抗PirB抗体
本開示は一般に神経発生及び神経障害に関する。本開示は、特に、ミエリン関連阻害系の新規な修飾因子の同定と、そのようにして同定された修飾因子の様々な用途に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に神経発生及び神経障害に関する。本発明は、ミエリン関連阻害系の新規な修飾因子の同定及びそのようにして同定された修飾因子の様々な用途に特に関する。
【背景技術】
【0002】
ミエリン及びミエリン関連タンパク質
成体哺乳動物のCNSニューロンの軸索は傷害後に再生する能力が非常に限られている一方、末梢神経系(PNS)の軸索は迅速に再生することが知られている。CNSニューロンの限られた再生能力は部分的にはCNS軸索の本来の性質によるが、また許容できない環境のためでもあることが知られている。CNSミエリンは、神経突起成長のための阻害キューの唯一のソースではないが、軸索成長を活発にブロックする多くの阻害性分子を含んでおり、よって再生に対する重要な障壁を構成している。3種のこのようなミエリン関連タンパク質(MAPs)が同定されている:Nogo(NogoAとしてもまた知られている)は2つの膜貫通ドメインを有するReticulonファミリータンパク質のメンバーである;ミエリン関連糖タンパク質(MAG)はIgスーパーファミリーの膜貫通タンパク質である;及びOMgpはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを持つロイシンに富む反復配列(LRR)タンパク質である。Chen等, Nature 403:434-39 (2000); GrandPre等, Nature 417:439-444 (2000); Prinjha等, Nature 403:383-384 (2000); McKerracher等, Neuron 13:805-11 (1994); Wang等, Nature 417:941-4 (20020: Kottis等 J. Neurochem 82:1566-9 (2002)。NogoAの一部のNogo66は、Nogoの3種全てのアイソフォーム中に見出される66アミノ酸の細胞外ポリペプチドとして記述されている。
【0003】
その構造的な差異にもかかわらず、(Nogo66を含む)3種全ての阻害性タンパク質は、Nogoレセプター(NgR;Nogoレセプタ−1又はNgR1としても知られている)と呼ばれる同じGPIアンカーレセプターに結合することが示されており、Nogo、MAG及びOMgpの阻害作用の媒介にNgRが必要とされているかも知れないことが提案されている。Fournier等, Nature 409: 341-346 (2001)。2種のNgR1ホモログ(NgR2及びNgR3)もまた同定されている。2005年3月3日公開のUS2005/0048520A1(Strittmatter等)。NgRはGPIアンカー細胞表面タンパク質であることになったので、それが直接のシグナル伝達体であることはない(Zheng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:1205-1210 (2005))。ニューロトロフィンレセプターp75NTRがNgRに対するコレセプターとして作用し、レセプター複合体中のシグナル伝達部分を提供することも示唆されている(Wang等, Nature 420:74-78 (2002);Wong等, Nat. Neurosci. 5:1302-1308 (2002))。
【0004】
PirB及びヒトオルソログ
主要組織適合抗原(MHC)クラスIは、元々は免疫系に重要である分子ファミリーをコードする領域として元々は同定された。最近の証拠は、MHCクラスI分子が発達及び成体CNSにおいて更なる機能を有していることを示している。Boulanger及びShatz, Nature Rev Neurosci. 5:521-531 (2004);2003年9月11日公開のUS2003/0170690(Shatz及びSyken)。MHCクラスIメンバー及びその結合パートナーの多くがCNSニューロン中に発現されることが見出されている。最近の遺伝子及び分子研究はCNS MHCクラスIの生理学的機能に焦点を当てており、初期の結果は、MHCクラスI分子が、その間に既存のシナプス結合の強さがニューロン活動に応答して増加又は減少し、回路に長期間の構造的変化が続くプロセスである活動依存的シナプス可塑性に関与しているかも知れないことを示唆していた。更に、MHCクラスIコード領域は神経学的徴候を有する広範囲の疾患に遺伝学的にまた関連しており、MHCクラスI分子の異常な機能は正常な脳発達及び可塑性の破壊に寄与すると考えられている。
【0005】
免疫設定における既知のMHCクラスIレセプターの一つは、Kubagawa等, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 94:5261-6 (1997)によって最初に開示されたマウスポリペプチドのPirBである。マウスPirBは幾つかのヒトオルソログを有しており、これらは白血球免疫グロブリン様レセプター、サブファミリーB(LILRB)のメンバーであり、「免疫グロブリン様転写物」(ILTs)とも称されている。ヒトオルソログは、最も高いものから最も低いものまで次の順:LILRB3/ILT5、LILRB1/ILT2、LILRB5/ILT3、LILRB2/ILT4でマウス配列と有意な相同性を示し、丁度PirBのように、全てが抑制性レセプターである。LILRB3/ILT5(NP_006855)及びLILRB1/ILT2(NP_006660)は最初にSamaridis及びColonna, Eur. J. Immunol. 27(3):660-665 (1997)によって記載された。LILRB5/ILT3(NP_006831)は Borges等, J. Immunol. 159(11):5192-5196 (1997)によって同定された。LILRB2/ILT4(MIR10としても知られている)は、Colonna等, J. Exp. Med. 186:1809-18 (1997)によって同定された。PirBとそのヒトオルソログは大きな度合いの構造可変性を示す。様々な選択的スプライシング型の配列がEMBL/GenBankから利用でき、例えばヒトILT4 cDNAに対する次の受託番号を含む:ILT4−c11 AF009634;ILT4−c117 AF11566;ILT4−c126 AF11565。上に記載したように、PirB/LILRBポリペプチドはMHCクラスI(MHCI)阻害性レセプターであり、免疫細胞活性化におけるその役割で知られている(上掲のKubagawa等;Hayami等, J. Biol. Chem. 272:7320 (1997);Takai等, Immunology 115:433 (2005);Takai等, Immunol. Rev. 181:215 (2001);Nakamura等 Nat. Immunol. 5:623 (2004);Liang等, Eur. J. Immunol. 32:2418 (2002))。
【0006】
Syken等(Science 313:1795-800 (2006))による最近の研究では、PirBが脳全体のニューロンサブセット中に発現されることが報告されている。機能的PirBを欠く変異マウスでは、皮質眼球優位性(OD)可塑性が全ての年齢で有意に亢進され、視覚野における活動依存的可塑性の制限におけるPirBの機能を示唆している。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、機能ブロック性抗PirB抗体を使用してPirB活性を妨げることがNogo66及びミエリンによる神経突起の伸長阻害のレスキューを助けること、及びPirB及びNgR活性を同時にブロックすることでミエリン阻害からの略完全な解放に至ることに少なくとも部分的に基づいている。
【0008】
一態様では、本発明は、YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体と同じヒトPirB(LILRB)上のエピトープに本質的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0009】
他の態様では、本発明は、YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体とヒトPirB(LILRB)への結合について競合する単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0010】
また他の態様では、本発明は、YW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含む単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0011】
ある実施態様では、抗体は、YW259.2抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号4又は11)を含む。
【0012】
他の実施態様では、抗体は、YW259.9抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号5又は12)を含む。
【0013】
更に他の実施態様では、抗体は、YW259.12抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号6又は13)を含む。
【0014】
更なる実施態様では、抗体は軽鎖を含む。
【0015】
また更なる実施態様では、抗体は、配列番号7のポリペプチド配列由来の軽鎖の一、二又は三の高頻度可変領域配列を含む。
【0016】
更に他の実施態様では、抗体は、配列番号7又は15のポリペプチド配列を含む軽鎖の全ての高頻度可変領域配列を含む。
【0017】
特定の実施態様では、抗体は重鎖及び軽鎖を含み、重鎖がYW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含み、及び/又は軽鎖が配列番号7又は15のポリペプチド配列由来の軽鎖の一、二又は三の高頻度可変領域配列を含む。
【0018】
更なる実施態様では、抗体は、抗体YW259.2、YW259.9、及びYW259.12からなる群から選択される。
【0019】
更なる態様では、本発明は、抗体の完全長IgG型が5nM又はそれ以上、又は1nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirBに特異的に結合する単離された抗PirB抗体に関する。
【0020】
ある実施態様では、抗体は、CNSニューロンの再生のような軸索再生を促進する。
【0021】
他の実施態様では、抗体は、Nogo66及びミエリンによる神経突起伸長阻害を少なくとも部分的に解放(レスキュー)する。
【0022】
全ての態様において、抗体は好ましくはモノクローナル抗体であり、これは、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、親和性成熟抗体、ヒト抗体、又は二重特異性抗体、抗体断片又はイムノコンジュゲートでありうる。
【0023】
更なる態様では、 本発明はここでの抗PirB/LILRB抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0024】
他の態様では、本発明は、ここでの(一又は複数の抗体鎖のコード配列を含む)抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。該宿主細胞は、原核生物、真核生物及び哺乳動物宿主を含む。
【0025】
更なる態様では、本発明は、抗PirB/LILRB抗体を製造するための方法であって、(a)抗体をコードする核酸を含むベクターを適切な宿主細胞中において発現させ、(b)抗体を回収することを含む方法に関する。
【0026】
また更なる態様では、本発明は、ここでの抗PirB/LILRB抗体、及び薬学的に許容可能な賦形剤を含有する組成物に関する。場合によっては、該組成物は第二の医薬を含み、抗PirB/LILRB抗体が第一の医薬である。第二の医薬は、例えばNgR阻害剤、例えば抗NgR抗体でありうる。
【0027】
異なる態様では、本発明はここでの抗PirB/LILRB抗体を含むキットに関する。
【0028】
他の態様では、本発明は、有効量のここでの抗PirB/LILRB抗体を必要とする被験者に投与することを含む軸索再生の促進方法。に関する。好ましくは、被験者はヒト患者である。
【0029】
実施態様では、ここでの治療方法は生存又はニューロンを亢進し、及び/又はニューロン伸長を誘導する。
【0030】
また他の態様では、本発明は、ここでの抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む、神経変性疾患の治療方法に関する。神経変性疾患は、例えば中枢神経系への物理的損傷によって特徴付けられ得、限定しないが、脳卒中に伴う脳損傷を含む。
【0031】
特定の実施態様では、神経変性疾患は、三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものからなる群から選択される。
【0032】
本発明は、ここでの抗PirB抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体に更に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】図1AはマウスPirB配列(配列番号1)を示す。
【図1B】図1BはヒトLILRB2配列(配列番号2)を示す。
【図2A】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。(A)代表的な顕微鏡写真。
【図2B】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。(B)一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフ。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3A】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3B】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3C】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3D】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図4A】PirB及びNgRは両方とも、ミエリン阻害剤による成長円錐破壊を媒介するために必要とされる。出生後DRG軸索の成長円錐を、破壊を刺激するために、30分間、培地単独(コントロール)、ミエリン(3mg/ml)、又はAP−Nogo66(100nM)で処理し、成長円錐を可視化するためにローダミン−ファロイジンで染色した。(A)代表的な顕微鏡写真、(B)累積的実験からの成長円錐破壊(±SEM)を測定するグラフ。抗PirB処理によるNgRの遺伝子的喪失又はPirBの阻害の何れかが、ミエリン又はAP−Nogo66の成長円錐破壊活性を防止するのに十分なだけであった。双方の経路の阻害が破壊をまた十分にブロックした。(スケールバー,50μm)。
【図4B】PirB及びNgRは両方とも、ミエリン阻害剤による成長円錐破壊を媒介するために必要とされる。出生後DRG軸索の成長円錐を、破壊を刺激するために、30分間、培地単独(コントロール)、ミエリン(3mg/ml)、又はAP−Nogo66(100nM)で処理し、成長円錐を可視化するためにローダミン−ファロイジンで染色した。(A)代表的な顕微鏡写真、(B)累積的実験からの成長円錐破壊(±SEM)を測定するグラフ。抗PirB処理によるNgRの遺伝子的喪失又はPirBの阻害の何れかが、ミエリン又はAP−Nogo66の成長円錐破壊活性を防止するのに十分なだけであった。双方の経路の阻害が破壊をまた十分にブロックした。(スケールバー,50μm)。
【図5A】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5B】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5C】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5D】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図6】抗PirB抗体YW259.2重鎖のDNA配列(配列番号8)。
【図7】抗PirB抗体YW259.9重鎖のDNA配列(配列番号9)。
【図8】抗PirB抗体YW259.12重鎖のDNA配列(配列番号3)。
【図9】抗PirB抗体YW259.2重鎖のタンパク質配列(配列番号4)。
【図10】抗PirB抗体YW259.9重鎖のタンパク質配列(配列番号5)。
【図11】抗PirB抗体YW259.12重鎖のタンパク質配列(配列番号6)。
【図12】全てのYW259抗体の軽鎖のタンパク質配列(配列番号7)。
【図13】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.2(IgG)の能力。
【図14】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.9(IgG)の能力。
【図15】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.12(IgG)の能力。
【図16】YW259.2、YW259.9、及びYW259.12を含む抗PirB抗体パネルの相対的AP−Nogo66結合性。
【図17A】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図17B】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図17C】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。Hum IIIは配列番号10として開示されている。
【図18A】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15),及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図18B】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15)、及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図18C】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15)、及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図19】C1QTNF5(CTRP5;NP_05646)が後根神経節ニューロンの神経突起伸長を阻害し、この阻害は、PirBがPirB機能ブロック抗体YW259.2によってブロックされる場合に低減される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
ペアード免疫グロブリン様レセプターB」及び「PirB」なる用語はここでは交換可能に使用され、配列番号1(図1)(NP_035225)の天然配列の841アミノ酸マウス抑制タンパク質、及び全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含むラット及び他の非ヒト哺乳動物におけるその天然配列ホモログを意味する。更なる詳細については、Kubagawa等, Proc Natl Acad Sci USA 94, 5261 (1997)を参照のこと。
【0035】
「LILRB」、「ILT」及び「MIR」なる用語はここでは交換可能に使用され、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含む、ヒト「白血球免疫グロブリン様レセプター、サブファミリーB」の全てのメンバーを意味する。LILRレセプターのこのB型サブファミリー内の個々のメンバーは、例えばLILRB3/ILT5、LILRB1/ILT2、LILRB5/ILT3、及びILIRB2/ILT4のように、アクロニムに続く数字によって命名され、ここで、別の定義をしない限り、任意の個々のメンバーに対する言及は、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型に対する言及をまた含む。よって、例えば、「LILRB2」「LIR2」及び「MIR10」はここでは交換可能に使用され、配列番号2(図1)(NP_005865)の598アミノ酸ポリペプチド、及びその天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含むを意味する。更なる詳細については、Martin等, Trends Immunol. 23, 81 (2002)を参照のこと。
【0036】
「PirB/LILRB」なる用語は、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含む、対応するマウス及びヒトタンパク質及び他の非ヒト哺乳動物における天然配列ホモログを併せて意味するためにここで使用される。
【0037】
「ミエリン関連タンパク質」なる用語は最も広い意味に使用され、Nogo、MAG及びOMgpを含む、ニューロン再生を抑制するCNSミエリン中に存在する全てのタンパク質を含む。
【0038】
「単離された」は、ここに開示された様々なタンパク質を記述するために使用される場合、同定されその自然環境の成分から分離され及び/又は回収されたタンパク質を意味する。その自然環境の汚染成分とは、典型的にはそのタンパク質の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれうる。好ましい実施態様では、タンパク質は、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、又は(2)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性まで、又は(3)質量分析又はペプチドマッピング技術により均一性まで、精製される。単離されたタンパク質には、当該タンパク質の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツのタンパク質が含まれる。しかしながら、通常は、単離されたタンパク質は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0039】
「単離された」核酸分子は、当該核酸の天然源に通常は伴う少なくとも一種の汚染核酸分子から同定され分離される核酸分子である。単離された核酸分子は、それが天然に見出される形態又は設定以外のものである。従って、単離された核酸分子は、それが天然の細胞中に存在している核酸分子から区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が天然細胞の位置とは異なる染色体位置にあるコードされたかかる核酸を通常は発現する細胞中に含まれる核酸分子を含む。
【0040】
ここで使用される場合、「PirB/LILRBアンタゴニスト」なる用語は、PirB/LILRB活性をブロックし、中和し、阻害し、抑制し、低減させ又は妨害することのできる薬剤を指すために使用される。特に、PirB/LILRBアンタゴニストは、ミエリン関連阻害活性を妨害し、よって、神経突起伸長を亢進し、及び/又はニューロン成長、修復及び/又は再生を促進する。好ましい実施態様では、PirB/LILRBアンタゴニストは、PirB/LILRBに結合することにより、PirB/LILRBのNogo66及び/又はMAG及び/又はOMgpへの結合を阻害する。PirB/LILRBアンタゴニストは、例えば、PirB/LILRBに対する抗体及びその抗原結合断片、PirB/LILRBとNogo66との間、又はPirB/LILRBとMAGとの間、又はPirB/LILRBとOMgpとの間の結合を隔絶することができるPirB/LILRB、Nogo66、MAG又はOMgpの切断型は可溶型断片及びPirB/LILRB関連阻害経路の小分子阻害剤を含む。PirB/LILRBアンタゴニストはまたPirB/LILRB mRNAの発現を阻害し又は減少させることができる低分子干渉RNA(siRNA)分子を含む。好ましいPirB/LILRBアンタゴニストは抗PirB/LILRB抗体である。
【0041】
ここでの「抗体」なる用語は最も広義に使用され、特にインタクトな抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二のインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を包含する。
【0042】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、少量で存在しうる可能な天然に生じる変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の抗体によって汚染されないで合成されうる点で有利である。「モノクローナル」との修飾語句は、実質的に均一な抗体の集団から得たものとしての抗体の性質を示すものであり、抗体が何か特定の方法による生産を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature 256: 495 (1975)よって記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作製されうる(例えば米国特許第4816567号を参照)。「モノクローナル抗体」はまた例えばClackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された技術を使用するファージ抗体ライブラリーから単離することもまたできる。
【0043】
抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に一致するか又は相同するが、残りの鎖が、他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に一致するか又は相同するものである「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限り、そのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。ここで興味のあるキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿等)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含むプリマタイズ抗体を含む。
【0044】
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合又は可変領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0045】
「インタクト」抗体は抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えばヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体でありうる。好ましくは、インタクト抗体は一又は複数のエフェクター機能を有する。
【0046】
非ヒト(例えば齧歯類)抗体の「ヒト化」型とは、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大部分では、ヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域由来の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域由来の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの変更は、抗体の性能を更に洗練させるために行なわれる。一般に、ヒト化抗体は、全て或いはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全て或いはほとんど全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fv)の実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann等, Nature, 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
【0047】
ここで使用される「高頻度可変領域」なる用語は、配列が高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。高頻度可変領域は「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24−34、50−56、及び89−97、及び重鎖可変ドメインの31−35、50−65、及び95−102;Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32、50−52、及び91−96及び重鎖可変ドメインの残基26−32、53−55、及び96−101;Chothia及びLesk J.Mol.Biol. 196:901-917(1987))を含む。双方の場合、以下に更に詳細に検討するように、上掲のKabat等に従って可変ドメイン残基の番号を付ける。「フレームワーク」又は「FR」残基はここで定義する高頻度可変領域中の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0048】
「親抗体」又は「野生型」抗体は、ここに開示された抗体変異体と比較して一又は複数のアミノ酸配列改変を欠くアミノ酸配列を含む抗体である。よって、親抗体は一般にここに開示された抗体変異体の対応する高頻度可変領域のアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる少なくとも一つの高頻度可変領域を有している。親ポリペプチドは、天然配列(つまり天然に生じる)抗体(天然に生じる対立遺伝子変異体)、又は天然に生じる配列の既存のアミノ酸配列修飾(例えば挿入、欠失及び/又は他の改変)を有する抗体を含みうる。開示全体を通して、「野生型」、「WT」、「wt」及び「親」又は「親の」抗体は交換可能に使用される。
【0049】
ここで使用される場合、「抗体変異体」又は「変異体抗体」は、親抗体のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有する抗体を意味する。好ましくは、抗体変異体は、天然には見出されないアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインを含む。かかる変異体は親抗体と100%未満の配列同一性又は類似性を必ず有している。好ましい実施態様では、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖の可変ドメインの何れかのアミノ酸配列と、約75%から100%未満、より好ましくは約80%から100%未満、より好ましくは約85%から100%未満、より好ましくは約90%から100%未満、及び最も好ましくは約95%から100%未満のアミノ酸配列同一性又は類似性があるアミノ酸配列を有する。抗体変異体は一般に一又は複数のその高頻度可変領域中に又はそれに隣接して一又は複数のアミノ酸変更を含むものである。
【0050】
「アミノ酸改変」とは、予め定まったアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な変更は、挿入、置換及び欠失を含む。「アミノ酸置換」とは、予め定まったアミノ酸配列中に存在するアミノ酸残基を他の異なったアミノ酸残基で置換することを意味する。
【0051】
「置換」アミノ酸残基とは、アミノ酸配列中の別のアミノ酸残基を置換又は置き換えるアミノ酸残基を意味する。置換残基は天然に生じるアミノ酸残基又は天然には生じないアミノ酸残基でありうる。
【0052】
「アミノ酸挿入」とは、予め定まったアミノ酸配列中への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。アミノ酸挿入はペプチド結合によって結合した2又はそれ以上のアミノ酸残基を含むペプチドが予め定まったアミノ酸配列に導入される「ペプチド挿入」を含んでいてもよい。アミノ酸挿入がペプチド挿入を含む場合、挿入されたペプチドは天然には存在しないアミノ酸配列を持つようにランダム突然変異によって産生され得る。「高頻度可変領域の近傍」におけるアミノ酸変更は、挿入又は置換されたアミノ酸残基の少なくとも一つが当該高頻度可変領域のN末端又はC末端アミノ酸残基とペプチド結合を形成するような、高頻度可変領域のN末端及び/又はC末端への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。
