説明

折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法

【課題】アルミニウム電解コンデンサに用いられる電極材、触媒担体とし有用な、折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Si含有量が100〜3000ppm、平均粒径0.5μm以上100μm以下のであるアルミニウム合金粉末を含む組成物をアルミニウム箔に塗布して皮膜を形成し、560℃以上660℃以下の温度で焼結し、平均厚み20μm以上1000μm以下の箔状多孔質アルミニウム材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサに用いられる電極材、触媒担体等として有用な、折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサは、安価で高容量を得ることができるため、広く使われている。一般に、アルミニウム電解コンデンサ用電極材としてはアルミニウム箔が使用されている。
【0003】
一般に、アルミニウム電解コンデンサ用電極材は、エッチング処理を行い、エッチングピットを形成することにより、表面積を増大させることができる。そして、その表面に陽極酸化処理を施すことにより、酸化皮膜を形成し、これが誘電体として機能する。このため、アルミニウム箔をエッチング処理し、その表面に使用電圧に応じた種々の電圧で陽極酸化皮膜を形成することにより、用途に適合する各種の電解コンデンサ用アルミニウム陽極用電極(箔)を製造することができる。
【0004】
エッチング処理ではエッチングピットと呼ばれる孔がアルミニウム箔に形成されるが、エッチングピットは陽極酸化電圧に対応した種々の形状に処理される。
【0005】
具体的には、中高圧用のコンデンサ用途には、厚い酸化皮膜を形成する必要がある。このため、そのような厚い酸化皮膜でエッチングピットが埋まらないように、中高圧陽極用アルミニウム箔では、主に直流エッチングを行うことによりエッチングピット形状をトンネルタイプとし、電圧に応じた太さに処理される。一方、低圧用コンデンサ用途では、細かいエッチングピットが必要であり、主には交流エッチングによって海綿状のエッチングピットを形成させる。また、陰極用箔についても、同様にエッチングにより表面積を拡大させている。
【0006】
しかしながら、これらのエッチング処理ではいずれも、塩酸中に硫酸、燐酸、硝酸等を含有する塩酸水溶液を使用しなければならない。即ち、塩酸は、環境面での負荷が大きく、その処理も工程上又は経済上の負担になる。このため、エッチング処理によらない多孔質アルミニウム箔の開発が望まれている。
【0007】
これに対し、表面に微細なアルミニウム粉末を付着させたアルミニウム箔を用いたことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサが提案されている(特許文献1)。また、箔厚が15μm以上35μm未満である平滑なアルミニウム箔の片面又は両面に、2μm〜0.01μmの長さ範囲で自己相似となるアルミニウム及び/又は表面に酸化アルミニウム層を形成したアルミニウムからなる微粒子の凝集物が付着した電極箔を用いた電解コンデンサも知られている(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、これらの文献で開示されているメッキ及び/又は蒸着によりアルミニウム粉末をアルミニウム箔に付着させる方法では、少なくとも、中高圧用のコンデンサ用途の太いエッチングピットの代用とするには十分なものとは言えない。
【0009】
これに対し、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の焼結体からなる電解コンデンサ用電極材が提案されている(特許文献3)。この電極材は焼結体からなるためもとより多孔質であり、エッチング処理することなく陽極酸化処理することによりアルミニウム電解コンデンサ用電極として使用することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献3の電解コンデンサ用電極材は、従来のエッチング箔と比べて折り曲げ強度が低いという課題がある。しかも、静電容量を高めるためには微細なアルミニウム及びアルミニウム合金を用いる必要があり、静電容量と折り曲げ強度の両方を同時に改善することは困難である。
【0011】
上記焼結体からなるアルミニウム材料は、電解コンデンサ用電極材の用途だけでなく、その内部に三次元的な貫通孔を有している多孔質な特徴を利用して、触媒担体などの他の用途にも応用することが期待されている。
【0012】
従来、多孔質アルミニウム材料を触媒担体に用いた例としては、例えば、汚染された大気を浄化する触媒体の触媒担体として、アルミニウム基板をエッチング処理することによってアルミニウム基板面に垂直にピットを形成したものが開示されている(特許文献4)。具体的には、エッチングによってアルミニウム基板の表面積を拡大した後、陽極酸化処理することにより微細孔を有する皮膜を形成し、当該微細孔に白金、パラジウム等を担持させて触媒体としている。しかしながら、特許文献4のように基板面に垂直にピットを形成した場合には大気の通過方向は基板の厚み方向のみとなるため、大気の通過距離を大きくする場合には基板を積層しなければならないという問題がある。
【0013】
これに対し、三次元的な貫通孔を有している焼結体からなるアルミニウム材料は、大気の通過方向は自在である。そのため、焼結体からなるアルミニウム材料を任意の幅で巻回して、その幅を大気の通過距離とすることも可能である。
【0014】
このような幅広い用途に応用するためにも、折り曲げ強度(折り曲げ加工性)を向上させることが望まれている。
