指向性マイクロ波化学
本発明は、それによって化学調製を行うことができる新規手段に関する。反応は、特別なチップ上でマイクロ波エネルギーを用いて加速することができる。チップは、マイクロ波エネルギーを効率的に吸収し化学反応速度を増加させる材料を含む。本発明は、タンパク質化学反応およびコンビナトリアルケミストリーにおいて使用されるものを含めて、多数の小規模化学変換において重要である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波化学の分野に関する。本発明は、バイオテクノロジー、特にマイクロプレートおよびアレイチップを用いた調製化学および分析化学(microplate- and array chip-based preparative and analytical chemistry)の分野にも関する。
【0002】
本願は、ともに参照によりそれら全体を本明細書に援用する(2000年10月3日に出願され、現在放棄された)米国特許出願第60/237192号および(2001年10月2日に出願された)同09/968,517号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0003】
これまで、本明細書に開示する化学調製を実施したものはいない。高周波/マイクロ波エネルギーを放出する装置が使用される。エネルギーは、マイクロ波エネルギーを吸収する1種類または複数の材料を含む標的物体、例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートに向けられる。マイクロ波によって発生する熱エネルギーは、標的物体表面の所望の化学反応を加速する。
【0004】
マイクロ波化学
(高周波またはRF電磁放射を含めた)マイクロ波は、無線通信装置に広く使用されている。マイクロ波伝送は、衛星および通信産業における(例えば、携帯電話および無線インターネットにおける)最近の著しい技術改善とともに進歩した。
【0005】
マイクロ波は、一般の台所用品においてもよく知られている。マイクロ波オーブン(電子レンジ)は、水を含む食物を迅速に加熱する。それは、水がマイクロ波エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換するからである。台所のマイクロ波オーブンは、周波数2.45GHzのマイクロ波を放出する。この周波数は、水のマイクロ波吸収スペクトル内に十分にある。水の吸収スペクトル外の周波数では、食物は同じようには加熱されない。
【0006】
マイクロ波の別の用途は、化学反応への応用である(Bose等、1997;Bradley、2001;Wathey等、2002;Lew等、2002)。マイクロ波化学とは、化学反応を加速する(accelerate)ためにマイクロ波を使用するものである。反応は、通常、反応物を含むバルク溶液を加熱するためにマイクロ波放射を使用して実施される(Mingos & Baghurst、1991;Zlotorzynski、1995)。これらの反応は非水溶媒中で実施されることが多い。バルク反応溶液のマイクロ波化学の実施に使用するために特別に設計されたマイクロ波オーブンが市販されている(CEM Corporation(Mathews、NC)、Milestone,Inc.(Monroe、CT)、Personal Chemistry AB(Uppsala、Sweden)、PerkinElmer Instruments(Shelton、CT))。
【0007】
マイクロ波によって加速される反応は、アルミナ、シリカなどの無溶媒担体上で実施されることがある(Varma、2001;Bose、1997;Bram等、1990)。担体は、例えば廃棄物を無毒化するのに試薬をドープすることができる。担体が選択されるのは、目的試薬を非特異的に吸着/抽出する安価で再利用可能な薬剤であるからである。(抗体などによる)特異的結合は、試薬を捕捉するために使用されない。
【0008】
マイクロ波によって促進される触媒作用も記述されている(Roussy & Pearce、1995)。「マイクロ波によって促進される触媒作用」という用語は、水溶液中の酵素様結合ポケットにおいて起こる触媒作用ではなく、従来の触媒作用を意味するために使用される。「マイクロ波によって促進される触媒作用」という用語のこのような用法の一例は、金属Pt/Al2O3触媒を用いた液体へキサンの異性化である。別の例は、CaOおよびMgOをドープしたSmLiO2の酸化物である触媒を用いたガス状メタンの部分酸化である(Roussy & Pearce、1995)。
【0009】
化学反応を加速するためにマイクロ波を応用する別の例は、バルク溶液の加熱を進めるためにマイクロ波吸収粒子を使用するものである(Holzwarth等、1998)。この場合には、分散コバルトおよび磁鉄鉱ナノ粒子が、バルクキシレン溶液を加熱するマイクロ波(2.45GHz)吸収体として使用された。キシレンは、2.45GHzのマイクロ波によってはほとんど加熱されない非極性溶媒である。このような一例として、酵素触媒反応の速度を加速するためにマイクロ波が使用された(Kidwai等、1998)。別の例では、Milestone,Inc.(Monroe、CT)は、化学合成中に溶液のマイクロ波加熱を加速するために試験管中に入れるように設計されたPTFEとグラファイトからなるマイクロ波吸収/加熱複合材料を販売している。しかし、これらの例においては、マイクロ波は、表面を加熱するためではなく、バルク溶液を加熱するために使用される。
【0010】
別の応用例では、マイクロ波は、固相コンビナトリアル化学反応中にバルク溶媒を加熱するために使用された(Kappe、2001;Bradley、2001;Lidstrom等、2001)。これらの例では、通常の樹脂(例えば、ポリスチレン)が化学反応の固体足場として機能する。バルク溶液は、マイクロ波加熱の標的であった。
【0011】
別の例では、マイクロ波は、貴金属と発色試薬の発色反応を加速するために使用された。この分析反応は、フローインジェクション分析(FIA)によって溶液中で実施された(Jin等、1999)。この反応は、標的誘電材料の加熱ではなくバルク溶媒の加熱によるものであった。
【0012】
さらに別の例では、マイクロ波は、アルミニウムの蛍光性複合体の溶液相形成を進めるために使用された(Kubrakova、2000)。溶液中のアルミニウムイオンを測定するために蛍光強度を使用することができた。この場合も、反応は溶媒のバルク加熱によるものであった。
【0013】
さらに別の例では、マイクロ波加熱は生化学用途において使用された。一例は、マイクロ波加熱によって支援されるタンパク質染色である(Nesatyy等、2002)。さらに別の例では(Boon & Kok、1989)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を加速するためにマイクロ波加熱が使用された。これらのいずれにおいても、マイクロ波加熱は、固体表面を対象としたものではなく、バルク水溶液標的を加熱するために使用された。
【0014】
天然酵素および人工酵素
自然は、生きている生物の機能に必要な特異反応を触媒するために、酵素と呼ばれる特異的に折りたたまれたタンパク質を使用する。自然は、他の生物学的プロセスに作用するために、受容体、抗体などの非触媒作用性タンパク質も使用する。触媒作用性タンパク質と非触媒作用性タンパク質のどちらもそれらの表面に、精巧な特異性で適切な分子に結合する優れたポケットを有する。酵素の場合には、適切な分子が(「活性部位」と呼ばれる)結合ポケットに結合すると、分子(基質)を化学的に異なる分子(生成物)に変換する化学反応が起こる。反応生成物は活性部位から解離し、(不変の)酵素が結合して、別の反応「代謝回転」を触媒することが可能になる。
【0015】
タンパク質をもとにする酵素、受容体および抗体は、産業、医薬および診断学において試薬として使用されることが多い。例えば、抗体は、癌およびリウマチ様関節炎を含めて、様々な疾患に対する治療薬として使用される。酵素は、デニム地のジーパンを「退色」させ、高フルクトースコーンシロップを加工するために使用される。抗体および酵素は、医学的診断において免疫測定に使用される。天然の抗体および酵素が広く使用されているにもかかわらず、多数の研究室が人工抗体、受容体および酵素を作製しようとしてきた。天然タンパク質または改変天然タンパク質を実用目的で使用する上での1つの欠点は、タンパク質が特に安定な分子ではないということである。人工試薬であれば、非生理学的な温度、pH値、非水溶媒および塩濃度に対してより安定なはずである。また、天然タンパク質は、他のタンパク質を加水分解によって切断し失活させるプロテアーゼと呼ばれる酵素の混入によって分解しやすい。また、理想的な保存状態(適切な緩衝剤中での冷所保存)にあっても、タンパク質の品質保持期間は極めて短いことがある。最後に、既知の自然抗体または酵素がない結合試薬または触媒試薬が求められることが多い。例えば、メタノールなどの極めて小さな分子に結合する抗体が求められ、あるいは選択された立体特異的反応をファインケミカル調製中に起こす酵素が求められることがある。
【0016】
天然タンパク質の上記欠点のために、多くの研究室が、抗体または酵素として同じように機能する非タンパク質生体模倣化合物を開発した。広範なクラスの化学構造が、人工タンパク質として有用であることが判明した。すべての場合において、これらの人工生体分子は、目的分子に特異的に結合する結合ポケットを有する。これらには、分子刷り込みポリマー(molecularly imprinted polymer)(Dai等、1999;Dickert & Thierer、1996;Leonhardt & Mosbach、1987)、キラル配位子(Maugh 1983a)、キャビタンド(Maugh 1983b、Breslow等、1983)およびゼオライト、他の低分子量有機合成受容体(Borchart & Clark、1994)などが含まれるが、これらだけに限定されない。また、安定性(熱など)の高い天然タンパク質が探索され、または改変されることも多い(Maugh、1984)。
【0017】
人工酵素または抗体/受容体を作製した人で、生体特異的化学反応を加速するために指向性マイクロ波エネルギーを使用できる可能性を報告した人はいない。
【0018】
本発明は、これまで無関係であったこれら2つの分野の顕著な特徴を組み合わせたものである。これらの分野のある態様を組み合わせることで、マイクロ波放射エネルギーによって、かつ天然酵素の精巧な部位特異性および立体特異性で化学反応を加速することができることを発見した。
【0019】
本発明は、選択された化学反応をマイクロ波エネルギーを用いて特異的に加速する新規手段を開示する。この反応特異性は、マイクロ波が、所望の反応物に対して特異的結合部位を含む損失性(下記定義参照)材料を対象にするということに由来する。本発明は、マイクロ波放射の新しい用途について述べる。類似分子および/または異なる分子の混合物中の特定分子の反応を誘電加熱によって加速するようにする方法はまだ開示されていない。このように、本発明は、新しい形態の人工酵素について述べる。これらの結果は、選択されたマイクロ波放出周波数において水よりも実質的に加熱特性に優れた誘電材料を使用することによって得られる。特定の反応物に結合する分子は、選択的に加熱された誘電材料と関係し、結合反応物の反応を促進させる。
【0020】
本発明は、このような反応の前に表面を調製するために、さらにマイクロ波を使用することができる方法も開示する。上述したように、天然酵素および人工酵素は、少なくとも2種類の化学成分間の特異的結合相互作用、および反応を起こす起動力(この場合、マイクロ波エネルギー)を必要とする。マイクロ波によって促進される表面調製としては、表面へのタンパク質、DNAなどの生体分子の結合の加速、ペプチドまたは他のリガンドもしくは基質の合成の加速などがあるが、これらだけに限定されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、特異的化学反応を加速する改善プロセスおよび装置を対象とする。本発明の別の目的は、要求に応じた酵素様部位および立体特異性を反応に付与することである。本発明のさらに別の目的は、このような改善された反応速度および特異性を、多数の様々な化学反応に提供することである。本発明のさらに別の目的は、加速された反応が制御可能であり、その結果、使用者が自由に、加速された反応を選択的に開始または終了することができ、あるいは調整することができることである。本発明のさらに別の目的は、反応が均一または不均一な溶液または懸濁液中であっても、あるいは固体担体(表面、ビーズなど)と結合または関係していても、特異反応が加速されることである。本発明のさらに別の目的は、所望の反応物に構造が極めて類似しているが、さほど反応しない他の化合物の存在下で、選択された反応を加速する方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、化学反応を加速するマイクロ波を使用して、後続の生物分析(bioanalytical)反応用表面を調製することである。本発明のさらに別の目的は、マイクロ波標的材料の圧電特性を使用して、生体分子の結合相互作用を加速することである。本発明のさらに別の目的は、生物分析アレイチップおよびマイクロタイタープレートの表面にマイクロ波加熱を向けて、調製反応および分析反応を加速することである。本特許のさらに別の目的は、生物分析試験後にマイクロ波加熱を用いて有害な生体分子または生体生物(bioorganism)を失活させることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、(触媒作用的または化学量論的)化学反応を加速することができ、精巧な酵素様特異性を付与することができる手段を記載するものである。反応は、固相または表面(以下、あわせて「固体担体(solid supports)」と称する)上で起こることが好ましい。適切な固体担体は、誘電体(マイクロ波吸収)材料、および1個または複数の生物学的分子が共有結合または非共有結合によって付着する反応物表面(reactant surface)を含むことが好ましい。固体担体は様々な形をとることができ、最も注目すべきものはビーズおよび平面または曲面である。固体担体は、生物分析反応に使用されるマイクロチップ表面またはマイクロタイタープレートのウェル(the wells)であることが多い。あるいは、固体担体は、試験管、遠心管またはペトリ皿の形とすることができる。固体担体は、選択試薬を含有する水溶液または有機溶液中に浸すことができる。次に、用途に応じて、固体担体は溶媒中に残されるか、または例えば大気中などに取り出されることが好ましい。次いで、マイクロ波が固体表面に放射される。固体担体が溶媒中に残留している場合には、マイクロ波は、溶媒よりも誘電体を加熱する周波数で放射される。機器出力、周波数およびマイクロ波放射期間は、実験室であらかじめ決定される。マイクロ波加熱後、試薬の変化は、反応物から生成物が形成される際に生じる何らかの物理化学変化によって確認することができる。特定の化学速度増加を、調製および/または分析用途に使用することができる。分析用途においては、例えば医学的診断において、付随する観測可能な物理化学変化(例えば、色の変化)によって反応を場合によってはモニターおよび/または定量してもよい。調製用途においては、マイクロ波誘電体層が存在することによって、後続の分析反応用の固体担体を調製する界面化学を支援することができる。誘電体層を調製用に使用することができる2つの好ましい方法がある。このような好ましい1つの方法では、表面のマイクロ波加熱は、熱効果によって、例えば、表面に対する抗体または核酸の結合を加速することによって、あるいはペプチドなどの小分子の表面での化学合成を加速することによって、化学反応を加速することができる。第2の好ましい方法は、圧電効果によって加速されたタンパク質または核酸の結合によるものである。セラミックスなどの多数の誘電体が圧電特性を有することが知られている。誘電体を電流が流れると、誘電体中に超音波振動が生じ、生体分子結合が加速される。
【0023】
本発明の原理によれば、固体担体上の反応は、(1)固体担体上の多数の特異的結合部位に結合することによって反応物濃度を調節すること、または(2)誘電体/人工酵素とバルク溶液の温度差を調節することによって加速することができる。
【0024】
詳細には、本発明は、反応物を含む化学反応を加速する方法を提供する。この方法は、
(a)誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を前記反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加するステップと、
(c)加熱中の前記複合材料を前記反応物と反応させるステップと、を含み、得られる生成物が前記複合材料中に含まれ、それによって前記化学反応が加速される。
【0025】
本発明は、特に、化学反応の程度または速度を測定するステップをさらに含むこのような方法の実施形態に関する。さらに、本発明は、
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記追加の反応物を1つまたは複数の生体特異的相互作用において反応させるステップと、
(f)前記生体特異的相互作用の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含むこのような方法の実施形態にも関する。
【0026】
さらに、本発明は、
(d)1つまたは複数のさらなる反応のために前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された追加の反応物を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(g)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含むこのような方法の実施態様にも関する。
【0027】
さらに、本発明は、
(d)前記反応の程度または速度を測定するステップと、
(e)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(f)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(g)前記加熱された第2の反応物の1個または複数を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(h)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0028】
さらに、本発明は、前記反応物が、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドからなる群から選択される、このような方法の実施態様にも関する。
【0029】
さらに、本発明は、前記反応が非共有結合性吸着反応であり、かつ/または前記反応物がアミノ酸であり、かつ/または前記反応が共有結合性共役反応である、このような方法の実施形態にも関する。
【0030】
さらに、本発明は、前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、このような方法の実施態様にも関する。
【0031】
さらに、本発明は、前記化学反応の1つまたは複数が、化学発光反応、可視色または紫外色の変化をもたらす反応、および蛍光特性の変化を含む反応からなる群から選択される、このような方法の実施態様にも関する。さらに、本発明は、前記反応物の1個または複数が酵素反応生成物である、このような方法の実施態様にも関する。
【0032】
さらに、本発明は、前記かけられる場の波長が1cm〜100mである、このような方法の実施態様にも関する。
【0033】
さらに、本発明は、上記方法によって得られる複合材料を含む複合材料にも関する。
【0034】
さらに、本発明は、誘電加熱に応答し、反応分子と生体特異的相互作用し得る表面分子を有する固体材料を含む、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0035】
さらに、本発明は、前記表面分子が、非共有結合性吸着反応によって前記表面に結合または固定されている、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0036】
さらに、本発明は、前記表面が前記反応分子と共有結合性共役反応し得る、かつ/または前記表面がマイクロアレイチップ、マクロアレイチップ、試験管、ペトリ皿およびマイクロタイタープレートからなる群から選択される、このような複合材料の実施態様にも関する。さらに、本発明は、前記固体材料が圧電特性を有する、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0037】
さらに、本発明は、反応物の化学反応を加速する方法にも関する。この方法は、
(a)圧電超音波処理および誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を1個または複数の反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を圧電振動させるのに十分な電流を前記複合材料に印加するステップと、
(c)前記反応物を前記複合材料と反応させ、それによって前記化学反応を加速するステップと、を含む。
【0038】
さらに、本発明は、
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された第2の反応物を反応させ、それによって前記第2の反応を加速するステップと、
(g)前記第2の反応の程度を測定するステップと、をさらに含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0039】
さらに、本発明は、前記複合材料がセラミック材料を含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0040】
定義
「加速する(Accelerate)」:化学反応速度を、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも100%以上増加させること。
「水溶液(Aqueous Solution)」:水が50体積%を超える液体媒体。
「人工抗体(または受容体)(Artificial Antibody (or Receptor))」:それが結合する分子に対して形および/または変化が相補的であるように設計された結合ポケットを含む、合成によって生成される分子。これは、小さな有機分子、人工ポリマーなどの単一分子でできていてもよく、またはアクリルポリマー粒子、シリカ表面などのバルク物質であってもよい。この人工生体分子は、相補的分子に特異的に結合する。
「人工酵素(Artificial Enzyme)」:別の分子に対して形または変化が相補的である1個または複数の結合部位を有する、合成によって生成される分子。人工酵素は、相補的分子に結合し、その結合分子に化学変換を起こさせる。
「生体特異的相互作用(Biospecific Interaction)」:3つ以上の空間的に異なる物理相互作用による、生物学的分子と生物学的または非生物学的分子との接触。これらの相互作用は、一般に、ファンデルワールス相互作用、水素結合およびイオン性相互作用である。生体特異的相互作用は共有結合を含むことができる。
「化学反応(Chemical Reaction)」:1個または複数の分子(生成物)を形成する1個または複数の分子(反応物)の化学変換。この定義は、(加水分解などの)共有結合性変換および(結合現象などの)非共有結合性変換を含む。
「チップ(Chip)」:所望の化学反応を起こすための1個または複数の領域をその表面に有する本質的に平面状の物体。チップは、片手で持てるほど十分小さくかつ十分軽量であることが好ましい。生物学的分子が反応に関与する場合には、チップはバイオチップとしても知られる。
「複合材料(Composite)」:2種類以上の異なるタイプの材料または分子でできた固体。複合材料が複数の材料でできている場合には、これらの材料は混合されていてもよいし、または物理的に分離されていてもよい。物理的に分離されている場合には、これらの材料は、不可逆的に接合されていてもよいし(例えば、一緒に接着されている)、または可逆的に接合されていてもよい(例えば、一緒に留められている)。
「誘電加熱(Dielectric Heating)」:波長約5cm〜100mの電磁放射による誘電(電気絶縁)材料の加熱。
「損失性材料(Lossy Material)」:吸収したマイクロ波エネルギーを熱の形で損失する(誘電)材料。
「マクロアレイ(Macroarray)」:チップ上の1〜1000個の複数の反応領域のパネル。
「MATTR」:「マイクロ波加速標的トリガー反応(Microwave−Accelerated Targeted Triggered Reaction)」技術。
「マイクロアレイ(Microarray)」:チップ上の1000を超える数の反応領域のパネル。
「マイクロタイタープレート(Microtiter plate)」:生物医学研究室において一般に使用される複数の反応ウェルを含む物体。一般に、マイクロタイタープレートは使い捨てされ、透明アクリルでできており、24(4×6アレイ配列)、96(8×12)、384(16×24)または1536(32×48)個のウェルを有する。
「マイクロ波(Microwave)」:3×102〜3×104MHz(1m〜1cmの波長)の範囲の電磁放射。誘電加熱はこの範囲で起こるが、これよりも長い(ラジオ)波長(最高100m)でも起こり、別法としてこれを使用することもできる。概して、マイクロ波加熱(本明細書では高周波誘電加熱も含むものとする)周波数は約1cm〜100mの波長に及ぶ。
「マイクロ波オーブン(Microwave Oven)」:マイクロ波放射を所定の波長で内部チャンバ中に発する装置。チャンバは、マイクロ波が洩れるのを制限するために密閉されている。
「分子刷り込み(Molecular Imprinting)」:選択した標的(刷り込み)分子に対して特異的な結合部位を合成材料に導入するプロセス。結合材料は、通常、有機ポリマーである。一般に、官能基モノマーと架橋モノマーが、分子テンプレートとして働く刷り込み分子の存在下で共重合される。続いてテンプレート分子を除去すると、刷り込み分子に対して形およびサイズが相補的である結合部位が現れる。このようにして、分子メモリーがポリマー中に導入され、高い特異性で刷り込み分子に再結合することができる。
「有機溶液(Organic Solution)」:有機溶媒が50体積%を超える液体媒体。
「オリゴヌクレオチド(Oligonucleotide)」:50個以下のヌクレオチド残基を有する核酸分子。
「圧電材料(Piezoelectric Materials)」:機械的に変形されたときに電荷を生成する物質。逆に、外部電場が圧電材料にかけられたときには、圧電材料は機械的に変形する(その物理的寸法を変化させる)。これらを総称して圧電効果と呼ぶ。
「ポリヌクレオチド(Polynucleotide)」:50個を超えるヌクレオチド残基を有する核酸分子。
「多孔質(Porous)」:水および他の液体分子が通過することができる経路を含む固体材料。
「熱的近接(Thermal Proximity)」:1個の物質が第2の物質と実質的な熱伝達がそれらの間で起こり得る十分な近さにある状況。好ましい実施形態においては、第1の物質および第2の物質は、水溶液または有機溶液に浸されている。第2の物質のバルクは第1の物質と熱的近接になく、したがって、第1の物質へのまたは第1の物質からの実質的な熱伝達を受けない場合が多い。
「熱電対(Thermocouple)」:一端が連結された2種類の異なる金属からなる温度測定用センサー。これらの金属は、所与の温度において小さな特有の電圧を生じる。この電圧が測定され、熱電対温度計によって読まれる。
「導波路(Waveguide)」:選択された方向に波を伝播させる構造体。これは、境界上での波と、電流および電荷との密接な関係によってなされ、あるいは境界におけるある反射条件によってなされる。
「ゼオライト(Zeolite)」:化学反応を触媒するのに使用される多孔質無機固体。ゼオライトは、酸素原子によって連結されたアルミン酸塩およびケイ酸塩四面体の規則的反復パターンに基づく堅い構造体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
マイクロ波加熱
人類の歴史において最近まで、従来のバルク加熱(火など)は、温度上昇(および化学反応の加速)をもたらす唯一の方法であった。半世紀前に新しい基本的に異なる形式の加熱が開発されマイクロ波加熱と呼ばれている(本明細書では、誘電加熱を含むものとする−定義参照)。マイクロ波加熱においては、電磁放射が試料にあてられる。適用周波数のマイクロ波を吸収する誘電体である試料内の化合物は温度が上昇する。誘電材料は、周波数と加熱能力の独特なスペクトル特性を有し、異種物質は異なる周波数でより有効に加熱される(Gabriel等、1998)。最も重要な点は、従来の加熱とは対照的に、誘電加熱において熱が外側からかけられ内部に移動する場合には、特質上適切な誘電特性を有する材料が加熱されることである。誘電加熱は本明細書ではマイクロ波加熱と称するが、誘電加熱は高周波でも起こり得る。本発明は、これらの効果を含むものとする。
【0042】
アレニウス式によれば、反応速度は、活性化エネルギーの低下(すなわち、酵素のような反応機構の変化)、または反応粒子間の衝突頻度および効率を反映した前指数因子(pre-exponential factor)の増加によって増大させることができる。第2の理由は、物質に対するマイクロ波の作用機構に密接に関係し、マイクロ波の場において化学プロセスが大きく加速される主因である(Kubrakova、2000)。
【0043】
誘電加熱は、マイクロ波照射の周波数およびその周波数における誘電体の吸収特性を含めていくつかの要因に左右される。すべての誘電材料は、特徴的な吸収スペクトル(周波数と加熱能力)を有する。例えば、従来の台所のマイクロ波オーブンにおいては、マイクロ波周波数(2.45GHz)は水を加熱するのには極めて良好であるが、他の材料(例えば、水を入れたカップ)を加熱するのには向いていない。マイクロ波放射の周波数が変われば、理論的には、(水とカップの相対的誘電吸収特性に応じて)水ではなくカップを加熱することができる。したがって、誘電加熱を用いて、水を加熱することなく水中の材料を加熱することができる。材料が加熱されれば、加熱された材料が断熱層で覆われていない限り、隣接する水に熱が伝達されることは言うまでもない。