【0053】
「天然に生じるアミノ酸残基」は、一般に、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択される、遺伝子暗号にコードされたものである。
【0054】
ここでの「天然に生じないアミノ酸残基」とは、上に列挙した天然に生じるアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチド鎖中の隣接アミノ酸残基(群)に共有的に結合可能である。天然に生じないアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン及びEllman等, Meth. Enzym. 202:301-336(1991)に記載のもののような他のアミノ酸残基アナログが含まれる。そのような天然に生じないアミノ酸残基を産生するには、Noren 等 Science 244:182(1989)と上掲のEllman等の手順を使用することができる。簡単にいうと、これらの手順は、天然に生じないアミノ酸残基でサプレッサーtRNAを化学的に活性させ、ついでインビトロのRNA転写と翻訳を行うことを含む。
【0055】
本明細書にわたって、Kabat, E. A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987)及び(1991)からの番号付けシステムが参照される。これらの概論において、カバットは、各サブクラスに対して多くのアミノ酸配列を列挙し、そのサブクラスにおける各残基一に対して最も頻繁に生じるアミノ酸を列挙している。カバットは列挙された配列中の各アミノ酸に対して残基番号を割り当てる方法を使用し、残基番号を割り当てるこの方法は当該分野で標準的になった。この明細書では、カバット番号付けスキームに従う。本発明の目的に対しては、カバットの概論に含まれていない候補抗体アミノ酸配列に残基番号を割り当てる場合は、次の工程に従う。一般に、候補配列をカバットで任意の免疫グロブリン配列又は任意のコンセンサス配列と整列させる。アラインメントは手作業で行うか、又は一般的に許容されるコンピュータプログラムを使用してコンピュータによってなされ得、かかるプログラムの一例はAlign2プログラムである。アラインメントは、殆どのFab配列に共通である幾らかのアミノ酸残基を使用することによって容易にすることができる。例えば、軽鎖及び重鎖はそれぞれ典型的には同じ残基番号を有している二つのシステインを有している;VLドメインにおいてその二つのシステインは典型的には残基番号23及び88であり、VHドメインでは、その二つのシステインは典型的には22及び92と番号付けされる。フレームワーク残基は一般的には、必ずしも全てではないが、およそ同じ残基番号を有しており、CDRsはサイズが変化しうる。例えば、それが整列されるカバットの配列中のCDRより長い候補配列からのCDRの場合には、典型的には、更なる残基の挿入を示すために残基番号に接尾語が付加される(例えば、図1Bの残基100abcを参照)。残基34及び36のカバット配列とアラインするが残基35とアラインする残基をその間に持たない候補配列では、番号35は単に残基には単に割り当てられない。
【0056】
ここで使用される場合、「高親和性」を有する抗体は、ナノモル(nM)範囲又はそれより良いKD、又は解離定数を有する抗体である。「ナノモル(nM)範囲又はそれより良い」KDはXnMによって表すことができ、ここで、Xは約10未満の数である。
【0057】
「親和性成熟」抗体は、その一又は複数のCDRに一又は複数の変更を有するものであって、そのような変更を有しない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性が改善される。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対して、ナノモル単位の又は更にはピコモル単位の親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において既知の方法により生産される。Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VHドメイン及びVLドメインのシャフリングによる親和成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダムな突然変異誘発が、Barbas等, Proc Nat. Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155 (1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004 (1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9 (1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol., 226:889-896 (1992)に開示されている。
【0058】
抗体の「機能的抗原結合部位」は標的抗原に結合可能なものである。抗原結合部位の抗原結合親和性は、抗原結合部位が由来する親抗体と必ずしも同じほどは強くはないが、抗原に結合する能力は、抗原に結合する抗体を評価するために知られている既知の様々な方法の何れか一つを使用して測定できるものでなければならない。
【0059】
指定された抗体の「生物学的特性」を有する抗体は、同じ抗原に結合する他の抗体からそれを区別するその抗体の生物学的特性の一又は複数を保有するものである。
【0060】
対象の抗体が結合する抗原上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Harlow及びDavid Lane編 (1988)に記載されたもののような常套的な交差ブロックアッセイ法を実施することができる。
【0061】
「糸状ファージ」なる用語は、その表面に異種性ポリペプチドをディスプレイすることができるウイルス粒子を意味し、限定するものではないが、f1、fd、Pf1、及びM13を含む。糸状ファージはテトラサイクリンのような選択可能マーカーを含みうる(例えば「fd−tet」)。様々な糸状ファージディスプレイは当業者によく知られている(例えばZacher等 Gene 9: 127-140 (1980), Smith等 Science 228: 1315-1317 (1985);及びParmley及びSmith Gene 73: 305-318 (1988)を参照)。
【0062】
「パニング」なる用語は、標的に対して高い親和性及び特異性を持つ抗体のような化合物を有するファージの同定及び単離において複数回のスクリーニング方法を指すために使用される。
【0063】
「低分子干渉RNA(siRNA)」なる用語は、遺伝子発現を妨害する小さい二本鎖RNAを意味する。siRNAsは、二本鎖RNAが相同遺伝子を発現停止させるプロセスであるRNA干渉の中間体である。siRNAsは典型的には一本鎖オーバーハングを含みうる二重鎖を形成する約15−25ヌクレオチド長の二つの一本鎖RNAsから構成される。例えばポリメラーゼのような酵素複合体による二本鎖RNAのプロセシングは二本鎖RNAの開裂を生じ、siRNAsを生産する。siRNAのアンチセンス鎖は、mRNA開裂をガイドするためにRNA干渉(RNAi)サイレンシング複合体によって使用され、それによってmRNA分解が促進される。例えば哺乳動物細胞において、siRNAsを使用して特異的な遺伝子の発現を停止させるために、塩基対形成領域が、未関連mRNAに対する偶然の相補性を避けるために選択される。RNAiサイレンシング複合体は、例えばFire等, Nature 391:806-811 (1998)及びMcManus等, Nat. Rev. Genet. 3(10):737-47 (2002)によるように当該分野で同定されている。
【0064】
「干渉RNA(RNAi)」なる用語は、ここでは、特定のmRNAsの触媒的分解を生じる二本鎖RNAを意味するために使用され、よって特定の遺伝子の発現を阻害/低下させるために使用することができる。
【0065】
「遺伝子多型」なる用語は、遺伝子又はその一部(例えばアレル変異体)の一を越える形態を意味するためにここで使用される。少なくとも2つの異なった形態にある遺伝子の一部は遺伝子の「遺伝子多型領域」と称される。遺伝子の多型領域の特定の遺伝子配列は「アレル」である。多型領域は、異なるアレルで異なるか又は幾つかのヌクレオチド長でありうる単一のヌクレオチドでありうる。
【0066】
ここで使用される場合、一般に「疾患」なる用語は、軸索再生治療法から恩恵を受けることが期待される任意の症状、及び/又は神経系におけるシナプス可塑性の改善を含む、PirB/LILRB2のアンタゴニスト、例えば抗PirB抗体での治療から恩恵を受ける任意の症状を意味する。ここで治療される疾患の非限定的な例には、限定しないが、例えば物理的に損傷を受けた神経及び神経変性疾患のような神経障害を含む、神経突起伸長の亢進、ニューロン成長、修復又は再生の促進から恩恵を受ける疾病及び症状を含む。かかる疾患は特に中枢神経系に対する物理的損傷(例えば、脊髄損傷及び頭部外傷);脳卒中に伴う脳損傷;及び神経変性に関連する神経障害、例えば三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、多発性硬化症(MS)、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板(invertebrate disk)症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、身体的傷害又は糖尿病のような疾患状態によって引き起こされる末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものを含む。
【0067】
ここで使用される「治療する」、「治療」及び「治療法」なる用語は、治癒的治療、予防的療法及び防護的療法を意味する。連続的治療又は投与は、一又は複数の日数による治療の中断なく少なくとも毎日の基準での治療を意味する。間欠的治療又は投与、又は間欠的な形式での治療又は投与は、連続的ではなくむしろ周期的な性質である治療を意味する。
【0068】
ここで使用される「神経変性を予防する」なる用語は、(1)神経変性疾患を持つと新たに診断された又は新たな神経変性疾患が発症するリスクにある患者において神経変性を阻害又は予防する能力及び(2)神経変性疾患に既に罹っているか又は神経変性疾患の徴候を有している患者において更なる神経変性を阻害又は予防する能力を含む。
【0069】
ここで使用される「哺乳動物」なる用語は、ヒト、高等の非ヒト霊長類、家庭及び酪農用動物、例えばウシ、ウマ、イヌ及びネコを含む哺乳類に分類される任意の哺乳動物を意味する。本発明の好ましい実施態様では、哺乳動物はヒトである。
【0070】
一又は複数の治療剤と「組み合わせた」投与とは、同時(同時期)及び任意の順序での連続した投与を含む。
【0071】
「有効量」とは、有益な又は所望の治療(予防を含む)結果を達成するのに十分な量である。有効量は一又は複数の投与で投与されうる。
【0072】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」なる表現は交換可能に使用され、かかる全ての標記は子孫を含む。よって、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」なる言葉は、移行数にかかわらず、初代対象細胞及びそれから誘導された培養物を含む。全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、DNA含量において正確に同一でなくともよいこともまた理解される。「子孫」なる用語は、元々の形質転換細胞又は細胞株に続くあらゆる世代の任意の及び全ての子孫を意味する。元々の形質転換細胞おいてスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫が含まれる。区別する標記が意図される場合は、それは文脈から明らかであろう。
【0073】
ここで同定される配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法で達成することができ、当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。ここでの目的のためには、パーセントアミノ酸配列同一性値は、ジェネンテック社によって著作され、そのソースコードが米国著作権庁、ワシントンD.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して得ることができる。ALIGN-2はジェネンテック社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニアから公的に入手可能である。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0074】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定され、一般にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングに必要な温度が高くなり、プローブが短くなるとそれに必要な温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般に、相補鎖がその融点より低い環境に存在する場合に、変性DNAが再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列の間で所望される同一性の程度が高くなればなるほど、用いることができる相対温度が高くなる。その結果、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、低い温度はストリンジェントを低下させることになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの更なる詳細及び説明については、Ausubel等, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照のこと。
【0075】
ここで定義される「高ストリンジェンシー条件」は、(1)50℃の0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムと、洗浄に低イオン強度及び高温度を用いる;(2)42℃の50%(v/v)ホルムアミドに0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムの変性剤をハイブリダイゼーションに用いる;又は(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%の硫酸デキストラン溶液を42℃で用い、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)での42℃での洗浄と50%のホルムアミドでの55℃での洗浄に、55℃でのEDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシー洗浄が続くものによって、同定されうる。
【0076】
「中程度のストリンジェンシー条件」は、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載されているようにして特定され、20%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/mLの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中の37℃での終夜のインキュベーション後に、37〜50℃にて1×SSC中でフィルター洗浄を行うことを含む。プローブ長などの因子に必要に応じて適合させるには、どのようにして温度、イオン強度等を調節するかは当業者であれば分かるであろう。
【0077】
「コントロール配列」なる用語は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。原核生物に好適なコントロール配列は、例えばプロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0078】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列或いは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているならば、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読み枠にあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の実務に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター或いはリンカーが使用される。
【0079】
「小分子」はここでは約1000ダルトン以下、好ましくは約500ダルトン以下の分子量を有するものと定義される。
【0080】
B.抗PirB/LILRB抗体の生産
本発明の抗PirB抗体は、組換えDNA法の技術を含む当該分野で知られている方法によって製造することができる。
i)抗原調製
他の分子と結合されていてもよい可溶型抗原又はその断片を、抗体を産生するための免疫原として使用することができる。レセプターのような膜貫通分子では、これらの断片(例えばレセプターの細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。別法では、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として使用することができる。かかる細胞は、天然源(例えば癌細胞株)から誘導することができ、又は膜貫通分子を発現させるために組換え技術によって形質転換されている細胞でありうる。抗体の調製に有用な他の抗原及びその形態は当業者には明らかであろう。
【0081】
(ii)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは関連抗原及びアジュバントの複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射により動物において産生させる。関連抗原を、二官能性又は誘導体化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を通したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を通した)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCI2、又はR1N=C=NR(ここで、R及びR1は異なったアルキル基である)を使用して、免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン又は大豆トリプシン阻害剤に結合させるのが有用でありうる。
【0082】
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0083】
(iii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)に記載されているようなハイブリドーマ法を使用することで作製することができ、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター又はマカクザル等の他の適切な宿主動物を上述のようにして免疫化して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を生産するか又は生産可能なリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化することもできる。ついで、ポリエチレングリコール等の適当な融合剤を用いてリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0084】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞は、好ましくは、未融合の親ミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を含む適切な培養培地に播種され増殖される。例えば、親ミエローマ細胞が、酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠いていると、ハイブリドーマの培養培地は、典型的には、ヒポキサチン、アミノプテリン、及びチミジンを含み(HAT培地)、この物質がHGPRT欠乏性細胞の増殖を阻止する。
【0085】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高レベルの抗体生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性であるものである。これらのなかで、より好ましいミエローマ細胞株はマウスミエローマ株、例えばカリフォルニア州サンディエゴのSalk Institute Cell Distribution Centerから入手可能であるMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍から誘導されたものやメリーランド州ロックビルのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより入手可能であるSP-2又はX63-Ag8-653細胞である。ヒトモノクローナル抗体を生産するためにヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株もまた開示されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0086】
ハイブリドーマ細胞が増殖される培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は免疫沈降又はラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫測定法(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって測定する。
【0087】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を生産するハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法で増殖させることができる(Goding, MonoclonalAntibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的のための適当な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI−1640倍地が含まれる。加えて、ハイブリドーマ細胞を哺乳動物においてインビボで腹水腫瘍として増殖させることもできる。
【0088】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティークロマトグラフィー等の一般的な免疫グロブリン精製方法によって培養培地又は腹水液から好適に分離される。
【0089】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、常套的な方法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して)、容易に単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたら、DNAは発現ベクター内に配することができ、これが宿主細胞、例えば大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、あるいは免疫グロブリンタンパク質を生成等しないミエローマ細胞内に形質移入され、組換え宿主細胞内でモノクローナル抗体の合成をすることができる。抗体の組換え生産は以下により詳細に記載される。
【0090】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して作製される抗体ファージライブラリーから単離することができる。
【0091】
Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体のそれぞれの単離を記述している。続く刊行物は、鎖シャフッリングによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
【0092】
また、DNAは、例えば相同マウス配列に換えてヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851 (1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の一部又は全部を共有結合することにより、修飾することができる。
【0093】
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換でき、あるいはそれらは抗体の一つの抗原結合部位の可変ドメインに置換でき、抗原に対して特異性を有する抗原結合部位と異なった抗原に対して特異性を有する他の抗原結合部位を含むキメラ性二価抗体を産生する。
【0094】
(iv)ヒト及びヒト化抗体
ヒト化抗体には非ヒトである由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の対応する配列に齧歯類CDRs又はCDR配列を置換することにより、ウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。従って、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかの高頻度可変領域残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0095】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を作製する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものに最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0096】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが購入可能である。これら表示を調べることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接的かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0097】
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。例えばJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993); Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);及びDuchosal等 Nature 355:258 (1992)を参照されたい。ヒト抗体はまたファージディスプレイライブラリーから誘導することもできる (Hoogenboom等, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991);Vaughan等 Nature Biotech 14:309 (1996))。抗体ファージディスプレイライブラリーからのヒト抗体の生産を以下に更に記載する。
【0098】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は今は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。以下の実施例に記載される他の実施態様では、F(ab')2は、F(ab')2分子の構築を促進するためにロイシンジッパーGCN4を使用して形成される。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFV)である。国際公開第93/16185号を参照。
【0099】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、エピトープが通常は異なった抗原由来である少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する。このような分子は通常は二つのエピトープを結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。BsAbsの例には、一方のアームがPirB/LILRB2に向けられ他方のアームがNogo又はMAG又はOMgpに向けられたものが含まれる。BsAbsの更なる例には、一方のアームがPirB/LILRB2に向けられ他方のアームがNgRに向けられたものが含まれる。
【0100】
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において知られている。完全長二重特異性抗体の伝統的な生産は、二つの鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖軽鎖対の同時発現に基づく(Milstein等, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖を無作為に取り揃えるため、これらハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的混合物を生成し、その内一種のみが正しい二重特異性構造を有する。正しい分子の精製は、アフィニティークロマトグラフィー工程によって通常達成されるが、かなり面倒であり、生成物収率は低い。同様の手順が国際公開第93/08829号、及びTraunecker等, EMBO J.,10:3655-36569(1991)に開示されている。異なるアプローチ法では、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合させる。融合は、好ましくは少なくともヒンジ部、CH2及びCH3領域の一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとのものである。少なくとも一つの融合には軽鎖結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)が存在することが望ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNA、及び望むのであれば免疫グロブリン軽鎖を、別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、組立に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が所望の二重特異性抗体の最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が所望の鎖の結合にあまり影響がないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0101】
この手法の好ましい実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0102】
米国特許第5731168号に記載された他の手法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好適な界面はCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0103】
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体もまた含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の一方はアビジンに結合され、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、不要の細胞に対する免疫系細胞を標的化するため(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために提案された(国際公開第91/00360号、同92/200373号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる簡便な架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野において良く知られており、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4676980号に開示されている。
