説明

抗菌表面構造、抗菌処理方法、抗菌部材、抗菌部材の作製方法および飲食物用容器

【課題】抗菌機能に優れて、さらに、繰り返しの使用によりクラック等が発生することのない高硬度の表面を形成する飲食物用容器を提供すること。
【解決手段】本体下部11に蓋上部12を被せることにより、その内部に飲料または食料の一方あるいは双方を収容可能な複数種の収容空間S1、S2を形成する飲食物用容器10であって、本体下部および蓋上部が純チタンにより作製されており、少なくともその収容空間を形成する内面板13、14の表面が、チタン粉体を噴射して吹き付けることにより酸化チタン層を形成された後に、さらにその表面に陽極酸化処理を施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌表面構造、抗菌処理方法、抗菌部材、抗菌部材の作製方法および飲食物用容器に関し、詳しくは、抗菌効果に優れて、例えば、一般家庭だけでなく、旅館、ホテル、レストラン等で使用する飲食物用容器や、公共施設等で使用する部材などに最適に適用することのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒が防汚機能を有することを利用して、食器の表面層に光触媒粒子を分散させることが提案されており、その光触媒粒子と共に、撥水性シリコ−ンや、シリコ−ンおよび撥水性フッ素樹脂や、無定型シリカおよび撥水性フッ素樹脂などを含む表面層を、ゾル・ゲル法により食器表面に形成することが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかるに、このゾル・ゲル法は、有機系のチタンゾルを乾燥させて高温で加熱することにより処理対象の表面に固着させることから、食器の素材が耐熱性を有していない場合には、その素材表面が劣化して光沢が低下するという問題があった。また、ゾル・ゲル法により得られる酸化チタン被膜が脆いため、食品を温めたり冷やしたりすることを繰り返す食器では、継続的な使用によりその酸化チタン被膜にクラックが発生する場合がある、という問題があった。
【0004】
ここで、表面層と被膜という文言は、部材(母材)の表面に形成されている意味において同義として用いており、表面層という場合には、その母材表面から深さ方向を意識したときに、また、被膜という場合には、その母材表面の面積方向を意識したときに用いているだけである。
【0005】
この酸化チタン被膜の形成方法としては、このゾル・ゲル法の他には、化学的に固着させる方法として、酸化チタン粒子をバインダで固定する方法が挙げられるが、この方法でも、形成される被膜の硬度(強度)が低いという問題があった。
【0006】
さらに、他の酸化チタン被膜の形成方法としては、電解浴中に浸漬させることにより処理対象の表面に形成する厚膜中に酸化チタン粒子を分散させる方法も提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0007】
その一方で、他の酸化チタン被膜の形成方法としては、電解浴を用いるなどの電気化学的に酸化チタン被膜を形成するのではなく、チタンまたはチタン合金自体を酸化雰囲気内に置くことによりその表面などを気相反応により酸化(改質)させて必要な酸化被膜を形成する方法も考えられる。
【0008】
また、このような気相反応により酸化チタン被膜を形成する方法としては、金属やセラミックスの表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより、その表面に気相反応による酸化チタン被膜を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
ところで、飲食業界においては、食中毒などの事故の発生を防止する必要があることから、衛生管理を厳しくすることが求められている。特に、飲食物に直接触れる容器は、常に衛生面での管理が求められている。このことから、上記文献1、2においても、光触媒機能を付与した表面層内に、Ag、Cu、Znなどの金属や白金族金属を添加することを行っている。
【0010】
これに対して、上記文献5に記載のものでは、金型、ドリル、治具、パイプ、ホイールなどの機械的な装置の表面に光触媒機能を持たせるために酸化チタン被膜を形成することが提案されているが、本出願人は、その文献5に記載の形成方法により飲食物に直接触れる容器の表面を処理することを鋭意研究開発した。
【0011】
その結果、通常であれば、この気相中のブラスト処理による酸化チタン被膜にも十分な抗菌機能を持たせるためにAg、Cu、Znなどの金属や白金族金属を添加するところであるが、本出願人は、この酸化チタン被膜では、衛生管理に十分な抗菌能力を有するとともに、高硬度に被覆形成できることを突き止めた。
【0012】
また、上記文献1〜3に記載のような一般的な酸化チタン被膜では、防汚・脱臭機能という光触媒機能を発揮させるためには太陽光や蛍光灯などに含まれる紫外線の照射によりその表面に電子および正孔を発生させて有機化合物を分解することが必要である(上記文献4に記載の被膜でも、可視光の照射が少なくとも必要である)が、この気相中のブラスト処理による酸化チタン被膜では、暗所においても抗菌機能とともに防汚・脱臭機能を発揮することが認められた。
