説明

抗酸化型ヒドロキノン化合物の製造方法

【課題】
従来のヒドロキノン化合物の製造方法は収率が悪く、ヒドロキノン製品の単価に影響を与えていた。また、高純度の分子錯体結晶を得るためにはアルコール溶媒での洗浄を繰り返し行わなければならず、大量の廃棄溶媒を発生してしまい、工業的に非効率であるという問題があった。
【解決手段】
上記課題を解決するために、セタルコニウムクロリド1当量に対し、ヒドロキノン1.5当量を反応させ一次結晶を得た後、未反応の原料を含む濾液を分離膜に通すことにより、未反応の原料及び回収した溶媒を再利用するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。これにより、収率が向上するとともに、廃液の量を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化型ヒドロキノン化合物の製造方法であって、高収率で高純度の化合物を製造することができるとともに、廃液量を削減することのできる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキノンは、プラスチック、ゴム、潤滑油などの還元剤として有用な物質である。また、メラニン生成抑制作用を有することから、美白剤として化粧品に含有されている。しかし、ヒドロキノン単体では、光や空気により容易に自己酸化し、変質してしまうとい欠点を有していた。
【0003】
ここで、特許文献1は、芳香族化合物と界面活性剤とからなる分子錯体結晶を形成することにより芳香族化合物の気化速度を調整する方法を開示している。ヒドロキノンは芳香族化合物に含まれるが、特許文献1において特にヒドロキノンと界面活性剤の相関については記載されているわけではない。そして、特許文献2において、上記特許文献1の技術を用い、ヒドロキノンと界面活性剤とからなる分子錯体結晶を含む美白剤が開示されている。特許文献2では、ヒドロキノンと界面活性剤が形成する分子錯体結晶は、ヒドロキノンの気化速度を遅延させるとともに、光・熱に対する安定性を向上させることが記載されており、界面活性剤としてはセタルコニウムクロリドが好ましいとして挙げられている。
【特許文献1】特開2001−302576
【特許文献2】特開2004−99542
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に示された分子錯体結晶の製造方法は、「各種界面活性剤とハイドロキノンを適当なモル比で、通常の可溶化法により可溶化するか又は両者を適当な有機溶媒に溶解させて適当な温度に放置することにより、上記界面活性剤とハイドロキノンから成る分子錯体を結晶として得ることができる。」(段落番号0024)、あるいは「窒素気流下、界面活性剤水溶液又はアルコール溶液に等モル量のハイドロキノンを加え、均一溶液とした後、2〜3℃の冷所で3〜7日間放置し、生じた沈殿物を単離することにより界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶を得た。」(段落番号0026)という記述のみであり、実際に界面活性剤/ハイドロキノン分子錯体結晶の製造を行った場合の収率等は記載されていない。また、生成に3〜7日という長期間をかけることは、工業的に非効率である。
【0005】
そこで、上記文献の記載に基づき、等モル量のヒドロキノンとセタルコニウムクロリドを用い、分子錯体結晶の製造を行ったところ、その収率は40%と低かった。この収率の悪さは、ヒドロキノン製品の単価に影響を与えていた。また、高純度の分子錯体結晶を得るためにはアルコール溶媒での洗浄を繰り返し行わなければならず、大量の廃棄溶媒を発生してしまい、工業的に非効率であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、一次結晶濾過後、未反応の原料を含む濾液を分離膜に通すことにより、未反応の原料及び回収した溶媒を再利用するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。
【0007】
第一発明は、溶媒としてメタノールを準備するメタノール準備ステップと、準備したメタノール中にてセタルコニウムクロリドを1当量に対し、ヒドロキノンを1.5当量反応させ一次結晶を得る第一反応ステップと、前記反応溶液から生成した一次結晶を濾過する一次結晶濾過ステップと、を有するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。さらに好ましい態様として、第一反応ステップが、準備したメタノールに対してセタルコニウムクロリドを溶解してセタルコニウムクロリド溶液を準備する第一準備ステップと、準備したメタノールに対してヒドロキノンを溶解してヒドロキノン溶液を準備する第二準備ステップと、準備したセタルコニウムクロリド溶液と、ヒドロキノン溶液とを混合して反応溶液とする混合ステップと、を含むヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。