【0104】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) はインタクトな抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤、亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に変換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再変換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0105】
大腸菌からFab'-SH断片を直接回収することもでき、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby等,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。
【0106】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し単離する様々な技術もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生成されている。Kostelny等, J.Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させる。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して単量体を形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロ二量体を形成する。この方法はまた抗体ホモ二量体の生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。該断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには十分に短いリンカーによりVLにVHを結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、よって2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0107】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0108】
(vii)エフェクター機能の加工
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、抗体の有効性を向上させることが望ましい。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成するようにしてもよい。そのようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上した内部移行能力及び/又は増加した補体媒介細胞殺傷及び抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)を有する可能性がある。Caron等, J. Exp. Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)参照。また、向上した抗腫瘍活性を持つホモ二量体抗体は、Wolff等, Cancer research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、抗体は、二重Fc領域を有するように加工して、それにより補体溶解及びADCC能力を向上させることもできる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)参照。
【0109】
(viii)抗体-サルベージレセプター結合エピトープ融合
本発明のある実施態様では、例えば腫瘍浸透性を増大させるためにインタクト名抗体よりも抗体断片を使用することが望ましい場合がある。この場合、その血清半減期を増大させるために抗体断片を改変することが望ましい場合がある。これは、例えば、抗体断片にサルベージレセプター結合エピトープを導入することにより(例えば、抗体断片中の適当な領域の突然変異により、あるいはついで抗体断片の何れかの末端又は中央に、例えばDNA又はペプチド合成により融合されるペプチドタグ内にエピトープを導入することにより)、達成できる。
【0110】
サルベージレセプター結合エピトープは、好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の一又は複数の任意のアミノ酸残基が抗体断片の類似位置に移動させられた領域を構成する。更により好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の3以上の残基が移動する。またより好ましくは、エピトープはFc領域の(例えばIgGの)CH2ドメインから得られ、抗体のCH1、CH3、又はVH領域、又はそのような領域の一より多くに転移する。あるいは、エピトープは、Fc領域のCH2ドメインから得られ、抗体断片のCL領域又はVL領域、又はその両方に移動する。
【0111】
(ix)抗体の他の共有的修飾
抗体の共有的修飾は本発明の範囲内にある。それらは、適当であれば、化学合成により、又は抗体の酵素的又は化学的切断によりなされうる。抗体の共有的修飾の他のタイプは、選択される側鎖又はN又はC末端残基と反応できる有機誘導体化剤と抗体の標的とするアミノ酸領域を反応させることにより分子中に導入される。共有的修飾の例は、特に出典明示によりここに援用される米国特許第5534615号に記載されている。抗体の共有的修飾の好ましいタイプは、米国特許第4640835号;同第4496689号;同第4301144号;同第4670417号;同第4791192号又は同第4179337号に記載されているようにして、様々な非タンパク質様ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレン類の一つに抗体を結合させることを含む。
【0112】
(x)合成抗体ファージライブラリーからの抗体の産生
ある好適な実施態様では、本発明は特有のファージディスプレイアプローチ法を使用して新規な抗体を産生し選択する方法を提供する。該アプローチ法は、単一フレームワーク鋳型に基づく合成抗体ファージライブラリーの産生、可変ドメイン内の十分な多様性の設計、多様化した可変ドメインを有するポリペプチドのディスプレイ、抗原を標的とする高親和性を持つ候補抗体の選択、及び選択された抗体の単離を含む。
【0113】
ファージディスプレイ法の詳細は、例えば出典明示によりここに明示的に援用される2003年12月11日公開の国際公開第03/102157号に見出すことができる。
【0114】
一態様では、本発明において使用される抗体ライブラリーは抗体可変ドメインの少なくとも一のCDRにおいて溶媒接近可能な及び/又は高度に多様性の位置を変異させることによって産生させることができる。CDRの幾らか又は全てをここに提供した方法を使用して変異させることができる。ある実施態様では、CDRH1、CDRH2及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリーを形成するか、又はCDRL3及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリーを形成するか、又はCDRL3及びCDRH1、CDRH2及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリを形成することにより、多様な抗体ライブラリを創ることが好ましい場合がある。
【0115】
例えばCDRH1、CDRH2及びCDRH3の溶媒接近可能な及び/又は高度に多様性の位置に変異を有する抗体可変ドメインのライブラリーをつくることができる。CDRL1、CDRL2及びCDRL3に変異を有する他のライブラリーをつくることができる。これらのライブラリーは所望の親和性の結合体をつくるために互いに関連させて使用することもできる。例えば、標的抗原への結合についての重鎖ライブラリーの一又は複数回の選択後に、軽鎖ライブラリを結合体の親和性を増加させるために更なる選択回数に対して重鎖結合体の集団中に置き換えることができる。
【0116】
好ましくは、ライブラリーは重鎖配列の可変領域のCDRH3領域における変異アミノ酸での元のアミノ酸の置換によりつくられる。得られたライブラリーは複数の抗体配列を含み得、ここで配列多様性は主として重鎖配列のCDRH3領域にある。
【0117】
一態様では、ライブラリーはヒト化抗体4D5配列、又はヒト化抗体4D5配列のフレームワークアミノ酸の配列の態様でつくり出す。好ましくは、ライブラリーはDVKコドンセットによってコードされるアミノ酸で重鎖の少なくとも残基95−100aを置換することによりつくられ、ここでDVKコドンセットはこれらの位置の各一に対して変異アミノ酸セットをコードするために使用される。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの一例は配列(DVK)7を含む。ある実施態様では、ライブラリーはDVKとNNKの双方のコドンセットによってコードされるアミノ酸で残基95−100aを置換することによりつくられる。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの例は配列(DVK)6(NNK)を含む。他の実施態様では、ライブラリーはDVKとNNKの双方のコドンセットによってコードされるアミノ酸で少なくとも残基95−100aを置換することによりつくられる。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの例は配列(DVK)5(NNK)を含む。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの他の例は配列(NNK)6を含む。好適なオリゴヌクレオチド配列の他の例はここに記載された基準に従って当業者によって決定することができる。
【0118】
他の実施態様では、異なったCDRH3設計を使用して高親和性結合体を単離し様々なエピトープに対して結合体を単離する。このライブラリーにおいて産生されたCDRH3の長さの範囲は11から13アミノ酸であるが、これとは異なった長さも産生することができる。H3多様性はNNK、DVK及びNVKコドンセットを使用し、並びにN及び/又はC末端での多様性をより制限して、拡張することができる。
【0119】
多様性をCDRH1及びCDRH2においてまた生じさせることができる。CDR-H1及びH2多様性の設計は、過去の設計よりも天然の多様性により密に適合する多様性に焦点を当てる変更をした上で、上述の天然抗体レパートリーを模倣するターゲティング方策に従う。
【0120】
CDRH3での多様性に対しては、複数のライブラリーを、異なった長さのH3と別個に構築し、ついで、標的抗原に対する結合体を選択するために組み合わせる。複数のライブラリーをプール化し、過去に記載され以下に記載されたような固体支持体選別及び溶液選別方法を使用して選別することができる。複数の選別方策を用いることができる。例えば、一つの変異は固体に結合した標的での選別を含み、融合ポリペプチド上に存在しうるタグ(例えば抗gDタグ)の選別が続く。別法として、ライブラリーは固体表面に結合した標的で先ず選別することができ、溶出した結合体がついで標的抗原の濃度を減少させた溶液相結合を使用して選別される。異なった選別法を併用することにより高度に発現した配列のみの選択の最小化がもたらされ、多くの異なった高親和性クローンの選択をもたらす。
【0121】
標的抗原に対する高親和性結合体はライブラリーから単離することができる。H1/H2領域における多様性の制限は約104から105倍縮重を減少させ、より多くのH3多様性を許容することによりより多くの高親和性結合体をもたらす。CDRH3において異なったタイプの多様性を持つライブラリーを利用することにより(例えばDVK又はNVTを利用して)標的抗原の異なったエピトープに結合しうる結合体の単離をもたらす。
【0122】
上述のプールされたライブラリーから単離された結合体において、軽鎖において制限された多様性を提供することによって親和性を更に改善することができることが発見された。軽鎖多様性はこの実施態様では以下のように生成される。CDRL1においては:アミノ酸位置28がRDTによってコードされる;アミノ酸位置29がRKTによってコードされる;アミノ酸位置30がRVWによってコードされる;アミノ酸位置31がANWによってコードされる;アミノ酸位置32がTHTによってコードされる;場合によっては、アミノ酸位置33がCTGによってコードされる;CDRL2においては:アミノ酸位置50がKBGによってコードされる;アミノ酸位置53がAVCによってコードされる;場合によっては、アミノ酸位置55がGMAによってコードされる;CDRL3においては:アミノ酸位置91がTMT又はSRT又はその両方によってコードされる;アミノ酸位置92がDMCによってコードされる;アミノ酸位置93がRVTによってコードされる;アミノ酸位置94がNHTによってコードされる;アミノ酸位置96がTWT又はYKG又は両方によってコードされる。
【0123】
他の実施態様では、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域に多様性を持つライブラリー又はライブラリー群が作成される。この実施態様では、CDRH3における多様性は様々な長さのH3領域を用い、主にコドンセットXYZ及びNNK又はNNSを用いてつくり出される。ライブラリーは個々のオリゴヌクレオチドを使用して形成しプールすることができ、又はオリゴヌクレオチドをプールしてライブラリーのサブセットを形成することができる。この実施態様のライブラリーは固体に結合した標的に対して選別することができる。多重選別から単離されたクローンをELISAアッセイを使用して特異性及び親和性についてスクリーニングすることができる。特異性については、クローンを所望の標的抗原並びに他の非標的抗原に対してスクリーニングすることができる。標的抗原に対する結合体をついで溶液結合競合ELISAアッセイ又はスポット競合アッセイでの親和性についてスクリーニングすることができる。高親和性結合体は上に記載したようにして調製されたXYZコドンセットを使用してライブラリーから単離することができる。これらの結合体は抗体又は抗原結合断片として細胞培養物中に高収量で直ぐに産生されうる。
【0124】
ある実施態様では、CDRH3領域の長さに大なる多様性を持つライブラリを作成することが望まれる場合がある。例えば、約7から19アミノ酸の範囲のCDRH3領域を持つライブラリーを作成することが望ましい場合がある。
【0125】
これらの実施態様のライブラリーから単離された高親和性結合体は細菌及び真核生物細胞培養で高収量で直ぐに産生される。ベクターはgDタグ、ウイルスコートタンパク質成分配列のような配列を直ぐに除去し、及び/又は定常領域配列に加えて完全長抗体又は抗原結合断片を高収量で生産するように設計することができる。
【0126】
CDRH3での変異を持つライブラリーを、例えばCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1及び/又はCDRH2のような他のCDRの変異型を含むライブラリーと組み合わせることができる。よって、例えば、一実施態様では、CDRH3ライブラリーは予め定まったコドンセットを使用して位置28、29、30、31、及び/又は32に変異アミノ酸を持つヒト化4D5抗体配列の形態において作りだしたCDRL3ライブラリーと組み合わせられる。他の実施態様では、CDRH3に対する変異のライブラリーは変異CDRH1及び/又はCDRH2重鎖可変ドメインを含むライブラリーと組み合わせることができる。一実施態様では、CDRH1ライブラリーは位置28、30、31、32及び33に変異アミノ酸を持つヒト化抗体4D5配列を用いてつくり出される。CDRH2ライブラリーは予め定まったコドンセットを使用して位置50、52、53、54、56及び58に変異アミノ酸を持つヒト化抗体4D5の配列を用いてつくり出すことができる。
【0127】
抗体変異体
ファージライブラリーから生成される新規な抗体を更に修飾して、親抗体よりも改善した物理学的、化学的及び/又は生物学的特性を有する抗体変異体を生産することができる。使用するアッセイが生物学的活性アッセイである場合、抗体変異体は、選択したアッセイにおいて、該アッセイにおける親抗体の生物学的活性よりも少なくとも約10倍良好な、好ましくは少なくとも約20倍良好な、より好ましくは少なくとも約50倍良好な、時には少なくとも約100倍又は200倍良好な生物学的活性を有する。例えば、抗体変異体は、親抗体の結合親和性より、少なくとも約10倍強力な、好ましくは少なくとも約20倍強力な、より好ましくは少なくとも約50倍強力な、時には少なくとも約100倍又は200倍強力な、PirB/LILRBに対する結合親和性を有することが好ましい。
【0128】
抗体変異体を産生するためには、親抗体の高頻度可変領域の一又は複数中に一又は複数のアミノ酸修飾(例えば置換)が導入される。別法として、又は加えて、フレームワーク領域残基の一又は複数の修飾(例えば置換)を親抗体に導入することができ、これらにより第二の哺乳動物種由来の抗原に対する抗体変異体の結合親和性が改善される。修飾するためのフレームワーク領域残基の例には、抗原に非共有的に結合するもの(Amit等 (1986) Science 233:747-753);CDRと相互作用し/そのコンホメーションに影響を及ぼすもの(Chothia等 (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917);及び/又はVL−VH界面に関与するもの(欧州特許第239400号B1)が含まれる。ある実施態様では、そのようなフレームワーク領域残基の一又は複数の修飾により第二の哺乳動物種由来の抗原に対する抗原の結合親和性が向上する。例えば、約1から約5のフレームワーク残基を本発明のこの実施態様において改変することができる。しばしば、これは、高頻度可変領域が何ら改変されていない場合でさえ、前臨床試験に使用するのに適した抗体変異体を生じるのに十分でありうる。しかしながら、通常は、抗体は更なる高頻度可変領域の改変を含む。
【0129】
改変される高頻度可変領域残基は、特に親抗体の出発結合親和性が、無作為に生産された抗体変異体を直ぐにスクリーニングすることができるものである場合には、無作為に変化させることができる。
【0130】
そのような抗体変異体を産生するための一つの有用な方法は、「アラニンスキャンニング突然変異誘発法」(Cunningham及びWells Science 244:1081-1085 (1989))と呼ばれる。ここで、高頻度可変領域残基(群)の一又は複数が、第二の哺乳動物種からの抗原とのアミノ酸の相互作用をなすためにアラニン又はポリアラニン残基(群)によって置換される。ついで、置換に対する機能的感受性を示す高頻度可変領域残基(群)は、置換部位に又はそれに対して更なる又は他の変異を導入することにより洗練される。従って、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定されるが、変異の種類自体は予め決める必要はない。このようにして産生されるala変異体がここに記載したその生物活性についてスクリーニングされる。
【0131】
通常は、「好ましい置換」の表題で以下に示されているもののような保存的置換で始める。そのような置換が生物活性(例えば結合親和性)の変化を生じるならば、次の表において「例示的置換」と命名され、又はアミノ酸クラスを参照して以下に更に記載されるより実質的な変化が導入され、産物がスクリーニングされる。
【0132】
抗体の生物学的性質の更により実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋コンホメーション、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩の維持に対するそれらの効果が有意に異なる置換基を選択することにより達成される。天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいてグループ分けされる:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性の親水性:cys、ser、thr、asn、gln;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:his、lys、arg;
(5)鎖配向に影響する残基:gly、pro;及び
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
非保存的置換は、これらのクラスの一つのメンバーを他のクラスと交換することを必要とする。
他の実施態様では、修飾のために選択される部位がファージディスプレイを使用して親和性成熟される(上を参照)。
アミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、限定されるものではないが、親抗体の先に調製された変異体又は非変異体型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、及びカセット突然変異誘発を含む。変異体を作製するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発(例えばKunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488を参照)である。
ある実施態様では、抗体変異体は単一の高頻度可変領域残基が置換されただけのものである。他の実施態様では、親抗体の高頻度可変領域残基の二以上が置換され、例えば約2から約10の高頻度可変領域置換である。
【0133】
通常、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖の何れかの可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に対する同一性又は類似性は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入し最大の配列同一性パーセントを達成した後に親抗体残基と同一(つまり同じ残基)又は類似(つまり共通の側鎖特性に基づく同じグループのアミノ酸残基、上を参照)である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセントとしてここで定義される。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端、又は内部の伸展、欠失、又は挿入は何れも配列同一性又は類似性に影響を及ぼすものとはみなされない。
【0134】
抗体変異体の産生後に、親抗体に対するその分子の生物活性が決定される。上に述べたように、これは抗体の結合親和性及び/又は他の生物活性を決定することを含みうる。本発明の好適な実施態様では、抗体変異体のパネルを調製し、抗原又はその断片に対する結合親和性についてスクリーニングする。この最初のスクリーニングから選択される抗体変異体の一又は複数に場合によっては一又は複数の更なる生物活性アッセイを施して、結合親和性が向上した抗体変異体が例えば前臨床研究に確かに有用であることが確認される。
【0135】
このように選択された抗体変異体は、しばしば抗体の意図される用途に応じて更なる修飾を受けることができる。そのような修飾は以下に詳細を記載したもののようなアミノ酸配列の更なる改変、異種ポリペプチドに対する融合及び/又は共有的修飾を含む。アミノ酸配列改変については例示的な修飾を上に詳細に説明した。例えば、抗体変異体の正しいコンホメーションを維持することに関与しない任意のシステイン残基はまた一般にはセリンで置換して、分子の酸化安定性を改善し異常な架橋を防止することができる。逆に、システイン結合を抗体に加えてその安定性を改善することができる(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。他のタイプのアミノ酸変異体は改変されたグリコシル化パターンを有する。これは抗体に見出される一又は複数の糖鎖部分を欠失させ、及び/又は抗体中に存在していない一又は複数のグリコシル化部位を加えることによって達成することができる。抗体のグリコシル化は典型的にはN結合又はO結合の何れかである。N結合とはアスパラギン残基の側鎖への糖鎖部分の付着を意味する。トリペプチド配列アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)がアスパラギン側鎖への糖鎖部分の酵素的付着に対する認識配列である。よって、ポリペプチドにおいてこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると潜在的なグリコシル化部位をつくる。O結合グリコシル化はヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニン(但し5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた使用できる)への糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つの付着を意味する。抗体へのグリコシル化部位の付加は、それが上述のトリペプチド配列(N結合グリコシル化部位に対する)の一又は複数を含むようにアミノ酸配列を改変することにより簡便に達成される。改変はまた元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加又は置換によって行うこともできる(O結合グリコシル化部位の場合)。
【0136】
(xii)抗体の組換え生産
抗体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター中に挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは直ぐに単離されるか合成されて、従来の手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするDNAに特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドを使用することによって)配列決定される。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分には、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列(例えば出典明示によりここに特に援用される米国特許第5534615号に記載のもの)である。
【0137】
ここに記載のベクター中のDNAをクローニング又は発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなくむしろ例示的なものである。
【0138】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0139】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞はまた多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。綿、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコの植物細胞培養をまた宿主として利用することができる。
【0140】
しかしながら、脊椎動物細胞における興味が最もあり、培養(組織培養)中の脊椎細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主細胞の例は、SV40(COS-7,ATCC CRL 1651)で形質転換させたサル腎CV1細胞株;ヒト胚腎細胞系(293又は懸濁培養で成長するようにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol. 36:59(1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK,ATCC CCL10);チヤイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4,Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251(1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76,ATCC CRL-1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA,ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝臓癌株(Hep G2)である。
【0141】
宿主細胞は、抗体生産のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘発し、形質転換体を選出し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に改変された一般的栄養培地で培養される。
【0142】
本発明の抗体を産生するために使用される宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM)、(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM)、シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0143】
組換え技術を用いる場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔に生成され、又は培地内に直接分泌される。抗体が細胞内に生成された場合、第1の工程として、宿主細胞か溶解された断片の何れにしても、粒子状の細片が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。抗体が培地に分泌される場合は、そのような発現系からの上清を、一般的には先ず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過装置を用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めて、タンパク質分解を阻害してもよく、また抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
【0144】
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティクロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 16571575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他のマトリクスも使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(登録商標)樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂上でのSEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィー(例えばポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿法も、回収される多価抗体に応じて利用可能である。
【0145】
C.抗PirB/LILRB抗体の用途
本発明の抗PirB/LILRB抗体は、神経細胞の生存を亢進し又は伸長を誘導するための薬剤としての用途が見出されると考えられる。それらは、従って、例えば中枢神経系(脊髄及び脳)への物理的損傷;脳卒中に伴う脳損傷;及び神経変性に関連する神経障害、例えば三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板(invertebrate disk)症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものを含む、神経系の変性疾患(「神経変性疾患」)の治療に有用である。
【0146】
ここでの抗PirB/LILRB抗体はまたインビトロで神経細胞を培養するのに使用される培養培地の成分としても有用である。
【0147】
