説明

抗癌剤の開発および癌の診断のための、腫瘍の発生に関与することが同定されたマウスゲノム領域の使用

【課題】癌の発生に関与する少なくとも1つのマウスゲノム領域またはそのヒト相同体によってコードされるポリペプチドの調製、同定、及び遺伝子領域の使用による癌の診断方法の提供。
【解決手段】腫瘍の発生、特に白血病の発症に関与するマウスのレトロウイルス挿入タギングによって同定されたマウスのゲノム領域、およびこれらのヒト相同体、ならびにこれらの遺伝子領域内での遺伝的な形質転換の腫瘍原性効果を軽減または除去および/またはこれらの発現産物の腫瘍原性効果を除去する際に有効な小分子阻害剤、抗体、リボザイム、アンチセンス分子、およびRNA干渉(RNAi)分子などの抗癌剤の同定および開発。さらに、抗癌剤、薬学的組成物、および該薬学的組成物を使用する癌の治療のための方法、特に遺伝子治療の方法であり、癌の診断のための抗体の使用、ならびに該診断組成物を使用する癌の診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年9月19日に出願された米国特許出願第10/252,132号の一部継続出願である。
【0002】
発明の分野
本発明は、マウスのレトロウイルス挿入性のタギングによって、腫瘍発生、特に白血病の発生に関与すると同定されたマウスのゲノム領域、およびにこれらのヒト相同体、ならびにこれらのゲノム領域における遺伝的形質転換の腫瘍原性効果を減少もしくは除去すること、および/またはこれらの発現産物の腫瘍原性効果を除去することに有効である、小分子状阻害剤、抗体、リボザイム、アンチセンス分子、およびRNA干渉(RNAi)分子などの抗癌剤の同定および開発のための、これらのゲノム領域の使用に関する。本発明は、さらにこれらの抗癌剤および癌の治療のための薬学的試薬としてのこれらの使用、ならびに該薬学的試薬の1つまたは複数を含む薬学的組成物および該薬学的組成物を使用して癌を治療するための方法、特に遺伝子治療の方法に関する。さらなる局面において、本発明は、腫瘍発生に関与する該マウスのゲノム領域由来の核酸またはその断片に、該マウスのゲノム領域またはそのヒト相同体に含まれる配列の遺伝子の発現産物に対する抗体、該マウスのゲノム領域またはそのヒト相同体における遺伝的形質転換の影響を受ける遺伝子の発現産物に対する抗体、癌診断のための診断試薬としての該核酸または抗体の使用、ならびに1つまたは複数の該診断試薬を含む診断組成物、および該診断組成物を使用する癌を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
急速な進歩の4半世紀の後、癌研究により、癌がゲノムのダイナミックな変化を含む疾患であることを明らかにする、豊富かつ複雑な知識の塊を生み出した。癌は、悪性腫瘍に集合的に命令する以下の6つの必須な細胞生理の変化によって生じると考えられる:増殖シグナルの自立性、増殖阻害(抗増殖)シグナルに対する非感受性、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の回避、無制限の複製能、持続的な血管形成、ならびに組織の侵入および転移。
【0004】
一般に、これらの必須な変化は、これらの細胞プロセスの制御に関与する遺伝子の突然変異の結果生じる。これらの突然変異は、欠失、点突然変異、逆転、および増幅を含む。突然変異により、異常なレベル、タイミング、および/または位置でのコードされるタンパク質の発現、またはコードされるタンパク質の機能の変化のいずれかが生じる。これらの変化は、例えばシグナル伝達カスケードを経て、直接または間接的に細胞生理にも影響を及ぼし得る。
【0005】
正常細胞から悪性細胞への移行を促進する遺伝子を同定する可能性があることは、癌の治療のための新規の治療法の開発に必須な必要条件である。
【0006】
癌治療の最も一般的な治療の1つは、化学療法である。この療法では、細胞増殖の阻害剤として機能し、したがって本質的に有毒な1つまたは複数の薬物によって患者を治療する。癌細胞は、体内で最も速く増殖する細胞の一つであるので、これらの細胞は、適用された薬物によって激しく影響を受ける。しかし、正常細胞も影響を受け、毒性の他にも生殖力の減少などの非常に重篤な副作用を生じる。
【0007】
癌を治療するためのもう一つの一般的に使用される治療は、放射線療法または照射療法である。放射線療法は、癌細胞に損傷を与えるために高エネルギーの光線を使用し、細胞周期の停止を誘導する。細胞周期の停止により、最終的にはプログラムされた細胞死(アポトーシス)を生じることになる。しかし、正常細胞も照射を受けて損傷を受ける。加えて、この治療を使用して全ての腫瘍細胞を完全に除去することは困難である。重要なことに、あまり小さな腫瘍および転移の発生は、放射線療法によって治療することができない。さらに、照射により、腫瘍を囲んでいる細胞の突然変異を引き起こして、新たな腫瘍が発生する危険度を増大し得る。また、化学療法および放射線療法の組み合わせも多用されているが、その後に副作用の蓄積が観察されている。
【0008】
両治療の主に不利な点は、これらが正常細胞と腫瘍細胞を区別しないということである。さらに腫瘍細胞は、これらの治療、特に化学療法に対して抵抗性になる傾向を有する。
【0009】
腫瘍特異的な標的に向けられた治療法によれば、i)薬剤抵抗性が発生する機会の減少、ii)これらの腫瘍特異的な治療に使用される薬物は、非常に低い濃度で適用されることによる、毒性の減少、および、iii)腫瘍細胞のみが影響を受けることによる、観察される副作用の減少により、治療効率が増大するであろう。
【0010】
腫瘍特異的な治療法の使用は、公知の標的の数により制限されている。腫瘍は、ゲノムにおける多くの異なる別個の変化によって生じる可能性があるので、腫瘍細胞間の遺伝形質は、少なからず異なるであろう。しかし、これらが引き起こす疾患タイプは、同じものとして分類されているかもしれない。これは、特定の癌のタイプの全ての患者に有効な単一の治療が存在しない理由の主な理由の1つである。
【0011】
薬理遺伝学および薬理ゲノミクスは、疾患に関連した遺伝的決定因子を決定することを目的とする。大部分の疾患は、複遺伝子性の疾患であり、それに関与する遺伝子を同定することにより、新たな標的の発見および新薬の開発が可能になるはずである。また、薬理ゲノミクスには、患者の遺伝形質に従った特異的な薬物の使用を含む。これにより、薬物の効率の劇的な改善を生じるであろう。
【0012】
多くの生理的病害が、この新規の薬学的方法によって標的とされる。自己免疫性疾患および炎症性疾患、例えばアジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、ベーチェット病、慢性的な疲労症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性の腸疾患、糖尿病、および多発性硬化症を挙げることができる。
【0013】
前述のように、癌はまた、複遺伝子性の疾患であると考えられている。いくつかの発癌遺伝子(例えば、ras、c-myc)および癌抑制遺伝子(例えばp53)、ならびに疾病素質のいくつかの遺伝マーカー(例えば乳癌のための遺伝子BRCA1およびBRCA2)が、以前に同定されている。その他の種類の癌に関与する新たな遺伝子の同定は、患者のより優れた情報および疾患そのものの発症の予防、乳癌ですでに観察されているような平均余命の改善が可能になるはずである(Schragら、2000. JAMA 283:617-24(非特許文献1))。
【0014】
したがって、癌の発生に関与する遺伝子の一致性についての知識により、本症のための予防方法、治療方法、および診断方法の開発が非常に容易になる。特定の腫瘍タイプにおいて影響を受ける遺伝子の診断により、特異的な抗癌剤、例えばこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質に対する薬物の使用を含む治療をデザインすることができる。
【0015】
現在、腫瘍発生に関与する限られた数の遺伝子のみが公知であり、腫瘍特異的な治療のデザインに使用するため、および特定の腫瘍の遺伝形質を定義するために、腫瘍発生に関与する新規遺伝子を同定することが明らかに必要である。
【0016】
本発明に導いた研究では、プロウイルスのタギングによって、多くのゲノム領域が腫瘍発生に関与することを同定した。プロウイルスのタギング(Berns. 1988. Arch Virol. 102: 1-18(非特許文献2);Kimら、2003. J Virol. 77:2056-62(非特許文献3))は、レトロウイルスを正常な脊椎動物細胞に感染させるために使用する方法である。感染後、ウイルスはゲノムに組み込まれ、これによりゲノムの局所的な構成を混乱させる。この組込みはランダムであり、ウイルスの組込み部位(これは、例えばコード領域、制御領域、または遺伝子の近くの領域であってもよい)に応じて、遺伝子の発現または機能に影響を及ぼす。腫瘍発生に関与する細胞の遺伝子が影響を受けた場合、細胞は、腫瘍発生に関与する遺伝子が影響を受けない細胞と比較して、腫瘍を発生するための選択的な有利性(selective advantage)を獲得するであろう。その結果、腫瘍発生に関与する遺伝子に影響を受ける細胞から生じる腫瘍内の全ての細胞は、同じプロウイルスの組込みを有する。レトロウイルスの組込み部位の近くの領域の解析によって、影響を受けた遺伝子を同定することができる。本発明で調査したゲノムのサイズおよび組込み部位の総数により、調査した二個以上の独立した腫瘍が影響を受ける遺伝子は、選択的な有利性を提供し、したがって、腫瘍発生に寄与しているに違いない。このような組込み部位は、共通の組込み部位(common integration site; CIS)と命名されている。
【0017】
改善されたプロウイルスのタギング方法を使用することにより、本発明の発明者は、マウスの骨髄性白血病の発生に関与する多数のマウスのゲノム領域を同定することができた。このようなゲノム領域の全てが、ウイルス核酸の共通の組込み部位を含んでおり、このような部位は、内部の公知もしくは推定上のマウス遺伝子をコードするか、またはマウスのゲノム内のこれまでに未知であるが、位置は定義されているゲノム配列の前か後に見いだされた。共通の組込み部位の中に存在することによって定義されるマウスのゲノム領域の多くは、今までに腫瘍発生に関与することが報告されていなかった。本方法で同定された新規の癌関連マウスゲノム領域は、以下のとおりである:細胞表面タンパク質をコードするAdam11、AI462175、Cd24a、Edg3、Itgp、Kcnj16、Kcnk5、Kcnn4、Ltb、Ly108、Ly6i、EMILINのマウス相同体、Mrc1、Ninj2、Nphs1、Sema4b、Tm9sf2、およびTnfrsfl7;酵素をコードするApobec2、Btd、Cds2、Clpx、Ddxl9、Ddx21、Dnmt2、Dqx1、Hdac7a、Lce-pending、Mgat1、CILPのマウス相同体、NOH61のマウス相同体、Nudel-pending、Pah、Pdi1、Ppia、Prps1、Ptgds、およびVars2;キナーゼをコードするDagk4、PSKのマウス相同体、Nme2、Snf1lk、およびTyki;ホスファターゼをコードするDusp10、Inpp4a、およびInpp5b;分泌因子をコードするIl16、Prg、およびScya4;シグナリング・タンパク質をコードするAkap7、Api5、Arfrp1、Arhgap14-pending、Cish2、Dapp1、Fabp6、Fkbp8、Fliz1-pending、Hint、Ier5、Jundp2-pending、Lmo6、Mid1、AKAP13のマウス相同体、BIN2のマウス相同体、CEZANNEのマウス相同体、CHD2のマウス相同体、MBLLのマウス相同体、SLC16A10のマウス相同体、SLC16A6のマウス相同体、SLC17A5のマウス相同体、TAF5Lのマウス相同体、U1SNRNPBPのマウス相同体、ZNF8のマウス相同体、Mtap7、Myo1c、Nkx2-3、Nsf、Pcdh9、Pkig、Prdx2、Pscd1、Psmb1、Psme1、Psme2、Rgl1、Ril-pending、Sax1、Slc14a2、Slc7a1、Slc7a11、Swap70、Txnip、およびUbl3;構造タンパク質をコードするClic3、Gtl1-13、NOL5Aのマウス相同体、およびVdac2;転写調節に関与するタンパク質をコードするABT1-pending、Ctbp1、Dermo1、Ebf、Elf4、Ldb1、NR1D1のマウス相同体、ZER6のマウス相同体、Rest、Tbp、Zfp238、Zfp287、およびZfp319;Lrrc2、Satb1、Slfn4、ならびに以下のセレラIDコードを有するゲノム領域:

これらの遺伝子は、下記の表1に一覧を示してある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Schragら、2000. JAMA 283:617-24
【非特許文献2】Berns. 1988. Arch Virol. 102: 1-18
【非特許文献3】Kimら、2003. J Virol. 77:2056-62
【発明の概要】
【0019】
本発明の第1の目的は、腫瘍特異的な治療のデザインに使用するための、腫瘍発生に関与する新規の遺伝子を提供することである。本目的は、ヒトの治療の場合、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域のヒト相同体を使用することにより、腫瘍発生および/またはこれらの発現産物に含まれるこれらの領域によってコードされるか、または影響を受ける遺伝子に対して向けられた阻害剤の開発のために、ならびに癌の治療のために、好ましくは、白血病の治療のための薬学的組成物の調製のために、これらの阻害剤を使用することにより達成される。
【0020】
これらのマウスゲノム領域は、ネステッドPCRのアプローチを含む改善されたプロウイルスのタギング法を使用し、その結果、従来実施されていたクローニング工程を今回は省略してもよく、遺伝子同定プロセスの速度を上げることによって発見された。さらに、マウスは本質的に骨髄性白血病のみを発症したので、改善された方法により、本質的に骨髄性白血病に関連した遺伝子のみが同定された。また、本方法は、種々のマウス白血病ウイルスの使用を支援し、驚くべきことに、本使用により、部分的に重複するがそれ以外は本質的に相補的なマウス骨髄性白血病の発症に関与するマウスのゲノム領域が同定された。このことにより、さらなる骨髄性白血病関連遺伝子を見いだす可能性が拡大する。
【0021】
癌の、好ましくはマウス白血病の発生に関与するゲノム領域を同定するための本発明の方法のもう一つの改善点は、共通である組込み部位を決定するための改善された方法の使用にある。また、この方法は図2に図示するように、核酸ブロッティング法、好ましくはサザンブロッティング法と組み合わせたネステッドPCRを含む強力な増幅法を含む。
【0022】
癌の発生に関与するゲノム領域を同定するための本発明の方法は、対象のレトロウイルス挿入突然変異を行う第1の工程を含み、腫瘍を誘導するレトロウイルスを該対象に感染させることを含む。好ましい態様において、該対象は、マウスであり、好ましくは該マウスは、NIHスイスマウスまたはFVB/Nマウスであり、該レトロウイルスは、Graffiマウス1.4白血病ウイルス(Gr-1.4)および/またはCas-BR-Mマウス白血病ウイルス(Cas-BR-M MuLV)である。本発明の方法は、例えばウイルスに誘導された白血病マウスの脾臓、肝臓、胸腺、およびリンパ節組織に存在するものなどの、感染した対象に発生した原発腫瘍から染色体DNAを単離する次の工程を含む。本発明の方法は、該腫瘍を誘導するレトロウイルスのゲノムにおいて少なくとも一回、および該対象の染色体DNAにおいて少なくとも一回の切断が可能な制限酵素で、該染色体DNAを消化する次の工程を含む。好ましくは、該染色体DNAは、ウイルスのLTR配列内の公知の位置に位置するが、それぞれのウイルス挿入のゲノム配列内で独特である制限部位を認識する制限酵素によって消化される。好ましくは、制限部位は、公知のウイルス配列に隣接する対象の染色体DNA領域を該染色体DNA領域のヌクレオチド配列に基づいて同定することができるような、すなわち公知の配列のデータベースとこれらの比較ができるように十分な数の隣接するヌクレオチドを含むような該領域が分離される。
【0023】
本発明の方法は、消化されたDNAを環状DNAに結合し、続いて公知のウイルス配列に隣接する染色体DNA断片を増幅する次の工程を含む。本発明の方法において、PCR増幅は、レトロウイルス(LTR;末端反復配列)特異的なプライマーの第1のセットを使用して該環状DNAで第1のPCR反応を行い、続いてレトロウイルス(LTR)特異的なプライマーの第2のセットを使用して該第1のPCR反応の産物で第2のネステッドPCRを行うことによって行う。
【0024】
公知のウイルス配列に隣接する染色体DNA断片を増幅する工程に続いて、該染色体DNA断片のヌクレオチド配列を、任意でクローニング工程を経るが好ましくは直接シーケンシング反応を行うことによって決定し、強力かつ特異的な増幅法のために、後者を使用することができる。次いで、決定された該染色体DNA断片のヌクレオチド配列にレトロウイルスが組み込まれ、これにより潜在的に癌の発症に関与するゲノム領域を示す対象のゲノム領域を同定するために、公知の配列のデータベースと比較する。
【0025】
組込み部位が共通の組込み部位であるかどうかを決定するために、癌の発生に関与するゲノム領域を同定するための本発明の方法は、ゲノム領域特異的な増幅プライマーを、好ましくは入れ子状の形式でデザインする工程を含み、このとき該プライマーは、公知のウイルス配列に隣接する染色体DNA断片にハイブリダイズすることができ、その断片の配列は前述のように決定され、かつその断片はウイルス組込み部位を含むゲノム領域を示す。次いで、RNAまたはDNAを腫瘍から単離して、共通の組込み部位の存在について解析し、増幅反応、好ましくはネステッド(RT-)PCR反応を、1つまたは複数のゲノム領域特異的なプライマー(本明細書において遺伝子座特異的プライマーとも呼ぶ)および1つまたは複数のウイルス特異的プライマー、好ましくはレトロウイルス(LTR)特異的なプライマーで行う。次に、増幅産物をブロットして、ブロットには、ウイルス特異的プローブおよびゲノム領域特異的プローブを別々にハイブリダイズさせる。両方のプローブとハイブリダイズした増幅産物は、共通の組込み部位を表すと考えられ、このような共通の組込み部位は、癌の発生に関与するゲノム領域を示す。
【0026】
本発明の一つの局面は、これらのゲノム領域および/またはこれらの発現産物によってコードされるか、または影響を受ける遺伝子に対する阻害剤の開発のために、本発明のマウスのゲノム領域を使用することである。
【0027】
本発明の1つの態様において、阻害剤は、表1に一覧を示したゲノム領域によってコードされるか、または遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子の発現産物に対する抗体および/または抗体の誘導体である。治療的な抗体は、例えば細胞膜に位置する遺伝子発現産物に対して有用であり、薬学的組成物に含めることができる。また、抗体は細胞内、例えば細胞質内のRNA、ポリペプチド、または酵素などの遺伝子産物の活性を調整するために、これらの産物に対してターゲットさせてもよい。好ましくは、このような抗体はイントラボディー(intrabody)の形態であり、癌細胞内部で産生される。加えて抗体は、これに対して結合された少なくとも1つの毒性化合物を腫瘍細胞に送達する使用されてもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様において、阻害剤は、本明細書で定義されるように腫瘍発生に関与するゲノム領域によってコードされるか、または遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子のタンパク質発現産物の活性を調整、もしくは機能を妨害することができる小分子である。加えて、小分子はまた、腫瘍細胞に対して少なくとも1つの結合された毒性の化合物を送達するために使用することができる。
【0029】
異なる阻害レベルにおいて、ゲノム領域によってコードされるか、またはゲノム領域の遺伝的形質転換による影響を受けるそれぞれの遺伝子から転写されるmRNAを破壊することによってタンパク質の産生を遮断するために、核酸を使用することができる。これは、アンチセンス薬、リボザイム、またはRNA干渉(RNAi)によって達成することができる。疾患プロセスの初期に作用することによって、これらの薬物は、病原性タンパク質の産生を防止する。本発明は、表1に一覧を示したゲノム領域によってコードされるか、または遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子、もしくはその転写産物に対するアンチセンスRNAおよびアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドなどのアンチセンス薬、リボザイム、およびRNAi分子に関する。
【0030】
遺伝子の発現レベルは、腫瘍発生中に減少または増大させることができる。本来阻害剤は、発現レベルが上昇するときに使用される。しかし、本発明は、腫瘍発生に関与するゲノム領域によってコードされるか、またはゲノム領域の遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子の発現レベルを押し上げるための「エンハンサー」を提供し、その発現レベルを減少させる。「エンハンサー」は、遺伝子の発現レベルを増大させて、遺伝子の発現産物の機能を改善すること、または機能障害性の遺伝子発現を改善もしくは回復することが公知、もしくは見いだされた任意の化学的もしくは生物学的化合物であってよい。
【0031】
本明細書に開示されたゲノム領域によってコードされるか、もしくはゲノム領域の遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子の発現レベルの減少を克服するため、または機能障害性の遺伝子発現を回復するために非常に適した治療法は、機能障害性の遺伝子もしくは影響を受ける遺伝子、または該遺伝子の発現を駆動するその制御配列を遺伝子治療によって置換することを含む。したがって、本発明はさらに、遺伝子治療に関し、このとき表1に一覧を示したゲノム領域もしくはそのヒト相同体においてゲノム領域によってコードされるか、もしくは遺伝的形質転換による影響を受ける対象の機能障害性の遺伝子、または表1に一覧を示したゲノム領域もしくはこれらのヒト相同体として記載されたゲノム領域によってコードされるか、もしくは遺伝的形質転換による影響を受ける対象の遺伝子の機能障害性の制御配列が、機能的な対応物(例えば対象の腫瘍細胞株の前駆細胞であり、かつ該形質転換された宿主細胞を該被検体へ移植する、対象の宿主細胞のゲノム内への機能的な遺伝子または制御配列を含むレンチウイルスベクターの安定した組込み)で置換される。
【0032】
本発明は、遺伝子治療の形態に関連し、このとき表1に一覧を示したゲノム領域もしくはそのヒト相同体においてゲノム領域によってコードされるか、または遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子が、とりわけ癌細胞における適切なベクターからの発現の誘導に続いて野生型対応物の機能を阻害する遺伝子のドミナントネガティブな形態をデザインするために使用される。
【0033】
本発明のもう一つの目的は、1つまたは複数の阻害剤、「エンハンサー」、置換化合物、薬学的試薬もしくは活性成分として本発明に記載されるベクターまたは宿主細胞を含む、癌治療のための薬学的組成物を提供することである。組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される添加物、例えば担体、乳化剤、または貯蔵剤をさらに含むことができる。
【0034】
加えて本発明の目的は、癌を患う対象を治療するための方法であって、本発明に従った薬学的組成物を必要とする患者に対して治療上有効な量で投与することを含む方法を提供することである。
【0035】
本発明のさらなる局面は、癌の診断のための試薬を開発するための、マウスのゲノム領域または本明細書に開示されたもの、ならびにこれらのヒト相同体またはこれらの遺伝子発現産物の使用に関する。
【0036】
また、本発明は、癌を診断するための診断組成物であって、本明細書に開示されたマウスのゲノム領域に対して、ならびにこれらのヒト相同体に対して、これらによりコードされる遺伝子の転写産物に対して、および/またはこのような遺伝子の発現産物に対して、それぞれ特異的に結合することができる特異的な核酸プローブおよび/または特異的な抗体などの診断試薬を含む、診断組成物を提供する。
【0037】
加えて本発明は、本発明の診断組成物を使用することによって癌、好ましくは白血病を診断するための方法に関する。
【0038】
本発明の使用の好ましい局面および態様は、表1に一覧を示した