【0008】
第二発明は、一次結晶の濾過後、濾液であるメタノール溶液を分離膜に通し濃縮する濃縮ステップと、濃縮液を用いて二次結晶を得る第二反応ステップと、をさらに有するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。さらに好ましい態様として、第二反応ステップが、濃縮液に対してヒドロキノン及びセタルコニウムクロリドをさらに添加する追加添加ステップをさらに有するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。
【0009】
第三発明は、前記濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を、前記メタノール準備ステップにて準備する溶媒として利用するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。また、生成した一次結晶及び二次結晶に付着した原料を除去するために、濾過した一次結晶及び二次結晶を洗浄溶媒にて洗浄する洗浄ステップをさらに含み、前記洗浄溶媒として前記濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を利用するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上のような構成をとる本発明によって、未反応の原料を効率よく再反応させることができ、高純度のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体を73%の高収率にて製造することができる。これにより、ヒドロキノン含有製品の単価を抑えることができる。また、溶媒を回収し再利用することにより、廃液量を削減することができ、環境に与える負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は、主に請求項1、2について説明する。実施形態2は、主に請求項3、4について説明する。実施形態3は、主に請求項5、6について説明する。
≪実施形態1≫
<実施形態1の概要>
【0012】
本実施形態のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法は、セタルコニウムクロリドを1当量に対し、ヒドロキノンを1.5当量反応させることを特徴とする。
<実施形態1の構成>
【0013】
図1に本実施形態での機能ブロックの一例を示した。本実施形態のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法は、「メタノール準備ステップ」(S0101)と、「第一反応ステップ」(S0102)と、「一次結晶濾過ステップ」(S0103)を有する。さらに第一反応ステップは、「第一準備ステップ」(S0104)と、「第二準備ステップ」(S0105)と、「混合ステップ」(S0106)とを含んでいてもよい。
【0014】
ヒドロキノン(以下HQという)は化1に示す構造を有している。
【化1】

HQ(MW=110.1)は、メラニン生成抑制作用を有し、美白剤として注目されている化合物である。しかし、前述のように単体では還元作用により、使用前に酸化し変質してしまうと欠点を有している。
【0015】
一方、セタルコニウムクロリド(benzylcetyldimethylammonium chloride、以下BCDACという)は化2に示す構造を有している。
【化2】

BCDAC(MW=396.10)は、食品添加物としてサトウキビなどの酸化防止剤及び防腐剤として用いられている化合物である。
【0016】
前述したように、HQとBCDACが水素結合により形成するHQ/BCDAC錯体は、白色の針状結晶となり、HQの気化速度を遅延させるとともに、光・熱に対する安定性を向上させることが分かっている。また、HQ/BCDAC錯体は、従来混合が困難とされたエマルジョン溶液中に分散させることが可能であるため,現在多くの化粧品に利用されている。以下に、HQ/BCDAC錯体の各製造ステップについて説明する。
【0017】
