説明

抗酸化剤

【課題】抗酸化剤に使用可能な天然由来の新規な化合物とこれを用いた抗酸化剤の提供。
【解決手段】下記式(I)で表されるトリプレニルフェノール化合物及びこのトリプレニルフェノール化合物を含む抗酸化剤を提供する。Xは、−CHY−C(CHZであり、Y及びZは、それぞれ−H若しくは−OHであるか、又は一緒になって単結合を形成する。Rは、アリール又はヘテロ環等を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規トリプレニルフェノール化合物及びこれを用いた抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素は、短時間で他者を酸化して自らは消失する反応性に富む物質であり、生体内で過剰生産され又は消失速度が低下すると、酸化による害作用を及ぼすことが知られている。過剰な活性酸素による酸化的ストレスは、生体に対して種々の疾患を引き起こすと考えられている。このような疾患としては、例えば、精神分裂症、躁鬱病などの脳障害、成人性呼吸窮迫症候群、動脈硬化、高血圧症、血栓症などの循環器障害、腎炎、腎不全などの腎障害、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害、白内障、抹消神経障害などの糖尿病合併症、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化管障害、その他慢性関節リウマチ、癌、老化促進、紫外線障害などが挙げられる。このため、活性酸素を効果的に除去する又は発生を抑制する種々の抗酸化剤が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
一方、SMTP(Stachybotrys microspora triprenyl phenol)化合物は、糸状菌が生産するトリプレニルフェノール骨格を有する化合物の一群であり、血栓溶解促進作用や血管新生阻害作用を有することが知られている(例えば、特許文献4〜6参照)。血栓溶解促進作用に関しては、SMTP化合物がプラスミノーゲンのコンフォメーション変化を導き、その結果、プラスミノーゲンのt−PAに対する感受性と、プラスミノーゲンの血栓などへの結合を増加させ、血栓の溶解を促進する作用機序が示唆されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−316262号公報
【特許文献2】特開2006−298807号公報
【特許文献3】特開2007−320859号公報
【特許文献4】特開2004−224737号公報
【特許文献5】特許第4313049号公報
【特許文献6】WO2007/111203号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】FEBS Letter 1997;418:58-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、過剰な活性酸素に起因すると思われる疾患の発生機序は充分に解明されている訳ではなく、既存の抗酸化剤があらゆる状況において必ずしも有効でないこともある。また天然由来の抗酸化剤には、抗酸化活性が充分でないものがある。
従って、本発明は、抗酸化剤に使用可能な天然由来の新規な化合物とこれを用いた抗酸化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(I)で表されるトリプレニルフェノール化合物及びこのトリプレニルフェノール化合物を含む抗酸化剤を提供する。
【0008】
【化1】

【0009】
上記一般式(I)において、Xは、−CHY−C(CHZであり、Y及びZは、それぞれ−H若しくは−OHであるか、又は一緒になって単結合を形成する。また、Rは、以下の置換基であり、*は窒素原子との結合位置を表す。
【0010】
【化2】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗酸化剤に使用可能な天然由来の新規な化合物とこれを用いた抗酸化剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のトリプレニルフェノール化合物は、上記一般式(I)で表されるものである。
本トリプレニルフェノール化合物は、トリプレニルフェノール骨格に加えて、所定の置換基が1位の窒素原子に直接結合している化合物である。同様のトリプレニルフェノール骨格を有する化合物としては、高い血栓溶解促進作用を示すオルニプラビン等が知られているが、上記一般式(I)で表される本トリプレニルフェノール化合物は、同様のトリプレニルフェノール骨格を有するにも拘わらず、血栓溶解促進作用は弱いものである。このため、本トリプレニルフェノール化合物は、血栓溶解促進作用が好ましくない状況においても抗酸化剤として用いることができる。
上記一般式(I)で表される化合物としては、抗酸化活性の観点から、以下トリプレニルフェノール化合物であることが好ましい。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
本発明のトリプレニルフェノール化合物は、化学合成による化学的製造方法と生物を利用した生物学的製造方法のいずれによっても得ることができる。
化学合成で本発明のトリプレニルフェノール化合物を製造する場合には、製造効率の観点から、トリプレニルフェノール骨格におけるクロマンラクタム窒素原子に側鎖を有しない中間体を利用することが好ましい。このような中間体としては、例えばWO2007/111203号に開示されているものを挙げることができる。