からなる群より選択される少なくとも2個、好ましくは少なくとも4個、より好ましくは少なくとも10個、さらにより好ましくは少なくとも30個、および最も好ましくは全てのマウスのゲノム領域からなる。これらの遺伝子のそれぞれが急性骨髄性白血病(AML)の1つまたは複数の特異的なサブグループにおいて調節され(mRNAレベルの上で)、選択的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされると思われたので、これらの遺伝子を使用して、AMLの患者の非常に有利な発現解析および/または白血病の診断方法を行ってもよい。本発明の側面および態様における使用は、表1に一覧を示したCd24a、Cish2、Cra、Ltb、およびPrdx2からなるマウスのゲノム領域の群の少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは少なくとも4個、および最も好ましくは全ての遺伝子の使用が特に好ましい。
【0039】
新たに見いだされたゲノム領域およびこのような領域の形質転換による影響を受ける遺伝子、ならびに腫瘍の発生に関与することがこれまでに知られていなかったものに加えて、本発明の局面および態様における使用は、例えばp53、Notch-1、Evi-1、NF1(Evi-2)、Lck-1、Pim-1、HoxA9(Evi-6)、Fli-1、Yy1、Pps、Ptpn1、およびN-Mycなどの癌の発症に関与することが公知の遺伝子配列による使用であっても良い。
【0040】
定義
本明細書において使用される「マウスのゲノム領域」または「ゲノム領域」という用語は、(マウス)ゲノムDNAのプロウイルスのタギングに使用されるウイルス核酸の組込み部位を示す。このようなウイルス組込み部位は、共通の組込み部位として同定されたときに、癌の発生に関与し、かつ公知のもしくは推定上の遺伝子の内部に、これらの制御配列などの公知もしくは推定上の遺伝子の近く(例えば前か後)に、または(マウス)ゲノム内のこれまでに未知であるが、定義された位置に位置してもよい。したがって、「マウスのゲノム領域」とは、本明細書において遺伝子、推定上の遺伝子、遺伝子もしくは推定上の遺伝子の近くの領域、またはその機能がこれまで知られていないマウスのゲノムの領域を示す。このようなゲノム領域に含まれる遺伝子、またはその発現がこのようなゲノム領域の遺伝的形質転換による影響を受ける遺伝子は、領域それ自体のヌクレオチド配列およびこれらの発現産物であるので、癌の発生に関与すると考えられている。
【0041】
「発現産物」は、タンパク質および/またはRNAであってもよい。
【0042】
本明細書において使用される「マウスのゲノム領域関連遺伝子」とは、本発明のマウスのゲノム領域に完全に、もしくは部分的に含まれる遺伝子、またはそこでの形質転換に影響を受ける遺伝子であり、すなわち一般的に;本発明のマウスのゲノム領域における形質転換によってその機能または発現が影響を受ける遺伝子である。
【0043】
本明細書において使用される「標的細胞」という用語は、真核細胞、好ましくは動物(ヒトを含む)、より好ましくは分化した組織細胞およびこれらの前駆細胞を含む哺乳動物細胞を示し、これは、本発明のベクターによって感染もしくはトランスフェクトさせることができるか、または本発明の診断試薬のターゲットである。
【0044】
本明細書において使用される「産生細胞(producer cell)」という用語は、それぞれ本発明のベクターの複製、増殖、および/または産生に適した細胞または細胞株をいう。
【0045】
本明細書において使用される「宿主細胞」という用語は、一般にウイルスゲノムの発現、またはベクターもしくはウイルスの増殖のために使用される細胞を示し、本発明の状況においては、標的および産生株細胞の両方を含む。
【0046】
「ウイルスベクター」という用語は、宿主細胞において転写することができるウイルスゲノムを含む核酸構築物であって、そのゲノムは、十分なウイルス遺伝情報を含み、パッケージング成分の存在下において、ウイルスRNAゲノムを、標的細胞を感染させることができるウイルス粒子にパッケージングすることができる。標的細胞の感染は、特定のウイルスに適している場合には、逆転写および標的細胞ゲノムへの組込みを含む。
【0047】
「単離された核酸配列」という用語は、それが由来する生物体の天然に存在するゲノムの核酸配列に隣接するヌクレオチド配列を有さない核酸配列を意味する。したがって、本用語は、例えばベクターに;自己複製性のプラスミドに、またはそれに由来するものではない原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる任意の組換えDNA;またはその他の配列から独立した別々の分子(例えば、RNA、cDNA、またはPCRもしくは制限エンドヌクレアーゼ消化によって産生されたゲノムもしくはcDNA断片)として存在するものを含む。またこれは、さらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAを含む。
【0048】
本明細書において使用される「ポリヌクレオチド」、「核酸」、または「オリゴヌクレオチド」は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド重合体、および他に限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドに準じた方法で核酸にハイブリダイズする天然のヌクレオチドの公知の類似体の言及を含む。特定の態様において、「ポリヌクレオチド」、「核酸」、または「オリゴヌクレオチド」は、天然のリン酸ジエステル「核酸」に対してと同様の配列特異的相互作用を形成することができる化学物質によって置換することができる。公知かつ好ましい類似体は、ホスホロチオエートもしくはメチルホスホネート連絡を有するヌクレオチドの重合体、またはペプチド核酸を含む。特に明記しない限り、特定の核酸配列は、これらの相補配列を含む。
【0049】
コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列によってコードされるmRNAにコード配列を転写するときに、細胞内において制御配列の「制御下に」ある。
【0050】
本明細書において定義される「コード配列」という用語は、制御配列の制御下に配置したときにmRNAに転写され、任意でポリペプチドに翻訳される配列である。コード配列の境界は、通常5'末端の翻訳開始コドンATGおよび3'末端の翻訳終止コドンによって決定される。コード配列は、RNA、DNA、cDNA、および組換え核酸配列を含むことができるが、これらに限定されない。
【0051】
「制御配列」という用語は、コード配列の発現のために必要か、または有利である全ての構成要素を含むことが本明細書において定義される。それぞれの制御配列は、コード配列に対して天然であってもよく、または外来性であってもよい。このような制御配列は、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、プロモーター、シグナル配列、および転写ターミターを含むが、これらに限定されない。少なくとも制御配列は、プロモーターならびに転写および翻訳終止シグナルを含む。制御配列には、ポリペプチドをコードする核酸配列のコード領域と制御配列のライゲーションを容易にする特異的な制限部位を導入する目的でリンカーを提供してもよい。
【0052】
「プロモーター」という用語は、本明細書において、RNAポリメラーゼの結合および転写の開始をもたらすDNA配列を含む遺伝子の一部を示すために、当該技術分野において認識されるその意味について使用される。プロモーター配列は、遺伝子の5'非コード領域において、常にではないが、共通に見いだされる。
【0053】
「パッケージング成分」という用語は、ウイルスの核酸を成熟したウイルス粒子に封入するために必要な構成要素をいう。
【0054】
本明細書において使用される「ヌクレオチド配列相同性」または「配列相同性」または「相同配列」という用語は、二つ以上のポリヌクレオチド間に相同性が存在することを意味する。ポリヌクレオチドは、それらの配列のヌクレオチド配列が、最大限一致して整列させたときに同じである場合、「相同的な」配列を有する。二つ以上のポリヌクレオチド間の配列比較は、通常、比較ウインドウ(comparison window)上で2つの配列部分を比較して、配列類似性の局部的な領域を同定し、かつ比較することによって行われる。比較ウインドウは通常、約20〜200の近接するヌクレオチドである。50、60、70、80、90、95、98、99、または100パーセントなどの、ポリヌクレオチドの「配列相同性の割合」は、配列相同性が比較ウインドウにわたって2つの最適に整列された配列を比較して決定されてもよく、比較ウインドウのポリヌクレオチド配列部分は、2つの配列の最適な配列のために、参照配列(これは、付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、間隙)を含んでいてもよい。割合は:(a)同一の核酸塩基が両配列に存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を得ること;(b)比較ウインドウ内の全ての位置の数によってマッチした位置の数を割ること;および(c)結果に100を乗じて配列相同性の割合を得ることによって算出される。比較のための配列の最適なアラインメントは、公知のアルゴリズムのコンピュータ処理の実行によって、または目視検差によって行ってもよい。容易に利用できる配列比較および複数配列のアラインメントアルゴリズムは、それぞれBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul, S.F.ら、1990. J. Mol. Biol. 215:403; Altschul, S.F.ら、1997. Nucleic Acid Res. 25:3389-3402)およびClustalWプログラムであり、両方ともインターネット上で利用できる。他の適切なプログラムには、Wisconsin Genetics Software Package (Genetics Computer Group (GCG), Madison, WI, USA)のGAP, BESTFIT、およびFASTAが含まれる。
【0055】
本明細書において使用される核酸配列に対して「実質的に相同的な」という用語は、2つの核酸配列が少なくとも40、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも80、さらにより好ましくは少なくとも90、なお好ましくは少なくとも95、なお好ましくは少なくとも98、および最も好ましくは少なくとも99パーセントのヌクレオチド配列相同性の「配列相同性の割合」を有するものと解釈されるべきである。
【0056】
本明細書において使用される「ヒト相同体」という用語は、マウスにおいて同定された(推定上の)遺伝子と同じ機能を有するヒト(推定上の)遺伝子と解釈されるべきである。「ヒト相同体」とは、本発明に記載されたそれぞれのマウスの遺伝子に関して、本発明のマウス遺伝子に由来するアミノ酸配列と45%より多く、好ましくは60%より多く、より好ましくは70%より多く、なお好ましくは80%より多く、さらに好ましくは90%より多く、および最も好ましくは95%より多くの一致性を示すアミノ酸配列をコードするヒト遺伝子を示し、酵素の場合には、本発明のマウス遺伝子をコードする酵素と同じタイプの酵素活性を示すポリペプチドのアミノ酸配列である。本明細書で定義されるマウスのゲノム領域の(推定上の)遺伝子でない「ヒト相同体」は、遺伝的に形質転換されるときに、ヒトおよびマウスにおいて同一の異常な遺伝子機能を生じるヒトゲノム内のゲノム領域を示す。
【0057】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、多選択性の抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド結合したFvs(sdFv)、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、ならびに上記の任意のエピトープ結合断片をいう。特に、本発明の抗体は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち表1に一覧を示したゲノム領域に含まれる遺伝子によってコードされるか、またはゲノム領域の遺伝的形質転換による影響を受けるポリペプチド抗原と免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を含む。本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子のいずれのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)またはサブクラスであってもよい。
【0058】
「オリゴヌクレオチドアレイ」という用語は、少なくとも2つの異なる特徴を有する2次元の表面を有する基質をいう。オリゴヌクレオチド・アレイは、好ましくは表面上のそれぞれの特徴の局在がスポットされるように配列される。好ましい態様では、アレイは、1平方cmあたり少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも10,000、少なくとも100,000フィーチャー(feature)の密度を有することができる。基質は、単に例示によるものだが、ガラス、シリコン、クォーツ、重合体、プラスチック、または金属であることができ、ガラス顕微鏡スライドまたはガラス・カバーガラスの厚みを有することができる。チップ上でアッセイを行う方法が光学検出を含む場合には、光を透過する基質が有用である。本明細書において使用される本用語はまた、プローブアレイおよびウェーハの一部を形成するものが付着された基質をいう。基質はまた、ポリエステルまたはナイロンでできている膜であってもよい。本態様において、1平方cmあたりのフィーチャー密度は、数単位〜数ダースの間に含まれる。
【0059】
本発明に従った「調節すること」とは、遺伝子発現または経路を調整すること、制御すること、遮断すること、阻害すること、刺激すること、増強すること、活性化すること、模倣すること、バイパスすること、訂正すること、除去すること、および/または置換すること、より一般的な用語では、該遺伝子発現または該経路に介入することとして理解されるべきである。
【0060】
本明細書において使用される「対象」とは、生物体;例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、ネコ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、サル、ヒツジ、またはその他のヒト以外の哺乳動物を含む哺乳動物;および例えばトリ(例えば、ニワトリもしくはカモ)またはサカナ、および非哺乳動物の無脊椎動物などの非哺乳動物の脊椎動物を含む非哺乳動物を含むが、これらに限定されない。
【0061】
発明の詳細な説明
上記で概説したように、癌発生に関与する遺伝子の一致性についての知識により、本症のための予防、治療、および診断方法の開発が非常に容易になる。多くのさらなる癌遺伝子および潜在的な癌遺伝子の発見により、現在、癌を検出および治療するための、ならびに癌を患う対象を治療するか、または疾患を有することが疑われる対象を診断、もしくは疾患の重篤さもしくはタイプを診断するために有用な予防的、治療的、および診断的組成物を提供するためのツールを提供する。
【0062】
好ましい態様において、本発明は、白血病の治療のため、より好ましくは急性骨髄性白血病(AML)の治療のために、本発明に従った方法、物質、組成物、および使用を提供することを目的とする。
【0063】
白血病は、成人の血液形成細胞(造血幹細胞および前駆細胞)が存在する骨髄において生じる一種の癌である。白血病は、通常分化され、機能的な血液細胞タイプを発生するその能力を部分的または完全に失った、癌性の血液細胞の制御されない産生および蓄積を指す。白血病は主に、異なる予後および治療のタイプに対する要求を有する、臨床的に異なるカテゴリーに分類することができる。臨床的および細胞学的なパラメーターに基づいて、白血病は、一般に以下のカテゴリーに分類される:慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、および急性リンパ芽球性白血病(ALL)。この種の白血病の臨床病理学的な特徴は異なっており、種々の治療形態を必要とし、変動する病原力および治療に関連した罹患率および死亡率を有する。
【0064】
過去20年において、免疫学的、細胞遺伝学的、およびより最近では、分子遺伝学的なパラメーターに基づいて、上述の分類のさらなる改良が開発された。この改良により、治療法の選択、ならびにより良好な患者の予後および治療応答の予測の改善がなされ、グッドリスク(good risk)、標準リスク、およびプアリスク(poor risk)のカテゴリーに白血病患者を分類するための基礎を形成した。しかし、これらのカテゴリーは、いまだ不均一であり、さらなる改善が緊急に必要とされている。
【0065】
加えて、この不均一の根底にある病原性および病態生理学的な機構のさらなる洞察は、特定の病原性機構に照準をあてた新たな治療法を開発するための非常に貴重な情報源を提供することから緊急に必要とされている。これにより、等しく有効な治療効果を有する死亡率および罹患率の減少を生じるだけでなく、白血病のために現在利用可能な治療の選択肢に不応性の患者のための治療法も開発されることとなる。
【0066】
レトロウイルスの組込みによって影響を受ける遺伝子の多くは、下記の実施例においてさらに詳細に記載されているように、シグナリングに関連するものと思われ、その幾つかはすでにヒト白血病に結びつけられている。例えば、Graffi-1.4 MuLVの場合には、通常は血管内皮細胞および造血幹細胞に発現されるチロシンキナーゼ受容体をコードするTie-1遺伝子が、慢性骨髄性白血病(CML)において過剰発現される。重要なことに、高いTie-1レベルは、慢性期の初期におけるCML患者の生存とは逆に相関する。また、MDS(脊髄形成異常症候群)およびAML患者からの骨髄試料において、Tie-1レベルの強力な増大が発見されていた。Notch-1は、ヒト疾患と関係するCISのもう一つの例である。Notch(Tan-1)遺伝子のヒト相同体は、染色体転位置t(7;9)(q34;34.3)に関与しており、ヒトTリンパ芽球性新生物に切断型(truncated)受容体を生じる。Notch-1は、マウス・リンパ性白血病のプロウイルスの組込み部位である。また我々のデータは、Notchシグナリングの異常が、骨髄性白血病に関与するであろうことを示唆している。特に、Notch遺伝子の組込みにより、予測通りNotchの切断された活性型の構成的な形成を生じ、32D細胞モデルにおいてG-CSFで誘導される骨髄性の分化を妨害する。
【0067】
したがって、本明細書に開示されている、新たに発見された遺伝子配列またはマウスのゲノム領域の関与により、疾患発症の新規経路を同定すること、ならびに癌の、特に白血病の病原性における遺伝子間の協同的な作用をより適切に理解すること、したがって、より適切に疾患を診断および治療することができる。
【0068】
本明細書で報告した知見の潜在的重要性は、マウスの癌に限定されない。また、本明細書で同定されたマウスのゲノム領域の多くは、ヒトおよびその他の哺乳動物の癌発症においても重要な役割を果たす。マウスおよびヒトの白血病に関与する遺伝子の例は、例えば癌抑制遺伝子Evi2/Nf1(Buchbergら、Mol Cell Biol, 10, 4658-4666, 1990; Shannonら、N Engl J Med, 330, 597-601, 1994; Sideら、Blood, 92, 267-722, 1998)、または発癌遺伝子Nmyc-1(Hirvonenら、Leuk Lymphoma, 11, 197-205, 1993; Setoguchiら、Mol Cell Biol, 9, 4515-4522, 1989)、Evil(Morishitaら、Oncogene Res, 5, 221-231, 1990; Morishita Cell, 54, 831-840, 1988)、Evi6/Hoxa9(Nakamuraら、Nat Genet, 12, 154-158, 1996; Nakamuraら、Nat Genet, 12, 149-153, 1996)、Bcll/CyclinD1(de Boerら、1997 Ann Oncol, 8, 109-117; Silver & Buckler, J Virol, 60, 1156-1158, 1986)、Erg(Shimizuら、Proc Natl Acad Sci USA, 90, 10280-10284 1993; Valkら、Nucleic Acids Res, 25, 4419-4421, 1997)、またはspi-1/Pu.1(Mueller BUら、Blood 101 (5):2074, 2003)である。現在公知のレトロウイルスのスクリーンで同定されたマウスの癌遺伝子の概要は、インターネット・アドレスhttp://genome2.ncifcrf.gov/RTCGD/上で見出すことができる。同様に、したがって、本明細書に開示された多くの遺伝子は、ヒトにおいても癌の発症に関与することが予測される。
【0069】
突然変異は、成長因子、生長因子受容体、およびその他の膜タンパク質をコードする遺伝子、キナーゼ、ホスファターゼ、およびその他の調節酵素、転写調節因子、ならびに生存およびアポトーシスのプロセスに重要なタンパク質において頻繁に観察される。複数の「白血病遺伝子」、例えばRas(Bos JLら、Blood. 69:1237-41, 1987;Galiana C.ら、Mol Carcinog. 14:286-93, 1995; van't Veerら、Oncogene 2:157-65, 1988)、p53(Carson DA, Lois A., Lancet. 14;346(8981):1009-11, 1995)、NF-1(McLaughlin ME, Jacks T, Methods Mol Biol. 222:223-237, 2003; Nishi T, Saya H., Cancer Metastasis Rev. 10:301-310, 1991)、またはC-kit(Rubin BPら、Cancer Res. 61:8118-8121, 2001)が、特定のその他のタイプの悪性腫瘍の原因となる疾患遺伝子であることが証明された。
【0070】
急性骨髄性白血病(AML)は、成人の急性白血病で最も頻繁な形態であり、白血病で最も病原力のある形態の1つであり、異なる種類の化学療法によって治療されない限り、急性的に生命を脅かす。年齢を含む種々の臨床的なパラメーター、および検査所見、例えば細胞遺伝学的な特徴によって決定されるAMLサブタイプに応じて、同種間の幹細胞移植が化学療法による緩解の誘導をフォローするかもしれない。成人AMLの5年にわたり疾患がない生存率は、現在ほぼ35〜40%である。予後のサブタイプ間のより優れた区別が可能な、および現在まで治療することができなかった広範な患者群のための新たな治療的ストラテジーが可能な、より正確なAML診断の強い要求がある。現在利用可能な実験技術では、予後の分類をすることができるが、これはいまだ決して最適なものではない。さらに、大部分の患者では、満足にリスクを層別化することができず、依然として大多数の患者は、現在利用可能な治療様式では治癒されない。
【0071】
白血病の病因は、複雑である。臨床的に明らかになる前に、白血病細胞は、通常の血液細胞産生を制御する調節遺伝子に後天性の複数の欠陥を有する。主にこれらの遺伝子が、ヒトAMLにおいて見いだされた特異的な染色体転位に関与する重要な染色体領域に位置していたという事実によって、ヒト白血病においてはこれまで、これらの遺伝子のうちの少数だけしか同定されていなかった。マウス、特にレトロウイルスのタギングを含むものにおける研究では、研究につき比較的小数のレトロウイルスの挿入および標的遺伝子のみが得られ、それにもかかわらず、マウス白血病の病原性に関与することができる少なくとも数百の遺伝子があることは明らかにされた。マウスとヒトの造血系との間の強力な保存に基づいて、例えば造血性の前駆細胞および調節因子(造血成長因子)の生物学的性質は、主に同じであるという事実から明らかであるように、マウス白血病に関係するかなりの割合の遺伝子(または、これらの近いファミリー)が、ヒト疾患の発生にも関与する可能性が非常に高い。
【0072】
現在開示されている遺伝子がヒト白血病において重要な役割を果たすという主張を立証するために、本発明者らは、ヒトAMLの288症例を調査した。これらは、チロシンキナーゼ受容体FLT3(FLT3-ITD)をコードする遺伝子内部にタンデム複製を有するAMLの症例(その特徴は、予後不良と関係する)、ならびにt(8;21)転位置を有するAMLの症例またはt(15;17)転位を有する患者(その特徴は、好ましいリスクのカテゴリー内に入る)からなる。本明細書に開示されている237遺伝子のうちの126について、該ヒトAMLの288症例のこれらの潜在的な関与についての研究を行った。研究は、以下の決定を含んだ:1)遺伝子を検出することができるかどうか、2)遺伝子の発現は、正常なヒト骨髄細胞における、特に未成熟の(CD34+)サブセットにおける発現レベルから有意に逸脱したかどうか、および3)現在までに定義されているAMLの最も有意な予後のサブグループにおいて差動的に発現されるであろうこれらの遺伝子がどの程度であるか。これらの決定の結果は、本明細書に開示した遺伝子がAMLの検出および区別においてさらなる診断力を提供することを示す。
【0073】
本発明に開示した(すなわち、表1の)多くのマウスのゲノム領域は、公知の遺伝子をコードする、すなわち公知のマウスの遺伝子をコードするが、骨髄性白血病の発症において、これらの遺伝子の関連はこれまでに認識されなかった。
【0074】
さらに、本発明に開示した腫瘍発生に関与するマウスのゲノム領域の残りは、未知の核酸配列を含む、すなわち現代のデータベースにおいて利用できる公知のマウスの遺伝子をコードする、およびすなわち推定上の遺伝子配列を含む配列に対して何らの有意な相同性も示さない。それにもかかわらず、表1に一覧を示した全ての核酸配列について、骨髄性白血病の発症におけるこれらのマウスのゲノム領域の関与を証明した。
【0075】
これらのマウスのゲノム領域が、骨髄性白血病の発生に関与するという知見は、白血病のその他の形態またはさらにその他の癌におけるこれらの役割を排除するものではない。したがって、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域はまた、骨癌、脳腫瘍、乳癌、内分泌系癌、胃腸癌、婦人科の癌、頭頚部癌、肺癌、リンパ腫、転移、骨髄腫、小児癌、陰茎癌、前立腺癌、肉腫、皮膚癌、精巣癌、甲状腺癌、および尿路癌などの癌において重要な役割を果たすであろう。
【0076】
本発明は、一つの局面において、治療的および/または診断的な使用のために適切な核酸配列を提供する。
【0077】
本発明に開示されたマウスのゲノム領域は、治療的方法および診断的方法の開発のために有用である。例えば、疾患の段階を決定するための診断アッセイ法が開発される可能性があり、またより穏やかな癌または腫瘍の進行に対して積極的な治療を適用する際にも有用であろう。例えば、t(15;17)の転位は、分化している血液細胞のオールトランス・レチノイン酸(ATRA)受容体をコードする遺伝子に突然変異を生じ、適当な分化のために必要とされるATRA受容体活性が障害されることが知られている。その結果、細胞分化が障害されて白血病が引き起こされる。細胞を分化させるために高用量のATRAを投与することは、現在十分に受け入れられている治療法である。これは、癌の分子機構についての知識が、治療のための重要な意味をもたらすことを証明している。
【0078】
マウスのゲノム領域、その中に含まれる遺伝子、およびそれによりコードされるポリペプチド、ならびに本発明のマウスのゲノム領域の形質転換による影響を受ける遺伝子およびそれによりコードされるポリペプチドは、このような方法に有用な診断試薬をデザインするために有用である。
【0079】
さらに、誤って調節される遺伝子の調整または遺伝子発現産物は、癌、腫瘍進行、過剰増殖性の細胞増殖、ならびに付随する物理的および生物学的な徴候を治療または改善するために使用することができる。例えば、本明細書に提供されるマウスのゲノム領域は、アンチセンス、リボザイム、抗体、ワクチン抗原、および免疫系誘導因子などの治療に有用な核酸構築物およびポリペプチド組成物に使用することができる。したがって本発明は、診断のための方法および試薬、ならびに治療のための方法および組成物に関する。
【0080】
一つの局面において、全長cDNAおよび全長ヒト遺伝子およびプロモーター領域を得るために、本明細書に開示された一連の1つまたは複数の癌関連遺伝子を有する核酸の提供が使用される。このような使用の1つは、遺伝子配列によってコードされるポリペプチドの産生である。
【0081】
ポリペプチドの製造
本発明のマウスのゲノム領域においてコードされるポリヌクレオチド、対応するcDNA、または全長遺伝子は、その中のオープンリーディングフレーム(ORF)を同定するためのコンピュータ・アルゴリズムを使用することによって同定してもよい。その後、本発明のポリヌクレオチド構築物を得るために、完全もしくは部分的なコード配列を含む全長cDNAを合成により調製してもよく、適切な発現系に結合してもよい。適切なポリヌクレオチド構築物を、例えば、Sambrookら、(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed. (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)に記載されているように標準的な組換えDNA技術を使用して精製する。例えば、ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、細菌、酵母、昆虫、両生類、および哺乳動物の系を含むいずれの発現系においても発現される。適切なベクターおよび宿主細胞は、米国特許第5,654,173号に記載されている。
【0082】
細菌の発現系は、Changら、Nature (1978) 275:615、Goeddelら、Nature (1979) 281:544、Goeddelら、Nucleic Acids Res. (1980) 8:4057;欧州特許第0036,776号、米国特許第4,551,433号、DeBoerら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)(1983) 80:21-25、およびSiebenlistら、Cell (1980) 20:269において記載されているものを含む。
【0083】
酵母の発現系は、