「メタノール準備ステップ」(S0101)では、溶媒としてメタノールを準備する。原料であるHQ及びBCDACはメタノールに可溶であり、生成したHQ/BCDAC錯体はメタノールに難溶であるため、メタノールは反応溶媒として最適である。準備したメタノールは、反応溶媒及び生成した結晶の精製のための洗浄に用いる。
【0018】
「第一反応ステップ」(S0102)では、準備したメタノール中にてBCDACを1当量に対し、HQを1.5当量反応させることにより、一次結晶を得る。特許文献2では当モル量の原料を反応させるとのみ記載されていたため、反応条件の検討を行ったところ以下の表1のようになった。
【表1】

表1は、メタノール1000ml中、表に示す量の原料を40℃、1時間反応させ、得られたHQ/BCDAC錯体を濾過、洗浄し、真空ポンプにて乾燥して結晶を得た結果である。合算重量は、反応に用いたHQとBCDACの合計量を示しており、収率は合算重量に対する錯体の生成量から算出した。HQ/BCDAC錯体の生成は、粉末X線回折により確認した。表1に示すように、BCDAC1当量に対し、HQを1.5当量用いた場合(サンプルC)が最も収率がよいことがわかる。これは、特許文献2に記載の結晶X線回折より、HQ/BCDAC錯体の分子式が、BCDAC/1.5HQと計算されていることからも証明される。HQを2当量用いた場合(サンプルD)には、原料が過剰になるため、原料の単体が析出するため、HQ/BCDAC錯体は得られなかった。
【0019】
第一反応ステップ(S0102)では、HQとBCDACをメタノール中にて反応を行う。メタノール準備ステップにて準備されたメタノールにHQ及びBCDACを添加する方法でも、HQのメタノール溶液及びBCDACのメタノール溶液を混合する方法でもよい。以下にHQのメタノール溶液及びBCDACのメタノール溶液を混合する方法を説明する。
【0020】
まず、準備したメタノールに対してBCDACを溶解してBCDAC溶液を準備し(第一準備ステップ S0104)、準備したメタノールに対してHQを溶解してHQ溶液を準備する(第二準備ステップ S0105)。第一準備ステップと第二準備ステップの順序は問わず、第二準備ステップを先に行っても、第一準備ステップと第二準備ステップを同時に行ってもよい。また、HQ/BCDAC錯体の生成段階において、HQの酸化を防ぐため、窒素置換等により反応系内を脱気状態に保つ必要がある。次に、準備したHQ溶液とBCDAC溶液とを混合して反応溶液とする(混合ステップ S0106)。反応は、攪拌を行いながら40℃にて1時間行う。反応温度及び反応時間は、技術常識の範囲内であればこれに限定されない。その後、攪拌を止め、一定時間静置させることにより結晶サイズを300μmから500μm程度に揃えることができる。
【0021】
「一次結晶濾過ステップ」(S0103)では、前記反応溶液から生成した一次結晶を濾過する。第一反応ステップにて生成したHQ/BCDAC錯体の一次結晶をメンブランフィルターにて濾過し、結晶に付着している原料を除くため、新たなメタノールにて洗浄を行う。洗浄に用いるメタノールの量は、少なすぎるとHQ/BCDAC錯体の純度が低下し、多すぎるとHQ/BCDAC錯体が徐々にメタノールに溶解していくため収率が低下する。そのため、反応溶媒量の50%程度以下が好ましいが、これに限定されない。メタノールでの洗浄後、真空ポンプを用いて乾燥させ一次結晶とする。
<実施形態1の効果>
【0022】
本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法によれば、等モル量の原料を用いて製造する場合よりも高収率にてHQ/BCDAC錯体を製造することができる。
≪実施形態2≫
<実施形態2の概要>
【0023】
本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法は、一次結晶の単離後、濾液を分離膜を透過させることにより、濃縮液からさらに二次結晶を得ることを特徴とする。
<実施形態2の構成>
【0024】
図2に本実施形態での機能ブロックの一例を示した。本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法は、「メタノール準備ステップ」(S0201)と、「第一反応ステップ」(S0202)と、「一次結晶濾過ステップ」(S0203)と、「濃縮ステップ」(S0204)と、「第二反応ステップ」(S0205)と、「二次結晶濾過ステップ」(S0206)を有する。第二反応ステップは、さらに「追加添加ステップ」(S0207)を有していることが好ましい。「メタノール準備ステップ」(S0201)と、「第一反応ステップ」(S0202)と、「一次結晶濾過ステップ」(S0203)に関しては、実施形態1においてすでに説明しているため、その他のステップについて説明する。