【0013】
すなわち、本出願人は、金属やセラミックスの表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することによりその表面に形成した酸化チタン被膜が飲食物に直接触れる容器などに有効であることを研究開発した。
【0014】
さらに、本出願人は、鋭意研究開発を進めたところ、その表面層として形成した気相反応による酸化チタン被膜に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施すことにより、抗菌効果をより向上させることができることを発明した。
【特許文献1】特開平10−137098号公報
【特許文献2】特開平10−215996号公報
【特許文献3】特開平11−315398号公報
【特許文献4】特開2002−38298号公報
【特許文献5】特開2000−61314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、抗菌機能に優れて、さらに、繰り返しの使用によりクラック等が発生することのない高硬度の表面を有する抗菌表面構造および抗菌処理方法、並びに飲食物用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する抗菌表面構造の第1の発明は、抗菌機能を有する表面構造であって、母材の表面層として、該母材の表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層が形成されているとともに、当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とするものである。
【0017】
上記課題を解決する抗菌表面構造の第2の発明は、抗菌機能を有する表面構造であって、母材の表面層として、気相反応により酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層が形成されているとともに、当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とするものである。
【0018】
上記課題を解決する抗菌表面構造の第3の発明は、上記第1または第2の発明の特定事項に加え、前記表面層は、JISに規定の抗菌力試験により得られる抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とするものである。
【0019】
上記課題を解決する抗菌表面構造の第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明の特定事項に加え、前記表面層は、親水性を有することを特徴とするものである。
【0020】
上記課題を解決する抗菌処理方法の第1の発明は、材料表面に抗菌機能を付与する抗菌処理方法であって、母材の表面層として、該母材の表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴としている。
【0021】
上記課題を解決する抗菌処理方法の第2の発明は、材料表面に抗菌機能を付与する抗菌処理方法であって、母材の表面層として、気相反応により酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴としている。
【0022】
上記課題を解決する抗菌部材の第1の発明は、抗菌機能を備えた表面を有する抗菌部材であって、母材表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより形成された酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を備えており、当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とするものである。
【0023】
上記課題を解決する抗菌部材の第2の発明は、上記第1の発明の特定事項に加え、前記表面層は、JISに規定の抗菌力試験により得られる抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とするものである。
【0024】
上記課題を解決する抗菌部材の第3の発明は、上記第1または2の発明の特定事項に加え、前記表面層は、親水性を有することを特徴とするものである。
【0025】
上記課題を解決する抗菌部材の作製方法の第1の発明は、抗菌機能を備えた表面を有する抗菌部材の作製方法であって、母材表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴としている。
【0026】
上記課題を解決する飲食物容器の第1の発明は、飲料または食料の一方あるいは双方を収容する空間を1箇所あるいは複数箇所に形成されている飲食物用容器であって、少なくとも収容空間を形成する母材が金属材料またはセラミックス材料により作製されており、該収容空間を形成する母材の表面は、上記の第1から第4のいずれかの発明の抗菌表面構造に作製されていることを特徴とするものである。
【0027】