に記載されているものを含む。
【0084】
昆虫の異種遺伝子の発現は、

に記載されているように達成される。多数のバキュロウイルス株および変種ならびに宿主からの対応する許容できる昆虫宿主細胞は、Luckowら、Bio/Technology (1988) 6:47-55、Millerら、Generic Engineering (Setlow, J.K.ら、編集),第8巻(Plenum Publishing, 1986), pp.277-279、およびMaedaら、Nature (1985) 315:592-594において記載されている。
【0085】
哺乳動物発現は、Dijkemaら、EMBO J. (1985) 4:761, Gormanら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)(1982) 79:6777, Boshartら、Cell (1985) 41:521、および米国特許第4,399,216号に記載されているように達成される。哺乳動物発現のその他の特徴は、HamおよびWallace, Meth. Enz. (1979) 58:44、 BarnesおよびSato, Anal. Biochem. (1980) 102:255、 米国特許第4,767,704号、第4,657,866号、第4,927,762号、第4,560,655号、国際公開公報第90/103430号、国際公開公報第87/00195号、および米国特許第RE 30,985号に記載されているように促進される。
【0086】
表1に一覧を示したマウスのゲノム領域を含むか、またはその中に含まれるポリヌクレオチド分子もしくはこれらの一部は、ベクターの分子を配置することによって増殖される。プラスミドを含むウイルスおよび非ウイルス・ベクターを使用する。プラスミドの選択は、増殖が望まれる細胞のタイプおよび増殖の目的に依存する。大量に所望のDNA配列を増幅し、作製するためには、特定のベクターが有用である。その他のベクターも、培養細胞で発現させるために適している。さらに他のベクターも、まるごとの動物またはヒトの細胞に導入および発現させるために適している。適切なベクターの選択は、十分に当該技術分野における技術の範囲内である。多くのこのようなベクターは、商業的に入手可能である。ポリヌクレオチドは、典型的にはベクターの切断された制限酵素部位に対して、DNAリガーゼでの接着によってベクターに挿入される。あるいは、所望のヌクレオチド配列をインビボで相同的組換えによって挿入してもよい。典型的には、これは、ベクターに対して相同的な領域を所望のヌクレオチド配列に隣接して付着することによって達成される。相同領域は、オリゴヌクレオチドのライゲーションによって、または例えば相同領域および所望のヌクレオチド配列部分の両方を含むプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応法によって付加される。
【0087】
ポリヌクレオチドは、所望の発現性質を得るために適切に制御配列に結合される。これらには、プロモーター(センス鎖の5'末端またはアンチセンス鎖の3'末端のいずれかに付着される)、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサー、および誘導因子が含まれ得る。プロモーターは、調節的または構成的であってもよい。いくつかの状況においては、組織特異的または発生段階特異的なプロモーターなどの、条件つきで活性なプロモーターを使用することが望ましいであろう。これらは、ベクターに結合するために、上記した技術を使用して所望のヌクレオチド配列に結合される。当該技術分野において公知の任意の技術が使用できる。
【0088】
本発明のポリヌクレオチドまたは核酸を複製および/または発現するために、上記の宿主細胞、またはその他の適切な宿主細胞もしくは生物体のいずれかを使用するときは、生じる複製された核酸、RNA、発現タンパク質、またはポリペプチドも宿主細胞もしくは生物体の産物として本発明の範囲内である。産物は、当該技術分野において公知の任意の適切な手段によって回収する。
【0089】
一旦ポリペプチドに対応する遺伝子が同定されると、その発現は、遺伝子が由来する細胞において調節することができる。例えば、細胞の内因性遺伝子は、米国特許第5,641,670号、「タンパク質の製造およびタンパク質の送達」にて開示したように外来性の制御配列によって調節することができる。
【0090】
分泌型および膜結合型のポリペプチドの同定
マウスのゲノム領域においてコードされるか、または任意の形でこれにより影響を受ける分泌型および膜結合型のポリペプチドは両方とも、関心対象となる。例えば、分泌型ポリペプチドのレベルは、血液または尿などの体液中で都合よくアッセイすることができる。膜結合型のポリペプチドは、ワクチンの抗原を構築するため、免疫応答を誘導するため、または細胞全体の診断のために有用である。このような抗原は、膜結合型ポリペプチドの細胞外領域の全部または一部を含む。
【0091】
分泌型および膜結合型のポリペプチドは、隣接する疎水性アミノ酸の断片を含むため、疎水性を予測するアルゴリズムをこのようなポリペプチドを同定するために使用することができる。
【0092】
シグナル配列は通常、細胞表面にポリペプチドを向けるために、分泌型および膜結合型の両方のポリペプチド遺伝子によってコードされる。シグナル配列は、通常疎水性残基の範囲(stretch)を備えている。このようなシグナル配列は、ヘリックス構造内に折りたたむことができる。
【0093】
膜結合型のポリペプチドは、典型的には、膜を横断し得る疎水性アミノ酸の範囲を有する少なくとも1つの膜貫通領域を含む。また、いくつかの膜貫通領域は、ヘリックス構造を示す。
【0094】
ポリペプチド内の疎水性断片は、コンピュータ・アルゴリズムを使用することによって同定することができる。このようなアルゴリズムは、Hopp & Woods, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 3824-3828 (1981); Kyte & Doolittle, J. Mol. Biol. 157:105- 132 (1982); および RAOAR algorithm, Degli Espostiら、Eur. J. Biochem. 190: 207-219 (1990)を含む。
【0095】
分泌型および膜結合型のポリペプチドを同定するもう一つの方法は、表1に一覧を示した本ポリヌクレオチドを翻訳し、少なくとも8個の隣接する疎水性アミノ酸が存在するかどうかを決定することである。少なくとも8個;より典型的には10個;さらにより典型的には12個の隣接する疎水性アミノ酸を有するこれらの翻訳されたポリペプチドは、推定上の分泌型または膜結合型ポリペプチドのいずれかであると考えられる。疎水性アミノ酸は、アラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンを含む。
【0096】
本発明のポリペプチドおよびこれらの変種の構築
治療試薬の開発のために有用なポリペプチドは、本明細書に開示されている遺伝子または推定上の遺伝子のヌクレオチド配列によってコードされるものを含む。また、これらのヌクレオチド配列は、遺伝暗号の縮重によって、開示されたヌクレオチド配列、配列が同一でない核酸によってもコードすることができる。したがって本発明は、その範囲内に表1に一覧を示した遺伝子配列のいずれか1つの配列を有するか、またはこれらに対して実質的に相同的な配列を有する該単離された核酸によって発現されるタンパク質またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸を含む。また、変異体、断片、および融合体を含むポリペプチドの変種は、本発明の範囲内である。変異体は、アミノ酸の置換、付加、または欠失を含み得る。アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換もしくは非必須アミノ酸を除去するための(糖鎖形成部位、リン酸化部位、もしくはアセチル化部位を変えるなどの)、または機能に必要とされない1つもしくは複数のシステイン残基の置換もしくは欠失によって誤った折り畳みを最小にするための置換であり得る。保存的アミノ酸置換は、置換されたアミノ酸の総電荷、疎水性/親水性、および/または立体的な大きさを維持するものである。例えば、以下の群の間での置換は、保存的である。