【0025】
「濃縮ステップ」(S0204)では、一次結晶濾過ステップ(S0203)後、濾液であるメタノール溶液を分離膜に通し濃縮する。分離膜に通す濾液は、反応溶液であるメタノールだけでなく、一次結晶を洗浄するために用いたメタノールを含んでいてもよい。濾液を分離膜に通すことにより、メタノールが透過液として透過し、原料は濃縮液として分離することができる。分離膜としては、メタノール等の溶媒と原料(HQ、BCDAC)を分離することができるものであればよく、ポリアミド系、芳香族ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリプロピレン系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレン系、セルロースエステル系、シリコーン系、テフロン(登録商標)系等の種々の膜を用いることができる。また、分離膜の形状は、平膜、チューブラ、スパイラル、中空糸等の種々の形状のものを用いることができる。さらに濃縮ステップは、1回に限られず、2回以上行ってもよい。
【0026】
「第二反応ステップ」(S0205)では、濃縮ステップ(S0204)にて得られた濃縮液を用いて二次結晶を得る。二次結晶は、濃縮液を静置することによって得てもよいし、再度攪拌を行いながら40℃にて反応を行うことによって得てもよい。得られた結晶は、一次結晶の場合と同様に、濾過した後(二次結晶濾過ステップ、S0206)、新たなメタノールによる洗浄を行い、乾燥させることにより二次結晶とする。二次結晶濾過ステップにおける濾液は、廃液としてもよいし、再度濃縮ステップに戻すようにしてもよい。さらに、第二反応ステップは、追加添加ステップ(S0207)を有することが望ましい。
【0027】
「追加添加ステップ」(S0207)では、濃縮液に対してHQ及びBCDACをさらに追加添加する。濾液を分離膜を透過させることにより得られる濃縮液に含まれる原料の濃度は、HQ/BCDAC錯体の形成に十分な濃度ではないため、そのままでは二次結晶の生成効率はよいとはいえない。そのため、HQ/BCDAC錯体の形成に十分な濃度となるように、HQ及びBCDACを追加で添加することが望ましい。追加添加する原料は、一次結晶製造時と同様に、BCDAC1当量に対し、HQ1.5当量を用いる。また、追加添加する原料の量は、第一反応ステップ(S0202)に用いた原料の6〜10重量%程度が望ましい。添加しすぎると反応溶液内の原料の濃度が高くなり、原料単体として析出してしまうからである。
<実施形態2の効果>
【0028】
本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法によれば、分離膜による濃縮ステップにより一次結晶製造時に未反応の原料からも二次結晶を得ることができ、収率を向上させることができる。さらに二次結晶製造時に原料を追加することにより、さらに高収率にてHQ/BCDAC錯体を製造することができる。
≪実施形態3≫
<実施形態3の概要>
【0029】
本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法は、分離膜を用いた濃縮ステップにて得られる透過溶媒を再利用することを特徴とする。
<実施形態3の構成>
【0030】
図3に本実施形態での機能ブロックの一例を示した。本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法は、実施形態2を基本とし、「メタノール準備ステップ」(S0301)と、「第一反応ステップ」(S0302)と、「一次結晶濾過ステップ」(S0303)と、「濃縮ステップ」(S0304)と、「第二反応ステップ」(S0305)と、「二次結晶濾過ステップ」(S0306)を有し、濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を、前記メタノール準備ステップにて準備する溶媒として利用することを特徴とする。さらに一次結晶及び/又は二次結晶の「洗浄ステップ」(S0307、S0308)を有し、前記洗浄溶媒として前記濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を利用することとしてもよい。
【0031】
