説明

抗肥満薬としてのエンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニスト

【課題】 エンドセリンアンタゴニストおよびエンドセリン受容体アンタゴニストの新たな用途を開発する。
【解決手段】 哺乳動物における肥満の抑制に使用されるエンドセリンアンタゴニスト、哺乳動物における肥満を抑制するための、エンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストを含有する医薬組成物、ならびに抗肥満活性を有するエンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満を抑制するためのエンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストの使用、それらを含む医薬組成物、ならびに抗肥満活性を有するエンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドセリン(ET)は、1988年に血管内皮細胞から単離・同定された強力な血管収縮作用を有する物質である(Yanagisawa M, et al: Nature (Londan) 332: 411-415, 1988)。ETは血管内皮細胞のみならず肺、腎臓等の様々な組織により産生される21個のアミノ酸からなるペプチドであり、これまでET−1、ET−2およびET−3の3種が同定されており、ET−1の血管収縮活性が最も強力である。ETは、その強力な血管収縮活性を有することから、高血圧、心不全などの各種循環器疾患の病態に関与することが示唆され、またこれらの循環器病疾患の新たな治療ターゲットとして注目されてきた。
【0003】
ETはその受容体に結合することにより機能を発揮する。ET受容体にはET受容体とET受容体があり、ET受容体はET−1およびET−2に対する親和性が高く、ET受容体はET−1、ET−2およびET−3のいずれに対しても同等の親和性を有する。高いETレベルによる障害を抑制あるいは除去するためには、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストにより、ETの作用あるいはET受容体の作用をブロックすることが必要となる。これまで多種多様な化合物がETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストとして同定されてきた。現在、ET受容体アンタゴニストは米国で2001年に認可されたのを皮切りに多くの国で、肺血管性肺高血圧症の治療薬として臨床の場で使用されており、本邦でも極めて近い将来、使用の認可がおりることが期待されている。
【0004】
これまでの研究の大部分はETと高血圧との関係に関連するものであり、具体的には高血圧の治療および予防を目的としたものが多かった。しかしながら、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニスト以外にも優れた高血圧抑制薬がすでに存在するため、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの用途は肺血管性肺高血圧の抑制に限定されてしまうのが実情である。
【0005】
近年、動脈硬化性疾患の基盤となる病態として、高血圧、耐糖能異常、脂質代謝異常、肥満といった危険因子が合併する代謝症候群(Metabolic syndrome)の存在が注目されている。したがって、動脈硬化性疾患に起因する各種循環器疾患の病態の解明および新たな治療戦略の確立のためには、代謝症候群の分子病態の解明は不可欠である。
【0006】
これまで肥満患者における血中ETレベルの上昇や、脂肪細胞から産生されるアディポサイトカインであるレプチン、アディポネクチン、レジスチンの発現にETの関与を示唆する報告は散見されるものの(非特許文献1、2等参照)、ETと肥満あるいは脂肪組織量、さらには肥満に伴うインスリン抵抗性との関連を示す報告はなされていない。
【非特許文献1】Ferri C, et al. Exp Clin Endoclinol Diabetes. 1997;105 Suppl 2:38-40.
【非特許文献2】Xiong Y, et al. J Biol Chem. 2001 Jul 27;276(30):28471-7. Epub 2001 May 18.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の事情に鑑みると、ETアンタゴニストの新たな用途、特に、肥満およびその関連疾患ならびに代謝症候群に対する用途を開発することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、驚くべきことに、ETの機能を抑制した動物において肥満が抑制されること見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は:
(1)哺乳動物における肥満の抑制のための、エンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストを有効成分として含有する医薬組成物;
(2)哺乳動物における肥満を抑制するための医薬を製造するための、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの使用;ならびに
(3)抗肥満活性を有するETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストのスクリーニング方法であって、下記工程:
ヒトを除く哺乳動物に候補物質を投与しつつ、該動物における肥満パラメーターをモニターする
