説明

抗菌剤及びそれを含有する口腔用組成物並びに飲食品

【課題】 安全性が高く、配合特性に優れ、かつ歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対して強い抗菌活性を有する新規の口腔用抗菌剤を提供すること。
【解決手段】 α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗菌剤は口腔用組成物や飲食品の配合成分として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とする口腔用抗菌剤に関し、さらには、前記抗菌剤を含有する口腔用組成物および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸のモノグリセリド(モノアシルグリセロールまたはグリセリン脂肪酸エステルともいう)は油脂の一種で、グリセリンと脂肪酸が1個ずつ結合した物質である。脂肪酸のモノグリセリドは食品添加物として加工食品(マーガリン、チョコレート、アイスクリーム、パン、ケーキなど)に幅広く使用されている乳化剤である。
【0003】
また、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルなど)やポリグリセリン脂肪酸エステル類(例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなど)も加工食品の乳化剤として使用されている(以下、グリセリン有機酸脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステル類をあわせて「グリセリン脂肪酸誘導体」という)。
【0004】
上述した脂肪酸のモノグリセリドおよびグリセリン脂肪酸誘導体のうち、中鎖脂肪酸のモノグリセリドには抗菌活性を有するものが知られており、耐熱性芽胞菌や酵母に対する抗菌目的で使用されている。また、長鎖脂肪酸のモノグリセリドに対して有機酸、ヒノキチオール、安息香酸、サリチル酸、チモール、オイゲノール、ビサボロール等の香料、シグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アミノ酸第4級アンモニウム塩、ポリリジン、エタノール、グリシン、リゾチーム等を併用し、抗菌効果を増強させることが試みられている(特許文献1〜6参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−179211号公報
【特許文献2】特開2003−183105号公報
【特許文献3】特開2003−12411号公報
【特許文献4】特開2002−212021号公報
【特許文献5】特開2001−17137号公報
【特許文献6】特開2000−270821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯肉炎や歯周炎などの歯周病の罹患率は厚生労働省の統計によると40才以上の国民の80%以上であり、口腔内の国民病として大変重要な問題である。また、今後高齢化がさらに進む中で、歯周病の予防対策は急務である。歯周病は歯周ポケットの歯垢中に存在する嫌気性細菌による混合感染症と考えられている。歯周病と最も関連が深い細菌として、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)などの編性嫌気性細菌が知られている。また、虫歯(う蝕)の原因菌としてはストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)が知られている。
【0007】
そこで、従来から、歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対し、抗菌剤として上述した中鎖脂肪酸のモノグリセリドが使用されてきた。
【0008】
しかしながら、中鎖脂肪酸のモノグリセリドはある程度の抗菌活性を有しているが、脂溶性のため水やアルコールに対する溶解度が低く、物性的に結晶が析出しやすいため実用的でない。このため、好適な添加量で口腔用組成物や飲食品に配合するには不適当である。
【0009】
また、上記のポリグリセリン脂肪酸エステル類や上記以外の脂肪酸グリセリンエステル(ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)は、比較的水に対する溶解度が向上するが、抗菌活性は相対的に低下する。
【0010】
さらに、上記以外の抗菌剤としては、例えば、フェノール系、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ピリジニウム塩、チアゾール系の抗菌剤が知られているが、これらの多くは安全性の面で問題がある。
【0011】
一方、天然系抗菌剤としては、例えば、エタノール、ポリリジン、リゾチーム、プロタミン、ラクトフェリン、グリシン、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、アシタバ抽出エキス、竹抽出エキス、香辛料抽出物が挙げられる。これらの天然系抗菌剤は天然系素材であるため安全性は高いが、いずれも抗菌活性の点で満足いくものではない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、配合特性に優れ、かつ歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対して強い抗菌活性を有する新規の口腔用抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、α−リノレン酸モノグリセリドとリノール酸モノグリセリドが歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対して強力な抗菌活性を示し、かつ配合特性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とする口腔用抗菌剤、
〔2〕 前記〔1〕記載の抗菌剤を含有する口腔用組成物、
