説明

抗真菌性タンパク質及びその利用

【課題】Monascus種から得られた単離・精製された抗真菌性タンパク質MAFP1、それをコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチド、及びそれらの用途を提供する。
【解決手段】Monascus種から得られる単離・精製された抗真菌性タンパク質又はその生物学的に機能性の同等物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌性タンパク質及びその利用に関する。そのようなタンパク質の製造方法を提供する。本発明はまた、抗真菌性タンパク質の配列及びこのタンパク質配列をコード化するDNA、このDNA配列を含むベクター、このDNA配列によって形質転換された細胞、及び真菌性の疾患を治療及び/又は抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
200種類を超える動物の真菌性病原体及び30種類を超える普通の植物の真菌性病原体が、ヒトの健康及び経済状態に大きな衝撃を与え得ることが知られている。今日では、ヒトの真菌性病原体を抑制する主な薬物は、ポリエン類、アゾール類、フルコナゾール、アムホテリシンB等の低分子である。薬物乱用の増加によって、真菌株の薬物耐性の状況は益々厳しくなっている。新たな抗真菌薬の開発は急務である(Selitrennikoff,C.P.,2001,Antifungal proteins,Appl.Envirion.Microbiol.67,2883−2894、並びにLiu Y.,Ryan,M.E.,Lee,H.M.,Simon,Tortora,G.,Lauzon,C.,Leung,M.K.及びGolub,L.M.,2002,化学的に修飾されたテトラサイクリン(CMT−3)は新たな抗真菌剤である(A chemically modified tetracycline (CMT−3) is a new antifungal agent.)。Antimicrob.Agents Chemother.46,1447−1454参照)。
【0003】
植物、細菌、真菌、昆虫、鳥及び哺乳類の全ては、抗真菌性タンパク質を製造できることが知られている(Kaiserer,L.,Oberparieiter,C.,Weiler−Gorz,R.Burgstaller,W.,Leiter,E.及びMarx,F.,2003,Penicillium chrysogenum antifungal protein PAFの特徴付け(Characterization of the Penichillium chrysogenum antifungal protein PAF)Arch Microbiol.180,204−210参照)。これらのタンパク質は、異なるアミノ酸配列及び四次構造を有しているが、それらの低分子量、高塩基性及び高システイン含量の特性は、殆どの抗真菌性タンパク質の分子の主な特徴である(Selitrennikoffら、2001参照)。
【0004】
研究された糸状菌由来の数個の抗真菌性タンパク質、例えば、Aspergillus giganteus由来のAFPタンパク質(Wnendt,S.,Ulbrich,N.及びStahl,U.,1990,Aspergillus giganteusの抗真菌性タンパク質をコードするcDNAのクローニング及びヌクレオチド配列並びに生来の遺伝子の予備的特徴付(Cloning and nucleotide sequence of a cDNA encoding the antifungal−protein of Aspergillus and preliminary characterization of the native gene.)Nucleic Acids Res.18,3987,、Wnendt,S.,Ulbrich,N.及びStahl,U.,1994,Aspergillus giganteus由来の抗真菌性タンパク質をコードする遺伝子の分子クローニング、配列分析及び発現(Molecular cloning,sequence analysis and expression of the gene encoding an antifungal protein from Aspergillus giganteus.)Curr.Genet.25,519−523、Theis,t.,Marx,F.,Salvenmoser,W.,Stahl,U.及びMeyer,V.,2005,Aspergillus giganteusの抗真菌性タンパク質の標的部位への新たな識見及び作用様式(New insights into the target site and mode of action of the antifungal protein of Aspergillus giganteus.)Res.Microbilol.156,47−56、及びTheis,T.,Wedde,M.,Meyer,V.及びStahl,U.,2003,Aspergillus giganteus由来の抗真菌性タンパク質は膜浸透(membrane permeabilization)を引き起こす(The antifungal protein from Aspergillus giganteus causes membrane permeabilization.)Antimicrob.Agents Chemother.47,588−593を参照)、Penicillium chrysogenum由来のPAFタンパク質(Marx,F.,Hass,H.,Reindl,M.,Stoffler,G.,Lottspeich,F.及びRedl B.,1995,抗真菌活性を有する豊富に分泌されるタンパク質をコード化するPenicillium chrysogenum paf遺伝子のクローニング、構造的構成(structural organization)及び発現の調節(Cloning,structural organization and regulation of expression of the Penicillium chrysogenum paf gene encoding an abundantly secreted protein with antifungal activity.)Gene 167,167−171、及びKaisererら,2003参照)、及びAspergillus niger由来のAnafpタンパク質(Lee,G.D.,Shin,S.Y.,Maeng,C.Y.,Jin,Z.Z.,Kim,K.L.及びHahm,KS.,1999、Aspergillus niger由来の新規な抗真菌性ペプチドの単離及び特徴付け(Isolation and characterization of a novel antifungal peptide from Aspergillus niger.)Biochem.Biophys.Res.Commun.263,646−651参照)。上述した抗真菌性タンパク質は、いずれも分泌型タンパク質であり、それらは広い範囲の真菌類を阻害できるが、細菌及び酵母には影響を与えない。これらの抗真菌性タンパク質は類似の分子特徴を有するが、抗真菌性タンパク質PAF及びAFPのアミノ酸配列の間にはたった42%の配列類似性しかない。(Kaisererら,2003参照)。これらの真菌誘導性抗真菌性タンパク質は、主にAspergillus属及びFusarium spp.の真菌を阻害する(Theis et al.,2003,及びKaisererら,2003参照)。PAFタンパク質はさらにAbaidia spp.、Mortierella spp.、Rhizomucor spp.及びRhizopus spp.等のヒト及び動物の真菌性病原体を阻害することができる。これらのタンパク質類は、植物の真菌性病原体を生物学的に抑制するのに有用なだけでなく、潜在的なヒト及び動物の抗真菌性薬物としても有用である(GalgOczy,L.,Papp.T.,Letter,E.Marx,F.,Pocsi,I.及びVagvolgyi,C.,2005,Penicillium chrysogenumの抗真菌性タンパク質(PAF)に対する異なる接合菌綱(Zygomycetes)の感受性(Sensitivity of different Zygomycetes to the Penicillium chrysogenum antifungal protein (PAF).)J.Basic microbial.45,136−141参照)。さらに、コメの胚(rice blast)の病原体Magnaporthe griseaに対するコメの抵抗力が、Aspergillus giganteus由来のAFPタンパク質のcDNAをコメにトランスフェクションすることによって増強され得、従って、AFPタンパク質は、コメの胚の予防に用いることができることが報告されている(Coca,M.,Bortolotti,C.,Rufat,M.,Penas,G.,Eritja,R.,Tharreau,D.,del Pozo A,M.,Messeguer,J.及びSan Segundo,B.,2004,Aspergillus giganteus由来の抗真菌性AFPタンパク質を発現するトランスジェニックコメ植物は、コメの胚の真菌であるMagnaporthe griseaに対する増強された抵抗力を示す。(Transgenic rice plants expressing the antifungal AFP protein from Aspergillus giganteus show enhanced resistance to the rice blast fungus Magnaporthe grisea.)Plant Mol.Biol.54,245−259、及びMoreno,A.B.,Martinez Del Pozo,A.及びSan Segundo B.2006,バイオテクノロジー的に適切な酵素及びタンパク質:コメの胚の真菌であるMagnaporthe griseaに対するAspergillus giganteusのAFPの抗真菌メカニズム(Biotechnologically relevant enzymes and proteins : Antifungal mechanism of the Aspergillus giganteus AFP against the rice blast fungus Magnaporthe grisea.)Appl.Microbiol.Biotechnol.72(5):883−895参照)がある。
【0005】