生物学的製造方法により本発明のトリプレニルフェノール化合物を製造するには、生物として糸状菌を利用することができ、製造効率の観点から好ましくは、スタキボトリス属又はメムノニエラ(Memnoniella)属などの糸状菌が選択される。特に好ましい生産菌は、スタキボトリス・ミクロスポラ(Stachybotrys microspora)などであり、より好ましくはスタキボトリス・ミクロスポラ(S. microspora)IFO30018株であるが、本発明は、この菌に限定されるものではない。
【0017】
生物学的製造方法では、上記糸状菌に特定の窒素化合物を添加した培地で培養することを含む方法であることが、製造効率の観点からより、容易に得ることができる。このような製造方法としては前述のWO2007/111203号に開示されているものを挙げることができる。
この製造方法を簡単に説明すれば、後述する特定の添加アミン化合物を含む培養液中で糸状菌を培養する培養工程と、培養工程後の培養物から、上記トリプレニルフェノール化合物を分離する分離工程とを含むものである。
この添加アミン化合物は、糸状菌の培養工程中に存在していればよく、培養初期から存在させてもいが、生産効率の観点から、培養中期に添加されることが好ましい。
【0018】
培養中期に添加アミン化合物を添加する場合には、前記糸状菌の培養工程が、アミン化合物の含有量が0.5質量%以下の制限培地による第1の培養工程と、添加アミン化合物を含有している生産用培地による第2の培養工程と、を含むことが好ましい。
第1の培養工程で使用する培地として、アミン化合物の含有量が0.5質量%に制限された制限培地を用いた場合、第2の培養工程に移る培養中期以降に、従来よりも大量の中間体化合物を得ることができる。またこのように中間体化合物を大量に生成してから、添加アミン化合物を含む生産用培地による第2の培養工程を実行することにより、効率よく且つ選択性よく目的とするトリプレニルフェノール化合物を得ることができる。なお、本明細書において「アミン化合物」とは、特に断らないかぎり、添加アミン化合物も包含する。
【0019】
制限培地中に含有可能なアミン化合物は、制限培地での糸状菌成育のための窒素源、成育促進因子、あるいはトリプレニルフェノール化合物前駆体の生産促進因子として作用する。添加の形態としては、酵母エキス、ブイヨン、ペプトン、トリプトン、ソイビーンミール、ファーマメディア、コーンスティープリカー、魚肉エキス等の天然の混合物として、あるいは精製化合物として利用することができる。天然の混合物は多種のアミン化合物を含有するため、制限培地ではその量を制限することが好ましい。
この場合、アミン化合物は、制限培地の全容量に対して0.5質量%以下、菌の生育、生産量及び生産の選択性の観点から好ましくは、0.01〜0.5質量%、更に好ましくは0.1質量%〜0.3質量%とすることができる。0.5質量%を超える場合には、目的とする化合物以外のものが同時に生成されて選択性に劣り、生産効率も下がる場合があり、好ましくない。一方、0.01質量%未満では、糸状菌の成育に劣る場合があり好ましくない。また、精製化合物をアミン化合物として添加する場合は、生産に用いる糸状菌の成育とトリプレニルフェノール化合物前駆体の生産が良好に起こる範囲の量と種類が用いられる。
【0020】
培養中期以降の第2の培養工程では、添加アミン化合物を含有している生産用培地が用いられる。ここで「培養中期」とは、第1の培養工程を確実に継続させるための培養開始からの所定期間、好ましくは培養開始後2日目以降、更に好ましくは4日目以降とすることができる。この期間が短すぎる、例えば培養開始直後に生産用培地による培養を開始すると、目的とするトリプレニルフェノール化合物を得るために必要な中間体化合物の量が不充分となることがあり、効率よくトリプレニルフェノール化合物を生成することができない場合がある。
【0021】
第2の培養工程で用いられる生産用培地は、目的のトリプレニルフェノール化合物を得るための添加アミン化合物を含有する以外は、制限培地と同一の組成で構成することができる。このため、第2の培養工程における培養は、第1の培養工程で使用した制限培地に、添加アミン化合物を添加することによって実施してもよく、改めて調製した添加アミン化合物含有培地をそのまま添加してもよい。
【0022】
添加アミン化合物としては、目的とするトリプレニルフェノール化合物のラクタム環窒素の側鎖に相当するものであればよく、具体的には、ナフチルアミン、グルコサミン、ガラクトサミン、アミノイソ酪酸、アミノアンチピリン、ジニトロチロシン、アミノ−n−酪酸を挙げることができ、これらの添加アミン化合物は、1又は複数を組み合わせて使用してもよい。
これらの内でも、抗酸化活性の観点から、1−ナフチルアミン、D−(+)−グルコサミン、D−(+)−ガラクトサミン、DL−3−アミノイソ酪酸、3−アミノアンチピリン、4−アミノ−n−酪酸、L−3,5−ジニトロチロシンが好ましい。
【0023】
第2の培養工程での生産用培地に含有可能な添加アミン化合物は、目的とするトリプレニルフェノール化合物を得るために必要な量で培地中に存在していればよく、培地の全容量の5質量%以下、生産量の観点から好ましくは0.01質量%〜1質量%、更に好ましくは0.1質量%〜0.5質量%で用いられる。
【0024】
制限培地及び生産用培地には、上記成分に加えて、微生物による化合物の生成を促進するためなどを目的として、上記微生物の培養に通常用いられている合成培地の添加成分を含む。本制限培地に添加可能な添加成分としては、例えばグルコース、シュークロース、デキストリン、動物油、植物油などの栄養源、ビタミン類、例えば塩素、硝酸、硫酸、リン酸、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、及びその他のイオンを生成しうる無機塩類を挙げることができる。
