説明

抵抗型イメージングボロメータを具備した赤外線放射検出用デバイス、そのようなボロメータのアレイを具備したシステム、及びそのようなシステムに一体化されたイメージングボロメータの読み取り方法

【課題】抵抗型イメージングボロメータ140を具備した赤外線放射検出用デバイスを提供する。
【解決手段】本発明によれば、このデバイスは、ボロメータ140の電気抵抗の基準値に対するボロメータ140の電気抵抗のドリフトを測定する測定手段16,38;16,24,38;16,140;16,24と、ドリフトの影響を補正する補正手段34又は抵抗のドリフトを補正する補正手段とを具備する。ボロメータ140の電気抵抗の基準値は、ボロメータ140の所定の動作条件に対応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータを用いた赤外線イメージング及び高温測定の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、抵抗型イメージングボロメータを具備した赤外線放射検出用デバイスに関する。また、本発明は、そのようなデバイスのアレイを具備したシステムと、そのようなシステムに一体化されたイメージングボロメータの読み取り方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
赤外線検出器の分野において、アレイ状に構成される、大気温度で動作可能な、すなわち、極めて低い温度に冷却する必要のないデバイスを使用することは、よく知られている。これは、典型的に液体窒素の温度である極めて低い温度でのみ動作可能な「量子検出器」と称される検出デバイスとは対照的である。
【0004】
従来、これらの非冷却型検出器は、300K周辺の温度に応じた適切な材料の物理的単位の変化を使用する。ボロメトリック検出器の場合には、この物理的単位は電気抵抗率である。
【0005】
一般に、そのような非冷却型検出器は、
−赤外線放射を吸収し、それを熱に変換する手段と、
−赤外線放射の影響で検出器の温度が上昇可能となるように、検出器を熱的に隔離する手段と、
−ボロメトリック検出器に関連して、抵抗素子を使用する温度測定手段と、
−温度測定手段によって提供された電気信号を読み取る手段と
を具備する。
【0006】
従来、赤外線イメージング用に設計された検出器は、複数の検出器素子又は複数のボロメータの1次元又は2次元アレイとして作製される。上記アレイの各検出器素子は、支持アーム手段によって基板上に浮遊する膜を形成する。一般に、基板はシリコン製である。
【0007】
通常、基板は、複数の検出器素子を連続的にアドレス指定する手段と、検出器素子を電気的に励起する手段と、これらの検出器素子によって生成される電気信号を前処理する手段とを併せ持つ。したがって、これらの連続的アドレス指定手段、電気的励起手段、及び前処理手段は、基板上に形成されて、読み取り回路を構成する。
【0008】
この検出器を用いてシーン(scene)を取得するために、シーンのイメージが、検出器素子のアレイ上に適切な光を介して投影され、かつ、検出器素子のそれぞれに又はそのような検出器の各行に、読み取り回路を介して電気的クロックパルスを印加して、上記検出器素子のそれぞれによって届けられた温度イメージを構成する電気信号を取得する。この電気信号は、各検出器素子の電気抵抗に密接に関連している。そして、この信号は、読み取り回路によってある程度処理され、次いで、もし適用可能であれば、パッケージ外部の電子デバイスによって、観測されたシーンの熱イメージを生成する。
【0009】
しかしながら、一般的に、イメージングボロメータの製造に通常用いられるボロメトリック材料、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)又は酸化バナジウム(Vox)の電気抵抗は、程度の差はあるが、時間とともにドリフトすることがわかっている。
【0010】
本明細書中では、用語「ドリフト(drift)」とは、所与の環境及び動作条件下で、イメージングボロメータの電気抵抗が、そのような条件下で観測された初期値から時間とともにゆるやかに逸脱すること指す。環境及び動作条件は、例えば、ボロメータへの入射放射、ボロメータ及び電気的読み取り信号に対する周辺温度などであり、以降では、「基準条件」と称される。初期値は、基準値と称される。この基準値は、検出器の使用中、使用前、又は校正と称される特殊動作中の各基準条件下で測定できる。
【0011】
そのようなドリフトの原因の1つは、従来用いられる温度測定材料につきものの不安定性にある。この不安定性は、生成又は作成しようとするイメージ又は熱測定値の精度と比較した場合に、無視できない程の抵抗率の変化をもたらすおそれがある。通常、このタイプのドリフトは、基板にわたって検出器の全画素に作用して、総合的な校正ドリフトをもたらす。
【0012】
また、例えば、非常に長い時間、強烈な放射源(太陽、スポットライト等)を観察したときなど、高密光束による検出器の過剰照射に起因するドリフトを考慮する必要がある。これらのドリフト源は、検出器によって生成される熱イメージの品質に悪影響をもたらす。通常、このタイプのドリフトは、検出器の感知表面の限られた部分に局所的に作用して、空間的にばらついた検出器校正誤差をもたらす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】E. Mottin et al., "Uncooled amorphous silicon enhancement for 25μm pixel pitch achievement", Infrared Technology and Application XXVIII, SPIE, vol. 4820
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の目的は、正確なまま、すなわち、正しく校正が行われた状態を保つ検出器を提供することにある。具体的には、検出器の出力信号は、そのライフサイクルを通して、いわゆる基準条件下に置かれ続けたときと同じように保たれる。その感知素子は、空間的及び/又は時間的ドリフトの影響を受けることがない。
【0015】
これを達成するために、本発明は、抵抗型ボロメータを具備した赤外線放射検出用デバイスを提供する。
本発明によれば、このデバイスは、
・上記ボロメータの電気抵抗の基準値に対する上記ボロメータの電気抵抗のドリフトを測定する測定手段と、
・上記ドリフトの影響を補正する補正手段又は抵抗の上記ドリフトを補正する補正手段と
を具備する。上記基準値は、上記ボロメータの所定の動作条件に対応する。
