

(式中、R1〜R3は各々独立に水酸基の保護基を示し;R4は水素を示す。)
において、
4に保護基を有するリン酸基を導入する工程と、
保護基R1〜R3を脱保護する工程と、
リン酸基の保護基を脱保護する工程とを含む、ヒドロキシホスラクトマイシンBの製造方法。
【請求項5】
下記式(A)で表される化合物。
【化3】

(式中、R1〜R3は各々独立に水酸基の保護基を示し;R4は水素を示す。)
【請求項6】
ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項7】
ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする分化誘導剤。
【請求項8】
ヒドロキシホスラクトマイシンB又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
【請求項9】
下記式(B)で表される化合物:
【化4】

(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)
において、
不斉求核付加反応によりビニル基を付加する工程を含む、下記式(C)で表される化合物:
【化5】

(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)
の製造方法。
【請求項10】
下記式(B)で表される化合物。
【化6】

(式中、R5〜R7は各々独立に水酸基の保護基を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2008−44877(P2008−44877A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221223(P2006−221223)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第86春季年会 社団法人日本化学会 平成18年3月27日〜30日 A Journal of the Gesellschaft Deutscher Chemiker Angewandte Chemie Internatinal Edition 2006−45/20 WILEY−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA 2006年5月4日
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】