これらの発明では、各種部材(母材)の表面、例えば、飲食物に直接触れる収容空間を形成する金属材料またはセラミックス材料からなる飲食物用容器などの母材の表面が、チタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射させて吹き付ける、所謂、気相中のブラスト処理により酸化チタンを主要成分とする表面層に形成されることにより、抗菌機能が付与されているとともに、その表面層の表面に陽極酸化処理が施されることにより、その抗菌機能による抗菌効果がより向上される。
【0028】
ここで、この部材表面の表面層は、母材表面を改質することにより、または、その母材表面に母材以外の材料が固着することにより、あるいは、その母材表面の改質とその母材表面への材料の固着により、形成された酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層であり、面積方向に広がる材料として観念した場合には被膜と言われるものである。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明によれば、飲食物用容器などの表面の気相反応による酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層の表面にさらに陽極酸化処理を施すことにより、例えば、その酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を母材表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を吹き付ける気相中におけるブラスト処理により形成することにより、抗菌機能を効果的に発揮させて衛生状態を維持可能な被膜で、その表面を覆うことができるとともに、その被膜を所望の表面硬度で形成することができ、高温・低温の環境に繰り返し置かれる飲食物用容器などでもクラック等を発生させることなく使用することができる。また、この気相中のブラスト処理による酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層は、防汚・脱臭機能をも有することから、使用後の汚れ等も容易に落とすことができる。したがって、一般家庭だけでなく、旅館、ホテル、レストラン等でも最適に使用する飲食物用容器や、公共施設等で使用する部材などにも高い抗菌機能および防汚・消臭機能を付与して快適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図5は本発明に係る抗菌処理方法により作製した抗菌表面構造を有する飲食物用容器の一実施形態を示す図である。
【0031】
図1および図2において、飲食物用容器10は、本体下部11に蓋上部12を被せることにより、その内部に複数種の収容空間S1、S2を形成するようになっており、例えば、注文に応じて、あるいは定期的に、調理済みの食品などをその収容空間S1、S2内に収容した状態のまま各家庭などに配送する、所謂、ケータリングに用いられる。
【0032】
この本体下部11および蓋上部12は、純チタン材(1種)の板材を母材としてプレス加工などすることにより作製された内面板13、14を、同様に作製された外面板15、16に接合するなどして組み立てられており、その内面板13、14は、互いに対応する位置に形成されている複数種の凹形状の収容空間S1、S2の周囲を使用時に対面接触させることにより、その収容空間S1、S2内に収容した食品などを外気から遮断する状態に保持することができる。なお、ここでは、純チタン材の板材を用いる場合を一例に説明するが、その収容空間S1、S2を形成する表面に、例えば、蒸着などによってチタンを形成して表面層としてもよく、さらに、他のチタン合金を用いてもよく、また、ガラスなどを含むセラミックス材料を用いてもよい。
【0033】
また、この本体下部11および蓋上部12は、内部を気密にすることができるように内面板13、14と外面板15、16を接合し、その内部空間を概略真空状態にするなどして断熱効果を得ることができるように作製されており、外面板15、16の内側の断熱層に囲まれた内面板13、14間の収容空間S1、S2内に収容保持する食品などを効果的に保温することができ、純チタンによる断熱効果に加えて、より効果的に食品等の保温をすることができる。ここで、この本体下部11および蓋上部12は、優れる純チタンの剛性に加えて、内面板13、14内の複数箇所に収容空間S1、S2の凹形状を形成することにより、その剛性が向上されている。なお、この本体下部11および蓋上部12は、さらに強度を高めることを目的にして、必要により、パーム繊維などの天然繊維からなるスペーサを内部に収納配置してもよいことは言うまでもない。また、本体下部11および蓋上部12の断熱効果は、真空断熱に限るものではなく、他の断熱材を内部空間内に充填などしてもよく、また、必ずしも断熱効果が必須なものではないことはいうまでもない。
【0034】
これにより、飲食物用容器10は、例えば、本体下部11および蓋上部12間の円形の凹形状の収容空間S1内にはご飯茶碗や汁椀を収容するとともに、長方形の凹形状の収容空間S2内にはその他のおかず類を直接あるいは1つまたは2つ以上のプラスチック製容器内に盛り付けて収容することができ、それぞれの食材をそれぞれに最適な温度に保持したまま提供することができる。
【0035】