【0044】
誘電体を(最初に文献または化合物のスクリーニングによって)選択し、結合分子(例えば、共有結合、吸着、捕捉(マクロ孔質またはメソ孔質絶縁層)などによって覆い、この層を多孔質層によって被覆することができる。誘電体は、反応物の水溶液または有機溶液に添加される。マイクロ波が照射され、適切な生成物が形成される。
【0045】
本発明の好ましい実施形態の物理的構成成分
本発明の好ましい実施形態の物理的構成成分は以下のとおりである。
1)マイクロ波/高周波源。反応は、マイクロ波発生器の空洞内、または導波路内で実施することができる。マイクロ波は、マグネトロン、ソリッドステート装置(ブルートゥース、Wi−Fi(IEEE 811.b)など)、クライストロン、クロスフィールド増幅器、進行波管、後進波管、またはそれらの任意の組合せを含めて、様々な装置によって発生させることができる。マイクロ波放射の周波数は、300〜30,000MHz(1m〜1cmの波長)の範囲にある。誘電加熱は、最低3MHzまでのより低い(ラジオ)周波数(最高100mの波長)においても起こり、別法ではこれを使用することもできる。概して、マイクロ波/誘電加熱周波数は約1cm〜100mの波長に及ぶ。この範囲にわたる電磁気加熱は本発明の一部とみなされる。使用周波数は、加熱すべき誘電材料の性質を含めた要因によって決まる。
【0046】
本発明で注目すべき周波数は、0.915GHz、2.45GHz、5.85GHz、22.125GHzなどである。米国政府は、現在、産業用途、科学用途、医学用途にこれらの周波数を使用することを認めている(Boon & Kok、1989)。マイクロ波チャンバ内の放射が(通信用マイクロ波との干渉を防止するために)十分に遮蔽されているのであれば他の周波数も注目される。「周波数可同調(Frequency-tunable)」マイクロ波オーブンを作製し本発明に使用することができる(Microwave Research Center、Eagan、MN;Microwave Research & Applications,Inc.、Laurel、MD)。他の周波数も商業的に利用可能であるが、家庭の台所のマイクロ波を含めてほとんどの商業的に利用可能なマイクロ波は2.450GHzで放出される。例えば、Microdry,Inc.(Crestwood、KY)およびCober Electronics(Norwalk、CT)は、0.915GHzマイクロ波装置を販売している。上記周波数のうち、2.45GHzは、家庭用マイクロ波オーブン、多数の無線通信装置(Wi−Fiおよびブルートゥース)などの多数の既存の装置に使用される広く容認されている周波数なので注目される。これらの装置は広く使用されているので、マグネトロン、ソリッドステート装置を含めて2.45GHzエミッタの設計および製造のノウハウはよく知られている。0.915GHzの周波数も、水を使用する用途では注目すべき周波数である。というのは、水は、この周波数の誘電加熱に最も影響されないからである(Laslo、1980)。表1に水のマイクロ波加熱における周波数依存性を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
反応は、マイクロ波発生装置内で液相または固相反応混合物に浸漬された誘電体/結合複合材料を用いて実施できると想定される。反応混合物中の誘電体にマイクロ波加熱を施すことによって、液体/固体界面において複数の代謝回転(触媒作用)が可能になる。
【0049】
発生したマイクロ波は、マイクロ波オーブンチャンバなどの空洞中または導波路中の加熱された誘電固相(マイクロチップ、マイクロタイタープレート、フレキシブルフィルムなど)に当たる。一般に、マイクロ波オーブン中で(例えば、マグネトロンによって)マイクロ波が生じたときには、マイクロ波は加熱すべき試料が置かれた空洞に導波路によって導かれる。オーブンの空洞よりも導波路中に試料を置く方が有利である。マイクロ波は導波路中では均一であるが、オーブン空洞中ではより不均一になり、定在波がしばしば「ホットスポット(hotspots)」を形成する。
【0050】
本発明の好ましい実施形態の中心をなすのは、マイクロ波が、反応表面に接触している誘電体に当たりそれを加熱するということである。マイクロ波は、複数の方向から、「反応側」または「誘電体側(dielectric side)」から誘電体に入る(図2)。したがって、反応物自体にマイクロ波を照射する必要はない。反応物は、誘電材料側から熱を受け取るだけでよい。実際、反応表面を直接照射しない方が好ましい場合がある。例えば、直接のマイクロ波照射がよくない材料(例えば、温度を測定する金属熱電対)を反応表面が含むことがある。
【0051】
バルク溶液なしで行われる反応は、分析用途において(例えば、医学的診断において)有用である。診断学においては、反応物溶液は、患者からの体液を含むことができる。所望の分子を捕捉した後に、マイクロ波によって加速される反応によって検出を容易にすることができる。例えば、マイクロ波は、分析物の色変化を起こすことができる。あるいは、標識された抗分析物抗体などの情報伝達分子を添加することができる。抗体上の標識は、マイクロ波照射によって反応して発光性または蛍光性信号を形成することができる。
【0052】
2)誘電材料。誘電材料は、反応物溶液に接触している固体担体が好ましい。担体は、様々な形状のいずれでもよい。担体は、平面状表面(例えば、コーティング、チャンバ壁、表面、チップまたはカートリッジの一部)とすることができる。適切な平面状誘電体は、複数の分析物の使い捨てバイオアッセイチップ(タンパク質チップまたはDNAチップ)などのチップの一部またはマイクロタイタープレートの一部とすることができる。このような装置は、一般に、それらの表面に1個または複数のスポットとして誘電材料を有していてもよいし、連続層を含んでいてもよい。あるいは、誘電材料は、ビーズなどの粒子の形で懸濁液中に存在することができる。類似用途の誘電材料を、マイクロタイタープレート、試験管、ペトリ皿、遠心管などの他のタイプの反応容器中で使用することができる。誘電材料は、反応容器中に組み込むことができ(テフロン(登録商標)(PTFE)/グラファイト複合材料など、または容器の底に置くことができ(チタン酸バリウム/ゼラチン接着剤など)、または反応容器から物理的に分離させることができる。後者の場合には、誘電体は、マイクロ波機器の一部とすることができる(図2C)。例えば、誘電体含有反応容器ホルダーをオーブン空洞または導波路内に恒久的に固定することができる。本発明では、誘電体は、結合した生物学的分子の近傍で加熱されるだけでよく、誘電体が物理的に反応容器(マイクロチップ、マイクロタイタープレートなど)の一部である必要はない。チップ自体が照射されるのではなく、下にある誘電材料からの伝導によってチップが熱を受け取るように、マイクロ波は「下」から誘電体に到達することができので、この特定の実施形態は注目される。誘電体は、導波路の壁またはマイクロ波オーブン空洞に組み込まれる。
【0053】
3)実施される反応。手短に述べると、反応は、熱によって加速されるあらゆる有機反応または無機反応とすることができる。反応は、選択された条件下では室温でかなり遅いが、高温では速いことが好ましい。分析用途では、反応は、検出方法(色の変化、発光など)に応じて選択される。
【0054】
4)反応分子と特異的に相互作用する表面結合分子。反応分子に特異的に結合する分子は、誘電材料表面に付着していることが好ましい。このような結合分子は、例えば、反応物に特異的に結合することができる抗体(またはその誘導体)、受容体、受容体リガンド、酵素(またはその誘導体)、ペプチド、アミノ酸、核酸、分子刷り込みポリマー、ゼオライト、キャビタンド、あるいは任意の他の高分子量分子または低分子量分子とすることができる。結合分子は、誘電材料に熱的に近いことが好ましい。結合分子は、吸着することができ、物理的に捕捉することができ、共有結合することができ、またはその他の方法で誘電材料と関係することができる(図2A)。あるいは、膜などの層を、誘電体に接触しているように誘電体上に成型または配置することができる。例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜を使用してDNAを捕捉することができる(図2B、図2C)。捕捉試薬(抗体またはDNAなど)は、膜にスポット状に吸着される。使用可能な様々な膜が利用可能である。捕捉試薬を含む粒子を膜に閉じ込めることができる(Jones、2001)。表面結合分子の共有結合または非共有結合による表面への固定は、近くにある誘電体のマイクロ波誘導加熱によって促進することができる。
【0055】
5)(本発明の分析用途用)検出/モニタリング方法。反応物からの生成物の形成を伴う物理化学変化が観察される。どの検出方法を使用するかは本発明自体には重要ではないが(多数の検出方法が使用できる)、検出方法は、実施される反応に応じて選択されなければならない(例えば、比色(colorimetric)、発光(luminescent))。検出器は機器に組み込むことができ、または加熱後、別の機器または目視で検出することができる。モニタリング方法は、色の変化、蛍光、発光、質量、または他の任意の検出可能な性質とすることができる。選択される検出方法は、選択された反応および反応の規模によって決まる。多数の検出方法が周知である。
【0056】
6)任意選択の多孔質断熱層。誘電体/結合分子層に接触し、またはそれを包囲するように多孔質断熱層を場合によっては設けることができる。この層は、反応分子を通過させるが、誘電材料からバルクの水または他の溶媒への熱のバルク伝達を減少させる。例えば、この絶縁層をマクロ孔質またはメソ孔質とすることができる。少なくとも1つの例においては、分子刷り込みポリマー、断熱層および結合分子を同じにすることができる。任意選択の多孔質層は、反応物および生成物を通過させる任意の材料とすることができ、ある種の断熱特性を有する。本質的に、この層の目的は、誘電体からバルク水相への熱伝導を遅らせることである。この層は、特に誘電体量が水の体積よりも少ない場合には、必要でない場合もある。多孔質材料のタイプの多くはポリマーである。
【0057】
一般に、多孔質層は、反応物が、その表面にある細孔を通過してその特異的結合部位に到達することができる任意の材料とすることができる。多孔質層は、水の拡散を遅らせるあらゆる機能が有利であるが、断熱特性を有する材料でできているべきである。使用可能ないくつかの材料は有機ポリマーである。これは、架橋することができ、表面に形成することができ、または吸着および架橋されたデキストラン、ゼラチンもしくはアガロースとすることができる。それ以外には、アクリレート、ポリアクリルアミド、シリカ、ポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)などの合成ポリマーなどがある。
【0058】
7)任意選択の特別な容器。任意選択の多孔質断熱層に対する機能上の別法は、反応溶液を入れる任意選択の特別な容器を有することである。この容器は、溶液を冷却する点で「特別」である。したがって、この容器ライニングは、ペルチェ冷却素子、氷−水ライニング、またはバルク溶液から熱を取り除く別の手段を含むことができる。このような冷却容器の効果は、マイクロ波加熱がより選択的に誘電材料に向けられ、バルク溶液には向けられないようにすることである。誘電体からバルク溶液に伝達された熱は、冷却容器ライニングに伝達されることになる。冷却容器は、低温分光学研究に使用される分光光度計などの多数の機器において周知である。
【0059】
8)また、誘電体温度をモニターおよび/または制御することが望ましいことがある。誘電体が構造的に適する場合(例えば、チップベースの誘電体には、熱電対を使用して誘電体温度を測定することができる。一例は、誘電体が使い捨てチップ(すなわち、顕微鏡スライド)上にコーティングされた場合である。熱電対は、加熱中にチップに接触して使用され、温度をモニターすることができる。さらに、熱電対温度測定を使用して、マイクロ波オーブンの出力を制御することによって、温度を制御することができる。誘電体温度があるレベル、例えば300℃に達した場合に、マイクロ波を自動的に遮断することができる。温度が例えば290℃に降下したときに、熱電対は、マイクロ波による加熱を再開させることができる。このような熱電対による温度制御は周知の技術である(HuhmerおよびLanders、2000;ASTM、1993;Kreider、1989)。あるいは、非接触分光技術を用いて温度を測定することができる(Boon & Kok、1989;Slyanev等、2001)。熱電対と分光学的方法の両方を用いてマイクロチップ温度が測定された(HuhmerおよびLanders、2000;Slyanev等 2001)。
【0060】
上では、本発明の好ましい実施形態の必要な要素および任意選択の要素について述べた。以下はこれらの要素に関連する主要な変数である。(1)使用されるマイクロ波発生機器および条件(発生器タイプ(マグネトロン、ソリッドステートチップなど)、周波数、時間、出力、試料配置(オーブン空洞中と導波路中))、(2)誘電体の材料組成、(3)実施する反応、(4)反応物に結合する分子(より一般的に言えば、実施するアッセイ)、(4)(分析に応用するための)検出方法、(5)反応容器形式(マイクロアレイチップ、マイクロタイタープレートなど、および誘電体が反応容器に組み込まれているか、またはマイクロ波機器の一部か)、および(6)信号検出方法。用途が異なればこれらの各々も異なり得る。以下、各変数を個々に考察する。
【0061】
1)マイクロ波機器:誘電材料が電磁気エネルギーを他の形式のエネルギー(熱)に変換する能力を示すパラメータは損失係数または損失正接(Tanδ)である。すべての材料で、Tanδは周波数に依存する。(所与の周波数において)選択溶媒よりもはるかに高いTanδ値を有する材料が本発明では注目される。周波数は、
【数1】
を最適にするように選択することができる。したがって、本発明がその潜在能力を余すところなく発揮するためには、マイクロ波周波数、誘電体吸収特性(所望の高吸収性)および溶媒(所望の低吸収性)が最適化されなければならない。複数の代謝回転(触媒作用)が望まれる用途においては、誘電体が反応物溶液に浸され、
【数1】
がより大きな妥当性を有しながら、マイクロ波照射を行うことができる。複数の代謝回転が求められない場合(すなわち、化学量論以下の反応)には、マイクロ波放射の前に誘電体を溶媒から除去することができる。したがって、例えば、空気中でマイクロ波放射するときには、
【数1】
は無関係になる。
【0062】
本発明にうまく適用することができる機器形式は多数ある。以下、それらについて個々に述べる。
【0063】
a)マイクロ波源。上述したように、マイクロ波を発生する装置は多数ある。本発明で最も注目すべきなのは、マグネトロンおよびソリッドステート装置である。台所のマイクロ波オーブンに一般的に見られる低出力マグネトロン(500〜1200W)は本発明に十分である。あるいは、ブルートゥースまたはWi−Fiチップなどのソリッドステート装置は、無線通信装置に一般的に使用されている。これらは、台所のマイクロ波オーブンと本質的に同じ周波数(2.45GHz)で低出力(>1W)マイクロ波を放出する。これらの装置は、白熱電球サイズのマグネトロンよりもはるかに小さく、家の鍵とほぼ同じサイズである。したがって、ソリッドステート装置は、ハンドヘルド装置中でマイクロ波を出力することができる。特に誘電体が十分に加熱され、加熱される試料が導波路中に置かれている場合には、低出力レベルは本発明での使用に十分である(下記参照)。
【0064】
(b)反応容器中への誘電体の一体化または非一体化。加熱される誘電体は、分析的反応を実施する生体分子の近傍にある。誘電体を反応容器に組み込むことが好都合な場合が多い(すなわち、誘電体を含むマイクロアレイチップ)。しかし、反応容器から誘電体を分離させることも別法では可能である。例えば、誘電体を含むマイクロチップホルダーをマイクロ波機器設計中に含めることができる。分析されるマイクロアレイチップは、誘電体を含まず、ホルダーに挿入されることになる。設計上極めて重要であるのは、誘電体が、生物学的反応/分析が行われる固体担体表面に熱的に近接していなければならないことである。
【0065】
(c)試料挿入位置(導波路またはオーブン空洞)。上述したように、固体担体(反応物)および誘電体は、オーブン空洞中または導波路中でマイクロ波エネルギーを吸収することができる。オーブンチャンバよりも導波路中での照射が有利な点は、(a)より均一なマイクロ波浴(定在波によるホットスポットがない)、および(b)発生マイクロ波エネルギーのより多くの部分が実際に試料に当たること(より集中した出力吸収)などである。別の利点は、導波路がオーブン空洞よりも一般に小さく、機器サイズが問題になるときには有利なことである。
【0066】
2)誘電材料:1)で述べたように、水性反応の場合には、(触媒作用が所望であれば)溶媒よりも高い損失正接を有する誘電材料を使用することが望ましい。(溶媒として)水よりもTanδの値が大きい材料のリストを以下に示す。これらの材料のすべて(および、記載されていない他の材料)を本発明において使用することができる(注:研究者間の差は、通常、データ収集時の差による)。
【0067】
【表2】
【0068】
固体温度に対するマイクロ波加熱の効果−1分間加熱:
水: (560W、2.45GHzオーブン)81℃
炭素: (500W、2.45GHzオーブン)1283℃
ニッケル:(500W、2.45GHz)384℃
酸化銅: (500W、2.45GHz)701℃(0.5分加熱)
【0069】
【表3】
【0070】
高誘電率材料はチタン酸バリウム(BaTiO3)である。誘電率は(水の80と比較して)200〜16,000である。チタン酸バリウムは、フィルムに成形することができ、分析装置に使用されてきた(Ewart等、米国特許第5,922,537号)。さらに、チタン酸バリウムに加えて、他の強誘電性材料の薄いフィルムおよび厚いフィルムを低温で作製する方法は着実に向上している。既知の高誘電率無機チタン酸塩、ニオブ酸塩および強誘電性ポリマーは、低温化学気相成長、レーザー光フォトアブレーション付着(laser photo−ablation deposition)、ゾルゲル法、RFマグネトロンスパッタリング、スクリーン印刷および焼成、(ポリマーの場合)スピンコーティングおよび他の方法を含めて多数のプロセスによって作製することができる(Yang等、1998)。
【0071】
天然粘土も成形可能な誘電体として使用することができる(上表参照)。また、アルミナ−マグネタイト(Al2O3−Fe3O4)の1:1w/w混合物も、強力に加熱される誘電体担体として使用することができる(Bram等、1991)。マグネタイト(Fe3O4)粒子はそれ自体、マイクロ波照射によって十分に加熱される。粘土は、マイクロ波吸収体として、2450MHzにおけるよりも915MHzにおいて水とは異なる(上表における比較)。
【0072】
使用することができる別の材料は炭素である。炭素の形式は、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、炭素ナノチューブ、ナノスフェア(C60、C70など)などである。誘電体としての炭素の使用は、本明細書に記載されている。
【0073】
マイクロ波照射中に水などの溶媒よりも実質的に速く加熱することができるかどうかで誘電体をスクリーニングすることによって、追加の多数の誘電材料を確認することができる。クラスI誘電体(一般に150未満の誘電率)およびクラスII誘電体(一般に600〜18,000の範囲の誘電率)を使用することができる(技術資料、Novacap,Inc.、Valencia CA)。他の適切な材料としては、有機ポリマー、アルミニウム−エポキシ複合材料、酸化ケイ素などがある。マイクロ波周波数も変えることができる。この簡単なスクリーニング手順によって、水を実質的に加熱せずに誘電材料を加熱する条件(周波数および材料)が得られる。実際、Symyx Technologies,Inc.(www.symyx.com)社では、新規材料のコンビナトリアル合成を常法に従って実施して、独特の誘電特性などの注目すべき品質を有する材料を発見している(Schultz等、米国特許第5,985,356号)。
【0074】
RF照射によって実質的に加熱されるさらに別の材料としては、フェライト、強誘電体などがある。上記BaTiO3に加えて、NaNbO3、LaCoO3、LaSrO3、LaMnO3、LaFeO3などの他のペロブスカイト(化学構造がABX3の鉱物)は、マイクロ波の場によって十分に加熱される。マイクロ波中で効率的に加熱され、本発明に使用することができる他の材料としては、SiC、AlN、ZnO、MgO−SiC、Al2O3、AlN−SiCなどがある。
【0075】
マイクロ波照射によって劇的に加熱されることがよく知られている他のタイプの材料は、様々なセラミックス、すなわち、酸化物(例えば、Al2O3)、非酸化物(例えば、CrBおよびFe2B)および複合材料(例えば、SiC/SiO2)である。多数の材料が、それらのマイクロ波加熱特性を利用して加工(焼結など)されている。(National Academy of Sciences USA、1994)。
【0076】
マイクロ波は、複合材料を加熱することができる。例えば、通常マイクロ波を透過する材料は、極性液体または伝導性粒子を添加することによって加熱することができる。アルミナ、ムライト、ジルコン、MgO、Si3N4などの耐熱性酸化物は、SiC、Si、Mg、FeSiおよびCr2O3の電気伝導性粒子を添加することによってマイクロ波を用いて有効に結合される。Al2O3、SiO2およびMgOを含めた酸化物は、Fe3O4、MnO2、NiO、アルミン酸カルシウムなどの損失性材料を添加することによって有効に加熱される。Nb、TaC、SiC、MoSi2、Cu、Feなどの伝導性粉体の混合物、およびZrO2、Y2O3、Al2O3などの絶縁体は、マイクロ波によって十分に結合される。絶縁酸化物粉体のマイクロ波吸収を促進するために、良好な結合剤(coupler)である様々な材料(オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウムおよび硝酸イットリウム)の溶液も添加される。黒鉛状炭素とテフロン(登録商標)の複合材料でできたマイクロ波吸収マントルヒーターが、Milestone,Inc.によって販売されている。
【0077】
粉体、薄片、球体、針状、チップまたは繊維を含めて様々な形の伝導性材料を添加することによって、低損失材料が加熱される。例えば、0.1〜100μmのサイズのカーボンブラックまたは金属片を含有物として使用すると加熱特性を向上させることができる。このような材料の性質および濃度は、必要以上の実験をせずに最適化することができる(Committee on Microwave Processing of Materials等、1994)。
【0078】
上述したように、セラミックスは圧電特性を有することができることが知られている。圧電材料は、超音波処理によって生体分子と表面または別の生体分子との結合を加速するために使用できることも知られている(Sizto & Gallup、1986;Wohlstadter等、2002)。したがって、マイクロ波の標的となる誘電セラミックを電気的に接続することによって(当分野で既知の技術)、結合を加速する超音波振動/バジング(buzzing)圧電体と分析反応を加速する加熱素子の両方として使用することができる。
【0079】
3)実施される反応は、反応物を特異的結合試薬に結合させることができる実質的にあらゆる化学反応とすることができる。これには、すべての既知の酵素触媒反応およびすべての既知のゼオライト反応が含まれる。本発明は、天然触媒によって触媒されることが知られていない反応を実施するために使用することができる。重要な特徴は、(1)反応物を特異的に結合させることができること、および(2)反応が熱によって加速されることである。
【0080】
マイクロ波によって加速される特異反応のための表面を調製する、マイクロ波によって加速される化学反応も企図される。一例は、タンパク質分子とプラスチック表面との調製用の吸着反応である。別の例は、ペプチド、一本鎖核酸または小分子リガンドの段階的合成である。
【0081】
実際には調製用の反応ではないが、誘電体のマイクロ波加熱は、分析後に残留するあらゆる有害生物(ウイルス、細菌)または生体分子を失活させるために使用することができる。例えば、誘電体チップまたはマイクロタイタープレートは、分析後、高温または長時間マイクロ波加熱して、生物学的有害廃棄物を確実に減少させ、または破壊することができる。これは、本発明の安全面での特徴である。
【0082】
マイクロタイタープレートは、生物学的分析を実施するために広く使用されている(Johnson、1999)。マイクロタイタープレートは、一般に、8×12配列の96ウェルを有するが、24、384および1536を含めて他の配置および数のウェルも有することができる。マイクロタイタープレートは、アクリルまたはポリカーボネートでできた(通常は)使い捨て装置であるが、本質的にあらゆる材料で作製することができる。ウェルの体積は、プレート当たりのウェルの数に応じて変わるが、96ウェルプレートのウェルは、ほぼ150マイクロリットルの液体を含む。ELISA、酵素アッセイおよび核酸アッセイを含めた免疫測定法は、一般に、ウェル中で実施される。各ウェル中で異なるアッセイを実施すること(1:1)が最も多いが、低体積試薬スポッティング技術(例えば、Cartesian Technologies,Inc.(Irvine、CA)、BioDot,Inc.(Irvine、CA))によって単一のウェル中で複数のアッセイを実施することが次第に多くなっている。例えば、4×4配列のアッセイを96ウェルプレートの各ウェルにおいて実施し、1586種類のアッセイをそのプレート中で実施することができる(16×96)。一般に、プレートは、ウェル内面に(全体的にまたはアレイスポッティングによって)抗体などの特異的捕捉分子をコーティングすることによって分析用に調製される。結合は、通常、非特異的吸収によって起こる。プレートを高温でインキュベーションすることによって、表面コーティングプロセスが加速される。37℃で30分間のインキュベーションは、20℃で終夜のインキュベーションとほぼ等価である。結合は表面現象であり、バルク加熱は、ウェルの水溶液中の生体分子を変性させる恐れがあるので、ウェル表面を標的に加熱することが好ましい。これは、ウェル表面に熱的に近接した誘電体を有するマイクロ波加熱マイクロタイタープレートによって行うことができる。これは、プレートの底部を誘電体でコーティングすることによって、例えば、塗布、またはプレート材料(プラスチック)に誘電体を組み込むことによって実施することができる。あるいは、従来のプレートを、誘電材料を含むホルダーまたはマントル中に置くことができる。すべての場合において、誘電体は、生体分子が付着する表面に熱的に近接している。ウェルコーティングの程度は、総タンパク質量または比色もしくは蛍光性試薬を用いたDNA測定などの当分野で既知の標準的手段によって測定することができる。コーティングは、機能に基づくアッセイによって分析することもできる(実施例11参照)。ウェルを目的分子でコーティングした後に、分析反応を実施することができる(DNAプローブアッセイ、免疫測定法)。
【0083】
実施可能な別のタイプの調製用反応は化学(有機または無機)合成である。合成は、単一化合物または異なる化合物のアレイ、特にコンビナトリアルケミストリーによって調製されたアレイとすることができる(Gallop、1994;Gordon、1994;Jacobs & Fodor、1994;Dolle、2000)。続いて、化合物をバイオアッセイに使用することができる。例えば、生物学的受容体を化学アレイに添加することができ、次いで、アッセイを実施して、合成化合物のいずれかに対する受容体結合を検出することができる。この実験タイプは、「化学ゲノミクス」および「化学プロテオミクス」の分野に特有である。コンビナトリアルケミストリーには多数の形式があるが、本発明において特に重要なのはマイクロチップ上でのコンビナトリアルケミストリーである。化学反応が小規模であると、化合物ライブラリの低コストスクリーニングが可能になる。マイクロアレイチップ上での合成は、多量の有機溶媒および他の有害廃棄物が発生するのを回避することができる。チップ上での分析用調製において、同じチップ上でのマイクロ波支援化合物合成は、今までに実施されても企図されてもいない。マイクロ波支援コンビナトリアルケミストリーの報告が公表され(Kappe、2001;Borman、2001)、チップ上でのコンビナトリアルケミストリーも報告された(Fodor等、1993;Kramer & Schneider−Mergener、1998;MacBeath等、1999;Hergenrother、2000;LeProust、2000、Korbel、2001;Graffinity Pharmaceutical Design、Heidelberg、Germany;Xeotron Corp.、Houston、TX)。固体担体(マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)に対する誘電体の熱的近接の概念によって、本発明は、担体上での固相化学合成を初めて可能にした。さらに、誘電体の熱的近接によって、表面化学合成だけでなく、後続の表面分析反応におけるマイクロ波誘導加熱も可能になる(例えば、マイクロ波によって惹起されるマイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート上での化学発光反応)。
【0084】
4)反応結合分子は、試薬と特異的に相互作用することができるあらゆる分子とすることができる。1回を超える代謝回転が必要な場合には、結合分子も熱的に安定なものとすべきである。熱的に安定でない場合には、十分な代謝回転が可能になる時間が過ぎるまで、マイクロ波加熱を適用すべきではない。分子は、低分子量でも高分子量でもよく、天然でも人工のものでもよい。典型的な結合分子は、抗体、酵素、受容体、核酸、分子刷り込みポリマーおよびゼオライトとすることができる。これらの分子は、特異的結合ポケットまたは間隙を有する。あるいは、結合ポケットを持たないが、結合部位を有する分子によって特異的に認識される分子を固定することもできる。これには、酵素基質、酵素阻害剤、受容体リガンドおよび受容体拮抗物質が含まれる。誘電体に対する種々の付着形式のいずれでも使用することができる。例えば、分子刷り込みポリマーを、誘電体ビーズまたは粒子の周囲で重合することができる。分子刷り込みポリマーを表面に薄層として形成させることができる(Shi等、1999;Glad等、1985;Kempe等、1995;BurowおよびMinoura、1996;Mathew−KrotzおよびShe、1995;Dai等、1999;Norrlow等、1984)。ゼオライト結晶を誘電体表面で成長させることができ、または浸漬被覆技術によってコーティングすることができる(van Bekkum等、1994;Jansen等、1994)。タンパク質および核酸を多数の表面に非特異的にコーティングすることができる。小分子は、マイクロ波誘導反応によって加速されてもされなくても、つなぎ鎖(tether)によって付着させることができ、または多孔質担体中に捕捉することができる。