濃縮ステップ(S0304)において分離膜を透過した透過溶媒であるメタノールは、メタノール準備ステップ(S0301)にて準備するメタノールとして再利用することができる(矢印A)。通常、HQ/BCDAC錯体濾過後の濾液には原料が残存しているため、廃棄を処理するためには大量の廃水が必要となっており、環境保全上問題があった。しかし、反応溶液に残っていた原料のHQ及びBCDACは、分離膜を透過せず濃縮液内に残留するため、透過液はメタノールのみとなる。このため、メタノール準備ステップにて準備するメタノールとしても問題がなく、廃液として処理する必要がなくなる。すなわち、メタノール準備ステップに戻されたメタノールは、反応溶媒として利用することができる(矢印B)。また、一次結晶及び二次結晶の濾過後に洗浄ステップ(S0307、S0308)を有する場合には、洗浄ステップに用いるメタノールとして再利用することができる(矢印C)。「洗浄ステップ」(S0307、S0308)は、実施形態1において説明したように、HQ/BCDAC錯体に付着した原料を除くために行われる。透過溶媒を洗浄ステップにおいて用いる場合には、直接洗浄ステップにおいて利用できるように送ってもよいし、図3に示すようにメタノール準備ステップに戻し、そこから洗浄ステップへと送ってもよい。さらに、洗浄ステップにて用いた後のメタノールをさらに回収し、分離膜による濃縮ステップを行う濾液に加えてもよい。
<実施形態3の効果>
【0032】
本実施形態のHQ/BCDAC錯体の製造方法によれば、分離膜による濃縮ステップにより原料を含まないメタノールを回収することができるため、反応溶媒又は洗浄溶媒としてメタノールを再利用することができる。これにより、廃液量を削減することができ、環境に与える負荷を軽減することができる。
≪実施例≫
【0033】
工業的にHQ/BCDAC錯体の製造方法の一例を詳しく説明する。以下の実施例は一例でありこの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0034】
窒素置換下、HQ1mol(165g)(関東化学)とBCDAC1mol(396g)(東京化成)をメタノール1000mlに溶解し、攪拌を行いながら40℃にて1時間反応を行う。反応後、結晶サイズを揃えるためしばらく静置し、析出した結晶を0.1μmのメンブランフィルター(ADVANTEC社製)を用いて吸引濾過するとともに、新しいメタノール500mlにて洗浄する。最後に得られた結晶を乾燥させ、HQ/BCDAC錯体(一次結晶)とする。得られたHQ/BCDAC錯体は、粉末X線解析により不純物の混入の有無を確認した。
<実施例2>
【0035】
実施例1と同条件にて一次結晶を得た後、メンブランフィルターにて吸引濾過した濾液を、10℃にて静置する。そして、析出したHQ/BCDAC錯体を濾過、洗浄、乾燥させ二次結晶として得た。得られたHQ/BCDAC錯体は、粉末X線解析により不純物の混入の有無を確認した。
<実施例3>
【0036】
実施例1と同条件にて一次結晶を得た後、メンブランフィルターにて吸引濾過した濾液を、中空糸膜(東レ社製)を0.5MPaにて透過させ、得られた濃縮液837mlを10℃にて静置し、析出したHQ/BCDAC錯体を濾過する。得られたHQ/BCDAC錯体を、中空糸膜の透過溶媒264mlにて洗浄し、真空ポンプにて充分に乾燥させ二次結晶として得た。得られたHQ/BCDAC錯体は、粉末X線解析により不純物の混入の有無を確認した。
<実施例4>
【0037】
図4は、実施例4の製造方法の流れを示している。製造段階におけるHQの酸化を防ぐため、窒素(0401)置換下にて反応を行っている。まず、溶媒槽(0402)のメタノールにより、HQのメタノール溶液及びBCDACのメタノール溶液を準備し、各溶解槽(0403、0404)から反応槽(0405)へと送る。40℃にて1時間、攪拌を行いながら反応させた後、生成槽(0406)にて静置させることにより結晶サイズを揃える。次に、分離槽(0407)にてメンブランフィルターにより濾過を行う。濾過により得られた結晶は洗浄槽(0408)にて、溶媒槽(0402)からのメタノールにより洗浄される。洗浄されたHQ/BCDAC錯体(0410)は乾燥工程へと送られ、一次結晶となる。一方、分離槽及び洗浄槽から得られるメタノール溶液は膜モジュール(0409)の分離膜を透過させる。膜モジュールにより濃縮された濃縮液は、太線の経路にて再度反応槽(0405)へと送られる。また、膜モジュールを透過した透過溶媒は、点線の経路にて溶媒槽(0402)へと戻され、再利用される。反応槽へと送られた濃縮液内に、さらに原料のHQとBCDACを合わせて100g(HQ29.4g、BCDAC70.6g)をさらに添加する。そして一次結晶時と同様の反応を行い得られたHQ/BCDAC錯体を、分離膜の透過溶媒323.6mlにて洗浄し、真空ポンプにて充分に乾燥させ、二次結晶として得た。得られたHQ/BCDAC錯体は、粉末X線解析により不純物の混入の有無を確認した。
【0038】
実施例1から4の原料の合計量に対する収率を表2に示す。