【0025】
無機塩類のうち、特に金属イオンを生成しうる無機塩類、生成物の生産量の増大や生産効率の観点から、好ましく制限培地に添加することができる。このような金属イオンとしては、マグネシウムイオン、コバルトイオン、鉄イオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等を挙げることができる。
上記無機塩類及び金属イオンは、これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
制限培地による第1の培養工程は、効率よく目的とするトリプレニルフェノール化合物を得るために充分な量の中間体化合物が得られる培養中期まで継続する。トリプレニルフェノール化合物の効率的な製造の観点から、生産用培地による第2の培養工程は、好ましくは糸状菌の培養開始後2日以降、更に好ましくは培養開始後4日から実施される。
第2の培養工程は、生成されたトリプレニルフェノール化合物の量が最大のときに培養を停止することによって終了する。第2の培養工程の期間は、微生物の状態及び培養系の大きさによって異なるが、一般に1日〜5日、生産量の観点から好ましくは1〜3日間である。
【0027】
本製造方法における第1及び第2の培養工程は、通常、上記培地を用いて静置培養または振盪培養による。振盪培養を適用する場合には、真菌の培養で通常適用される速度で行えばよい。
また第1及び第2の培養工程における培養温度は、種々の温度における真菌の生育条件に応じて適宜設定することができるが、一般に4〜50℃、好ましくは15〜37℃、より好ましくは20〜30℃、最も好ましくは室温(25℃)である。この範囲外では、効率よくトリプレニルフェノール化合物を生成することができない。またそれぞれ用いられる培地のpHは、一般に3〜9、好ましくは5〜6とすることができる。
【0028】
なお、第1及び第2の培養工程よりも前に、微生物による生成能を安定化させるために、予備培養工程を設けてもよい。予備培養工程で用いられる培地は、微生物を維持するために用いられる通常の生育培地であってもよい。
【0029】
得られたトリプレニルフェノール化合物は、培養物から回収・精製することによって得ることができる。回収・精製方法としては、培地中に放出されたトリプレニルフェノール化合物を回収・精製できる手段であればいずれであってもよく、液体クロマトグラフィー、溶媒抽出、結晶化等を挙げることができる。生成物の回収・精製は、回収効率の観点から2段階以上の多段階で行うことが好ましい。
これらの回収・精製方法においては、トリプレニルフェノール化合物が脂溶性であることを利用して、溶媒等を選択することが好ましい。
トリプレニルフェノール化合物を培養物から回収・精製する際には、予め培養物から菌体を除去することが好ましい。その際には、培養物にメタノールなどの溶媒を加えてトリプレニルフェノール化合物を抽出し、その後の菌体の除去には、濾過等を用いればよい。
【0030】
本発明の抗酸化剤は、上記トリプレニルフェノール化合物を有効成分として含むものである。
上述したように本発明のトリプレニルフェノール化合物は、血栓溶解促進活性の弱い抗酸化剤であるため、血栓溶解を生じさせることなく活性酸素に起因した種々の症状を緩和することができる。
【0031】
本発明の抗酸化剤に含まれる上記トリプレニルフェノール化合物は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。また、本抗酸化剤において上記トリプレニルフェノール化合物は、遊離形態、薬学的に許容可能な塩又はエステルの形態、又は溶媒和物の形態であってもよい。
塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、ギ酸、フマール酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の無機酸または有機酸は、本発明の化合物の薬学的に許容され得る塩の形成に好適である。また、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物、塩基性アミン、または塩基性アミノ酸も、本発明の化合物の薬学的に許容され得る塩の形成に好適である。また、炭素数1〜10個のアルコールまたはカルボン酸など、好ましくは、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸、又はプロピオン酸などが、本発明の化合物の薬学的に許容され得るエステルの形成に好適である。また、水などが、本発明の化合物の薬学的に許容され得る溶媒和の形成に好適である。
【0032】
また本血栓溶解剤は、各種投与形態に応じて適宜剤型を変更することができる。経口投与形態としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤又はシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与形態としては、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、貼付剤、軟膏、クリーム製剤等を挙げることができる。
これらの形態を維持するために、これらの用途に使用可能な周知の溶媒、賦形剤等の添加剤を含むことができる。
【0033】
本発明の抗酸化剤は、成人1回当たりの有効量として、成人1回あたり1〜1000mgの投与が好ましい。投与回数に特に制限はなく、1回投与で用いてもよく、反復投与で用いてもよく、持続投与で用いてもよい。投与間隔および投与期間は、臨床所見、画像所見、血液所見、併存する疾患、既往歴などに応じて、当業者が選択できる。