適切なコドンを選択して対応する変種を構築するために、遺伝暗号を使用することができる。
【0097】
小分子阻害剤
小分子阻害剤は通常、すでに存在する化合物ライブラリーのスクリーニングによって、または腫瘍発生に関与する遺伝子によってコードされるタンパク質の構造に基づいて化合物をデザインすることによって得ることができる化学成分である。簡潔には、少なくともタンパク質断片の構造を核磁気共鳴またはX線結晶学のいずれかによって決定する。この構造に基づいて、化合物の仮想スクリーニングを行う。選択した化合物を医薬品化学および/またはコンビナトリアル・ケミストリーを使用して合成し、その後にインビトロおよびインビボで、タンパク質に対するこれらの阻害作用について解析する。この工程は、化合物が所望の阻害作用によって選択されるまで繰り返すことができる。化合物の最適化後、適切な動物モデル系を使用して、その毒性プロフィールおよび癌治療としての有効性をインビボにおいて試験する。
【0098】
膜結合型のタンパク質をコードしない差動的に発現された遺伝子を、小分子阻害剤の開発のための標的として選択する。標的タンパク質の表面上の小分子について推定上の結合部位またはポケットを同定するために、これらの標的の三次元構造を標準的な結晶化技術によって決定する(de Vosら、1988, Science 239:888-93; Williamsら、2001, Nat Struct Biol 8:838-42)。同定された結合部位の機能的な重要性を確認するために、さらなる変異解析を行ってもよい。その後、小分子ライブラリーの仮想スクリーニングのために、Cerius2(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA, USA)およびLudi/ACD(Accelrys Inc., San Diego, CA, USA)ソフトウェアを使用する(Bohm. 1992 J Comp Aided Molec Design 6:61-78)。これらのプログラムによって潜在的な結合体として同定された化合物をコンビナトリアル・ケミストリーによって合成し、標準的なインビトロおよびインビボでのアッセイ法によって、標的に対する結合親和性について、ならびにこれらの標的タンパク質の機能の阻害能力についてスクリーニングする。新規の小分子の合理的な開発に加えて、既存の小分子化合物ライブラリーをこれらのアッセイ法を使用してスクリーニングし、リード化合物を作製する。その後、小分子の結合をどのように改善することができるかという情報を得るために、同定されたリード化合物を標的と共に結晶化する(Zeslawskaら、2000, J Mol Biol 301:465-75)。これらの知見に基づいて、新規の化合物をデザイン、合成、試験、および共結晶化(co-crystallize)する。この最適化プロセスを数ラウンド繰り返して、首尾よくその標的タンパク質の機能を阻害する本発明の高親和性化合物を開発する。最後に、化合物の毒性を標準的なアッセイ法を使用して試験して(MDS Pharma Services, Montreal, Quebec, Canadaによって商業的に入手可能なサービス)、その後に動物モデル系でスクリーニングする。
【0099】
リボザイム
トランスに切断する触媒RNA(リボザイム)は、エンドリボヌクレアーゼ活性を有するRNA分子である。リボザイムは、特定の標的に対して特異的にデザインされ、標的のメッセージは、特異的なヌクレオチド配列を含まなければならない。これらは、細胞RNAのバックグラウンドにおいて部位特異的に任意のRNA種を切断するようにデザインする。切断事象によってmRNAが不安定になり、タンパク質の発現が妨げられる。重要なことに、表現型の効果を検出することによって、インビトロまたはインビボの状況においてその機能を決定するために、リボザイムを使用して未知の機能を持つ遺伝子の発現を阻害することができる。
【0100】
1つの一般的に用いられるリボザイムのモチーフは、ハンマーヘッドであり、これに対する基質配列の要求は、最小である。ハンマーヘッド・リボザイムのデザインは、Usmanら、Current Opin. Struct. Biol. (1996) 6:527-533に開示されている。Usmanはまた、リボザイムの治療的な使用についても論議している。リボザイムはまた、Longら、FASEB J. (1993) 7:25; Symons, Ann. Rev. Biochem. (1992) 61:641; Perrottaら、Biochem. (1992) 31:16-17; Ojwangら、Proc. Natl. Acad. Sci. (USA)(1992) 89:10802-10806;および米国特許第5,254,678号に記載されているように調製し、使用することができる。HIV-I RNAのリボザイム切断は、米国特許第5,144,019号に記載されており;リボザイムを使用してRNAを切断する方法は、米国特許第5,116,742号に記載されており;ならびにリボザイムの特異性を増大するための方法は、米国特許第5,225,337号およびKoizumiら、Nucleic Acid Res. (1989) 17: 7059-7071に記載されている。また、ハンマーヘッド構造のリボザイム断片の調製および使用は、Koizumiら、Nucleic Acids Res. (1989) 17:7059-7071に記載されている。ヘアピン構造のリボザイム断片の調製および使用は、ChowriraおよびBurke, Nucleic Acids Res. (1992) 20:2835に記載されている。また、リボザイムは、DaubendiekおよびKool, Nat. Biotechnol. (1997) 15 (3):273-277に記載されているように、回転転写(rolling transcription)によって作製することができる。
【0101】
リボザイムのハイブリダイズ領域は、修飾されていてもよく、またはHornおよびUrdea, Nucleic Acids Res. (1989) 17:6959-67に記載されているように調製してもよい。また、リボザイムの基本構成は、当業者になじみのある方法で化学的に変更してもよく、化学的に合成されたリボザイムは、単量体単位によって修飾された合成オリゴヌクレオチド誘導体として投与することができる。治療的な状況において、リポソームを媒介したリボザイムの送達により、Birikhら、Eur. J. Biochem. (1997) 245:1-16に記載されているように、細胞の取込みが改善される。
【0102】
リボザイムの治療的および機能的なゲノムの適用は、阻害される遺伝子の一部のコード配列についての知識から進められる。したがって、多くの遺伝子については、核酸配列は有効なリボザイムを構築するための適切な配列を提供する。標的切断部位は、標的配列中で選択され、リボザイムは、切断部位に隣接する5'および3'ヌクレオチド配列に基づいて構築される。標的コード配列のmRNAを標的とする単量体および多量体のハンマーヘッド・リボザイムを発現するようにレトロウイルスベクターをデザインする。標的mRNAを切断する能力について、これらの単量体および多量体のリボザイムをインビトロで試験する。リボザイムを発現するレトロウイルスベクターを安定的に細胞株に導入して、ノーザンブロット解析および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によって形質導入を確認する。疾患マーカーの発現の減少または標的mRNAの遺伝子産物の減少などの指標によって、標的mRNAの不活性化について細胞をスクリーニングする。
【0103】
アンチセンス
アンチセンスポリヌクレオチドは、RNAと特異的に結合するようにデザインされており、RNA-DNAまたはRNA-RNAハイブリッドの形成を生じると共に、DNA複製、逆転写、またはメッセンジャーRNA翻訳を停止する。選択された配列に基づいたアンチセンスポリヌクレオチドは、対応する遺伝子の発現を妨害することができる。
【0104】
アンチセンスポリヌクレオチドは、典型的には、転写される鎖としてアンチセンス鎖を含むアンチセンス構築物からの発現によって細胞内で作製される。アンチセンスポリヌクレオチドは、対応するmRNAに結合、および/または翻訳を妨害する。したがって、アンチセンスは、発癌遺伝子の発現の阻害に治療的に使用できる。
【0105】
アンチセンスRNAまたはアンチセンス・オリゴデオキシヌクレオチド(アンチセンスODN)は両者とも使用することができ、またインビトロ合成もしくは組換えDNA技術によって調製してもよい。どちらの方法も、当業者の技術の範囲内である。ODNは、完全なアンチセンスRNAよりも小さく、したがってこれらは、より容易に標的細胞に入ることができるという利点を有する。DNAseによる消化を回避するために、ODNおよびアンチセンスRNAを化学的に修飾してもよい。所望の標的細胞にターゲティングするために、分子は、標的細胞上に見いだされる受容体のリガンドに、または標的細胞の表面上の分子に対する抗体に結合してもよい。
【0106】
種々の癌のためのアンチセンス療法が臨床段階にあり、文献においても広範囲に論議されてきた。Reedは、腫瘍のBcl-2遺伝子に向けられたアンチセンス療法を概説し;腫瘍細胞株における遺伝子導入を媒介したBcl-2の過剰発現は、多くの種類の制癌剤に抵抗性を与えた。(Reed, J. C., N.C.L. (1997) 89:988-990)。rasのアンチセンス阻害剤の臨床的な開発の可能性が、Cowsert, L.M., Anti-Cancer Drug Design (1997) 12:359-371によって論議されている。さらなる重要なアンチセンス標的は、白血病(Geurtz, A.M., Anti-Cancer Drug Design (1997) 12:341-358);ヒトC-refキナーゼ(Monia, B.P., Anti-Cancer Drug Design (1997) 12:327-339);およびプロテインキナーゼC(McGrawら、Anti-Cancer Drug Design (1997) 12:315-326を含む。
【0107】
アンチセンス療法の広範な背景文献および臨床経験をを考えれば、当業者は、さらなる潜在的な療法として本発明の選択された核酸を使用することができる。
【0108】
RNAi
RNAiは、遺伝子の転写産物を特異的にターゲットして、ヌルまたは低形質の表現型を生じさせるための相同的な二本鎖RNAの導入をいう。RNA干渉は、開始工程およびエフェクター工程が必要である。第1の工程では、入力の二本鎖(ds)RNAがヌクレオチド「ガイド配列」に処理される。これらは、一本鎖または二本鎖であってもよい。ガイドRNAは、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるヌクレアーゼ複合体に組み込まれ、これが第2のエフェクター工程においてmRNAを破壊するように作用して、塩基対形成相互作用を介してガイドRNAによって認識される。したがって、RNAi分子は、標的遺伝子発現のサイレンシングにおいて非常に強力な二本鎖RNA(dsRNA)である。本発明は、表1に一覧を示した遺伝子に対して相補的なdsRNAを提供する。
【0109】
また、dsRNAがそれ自身の配列に対応する遺伝子の発現を抑制する能力は、転写後遺伝子サイレンシングまたはPTGSと呼ばれている。細胞の細胞質において通常見いだされる唯一のRNA分子は、一本鎖mRNA分子である。細胞は、二本鎖RNA、dsRNAの分子を見いだした場合、酵素を使用して、一般に21塩基対(二重らせんの約2つのターン)を含む断片にこれらを切断する。次いで、それぞれの断片の2つの鎖をアンチセンス鎖を曝露するのに十分なように分離して、その結果、mRNAの分子上の相補的なセンス配列と結合することができる。これにより、その領域のmRNAの切断をトリガーし、したがって、これがポリペプチドに翻訳される能力を破壊する。特定の遺伝子に対応するdsRNAを導入すると、その遺伝子の細胞の内因性発現をノックアウトすると考えられる。これは、選択した時間に特定の組織において行うことができる。単にdsRNA断片を細胞に導入することが不利となる可能性は、遺伝子発現が一時的に減少されるということのみである。しかし、抑制される遺伝子に対応するdsRNAを連続的に合成することができるDNAベクターを細胞に導入することによって、より永続的な解決法が提供される。
【0110】
RNAi分子は、当業者に周知の方法によって調製される。一般に、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域のうちの少なくとも1つの配列に実質的に相同的であり、かつ1つまたは複数の転写物を形成することができ、該マウスの癌遺伝子の転写産物(の一部)と部分的に完全な二本鎖(ds)RNAを形成することができるヌクレオチド配列を含む単離された核酸配列は、RNAi分子として機能するであろう。二重鎖の領域は、ほぼ10〜250、好ましくは10〜100、より好ましくは20〜50ヌクレオチドの間の長さであってもよい。
【0111】
RNAi分子は、好ましくは導入された宿主細胞において組換えベクターから発現され、造血幹細胞は、これに非常に適している。
【0112】
ドミナントネガティブ突然変異
ドミナントネガティブ突然変異は、多量体として活性である対応するタンパク質について容易に作製される。変異体ポリペプチドは、野生型ポリペプチド(その他の対立遺伝子から作製される)と相互作用し、機能的でない多量体を形成する。したがって突然変異は、基質結合領域、触媒領域、または細胞局在領域にある。望ましくは、変異体ポリペプチドは過剰産生される。このような効果を有する点突然変異を作製する。加えて、タンパク質の末端に対する種々の長さの異なるポリペプチドの融合により、ドミナントネガティブ変異体を得ることができる。一般的なストラテジーをドミナントネガティブ変異体を作製するために利用できる。Herskowitz, Nature (1987) 329:219-222を参照されたい。このような技術は、タンパク質の機能を決定するために有用な機能喪失突然変異を作製するために使用することができる。
【0113】
プローブおよび増幅プライマーの検出
表1に一覧を示したマウスのゲノム領域のヌクレオチド配列から選択されるか、または該マウスのゲノム領域の形質転換による影響を受ける遺伝子のヌクレオチド配列もしくはこれらの相補物から選択される少なくとも8、好ましくは少なくとも10、およびより好ましくは少なくとも12の近接するヌクレオチドを含むポリヌクレオチド・プローブおよびプライマーは、ヒト染色体の同定およびこれらの遺伝子の転写レベルの決定を含む種々の目的のために使用される。
【0114】
ヌクレオチド・プローブは、例えば放射性、蛍光、ビオチン化、または化学発光標識で標識して、選択した特定の標識に適切な周知の方法によって検出する。また、中期染色体の標品に対してヌクレオチド・プローブをハイブリダイズさせるためのプロトコルは、当該技術分野において周知である。ヌクレオチド・プローブは、プローブのヌクレオチド配列に対して相補的な染色体標品のヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズするであろう。ポリヌクレオチドに対して特異的にハイブリダイズするプローブは、その他の無関係な配列で与えられるバックグラウンド・ハイブリダイゼーションよりも少なくとも5倍、10倍、または20倍高い検出シグナルを与えるはずである。
【0115】
ヌクレオチド・プローブは、ポリヌクレオチドに対応する遺伝子の発現を検出するために使用する。例えば、ノーザンブロットでは、mRNAを電気泳動によって分離し、プローブと接触させる。プローブは、特定のサイズのmRNA種にハイブリダイズしたとして検出される。例えば特定の条件下において、ハイブリダイゼーションの量を定量して、発現の相対量を決定する。
【0116】
プローブはまた、ポリメラーゼ連鎖反応法による増幅産物を検出するために使用される。反応産物をプローブにハイブリダイズさせて、ハイブリッドを検出する。細胞に対するインサイチューハイブリダイゼーションのためにプローブを使用して発現を検出するか、または染色体彩色を行う。また、ハイブリダイゼーション配列の診断用検出のために、プローブをインビボで使用することができる。プローブは、典型的には蛍光または発光標識によって標識される。検出可能な標識のその他のタイプは、発色団、放射性同位元素、および酵素などを使用してもよい。
【0117】
特異的なmRNAの発現は、異なる細胞タイプにおいて変化させることができ、組織特異的にすることができる。この異なる細胞タイプにおけるmRNAレベルの変化を核酸プローブ・アッセイ法で利用して、疾患段階を決定することができる。例えば、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域もしくはその中での形質転換によって影響を受ける遺伝子の核酸配列と実質的に同一であるか、または相補的な核酸プローブを利用するPCR法、分枝DNAプローブ・アッセイ法、またはブロット技術により、本発明のポリヌクレオチドに関連したcDNAまたはmRNAの有無を決定することができる。
【0118】
ヌクレオチド・ハイブリダイゼーションアッセイ法の例は、Urdeaら、PCT国際公開公報第92/02526号およびUrdeaら、米国特許第5,124,246号に記載されており、両者とも参照として本明細書に組み込まれる。本参照は、サンドイッチ・ヌクレオチド・ハイブリダイゼーションアッセイ法の例を記載している。
【0119】
あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)は、Mullisら、Meth. Enzymol. (1987) 155: 335-350;米国特許第4,683,195号;および米国特許第4,683,202号(全て参照として本明細書に組み入れられる)に記載されているように、少量の標的核酸を検出するためのもう一つの手段である。2つのプライマー・ポリヌクレオチド・ヌクレオチドを標的核酸とハイブリダイズさせて、反応をプライムするために使用する。プライマーは、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域またはその中での形質転換によって影響を受ける遺伝子の核酸配列内、またはその3'および5'の配列から構成されてもよい。あるいは、プライマーがこれらの核酸配列に対して3'および5'にある場合、これらまたは相補物にハイブリダイズさせる必要はない。それでもプライマーは、例えば表1に一覧を示したマウスのゲノム領域またはその中での形質転換によって影響を受ける遺伝子の核酸配列に隣接する配列に対してハイブリダイズさせてもよい。鋳型としてもとの標的核酸を使用して、耐熱性ポリメラーゼにより、プライマーから標的核酸のコピーを作製する。大量の標的核酸がポリメラーゼによって作製された後、これをサザンブロット法などの方法によって検出する。サザンブロット法を使用するときは、標識したプローブを表1に一覧を示したマウスのゲノム領域もしくはその中での形質転換によって影響を受ける遺伝子の核酸配列または相補物にハイブリダイズさせる。
【0120】
さらに、mRNAまたはcDNAを、Sambrookら、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual" (New York, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に記載されている従来のブロット技術によって検出することができる。ポリメラーゼ酵素を使用してmRNAから作製されたmRNAまたはcDNAは、ゲル電気泳動を使用して精製および分離することができる。次いで、ゲル上の核酸を固体支持体(例えばニトロセルロース)にブロットする。固体支持体を標識したプローブに曝露し、次いで洗浄してハイブリダイズされないプローブをすべて除去する。次に、標識プローブを含む二重鎖を検出する。典型的には、プローブを放射能で標識する。
【0121】
加えて、mRNAまたはcDNAは、プローブアレイを使用することによって検出することができる。mRNAを例えば腫瘍組織から得て、そこからインバースPCRによってcDNAを作製する。cDNAの中に蛍光標識ヌクレオチド類似体を組み入れることによって選択的に標識し、プローブアレイにハイブリダイズさせる。発現レベルは、アレイ上の対応するまたはそれぞれのプローブ部位から得られる蛍光シグナルの強度から決定される。
【0122】
抗体を生じさせるためのポリヌクレオチドの使用
本発明は、一つの局面において、治療および/または診断の用途のために適した抗体を提供する。
【0123】
治療的な抗体は、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域またはこれらの領域での形質転換によって影響を受ける遺伝子の核酸配列において(部分的に)コードされる遺伝子の発現産物と特異的に結合することができる抗体を含む。遺伝子産物に直接結合することによって、抗体は、例えばタンパク質の場合は立体障害により、またはこれらのタンパク質の機能的な領域を少なくとも1つ遮断することによって、これらの標的の機能に影響してもよい。したがってこれらの抗体は、遺伝子産物の機能の阻害剤として使用してもよい。このような抗体は、例えばタンパク質の機能に関連した領域に対して作製し、その後、これらが標的の機能を妨害する能力について標準的な技術およびアッセイ法を使用してスクリーニングしてもよい(例えばSchwartzberg, 2001, Crit Rev Oncol Hematol 40:17-24; Herbstら、Cancer 94:1593-611,2002を参照されたい)。
【0124】
あるいは、抗RNA抗体は、例えば本発明の腫瘍関連遺伝子のメッセンジャーをサイレンシングする際に有用であろう。もう一つの選択肢において、抗体は、例えば標的とされたタンパク質または核酸の機能に影響を及ぼすようにシグナリング経路のメンバーに結合することによって、間接的にこれらの標的の機能に影響を及ぼすために使用してもよい。さらにもう一つの選択肢において、治療的な抗体は、1つまたは複数の毒性化合物であって、標的または標的細胞に対して運搬抗体が結合することによってこれらに対して効果を発揮する毒性化合物を有していてもよい。
【0125】
診断目的のためには、上記と同様の抗体、好ましくは本発明の遺伝子の発現産物に結合できるものを使用してもよく、遺伝子産物の検出を可能にするために蛍光、発光、または同位元素標識のなどの検出可能な標識と共に提供される。好ましくは、このような診断用抗体は、膜結合型標的タンパク質などの細胞の外層膜に存在するタンパク質標的をターゲティングする。特定のタイプの癌を診断するための抗体の使用は、当業者に公知である(Syrigosら、1999, Hybridoma 18:219-24)。
【0126】
本発明に使用される抗体は、トリおよび哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリ)を含むいずれの動物由来であってもよい。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体である。本明細書において使用される「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリン・ライブラリー(ヒト免疫グロブリン配列に相同的な免疫グロブリン配列の合成物ライブラリーを含むが、これらに限定されない)から、またはヒト遺伝子から抗体を発現するマウスから単離された抗体を含む。
【0127】
ヒト抗体のインビボでの治療的または診断的使用、およびインビトロでの検出アッセイ法を含むいくつかの使用については、ヒトまたはキメラ抗体を使用することが好ましいであろう。完全なヒト抗体は、特にヒト対象の治療的な処置にとって望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列またはヒト免疫グロブリン配列に相同的な合成配列に由来する抗体ライブラリーを使用して、上記されているファージディスプレイ方法を含む当該技術分野において公知の種々の方法によって作製することができる。米国特許第4,444,887号および第4,716,111号;ならびにPCT刊行物国際公開公報第98/46645号、国際公開公報第98/50433号、国際公開公報第98/24893号、および国際公開公報98/16654号(それぞれが、その全体が参照として本明細書に組み入れられる)も参照されたい。
【0128】
本発明の方法によって使用される抗体は、すなわち共有結合で結合するように抗体に対して任意の種類の分子を共有結合することによって修飾された誘導体を含む。加えて、誘導体は、1つまたは複数の非典型的(non-classical)なアミノ酸を含んでいてもよい。
【0129】
本発明の特定の態様において、本発明で使用される抗体は、非修飾抗体と比較したときに、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて延長された半減期を有する。増大されたインビボ半減期を有するこれらの抗体または抗原結合性断片は、当業者に公知の技術によって作製することができる(例えば、PCT刊行物国際公開公報第97/34631号を参照されたい)。
【0130】
特定の態様において、本発明の方法に使用される抗体は、単鎖抗体である。単鎖抗体のデザインおよび構築は、Marascoら、1993, Proc Natl Acad Sci 90:7889-7893に記載されており、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0131】
特定の態様において、本発明で使用される抗体は、細胞内エピトープと結合する、すなわちイントラボディーである。イントラボディーは、少なくとも免疫特異的に抗原を結合することができる抗体の少なくとも一部分を含み、好ましくはその分泌のためのコード配列を含まない。このような抗体は、細胞内でその抗原を結合する。一つの態様において、イントラボディーは、単鎖Fv(「sFv」)を含む。sFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照されたい。さらなる態様において、イントラボディーは、好ましくは動作可能な分泌配列をコードせず、したがって細胞内に残る(一般にMarasco, WA, 1998, "Intrabodies: Basic Research and Clinical Gene Therapy Applications" Springer:New Yorkを参照されたい)。
【0132】
イントラボディーの作製は、当業者に周知であり、例えば米国特許第6,004,940号;第6,072,036号;第5,965,371号に記載されており、これらは、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0133】
一つの態様において、イントラボディーは、細胞質において発現される。その他の態様において、イントラボディーは、細胞内の様々な位置に局在される。このような態様では、イントラボディーを特異的な位置に向けるために、特異的な局在化配列をヌクレオチド内ポリペプチドに結合させることができる。
【0134】
本発明の方法に使用される抗体またはこれらの断片は、抗体の合成のための当該技術分野において公知の任意の方法によって、特に化学合成によって、または好ましくは、組換え発現技術によって産生することができる。
【0135】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換え技術、およびファージディスプレイ技術、またはこれらの組み合わせの使用を含む公知の多種多様な技術を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野において公知のもの、および例えばHarlowら、Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988); Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681 のHammerlingら(Elsevier, N.Y., 1981)(該参照は、その全体が参照として組み入れられる)の教示を含むハイブリドーマ技術を使用して産生することができる。本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術で産生される抗体に限定される。「モノクローナル抗体」という用語は、真核生物、原核生物、またはファージクローンのいずれかを含む単一クローンに由来する抗体をいい、それを産生する方法ではない。
【0136】
本発明の抗体を作製するために使用することができるファージディスプレイ方法の例は、国際公開公報第97/13844号;および米国特許第5,580,717号、第5,821,047号、第5,571,698号、第5,780,225号、および第5,969,108号に開示されたものを含み;それぞれは、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0137】
上記の参照に記載されているように、ファージの選択後、ファージから抗体コード領域を単離し、ヒト抗体、または他の任意の所望の抗原結合断片を含む全抗体を作製するためにも使用し、例えば後述するように、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、および細菌を含む任意の所望の宿主に発現することができる。また、Fab、Fab'、およびF(ab')2断片を組換えで産生する技術は、PCT刊行物国際公開公報第92/22324号; Mullinaxら、1992, BioTechniques 12(6):864-869およびBetterら、1988, Science 240:1041-1043(該参照は、その全体が参照として組み入れられる)に開示されたものなどの当該技術分野において公知の方法を使用して利用することができる。
【0138】
治療的に有用なIgG、IgA、IgM、およびIgE抗体を産生することもできる。ヒト抗体を産生するための技術の概要については、Lonberg and Huszar (1995, Int. Rev. Immunol. 13:65-93)を参照されたい。ヒト抗体およびヒト・モノクローナル抗体を産生するための技術、ならびにこのような抗体を産生するためのプロトコルの詳細な論議については、例えばPCT刊行物国際公開公報第98/24893号(その全体が本明細書に参照として組み入れられる)を参照されたい。加えて、Medarex, Inc. (Princeton, NJ), Abgenix, Inc. (Freemont, CA)およびGenpharm (San Jose, CA)などの会社は、上記したものと同様の技術を使用して選択された抗原に対するヒト抗体を提供するために関与し得る。
【0139】
抗体、その誘導体、または類似体(例えば、本発明の抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその部分、または本発明の単鎖の抗体)を産生するために使用した組換え発現には、抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築および適切な宿主細胞またはさらにインビボにおける該ベクターの発現が必要である。一旦本発明の抗体分子、または抗体の重鎖もしくは軽鎖をコードするポリヌクレオチド、またはそれらの一部分(好ましくは、重鎖もしくは軽鎖可変ドメインを含むが必須ではない)が得られたならば、当該技術分野において周知の技術を使用する組換えDNA技術によって、抗体分子の産生のためのベクターを作製してもよい。したがって、抗体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを発現することによってタンパク質を調製するための方法は、本明細書に記載されている。抗体コード配列ならびに適切な転写および翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築するために、当業者に周知である方法を使用することができる。これらの方法は、例えばインビトロでの組換えDNA技術、合成技法、およびインビボでの遺伝的組換えを含む。したがって本発明は、動作可能にプロモーターに結合された本発明の抗体分子、抗体の重鎖もしくは軽鎖、抗体もしくはその一部分の重鎖もしくは軽鎖可変ドメイン、または重鎖もしくは軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む、複製可能なベクターを提供する。このようなベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよく(例えば、PCT刊行物国際公開公報第86/05807号;PCT刊行物国際公開公報第89/01036号;および米国特許第5,122,464号を参照されたい)、抗体の可変ドメインを完全な重鎖、完全な軽鎖、または完全な重鎖および軽鎖の両方を発現するためのこのようなベクターにクローニングしてもよい。
【0140】
発現ベクターを、従来の技術によって宿主細胞へ導入し、次いで、本発明の抗体を産生するために、トランスフェクトされた細胞を従来の技術によって培養する。したがって本発明は、動作可能に異種プロモーターに結合された本発明の抗体もしくはその断片、またはそのの重鎖もしくは軽鎖、またはその一部分、または本発明の単鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含む。二重鎖抗体の発現のための好ましい態様において、下記に詳述したように、完全な免疫グロブリン分子の発現のために、重鎖および軽鎖の両方をコードするベクターを宿主細胞に同時発現させてもよい。
【0141】
本発明の抗体分子を発現するために、種々の宿主-発現ベクター系を利用してもよい(上記を参照)。
【0142】
多くのウイルスに基づいた発現系を哺乳動物宿主細胞で利用してもよい。発現ベクターとしてアデノウイルスが使用される場合、関心対象の抗体コード配列は、アデノウイルスの転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーターおよび三部(tripartite)リーダー配列に結合してもよい。次いで、このキメラ遺伝子をインビトロまたはインビボでの組換えによってアデノウイルス・ゲノムに挿入してもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)に挿入すると、感染した宿主において生存可能かつ抗体分子を発現することができる組換えウイルスを生じるであろう(例えば、Logan & Shenk, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:355-359を参照されたい)。また、挿入された抗体コード配列の効果的な翻訳のために、特異的な開始シグナルが必要とされるかもしれない。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接した配列を含む。さらに、完全な挿入断片の翻訳を確実にするために、開始コドンが所望のコード配列の読み枠と同調していなければならない。これらの外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両者の種々の起源のものであることができる。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーター、その他を含めることによって増強してもよい(例えば、Bittnerら、1987, Methods in Enzymol. 153:516-544を参照されたい)。
【0143】
一旦本発明の方法に使用される抗体分子が組換え発現によって産生されると、例えばクロマトグラフィーによって(例えば、イオン交換、親和性、特にプロテインAの後の特異的抗原に対する親和性、およびサイジング・カラムクロマトグラフィによって)、遠心分離、ディファレンシャル溶解度、またはタンパク質の精製のための任意のその他の標準的な技術によって、免疫グロブリン分子を精製するための当該技術分野において公知の任意の方法によって精製してもよい。さらに、本発明の抗体またはこれらの断片は、精製を容易にするために、本明細書に記載されているか、または別に当該技術分野において公知の異種ポリペプチド配列に融合させてもよい。
【0144】
上記したように、さらなる局面にしたがって、本発明は、治療に使用される上記記載の通りの抗体を提供する。
【0145】
治療的な処置のために、抗体をインビトロで産生して、これらが必要な対象に適用してもよい。抗体は、任意の適切な経路によって、好ましくはこのような経路に適応される薬学的組成物の形態で、および企図される治療に有効な用量で対象に投与してもよい。疾患の進行速度を減少させるため、または疾患の症状を除去するために必要とされる抗体の治療的に有効な用量は、当業者により容易に決めることができる。
【0146】
あるいは抗体は、上記の通りにインビボでの抗体産生法を使用することによって対象自体によって産生されてもよい。適切には、このようなインビボでの産生に使用されるベクターは、ウイルスベクター(好ましくは、特異的な癌細胞に対する標的細胞選択性を有するウイルスベクター)である。
【0147】
そのため、なおさらなる局面にしたがって、本発明は、該治療効果を達成するために哺乳動物の治療に使用するための薬剤の製造における上記記載の通りの抗体の使用を提供する。治療は、所望の治療効果を達成するために十分な用量の薬剤の投与を含む。治療は、抗体の反復投与を含んでいてもよい。
【0148】
なおさらなる局面にしたがって、本発明は、所望の治療効果を達成するために十分な用量の上記記載の通りの抗体の投与を含むヒトの治療方法を提供する。治療効果は、骨癌、脳腫瘍、乳癌、内分泌系の癌、胃腸の癌、婦人科の癌、頭頚部癌、白血病、肺癌、リンパ腫、転移、骨髄腫、小児癌、陰茎癌、前立腺癌、肉腫、皮膚癌、精巣癌、甲状腺癌、尿路癌などの様々なタイプの癌の軽減または予防、特に膀胱、頸部、肺、結腸、乳房、前立腺、卵巣、膵臓、肝臓、睾丸、子宮、骨、口腔、および中咽頭組織の緩解または充実性腫瘍の再発の予防であり、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ球性白血病(CLL)などの白血病が好ましく、最も好ましくはAMLである。
【0149】
診断および治療的な抗体は、好ましくはキナーゼまたはホスファターゼを標的とするために、これらのそれぞれの適用に使用され、細胞の表面上の受容体分子に結合されることが多い。したがって、これらの受容体分子に結合することができる抗体は、それぞれの受容体に結合することにより、キナーゼまたはホスファターゼに対してこれらの活性を調整する効果を及ぼすことができる。また、同じ理由から、抗体が細胞外に存在する場合に活性を調整する効果を発揮できる輸送タンパク質も有利にターゲティングされるであろう。シグナリング分子と共に上記の標的は、より有効な治療法として、本発明の抗体使用法の好ましい標的を表し、これにより、おそらく診断がより簡単になる。
【0150】
診断用抗体は、タンパク質のレベルの変化またはその中の構造変化を測定するためのアッセイ法において、遺伝子産物、好ましくはタンパク質の定性的および定量的な検出のために適切に使用することができる。タンパク質レベルは、例えば免疫染色した癌細胞のフローサイトメトリー評価によって、例えば細胞、細胞抽出物、上清、体液において決定してもよい。または、癌、好ましくは白血病の診断のために、ELISAまたはRIA、ウエスタンブロット法、および画像技術(例えば、共焦点レーザー走査顕微鏡観察を使用)などの定量的タンパク質アッセイ法を、本明細書に記載された抗体と組み合わせて使用してもよい。
【0151】
診断法のためのアレイを構築するためのポリヌクレオチドの使用
本発明のマウスのゲノム領域にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドならびにこれらの配列および遺伝子産物は、癌、腫瘍の発達、高増殖性(hyperproliferative)の増殖、および/または付随する生物学的もしくは物理的な徴候の発生を決定するために有用である。特に、マウスのゲノム領域を示すポリヌクレオチドならびにその中での形質転換による影響を受ける遺伝子およびコードされるポリペプチドは、白血病(例えばAML)の発生を決定するために利用することができる。
【0152】
癌、腫瘍の発達、高増殖性の増殖、および/または付随する生物学的もしくは物理的な徴候の発生を決定するために、試料における本発明のポリヌクレオチドおよび/またはコードされるポリペプチドのレベルを体の組織、細胞、器官、または体液の正常な対照レベルと比較する。正常な対照は、特定の器官または組織または組織群からの細胞および/または体全体にわたった細胞からのプールを含むことができる。このような測定のためには、当該技術分野において周知の免疫アッセイ法または核酸アッセイ法を使用することができる。
【0153】
試料と正常な対照との間で観察された任意の相違は、疾患または障害の発生を示し得る。典型的には、本発明のポリヌクレオチドおよびコードされるポリペプチドのレベルが、正常な対照において見いだされるものよりも高い場合、結果は癌、腫瘍の発達、高増殖性の増殖、および/または添付の生物学的もしくは物理的な徴候の発生を示す。
【0154】
加えて、本マウスのゲノム領域は、癌、腫瘍の発達、高増殖性の増殖、および/または付随する生物学的もしくは物理的な徴候の重篤さならびに発生を診断するためにも有用であり得る。例えば、該ゲノム領域に含まれるか、またはその中での形質転換による影響を受ける遺伝子の発現産物と、正常な対照との試料中で観察される相違が大きくなるにつれ、特に正常な対照と比較してより高いレベルが観察される場合に、障害の重篤さも大きくなる。
【0155】
ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド・アレイは、試料中の多数のポリヌクレオチド配列をアッセイすることができるハイ・スループット技術を提供する。この技術は、診断用として、およびコードされるタンパク質の機能を決定するために差動的な発現を試験するためのツールとして使用することができる。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド・アレイは、本発明による診断組成物の特定の態様を構成する。
【0156】
アレイを作製するためには、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドプローブを二次元のマトリックスまたはアレイの基体上にスポットする。ポリヌクレオチドの試料を標識し、次いでプローブにハイブリダイズさせることができる。一旦試料の結合していない部分を洗い流した後、プローブ・ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドに結合した標識された試料ポリヌクレオチドを含む二重鎖のポリヌクレオチドを検出することができる。
【0157】
プローブ・ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、ガラス、ニトロセルロースなどを含む基質上にスポットすることができる。プローブは、共有結合または疎水的相互作用などの非特異的な相互作用のいずれかによって、基質に結合させることができる。試料ポリヌクレオチドは、放射性標識、フルオロフォアなどを使用して標識することができる。
【0158】
アレイを構築するための技術およびこれらのアレイを使用する方法は、