【0085】
5)反応容器の物理的形式。指向性マイクロ波化学を実施する上ではさほど重要ではないが、その上で反応が起こる好ましい固相タイプがある。形式に関しては、生物学的反応は、チップ(またはスライド)、マイクロタイタープレート、試験管、遠心分離管、マイクロ遠心管およびビーズ上で実施されることが最も多い。最も重要な特徴は、生体分子が付着し、そこで生化学反応が起こる表面を固体担体が持たなければならず、その表面はマイクロ波加熱誘電材料に熱的に近接していなければならないことである。
【0086】
誘電材料が反応表面に熱的に近接することができる好ましい方法が3つある。1つは、固体担体を構成する材料中に誘電体を組み込むことである。例えば、テフロン(登録商標)とグラファイトまたはチタン酸バリウムとの複合材料を作製することができる(Milestone,Inc.、Monroe、CT)。マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートは、複合材料から押出成形または射出成形することができる。第2に、固体担体上のコーティングまたは層として誘電体を付着または堆積させることができる。誘電体を(例えば、チタン酸バリウムまたは炭素ペーストとして)チップまたはプレートの裏面に塗布または点在させることができる。「サンドイッチ」層としてチップ内に入れることもできる。第3に、誘電体を、反応前に固体担体をその中またはその上に置く固体マントルまたはホルダーとすることができる。この第3の形式では、チップまたはプレートは使い捨てすることができるが、誘電体マントルは再使用することができる。誘電体マントルでは、誘電材料がかなりの質量(何グラムも)を有することもでき、迅速なマイクロ波加熱が容易になる。
【0087】
6)検出方法は、マイクロ波によって加速される化学反応に伴う物理化学変化を検出するあらゆる方法とすることができる。検出器は、発光、色変化、蛍光変化、質量変化などを検出することができる。発光、例えば、化学発光反応を検出するPMT、CCDカメラ、フォトダイオードアレイ、x線フィルムなどの検出器は、マイクロ波反応と一体化されることが好ましい。同様に、レーザーまたはタングステン電球または白熱灯を光検出装置(PMTなど)とともに使用して、吸光度変化または蛍光変化を検出することができる。
【0088】
好ましい方法および組成物
本発明を実施する方法は多数ある。いくつかの変数としては、マイクロ波周波数および出力、マイクロ波感受性材料の性質、反応表面形状(平面状または球状)、試薬捕捉メカニズム(抗体、DNA、共有結合、非共有結合など)、および加速すべき反応の性質を変えること、ならびに実際的応用(分析、生物分析、調製など)が含まれる。以下は、いくつかの変数の簡単な概要およびそれらの実際的応用である。マイクロ波加速標的反応を実施する現時点で最良の方法も記述する。
【0089】
本発明の極めて注目すべき一形式は、「チップ」、すなわち、顕微鏡スライド(例えば、1×3インチ(3×8cm)矩形ガラスまたは5インチ(13cm)×5インチ(13cm)ガラス板)上にできていることが多い使い捨て平面上でそれを使用することである。別の注目すべき形式は、「マイクロタイタープレート」上でそれを使用することである。インクジェット印刷または他の高解像度堆積方法を用いたスポッティングによって、チップ表面の1個から数千個の反応点、あるいは個々のマイクロタイタープレートウェル内の1個から数個(例えば、4×4配列)の点が得られる。当分野で既知の多数の手動および自動スポッティング手段がある。スポッティングロボット(Biodot、Cartesian)および簡単で安価なスポッティング装置(Xenopore)を販売している多数の市販の供給業者が存在する。このようないわゆる「マイクロチップ」(Schmalzing等、2000)上での少量分析によって、膨大な数のアッセイを単一チップ上で実施することが可能になる。チップ上またはマイクロタイタープレート内のアレイ(「マクロアレイ」または「マイクロアレイ」)は分析目的で使用することができる。数千のアッセイを、当分野で既知の堆積技術を用いて、商業的に広範に利用可能な単一チップまたはプレート上で実施することができる(Pasinetti、2001;Lennon、2000;Cooper、2001;Draghici、2001;Zubritsky、2001)。例えば、スポットのアレイを使用して、無数の遺伝子中の遺伝子突然変異を検出することができる。別の例は、抗体を点在させる免疫測定法である。別の例は、特異的タンパク質受容体を捕捉するアルカロイド、ペプチドなどの小分子が存在するリガンドアッセイである。チップおよびプレートは、生化学研究、医学的診断、水質検査、食物病原体検査および化学/生物学兵器検査を含めて、これらだけに限定されない多数の分析用途に使用することができる。
【0090】
分析用途に加え、またはそれに代わって、表面標的マイクロ波加熱を調製用に使用することができる。上記マイクロチップおよびマイクロタイタープレートを応用して、チップおよびプレートを、指向性マイクロ波反応を用いた後続の分析用途用に調製することができる。一般的な一領域は、プレートまたはチップに対する捕捉タンパク質の結合を強化するための標的マイクロ波加熱の使用である。別の一般的領域は、ペプチド、アルカロイドなどの小分子化合物のオンチップまたはオンプレート高速合成に標的マイクロ波加熱を使用することである。
【0091】
オンチップまたはオンプレート有機合成を支援するために指向性マイクロ波加熱を使用するという点では、本発明は、小型コンビナトリアルケミストリーライブラリ(Dolle、2000)の調製用に注目される。多数の独特の化学物質をチップ上でin situで合成することができる。例えば、数千の様々なペプチドを従来の固相手順によってチップ上で調製することができる。次いで、コンビナトリアルケミストリーチップを分析に使用して固相化学ライブラリを評価することができる。例えば、チップを化学発光標識酵素溶液に曝し、結合を検出することができる。このようなアッセイ形式は、酵素阻害剤を発見するために使用することができる。同様に、リガンド候補のコンビナトリアルライブラリに対する受容体結合を実施することができる。マイクロ波照射を使用してオンチップライブラリ合成を加速し、その後、そのチップを分析することができる(例えば、マイクロ波誘導化学発光によって)。
【0092】
チップ(または誘電体表面)は、バルク溶液から分析物を固相抽出するための材料でコーティングすることもできる。固相抽出は非特異的(吸着)、免疫吸収とすることができ、または分子刷り込みポリマーを使用することができる(Fleisher & Boos、2001;Krishnan & Ibraham、1994)。
【0093】
マイクロ波標的反応の多数の注目すべき用途候補がバイオテクノロジー/医薬品分野にはある。これらの場合において、測定される分析物は、生物学的機能を有する。免疫測定法、DNAプローブアッセイなどのあらゆる従来アッセイを前記技術によって実施することができる。これらのアッセイにおいては、周知の化学変換が起こり、あるレベルの検出可能な物理化学変化が起こる。例えば、発色反応、蛍光発生反応または発光反応を実施することができる。
【0094】
使用可能なさらに別のアッセイ形式は分子ビーコン技術(Robinson等、2000)である。分子ビーコンを用いると、核酸のハイブリッド形成鎖が、末端標識核酸プローブによる蛍光放射および蛍光消光によって検出される。一端はフルオロフォアを有し、もう一端はクエンチャーを有する。ハイブリッドが形成されると、両端が分離され、蛍光を検出することができる。マイクロ波加熱を使用すると、ある温度でプローブを遊離して溶液に戻すことができる。分離温度(融解温度)は、遊離するときの蛍光消光によって求めることができる。最も注目すべき検出形式は化学発光(CL)である。これらについては、医薬品における試験的実際的用途を概説したセクションにおいてさらに詳述する。
【0095】
この手順を実施する好ましい方法は、誘電体として炭素粒子を使用することである。炭素は、活性炭/木炭(Sigma−Aldrich Chemical Co.)、カーボンブラック(Columbia Chemicals、Marietta、GA;Reade Advanced Materials、Providence、RI)、黒鉛化炭素粒子(Polysciences,Inc.Warrington、PA)またはデキストラン被覆木炭ビーズ(Reseach Diagnostics,Inc.)とすることができる。炭素ビーズは、反応物を刷り込んだポリマーでコーティングされている(理想的には、炭素の周囲で重合された)ことが好ましい。
【0096】
他の非選択化学物質の存在下で、単一の選択化学物質の特異反応を加速することが望ましい場合が多い。調製用化学反応の例では、薬物製造において、様々なタイプの分子の混合物(例えば、バルクラセミ混合物)の存在下で、1種類の鏡像異性体の化学反応(例えば、エステル加水分解)を加速することが望ましい場合が多い。分析化学反応の例では、医学的診断において、膨大な他のタイプの分子の中で1つの特定タイプの分子の存在を示すために特異的化学反応を加速することが望ましい。本発明は、特異的化学反応を加速する改良手段を提供するものであり、したがって、調製化学反応および分析化学反応の両方で多数の実際的用途を有する。
【0097】
分析上有用な反応としては、色、発光、蛍光、電気化学、またはあらゆる他の検出可能な物性の変化をもたらす反応などがある。調製用反応としては、加水分解および/またはエナンチオ選択的反応などがある。水溶液または有機溶液中でのあらゆる調製用反応が本発明の対象になる。分析用途同様、調製用反応は、色、発光、蛍光、またはあらゆる他の検出可能な物性の変化によってモニターすることができる。
【0098】
好ましい反応は、ルミノールと過酸化水素の化学発光反応である。以下に示すように、この反応は、医学的診断、生物医学研究などの様々な分野において使用される周知の情報伝達反応である。この反応は温度に異存し、pHを最適値よりも低く調節することによって減速し適切に温度制御することができる(実施例9および10参照)。
【0099】
ルミノール−過酸化物反応などの化学発光反応は、フィルム(例えば、X線フィルム)の使用を含めた多数の方法で、または光電子増倍管(PMT)もしくは電荷結合素子(CCD)カメラを用いて電子的にモニターし、定量することができる。PMTを用いる機器は、光を測定する窓を備えたマイクロ波放射装置を含む。PMTまたはCCDカメラを用いた測定値は、パーソナルコンピュータおよび従来の市販のデータ収集/解析ソフトウェア(例えば、LabVIEW)を用いて収集し解析される。現時点で好ましい方法は、フィルムを使用するものである。
【0100】
上述したように、誘電材料は、様々な形式をとることができる。現時点で最も注目すべき形式は、チップ上のスポットまたは層である。「誘電体チップ」を使用すると、複数の分析物を高感度で検出することができる。実際、マイクロアレイチップまたはマイクロチップは、本発明の注目すべき用途である。
【0101】
例示的実際的用途の説明
標的トリガーマイクロ波反応の実際的用途は多数ある。多くは分析化学反応および調製化学反応の分野である。ただし、非分析的な分野もある。例えば、ある反応は、毒素(神経ガスなど)を対象としてその毒素を特異的に失活させることができる。本発明は、化学反応が求められ、その反応が選択分子に特異的であることが重要であるあらゆる実際的用途において有用となり得る。
【0102】
極めて注目すべき用途は生物医学分析である。生体分子の分析は、診断評価/予後評価に極めて重要である。さらに、科学的な研究は、特異的生体分子の検出および測定能力に左右される。このような生体分子としては、タンパク質(免疫測定検出)、核酸(ハイブリッド形成検出)などがあるが、これらだけに限定されない。
【0103】
本発明は、標的マイクロ波加熱を使用して、表面でまたは表面に熱的に近接して起こる分析反応を加速する方法を開示する。本発明は、マイクロ波加熱が、後続の分析反応用調製において表面を改変する反応を加速することができる方法も開示する。
【0104】
代替分析技術との比較
医学現場または研究現場におけるマイクロ波加速化学発光(CL)分析は、通常使用される技術に優るいくつかの利点を有する。チップ上でのマイクロ波加速CLに基づく分析は、本明細書では「マイクロ波加速標的トリガー反応」技術(MATTR)と称する。
【0105】
MATTRは、既存の方法に優る明らかな利点がある。比較可能な技術には2つのタイプがある。1つは、主流の化学発光分析技術(Bowie等、1996;Roda等、2000)である。これらの技術を市場に出している会社には、酵素ベースのCLレポーターを販売するTropix(PE Corp.の系列会社)、CLを用いたゲルブロッティング検出システムを販売するAmersham Pharmacia Biotechなどがある。CLを用いた従来製品を有する他の会社としては、Lumigen、Lifecodes、Vector、Invitrogen、Pierceなどがある。従来の分析的CL法よりもMATTRが注目される点を表3に示す。CL反応は、一般に、「閃光型」または「グロー型」である。閃光型反応は瞬時であり、したがって、素早い試薬混合および分析が求められる。グロー型CL反応は、低レベルの光を長時間(数分または数時間)にわたって放出する。
【0106】
【表4】
【0107】
典型的なグロー型反応は、化学発光ジオキセタン化合物の加水分解である。図3に示すように、加水分解性ジオキセタン発光は、温度依存性が高い。したがって、ジオキセタンは優れたMATTR標識になる。典型的な閃光型反応は、化学発光アクリジニウムエステルである。アクリジニウムエステルのCLの閃光は、化学開始剤と混合するとすぐに化学的に引き起こされる。反応速度は、開始剤濃度を低下させることによって、知覚できないほどに遅くなる。マイクロ波加熱によって高速の反応速度が回復し、化学発光閃光を生じる(Wood、1984)。
【0108】
MATTR技術は、いくつかの判定基準を満たす。それによって、MATTR技術は、画期的生物分析技術となり、CLを用いた従来の生物分析を著しく改善するものとみなされる。
【0109】
・「要求に応じて」(試薬混合によってではなく電子的に)信号を発生するCL技術。MATTRにおいては、マイクロ波エネルギーは要求に応じてかけられ、好都合には、迅速な物理混合ではなく電子的にCL反応が引き起こされる。
【0110】
・コストを削減し、保守を最小限に抑えた物理的に簡単な分析機器。MATTRは、拡散性のマイクロ波入力を必要とし、したがって、集束光入力を必要とする技術(蛍光または分光測光法)よりも簡単である。
【0111】
・高感度および極めて迅速な分析。引き起こされる急速標的マイクロ波加熱は、確立された高感度CL化学反応を用いて膨大なCL光を生じる。
【0112】
・マイクロチップを用いる多重アッセイが可能な技術。マイクロ波加熱は、例えば、パターン形成された誘電体スポットによってマイクロアレイチップ上の特定の領域に空間的に向けることができる。多数のタイプのアッセイに有用な広範な可能化技術。MATTRは、確立された発光標識を取り入れているので、従来のすべての形式のCLなどに使用することができる。免疫測定法およびDNAプローブアッセイに有用となる見込みがある。
【0113】
生物医学分析におけるMATTR計測手段
上述したように、MATTRチップからのCLは、(PMTまたはCCDカメラを用いて)フィルム上でまたは電子的に測定することができる。PMTまたはカメラを使用する場合には、「MATTR機器」が使用される。好ましいMATTR機器の基本的な構成成分を図4に示す。この好ましい機器は、チップから放出される光がそこを通ってPMTまたはカメラによって検出される窓を備えるマイクロ波オーブンを含む。マイクロ波照射(CL反応の加速)、光測定およびデータ分析の開始は、例えば、適切なソフトウェアを備えた標準PCを用いて実施される。適切なデータ収集/解析ソフトウェアは当分野で一般的であり既知である。
【0114】
チップ上でサイトカインを測定するようにすることができるMATTR機器の一タイプを以下に示す。
【0115】
・適切なマイクロ波オーブンは、マイクロ波水分/固体分析計(モデルM2、Denver Instrument Co.、Arvada、CO)から作製される。このオーブンは、均一な出力密度を与える単一モードマイクロ波チャンバを備えることが好ましい。このようなオーブンのマイクロ波チャンバは小さく円柱状であり、エネルギーは試料に集中する。マイクロ波放射の操作周波数は2450MHzである。マイクロ波出力は550Wである。電源は115V、60Hzである。
【0116】
・オーブンチャンバの内部には、光ファイバーケーブルと並ぶチップホルダーが備わっている。光ファイバーは、マイクロ波内部からオーブン外部のPMTに伸びている。チップホルダーは、様々なサイズ(例えば、1×3インチ(3×8cm)から5×5インチ(13×13cm)まで)の使い捨て誘電体アッセイチップを保持する。
【0117】
・マイクロ波チャンバ内のチップ画像化可能な光ファイバー検出システム。光ファイバーは、チップから、CL反応から放出される光を捕捉する光記録光電子増倍管(PMT、HamamatsuモデルH5784−01)に伸びる。
【0118】
・パーソナルコンピュータは、PMTおよびマイクロ波源を制御し同期させることが好ましい。コンピュータは、LabVIEWソフトウェア(National Instruments Corp.)などの多様なデータ収集、制御、分析および表示ソフトウェアパッケージも実行することが好ましい。
【0119】
生物分析アッセイ用MATTR化学発光化合物
光を効率的に放出し、生物分析目的に使用することができる極めて多数の化学発光反応が知られている。CL反応のクラスの一部(その各々は構造が様々に変化する)は、1,2−ジオキセタン、シュウ酸アリール、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびルシゲニンである。これらのクラスのすべてが、免疫測定法における標識としてまたは化学発光酵素基質として分析に使用される。ほとんどの場合において、生じる光放出化学反応は、酸化剤を含むことが多い2分子反応である。過酸化水素および水酸化ナトリウムは一般的な第2の試薬である。反応のすべてを、温度上昇によって加速することができる。遊離CL化合物、および免疫測定法に使用されるタンパク質修飾用リンカーで標識されたCL化合物のようなこれらの化合物の供給業者がある。
【0120】
MATTR CL反応に極めて有用であるCL反応物クラスの一タイプは、1,2−ジオキセタン反応である。ジオキセタンは、過酸化水素などの第2の試薬なしで光を放出する。また、ジオキセタンCL反応は、図3に示すように、温度依存性が著しい。ジオキセタンは、アルカリホスファターゼ、グルクロニダーゼ、グルコシダーゼおよびベータ−ガラクトシダーゼの酵素免疫測定法および酵素アッセイにおいてグロー型試薬として使用される(Tropix、Foster City、CA)。図3からわかるように、これらは、高温を使用することによってグロー型試薬から閃光型試薬に変換することができる。様々なジオキセタンがTropixおよび他の供給源から市販されており、それらをタンパク質に結合させる方法が公表されている。また、Tropixは、タンパク質に連結することができる抱合体も販売している。
【0121】
アクリジニウムエステルは、MATTRにおいて有用な別のクラスのCL試薬である。これらの化合物は、酸化剤の存在下で酸および塩基と反応し、閃光型CLを生じる。いくつかのアクリジニウムエステルが市販されている。Lumigen,Inc.(Southfield、MI)は、簡単な化学反応によって惹起されて急速な閃光としてCLを発生する小さな水溶性化学発光標識アクリジニウムエステルを販売している。これらの化合物は、タンパク質、核酸および他の生体分子に共有結合するように改変される。これらの化合物の化学反応速度は、トリガー試薬を慎重に希釈して遅くすることができる。閃光CLは、マイクロ波加熱によって回復する。別の会社のAssay Designs,Inc.(Ann Arbor、MI)もアクリジニウムエステル標識キットを販売している。これらのアクリジニウムエステルは、NHSエステル官能基を介してタンパク質に結合する。Assay Designsは、発光に影響を及ぼすトリガー溶液も販売している。
【0122】
MATTRチップを用いた免疫測定法
MATTRを用いた免疫測定法は、多種多様な形式のいずれかで実施することができる。例えば、その表面に特異的捕捉分子を有するMATTRチップを分析物溶液に曝し、続いて(必要に応じて)二次抗体結合、および(必要に応じて)洗浄することができる(図5)。免疫測定法は、競合またはサンドイッチ免疫測定形式を用いて実施される。情報伝達標識である低分子量化学発光レポーター分子が、適切な表面結合分子上に置かれる。結合および洗浄が終了した後に、チップをMATTR機器内に置き、分析を実施する。
【0123】
血管形成増殖因子の免疫測定検出
MATTR技術の1つの応用例は、癌関連血管形成タンパク質の免疫測定法による検出におけるものである。血管形成は、血管新生とも呼ばれ、創傷治癒中の健康な体内、女性の毎月の生殖周期、および妊娠において起こる。血管形成は、一連の「オン」および「オフ」調節スイッチによって体内で制御される。主要な「オン」スイッチは、血管形成増殖因子(サイトカイン)として知られ、主要な「オフ」スイッチは、内因性血管形成阻害剤として知られる。健康な体内では、血管成長が適切になるように、血管形成因子と抗血管形成因子のバランスがとられている。
【0124】
腫瘍は、それら自体の血液供給を補充するために多量の血管形成増殖因子を発現する。固形腫瘍は、癌細胞がその成長の優位性を維持するために、血管を一定して供給する必要がある。腫瘍細胞によって比較的多量の血管新生因子が分泌されるために、腫瘍血管系は、管腔が異常に広く、血流が不規則であり、静止領域があり、透過性が高い。多種多様な血管形成タンパク質があるので、多分析物チップを用いた検出および測定が注目される。血管形成因子の分析は、生物医学研究において、および癌を含めた様々な疾患の治療に対する診断において重要である。
【0125】
抗血管形成治療は、有望な抗癌戦略を提供する(Folkman、1997)。血管形成阻害は、さらなる血管成長を防止し、転移を抑制し、したがって腫瘍成長を阻害する。この理念は広範に探究されている。現在、20種を超える驚くべき多様なグループの抗血管形成薬物が臨床試験で評価されており(Saaristo等、2000)、それを上回る多数の薬物が様々な研究および開発段階で評価されている。
【0126】
免疫測定法の例は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に対するものである。TNFαは、血管形成増殖因子タンパク質である。高品質が要求される試薬、TNFαおよび適切な抗体対の市販の供給源がいくつかある。R&D Systems(Minneapolis、MN)は、MATTRを用いたアッセイに使用することができ、このタンパク質に対するCLを利用したアッセイを販売している。このアッセイは、サンドイッチ酵素免疫測定法である。MATTRを用いると、当分野で既知の手段によって化学発光化合物の複数のコピーで二次抗体が標識される。
【0127】
TNFαの典型的なMATTRアッセイは、チタン酸バリウム/接着剤複合材料が下塗りされた顕微鏡スライドをチップとして使用する。試薬の結合は、必要以上の実験をせずに、試薬供給業者(R&D Systems、Minneapolis、MN;Sigma Chem.Co.、St.Louis、MO)の指示によって実施することができる。抗TNFα抗体(対応セット)、洗浄緩衝剤およびブロッキング緩衝剤は、R&D Systemsによって販売されている。まず、マウス抗ヒト抗体をスポッティングによってチップ上に固定する。ブロッキング後、ヒトTNFα(R&D Systems)を添加し、結合させる。捕捉されたTNFαに、ビオチン化検出抗体(ヤギ抗ヒト)を添加し、それにイソルミノール−ストレプトアビジン(Sigma Product S8532、ストレプトアビジン当たり3.5個のイソルミノール分子)を結合させる。中性過酸化物を添加し、マイクロ波加熱することによって、完全なチップ結合サンドイッチ複合体(抗体−TNFα−抗体−ストレプトアビジン/イソルミノール)がMATTRを用いて検出される。放出光は、オートラジオグラフィーフィルム、光電子増倍管(PMT)または電荷結合素子(CCD)カメラを含めた様々な手段のいずれかによって検出される。
【0128】
MATTRチップを用いた核酸プローブアッセイ:癌細胞遺伝子発現分析
誘電体チップ上でのマイクロ波加速化学発光の別の実際的用途は、癌細胞の核酸検出におけるものである。分子腫瘍学は、診断および予後目的で複数の生物マーカーを使用する方向に次第に向かっている(Sidransky、1997;Abati & Liotta、1996;Marx、2000)。個々の腫瘍がどのように増殖し、治療に対してどのように応答するかを理解することは、細胞分子が相互作用して細胞増殖、転移、および抗腫瘍剤に対する応答に影響を及ぼす仕方を理解することに基づいている。癌は極めて特有な疾患であり、1つの疾患ではなく数百の疾患であるので、単に1個や2個の腫瘍マーカーではなく、多数の腫瘍マーカーを同時に検出できることが将来極めて重要になる。個人化された腫瘍学の分野は2つの特徴、すなわち、1)癌タンパク質の複雑な分子的役割の理解、および2)個々の腫瘍特性を決定する多数の鍵となる分子の検出および測定能力を中心にする。MATTRは、両方の面で重要な役割を果たすことができる。MATTRチップは、研究者が腫瘍経路の地図を描くのに役立ち、癌患者を個別に有効に治療するのに必要な重要な情報を医師に提供することができる。長期的には、潜在的に重要な役割は、癌検診、診断、病期分類、監視および治療モニタリングにおいて、MATTRに基づいて遺伝子発現をプロファイリングすることにある。
【0129】
MATTRは、癌病期分類においてアッセイパネルの検出に適用することができる。癌が診断された後に、治療計画を決定する前に癌の程度または「段階」が決定される。試験を実施して、腫瘍病期分類(腫瘍サイズ/程度)、リンパ節病期分類(リンパ節の関与)および転移病期分類(転移の有無)を決定する。血中および前哨リンパ節における腫瘍細胞に対する分子試験をある程度使用して病期分類を実施する。腫瘍病期分類は、MATTRアレイ試験の極めて注目すべき適用例である。というのは、これによって、医師は、治療戦略、特にアジュバント療法を処方するかどうかについて決定することができるからである。
【0130】
第2の予測される核酸診断上のMATTRチップ適用例は、微小残存病変(MRD)の検出である。治療の判断は、他の方法では検出不可能な低レベルの循環癌細胞を検出することができる多分析物cDNAパネル表示によって極めて容易になるはずである。MATTRを用いると、臨床および病理学的寛解にある一部の患者は、明確な診断上および治療上の意味を有する「分子病」の形跡を示す。分子診断学は、MRDを特定するのに極めて大きな可能性を有する。
【0131】
将来の試験が、様々な癌関連生物マーカーの検出および測定を必要とすることは明らかである。多分析物パネルは、単一分析物試験よりも明らかに利点がある。複数のマーカーを用いると、偽陽性/陰性の確率がかなり低くなる。また、おそらく最も重要なことは、複数の生物マーカーによって、腫瘍特性のより明確な、より完全な像が描かれることである。例えば、薬剤抵抗性または転移可能性の見込みを自信を持って決定することができる。ほとんどの癌においては、これらを判定するのに理想的なパネルはまだ明確ではない。MATTRチップ技術は、臨床試験および基礎研究の強力なツールにもなり得る。汎用性のあるアレイは、重要な分析アレイを開発するのに有用である。
【0132】
MATTR技術は、癌細胞中のmRNAを検出して、いくつかの重要な癌タンパク質のうちどれが産生されているかを決定するために使用することができる。分析は、RT−PCRによって細胞のmRNAから調製されるcDNAに対して実施される。RT−PCRは、特異的細胞のmRNAを増幅する強力で高感度な方法であり(Latchman、1995)、定性分子診断学と定量分子診断学の両方の強力な方法となりつつある(Freeman等、1999)。RT−PCRにおいては、mRNA(全RNAまたはポリアデニル化RNA)が単離される。次いで、RNAは、レトロウイルス酵素である逆転写酵素(「rt」)を用いて相補DNA(cDNA)に逆転写される。逆転写を開始するためには(遺伝子特異的または汎用)プライマーが必要である。ポリメラーゼ連鎖反応法(「PCR」)などのように生成物cDNAは増幅されて検出可能な量のcDNAを生成する。RT−PCRは、癌遺伝子発現を検出するために使用されることが多い確立された方法である(総説としてSeiden & Sklar、1996を参照されたい)。癌遺伝子発現のRT−PCR分析のほとんどすべての公表報告書において、単一タイプのmRNAのみが検出され、検出は、電気泳動、および放射能標識または染色による検出である。
【0133】
現在、個々の遺伝子変異および発現の単一試験が、腫瘍細胞を検出するための腫瘍学において臨床的に使用されている。やがて、膨大なcDNAマイクロアレイが、ゲノム全体のレベルで腫瘍細胞を検出し、特徴づけるために一般的に使用されるはずである(Schena等、1995;Harkin、2000)。短期的には、より小さなパネルの選択的試験が、腫瘍細胞の高感度検出およびキャラクタリゼーションに極めて貴重なものになるはずである。癌遺伝子発現のアレイ試験は、より信頼できる診断を提供するだけでなく、はるかに情報価値のある患者の予後の像も提供する。
【0134】
核酸分析
MATTRに基づく核酸分析は、同じ技術による免疫測定分析と共通点が多い。主要な相違を本明細書で述べる。アッセイは以下のように行われる。
【0135】