【0015】
以上を踏まえ、上記焼結体からなる多孔質アルミニウム材料であって、折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平2−267916号公報
【特許文献2】特開2006−108159号公報
【特許文献3】特開2008−98279号公報
【特許文献4】特開2008−126151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、焼結体からなる多孔質アルミニウム材料であって、折り曲げ強度が向上した多孔質アルミニウム材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、特定のアルミニウム合金の焼結体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、下記の多孔質アルミニウム材料及びその製造方法に関する。
1. Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の焼結体からなることを特徴とする多孔質アルミニウム材料。
2. 前記焼結体が、前記アルミニウム合金の粒子どうしが互いに空隙を維持しながら焼結したものである、上記項1に記載の多孔質アルミニウム材料。
3. 前記焼結体が、平均厚み20μm以上1000μm以下の箔状である、上記項1又は2に記載の多孔質アルミニウム材料。
4. 前記アルミニウム材料を支持する基材をさらに含む、上記項1〜3のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
5. 前記基材がアルミニウム箔である、上記項4に記載の多孔質アルミニウム材料。
6. アルミニウム電解コンデンサ用電極材である、上記項1〜5のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
7. 触媒担体である、上記項1〜5のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
8. 多孔質アルミニウム材料を製造する方法であって、
(1)Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する第1工程及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程
を含むことを特徴とする、多孔質アルミニウム材料の製造方法。
9. 前記粉末が、平均粒径0.5μm以上100μm以下である、上記項8に記載の製造方法。
10. 前記組成物が、樹脂バインダ及び溶剤の少なくとも1種を含む、上記項8又は9に記載の製造方法。
【0020】
以下、本発明の多孔質アルミニウム材料及びその製造方法について詳細に説明する。
1.多孔質アルミニウム材料
本発明の多孔質アルミニウム材料は、Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の焼結体からなることを特徴とする。
【0021】
上記焼結体は、Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金から実質的に構成される。つまり、Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末から焼結体を作製することにより、従来と比べて折り曲げ強度が向上した焼結体が得られる。なお、焼結体は、上記アルミニウム合金から実質的に構成されるが、折り曲げ強度に影響しない範囲でSi含有量の異なるアルミニウム合金又はアルミニウムが不可避的に含まれることは許容される。
【0022】
上記アルミニウム合金としては、公知のAl合金粉末の中からSi含有量が上記範囲に含まれるものを採用することができる。
【0023】
アルミニウム合金のSi含有量は100〜3000重量ppmであればよく、100重量ppmを超えて3000重量ppm以下であれば好ましく、110〜3000重量ppmがより好ましく、110〜2000重量ppmが最も好ましい。他の合金成分としては、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)及びジルコニウム(Zr)等の元素の1種又は2種以上が挙げられるが、Si以外のこれらの元素の含有量は、それぞれ100重量ppm以下、特に50重量ppm以下とすることが好ましい。本発明では、特に鉄(Fe)の含有量が低いことが好ましく、80重量ppm以下、特に50重量ppm以下に設定することが好ましい。
【0024】
前記焼結体は、上記アルミニウム合金の粒子どうしが互いに空隙を維持しながら焼結したものであることが好ましい。つまり、各粒子どうしが空隙を維持しながら繋がり、三次元網目構造を有していることが好ましい。
【0025】
このような多孔質焼結体とすることにより、例えば、本発明の多孔質アルミニウム材料をアルミニウム電解コンデンサ用電極材とする場合には、エッチング処理を施さなくても、十分な静電容量を得ることが可能となる。また、本発明の多孔質アルミニウム材料を触媒担体とする場合には、触媒成分を効率的に分散・担持することが可能である。更に、ガスの通過方向が一方向に限定されないため、多孔質アルミニウム材料を任意の幅で巻回し、その幅を調整することによりガスの通過距離を調整することも可能である。
【0026】
前記焼結体の気孔率は、通常30%以上の範囲内で所望の用途に応じて適宜設定できる。その中でも、折り曲げ強度の観点からは40〜55%が好ましい。また、気孔率は、例えば、出発材料のアルミニウム合金の粉末の粒径、その粉末を含むペースト組成物の組成(樹脂バインダ)等により制御することができる。
【0027】