に記載されている。
【0159】
さらに、アレイは、遺伝子の差動的な発現を検査するために使用することができ、遺伝子機能を決定するために使用することができる。例えば、マウスのゲノム領域の、およびその中での形質転換による影響を受ける遺伝子の本ポリヌクレオチド配列のアレイは、例えば任意の配列が正常細胞と癌細胞との間で差動的に発現されているかを決定するために使用することができる。癌細胞における特定のメッセージ(対応する正常細胞において観察されない)の高発現は、癌特異的なタンパク質を示し得る。
【0160】
ディファレンシャル発現
また、本発明は、ヒトの異常な組織、または疾患組織を同定するための方法を提供する。特異的なポリヌクレオチドに対応する遺伝子の発現を、疾患が疑われる第1の組織とヒトの第2の正常組織との間で比較する。正常組織は、ヒトの任意の組織、特に血液細胞、脳、胸腺、精巣、心臓、前立腺、胎盤、脾臓、小腸、骨格筋、膵臓、および結腸の粘膜ライニング(lining)を含むがこれらに限定されない、マウスのゲノム領域に関連した遺伝子を発現するものである。
【0161】
2つの組織におけるマウスのゲノム領域に関連した遺伝子の発現産物を、当技術分野において公知のいずれかの手段によって比較する。
【0162】
2つの組織におけるマウスのゲノム領域に関連したmRNAを比較する。ポリA RNAを、当技術分野において公知のように、2つの組織から単離する。例えば、当業者であれば、ノーザンブロット法およびヌクレオチド・プローブ法を使用して、2つの組織の間のポリヌクレオチドに関連したmRNAの転写産物のサイズまたは量の違いを容易に決定することができる。疾患が疑われる組織試料中のポリヌクレオチドに関連したmRNAと、正常組織の同じポリヌクレオチドに関連したmRNAの発現とを比較した発現の増大または減少は、疾患の徴候を示す。
【0163】
ペプチド類似体およびアンタゴニストのスクリーニング
コードされるポリペプチドの中から、受容体などの、マウスのゲノム領域に関連した遺伝子および対応する全長遺伝子のポリペプチド発現産物は、結合パートナーを同定するためのペプチド・ライブラリースクリーニングに使用することができる。
【0164】
このような結合パートナーは、癌、腫瘍の発達、高増殖性の細胞増殖、および/または付随する生物学的または物理的な徴候を治療する際に有用であり得る。例えば、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域の1つまたは複数によってコードされる膜結合型のポリペプチドと結合もしくは相互作用することができるペプチドまたはその他の化合物は、治療的に有用であり得る。また、表1に一覧を示したマウスのゲノム領域の1つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの任意の高次構造を変えることができるペプチドまたはその他の化合物は、生物活性を阻害することができ、治療的に有用であり得る。
【0165】
ペプチドのライブラリーは、米国特許第5,010,175号およびPCT国際公開公報第91/17823号に開示された方法にしたがって合成してもよい。
【0166】
ペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストは、シグナル伝達、抗体結合、受容体結合、分裂促進的なアッセイ法、走化性アッセイ法などの任意の利用できる方法を使用してスクリーニングする。本明細書に記載されている方法が現在好ましい。アッセイ条件は、理想的には、インビボで天然の活性が示される条件、すなわち、生理的なpH、温度、およびイオン強度下に似せるべきである。適切なアゴニストまたはアンタゴニストは、対象において中毒性の副作用を引き起こさない濃度で天然の活性の強力な阻害または増強を示すであろう。天然のポリペプチドに対する結合において競合するアゴニストまたはアンタゴニストは、天然の濃度以上の濃度が必要かもしれないが、ポリペプチドに対して不可逆的に結合することができる阻害剤は、ほぼ天然の濃度で添加してもよい。
【0167】
このようなスクリーニングおよび実験方法の最終的な結果は、本発明のマウスのゲノム領域に関連した遺伝子によってコードされる、受容体などの少なくとも1つの新規のポリペプチド結合パートナー、および新規の結合パートナーの少なくとも1つのペプチド・アゴニストまたはアンタゴニストである。このようなアゴニストおよびアンタゴニストは、受容体が由来する細胞において、または遺伝子操作の結果として受容体を有する細胞において、受容体機能を調整するために使用することができる。さらに、新規の受容体が、公知の受容体と生物学的に重要な特徴を共有する場合、アゴニスト/アンタゴニスト結合に関する情報は、公知の受容体の改善されたアゴニスト/アンタゴニストの開発の助けになるであろう。
【0168】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドまたは小分子であるかにかかわらず、治療薬は、例えば、Peiら、Mol. Endo. 11:433-441 (1997)に記載されているマウス腫瘍アッセイ法で試験することができる。
【0169】
治療に有用なポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、または小分子を試験するためのその他のモデルは、Academic PressによるBosland, Encyclopedia of Cancer, Volume II, pages 1283〜1296 (1997)に開示された動物モデルおよび細胞株を含む。その他の有用な細胞株は、Academic PressによるBrothman, Encyclopedia of Cancer, Volume II, pages 1303〜1313 (1997)に記載されている。
【0170】
薬学的組成物および治療的な使用
薬学的組成物は、ひとまとめにして本明細書において阻害剤化合物と呼ばれている、請求した本発明のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド(アンチセンス、RNAi、リボザイム)、または小分子を含むことができる。薬学的組成物は、請求した本発明のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、または小分子のうちの治療上有効な量を含むであろう。
【0171】
本明細書において使用される「治療上有効な量」という用語は、所望の疾患もしくは症状を治療する、改善する、または防止するか、または検出可能な治療的もしくは予防的効果を示す治療薬の量をいう。本効果は例えば、化学的マーカーまたは抗原レベルによって検出することができる。また、治療効果には、体温の減少などの身体症状の減少も含む。対象のための正確な有効な量は、対象の大きさおよび健康状態、症状の性質および程度、ならびに投与のために選択される治療薬または治療薬の組み合わせに依存する。したがって、前もって厳密な有効量を特定することは有用でない。しかし、所与の状況に有効な量は、ルーチン試験によって決定することができ、臨床家の判断の範囲内である。特に、本発明の組成物は、白血病を含む癌、腫瘍の発達、高増殖性の細胞増殖、および/または付随する生物学的または物理的な徴候を治療、改善、または防止するために使用することができる。
【0172】
本発明の目的のために、有効な用量は、投与される個体において約0.01mg/kg〜50mg/kgまたは0.05mg/kg〜約10mg/kgのポリヌクレオチド、ポリペプチド、または抗体組成物であろう。
【0173】
また、薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができる。「薬学的に許容される担体」という用語は、抗体またはポリペプチド、遺伝子、およびその他の治療薬などの治療薬を投与するための担体をいう。本用語は、それ自体は組成物を受けとる個体に対して有害な抗体の産生を誘導せず、かつ過度の毒性を伴わずに投与されるであろう任意の薬学的担体をいう。適切な担体は、タンパク質、多糖体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合体のアミノ酸、アミノ酸共重合体、および不活性ウイルス粒子などの大きな、ゆっくりと代謝される巨大分子であってもよい。このようなキャリアは、当業者に周知である。
【0174】
薬学的に許容される塩類、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩を使用することができる。薬学的に許容される賦形剤に関する詳細な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Pub. Co., N.J. 1991)において利用できる。
【0175】
治療組成物中の薬学的に許容される担体は、水、食塩水、グリセリン、およびエタノールなどの液体を含んでいてもよい。加えて、浸潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質がこのような伝播体に存在してもよい。典型的には、溶液または懸濁液のいずれかの注射剤として調製してもよく;注射前に液体媒体中に溶液または懸濁液にするために適した固体の形態の治療組成物を調製してもよい。リポソームは、薬学的に許容される担体の定義内に含まれる。
【0176】
送達方法
一旦処方されると、本発明の薬学的組成物は、(1)対象への直接投与;(2)対象に由来する細胞へのエクスビボでの送達;または(3)組換えタンパク質の発現のためのインビトロ送達が可能である。
【0177】
組成物の直接送達は、通常、皮下に、腹腔内に、静脈内に、もしくは筋肉内のいずれかに注射することによって達成されるか、または組織の間隙に送達される。また、組成物は、腫瘍または病変部に投与することができる。その他の投与様式は、局所的投与、経口投与、カテーテル処置による投与、および肺投与、坐薬および経皮的な適用、針、および粒子銃ハイポスプレー(particle gunsor hypospray)を含む。投与量の処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであってもよい。
【0178】
エクスビボ送達および対象への形質転換細胞の再移植のための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば国際刊行物番号国際公開公報第93/14778号に記載されている。エクスビボの適用に有用な細胞の例は、例えば幹細胞、特に造血性肝細胞、リンパ細胞、マクロファージ、樹状細胞、または腫瘍細胞を含む。
【0179】
通常、エクスビボおよびインビトロの両方で適用するための核酸送達は、例えばデキストランを媒介したトランスフェクション法、リン酸カルシウム沈殿法、ポリブレンを媒介したトランスフェクション法、プロトプラスト融合法、電気穿孔法、リポソーム中におけるポリヌクレオチドの封入、核へのDNAの直接の微量注入(全て当該技術分野において周知である)によって達成することができる。
【0180】
体の中の特異的な部位に直接治療組成物を投与するために、種々の方法が使用される。例えば、小さな転移性病巣の位置を決め、治療組成物を腫瘍体内のいくつかの異なる位置に数回注射する。あるいは、腫瘍に貢献する動脈を同定して、腫瘍に直接組成物を送達するために、治療組成物をこのような動脈に注射する。壊死性の中心を有する腫瘍を吸引して、新たに空になった腫瘍の中心に直接組成物を注射する。アンチセンス組成物は、例えば、組成物の局所適用によって腫瘍の表面に直接投与する。上記の送達方法のいくつかを補助するために、X線イメージングを使用する。
【0181】
また、アンチセンスポリヌクレオチド、サブゲノミック(subgenomic)ポリヌクレオチド、または特異的な組織に対する抗体を含む治療的な組成物の受容体を媒介したターゲットデリバリー法も使用される。例えば、受容体を媒介したDNA送達技術は、Findeisら、Trends in Biotechnol. (1993) 11:202-205; Chiouら、(1994) Gene Therapeutics: Methods And Applications Of Direct Gene Transfer (J.A. Wolff, ed.); Wuら、J. Biol. Chem. (1994) 269:542-46に記載されている。好ましくは、本発明の抗体を含む治療的な組成物の受容体を媒介したターゲットデリバリー法は、抗体を特異的な組織に送達するために使用する。
【0182】
アンチセンス、リボザイム、またはRNAiポリヌクレオチドを含む薬学的組成物は、遺伝子治療プロトコルでの局所投与のために、約100ng〜約200mgのポリヌクレオチドの範囲で投与する。約500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgの濃度範囲のポリヌクレオチドも遺伝子治療プロトコルの際に使用することができる。作用の方法ならびに形質転換および発現の有効性などの因子は、ポリヌクレオチドの最終的な有効性に必要とされる用量に影響を及ぼすであろうことも考慮すべき事項である。より広範な組織にわたってより優れた発現が望まれる場合、明確な治療結果をもたらすためには、より大量のポリヌクレオチドもしくは連続的な投与プロトコルで同じ量を再投与すること、または例えば腫瘍部位の異なる隣接したもしくは近くの組織部分に数回投与することが必要であろう。全ての場合において、臨床試験におけるルーチン実験により、最適な治療効果のための特異的な範囲を決定する。遺伝子治療ベクター、特にレトロウイルスベクターのより詳細な説明は、米国特許出願第08/869,309号に含まれ、これは本明細書に明白に組み入れられる。
【0183】
特異的な治療方法の開発
特異的な転位、例えば上記の通りのt(15、17)転位を特定の突然変異に対して、および機能障害性遺伝子に対して割り当てることができる場合に図示したとおり、同一性、およびより詳しくはその遺伝子の機能性は、治療方法の開発において有意な助けとなるであろう。遺伝子の機能性は、当該技術分野において公知の方法によって、例えば構造-機能解析によって決定してもよい。
【0184】
差動的に発現され、かつヒト腫瘍にとって機能的に重要であることが示されている遺伝子を構造-機能解析のために選択する。これらの遺伝子の欠失および点突然変異の変異体を構築し、これらの機能的な能力を野生型遺伝子と比較して試験する(Ibanezら、Structural and functional domains of the myb oncogene: requirements for nuclear transport, myeloid transformation, and colony formation. J Virol 62:1981-8, 1988; Rebayら、Specific truncations of Drosophila Notch define dominant activated and dominant negative forms of the receptor. Cell 74:319-29, 1993に従う)。これらの研究により、機能的に重要なドメインならびにドミナントネガティブな変種、すなわちこれらの内因性の対応物の機能を抑制する突然変異遺伝子の同定に至る(例えば、Kashlesら、A dominant negative mutation suppresses the function of normal epidermal growth factor receptors by heterodimerization. Mol Cell Biol 11:1454-63, 1991)。これらのドミナントネガティブは、遺伝子の機能的な重要性についてのさらなる証拠を提供し、治療的なアプローチにより、これらの機能を妨害することを探求することができるか、またはこれらの障害された機能を補助することができるという洞察が得られる。
【0185】
阻害剤化合物の開発
また、本発明は、癌の発症において役割を果たす本発明において開示した遺伝子または発現産物を阻害することができる阻害剤化合物の開発および産生のための方法を提供する。本質的に、このような方法は、当該技術分野において周知であり、特に下記の実施例2および3にて開示したように、一般に癌に関与する遺伝子の同定から開始するいくつかの連続した工程を含む。選択的に特異的な遺伝的背景において、レトロウイルスの挿入性のタギングを使用することによる;
b)以下の1つまたは複数の方法によって阻害剤化合物のための潜在的な標的遺伝子として同定された1つまたは複数の遺伝子の確認:
-癌細胞株のノーザンブロット解析によって同定された遺伝子の確認;
-腫瘍および正常組織において同定された遺伝子の発現プロフィールの決定;
-癌について同定された遺伝子の機能的な重要性の決定;
c)遺伝子の発現産物の産生;および
d)阻害剤化合物を産生またはデザインするための、遺伝子発現産物の使用。
【0186】
ヒト癌に対する同定された遺伝子の機能的な重要性
腫瘍細胞に対する、差動的に発現された遺伝子の機能的な重要性は、これらの遺伝子発現を過剰にする、および阻害することによって決定される。選択されたヒト腫瘍株には、遺伝子のcDNAをコードするプラスミドを、または遺伝子に対するRNA干渉プローブをコードするプラスミドのいずれかをトランスフェクトする。RNA干渉は、特異的な遺伝子の発現を遮断するように設計された二本鎖オリゴヌクレオチドの導入を含む、最近開発された技術である(Elbashirら、Nature 411:494-8, 2001; Brummelkampら、Science 296:550-3, 2002を参照されたい)。標準的な実験技術およびアッセイ法を使用することによって、腫瘍細胞に関連する変化した表現型、例えば細胞周期状況、増殖、粘着力、アポトーシス、浸潤性能力などについて、トランスフェクトされた細胞株を広範囲に点検する。これらの実験により、ヒト癌のための同定された遺伝子の機能的な重要性が証明される。
【0187】
遺伝子治療
本発明の治療的なポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達の伝播体中で利用してもよい。遺伝子送達の伝播体は、ウイルス由来または非ウイルス由来であってもよい(一般に、Jolly, Cancer Gene Therapy (1994) 1:51-64; Kimura, Human Gene Therapy (1994) 5:845-852; Connelly, Human Gene Therapy (1995) 1:185-193;およびKaplitt, Nature Genetics (1994) 6:148-153を参照されたい)。本発明の治療薬のコード配列を含む構築物の送達のための遺伝子治療伝播体は、局所的にまたは全身的に投与することができる。これらの構築物は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによるアプローチを利用することができる。このようなコード配列の発現は、内因性の哺乳動物の、または異種のプロモーターを使用して誘導することができる。コード配列の発現は、構成型または調節型のいずれかであることができる。
【0188】
本発明は、関心対象の選択された核酸分子を有し、または発現するように構築された組換えレトロウイルスを使用することができる。使用することができるレトロウイルスベクターは、欧州特許第0415731号;国際公開公報第94/03622号;国際公開公報第93/25698号;国際公開公報第93/25234号;米国特許第5,219,740号;および欧州特許第0345242号に記載されているものを含む。好ましい組換えレトロウイルスは、国際公開公報第91/02805号に記載されているものを含む。
【0189】
上記のレトロウイルスのベクター構築物の使用に適したパッケージング細胞株は、容易に調製され(PCT刊行物国際公開公報第95/30763号および国際公開公報第92/05266号を参照されたい)、組換えベクター粒子の産生のための産生細胞株(ベクター細胞株とも呼ばれる)を作製してもよい。特に本発明の好ましい態様において、パッケージング細胞株は、ヒト(HT1080細胞などの)またはミンク親細胞株から作製され、これによりヒト血清中で不活性化したままにすることができる組換えレトロウイルスを産生することができる。
【0190】
また、本発明は、遺伝子送達の伝播体として機能することができるアルファウイルスに基づいたベクターを使用する。このようなベクターは、とえば、シンドビスウイルス・ベクター、セムリキ森林熱ウイルス(ATCC VR-67;ATCC VR-1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR-373;ATCC VR-1246)、およびベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR-923;ATCC VR-1250;ATCC VR1249;ATCC VR-532)を含む多種多様なアルファウイルスから構築することができる。このようなベクター系の代表例は、米国特許第5,091,309号;第5,217,879号;および第5,185,440号;ならびにPCT刊行物番号国際公開公報第92/10578号;国際公開公報第94/21792号;国際公開公報第95/27069号;国際公開公報第95/27044号;および国際公開公報第95/07994号に記載されているものを含む。
【0191】
また、本発明の遺伝子送達の伝播体は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのパルボウイルスを使用することができる。代表例は、国際公開公報第93/09239号のSrivastava、Samulskiら、J. Vir. (1989) 63:3822-3828; Mendelsonら、Virol. (1988) 166:154-165;およびFlotteら、PNAS (1993) 90:10613-10617によって開示されているAAVベクターを含む。
【0192】
アデノウイルスベクターの代表例は、