(1)特異的捕捉分子をその表面に有するMATTRチップ(図6)を分析物溶液に曝すと、分析物がその表面に結合する。アッセイの一タイプにおいては、捕捉された分析物は、それ自体がCL分子であらかじめ標識されているので検出可能である(Schena等、1995)。標的cDNAは、多数の周知の方法および試薬のいずれかを用いて標識することができる(TriLink BioTechnologies,Inc.San Diego、CA;Glen Research Corp.、Sterling、VA)。標的を複数のCLレポーター基で標識することが好ましい。例えば、DNAは、化学的にビオチン化することができ、ビオチン−DNA分子は、複数のルミノール分子で標識されたストレプトアビジンに結合することができる。あるいは、2次プローブを使用するサンドイッチタイプ形式を使用することができる(Kricka、1999)。この形式では、チップ上に固定された1次プローブが非標識標的分子を捕捉し、非標識標的分子はCL−標識された二次プローブを捕捉する。
【0136】
捕捉分子層はナイロン膜上に置かれる(図6)。ナイロンは、フルサイズのオーバーコートでも、小さな円に打ち抜いたものでもよい。実際のスポッティングプロセスは、標準の1”×3”顕微鏡スライド上にスポットを置くことができる手動マイクロアレイスポッター(Xenopore Corp.)を用いて実施される。手動マイクロアレイ装置は、寸法がわずか5”×5”で重量が3ポンド(1kg)未満の簡単なベンチトップ型装置である。これは、外部電源が不要である。
【0137】
コーティングされていない、または被覆されたガラス顕微鏡スライド、カバーガラス、多孔質膜、ゲルまたはプラスチック。
【0138】
(2)結合が完結した後に、チップをMATTR機器のチップホルダー中に置き、測定する。予想されるように、マイクロ波によって発生する熱は分析物を変性させるが、信号は影響を受けないことに留意されたい。
【0139】
特異的mRNAの分析の説明
腫瘍細胞系における特異的癌遺伝子の発現は、例えば、腫瘍細胞系中のEGFR mRNAを検出するのにRT−PCRを使用したLeitzel等の方法(1998)を改良して検出することができる。EGFRは、乳癌の有名な予後マーカーである。
【0140】
EGFRを発現する適切な細胞系(A431類表皮癌細胞(American Tissue Culture Collection、Manassas、VA)および対照細胞系が培養されている。MATTRチップ上で使用して、EGFR cDNAが検出されたことを示すことができる適切なハイブリッド形成プライマーが、Leitzel等(1998)によって開示されている。全RNAが細胞から単離され、RT−PCRが実施される。cDNAは、確立された手順によって、RT−PCR中にビオチンで標識される。ビオチン化cDNAは、特定のプライマーによってナイロン被覆MATTRチップ上で捕捉される。次いで、ルミノール標識ストレプトアビジンが添加され、捕捉されたビオチンに結合する。少量の過酸化物を添加し、マイクロ波照射すると発光し、フィルムまたは電子的手段によって検出される。
【0141】
別の調製用技術との比較
タンパク質または核酸のマイクロタイタープレートまたはマイクロアレイチップを用いた分析は、特異的タンパク質または核酸によるコーティングを含めて、分析前にプレートまたはチップを調製することがほぼ確実に必要である(Price & Newman、1997;Wild、2000)。指向性マイクロ波加熱は、近くの誘電体に熱を向けてプレートまたはチップの表面を選択的に加温することによって、これらの調製を加速するために使用することができる。
【0142】
プレート表面指向性マイクロ波加熱は、例えば、37℃インキュベーターチャンバ内での従来のバルク加熱と比較して、優れた結果が得られる。この優位性は、バルクインキュベーター内ではプレート全体およびその内容物が均一に加温されるのに対して、表面標的マイクロ波加熱においては、プレート結合表面が優先的に加温されるということと関係がある。したがって、表面結合反応が優先的に加速される。
【0143】
数千の様々なタイプのプレートまたはチップ調製用反応があるが、一般に、それぞれ結合巨大分子(タンパク質または核酸)または小分子リガンドの固定化を必要とする。ペプチド、他の小さな有機分子などの小分子リガンドのアレイ(ライブラリ)は、コンビナトリアルケミストリー方法を用いてin situで合成されることが多い。本発明の巨大分子固定化および小有機分子コンビナトリアルケミストリー技術を既存の技術と以下に比較する。
【0144】
表面マイクロ波加熱が、調製用反応と、同じ場所における後続の分析反応との両方に使用できることは本発明の明確な利点である。以下に述べるのは、調製用マイクロ波反応および分析用マイクロ波反応を連続して使用することができる革新的な方法である。
【0145】
タンパク質および核酸固定化における本発明の利点:
免疫測定法およびDNAプローブアッセイの前に、捕捉分子をマイクロチップまたはマイクロタイタープレート上に固定する。固定化は、ガラスまたはプラスチック表面への捕捉分子の簡単な吸着によることが多い。この手順は、通常、室温で数時間、または37℃で約2時間のインキュベーションを必要とする。暖かいチャンバ(インキュベーター)中で高温加熱が起こる。本発明は、分子を固定化することができる2つの新しい改善された方法を開示する。これらの新しい方法は、単独でまたは一緒に使用することができる。1つの方法は、下にある誘電体のマイクロ波加熱を使用して表面を約37℃で徐々にインキュベートするものである。もう1つの方法は、下にあるセラミック誘電体の圧電特性を使用して超音波振動(超音波処理)を起こし、生体分子を、超音波処理のないときよりも速く固体担体に結合させるものである。これら2つの方法を以下でさらに詳細に述べる。
【0146】
(1)標的マイクロ波加熱を用いた高速固定。タンパク質、核酸などの巨大分子の結合は表面現象である。表面が加温されている場合には、結合は速く起こる。マイクロ波表面標的加温の利点が驚くべきことに発見された。通常行われるバルク液相ではなく結合表面をマイクロ波加熱することによって、熱は表面近くの分子に向けられる。誘電体表面加熱を使用する別の利点は、前例のない捕捉分子結合速度に加えて、同じ誘電体を後で分析目的に使用することができることである。タンパク質またはDNA捕捉分子は、マイクロ波を用いて結合され、次いでマイクロ波を用いて分析物検出における反応(例えば、化学発光)が加速される。(標準手順で述べたように)37℃などの高温でインキュベートすると、表面へのタンパク質の非特異的付着と、固相上の生体特異的(例えば、抗体−抗原)結合の両方が加速されることが見出された。本明細書に記載する指向性マイクロ波表面加熱によって、両方のタイプの結合を加速することができる。
【0147】
(2)超音波処理を起こすセラミック誘電体の圧電効果を用いた高速固定。タンパク質または核酸結合を容易にする第2の方法は、誘電体、特にセラミック誘電体の圧電効果を利用するものである。圧電効果が溶液超音波処理を起こし、それが生体分子−表面結合を加速することがこれまでに判明している(Sizto & Gallup、1996;Wohlstadter等、2002)。本発明は、誘電体が、結合の加速と分析/調製化学反応(例えば、化学発光)の加速の両方で機能することができることを見出した。圧電超音波処理は、ガラスまたはプラスチック表面に対する分子の結合を加速し、生体分子−生体分子(分析物)結合(捕捉)も加速する。
【0148】
固相コンビナトリアルケミストリーにおける本発明の利点:
次第に大きな低分子量化合物ライブラリが、タンパク質または核酸がそれらに結合するかどうかでスクリーニングされ、または試験されている。本発明は、驚くべきことに、(チップまたはプレートまたは他の固体担体上での)合成と後続の分析の両方で使用することができる。まず、指向性マイクロ波加熱は、表面上での化学合成を加速するのに使用され、次いで、表面の分析(例えば、化学発光受容体結合アッセイまたは免疫測定法に使用される。小規模合成と後続の分析の利点は、発生する廃棄物が少なく(環境に対する感受性が高い方法)、小規模でのマイクロ波加熱はエネルギー消費が少ないということである(マイクロ波加熱は一般に「環境に配慮した技術(green technology)」とみなされている)。
【0149】
多数の化学固相ライブラリが合成されている。例えば、タンパク質受容体に結合するリード化合物を探索するためにペプチドライブラリを作製することができる。合成は、本発明者らのロボット工学を用いて、外気中、または空気に敏感な反応では気密プラスチックチャンバに入れて、表面で行うことができる。
【0150】
より小さなライブラリ(2〜1000個の異なる化学物質)は、集中型(focused)ライブラリと呼ばれる。マイクロ波表面誘電加熱を用いて集中型化合物ライブラリを作製することができる。次いで、同じチップ上でマイクロ波加速反応を用いてライブラリを分析して、結合または触媒作用を検出することができる。
【0151】
マイクロ波加速化学反応は、ほぼ20年間文献に掲載されており、コンビナトリアルケミストリーおよび創薬に関わる有機化学者に次第に普及している(Lew等、2002;Wathey等 2002;Kappe、2002)。増大する要求を満たすために、少なくとも3つの会社、すなわち、Personal Chemistry(Uppsala、Sweden)、CEM(Wilson、NC)およびMilestone(Italy)が、溶液相反応用機器およびキットを提供している。市販の製品はすべて照射管中での溶液相合成を必要とする。まだ十分に商用化されていないが、固相、無溶媒マイクロ波化学も科学文献に次第に見られるようになってきている(Wathey等、2002)。マイクロ波化学は、反応時間を1/10以下に短縮することが多く、一方、収率は実質的に増加する(表4)。
【0152】
【表5】
【0153】
オンチップ誘電体指向性マイクロ波コンビナトリアルケミストリー(MATTR)は今までに報告されていない。MATTRにおいては、反応混合物はマイクロ波の直接標的とはならない。誘電体チップが標的であり、近くの反応物への熱伝達によって反応が進められる。蒸発は、必要に応じて、不活性PTFEチップカバーによって最小限に抑えられる。本質において、MATTRによって初めて、マイクロアレイ、コンビナトリアルケミストリーおよびマイクロ波化学の各分野が統合される。
【0154】
今まで、オンチップ合成は、実験で得られる情報によって労力が報われることが少ないので、注目されなかった。1回または2回しか使用されず、次いで、廃棄されるチップを調製するのに従来の(長い)反応時間を必要とした。MATTRによって、合成時間が著しく減少し、合成と分析を1日で実施することができる。さらに、MATTRは、廃棄物をほとんど生成しない、低溶媒体積化学である。ここまで本発明を概説してきたが、本発明は以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるはずである。以下の実施例は、説明のために提供するものであって、特に示さない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0155】
水中懸濁炭素粒子を優先的に対象とするマイクロ波
水中の炭素粒子が、それらが懸濁されている水よりも実質的に速く加熱されるかどうかを試験するために実験を実施した。実験には、従来の台所用マイクロ波オーブン(Panasonic NN−S949、出力1100W、2.45GHz)を使用した。炭素は、この放出周波数では水よりも損失の大きいことが知られている。したがって、炭素(約200mg)の水(約100mL)中懸濁液は、純粋な水よりも速く加熱されるはずである。(木炭練炭(Super G、Landover、MD)を乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉体にした)粉末炭素の非存在下または存在下で水(100mL)を加熱した。マイクロ波加熱1.0分後に、炭素含有水は水単体(74°F(23℃))よりも9°F(5℃)高く(83°F(28℃)加温された。(加熱された炭素はその熱を水に伝達し、それを本発明者が測定した)。実験を繰り返し、類似の結果(炭素存在下で9°F(5℃)の上昇)を得た。これは、誘電加熱によって物質を水中で優先的に加熱することができることを示している。あるいは、2.45GHzにおいて炭素よりもはるかに速く加熱される異なる誘電材料を使用することができ、または水をあまり加熱しない異なる周波数を使用することができ、またはそれら両方を使用することができる。
【実施例2】
【0156】
水和粘土を優先的に対象とするマイクロ波
水和粘土が水よりも実質的に速く加熱されるかどうかを試験するために3通りの実験を実施した。Buffler & Rismanによる報告(1996)によれば、粘土は、特に915MHzにおいて、水よりも速く加熱される。粘土は成形可能であり、ビーズのコア誘電体として、またはカートリッジ中の平面として使用することができる。この仮説を検定するために、2450MHz放射マイクロ波オーブンを使用した。Buffler & Rismanの報告に基づいて、これらの(2450MHz)実験におけるあらゆる明白な結果は、915MHzにおいてはるかに良好な結果が得られることを示している。
【0157】
実験1:実施例1で示したのと同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で湧水約100mLを60秒間加熱した。温度は、25.0℃から92.5℃に上昇した。約200mgの粘土(Great Lakes Clay and Supply Co.、Carpentersville、ILから乾燥粉体として供給されたベントナイト200粘土)を含む同じ体積の水もマイクロ波によって加熱された。温度は25.0℃から94.5℃に上昇した。この実験によれば、粘土は水よりも加熱され、粘土存在下での温度変化は(熱い)粘土粒子からバルク水への(わずかな)熱伝達によるものである。
【0158】
実験2:同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で湧水約200mLを45秒間加熱した。温度は19.0℃から49.0℃に上昇した。同じ電子レンジを用いて、約50mgの粘土(ベントナイト200粘土)を含む同じ体積の水も加熱した。温度は19.0℃から52.0℃に上昇した。この実験によって、粘土が水よりも加熱され、粘土存在下での温度変化は(熱い)粘土粒子からバルク水への(わずかな)熱伝達によるものであることが検証された。
【0159】
実験3:同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で室温の湧水約50mLを30秒間加熱した。温度は68.0℃に上昇した。同じ電子レンジを用いて、同体積の室温の水和ベントナイト200粘土(最低量の液体の水)も加熱した。温度は84.0℃に上昇した。この実験によって、2450MHz(1100W)マイクロ波照射に曝すと粘土は水よりも速く加熱されることが確認された。この実験は、実験1および2における粘土含有水の温度上昇が、実質的により熱い粘土からより冷たい水への(わずかな)熱伝達によるものであることも示している。マイクロ波加熱は、水の存在下で粘土に向けられた。
【実施例3】
【0160】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドに結合する炭素含有分子刷り込みポリマー粒子の調製
人工生体分子がマイクロ波加熱誘電体に熱的に近接した物理形式は多数考えられる。形式の1つは、ビーズまたは粒子である。本明細書に記載する実施形態においては、炭素粒子(誘電体)と分子刷り込みポリマー(人工生体分子)は複合材料粒子を形成する。
【0161】
ポリマーは、プリント(テンプレート)分子の両方を含有する溶液中でモノマーと架橋剤から調製される。懸濁液中には炭素粒子も存在する。重合が起こると、成長する架橋ポリマーは、テンプレート分子と炭素粒子の両方を包み込む。ポリマー/炭素粒子複合材料は小さな断片に粉砕される。この、炭素粒子とポリマー中の刷り込み結合部位とは近接して存在する。
【0162】
この実施例は、このような誘電体/人工生体分子複合材料の調製について詳述する。複合材料は、L−とD−鏡像異性体の混合物からL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドを選択的に加水分解するために使用することができる。
【0163】
D−およびL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドの合成(O’Shannessy等、1989a)。D−およびL−フェニルアラニンアニリドは、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド/1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを縮合剤として用いてN,N−ジメチルホルムアミド中で、対応するBOC−誘導体をアニリンとカップリングさせることによって合成される。トリフルオロ酢酸を用いて脱保護した後、得られた固体を0.1M HC1を用いて可溶化し、ろ過し、トルエンで抽出する。1M NaOHを添加して水相のpHを9に調節し、アニリドの遊離塩基を酢酸エチル中に抽出した。次いで、このアニリドの遊離塩基を1−プロパノール/へキサンから結晶化させる。
【0164】
炭素粒子の調製。小さな炭素粒子は、上記実施例1に記載したとおり木炭から調製することができる。あるいは、活性炭(Darco(登録商標)KB、100メッシュ、Aldrich Chemical Co.、Milwaukee、WI)を使用することができる。どちらの場合においても、炭素を乳鉢と乳棒を用いて粉砕して微粒子を作製する。炭素粒子をクロロホルム中に懸濁させ、10μmのふるいにかける。ふるいを通過するクロロホルムを、炭素粒子がある程度濃縮された懸濁液が得られるまで蒸発させる。この炭素懸濁液を、分子刷り込み重合中の溶媒として使用する。
【0165】
分子刷り込みポリマー/炭素複合材料の調製(O’Shannessy等、1989a;O’Shannessy等、1989b)。上記炭素粒子含有クロロホルムを溶媒として使用する。50mLガラス管に、プリント分子のL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(PPNA)1.956mmol、官能基モノマーのメタクリル酸(MMA)7.86mmol、架橋剤のエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)39.3mmol、溶媒12mL、および開始剤の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(AIBN)0.57mmolを添加する。この管を密封し、超音波処理によって完全に溶解させる。この混合物を超音波処理によって脱気し、窒素を5分間注入する。混合物を4℃に冷却する。この温度で、懸濁炭素粒子が沈降するのを防止するためにごく緩やかに撹拌しながら、標準の実験室用UV源(366nm)を用いて、混合物に終夜照射する。
【0166】
形成されたポリマー(固体)を小さな豆粒大の断片に粉砕し、次いで、乳鉢と乳棒を用いて粉体にすり潰す。この粉体をクロロホルムに懸濁し、次いで、100μmふるいを通してろ過する。焼結ガラス漏斗を用いて、溶媒交換によってプリント分子を除去する。水酸化アンモニウム(NH4OH)とアセトニトリル(CH3CN)の30:70混合物を使用し、続いてCH3CNのみを使用する。最後に、複合材料粒子を乾燥させる。
【実施例4】
【0167】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドのマイクロ波加水分解;反応物溶液に接触している分子刷り込みポリマー誘電体粒子
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(L−PPNA)を、実施例3に記載した刷り込み複合材料粒子の存在下で加水分解する。粒子(0.2g)をL−PPNA溶液(0.1mM)50mL中に懸濁させる。L−PPNA溶媒は80%CH3CN/20%H2Oである(水は中性pHである)。
【0168】
粒子/基質溶液を1100W/2.450GHzマイクロ波中に置く。粒子表面の反応を加速するのに十分な時間マイクロ波を発生させる。対照として、同じ実験(L−PPNA溶液のマイクロ波加熱)を粒子の非存在下で反復する。
【0169】
p−ニトロアニリン量の分析を、分光光度分析またはHPLC分析(両方のタイプの分析が当業者には知られている)によって実施する。結果は、粒子の存在下ではより多くのp−ニトロアニリンが生成されることを示している。
【0170】
マイクロ波加水分解が、粒子に対するL−PPNAの非特異的結合の結果ではないことを示すために、D−PPNAを用いて実験を繰り返す。その結果、同一条件下では、L−PPNAがD−PPNAよりも加水分解されることがわかる。これらの結果は、加水分解性結合部位が、L−PPNAの場合に鏡像異性特異性を有することを示している。
【0171】
触媒作用による分子刷り込みポリマー(人工酵素)は、すでに記述されているが(LeonhardtおよびMosbach、1987;Bystrom等、1993)、これは、マイクロ波による指向性加熱によって触媒作用が加速される人工酵素の最初の記述である。
【実施例5】
【0172】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドのマイクロ波加水分解;空気に接している分子刷り込みポリマー誘電体粒子
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(L−PPNA)の加水分解を、実施例3に記載の刷り込み複合材料粒子の存在下で実施する。粒子(0.2g)をL−PPNAの溶液(0.1mM)50mLに懸濁させる。L−PPNA溶媒は、80%CH3CN/20%H2O(水は中性pHである)である。
【0173】
L−PPNAが分子刷り込みポリマーと結合平衡に達するのに十分な時間の後に、複合材料粒子を反応物溶液からろ過し、水で簡単に洗浄して過剰の反応物を除去する。
【0174】
ろ過粒子を1100W/2.450GHzマイクロ波オーブン中に置く。マイクロ波を、粒子表面での反応を加速するのに十分な時間発生させる。対照として、同じ実験(マイクロ波加熱L−PPNA溶液)を粒子の非存在下で繰り返す。
【0175】
p−ニトロアニリン量の分析を、分光光度分析またはHPLC分析(両方のタイプの分析が当業者には知られている)によって実施する。結果は、対照(非刷り込み)粒子よりも刷り込み粒子の存在下でより多くのp−ニトロアニリンが生成されることを示している。
【0176】
マイクロ波加水分解が、粒子に対するL−PPNAの非特異的結合の結果ではないことを示すために、D−PPNAを用いて実験を繰り返す。その結果、同一条件下では、L−PPNAがD−PPNAよりも加水分解されることがわかる。これらの結果は、加水分解性結合部位が、L−PPNAの場合に鏡像異性特異性を有することを示している。
【実施例6】
【0177】
ゼオライト被覆粘土誘電体表面の調製
ゼオライトは、原油からガソリンへの転化、ならびに排ガスからCO、NOxおよび炭化水素を除去する自動車用マフラーを含めて、多数の用途において特異的化学反応を触媒するのに使用される多孔質無機固体である(Rouhi、2000)。これらの反応は、ゼオライト内部の狭い空隙内で起こる。あらゆる化学反応と同様に、ゼオライト空間における反応速度は温度とともに増加する。
【0178】
ゼオライトは、誘電マイクロ波反応性材料の表面を含めて、多孔質および非多孔質固体表面に固定することができる(van Bekkum等、1994;Jansen等、1994)。ゼオライトコーティングは、フィルムでも層でもよい。フィルムは、担体上に並列したマイクロ多孔質結晶の連続固相である。層は、担体上に多少無秩序に配向したマイクロ多孔質結晶の(不)連続固相である。ゼオライトコーティングの調製は周知である(Jansen等、1994)。コーティングは、形成されたゼオライトを適用することによって、または表面上でゼオライトを成長させることによって、形成させることができる。
【0179】
この実施例においては、Yゼオライト(Zeolyst International、Valley Forge、PA)を、ベントナイト200粘土の約0.5cm×0.5cmの表面に浸漬コーティング技術によって固定する。(あるいは、炭素などの他の誘電材料を担体として使用することができる。)浸漬コーティングは、表面にゼオライトを塗布する効率的で十分実績のある方法であり、ほとんどの担体表面に使用することができる(van Bekkum等、1994)。Yゼオライトは、溶解重合物質を含むスラリーにされ、溶媒除去後、連続相の層を形成する。通常添加されるバインダーは、硬化すると、表面に強く結合したゼオライト層を形成するのに役立つ。
【実施例7】
【0180】
ゼオライトY被覆粘土誘電体表面での1−ナフチルフェニルアセテートのマイクロ波加速均等開裂
ゼオライトY被覆粘土チップ(実施例6)を50mLビーカーの底に置く。1−ナフチルフェニルアセテート(NP)(10mM)を含有するへキサン(20mL)を添加する(Gu等、1999)。ビーカーをマイクロ波オーブン(Panasonic NN−S949、出力1100W、2.45GHz)中に置き、ゼオライト表面で反応が起きるまでマイクロ波を発生させる。照射後、バルクへキサン溶液を既報のとおりガスクロマトグラフィーで分析する(Gu等、1999)。表面ゼオライトを純粋なへキサン中に抽出し、抽出物をやはりGCで分析する。NPの反応率は、バルクへキサン溶液中よりもゼオライト抽出物中の方が高い(生成物/反応物濃度比が高い)。
【0181】
第2の実験においては、2個のゼオライト被覆粘土チップを、10mM NPのへキサン溶液を含む別々のビーカーに浸漬する。一方のビーカーをマイクロ波照射に曝し、もう一方のビーカーをマイクロ波照射に曝さない。ゼオライト粘土チップをへキサンで抽出し、GCで分析する。マイクロ波照射ゼオライトは、非マイクロ波加熱ゼオライトよりも生成物/反応物比が高い。
【実施例8】
【0182】
誘電分子刷り込みポリマーへの絶縁メソ孔質シリカ層のコーティング
誘電体/人工酵素複合材料をさらに封じ込める必要がある場合もある。多孔質断熱カプセルまたは層は、誘電体からバルク溶媒への熱伝達を低下させる。(冷却容器を用いてバルク溶液を冷却することによって同じ結果が得られることも上で述べた。)
【0183】
いくつかの材料、主にポリマーを絶縁層として使用することができる。このような材料の要件は、少なくとも最低限、反応物を通過させながら、熱伝達を抑えなければならないことである。多孔質層の厚さは、触媒すべき反応、使用する材料のタイプ、および所望の特定の用途を含めて様々な要因に応じて最適化することができる。
【0184】
分子刷り込みポリマーの場合には、1つの技術は、刷り込みポリマー表面を、プリント分子を除いた同じポリマーでコーティングすることである。したがって、各材料の順序は、誘電体/刷り込みポリマー/非刷り込みポリマー/バルク溶液の順である。上で言及したように、ポリマー層を形成することは当分野で既知である。
【0185】
本実施例は、多孔質シリカ層を使用して誘電体/人工酵素複合材料をコーティングし、断熱する方法について述べる。分子刷り込みポリマー層をコーティングした誘電体表面をシリカでコーティングする。刷り込みポリマーをシリカ層でコーティングするために、原液をまず調製する(Makote等、1998)。この溶液は、テトラメトキシシラン(TMOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、エトキシエタノール(EE)、水および0.1M塩酸を含む。TMOSとPTMOSの比は10:1である。溶液のpHは、水酸化カリウムを用いて7まで上げられる。30分後に、この溶液を誘電体/分子刷り込みポリマーにコーティングする。コーティング方法には、スピンコーター(Makote等、1998)、またはスプレー、または浸漬コーティングを使用することができる。得られた被覆表面をデシケーター中で室温で乾燥させる。シリカコートの絶縁特性をさらに向上させるために、コーティングプロセスを複数回繰り返して複数の層を形成させることができる。
【実施例9】
【0186】
マイクロ波加速化学発光のフィルムによる検出
化学発光反応を使用して本発明を試験するためにいくつかの実験を実施した。実験では、顕微鏡スライドを、ルミノール/過酸化物反応がその上で起こり発光する「チップ」として調製した。このチップは、簡単なもの(ガラス)でも誘電体を有していてもよい。使用される誘電体はチタン酸バリウムまたは活性炭である。マイクロ波照射してもしなくても、CL反応からの光を検出するためにフィルムを使用した。
【0187】
実験:
チップ:誘電体チップを標準顕微鏡スライド(1インチ×3インチ(3cm×8cm)×1mm)(VWR Micro Slides)から作製した。2つのタイプのチップを作製した。誘電体スラリーを顕微鏡スライド上に置くことによって1つのタイプを作製した。スポットは、直径が約0.5cmであった。次いで、CL反応を誘電体上で(誘電体に接触して)直接行った。他のタイプのチップは、2個の顕微鏡スライドを何も挟まずに重ねたもの(対照チップ)またはスライド間に接触誘電体フィルムをサンドイッチしたものであった。「サンドイッチチップ」を用いて、誘電体層に接触していない上部ガラススライド上でCL反応を実施した。使用した誘電体は、チタン酸バリウム(Aldrich Chemical Co.、20、810−8)および活性炭(Sigma Chem.Co.C4386)であった。水と混合して高濃度誘電体スラリーを調製した。チタン酸バリウムは高濃度ペーストを形成し、木炭はそれよりも薄い混合物を形成した。
【0188】
化学発光反応:ルミノール(3−アミノフタルヒドラジド一ナトリウム塩、Alfa Aesar 44007)は、アルカリ性pHで過酸化水素と反応する。ルミノール溶液は、約7.9〜10.2の様々なpHで調製された。これらの溶液は、硫酸銅(II)五水和物および緩衝剤(重炭酸ナトリウム)も含んだ。様々な濃度およびpH値を試したが、pH8.0を使用することに最終的に決定し、ルミノールのルミノール濃度は4.4mMであった(過酸化物溶液と1:1で混合されて反応を開始する原液)。pH値がこれよりも高いと反応が速すぎ、1分で半分以上終了してしまうことが明白であった。pHがこれよりも低いと反応ははるかに遅く進行する。これよりも低いルミノール濃度も可能であったが、フィルム上で鮮やかなスポットを得るためには4.4mMが望ましかった。
【0189】