なお、本発明の抗酸化剤は、ヒトでの使用に限定されずに用いてもよい。他の適用対象としては、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、イヌ、ネコ、サル等のペット等に用いてもよい。
【0034】
本発明の抗酸化剤は、上述したように血栓溶解促進活性が弱いため、消化管出血、尿路出血、喀血などの出血状態;高血圧、大手術後など、出血するおそれの高い状態;経口抗凝固薬又はヘパリン等を使用している状態;肝障害、急性膵炎;血栓溶解剤に対して過敏症の既往症を有する場合などにおいても、効果的に使用することができる。
また、本発明の抗酸化剤は、血栓溶解促進活性が弱いため、医薬用途に限定されず、化粧品や食品における酸化防止剤として使用してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0036】
[実施例1]
(1)化合物SMTP−16の合成
Stachybotrys microspora IFO30018株(財団法人発酵研究所)の胞子を種培養用培地100mlの入った500ml容三角フラスコに接種し、ロータリーシェイカーを用いて180rpm,25℃で4日間にわたり種培養を行った。種培養用培地は、グルコース(4%)、大豆ミール(0.5%)、乾燥ブイヨン(0.3%)、粉末酵母エキス(0.3%)を水に溶かし、HClを用いてpH5.8に調製し、消泡剤CB442(0.01%)(0.1g/mlアセトン溶液を1ml/L添加)(日本油脂化学,日本)を加え、培養器に100mlずつ分注後、オートクレーブ(121℃,15min)を行ったものを使用した。
【0037】
この培養液5mlを、本培養培地100mlの入った500m1容三角フラスコに接種し、ロータリーシェイカーを用いて180rpm,25℃で5日間にわたり本培養を行った。
本培養用培地(制限培地)は、スクロース(5%),粉末酵母エキス(0.1%),NaNO(0.3%)、KHPO(0.1%)、MgSO・7HO(0.05%)、KC1(0.05%)、CoCl・6HO(0.00025%)、FeSO・7HO(0.0015%)、CaCl・2HO(0.00065%)を水に溶かし、HClを用いてpH5.8に調製し、消泡剤CB442(0.01%)(0.1g/mlアセトン溶液を1ml/L添加)(日本油脂化学,日本)を加え培養器に100mlずつ分注後、オートクレーブ(121℃,15min)を行ったものを使用した。
【0038】
接種した日を培養0日目とし、培養4日目(96時間後)に100mgの1−ナフチルアミンの粉末を培地に添加して生産用培地とし、培養を継続した。それから約24時間後にメタノールを200ml添加して、培養を終了した。その後、ロータリーシェイカーを用いて180rpm,25℃で約3時間にわたり振盪して抽出を行った。
【0039】
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。水を加えて100mlとし、pHを7付近に調整した。酢酸エチル等量2回、半量1回で抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過した後にエバポレータで乾固した(450mg)。MeOHを加えて100mg/mlとし、遠心して上清を回収した。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)(ジーエルサイエンス株式会社,東京,日本)、温度;40℃、流速;25ml/min、検出波長;260nm、展開溶媒;100%メタノールで行い、保持時間12.0分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターによりメタノールを濃縮、乾固して化合物SMTP−16の精製物を、培養液1L当たり2304mgの収量で得た。
【0040】
化合物SMTP−16の特性を以下のようにして確認した。
MALDI−TOF−MSは、Voyager-DE STR(Applied Biosystem社)を用い、positive ion modeでα−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ酸をマトリックスとして測定した。
UVは、メタノール中で320 spectrophotometer(Hitachi)を用いて測定した。
FT−IRは、JIR−WINSPEC50(JEOL)を用いた。アセトンに溶解した試料を岩塩に塗布して測定した。NMRは、Alpha600(JEOL)を用い、H 600MHz,13C 150MHzで測定した。サンプルはDMSO(ジメチルスルフォキシド)−d溶液とした。
化合物SMTP−16の物理化学的性質を以下に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(2)SMTP−33の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、D−(+)−グルコサミンとした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間9.4分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−33の精製物を、培養液1L当たり324mgの収量で得た。
化合物SMTP−33の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−33の物理化学的性質を以下に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