Paecilomyces variotii及びP.lilacinusは、最も至る所に存在するPaecilomyces属の種であり、また、ヒトの感染症に最も頻繁に関係する。眼内炎(endophthalimitis)及び心内膜炎(endocarditis)は、それぞれP.s variotii及びP.lilacinusによって引き起こされる最も一般的な感染症のうちの2つであり、予後が非常に悪い。感染症の標準的な治療の失敗率(failure rate)は約40%である。将来の治療アプローチは、併用療法を用いること、又は新規なクラスの抗真菌剤の開発であろう(Ortoneda,M.,Capilla,J.,Pastor,F.J.,Pujol,I.,Yustes,C.,Serena,C.及びGuarro,J.(2004)、Paecilomyces spp.に対する認可された新規な薬物のIn vitroにおける相互作用(In vitro interaction of approved and novel drugs against Paecilomyces spp.)Antimicrob.Agents Chemother.48,2727−2729参照)。Helminthosporium paniciは植物の壊疽輪紋病(ring spot disease)の病原体である。真菌性感染症を効果的に予防し、真菌性疾患によって生じるヒトの健康、経済的な作物及び畜産業の損失を低減するために、生物分子技術(biological molecular technique)を使用することは重要なテーマ(topic)である。
【0006】
Monascus種は、東アジアにおける発酵のための伝統的に重要な真菌であり、アルコール(alcoholics)、発酵赤米(fermented red rice(anka))、豆腐(sufu)、醤油等の発酵産物の製造に用いられている。さらに、Monascus種は種々の代謝産物及び酵素を製造する。例えば、モナコリンK(monacolin K)(Endo,A.,Hasumi,K.及びNegishi,S.(1985)、モナコリンJ及びL、Monascus rubbe.によって製造されるコレステロール生合成の新規な阻害剤(Monacolins J and L, new inhibitors of cholesterol biosynthesis produced by Monascus rubber.)J.Antibiot.(Tokyo) 38(3):420−2)参照)、シトリニン(citrinin)(Hajjaj,H.,klaebe,A.,Goma,G.,Blanc,P.J.,Barbier,E.及びFrancois,J.(2000)、中鎖脂肪酸は糸状菌Monascus rubberにおけるシトリニン生産に影響を及ぼす(Medium−chain fatty acids affect citrinin production in the filamentous fungus Monascus rubber)Appl.Environ.Microbiol.66(3):1120−5参照)、GABA(Su,Y.C.,Wang,J.J.,Lin,T.T.及びPan,T.M.(2003)、Monascusによる二次代謝産物γ−アミノ酪酸及びモナコリン(monacolin)Kの生産(Production of the secondary metabolites gamma−aminobutyric acid and monacolin K by Monascus)J.Ind.Microbiol.Biotechnol.30(1):41−6参照)、赤色及び黄色色素(Carels,M.及びShepherd,D.(1977)、沈降振盪培養におけるMonascus種の色素生産及び胞子形成に及ぼす異なる窒素源の影響(The effect of different nitrogen sources on pigment production and sporulation of Monascus species in submerged, shaken culture.)Can.J.Microbiol.23(10):1360−72、及びTseng,Y.Y.,Chen,M.t.及びLin,C.F.(2000)、塩、亜硝酸ナトリウム、ポリリン酸塩及び各種の等によって影響されるMonascus purpureusの増殖、色素生産及びプロテアーゼ活性(Growth, pigment production and protease activity of Monascus purpureus as affected by salt, sodium nitrite, polyphosphate and various sugars.)J.Appl.Microbiol.88(1):31−7参照)、及びプロテアーゼ(Tsai,M.S.,Hseu,T.H.及びShen,Y.S.(1978)、Monascus kaoliang由来の酸性プロテアーゼの生成及び特徴付け(Purification and characterization of an acid protease from Monascus kaoliang.)Int.J.Protein Res.12,293−302参照)等である。従って、薬物開発及び工業的酵素応用における高い潜在能力を有している。これらの適用のうち、シトリニンは、細菌の増殖を阻害する能力を有することが知られている。しかしながら、Monascus種の菌類の増殖を抑制する活性に関する文献発表はない。我々が以前に行ったMonascusの全ゲノム配列分析及び解読プロジェクトは、可能性のある抗真菌性タンパク質遺伝子を見つけ出し(mined)、Monascus種が抗真菌活性を有する可能性を示唆した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、Monascus種から得られた単離・精製された抗真菌性タンパク質MAFP1を提供することである。Monascus種は、Monascus barkeris、Monascus floridanus、Monascus lunisporas、Monascus pilosus及びMonascus ruberからなる群から選択されることが好ましい。Monascus種は、Monascus barkeris BCRC 33309=ATCC 16966、Monascus floridanus BCRC 33310=IMI 282587、Monascus lunisporas BCRC 33640=ATCC 204397、Monascus pilosus BCRC 38072(台湾国300、新竹、食品路331号の、Food Industry Research and Development Institute(FIRDI)、Bioresource Collection and Research Center(BCRC)に保存されている)、BCRC 38093(FRIDIのBCRCに保存されている)及びBCRC 31502=ATCC 16363、Monascus ruber BCRC 31523=ATCC 16378、BCRC 31533=ATCC 16246、BCRC 31534=ATCC 16366、BCRC 31535=ATCC 18199、BCRC33314=ATCC 16371及びBCRC 33323=ATCC 18199からなる群から選択されることがより好ましい。
【0008】
本発明の別の目的は、抗真菌性タンパク質MAFP1をコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチドを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、抗真菌性タンパク質MAFP1をコード化する組み換えベクターのヌクレオチド配列を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、本発明の組み換えベクターを含む組み換え宿主細胞を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、抗真菌性タンパク質、及び好適なキャリアを含む抗真菌性組成物であって、該タンパク質が、真菌性疾病に対する保護を提供するのに十分な量で提供されることを特徴とする抗真菌性組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、本発明の抗真菌性タンパク質を真菌性の疾病に対する保護を提供するのに十分な量で植物に適用することを含む、植物の真菌を抑制する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するトランス遺伝子がそのゲノム中に組み込まれたトランスジェニック(transgenic)生物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、真菌性の疾病に対する保護を提供するのに十分な量の本発明の抗真菌性タンパク質を患者に投与することを含む、患者の真菌性の疾病を治療する方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチドを増幅し得る、単離・精製されたプライマー対を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、本発明のプライマー対を含むPCRアッセイキットを提供することである。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の他の特徴、目的及び利点は、本発明の詳細な説明及び特許請求の範囲から容易に見出すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Monascus種から得られた単離・精製された抗真菌性タンパク質MAFP1を提供することができる。
本発明によれば、抗真菌性タンパク質MAFP1をコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチドを提供することができる。
【0019】
本発明によれば、抗真菌性タンパク質MAFP1をコード化する組み換えベクターのヌクレオチド配列を提供することができる。
本発明によれば、本発明の組み換えベクターを含む組み換え宿主細胞を提供することができる。
本発明によれば、抗真菌性タンパク質、及び好適なキャリアを含む抗真菌性組成物であって、該タンパク質が、真菌性疾病に対する保護を提供するのに十分な量で提供されることを特徴とする抗真菌性組成物を提供することができる。
【0020】
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質を真菌性の疾病からの保護を提供するのに十分な量で植物に適用することを含む、植物の真菌を抑制する方法を提供することができる。
