説明

担体と有効成分の分子間結合錯体

両親媒性担体と有効成分-Z−Yの式(I)の分子間結合錯体(該式において、Sは糖類から選択される炭水化物残基及びこれらの残基の組み合わせを示し、Xは直鎖または分岐のC1〜C12の脂肪族残基または重合度が1〜10の範囲の酸化エチレンまたは酸化プロピレンモチーフ及びこれらの残基のあらゆる組み合わせを示し、nは0または1であり、R1はHを示し、R2とR3は各々、水素原子または直鎖または分岐のペルフルオロ炭化水素鎖C1〜C20及びこれらの置換基のあらゆる組み合わせを示し、有効成分-Z−Yが、治療活性または前治療活性を有する残基Yと、酸残基Zを含む。)
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有効成分の安定性を向上させ、その副作用を削減することは、今日でもなお重要な課題である。一般的に、この安定化は二つの段階で行われる。まず最初に、保存料と酸化防止剤を導入することができる貯蔵段階、次に、有効成分の投与時である。この有効成分は、有効成分を可溶化するためと、場合によっては、有効成分を作用位置へ向かわせるために、賦形剤を使用して投与される。同時に、有効成分は、免疫系によって引き起こされる多数の劣化から保護されることになる。
【背景技術】
【0002】
今日、有効成分のターゲティング技術が多数存在する。
【0003】
これらの技術は、有効成分の性質(親水性または親油性)及び標的とする器官、投与量及び投与期間に応じて、様々な戦略を利用する。例えば、有効成分は、リン脂質の小胞の中に封入されるか、または、生分解性ポリマーのミクロスフィア内に固定され得る。
【0004】
皮膚を介した有効成分の投与には多数の利点がある。経口による処置に関連する吸収速度及び代謝速度の変化は、場合によっては起こりうる胃腸の炎症と同様に回避される。同様に、経皮による有効成分の投与によって、その血中濃度をより良好に制御できる。
【特許文献1】仏国特許発明第2661413号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、皮膚は複雑な構造を有し、経皮でまたは局部的に投与された分子は、血流に到達する前にまず角質層によって構成される第一の障壁を越えなければならない。角質層は、平均的な厚さが10〜15ミクロンの、高度に角質化した密度の高い層によって構成されている。高度な角質化および細胞の密集した結合によって、有効成分の通過に対してほとんど不浸透性の障壁を構成することができる。大部分の医薬の場合、皮膚を通過する浸透速度は、浸透性を付与する添加剤を添加しなければ、極めて遅い。有効成分の皮膚を通過する浸透速度を上げるためには、多数の添加剤を利用することができる。
【0006】
多くの化合物は、角質層の浸透性を増大するためと、また、皮膚を通過する有効成分の浸透度を高めるために、医薬と同時に投与される(場合によっては、浸透性付与剤で皮膚を前処置することができる)。多くの治療薬の浸透性は、これらの浸透性付与剤によって改良できる。
【0007】
複数の添加剤は、複数の機構によって皮膚を通過する有効成分の運搬を促進することができる。それらの機構のなかで最も重要なものは、下記のものである。
‐角質層からの脂質の抽出
‐脂質二重層の構造の破壊
‐結合水の移動
‐角質層の剥離
‐角質層の破壊
【0008】
浸透性付与剤は、様々な種類に分類できる。
【0009】
アルコール、アルキルメチルスルホキシドおよびポリオールなどの溶媒は可溶性を増大し、それによって、皮膚の通過を助長する。また、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはエタノールなどのいくつかの溶媒では、脂質を抽出し、角質層をより浸透しやすいものにすることができる。オレイン酸、ミリスチル酸イソプロピルは、脂質構造内に入り込んで、角質層を破壊する型の浸透性付与剤の例である。従って、この皮膚軟化作用によって、有効成分の拡散係数が大きくなる。
【0010】
また、イオン界面活性剤またはDMSOは、角質細胞のケラチンと相互作用して、それによって、蛋白質構造を広げ、拡散係数を大きくする。
【0011】
本発明は、有効成分をそれ自体の運搬に活動的に関与させる独創的な方策を記載するものである。この分子間結合の目的は、医薬を保護し、可溶化し、作用位置まで運搬することを目的とする。このため、酸/塩基の単純な静電気相互作用によって、酸性有効成分を生体適合性の塩基性の両親媒性分子と結合することが提案される。この結合は、有効成分と両親媒性分子との間の疎水性型の相互作用によって安定化できる。
【0012】
特に、この発明は、有効成分の可溶化、運搬、保護及び経皮拡散などの処方への応用に関するものである。
【0013】
実際、この両親媒性分子は、また、経皮運搬のための浸透性付与剤の役割を果たすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一つまたは複数の酸基を備える有効成分との、生体適合性の塩基性の担体の結合に関する。この分子間結合によって、静電相互作用によって結合され、二つの成分の疎水性部分間のファン・デル・ワールス型相互作用によって安定化される一対の酸/塩基の形成に対応する両親媒性の新しい種が生成する。このようにして結合によって形成された両親媒性錯体は、水中のその濃度及び有効成分の性質(体積、疎水性)に応じて、ミセルまたは小胞のような自動結合体の集合になる。このようにして形成された物体は、また、有効成分の自動運搬に役立つことがある。
【0015】
従って、本発明は、両親媒性分子と有効成分との間に形成された結合錯体に関するものである。
【0016】
本発明の目的は、両親媒性担体と有効成分-Z−Yの下記式(I)の分子間結合錯体であり、
【化1】