最後に、ここでの抗PirB/LILRB抗体を含む調製物は、放射性ヨウ素、酵素、フルオロフォア、スピン標識等で標識される場合、競合的結合アッセイにおける標準物質として有用である。
【0148】
ここでの抗PirB/LILRB抗体の治療的製剤は、所望の程度の純度を持つ抗体を、場合によって生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Edition, Osol., A., Ed., (1980))と、凍結乾燥ケーキ又は水溶液の形態で混合することにより貯蔵のために調製される。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween、Plutonics、又はPEG等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0149】
インビボ投与のために使用される抗PirB/LILRB抗体は無菌でなければならない。これは、凍結乾燥及び再構成の前又は後に、濾過滅菌膜による濾過によって容易に達成されうる。
【0150】
治療用組成物は、無菌のアクセスポートを具備する容器、例えば、皮下注射針で貫通可能なストッパーを持つ静脈内バッグ又はバイアル内に配されうる。
【0151】
本発明の抗PirB/LILRB抗体は、NGF、NT−3、及び/又はBDNFを含む神経栄養因子と場合によっては組み合わされ、又は併用して投与され、神経変性疾患のための他の一般的治療法と共に使用されうる。また、本発明の抗PirB/LILRB抗体は、有利には、NgR阻害剤、例えばNgRに対するNogo−66、MAG及び/又はOMgpの結合をブロックする抗体、小分子又はペプチドと併用して投与されうる。
【0152】
投与経路は既知の方法、例えば、以下に説明するように、静脈内、腹膜内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内又は病巣内経路での注射又は注入、局所投与、又は徐放系による。
【0153】
脳内投与の場合、化合物は、CNSの液貯留部(fluid reservoirs)中に注入により連続的に投与されうるが、ボーラス注入も許容できる。化合物は好ましくは脳の脳室中に投与されるか又はCNS又は髄液中に導入等される。投与は、ポンプのような連続投与手段を使用する留置カテーテルにより実施することができ、又は徐放性ビヒクルの移植、例えば脳内移植によって投与することができる。より詳細には、化合物は、慢性移植カニューレを通して注入されるか、又は浸透圧ミニポンプの補助で慢性的に注入されうる。脳室に小さなチュービングを通してタンパク質をデリバーする皮下ポンプを利用できる。非常に複雑なポンプは皮膚から再充填でき、そのデリバリー速度は外科的介入なしにセットできる。皮下ポンプ装置又は全体的に移植されたドラッグデリバリー系による連続側脳室内注入を含む適切な投与プロトコル及びデリバリー系の例は、Harbaugh, J. Neural Transm. Suppl., 24:271 (1987);及びDeYebenes等, Mov. Disord. 2:143 (1987)によって記載されているアルツハイマー患者及びパーキンソン病の動物モデルに対するドーパミン、ドーパミンアゴニスト、及び抗コリン性アゴニストの投与に対して使用されているものである。
【0154】
持続放出調製物の好適な例は、成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態で半透過性ポリマーマトリクスを含む。持続放出マトリクスは、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3773919号、EP58481)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman,等, 1983, Biopolymers 22:547)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer,等, 1981, J. Biomed. Mater. Res. 15:167;Langer, 1982, Chem. Tech. 12:98)、エチレン酢酸ビニル(Langer等, 同上)又はポリ-D-(−)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133988A)を含む。持続放出組成物は、リポソームに捕捉された化合物をまた含み、これは、それ自体知られた方法により調製することができる。(Epstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. 82:3688 (1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4030 (1980);米国特許第4485045号及び第4544545号;及びEP102324A)。通常、リポソームは、脂質含有量が約30モル%コレステロール以上であり、選択される割合が最適な治療法に対して調整される微小(約200−800オングストローム)な単ラメラ状のものである。
【0155】
治療的に用いられる活性化合物の有効量は、例えば治療目的、投与経路、及び患者の状態に依存する。従って、治療専門家は、最適な治療効果が得られるように、投与量を滴定し投与経路を修正する必要がある。典型的な毎日の投薬量は、約1μg/kgから100mg/kg又はそれ以上の範囲であるかも知れない。典型的には、臨床医は、ニューロン機能を修復し、維持し、最適には再樹立する投薬量に達するまで活性化合物を投与する。この治療法の進行は常套的なアッセイによって容易にモニターされる。
【0156】
本発明の更なる詳細を次の非限定的な実施例によって例証する。
【0157】
実施例1
発現クローニングLILRB2
阻害性ミエリンタンパク質のための新規レセプターを同定するために、発現クローニングアプローチ法を採用した。ベイトとして、次の特徴付けられたミエリン阻害剤(ヒトcDNAを使用):Nogo66、NogoAの二つの更なる阻害ドメイン(NiR<デルタ>D2及びNiG<デルタ>20)(Oertle T, J Neurosci. 2003, 23(13): 5393-406)、MAG,及びOMgpのN−及び/又はC−末端にアルカリホスファターゼ(AP)を融合させたコンストラクトを生成させた。これらのコンストラクトを293細胞に形質移入して、ベイトタンパク質を含む条件培地(DMEM/2%FBS中)を製造した。スクリーニングに使用されたcDNAライブラリーは、Origeneによって製造された発現準備済みベクター中の完全長ヒトcDNAから構成されていた。これらのcDNAsを収集し、整列化させ、プール化した。およそ100のcDNAのプールをCOS7細胞中に一過性に形質移入した。
【0158】
特に、1日目に、COS7細胞を12ウェルプレート中に1ウェル当たり85000細胞の密度で播種した。2日目に、プール化cDNAの1mgを、脂質ベースの形質移入試薬FuGENE6(Roche)を使用して1ウェル毎に形質移入した。4日目に、スクリーニングを実施した。簡単に述べると、培養培地を細胞から取り除き、AP−融合ベイトタンパク質(20−50nM)を含む293細胞条件培地の0.5mlで置換した。細胞を室温で90分間、インキュベートした。ついで、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで7分間固定し、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)で3回洗浄し、65℃で90分間、熱失活させ、内在性AP活性を破壊した。細胞をAPバッファー(100mMのNaCl、5mMのMgCl2、100mMのTris pH9.5)で一回洗浄し、発色基質(Western Blue, Promega)中でインキュベートし、インキュベーションの1時間後と一晩のインキュベーション後に再び反応生成物の存在について分析した。陽性細胞を膜表面にわたる暗青色の沈殿物の存在によって同定した。陽性プールを更に破壊して、続くスクリーニング実験によって個々の陽性クローンを同定した。
【0159】
スクリーニングから、次の陽性ヒット(的中)を同定した:
MAG−APベイトは4つの陽性ヒットを生じた。一つは過去に特徴付けられたNogoレセプター(Fournier等, Nature 409, 342-346 (2001))であった。これらのヒットの二つは糖分解プロセス酵素であり、関連性はないように思われた。第四のものは「クローン643由来ホモサピエンス仮説タンパク質(LOC57228)mRNA」と注釈された。cDNAの密な分析により、過去に記載されたタンパク質SMAGと相同であった他のORFが明らかになった。
【0160】
AP−Nogo66ベイトは2つの陽性ヒットを生じた。一つは過去に特徴付けられたNogoレセプターであった。他のものは「ホモサピエンス白血球免疫グロブリン様レセプター,サブファミリーB(TM及びITIMドメインを含む)メンバー2(LILRB2)mRNA」(配列番号2)であった。この遺伝子はまたMIG10、ILT4、及びLIR2を含む複数の別名でも知られている(Kubagawa等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5261-6 (1997);Colonna等, J. Exp. Med. 186:1809-18 (1997))。
【0161】
実施例2
PirB機能ブロック抗体の調製及び試験
PirB機能ブロック抗体
PirBに対する抗体を、PirB細胞外ドメインに対して合成ファージ抗体ライブラリーをパンニングすることによって産生させた(W. C. Liang等, J Mol Biol 366, 815 (2007))。ついで、抗体クローン(10mg/ml)を、PirB発現COS7細胞に対するAP−Nogo66(50nM)の結合をブロックするその能力についてインビトロで試験した。様々なYW259抗マウスPirB(抗mPirB)抗体の重鎖及び軽鎖配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列を図6−16、及び17及び18に示す。図17及び18はまたそれぞれYW259.2、YW250.9及びYW259.12の重鎖及び軽鎖内の高頻度可変領域配列を示す。
【0162】
神経突起伸長アッセイ
ポリ−D−リジンで前もって被覆された96ウェルプレート(Biocoat, BD)をミエリン(0.75μg/ml)で一晩又はAP−Nogo66又はMAG−Fc(150−300ng/スポット)で2時間被覆し、ついでラミニン(F−12中10μg/ml)で2時間(CGN培養)又は4時間(DRG培養)処理した。マウスP7小脳ニューロンを過去に記載されているようにして(B. Zheng等, Proc Natl Acad Sci U S A 102, 1205 (2005))培養し、1ウェル当たり〜2×104細胞で蒔いた。マウスP10DRGニューロンを過去に記載されているようにして(上掲のZheng等, 2005)培養し、1ウェル当たり〜5×103細胞で蒔いた。培養物を5%のCO2を用いて37℃で22時間増殖させた後、4%のパラホルムアルデヒド/10%のスクロースで固定し、抗βIII−チューブリン(TuJ1, Covance)で染色した。各実験では、全ての条件は6通りの複製ウェルで実施し、それから最大の神経突起長を測定し、平均値を6ウェル間で決定した。各実験は少なくとも三回実施し、同様の結果であった。p値はスチューデント検定を使用して決定した。
【0163】
成長円錐崩壊アッセイ
DRG外植片を、3週齢のマウスからDRGを解体し、それを3つにスライスすることにより単離した。ついで、各DRG外植片を、8ウェルプレートから個々のPDL(100μg/ml)被覆及びラミニン(10μg/ml)被覆ウェル中で培養した。播種後72時間で、外植片をAP−Nogo66(100nM)又はミエリン(3mg/ml)と共に30分インキュベートして破壊を刺激した。培養物を4%のパラホルムアルデヒド/10%のスクロースで固定し、ついで、成長円錐をローダミン−ファロイジン(Molecular Probes)染色によって可視化し、破壊についてスコア化した。平均成長円錐破壊を、少なくとも3つの複製ウェルを平均することによって決定した。
【0164】
結果
PirBがNogo66に対する機能的レセプターであるかどうかに取り組むために、我々は、神経突起伸長がAP−Nogo66で増殖されるときに阻害される(K.C. Wang等, Nature 420,74 (2002))若年性(P7)小脳顆粒ニューロン(CGN)に焦点を当てた。成人CGNはPirBを発現することが示されており(J. Syken等, Science 313,1795 (2006))、我々は、RT−PCR、免疫組織化学及びインサイツハイブリダイゼーションによって評価して若年性CGNの場合も同じであることを見出した(データは示さず)。
【0165】
先ず、AP−Nogo66阻害を妨害するPirB(PirB−His)の可溶性外部ドメインの能力をインビトロで試験した。図2Aに示されるように、AP−Nogo66は、未処理コントロールレベルのおよそ66%までP7CGNの神経突起伸長を阻害する。このアッセイにおけるPirB−Hisの含有はAP−Nogo66阻害を逆にし、神経突起伸長は本質的にコントロールレベルに戻る。これらの結果は、Nogo66による阻害をブロックするためにNgRの外部ドメインを使用して報告されたものと同様であり(B Zgeng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1205 (2005);A. E. Fournier等, J. Neurosci. 22, 8876 (200);Z. L. He等, Neuron 38, 177 (2003))、PirBがNogo66の機能的に阻害性のドメインに結合可能であるが、CGN中の内在性PirBがAP−Nogo66による阻害を媒介するかどうかには対処できないことを示している。
【0166】
従って、PirB−Nogo66相互作用を妨害することができる抗体をPirB(抗PirB)に対して産生させた。PirBの細胞外ドメインに対してファージディスプレイプラットフォーム(W.C. Liang等, J. Mol. Biol. 366, 815 (2007))を使用して、複数のクローンを、AP−Nogo66のPirBへの結合を阻害するその能力についてスクリーニングした。AP−Nogo66−PirB結合を最も妨害したクローンYW259.2(ここではaPB1と称する)は、PirBに対して5nMのKdを有していた(図13−16を参照)。
【0167】
aPB1はCGNsのベースライン軸索伸長には効果がなかった。しかしながら、aPB1は培養されたCGN中においてAP−Nogo66又はミエリンによる阻害を有意に低減させ(図2B)、神経突起伸長をAP−Nogo66で41%から59%まで、ミエリンで47%から62%までレスキューした。同様の結果が、阻害性基質としてMAGを使用して、又は異なった細胞型(後根神経節(DRG)ニューロン)を使用して(図5)、見られた。これらの結果は、PirBが神経突起伸長の長期の阻害を媒介する機能的レセプターであると反論する。
【0168】
この結果を確認するために、膜貫通ドメイン及びPirB細胞内ドメインの一部をコードする4つのエキソンが除去されたPirBTMマウス由来のニューロンを培養することにより(J. Syken等, Science 313,1795 (2006))、細胞表面PirBの遺伝子的除去がまたAP−Nogo66又はミエリンによる阻害を逆にするかどうかを試験した。PirBTMマウス又は野生型(WT)同腹仔由来のCGNをコントロール基質、AP−Nogo66又はミエリンで培養した。コントロール基質(PDL/ラミニン)では、PirBTMニューロンはWTニューロンと同様に挙動した(図2C)。しかしながら、PirBTMニューロンからの神経突起伸長は、AP−Nogo66又はミエリンの何れかでのWTニューロン由来よりも顕著に阻害が少なかった。AP−Nogo66では、WTニューロンからの伸長はコントロールレベルの50%まで阻害されたが、PirBTMニューロンは66%までだけ阻害された。同様に、ミエリンでは、WTニューロンはコントロールレベルの52%まで阻害されたが、PirBTMニューロンは70%までだえ阻害された。再び、我々はミエリン及びAP−Nogo66双方でのPirBTM DRGニューロンの同様な部分的な脱抑制を観察した(図5)。これらの知見は、PirBが確かに神経突起成長のAP−Nogo66及びミエリン媒介阻害に対する機能的レセプターであることをを示している。しかしながら、PirB活性の喪失は伸長を完全にはレスキューしない。
【0169】
NgRは過去にミエリン阻害剤のレセプターとして記載されているので、PirB及びNgRが共に機能して神経突起伸長の阻害を媒介することが可能である。これに取り組むために、抗PirBの存在下でNgR欠損マウス由来のニューロンを培養することによりCGNにおいてPirB及びNgR機能の双方をブロックした。我々が過去に報告したように(上掲のB. Cheng等, PNAS 2005)、NgR−/−CGN神経突起伸長はWTニューロンにおけるものと同じ程度までAP−Nogo66又はミエリンによって阻害される(50%及び49%;図3)。NgR+/−ニューロンのaPB1抗体処置が、WTニューロンのaPB1処理に対して上で見られるように、AP−Nogo66又はミエリンの何れかによる阻害を部分的に逆にした。同様に、NgR−/−ニューロンのaPB1処置はAP−Nogo66による阻害を部分的に逆にしたが、NgR+/−ニューロン又はWTニューロンのaPB1処理で見られるものよりも更なるレスキューはもたらさなかった。これに対して、NgR−/−ニューロンのaPB1処理は、略コントロールレベルまでミエリンでの神経突起伸長を回復させた。よって、NgRではないが、PirBはCGNにおけるAPNogo66による基質阻害に必要とされるが、部分的にだけであると思われる。更に、PirB及びNgRの双方がミエリンにより付与される基質阻害に寄与する。
【0170】
NgRは様々なミエリン阻害剤に応答して成長円錐破壊に必要とされること考えられるので(J.E. Kim等, Neuron 44, 439 (2004), O.Chivatakarn等, J. Neurosci. 27, 7117 (2007))、PirBがまたこのより急性の応答に関与していることが可能である。PirBを発現することが確認された3週齢のマウスの後根神経節(DRG)からの感覚ニューロンをこの実験に使用した。この培養系における成長円錐は高いベースラインレベルの破壊(〜30%)を有しており、これはAPNogo66又はミエリンとのインキュベーションによって更に増加する(図4)ことが見出された。この破壊はNgR−/−ニューロンにおいて大きく消滅した。加えて、aPB1でのブロックPirB機能はまたこれら阻害剤による成長円錐破壊を逆にするのに十分である。PirB及びNgR経路双方の阻害(NgR−/−マウス由来のニューロンへのaPB1処理を使用)はまた成長円錐破壊を完全に逆にしたが、この結果は、何れの処置もこのアッセイでは完全なレスキューを与えたので、情報価値はなかった。
【0171】
他の実験では、C1QTNF5が小脳顆粒ニューロン(CGN)の神経突起伸長を阻害し、この阻害はPirB機能ブロック抗体YW259.2によって逆になった。結果は図19に示す。
【0172】
併せて、これらの結果は、ミエリン抽出物、より詳細にはミエリン関連阻害剤Nogo66及びMAGによる神経突起阻害のための必要なレセプターとしてのPirBの新規な役割を支援する。実際、PirBは、PirB機能単独の除去(遺伝的に又は抗体を使用して)がミエリン抽出物及びミエリン阻害剤双方での成長を部分的に脱抑制する一方、NgR単独の遺伝子除去はこれらの基質の何れでも脱抑制しないので、NgRよりも基質阻害のより有意なメディエーターであると思われる。しかしながら、NgRは、NgRの遺伝子除去がミエリン(しかしNogo66でではない)への抗PirB抗体によって引き起こされる脱抑制を増強しうるので、ミエリン抽出物(しかしNogo66ではない)による阻害の媒介に補助的役割を担っているようである。我々の知見は、NgR外部ドメインが注入された齧歯類に見られる報告された再生又は出芽にもかかわらず(S. Li等, J. Neurosci. 24, 10511 (2004))、NgRノックアウトマウスにおける亢進されたCST再生の驚くべき欠如を説明するのに役立ちうる(上掲のJ.E. Kim等, B. Zheng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1205 (2005))。よって、インビボでの有意な再生を達成するためにはPirB及びNgRの双方を取り除くことが必要であるかも知れない。加えて、Nogo66基質では、NgRの遺伝子除去がPirB除去の部分的な脱抑制効果を更に増強することはないので、Nogo66に対して更なる結合レセプターが存在するようである。
【0173】
PirBはNgRよりも基質阻害のためのより有意なレセプターであるようであるが、PirB又はNgRの何れか単独の不活性化が、ミエリン阻害剤の添加によって引き起こされる急性成長円錐破壊をブロックするのに十分である。この知見は、破壊がより要望されるプロセスで、PirB及びNgR活性の双方を必要とし、平行にあるいは一緒に作用することを示唆している。この文脈において、PirB及びNgRレセプターが視覚野におけるシナプス結合の可塑性の制限に同様の役割を果たしていることが最近示されていることは興味深い:何れかのレセプターを欠くマウスでは、重要な発達期間中の眼の閉鎖が開いた眼を介する結合の過剰な強化を生じる(上掲のJ. Syken等, 2006, 上掲のA.W. McGee等, Science 309, 2222 (2005))。成長円錐破壊の媒介における双方のレセプターの効果の原因となっている機序はまた眼球優位性可塑性におけるその役割の共有性の基礎にありうる。
【0174】
損傷後に成体軸索を再生できないことは、CNSへの外傷性侵襲後における機能の再獲得に対する主要な障害である。過剰な又は過剰増殖性シナプス結合の発達を制限する目的で、シナプス可塑性の能力が年齢と共に限られてくると、再生潜在力が減退することが推測されている。この推測は、発育中及び成人期の双方におけるシナプス可塑性の制限に過去に関係付けられている(上掲のJ. Syken等, 2006)PirBがまたミエリンによる軸索阻害のメディエーターであるという知見からサポートを獲得しており、初期に軸索阻害に関係付けられているNgRがシナプス可塑性を同様に調節するという知見を平行に提供する(S. Li等, J. Neurosci. 24, 10511 (2004))。
【0175】
我々の知見はまたクラスI MHC分子の範囲を超えて潜在的なPirBリガンドのレパートリーを広くし、ニューロン再成長阻害剤を含む。逆に、既知のミエリン阻害剤Nogo又はMAGの遺伝子欠失がミエリンによる阻害の最も少ない減少を生じるだけなので(他の阻害剤が存在することを意味する)、我々の知見は、正常にはオリゴデンドロサイトによって低レベルで発現されるMHCI分子が、損傷後にアップレギュレートされ、中枢ミエリンによるNogo及びMAGと一致して伸長阻害に寄与しうる可能性を提起する。
【0176】
PirBがミエリン阻害剤に応答して軸索伸長を阻害するシグナルを発する機序は明らかではない。しかしながら、PirBはインテグリンレセプターの機能をアンタゴナイズ(S. Pereira等, J. Immunol. 173:5757 (2004))し、SHP−1及びSHP−2ホスファターゼの双方を補充することが示された;これらの事象の何れか又は双方が正常な神経突起伸長を減弱できた。ここでの抗PirB抗体を使用するか又は他の手段によるPirB活性のブロックは、軸索再生を刺激するための治療介入の重要な新規標的を提供する。
【0177】
該開示を通して引用された全ての文献は出典明示によりその全体をここに明示的に援用する。
【0178】
本発明を特定の実施態様であると考えられるものを参照して説明したが、本発明はそのような実施態様には限定されないことが理解されなければならない。それとは反対に、本発明は添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれる様々な変形例及び均等物をカバーするものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に神経発生及び神経障害に関する。本発明は、ミエリン関連阻害系の新規な修飾因子の同定及びそのようにして同定された修飾因子の様々な用途に特に関する。
【背景技術】
【0002】
ミエリン及びミエリン関連タンパク質
成体哺乳動物のCNSニューロンの軸索は傷害後に再生する能力が非常に限られている一方、末梢神経系(PNS)の軸索は迅速に再生することが知られている。CNSニューロンの限られた再生能力は部分的にはCNS軸索の本来の性質によるが、また許容できない環境のためでもあることが知られている。CNSミエリンは、神経突起成長のための阻害キューの唯一のソースではないが、軸索成長を活発にブロックする多くの阻害性分子を含んでおり、よって再生に対する重要な障壁を構成している。3種のこのようなミエリン関連タンパク質(MAPs)が同定されている:Nogo(NogoAとしてもまた知られている)は2つの膜貫通ドメインを有するReticulonファミリータンパク質のメンバーである;ミエリン関連糖タンパク質(MAG)はIgスーパーファミリーの膜貫通タンパク質である;及びOMgpはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを持つロイシンに富む反復配列(LRR)タンパク質である。Chen等, Nature 403:434-39 (2000); GrandPre等, Nature 417:439-444 (2000); Prinjha等, Nature 403:383-384 (2000); McKerracher等, Neuron 13:805-11 (1994); Wang等, Nature 417:941-4 (20020: Kottis等 J. Neurochem 82:1566-9 (2002)。NogoAの一部のNogo66は、Nogoの3種全てのアイソフォーム中に見出される66アミノ酸の細胞外ポリペプチドとして記述されている。
【0003】
その構造的な差異にもかかわらず、(Nogo66を含む)3種全ての阻害性タンパク質は、Nogoレセプター(NgR;Nogoレセプタ−1又はNgR1としても知られている)と呼ばれる同じGPIアンカーレセプターに結合することが示されており、Nogo、MAG及びOMgpの阻害作用の媒介にNgRが必要とされているかも知れないことが提案されている。Fournier等, Nature 409: 341-346 (2001)。2種のNgR1ホモログ(NgR2及びNgR3)もまた同定されている。2005年3月3日公開のUS2005/0048520A1(Strittmatter等)。NgRはGPIアンカー細胞表面タンパク質であることになったので、それが直接のシグナル伝達体であることはない(Zheng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:1205-1210 (2005))。ニューロトロフィンレセプターp75NTRがNgRに対するコレセプターとして作用し、レセプター複合体中のシグナル伝達部分を提供することも示唆されている(Wang等, Nature 420:74-78 (2002);Wong等, Nat. Neurosci. 5:1302-1308 (2002))。
【0004】
PirB及びヒトオルソログ
主要組織適合抗原(MHC)クラスIは、元々は免疫系に重要である分子ファミリーをコードする領域として元々は同定された。最近の証拠は、MHCクラスI分子が発達及び成体CNSにおいて更なる機能を有していることを示している。Boulanger及びShatz, Nature Rev Neurosci. 5:521-531 (2004);2003年9月11日公開のUS2003/0170690(Shatz及びSyken)。MHCクラスIメンバー及びその結合パートナーの多くがCNSニューロン中に発現されることが見出されている。最近の遺伝子及び分子研究はCNS MHCクラスIの生理学的機能に焦点を当てており、初期の結果は、MHCクラスI分子が、その間に既存のシナプス結合の強さがニューロン活動に応答して増加又は減少し、回路に長期間の構造的変化が続くプロセスである活動依存的シナプス可塑性に関与しているかも知れないことを示唆していた。更に、MHCクラスIコード領域は神経学的徴候を有する広範囲の疾患に遺伝学的にまた関連しており、MHCクラスI分子の異常な機能は正常な脳発達及び可塑性の破壊に寄与すると考えられている。
【0005】
免疫設定における既知のMHCクラスIレセプターの一つは、Kubagawa等, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 94:5261-6 (1997)によって最初に開示されたマウスポリペプチドのPirBである。マウスPirBは幾つかのヒトオルソログを有しており、これらは白血球免疫グロブリン様レセプター、サブファミリーB(LILRB)のメンバーであり、「免疫グロブリン様転写物」(ILTs)とも称されている。ヒトオルソログは、最も高いものから最も低いものまで次の順:LILRB3/ILT5、LILRB1/ILT2、LILRB5/ILT3、LILRB2/ILT4でマウス配列と有意な相同性を示し、丁度PirBのように、全てが抑制性レセプターである。LILRB3/ILT5(NP_006855)及びLILRB1/ILT2(NP_006660)は最初にSamaridis及びColonna, Eur. J. Immunol. 27(3):660-665 (1997)によって記載された。LILRB5/ILT3(NP_006831)は Borges等, J. Immunol. 159(11):5192-5196 (1997)によって同定された。LILRB2/ILT4(MIR10としても知られている)は、Colonna等, J. Exp. Med. 186:1809-18 (1997)によって同定された。PirBとそのヒトオルソログは大きな度合いの構造可変性を示す。様々な選択的スプライシング型の配列がEMBL/GenBankから利用でき、例えばヒトILT4 cDNAに対する次の受託番号を含む:ILT4−c11 AF009634;ILT4−c117 AF11566;ILT4−c126 AF11565。上に記載したように、PirB/LILRBポリペプチドはMHCクラスI(MHCI)阻害性レセプターであり、免疫細胞活性化におけるその役割で知られている(上掲のKubagawa等;Hayami等, J. Biol. Chem. 272:7320 (1997);Takai等, Immunology 115:433 (2005);Takai等, Immunol. Rev. 181:215 (2001);Nakamura等 Nat. Immunol. 5:623 (2004);Liang等, Eur. J. Immunol. 32:2418 (2002))。
【0006】
Syken等(Science 313:1795-800 (2006))による最近の研究では、PirBが脳全体のニューロンサブセット中に発現されることが報告されている。機能的PirBを欠く変異マウスでは、皮質眼球優位性(OD)可塑性が全ての年齢で有意に亢進され、視覚野における活動依存的可塑性の制限におけるPirBの機能を示唆している。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、機能ブロック性抗PirB抗体を使用してPirB活性を妨げることがNogo66及びミエリンによる神経突起の伸長阻害のレスキューを助けること、及びPirB及びNgR活性を同時にブロックすることでミエリン阻害からの略完全な解放に至ることに少なくとも部分的に基づいている。
【0008】
一態様では、本発明は、YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体と同じヒトPirB(LILRB)上のエピトープに本質的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0009】
他の態様では、本発明は、YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体とヒトPirB(LILRB)への結合について競合する単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0010】
また他の態様では、本発明は、YW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含む単離された抗PirB/LILRB抗体に関する。
【0011】