〔3〕 前記〔1〕記載の抗菌剤を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安全性が高く、配合特性に優れ、かつ歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対して強い抗菌活性を有する新規の口腔用抗菌剤が提供される。特に、抗菌活性については、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)(ともに歯周病の原因菌)およびストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)(虫歯の原因菌)に対して高い抗菌活性を示す。このため、本発明に係る抗菌剤を口腔用組成物や飲食品に配合することで、歯周病、虫歯などの予防が容易に実行可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の抗菌剤は、α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とする点に特徴がある。α−リノレン酸モノグリセリドとは、α−リノレン酸1分子とグリセリン1分子とがエステル結合した化合物であり、リノール酸モノグリセリドとは、リノール酸1分子とグリセリン1分子とがエステル結合した化合物である。
【0017】
α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とする場合、抗菌活性を損なわない範囲で、該有効成分以外に炭素数が8〜24の脂肪酸1分子以上とグリセリン、ジグリセリンまたはトリグリセリンなどのグリセリン成分1分子とがエステル結合した他の脂肪酸グリセリンエステルが含有されていてもよい。
【0018】
他の脂肪酸グリセリンエステルを構成する脂肪酸としては、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ミリストレイン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。上記の脂肪酸グリセリンエステルが抗菌剤の構成成分として含まれる場合、抗菌剤中のα−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドの含量は、全脂肪酸グリセリンエステル中5重量%以上とすることが好ましく、20重量%以上とすることがより好ましい。
【0019】
α−リノレン酸モノグリセリドは公知の方法で製造することができ、例えば、化学触媒または酵素(リパーゼ)を用いてα−リノレン酸とグリセリンとをエステル化する方法を挙げることができる。また、リノール酸モノグリセリドは、α−リノレン酸に代えてリノール酸を用いることにより、α−リノレン酸モノグリセリドと同様の方法で製造することができる。本発明では、上記の方法のうち、温和な条件で製造できる点で、リパーゼを用いる方法が好適である。
【0020】
α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドの反応原料としての脂肪酸は、通常α−リノレン酸またはリノール酸の純品が用いられるが、α−リノレン酸のトリグリセリド及びリノール酸のトリグリセリドを含む油脂を加水分解して得られるα−リノレン酸とリノール酸の混合物を用いることもできる。かかる油脂としては、例えば、亜麻仁油、エゴマ油、ローズヒップ油、月見草油、ボラージ油などの高等植物油などが挙げられ、これらは、そのままで、または精製して用いることができる。また、上記反応原料としての脂肪酸はカビや乳酸菌などの微生物生産により得ることもできる。
【0021】
触媒として使用されるリパーゼは、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。例えば、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ、トリグリセリドリパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼなどが挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、特に脂肪酸トリグリセリドを基質としてほとんど認識せず、脂肪酸モノグリセリドおよび/または脂肪酸ジグリセリドを基質として認識するリパーゼが好ましい。このようなリパーゼとして、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼなどが挙げられる。
【0022】
このようなリパーゼとしては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バシラス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードチマ(Pseudozyme)属などの微生物由来のリパーゼが用いられる。より好ましくはペニシリウム(Penicillium)属、バシラス(Bacillus)属由来のリパーゼである。これらのリパーゼは一般に市販されており、容易に入手可能である。
【0023】
リパーゼは精製(粗精製および部分精製を含む)されたものを用いてもよい。さらに、遊離型のまま使用してもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定化して使用してもよい。
【0024】
エステル化反応に使用されるリパーゼの量は、反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などにより適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは反応混合液1g当たり1単位(U)〜10000Uである。酵素活性の1Uとは、リパーゼの場合、オリーブ油の加水分解において1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量をいう。モノグリセリドリパーゼ、あるいはモノおよびジグリセリドリパーゼの場合は、オレイン酸モノグリセリドの加水分解において、1分間に1μモルのオレイン酸を遊離する酵素量である。
【0025】