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するトランス遺伝子がそのゲノム中に組み込まれたトランスジェニック生物を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチドを増幅し得る、単離・精製されたプライマー対を提供することができる。
本発明によれば、本発明のプライマー対を含むPCRアッセイキットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、Monascus種の新規な遺伝子(以下、mafp1という)に主な特徴を有し、Aspergillus giganteusにおける抗真菌性タンパク質AFPをコード化する遺伝子及びPenicillium chrysogenum中のPAFをコード化する遺伝子に対する類似性を有することによって特徴付けられる。新規な遺伝子によってコード化されるタンパク質(以下、MAFP1という)は、抗真菌活性を有し、真菌性の疾病の治療及び/又は抑制に有用であることがわかる。
【0023】
定義
本明細書において特に断らない限り、本発明に関連して用いられている科学技術的用語は、当業者が普通に理解する意味を有するものとする。用語の意味及び範囲は明確であるべきであるが、何らかの潜在的なあいまいさが生じた場合には、本明細書に与えられた定義が、如何なる辞書の定義又は付帯的な定義に優先する。
【0024】
一般に、本明細書中に記載の細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、並びにタンパク質及び核酸化学、及びハイブリダイゼーションに関連して用いられる命名法、及びそれらの技術は、周知のものであり、当業界で通常に用いられるものである。本発明の方法及び技術は、一般に、当業界で周知の、及び別途示さない限り本明細書中で引用又は考察している種々の一般的な文献及びより具体的な文献に記載されているような従来方法に従って実施する。酵素反応及び精製法は、当業界で共通の完成された、又は本明細書に記載された製造業者の仕様書に従って実施する。本明細書に記載の分析化学、合成有機化学、及び医薬品化学及び製薬化学と関連して用いられる命名法、並びにそれらの実験室手順及び技術は、当業界で周知であり、普通に用いられているものである。標準技術は、化学合成、化学分析、製薬学的調製物、製剤及び送達、並びに患者の治療に用いられる。
【0025】
本明細書の開示に従って用いられる下記語句は、別途示さない限り、下記の意味を有するものと理解すべきである:
【0026】
本明細書でいう語句「単離・精製されたタンパク質」は、目的のタンパク質が、(1)通常、一緒に見出される少なくとも幾つかの他のタンパク質を含んでいない、(2)同じ起源由来の、例えば、同じ種由来の他のタンパク質を本質的に含んでいない、(3)異なる種由来の細胞によって発現されている、(4)自然状態で結合している(with which it is associated in nature)ポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、又は他の物質の少なくとも約50%から分離されている、(5)単離されたタンパク質が自然状態で結合しているタンパク質の一部と(共有又は非共有相互作用によって)結合していない、(6)自然状態で結合していないポリペプチドと(共有又は非共有相互作用によって)作動可能に結合されている、又は(7)自然状態では生じないことを意味する。合成されたゲノムDNA、cDNA、mRNA若しくは他のRNA、又はそれらの組み合わせは、そのような単離されたタンパク質をコード化することができる。単離されたタンパク質は、その自然環境に見出され、その治療、診断、予防、研究又は他の用途を妨害するタンパク質若しくはポリペプチド又は他の汚染物質を実質的に含まないことが好ましい。単離・精製されたタンパク質が、当業界で周知のタンパク質精製法を用いた単離によって、自然界では結合されている成分を実質的に含まないようにすることもできる。
【0027】
語句「抗真菌性タンパク質」は、例えば、真菌細胞の増殖を阻害する、真菌細胞を殺す、又は胞子発芽、胞子形成、及び交配等の真菌のライフ・サイクルの段階を中断若しくは遅延させる、抗真菌性を有するタンパク質を意味する。
【0028】
語句「アミノ酸配列」は、天然に生じるタンパク質分子のアミノ酸配列を意味する。「ポリペプチド」又は「タンパク質」等の「アミノ酸配列」及び類似の語句は、そのアミノ酸配列を、提示された(recited)タンパク質分子と関連する、天然の完全なアミノ酸配列に限定することを意味しない。アミノ酸配列としては、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質配列、及びその断片若しくは部分、及び天然に生じる分子若しくは合成分子が挙げられる。
【0029】
語句「生物学的に機能性の同等物(biologically functional equivalent)」は、MAFP1等の本発明の新規なペプチドに類似の配列を示す配列若しくは部分を含有し、本明細書に開示された抗真菌活性を含む、ポリペプチドの機能特性と同じ若しくは類似の機能特性を示す、本発明の抗真菌性タンパク質に対する同等物を言う。例えば、本発明の抗真菌性タンパク質の生物学的に機能性の同等物は、多かれ少なかれ、そのタンパク質のアミノ酸配列と異なっているが、本質的に同等であり、かつ、本明細書に記載のタンパク質と本質的に同じ特性を有する、そのアミノ酸配列中に幾つかの変性箇所を有していてもよい。
【0030】
語句「単離・精製されたポリヌクレオチド」は、本明細書において、目的のポリヌクレオチドは、(1)自然状態では目的のポリヌクレオチドが結合している他のポリヌクレオチドの全部又は一部と(共有的に又は非共有的に)結合されていない、(2)自然状態では結合していない分子と結合している、又は(3)他の如何なるポリヌクレオチドとも結合して自然状態で生じないことを意味する。そのようなポリヌクレオチドは、合成されたゲノムDNA、cDNA、mRNA若しくは他のRNA、又はそれらの組み合わせであり得る。本発明の単離・精製されたポリヌクレオチドは、単一のコード領域を含んでいることが好ましい。ポリヌクレオチドは単一のコード領域を含んでいるが、それはポリヌクレオチドの機能に有害な影響を及ぼさない追加的なヌクレオチドを含むことができる。例えば、5’及び3’の非翻訳領域は、可変の数のヌクレオチドを含んでいてもよい。追加的なヌクレオチドは単一のコード領域の外に存在することが好ましい。
【0031】
語句「ヌクレオチド配列」は、少なくとも10塩基の長さの一本鎖又は二本鎖の核酸ポリマーを意味する。ある実施形態では、ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド、又はいずれかのタイプのヌクレオチドを修飾した形態であり得る。このような修飾としては、ブロモウリジン及びイノシン誘導体等の塩基修飾、2’,3’−ジデオキシリボース等のリボース修飾、及びホスホロジセレノエート(phosphorodiselenoate)、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)、ホスホラニラデート(phosphoraniladate)及びホスホロアミデート(phosphoroamidate)等のヌクレオチド間結合修飾等が挙げられる。本発明のヌクレオチド配列は、検出アッセイのための放射性標識、蛍光標識、ハプテン又は抗原性標識を含む標識を含むことができる。
【0032】
語句「ベクター」は、宿主細胞にコード情報を運搬するために用いられる任意の分子(例えば、核酸、プラスミド、エピソーム、又はウイルス)を意味する。この語句はまた、「組み換えベクター」、「発現ベクター」又は「発現構築物(expression construct)」を含む。語句「発現ベクター」又は「発現構築物」とは、宿主細胞の形質転換に好適であり、かつ、それに作動可能に結合された1以上の非相同の(heterologous)コーディング領域の発現を、(宿主細胞と共同して)指令及び/又は抑制するヌクレオチド配列を含有するベクターをいう。発現構築物は、これらに限定されないが、それに作動可能に結合されたコーティング領域の転写、翻訳、及び、イントロンが存在するなら、RNAスプライシグに影響を及ぼすか又は抑制する配列を含んでいてもよい。好ましいベクターは、それらが結合している核酸の自立的複製及び発現が可能なものである。
【0033】
語句「宿主細胞」は、核酸配列によって形質転換されているか、又は形質転換でき、それによって目的とする選択された遺伝子を発現する細胞を意味する。この語句は、選択された遺伝子が存在する限り、その子孫が元の親細胞と形態学的に又は遺伝子構造(genetic mark−up)が同一であるか否かを問わず、この子孫を含む。
【0034】
語句「形質転換」とは、細胞の遺伝子的特徴における変化をいい、新たなDNAを含有するように修飾されたときに、細胞は形質転換される。例えば、ある細胞が、トランスフェクション、トランスダクション、又は他の技術によってその自然の状態から遺伝学的に修飾された場合、その細胞は形質転換されている。
【0035】
語句「トランスジェニック生物(transgenic organism)」とは、ある生物の1以上、好ましくは本質的に全部の細胞に外来の遺伝子が導入された任意の生物をいう。この遺伝子は、マイクロ・インジェクション又は組み換えベクターによる感染等の意図的な遺伝子操作による細胞の前駆体中への導入によって直接的に又は間接的に細胞に導入される。語句「遺伝子操作」には、古典的な交雑、又はin vitroでの受精だけでなく、染色体内で一体化することができる、又は染色体外で複製することができる組み換えDNA分子の導入を含む。トランスジェニック動物は、動物、又はトランスジェニック動物由来の臓器、組織若しくは細胞を含む。トランスジェニック植物は、植物、その子孫、そのトランスジェニック植物由来種子、又は形質転換された植物細胞若しくは原形質体(protoplast)由来の細胞を含む。
【0036】
語句「同一性(identity)」とは、2以上のポリペプチド分子又は2以上の核酸分子の配列を比較することによって決定される、これらの間の関係をいう。「同一性」は、より小さい2以上の配列の間の同一の一致(identical matches)のパーセンテージによって評価する。
【0037】
語句「類似性(similarity)」は、「同一性」と対照をなしている関連した概念に関して当業界で用いられるが、「類似性」とは、同一の一致及び同類置換一致(conservative substitution matchs)の両者を包含する関連の尺度をいう。
【0038】
文脈によって別途必要でない限り、単数形の語句は、複数形を含み、かつ複数形の語句は単数形を含むものとする。