を含む方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、哺乳動物における肥満の抑制に使用されるETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニスト、哺乳動物における肥満の抑制のための、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを含有する医薬組成物、ならびに抗肥満活性を有するETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストのスクリーニング方法が提供される。したがって、肥満およびその関連疾患ならびに代謝症候群の治療および予防のための新規かつ効果的なアプローチが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、血管内皮細胞においてET−1をノックアウトしたマウスにおいて、対照マウスと比較して体重増加が抑制されることを初めて見出した(実施例を参照のこと)。この結果は、ETの機能を抑制することにより肥満を抑制できることを示すものである。ETの機能を抑制するには、ET自体あるいはET受容体の機能を抑制し、ETとET受容体との結合を抑制すること、あるいはETの生成を抑制すること等が必要である。ETの機能を抑制する物質としてはETアンタゴニスト、抗ET抗体、ETのアンチセンスDNA、ET変換酵素阻害剤等が挙げられるが、本明細書においてはこれらを「ETアンタゴニスト」と総称する。また、ET受容体の機能を抑制する物質としてはET受容体アンタゴニスト、抗ET受容体抗体、ET受容体のアンチセンスDNA等が挙げられるが、本明細書においてはこれらを「ET受容体アンタゴニスト」と総称する。これらを哺乳動物に投与することにより、肥満を抑制することができる。
【0012】
したがって、1の態様において、本発明は、哺乳動物における肥満の抑制に使用されるETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストに関するものである。ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストとしては既知のアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを使用してもよく、本発明の方法によりスクリーニングして見出されたETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを使用してもよい。ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの種類は特に限定されず、あらゆるETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを使用することができる。例えば、ペプチド性あるいは蛋白性のものを使用してもよく、芳香族環を有するような非ペプチド性のものを使用してもよい。本発明のETアンタゴニストは天然界(例えば生体等)から単離されたものであってもよく、ペプチド合成や有機合成等の手法により合成されたものであってもよい。
【0013】
本発明における使用に際して、ETアンタゴニスト、ET受容体アンタゴニストのいずれを使用してもよく、両方を使用してもよい。さらに使用するETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストは1種類であってもよく、複数のものであってもよい。ETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストは種々のものが見出されており、それらの特性等についてもよく研究されており、適宜選択して用いることができる。また、本発明のスクリーニング方法により見出されたETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストを用いてもよい。
【0014】
また、本発明のETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストは特異性の面からも特に制限はなく、ETアンタゴニストはET−1、ET−2、ET−3のいずれの作用を抑制するものであってもよく、ET受容体アンタゴニストはET受容体、ET受容体のいずれの作用を抑制するものであってもよい。好ましくは、ETのうち最も強力な作用を有するET−1もしくはET−1受容体に対する特異性の高いアンタゴニストが好ましい。
【0015】
ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストのほかに、1種類またはそれ以上の他の薬効成分、例えば、抗肥満物質、抗高血圧物質、心疾患治療物質等を併用してもよい。
【0016】
対象哺乳動物の種類についても特に制限はなく、霊長類(ヒトやサル)、家畜類(ウシ、ウマ、ブタ等)、ペット動物(イヌ、ネコ等)いずれの哺乳動物においても肥満抑制効果が得られる。なお、本明細書において「肥満の抑制」、「肥満抑制」あるいは「抗肥満」とは、肥満のみならず肥満関連疾患(心疾患、高血圧、糖尿病など)ならびに代謝症候群の予防および治療を包含する。
【0017】
もう1つの態様において、本発明は、哺乳動物における肥満の抑制のための、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを有効成分として含有する医薬組成物に関するものである。通常には、本発明の医薬組成物は医薬上許容される担体と混合されたETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを含有するものである。医薬上許容される担体は当業者に公知である。本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、固形(例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤など)、半固体(例えば、クリーム、パスタなど)、液体(例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシルなど)、エアロゾル等、いずれの剤形であってもよい。また、坐薬の形態であってもよい。本発明の医薬組成物の投与形態は、経口投与であっても、非経口投与(例えば、静脈注射、皮内注射、輸液、経粘膜経路、経皮的経路などによる)であってもよい。静脈注射または輸液による投与が、血管内皮に対する直接的作用の面から好ましい。本発明の医薬組成物の製造は、通常の製薬方法に従って行うことができる。例えば、錠剤の場合には、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを適当な固体担体と混和し、打錠することにより製造することができる。注射や輸液用剤形は、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを適当な液体担体に溶解させ、例えば濾過により滅菌して製造することができる。個々の剤形に適合した医薬上許容される担体は、多種多様なものが知られており、適宜選択して使用することができる。固体担体としては、例えば、デンプン、タルク、セルロース、乳糖、砂糖などが挙げられる。半固体担体としては、寒天、水飴などが挙げられる。液体担体としては、水、油脂(食用油等)、アルコール、糖蜜などが挙げられる。本発明の医薬組成物には、必要に応じて、希釈剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、甘味料、香料、着色料、保存料などが含まれていてもよい。