によって記載されているものを含む。本発明に使用可能な例示的なアデノウイルス遺伝子治療ベクターには、国際公開公報第94/12649号、国際公開公報第93/03769号;国際公開公報第93/19191号;国際公開公報第94/28938号;国際公開公報第95/11984号、および国際公開公報第95/00655に記載されているものも含まれる。Curiel, Hum. Gene Ther. (1992) 3:147-154に記載されているような死滅したアデノウイルスに結合されたDNAの投与を使用してもよい。
【0193】
その他の遺伝子送達の伝播体および方法を使用してもよく、死滅させたアデノウイルス単独に結合されたか、または結合されていないポリカチオンを凝縮させたDNA、例えばCuriel, Hum. Gene Ther. (1992) 3:147-154;リガンドに結合されたDNA、例えばWu, J. Biol. Chem. (1989)264:16985-16987を参照されたい;真核細胞送達の伝播体細胞、例えば1994年5月9日に出願された米国特許出願第08/240,030号、および米国特許出願第08/404,796号を参照されたい;光重合されたヒドロゲル材料の沈着;米国特許第5,149,655号に記載されているような手持ち式遺伝子移入粒子銃;米国特許第5,206,152号および国際公開公報第92/11033号に記載されているような電離放射線;核電荷の中和または細胞膜との融合を含む。さらなる方法が、Philip, Mol. Cell Biol. (1994) 14:2411-2418、およびWoffendin, Proc. Natl. Acad. Sci. (1994) 91:1581-1585に記載されている。
【0194】
また、裸のDNAを使用してもよい。例示的な裸のDNAの導入法は、国際公開公報第90/11092号および米国特許第5,580,859号に記載されている。
【0195】
使用に適したさらなる非ウイルス送達には、Woffendinら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 91(24):11581-11585に記載されている方法などの機械による送達系を含む。
【0196】
本明細書に開示した遺伝子配列と本発明者によって解明された悪性腫瘍の発生との驚くほど複雑な関係は、癌発症の新たな経路の存在を示す。
【0197】
この知見により、さらなる危険因子、新規の治療的介入および医薬、ならびに癌、特に白血病の治療および予防の同定が現在では利用できるようになり、最終的に、本症の発生および/または進行の減少、ならびに診断および予後について改善された方法を生じるであろう。
【0198】
また、本発明はここで、本明細書に記載した遺伝子配列の発現を調整することを含む治療方法を提供する。
【0199】
本発明のさらなる目的は、癌の、特に白血病、および関連した疾患の治療のための新薬の協調的なデザインおよび発見を提供することであり、ならびに薬学的組成物の基礎もしくは成分として役立ち得るこのような遺伝子のモジュレーターまたはこれらの発現産物を含む組成物を提供する。したがって本発明は、このような調節組成物を含む薬学的産物にも関する。さらなる目的として、本発明は、癌、特に白血病、および/または関連した疾患の治療および/または予防のための薬物の製造のための、少なくとも1つのモジュレーターの使用を提供する。
【0200】
ここで以下の非限定的な実施例によって本発明を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】実施例3に記載したインバースPCRで同定したウイルス組込み部位の共通性を決定するために、染色体DNAで直接PCRした図である。ここでは、インバースPCRによってウイルス組込み部位として同定された遺伝子座またはゲノム領域において、プライマーX1、X1N、X2、およびX2Nをデザインする。隣接するゲノム配列を増幅し、組み込まれたプロウイルスの局在および向きを決定するために、4つの異なるネステッドPCRを行った。第1に、プライマーXIおよびX2をGraffi-1.4 MuLV LTRプライマーL1およびL2とを組み合わせた。これらの産物は、プライマーX1NおよびX2NとL1NおよびL2Nとを組み合わせて使用するネステッドPCRによって増幅された。増幅されたバンドの特異性は、サザンブロット分析においてプローブP1およびP2を使用して点検した。
【図2】疾患遺伝子座を同定するための本発明の方法を図示する。細胞株(DAおよびNFS)、またはCSL白血病由来のRNAまたはDNAでIPCRまたはRT-PCRを行った。生じたウイルスのフランキング断片を配列分析に供した。LTRおよび遺伝子座特異的なプライマーをデザインし、ネステッドPCRストラテジー(*)、すなわちLTR-1/プライマー-A PCRに続くCasBr-M MuLVで誘導される白血病のパネルからのゲノムDNAを使用するLTR-2/プライマー-B増幅に使用した。PCR産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、その後ブロットした。第1にブロット物を遺伝子座特異的なプローブCとハイブリダイズさせ、フィルムに曝露し、剥離後にプローブLTR3と再びハイブリダイズさせた。LTR3および遺伝子座特異的なプローブC(レーン1、2、3、6、および8)とハイブリダイズしたバンドは、陽性、すなわちこの特定の共通のウイルス組込み部位(cVIS)を有する腫瘍であると考えられた。1つのプライマー(レーン4および7)のみとのハイブリダイゼーションは、偽陽性である。それぞれの実験において、2つまたは3つの陽性な断片がクローニングされ、ヌクレオチドをシークエンシングして特異性を確認した。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0202】
実施例1
共通ウイルス挿入物(CIS)の同定
導入
マウス腫瘍および腫瘍由来の細胞株における共通ウイルス組込み部位を同定するために、MuLVウイルスを使用した。マウスには、マウス白血病ウイルス1.4(Graffi-1.4 MuLV)、またはCas-Br-M MuLVを感染させた。Graffi-MuLVは、マウスに白血病を引き起こすエコトロピックなレトロウイルス複合体である。このウイルス複合体は、発癌性配列自体を含まず、むしろプロウイルスの組込みによる遺伝子の制御をなくす。Graffi-1.4 MuLVは、この複合体のサブクローンであり、主に骨髄性白血病を誘導する。NIH/Swissマウスには、Cas-Br-M MuLVを感染させ、標的遺伝子に影響を及ぼすレトロウイルスの挿入の結果として骨髄性またはリンパ様の悪性腫瘍も発生させた。
【0203】
材料および方法
1.白血病の誘導
新生仔FVB/NマウスまたはNIH/Swissに、Graffi-1.4 MuLVまたはCas-Br-M MuLVを産生するNIH3T3細胞の細胞培養上清100μlを、それぞれ皮下に注射した。マウスの疾病の症状、すなわち感情鈍麻、白い耳および尾、ケージの仲間との相互作用の障害、重量減少、ならびに鈍い毛皮を毎日点検した。典型的には、白血病性のマウスは、肥大した脾臓、肝臓、胸腺、およびリンパ節に罹患した。これらの原発腫瘍から、PCRに基づいたスクリーニングのための染色体DNAを単離した。血液試料を心臓から採取した。形態学的な解析のために、血液塗抹標本およびサイトスピンをメタノールで固定し、May-Grunwald-Giemsa(MGG)染色して解析した。
【0204】
種々の器官の単細胞の懸濁液を、フローサイトメーターを使用するフローサイトメトリー法によって解析した。細胞は、以下のラット・モノクローナル抗体によって標識した:ER-MP54(ER-MP54)、ER-MP58(ER-MP58)、M1/70(Mac-1)、F4/80(F4/80)、RB68C5(GR-1)、ER-MP21(トランスフェリン受容体)、TER119(グリコホリンA)、59-AD2.2(Thy-1)、KT3(CD3)、RA3 6B2(B220)、およびE13 161-7(Sca1)。免疫検出は、フルオレセインイソチオシアネートに結合したヤギ-抗Rat抗体(G_Ra-Fitc)を利用して行った。
【0205】
2.Graffi-1.4MuLVで誘導された白血病のインバースPCR
原発腫瘍に由来するゲノムDNAをHhaIによって消化した。ライゲーション後、Graffi-1.4 MuLV(LTR)特異的なプライマーL1