【0039】
Monascus抗真菌性タンパク質及びその遺伝子
本発明の一つの目的は、Monascus種由来の単離・精製された抗真菌性タンパク質を提供することである。本発明の他の目的は、抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチドを提供することである。Monascus抗真菌性タンパク質及びその抗真菌性タンパク質をコード化する遺伝子は、Monascus全ゲノムデータベースからの抽出(mining)及び比較分析によって発見された。
【0040】
Aspergillus giganteus(受託番号emb|CAA37523.1|)の抗真菌性タンパク質AFP及びPenicillium chrysogenum(受託番号gb|AAA92718.1|)のPAFのアミノ酸配列を、tblastnを用いて、M.pilosus BCRC 38072(本願出願人(FIRDI)の社内データベース)の全ゲノム配列データベースからの単一遺伝子データベースの配列と比較した。BLASTプログラム(blastp、blastn、blatx、tblastx及び類似のプログラムを含む)は、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)及び他の提供元(BLASTマニュアル、Altschulら、NCB/NLM/NIH メリーランド州20894、ベセスダ)から公的に利用可能である。AFP及びPAFのタンパク質配列に約30%の類似性を有する単一遺伝子contigを得て、オープン・リーディング・フレーム(ORF)予測のためのVector NTI(InforMax)ソフトウエアで分析した。279個の塩基対であるcDNA(配列番号:1)をORF予測によって同定した。そしてそれは92個のアミノ酸(配列番号:2)からなるタンパク質に翻訳できる。抗真菌性タンパク質はMAFP1と名付けられた。配列番号:2に示されるこの配列は、単一のペプチド(1−18位)、プロペプチド(19−34位)及び成熟タンパク質(35−92位)を有することが見出された(図1参照)。このタンパク質はMonascusの細胞から分泌され得ることが示唆された。
【0041】
配列番号:1に示される配列を、blastnを用いてMonascus全ゲノムデータベースと比較し、抗真菌性タンパク質に対するゲノムDNA配列が得られ(配列番号:4)、mafp1と名付けられた。配列番号:1及び配列番号:4に示される配列を、blastnを用いてNCBI DNAデータベースと比較し、配列番号:2で示される配列をtblastnを用いてNCBI及びスイス−プロット(Swiss−Prot)タンパク質データベースと比較し、MAFP1のDNA及びタンパク質配列と類似の公表された配列を同定した。ベクターNTIソフトウエアのアラインメントプログラムを、MAFP1のアミノ酸配列(配列番号:2)、Aspergillus giganteus(受託番号emb|CAA 37523.1|)及びPeniillium chrysogenum(受託番号gb|AAA92718.1|)のPAFのアラインメントに用いて、アミノ酸配列の高度に保存された配列(AAXGXVAXP)を見出した(図2(B)参照)。シグナル・ペプチド及びプロペプチドの領域内に高度に保存された領域が存在することがわかる。MAFP1の成熟タンパク質配列(配列番号:3)は、Aspergillus giganteusのAFP及びPenicillium chrysogenumのPAFのアミノ酸配列に対してそれぞれ29%及び31%の類似性を有する。成熟MAFP1配列の8、15、28、36、43及び54位の6つのシステインは、真菌起源の抗真菌性タンパク質の高度に保存された残基である。MAFP1(配列番号:1)のcDNAに類似したDNA配列は存在せず、ゲノムDNA配列(mafp1、配列番号:4)は、blastn比較によって、NCBIのnrデータベース中のDNA配列中に見出された。従って、MAFP1は新規なタンパク質であり、mafp1は新規な遺伝子であると結論付けることができる。
【0042】
本発明の抗真菌性タンパク質と生物学的機能的に同等なペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質は、本発明の範囲内であることが意図されており、抗真菌性タンパク質の基本配列中における保存的なアミノ酸の変化(conservative amino acid changes)を含むアミノ酸配列を含む。そのようなアミノ酸配列には、基本配列中の1以上のアミノ酸が、別のアミノ酸(類)によって置換されており、そのアミノ酸の電荷及び極性(polarity)は、元のアミノ酸のそれらと類似している。即ち、保存的なアミノ酸の置換は沈黙の変化(silent change)となる。
【0043】
基本のポリペプチド配列内のアミノ酸の置換は、自然界に存在するアミノ酸が属するクラスの他のアミノ酸から選択することができる。
【0044】
アミノ酸は、次の4つのグループに分類される:
(1)酸性アミノ酸
(2)塩基性アミノ酸
(3)中性極性アミノ酸
(4)中性非極性アミノ酸
これら各種のグループ内の代表的なアミノ酸としては、これらに限定されないが、(1)アスパラギン酸及びグルタミン酸等の酸性(マイナスの電気を帯びた)アミノ酸;(2)アルギニン、ヒスチジン及びリジン等の塩基性(プラスの電気を帯びた)アミノ酸;(3)グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミン等の中性極性アミノ酸;及び(4)アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニン等の中性非極性(疎水性)アミノ酸が挙げられる。
【0045】
基本のタンパク質配列内の保存的なアミノ酸の変化は、上記グループの一つの中の一つのアミノ酸を同じグループ内の別のアミノ酸に置換することによって為すことができる。抗真菌性タンパク質の生物学的に機能性の同等物は、20以下、より好ましくは10以下、最も好ましくは5以下の保存的なアミノ酸変化を有することができる。コード化ヌクレオチド配列(遺伝子、プラスミドDNA、cDNA又は合成DNA)は、従って、対応する塩基置換を有し、抗真菌性タンパク質の生物学的に機能性の同等な形態をコード化することを可能にするであろう。
【0046】
従って、本明細書中で意図されている生物学的に機能性の同等ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質は、本発明の抗真菌性タンパク質の基本のアミノ酸配列、若しくはその中の対応する部分に対して、約80%以上、好ましくは約85%以上、最も好ましくは約90%以上の配列類似性を有しているべきである。
【0047】
本発明の抗真菌性ポリペプチドは、配列番号:2で示されるアミノ酸配列、又はその生物学的に機能性の同等物を含むことが好ましいが、この抗真菌性ポリペプチドの抗真菌活性と同じ又は類似の活性を有するこれらの配列の断片及び変異体(variants)も本発明に包含される。従って、配列番号:2中の連続する8以上のアミノ酸配列がそのような活性を示すことができる。
【0048】
配列番号:2の断片は、N−末端、C−末端、ペプチドの中間又はこれらの組み合わせから1以上のアミノ酸が削除された切断された形態であり得る。これらの断片は、配列番号:2の天然に存在するか又は合成の変異体であり得、配列番号:2の抗真菌活性を保持しているはずである。
【0049】
配列番号:2の変異体は、天然又は合成の配列中に1以上のアミノ酸が挿入された形態を含む。また、これらの変異体は、配列番号:2の天然に存在するか又は合成の変異体であり得、配列番号:2の抗真菌活性を保持しているはずである。
【0050】
前述の、即ち、アミノ酸の欠失及び付加の両方を含有する抗真菌性タンパク質の形態もまた、本発明に包含される。その中にアミノ酸の置換が存在していてもよい。
【0051】
本発明に包含される配列番号:2の断片及び変異体は、配列番号:2の対応する領域に対して、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上の配列類似性を有しているべきである。
【0052】
本発明において有用な本発明の抗真菌性タンパク質の他の生物学的に機能性の同等形態(biologically functional equivalent forms)は、ポリペプチド、又は上述したその生物学的に機能性の同等物と、本発明の抗真菌性タンパク質の抗真菌活性と比較して、同じ、類似又はより強い活性を発揮する、融合生成物を形成する、他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質との接合体(conjugates)を含む。
【0053】
生物学的に機能性の同等物はまた、本発明の抗真菌性タンパク質に対する、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両者を含む抗体と反応する、即ち、特異的に結合し、同じ又は類似の抗真菌活性を示す、ペプチド類、ポリペプチド類及びタンパク質類を含む。
【0054】
ポリペプチド又はタンパク質の生物学的に機能性の同等物の製造方法は、直接的な化学合成、又は微生物、植物及び動物系のような異種の生物系(heterologous biological systems);組織培養;細胞培養;若しくはin vitro翻訳系における合成等の、当業界で公知の任意の好適な方法を含む。例えば、核酸配列又はアミノ酸配列を修飾するための部位特異的突然変異誘発及び組み換えタンパク質の発現のような遺伝子工学技術等のアミノ酸配列を変える方法は、当業界で周知である。
【0055】
本発明は、配列番号:1又は4に示されるDNA配列のみでなく、生物学的に機能性の同等物のヌクレオチド配列も含む。「生物学的に機能性の同等なヌクレオチド配列」という句は、配列番号:2のものと同じ又は類似の抗真菌活性を示すペプチド、ポリペプチド及びタンパク質をコード化するゲノムDNA、プラスミドDNA、cDNA、合成DNA及びmRNAヌクレオチド配列を含むDNA及びRNAのヌクレオチド配列をいう。即ち、機能的に作動可能に宿主細胞に導入され、それらが発現されたときに、そのような細胞に真菌性病原体に対する抵抗性を与えるのに十分なレベルの抗真菌活性を示す、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を製造する。
【0056】
本発明の生物学的に機能性の同等ヌクレオチド配列は、その中で沈黙の変化を生じさせる、基本の抗真菌性タンパク質配列内の保存的なアミノ酸変化をコード化するヌクレオチド配列を含む。そのようなヌクレオチド配列は、配列番号:2等の野生型抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチド配列と比較して、対応する塩基置換体を含有する。