【0018】
有効成分としてのETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの用量、投与回数および投与期間は、個々のETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの活性および性質、投与方法、患者の症状、体重、性別、年齢、既往症、患者が他に投与を受けている薬剤等の因子を考慮して、医師が通常の方法により定めることができる。一般的には、ETアンタゴニストの1日の用量は、体重70kgの成人に対し、内服の場合は0.5〜500mg、好ましくは2.5〜50mg、静脈内投与(輸液)の場合には0.1〜100mg/h、好ましくは0.5〜10mg/hであろう。またET受容体アンタゴニストの1日の用量は、体重70kgの成人に対し、内服の場合は0.5〜500mg、好ましくは2.5〜50mg、静脈内投与(輸液)の場合には0.1〜100mg/h、好ましくは0.5〜10mg/hであろう。1日に1回ないし数回に分けて投与して、1日の所要用量を投与することができる。
【0019】
本発明に従ってETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストあるいはそれを含有する組成物を使用した場合、肥満抑制効果が見られる他に、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストとしての既知の効果、例えば、高血圧抑制作用なども期待できる。このことは、肥満と高血圧を同時に治療できるという利点にもなる。肥満や高血圧が抑制されることから、それらに伴う種々の疾病、例えば、心疾患(心不全、心臓肥大、心筋梗塞など)や血管障害(例えば、狭心症、動脈硬化、脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)など)ならびに代謝症候群等も有効に抑制されうる。ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの肥満抑制効果と高血圧抑制等の既知の効果との割合はETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの種類によって異なる。これらの割合は既知の試験方法により確認することができ、用途に応じてETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを適宜選択して用いることができる。
【0020】
本発明の組成物における使用に際して、ETアンタゴニスト、ET受容体アンタゴニストのいずれかを使用してもよく、両方を使用してもよい。さらに使用するETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストは1種類であってもよく、複数のものであってもよい。ETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストは種々のものが見出されており、それらの特性等についてもよく研究されており、適宜選択して用いることができる。また、本発明のスクリーニング方法により見出されたETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストを用いてもよい。
【0021】
有効成分たるETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストのほかに、1種類またはそれ以上の他の薬効成分、例えば、抗肥満物質、抗高血圧物質、心疾患治療物質等が本発明の医薬組成物中に含まれていてもよい。
【0022】
また本発明は、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物における肥満の抑制方法にも関する。さらに本発明は、哺乳動物において肥満を抑制するための医薬の製造のための、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの使用にも関する。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、抗肥満活性を有するETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストのスクリーニング方法に関するものである。該方法は、ヒトを除く哺乳動物に候補物質を投与しつつ、該動物における肥満パラメーターをモニターすることを含む。本発明の候補物質は、高血圧抑制等の作用を有する既知のETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストのほか、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニスト作用を有する可能性のある物質も含まれる。ETアンタゴニスト作用もしくはET受容体アンタゴニストを有する可能性のある物質は、例えば、既知のETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストとの構造的関連性に基づいて選択してもよく、あるいは、一般的なETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの同定方法、例えば高血圧抑制作用を指標に同定を行ってもよい。したがって、本発明のスクリーニング方法は、さらに、候補物質を選択あるいは同定する工程を含んでいてもよい。本発明のスクリーニング方法におけるETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの動物への投与はいかなる方法で行ってもよく、アンタゴニストの特性、動物の種類等により適宜決定することができる。使用動物は、ヒトを除く哺乳動物であればいずれの動物であってもよい。食餌は通常の食餌であってもよいが、肥満を誘発する食餌、例えば、高脂肪食、高糖食、高脂肪・高糖食などが好ましい。肥満パラメーターも種々のものが知られており、例えば、体重、体脂肪率(皮下脂肪率、内臓脂肪率をCTにて測定もしくは解剖して重量を測定)、血中レプチン濃度、脂肪細胞のサイズ(解剖後、脂肪組織から脂肪細胞を調製し、その大きさを測定)などが挙げられる。いずれの肥満パラメーターであっても本発明のスクリーニング方法に使用できる。一般的には、対照実験として、候補物質を投与しない系で同様の実験を行い、ETアンタゴニスト候補物質もしくはET受容体アンタゴニスト候補物質の効果を評価することができる。このようにしてスクリーニングされた抗肥満活性を有する物質を本発明のETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストとして使用することができる。