(3)SMTP−34の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、D−(+)−ガラクトサミンとした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間9.7分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−34の精製物を、培養液1L当たり283mgの収量で得た。
化合物SMTP−34の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−34の物理化学的性質を以下に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
(4)SMTP−35の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、DL−3−アミノイソ酪酸とした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間9.6分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−35の精製物を、培養液1L当たり35mgの収量で得た。
化合物SMTP−35の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−35の物理化学的性質を以下に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
(5)SMTP−38の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、4−アミノアンチピリンとした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間17.6分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−38の精製物を、培養液1L当たり458mgの収量で得た。
化合物SMTP−38の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−38の物理化学的性質を以下に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
(6)SMTP−39の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、3,5−ジニトロチロシンとした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間24.8分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−39の精製物を、培養液1L当たり53mgの収量で得た。
化合物SMTP−39の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−39の物理化学的性質を以下に示す。
【0051】
【表6】

【0052】
(6)SMTP−40の合成
上記(1)と同様にして前培養を行った。
本培養4日目に添加した有機アミン化合物を、4−アミノ−n−酪酸とした以外は上記(1)と同様にして本培養を行った。
得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った得られた培養抽出液300mlから、ブフナーロートを用いて菌体を除去し、培養上清を得た。水流ポンプによる減圧下、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。これにMeOHを加え、溶解した画分をLichrolut RP−18(100mg)にて前処理を行った。逆相HPLCはカラム;Inertsil PREP-ODS(直径30×250mm)、温度40℃、流速;25ml/min、検出波長:260nm、展開溶媒;50mM酢酸アンモニウムを含む75%メタノールで行い、保持時間9.5分のピークを分取した。ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、これを濃縮、乾固して化合物SMTP−40の精製物を、培養液1L当たり130mgの収量で得た。
化合物SMTP−40の特性を、上記(1)と同様にして確認した。ただし、NMRにはアセトン−dを溶媒として用いた。
化合物SMTP−40の物理化学的性質を以下に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
[実施例2]
<SMTP化合物の抗酸化活性>
各種トリプレニルフェノール化合物(以下、「SMTP化合物」と総称する場合がある。)の抗酸化活性を検討するため、以下のORAC( Oxygen Radical Absorbance Capacity )試験を行った。
なお、SMTP−16はmodified H−ORAC(mH−ORAC)で評価し、SMTP―33、SMTP−34、SMTP−35、SMTP−38、SMTP−39及びSMTP−40は、H−ORACで評価した。対照SMTP化合物としては、オルニプラビン(SMTP−7)を用いた。H−ORACで評価したSMTP化合物はそれぞれナトリウム塩水溶液とし、mH−ORACで評価した化合物はそれぞれアセトン溶液として用いた。
【0055】