【0057】
基本の抗真菌性タンパク質配列内の保存的なアミノ酸変化をコード化するヌクレオチド配列に加え、本発明の生物学的に機能性の同等ヌクレオチド配列は、他の塩基置換、付加又は欠失を含有するヌクレオチド配列を含む。これらは、配列番号:1又は4のDNAに含まれるのと同じ生来の遺伝子情報を含有し、宿主細胞及び生物に、配列番号:2の真菌抵抗性と同じ又は類似の真菌抵抗性を付与するペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコード化する核酸を含む。このようなヌクレオチド配列は、配列番号:1又は4に示されるDNAの「遺伝学的に同等な改質形態(genetically equivalent modified forms)」と呼ぶことができ、本明細書中に記載された方法によって同定することができる。
【0058】
配列番号:1等の、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するcDNA、プラスミドDNA、ゲノムDNA、合成DNA又は他の核酸中に生じた突然変異は、コード配列のリーディングフレームを保持していることが好ましい。さらに、これらの突然変異は、ハイブリダイズして、mRNA翻訳に悪影響を及ぼす、ループやヘアピン等のmRNAの二次構造を生成し得る、相補的な領域を作り出さないことが好ましい。
【0059】
突然変異部位は予め決めることができるが、突然変異自体の性質を予め決める必要はない。例えば、所定部位における突然変異体の最適な特徴を選択するために、ランダム変異導入法をターゲット・コドンに実施することができる。或いは、突然変異は、自然の(native)cDNA配列の断片に連結反応し得る制限部位と隣接する、突然変異配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって特定の遺伝子座(loci)に導入することができる。連結反応後、得られた再構築されたヌクレオチド配列は、所望のアミノ酸挿入、置換又は欠失を有する核酸配列の誘導体(derivative form)をコード化している。何れの場合においても、発現された突然変異体は、例えば、実施例4に記載の方法によって所望の抗真菌活性によってスクリーニングできる。
【0060】
配列番号1又は4のDNAの有用な遺伝学的に同等な改質形態の具体例としては、配列番号1又は4に対する高レベルの配列同一性を示すヌクレオチド配列を有するDNAが挙げられる。これは、配列番号1又は4のDNA又はその対応する部分に対して、約70%以上、より好ましくは約80%以上、最も好ましくは90%以上の配列同一性の範囲であり得る。
【0061】
このような遺伝学的に同等な改質形態は、従来のDNA−DNA又はDNA−RNAハイブリダイゼーション法を用いて、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による増幅によって容易に単離することができる。これらの形態は、従来の形質転換方法によって、真菌性病原体に通常の感受性を有する宿主細胞中に導入したときに、その真菌性病原体に対する抵抗性を付与する能力を有するはずである。
【0062】
配列番号:2等の抗真菌性タンパク質の断片及び変異体は、cDNA、プラスミドDNA、ゲノムDNA、合成DNA又はmRNAによってコード化されていてもよい。これらの核酸は、配列番号:1若しくは4に示されるヌクレオチド配列、又はそれに対応するmRNAのヌクレオチド配列を有するDNAの対応する領域又は部分に対して、約70%以上、好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上の配列類似性を有するべきである。
【0063】
本発明において、配列番号:1又は4に示されるヌクレオチド配列を有するDNAと同等の生物学的に機能性の核酸としては、下記のものが挙げられる。
【0064】
部分的なヌクレオチドの欠失、挿入、付加等の自然の又は人工的な突然変異のいずれかによって改変された長さを有するDNAであって、配列番号:1又は4の全長を100%としたときに、生物学的に機能性の同等な配列は、配列番号:15の約60〜約120%、好ましくは約80%〜約110%の近似した長さ(approximate length)を有している。
【0065】
部分的な(通常、全長の約20%以下、好ましくは約10%以下、より好ましくは約5%以下)、天然の、又は人工的な突然変異を含有し、異なるアミノ酸をコード化するヌクレオチド配列であるが、得られるポリペプチドは、配列番号:2等の本発明の抗真菌性ポリペプチドの抗真菌活性を保持している。このようにして生成された突然変異したDNAは、配列番号:2のアミノ酸配列に対して、通常、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上の配列同一性を有するポリペプチドをコード化している。
【0066】
本発明において、人工的な突然変異を生じさせるために用いる方法は、特に限定されず、そのような突然変異は、当業界で常套的な任意の手段によって製造できる。これらの方法のいずれかによって製造された、本明細書中に開示されたDNA配列の生物学的に機能性の同等物は、それによってコード化されたペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を、実施例に記載の方法を用いてアッセイすることによって選択できる。
【0067】
遺伝子コードの縮退のために、即ち、タンパク質中に自然に生じる殆どのアミノ酸に対して1以上のコドンが存在するために、本発明のDNAと本質的に同じ遺伝子情報を含有し、配列番号:1又は4のヌクレオチド配列によってコード化されたアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列をコード化している他のDNA(及びRNA)配列は、本発明の実施に用いることができる。この原理は、本明細書中で検討している他のヌクレオチド配列のいずれにも同様に適用される。
【0068】
本発明のDNAの生物学的に機能性の同等形態はまた、特定の宿主細胞中での発現を増加させるために設計された合成DNAを含む。宿主細胞は、しばしば、コドン利用の好ましいパターンを示し、それ故、特定の宿主細胞中での発現を増加させるように設計された合成DNAは、宿主細胞中でのコドンの利用パターンを反映しているはずである。
【0069】
本発明で有用な配列番号:1又は4のDNAの他の生物学的に機能性の同等形態は、他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質との接合体をコード化するように修飾され、それによってそれらとの融合生成物をコード化したものを含む。
【0070】
配列番号:2等の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチド配列の一つの実施形態は、配列番号:1又は4に示されているが、本発明は、配列番号:1又は4の配列及びその相補的な配列にハイブリダイズし、本発明の抗真菌性タンパク質と同じ又は類似の抗真菌活性を有するペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコード化しているヌクレオチド配列も含むと理解すべきである。このようなヌクレオチド配列は、中〜高緊縮条件下で、配列番号:1若しくは4、又はその相補的配列にハイブリダイズすることが好ましい。
【0071】
もし、上記のヌクレオチド配列が、配列番号:2の抗真菌効果と約25%以下の差の抗真菌効果を有するペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコード化しているならば、それらは、配列番号:1又は4のDNAと実質的に同等な生物学的機能を有していると考えられる。
【0072】
ベクター及び宿主系
本発明の他の目的は、配列番号:1又は4に示される核酸配列を含有するベクターを提供することである。生物学的に活性なMAFP1を発現させるために、MAFP1又は生物学的に機能性の同等物をコード化する核酸配列は、適切な発現ベクター、即ち、挿入されたコード配列の転写及び翻訳に必要な要素を含んでいるベクター中に挿入され得る。本発明によれば、当業者に周知の方法を用いて、MAFP1をコード化する配列及び適切な転写及び翻訳制御要素を含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法は、in vitro組み換えDNA技術、合成技術及びin vitro遺伝子組み換えを含む。ベクターは通常、用いる特定の宿主細胞中で機能性となるように選択される(即ち、遺伝子の増幅及び/又は遺伝子の発現が起こり得るように、ベクターは宿主細胞装置(host cell machinery)と適合している)。
【0073】
本発明の別の目的は、配列番号:1若しくは4で示される核酸配列又はその配列を含有する発現ベクターによって形質転換された宿主細胞を提供することである。本発明によれば、多数の宿主系を利用して、MAFP1をコード化する配列を含有し、発現させることができる。そのような宿主系及び発現ベクターとしては、以下のものに限定されないが、組み換え型バクテリオファージ、プラスミド又はコスミドDNA発現ベクターによって形質転換された細菌;酵母発現ベクターによって形質転換された酵母;ウイルス発現ベクターに感染した昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター又は細菌発現ベクターに感染した植物細胞系;及び動物細胞系が挙げられる。ベクターを構築し、MAFP1をコード化する核酸配列をベクターの適切な部位に挿入した後、完成されたベクターを、増幅及び/又はポリペプチド発現のために好適な宿主細胞中に挿入することができる。MAFP1タンパク質の発現ベクターの選択された宿主細胞中への形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウム共沈殿、電気穿孔法、マイクロ・インジェクション、リポフェクション(lipofection)、DEAE−デキストラン仲介トランスフェクション等を含む周知の方法によって達成することができる。選択された方法は、部分的に、用いる宿主細胞の種類の機能となるであろう。宿主細胞は、適切な条件下で培養されたときに、MAFP1タンパク質を合成することができ、その後、(宿主細胞がMAFP1タンパク質を培地中に分泌する場合には)MAFP1タンパク質は培地から回収でき、(培地中に分泌されない場合には)MAFP1を製造する宿主細胞から直接回収できる。適切な宿主細胞の選択は、所望の発現レベル、活性にとって望ましい又は必要なポリペプチド修飾(例えば、グリコシル化又はリン酸化等)、及び生物学的に活性な分子中への組み込みの容易さ等の種々のファクターに依存する。