およびL2

を使用して第1のPCRを行った(サイクリング条件は、94℃で1分、65℃で1分、72℃で3分[30サイクル]であった)。第2のネステッドPCRのためには、プライマーL1N

およびL2N

(15サイクル)を使用した。PCR反応混合物は、10mMのトリス-HCl(pH8.3)、50mMのKCL、1.5mMのMgCl2、200μMのdNTP、10pmolのそれぞれのプライマー、および2.5ユニットのTaqポリメラーゼを含んだ。PCR断片を1%のアガロースゲル上で解析し、標準的な手順にしたがってTAクローニングベクターにクローン化した。PCR産物をM13フォワード・プライマー

およびM13リバース・プライマー

によってシーケンスした。ウイルスに隣接するゲノム配列は、National Center for Biotechnology Information (NCBI) およびセレラのデータベースを使用して同定した。
【0206】
3.Cas-Br-M MuLV白血病に対するインバースPCRおよびリアルタイムPCR
5μgのゲノムDNAをSau3A、またはSstIによって消化した。生成物をT4リガーゼで処理し、これは環状化された産物を形成させた。その後、インバースPCR(ICPR)ストラテジーをCas-Br-M MuLV LTRに特異的なプライマーで使用した。Sau3Aで消化した/結合した断片について、プライマーpLTR4

およびpLTR3

で第1のPCR反応を行い、続いてpLTR5

およびpLTR6

を使用するネステッドPCRを行った。両PCRのためのサイクル条件は、94℃で15"、57℃で30"、および72℃で2'を10サイクル、ならびに94℃で15"、57℃で30"、および72℃で2'30"をさらに20サイクル行った。反応は、Expand High Fidelity PCR Systemを使用して行った。SstI消化したゲノムDNAの場合には、環状化されたDNAをそれぞれプライマーpLTR9

およびpLTR1

ならびにpLTR10

およびpLTR2

を使用して増幅した。第1のPCRは、94℃で30"、60℃で1'、および72℃で3'を30サイクル行った。反応は、Expand High Fidelity PCR Systemによって行った。ネステッドPCR条件は、94℃で30"、58℃で1'、および72℃で1'を30サイクル行った。この反応は、Taqポリメラーゼによって行った。
【0207】
RT-PCRのために、CsCl勾配によって総RNAを単離した。第1鎖cDNAは、Superscript(商標)プレ増幅システムを使用して、5μgのRNAで37℃においてオリゴ(dT)アダプタープライマー

と共に逆転写酵素(RT)反応によって得た。その後、LTR特異的なプライマーpLTR6およびアダプタープライマー

を使用することによって、PCR(94℃で1'、58℃で1'、72℃で3'(30サイクル))は、白血病のRT反応を行った。PCR産物を直接pCR2.1にクローン化し、M13フォワード・プライマー

およびm13リバース・プライマー

によるヌクレオチドシーケンシングに供した。解析のために、ヌクレオチド配列をNCBIおよびセレーラ・データベースと比較した。
【0208】
結果
1.Graffi-1.4 MuLVは、白血病を誘導した
新生仔FVB/NマウスをGraffi-1.4 MuLVによって皮下注射した4〜6ヵ月後に白血病が発生した。解析した59の白血病のうちの48(81%)が骨髄性細胞の形態学的特徴を示した。骨髄中の芽球の割合は、24〜90%で変動し、平均48%であった。白血病細胞は、これらの骨髄球性の様相と整合した免疫表現性のマーカープロフィール、例えばER-MP54+、ER-MP58+、CD3-、GR-1+を発現した。芽球細胞様の形態を有する6つの白血病では、免疫表現性の分化マーカーを示さなかったことから、これらの腫瘍が非常に未熟な白血病を表したことを示唆した。3つの白血病だけがT-リンパ系由来(CD3+/MP58-/Thyl+)であり、2つは、骨髄性および赤血球系の特徴(Ter119+/ER-MP58+/F4/80+)を混合して示した。これらの結果は、Graffi-1.4 MuLV感染は、主にFVB/Nマウスにおいて骨髄性白血病を誘導することを証明する。
【0209】
プロウイルス・フランク(flank)をクローニングし、ヌクレオチドシーケンシングに供し、セレラおよびNCBIデータベースに対してブラストし、共通の挿入部位を同定した。同定された遺伝子の中で、今までに腫瘍発生に関与することが記載されていなかったものは、Cas-Br-M MuLVで誘導された白血病から同定された新規の癌遺伝子と合わせて表1に一覧を示してある。
【0210】
2.Cas-Br-M MuLVで誘導される白血病
Cas-Br-M MuLVを注射した新生仔NIH/Swissマウスは、接種後約140〜400日までに白血病を発症した。これらのほとんどは、骨髄性白血病(59%)であったが、T細胞(21%)、およびT-細胞/骨髄性(21%)の混合の白血病も見いだされた。
【0211】
ウイルス組込み部位をクローニングするために、35種の骨髄性白血病に由来するDNAまたはRNAを使用して、相補的なアプローチとしてウイルス-LTR(末端反復配列)特異的なインバースPCR、およびRT-PCRを適用した。インバースPCR方法は、19の原発性白血病および9の細胞株に対して行い、一方RT-PCRに基づいた技術は、12の細胞株および2つの原発性白血病に対して行った。
【0212】
プロウイルス・フランクを、ヌクレオチドシーケンシングに供し、セレラおよびNCBIデータベースに対してブラストし、共通の挿入部位を同定した。同定された遺伝子の中で、今までに腫瘍発生に関与することが記載されていなかったものは、Graffi-1.4 MuLVで誘導された白血病から同定された新規の癌遺伝子と合わせて表1に一覧を示してある。
【0213】
考察
プロウイルスの組込みはランダムに生じるが、これらは近くの遺伝子の発現または機能に影響を及ぼす可能性がある。遺伝子が二個以上の独立した腫瘍において影響を受ける場合、これは、これらの組込みが選択有利性を提供し、したがって腫瘍発生に寄与することを示す。これらの共通の挿入部位が複数同定され、その多くが、癌において役割を果たすことが初めて証明された。重要なことに、同定されたその他の遺伝子のいくつかは、癌遺伝子であることが周知であり、本アプローチを確証する。本実施例は、探求したストラテジーが腫瘍発生に関与する新規の遺伝子を同定するために首尾よく使用することができることを示す。
【0214】
実施例2
AML発症の新規経路の定義
材料および方法
Graffi-1.4 MuLVで誘導される白血病
100μlのGraffi-1.4-MuLV産生NIH3T3細胞(E.Rassart博士、Department des Siences Biologiques, Universite du Quebec a Montreal, Montreal, Quebec, Canadaからの寄贈)の細胞培養上清を新生仔マウスの皮下に注入した。前述したように、マウスを処理して、白血病の発生について解析した(Erkelandら、2003, Blood 101:1111-7)。PCRに基づいたスクリーニングのために、染色体DNAを白血病細胞から単離した(Erkelandら、2003, Blood 101:1111-7)。
【0215】
白血病細胞の細胞学的な解析および免疫表現型タイピング(phenotyping)
形態学的な解析のために、血液塗抹標本およびサイトスピンをメタノールで固定し、May-Grunwald-Giemsa染色し、Zeiss Axioscope顕微鏡(Carl Zeiss BV, Weesp, The Netherlands)を使用して検査した。種々の器官の単細胞の懸濁液を、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson and Co, Mountain. View, CA, USA)を使用して、フローサイトメトリーによって解析した。以前記載したように(Joostenら、2000. Virology 268:308-18)、細胞を以下のラット・モノクローナル抗体によって標識した:ER-MP54、ER-MP58、M1/70(Mac-1)、F4/80、RB68C5(GR-1)、ER-MP21(トランスフェリン受容体)、TER119(グリコホリンA)、59-AD2.2(Thy-1)、KT3(CD3)、RA3 6B2(B220)、およびE13 161-7(Sca1)。免疫検出は、フルオレセインイソチオシアネートに結合したヤギ-抗ラット抗体(GαRa-FITC)(Nordic, Tilburg, The Netherlands)を使用して行った。
【0216】
Graffi-1.4MuLVで誘導された白血病のインバースPCR
原発腫瘍からの白血病ゲノムDNAをHhaI(CGCG)によって消化した。ライゲーション(Rapid ligation kit, Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)によって環状化した後、実施例1に記載されているように、Graffi-1.4 MuLV(LTR)特異的なプライマーL1およびL2を使用して第1のPCRを行った。サイクリング条件は、94℃で1分、62℃で1分、および72℃で3分を30サイクルであった。第2のネステッドPCRについては、実施例1に記載されているように、プライマーL1NおよびL2Nを使用した(15サイクル)。PCR反応混合物は、10mMのトリス-HCl(pH8.3)、50mMのKCL、1.5mMのMgCl2、200μMのdNTP、10pmolのそれぞれのプライマー、および2.5単位のTaqポリメラーゼ(Pharmacia, Uppsala, Sweden)を含んだ。PCR断片を1%のアガロースゲル上で解析した。
【0217】
特異的なネステッドPCRによるウイルス組込みの検出
拡張した白血病のパネルにおいて、Graffi-1.4プロウイルス、特にウイルスでターゲットされた遺伝子の局在を決定するために、原発腫瘍に由来するDNAに対してネステッドPCRを行った。第1のPCRのために、ウイルス組込み部位(VIS)遺伝子座特異的なプライマーX1およびX2を、Graffi-1.4 MuLV LTR特異的なプライマーL1およびL2と組み合わせて使用した(図1も参照されたい)。サイクリング条件は、94℃で1分、62℃で1分、72℃で3分を30サイクルであった。第2のPCRのために、入れ子状のVIS特異的なプライマーX1NおよびX2N(すなわち、ゲノム領域特異的なプライマー)を同じ条件下で入れ子状LTR特異的プライマーL1NおよびL2Nと組み合わせて使用した。得られたPCR産物をサザンブロット法によって解析した。増幅されたバンドの正確な性質を検証するために、ブロットをChurch緩衝液(0.5Mのリン酸緩衝液、pH7.2、7%(w/v)SDS、10mMのEDTA)中で45℃において一晩、放射標識した遺伝子特異的なプローブP1およびP2とハイブリダイズさせた。シグナルは、標準的な手順にしたがってオートラジオグラフィーによって視覚化した(Maniatisら、1982, Molecular Cloning, A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)。
【0218】
ヌクレオチド配列解析
PCR産物は、ABI 3100シークエンサー(Applied Biosystems, Nieuwerkerk a/d IJssel, The Netherlands)を使用して、Graffi-1.4 MuLV特異的なフォワード・プライマーL1でシーケンシングした。ウイルスに隣接するゲノム配列は、GenBank(National Center for Biotechnology Information)、セレラ・ディスカバリー・システム(Celera Genomics, Rockville, MD, USA)(Hogeneschら、2001, Cell 106:413-5; Kerlavageら、2002, Nucleic Acids Res. 30:129-36)、およびEnsembl(Wellcome Trust Genome Campus, Hinxton, Cambridgeshire, UK)(Hubbardら、2002, Nucleic Acids Res. 30:38-41)を使用して解析した。
【0219】
結果
Graffi-1.4で誘導された白血病
89の新生仔FVB/NマウスにGraffi-1.4を接種した。瀕死のときに、マウスを屠殺して、造血器官を単離した。6匹のマウスは、白血病の徴候を伴わずに死亡し、さらなる調査から排除した。標準的な血液細胞解析を行って、値を10匹の正常FVB/Nマウスの平均と比較した(Joostenら、2002, Exp. Hematol. 30:142-9)。白血病マウスのほとんどでは、正常な対照と比較して、末梢白血球細胞の数が増大し、血小板数および赤血球の数が減少した(データ示さず)。骨髄における芽球の割合は、24〜90%で変動し、平均48%であった。76匹のマウスに由来する白血病細胞を免疫表現型タイピングした。これらの白血病の主要な免疫表現性の特徴を表2に示す。
【0220】
【表2】

a(Imm+)は、未成熟の造血性の細胞マーカーScal+、MP58+、MP54+(Thyl+)のポジティブ染色法を示す。b括弧内のマーカーは、全ての個々腫瘍に一貫して発現されるというわけではない。
【0221】
これらの基準に基づいて、白血病をTリンパ様、混合リンパ様/赤血球系/骨髄性、骨髄性、骨髄性単球または赤血球系として分類した。59の白血病を形態学的に解析した。ほぼ全てのマウスが脾腫大を示し、その25%は胸腺拡大、20%はリンパ節腫脹、および55%は肝臓の併発を有する。マウスの5%では、白血病細胞が、明白な末梢器官の併発を伴わずに、BMおよび血液に存在した。
【0222】
Gr-1.4で誘導される白血病におけるウイルス組込み部位
データベース検索と連携したPCR解析により、69の腫瘍から合計94の異なるウイルス組込み部位を同定し、そのうちの38は、その他の研究において以前に見いだされていた。CISのこの後者の群の例は、p53、Notch-1、Evi-1、NF1(Evi-2)、Lck-1、Pim-1、HoxA9(Evi-6)、Fli-1、およびN-Mycである。特に、94の組込みのうちの79は、白血病性の形質転換において影響を受けた遺伝子に直接関係のあるCISである。これらの遺伝子に密接に関連したファミリーは、その他の研究においても見いだされていたので、残りの15をこの報告に含めた。同定された配列のうちの56は、新規の候補白血病遺伝子の近くまたは候補白血病遺伝子にマッピングされた。影響を受けた遺伝子の産物は、以下のカテゴリーに分類された:受容体およびシグナリング分子(表3)、転写の調節因子(表4)、およびその他の経路を調節する役割(例えば、DNA安定性およびプロテアソームのターゲティング)を有するか、または現在未知の機能を有する遺伝子産物の残りの群(表5)。
【0223】
このインバースPCRに基づくスクリーニングで同定されたウイルス組込みの約15%は、最初のスクリーニングで共通(特定のゲノムの座に2つ以上の組込み)であると決定された。より感度良く共通の組込みの頻度を決定するために、本発明者らは、他で記載されているように(Erkeland,ら、 2003, Blood 101:1111-7; Joostenら、2002, Oncogene 21:7247-55)、49のGr-1.4標的遺伝子(表3-5)に対して組込み特異的なPCR反応を行うと、そのほとんど(96%)が共通であると思われた。ウイルス組込み部位に隣接する遺伝子をhttp://genome2.ncifcrf.govの国立癌研究所レトロウイルス・タグ・癌遺伝子データベース(retroviral tagged cancer gene database:RTCGD)およびその他の情報源(表3)からのデータと比較した。このデータベースにおいて存在するか、またはその他の研究において報告済であったGr-1.4の組込みは、表3、4、および5に特徴づけた。その他の研究において見いだされたGr-1.4でターゲットされる遺伝子ファミリーのメンバーは、カラム「同定されたファミリー・メンバー」に一覧を示してある。大部分のウイルス組込みは、遺伝子の5'または3'末端において、またはその近くで生じ、これらの遺伝子の発現レベルは、ウイルス組込みの結果として調節解除を示唆した。18のCISは、もっぱら遺伝子内に位置するだけであり、おそらく遺伝子破壊を引き起こした。この群は、以前に報告されたウイルス標的Notch-1、NF1、PTPN1、Inpp4a、p53、SWAP70、およびKcnk5、ならびに11個の新たな遺伝子:カルシホシン(calcyphosine)、ホスホジエステラーゼ-1、ELL、NCOR-1、HDAC-7A、ヒストンH3.3A、api-5、RIL、D6Mm5e、および2つの未知の遺伝子を含む。
【0224】
考察
この研究において、本発明者らは、急性骨髄性白血病(AML)の病原の新規経路を、その中に特異的に含まれる疾患遺伝子を同定することによって同定するために、Graffi-1.4(Gr-1.4)ウイルス複合体を使用するインビボ・レトロウイルスの突然変異誘発を使用した。その他のウイルス株、例えばモロニー、AKXD、またはCas-Br-Mとの比較研究において、最も顕著に表れる腫瘍型は、BXH2骨髄性単球の腫瘍の場合にはTおよびB細胞リンパ腫である。対照的に、Gr-1.4によって誘導される白血病の80%より多くは、骨髄性細胞の免疫表現性の特徴を明解に示し、未成熟の形態学的な特徴(主に骨髄芽球)を有し、骨髄性疾患の病原性の機構を特徴づけるためのツールとしてのGr-1.4ウイルス複合体独特の特徴を強調した(表2を参照されたい)。
【0225】
したがって、実際は、ここに記載されている大部分のCISは、リンパ腫モデルの広範なスクリーニングにおいてこれまでに報告されていなかったが、いくつかの重複も観察された。後者は、細胞タイプ特異的な事象が、通常複数の腫瘍型で影響を受け得る下流の共通の調節経路に対して影響を与えるという事実からみても、驚くべきことではない。
【0226】
大部分のGr-1.4 CISは、これらの遺伝子に対するこれらの近接に基づいて候補疾患遺伝子に結びつけられたが、プロウイルスの組込みは、100kbより遠くの距離でも遺伝子発現に影響を及ぼすことが報告されていた。したがって、CISからより離れて位置する遺伝子も調節されなくなること、および複数の遺伝子が単一のCISによって影響を受けることを除外することができない。加えて、現在行われているレトロウイルス・スクリーニングの3つのその他の側面も強調されなければならない。第1に、複製能力のあるレトロウイルスによって誘導される悪性腫瘍は、通常モノクローナルではなくオリゴクローナルまたはポリクローナルである。これにより、比較的小さなマウスのコホートにおいて高頻度のCISを生じるが、これは1つの白血病性のクローン内で協調する事象の検索を複雑にする。第2に、ウイルス組込みを同定するために使用した感受性の高いPCRに基づく技術は、初期の病原性の事象を開始し大多数の白血病細胞に存在するCISと、おそらく白血病進行遺伝子に影響を及ぼしている少数の細胞集団のみに存在するCISとを区別することができない。最後に、最近の研究では、マウス白血病ウイルスが、転写開始部位の近くに組込みの優先度を有することを強調した(Wuら、2003, Science 300:1749-51)。Gr-1.4での本発明者ら今回のデータは、この結論を実証し、MuLVでのレトロウイルスの突然変異誘発は、好ましくは、(しかし、排他的ではない)遺伝子の破壊ではなく遺伝子の調節解除を同定することを示す。
【0227】
結論として、Gr-1.4ウイルス複合体と共にハイ・スループットのレトロウイルス・スクリーニングを使用して、本発明者らは、骨髄性白血病に関与する新規の経路を同定した。現在では、本発明者らは、32D細胞および初代骨髄培養における遺伝子導入法を使用して、異常な遺伝子発現の結果または機能を研究している。
【0228】
結論
急性骨髄性白血病(AML)は、不均一な疾患群であり、特定の遺伝子の染色体異常、小さな挿入/欠失、または点突然変異は、予後に対して重大な結果を有する。しかし、大部分のAML患者は、現在公知の遺伝子欠損を伴わずに存在する。マウスにおけるレトロウイルスの挿入突然変異誘発は、白血病およびリンパ腫の病因に関与する新たな疾患遺伝子を同定するための強力なツールになった。ここで、本発明者らは、主に急性骨髄性白血病を引き起こすGraffi-1.4マウス白血病ウイルス(Gr-1.4)株を、本症の病原に関与する新規の遺伝子を同定するためのスクリーニングに使用した。本発明者らは、共通のウイルス組込み部位(CIS)において79の候補疾患遺伝子を報告し、そのファミリー・メンバーの15の遺伝子が、その他の研究においても影響を受けることを以前に見いだした。同定された配列の大部分(60%)は、リンパ腫および単球性白血病の以前のスクリーニングでは見いだされなかったことから、AMLの特異的な関与が示唆される。大部分のウイルス組込みは、遺伝子の5'または3'末端において、またはその近くに生じたが、18のCISは、もっぱら遺伝子内に位置するだけであり、おそらく遺伝子破壊を引き起こしたことから、ウイルス組込みの結果として遺伝子発現が調節解除されることが示唆される。
【0229】
実施例3
マウス白血病における新規の潜在的疾患座位の大規模な同定
材料および方法
Cas-Br-M MuLVで誘導される白血病
この研究において使用されるNIH-Swiss由来のCas-Br-M MuLVで誘導される原発腫瘍は以下である:IPCRについて:CSL 13、16、20、22、26、30、31、32、33、65、71、78、82、90、91、93、111、117、123、201、203、204、212、221、227、228、237および239;ならびにRT-PCRについて:CSL:201および203(Joostenら、2000. Virology 268:308-18)。白血病の脾臓から単離した細胞は、液体窒素中の一定分量において生きたまま貯蔵された。以下の白血病細胞株をこの研究に利用した:IPCRについて:DA24、ならびにNFS 22、36、56、58、60、61、78、および124;ならびにRT-PCRについて:DA 1、2、3、8、33、ならびにNFS 22、36、58、61、78、107、および124(Valkら、1997 Blood 90:1448-1457)。これらの細胞株をRPMI+10%ウシ胎仔血清(FCS)(Gibco Life Technologies Inc., Gent, Belgium)および10単位のマウスIL3中で培養した。ウイルス組込みの頻度を細胞株および原発性白血病の両方に対して決定した。
【0230】
IPCRおよびRT-PCR
ゲノムDNAの単離は、以前記載されているように正確に行った(Valkら、1999 J. Virol. 73:3595-602)。5pgのゲノムDNAをSau3A、PvullまたはSstl(GIBCO Life Technologies Inc., Gent, Belgium)によって消化した。産物をT4リガーゼ(GIBCO Life Technologies Inc.)で処理し、環状化された産物を形成させた。その後、本発明者らは、Cas-Br-M MuLV LTRに特異的なプライマーを使用するIPCRストラテジーを行った。Sau3A消化/結合された断片について、プライマーpLTR4