エステル化反応に使用されるα−リノレン酸およびリノール酸は、遊離型、金属塩型、およびエステル型のいずれの形態でもよい。本発明においては、エステル化反応が進行しやすい点で、遊離型が好ましい。
【0026】
エステル化反応に使用されるグリセリンの量は特に限定されない。通常、遊離型のα−リノレン酸(またはリノール酸)1モル量に対して、好ましくは1〜10倍モル量、より好ましくは1〜5倍モル量である。
【0027】
本発明では、エステル化反応において反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などを適宜調整することにより、α−リノレン酸とグリセリンを反応原料とする場合は、α−リノレン酸モノグリセリドを純度よく製造することができ、リノール酸とグリセリンを反応原料とする場合は、リノール酸モノグリセリドを純度よく製造することができる。反応温度は好ましくは30〜60℃であり、反応時間は好ましくは30〜60時間であり、圧力は好ましくは0.1〜30mmHgである。また、リパーゼの活性を維持するため、α−リノレン酸(またはリノール酸)とグリセリンの合計量に対して0.3〜3重量%の水を添加することが好ましい。
【0028】
エステル化反応は静置反応でもよいし、各種の撹拌法、振盪法、超音波法、窒素などの吹き込み法、ポンプなどによる循環混合法、弁またはピストンを用いる混合法などにより、あるいはこれらの組み合わせにより、反応液を混合しながら行ってもよい。
【0029】
反応混合液から、α−リノレン酸モノグリセリド(またはリノール酸モノグリセリド)を単離・精製する方法としては、任意の単離・精製法を採用し得る。単離・精製方法としては、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、膜分離など、およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。なお、反応混合液をそのまま使用してもよい。
【0030】
本発明の抗菌剤は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)やフソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)(歯周病の原因菌)およびストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)(虫歯の原因菌)に対して高い抗菌活性を示す。
【0031】
本発明の抗菌剤は、上記の細菌類に対して高い抗菌活性を示す。このため、本発明に係る抗菌剤を口腔用組成物や飲食品に配合することで、歯周病、虫歯などの予防が容易に実行可能となる。口腔用組成物中(または飲食品中)の抗菌剤の含量は、通常0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.001〜5重量%である。
【0032】
本発明の抗菌剤の形態は、口腔用組成物および飲食品の種類に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0033】
口腔用組成物としては、例えば、練り歯磨き、マウスウォッシュ、口中清涼剤、口中スプレーなど挙げられる。飲食品としては、例えば、チューインガム、キャンディー、錠菓、フィルム状食品、飲料、菓子などが挙げられる。
【0034】
上記の口腔用組成物または飲食品に本発明の抗菌剤を配合する場合、他の抗菌剤の1種または2種以上を併用してもよい。併用できる他の抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、ポリリジン、リゾチーム、プロタミン、プロポリス、ラクトフェリン、グリシン、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキスなどが挙げられる。
【0035】
上記の口腔用組成物または飲食品には、本発明に係る抗菌剤の抗菌作用を阻害しない限り、口腔用組成物または飲食品の種類に応じて常用される成分を配合することができる。
かかる成分としては、糖類、人工甘味料、果汁、チューインガムベース、酸味料、精製水、アルコール類、油性成分、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、保湿剤、粉体、香料、色素、乳化剤、pH調整剤、消臭剤、ステアリン酸カルシウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、二酸化ケイ素、カフェイン、ビタミン類、酵素、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、他の抗菌剤などが挙げられる。
【0036】
具体的には、糖類としては、果糖、グルコース、マルトース、デンプン、デキストリン、水飴、還元麦芽水飴、マルチトース、パラチノース、還元パラチノース、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、エリスリトール、スクラロースなどが挙げられる。人工甘味料としては、アスパルテーム、サッカリンなどが挙げられる。油性成分としては、流動パラフィン、ワセリン、固形パラフィン、ラノリン、ラノリン脂肪酸誘導体、ジメチルポリシロキサン、高級アルコール高級脂肪酸エステル類、脂肪酸、長鎖アミドアミン類、動植物油脂などが挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリルグリセリンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸塩、N−ステアロイル−N−メチルタウリン塩、ラウリルリン酸、リン酸モノミリスチル、リン酸モノセチル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられる。増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物が挙げられる。保湿剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが挙げられる。粉体としては、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、亜鉛華、雲母などが挙げられる。