前記焼結体の形状は特に制限されないが、一般的には平均厚み20μm以上1000μm以下、特に50μm以上600μm以下の箔状であることが好ましい。平均厚みは、マイクロメーターで測定した10点の測定値の平均である。
【0028】
本発明の多孔質アルミニウム材料は、用途に応じて、多孔質アルミニウム材料を支持する基材をさらに含んでいても良い。基材としては、特に限定されないが、本発明の多孔質アルミニウム材料の用途がアルミニウム電解コンデンサ用電極材の場合には、アルミニウム箔を好適に用いることができる。また、触媒担体などの場合には、アルミニウム箔などの金属箔、樹脂シート等を好適に用いることができる。
【0029】
基材としてのアルミニウム箔は、特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。本発明で用いられるアルミニウム箔は、その組成として、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金あるいは上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。
【0030】
アルミニウム箔の厚みは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下、特に、10μm以上50μm以下の範囲内とするのが好ましい。
【0031】
上記のアルミニウム箔は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、上記の所定の組成を有するアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施すことにより、アルミニウム箔を得ることができる。
【0032】
なお、上記の冷間圧延工程の途中で、50℃以上500℃以下、特に150℃以上400℃以下の範囲内で中間焼鈍処理を施しても良い。また、上記の冷間圧延工程の後に、150℃以上650℃以下、特に350℃以上550℃以下の範囲内で焼鈍処理を施して軟質箔としても良い。
【0033】
本発明の多孔質アルミニウム材料は、触媒担体などの用途のほか、低圧用、中圧用又は高圧用のいずれのアルミニウム電解コンデンサにも使用することができる。特に中圧又は高圧用(中高圧用)アルミニウム電解コンデンサとして好適である。
【0034】
特に、アルミニウム電解コンデンサ用電極として使用する場合には、多孔質アルミニウム材料をエッチング処理せずに使用することができる。即ち、本発明の多孔質アルミニウム材料は、エッチング処理することなく、そのまま又は陽極酸化処理することにより電極(電極箔)として使用することができる。
【0035】
そして、本発明の多孔質アルミニウム材料を用いた陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層し、巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子を電解液に含浸させ、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口することによって電解コンデンサが得られる。
【0036】
また、触媒担体として使用する場合には、多孔質アルミニウム材料をそのまま又は陽極酸化処理した後に触媒担体として使用することができる。例えば、脱臭又は揮発性有機化合物や自動車排気ガス等の分解処理に適用する場合には、担持触媒として、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、錫、これらの合金又は混合物が挙げられる。担持触媒の粒子径や担持量については、触媒の使用目的などに応じて適宜選択する。触媒を担持する方法は限定されず、公知の含浸法(加圧含浸、減圧含浸)、ゾルゲル法、電気泳動法が利用できる。
2.多孔質アルミニウム材料の製造方法
本発明の多孔質アルミニウム材料を製造する方法は、
(1)Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する第1工程及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程
を含むことを特徴とする。
【0037】
第1工程
第1工程では、Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する。
【0038】
アルミニウム合金の組成(成分)としては、Si含有量が100〜3000重量ppmであれば限定されず、前記で掲げたものを用いることができる。
【0039】
前記粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できる。特に、球状粒子からなる粉末が好ましい。球状粒子からなる粉末の平均粒径は0.5μm以上100μm以下、特に1μm以上20μmが好ましい。多孔質アルミニウム材料の用途がアルミニウム電解コンデンサ用電極材である場合には、平均粒径が0.5μmより小さいと、所望の耐電圧が得られないおそれがある。また、100μmより大きいと、所望の静電容量が得られないおそれがある。
【0040】
上記粉末は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、その他の急冷凝固法等が挙げられるが工業的生産にはアトマイズ法、特にガスアトマイズ法が好ましい。即ち、溶湯をアトマイズすることにより得られる粉末を用いることが望ましい。
【0041】