【0016】
本発明の一実施態様によれば、測定手段は、
・上記ドリフトの影響を受ける基準抵抗型ボロメータと、
・基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段と、
・測定した電気抵抗に応じて上記ドリフトを決定する決定手段と
を具備する。
【0017】
特に、基準ボロメータは、イメージボロメータに関連した補償ボロメータである。
【0018】
あるいは、基準ボロメータは、イメージボロメータである。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段は、
・基準ボロメータに流れる電流を積分する積分手段と、
・積分手段によって積分された電流に応じて基準ボロメータの電気抵抗を決定する決定手段と
を具備する。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段は、
・基準ボロメータに接続可能な所定の電気抵抗を有した抵抗部と、
・基準ボロメータに流れる電流と抵抗部に流れる電流との差を積分する積分手段と、
・積分手段によって積分された電流差に応じて基準ボロメータの電気抵抗を決定する決定手段と
を具備する。
【0021】
特に、後者に流れる電流を積分することによってイメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定回路をさらに具備する。上記回路は、赤外線放射温度を測定するように構成される。積分手段は、上記測定回路に含まれている。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、補正手段は、上記ドリフトを補償するように、イメージングボロメータの温度を制御する制御手段を具備する。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、デバイスは、イメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定手段と、測定された電気抵抗とイメージングボロメータの電気抵抗によって決まる少なくとも1つのパラメータとに応じてボロメータ上の入射放射の温度を決定する決定手段とをさらに具備する。補正手段は、温度決定時、ドリフトの影響を補正するように、測定されたドリフトに応じて上記少なくとも1つのパラメータを補正する機能を有する。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、上記少なくとも1つのパラメータは、イメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定回路の温度に対する電気的感度である。
【0025】
また、本発明の目的は、上記放射を検出するデバイスの少なくとも1つの行を具備する。
【0026】
本発明に従い、これらデバイスは、先に記載したタイプのそれぞれである。
【0027】
また、本発明は、赤外線放射検出用システムを構成するボロメータアレイ内の抵抗型ボロメータを読み取る方法を提供する。上記方法は、
・上記ボロメータの電気抵抗の基準値に対する上記ボロメータの電気抵抗のドリフトを測定する測定段階と、
・上記ドリフトの影響を補正する補正段階又は抵抗のドリフトを補正する補正段階と
を有する。上記基準値は、上記ボロメータの所定の動作条件に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態及び第2実施形態によるボロメトリック検出器の概略図である。
【図2】図1の検出器の構築に関する基本的な回路レイアウトの概略図である。
【図3】第1実施形態によるドリフト測定及び補償方法のフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態によるドリフト測定及び補償方法のフローチャートである。
【図5】本発明の第3実施形態及び第4実施形態による基本的な回路レイアウトの概略図である。
【図6】本発明の第5実施形態によるドリフト測定及び補償過程を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、例示のみを目的として与えられた以下の説明と、添付の図面との参照によって、より容易に理解が得られる。図において、同一の参照符号は、同一又は類似の構成要素を指す。
【0030】
図1は、ボロメトリック検出器10を概略的に示す。そのような検出器10は、以下の構成要素を具備する。
・n行m列のイメージング画素14から成る2次元アレイ12:各イメージング画素14は、抵抗型ボロメータ140を具備する。ここで、n及びmは、1以上の整数である。イメージングアレイ12は、赤外線放射(図示していない)を透過する光学焦点面に配列される。
・補償回路24の行:補償回路24のそれぞれは、アレイ12の列に関連しており、補償ボロメータ50を具備する。
・積分器16の行:積分器16のそれぞれは、アレイ12の列に関連する。
・アレイ12を行毎にアドレス指定するアドレス指定回路18
【0031】
周知のように、通常、抵抗型ボロメータ140及び補償ボロメータ50は、読み取りに必要とされるさまざまな電子的構成要素が形成された基板上に、支持アームによって浮遊状態とされた(suspended)膜から成る。通常、これらの電子的構成要素は、「読み取り回路」と称される。
【0032】
そのようなボロメトリック検出器の構成は典型的なものであるので、詳細な説明は省略する。追加的な情報としては、例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0033】
本発明によれば、この構成は、以下の構成要素をさらに具備する。
・積分器16に接続された情報処理ユニット28:情報処理ユニット28は、演算論理ユニット30を具備する。ユニット30は、積分器によって出力された信号を処理するためのアルゴリズムを使用して、アレイ12上に投影された赤外線イメージを求める。このために、ユニット28は、シーンの温度に対する積分器16の電気的感度の1つ以上の値を含んだ算出パラメータを用いる。これらの値は、メモリバンクユニット32に格納される。また、ユニット28は、以下でより詳細に記載されるように、イメージングボロメータ140の測定されたドリフトを補償する補正ユニット34を具備する。
・ドリフト回路38の行:ドリフト回路38のそれぞれは、アレイ12の列に関連する。
【0034】
以下でより詳細に記載されるように、積分器16に関連するドリフト回路38は、アレイ12中のボロメータのドリフトを測定するためのモジュールを一緒に形成する。
【実施例1】