ある実施態様では、抗体は、YW259.2抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号4又は11)を含む。
【0012】
他の実施態様では、抗体は、YW259.9抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号5又は12)を含む。
【0013】
更に他の実施態様では、抗体は、YW259.12抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号6又は13)を含む。
【0014】
更なる実施態様では、抗体は軽鎖を含む。
【0015】
また更なる実施態様では、抗体は、配列番号7のポリペプチド配列由来の軽鎖の一、二又は三の高頻度可変領域配列を含む。
【0016】
更に他の実施態様では、抗体は、配列番号7又は15のポリペプチド配列を含む軽鎖の全ての高頻度可変領域配列を含む。
【0017】
特定の実施態様では、抗体は重鎖及び軽鎖を含み、重鎖がYW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含み、及び/又は軽鎖が配列番号7又は15のポリペプチド配列由来の軽鎖の一、二又は三の高頻度可変領域配列を含む。
【0018】
更なる実施態様では、抗体は、抗体YW259.2、YW259.9、及びYW259.12からなる群から選択される。
【0019】
更なる態様では、本発明は、抗体の完全長IgG型が5nM又はそれ以上、又は1nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirBに特異的に結合する単離された抗PirB抗体に関する。
【0020】
ある実施態様では、抗体は、CNSニューロンの再生のような軸索再生を促進する。
【0021】
他の実施態様では、抗体は、Nogo66及びミエリンによる神経突起伸長阻害を少なくとも部分的に解放(レスキュー)する。
【0022】
全ての態様において、抗体は好ましくはモノクローナル抗体であり、これは、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、親和性成熟抗体、ヒト抗体、又は二重特異性抗体、抗体断片又はイムノコンジュゲートでありうる。
【0023】
更なる態様では、 本発明はここでの抗PirB/LILRB抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0024】
他の態様では、本発明は、ここでの(一又は複数の抗体鎖のコード配列を含む)抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。該宿主細胞は、原核生物、真核生物及び哺乳動物宿主を含む。
【0025】
更なる態様では、本発明は、抗PirB/LILRB抗体を製造するための方法であって、(a)抗体をコードする核酸を含むベクターを適切な宿主細胞中において発現させ、(b)抗体を回収することを含む方法に関する。
【0026】
また更なる態様では、本発明は、ここでの抗PirB/LILRB抗体、及び薬学的に許容可能な賦形剤を含有する組成物に関する。場合によっては、該組成物は第二の医薬を含み、抗PirB/LILRB抗体が第一の医薬である。第二の医薬は、例えばNgR阻害剤、例えば抗NgR抗体でありうる。
【0027】
異なる態様では、本発明はここでの抗PirB/LILRB抗体を含むキットに関する。
【0028】
他の態様では、本発明は、有効量のここでの抗PirB/LILRB抗体を必要とする被験者に投与することを含む軸索再生の促進方法。に関する。好ましくは、被験者はヒト患者である。
【0029】
実施態様では、ここでの治療方法は生存又はニューロンを亢進し、及び/又はニューロン伸長を誘導する。
【0030】
また他の態様では、本発明は、ここでの抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む、神経変性疾患の治療方法に関する。神経変性疾患は、例えば中枢神経系への物理的損傷によって特徴付けられ得、限定しないが、脳卒中に伴う脳損傷を含む。
【0031】
特定の実施態様では、神経変性疾患は、三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものからなる群から選択される。
【0032】
本発明は、ここでの抗PirB抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体に更に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】図1AはマウスPirB配列(配列番号1)を示す。
【図1B】図1BはヒトLILRB2配列(配列番号2)を示す。
【図2A】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。(A)代表的な顕微鏡写真。
【図2B】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。(B)一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフ。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3A】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3B】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3C】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図3D】ブロックPirBはAP−Nogo66又はミエリンでのCGN伸長の抑制を逆転させる。解離されたマウスP7CGNをPDL/ラミニン(コントロール)、AP−Nogo66、又はミエリンに播種してこれらの基質による抑制を試験した。代表的な顕微鏡写真を図3A及び3Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を測定するグラフを図3B及び3Dに示す。PDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンで成長させたニューロンをPirBに対する機能ブロック抗体(aPB1;50μm/ml)の存在又は不存在下で培養した。aPB1は何れの基質によっても阻害を有意に低減させた。(*p<0.01;スケールバー,50μm)。
【図4A】PirB及びNgRは両方とも、ミエリン阻害剤による成長円錐破壊を媒介するために必要とされる。出生後DRG軸索の成長円錐を、破壊を刺激するために、30分間、培地単独(コントロール)、ミエリン(3mg/ml)、又はAP−Nogo66(100nM)で処理し、成長円錐を可視化するためにローダミン−ファロイジンで染色した。(A)代表的な顕微鏡写真、(B)累積的実験からの成長円錐破壊(±SEM)を測定するグラフ。抗PirB処理によるNgRの遺伝子的喪失又はPirBの阻害の何れかが、ミエリン又はAP−Nogo66の成長円錐破壊活性を防止するのに十分なだけであった。双方の経路の阻害が破壊をまた十分にブロックした。(スケールバー,50μm)。
【図4B】PirB及びNgRは両方とも、ミエリン阻害剤による成長円錐破壊を媒介するために必要とされる。出生後DRG軸索の成長円錐を、破壊を刺激するために、30分間、培地単独(コントロール)、ミエリン(3mg/ml)、又はAP−Nogo66(100nM)で処理し、成長円錐を可視化するためにローダミン−ファロイジンで染色した。(A)代表的な顕微鏡写真、(B)累積的実験からの成長円錐破壊(±SEM)を測定するグラフ。抗PirB処理によるNgRの遺伝子的喪失又はPirBの阻害の何れかが、ミエリン又はAP−Nogo66の成長円錐破壊活性を防止するのに十分なだけであった。双方の経路の阻害が破壊をまた十分にブロックした。(スケールバー,50μm)。
【図5A】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5B】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5C】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図5D】ブロックPirBは基質MAG上のDRGニューロン中の神経突起伸長を部分的に脱抑制する。代表的な顕微鏡写真を図5A及び5Cに示し、一つの代表的な実験からの平均神経突起長(±SE)を示すグラフを図5B及び5Dに示す。(A)及び(B)解離されたP10DRGニューロンを抗PirBの存在下又は不存在下でPDL/ラミニン、AP−Nogo66、又はミエリンに播種した。aPB1によるAP−Nogo66及びミエリンによる抑制に有意な減少があった。(C)及び(D)解離されたP7CGN培養物を、aPB1と共に又はaPB1を伴わないで、PDL/ラミニン又はMAG−Fc上に播種した。PirBに対する抗体はMAG−Fcによる神経突起伸長の阻害を減少させた。(*p<0.01;スケールバー,200μmA,B;50μmC)。
【図6】抗PirB抗体YW259.2重鎖のDNA配列(配列番号8)。
【図7】抗PirB抗体YW259.9重鎖のDNA配列(配列番号9)。
【図8】抗PirB抗体YW259.12重鎖のDNA配列(配列番号3)。
【図9】抗PirB抗体YW259.2重鎖のタンパク質配列(配列番号4)。
【図10】抗PirB抗体YW259.9重鎖のタンパク質配列(配列番号5)。
【図11】抗PirB抗体YW259.12重鎖のタンパク質配列(配列番号6)。
【図12】全てのYW259抗体の軽鎖のタンパク質配列(配列番号7)。
【図13】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.2(IgG)の能力。
【図14】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.9(IgG)の能力。
【図15】HisタグマウスPirBの活性を阻害する抗PirB抗体YW259.12(IgG)の能力。
【図16】YW259.2、YW259.9、及びYW259.12を含む抗PirB抗体パネルの相対的AP−Nogo66結合性。
【図17A】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図17B】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図17C】抗PirB抗体YW259.2(配列番号11);YW259.9(配列番号12)及びYW259.12(配列番号13)の重鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Hドメイン及び接触CDR Hドメインと共に、CDR H1、CDR H2及びCDR H3配列にボックスを付している。Hum IIIは配列番号10として開示されている。
【図18A】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15),及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図18B】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15)、及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図18C】抗PirB抗体YW259.2(配列番号15);YW259.9(配列番号15)及びYW259.12(配列番号15)、及びHukI(配列番号14)の軽鎖配列のアラインメント。Kabat、ChothiaによるCDR Lドメイン及び接触CDR Lドメインと共に、CDR L1、CDR L2及びCDR L3配列にボックスを付している。HumIIIは配列番号10として開示されている。
【図19】C1QTNF5(CTRP5;NP_05646)が後根神経節ニューロンの神経突起伸長を阻害し、この阻害は、PirBがPirB機能ブロック抗体YW259.2によってブロックされる場合に低減される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
ペアード免疫グロブリン様レセプターB」及び「PirB」なる用語はここでは交換可能に使用され、配列番号1(図1)(NP_035225)の天然配列の841アミノ酸マウス抑制タンパク質、及び全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含むラット及び他の非ヒト哺乳動物におけるその天然配列ホモログを意味する。更なる詳細については、Kubagawa等, Proc Natl Acad Sci USA 94, 5261 (1997)を参照のこと。
【0035】
「LILRB」、「ILT」及び「MIR」なる用語はここでは交換可能に使用され、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含む、ヒト「白血球免疫グロブリン様レセプター、サブファミリーB」の全てのメンバーを意味する。LILRレセプターのこのB型サブファミリー内の個々のメンバーは、例えばLILRB3/ILT5、LILRB1/ILT2、LILRB5/ILT3、及びILIRB2/ILT4のように、アクロニムに続く数字によって命名され、ここで、別の定義をしない限り、任意の個々のメンバーに対する言及は、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型に対する言及をまた含む。よって、例えば、「LILRB2」「LIR2」及び「MIR10」はここでは交換可能に使用され、配列番号2(図1)(NP_005865)の598アミノ酸ポリペプチド、及びその天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含むを意味する。更なる詳細については、Martin等, Trends Immunol. 23, 81 (2002)を参照のこと。
【0036】
「PirB/LILRB」なる用語は、全ての天然に生じる変異体、例えば選択的スプライシング及びアレル変異体及びアイソフォーム、並びにその可溶型を含む、対応するマウス及びヒトタンパク質及び他の非ヒト哺乳動物における天然配列ホモログを併せて意味するためにここで使用される。
【0037】
「ミエリン関連タンパク質」なる用語は最も広い意味に使用され、Nogo、MAG及びOMgpを含む、ニューロン再生を抑制するCNSミエリン中に存在する全てのタンパク質を含む。
【0038】
「単離された」は、ここに開示された様々なタンパク質を記述するために使用される場合、同定されその自然環境の成分から分離され及び/又は回収されたタンパク質を意味する。その自然環境の汚染成分とは、典型的にはそのタンパク質の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれうる。好ましい実施態様では、タンパク質は、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、又は(2)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性まで、又は(3)質量分析又はペプチドマッピング技術により均一性まで、精製される。単離されたタンパク質には、当該タンパク質の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツのタンパク質が含まれる。しかしながら、通常は、単離されたタンパク質は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0039】
「単離された」核酸分子は、当該核酸の天然源に通常は伴う少なくとも一種の汚染核酸分子から同定され分離される核酸分子である。単離された核酸分子は、それが天然に見出される形態又は設定以外のものである。従って、単離された核酸分子は、それが天然の細胞中に存在している核酸分子から区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が天然細胞の位置とは異なる染色体位置にあるコードされたかかる核酸を通常は発現する細胞中に含まれる核酸分子を含む。
【0040】
ここで使用される場合、「PirB/LILRBアンタゴニスト」なる用語は、PirB/LILRB活性をブロックし、中和し、阻害し、抑制し、低減させ又は妨害することのできる薬剤を指すために使用される。特に、PirB/LILRBアンタゴニストは、ミエリン関連阻害活性を妨害し、よって、神経突起伸長を亢進し、及び/又はニューロン成長、修復及び/又は再生を促進する。好ましい実施態様では、PirB/LILRBアンタゴニストは、PirB/LILRBに結合することにより、PirB/LILRBのNogo66及び/又はMAG及び/又はOMgpへの結合を阻害する。PirB/LILRBアンタゴニストは、例えば、PirB/LILRBに対する抗体及びその抗原結合断片、PirB/LILRBとNogo66との間、又はPirB/LILRBとMAGとの間、又はPirB/LILRBとOMgpとの間の結合を隔絶することができるPirB/LILRB、Nogo66、MAG又はOMgpの切断型は可溶型断片及びPirB/LILRB関連阻害経路の小分子阻害剤を含む。PirB/LILRBアンタゴニストはまたPirB/LILRB mRNAの発現を阻害し又は減少させることができる低分子干渉RNA(siRNA)分子を含む。好ましいPirB/LILRBアンタゴニストは抗PirB/LILRB抗体である。
【0041】
ここでの「抗体」なる用語は最も広義に使用され、特にインタクトな抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二のインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を包含する。
【0042】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、少量で存在しうる可能な天然に生じる変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の抗体によって汚染されないで合成されうる点で有利である。「モノクローナル」との修飾語句は、実質的に均一な抗体の集団から得たものとしての抗体の性質を示すものであり、抗体が何か特定の方法による生産を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature 256: 495 (1975)よって記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作製されうる(例えば米国特許第4816567号を参照)。「モノクローナル抗体」はまた例えばClackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された技術を使用するファージ抗体ライブラリーから単離することもまたできる。
【0043】
抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に一致するか又は相同するが、残りの鎖が、他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列に一致するか又は相同するものである「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限り、そのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。ここで興味のあるキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿等)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含むプリマタイズ抗体を含む。
【0044】
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合又は可変領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0045】
「インタクト」抗体は抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えばヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体でありうる。好ましくは、インタクト抗体は一又は複数のエフェクター機能を有する。
【0046】
非ヒト(例えば齧歯類)抗体の「ヒト化」型とは、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大部分では、ヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域由来の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域由来の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの変更は、抗体の性能を更に洗練させるために行なわれる。一般に、ヒト化抗体は、全て或いはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全て或いはほとんど全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fabc、Fv)の実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann等, Nature, 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
【0047】
ここで使用される「高頻度可変領域」なる用語は、配列が高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。高頻度可変領域は「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基24−34、50−56、及び89−97、及び重鎖可変ドメインの31−35、50−65、及び95−102;Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))及び/又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32、50−52、及び91−96及び重鎖可変ドメインの残基26−32、53−55、及び96−101;Chothia及びLesk J.Mol.Biol. 196:901-917(1987))を含む。双方の場合、以下に更に詳細に検討するように、上掲のKabat等に従って可変ドメイン残基の番号を付ける。「フレームワーク」又は「FR」残基はここで定義する高頻度可変領域中の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0048】
「親抗体」又は「野生型」抗体は、ここに開示された抗体変異体と比較して一又は複数のアミノ酸配列改変を欠くアミノ酸配列を含む抗体である。よって、親抗体は一般にここに開示された抗体変異体の対応する高頻度可変領域のアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる少なくとも一つの高頻度可変領域を有している。親ポリペプチドは、天然配列(つまり天然に生じる)抗体(天然に生じる対立遺伝子変異体)、又は天然に生じる配列の既存のアミノ酸配列修飾(例えば挿入、欠失及び/又は他の改変)を有する抗体を含みうる。開示全体を通して、「野生型」、「WT」、「wt」及び「親」又は「親の」抗体は交換可能に使用される。
【0049】
ここで使用される場合、「抗体変異体」又は「変異体抗体」は、親抗体のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有する抗体を意味する。好ましくは、抗体変異体は、天然には見出されないアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインを含む。かかる変異体は親抗体と100%未満の配列同一性又は類似性を必ず有している。好ましい実施態様では、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖の可変ドメインの何れかのアミノ酸配列と、約75%から100%未満、より好ましくは約80%から100%未満、より好ましくは約85%から100%未満、より好ましくは約90%から100%未満、及び最も好ましくは約95%から100%未満のアミノ酸配列同一性又は類似性があるアミノ酸配列を有する。抗体変異体は一般に一又は複数のその高頻度可変領域中に又はそれに隣接して一又は複数のアミノ酸変更を含むものである。
【0050】
「アミノ酸改変」とは、予め定まったアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な変更は、挿入、置換及び欠失を含む。「アミノ酸置換」とは、予め定まったアミノ酸配列中に存在するアミノ酸残基を他の異なったアミノ酸残基で置換することを意味する。
【0051】
「置換」アミノ酸残基とは、アミノ酸配列中の別のアミノ酸残基を置換又は置き換えるアミノ酸残基を意味する。置換残基は天然に生じるアミノ酸残基又は天然には生じないアミノ酸残基でありうる。
【0052】
「アミノ酸挿入」とは、予め定まったアミノ酸配列中への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。アミノ酸挿入はペプチド結合によって結合した2又はそれ以上のアミノ酸残基を含むペプチドが予め定まったアミノ酸配列に導入される「ペプチド挿入」を含んでいてもよい。アミノ酸挿入がペプチド挿入を含む場合、挿入されたペプチドは天然には存在しないアミノ酸配列を持つようにランダム突然変異によって産生され得る。「高頻度可変領域の近傍」におけるアミノ酸変更は、挿入又は置換されたアミノ酸残基の少なくとも一つが当該高頻度可変領域のN末端又はC末端アミノ酸残基とペプチド結合を形成するような、高頻度可変領域のN末端及び/又はC末端への一又は複数のアミノ酸残基の導入を意味する。
【0053】
「天然に生じるアミノ酸残基」は、一般に、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile):ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択される、遺伝子暗号にコードされたものである。
【0054】
ここでの「天然に生じないアミノ酸残基」とは、上に列挙した天然に生じるアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチド鎖中の隣接アミノ酸残基(群)に共有的に結合可能である。天然に生じないアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン及びEllman等, Meth. Enzym. 202:301-336(1991)に記載のもののような他のアミノ酸残基アナログが含まれる。そのような天然に生じないアミノ酸残基を産生するには、Noren 等 Science 244:182(1989)と上掲のEllman等の手順を使用することができる。簡単にいうと、これらの手順は、天然に生じないアミノ酸残基でサプレッサーtRNAを化学的に活性させ、ついでインビトロのRNA転写と翻訳を行うことを含む。
【0055】
本明細書にわたって、Kabat, E. A.等, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987)及び(1991)からの番号付けシステムが参照される。これらの概論において、カバットは、各サブクラスに対して多くのアミノ酸配列を列挙し、そのサブクラスにおける各残基一に対して最も頻繁に生じるアミノ酸を列挙している。カバットは列挙された配列中の各アミノ酸に対して残基番号を割り当てる方法を使用し、残基番号を割り当てるこの方法は当該分野で標準的になった。この明細書では、カバット番号付けスキームに従う。本発明の目的に対しては、カバットの概論に含まれていない候補抗体アミノ酸配列に残基番号を割り当てる場合は、次の工程に従う。一般に、候補配列をカバットで任意の免疫グロブリン配列又は任意のコンセンサス配列と整列させる。アラインメントは手作業で行うか、又は一般的に許容されるコンピュータプログラムを使用してコンピュータによってなされ得、かかるプログラムの一例はAlign2プログラムである。アラインメントは、殆どのFab配列に共通である幾らかのアミノ酸残基を使用することによって容易にすることができる。例えば、軽鎖及び重鎖はそれぞれ典型的には同じ残基番号を有している二つのシステインを有している;VLドメインにおいてその二つのシステインは典型的には残基番号23及び88であり、VHドメインでは、その二つのシステインは典型的には22及び92と番号付けされる。フレームワーク残基は一般的には、必ずしも全てではないが、およそ同じ残基番号を有しており、CDRsはサイズが変化しうる。例えば、それが整列されるカバットの配列中のCDRより長い候補配列からのCDRの場合には、典型的には、更なる残基の挿入を示すために残基番号に接尾語が付加される(例えば、図1Bの残基100abcを参照)。残基34及び36のカバット配列とアラインするが残基35とアラインする残基をその間に持たない候補配列では、番号35は単に残基には単に割り当てられない。
【0056】
ここで使用される場合、「高親和性」を有する抗体は、ナノモル(nM)範囲又はそれより良いKD、又は解離定数を有する抗体である。「ナノモル(nM)範囲又はそれより良い」KDはXnMによって表すことができ、ここで、Xは約10未満の数である。
【0057】
「親和性成熟」抗体は、その一又は複数のCDRに一又は複数の変更を有するものであって、そのような変更を有しない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性が改善される。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対して、ナノモル単位の又は更にはピコモル単位の親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において既知の方法により生産される。Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VHドメイン及びVLドメインのシャフリングによる親和成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダムな突然変異誘発が、Barbas等, Proc Nat. Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155 (1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004 (1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9 (1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol., 226:889-896 (1992)に開示されている。
【0058】
抗体の「機能的抗原結合部位」は標的抗原に結合可能なものである。抗原結合部位の抗原結合親和性は、抗原結合部位が由来する親抗体と必ずしも同じほどは強くはないが、抗原に結合する能力は、抗原に結合する抗体を評価するために知られている既知の様々な方法の何れか一つを使用して測定できるものでなければならない。
【0059】
指定された抗体の「生物学的特性」を有する抗体は、同じ抗原に結合する他の抗体からそれを区別するその抗体の生物学的特性の一又は複数を保有するものである。
【0060】
対象の抗体が結合する抗原上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Harlow及びDavid Lane編 (1988)に記載されたもののような常套的な交差ブロックアッセイ法を実施することができる。
【0061】
「糸状ファージ」なる用語は、その表面に異種性ポリペプチドをディスプレイすることができるウイルス粒子を意味し、限定するものではないが、f1、fd、Pf1、及びM13を含む。糸状ファージはテトラサイクリンのような選択可能マーカーを含みうる(例えば「fd−tet」)。様々な糸状ファージディスプレイは当業者によく知られている(例えばZacher等 Gene 9: 127-140 (1980), Smith等 Science 228: 1315-1317 (1985);及びParmley及びSmith Gene 73: 305-318 (1988)を参照)。
【0062】
「パニング」なる用語は、標的に対して高い親和性及び特異性を持つ抗体のような化合物を有するファージの同定及び単離において複数回のスクリーニング方法を指すために使用される。