(上記式において、
Sは、単糖類、二糖類、多糖類、ポリオールを含む群の中から選択される炭水化物残基及びこれらの残基の組み合わせを示し、
Xは、直鎖または分岐のアルキル、アルケン、アルキンから選択されるC1〜C12の脂肪族残基、または、重合度が1〜10の範囲の酸化エチレンまたは酸化プロピレンモチーフ及びこれらの残基のあらゆる組み合わせを示し、
nは0または1であり、
1はHを示し、
2、R3は、各々、水素原子または、直鎖または分岐のペルフルオロ炭化水素鎖C1〜C20、及び、これらの置換基のあらゆる組み合わせを示す)
有効成分-Z−Yが、
抗炎症薬、抗生物質、多価不飽和脂肪鎖、ビタミンまたはプロビタミンを含む群から選択される治療活性または前治療活性を有する残基Yと、
カルボン酸塩、硫酸塩、スルフォン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩またはホスフィン酸塩を含む群の中から選択される酸残基Zを
含むことを特徴とする分子間結合錯体である。
【0017】
本発明は、また、有効成分を保護し、可溶化し、及び/または運搬するための上記のように定義した錯体の使用に関するものである。
【0018】
本発明は、また、局部的にまたは経皮によって投与される医薬の製造への上記に定義したような錯体の使用に関するものである。
【0019】
担体は、一つまたは複数の塩基を有する生体適合性の両親媒性分子の中から選択される。
【0020】
本発明によると、両親媒性担体は、一つまたは複数の疎水性鎖及び酸性の有効成分と静電的に相互作用することができる一つまたは複数の塩基を含む炭水化物誘導体の中から選択される。
【0021】
この両親媒性担体は、下記の一般式(II)に対応する。
【化2】

(上記式において、
Sは、単糖類、二糖類、多糖類、ポリオールを含む群の中から選択される炭水化物残基及びこれらの残基の組み合わせを示し、
Xは、直鎖または分岐のアルケン、アルキンである脂肪族残基C1〜C12、または、重合度が1〜10の範囲の酸化エチレンまたは酸化プロピレンモチーフ及びこれらの残基のあらゆる組み合わせを示し、
nは0または1であり、
1はHを示し、
2、R3は、各々、水素原子もしくは、直鎖または分岐のペルフルオロ炭化水素鎖C1〜C20、及び、これらの置換基のあらゆる組み合わせを示す。)
【0022】
本発明によると、有利には、両親媒性担体は、12個または16個の炭素原子鎖を備えるN−アルキルアミノ−1−デオキシラクチトールなどの、糖の先頭を有し、長鎖のアミン界面活性剤から選択される。なお、以下で、12個または16個の炭素原子鎖を備えるN−アルキルアミノ−1−デオキシラクチトールを各々Lhyd12及びLhyd16と呼ぶこととする。
【0023】
N−アルキルアミノ−1−デオキシラクチトールの一般式を下記に示す。
【化3】