【0035】
図2は、第1実施形態による検出器10の基本的なレイアウトを示す。この検出器10は、
・アレイ12のイメージング画素14と、
・イメージング画素14のボロメータ140を測定する積分器16と、
・イメージング画素14が読み取られるとき、イメージングボロメータ140に流れる共通ノード電流を補償する補償回路24と、
・ボロメータ140の電気抵抗のドリフトを測定するドリフト回路38と
を具備する。
【0036】
積分器16は、以下の構成要素を具備する。
・演算増幅器40:その非反転入力(+)は、所定の定電圧Vbusに保たれている。
・コンデンサ42:コンデンサ42は、所定の静電容量Cintを有するとともに、演算増幅器40の反転入力(−)と同出力との間に接続される。
・リセットスイッチ44:リセットスイッチ44は、コンデンサ42と並列に接続されるとともに、アドレス指定回路18によって制御される「Reset」信号によって制御可能である。
【0037】
回路又は「画素(pixel)」14は、ボロメータ140を具備する。ボロメータ140は、シーンから生じる赤外線放射IRに暴露されるとともに、第1端子Aによって定電位(図では接地電位に等しい)に接続される。また、画素は、以下の構成要素を具備する。
・リードスイッチ46:リードスイッチ46は、アドレス指定回路18によって制御される「Select」信号によって制御可能であり、かつその端子の一方が演算増幅器の反転入力(−)に接続される。
・第1MOSインジェクショントランジスタ48:そのゲートは、所定の定電圧Vfidに保たれ、そのソースは、ボロメータ140の第2端子Bに接続され、かつそのドレインは、リードスイッチ46の他方の端子に接続される。
【0038】
イメージングボロメータ140に流れる共通ノード電流を補償するために用いられる補償回路24は、抵抗型補償ボロメータ50を具備する。抵抗型補償ボロメータ50は、イメージングボロメータ140と同一の材料から成り、基板に比べて無視できる熱抵抗を有する。選択的に、補償ボロメータ50には、シーンから生じる放射を遮断するためのシールド52が取り付けられる。
【0039】
補償ボロメータ50の端子のうちの一方は、所定の電圧VSKに接続され、かつもう一方の端子は、回路24の第2MOSインジェクショントランジスタ54のソースに接続される。トランジスタ54のドレインは、演算増幅器40の反転入力に接続され、かつグリッドは、所定の電圧GSKに接続される。
【0040】
ドリフト回路38は、抵抗器56と、第3MOSインジェクショントランジスタ58とを具備する。それらは、補償ボロメータ50及び第2インジェクショントランジスタ54と同様に配置されている。
【0041】
また、ドリフト回路38は、第3MOSトランジスタ58と演算増幅器40の反転端子(−)との間に位置したドリフト測定スイッチ60を具備する。上記スイッチは、「Der1」信号により、アドレス指定回路18によって制御可能である。
【0042】
最後に、補償回路は、補償回路24の枝路に位置した第2ドリフト測定スイッチ62にも関連する。第2ドリフト測定スイッチ62は、「Der2」信号により、タイマ回路18によって制御可能であるとともに、第2トランジスタ54と演算増幅器40の反転端子(−)との間に位置する。
【0043】
抵抗器56は、イメージングボロメータ140が暴露される温度範囲にわたって所定の定電気抵抗値Rrefを提供するように選択される。特に、抵抗器56は、初期基準条件下のイメージングボロメータ140の抵抗値に実質的に等しい電気抵抗値を提供する。電気抵抗値Rrefは、情報処理ユニット28のメモリバンク32に格納される。
【0044】
アレイによって検出されたシーンの温度を検出するために、イメージングアレイ12の行を読み取る読み取りサイクルの間、第1ドリフト測定スイッチ60は開となり、かつ第2ドリフト測定スイッチ62は閉となる。コンデンサ42の予備ゼロリセットサイクル間に閉となったリセットスイッチ44は、タイマ回路18によって開状態に切り換えられる。次いで、タイマ回路は、リードセレクトスイッチ46を閉じる。イメージングボロメータ140に流れる電流と補償ボロメータ50に流れる電流との差が、コンデンサ42によって積分される。次いで、リードスイッチ46が閉じてから所定の積分期間Tintが経過したとき、タイマ回路18は、リードスイッチを開く。そして、積分器16の出力上の電圧Voutは、以下の式で与えられる。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、tは、時間であり、iimagは、イメージングボロメータ140に流れる電流であり、icompは、補償ボロメータ50に流れる電流である。
【0047】
補償ボロメータ50に流れる電流icompはイメージングボロメータ140に流れる共通ノード電流に実質的に等しいので、実質的に、積分器16の入力上の電流差の原因となるイメージングボロメータ140の電気抵抗と補償ボロメータ50の電気抵抗との差は、イメージングボロメータ140の電気抵抗Rimagの変化量ΔRimagを表す。これは、シーンから生じる放射に起因しており、イメージングボロメータに影響を及ぼす。
【0048】
当業者には既知のように、次いで、電圧Voutは、例えば、サンプリングブロッキングシーケンスに続いて、情報処理ユニット28の演算論理ユニット30に印加され、次いで、1つ以上のシリアル出力増幅器に多重化される。
【0049】
次いで、演算論理ユニット30は、電圧Vout及び校正パラメータに応じて、イメージングボロメータ140に影響を及ぼす赤外線放射(IR)の温度θsceneを求める。校正パラメータには、メモリバンク32に格納された検出器10のシーンの温度に対する電圧Voutの感度Sが含まれる。
【0050】
校正パラメータは、校正(calibratin)と称される初期フェーズの間に取得される。典型的に、校正は、当業者には見慣れたものであるいわゆるゲイン/オフセットテーブルと称される2次元的アクセスを提供するために、空間的に均一な既知の温度に置かれた2つの黒色体を検出器に検出させることによって行われる。これらのテーブル中の各要素は、イメージングアレイの検出器素子に対応する。明細書中で用いられる用語「ゲイン(gain」、「感度(sensitivity)」、及び「電気的応答(electrical response)」は、数量S=ΔVout/Δθsceneを指し、通常、ミリボルト毎ケルビンで表される。
【0051】
検出器10のこの感度Sは、以下の式によって、一般的に言えば、1次近似として、かつ抵抗のわずかな変化量について、表されることがわかっている。
【0052】
【数2】