そして、この飲食物用容器10は、例えば、本体下部11および蓋上部12の内面板13、14または外面板15、16の双方の外面、あるいは、少なくとも内面板13、14の互いに対面接触する外面に、図3に示す重力式ブラスト装置100のキャビネット101内にセットすることにより、純チタンからなる粉体(以下では、チタン粉体ともいう)Pを噴射させて吹き付ける、所謂、ブラスト処理を施すことにより、その表面に酸化チタンを主要成分とする酸化チタン層(酸化チタン被膜)が気相反応により形成されて被覆されている。なお、ここでは、ブラスト処理による気相反応で部材表面に酸化チタン層を形成する場合を一例に説明するが、これに限るものではなく、他の気相反応、例えば、酸化雰囲気中に晒すことにより部材表面に酸化反応を起こさせて酸化チタン層を形成してもよい。
【0036】
重力式ブラスト装置100は、図3に示すように、ブラストガン102が不図示の圧縮機から流路102aを介して供給される圧縮空気をその先端のノズル103から噴出するとともに、その流路102aの途中に処理対象(例えば、内面板13)に吹き付けるチタン粉体Pを粉体供給路102bから供給することにより、その圧縮空気と共にチタン粉体Pをキャビネット101内の気相中に噴射してその処理対象の表面に吹き付けてブラスト処理するようになっている。なお、この重力式ブラスト装置100では、ブラスト処理後のチタン粉体Pやそのブラスト処理で発生した粉塵などはキャビネット101下部に配置されている不図示のホッパー内に圧縮空気と共に回収された後に回収タンクを経てダストコレクタ内に送られることにより、粉塵などはそのダストコレクタの底部に集積される一方、圧縮空気はそのダストコレクタ上部の排風口から放出されるようになっている。この重力式ブラスト装置100は、一般的な装置で十分であり、このブラスト処理を行う装置としては、重力式に限るものではなく、後述する処理条件を満たすことのできる、例えば、吸込式のサイホン式や、加圧タンク内からチタン粉体Pと共に圧縮空気を一気に噴射する直圧式や、ブロワーファンを用いるブロワー式などの他の方式によるブラスト装置を用いても良いことは言うまでもない。
【0037】
これにより、飲食物用容器10の本体下部11および蓋上部12は、気相中のブラスト処理により高速噴射されたチタン粉体Pが内面板13、14などの表面に衝突してその運動エネルギーを熱エネルギーに変換されることにより、その表面がチタン粉体Pと共に局所的に温度上昇される。このため、内面板13、14などの表面とチタン粉体Pが活性化して、チタン成分がその表面に拡散・浸透するとともに空気中の酸素と気相反応して酸化することにより酸化チタン層が形成されて、収容空間S1、S2などの表面がその酸化チタン層により被覆される。この気相中のブラスト処理による酸化チタン層は、後述するように、抗菌活性値2.0以上を有することにより、食品用の容器などに求められる衛生面の確保に役立つ優れた抗菌能力を発揮することができ、本体下部11および蓋上部12の収容空間S1、S2を含む表面にチタン粉体Pによるブラスト処理を施すだけで衛生面に優れた飲食物用容器10にすることができる。また、この気相中のブラスト処理による酸化チタン層は、光触媒機能のように太陽光や蛍光灯などに含まれる紫外線の照射を必要とすることなく、抗菌機能とともに防汚・脱臭機能を発揮することができる。
【0038】
ここで、図3に示す重力式ブラスト装置100は、一般的なブラスト処理条件で稼動させて酸化チタン層を形成してもよいが、特に、チタン粉体Pの形状・サイズ、噴射速度、噴射圧力を次のように設定するのが好ましい。
【0039】
チタン粉体Pの形状・サイズとしては、球形状(球形状に近似する多角形状でもよい)で、粒径800μm〜20μmの粉末状の粉体を用いるのが適しており、さらに、粒径300μm〜30μmの粉末状の粉体を用いるのが好ましい。これは、このブラスト処理による酸化チタン層では、チタン粉体Pを内面板13、14などの表面に衝突させて瞬時に温度上昇させることにより内面板13、14などの表面にチタン成分を拡散・浸透させるとともに酸化反応させる必要があり、また、その内面板13、14などの表面の全体を酸化チタン層でムラなく被覆させる必要があることから、比較的小さなチタン粉体Pが適しているためである。具体的には、チタン粉体Pの粒径としては、800μmを超えると、ブラスト処理による衝突時の温度上昇が比較的小さく、また、効率よくブラスト処理することが難しくなって、得られる酸化チタン層に抗菌機能などを有効に発揮させることが難しくなる傾向にあることから、800μm以下、好ましくは、300μm以下とするとともに、ブラスト処理として20μm以上、好ましくは、30μmに設定するのが適している。
【0040】
また、チタン粉体Pの噴射速度としては、上述のように、内面板13、14などの表面に衝突させてその運動エネルギーに応じた熱エネルギーで、その表面とチタン粉体Pとを温度上昇させることにより、そのチタン成分を拡散・浸透させるとともに気相中で酸化反応させることによって酸化チタン層をその表面に形成することから、高速噴射させる必要がある。具体的には、チタン粉体Pの噴射速度が75m/secより小さい場合には、その衝突時の温度上昇が比較的小さく、得られる酸化チタン層に抗菌機能などを十分に発揮させることが難しくなる傾向にあることから、所望の機能を発揮する酸化チタン層を形成するには、チタン粉体Pの噴射速度としては、75m/sec以上に設定するのが好ましく、80m/sec以上に設定することがより好ましく、100m/sec以上に設定することがさらに好ましい。