【0063】
「低分子干渉RNA(siRNA)」なる用語は、遺伝子発現を妨害する小さい二本鎖RNAを意味する。siRNAsは、二本鎖RNAが相同遺伝子を発現停止させるプロセスであるRNA干渉の中間体である。siRNAsは典型的には一本鎖オーバーハングを含みうる二重鎖を形成する約15−25ヌクレオチド長の二つの一本鎖RNAsから構成される。例えばポリメラーゼのような酵素複合体による二本鎖RNAのプロセシングは二本鎖RNAの開裂を生じ、siRNAsを生産する。siRNAのアンチセンス鎖は、mRNA開裂をガイドするためにRNA干渉(RNAi)サイレンシング複合体によって使用され、それによってmRNA分解が促進される。例えば哺乳動物細胞において、siRNAsを使用して特異的な遺伝子の発現を停止させるために、塩基対形成領域が、未関連mRNAに対する偶然の相補性を避けるために選択される。RNAiサイレンシング複合体は、例えばFire等, Nature 391:806-811 (1998)及びMcManus等, Nat. Rev. Genet. 3(10):737-47 (2002)によるように当該分野で同定されている。
【0064】
「干渉RNA(RNAi)」なる用語は、ここでは、特定のmRNAsの触媒的分解を生じる二本鎖RNAを意味するために使用され、よって特定の遺伝子の発現を阻害/低下させるために使用することができる。
【0065】
「遺伝子多型」なる用語は、遺伝子又はその一部(例えばアレル変異体)の一を越える形態を意味するためにここで使用される。少なくとも2つの異なった形態にある遺伝子の一部は遺伝子の「遺伝子多型領域」と称される。遺伝子の多型領域の特定の遺伝子配列は「アレル」である。多型領域は、異なるアレルで異なるか又は幾つかのヌクレオチド長でありうる単一のヌクレオチドでありうる。
【0066】
ここで使用される場合、一般に「疾患」なる用語は、軸索再生治療法から恩恵を受けることが期待される任意の症状、及び/又は神経系におけるシナプス可塑性の改善を含む、PirB/LILRB2のアンタゴニスト、例えば抗PirB抗体での治療から恩恵を受ける任意の症状を意味する。ここで治療される疾患の非限定的な例には、限定しないが、例えば物理的に損傷を受けた神経及び神経変性疾患のような神経障害を含む、神経突起伸長の亢進、ニューロン成長、修復又は再生の促進から恩恵を受ける疾病及び症状を含む。かかる疾患は特に中枢神経系に対する物理的損傷(例えば、脊髄損傷及び頭部外傷);脳卒中に伴う脳損傷;及び神経変性に関連する神経障害、例えば三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、多発性硬化症(MS)、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板(invertebrate disk)症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、身体的傷害又は糖尿病のような疾患状態によって引き起こされる末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものを含む。
【0067】
ここで使用される「治療する」、「治療」及び「治療法」なる用語は、治癒的治療、予防的療法及び防護的療法を意味する。連続的治療又は投与は、一又は複数の日数による治療の中断なく少なくとも毎日の基準での治療を意味する。間欠的治療又は投与、又は間欠的な形式での治療又は投与は、連続的ではなくむしろ周期的な性質である治療を意味する。
【0068】
ここで使用される「神経変性を予防する」なる用語は、(1)神経変性疾患を持つと新たに診断された又は新たな神経変性疾患が発症するリスクにある患者において神経変性を阻害又は予防する能力及び(2)神経変性疾患に既に罹っているか又は神経変性疾患の徴候を有している患者において更なる神経変性を阻害又は予防する能力を含む。
【0069】
ここで使用される「哺乳動物」なる用語は、ヒト、高等の非ヒト霊長類、家庭及び酪農用動物、例えばウシ、ウマ、イヌ及びネコを含む哺乳類に分類される任意の哺乳動物を意味する。本発明の好ましい実施態様では、哺乳動物はヒトである。
【0070】
一又は複数の治療剤と「組み合わせた」投与とは、同時(同時期)及び任意の順序での連続した投与を含む。
【0071】
「有効量」とは、有益な又は所望の治療(予防を含む)結果を達成するのに十分な量である。有効量は一又は複数の投与で投与されうる。
【0072】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」なる表現は交換可能に使用され、かかる全ての標記は子孫を含む。よって、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」なる言葉は、移行数にかかわらず、初代対象細胞及びそれから誘導された培養物を含む。全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、DNA含量において正確に同一でなくともよいこともまた理解される。「子孫」なる用語は、元々の形質転換細胞又は細胞株に続くあらゆる世代の任意の及び全ての子孫を意味する。元々の形質転換細胞おいてスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫が含まれる。区別する標記が意図される場合は、それは文脈から明らかであろう。
【0073】
ここで同定される配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法で達成することができ、当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。ここでの目的のためには、パーセントアミノ酸配列同一性値は、ジェネンテック社によって著作され、そのソースコードが米国著作権庁、ワシントンD.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して得ることができる。ALIGN-2はジェネンテック社、サウスサンフランシスコ、カリフォルニアから公的に入手可能である。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0074】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定され、一般にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングに必要な温度が高くなり、プローブが短くなるとそれに必要な温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般に、相補鎖がその融点より低い環境に存在する場合に、変性DNAが再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列の間で所望される同一性の程度が高くなればなるほど、用いることができる相対温度が高くなる。その結果、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、低い温度はストリンジェントを低下させることになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの更なる詳細及び説明については、Ausubel等, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照のこと。
【0075】
ここで定義される「高ストリンジェンシー条件」は、(1)50℃の0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムと、洗浄に低イオン強度及び高温度を用いる;(2)42℃の50%(v/v)ホルムアミドに0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムの変性剤をハイブリダイゼーションに用いる;又は(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%の硫酸デキストラン溶液を42℃で用い、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)での42℃での洗浄と50%のホルムアミドでの55℃での洗浄に、55℃でのEDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシー洗浄が続くものによって、同定されうる。
【0076】
「中程度のストリンジェンシー条件」は、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載されているようにして特定され、20%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/mLの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中の37℃での終夜のインキュベーション後に、37〜50℃にて1×SSC中でフィルター洗浄を行うことを含む。プローブ長などの因子に必要に応じて適合させるには、どのようにして温度、イオン強度等を調節するかは当業者であれば分かるであろう。
【0077】
「コントロール配列」なる用語は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。原核生物に好適なコントロール配列は、例えばプロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0078】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列或いは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているならば、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読み枠にあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の実務に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター或いはリンカーが使用される。
【0079】
「小分子」はここでは約1000ダルトン以下、好ましくは約500ダルトン以下の分子量を有するものと定義される。
【0080】
B.抗PirB/LILRB抗体の生産
本発明の抗PirB抗体は、組換えDNA法の技術を含む当該分野で知られている方法によって製造することができる。
i)抗原調製
他の分子と結合されていてもよい可溶型抗原又はその断片を、抗体を産生するための免疫原として使用することができる。レセプターのような膜貫通分子では、これらの断片(例えばレセプターの細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。別法では、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として使用することができる。かかる細胞は、天然源(例えば癌細胞株)から誘導することができ、又は膜貫通分子を発現させるために組換え技術によって形質転換されている細胞でありうる。抗体の調製に有用な他の抗原及びその形態は当業者には明らかであろう。
【0081】
(ii)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは関連抗原及びアジュバントの複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射により動物において産生させる。関連抗原を、二官能性又は誘導体化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を通したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を通した)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCI2、又はR1N=C=NR(ここで、R及びR1は異なったアルキル基である)を使用して、免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン又は大豆トリプシン阻害剤に結合させるのが有用でありうる。
【0082】
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0083】
(iii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)に記載されているようなハイブリドーマ法を使用することで作製することができ、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター又はマカクザル等の他の適切な宿主動物を上述のようにして免疫化して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を生産するか又は生産可能なリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化することもできる。ついで、ポリエチレングリコール等の適当な融合剤を用いてリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0084】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞は、好ましくは、未融合の親ミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を含む適切な培養培地に播種され増殖される。例えば、親ミエローマ細胞が、酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠いていると、ハイブリドーマの培養培地は、典型的には、ヒポキサチン、アミノプテリン、及びチミジンを含み(HAT培地)、この物質がHGPRT欠乏性細胞の増殖を阻止する。
【0085】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高レベルの抗体生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性であるものである。これらのなかで、より好ましいミエローマ細胞株はマウスミエローマ株、例えばカリフォルニア州サンディエゴのSalk Institute Cell Distribution Centerから入手可能であるMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍から誘導されたものやメリーランド州ロックビルのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより入手可能であるSP-2又はX63-Ag8-653細胞である。ヒトモノクローナル抗体を生産するためにヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株もまた開示されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0086】
ハイブリドーマ細胞が増殖される培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は免疫沈降又はラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫測定法(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって測定する。
【0087】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を生産するハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法で増殖させることができる(Goding, MonoclonalAntibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的のための適当な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI−1640倍地が含まれる。加えて、ハイブリドーマ細胞を哺乳動物においてインビボで腹水腫瘍として増殖させることもできる。
【0088】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティークロマトグラフィー等の一般的な免疫グロブリン精製方法によって培養培地又は腹水液から好適に分離される。
【0089】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、常套的な方法を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して)、容易に単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたら、DNAは発現ベクター内に配することができ、これが宿主細胞、例えば大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、あるいは免疫グロブリンタンパク質を生成等しないミエローマ細胞内に形質移入され、組換え宿主細胞内でモノクローナル抗体の合成をすることができる。抗体の組換え生産は以下により詳細に記載される。
【0090】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して作製される抗体ファージライブラリーから単離することができる。
【0091】
Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体のそれぞれの単離を記述している。続く刊行物は、鎖シャフッリングによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
【0092】
また、DNAは、例えば相同マウス配列に換えてヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851 (1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の一部又は全部を共有結合することにより、修飾することができる。
【0093】
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換でき、あるいはそれらは抗体の一つの抗原結合部位の可変ドメインに置換でき、抗原に対して特異性を有する抗原結合部位と異なった抗原に対して特異性を有する他の抗原結合部位を含むキメラ性二価抗体を産生する。
【0094】
(iv)ヒト及びヒト化抗体
ヒト化抗体には非ヒトである由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の対応する配列に齧歯類CDRs又はCDR配列を置換することにより、ウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。従って、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかの高頻度可変領域残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0095】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を作製する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものに最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0096】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが購入可能である。これら表示を調べることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接的かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0097】
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。例えばJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993); Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);及びDuchosal等 Nature 355:258 (1992)を参照されたい。ヒト抗体はまたファージディスプレイライブラリーから誘導することもできる (Hoogenboom等, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991);Vaughan等 Nature Biotech 14:309 (1996))。抗体ファージディスプレイライブラリーからのヒト抗体の生産を以下に更に記載する。
【0098】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は今は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。以下の実施例に記載される他の実施態様では、F(ab')2は、F(ab')2分子の構築を促進するためにロイシンジッパーGCN4を使用して形成される。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFV)である。国際公開第93/16185号を参照。
【0099】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、エピトープが通常は異なった抗原由来である少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する。このような分子は通常は二つのエピトープを結合させるのみであるが(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)、三重特異性抗体のような更なる特異性を持つ抗体もここで使用される場合この表現に包含される。BsAbsの例には、一方のアームがPirB/LILRB2に向けられ他方のアームがNogo又はMAG又はOMgpに向けられたものが含まれる。BsAbsの更なる例には、一方のアームがPirB/LILRB2に向けられ他方のアームがNgRに向けられたものが含まれる。
【0100】
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において知られている。完全長二重特異性抗体の伝統的な生産は、二つの鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖軽鎖対の同時発現に基づく(Milstein等, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖を無作為に取り揃えるため、これらハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的混合物を生成し、その内一種のみが正しい二重特異性構造を有する。正しい分子の精製は、アフィニティークロマトグラフィー工程によって通常達成されるが、かなり面倒であり、生成物収率は低い。同様の手順が国際公開第93/08829号、及びTraunecker等, EMBO J.,10:3655-36569(1991)に開示されている。異なるアプローチ法では、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合させる。融合は、好ましくは少なくともヒンジ部、CH2及びCH3領域の一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとのものである。少なくとも一つの融合には軽鎖結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)が存在することが望ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNA、及び望むのであれば免疫グロブリン軽鎖を、別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、組立に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が所望の二重特異性抗体の最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が所望の鎖の結合にあまり影響がないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0101】
この手法の好ましい実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0102】
米国特許第5731168号に記載された他の手法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好適な界面はCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0103】
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体もまた含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの抗体の一方はアビジンに結合され、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、不要の細胞に対する免疫系細胞を標的化するため(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために提案された(国際公開第91/00360号、同92/200373号)。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる簡便な架橋法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当該分野において良く知られており、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4676980号に開示されている。
【0104】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) はインタクトな抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤、亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に変換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再変換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0105】
大腸菌からFab'-SH断片を直接回収することもでき、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby等,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。
【0106】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し単離する様々な技術もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生成されている。Kostelny等, J.Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させる。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して単量体を形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロ二量体を形成する。この方法はまた抗体ホモ二量体の生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。該断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには十分に短いリンカーによりVLにVHを結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、よって2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0107】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0108】
(vii)エフェクター機能の加工
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、抗体の有効性を向上させることが望ましい。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成するようにしてもよい。そのようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上した内部移行能力及び/又は増加した補体媒介細胞殺傷及び抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)を有する可能性がある。Caron等, J. Exp. Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)参照。また、向上した抗腫瘍活性を持つホモ二量体抗体は、Wolff等, Cancer research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、抗体は、二重Fc領域を有するように加工して、それにより補体溶解及びADCC能力を向上させることもできる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)参照。
【0109】
(viii)抗体-サルベージレセプター結合エピトープ融合
本発明のある実施態様では、例えば腫瘍浸透性を増大させるためにインタクト名抗体よりも抗体断片を使用することが望ましい場合がある。この場合、その血清半減期を増大させるために抗体断片を改変することが望ましい場合がある。これは、例えば、抗体断片にサルベージレセプター結合エピトープを導入することにより(例えば、抗体断片中の適当な領域の突然変異により、あるいはついで抗体断片の何れかの末端又は中央に、例えばDNA又はペプチド合成により融合されるペプチドタグ内にエピトープを導入することにより)、達成できる。
【0110】
サルベージレセプター結合エピトープは、好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の一又は複数の任意のアミノ酸残基が抗体断片の類似位置に移動させられた領域を構成する。更により好ましくは、Fcドメインの一又は二のループ由来の3以上の残基が移動する。またより好ましくは、エピトープはFc領域の(例えばIgGの)CH2ドメインから得られ、抗体のCH1、CH3、又はVH領域、又はそのような領域の一より多くに転移する。あるいは、エピトープは、Fc領域のCH2ドメインから得られ、抗体断片のCL領域又はVL領域、又はその両方に移動する。
【0111】
(ix)抗体の他の共有的修飾
抗体の共有的修飾は本発明の範囲内にある。それらは、適当であれば、化学合成により、又は抗体の酵素的又は化学的切断によりなされうる。抗体の共有的修飾の他のタイプは、選択される側鎖又はN又はC末端残基と反応できる有機誘導体化剤と抗体の標的とするアミノ酸領域を反応させることにより分子中に導入される。共有的修飾の例は、特に出典明示によりここに援用される米国特許第5534615号に記載されている。抗体の共有的修飾の好ましいタイプは、米国特許第4640835号;同第4496689号;同第4301144号;同第4670417号;同第4791192号又は同第4179337号に記載されているようにして、様々な非タンパク質様ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレン類の一つに抗体を結合させることを含む。
【0112】
(x)合成抗体ファージライブラリーからの抗体の産生
ある好適な実施態様では、本発明は特有のファージディスプレイアプローチ法を使用して新規な抗体を産生し選択する方法を提供する。該アプローチ法は、単一フレームワーク鋳型に基づく合成抗体ファージライブラリーの産生、可変ドメイン内の十分な多様性の設計、多様化した可変ドメインを有するポリペプチドのディスプレイ、抗原を標的とする高親和性を持つ候補抗体の選択、及び選択された抗体の単離を含む。