【0053】
ここで、
・Rimagは、所定の基準条件下でのボロメータ140の基準電気抵抗であり、
・Vimagは、ボロメータ140が読み取られるときのボロメータ140の端子に掛かるバイアス電圧であり、
・TCRは、ボロメータ140の温度に応じたボロメータ140の電気抵抗変化量係数であり、
・Rthは、ボロメータ140と該ボロメータ140がその上を浮遊する基板との間の熱抵抗であり、
・Φ(θscene)は、ボロメータ140によって吸収されるエネルギー束であり、シーンθsceneの温度の関数である。
【0054】
感度Sが、1次近似として、値Rimagに逆比例することは明らかである。したがって、数量Rimagがドリフトする場合、これがθsceneの温度測定結果を誤らせることは明らかである。
【0055】
イメージングボロメータ140の読み取りに関して、先に記載した構成要素のレイアウト及び動作は、従来のものであるので、簡潔性を重視して、明細書中では詳細に説明しない。追加的な詳細については、例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0056】
図2に示したレイアウトを有する検出器10で使用されるイメージングアレイ12のイメージングボロメータ140の電気抵抗のドリフトを測定及び補償するための方法を、図3のフローチャートを参照して以下に記載する。
【0057】
最初の初期化ステップ70において、所定の基準条件下でのアレイ12中のイメージングボロメータ140の電気抵抗の初期値が決定される。初期化ステップ70は、検出器10が初めて使用される前に、典型的には工場において行われる、
【0058】
このために、ステップ72において、検出器10は、抵抗測定の間中、基準条件下に置かれる。具体的には、ステップ72では、検出器10を既知の均一な温度θrefとし、既知の均一な熱照度Φrefにさらす。この目的で、検出器10は、例えば、それ自体は既知である、焦点面の温度を制御するためのシステム及びシャッターを備える。ステップ72の間、温度制御システムは、イメージングアレイ12を温度θrefに上昇させ、かつアレイが基準照度Φrefに暴露されるように、シャッターを閉じる。
【0059】
次いで、ステップ74において、タイマ回路18の行カウンタNline及び計測カウンタNmeasureが、値「1」に初期化される。
【0060】
ステップ76において、タイマ回路18は、アレイ12の行Nlineのリードスイッチ46を開く。また、タイマ回路18は、第1及び第2ドリフト測定スイッチ60,62を開くとともに、積分回路16の行のリセットスイッチ44を閉じる。そして、積分器16のコンデンサ42が、ほぼ即座に放電する。
【0061】
次いで、ステップ78において、タイマ回路18は、アレイ12の行Nlineのリードスイッチ46を閉じる。さらに、タイマ回路18は、第1ドリフト測定スイッチ60を閉じるとともに、積分器16の行のリセットスイッチ44を開く。したがって、図2に示された行Nlineのレイアウト毎に、イメージングボロメータ140に流れる電流iimagと基準抵抗Rref56に流れる電流irefとの差のコンデンサ42による積分が開始される。
【0062】
期間Tintが経過したとき、タイマ回路18は、ステップ80で、行Nlineのリードスイッチ46と、ドリフト回路38の行の第1ドリフト測定スイッチ60とを開く。そして、図2に示されたレイアウトにおける積分回路16の出力上の電圧Voutは、以下の式で与えられる。
【0063】
【数3】