【0074】
有用性
本発明によれば、驚くべきことに、MAFP1タンパク質が分泌性のタンパク質であり、病原性真菌の増殖を効果的に阻害できることを見出した。従って、本発明のMAFP1タンパク質は、動物、植物又は微生物の真菌性疾病の治療、抑制及び/又は予防に用いることができる。抗真菌性タンパク質を被験者に投与することによって、又は抗真菌性タンパク質をコード化するDNA分子を含むベクターによって被験者を形質転換することによって、被験者中のコード化された抗真菌性タンパク質を発現させる抗真菌性タンパク質を直接使用して、真菌性疾病に対する保護を提供することができる。
【0075】
本発明の抗真菌性タンパク質の用途に加え、本明細書中で意図されている核酸配列も、多様な他の用途を有している。例えば、これらの核酸配列もまた、核酸ハイブリダイゼーションの実施形態のプローブ又はプライマーとしての有用性を有する。そのようなものとして(as such)、配列番号:1又は4の14個のヌクレオチド長の連続したDNAセグメントと同じ又はそれに相補的な、少なくとも14個のヌクレオチド長の連続配列からなる配列領域を含む核酸セグメントには、特別な有用性が見出されるであろう。同一又は相補的な、より長い連続配列、例えば、約20、30、40、50、100、200bp等のもの(409個の塩基対の中間の長さ及び409個までの長さを有する全ての中間体を含む、かつ409個の塩基対からなる全長の配列を含む)も、特定の実施形態において用いられるであろう。
【0076】
そのような核酸プライマーが配列をコード化する抗真菌性タンパク質を特異的に増幅又はそれにハイブリダイズする能力は、所定の検体中の配列をコード化する抗真菌性タンパク質の存在を検出する用途に、核酸プライマーを用いることを可能にするであろう。しかしながら、他の遺伝子構築物の製造における用途のための突然変異種又はプライマーの製造のための配列情報の利用を含む他の用途が考えられる。
【0077】
抗真菌性組成物
本発明はまた、特に、真菌性疾病を治療、抑制及び/又は予防のために、本発明の抗真菌性タンパク質を含む抗真菌性組成物を提供する。この組成物は、好適なキャリア、希釈剤、溶媒、不活性物質又は他の添加剤を含んでいてもよく、任意に、他の抗真菌活性物質、賦形剤、補助剤(auxiliaries)、肥料又は成長調節剤を含んでいてもよい。
【0078】
本発明の抗真菌性組成物は、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠形成(dragee−making)、粉末化(levigating)、乳化、カプセル化、封入(entrapping)及び/又は凍結乾燥工程を含む当業界で公知の方法で製造されてもよい。
【0079】
抗真菌性組成物は、以下に限られないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、脊髄内、鞘内、脳室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、直腸内手段を含む多数の経路によって動物に投与することによって、又は標準的な農業技術(例えば、スプレー又は種子処理)を用いて組成物が真菌性病原体と接触するように、組成物を植物、又は植物の環境に直接適用することによって病原性真菌の増殖阻害又は殺傷するために用いることができる。
【0080】
先に述べたように、より広い抗真菌スペクトルを提供するように、即ち、追加的な病原体を抑制する、又は同じ真菌性病原体の抑制のための多角的な作用様式を与えるように、本発明の抗真菌性タンパク質は、抗真菌活性を示す他のペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を含む、他の抗真菌性試薬と組み合わせて使用することができる。
【0081】
また、本明細書中で意図されている抗真菌性組成物は、本発明の抗真菌性ポリペプチドを製造しうる細菌及び真菌細胞のような宿主細胞の形態のものも含む。
【0082】
トランスジェニック生物
このようにして単離されたcDNAは、宿主細胞中に導入するための適切な形質転換/発現ベクターに移送することができる。さらに別の態様では、本発明の抗真菌性遺伝子は、本発明の新規な抗真菌性タンパク質をコード化する核酸セグメントを発現するトランスジェニック生物を製造するために用いることができる。トランスジェニック生物の製造方法は、マイクロインジェクション又は遺伝子組換えベクターによる感染等、当業界で周知である。一般に、この方法は、MAFP1抗真菌性タンパク質をコード化するコード領域に作動可能に連結されたプロモーターを含有するDNAセグメントによる好適な宿主細胞の形質転換を含む。このようなコード領域は、一般に、転写終結領域に作動可能に連結されており、それによってプロモーターは細胞内のコード領域の転写を駆動することができ、従って、in vitroで組換えタンパク質を製造する能力を与えることができる。
【0083】
トランスジェニック生物は、本明細書中に開示された新規な抗真菌性タンパク質の1以上をコード化する遺伝子又は遺伝子セグメントを発現することができる。植物細胞等の好適な宿主細胞を配列番号:2のようなMAFP1抗真菌性ポリペプチドをコードする組換え核酸配列によって形質転換することで、コード化された抗真菌性タンパク質の発現によって、真菌に対する抵抗性を示す生物を作り出すことができる。本明細書で用いているように、語句「トランスジェニック生物」とは、おそらく普通には存在しない遺伝子に限らず、RNAに通常は転写されないか、タンパク質に翻訳されない(「発現されない」)DNA配列、又は形質転換されていない生物中には通常存在しないが、遺伝子組み換え若しくは異なる発現のいずれかが望まれる遺伝子等の、形質転換されていない生物中に導入されることが望まれる任意の他の遺伝子又はDNA配列がを組み込まれた生物をいうことが意図されている。
【0084】
1より多いトランス遺伝子が、形質転換された宿主植物細胞のゲノム中に組み込まれるであろう。そのような場合、1より多いMAFP1抗真菌性タンパク質コード化DNAセグメントが、そのような生物のゲノム中に組み込まれる。ある状況では、1、2、3、4又はそれ以上の抗真菌性タンパク質(野生型又は組換え技術によって作られたかのいずれか)が組み込まれることが望ましく、形質転換されたトランスジェニック生物中で安定して発現されることが望ましい。
【0085】
また、他のDNAセグメントをトランスジェニック生物のゲノム中に組み込むことが望ましく、その場合、そのようなDNAは、開示された抗真菌性タンパク質とは非相同の他の抗真菌性タンパク質又は生物の生産物の質若しくは性能を改善する種々の他のタンパク質をコード化する。従って、DNAによってコード化された他の種類のタンパク質としては、抗細菌性、抗ウイルス性又は殺虫性タンパク質が挙げられる。
【0086】
トランスジェニック生物は、非ヒト哺乳類、植物又は微生物等の任意の使い勝手の良い生物であってよい。例えば、実験室試験操作に用いるような、齧歯類(例えば、マウス又はラット);及び例えば、イネ、ジャガイモ及びタバコ等の農業に用いるような生物である。しかしながら、本発明が、MAFP1が阻害効果を示す菌類に感染しやすいいずれの生物にも適用できることは自明であろう。
【0087】
プライマー
ある実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマーを用いることが有利である。そのようなプライマーの配列は、PCR法に用いるための抗真菌性タンパク質遺伝子の特定された(defined)セグメントを検出、増幅又は突然変異させるために設計される。PCR用のプライマー及びハイブリダイゼーション・スクリーニング用のプローブは、配列番号:1又は4に示されるDNAのヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。プライマーは、二量体形成を防止するために、自己相補的な配列も、それらの3’末端の相補的配列も有しないことが好ましい。プライマーは、制限部位を含んでいてもよい。プライマーは、DNAにアニーリングされ、十分な回数のPCRを実施することにより、ゲル電気泳動及び染色によって容易に可視化される生成物を得る。プライマーは、一般に少なくとも14個、通常少なくとも20個、好ましくは少なくとも24個、より好ましくは少なくとも28個のヌクレオチド長を有する。そのようなプライマーは、配列番号:2と同じ若しくは類似の抗真菌活性を有する抗真菌性ポリペプチド又はタンパク質をコード化する遺伝子を特異的にプライミング(priming)することができるであろう。他の種由来の関連する抗真菌性タンパク質遺伝子のセグメントも、このようなプライマーを用いたPCRによって増幅することができる。増幅された断片は、精製され、適切なベクター中に挿入され、当業界で公知の常套手段によって増殖され得る。
【実施例】
【0088】
下記実施例は、当業者が本発明を実施するのを助けるために提供されている。たとえそうであっても、本明細書中で検討されている実施形態における修飾及び変更が、本発明的発見の精神又は範囲から逸脱することなく当業者によって為され得るので、実施例は、本発明を不当に限定して解釈されるべきではない。
【0089】
材料
以下の実施例で用いるMonascus株は、台湾のBioresource Collection and Research Center(BCRC)に保存されているMonascus株である:M.pilosus(BCRC 38072、BCRC 38093及びBCRC31502)、M.barkeri(BCRC 33309)、M.floridanus(BCRC 33310)、M.lunisporas(BCRC 33640)、M.ruber(BCRC 31534、BCRC 31523、BCRC 31535、BCRC 33314、BCRC 33323及びBCRC 31533)、M.kaoliang(BCRC 31605=CBS 302.78)、M.purpureus(BCRC 31541=ATCC 16379、BCRC 33325=IFO 30873、BCRC 31615=DSM 1379、BCRC 31499=ATCC 16360=ATCC 26311及びBCRC 31542=ATCC 16365=ATCC 16426)、及びM.sanguineus(BCRC 33446=ATCC 200613から選択する。
【0090】
Monascus株又は単離・精製された抗真菌性タンパク質MAFP1の抗真菌活性を試験するための真菌株は、Helminthosporium panici(BCRC 35004)及びPaecilomyces variotii(BCRC 33174)から選択される。