【0041】
同様に、チタン粉体Pの噴射圧力としては、上述のように、内面板13、14などの表面とチタン粉体Pとを温度上昇させる必要があり、チタン粉体Pの噴射圧力が0.25MPaより小さい場合には、その温度上昇が比較的小さく、得られる酸化チタン層に抗菌機能などを十分に発揮させることが難しくなる傾向にあることから、所望の機能を発揮する酸化チタン層を形成するには、0.25MPa以上に設定することが好ましく、0.29MPa以上に設定することがより好ましく、0.35MPa以上に設定することがさらに好ましい。
【0042】
したがって、飲食物用容器10は、少なくとも本体下部11および蓋上部12の内面板13、14(収容空間S1、S2)の表面に、球形状で粒径800μm〜20μm(好ましくは粒径300μm〜30μm)のチタン粉体Pを噴射速度75m/sec以上、噴射圧力0.25MPaで噴射して吹き付ける気相中のブラスト処理が施されることにより、チタン成分の拡散・浸透する高い表面硬度(強度)の酸化チタン層が形成・被覆されており、この気相中のブラスト処理による酸化チタン層は、抗菌機能に優れて、また、防汚・脱臭機能をも備えている。
【0043】
この結果、この飲食物用容器10は、ケータリング用として、食品を温めるために高温雰囲気内に保持されたり、冷やすために低温雰囲気内に保持されたり、また、洗浄等を頻繁に受けるなどの条件下に繰り返し置かれても、本体下部11および蓋上部12の内面板13、14などの表面に被覆形成されている酸化チタン層が劣化してクラック等が発生することがない。さらに、この飲食物用容器10は、酸化チタン層を形成した本体下部11および蓋上部12の内面板13、14(収容空間S1、S2)などには、その抗菌機能により生菌などの不衛生物質が付着し難く、食品衛生上、非常に安全であり、加えて、防汚・脱臭機能により、食品に由来する脂が付着し難く、また、落とし易くすることができ、使用後の洗浄を容易にして洗剤や有害な溶剤を不要にして自然環境に与える洗浄廃液による負荷を軽減することができる。
【0044】
さらに、この飲食物用容器10は、例えば、本体下部11および蓋上部12の内面板13、14または外面板15、16の双方の外面、あるいは、少なくとも内面板13、14の互いに対面接触する外面に気相中のブラスト処理による酸化チタン層を形成した後に、その表面に陽極酸化処理が施されている(処理方法、部材作製方法が行われている)。ここで、この気相反応による酸化チタン層を形成して、その表面に陽極酸化処理を施す作業(処理方法、部材作製方法)は、内面板13、14と外面板15、16を接合した後に行ってもよく、あるいは、その接合の前のプレス加工後に行って形成してもよい。
【0045】
この結果、この飲食物用容器10は、本体下部11および蓋上部12の内面板13、14などの表面に、ケータリング用として、優れた抗菌機能と防汚・脱臭機能を発揮する高硬度(強度)の酸化チタン層が気相中のブラスト処理により被覆形成されるのに加えて、さらに、その酸化チタン層に陽極酸化処理が施されて、その抗菌機能などがさらに向上されている。
【0046】
例えば、飲食物用容器10を構成する純チタン板をサンプルとして、ブラスト処理や陽極酸化処理を施さない未処理品と、陽極酸化処理のみを施した陽極酸化処理品と、球形状で粒径100μm程度のチタン粉体Pを噴射速度80m/sec、噴射圧力0.29MPaで噴射・吹付するブラスト処理のみを施したブラスト処理品と、このブラスト処理後に陽極酸化処理が施されているブラスト陽極酸化処理品と、をサンプルとして、『JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」5.2プラスチック製品などの試験方法』により抗菌力試験を行ったところ、図4に示すような結果が得られた。
【0047】
すなわち、陽極酸化処理品では、ほとんど抗菌効果は認められなかったが、ブラスト処理品では、大腸菌に対する抗菌活性値3.3、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値4.1といずれも抗菌効果があると認められる抗菌活性値2.0以上の結果であり、十分な抗菌効果を発揮していることが確認された。さらに、ブラスト陽極酸化処理品では、試験後に大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれにおいても生菌を検出することができずに抗菌活性値を算出することができない位の大きな抗菌効果があることが確認された。
【0048】