【0113】
ファージディスプレイ法の詳細は、例えば出典明示によりここに明示的に援用される2003年12月11日公開の国際公開第03/102157号に見出すことができる。
【0114】
一態様では、本発明において使用される抗体ライブラリーは抗体可変ドメインの少なくとも一のCDRにおいて溶媒接近可能な及び/又は高度に多様性の位置を変異させることによって産生させることができる。CDRの幾らか又は全てをここに提供した方法を使用して変異させることができる。ある実施態様では、CDRH1、CDRH2及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリーを形成するか、又はCDRL3及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリーを形成するか、又はCDRL3及びCDRH1、CDRH2及びCDRH3中の位置に変異を施して単一のライブラリを形成することにより、多様な抗体ライブラリを創ることが好ましい場合がある。
【0115】
例えばCDRH1、CDRH2及びCDRH3の溶媒接近可能な及び/又は高度に多様性の位置に変異を有する抗体可変ドメインのライブラリーをつくることができる。CDRL1、CDRL2及びCDRL3に変異を有する他のライブラリーをつくることができる。これらのライブラリーは所望の親和性の結合体をつくるために互いに関連させて使用することもできる。例えば、標的抗原への結合についての重鎖ライブラリーの一又は複数回の選択後に、軽鎖ライブラリを結合体の親和性を増加させるために更なる選択回数に対して重鎖結合体の集団中に置き換えることができる。
【0116】
好ましくは、ライブラリーは重鎖配列の可変領域のCDRH3領域における変異アミノ酸での元のアミノ酸の置換によりつくられる。得られたライブラリーは複数の抗体配列を含み得、ここで配列多様性は主として重鎖配列のCDRH3領域にある。
【0117】
一態様では、ライブラリーはヒト化抗体4D5配列、又はヒト化抗体4D5配列のフレームワークアミノ酸の配列の態様でつくり出す。好ましくは、ライブラリーはDVKコドンセットによってコードされるアミノ酸で重鎖の少なくとも残基95−100aを置換することによりつくられ、ここでDVKコドンセットはこれらの位置の各一に対して変異アミノ酸セットをコードするために使用される。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの一例は配列(DVK)7を含む。ある実施態様では、ライブラリーはDVKとNNKの双方のコドンセットによってコードされるアミノ酸で残基95−100aを置換することによりつくられる。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの例は配列(DVK)6(NNK)を含む。他の実施態様では、ライブラリーはDVKとNNKの双方のコドンセットによってコードされるアミノ酸で少なくとも残基95−100aを置換することによりつくられる。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの例は配列(DVK)5(NNK)を含む。これらの置換をつくるのに有用なオリゴヌクレオチドセットの他の例は配列(NNK)6を含む。好適なオリゴヌクレオチド配列の他の例はここに記載された基準に従って当業者によって決定することができる。
【0118】
他の実施態様では、異なったCDRH3設計を使用して高親和性結合体を単離し様々なエピトープに対して結合体を単離する。このライブラリーにおいて産生されたCDRH3の長さの範囲は11から13アミノ酸であるが、これとは異なった長さも産生することができる。H3多様性はNNK、DVK及びNVKコドンセットを使用し、並びにN及び/又はC末端での多様性をより制限して、拡張することができる。
【0119】
多様性をCDRH1及びCDRH2においてまた生じさせることができる。CDR-H1及びH2多様性の設計は、過去の設計よりも天然の多様性により密に適合する多様性に焦点を当てる変更をした上で、上述の天然抗体レパートリーを模倣するターゲティング方策に従う。
【0120】
CDRH3での多様性に対しては、複数のライブラリーを、異なった長さのH3と別個に構築し、ついで、標的抗原に対する結合体を選択するために組み合わせる。複数のライブラリーをプール化し、過去に記載され以下に記載されたような固体支持体選別及び溶液選別方法を使用して選別することができる。複数の選別方策を用いることができる。例えば、一つの変異は固体に結合した標的での選別を含み、融合ポリペプチド上に存在しうるタグ(例えば抗gDタグ)の選別が続く。別法として、ライブラリーは固体表面に結合した標的で先ず選別することができ、溶出した結合体がついで標的抗原の濃度を減少させた溶液相結合を使用して選別される。異なった選別法を併用することにより高度に発現した配列のみの選択の最小化がもたらされ、多くの異なった高親和性クローンの選択をもたらす。
【0121】
標的抗原に対する高親和性結合体はライブラリーから単離することができる。H1/H2領域における多様性の制限は約104から105倍縮重を減少させ、より多くのH3多様性を許容することによりより多くの高親和性結合体をもたらす。CDRH3において異なったタイプの多様性を持つライブラリーを利用することにより(例えばDVK又はNVTを利用して)標的抗原の異なったエピトープに結合しうる結合体の単離をもたらす。
【0122】
上述のプールされたライブラリーから単離された結合体において、軽鎖において制限された多様性を提供することによって親和性を更に改善することができることが発見された。軽鎖多様性はこの実施態様では以下のように生成される。CDRL1においては:アミノ酸位置28がRDTによってコードされる;アミノ酸位置29がRKTによってコードされる;アミノ酸位置30がRVWによってコードされる;アミノ酸位置31がANWによってコードされる;アミノ酸位置32がTHTによってコードされる;場合によっては、アミノ酸位置33がCTGによってコードされる;CDRL2においては:アミノ酸位置50がKBGによってコードされる;アミノ酸位置53がAVCによってコードされる;場合によっては、アミノ酸位置55がGMAによってコードされる;CDRL3においては:アミノ酸位置91がTMT又はSRT又はその両方によってコードされる;アミノ酸位置92がDMCによってコードされる;アミノ酸位置93がRVTによってコードされる;アミノ酸位置94がNHTによってコードされる;アミノ酸位置96がTWT又はYKG又は両方によってコードされる。
【0123】
他の実施態様では、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域に多様性を持つライブラリー又はライブラリー群が作成される。この実施態様では、CDRH3における多様性は様々な長さのH3領域を用い、主にコドンセットXYZ及びNNK又はNNSを用いてつくり出される。ライブラリーは個々のオリゴヌクレオチドを使用して形成しプールすることができ、又はオリゴヌクレオチドをプールしてライブラリーのサブセットを形成することができる。この実施態様のライブラリーは固体に結合した標的に対して選別することができる。多重選別から単離されたクローンをELISAアッセイを使用して特異性及び親和性についてスクリーニングすることができる。特異性については、クローンを所望の標的抗原並びに他の非標的抗原に対してスクリーニングすることができる。標的抗原に対する結合体をついで溶液結合競合ELISAアッセイ又はスポット競合アッセイでの親和性についてスクリーニングすることができる。高親和性結合体は上に記載したようにして調製されたXYZコドンセットを使用してライブラリーから単離することができる。これらの結合体は抗体又は抗原結合断片として細胞培養物中に高収量で直ぐに産生されうる。
【0124】
ある実施態様では、CDRH3領域の長さに大なる多様性を持つライブラリを作成することが望まれる場合がある。例えば、約7から19アミノ酸の範囲のCDRH3領域を持つライブラリーを作成することが望ましい場合がある。
【0125】
これらの実施態様のライブラリーから単離された高親和性結合体は細菌及び真核生物細胞培養で高収量で直ぐに産生される。ベクターはgDタグ、ウイルスコートタンパク質成分配列のような配列を直ぐに除去し、及び/又は定常領域配列に加えて完全長抗体又は抗原結合断片を高収量で生産するように設計することができる。
【0126】
CDRH3での変異を持つライブラリーを、例えばCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1及び/又はCDRH2のような他のCDRの変異型を含むライブラリーと組み合わせることができる。よって、例えば、一実施態様では、CDRH3ライブラリーは予め定まったコドンセットを使用して位置28、29、30、31、及び/又は32に変異アミノ酸を持つヒト化4D5抗体配列の形態において作りだしたCDRL3ライブラリーと組み合わせられる。他の実施態様では、CDRH3に対する変異のライブラリーは変異CDRH1及び/又はCDRH2重鎖可変ドメインを含むライブラリーと組み合わせることができる。一実施態様では、CDRH1ライブラリーは位置28、30、31、32及び33に変異アミノ酸を持つヒト化抗体4D5配列を用いてつくり出される。CDRH2ライブラリーは予め定まったコドンセットを使用して位置50、52、53、54、56及び58に変異アミノ酸を持つヒト化抗体4D5の配列を用いてつくり出すことができる。
【0127】
抗体変異体
ファージライブラリーから生成される新規な抗体を更に修飾して、親抗体よりも改善した物理学的、化学的及び/又は生物学的特性を有する抗体変異体を生産することができる。使用するアッセイが生物学的活性アッセイである場合、抗体変異体は、選択したアッセイにおいて、該アッセイにおける親抗体の生物学的活性よりも少なくとも約10倍良好な、好ましくは少なくとも約20倍良好な、より好ましくは少なくとも約50倍良好な、時には少なくとも約100倍又は200倍良好な生物学的活性を有する。例えば、抗体変異体は、親抗体の結合親和性より、少なくとも約10倍強力な、好ましくは少なくとも約20倍強力な、より好ましくは少なくとも約50倍強力な、時には少なくとも約100倍又は200倍強力な、PirB/LILRBに対する結合親和性を有することが好ましい。
【0128】
抗体変異体を産生するためには、親抗体の高頻度可変領域の一又は複数中に一又は複数のアミノ酸修飾(例えば置換)が導入される。別法として、又は加えて、フレームワーク領域残基の一又は複数の修飾(例えば置換)を親抗体に導入することができ、これらにより第二の哺乳動物種由来の抗原に対する抗体変異体の結合親和性が改善される。修飾するためのフレームワーク領域残基の例には、抗原に非共有的に結合するもの(Amit等 (1986) Science 233:747-753);CDRと相互作用し/そのコンホメーションに影響を及ぼすもの(Chothia等 (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917);及び/又はVL−VH界面に関与するもの(欧州特許第239400号B1)が含まれる。ある実施態様では、そのようなフレームワーク領域残基の一又は複数の修飾により第二の哺乳動物種由来の抗原に対する抗原の結合親和性が向上する。例えば、約1から約5のフレームワーク残基を本発明のこの実施態様において改変することができる。しばしば、これは、高頻度可変領域が何ら改変されていない場合でさえ、前臨床試験に使用するのに適した抗体変異体を生じるのに十分でありうる。しかしながら、通常は、抗体は更なる高頻度可変領域の改変を含む。
【0129】
改変される高頻度可変領域残基は、特に親抗体の出発結合親和性が、無作為に生産された抗体変異体を直ぐにスクリーニングすることができるものである場合には、無作為に変化させることができる。
【0130】
そのような抗体変異体を産生するための一つの有用な方法は、「アラニンスキャンニング突然変異誘発法」(Cunningham及びWells Science 244:1081-1085 (1989))と呼ばれる。ここで、高頻度可変領域残基(群)の一又は複数が、第二の哺乳動物種からの抗原とのアミノ酸の相互作用をなすためにアラニン又はポリアラニン残基(群)によって置換される。ついで、置換に対する機能的感受性を示す高頻度可変領域残基(群)は、置換部位に又はそれに対して更なる又は他の変異を導入することにより洗練される。従って、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定されるが、変異の種類自体は予め決める必要はない。このようにして産生されるala変異体がここに記載したその生物活性についてスクリーニングされる。
【0131】
通常は、「好ましい置換」の表題で以下に示されているもののような保存的置換で始める。そのような置換が生物活性(例えば結合親和性)の変化を生じるならば、次の表において「例示的置換」と命名され、又はアミノ酸クラスを参照して以下に更に記載されるより実質的な変化が導入され、産物がスクリーニングされる。
【0132】
抗体の生物学的性質の更により実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋コンホメーション、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩の維持に対するそれらの効果が有意に異なる置換基を選択することにより達成される。天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいてグループ分けされる:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性の親水性:cys、ser、thr、asn、gln;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:his、lys、arg;
(5)鎖配向に影響する残基:gly、pro;及び
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
非保存的置換は、これらのクラスの一つのメンバーを他のクラスと交換することを必要とする。
他の実施態様では、修飾のために選択される部位がファージディスプレイを使用して親和性成熟される(上を参照)。
アミノ酸配列変異体をコードしている核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、限定されるものではないが、親抗体の先に調製された変異体又は非変異体型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、及びカセット突然変異誘発を含む。変異体を作製するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発(例えばKunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488を参照)である。
ある実施態様では、抗体変異体は単一の高頻度可変領域残基が置換されただけのものである。他の実施態様では、親抗体の高頻度可変領域残基の二以上が置換され、例えば約2から約10の高頻度可変領域置換である。
【0133】
通常、抗体変異体は、親抗体の重鎖又は軽鎖の何れかの可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に対する同一性又は類似性は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入し最大の配列同一性パーセントを達成した後に親抗体残基と同一(つまり同じ残基)又は類似(つまり共通の側鎖特性に基づく同じグループのアミノ酸残基、上を参照)である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセントとしてここで定義される。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端、又は内部の伸展、欠失、又は挿入は何れも配列同一性又は類似性に影響を及ぼすものとはみなされない。
【0134】
抗体変異体の産生後に、親抗体に対するその分子の生物活性が決定される。上に述べたように、これは抗体の結合親和性及び/又は他の生物活性を決定することを含みうる。本発明の好適な実施態様では、抗体変異体のパネルを調製し、抗原又はその断片に対する結合親和性についてスクリーニングする。この最初のスクリーニングから選択される抗体変異体の一又は複数に場合によっては一又は複数の更なる生物活性アッセイを施して、結合親和性が向上した抗体変異体が例えば前臨床研究に確かに有用であることが確認される。
【0135】
このように選択された抗体変異体は、しばしば抗体の意図される用途に応じて更なる修飾を受けることができる。そのような修飾は以下に詳細を記載したもののようなアミノ酸配列の更なる改変、異種ポリペプチドに対する融合及び/又は共有的修飾を含む。アミノ酸配列改変については例示的な修飾を上に詳細に説明した。例えば、抗体変異体の正しいコンホメーションを維持することに関与しない任意のシステイン残基はまた一般にはセリンで置換して、分子の酸化安定性を改善し異常な架橋を防止することができる。逆に、システイン結合を抗体に加えてその安定性を改善することができる(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。他のタイプのアミノ酸変異体は改変されたグリコシル化パターンを有する。これは抗体に見出される一又は複数の糖鎖部分を欠失させ、及び/又は抗体中に存在していない一又は複数のグリコシル化部位を加えることによって達成することができる。抗体のグリコシル化は典型的にはN結合又はO結合の何れかである。N結合とはアスパラギン残基の側鎖への糖鎖部分の付着を意味する。トリペプチド配列アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)がアスパラギン側鎖への糖鎖部分の酵素的付着に対する認識配列である。よって、ポリペプチドにおいてこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると潜在的なグリコシル化部位をつくる。O結合グリコシル化はヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニン(但し5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた使用できる)への糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つの付着を意味する。抗体へのグリコシル化部位の付加は、それが上述のトリペプチド配列(N結合グリコシル化部位に対する)の一又は複数を含むようにアミノ酸配列を改変することにより簡便に達成される。改変はまた元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加又は置換によって行うこともできる(O結合グリコシル化部位の場合)。
【0136】
(xii)抗体の組換え生産
抗体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター中に挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは直ぐに単離されるか合成されて、従来の手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするDNAに特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドを使用することによって)配列決定される。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分には、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列(例えば出典明示によりここに特に援用される米国特許第5534615号に記載のもの)である。
【0137】
ここに記載のベクター中のDNAをクローニング又は発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなくむしろ例示的なものである。
【0138】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。
【0139】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞はまた多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。綿、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、及びタバコの植物細胞培養をまた宿主として利用することができる。
【0140】
しかしながら、脊椎動物細胞における興味が最もあり、培養(組織培養)中の脊椎細胞の増殖は常套的な手順になった。有用な哺乳動物宿主細胞の例は、SV40(COS-7,ATCC CRL 1651)で形質転換させたサル腎CV1細胞株;ヒト胚腎細胞系(293又は懸濁培養で成長するようにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol. 36:59(1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK,ATCC CCL10);チヤイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4,Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251(1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76,ATCC CRL-1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA,ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝臓癌株(Hep G2)である。
【0141】
宿主細胞は、抗体生産のために上述の発現又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘発し、形質転換体を選出し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に改変された一般的栄養培地で培養される。
【0142】
本発明の抗体を産生するために使用される宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM)、(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM)、シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮増殖因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0143】
組換え技術を用いる場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔に生成され、又は培地内に直接分泌される。抗体が細胞内に生成された場合、第1の工程として、宿主細胞か溶解された断片の何れにしても、粒子状の細片が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。抗体が培地に分泌される場合は、そのような発現系からの上清を、一般的には先ず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過装置を用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めて、タンパク質分解を阻害してもよく、また抗生物質を含めて外来性の汚染物の成長を防止してもよい。
【0144】
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティクロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 16571575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他のマトリクスも使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(登録商標)樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂上でのSEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィー(例えばポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿法も、回収される多価抗体に応じて利用可能である。
【0145】
C.抗PirB/LILRB抗体の用途
本発明の抗PirB/LILRB抗体は、神経細胞の生存を亢進し又は伸長を誘導するための薬剤としての用途が見出されると考えられる。それらは、従って、例えば中枢神経系(脊髄及び脳)への物理的損傷;脳卒中に伴う脳損傷;及び神経変性に関連する神経障害、例えば三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板(invertebrate disk)症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものを含む、神経系の変性疾患(「神経変性疾患」)の治療に有用である。
【0146】
ここでの抗PirB/LILRB抗体はまたインビトロで神経細胞を培養するのに使用される培養培地の成分としても有用である。
【0147】
最後に、ここでの抗PirB/LILRB抗体を含む調製物は、放射性ヨウ素、酵素、フルオロフォア、スピン標識等で標識される場合、競合的結合アッセイにおける標準物質として有用である。
【0148】
ここでの抗PirB/LILRB抗体の治療的製剤は、所望の程度の純度を持つ抗体を、場合によって生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Edition, Osol., A., Ed., (1980))と、凍結乾燥ケーキ又は水溶液の形態で混合することにより貯蔵のために調製される。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween、Plutonics、又はPEG等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0149】
インビボ投与のために使用される抗PirB/LILRB抗体は無菌でなければならない。これは、凍結乾燥及び再構成の前又は後に、濾過滅菌膜による濾過によって容易に達成されうる。
【0150】
治療用組成物は、無菌のアクセスポートを具備する容器、例えば、皮下注射針で貫通可能なストッパーを持つ静脈内バッグ又はバイアル内に配されうる。
【0151】
本発明の抗PirB/LILRB抗体は、NGF、NT−3、及び/又はBDNFを含む神経栄養因子と場合によっては組み合わされ、又は併用して投与され、神経変性疾患のための他の一般的治療法と共に使用されうる。また、本発明の抗PirB/LILRB抗体は、有利には、NgR阻害剤、例えばNgRに対するNogo−66、MAG及び/又はOMgpの結合をブロックする抗体、小分子又はペプチドと併用して投与されうる。
【0152】
投与経路は既知の方法、例えば、以下に説明するように、静脈内、腹膜内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内又は病巣内経路での注射又は注入、局所投与、又は徐放系による。
【0153】
脳内投与の場合、化合物は、CNSの液貯留部(fluid reservoirs)中に注入により連続的に投与されうるが、ボーラス注入も許容できる。化合物は好ましくは脳の脳室中に投与されるか又はCNS又は髄液中に導入等される。投与は、ポンプのような連続投与手段を使用する留置カテーテルにより実施することができ、又は徐放性ビヒクルの移植、例えば脳内移植によって投与することができる。より詳細には、化合物は、慢性移植カニューレを通して注入されるか、又は浸透圧ミニポンプの補助で慢性的に注入されうる。脳室に小さなチュービングを通してタンパク質をデリバーする皮下ポンプを利用できる。非常に複雑なポンプは皮膚から再充填でき、そのデリバリー速度は外科的介入なしにセットできる。皮下ポンプ装置又は全体的に移植されたドラッグデリバリー系による連続側脳室内注入を含む適切な投与プロトコル及びデリバリー系の例は、Harbaugh, J. Neural Transm. Suppl., 24:271 (1987);及びDeYebenes等, Mov. Disord. 2:143 (1987)によって記載されているアルツハイマー患者及びパーキンソン病の動物モデルに対するドーパミン、ドーパミンアゴニスト、及び抗コリン性アゴニストの投与に対して使用されているものである。
【0154】
持続放出調製物の好適な例は、成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態で半透過性ポリマーマトリクスを含む。持続放出マトリクスは、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3773919号、EP58481)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman,等, 1983, Biopolymers 22:547)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer,等, 1981, J. Biomed. Mater. Res. 15:167;Langer, 1982, Chem. Tech. 12:98)、エチレン酢酸ビニル(Langer等, 同上)又はポリ-D-(−)-3-ヒドロキシ酪酸(EP133988A)を含む。持続放出組成物は、リポソームに捕捉された化合物をまた含み、これは、それ自体知られた方法により調製することができる。(Epstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. 82:3688 (1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4030 (1980);米国特許第4485045号及び第4544545号;及びEP102324A)。通常、リポソームは、脂質含有量が約30モル%コレステロール以上であり、選択される割合が最適な治療法に対して調整される微小(約200−800オングストローム)な単ラメラ状のものである。
【0155】
治療的に用いられる活性化合物の有効量は、例えば治療目的、投与経路、及び患者の状態に依存する。従って、治療専門家は、最適な治療効果が得られるように、投与量を滴定し投与経路を修正する必要がある。典型的な毎日の投薬量は、約1μg/kgから100mg/kg又はそれ以上の範囲であるかも知れない。典型的には、臨床医は、ニューロン機能を修復し、維持し、最適には再樹立する投薬量に達するまで活性化合物を投与する。この治療法の進行は常套的なアッセイによって容易にモニターされる。
【0156】
本発明の更なる詳細を次の非限定的な実施例によって例証する。
【0157】
実施例1
発現クローニングLILRB2
阻害性ミエリンタンパク質のための新規レセプターを同定するために、発現クローニングアプローチ法を採用した。ベイトとして、次の特徴付けられたミエリン阻害剤(ヒトcDNAを使用):Nogo66、NogoAの二つの更なる阻害ドメイン(NiR<デルタ>D2及びNiG<デルタ>20)(Oertle T, J Neurosci. 2003, 23(13): 5393-406)、MAG,及びOMgpのN−及び/又はC−末端にアルカリホスファターゼ(AP)を融合させたコンストラクトを生成させた。これらのコンストラクトを293細胞に形質移入して、ベイトタンパク質を含む条件培地(DMEM/2%FBS中)を製造した。スクリーニングに使用されたcDNAライブラリーは、Origeneによって製造された発現準備済みベクター中の完全長ヒトcDNAから構成されていた。これらのcDNAsを収集し、整列化させ、プール化した。およそ100のcDNAのプールをCOS7細胞中に一過性に形質移入した。
【0158】