(但し、Lhyd12ではm=8、Lhyd16ではm=12である。)
【0024】
これらの誘導体は、従来技術で公知の方法の一つによって製造される(New Journal of Chemistry、1992、16(3)、387;J. Dipersion Science and Technology、1991、12(3&4)、227;Langmuir、1999、15、6163;Biochimica et biophysica acta、1992、1109、55;1991年10月31日公開の仏国特許発明第2661413号明細書)。
【0025】
本発明によると、有効成分は、ケトプロフェン、イブプロフェンまたはインドメタシンなどの、酸基を有する非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)から選択されるのが好ましい。また、本発明による錯体は、有利には、リノール酸及びリノレン酸などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を酸/塩基結合によって可溶化し、運搬するために使用できる。特に、本発明によると、分子間結合(化学量論的または非化学量論的)は、塩基の形態の両親媒性分子を酸の形態の有効成分と水中または他の溶媒中で単純に接触させることによって形成される。
【0026】
従って、本発明は、塩基の形態の両親媒性担体と酸の形態の有効成分との間の単純な酸/塩基中和による結合に関する。
【0027】
本発明は、また、本発明の錯体の調製方法に関するものである。このために、有利には、両親媒性担体と有効成分の化学量論的混合物を大気圧下で室温から溶媒の沸騰温度までの範囲の温度で、1〜72時間の間加熱して、反応させる。反応後、最終混合物から水を除去し、好ましくは濾過して、凍結乾燥する。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によると、下記のような試薬及び溶媒を選択する。
‐塩基性の担体は、Lhyd12またはLhyd16である。
‐有効成分は、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェンまたはリノール酸である。
‐溶媒は、水またはメタノールである。
【実施例1】
【0029】
25℃に保った蒸留水30ml中のLhyd12が337.7mg(0.66mmol)の溶液に、磁気攪拌しながらイブプロフェン138.9mg(0.66mmol)を添加する。混合物は、24時間攪拌される。反応後、結合を含む水溶液をポンプで減圧して蒸発させ、最終的に生成物476.6mgを得る。
【0030】
結合は、新しい両親媒性種を構成し、該両親媒性種は10-3MのCACから直径80nmの凝集体を形成する。
【実施例2】
【0031】
25℃に保った蒸留水30mL中のLhyd12が337.7mg(0.66mmol)の溶液に、磁気攪拌しながらケトプロフェン171.3mg(0.66mmol)を添加する。混合物は、24時間攪拌される。反応後、結合を含む水溶液をポンプで減圧して蒸発させ、最終的に生成物509mgを得る。
【0032】
結合は、新しい両親媒性種を構成し、該両親媒性種は1.3×10-3MのCACから直径20及び260nmの二つの凝集体の集合を形成する。
【実施例3】
【0033】
25℃に保った蒸留水30mL中のLhyd12が337.9mg(0.66mmol)の溶液に、磁気攪拌しながらインドメタシン236.3mg(0.66mmol)を添加する。混合物は、24時間攪拌される。反応後、結合を含む水溶液を凍結乾燥させ、最終的に生成物574.2mgを得る。
【0034】
結合は、新しい両親媒性種を構成し、該両親媒性種は10-3MのCACから直径10nm未満の凝集体を形成する。
【実施例4】
【0035】
25℃に維持し、磁気攪拌下の蒸留水42mL中のLhyd16が536.9mg(0.91mmol)の溶液に、インドメタシン328.2mg(0.91mmol)を添加する。混合物は、24時間攪拌される。反応後、結合を含む水溶液を凍結乾燥させ、最終的に生成物865.1mgを得る。
【0036】
結合は、新しい両親媒性種を構成し、該両親媒性種は4.5×10-4MのCACから直径50nmの凝集体を形成する。
【実施例5】
【0037】
インドメタシンと、Lhyd12及びLhyd16とで形成された二つの結合について行った経皮浸透の研究。
【0038】
豚の耳の皮膚について、無限量で閉塞下で、通過研究を生体外で実施した。テストした処方は水溶液で調製され、一方、インドメタシンだけの対照は水性アルコールゲルで調製する(可溶性の問題から)。
【0039】
様々な処方を下記に示した。
‐処方A:水性アルコールゲルでの2.5%インドメタシンの調製(EtOH/水 75/25)
‐処方B:水溶液でのインドメタシン2.5%の結合の調製
‐処方B1:Lhyd16に結合されたインドメタシンの結合
‐処方B2:Lhyd12に結合されたインドメタシンの結合
‐処方C:増粘性の1.5%水性ゲルでの2.5%インドメタシンの結合の調製
‐処方C1:Lhyd16に結合されたインドメタシンの結合
【0040】
24時間後に測定したインドメタシンの積算量を下記表1に示した。
【0041】
【表1】