【表2】

BCDAC1当量に対しHQを1.5当量用いて反応を行いて得られる一次結晶の収率は、実施例1及び実施例2から4において約40%とほぼ同程度の低い収率となっている。そこで、一次結晶時の濾液を静置することにより二次結晶を得た実施例2では、二次結晶として49.8gを得、収率が49.2%と向上した。また、一次結晶時の濾液を分離膜に透過させ、濃縮液を静置することにより二次結晶を得た実施例3では、二次結晶として148.5gを得、収率が67.2%とさらに向上した。さらに、一次結晶時の濾液を分離膜に透過させ、濃縮液に原料を追加添加し、再度反応を行うことにより二次結晶を得た実施例4では、二次結晶として263.3gを得、収率が73.4%とさらに向上した。
【0039】
上記の結果より、本発明の製造方法は、HQ/BCDAC錯体の収率を向上させることがわかる。特に、二次結晶製造時に、原料を追加添加することにより、さらに収率が向上している。また、分離膜の透過溶液を再利用することにより、廃液が大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1を説明する機能ブロック図
【図2】実施形態2を説明する機能ブロック図
【図3】実施形態3を説明する機能ブロック図
【図4】実施例4の製造方法を説明する図
【符号の説明】
【0041】
S0301 メタノール準備ステップ
S0302 第一反応ステップ
S0303 一次結晶濾過ステップ
S0304 濃縮ステップ
S0305 第二反応ステップ
S0306 二次結晶濾過ステップ
S0307、S0308 洗浄ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキノンとセタルコニウムクロリドとからなる分子錯体の製造方法であって、
溶媒としてメタノールを準備するメタノール準備ステップと、
準備したメタノール中にてセタルコニウムクロリドを1当量に対し、ヒドロキノンを1.5当量反応させ一次結晶を得る第一反応ステップと、
前記反応溶液から生成した一次結晶を濾過する一次結晶濾過ステップと、
を有するヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。
【請求項2】
第一反応ステップは、
準備したメタノールに対してセタルコニウムクロリドを溶解してセタルコニウムクロリド溶液を準備する第一準備ステップと、
準備したメタノールに対してヒドロキノンを溶解してヒドロキノン溶液を準備する第二準備ステップと、
準備したセタルコニウムクロリド溶液と、ヒドロキノン溶液とを混合して反応溶液とする混合ステップと、
を含む請求項1に記載のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。
【請求項3】
一次結晶の濾過後、濾液であるメタノール溶液を分離膜に通し濃縮する濃縮ステップと、
濃縮液を用いて二次結晶を得る第二反応ステップと、
をさらに有する請求項1又は2に記載のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。
【請求項4】
前記第二反応ステップは、濃縮液に対してヒドロキノン及びセタルコニウムクロリドをさらに添加する追加添加ステップをさらに有する請求項3に記載のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。
【請求項5】
前記濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を、前記メタノール準備ステップにて準備する溶媒として利用する請求項3又は4に記載のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。
【請求項6】
生成した一次結晶及び二次結晶に付着した原料を除去するために、濾過した一次結晶及び二次結晶を洗浄溶媒にて洗浄する洗浄ステップをさらに含み、前記洗浄溶媒として前記濃縮ステップにて得られる分離膜の透過溶媒を利用する請求項3から5のいずれか一に記載のヒドロキノン/セタルコニウムクロリド錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−131566(P2007−131566A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325293(P2005−325293)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(505099381)有限会社環境経営研究所 (1)
【Fターム(参考)】