前記組成物は、必要に応じて樹脂バインダ、溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていても良い。これらはいずれも公知又は市販のものを使用することができる。特に、本発明では、樹脂バインダ及び溶剤の少なくとも1種を含有させてペースト状組成物として用いることが好ましい。これにより効率よく皮膜を形成することができる。樹脂バインダは限定的でなく、例えば、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、ニトロセルロース樹脂、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ベンジルセルロース樹脂、トリチルセルロース樹脂、シアンエチルセルロース樹脂、カルボキシメチルセルロース樹脂、カルボキシエチルセルロース樹脂、アミノエチルセルロース樹脂、オキシエチルセルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂又はワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。これらのバインダは、それぞれ分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、所望の静電特性等に応じて使い分けすることができる。
【0042】
また、溶媒も公知のものが使用できる。例えば、水のほか、エタノール、トルエン、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を使用することができる。
【0043】
皮膜の形成は、前記組成物の性状等に応じて公知の方法から適宜採択することができる。例えば、前記組成物が粉末(固体)である場合は、その圧粉体を基材上に形成(又は熱圧着)すれば良い。この場合は、圧粉体を焼結することにより固化するとともに、シート材上にアルミニウム粉末を固着させることもできる。また、液状(ペースト状)である場合は、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法により形成できるほか、公知の印刷方法により形成することもできる。
【0044】
皮膜は、必要に応じて、20℃以上300℃以下の範囲内の温度で乾燥させても良い。
【0045】
皮膜の厚みは、特に限定されないが、一般的には20μm以上1000μm以下、特に20μm以上200μm以下とすることが好ましい。多孔質アルミニウム材料の用途がアルミニウム電解コンデンサ用電極材である場合には、厚みが20μm未満の場合は、所望の静電容量が得られないおそれがある。また、1000μmより大きい場合は、箔との密着性不良の発生や後工程内におけるひび割れ発生のおそれがある。
【0046】
基材の材質は特に限定されず、金属、樹脂等のいずれであっても良い。特に、基材を焼結時に揮発させて皮膜のみを残す場合は、樹脂(樹脂フィルム)を用いることができる。一方、基材を残す場合は、金属箔を好適に用いることができる。金属箔としては、特にアルミニウム箔が好適に使用される。この場合、皮膜と実質的に同じ組成のアルミニウム箔を用いても良いし、異なる組成の箔を使用しても良い。また、皮膜を形成するに先立って、予めアルミニウム箔の表面を粗面化しても良い。粗面化方法は、特に限定されず、洗浄、エッチング、ブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0047】
第2工程
第2工程では、前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する。
【0048】
焼結温度は、560℃以上660℃以下とし、好ましくは560℃以上660℃未満、より好ましくは570℃以上659℃以下とする。焼結時間は、焼結温度等により異なるが、通常は5〜24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。
【0049】
焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであっても良いが、特に真空雰囲気又は還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧又は加圧のいずれでも良い。
【0050】
なお、前記組成物中に樹脂バインダ等の有機成分が含有している場合は、第1工程後第2工程に先立って予め100℃以上から600℃以下の温度範囲で保持時間が5時間以上の加熱処理(脱脂処理)を行なうことが好ましい。加熱処理雰囲気は特に限定されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気又は酸化性ガス雰囲気中のいずれでも良い。また、圧力条件も、常圧、減圧又は加圧のいずれでも良い。
【0051】
第3工程
前記の第2工程において、本発明の多孔質アルミニウム材料を得ることができる。この多孔質アルミニウム材料は、アルミニウム電解コンデンサ用電極材として用いる場合には、エッチング処理を施すことなく、そのままアルミニウム電解コンデンサ用電極(電極箔)として用いることが可能である。一方、本発明の多孔質アルミニウム材料は、必要に応じて第3工程として陽極酸化処理を施すことにより誘電体を形成させることができ、これを前記電極としてもよい。
【0052】
陽極酸化処理条件は特に限定されないが、通常は濃度0.01モル以上5モル以下、温度30℃以上100℃以下のホウ酸溶液中で、10mA/cm以上400mA/cm程度の電流を5分以上印加すれば良い。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、折り曲げ強度が向上した、焼結体から構成される多孔質アルミニウム材料を提供することができる。かかる焼結体は、特に、粒子(アルミニウム合金の粉末粒子)が互いに空隙を維持しながら焼結してなる特異な構造をもつことから、焼結体中に三次元的な貫通孔を有している。そのため、アルミニウム電解コンデンサ用電極材としての用途だけでなく、触媒担体などの用途にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】試験例1の折り曲げ試験の折り曲げ回数の数え方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