試験化合物はH−ORACでは緩衝液(75mMリン酸緩衝液pH7.4)で適宜希釈し、測定に用いた。mH−ORACではアセトン溶液を水で希釈し50%(v/v)アセトン溶液とした後、50%(v/v)アセトン溶液で適宜希釈し、終濃度の40倍溶液を調製した。この溶液を緩衝液で10倍希釈し、測定に用いた(アセトン終濃度1.25%)。標準物質トロロックスは500μM/緩衝液を緩衝液で適宜稀釈した。
96穴マイクロプレート(透明、平底、ブラックウォール)に試験化合物溶液又はトロロックス溶液50μLを添加し、さらに蛍光物質フルオレセイン140nM/緩衝液(終濃度70nM)100μLを添加して、37℃で10分間インキュベーションした。
フリーラジカル発生剤2,2’−アゾビスアミジノプロパン二塩酸塩48mM/緩衝液(終濃度12mM)50μLを加え、励起波長485nm、蛍光波長535nmで蛍光強度を2分おきに90分間測定した。検量線はトロロックス終濃度5〜15μMで作成した。測定は濃度を振って、n=3で行い、横軸に時間、縦軸に蛍光強度をとり、試料の曲線下面積からブランクの曲線下面積を差し引いた値を用いて評価した。結果はトロロックス等量で示した。結果を表8に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
なお、参考値であるが、上記と同様のORAC試験で測定されたα−トコフェロールのORAC値は、トロロックス1.00に対して0.50±0.02であった(Huang et al., J. Agric. Food Chem., 50, 1815-1821 (2002))。
【0058】
表8から明らかなように、本発明のSMTP化合物はいずれもトロロックスと同等又はそれよりも高いフリーラジカル消去能を示し、特にSMTP−35は、SMTP−7より高いフリーラジカル消去能を有していることがわかる。
このことから、本発明のSMTP化合物は、高い抗酸化活性を有する抗酸化剤として用いることができる。
【0059】
[実施例3]
<血栓溶解活性評価>
上記のようにして得られた各種トリプレニルフェノール化合物について、ウロキナーゼ(u−PA)触媒によるプラスミノーゲン活性化を促進する活性として、血栓溶解活性を以下のように行って性能を評価した。
なお、比較例としてはオルニプラビン(SMTP−7)を用いた。各化合物は以下の通りである。
【0060】
プラスミンが合成発色基質VLK−pNA(Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド)のペプチド結合を切断し、p−ニトロアリニン(pNA)を生成することを利用し、pNAの405nmで吸収される黄色の発色を測定することにより、サンプルのプラスミノーゲン活性化促進活性を測る。測定器にはMTP−500形マイクロプレートリーダー(コロナ電気)を用い、96穴丸底マイクロプレートにて測定を行った。
測定条件はカイネティック測定37℃、デュアル波長405nm(activity)−595nm(background)で1分ごとに60回測定した。
精製したサンプルは、DMSO溶液あるいはナトリウム塩の水溶液とした。それをTBS/T(50mM Tris−HCl,100mM NaCl及び0.01% Tween80,pH7.4)で希釈して測定サンプルとした。サンプル15μlに、反応液(TBS/Tによりそれぞれ終濃度が0.1mM VLK−pNA、50nM Glu−プラスミノーゲン、50U/ml u−PAになるように調製されたもの)を各35μl加え、50μl/ウェル、各濃度3連で測定を行った。
また、ブランクとしてu−PAを含まない反応液を用いて反応を行い、その値を上記の反応で得られた値から差し引いた。時間の二乗に対する吸光度をプロットし、その傾きを反応初速度とし、各種トリプレニルフェノール化合物を加えないものを対照として比較することで、各化合物の活性の度合いとした。
【0061】
結果を表9に示す。「10倍促進活性濃度」は、SMTP化合物を含まない反応液(対照)を用いたときの値を1とした場合に10倍の促進活性となる濃度を表す。また、「最大促進活性」は、SMTP化合物によるプラスミノーゲン活性化の促進が最大となる倍率およびその際のSMTPの濃度を表す。表中、NAは、最大促進が10倍に達せず、測定不能であることを表す。また、表中の―は、プラスミノーゲン活性化の促進が認められないため、最大促進活性を与えるSMTPの濃度を表記できないことを示す。
【0062】
【表9】

【0063】
表9に示されるように、本発明のSMTP化合物はいずれも、血栓溶解促進活性をほとんど示さないことがわかる。このことから、本発明に係るトリプレニルフェノール化合物は、血栓溶解を伴うことなく使用し得る。
【0064】
従って、本発明によれば、抗酸化活性を示す天然由来の新規トリプレニルフェノール化合物と、これを含む抗酸化剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるトリプレニルフェノール化合物。
【化1】


[式中、Xは、−CHY−C(CHZであり、Y及びZは、それぞれ−H若しくは−OHであるか、又は一緒になって単結合を形成する。また、Rは、以下の置換基であり、*は窒素原子との結合位置を表す。]
【化2】

【請求項2】
請求項1に記載のトリプレニルフェノール化合物を含有する抗酸化剤。

【公開番号】特開2011−157293(P2011−157293A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19735(P2010−19735)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(507051732)株式会社ティムス (5)
【Fターム(参考)】