【0064】
次いで、この電圧Voutは、ステップ82で、情報処理ユニット28の補正ユニット34によって、従来の手法で転送された後に保存される。さらにステップ82において、ユニット34は、電圧Voutに応じて、イメージングボロメータ140の電気抵抗Rimagと基準抵抗56の電気抵抗Rrefとの差を求める。
【0065】
次いで、ユニット28のメモリバンク32に格納された値Rrefを知ることによって、ユニット34は、イメージングボロメータ140の電気抵抗Rimagを求める。次いで、算定値Rimagは、ステップ84で、メモリバンク32に格納される。
【0066】
続いて、選択的なステップ86において、計測カウンタNmeasureの値が所定の値
【数4】

に等しいか否かを確かめるテストが実行される。等しくない場合、タイマ回路は、ステップ88で、カウンタNmeasureの値に「1」加算し、次いで、行Nlineを読み取る新しい読み取りサイクルのために、ステップ88からステップ76にループバックする。
【0067】
ステップ86で実行したテストが肯定的結果であった場合、補正ユニット34は、ステップ90で、かつ行Nline中のイメージングボロメータ140毎に、
【数5】

個の最終電気抵抗演算値Rimagの時間平均
【数6】

を算出する。次いで、平均
【数7】

は、メモリバンク32に格納される。
【0068】
次いで、行カウンタNlineの値がアレイ12の行nの数に等しいか否かを確かめるテストが実行される。等しくない場合、タイマ回路は、ステップ94で、このカウンタの値に「1」加算し、次の行を読み取るために、ステップ94からステップ76にループバックする。
【0069】
等しい場合、イメージングボロメータ140のすべての電気抵抗が読み取られているので、ステップ98に進む。ステップ98では、各イメージングボロメータ140の値
【数8】

が、基準条件下のイメージングボロメータ140の電気抵抗
【数9】

の基準テーブルとして、メモリバンク32に格納される。
【0070】
測定された電気抵抗の時間平均をとることの利点は、平均によって測定誤差を取り除くことができるということにある。平均値によって、より正確に測定された電気抵抗値を得ることができるようになる。
【0071】
これで初期化ステップ70が終了した。したがって、この段において、メモリバンク32は、アレイ12のボロメータ140に対する電気抵抗基準値
【数10】

の配列を格納している。
【0072】
さらに、タイマ回路18の手法と同様の読み取りサイクルにしたがって、m×n個のイメージングボロメータ140の感度Sinitが、異なる温度を有する2つの放射源(均一な黒色体)による標準的な最新の方法を用いて測定され、かつ、その感度は、メモリバンク32に格納される。感度テーブルSinitは、メモリバンク32内のテーブルSにコピーされて、検出器に備えられる演算感度テーブルとして使用される。
【0073】
検出器の使用が開始されると、方法は、アレイ12中の各イメージングボロメータ140の抵抗ドリフトを測定するステップ100と、それに続いて、これらのドリフトを補正するためのステップ102とに進む。
【0074】
ドリフト測定及び補正ステップ100,102は、常時及び/又は周期的に、又は、例えば、検出器10がドリフトによる不利な影響を受けているとユーザが気付いた際の検出器10のユーザの要求時に、トリガされる。
【0075】
特に、ドリフト測定ステップ100は、先に記載したステップ72ないし94を含む。したがって、ステップ100の完了時、各イメージングボロメータ140の電気抵抗の新しい平均測定値
【数11】

が情報処理ユニット28のメモリバンク32に格納される。
【0076】
次いで、補正ステップ102において、ユニット28の補正ユニット34は、テーブルSinit中の要素のそれぞれに、対応する比
【数12】

を掛け、かつユニット32に結果のテーブルSを格納することによって、メモリバンク32中の電気感度テーブルSを修正する。これによって、演算テーブルが更新される。
【0077】
次いで、アレイ12のイメージングボロメータ140の新たなドリフトを測定及び補正するために、ステップ102は、所定の時間間隔でステップ100にループバックする。典型的に、時間間隔は、1ヶ月又は1年単位であってよい。
【0078】
以上の通り、本発明の第1実施形態は、イメージングボロメータのドリフトの「能動的」補正を不必要に行わなくても済むという利点を有する。
【0079】
第1実施形態は、マイクロボロメータアレイに適用可能であり、あるマイクロボロメータと他のマイクロボロメータとの間の抵抗ドリフト差に関連した空間的感度変化現象を修正及び解消する。この場合、有利には、かつ必ずしもそうとは言えないが、それは、提案された実装の結果により更新された個々の感度のテーブル全体(当業者によってゲインテーブルと称される)に及ぶ。これが、さらなるわずらわしい作業である再校正ではなく、ゲインテーブルを安定させるための「算術的(arithmetic)」な過程をもたらすことは、当業者には明白である。このように、各イメージング画素の感度の精度は、いかなる再校正も行うことなく、非常に長い期間にわたって保たれる。
【0080】
第1実施形態では、イメージングボロメータ140の電気抵抗のドリフト補正には、各ドリフト測定の間に基準条件を正確に再構成する必要があるということに留意されたい。基準条件は、抵抗の最初の「基準」測定値
【数13】

が得られた時点で有効となる。これらの条件は、検出器に、温度制御器及びシャッターを提供することによって直接に得られる。これらの温度制御器及びシャッターは、この分野では慣習的である。しかしながら、ときには、これがユーザにとって不便を強いる。
【実施例2】
【0081】
多くの場合、補償ボロメータ50のドリフトの時間変化は、イメージングボロメータ140に見られる変化と実質的に同一であることに留意されたい。これは、両タイプの構造が同一の感度材料(複)層を用いて計画的及び有利に製造されていることを表している。そして、それらは、実質的に同一の熱ヒストリーを経る。
【0082】
しかしながら、補償ボロメータ50は、シーンから生じる放射に、相対的に鈍感に、かつ理想的に完全に鈍感に設計される。有利には、第2実施形態は、補償ボロメータのドリフトを測定することによって、かつ補償ボロメータ50で測定されたドリフトに応じてイメージングボロメータ140のドリフトを補正することによって、この特徴を引き出す。したがって、補償ボロメータ50がそのような放射に鈍感なので、ドリフト測定時に特殊な照明(赤外線束)条件を指定する必要がなくなる。したがって、これは、ユーザの使用法をごく容易にすることを意味し、及び/又は、有利には照明を指定する手段を提供するとしても、シャッターなどの照明を指定する手段を提供する必要がない。
【0083】
第2実施形態によれば、イメージングボロメータ140と、積分器16と、補償回路24と、ドリフト回路38とから成る検出器10の基本的なレイアウトは、図2のそれと同一である。
【0084】
したがって、この第2実施形態は、そこで使用される方法に関して、第1実施形態に類似している。この方法は、図4のフローチャートによって表される。
【0085】
方法は、回路24の行中の補償ボロメータ50の電気抵抗を測定するフェーズ112から始まる。
【0086】
このフェーズ112は、抵抗測定の間を通して検出器10を所定の条件下に置くステップ114を含む。この実施形態では、これらの条件は、検出器10を既知の均一な温度θrefに置くことである。
【0087】
次いで、ステップ116において、タイマ回路18の計測カウンタNmeasureが、「1」に初期化され、かつアレイ12のすべてのリードスイッチ46が、タイマ回路18によって開かれる。
【0088】
次いで、ステップ118において、タイマ回路18が、第1及び第2ドリフト測定スイッチ60,62を開くとともに、積分回路16の行のリセットスイッチ44を閉じる。実質的に、積分器16のコンデンサ42は、即座に放電する。
【0089】
次いで、タイマ回路18は、ステップ120で、第1及び第2ドリフト測定スイッチ60,62を閉じるとともに、積分回路16の行のリセットスイッチ44を開く。したがって、図2に示された補償回路24、ドリフト回路38、及び積分器16のレイアウト毎に、補償ボロメータ50に流れる電流icompと基準抵抗器56に流れる電流irefとの差の、コンデンサ42による積分が開始される。
【0090】
期間Tintが経過すると、タイマ回路18は、ステップ122で、ドリフト回路38の行の第1及び第2ドリフト測定スイッチ60,62を開く。そして、図2に示されたレイアウト中の測定回路22の出力上の電圧Voutは、以下の式で得られる。
【0091】
【数14】