特に、1日目に、COS7細胞を12ウェルプレート中に1ウェル当たり85000細胞の密度で播種した。2日目に、プール化cDNAの1mgを、脂質ベースの形質移入試薬FuGENE6(Roche)を使用して1ウェル毎に形質移入した。4日目に、スクリーニングを実施した。簡単に述べると、培養培地を細胞から取り除き、AP−融合ベイトタンパク質(20−50nM)を含む293細胞条件培地の0.5mlで置換した。細胞を室温で90分間、インキュベートした。ついで、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで7分間固定し、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)で3回洗浄し、65℃で90分間、熱失活させ、内在性AP活性を破壊した。細胞をAPバッファー(100mMのNaCl、5mMのMgCl2、100mMのTris pH9.5)で一回洗浄し、発色基質(Western Blue, Promega)中でインキュベートし、インキュベーションの1時間後と一晩のインキュベーション後に再び反応生成物の存在について分析した。陽性細胞を膜表面にわたる暗青色の沈殿物の存在によって同定した。陽性プールを更に破壊して、続くスクリーニング実験によって個々の陽性クローンを同定した。
【0159】
スクリーニングから、次の陽性ヒット(的中)を同定した:
MAG−APベイトは4つの陽性ヒットを生じた。一つは過去に特徴付けられたNogoレセプター(Fournier等, Nature 409, 342-346 (2001))であった。これらのヒットの二つは糖分解プロセス酵素であり、関連性はないように思われた。第四のものは「クローン643由来ホモサピエンス仮説タンパク質(LOC57228)mRNA」と注釈された。cDNAの密な分析により、過去に記載されたタンパク質SMAGと相同であった他のORFが明らかになった。
【0160】
AP−Nogo66ベイトは2つの陽性ヒットを生じた。一つは過去に特徴付けられたNogoレセプターであった。他のものは「ホモサピエンス白血球免疫グロブリン様レセプター,サブファミリーB(TM及びITIMドメインを含む)メンバー2(LILRB2)mRNA」(配列番号2)であった。この遺伝子はまたMIG10、ILT4、及びLIR2を含む複数の別名でも知られている(Kubagawa等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5261-6 (1997);Colonna等, J. Exp. Med. 186:1809-18 (1997))。
【0161】
実施例2
PirB機能ブロック抗体の調製及び試験
PirB機能ブロック抗体
PirBに対する抗体を、PirB細胞外ドメインに対して合成ファージ抗体ライブラリーをパンニングすることによって産生させた(W. C. Liang等, J Mol Biol 366, 815 (2007))。ついで、抗体クローン(10mg/ml)を、PirB発現COS7細胞に対するAP−Nogo66(50nM)の結合をブロックするその能力についてインビトロで試験した。様々なYW259抗マウスPirB(抗mPirB)抗体の重鎖及び軽鎖配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列を図6−16、及び17及び18に示す。図17及び18はまたそれぞれYW259.2、YW250.9及びYW259.12の重鎖及び軽鎖内の高頻度可変領域配列を示す。
【0162】
神経突起伸長アッセイ
ポリ−D−リジンで前もって被覆された96ウェルプレート(Biocoat, BD)をミエリン(0.75μg/ml)で一晩又はAP−Nogo66又はMAG−Fc(150−300ng/スポット)で2時間被覆し、ついでラミニン(F−12中10μg/ml)で2時間(CGN培養)又は4時間(DRG培養)処理した。マウスP7小脳ニューロンを過去に記載されているようにして(B. Zheng等, Proc Natl Acad Sci U S A 102, 1205 (2005))培養し、1ウェル当たり〜2×104細胞で蒔いた。マウスP10DRGニューロンを過去に記載されているようにして(上掲のZheng等, 2005)培養し、1ウェル当たり〜5×103細胞で蒔いた。培養物を5%のCO2を用いて37℃で22時間増殖させた後、4%のパラホルムアルデヒド/10%のスクロースで固定し、抗βIII−チューブリン(TuJ1, Covance)で染色した。各実験では、全ての条件は6通りの複製ウェルで実施し、それから最大の神経突起長を測定し、平均値を6ウェル間で決定した。各実験は少なくとも三回実施し、同様の結果であった。p値はスチューデント検定を使用して決定した。
【0163】
成長円錐崩壊アッセイ
DRG外植片を、3週齢のマウスからDRGを解体し、それを3つにスライスすることにより単離した。ついで、各DRG外植片を、8ウェルプレートから個々のPDL(100μg/ml)被覆及びラミニン(10μg/ml)被覆ウェル中で培養した。播種後72時間で、外植片をAP−Nogo66(100nM)又はミエリン(3mg/ml)と共に30分インキュベートして破壊を刺激した。培養物を4%のパラホルムアルデヒド/10%のスクロースで固定し、ついで、成長円錐をローダミン−ファロイジン(Molecular Probes)染色によって可視化し、破壊についてスコア化した。平均成長円錐破壊を、少なくとも3つの複製ウェルを平均することによって決定した。
【0164】
結果
PirBがNogo66に対する機能的レセプターであるかどうかに取り組むために、我々は、神経突起伸長がAP−Nogo66で増殖されるときに阻害される(K.C. Wang等, Nature 420,74 (2002))若年性(P7)小脳顆粒ニューロン(CGN)に焦点を当てた。成人CGNはPirBを発現することが示されており(J. Syken等, Science 313,1795 (2006))、我々は、RT−PCR、免疫組織化学及びインサイツハイブリダイゼーションによって評価して若年性CGNの場合も同じであることを見出した(データは示さず)。
【0165】
先ず、AP−Nogo66阻害を妨害するPirB(PirB−His)の可溶性外部ドメインの能力をインビトロで試験した。図2Aに示されるように、AP−Nogo66は、未処理コントロールレベルのおよそ66%までP7CGNの神経突起伸長を阻害する。このアッセイにおけるPirB−Hisの含有はAP−Nogo66阻害を逆にし、神経突起伸長は本質的にコントロールレベルに戻る。これらの結果は、Nogo66による阻害をブロックするためにNgRの外部ドメインを使用して報告されたものと同様であり(B Zgeng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1205 (2005);A. E. Fournier等, J. Neurosci. 22, 8876 (200);Z. L. He等, Neuron 38, 177 (2003))、PirBがNogo66の機能的に阻害性のドメインに結合可能であるが、CGN中の内在性PirBがAP−Nogo66による阻害を媒介するかどうかには対処できないことを示している。
【0166】
従って、PirB−Nogo66相互作用を妨害することができる抗体をPirB(抗PirB)に対して産生させた。PirBの細胞外ドメインに対してファージディスプレイプラットフォーム(W.C. Liang等, J. Mol. Biol. 366, 815 (2007))を使用して、複数のクローンを、AP−Nogo66のPirBへの結合を阻害するその能力についてスクリーニングした。AP−Nogo66−PirB結合を最も妨害したクローンYW259.2(ここではaPB1と称する)は、PirBに対して5nMのKdを有していた(図13−16を参照)。
【0167】
aPB1はCGNsのベースライン軸索伸長には効果がなかった。しかしながら、aPB1は培養されたCGN中においてAP−Nogo66又はミエリンによる阻害を有意に低減させ(図2B)、神経突起伸長をAP−Nogo66で41%から59%まで、ミエリンで47%から62%までレスキューした。同様の結果が、阻害性基質としてMAGを使用して、又は異なった細胞型(後根神経節(DRG)ニューロン)を使用して(図5)、見られた。これらの結果は、PirBが神経突起伸長の長期の阻害を媒介する機能的レセプターであると反論する。
【0168】
この結果を確認するために、膜貫通ドメイン及びPirB細胞内ドメインの一部をコードする4つのエキソンが除去されたPirBTMマウス由来のニューロンを培養することにより(J. Syken等, Science 313,1795 (2006))、細胞表面PirBの遺伝子的除去がまたAP−Nogo66又はミエリンによる阻害を逆にするかどうかを試験した。PirBTMマウス又は野生型(WT)同腹仔由来のCGNをコントロール基質、AP−Nogo66又はミエリンで培養した。コントロール基質(PDL/ラミニン)では、PirBTMニューロンはWTニューロンと同様に挙動した(図2C)。しかしながら、PirBTMニューロンからの神経突起伸長は、AP−Nogo66又はミエリンの何れかでのWTニューロン由来よりも顕著に阻害が少なかった。AP−Nogo66では、WTニューロンからの伸長はコントロールレベルの50%まで阻害されたが、PirBTMニューロンは66%までだけ阻害された。同様に、ミエリンでは、WTニューロンはコントロールレベルの52%まで阻害されたが、PirBTMニューロンは70%までだえ阻害された。再び、我々はミエリン及びAP−Nogo66双方でのPirBTM DRGニューロンの同様な部分的な脱抑制を観察した(図5)。これらの知見は、PirBが確かに神経突起成長のAP−Nogo66及びミエリン媒介阻害に対する機能的レセプターであることをを示している。しかしながら、PirB活性の喪失は伸長を完全にはレスキューしない。
【0169】
NgRは過去にミエリン阻害剤のレセプターとして記載されているので、PirB及びNgRが共に機能して神経突起伸長の阻害を媒介することが可能である。これに取り組むために、抗PirBの存在下でNgR欠損マウス由来のニューロンを培養することによりCGNにおいてPirB及びNgR機能の双方をブロックした。我々が過去に報告したように(上掲のB. Cheng等, PNAS 2005)、NgR−/−CGN神経突起伸長はWTニューロンにおけるものと同じ程度までAP−Nogo66又はミエリンによって阻害される(50%及び49%;図3)。NgR+/−ニューロンのaPB1抗体処置が、WTニューロンのaPB1処理に対して上で見られるように、AP−Nogo66又はミエリンの何れかによる阻害を部分的に逆にした。同様に、NgR−/−ニューロンのaPB1処置はAP−Nogo66による阻害を部分的に逆にしたが、NgR+/−ニューロン又はWTニューロンのaPB1処理で見られるものよりも更なるレスキューはもたらさなかった。これに対して、NgR−/−ニューロンのaPB1処理は、略コントロールレベルまでミエリンでの神経突起伸長を回復させた。よって、NgRではないが、PirBはCGNにおけるAPNogo66による基質阻害に必要とされるが、部分的にだけであると思われる。更に、PirB及びNgRの双方がミエリンにより付与される基質阻害に寄与する。
【0170】
NgRは様々なミエリン阻害剤に応答して成長円錐破壊に必要とされること考えられるので(J.E. Kim等, Neuron 44, 439 (2004), O.Chivatakarn等, J. Neurosci. 27, 7117 (2007))、PirBがまたこのより急性の応答に関与していることが可能である。PirBを発現することが確認された3週齢のマウスの後根神経節(DRG)からの感覚ニューロンをこの実験に使用した。この培養系における成長円錐は高いベースラインレベルの破壊(〜30%)を有しており、これはAPNogo66又はミエリンとのインキュベーションによって更に増加する(図4)ことが見出された。この破壊はNgR−/−ニューロンにおいて大きく消滅した。加えて、aPB1でのブロックPirB機能はまたこれら阻害剤による成長円錐破壊を逆にするのに十分である。PirB及びNgR経路双方の阻害(NgR−/−マウス由来のニューロンへのaPB1処理を使用)はまた成長円錐破壊を完全に逆にしたが、この結果は、何れの処置もこのアッセイでは完全なレスキューを与えたので、情報価値はなかった。
【0171】
他の実験では、C1QTNF5が小脳顆粒ニューロン(CGN)の神経突起伸長を阻害し、この阻害はPirB機能ブロック抗体YW259.2によって逆になった。結果は図19に示す。
【0172】
併せて、これらの結果は、ミエリン抽出物、より詳細にはミエリン関連阻害剤Nogo66及びMAGによる神経突起阻害のための必要なレセプターとしてのPirBの新規な役割を支援する。実際、PirBは、PirB機能単独の除去(遺伝的に又は抗体を使用して)がミエリン抽出物及びミエリン阻害剤双方での成長を部分的に脱抑制する一方、NgR単独の遺伝子除去はこれらの基質の何れでも脱抑制しないので、NgRよりも基質阻害のより有意なメディエーターであると思われる。しかしながら、NgRは、NgRの遺伝子除去がミエリン(しかしNogo66でではない)への抗PirB抗体によって引き起こされる脱抑制を増強しうるので、ミエリン抽出物(しかしNogo66ではない)による阻害の媒介に補助的役割を担っているようである。我々の知見は、NgR外部ドメインが注入された齧歯類に見られる報告された再生又は出芽にもかかわらず(S. Li等, J. Neurosci. 24, 10511 (2004))、NgRノックアウトマウスにおける亢進されたCST再生の驚くべき欠如を説明するのに役立ちうる(上掲のJ.E. Kim等, B. Zheng等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 1205 (2005))。よって、インビボでの有意な再生を達成するためにはPirB及びNgRの双方を取り除くことが必要であるかも知れない。加えて、Nogo66基質では、NgRの遺伝子除去がPirB除去の部分的な脱抑制効果を更に増強することはないので、Nogo66に対して更なる結合レセプターが存在するようである。
【0173】
PirBはNgRよりも基質阻害のためのより有意なレセプターであるようであるが、PirB又はNgRの何れか単独の不活性化が、ミエリン阻害剤の添加によって引き起こされる急性成長円錐破壊をブロックするのに十分である。この知見は、破壊がより要望されるプロセスで、PirB及びNgR活性の双方を必要とし、平行にあるいは一緒に作用することを示唆している。この文脈において、PirB及びNgRレセプターが視覚野におけるシナプス結合の可塑性の制限に同様の役割を果たしていることが最近示されていることは興味深い:何れかのレセプターを欠くマウスでは、重要な発達期間中の眼の閉鎖が開いた眼を介する結合の過剰な強化を生じる(上掲のJ. Syken等, 2006, 上掲のA.W. McGee等, Science 309, 2222 (2005))。成長円錐破壊の媒介における双方のレセプターの効果の原因となっている機序はまた眼球優位性可塑性におけるその役割の共有性の基礎にありうる。
【0174】
損傷後に成体軸索を再生できないことは、CNSへの外傷性侵襲後における機能の再獲得に対する主要な障害である。過剰な又は過剰増殖性シナプス結合の発達を制限する目的で、シナプス可塑性の能力が年齢と共に限られてくると、再生潜在力が減退することが推測されている。この推測は、発育中及び成人期の双方におけるシナプス可塑性の制限に過去に関係付けられている(上掲のJ. Syken等, 2006)PirBがまたミエリンによる軸索阻害のメディエーターであるという知見からサポートを獲得しており、初期に軸索阻害に関係付けられているNgRがシナプス可塑性を同様に調節するという知見を平行に提供する(S. Li等, J. Neurosci. 24, 10511 (2004))。
【0175】
我々の知見はまたクラスI MHC分子の範囲を超えて潜在的なPirBリガンドのレパートリーを広くし、ニューロン再成長阻害剤を含む。逆に、既知のミエリン阻害剤Nogo又はMAGの遺伝子欠失がミエリンによる阻害の最も少ない減少を生じるだけなので(他の阻害剤が存在することを意味する)、我々の知見は、正常にはオリゴデンドロサイトによって低レベルで発現されるMHCI分子が、損傷後にアップレギュレートされ、中枢ミエリンによるNogo及びMAGと一致して伸長阻害に寄与しうる可能性を提起する。
【0176】
PirBがミエリン阻害剤に応答して軸索伸長を阻害するシグナルを発する機序は明らかではない。しかしながら、PirBはインテグリンレセプターの機能をアンタゴナイズ(S. Pereira等, J. Immunol. 173:5757 (2004))し、SHP−1及びSHP−2ホスファターゼの双方を補充することが示された;これらの事象の何れか又は双方が正常な神経突起伸長を減弱できた。ここでの抗PirB抗体を使用するか又は他の手段によるPirB活性のブロックは、軸索再生を刺激するための治療介入の重要な新規標的を提供する。
【0177】
該開示を通して引用された全ての文献は出典明示によりその全体をここに明示的に援用する。
【0178】
本発明を特定の実施態様であると考えられるものを参照して説明したが、本発明はそのような実施態様には限定されないことが理解されなければならない。それとは反対に、本発明は添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれる様々な変形例及び均等物をカバーするものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体と同じヒトPirB(LILRB)上のエピトープに結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項2】
YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体とヒトPirB(LILRB)への結合について競合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項3】
YW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含む単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項4】
抗体がYW259.2抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号4又は11)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
抗体がYW259.9抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号5又は12)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項6】
抗体がYW259.12抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号6又は13)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項7】
軽鎖を更に含む請求項3から6の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記軽鎖が配列番号15のポリペプチド配列の一、二又は三の高頻度可変配列を含む請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
前記軽鎖が配列番号7又は15のポリペプチド配列の全ての高頻度可変領域配列を含む請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
抗体YW259.2、YW259.9,及びYW259.12からなる群から選択される請求項3に記載の抗体。
【請求項11】
抗体の完全長IgG型が5nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirB(LILRB)に特異的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項12】
抗体の完全長IgG型が1nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirB(LILRB)に特異的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項13】
軸索再生を促進する請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項14】
CNSニューロンの再生を促進する請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項15】
Nogo66及びミエリンによる神経突起伸長阻害を少なくとも部分的にレスキューする請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項16】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項17】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、親和性成熟抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体からなる群から選択される請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項18】
抗体が抗体断片である請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項19】
抗体がイムノコンジュゲートである請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項20】
請求項1−12の何れか一項の抗体、又はそのその重鎖又は軽鎖をコードするポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項20のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【請求項22】
ベクターが発現ベクターである請求項21のベクター。
【請求項23】
請求項21のベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項24】
宿主細胞が原核生物である請求項23の宿主細胞。
【請求項25】
宿主細胞が真核生物である請求項23の宿主細胞。
【請求項26】
宿主細胞が哺乳動物である請求項25の宿主細胞。
【請求項27】
抗PirB/LILRB抗体を製造するための方法であって、(a)請求項22のベクターを適切な宿主細胞中において発現させ、(b)抗体を回収することを含む方法。
【請求項28】
宿主細胞が原核生物である請求項27の方法。
【請求項29】
宿主細胞が真核生物である請求項27の宿主細胞。
【請求項30】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体と薬学的に許容可能な賦形剤を含有する組成物。
【請求項31】
組成物が第二医薬を更に含み、抗PirB/LILRB抗体が第一医薬である、請求項30の組成物。
【請求項32】
第二医薬がNgR阻害剤である請求項31の組成物。
【請求項33】
NgR阻害剤が抗NgR抗体である請求項32の組成物。
【請求項34】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体を含んでなるキット。
【請求項35】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む軸索再生促進方法。
【請求項36】
被験者がヒト患者である請求項35の方法。
【請求項37】
生存又はニューロンが亢進される請求項36の方法。
【請求項38】
ニューロン伸長が誘導される請求項36の方法。
【請求項39】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む神経変性疾患の治療方法。
【請求項40】
神経変性疾患が中枢神経系に対する物理的損傷により特徴付けられる請求項39の方法。
【請求項41】
神経変性疾患が脳卒中に伴う脳損傷である請求項40の方法。
【請求項42】
神経変性疾患が、三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものからなる群から選択される請求項39の方法。
【請求項43】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体。
【請求項1】
YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体と同じヒトPirB(LILRB)上のエピトープに結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項2】
YW259.2、YW259.9及びYW259.12からなる群から選択される抗体とヒトPirB(LILRB)への結合について競合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項3】
YW259.2重鎖(配列番号4又は11)、YW259.9重鎖(配列番号5又は12)、及びYW259.12重鎖(配列番号6又は13)からなる群から選択される重鎖由来の一、二、又は三の高頻度可変領域配列を含む単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項4】
抗体がYW259.2抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号4又は11)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
抗体がYW259.9抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号5又は12)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項6】
抗体がYW259.12抗体重鎖の全ての高頻度可変領域配列(配列番号6又は13)を含む請求項3に記載の抗体。
【請求項7】
軽鎖を更に含む請求項3から6の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記軽鎖が配列番号15のポリペプチド配列の一、二又は三の高頻度可変配列を含む請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
前記軽鎖が配列番号7又は15のポリペプチド配列の全ての高頻度可変領域配列を含む請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
抗体YW259.2、YW259.9,及びYW259.12からなる群から選択される請求項3に記載の抗体。
【請求項11】
抗体の完全長IgG型が5nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirB(LILRB)に特異的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項12】
抗体の完全長IgG型が1nM又はそれ以上の結合親和性でヒトPirB(LILRB)に特異的に結合する単離された抗PirB/LILRB抗体。
【請求項13】
軸索再生を促進する請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項14】
CNSニューロンの再生を促進する請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項15】
Nogo66及びミエリンによる神経突起伸長阻害を少なくとも部分的にレスキューする請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項16】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項17】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、親和性成熟抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体からなる群から選択される請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項18】
抗体が抗体断片である請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項19】
抗体がイムノコンジュゲートである請求項1−12の何れか一項の抗体。
【請求項20】
請求項1−12の何れか一項の抗体、又はそのその重鎖又は軽鎖をコードするポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項20のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【請求項22】
ベクターが発現ベクターである請求項21のベクター。
【請求項23】
請求項21のベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項24】
宿主細胞が原核生物である請求項23の宿主細胞。
【請求項25】
宿主細胞が真核生物である請求項23の宿主細胞。
【請求項26】
宿主細胞が哺乳動物である請求項25の宿主細胞。
【請求項27】
抗PirB/LILRB抗体を製造するための方法であって、(a)請求項22のベクターを適切な宿主細胞中において発現させ、(b)抗体を回収することを含む方法。
【請求項28】
宿主細胞が原核生物である請求項27の方法。
【請求項29】
宿主細胞が真核生物である請求項27の宿主細胞。
【請求項30】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体と薬学的に許容可能な賦形剤を含有する組成物。
【請求項31】
組成物が第二医薬を更に含み、抗PirB/LILRB抗体が第一医薬である、請求項30の組成物。
【請求項32】
第二医薬がNgR阻害剤である請求項31の組成物。
【請求項33】
NgR阻害剤が抗NgR抗体である請求項32の組成物。
【請求項34】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体を含んでなるキット。
【請求項35】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む軸索再生促進方法。
【請求項36】
被験者がヒト患者である請求項35の方法。
【請求項37】
生存又はニューロンが亢進される請求項36の方法。
【請求項38】
ニューロン伸長が誘導される請求項36の方法。
【請求項39】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体の有効量を、必要とする被験者に投与することを含む神経変性疾患の治療方法。
【請求項40】
神経変性疾患が中枢神経系に対する物理的損傷により特徴付けられる請求項39の方法。
【請求項41】
神経変性疾患が脳卒中に伴う脳損傷である請求項40の方法。
【請求項42】
神経変性疾患が、三叉神経痛、舌咽神経痛、ベル麻痺、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、進行性筋萎縮症、進行性延髄遺伝性筋萎縮症、身体的傷害(例えば火傷、創傷)又は疾患状態、例えば糖尿病、腎不全又は癌及びAIDSの治療に使用される化学療法剤の毒作用によって引き起こされる末梢神経損傷、遺伝性、破裂性又は脱出性無脊椎動物椎間板症候群、頸部脊椎症、神経叢疾患、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、例えば鉛、ダプソン、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病によって引き起こされるものからなる群から選択される請求項39の方法。
【請求項43】
請求項1−12の何れか一項の抗PirB/LILRB抗体に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【公表番号】特表2011−523359(P2011−523359A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509642(P2011−509642)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/043757
【国際公開番号】WO2009/140361
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/043757
【国際公開番号】WO2009/140361
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
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