また、その酸化チタン層の特性を確認するために、飲食物用容器10の本体下部11および蓋上部12(内面板13、14および外面板15、16)の表面に、図5に示すように、チタン粉体Pが粒径30μm〜300μm(70μm、100μm、120μm)の球形で、噴射速度75m/sec以上(80m/sec超)、噴射圧力0.25MPa以上(0.25MPa、0.35MPa、0.45MPa)というブラスト処理条件で噴射して吹き付けることにより酸化チタン層を形成したところ、いずれの条件でも、水に対する接触角が10°以下となり、優れた親水性を示し、特に食品による脂汚れであっても洗剤等を使用しなくても、洗浄が可能となる防汚機能を得ることができ、さらに、80℃で8時間保持後に、−20℃で16時間保持する温度サイクル試験を30サイクル行っても、その酸化チタン層の被膜にクラックの発生は認められなかった。ここで、親水性の有無の評価としては、一般的には、水に対する接触角が30°以下で親水性を有すると評価することができ、さらに、その接触角が15°以下になると親水性に優れていると評価することができる。
【0049】
このように本実施形態においては、飲食物用容器10の本体下部11および蓋上部12における少なくとも収容空間S1、S2を形成する内面板13、14の表面に、チタン粉体Pを噴射・吹付して気相反応により酸化チタン層を形成した後に、さらにその表面に陽極酸化処理を施すことにより、十分な強度でその収容空間S1、S2を覆いつつ、優れた抗菌機能や防汚・脱臭機能を発揮させることができる。したがって、この飲食物用容器10は、高温・低温の環境に繰り返し置かれるなどのケータリング用として、高度な衛生状態を維持しつつクラック等を発生させることなく使用することができるとともに、使用後の汚れ等も容易に落とすことができる。
【0050】
また、本実施形態の他の態様としては、ケータリング用の飲食物用容器10に限られるものではなく、食器類や、湯のみや、急須や、グラス類などの他の一般家庭用や業務用の飲食物用容器にも好適に適用することができることは言うまでもなく、例えば、図6(a)に示すように、シャンパングラス20の少なくとも内面21を含む表面に、気相中のブラスト処理を施して酸化チタン層を形成した後に、さらに陽極酸化処理を施してもよく、また、図6(b)に示すように、ビールグラス30の少なくとも内面31を含む表面に、気相中のブラスト処理を施して酸化チタン層を形成した後に、さらに陽極酸化処理を施してもよい。このいずれの場合でも、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
同様に、本実施形態のように、気相中のブラスト処理を施して酸化チタン層を形成した後に、さらに陽極酸化処理を施す対象の部材としては、例えば、(1)病院内、食品工場の手すり、ノブ、金具、陳列台、棚、ラック等、什器・備品などでもよく、(2)医薬品・食品などの製造機械部品、カッター、カバー、パイプなどでもよく、(3)受水タンク、雨水タンクなどでもよく、(4)風呂、トイレ、洗面所、排水溝、養殖設備、グリストラップ、厨房設備等の配管などでもよく、(5)福祉機械器具、義肢・義足などでもよく、(6)玩具、楽器、スポーツ用具、遊戯台、アミューズメント装置などでもよく、(7)工具、治具などでもよく、(8)建築物、構造物部材、列車、バス、船、飛行機などの構造部材などでもよく、飲食物や人間を含む動物の触れる部材表面や、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの病原菌やカビの繁殖を制限する必要のある部材表面に最適に適用することができ、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0052】
また、重力式ブラスト装置100が本体下部11および蓋上部12の表面に吹き付けるように噴射するチタン粉体Pとしては、純チタンの場合を一例に説明するが、これに限るものではなく、構成成分としてチタンが含まれていてその表面に拡散・浸透させることができればよいことから、TiO、TiO、Tiでもよく、さらに、公知のチタン合金でも制限されることなく利用することができる。例えば、チタン粉体Pとしては、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−13V−11Cr−3Al、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr等を用いることもできる。これらのいずれの場合でも、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
さらに、飲食物用容器10としては、純チタンにより本体下部11および蓋上部12を作製する場合を一例に説明するが、これに限るものではなく、板材の全体あるいはその表面が他の金属により作製されているものにも気相中のブラスト処理を施してその表面に酸化チタン層を形成した後に、さらに陽極酸化処理を施してもよく、さらに、セラミックスであっても気相中のブラスト処理によりその表面に酸化チタン層を形成・被覆することができ、その後に、さらに陽極酸化処理を施すことができればよい。例えば、他の金属材料としては、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、亜鉛合金、チタン合金、銅もしくは真鍮等、あるいは鉄またはステンレスなどが挙げられる。なかでも、飲食物用容器10としては、純チタンやチタン合金を用いることが、チタン粉体Pとの親和性がよく、高硬度で優れた抗菌機能・防汚機能を得ることができ、さらに、軽量かつ食品の保温性に優れる点で適しており、生体適合性に優れている点でも食品と直接触れる容器として最適である。なお、チタン合金としては、上記と同様の種類の合金を利用することができ、セラミックスとしては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素などが挙げられる。これらのいずれの場合でも、上述実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る飲食物用容器の一実施形態を示す図であり、その概略全体構成を示す組立外観斜視図である。