【0092】
次いで、この電圧Voutは、従来の手段によって転送された後、ステップ124で、情報処理ユニット28の補正ユニット34によって保存される。さらにステップ124において、次いで、ユニット34が、電圧Voutに応じて、補償ボロメータ50の電気抵抗Rcompと抵抗器56の電気抵抗Rrefとの差を求める。次いで、ユニット28のメモリバンク32に格納された値Rrefを知ることによって、ユニット34は、補償ボロメータ50の電気抵抗Rcompを求める。次いで、演算値Rcompが、メモリバンク32に格納される。
【0093】
続いて、選択的なステップ128において、計測カウンタNmeasureの値が値
【数15】

に等しいか否かを確認するテストが実行される。等しくない場合、タイマ回路18は、ステップ130で、カウンタNmeasureに「1」加算し、次いで、補償ボロメータ50の行を読み取るための新しい読み取りサイクルのために、ステップ130からステップ118にループバックする。
【0094】
ステップ128で実行されたテストが肯定的結果であった場合、補償ユニット34は、ステップ132において、かつ補償回路24の行中の補償ボロメータ50毎に、
【数16】

個の最終電気抵抗演算値Rcompの平均
【数17】

を算出する。
【0095】
次いで、平均
【数18】

は、ステップ134で、補償ボロメータ50の基準電気抵抗値
【数19】

として、メモリバンク32に設けられたスペースに格納される。
【0096】
さらに、かつタイマ回路18の手法と同様の読み取りサイクルに関連して、m×n個のイメージングボロメータ140の応答Sinitが、異なる温度を有した2つの均一な放射源による標準的な従来方法を用いて測定され、かつ、その応答は、メモリバンク32に格納される。次いで、テーブルSinitが、演算テーブルSにコピーされる。
【0097】
検出器の使用が開始されると、方法は、イメージングアレイ12の各行の抵抗ドリフトを測定するステップ136と、それに続いて、このドリフトを補正するためのステップ138とに進む。ドリフト測定及び補正ステップ136,138は、常時及び/又は周期的に、又は、例えば、検出器10がドリフトによる不利な影響を受けているとユーザが気付いた際の検出器10のユーザの要求時に、トリガされる。
【0098】
特に、ドリフト測定ステップ136は、先に記載したステップ114ないし132を含む。したがって、ステップ132の完了時、各補償ボロメータ50の電気抵抗の新しい平均測定値
【数20】

が情報処理ユニット28のメモリバンク32に格納される。
【0099】
次いで、補正ステップ138において、ユニット28の補正ユニット34は、テーブルSinit中の要素のそれぞれに、対応する比
【数21】

を掛けることによって、メモリバンク32中の演算電気感度テーブルSを算出する。
【0100】
第1及び第2実施形態において、イメージングアレイ12を読み取る検出器10に通常存在する積分器16は、アレイのドリフトを測定するために使用される。
【0101】
コンデンサ42の静電容量Cintの値は、イメージングボロメータ140に流れる電流と補償ボロメータ50に流れる電流との差を積分するように、従来の通りに選択される。
【0102】
このため、抵抗140又は50に近い抵抗56をそれぞれ有するドリフト回路38を使用する必要がある。それによって、コンデンサ42は、イメージングボロメータ140のドリフト測定時に飽和しない。
【0103】
しかしながら、そのような抵抗器56の使用によって、この測定は、例えば、抵抗器の電気抵抗値Rrefに影響を及ぼす技術的ばらつきに関連した誤差に起因して不正確なものとなる。
【0104】
以下に記載される第3及び第4実施形態によれば、それらの絶対電気抵抗を測定することによって、イメージングボロメータ140のドリフト測定が達成される。
【実施例3】
【0105】
第3実施形態を表した図5に示すように、第3実施形態の構成は、ドリフト回路38が省略されているという点で、図1及び図2に関連して記載された2つの実施形態とは異なる。したがって、検出器10の基本的なレイアウトは、画素14と、積分器16と、補償回路24とから成る。
【0106】
第3実施形態は、図3に関連して先に記載された第1実施形態のそれと同様の方法を用いる。
【0107】
主な差異は、ボロメータ140の測定時、コンデンサ42によって積分される電流が、イメージングボロメータ140に流れる電流と基準抵抗56に流れる電流との差ではないという点である。それは、実際にイメージングボロメータ140に流れる電流となる。
【0108】
第2の差異は、コンデンサ42の飽和を防止するために、積分期間が短縮されるという点である。故に、積分サイクルの終わりにおける積分器16の出力上の電圧Voutは、以下の式で得られる。
【0109】
【数22】