(実施例1〜6及び比較例1)
平均粒径が3μmのアルミニウム合金粉末(JIS A1080、東洋アルミニウム(株)製、Si濃度は下記表1の通り)60重量部をセルロース系バインダ40重量部(溶剤:トルエン、7重量%が樹脂分)と混合し、固形分60重量%の塗工液を得た。この塗工液を、厚みが30μmのアルミニウム箔(JIS 1N30−H18)の両面にコンマコーターを用いて塗工し、皮膜を乾燥した。このアルミニウム箔をアルゴンガス雰囲気中にて温度635℃で7時間焼結することにより、多孔質アルミニウム材料(電極材)を作製した。焼結後の電極材の厚みは約130μm(基材:30μm、焼結体:各面50μm)であった。
【0056】
各電極材(化成処理前)の折り曲げ強度を測定した。折り曲げ強度は、日本電子機械工業会規定のMIT型自動折り曲げ試験法(EIAJ RC-2364A)に従って行った。MIT型自動折り曲げ試験装置はJIS P8115で規定された装置を使用し、折り曲げ回数は、各電極材が破断する折り曲げ回数とし、図1に示すように90°曲げて1回、元に戻して2回、反対方向に90°曲げて3回、元に戻して4回…、と数えた。折り曲げ強度の測定結果を下記表1に示す。
【0057】
次に、折り曲げ強度試験に供したものは別に各電極材を用意し、ホウ酸水溶液(50g/L)中、250Vで化成処理を行った。化成処理後の各電極材についても、上記同様に折り曲げ強度を測定した。折り曲げ強度の測定結果を下記表1に示す。
【0058】
次に、化成処理後の各電極材の静電容量を、ホウ酸アンモニウム水溶液(3g/L)で測定した。測定投影面積は10cmとした。静電容量の測定結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から明らかなように、アルミニウム合金のSi濃度を増加させることにより、化成処理前後ともに折り曲げ強度を向上させることができる。なお、Si濃度を増加しても静電容量の測定結果には実質的に影響がないことが分かる。
【0061】
一般に化成電圧が高くなると電極材の強度が低下するが、Si濃度を増加すれば、化成電圧を高くしても強度を保持できると考えられる。
(実施例1−2〜1−6)
実施例1(Si濃度:110重量ppm)は、アルミニウム合金粉末の平均粒径が3μmであるが、この平均粒径を下記表2に示すように変化させることにより、化成処理前後の折り曲げ強度及び静電容量にどのような変化があるかを調べた。各測定結果を下記表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果から明らかなように、アルミニウム合金粉末の平均粒径が大きくなるに従い、静電容量は低下することが分かる(比表面積低下に基づく推移)。他方、平均粒径が大きくなるに従い、化成処理前後ともに折り曲げ強度を向上させることができる。従って、静電容量が許容される範囲で平均粒径を大きくすることにより、必要な静電容量を確保しつつ折り曲げ強度をより高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の焼結体からなることを特徴とする多孔質アルミニウム材料。
【請求項2】
前記焼結体が、前記アルミニウム合金の粒子どうしが互いに空隙を維持しながら焼結したものである、請求項1に記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項3】
前記焼結体が、平均厚み20μm以上1000μm以下の箔状である、請求項1又は2に記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項4】
前記アルミニウム材料を支持する基材をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項5】
前記基材がアルミニウム箔である、請求項4に記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項6】
アルミニウム電解コンデンサ用電極材である、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項7】
触媒担体である、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質アルミニウム材料。
【請求項8】
多孔質アルミニウム材料を製造する方法であって、
(1)Si含有量が100〜3000重量ppmであるアルミニウム合金の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成する第1工程及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程
を含むことを特徴とする、多孔質アルミニウム材料の製造方法。
【請求項9】
前記粉末が、平均粒径0.5μm以上100μm以下である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記組成物が、樹脂バインダ及び溶剤の少なくとも1種を含む、請求項8又は9に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−52291(P2011−52291A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203683(P2009−203683)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】