【図2】その概略全体構成を示す分解斜視図である。
【図3】その表面に酸化チタン層を形成するブラスト装置を示す概念構成図である。
【図4】その酸化チタン層を形成した後に陽極酸化処理を施すことによる効果を説明する試験結果の表である。
【図5】その酸化チタン層を形成するブラスト処理条件の例を示す一覧表である。
【図6】その他の態様を示す図であり、(a)はそのシャンパングラスを示す外観斜視図、(b)はビールグラスを示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10……飲食物用容器 11……本体下部 12……蓋上部 13、14……内面板 15、16……外面板 20……シャンパングラス 21、31……内面 30……ビールグラス 100……重力式ブラスト装置 101……キャビネット 102……ブラストガン 102a……流路 102b……粉体供給路 103……ノズル S1、S2……収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌機能を有する表面構造であって、
母材の表面層として、該母材の表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層が形成されているとともに、当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とする抗菌表面構造。
【請求項2】
抗菌機能を有する表面構造であって、
母材の表面層として、気相反応により酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層が形成されているとともに、当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とする抗菌表面構造。
【請求項3】
前記表面層は、JISに規定の抗菌力試験により得られる抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌表面構造。
【請求項4】
前記表面層は、親水性を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の抗菌表面構造。
【請求項5】
材料表面に抗菌機能を付与する抗菌処理方法であって、
母材の表面層として、該母材の表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項6】
材料表面に抗菌機能を付与する抗菌処理方法であって、
母材の表面層として、気相反応により酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項7】
抗菌機能を備えた表面を有する抗菌部材であって、
母材表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより形成された酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を備えており、
当該表面層の表面が陽極酸化処理されていることを特徴とする抗菌部材。
【請求項8】
前記表面層は、JISに規定の抗菌力試験により得られる抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする請求項7に記載の抗菌部材。
【請求項9】
前記表面層は、親水性を有することを特徴とする請求項7または8に記載の抗菌部材。
【請求項10】
抗菌機能を備えた表面を有する抗菌部材の作製方法であって、
母材表面にチタンまたはチタン合金からなる粉体を噴射することにより酸化チタン層あるいは酸化チタン合金層を形成した後に、当該表面層の表面に陽極酸化処理を施すことを特徴とする抗菌部材の作製方法。
【請求項11】
飲料または食料の一方あるいは双方を収容する空間を1箇所あるいは複数箇所に形成されている飲食物用容器であって、
少なくとも収容空間を形成する母材が金属材料またはセラミックス材料により作製されており、
該収容空間を形成する母材の表面は、上記請求項1から4のいずれかに記載の抗菌表面構造に作製されていることを特徴とする飲食物用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−220557(P2008−220557A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61614(P2007−61614)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(504398535)株式会社浅野 (7)
【Fターム(参考)】