ルミノール溶液を等体積の希過酸化水素と混合してCL反応を開始した。過酸化水素3%を1:20希釈した。これを原液(0.15%)とした。
【0190】
チップ上で、スポットの総容積は、6.0μL(ルミノールおよび過酸化物それぞれ3.0)または3.0μL(それぞれ1.5)であった。
【0191】
データ記録:この技術は、感度を最大にするためにCL光のCCDまたはPMT検出および分析を使用する。あるいは、特に、定量化が重要ではないが、ある信号を定性的に測定する必要がある場合には、フィルムを使用することが好都合である。また、使い捨てが必要である場合には、例えばCCDカメラではなく、フィルムを用いるシステムが注目されることがある。
【0192】
データは、Amersham Hyper ECLフィルムのシート上に記録され、従来の方法によって現像された。すべての場合において、マイクロ波照射下でもそうでなくても、フィルムをCLチップに20秒間暴露した。フィルム現像は従来の手段によった(Kodak D−19現像液)。
【0193】
チップホルダー:チップホルダーを音楽CDケースから作製した。透明メタクリル酸メチル製ケースは断熱体として働き、フィルムが熱くなるのを防止した。これによって、フィルムが反応表面に接触するのも防止された。CDケースは、その中に厚紙を挿入してチップが動くのを防止した。フィルムの縁部をチップ越しにCDボックスの外側にテープで軽く留め、光を通さない段ボール箱内にCDボックスを置いた。次いで、この箱をマイクロ波オーブンに入れた(オーブンの説明については実施例1参照)。
【0194】
実施した実験および結果:すべての場合において、チップを1回使用して廃棄した。マイクロ波加熱を回転トレイ上で実施して不均一な加熱を抑えた。不均一加熱による人為的結果の形跡は認められなかった(複数の実験から、互いに一致する結果が得られた)。
【0195】
1)スポットチップ。スポットチップを用いた初期の研究ではあいまいな結果が得られた。これは、試薬が誘電材料上に直接置かれたためと考えられる。反応物が誘電体層中にいくらか染み込む場合もあり、不均一に広がる場合もあった。このため、炭素誘電体層とチタン酸バリウム誘電体層の両方を用いても実験の成功や失敗を決定することは困難であった。誘電体と結合試薬が直接接触することは本発明の要件ではないことに留意されたい(図2C参照)。
【0196】
2)サンドイッチチップ。いわゆるサンドイッチチップを用いた結果は、スポットチップよりもはるかに良好であった。上述したように、サンドイッチチップは、3層、すなわち、顕微鏡スライド、中間誘電体層、および別の顕微鏡スライドを含む。これらのチップは、上で使用したスポットチップよりも2つの主要な利点がある。1つは、反応が、平坦でない誘電体スポット上ではなくガラス(既知の表面)上で起こることである。第2の利点は、誘電体層が大きく、スライド全体の1×3インチ(3×8cm)の表面を覆うことである。誘電体が大きいということは、チップがより高温になるということである。(サンドイッチチップ表面は、追加の非隣接層を加えることによって高温領域と低温領域に分割できることに留意されたい。)
【0197】
a)一実験においては、ルミノール原液3μLを過酸化物原液3μLと混合した。ガラス(誘電体なし)、チタン酸バリウムおよび活性炭の3個のチップの各々の上には2個のスポットがあった。これらのチップはチップホルダー中に並列して置かれ、フィルムがホルダーにテープで留められた。チップを20秒間マイクロ波加熱し、フィルムを現像した。現像されたフィルムによって、ガラスチップからはいくらか光が放出されたが(2個のスポットを見ることができた)、チタン酸バリウムスポットおよび木炭スポットからはそれよりもはるかに多量の光が放出されたことが判明した。実際、木炭チップは膨大な量の散乱光を放出し、熱(20秒)があまりにも強力で試薬スポットが吹き飛ばされたことが示唆された。マイクロ波加熱後にチップホルダーを開けると、チップはすべて目視では無傷であり、誘電体チップは、触れると、対照チップよりも格段に熱かった。
【0198】
b)第2の実験においては、a)で述べた実験を繰り返した。本質的に同じ結果が得られた。
【0199】
c)第3の実験においては、1回のアッセイにつきルミノールおよび過酸化物の各々1.5μL(上記使用量の半分)を用いて3個のチップに再度スポットを形成した。室温で数分間安定して発光したことが目視によって観察された。このため、チップを最初に室温で評価し(フィルムに20秒間暴露)、次いで、新しいフィルムとともに電子レンジに置き、マイクロ波加熱中にさらに20秒間暴露した。現像後、2つのフィルムを比較した。マイクロ波加熱前にチップ(20秒)に暴露したフィルムでは、3個すべての船(ship)上でCL反応に対応する光スポットが見られた。(すべてかなり弱かったが、チタン酸バリウムチップでは、対照実験において一貫してより暗いスポットが得られ、誘電体の白色が光を上方のフィルムに反射したことが示唆された。)マイクロ波加熱中にスライドに暴露されたフィルムは、まったく異なって見えた。ガラス(誘電体なし)チップは、室温暴露と変わりがなく、スポットは明るかった。しかし、フィルムは、誘電体チップ上で格段に多量の光を捕捉した。チタン酸バリウムチップでは、対照(室温)実験においてより暗いスポットが得られた。先に見られたように、活性炭スポット画像は極めて強く散乱し、極めて多量の光が放出され、温度が極めて高かったことが示唆された。この実験によって、上記同様、マイクロ波加熱が誘電体チップ上のCL反応を加速することが示された。
【0200】
d)c)に記載した実験を繰り返し実質的に同一の結果が得られた。室温スポットは弱いが、(対照スポット以外は)マイクロ波スポットでは、フィルム上で暗い画像が得られた。これらのデータは、マイクロ波標的加速反応の進行が遅いことを明確に示している。
【0201】
e)フィルム上に見られた暗いスポットが実際にCL反応によるものであり、チップ自体の人為的結果ではないことを検証するために実験を行った。4個のチップ、すなわち、対照(2枚のガラス顕微鏡スライド)、チタン酸バリウム、活性炭、および(脱イオン水を用いて粉体から調製された)ベントナイト粘土を含む別の誘電体チップを調製した。CL試薬はチップ上に置かなかった。これら4個のチップをチップホルダー中に置き、X線フィルムを取り付け、ホルダーを20秒間マイクロ波加熱した。現像されたフィルムにはまったく何も写されておらず、フィルム上に見られた暗黒はすべてCL発光に起因していることが示唆された。
【0202】
f)c)およびd)に記載された実験を、2つの変更点を除いて繰り返した。1つの変更点は、より少量の活性炭をチップに使用したことであった。もう1つの変更点は3個の代わりに4個のチップを使用した、すなわち、ベントナイト粘土誘電体チップを追加したことであった。図7に結果を示す。各垂直レーンは、顕微鏡スライドを用いた1個のチップから得られた画像である。フィルム上では、対照レーンに2個のかすかなスポットが見られる。これらは、ガラスのみのチップ上の2個のアッセイスポットから得られるCL放射である。他のチップ、すなわち、チタン酸バリウムスポット、活性炭、およびベントナイト粘土は、より強い発光を示す。これらの物質はすべて、チップ上で化学反応を加速するために使用することができる。
【実施例10】
【0203】
グルコースオキシダーゼによって生成される過酸化水素を用いたMATTR信号増幅
核酸アッセイまたは免疫測定法において信号を増幅する酵素を使用することが有利または必要な場合がある。これは、従来の核酸アッセイおよび免疫測定法(酵素結合免疫吸着検定法またはELISA)によってなされることが多い。酵素によって生成される信号は、比色、蛍光、化学発光などである。手短に述べると、ELISAにおいては、分析物は免疫特異的固相に捕捉される。生体特異的分析物の結合を、信号発生酵素で標識された分析物と競合させることができる(競合アッセイ)。あるいは、信号発生酵素で標識された二次抗体を使用することができる(サンドイッチアッセイ)。両方の場合において、結合した酵素は、基質を生成物に触媒作用によって変換して、信号変化を生じる。信号の増幅は、各酵素(標識)分子が多数の基質(信号)分子を代謝回転することによって起こる。
【0204】
マイクロ波によって誘導されるELISA信号の生成は今まで報告されていない。マイクロ波誘導ELISAにおいては、酵素は、1個または複数の分子の物理化学的諸特性が変化する反応を触媒するが、試料がマイクロ波加熱されるまで信号変化はほとんどまたはまったく生じない。信号変化(化学発光など)は、マイクロ波照射によって起こる。
【0205】
マイクロ波誘導ELISAを試験するために、標識酵素としてアスペルギルスニガー(A.niger)由来のグルコースオキシダーゼ(GOx)(Sigma G−9010)を用いて実験を行った。GOxは、ELISAにおける信号発生酵素として使用されることが多い。これは、グルコースの酸化を触媒して過酸化水素を発生し、過酸化水素は比色または発光反応に関与することができる。この系は、マイクロ波誘導ルミノール−過酸化物化学発光に理想的である。グルコースオキシダーゼはpH5.0〜7.0で最も効率的に機能するが、ルミノール−過酸化物はpH9.0〜11.0でより速く反応する。したがって、酵素反応は、まず、pH7.0で効率的に進行して過酸化物を生成する。この中性pHでは、過酸化物は、マイクロ波を照射されるまでルミノールとほとんど反応しない。照射によって反応物が加熱され、その速度が大きく加速され、すぐに化学発光を起こす。
試薬:(a)グルコースオキシダーゼ(2.0単位/1.5μL)、(b)グルコース(10mM/1.5μL)、(c)0.2g/Lおよび0.4g/Lのルミノール/CuSO4原液それぞれを18μM/1.5μLのルミノール濃度に250mM NaHCO3で希釈した。
誘電体チップ:チタン酸バリウムサンドイッチチップを使用した(2個の顕微鏡スライド間の水性ペースト)。
計測手段/検出:マイクロ波オーブンおよびX線フィルム検出は、実施例9に記載したとおりである。
実験1:グルコースおよびGOx(上記体積)の反応をオンチップで2分間実施した。また、グルコースのみおよびGOxのみの対照スポットをインキュベートした。ルミノールをスポットに添加し、チップを15秒間マイクロ波加熱した。X線フィルム上にスポットは見られなかった。
実験2:反応を15分間行う以外は実験を繰り返した。今回は、GOx/グルコーススポットはフィルム上で暗いスポットとなったが、2個の対照スポットは検出可能な光を放出しなかった。先の対照実験(実施例9)は、類似の条件下ではマイクロ波加熱なしではほとんどまたはまったく発光しなかった。
【0206】
この実験によれば、マイクロ波誘導化学発光信号を酵素によって増幅することができる。生化学物質(GOxおよびグルコース)はこのシステムを用いて検出できることも示された。マイクロ波加熱は反応を加速することができるので、両立しない反応(酸性pHにおいて最適なGOxとアルカリ性pHにおいて最適なルミノール/過酸化物)をこの系で一緒に実施できることも示された。
【実施例11】
【0207】
マイクロタイタープレートのアビジンコーティングを加速するための指向性マイクロ波加熱の使用
誘電体被覆プレートのマイクロ波加熱が、マイクロタイタープレートウェルへのタンパク質の結合を促進することができるかどうか試験するために実験を行った。
【0208】
材料および方法:
プレート:「誘電体プレート」を以下のとおり調製した。Nunc MaxiSorp96ウェル平底マイクロタイタープレート(ストリップウェル形式)の下面に誘電体ペーストを手塗りした。ペーストは、チタン酸バリウム粉体と、ポリ酢酸ビニルを主成分とする接着剤(Elmer’s Glue−All)とを混合して作製した。ペーストを乾燥させてからプレートを使用した。
試薬:ImmunoPureアビジン(Pierce Prod.#21121)、ビオチン標識西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP−ビオチン)(Pierce Prod.#29139)。
マイクロ波オーブン:GEモデル JE635、600W
分光光度計:Tecan SLTプレートリーダー
【0209】
実験および結果:
実験1)アビジンコーティングに対するマイクロ波加熱マイクロタイタープレートの効果を試験した。3タイプ、すなわち、(1)対照−非加熱、塗装プレート、(2)対照−加熱、非塗装プレート、および(3)加熱、塗装プレートのプレート処理を実施した。加熱すべきプレートウェル(プレート処理2および3)を1.0分間マイクロ波加熱して予熱した(解凍サイクル、60W)。コーティング溶液(アビジン(10μg/mL)100μLの炭酸塩緩衝剤溶液、pH8.5)を3タイプのプレートのすべてに添加した。次いで、加熱すべきプレートウェル(2および3)を同じ方法で再度加熱した。プレートを5分間静置し、次いで、PBSで1回リンスした。遮断薬のBSA(0.1mg/mLを250μL)を添加し、プレートを終夜4℃で貯蔵した。次いで、プレートをPBSで4回洗浄した。HRP−ビオチン(100μL、10,000:1希釈)を各ウェルに添加し、プレートを20分間インキュベートした。次いで、プレートをPBS/Tween(0.05%)で4回、PBSのみで1回洗浄した。TMB基質(100μL)を各ウェルに添加し、60秒間インキュベートし、次いで、1M H2SO4(100μL)を添加した。吸光度を450nmで読取った。
【0210】
その結果、平均吸光度は、対照1(非加熱、塗装)が1.243(n=8)、対照2(加熱、非塗装)が0.610(n=8)、および実験ウェル(加熱、塗装)が2.482(n=8)であった。これらのデータによれば、実験塗装プレートは、対照プレートよりもアビジン結合が多かった。結合アビジンが生物活性(ビオチン結合能力)を保持していることも示された。この方法を使用して生物分析用プレートを調製できることも判明した。これらの結果は、すべての場合において高度の結合が見られたので(使用したアビジン量はおそらく過剰であった)、使用試薬の量を最適化するためにある軽微な実験が必要であることを示した。
実験2)第1の実験の結果を最適化し検証するために第2の実験を実施した。アビジンを炭酸塩緩衝剤で濃度5μg/mL(ウェル当たり100μLを使用した、または5μg)に希釈した。実験には以下のウェルセット、すなわち、実験(加熱、塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照1(加熱、非塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照2(非加熱、非塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照3(非加熱、非塗装、30分間アビジンインキュベーション)を使用した。上で特に断らない限り、以下の加熱処理を実施した。すなわち、ウェルを1分間マイクロ波照射し(機器全出力)、次いで、アビジン(100μL)を添加し、次いで、ウェルを20秒間照射し(10秒オン/20秒オフ/10秒オン/20秒オフ)、次いで、室温で5分間(対照3は30分間)インキュベートした。すべてのプレートのウェルをPBSでリンスし、次いで、0.1mg/ml BSAを添加してウェルを終夜4℃でブロックした。実験1)に記載したようにHRP−ビオチンに結合できるかどうかウェルを分析した。
【0211】
実験データおよび2個の対照の結果を図8に示す。対照2は、データが信頼できないと考えられたので示していない(読みは0.539であった)。これらの結果は、実験1)の知見を裏づけるものであり、わずか1回の試行で最適化に大きな前進が見られた。誘電体塗装プレートを使用することによって、マイクロタイタープレートへのアビジン結合が明らかに改善される。
【実施例12】
【0212】
誘電体アレイチップ上でのc−Mycペプチドの合成
マイクロ波加熱は、表面での化合物の合成を加速することによって、誘電体チップまたはマイクロタイタープレートの調製を加速することができる。固相マイクロ波化学は周知の分野である。しかし、本明細書での他と異なる特徴は、分子がその上に構築される足場として固相が使用されることである。本明細書での他と異なる別の特徴は、完成した、化学的に改変された表面が、生体特異的結合現象を含む生体分子分析に使用されることである。
【0213】
固相ペプチド合成の前に2個の誘電体チップを作製する。まず、チタン酸バリウムの水性ペーストを2個の標準ガラス顕微鏡スライドの間にサンドイッチし、その縁部を塞いでチタン酸バリウムを密封する。この「サンドイッチ誘電体チップ」の表面に、それに合わせて切ったセルロースの「スポット」膜(Sigma−Genosys)の切片を(縁部の周囲で)接着する。このセルロース膜は、ペプチド合成用の4個の受容体スポットを有する。2個のスポットはc−mycペプチド用であり、2個は非c−mycペプチド用の対照スポットである。したがって、1個は「マイクロ波」チップと呼ばれ、もう1個は「非マイクロ波」チップと呼ばれる2個の同一のチップを調製する。両方のチップは、c−mycペプチド用の2つ組スポットと、非c−mycペプチド用の2つ組スポットの4個のスポットを含む(図9)。
【0214】
マイクロ波加熱チップ:SPOTsキット(Sigma−Genosys)を使用して、スポット上で2種類のペプチドを合成する。一方のペプチドは、EQKLISEEDL(配列番号:1)であり、これはc−mycタンパク質に由来する(p62c-mycプロト−オンコプロテイン)(Hilpert等、2001)。もう一方の対照ペプチドは同じペプチドであるが、ペプチドの第4の残基においてロイシンがヒスチジンで置換されている(すなわち、EQKHISEEDL(配列番号:2))。Hilpert等によれば、マウス抗体9E10がc−mycペプチドに強く結合するためにはこの位置のロイシンが必須である。合成手順は、反応時間が適宜1/2〜1/20に短縮され、短縮された反応がマイクロ波オーブン中でのマイクロ波照射下で実施される以外は、既報(Hilpert等、2001およびその中で引用されている参考文献、ならびにSigma−Genosys技術書)のとおりである。
【0215】
非マイクロ波加熱チップ:マイクロ波をチップに照射しない以外は、マイクロ波加熱チップの手順を繰り返す(反応時間は文献値よりも短縮されている)。
【0216】
成功の決定:成功したかどうかは、3通りの方法で測定される。第1に、カップリング収率が酸加水分解、溶液相ニンヒドリン染色および可視分光法によって求められる。第2に、ペプチド分析として定量アミノ酸分析を実施する。最後に、合成されたペプチドの免疫測定を以下の実施例13に示すように実施する。
【実施例13】
【0217】
ペプチドライブラリ誘電体チップ上での標識抗体を用いた抗c−mycペプチドのアッセイ
抗体9E10がc−mycペプチドに結合し、置換ペプチドに結合しないかどうかを明らかにするために、実施例12において調製された2個のペプチド改変誘電体チップである「マイクロ波加熱」および「非マイクロ波加熱」を評価する。MATTR技術を使用してチップを評価する。アッセイ手順には、抗c−mycマウスモノクローナル抗体9E10(Research Diagnostics,Inc、Flanders、NJ)が必要である。抗体9E10をスポットとともにインキュベートする。結合させ、洗浄して過剰の抗体を除去した後に、スポットをグルコースオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体(ICN、カタログ#55571)とともにインキュベートする。洗浄して非結合性抗体を除去した後に、結合グルコースオキシダーゼを、過酸化物を生成するグルコースを用いて検出し、次いで、過酸化物をルミノールを用いて中性pHで検出する。信号は、上述したように、マイクロ波加熱によって生成され、X線フィルムによって可視化される。
【0218】
「マイクロ波加熱」チップの結果は、光が、置換ペプチドからではなく、c−mycペプチドの場所から主に放出されていることを示している。これは、マイクロ波合成が成功し、調製されたペプチドを免疫測定法において検出することができることを示している。また、これらの結果は、マイクロ波を使用してチップ上で化学物質ライブラリを構築することができ、ライブラリもマイクロ波発光技術を用いてスクリーニングできることを示している。
【0219】
「非マイクロ波加熱」チップの結果によれば、マイクロ波加熱なしでは、合成手順がマイクロ波加熱ほどには成功しないことが示された。このチップ上のc−mycスポットから放出される光は、「マイクロ波加熱」チップ上よりも少なかった。
【実施例14】
【0220】
マイクロ波感受性誘電体の圧電特性を用いた生体分子の高速結合
マイクロ波と十分結合して熱を発生する誘電材料の中には、偶然、圧電特性を有するものもある。例えば、チタン酸バリウムを含むものなどのセラミックスは、マイクロ波加熱可能であり、かつ圧電特性を有する。これは、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートまたはMATTRマイクロ波発生機器の誘電体成分を使用して、熱を発生して化学反応を引き起こすだけでなく、印加電圧下で振動することができることを意味する。圧電振動(音波処理または超音波処理)を使用して、生体分子の反応、特に結合反応、例えばリガンドとその受容体の結合反応の速度を加速することができることが示された(Sizto & Gallup、米国特許第4,575,485号;Wohlstadter等、米国特許第6,413,783号)。
【0221】
セラミック誘電体含有プレートまたはチップによって、電流は誘電材料を通過することができる。必要以上の実験をせずに、適切な電圧を印加して圧電バジングを起こすことができる。マイクロタイタープレート中またはマイクロアレイチップ上での表面または別のタンパク質へのタンパク質の結合速度は、少なくとも2倍、好ましくは10倍以上加速される(Sizto & Gallup、米国特許第4,575,485号;Wohlstadter等、米国特許第6,413,783号)。続いて、免疫測定アッセイを実施することができる(マイクロ波干渉または火花発生を防止するために必要に応じて誘電体へのリード線は外される)。セラミック誘電体は、マイクロ波加熱の標的となり、加熱によって情報伝達反応(例えば、化学発光)が加速される。
【0222】
参考文献
本明細書において引用された刊行物は次のとおりである。
【0223】
誘電加熱、誘電材料及びマイクロ波化学
【表6】
【表7】
【0224】
分子刷り込み、ゼオライト、及び他の結合分子
【表8】
【表9】
【0225】
マイクロチップ/マイクロアレイ/マイクロタイタープレート及びアレイ
【表10】
【0226】
生体医学における応用
【表11】
【表12】
【0227】
マイクロ波化学/化学的マイクロアレイ
【表13】
【表14】
【0228】
本明細書に記載するすべての出版物および特許は、個々の出版物または特許出願の各々が参照によりその全体を本明細書に援用されるように具体的かつ個々に示されたとおなじ程度に、参照により本明細書に援用される。
【0229】
本発明をその具体的実施形態に関連して記述したが、さらなる改変形態が可能であり、本願は、一般に本発明の原理に従い、本発明が関係する技術分野で公知または慣行となり上に記載した本質的特徴に適用することができる本開示からの逸脱を含めて、本発明のあらゆる変形、使用または手直しを含むものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】指向性マイクロ波化学を示す図である。2つの最も重要な特徴は、(1)マイクロ波を吸収し、(2)に接触または接近している目的誘電体、(2)目的反応物を捕捉する結合表面である。要するに、マイクロ波吸収誘電体によって熱が反応物に向けられる。それによって、マイクロ波照射は、誘電体表面またはその近くで特異反応を引き起こす。
【図2A】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図2B】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図2C】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図3】アダマンチリデンアダマンティン1,2−ジオキセタンの半減期と温度を示すグラフである。この図は、ジオキセタン半減期が温度に大きく依存することを示している(ジオキセタンの分解によってCLが惹起される)。横軸スケールは対数であることに注意されたい。
【図4】マイクロ波加速標的トリガー反応(「MATTR」)機器を示す図である。機器の構成成分は、MATTR使い捨てチップ用一体型ホルダーを備えたマイクロ波オーブンである。このチップは、マイクロ波加熱すると発光し、その光はPMT(窓を通して直接的に、または光ファイバーを介して)またはCCDカメラによって捕捉される。マイクロ波発生、カメラ記録および画像解析はすべてPCを用いて実施される。あるいは、光をオートラジオグラフィーフィルムで捕捉することができ、電子画像装置およびコンピュータは不要である。
【図5】MATTRに基づくサンドイッチ免疫測定法TNFα免疫測定法を示す図である。マイクロ波加熱すると、複数のCL標識からの発光によって分析物TNFαが存在することがわかる。
【図6】MATTRに基づく核酸マイクロアレイアッセイを示す図である。マイクロ波加熱すると、複数のCL標識からの発光によって分析物が存在することがわかる。
【図7】マイクロ波加速トリガー化学発光反応(Microwave−Accelerated Triggered Chemiluminescent Reaction)実験を示す図である。この図は、「ブランク」のガラス顕微鏡スライドを用いたチップ(標識対照)と比較して、チタン酸バリウム、活性炭またはベントナイト粘土を含む誘電体チップが、マイクロ波照射下でルミノール/過酸化物の化学発光反応を実質的に加速することを示している。
【図8】マイクロタイタープレートへのMATTRに基づくタンパク質結合の効果を示すグラフである。
【図9】MATTRチップ上で合成されるC−myc由来ペプチドアレイ(2×2)を示す図である。指向性マイクロ波加熱を使用してオンチップ反応が加速される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波化学の分野に関する。本発明は、バイオテクノロジー、特にマイクロプレートおよびアレイチップを用いた調製化学および分析化学(microplate- and array chip-based preparative and analytical chemistry)の分野にも関する。
【0002】
本願は、ともに参照によりそれら全体を本明細書に援用する(2000年10月3日に出願され、現在放棄された)米国特許出願第60/237192号および(2001年10月2日に出願された)同09/968,517号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0003】
これまで、本明細書に開示する化学調製を実施したものはいない。高周波/マイクロ波エネルギーを放出する装置が使用される。エネルギーは、マイクロ波エネルギーを吸収する1種類または複数の材料を含む標的物体、例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートに向けられる。マイクロ波によって発生する熱エネルギーは、標的物体表面の所望の化学反応を加速する。
【0004】
マイクロ波化学
(高周波またはRF電磁放射を含めた)マイクロ波は、無線通信装置に広く使用されている。マイクロ波伝送は、衛星および通信産業における(例えば、携帯電話および無線インターネットにおける)最近の著しい技術改善とともに進歩した。
【0005】
マイクロ波は、一般の台所用品においてもよく知られている。マイクロ波オーブン(電子レンジ)は、水を含む食物を迅速に加熱する。それは、水がマイクロ波エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換するからである。台所のマイクロ波オーブンは、周波数2.45GHzのマイクロ波を放出する。この周波数は、水のマイクロ波吸収スペクトル内に十分にある。水の吸収スペクトル外の周波数では、食物は同じようには加熱されない。
【0006】
マイクロ波の別の用途は、化学反応への応用である(Bose等、1997;Bradley、2001;Wathey等、2002;Lew等、2002)。マイクロ波化学とは、化学反応を加速する(accelerate)ためにマイクロ波を使用するものである。反応は、通常、反応物を含むバルク溶液を加熱するためにマイクロ波放射を使用して実施される(Mingos & Baghurst、1991;Zlotorzynski、1995)。これらの反応は非水溶媒中で実施されることが多い。バルク反応溶液のマイクロ波化学の実施に使用するために特別に設計されたマイクロ波オーブンが市販されている(CEM Corporation(Mathews、NC)、Milestone,Inc.(Monroe、CT)、Personal Chemistry AB(Uppsala、Sweden)、PerkinElmer Instruments(Shelton、CT))。
【0007】
マイクロ波によって加速される反応は、アルミナ、シリカなどの無溶媒担体上で実施されることがある(Varma、2001;Bose、1997;Bram等、1990)。担体は、例えば廃棄物を無毒化するのに試薬をドープすることができる。担体が選択されるのは、目的試薬を非特異的に吸着/抽出する安価で再利用可能な薬剤であるからである。(抗体などによる)特異的結合は、試薬を捕捉するために使用されない。
【0008】
マイクロ波によって促進される触媒作用も記述されている(Roussy & Pearce、1995)。「マイクロ波によって促進される触媒作用」という用語は、水溶液中の酵素様結合ポケットにおいて起こる触媒作用ではなく、従来の触媒作用を意味するために使用される。「マイクロ波によって促進される触媒作用」という用語のこのような用法の一例は、金属Pt/Al2O3触媒を用いた液体へキサンの異性化である。別の例は、CaOおよびMgOをドープしたSmLiO2の酸化物である触媒を用いたガス状メタンの部分酸化である(Roussy & Pearce、1995)。
【0009】