およびpLTR3

で第1のPCR反応を行い、続いてpLTR5

およびpLTR6

を使用してネステッドPCRを行った。両方のPCRのサイクル条件は、94℃で15秒、57℃で30秒、および72℃で2分を10サイクル、ならびに94℃で15秒、57℃で30秒、および72℃で2分30秒の条件にしたがってさらに20サイクルであった。反応は、Expand High Fidelity PCR System(Roche、Mannheim、Germany)を使用して行った。PvuIIおよびSstI消化したゲノムDNAについて、環状化したDNAは、それぞれプライマーpLTR7

およびpLTRl

ならびにpLTR8

およびpLTR2

を使用して増幅した。
【0231】
第1のPCRは、94℃で30秒、54℃で1分、および72℃で3分を30サイクル行った。反応は、Expand High Fidelity PCR System(Roche)によって行った。ネステッドPCRの条件は、94℃で30秒、58℃で1分、および72℃で1分を30サイクルであった。この反応は、Taqポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech, Roosendaal, The Netherlands)によって行った。RT-PCRは、Valkら(1997c)によって以前に記載されているように行った。簡単には、CsCl勾配によって総RNAを単離した。第1鎖cDNAは、Superscript MPreamplification System(Life Technologies, Breda, The Netherlands)を使用して、製造業者の指示にしたがって5μgのRNAで37℃でオリゴ(dT)アダプタープライマー

と共に逆転写酵素(RT)反応によって得た。その後、LTR特異的なプライマーpLTR6およびアダプタープライマー

を使用することによって、白血病のRT反応に対してPCR(94℃で1分、58℃で1分、72℃で3分(30サイクル))を行った。PCR産物を製造業者の指示にしたがって直接pCR2.1(Invitrogen, Breda, The Netherlands)にクローニング、ヌクレオチドシーケンシングに供した。解析のために、ヌクレオチド配列をNCBIデータベースと比較した。
【0232】
PCR解析およびサザンブロットハイブリダイゼーション法
原発性白血病または細胞株から単離した1ugのゲノムDNAをプライマーpLTR1および遺伝子座特異的なプライマーAでのPCRに供した(図2)。17〜21ヌクレオチドの遺伝子座特異的なプライマーは、インバースPCRまたはRT-PCRによって作製される断片の各々の配列に対して特異的にデザインした。プライマーは、Life Technologiesから購入した。1μlのPCR産物をプライマーpLTR2および入れ子状遺伝子座特異的なプライマーBを使用するネステッドPCR反応に移した。両方の反応のためのサイクル条件は、94℃で5分を1サイクル、94℃で30秒、Tmで1分、72℃で1分30秒を30サイクル、72℃で5分を1サイクルであった。Tmは、それぞれのプライマーに特異的であり、48℃〜62℃の間であった。PCRは、Taqポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech)を使用することによって行った。PCR産物を1.5%のアガロースゲルで電気泳動し、0.25MのNaOH/1.5MのNaClでHybond-N+ナイロン膜(Amersham Pharmacia Biotech)に移した。膜を32Pで末端標識した遺伝子座特異的なプライマーCとハイブリダイズさせた。ラベリングは、製造業者の指示にしたがって、T4キナーゼ(USB, Cleveland, OH, USA)を使用して行った。その後、ブロットを45℃で30分間0.4MのNaOH中で取り除き、45℃で15分間0.2Mのトリス-HCl、0.2%のSDS、および0.1×SSCを使用して中和し、32Pで末端標識したCas-Br-M MuLV特異的なプライマーpLTR3とハイブリダイズさせた。ブロットをKODAKフィルムおよび増感紙でのオートラジオグラフィーに曝露した。15分の露出の後、フィルムを現像して分析した。
【0233】
シーケンシング解析
試料は、Bd-シーケンシングキットを使用して製造業者(PE Biosystems, Nieuwerkerk a/d IJssel, The Netherlands)の指示にしたがって調製し、プライマーM13フォワード

およびM13リバース

を使用して、ヌクレオチドのシーケンシングをABI 310自動シーケンシンサー(PE Biosystems)で行った。IPCRまたはRT-PCRによって単離された配列をCelera Discovery System(Celera Genomics, Rockville, MD, USA, database contents May 2002)、およびNational Center for Biotechnology Information (NCBI, Bethesda, MD, USA)のGenBankに存在するデータと比較した。組込みの正確な部位を決定した。遺伝子の外側に見いだされた挿入については、組込みと最も近くの遺伝子との間の距離を算出した。マウス染色体上の位置を確立し、ヒト同等物をCelera Discovery System(2002年5月)、LocusLink、またはヒト・マウス相同性マップ(両方ともwww.ncbi.nlm.nih.gov)のヒト・データベースを使用することによって推定した。
【0234】
結果
ウイルスLTR特異的なインバースPCRおよびRT-PCRを自動化されたシーケンシングと組み合わせて、CasBR-M MuLVで誘導される骨髄性白血病に対して適用することにより、126のウイルス組込み部位をクローニングした。座位特異的およびLTR特異的なプライマーを使用することによって、MuLVで誘導される白血病の大きなパネルからのゲノムDNAに対するネステッドPCR/サザンブロット法を開発し、特定のウイルス挿入が、共通のウイルス組込み部位(cVIS)を示すかどうかを解析した。実際、このように解析した41の組込みのうちの39は、共通のウイルス組込み部位を示した。本発明者らは、6つの以前にクローニングされたcVIS、すなわちEvi1、Hoxa7、cMyb、Cb2/Evi11、Evi12、およびHis1、ならびに33の新規の共通の挿入を認識した。この群の中で、本発明者らは、受容体遺伝子、例えばCb2またはmrc1、新規の推定上のシグナリングまたは輸送体遺伝子、リングフィンガータンパク質遺伝子Mid1、および未知の機能を有する新規のタンパク質をコードする遺伝子のパネル内に、核タンパク質、例えばDnmt-2、Nm23-M2、Ctbp1、もしくはErgをコードする遺伝子において、またはその近くに組込みを見いだした。解析した41の組込みのうち39が、cVISを表したという知見は、PCR/サザンブロット法によっていまだに解析されていなかった大部分のその他のウイルス挿入が、同様にecVISに位置し、したがって、新規の疾患遺伝子を収容するかもしれないことを示唆する。
【0235】
【表1】

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に一覧を示した癌の発生に関与する少なくとも1つのマウスゲノム領域またはそのヒト相同体によってコードされるポリペプチドを調製するための使用。
【請求項2】
表1に一覧を示した少なくとも1つのマウスゲノム領域によってコードされるか、または該領域での形質転換による影響を受ける、転写産物もしくはポリペプチドの活性を阻害することができる阻害剤を調製するための、該領域またはそのヒト相同体の使用。
【請求項3】
阻害剤が、ゲノム領域によってコードされるポリペプチドの生物活性を、または該ゲノム領域での形質転換によってその発現が影響を受けるポリペプチドの生物活性を妨げる小分子である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
阻害剤が抗体である、請求項2記載の使用。
【請求項5】
阻害剤が、アンチセンス分子、特にアンチセンスRNAまたはアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドである、請求項2記載の使用。
【請求項6】
阻害剤がRNAi分子である、請求項2記載の使用。
【請求項7】
阻害剤がリボザイムである、請求項2記載の使用。
【請求項8】
表1に一覧を示した少なくとも1つのマウスゲノムまたはそのヒト相同体を含む単離された核酸配列。
【請求項9】
1つまたは複数の制御配列をさらに含む、請求項8記載の単離された核酸配列。
【請求項10】
請求項8または9記載の核酸配列を含む組換えベクター。
【請求項11】
請求項10記載のベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項12】
宿主細胞が真核生物の宿主細胞である、請求項11記載の組換え宿主細胞。
【請求項13】
真核生物の宿主細胞が哺乳動物幹細胞である、請求項12記載の真核生物の宿主細胞。
【請求項14】
哺乳動物幹細胞が造血幹細胞である、請求項13記載の哺乳動物幹細胞。
【請求項15】
表1に一覧を示した少なくとも1つのマウスゲノム領域もしくはそのヒト相同体によってコードされる転写産物もしくはポリペプチドを阻害することができるか、または該ゲノム領域の形質転換によってその発現が影響を受ける転写産物もしくはポリペプチドを阻害することができる阻害剤化合物。
【請求項16】
阻害剤化合物がポリペプチドに対する抗体またはその誘導体である、請求項15記載の阻害剤化合物。
【請求項17】
ポリペプチドが細胞膜上に発現される、請求項16記載の阻害剤化合物。
【請求項18】
誘導体が、scFv断片、Fab断片、キメラ抗体、二機能性の抗体、イントラボディー(intrabodies)、およびその他の抗体に由来する分子からなる群より選択される、請求項16または17記載の阻害剤化合物。
【請求項19】
阻害剤化合物が、ポリペプチドの生物活性を妨げる小分子である、請求項15記載の阻害剤化合物。
【請求項20】
阻害剤化合物が、アンチセンス分子、特にアンチセンスRNAまたはアンチセンス・オリゴデオキシヌクレオチドである、請求項15記載の阻害剤化合物。
【請求項21】
阻害剤化合物がRNAi分子である、請求項15記載の阻害剤化合物。
【請求項22】
阻害剤化合物がリボザイムである、請求項15記載の阻害剤化合物。
【請求項23】
癌治療に使用するための、請求項15〜22のいずれか1項記載の阻害剤化合物。
【請求項24】
癌が白血病、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)である、請求項23記載の阻害剤化合物。
【請求項25】
癌治療のための薬学的組成物を調製するための、請求項15〜24のいずれか1項記載の阻害剤化合物の使用。
【請求項26】
癌が白血病、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)である、請求項25記載の阻害剤化合物。
【請求項27】
治療が遺伝子治療を含む、請求項25または26記載の使用。
【請求項28】
炎症性疾患治療のための薬学的組成物を調製するための、請求項15〜22のいずれか1項記載の阻害剤化合物の使用。
【請求項29】
請求項15〜24のいずれか1項記載の少なくとも1つの阻害剤化合物および適切な賦形剤、担体、または希釈剤を含む、癌治療のための薬学的組成物。
【請求項30】
癌の形成を軽減または予防するために有効な量の、好ましくは充実性腫瘍の再発の緩解または予防を提供するために有効な量の、請求項29記載の薬学的組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物を治療する方法。
【請求項31】
癌が白血病、好ましくは急性骨髄性白血病である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
白血病、好ましくは急性骨髄性白血病の形成を軽減または予防するために有効な量の請求項14記載の造血幹細胞を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物を治療する方法。
【請求項33】
癌診断のための診断試薬を調製するための、表1に一覧を示した少なくとも1つのマウスゲノム領域もしくはそのヒト相同体、またはその転写産物、またはそれによりコードされるポリペプチドの使用。
【請求項34】
癌が白血病、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)である、請求項33記載の使用。
【請求項35】
表1に一覧を示したマウスゲノム領域もしくはそのヒト相同体、またはその転写産物、またはそれによりコードされるポリペプチドに対して特異的に結合することができる診断試薬。
【請求項36】
診断試薬が抗体またはその誘導体である、請求項35記載の診断試薬。
【請求項37】
診断試薬が核酸プローブである、請求項35または36記載の診断試薬。
【請求項38】
請求項35〜37のいずれか1項記載の診断試薬を含む診断組成物。
【請求項39】
癌診断のための、請求項38記載の診断組成物の使用。
【請求項40】
癌が、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または膵臓癌の充実性腫瘍である、請求項39記載の使用。
【請求項41】
癌が白血病、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)である、請求項39記載の使用。
【請求項42】
診断が、コードされるポリペプチドに対して特異的な抗体を使用するか、遺伝子配列に対するRNAプローブで組織試料の遺伝子発現レベルのインサイチューハイブリダイゼーション解析を使用するか、またはポリヌクレオチドアレイもしくはオリゴヌクレオチドアレイを使用する、組織試料の組織学的な解析によって行われる、請求項39〜41のいずれか1項記載の使用。
【請求項43】
請求項38記載の診断組成物、ならびに試料から核酸断片を単離するための試薬、試料からポリペプチドを単離するための試薬、試料を免疫染色するための試薬、試料のインサイチューハイブリダイゼーションのための試薬、および核酸アレイ・ハイブリダイゼーションを行うための試薬からなる群より選択される1つまたは複数の試薬を含む、請求項39〜41のいずれか1項記載の使用を実施するためのパーツのキット。
【請求項44】
請求項15〜22のいずれか1項記載の阻害剤化合物を開発するための、以下の工程を含む方法:
a)特にレトロウイルスの挿入性のタギングを使用することによる、任意で特定の遺伝的背景における、癌に関与する遺伝子を同定する工程;
b)以下の方法の1つまたは複数によって、阻害剤化合物の潜在的な標的遺伝子として同定された遺伝子の1つまたは複数を確認する工程:
-癌細胞株におけるノーザンブロット解析による、同定された遺伝子の確認;
-腫瘍および正常組織における、同定された遺伝子の発現プロフィールの決定;
-癌に対する、同定された遺伝子の機能的な重要性の決定;
c)遺伝子の発現産物を産生する工程;および、
d)阻害剤化合物を産生またはデザインするために、遺伝子の発現産物を使用する工程。
【請求項45】
工程a)において同定される遺伝子が、表1に一覧を示したマウスゲノム領域またはそのヒト相同体である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
癌の発生に関与するゲノム領域を同定するための、以下の工程を含む方法:
a)対象を、腫瘍を誘導するレトロウイルスに感染させることを含む、対象のレトロウイルス挿入突然変異を行う工程;
b)感染した対象に発生した腫瘍から染色体DNAを分離する工程;
c)腫瘍を誘導するレトロウイルスのDNA配列において少なくとも一回、および対象の染色体DNAにおいて少なくとも一回の切断が可能な制限酵素で、該染色体DNAを消化する工程;
d)消化されたDNAを環状DNAに連結する工程;
e)レトロウイルス特異的なプライマーの第1のセットを使用して環状DNAで第1のPCR反応を行い、かつレトロウイルス特異的なプライマーの第2の入れ子状のセットを使用して該第1のPCR反応の産物で第2のネステッドPCRを行うことによって、レトロウイルスのDNA配列に隣接する染色体DNA断片を増幅する工程;ならびに
f)染色体DNA断片のヌクレオチド配列を決定し、かつ任意で該ヌクレオチド配列をデータベースの公知の配列と比較して、癌の発生に関与するゲノム領域を得る工程。
【請求項47】
癌の発生において共通のウイルス組込み部位を同定するための、以下の工程を含む方法:
a)請求項46記載の方法を実施する工程;
b)ゲノム領域特異的な増幅プライマーをデザインする工程;
c)共通のウイルス組込み部位の有無について解析するために少なくとも2つの腫瘍から核酸を単離する工程;
d)ゲノム領域特異的なプライマーおよびレトロウイルス特異的なプライマーを含む一組の入れ子状プライマーを使用して、核酸で増幅反応を実施する工程;ならびに、
e)増幅産物をブロットし、生じるブロットをレトロウイルス特異的なプローブおよびゲノム領域特異的なプローブと別々にハイブリダイズさせて、腫瘍間の共通のウイルス組込み部位の存在を決定する工程。
【請求項48】
請求項46または47記載の方法によって入手できるゲノム領域のセット。
【請求項49】
ゲノム領域が、表1に一覧を示したマウスゲノム領域である、請求項48記載のゲノム領域のセット。
【請求項50】
Adam11、Akap7、Arpgap14、Bomb、Cd24a、Cish2、Cig5、Clic3、Cra、Dermol、EMILIN、Flj20489、Galnt5、Hook、Ier5、IL16、Iprg1、Itgp、Kcnk5、lrrc2、Ltb、Mbll、Mrc1、Mtap7、Ninj2、Nr1d1、Pcdh9、Prdx2、Prps1、Pdi1、Ptgd3、Rgl1、Sardh、Scya4、Slc16A6、Swap70、Txnip、Trim46、Tnfrsf17、およびUb13からなる群より選択される、少なくとも2つのマウスゲノム領域を含む、請求項49記載のゲノム領域のセット。
【請求項51】
Cd24a、Cish2、Cra、Ltb、およびPrdx2からなる群より選択される、少なくとも2つのマウスゲノム領域を含む、請求項49記載のゲノム領域のセット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−57497(P2010−57497A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247947(P2009−247947)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【分割の表示】特願2004−528956(P2004−528956)の分割
【原出願日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【出願人】(505055789)エラスムス ユニバーシティ メディカル センター ロッテルダム (6)
【Fターム(参考)】