【0037】
上記の口腔用組成物または飲食品に本発明の抗菌剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された口腔用組成物または飲食品から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0038】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0039】
1. 各種脂肪酸のモノグリセリドの製造例
1-1. α―リノレン酸モノグリセリド(本発明品)の製造例
約30mlのバイアル瓶中に、10gのα―リノレン酸/グリセリン(1/2(モル比))の混液、0.1gの水、および200Uのモノおよびジグリセリドリパーゼ(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、35℃、2mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のα−リノレン酸モノグリセリドの含量が85重量%の組成物を得た。得られた反応品をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて繰り返し抽出し、α―リノレン酸モノグリセリドの含量が97重量%の精製物を得た。
【0040】
1-2. 亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリド(本発明品)の製造例
まず、亜麻仁油を加水分解して亜麻仁油由来脂肪酸を製造し、これとグリセリンを反応原料としてリパーゼの存在下エステル化して亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリドを製造した。
(亜麻仁油由来脂肪酸の製造)
1Lの円形反応釜中に12mol/lの水酸化ナトリウム水溶液80mlとエタノール250mlを混合した。窒素気流下、亜麻仁油100gを上記混合物に添加し静かに混合した。混合物を60℃で30分間静置することによりケン化分解した。反応後冷水200mlを加え、次いで冷却した反応物に濃塩酸を添加し中和した。中和後、n−ヘキサン300mlを加え、亜麻仁油由来遊離脂肪酸を含むヘキサン層を抽出した。抽出後、得られたヘキサン層を脱溶媒し、亜麻仁油由来遊離脂肪酸を90g得た。
(エステル化)
約30mlのバイアル瓶中に、10gの亜麻仁油由来脂肪酸/グリセリン(1/2(モル比))の混液、0.1gの水、および200Uのモノおよびジグリセリドリパーゼ(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、35℃、2mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層の亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリドの含量が80重量%の組成物を得た。得られた反応品をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて繰り返し抽出し、亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリドの含量が98重量%の精製物を得た。
(脂肪酸組成)
得られた亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリド中の脂肪酸組成は、パルミチン酸4.9%、ステアリン酸3.3%、オレイン酸16.9%、リノール酸16.7%、α−リノレン酸57.4%、その他0.8%であった。
【0041】
1-3. リノール酸モノグリセリド(本発明品)の製造例
約30mlのバイアル瓶中に、100gのリノール酸/グリセリン(1/2(モル比))の混液、0.1gの水、および200Uのモノおよびジグリセリドリパーゼ(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、35℃、2mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のリノール酸モノグリセリドの含量が83重量%の組成物を得た。得られた反応品をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて繰り返し抽出し、リノール酸モノグリセリドの含量が97重量%の精製物を得た。
【0042】
1-4. オレイン酸モノグリセリド(比較品)の製造例
約30mlのバイアル瓶中に、10gのオレイン酸/グリセリン(1/2(モル比))の混液、0.1gの水、および200Uのリパーゼ(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、35℃、2mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のオレイン酸モノグリセリドの含量が85重量%の組成物を得た。得られた反応品をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて繰り返し抽出し、オレイン酸モノグリセリドの含量が97重量%の精製物を得た。
【0043】
2. ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)及びストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日本製薬社製、商品名「GAMブイヨン液体培地」)0.5mlを添加し、本発明品(α―リノレン酸モノグリセリド、亜麻仁油由来脂肪酸モノグリセリド、リノール酸モノグリセリド(それぞれ、「1.各種脂肪酸のモノグリセリドの製造例」で製造したもの))を0.5ml添加し、本発明品を培地中最終濃度で1.5ppm、3ppm、6ppm、12ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×10CFU/mlのポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis(JCM5175))、フソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum(ATCC25586))またはストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans(JCM2151))の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後好気条件下で37℃、24時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして発育を阻止するために必要な最低濃度(以下、「最小発育阻止濃度」という)を測定した。また、比較例として、口腔用抗菌剤として知られている塩化セチルピリジニウムおよびオレイン酸モノグリセリド(「1.各種脂肪酸のモノグリセリドの製造例」で製造したもの)を用いて、上記と同様の方法により最小発育阻止濃度を測定した。表1に結果を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)またはストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)のいずれの菌種に対しても、本発明品は優れた抗菌効果を示すことが分かった。
【0046】
5.配合特性
<チューインガム>
チューインガムベース 35.0重量部
炭酸カルシウム 2.0
マルチトール 50.0
エリスリトール 5.0
還元パラチノース 5.0
香料 1.0
α−リノレン酸モノグリセリド 0.5
精製水 1.5
100.0
(製法)
チューインガムベースを70℃に加温軟化させた後、保温撹拌しながら炭酸カルシウム、マルチトール、エリスリトール、還元パラチノースおよび精製水を少量ずつ混和した。次いで、上記混和により得られた糖類混和ガムベース中に香料とα−リノレン酸モノグリセリドの混合物を添加し、さらに混和した。最後に、得られた混和物を薄い板状に整形してチューインガムを得た。
(配合特性)
α−リノレン酸モノグリセリド配合チューインガムはガムベースの物性を損なうことなく、風味良好であった。
【0047】
<キャンディー>
グラニュー糖 60.0重量部
水飴 55.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
α−リノレン酸モノグリセリド 0.1
116.3
(製法)
グラニュー糖と水飴を150℃に加温軟化後、120℃まで放置冷却し、次いでクエン酸、香料とα−リノレン酸モノグリセリドを添加し混合した。次いで、得られた混合物を容器に充填しキャンディーにした。
(配合特性)
α−リノレン酸モノグリセリドを添加したキャンディーは褐変化を伴うことなく、風味良好であった。
【0048】
<錠菓>
マルチトール 80.0重量部
還元パラチノース 19.7
香料 0.2
リノール酸モノグリセリド 0.1
100.0
(製法)
マルチトールと還元パラチノースを粉体混合後、香料とリノール酸モノグリセリドを添加した。得られた混合物は打錠し、錠菓とした。
(配合特性)
混合物は容易に打錠時に固形化し、形状の部分崩壊も見られなかった。且つ風味も良好であった。
【0049】
<練り歯磨き>
第2リン酸カルシウム 50.0重量部
グリセリン 20.0
ソルビトール 10.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
カラギーナン 1.0
香料 0.5
α−リノレン酸モノグリセリド 0.2
精製水 18.0
100.7
(製法)
グリセリン、ソルビトール、ラウリル硫酸ナトリウム、カラギーナンおよび精製水を混合後、第2リン酸カルシウムを混和した。次いで、得られた混和物に香料とα−リノレン酸モノグリセリドを混合して練り歯磨きとした。
(配合特性)
α−リノレン酸モノグリセリド配合練り歯磨きは物性を損なうことなく安定であり、風味も良好であった。
【0050】
<マウスウォッシュ>
エタノール 15.0重量部
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2.5
グリセリン 8.0
サッカリンナトリウム 0.5
安息香酸ナトリウム 0.1
香料 0.1
リノール酸モノグリセリド 0.1
色素 0.001
精製水 75.0
101.3
(製法)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油をエタノール/グリセリン混合液で加温溶解後、精製水を加え溶解させた。次いで、得られた溶解物にサッカリンナトリウム、安息香酸ナトリウム、香料、リノール酸モノグリセリドおよび色素を添加し溶解混和してマウスウォッシュを得た。
(配合特性)
リノール酸モノグリセリド添加マウスウォッシュは加工時の溶解性は良好であり、沈殿形成は見られず、風味も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の抗菌剤は、歯周病の原因菌や虫歯の原因菌に対する抗菌効果に優れるので、例えば、練り歯磨き、マウスウォッシュ、口中清涼剤、口中スプレーなどの口腔用組成物や、例えば、チューインガム、キャンディー、錠菓、フィルム状食品、飲料、菓子などの飲食品の配合成分として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リノレン酸モノグリセリドまたはリノール酸モノグリセリドを有効成分とする口腔用抗菌剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗菌剤を含有する口腔用組成物。
【請求項3】
請求項1記載の抗菌剤を含有する飲食品。

【公開番号】特開2009−155257(P2009−155257A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334408(P2007−334408)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】