【0091】
真菌株を、PDA(ジャガイモデキストロース寒天、Difico Co.)培地皿上に接種し、25℃で7〜14日間培養した。
【0092】
実施例1
Monascus種中のmafp1遺伝子の分布
種々のMonascus種にmafp1遺伝子(配列番号:1)が存在するか否かを明らかにするために、mafp1遺伝子を増幅するためのプライマーを、プライマー設計ソフトウエア(Vector NTI(InforMax)Primer Design)を用いて設計した。プライマーは、次の3つのグループに組み合わされた:(1)プライマーH160−5F(配列番号:6)とプライマーH160−3R(配列番号:7)、これらはmafp1遺伝子の全長配列の増幅に用いることができる;(2)プライマーH160−5S(配列番号:8)とプライマーH160−3R、これらはプロペプチド及び成熟MAFP1領域を含む配列をコード化するヌクレオチド配列の増幅に用いることができる;及び(3)プライマーH160−5P(配列番号:9)とプライマーH160−3R、これらは成熟MAFP1領域を含む配列をコード化するヌクレオチド配列の増幅に用いることができる。
【0093】
Monascus株をYM培地(グリセロール7%、グルコース3%、MSG(L−グルタミン酸1ナトリウム)3%、ポリペプトン1.2%、NaNO 0.2%及びMgSO−7HO 0.1%、pH6.0)中、25℃で9日間培養した。真菌体及び培養液を3Mフィルター膜による真空濾過によって分離した。好適量の真菌体を用いた従来のフェノール抽出法によって真菌の染色体DNAを得た。
【0094】
Monascus種中のmafp1遺伝子の存在を試験するために、前述の3つのプライマー対を用いてPCR増幅を実施した。Monascus株から得られた染色体DNA 100ngをPCRテンプレートとして用いた。PCR反応溶液は、10nM dNTP 0.2μL、10×PCRバッファー2.5μL、前方のプライマー及び逆のプライマー5ピコモル、及びTaq酵素5単位を含む。mafp1遺伝子を増幅するためのPCR条件は、(1)94℃、5分間;(2)94℃で40秒間を30回、55℃で40秒間及び72℃で30秒間;(3)72℃で3分間;及び(4)4℃で保持した。PCR増幅の結果を表1に示す。
【表1】

【0095】
結果は、mafp1遺伝子が、M.barkeri BCRC 33309、M.floridanus BCRC 33310、M.lunisporas BCRC 33640、M.pilosus(BCRC 38072、BCRC 38093及びBCRC 31502)及びM.ruber(BCRC 31523、BCRC 31533、BCRC 31534、BCRC 31535、BCRC 33314及びBCRC 33323)中に存在することを示した。M.kaoliang BCRC 31506、M.purpureus(BCRC 31499、BCRC 31542、BCRC 31541、BCRC 31615及びBCRC 33325)及びM.sanguineus BCRC 33446にはmafp1遺伝子は見出されない。M.barkeri、M.floridanus、M.lunisporas、M.pilosus及びM.ruber等のMonascus種が抗真菌活性を有していることが示唆されている。
【0096】
実施例2
mafp1遺伝子と各種のMonascus種中のmafp1遺伝子のcDNAとの配列比較
mafp1遺伝子のクローニング及び配列決定
Monascus株をYM培地(グリセロール7%、グルコース3%、MSG(L−グルタミン酸1ナトリウム)3%、ポリペプトン1.2%、NaNO 0.2%及びMgSO−7HO 0.1%、pH6.0)中、25℃で9日間培養した。3Mフィルター膜による真空濾過によって、真菌体と培養液を分離した。好適量の真菌体を用いる従来のフェノール抽出法によって真菌の染色体DNAを得た。プライマーH160−5F及びH160−3Rを用いてPCR増幅を実施した。Monascus株から得られた染色体DNA 100ngを、PCRテンプレートとして用いた。PCR反応溶液は、10nM dNTP 0.2μL、10×PCR緩衝液2.5μL、前方プライマー及び後方プライマー5ピコモル及びTaq酵素5単位を含む。mafp1遺伝子を増幅するためのPCR条件は、(1)94℃、5分間;(2)94℃、40秒間を30サイクル、55℃、40秒間及び70℃30秒間;(3)72℃3分間;及び(4)4℃に保持である。mafp1遺伝子の全長配列のうちのPCR増幅されたヌクレオチド断片を精製し、pGEM−Tベクター(Promega)中にクローニングした。プラスミドDNAを配列決定のために抽出した。
【0097】
mafp1 cDNAのクローニング及び配列決定
Monascus株を、YM培地(グリセロール7%、グルコース3%、MSG(L−グルタミン酸1ナトリウム)3%、ポリペプトン1.2%、NaNO 0.2%及びMgSO−7HO 0.1%、pH6.0)中、25℃で9日間培養した。3Mフィルター膜による真空濾過によって真菌体と培養液を分離した。好適量の真菌体を用いるRiboPure(登録商標)−酵母キット(Ambion)によって真菌の全RNAを得た。Improm−II(登録商標)逆転写系(Reverse Transcription system)キット(Promega)を用いて最初のcDNA鎖を製造した。mafp1遺伝子の特定のプライマー対(H160−5F及びH160−3R)をPCRに用いて、全長のmafp1のcDNA断片を増幅した。好適量の最初のcDNA鎖をPCRテンプレートとして用いた。PCR反応溶液は、10nM dNTP 0.2μL、10×PCR緩衝液2.5μL、H160−5F及びH160−3R 5ピコモル及びTaq酵素5単位を含む。mafp1 cDNAを増幅するためのPCR条件は、(1)94℃、5分間;(2)94℃、40秒間、55℃、40秒間を30サイクル及び72℃、1分間;(3)72℃、3分間;及び(4)4℃で保持である。増幅されたPCR産物を精製し、pGEM−Tベクター(Promega)中にクローニングした。プラスミドDNAを配列決定のために抽出した。
【0098】
mafp1遺伝子と各種のMonascus種中のmafp1遺伝子のcDNAとの配列比較結果を表2に示した。
【表2】

【0099】
結果は、mafp1遺伝子並びにMonascus pilosus BCRC 38093、Monascus pilosus BCRC 31502及びMonascus ruber BCRC 31533中のmafp1遺伝子のcDNAの配列は、Monascus pilosus BCRC 38072のそれらに対して100%の配列類似性を有することを示した。これらのMonascus株全部が同じmafp1遺伝子を有しており、転写されたmRNAが同じであることがわかる。これらの株は同じMAFP1タンパク質を製造できると結論付けられる。
【0100】
実施例3
病原体対峙培養アッセイ
Monascus真菌の抗真菌活性を確認するために、2種類のMonascus種(M.pilosus BCRC 38072及びBCRC 38093)の円形真菌ブロック(直径0.5cm)と、病原性真菌(H.panici BCRC 35004)とをPDA皿の両側に置き、28℃で培養した。病原性真菌の増殖阻害を観察した。この予備的な結果は、両方の株が、H.panici BCRC 35004の増殖を阻害できることを示した。
【0101】
M.pilosus BCRC 38093は、M.pilosus BCRC 38072の突然変異体である。(表2に示されるように)それらは同じmafp1配列を有し、同じ抗真菌活性を有する。M.pilosus BCRC 38093を、以下の精製実施例に用いた。
【0102】
実施例4
Monascus抗真菌性タンパク質(MAFP1)の精製、N−末端配列決定、及び抗真菌活性アッセイ
MAFP1の精製
M.pilosus BCRC 38093の、25℃、9日間培養後の培養液(culture broth)400mLを、0.22μmのフィルター膜を用いて、4,500rpmで遠心分離して、不純物を除去した。30kDaのフィルター膜を用いて遠心分離された培養液を処理し(process)、30kDaより小さい分子を含む溶液を回収し、pH6.6に調整した。CM Sepharose Fast Flow(Amersham Biosciences)樹脂10mLとタンパク質溶液40mLとを、室温で16時間混合した。この混合物を空のクロマトグラフィーカラムに充填した。結合していないタンパク質を洗い出した。このカラムを、溶液A(10mM ナトリウム−リン酸緩衝液中25mM NaCl、pH6.6)100mLで溶出し、溶液A及び溶液B(10mM ナトリウム−リン酸緩衝液中1M NaCl、pH6.6)の異なる割合からなる溶液を用いてタンパク質を溶出した。溶液Aの濃度勾配は、95%から、80%、75%、50%、0%までであった。それぞれの濃度勾配に対して溶液100mLを使用し、溶出画分を15mLの試験管に別々に分けた。
【0103】
それぞれの試験管からの溶液1mLを、TCAで沈殿させ、SDSA−PAGEで分析した。MAFP1タンパク質の分子量は約70kDaである。MAFP1タンパク質を含有する溶液を、1つの試験管中に貯めた。この溶液を3kDaのフィルター膜によって低いスピード(2,000rpm)で遠心分離した。3kDaより大きいタンパク質を含有する溶液を集め、濃縮し、1kDaのフィルター膜によって脱塩した。精製されたMAFP1タンパク質を、病原体拮抗アッセイ及びタンパク質N−末端配列決定に用いた。
【0104】
N−末端配列決定
精製されたMAFP1溶液をTCAで沈殿させ、15%アクリルアミドSDS−PAGEを用いて分析した。異なる濃度のリゾチームをタンパク質の定量基準として用いた。電気泳動後、タンパク質をゲルからPVDF膜に移し、0.1%クマシーブリリアントブルーR250(Coomassie Brilliant Blue R250)で染色した(図3参照)。MAFP1タンパク質のバンドを切り出し、メタノールで脱色した。ddHOで膜を何回も洗浄し、暗所で乾燥させた。Applied Biosystems Procise Sequencer 494を用いて、処理されたMAFP1タンパク質のN−末端配列を決定した。
【0105】
精製されたMAFP1タンパク質のN−末端配列決定結果は、精製されたMAFP1タンパク質のN−末端が、LSKYGGECSLQHNTC(配列番号:5)であることを示した。精製されたタンパク質のN−末端配列決定は、MAFP1タンパク質(配列番号:3)の成熟形態の最初の15個のアミノ酸配列と一致している。精製されたタンパク質はMAFP1タンパク質の成熟形態であることが証明された。