【0110】
ここで、T´intは、イメージングボロメータ140のドリフト測定時にコンデンサ42が飽和しないように選択された短縮積分期間である。次いで、演算論理ユニット34が、電圧Voutに応じて、イメージングボロメータ140の電気抵抗Rimagを求める。
【0111】
あるいは、積分期間を短縮するのではなく、積分期間Tintの間に飽和しないように、コンデンサ42の静電容量値Cintが増大される。
【0112】
例えば、積分器16は、2つのコンデンサを具備する。第1コンデンサは、イメージングアレイ12の読み取り時にタイマ回路18によって選択される。第2コンデンサは、イメージングボロメータ140のドリフト測定時に選択される。
【実施例4】
【0113】
第4実施形態において、イメージングボロメータ140のドリフト測定及び補正は、第2実施形態で説明したものと同様の利点を得るように、補償ボロメータ50のドリフト測定に基づいて実行される。
【0114】
このために、第4実施形態では、検出器10の基本的なレイアウトは、図5のようになる。
【0115】
ドリフト測定及び補償方法は、図4に関連して説明された第2実施形態のそれに類似する。
【0116】
主な差異は、ボロメータ140のドリフト測定時、コンデンサ42によって積分される電流が、補償ボロメータ50に流れる電流と基準抵抗56に流れる電流との差ではないという点である。それは、実際に補償ボロメータ50に流れる電流となる。
【0117】
第2の差異は、コンデンサ42の飽和を防止するために、積分期間が短縮されるという点である。故に、積分サイクルの終わりにおける積分器16の出力上の電圧Voutは、以下の式で得られる。
【0118】
【数23】

【0119】
次いで、補正ユニット34は、電圧Voutに応じて、補償ボロメータ50の電気抵抗Rcompを求める。
【0120】
あるいは、積分期間を短縮するのではなく、積分期間Tintの間に飽和しないように、コンデンサ42の静電容量値Cintが増大される。
【0121】
例えば、積分器16は、2つのコンデンサを具備する。第1コンデンサは、イメージングアレイ12の読み取り時にタイマ回路18によって選択される。第2コンデンサは、補償ボロメータ50のドリフト測定時に選択される。
【0122】
本発明の第4実施形態によって、イメージングアレイ12のドリフトの空間的補正が可能となることは明らかである。すなわち、イメージングボロメータのドリフトは、上記アレイ中のボロメータ毎に、1つずつ補償されるか(第1及び第3実施形態の場合)、又は、イメージングアレイ12の列毎に、1列ずつ補償される(第2及び第4実施形態の場合)。
【実施例5】
【0123】
本発明の第5実施形態によれば、検出器は、その焦点面の温度をコントロールするシステムを使用する。例えば、検出器は、当業者には既知のペルチェ効果モジュール又はジュール効果モジュールを使用する。
【0124】
この実施形態において、イメージングボロメータのドリフトの測定は、図1ないし図5に関連して先に説明されたいずれかの実施形態に等しい。
【0125】
一方、ボロメータのドリフトは、図6のフローチャートに示された焦点面の温度をコントロールすることによるボロメータの電気抵抗のドリフトの補正によって、「能動的」に補正される。
【0126】
図6において、イメージングボロメータ140のドリフト測定及び補正方法は、例えば、第1初期ステップ160と、それに続く、ドリフト測定ステップ162とを伴う。ステップ160は、第1実施形態のステップ72ないしステップ94から成る。ステップ162は、第1実施形態の測定ステップ100と同一である。ステップ72ないしステップ94と、ステップ100とについては、図3に関連して先に説明がなされている。
【0127】
次いで、方法は、測定したドリフトを補正するフェーズ164に進む。これは、先に説明したものと同一の基準に関連してトリガされる。
【0128】
補正フェーズ164は、第1ステップ166から成る。第1ステップでは、情報処理ユニット28の補正ユニット34が、イメージングアレイ12中のm×n個のボロメータ140の平均ドリフト
【数24】

、又は、補償ボロメータ50の平均ドリフト
【数25】

を算出する。特に、ユニット34は、アレイ12中のイメージングボロメータ140に関連する平均差
【数26】

、又は、補償ボロメータ50に関連する差
【数27】

を求める。
【0129】
続くステップ166において、補正ユニット34は、平均ドリフト
【数28】

に応じて、焦点面の温度をコントロールするシステムのための設定温度Tを算出する。この設定点Tは、その温度が焦点面に適用されることによって、イメージングボロメータ140の電気抵抗が
【数29】

だけ低下する結果が得られるように算出される。当然ながら、検出器10の動作範囲にわたって、実際に、イメージングボロメータ140の温度と電気抵抗の値との間の関係を連続的に減少させることができる。故に、温度をコントロールすることは、その電気抵抗をコントロールすることに等しい。
【0130】
したがって、補償ステップ164は、焦点面の温度を設定温度Tにコントロールするステップ170に進む。
【0131】
最後に、新しい平均ドリフト
【数30】