化学反応を加速するためにマイクロ波を応用する別の例は、バルク溶液の加熱を進めるためにマイクロ波吸収粒子を使用するものである(Holzwarth等、1998)。この場合には、分散コバルトおよび磁鉄鉱ナノ粒子が、バルクキシレン溶液を加熱するマイクロ波(2.45GHz)吸収体として使用された。キシレンは、2.45GHzのマイクロ波によってはほとんど加熱されない非極性溶媒である。このような一例として、酵素触媒反応の速度を加速するためにマイクロ波が使用された(Kidwai等、1998)。別の例では、Milestone,Inc.(Monroe、CT)は、化学合成中に溶液のマイクロ波加熱を加速するために試験管中に入れるように設計されたPTFEとグラファイトからなるマイクロ波吸収/加熱複合材料を販売している。しかし、これらの例においては、マイクロ波は、表面を加熱するためではなく、バルク溶液を加熱するために使用される。
【0010】
別の応用例では、マイクロ波は、固相コンビナトリアル化学反応中にバルク溶媒を加熱するために使用された(Kappe、2001;Bradley、2001;Lidstrom等、2001)。これらの例では、通常の樹脂(例えば、ポリスチレン)が化学反応の固体足場として機能する。バルク溶液は、マイクロ波加熱の標的であった。
【0011】
別の例では、マイクロ波は、貴金属と発色試薬の発色反応を加速するために使用された。この分析反応は、フローインジェクション分析(FIA)によって溶液中で実施された(Jin等、1999)。この反応は、標的誘電材料の加熱ではなくバルク溶媒の加熱によるものであった。
【0012】
さらに別の例では、マイクロ波は、アルミニウムの蛍光性複合体の溶液相形成を進めるために使用された(Kubrakova、2000)。溶液中のアルミニウムイオンを測定するために蛍光強度を使用することができた。この場合も、反応は溶媒のバルク加熱によるものであった。
【0013】
さらに別の例では、マイクロ波加熱は生化学用途において使用された。一例は、マイクロ波加熱によって支援されるタンパク質染色である(Nesatyy等、2002)。さらに別の例では(Boon & Kok、1989)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を加速するためにマイクロ波加熱が使用された。これらのいずれにおいても、マイクロ波加熱は、固体表面を対象としたものではなく、バルク水溶液標的を加熱するために使用された。
【0014】
天然酵素および人工酵素
自然は、生きている生物の機能に必要な特異反応を触媒するために、酵素と呼ばれる特異的に折りたたまれたタンパク質を使用する。自然は、他の生物学的プロセスに作用するために、受容体、抗体などの非触媒作用性タンパク質も使用する。触媒作用性タンパク質と非触媒作用性タンパク質のどちらもそれらの表面に、精巧な特異性で適切な分子に結合する優れたポケットを有する。酵素の場合には、適切な分子が(「活性部位」と呼ばれる)結合ポケットに結合すると、分子(基質)を化学的に異なる分子(生成物)に変換する化学反応が起こる。反応生成物は活性部位から解離し、(不変の)酵素が結合して、別の反応「代謝回転」を触媒することが可能になる。
【0015】
タンパク質をもとにする酵素、受容体および抗体は、産業、医薬および診断学において試薬として使用されることが多い。例えば、抗体は、癌およびリウマチ様関節炎を含めて、様々な疾患に対する治療薬として使用される。酵素は、デニム地のジーパンを「退色」させ、高フルクトースコーンシロップを加工するために使用される。抗体および酵素は、医学的診断において免疫測定に使用される。天然の抗体および酵素が広く使用されているにもかかわらず、多数の研究室が人工抗体、受容体および酵素を作製しようとしてきた。天然タンパク質または改変天然タンパク質を実用目的で使用する上での1つの欠点は、タンパク質が特に安定な分子ではないということである。人工試薬であれば、非生理学的な温度、pH値、非水溶媒および塩濃度に対してより安定なはずである。また、天然タンパク質は、他のタンパク質を加水分解によって切断し失活させるプロテアーゼと呼ばれる酵素の混入によって分解しやすい。また、理想的な保存状態(適切な緩衝剤中での冷所保存)にあっても、タンパク質の品質保持期間は極めて短いことがある。最後に、既知の自然抗体または酵素がない結合試薬または触媒試薬が求められることが多い。例えば、メタノールなどの極めて小さな分子に結合する抗体が求められ、あるいは選択された立体特異的反応をファインケミカル調製中に起こす酵素が求められることがある。
【0016】
天然タンパク質の上記欠点のために、多くの研究室が、抗体または酵素として同じように機能する非タンパク質生体模倣化合物を開発した。広範なクラスの化学構造が、人工タンパク質として有用であることが判明した。すべての場合において、これらの人工生体分子は、目的分子に特異的に結合する結合ポケットを有する。これらには、分子刷り込みポリマー(molecularly imprinted polymer)(Dai等、1999;Dickert & Thierer、1996;Leonhardt & Mosbach、1987)、キラル配位子(Maugh 1983a)、キャビタンド(Maugh 1983b、Breslow等、1983)およびゼオライト、他の低分子量有機合成受容体(Borchart & Clark、1994)などが含まれるが、これらだけに限定されない。また、安定性(熱など)の高い天然タンパク質が探索され、または改変されることも多い(Maugh、1984)。
【0017】
人工酵素または抗体/受容体を作製した人で、生体特異的化学反応を加速するために指向性マイクロ波エネルギーを使用できる可能性を報告した人はいない。
【0018】
本発明は、これまで無関係であったこれら2つの分野の顕著な特徴を組み合わせたものである。これらの分野のある態様を組み合わせることで、マイクロ波放射エネルギーによって、かつ天然酵素の精巧な部位特異性および立体特異性で化学反応を加速することができることを発見した。
【0019】
本発明は、選択された化学反応をマイクロ波エネルギーを用いて特異的に加速する新規手段を開示する。この反応特異性は、マイクロ波が、所望の反応物に対して特異的結合部位を含む損失性(下記定義参照)材料を対象にするということに由来する。本発明は、マイクロ波放射の新しい用途について述べる。類似分子および/または異なる分子の混合物中の特定分子の反応を誘電加熱によって加速するようにする方法はまだ開示されていない。このように、本発明は、新しい形態の人工酵素について述べる。これらの結果は、選択されたマイクロ波放出周波数において水よりも実質的に加熱特性に優れた誘電材料を使用することによって得られる。特定の反応物に結合する分子は、選択的に加熱された誘電材料と関係し、結合反応物の反応を促進させる。
【0020】
本発明は、このような反応の前に表面を調製するために、さらにマイクロ波を使用することができる方法も開示する。上述したように、天然酵素および人工酵素は、少なくとも2種類の化学成分間の特異的結合相互作用、および反応を起こす起動力(この場合、マイクロ波エネルギー)を必要とする。マイクロ波によって促進される表面調製としては、表面へのタンパク質、DNAなどの生体分子の結合の加速、ペプチドまたは他のリガンドもしくは基質の合成の加速などがあるが、これらだけに限定されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、特異的化学反応を加速する改善プロセスおよび装置を対象とする。本発明の別の目的は、要求に応じた酵素様部位および立体特異性を反応に付与することである。本発明のさらに別の目的は、このような改善された反応速度および特異性を、多数の様々な化学反応に提供することである。本発明のさらに別の目的は、加速された反応が制御可能であり、その結果、使用者が自由に、加速された反応を選択的に開始または終了することができ、あるいは調整することができることである。本発明のさらに別の目的は、反応が均一または不均一な溶液または懸濁液中であっても、あるいは固体担体(表面、ビーズなど)と結合または関係していても、特異反応が加速されることである。本発明のさらに別の目的は、所望の反応物に構造が極めて類似しているが、さほど反応しない他の化合物の存在下で、選択された反応を加速する方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、化学反応を加速するマイクロ波を使用して、後続の生物分析(bioanalytical)反応用表面を調製することである。本発明のさらに別の目的は、マイクロ波標的材料の圧電特性を使用して、生体分子の結合相互作用を加速することである。本発明のさらに別の目的は、生物分析アレイチップおよびマイクロタイタープレートの表面にマイクロ波加熱を向けて、調製反応および分析反応を加速することである。本特許のさらに別の目的は、生物分析試験後にマイクロ波加熱を用いて有害な生体分子または生体生物(bioorganism)を失活させることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、(触媒作用的または化学量論的)化学反応を加速することができ、精巧な酵素様特異性を付与することができる手段を記載するものである。反応は、固相または表面(以下、あわせて「固体担体(solid supports)」と称する)上で起こることが好ましい。適切な固体担体は、誘電体(マイクロ波吸収)材料、および1個または複数の生物学的分子が共有結合または非共有結合によって付着する反応物表面(reactant surface)を含むことが好ましい。固体担体は様々な形をとることができ、最も注目すべきものはビーズおよび平面または曲面である。固体担体は、生物分析反応に使用されるマイクロチップ表面またはマイクロタイタープレートのウェル(the wells)であることが多い。あるいは、固体担体は、試験管、遠心管またはペトリ皿の形とすることができる。固体担体は、選択試薬を含有する水溶液または有機溶液中に浸すことができる。次に、用途に応じて、固体担体は溶媒中に残されるか、または例えば大気中などに取り出されることが好ましい。次いで、マイクロ波が固体表面に放射される。固体担体が溶媒中に残留している場合には、マイクロ波は、溶媒よりも誘電体を加熱する周波数で放射される。機器出力、周波数およびマイクロ波放射期間は、実験室であらかじめ決定される。マイクロ波加熱後、試薬の変化は、反応物から生成物が形成される際に生じる何らかの物理化学変化によって確認することができる。特定の化学速度増加を、調製および/または分析用途に使用することができる。分析用途においては、例えば医学的診断において、付随する観測可能な物理化学変化(例えば、色の変化)によって反応を場合によってはモニターおよび/または定量してもよい。調製用途においては、マイクロ波誘電体層が存在することによって、後続の分析反応用の固体担体を調製する界面化学を支援することができる。誘電体層を調製用に使用することができる2つの好ましい方法がある。このような好ましい1つの方法では、表面のマイクロ波加熱は、熱効果によって、例えば、表面に対する抗体または核酸の結合を加速することによって、あるいはペプチドなどの小分子の表面での化学合成を加速することによって、化学反応を加速することができる。第2の好ましい方法は、圧電効果によって加速されたタンパク質または核酸の結合によるものである。セラミックスなどの多数の誘電体が圧電特性を有することが知られている。誘電体を電流が流れると、誘電体中に超音波振動が生じ、生体分子結合が加速される。
【0023】
本発明の原理によれば、固体担体上の反応は、(1)固体担体上の多数の特異的結合部位に結合することによって反応物濃度を調節すること、または(2)誘電体/人工酵素とバルク溶液の温度差を調節することによって加速することができる。
【0024】
詳細には、本発明は、反応物を含む化学反応を加速する方法を提供する。この方法は、
(a)誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を前記反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加するステップと、
(c)加熱中の前記複合材料を前記反応物と反応させるステップと、を含み、得られる生成物が前記複合材料中に含まれ、それによって前記化学反応が加速される。
【0025】
本発明は、特に、化学反応の程度または速度を測定するステップをさらに含むこのような方法の実施形態に関する。さらに、本発明は、
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記追加の反応物を1つまたは複数の生体特異的相互作用において反応させるステップと、
(f)前記生体特異的相互作用の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含むこのような方法の実施形態にも関する。
【0026】
さらに、本発明は、
(d)1つまたは複数のさらなる反応のために前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された追加の反応物を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(g)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含むこのような方法の実施態様にも関する。
【0027】
さらに、本発明は、
(d)前記反応の程度または速度を測定するステップと、
(e)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(f)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(g)前記加熱された第2の反応物の1個または複数を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(h)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、をさらに含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0028】
さらに、本発明は、前記反応物が、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドからなる群から選択される、このような方法の実施態様にも関する。
【0029】
さらに、本発明は、前記反応が非共有結合性吸着反応であり、かつ/または前記反応物がアミノ酸であり、かつ/または前記反応が共有結合性共役反応である、このような方法の実施形態にも関する。
【0030】
さらに、本発明は、前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、このような方法の実施態様にも関する。
【0031】
さらに、本発明は、前記化学反応の1つまたは複数が、化学発光反応、可視色または紫外色の変化をもたらす反応、および蛍光特性の変化を含む反応からなる群から選択される、このような方法の実施態様にも関する。さらに、本発明は、前記反応物の1個または複数が酵素反応生成物である、このような方法の実施態様にも関する。
【0032】
さらに、本発明は、前記かけられる場の波長が1cm〜100mである、このような方法の実施態様にも関する。
【0033】
さらに、本発明は、上記方法によって得られる複合材料を含む複合材料にも関する。
【0034】
さらに、本発明は、誘電加熱に応答し、反応分子と生体特異的相互作用し得る表面分子を有する固体材料を含む、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0035】
さらに、本発明は、前記表面分子が、非共有結合性吸着反応によって前記表面に結合または固定されている、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0036】
さらに、本発明は、前記表面が前記反応分子と共有結合性共役反応し得る、かつ/または前記表面がマイクロアレイチップ、マクロアレイチップ、試験管、ペトリ皿およびマイクロタイタープレートからなる群から選択される、このような複合材料の実施態様にも関する。さらに、本発明は、前記固体材料が圧電特性を有する、このような複合材料の実施態様にも関する。
【0037】
さらに、本発明は、反応物の化学反応を加速する方法にも関する。この方法は、
(a)圧電超音波処理および誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を1個または複数の反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を圧電振動させるのに十分な電流を前記複合材料に印加するステップと、
(c)前記反応物を前記複合材料と反応させ、それによって前記化学反応を加速するステップと、を含む。
【0038】
さらに、本発明は、
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された第2の反応物を反応させ、それによって前記第2の反応を加速するステップと、
(g)前記第2の反応の程度を測定するステップと、をさらに含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0039】
さらに、本発明は、前記複合材料がセラミック材料を含む、このような方法の実施態様にも関する。
【0040】
定義
「加速する(Accelerate)」:化学反応速度を、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも100%以上増加させること。
「水溶液(Aqueous Solution)」:水が50体積%を超える液体媒体。
「人工抗体(または受容体)(Artificial Antibody (or Receptor))」:それが結合する分子に対して形および/または変化が相補的であるように設計された結合ポケットを含む、合成によって生成される分子。これは、小さな有機分子、人工ポリマーなどの単一分子でできていてもよく、またはアクリルポリマー粒子、シリカ表面などのバルク物質であってもよい。この人工生体分子は、相補的分子に特異的に結合する。
「人工酵素(Artificial Enzyme)」:別の分子に対して形または変化が相補的である1個または複数の結合部位を有する、合成によって生成される分子。人工酵素は、相補的分子に結合し、その結合分子に化学変換を起こさせる。
「生体特異的相互作用(Biospecific Interaction)」:3つ以上の空間的に異なる物理相互作用による、生物学的分子と生物学的または非生物学的分子との接触。これらの相互作用は、一般に、ファンデルワールス相互作用、水素結合およびイオン性相互作用である。生体特異的相互作用は共有結合を含むことができる。
「化学反応(Chemical Reaction)」:1個または複数の分子(生成物)を形成する1個または複数の分子(反応物)の化学変換。この定義は、(加水分解などの)共有結合性変換および(結合現象などの)非共有結合性変換を含む。
「チップ(Chip)」:所望の化学反応を起こすための1個または複数の領域をその表面に有する本質的に平面状の物体。チップは、片手で持てるほど十分小さくかつ十分軽量であることが好ましい。生物学的分子が反応に関与する場合には、チップはバイオチップとしても知られる。
「複合材料(Composite)」:2種類以上の異なるタイプの材料または分子でできた固体。複合材料が複数の材料でできている場合には、これらの材料は混合されていてもよいし、または物理的に分離されていてもよい。物理的に分離されている場合には、これらの材料は、不可逆的に接合されていてもよいし(例えば、一緒に接着されている)、または可逆的に接合されていてもよい(例えば、一緒に留められている)。
「誘電加熱(Dielectric Heating)」:波長約5cm〜100mの電磁放射による誘電(電気絶縁)材料の加熱。
「損失性材料(Lossy Material)」:吸収したマイクロ波エネルギーを熱の形で損失する(誘電)材料。
「マクロアレイ(Macroarray)」:チップ上の1〜1000個の複数の反応領域のパネル。
「MATTR」:「マイクロ波加速標的トリガー反応(Microwave−Accelerated Targeted Triggered Reaction)」技術。
「マイクロアレイ(Microarray)」:チップ上の1000を超える数の反応領域のパネル。
「マイクロタイタープレート(Microtiter plate)」:生物医学研究室において一般に使用される複数の反応ウェルを含む物体。一般に、マイクロタイタープレートは使い捨てされ、透明アクリルでできており、24(4×6アレイ配列)、96(8×12)、384(16×24)または1536(32×48)個のウェルを有する。
「マイクロ波(Microwave)」:3×102〜3×104MHz(1m〜1cmの波長)の範囲の電磁放射。誘電加熱はこの範囲で起こるが、これよりも長い(ラジオ)波長(最高100m)でも起こり、別法としてこれを使用することもできる。概して、マイクロ波加熱(本明細書では高周波誘電加熱も含むものとする)周波数は約1cm〜100mの波長に及ぶ。
「マイクロ波オーブン(Microwave Oven)」:マイクロ波放射を所定の波長で内部チャンバ中に発する装置。チャンバは、マイクロ波が洩れるのを制限するために密閉されている。
「分子刷り込み(Molecular Imprinting)」:選択した標的(刷り込み)分子に対して特異的な結合部位を合成材料に導入するプロセス。結合材料は、通常、有機ポリマーである。一般に、官能基モノマーと架橋モノマーが、分子テンプレートとして働く刷り込み分子の存在下で共重合される。続いてテンプレート分子を除去すると、刷り込み分子に対して形およびサイズが相補的である結合部位が現れる。このようにして、分子メモリーがポリマー中に導入され、高い特異性で刷り込み分子に再結合することができる。
「有機溶液(Organic Solution)」:有機溶媒が50体積%を超える液体媒体。
「オリゴヌクレオチド(Oligonucleotide)」:50個以下のヌクレオチド残基を有する核酸分子。
「圧電材料(Piezoelectric Materials)」:機械的に変形されたときに電荷を生成する物質。逆に、外部電場が圧電材料にかけられたときには、圧電材料は機械的に変形する(その物理的寸法を変化させる)。これらを総称して圧電効果と呼ぶ。
「ポリヌクレオチド(Polynucleotide)」:50個を超えるヌクレオチド残基を有する核酸分子。
「多孔質(Porous)」:水および他の液体分子が通過することができる経路を含む固体材料。
「熱的近接(Thermal Proximity)」:1個の物質が第2の物質と実質的な熱伝達がそれらの間で起こり得る十分な近さにある状況。好ましい実施形態においては、第1の物質および第2の物質は、水溶液または有機溶液に浸されている。第2の物質のバルクは第1の物質と熱的近接になく、したがって、第1の物質へのまたは第1の物質からの実質的な熱伝達を受けない場合が多い。
「熱電対(Thermocouple)」:一端が連結された2種類の異なる金属からなる温度測定用センサー。これらの金属は、所与の温度において小さな特有の電圧を生じる。この電圧が測定され、熱電対温度計によって読まれる。
「導波路(Waveguide)」:選択された方向に波を伝播させる構造体。これは、境界上での波と、電流および電荷との密接な関係によってなされ、あるいは境界におけるある反射条件によってなされる。
「ゼオライト(Zeolite)」:化学反応を触媒するのに使用される多孔質無機固体。ゼオライトは、酸素原子によって連結されたアルミン酸塩およびケイ酸塩四面体の規則的反復パターンに基づく堅い構造体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
マイクロ波加熱
人類の歴史において最近まで、従来のバルク加熱(火など)は、温度上昇(および化学反応の加速)をもたらす唯一の方法であった。半世紀前に新しい基本的に異なる形式の加熱が開発されマイクロ波加熱と呼ばれている(本明細書では、誘電加熱を含むものとする−定義参照)。マイクロ波加熱においては、電磁放射が試料にあてられる。適用周波数のマイクロ波を吸収する誘電体である試料内の化合物は温度が上昇する。誘電材料は、周波数と加熱能力の独特なスペクトル特性を有し、異種物質は異なる周波数でより有効に加熱される(Gabriel等、1998)。最も重要な点は、従来の加熱とは対照的に、誘電加熱において熱が外側からかけられ内部に移動する場合には、特質上適切な誘電特性を有する材料が加熱されることである。誘電加熱は本明細書ではマイクロ波加熱と称するが、誘電加熱は高周波でも起こり得る。本発明は、これらの効果を含むものとする。
【0042】
アレニウス式によれば、反応速度は、活性化エネルギーの低下(すなわち、酵素のような反応機構の変化)、または反応粒子間の衝突頻度および効率を反映した前指数因子(pre-exponential factor)の増加によって増大させることができる。第2の理由は、物質に対するマイクロ波の作用機構に密接に関係し、マイクロ波の場において化学プロセスが大きく加速される主因である(Kubrakova、2000)。
【0043】
誘電加熱は、マイクロ波照射の周波数およびその周波数における誘電体の吸収特性を含めていくつかの要因に左右される。すべての誘電材料は、特徴的な吸収スペクトル(周波数と加熱能力)を有する。例えば、従来の台所のマイクロ波オーブンにおいては、マイクロ波周波数(2.45GHz)は水を加熱するのには極めて良好であるが、他の材料(例えば、水を入れたカップ)を加熱するのには向いていない。マイクロ波放射の周波数が変われば、理論的には、(水とカップの相対的誘電吸収特性に応じて)水ではなくカップを加熱することができる。したがって、誘電加熱を用いて、水を加熱することなく水中の材料を加熱することができる。材料が加熱されれば、加熱された材料が断熱層で覆われていない限り、隣接する水に熱が伝達されることは言うまでもない。
【0044】
誘電体を(最初に文献または化合物のスクリーニングによって)選択し、結合分子(例えば、共有結合、吸着、捕捉(マクロ孔質またはメソ孔質絶縁層)などによって覆い、この層を多孔質層によって被覆することができる。誘電体は、反応物の水溶液または有機溶液に添加される。マイクロ波が照射され、適切な生成物が形成される。
【0045】
本発明の好ましい実施形態の物理的構成成分
本発明の好ましい実施形態の物理的構成成分は以下のとおりである。
1)マイクロ波/高周波源。反応は、マイクロ波発生器の空洞内、または導波路内で実施することができる。マイクロ波は、マグネトロン、ソリッドステート装置(ブルートゥース、Wi−Fi(IEEE 811.b)など)、クライストロン、クロスフィールド増幅器、進行波管、後進波管、またはそれらの任意の組合せを含めて、様々な装置によって発生させることができる。マイクロ波放射の周波数は、300〜30,000MHz(1m〜1cmの波長)の範囲にある。誘電加熱は、最低3MHzまでのより低い(ラジオ)周波数(最高100mの波長)においても起こり、別法ではこれを使用することもできる。概して、マイクロ波/誘電加熱周波数は約1cm〜100mの波長に及ぶ。この範囲にわたる電磁気加熱は本発明の一部とみなされる。使用周波数は、加熱すべき誘電材料の性質を含めた要因によって決まる。
【0046】
本発明で注目すべき周波数は、0.915GHz、2.45GHz、5.85GHz、22.125GHzなどである。米国政府は、現在、産業用途、科学用途、医学用途にこれらの周波数を使用することを認めている(Boon & Kok、1989)。マイクロ波チャンバ内の放射が(通信用マイクロ波との干渉を防止するために)十分に遮蔽されているのであれば他の周波数も注目される。「周波数可同調(Frequency-tunable)」マイクロ波オーブンを作製し本発明に使用することができる(Microwave Research Center、Eagan、MN;Microwave Research & Applications,Inc.、Laurel、MD)。他の周波数も商業的に利用可能であるが、家庭の台所のマイクロ波を含めてほとんどの商業的に利用可能なマイクロ波は2.450GHzで放出される。例えば、Microdry,Inc.(Crestwood、KY)およびCober Electronics(Norwalk、CT)は、0.915GHzマイクロ波装置を販売している。上記周波数のうち、2.45GHzは、家庭用マイクロ波オーブン、多数の無線通信装置(Wi−Fiおよびブルートゥース)などの多数の既存の装置に使用される広く容認されている周波数なので注目される。これらの装置は広く使用されているので、マグネトロン、ソリッドステート装置を含めて2.45GHzエミッタの設計および製造のノウハウはよく知られている。0.915GHzの周波数も、水を使用する用途では注目すべき周波数である。というのは、水は、この周波数の誘電加熱に最も影響されないからである(Laslo、1980)。表1に水のマイクロ波加熱における周波数依存性を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
反応は、マイクロ波発生装置内で液相または固相反応混合物に浸漬された誘電体/結合複合材料を用いて実施できると想定される。反応混合物中の誘電体にマイクロ波加熱を施すことによって、液体/固体界面において複数の代謝回転(触媒作用)が可能になる。
【0049】
発生したマイクロ波は、マイクロ波オーブンチャンバなどの空洞中または導波路中の加熱された誘電固相(マイクロチップ、マイクロタイタープレート、フレキシブルフィルムなど)に当たる。一般に、マイクロ波オーブン中で(例えば、マグネトロンによって)マイクロ波が生じたときには、マイクロ波は加熱すべき試料が置かれた空洞に導波路によって導かれる。オーブンの空洞よりも導波路中に試料を置く方が有利である。マイクロ波は導波路中では均一であるが、オーブン空洞中ではより不均一になり、定在波がしばしば「ホットスポット(hotspots)」を形成する。
【0050】
本発明の好ましい実施形態の中心をなすのは、マイクロ波が、反応表面に接触している誘電体に当たりそれを加熱するということである。マイクロ波は、複数の方向から、「反応側」または「誘電体側(dielectric side)」から誘電体に入る(図2)。したがって、反応物自体にマイクロ波を照射する必要はない。反応物は、誘電材料側から熱を受け取るだけでよい。実際、反応表面を直接照射しない方が好ましい場合がある。例えば、直接のマイクロ波照射がよくない材料(例えば、温度を測定する金属熱電対)を反応表面が含むことがある。
【0051】
バルク溶液なしで行われる反応は、分析用途において(例えば、医学的診断において)有用である。診断学においては、反応物溶液は、患者からの体液を含むことができる。所望の分子を捕捉した後に、マイクロ波によって加速される反応によって検出を容易にすることができる。例えば、マイクロ波は、分析物の色変化を起こすことができる。あるいは、標識された抗分析物抗体などの情報伝達分子を添加することができる。抗体上の標識は、マイクロ波照射によって反応して発光性または蛍光性信号を形成することができる。