【0024】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0025】
Tie2−Creトランスジェニックマウス(Kisanuki YY, et al. Dev Biol. 2001;230:230-42)とET−1 Floxedマウス(Shohet RV, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2004;101:2088-93)を交配することにより血管内皮細胞でのみET−1を欠損したマウス(VEETKOマウス)を作成し、以下の実験を行った。これら2系統のマウスは、Professor Masaaki Yanagisawa, Howard Hughes Medical Institute, Department of Molecular Genetics, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX 75235, U.S.A.から入手した。
【0026】
雄のVEETKOマウス(n=7)、野生型マウス(WTマウス)(n=7)に対し、図1に示すスキームに従って、生後9週目において通常食(ND)から高脂肪食(HFD)に切り替え、8週間にわたり高脂肪食負荷を行い、体重の推移、食事摂取量を毎週測定した。なお、通常食はマウス・ラット・ハムスター用飼料:MF(飼育用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)であった。
【0027】
負荷開始直後よりWTマウスでは顕著な体重増加を認めたが、VEETKOマウスにおける体重増加は乏しく、負荷開始1週後より全負荷期間を通じて両群間での体重差は統計学的に有意差を認めた(図2、図5)。負荷期間中の食事摂取量は両群間に有意差は認めなかった(図3)。負荷8週後、生後17週齢の外見写真を図4に示す。WTマウスは明らかな肥満を呈しておりVEETKOマウスとの違いは明瞭である。8週間に渡る高脂肪食負荷の体重増加は両群間で約2倍の差を認めた(図4)。また、負荷後の血糖値は、通常食群と高脂肪食群とでは大きな差が見られたが、高脂肪食負荷VEETKOマウスの血糖値は高脂肪食WTマウスのそれよりも明らかに低かった(図5)。負荷後の身長の有意差は実験群間で認められなかった(図5)。
【0028】
高脂肪食負荷後の各組織の重量を測定し、同期間通常食で過ごした両群と比較したところ(図6、図7)、高脂肪食負荷により脂肪組織量の著明な増加が両群で認められたが、WTマウスの増加に比較しVEETKOマウスの増加は統計学的有意に軽度であった。また肝臓重量は高脂肪食負荷後のWTマウスにおいてのみ増加を認め、骨格筋重量は両群とも増加を認めたが両群間での有意差は認めなかった。心臓、腎臓重量に変化はなかった。
【0029】
このように、血管内皮細胞特異的ET−1ノックアウトマウスにおいて、高脂肪食負荷にて肥満の抑制、特に脂肪組織量の増加の抑制が示された。これらの結果は、ETの活性を抑制することにより、肥満を抑制できることを示すものである。すなわち、これらの結果は、ETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストが抗肥満作用を発揮し、さらには同時に循環動態を改善することを示すものである。それゆえ、ETアンタゴニストおよびET受容体アンタゴニストが代謝症候群に対する全く新規の治療薬となることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、哺乳動物における肥満の抑制に使用されるETアンタゴニスト、哺乳動物における肥満の抑制のための、ETアンタゴニストを含有する医薬組成物、ならびに抗肥満活性を有するETアンタゴニストのスクリーニング方法を提供するものであるので、肥満およびその関連疾患ならびに代謝症候群の新規治療および予防用医薬の製造、ならびにそれらの病理の研究用の試薬の製造等の分野などにおいて利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、投餌スキームを示す図である。
【図2】図2は、VEETKOマウスおよびWTマウスの体重変化を示すグラフである。
【図3】図3は、VEETKOマウスおよびWTマウスの摂餌量を示すグラフである。折れ線グラフは、HFD負荷期間中の1日の平均摂餌量(1週間ごと)を示し、棒グラフはHFD負荷期間中の総摂餌量を示す。
【図4】図4は、HFD負荷後のVEETKOマウスおよびWTマウスの外観を示す写真および体重増加量を示す棒グラフである。
【図5】図5は、HFD負荷後の各群の体重、身長および血糖値を比較した棒グラフである。実験群は、HFD/VEETKO(HFDを与えたVEETKOマウス)、HFD/WT(HFDを与えたWTマウス)、ND/VEETKO(NDを与えたVEETKOマウス)およびND/WT(NDを与えたWTマウス)であった。
【図6】図6は、HFD負荷後の各群の脂肪組織量を比較した棒グラフである。実験群は図5と同じである。
【図7】図7は、HFD負荷後の各群の主要器官重量を比較した棒グラフである。実験群は図5と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における肥満の抑制のための、エンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストを有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項2】
哺乳動物における肥満を抑制するための医薬を製造するための、ETアンタゴニストもしくはET受容体アンタゴニストの使用。
【請求項3】
抗肥満活性を有するエンドセリンアンタゴニストもしくはエンドセリン受容体アンタゴニストのスクリーニング方法であって、下記工程:
ヒトを除く哺乳動物に候補物質を投与しつつ、該動物における肥満パラメーターをモニターする
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−232722(P2006−232722A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49259(P2005−49259)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】