、及び、新たなドリフトを補償する新しい設定温度Tを測定するために、ステップ170からステップ162にループバックする。
【0132】
シーンの熱イメージを形成するための検出器10の動作の間、イメージングボロメータ140が、焦点面温度を変更することによるこの補正過程によって値
【数31】

だけ減少した電気抵抗を有することは明らかである。そのようにして、それら電気抵抗のドリフトが、能動的に補償される。
【0133】
第5実施形態におけるドリフト補償は、イメージングアレイ12中のイメージングボロメータの平均ドリフトの補償を意味するということに留意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0134】
この発明は、イメージセンサの分野に適用できる。イメージセンサは、検出周波数帯、又は、例えば、アモルファスシリコン(a−Si)、酸化バナジウム(Vox)、又は金属酸化物(Ti)などのイメージングボロメータ又は基準ボロメータの製造に用いられるボロメトリック材料のタイプにかかわらず、ボロメトリック検出に利用される。
【0135】
故に、本発明には、以下の用途がある。
・赤外線マイクロボロメータ高温測定
・赤外線マイクロボロメータイメージング
・赤外線マイクロボロメータイメージングによる車両の運転補助及び歩行者の検出
・赤外線マイクロボロメータイメージングによるガス測定
・より広範な、マイクロボロメータを用いた物理的測定
【符号の説明】
【0136】
10 ボロメトリック検出器
12 2次元アレイ
14 イメージング画素
16 積分器
18 アドレス指定回路
24 補償回路
28 情報処理ユニット
30 演算論理ユニット
32 メモリバンクユニット
34 補正ユニット
38 ドリフト測定回路
40 演算増幅器
42 コンデンサ
44 リセットスイッチ
46 リードセレクトスイッチ
48 第1MOSインジェクショントランジスタ
50 抵抗型補償ボロメータ
52 シールド
54 第2MOSインジェクショントランジスタ
56 抵抗器
58 第3MOSインジェクショントランジスタ
60 第1ドリフト測定スイッチ
62 第2ドリフト測定スイッチ
140 抵抗型イメージングボロメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗型イメージングボロメータを具備した赤外線放射検出用デバイスであって、
前記ボロメータの電気抵抗の基準値に対する前記ボロメータの電気抵抗のドリフトを測定する測定手段と、
前記ドリフトの影響を補正する補正手段又は抵抗の前記ドリフトを補正する補正手段と
を具備し、
前記基準値は、前記ボロメータの所定の動作条件に対応することを特徴とする赤外線放射検出用デバイス。
【請求項2】
前記測定手段が、
前記ドリフトの影響を受ける基準抵抗型ボロメータと、
基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段と、
測定した電気抵抗に応じて、前記ドリフトを決定する決定手段と
を具備することを特徴とする請求項1に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項3】
基準ボロメータが、イメージングボロメータに関連した補償ボロメータであることを特徴とする請求項2に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項4】
基準ボロメータが、イメージングボロメータであることを特徴とする請求項2に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項5】
基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段が、
基準ボロメータに流れる電流を積分する積分手段と、
積分手段によって積分された電流に応じて基準ボロメータの電気抵抗を決定する決定手段と
を具備することを特徴とする請求項2、3、又は4に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項6】
基準ボロメータの電気抵抗を測定する測定手段が、
基準ボロメータに接続可能な所定の電気抵抗を有した抵抗部と、
基準ボロメータに流れる電流と抵抗部に流れる電流との差を積分する積分手段と、
積分手段によって積分された電流差に応じて基準ボロメータの電気抵抗を決定する決定手段と
を具備することを特徴とする請求項2、3、又は4に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項7】
抵抗部に流れる電流を積分することによってイメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定回路をさらに具備し、
前記回路は、赤外線放射温度を測定するように構成され、
積分回路が、前記測定回路に含まれていることを特徴とする請求項5又は6に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項8】
補正手段が、前記ドリフトを補償するように、イメージングボロメータの温度を制御する制御手段を具備することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項9】
イメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定手段と、
測定された電気抵抗とイメージングボロメータの電気抵抗によって決まる少なくとも1つのパラメータとに応じてボロメータ上の入射放射の温度を決定する決定手段と
をさらに具備し、
補正手段が、温度を決定したとき、ドリフトの影響を補正するように、測定されたドリフトに応じて前記少なくとも1つのパラメータを補正する機能を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つのパラメータが、イメージングボロメータの電気抵抗を測定する測定回路の温度に対する電気的感度であることを特徴とする請求項9に記載の赤外線放射検出用デバイス。
【請求項11】
複数の前記赤外線放射検出用デバイスから成る少なくとも1つの行を具備した赤外線放射検出用システムであって、
前記デバイスのそれぞれが、請求項1ないし10のいずれか1項に記載されたデバイスであることを特徴とする赤外線放射検出用システム。
【請求項12】
赤外線放射検出用システムを構成するボロメータアレイ内の抵抗型ボロメータを読み取る方法であって、
前記ボロメータの電気抵抗の基準値に対する前記ボロメータの電気抵抗のドリフトを測定する段階と、
前記ドリフトの影響を補正する段階又は抵抗の前記ドリフトを補正する段階と
を有し、
前記基準値は、前記ボロメータの所定の動作条件に対応することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71987(P2010−71987A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−198280(P2009−198280)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(505296968)
【Fターム(参考)】