【0052】
2)誘電材料。誘電材料は、反応物溶液に接触している固体担体が好ましい。担体は、様々な形状のいずれでもよい。担体は、平面状表面(例えば、コーティング、チャンバ壁、表面、チップまたはカートリッジの一部)とすることができる。適切な平面状誘電体は、複数の分析物の使い捨てバイオアッセイチップ(タンパク質チップまたはDNAチップ)などのチップの一部またはマイクロタイタープレートの一部とすることができる。このような装置は、一般に、それらの表面に1個または複数のスポットとして誘電材料を有していてもよいし、連続層を含んでいてもよい。あるいは、誘電材料は、ビーズなどの粒子の形で懸濁液中に存在することができる。類似用途の誘電材料を、マイクロタイタープレート、試験管、ペトリ皿、遠心管などの他のタイプの反応容器中で使用することができる。誘電材料は、反応容器中に組み込むことができ(テフロン(登録商標)(PTFE)/グラファイト複合材料など、または容器の底に置くことができ(チタン酸バリウム/ゼラチン接着剤など)、または反応容器から物理的に分離させることができる。後者の場合には、誘電体は、マイクロ波機器の一部とすることができる(図2C)。例えば、誘電体含有反応容器ホルダーをオーブン空洞または導波路内に恒久的に固定することができる。本発明では、誘電体は、結合した生物学的分子の近傍で加熱されるだけでよく、誘電体が物理的に反応容器(マイクロチップ、マイクロタイタープレートなど)の一部である必要はない。チップ自体が照射されるのではなく、下にある誘電材料からの伝導によってチップが熱を受け取るように、マイクロ波は「下」から誘電体に到達することができので、この特定の実施形態は注目される。誘電体は、導波路の壁またはマイクロ波オーブン空洞に組み込まれる。
【0053】
3)実施される反応。手短に述べると、反応は、熱によって加速されるあらゆる有機反応または無機反応とすることができる。反応は、選択された条件下では室温でかなり遅いが、高温では速いことが好ましい。分析用途では、反応は、検出方法(色の変化、発光など)に応じて選択される。
【0054】
4)反応分子と特異的に相互作用する表面結合分子。反応分子に特異的に結合する分子は、誘電材料表面に付着していることが好ましい。このような結合分子は、例えば、反応物に特異的に結合することができる抗体(またはその誘導体)、受容体、受容体リガンド、酵素(またはその誘導体)、ペプチド、アミノ酸、核酸、分子刷り込みポリマー、ゼオライト、キャビタンド、あるいは任意の他の高分子量分子または低分子量分子とすることができる。結合分子は、誘電材料に熱的に近いことが好ましい。結合分子は、吸着することができ、物理的に捕捉することができ、共有結合することができ、またはその他の方法で誘電材料と関係することができる(図2A)。あるいは、膜などの層を、誘電体に接触しているように誘電体上に成型または配置することができる。例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜を使用してDNAを捕捉することができる(図2B、図2C)。捕捉試薬(抗体またはDNAなど)は、膜にスポット状に吸着される。使用可能な様々な膜が利用可能である。捕捉試薬を含む粒子を膜に閉じ込めることができる(Jones、2001)。表面結合分子の共有結合または非共有結合による表面への固定は、近くにある誘電体のマイクロ波誘導加熱によって促進することができる。
【0055】
5)(本発明の分析用途用)検出/モニタリング方法。反応物からの生成物の形成を伴う物理化学変化が観察される。どの検出方法を使用するかは本発明自体には重要ではないが(多数の検出方法が使用できる)、検出方法は、実施される反応に応じて選択されなければならない(例えば、比色(colorimetric)、発光(luminescent))。検出器は機器に組み込むことができ、または加熱後、別の機器または目視で検出することができる。モニタリング方法は、色の変化、蛍光、発光、質量、または他の任意の検出可能な性質とすることができる。選択される検出方法は、選択された反応および反応の規模によって決まる。多数の検出方法が周知である。
【0056】
6)任意選択の多孔質断熱層。誘電体/結合分子層に接触し、またはそれを包囲するように多孔質断熱層を場合によっては設けることができる。この層は、反応分子を通過させるが、誘電材料からバルクの水または他の溶媒への熱のバルク伝達を減少させる。例えば、この絶縁層をマクロ孔質またはメソ孔質とすることができる。少なくとも1つの例においては、分子刷り込みポリマー、断熱層および結合分子を同じにすることができる。任意選択の多孔質層は、反応物および生成物を通過させる任意の材料とすることができ、ある種の断熱特性を有する。本質的に、この層の目的は、誘電体からバルク水相への熱伝導を遅らせることである。この層は、特に誘電体量が水の体積よりも少ない場合には、必要でない場合もある。多孔質材料のタイプの多くはポリマーである。
【0057】
一般に、多孔質層は、反応物が、その表面にある細孔を通過してその特異的結合部位に到達することができる任意の材料とすることができる。多孔質層は、水の拡散を遅らせるあらゆる機能が有利であるが、断熱特性を有する材料でできているべきである。使用可能ないくつかの材料は有機ポリマーである。これは、架橋することができ、表面に形成することができ、または吸着および架橋されたデキストラン、ゼラチンもしくはアガロースとすることができる。それ以外には、アクリレート、ポリアクリルアミド、シリカ、ポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)などの合成ポリマーなどがある。
【0058】
7)任意選択の特別な容器。任意選択の多孔質断熱層に対する機能上の別法は、反応溶液を入れる任意選択の特別な容器を有することである。この容器は、溶液を冷却する点で「特別」である。したがって、この容器ライニングは、ペルチェ冷却素子、氷−水ライニング、またはバルク溶液から熱を取り除く別の手段を含むことができる。このような冷却容器の効果は、マイクロ波加熱がより選択的に誘電材料に向けられ、バルク溶液には向けられないようにすることである。誘電体からバルク溶液に伝達された熱は、冷却容器ライニングに伝達されることになる。冷却容器は、低温分光学研究に使用される分光光度計などの多数の機器において周知である。
【0059】
8)また、誘電体温度をモニターおよび/または制御することが望ましいことがある。誘電体が構造的に適する場合(例えば、チップベースの誘電体には、熱電対を使用して誘電体温度を測定することができる。一例は、誘電体が使い捨てチップ(すなわち、顕微鏡スライド)上にコーティングされた場合である。熱電対は、加熱中にチップに接触して使用され、温度をモニターすることができる。さらに、熱電対温度測定を使用して、マイクロ波オーブンの出力を制御することによって、温度を制御することができる。誘電体温度があるレベル、例えば300℃に達した場合に、マイクロ波を自動的に遮断することができる。温度が例えば290℃に降下したときに、熱電対は、マイクロ波による加熱を再開させることができる。このような熱電対による温度制御は周知の技術である(HuhmerおよびLanders、2000;ASTM、1993;Kreider、1989)。あるいは、非接触分光技術を用いて温度を測定することができる(Boon & Kok、1989;Slyanev等、2001)。熱電対と分光学的方法の両方を用いてマイクロチップ温度が測定された(HuhmerおよびLanders、2000;Slyanev等 2001)。
【0060】
上では、本発明の好ましい実施形態の必要な要素および任意選択の要素について述べた。以下はこれらの要素に関連する主要な変数である。(1)使用されるマイクロ波発生機器および条件(発生器タイプ(マグネトロン、ソリッドステートチップなど)、周波数、時間、出力、試料配置(オーブン空洞中と導波路中))、(2)誘電体の材料組成、(3)実施する反応、(4)反応物に結合する分子(より一般的に言えば、実施するアッセイ)、(4)(分析に応用するための)検出方法、(5)反応容器形式(マイクロアレイチップ、マイクロタイタープレートなど、および誘電体が反応容器に組み込まれているか、またはマイクロ波機器の一部か)、および(6)信号検出方法。用途が異なればこれらの各々も異なり得る。以下、各変数を個々に考察する。
【0061】
1)マイクロ波機器:誘電材料が電磁気エネルギーを他の形式のエネルギー(熱)に変換する能力を示すパラメータは損失係数または損失正接(Tanδ)である。すべての材料で、Tanδは周波数に依存する。(所与の周波数において)選択溶媒よりもはるかに高いTanδ値を有する材料が本発明では注目される。周波数は、
【数1】
を最適にするように選択することができる。したがって、本発明がその潜在能力を余すところなく発揮するためには、マイクロ波周波数、誘電体吸収特性(所望の高吸収性)および溶媒(所望の低吸収性)が最適化されなければならない。複数の代謝回転(触媒作用)が望まれる用途においては、誘電体が反応物溶液に浸され、
【数1】
がより大きな妥当性を有しながら、マイクロ波照射を行うことができる。複数の代謝回転が求められない場合(すなわち、化学量論以下の反応)には、マイクロ波放射の前に誘電体を溶媒から除去することができる。したがって、例えば、空気中でマイクロ波放射するときには、
【数1】
は無関係になる。
【0062】
本発明にうまく適用することができる機器形式は多数ある。以下、それらについて個々に述べる。
【0063】
a)マイクロ波源。上述したように、マイクロ波を発生する装置は多数ある。本発明で最も注目すべきなのは、マグネトロンおよびソリッドステート装置である。台所のマイクロ波オーブンに一般的に見られる低出力マグネトロン(500〜1200W)は本発明に十分である。あるいは、ブルートゥースまたはWi−Fiチップなどのソリッドステート装置は、無線通信装置に一般的に使用されている。これらは、台所のマイクロ波オーブンと本質的に同じ周波数(2.45GHz)で低出力(>1W)マイクロ波を放出する。これらの装置は、白熱電球サイズのマグネトロンよりもはるかに小さく、家の鍵とほぼ同じサイズである。したがって、ソリッドステート装置は、ハンドヘルド装置中でマイクロ波を出力することができる。特に誘電体が十分に加熱され、加熱される試料が導波路中に置かれている場合には、低出力レベルは本発明での使用に十分である(下記参照)。
【0064】
(b)反応容器中への誘電体の一体化または非一体化。加熱される誘電体は、分析的反応を実施する生体分子の近傍にある。誘電体を反応容器に組み込むことが好都合な場合が多い(すなわち、誘電体を含むマイクロアレイチップ)。しかし、反応容器から誘電体を分離させることも別法では可能である。例えば、誘電体を含むマイクロチップホルダーをマイクロ波機器設計中に含めることができる。分析されるマイクロアレイチップは、誘電体を含まず、ホルダーに挿入されることになる。設計上極めて重要であるのは、誘電体が、生物学的反応/分析が行われる固体担体表面に熱的に近接していなければならないことである。
【0065】
(c)試料挿入位置(導波路またはオーブン空洞)。上述したように、固体担体(反応物)および誘電体は、オーブン空洞中または導波路中でマイクロ波エネルギーを吸収することができる。オーブンチャンバよりも導波路中での照射が有利な点は、(a)より均一なマイクロ波浴(定在波によるホットスポットがない)、および(b)発生マイクロ波エネルギーのより多くの部分が実際に試料に当たること(より集中した出力吸収)などである。別の利点は、導波路がオーブン空洞よりも一般に小さく、機器サイズが問題になるときには有利なことである。
【0066】
2)誘電材料:1)で述べたように、水性反応の場合には、(触媒作用が所望であれば)溶媒よりも高い損失正接を有する誘電材料を使用することが望ましい。(溶媒として)水よりもTanδの値が大きい材料のリストを以下に示す。これらの材料のすべて(および、記載されていない他の材料)を本発明において使用することができる(注:研究者間の差は、通常、データ収集時の差による)。
【0067】
【表2】
【0068】
固体温度に対するマイクロ波加熱の効果−1分間加熱:
水: (560W、2.45GHzオーブン)81℃
炭素: (500W、2.45GHzオーブン)1283℃
ニッケル:(500W、2.45GHz)384℃
酸化銅: (500W、2.45GHz)701℃(0.5分加熱)
【0069】
【表3】
【0070】
高誘電率材料はチタン酸バリウム(BaTiO3)である。誘電率は(水の80と比較して)200〜16,000である。チタン酸バリウムは、フィルムに成形することができ、分析装置に使用されてきた(Ewart等、米国特許第5,922,537号)。さらに、チタン酸バリウムに加えて、他の強誘電性材料の薄いフィルムおよび厚いフィルムを低温で作製する方法は着実に向上している。既知の高誘電率無機チタン酸塩、ニオブ酸塩および強誘電性ポリマーは、低温化学気相成長、レーザー光フォトアブレーション付着(laser photo−ablation deposition)、ゾルゲル法、RFマグネトロンスパッタリング、スクリーン印刷および焼成、(ポリマーの場合)スピンコーティングおよび他の方法を含めて多数のプロセスによって作製することができる(Yang等、1998)。
【0071】
天然粘土も成形可能な誘電体として使用することができる(上表参照)。また、アルミナ−マグネタイト(Al2O3−Fe3O4)の1:1w/w混合物も、強力に加熱される誘電体担体として使用することができる(Bram等、1991)。マグネタイト(Fe3O4)粒子はそれ自体、マイクロ波照射によって十分に加熱される。粘土は、マイクロ波吸収体として、2450MHzにおけるよりも915MHzにおいて水とは異なる(上表における比較)。
【0072】
使用することができる別の材料は炭素である。炭素の形式は、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、炭素ナノチューブ、ナノスフェア(C60、C70など)などである。誘電体としての炭素の使用は、本明細書に記載されている。
【0073】
マイクロ波照射中に水などの溶媒よりも実質的に速く加熱することができるかどうかで誘電体をスクリーニングすることによって、追加の多数の誘電材料を確認することができる。クラスI誘電体(一般に150未満の誘電率)およびクラスII誘電体(一般に600〜18,000の範囲の誘電率)を使用することができる(技術資料、Novacap,Inc.、Valencia CA)。他の適切な材料としては、有機ポリマー、アルミニウム−エポキシ複合材料、酸化ケイ素などがある。マイクロ波周波数も変えることができる。この簡単なスクリーニング手順によって、水を実質的に加熱せずに誘電材料を加熱する条件(周波数および材料)が得られる。実際、Symyx Technologies,Inc.(www.symyx.com)社では、新規材料のコンビナトリアル合成を常法に従って実施して、独特の誘電特性などの注目すべき品質を有する材料を発見している(Schultz等、米国特許第5,985,356号)。
【0074】
RF照射によって実質的に加熱されるさらに別の材料としては、フェライト、強誘電体などがある。上記BaTiO3に加えて、NaNbO3、LaCoO3、LaSrO3、LaMnO3、LaFeO3などの他のペロブスカイト(化学構造がABX3の鉱物)は、マイクロ波の場によって十分に加熱される。マイクロ波中で効率的に加熱され、本発明に使用することができる他の材料としては、SiC、AlN、ZnO、MgO−SiC、Al2O3、AlN−SiCなどがある。
【0075】
マイクロ波照射によって劇的に加熱されることがよく知られている他のタイプの材料は、様々なセラミックス、すなわち、酸化物(例えば、Al2O3)、非酸化物(例えば、CrBおよびFe2B)および複合材料(例えば、SiC/SiO2)である。多数の材料が、それらのマイクロ波加熱特性を利用して加工(焼結など)されている。(National Academy of Sciences USA、1994)。
【0076】
マイクロ波は、複合材料を加熱することができる。例えば、通常マイクロ波を透過する材料は、極性液体または伝導性粒子を添加することによって加熱することができる。アルミナ、ムライト、ジルコン、MgO、Si3N4などの耐熱性酸化物は、SiC、Si、Mg、FeSiおよびCr2O3の電気伝導性粒子を添加することによってマイクロ波を用いて有効に結合される。Al2O3、SiO2およびMgOを含めた酸化物は、Fe3O4、MnO2、NiO、アルミン酸カルシウムなどの損失性材料を添加することによって有効に加熱される。Nb、TaC、SiC、MoSi2、Cu、Feなどの伝導性粉体の混合物、およびZrO2、Y2O3、Al2O3などの絶縁体は、マイクロ波によって十分に結合される。絶縁酸化物粉体のマイクロ波吸収を促進するために、良好な結合剤(coupler)である様々な材料(オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウムおよび硝酸イットリウム)の溶液も添加される。黒鉛状炭素とテフロン(登録商標)の複合材料でできたマイクロ波吸収マントルヒーターが、Milestone,Inc.によって販売されている。
【0077】
粉体、薄片、球体、針状、チップまたは繊維を含めて様々な形の伝導性材料を添加することによって、低損失材料が加熱される。例えば、0.1〜100μmのサイズのカーボンブラックまたは金属片を含有物として使用すると加熱特性を向上させることができる。このような材料の性質および濃度は、必要以上の実験をせずに最適化することができる(Committee on Microwave Processing of Materials等、1994)。
【0078】
上述したように、セラミックスは圧電特性を有することができることが知られている。圧電材料は、超音波処理によって生体分子と表面または別の生体分子との結合を加速するために使用できることも知られている(Sizto & Gallup、1986;Wohlstadter等、2002)。したがって、マイクロ波の標的となる誘電セラミックを電気的に接続することによって(当分野で既知の技術)、結合を加速する超音波振動/バジング(buzzing)圧電体と分析反応を加速する加熱素子の両方として使用することができる。
【0079】
3)実施される反応は、反応物を特異的結合試薬に結合させることができる実質的にあらゆる化学反応とすることができる。これには、すべての既知の酵素触媒反応およびすべての既知のゼオライト反応が含まれる。本発明は、天然触媒によって触媒されることが知られていない反応を実施するために使用することができる。重要な特徴は、(1)反応物を特異的に結合させることができること、および(2)反応が熱によって加速されることである。
【0080】
マイクロ波によって加速される特異反応のための表面を調製する、マイクロ波によって加速される化学反応も企図される。一例は、タンパク質分子とプラスチック表面との調製用の吸着反応である。別の例は、ペプチド、一本鎖核酸または小分子リガンドの段階的合成である。
【0081】
実際には調製用の反応ではないが、誘電体のマイクロ波加熱は、分析後に残留するあらゆる有害生物(ウイルス、細菌)または生体分子を失活させるために使用することができる。例えば、誘電体チップまたはマイクロタイタープレートは、分析後、高温または長時間マイクロ波加熱して、生物学的有害廃棄物を確実に減少させ、または破壊することができる。これは、本発明の安全面での特徴である。
【0082】
マイクロタイタープレートは、生物学的分析を実施するために広く使用されている(Johnson、1999)。マイクロタイタープレートは、一般に、8×12配列の96ウェルを有するが、24、384および1536を含めて他の配置および数のウェルも有することができる。マイクロタイタープレートは、アクリルまたはポリカーボネートでできた(通常は)使い捨て装置であるが、本質的にあらゆる材料で作製することができる。ウェルの体積は、プレート当たりのウェルの数に応じて変わるが、96ウェルプレートのウェルは、ほぼ150マイクロリットルの液体を含む。ELISA、酵素アッセイおよび核酸アッセイを含めた免疫測定法は、一般に、ウェル中で実施される。各ウェル中で異なるアッセイを実施すること(1:1)が最も多いが、低体積試薬スポッティング技術(例えば、Cartesian Technologies,Inc.(Irvine、CA)、BioDot,Inc.(Irvine、CA))によって単一のウェル中で複数のアッセイを実施することが次第に多くなっている。例えば、4×4配列のアッセイを96ウェルプレートの各ウェルにおいて実施し、1586種類のアッセイをそのプレート中で実施することができる(16×96)。一般に、プレートは、ウェル内面に(全体的にまたはアレイスポッティングによって)抗体などの特異的捕捉分子をコーティングすることによって分析用に調製される。結合は、通常、非特異的吸収によって起こる。プレートを高温でインキュベーションすることによって、表面コーティングプロセスが加速される。37℃で30分間のインキュベーションは、20℃で終夜のインキュベーションとほぼ等価である。結合は表面現象であり、バルク加熱は、ウェルの水溶液中の生体分子を変性させる恐れがあるので、ウェル表面を標的に加熱することが好ましい。これは、ウェル表面に熱的に近接した誘電体を有するマイクロ波加熱マイクロタイタープレートによって行うことができる。これは、プレートの底部を誘電体でコーティングすることによって、例えば、塗布、またはプレート材料(プラスチック)に誘電体を組み込むことによって実施することができる。あるいは、従来のプレートを、誘電材料を含むホルダーまたはマントル中に置くことができる。すべての場合において、誘電体は、生体分子が付着する表面に熱的に近接している。ウェルコーティングの程度は、総タンパク質量または比色もしくは蛍光性試薬を用いたDNA測定などの当分野で既知の標準的手段によって測定することができる。コーティングは、機能に基づくアッセイによって分析することもできる(実施例11参照)。ウェルを目的分子でコーティングした後に、分析反応を実施することができる(DNAプローブアッセイ、免疫測定法)。
【0083】
実施可能な別のタイプの調製用反応は化学(有機または無機)合成である。合成は、単一化合物または異なる化合物のアレイ、特にコンビナトリアルケミストリーによって調製されたアレイとすることができる(Gallop、1994;Gordon、1994;Jacobs & Fodor、1994;Dolle、2000)。続いて、化合物をバイオアッセイに使用することができる。例えば、生物学的受容体を化学アレイに添加することができ、次いで、アッセイを実施して、合成化合物のいずれかに対する受容体結合を検出することができる。この実験タイプは、「化学ゲノミクス」および「化学プロテオミクス」の分野に特有である。コンビナトリアルケミストリーには多数の形式があるが、本発明において特に重要なのはマイクロチップ上でのコンビナトリアルケミストリーである。化学反応が小規模であると、化合物ライブラリの低コストスクリーニングが可能になる。マイクロアレイチップ上での合成は、多量の有機溶媒および他の有害廃棄物が発生するのを回避することができる。チップ上での分析用調製において、同じチップ上でのマイクロ波支援化合物合成は、今までに実施されても企図されてもいない。マイクロ波支援コンビナトリアルケミストリーの報告が公表され(Kappe、2001;Borman、2001)、チップ上でのコンビナトリアルケミストリーも報告された(Fodor等、1993;Kramer & Schneider−Mergener、1998;MacBeath等、1999;Hergenrother、2000;LeProust、2000、Korbel、2001;Graffinity Pharmaceutical Design、Heidelberg、Germany;Xeotron Corp.、Houston、TX)。固体担体(マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)に対する誘電体の熱的近接の概念によって、本発明は、担体上での固相化学合成を初めて可能にした。さらに、誘電体の熱的近接によって、表面化学合成だけでなく、後続の表面分析反応におけるマイクロ波誘導加熱も可能になる(例えば、マイクロ波によって惹起されるマイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート上での化学発光反応)。
【0084】
4)反応結合分子は、試薬と特異的に相互作用することができるあらゆる分子とすることができる。1回を超える代謝回転が必要な場合には、結合分子も熱的に安定なものとすべきである。熱的に安定でない場合には、十分な代謝回転が可能になる時間が過ぎるまで、マイクロ波加熱を適用すべきではない。分子は、低分子量でも高分子量でもよく、天然でも人工のものでもよい。典型的な結合分子は、抗体、酵素、受容体、核酸、分子刷り込みポリマーおよびゼオライトとすることができる。これらの分子は、特異的結合ポケットまたは間隙を有する。あるいは、結合ポケットを持たないが、結合部位を有する分子によって特異的に認識される分子を固定することもできる。これには、酵素基質、酵素阻害剤、受容体リガンドおよび受容体拮抗物質が含まれる。誘電体に対する種々の付着形式のいずれでも使用することができる。例えば、分子刷り込みポリマーを、誘電体ビーズまたは粒子の周囲で重合することができる。分子刷り込みポリマーを表面に薄層として形成させることができる(Shi等、1999;Glad等、1985;Kempe等、1995;BurowおよびMinoura、1996;Mathew−KrotzおよびShe、1995;Dai等、1999;Norrlow等、1984)。ゼオライト結晶を誘電体表面で成長させることができ、または浸漬被覆技術によってコーティングすることができる(van Bekkum等、1994;Jansen等、1994)。タンパク質および核酸を多数の表面に非特異的にコーティングすることができる。小分子は、マイクロ波誘導反応によって加速されてもされなくても、つなぎ鎖(tether)によって付着させることができ、または多孔質担体中に捕捉することができる。
【0085】
5)反応容器の物理的形式。指向性マイクロ波化学を実施する上ではさほど重要ではないが、その上で反応が起こる好ましい固相タイプがある。形式に関しては、生物学的反応は、チップ(またはスライド)、マイクロタイタープレート、試験管、遠心分離管、マイクロ遠心管およびビーズ上で実施されることが最も多い。最も重要な特徴は、生体分子が付着し、そこで生化学反応が起こる表面を固体担体が持たなければならず、その表面はマイクロ波加熱誘電材料に熱的に近接していなければならないことである。
【0086】
誘電材料が反応表面に熱的に近接することができる好ましい方法が3つある。1つは、固体担体を構成する材料中に誘電体を組み込むことである。例えば、テフロン(登録商標)とグラファイトまたはチタン酸バリウムとの複合材料を作製することができる(Milestone,Inc.、Monroe、CT)。マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートは、複合材料から押出成形または射出成形することができる。第2に、固体担体上のコーティングまたは層として誘電体を付着または堆積させることができる。誘電体を(例えば、チタン酸バリウムまたは炭素ペーストとして)チップまたはプレートの裏面に塗布または点在させることができる。「サンドイッチ」層としてチップ内に入れることもできる。第3に、誘電体を、反応前に固体担体をその中またはその上に置く固体マントルまたはホルダーとすることができる。この第3の形式では、チップまたはプレートは使い捨てすることができるが、誘電体マントルは再使用することができる。誘電体マントルでは、誘電材料がかなりの質量(何グラムも)を有することもでき、迅速なマイクロ波加熱が容易になる。
【0087】
6)検出方法は、マイクロ波によって加速される化学反応に伴う物理化学変化を検出するあらゆる方法とすることができる。検出器は、発光、色変化、蛍光変化、質量変化などを検出することができる。発光、例えば、化学発光反応を検出するPMT、CCDカメラ、フォトダイオードアレイ、x線フィルムなどの検出器は、マイクロ波反応と一体化されることが好ましい。同様に、レーザーまたはタングステン電球または白熱灯を光検出装置(PMTなど)とともに使用して、吸光度変化または蛍光変化を検出することができる。
【0088】
好ましい方法および組成物
本発明を実施する方法は多数ある。いくつかの変数としては、マイクロ波周波数および出力、マイクロ波感受性材料の性質、反応表面形状(平面状または球状)、試薬捕捉メカニズム(抗体、DNA、共有結合、非共有結合など)、および加速すべき反応の性質を変えること、ならびに実際的応用(分析、生物分析、調製など)が含まれる。以下は、いくつかの変数の簡単な概要およびそれらの実際的応用である。マイクロ波加速標的反応を実施する現時点で最良の方法も記述する。
【0089】
本発明の極めて注目すべき一形式は、「チップ」、すなわち、顕微鏡スライド(例えば、1×3インチ(3×8cm)矩形ガラスまたは5インチ(13cm)×5インチ(13cm)ガラス板)上にできていることが多い使い捨て平面上でそれを使用することである。別の注目すべき形式は、「マイクロタイタープレート」上でそれを使用することである。インクジェット印刷または他の高解像度堆積方法を用いたスポッティングによって、チップ表面の1個から数千個の反応点、あるいは個々のマイクロタイタープレートウェル内の1個から数個(例えば、4×4配列)の点が得られる。当分野で既知の多数の手動および自動スポッティング手段がある。スポッティングロボット(Biodot、Cartesian)および簡単で安価なスポッティング装置(Xenopore)を販売している多数の市販の供給業者が存在する。このようないわゆる「マイクロチップ」(Schmalzing等、2000)上での少量分析によって、膨大な数のアッセイを単一チップ上で実施することが可能になる。チップ上またはマイクロタイタープレート内のアレイ(「マクロアレイ」または「マイクロアレイ」)は分析目的で使用することができる。数千のアッセイを、当分野で既知の堆積技術を用いて、商業的に広範に利用可能な単一チップまたはプレート上で実施することができる(Pasinetti、2001;Lennon、2000;Cooper、2001;Draghici、2001;Zubritsky、2001)。例えば、スポットのアレイを使用して、無数の遺伝子中の遺伝子突然変異を検出することができる。別の例は、抗体を点在させる免疫測定法である。別の例は、特異的タンパク質受容体を捕捉するアルカロイド、ペプチドなどの小分子が存在するリガンドアッセイである。チップおよびプレートは、生化学研究、医学的診断、水質検査、食物病原体検査および化学/生物学兵器検査を含めて、これらだけに限定されない多数の分析用途に使用することができる。