【0106】
抗真菌活性アッセイ
病原体拮抗投与量アッセイを実施し、精製したMAFP1タンパク質の抗真菌活性を確認した。病原性真菌(P.variotii BCRC 33174及びH.panici BCRC 35004)の真菌区画(block)をPDA皿の中央に置いた。各濃度のMAFP1溶液(精製したMAFP1タンパク質を0μg〜0.8μg含有する)の6mmのペーパーディスクを、病原性真菌の真菌区画の周りに置いた。皿を28℃で培養し、病原性真菌の増殖阻害を観察した。結果を図4に示した。結果は、MAFP1タンパク質0.2μgで、P.variotiiの増殖を有意に抑制できることを示した。また、結果は、MAFP1タンパク質0.4μgで、H.paniciの増殖を有意に阻害できることを示した。MAFP1の濃度が高ければ高いほど、病原性真菌の増殖を阻害する活性が強いことが観察された。Monascus種由来のMAFP1タンパク質は、抗真菌活性を有するタンパク質であり、P.variotii等のヒトの病原体及びH.panici等の植物の病原体の増殖を阻害できることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、Monascus pilosus BCRC 38072の全ゲノム配列及びユニジーン(unigene)データベースを探索することによって得られる抗真菌性タンパク質遺伝子及びそのcDNA配列に関する。前記遺伝子は抗真菌性タンパク質MAFP1をコード化することができる。M.pilosus培養培地から得られる分子量約7kDaの精製されたタンパク質は、N−末端タンパク質配列決定及び比較分析によってMAFP1と同定される。精製されたMAFP1タンパク質は、Paecilomyces variotii BCRC 33174及びHelminthosporium panici BCRC 35004等の病原体の増殖を阻害できる。さらに、PCR試験によってこの抗真菌性タンパク質の遺伝子が、M.Barkeri、M.floridanus、M.lunisporas M.pilosus、及びM.ruber等の他のMonascus種に存在していることがわかる。また、M.pilosus(BCRC 38072、BCRC 38093及びBCRC 31502)及びM.ruber BCRC 31533の、4種類のMonascus株中のmafp1遺伝子及びそのcDNAが、同じDNA配列を有していることが証明されている。
【0108】
本発明によれば、Monascus種から得られた単離・精製された抗真菌性タンパク質MAFP1、それをコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチド及びそれをコード化する組み換えベクターのヌクレオチド配列、並びにその組み換えベクターを含む組み換え宿主細胞が提供される。
【0109】
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質を含む抗真菌性組成物が提供される。
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質を用いる植物の真菌性疾病を抑制する方法が提供される。
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するトランス遺伝子がそのゲノム中に組み込まれたトランスジェニック生物が提供される。
【0110】
本発明によれば、本発明の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチドを増幅し得る、単離・精製されたプライマー対、及びそれを含むPCRアッセイキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、Monascus抗真菌性タンパク質MAFP1のアミノ酸配列を示す。シグナル・ペプチド;プロペプチド;及び成熟タンパク質のそれぞれの領域を、下線を付して示す。
【図2】図2は、M.pilosusの抗真菌性タンパク質MAFP1、A.giganteusのAFPタンパク質、及びP.chrysogenumのPAFタンパク質の、(A)成熟領域及び(B)全長の配列アラインメントを示す。網掛けで示した領域は3種又は2種のタンパク質の間で同一のアミノ酸残基を示す。
【図3】図3は、精製されたMonascus抗真菌性タンパク質MAFP1のSDS−PAGE分析を示す。レーン1はタンパク質マーカー;レーン2は精製されたMAFP1タンパク質である。
【図4】図4は、Monascus抗真菌性タンパク質MAFP1の抗真菌活性アッセイを示す。病原性新菌であるPaecilomyces variotii(BCRC 33174)及びHelminthosporium panici(BCRC 35004)に対する精製されたMAFP1タンパク質の抗真菌能を、対峙培養によって検討し、真菌類の増殖を観察した。(−)MAFP1:MAFP1無しの対照群;(+)MAFP1:各種の量のMAFP1タンパク質による実験群。A〜Hはそれぞれ、MAFP1タンパク質0.4μg、0.2μg、0.1μg、0.05μg、0μg、0.8μg、0.64μg及び0.32μgのペーパーディスクを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Monascus種から得られる単離・精製された抗真菌性タンパク質又は生物学的に機能性のその同等物。
【請求項2】
前記Monascus種が、Monascus barkeris、Monascus floridanus、Monascus lunisporas、Monascus pilosus及びMonascus ruberからなる群から選択される、請求項1に記載の抗真菌性タンパク質。
【請求項3】
前記Monascus barkeris株がMonascus barkeris BCRC 33309であり、
前記Monascus floridanus株がMonascus floridanus BCRC 33310であり、前記Monascus lunisporas株がMonascus lunisporas BCRC 33640であり、前記Monascus pilosus株がMonascus pilosus BCRC 38072、 BCRC 38093又はBCRC 31502であり、及び前記Monascus ruber株がMonascus ruber BCRC 31523、BCRC 31533、BCRC 31534、BCRC 31535、BCRC 33314又はBCRC 33323である請求項2に記載の抗真菌性タンパク質。
【請求項4】
配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:5のアミノ酸配列を含む抗真菌性タンパク質、又は生物学的に機能性のその同等物。
【請求項5】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチド配列を含む単離・精製されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ヌクレオチド配列が、
a)配列番号:1又は配列番号:4のヌクレオチド配列;
b)a)の縮退配列;
c)a)又はb)の相補配列;及び
d)高緊縮条件下でa)〜c)のいずれかにハイブリダイズするヌクレオチド配列
からなる群から選択される請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項5に記載の単離・精製されたヌクレオチド配列を含む遺伝子組み換えベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクター又は請求項5に記載の単離・精製されたヌクレオチド配列を含む遺伝子組み換え宿主細胞。
【請求項9】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質、及び好適なキャリアを含む抗真菌性組成物であって、該タンパク質が、真菌性疾病に対する保護を提供するのに十分な量で提供されることを特徴とする抗真菌性組成物。
【請求項10】
追加的な抗真菌剤を含む請求項9に記載の抗真菌性組成物。
【請求項11】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質を、真菌性疾病に対する保護を提供するのに十分な量で、植物に適用することを含む植物真菌の抑制方法。
【請求項12】
前記抗真菌性タンパク質が請求項9に記載の組成物によって提供される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質をコード化するDNA分子を含むベクターによって植物細胞を形質転換し、コード化された抗真菌性タンパク質を、真菌性疾病に対する保護を提供するのに十分な量で発現させることによって前記抗真菌性タンパク質が提供される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
真菌性疾病を治療するための医薬品の製造のための、請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質の使用。
【請求項15】
前記抗真菌性タンパク質が、請求項9に記載の組成物によって提供される請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質をコード化するトランス遺伝子が、そのゲノム中に組み込まれたトランスジェニック生物。
【請求項17】
前記生物が植物若しくはその子孫又はその植物由来の種子である請求項16に記載のトランスジェニック生物。
【請求項18】
請求項1又は4に記載の抗真菌性タンパク質をコード化するヌクレオチドを増幅することができる単離・精製されたプライマー対であって、該プライマーの配列が配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8及び配列番号:9からなる群から選択される配列のうちの少なくとも8個のヌクレオチドを含むことを特徴とする単離・精製されたプライマー対。
【請求項19】
請求項18に記載のプライマー対を含むPCRアッセイキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−161179(P2008−161179A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217394(P2007−217394)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(596032694)財団法人食品工業発展研究所 (9)
【Fターム(参考)】