【実施例6】
【0042】
メタノール30mlにLhyd12を469.7mg(0.66mmol)可溶化させる。次に、空気及び光に関して特別に注意することは全くなく、窒素下で採取したリノール酸208μl(0.66mmol)を水溶液に導入する。溶液を24時間攪拌する。次に、メタノールを減圧下で蒸発させ、ゲルにする。このゲルを再度水中に入れ、凍結乾燥させ、最終的に生成物655mgを得る。
【0043】
結合は、新しい両親媒性種を構成し、該両親媒性種は2.5×10-2MのCACから直径200及び1000nmの二つの凝集体の集合を形成する。
【実施例7】
【0044】
メタノール42mlにLhyd16を564.6mg(0.96mmol)導入する。次に、空気及び光に関して特別に注意することは全くなく、窒素下で採取したリノール酸302μl(0.96mmol)を懸濁液に添加する。室温で4日間攪拌した後、溶液を減圧下で蒸発させ、ゲルにする。このゲルを再度水中に入れ、凍結乾燥させ、最終的に生成物833.6mgを得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性担体と有効成分-Z−Yの下記式(I)の分子間結合錯体であり、
【化1】

(上記式において、
Sは、単糖類、二糖類、多糖類、ポリオールを含む群の中から選択される炭水化物残基及びこれらの残基の組み合わせを示し、
Xは、直鎖または分岐のアルキル、アルケン、アルキンから選択されるC1〜C12の脂肪族残基、または、重合度が1〜10の範囲の酸化エチレンまたは酸化プロピレンモチーフ及びこれらの残基のあらゆる組み合わせを示し、
nは0または1であり、
1はHを示し、
2、R3は、各々、水素原子または、直鎖または分岐のペルフルオロ炭化水素鎖C1〜C20、及び、これらの置換基のあらゆる組み合わせを示す)
有効成分-Z−Yが、
抗炎症薬、抗生物質、多価不飽和脂肪鎖、ビタミンまたはプロビタミンを含む群から選択される治療活性または前治療活性を有する残基Yと、
カルボン酸塩、硫酸塩、スルフォン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩またはホスフィン酸塩を含む群の中から選択される酸残基Zを
含むことを特徴とする分子間結合錯体。
【請求項2】
両親媒性担体が、下記式
【化2】

(上記式において、m=8またはm=12)
のN−アルキルアミノ−1−デオキシラクチトールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分子間結合錯体。
【請求項3】
有効成分が、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェンまたはリノール酸から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分子間結合錯体。
【請求項4】
有効成分を保護し、可溶化し、及び/または運搬するための請求項1〜3のいずれか一つに記載の錯体の使用。
【請求項5】
局部的にまたは経皮で投与されるための医薬の製造への請求項1〜3のいずれか一つに記載の錯体の使用。

【公表番号】特表2009−502764(P2009−502764A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521980(P2008−521980)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064502
【国際公開番号】WO2007/010032
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(506260401)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【出願人】(508020339)ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER TOULOUSE III
【Fターム(参考)】