【0090】
分析用途に加え、またはそれに代わって、表面標的マイクロ波加熱を調製用に使用することができる。上記マイクロチップおよびマイクロタイタープレートを応用して、チップおよびプレートを、指向性マイクロ波反応を用いた後続の分析用途用に調製することができる。一般的な一領域は、プレートまたはチップに対する捕捉タンパク質の結合を強化するための標的マイクロ波加熱の使用である。別の一般的領域は、ペプチド、アルカロイドなどの小分子化合物のオンチップまたはオンプレート高速合成に標的マイクロ波加熱を使用することである。
【0091】
オンチップまたはオンプレート有機合成を支援するために指向性マイクロ波加熱を使用するという点では、本発明は、小型コンビナトリアルケミストリーライブラリ(Dolle、2000)の調製用に注目される。多数の独特の化学物質をチップ上でin situで合成することができる。例えば、数千の様々なペプチドを従来の固相手順によってチップ上で調製することができる。次いで、コンビナトリアルケミストリーチップを分析に使用して固相化学ライブラリを評価することができる。例えば、チップを化学発光標識酵素溶液に曝し、結合を検出することができる。このようなアッセイ形式は、酵素阻害剤を発見するために使用することができる。同様に、リガンド候補のコンビナトリアルライブラリに対する受容体結合を実施することができる。マイクロ波照射を使用してオンチップライブラリ合成を加速し、その後、そのチップを分析することができる(例えば、マイクロ波誘導化学発光によって)。
【0092】
チップ(または誘電体表面)は、バルク溶液から分析物を固相抽出するための材料でコーティングすることもできる。固相抽出は非特異的(吸着)、免疫吸収とすることができ、または分子刷り込みポリマーを使用することができる(Fleisher & Boos、2001;Krishnan & Ibraham、1994)。
【0093】
マイクロ波標的反応の多数の注目すべき用途候補がバイオテクノロジー/医薬品分野にはある。これらの場合において、測定される分析物は、生物学的機能を有する。免疫測定法、DNAプローブアッセイなどのあらゆる従来アッセイを前記技術によって実施することができる。これらのアッセイにおいては、周知の化学変換が起こり、あるレベルの検出可能な物理化学変化が起こる。例えば、発色反応、蛍光発生反応または発光反応を実施することができる。
【0094】
使用可能なさらに別のアッセイ形式は分子ビーコン技術(Robinson等、2000)である。分子ビーコンを用いると、核酸のハイブリッド形成鎖が、末端標識核酸プローブによる蛍光放射および蛍光消光によって検出される。一端はフルオロフォアを有し、もう一端はクエンチャーを有する。ハイブリッドが形成されると、両端が分離され、蛍光を検出することができる。マイクロ波加熱を使用すると、ある温度でプローブを遊離して溶液に戻すことができる。分離温度(融解温度)は、遊離するときの蛍光消光によって求めることができる。最も注目すべき検出形式は化学発光(CL)である。これらについては、医薬品における試験的実際的用途を概説したセクションにおいてさらに詳述する。
【0095】
この手順を実施する好ましい方法は、誘電体として炭素粒子を使用することである。炭素は、活性炭/木炭(Sigma−Aldrich Chemical Co.)、カーボンブラック(Columbia Chemicals、Marietta、GA;Reade Advanced Materials、Providence、RI)、黒鉛化炭素粒子(Polysciences,Inc.Warrington、PA)またはデキストラン被覆木炭ビーズ(Reseach Diagnostics,Inc.)とすることができる。炭素ビーズは、反応物を刷り込んだポリマーでコーティングされている(理想的には、炭素の周囲で重合された)ことが好ましい。
【0096】
他の非選択化学物質の存在下で、単一の選択化学物質の特異反応を加速することが望ましい場合が多い。調製用化学反応の例では、薬物製造において、様々なタイプの分子の混合物(例えば、バルクラセミ混合物)の存在下で、1種類の鏡像異性体の化学反応(例えば、エステル加水分解)を加速することが望ましい場合が多い。分析化学反応の例では、医学的診断において、膨大な他のタイプの分子の中で1つの特定タイプの分子の存在を示すために特異的化学反応を加速することが望ましい。本発明は、特異的化学反応を加速する改良手段を提供するものであり、したがって、調製化学反応および分析化学反応の両方で多数の実際的用途を有する。
【0097】
分析上有用な反応としては、色、発光、蛍光、電気化学、またはあらゆる他の検出可能な物性の変化をもたらす反応などがある。調製用反応としては、加水分解および/またはエナンチオ選択的反応などがある。水溶液または有機溶液中でのあらゆる調製用反応が本発明の対象になる。分析用途同様、調製用反応は、色、発光、蛍光、またはあらゆる他の検出可能な物性の変化によってモニターすることができる。
【0098】
好ましい反応は、ルミノールと過酸化水素の化学発光反応である。以下に示すように、この反応は、医学的診断、生物医学研究などの様々な分野において使用される周知の情報伝達反応である。この反応は温度に異存し、pHを最適値よりも低く調節することによって減速し適切に温度制御することができる(実施例9および10参照)。
【0099】
ルミノール−過酸化物反応などの化学発光反応は、フィルム(例えば、X線フィルム)の使用を含めた多数の方法で、または光電子増倍管(PMT)もしくは電荷結合素子(CCD)カメラを用いて電子的にモニターし、定量することができる。PMTを用いる機器は、光を測定する窓を備えたマイクロ波放射装置を含む。PMTまたはCCDカメラを用いた測定値は、パーソナルコンピュータおよび従来の市販のデータ収集/解析ソフトウェア(例えば、LabVIEW)を用いて収集し解析される。現時点で好ましい方法は、フィルムを使用するものである。
【0100】
上述したように、誘電材料は、様々な形式をとることができる。現時点で最も注目すべき形式は、チップ上のスポットまたは層である。「誘電体チップ」を使用すると、複数の分析物を高感度で検出することができる。実際、マイクロアレイチップまたはマイクロチップは、本発明の注目すべき用途である。
【0101】
例示的実際的用途の説明
標的トリガーマイクロ波反応の実際的用途は多数ある。多くは分析化学反応および調製化学反応の分野である。ただし、非分析的な分野もある。例えば、ある反応は、毒素(神経ガスなど)を対象としてその毒素を特異的に失活させることができる。本発明は、化学反応が求められ、その反応が選択分子に特異的であることが重要であるあらゆる実際的用途において有用となり得る。
【0102】
極めて注目すべき用途は生物医学分析である。生体分子の分析は、診断評価/予後評価に極めて重要である。さらに、科学的な研究は、特異的生体分子の検出および測定能力に左右される。このような生体分子としては、タンパク質(免疫測定検出)、核酸(ハイブリッド形成検出)などがあるが、これらだけに限定されない。
【0103】
本発明は、標的マイクロ波加熱を使用して、表面でまたは表面に熱的に近接して起こる分析反応を加速する方法を開示する。本発明は、マイクロ波加熱が、後続の分析反応用調製において表面を改変する反応を加速することができる方法も開示する。
【0104】
代替分析技術との比較
医学現場または研究現場におけるマイクロ波加速化学発光(CL)分析は、通常使用される技術に優るいくつかの利点を有する。チップ上でのマイクロ波加速CLに基づく分析は、本明細書では「マイクロ波加速標的トリガー反応」技術(MATTR)と称する。
【0105】
MATTRは、既存の方法に優る明らかな利点がある。比較可能な技術には2つのタイプがある。1つは、主流の化学発光分析技術(Bowie等、1996;Roda等、2000)である。これらの技術を市場に出している会社には、酵素ベースのCLレポーターを販売するTropix(PE Corp.の系列会社)、CLを用いたゲルブロッティング検出システムを販売するAmersham Pharmacia Biotechなどがある。CLを用いた従来製品を有する他の会社としては、Lumigen、Lifecodes、Vector、Invitrogen、Pierceなどがある。従来の分析的CL法よりもMATTRが注目される点を表3に示す。CL反応は、一般に、「閃光型」または「グロー型」である。閃光型反応は瞬時であり、したがって、素早い試薬混合および分析が求められる。グロー型CL反応は、低レベルの光を長時間(数分または数時間)にわたって放出する。
【0106】
【表4】
【0107】
典型的なグロー型反応は、化学発光ジオキセタン化合物の加水分解である。図3に示すように、加水分解性ジオキセタン発光は、温度依存性が高い。したがって、ジオキセタンは優れたMATTR標識になる。典型的な閃光型反応は、化学発光アクリジニウムエステルである。アクリジニウムエステルのCLの閃光は、化学開始剤と混合するとすぐに化学的に引き起こされる。反応速度は、開始剤濃度を低下させることによって、知覚できないほどに遅くなる。マイクロ波加熱によって高速の反応速度が回復し、化学発光閃光を生じる(Wood、1984)。
【0108】
MATTR技術は、いくつかの判定基準を満たす。それによって、MATTR技術は、画期的生物分析技術となり、CLを用いた従来の生物分析を著しく改善するものとみなされる。
【0109】
・「要求に応じて」(試薬混合によってではなく電子的に)信号を発生するCL技術。MATTRにおいては、マイクロ波エネルギーは要求に応じてかけられ、好都合には、迅速な物理混合ではなく電子的にCL反応が引き起こされる。
【0110】
・コストを削減し、保守を最小限に抑えた物理的に簡単な分析機器。MATTRは、拡散性のマイクロ波入力を必要とし、したがって、集束光入力を必要とする技術(蛍光または分光測光法)よりも簡単である。
【0111】
・高感度および極めて迅速な分析。引き起こされる急速標的マイクロ波加熱は、確立された高感度CL化学反応を用いて膨大なCL光を生じる。
【0112】
・マイクロチップを用いる多重アッセイが可能な技術。マイクロ波加熱は、例えば、パターン形成された誘電体スポットによってマイクロアレイチップ上の特定の領域に空間的に向けることができる。多数のタイプのアッセイに有用な広範な可能化技術。MATTRは、確立された発光標識を取り入れているので、従来のすべての形式のCLなどに使用することができる。免疫測定法およびDNAプローブアッセイに有用となる見込みがある。
【0113】
生物医学分析におけるMATTR計測手段
上述したように、MATTRチップからのCLは、(PMTまたはCCDカメラを用いて)フィルム上でまたは電子的に測定することができる。PMTまたはカメラを使用する場合には、「MATTR機器」が使用される。好ましいMATTR機器の基本的な構成成分を図4に示す。この好ましい機器は、チップから放出される光がそこを通ってPMTまたはカメラによって検出される窓を備えるマイクロ波オーブンを含む。マイクロ波照射(CL反応の加速)、光測定およびデータ分析の開始は、例えば、適切なソフトウェアを備えた標準PCを用いて実施される。適切なデータ収集/解析ソフトウェアは当分野で一般的であり既知である。
【0114】
チップ上でサイトカインを測定するようにすることができるMATTR機器の一タイプを以下に示す。
【0115】
・適切なマイクロ波オーブンは、マイクロ波水分/固体分析計(モデルM2、Denver Instrument Co.、Arvada、CO)から作製される。このオーブンは、均一な出力密度を与える単一モードマイクロ波チャンバを備えることが好ましい。このようなオーブンのマイクロ波チャンバは小さく円柱状であり、エネルギーは試料に集中する。マイクロ波放射の操作周波数は2450MHzである。マイクロ波出力は550Wである。電源は115V、60Hzである。
【0116】
・オーブンチャンバの内部には、光ファイバーケーブルと並ぶチップホルダーが備わっている。光ファイバーは、マイクロ波内部からオーブン外部のPMTに伸びている。チップホルダーは、様々なサイズ(例えば、1×3インチ(3×8cm)から5×5インチ(13×13cm)まで)の使い捨て誘電体アッセイチップを保持する。
【0117】
・マイクロ波チャンバ内のチップ画像化可能な光ファイバー検出システム。光ファイバーは、チップから、CL反応から放出される光を捕捉する光記録光電子増倍管(PMT、HamamatsuモデルH5784−01)に伸びる。
【0118】
・パーソナルコンピュータは、PMTおよびマイクロ波源を制御し同期させることが好ましい。コンピュータは、LabVIEWソフトウェア(National Instruments Corp.)などの多様なデータ収集、制御、分析および表示ソフトウェアパッケージも実行することが好ましい。
【0119】
生物分析アッセイ用MATTR化学発光化合物
光を効率的に放出し、生物分析目的に使用することができる極めて多数の化学発光反応が知られている。CL反応のクラスの一部(その各々は構造が様々に変化する)は、1,2−ジオキセタン、シュウ酸アリール、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびルシゲニンである。これらのクラスのすべてが、免疫測定法における標識としてまたは化学発光酵素基質として分析に使用される。ほとんどの場合において、生じる光放出化学反応は、酸化剤を含むことが多い2分子反応である。過酸化水素および水酸化ナトリウムは一般的な第2の試薬である。反応のすべてを、温度上昇によって加速することができる。遊離CL化合物、および免疫測定法に使用されるタンパク質修飾用リンカーで標識されたCL化合物のようなこれらの化合物の供給業者がある。
【0120】
MATTR CL反応に極めて有用であるCL反応物クラスの一タイプは、1,2−ジオキセタン反応である。ジオキセタンは、過酸化水素などの第2の試薬なしで光を放出する。また、ジオキセタンCL反応は、図3に示すように、温度依存性が著しい。ジオキセタンは、アルカリホスファターゼ、グルクロニダーゼ、グルコシダーゼおよびベータ−ガラクトシダーゼの酵素免疫測定法および酵素アッセイにおいてグロー型試薬として使用される(Tropix、Foster City、CA)。図3からわかるように、これらは、高温を使用することによってグロー型試薬から閃光型試薬に変換することができる。様々なジオキセタンがTropixおよび他の供給源から市販されており、それらをタンパク質に結合させる方法が公表されている。また、Tropixは、タンパク質に連結することができる抱合体も販売している。
【0121】
アクリジニウムエステルは、MATTRにおいて有用な別のクラスのCL試薬である。これらの化合物は、酸化剤の存在下で酸および塩基と反応し、閃光型CLを生じる。いくつかのアクリジニウムエステルが市販されている。Lumigen,Inc.(Southfield、MI)は、簡単な化学反応によって惹起されて急速な閃光としてCLを発生する小さな水溶性化学発光標識アクリジニウムエステルを販売している。これらの化合物は、タンパク質、核酸および他の生体分子に共有結合するように改変される。これらの化合物の化学反応速度は、トリガー試薬を慎重に希釈して遅くすることができる。閃光CLは、マイクロ波加熱によって回復する。別の会社のAssay Designs,Inc.(Ann Arbor、MI)もアクリジニウムエステル標識キットを販売している。これらのアクリジニウムエステルは、NHSエステル官能基を介してタンパク質に結合する。Assay Designsは、発光に影響を及ぼすトリガー溶液も販売している。
【0122】
MATTRチップを用いた免疫測定法
MATTRを用いた免疫測定法は、多種多様な形式のいずれかで実施することができる。例えば、その表面に特異的捕捉分子を有するMATTRチップを分析物溶液に曝し、続いて(必要に応じて)二次抗体結合、および(必要に応じて)洗浄することができる(図5)。免疫測定法は、競合またはサンドイッチ免疫測定形式を用いて実施される。情報伝達標識である低分子量化学発光レポーター分子が、適切な表面結合分子上に置かれる。結合および洗浄が終了した後に、チップをMATTR機器内に置き、分析を実施する。
【0123】
血管形成増殖因子の免疫測定検出
MATTR技術の1つの応用例は、癌関連血管形成タンパク質の免疫測定法による検出におけるものである。血管形成は、血管新生とも呼ばれ、創傷治癒中の健康な体内、女性の毎月の生殖周期、および妊娠において起こる。血管形成は、一連の「オン」および「オフ」調節スイッチによって体内で制御される。主要な「オン」スイッチは、血管形成増殖因子(サイトカイン)として知られ、主要な「オフ」スイッチは、内因性血管形成阻害剤として知られる。健康な体内では、血管成長が適切になるように、血管形成因子と抗血管形成因子のバランスがとられている。
【0124】
腫瘍は、それら自体の血液供給を補充するために多量の血管形成増殖因子を発現する。固形腫瘍は、癌細胞がその成長の優位性を維持するために、血管を一定して供給する必要がある。腫瘍細胞によって比較的多量の血管新生因子が分泌されるために、腫瘍血管系は、管腔が異常に広く、血流が不規則であり、静止領域があり、透過性が高い。多種多様な血管形成タンパク質があるので、多分析物チップを用いた検出および測定が注目される。血管形成因子の分析は、生物医学研究において、および癌を含めた様々な疾患の治療に対する診断において重要である。
【0125】
抗血管形成治療は、有望な抗癌戦略を提供する(Folkman、1997)。血管形成阻害は、さらなる血管成長を防止し、転移を抑制し、したがって腫瘍成長を阻害する。この理念は広範に探究されている。現在、20種を超える驚くべき多様なグループの抗血管形成薬物が臨床試験で評価されており(Saaristo等、2000)、それを上回る多数の薬物が様々な研究および開発段階で評価されている。
【0126】
免疫測定法の例は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に対するものである。TNFαは、血管形成増殖因子タンパク質である。高品質が要求される試薬、TNFαおよび適切な抗体対の市販の供給源がいくつかある。R&D Systems(Minneapolis、MN)は、MATTRを用いたアッセイに使用することができ、このタンパク質に対するCLを利用したアッセイを販売している。このアッセイは、サンドイッチ酵素免疫測定法である。MATTRを用いると、当分野で既知の手段によって化学発光化合物の複数のコピーで二次抗体が標識される。
【0127】
TNFαの典型的なMATTRアッセイは、チタン酸バリウム/接着剤複合材料が下塗りされた顕微鏡スライドをチップとして使用する。試薬の結合は、必要以上の実験をせずに、試薬供給業者(R&D Systems、Minneapolis、MN;Sigma Chem.Co.、St.Louis、MO)の指示によって実施することができる。抗TNFα抗体(対応セット)、洗浄緩衝剤およびブロッキング緩衝剤は、R&D Systemsによって販売されている。まず、マウス抗ヒト抗体をスポッティングによってチップ上に固定する。ブロッキング後、ヒトTNFα(R&D Systems)を添加し、結合させる。捕捉されたTNFαに、ビオチン化検出抗体(ヤギ抗ヒト)を添加し、それにイソルミノール−ストレプトアビジン(Sigma Product S8532、ストレプトアビジン当たり3.5個のイソルミノール分子)を結合させる。中性過酸化物を添加し、マイクロ波加熱することによって、完全なチップ結合サンドイッチ複合体(抗体−TNFα−抗体−ストレプトアビジン/イソルミノール)がMATTRを用いて検出される。放出光は、オートラジオグラフィーフィルム、光電子増倍管(PMT)または電荷結合素子(CCD)カメラを含めた様々な手段のいずれかによって検出される。
【0128】
MATTRチップを用いた核酸プローブアッセイ:癌細胞遺伝子発現分析
誘電体チップ上でのマイクロ波加速化学発光の別の実際的用途は、癌細胞の核酸検出におけるものである。分子腫瘍学は、診断および予後目的で複数の生物マーカーを使用する方向に次第に向かっている(Sidransky、1997;Abati & Liotta、1996;Marx、2000)。個々の腫瘍がどのように増殖し、治療に対してどのように応答するかを理解することは、細胞分子が相互作用して細胞増殖、転移、および抗腫瘍剤に対する応答に影響を及ぼす仕方を理解することに基づいている。癌は極めて特有な疾患であり、1つの疾患ではなく数百の疾患であるので、単に1個や2個の腫瘍マーカーではなく、多数の腫瘍マーカーを同時に検出できることが将来極めて重要になる。個人化された腫瘍学の分野は2つの特徴、すなわち、1)癌タンパク質の複雑な分子的役割の理解、および2)個々の腫瘍特性を決定する多数の鍵となる分子の検出および測定能力を中心にする。MATTRは、両方の面で重要な役割を果たすことができる。MATTRチップは、研究者が腫瘍経路の地図を描くのに役立ち、癌患者を個別に有効に治療するのに必要な重要な情報を医師に提供することができる。長期的には、潜在的に重要な役割は、癌検診、診断、病期分類、監視および治療モニタリングにおいて、MATTRに基づいて遺伝子発現をプロファイリングすることにある。
【0129】
MATTRは、癌病期分類においてアッセイパネルの検出に適用することができる。癌が診断された後に、治療計画を決定する前に癌の程度または「段階」が決定される。試験を実施して、腫瘍病期分類(腫瘍サイズ/程度)、リンパ節病期分類(リンパ節の関与)および転移病期分類(転移の有無)を決定する。血中および前哨リンパ節における腫瘍細胞に対する分子試験をある程度使用して病期分類を実施する。腫瘍病期分類は、MATTRアレイ試験の極めて注目すべき適用例である。というのは、これによって、医師は、治療戦略、特にアジュバント療法を処方するかどうかについて決定することができるからである。
【0130】
第2の予測される核酸診断上のMATTRチップ適用例は、微小残存病変(MRD)の検出である。治療の判断は、他の方法では検出不可能な低レベルの循環癌細胞を検出することができる多分析物cDNAパネル表示によって極めて容易になるはずである。MATTRを用いると、臨床および病理学的寛解にある一部の患者は、明確な診断上および治療上の意味を有する「分子病」の形跡を示す。分子診断学は、MRDを特定するのに極めて大きな可能性を有する。
【0131】
将来の試験が、様々な癌関連生物マーカーの検出および測定を必要とすることは明らかである。多分析物パネルは、単一分析物試験よりも明らかに利点がある。複数のマーカーを用いると、偽陽性/陰性の確率がかなり低くなる。また、おそらく最も重要なことは、複数の生物マーカーによって、腫瘍特性のより明確な、より完全な像が描かれることである。例えば、薬剤抵抗性または転移可能性の見込みを自信を持って決定することができる。ほとんどの癌においては、これらを判定するのに理想的なパネルはまだ明確ではない。MATTRチップ技術は、臨床試験および基礎研究の強力なツールにもなり得る。汎用性のあるアレイは、重要な分析アレイを開発するのに有用である。
【0132】
MATTR技術は、癌細胞中のmRNAを検出して、いくつかの重要な癌タンパク質のうちどれが産生されているかを決定するために使用することができる。分析は、RT−PCRによって細胞のmRNAから調製されるcDNAに対して実施される。RT−PCRは、特異的細胞のmRNAを増幅する強力で高感度な方法であり(Latchman、1995)、定性分子診断学と定量分子診断学の両方の強力な方法となりつつある(Freeman等、1999)。RT−PCRにおいては、mRNA(全RNAまたはポリアデニル化RNA)が単離される。次いで、RNAは、レトロウイルス酵素である逆転写酵素(「rt」)を用いて相補DNA(cDNA)に逆転写される。逆転写を開始するためには(遺伝子特異的または汎用)プライマーが必要である。ポリメラーゼ連鎖反応法(「PCR」)などのように生成物cDNAは増幅されて検出可能な量のcDNAを生成する。RT−PCRは、癌遺伝子発現を検出するために使用されることが多い確立された方法である(総説としてSeiden & Sklar、1996を参照されたい)。癌遺伝子発現のRT−PCR分析のほとんどすべての公表報告書において、単一タイプのmRNAのみが検出され、検出は、電気泳動、および放射能標識または染色による検出である。
【0133】
現在、個々の遺伝子変異および発現の単一試験が、腫瘍細胞を検出するための腫瘍学において臨床的に使用されている。やがて、膨大なcDNAマイクロアレイが、ゲノム全体のレベルで腫瘍細胞を検出し、特徴づけるために一般的に使用されるはずである(Schena等、1995;Harkin、2000)。短期的には、より小さなパネルの選択的試験が、腫瘍細胞の高感度検出およびキャラクタリゼーションに極めて貴重なものになるはずである。癌遺伝子発現のアレイ試験は、より信頼できる診断を提供するだけでなく、はるかに情報価値のある患者の予後の像も提供する。
【0134】
核酸分析
MATTRに基づく核酸分析は、同じ技術による免疫測定分析と共通点が多い。主要な相違を本明細書で述べる。アッセイは以下のように行われる。
【0135】
(1)特異的捕捉分子をその表面に有するMATTRチップ(図6)を分析物溶液に曝すと、分析物がその表面に結合する。アッセイの一タイプにおいては、捕捉された分析物は、それ自体がCL分子であらかじめ標識されているので検出可能である(Schena等、1995)。標的cDNAは、多数の周知の方法および試薬のいずれかを用いて標識することができる(TriLink BioTechnologies,Inc.San Diego、CA;Glen Research Corp.、Sterling、VA)。標的を複数のCLレポーター基で標識することが好ましい。例えば、DNAは、化学的にビオチン化することができ、ビオチン−DNA分子は、複数のルミノール分子で標識されたストレプトアビジンに結合することができる。あるいは、2次プローブを使用するサンドイッチタイプ形式を使用することができる(Kricka、1999)。この形式では、チップ上に固定された1次プローブが非標識標的分子を捕捉し、非標識標的分子はCL−標識された二次プローブを捕捉する。
【0136】
捕捉分子層はナイロン膜上に置かれる(図6)。ナイロンは、フルサイズのオーバーコートでも、小さな円に打ち抜いたものでもよい。実際のスポッティングプロセスは、標準の1”×3”顕微鏡スライド上にスポットを置くことができる手動マイクロアレイスポッター(Xenopore Corp.)を用いて実施される。手動マイクロアレイ装置は、寸法がわずか5”×5”で重量が3ポンド(1kg)未満の簡単なベンチトップ型装置である。これは、外部電源が不要である。
【0137】
コーティングされていない、または被覆されたガラス顕微鏡スライド、カバーガラス、多孔質膜、ゲルまたはプラスチック。
【0138】
(2)結合が完結した後に、チップをMATTR機器のチップホルダー中に置き、測定する。予想されるように、マイクロ波によって発生する熱は分析物を変性させるが、信号は影響を受けないことに留意されたい。
【0139】
特異的mRNAの分析の説明
腫瘍細胞系における特異的癌遺伝子の発現は、例えば、腫瘍細胞系中のEGFR mRNAを検出するのにRT−PCRを使用したLeitzel等の方法(1998)を改良して検出することができる。EGFRは、乳癌の有名な予後マーカーである。
【0140】
EGFRを発現する適切な細胞系(A431類表皮癌細胞(American Tissue Culture Collection、Manassas、VA)および対照細胞系が培養されている。MATTRチップ上で使用して、EGFR cDNAが検出されたことを示すことができる適切なハイブリッド形成プライマーが、Leitzel等(1998)によって開示されている。全RNAが細胞から単離され、RT−PCRが実施される。cDNAは、確立された手順によって、RT−PCR中にビオチンで標識される。ビオチン化cDNAは、特定のプライマーによってナイロン被覆MATTRチップ上で捕捉される。次いで、ルミノール標識ストレプトアビジンが添加され、捕捉されたビオチンに結合する。少量の過酸化物を添加し、マイクロ波照射すると発光し、フィルムまたは電子的手段によって検出される。
【0141】
別の調製用技術との比較
タンパク質または核酸のマイクロタイタープレートまたはマイクロアレイチップを用いた分析は、特異的タンパク質または核酸によるコーティングを含めて、分析前にプレートまたはチップを調製することがほぼ確実に必要である(Price & Newman、1997;Wild、2000)。指向性マイクロ波加熱は、近くの誘電体に熱を向けてプレートまたはチップの表面を選択的に加温することによって、これらの調製を加速するために使用することができる。
【0142】
プレート表面指向性マイクロ波加熱は、例えば、37℃インキュベーターチャンバ内での従来のバルク加熱と比較して、優れた結果が得られる。この優位性は、バルクインキュベーター内ではプレート全体およびその内容物が均一に加温されるのに対して、表面標的マイクロ波加熱においては、プレート結合表面が優先的に加温されるということと関係がある。したがって、表面結合反応が優先的に加速される。
【0143】
数千の様々なタイプのプレートまたはチップ調製用反応があるが、一般に、それぞれ結合巨大分子(タンパク質または核酸)または小分子リガンドの固定化を必要とする。ペプチド、他の小さな有機分子などの小分子リガンドのアレイ(ライブラリ)は、コンビナトリアルケミストリー方法を用いてin situで合成されることが多い。本発明の巨大分子固定化および小有機分子コンビナトリアルケミストリー技術を既存の技術と以下に比較する。
【0144】
表面マイクロ波加熱が、調製用反応と、同じ場所における後続の分析反応との両方に使用できることは本発明の明確な利点である。以下に述べるのは、調製用マイクロ波反応および分析用マイクロ波反応を連続して使用することができる革新的な方法である。
【0145】
タンパク質および核酸固定化における本発明の利点:
免疫測定法およびDNAプローブアッセイの前に、捕捉分子をマイクロチップまたはマイクロタイタープレート上に固定する。固定化は、ガラスまたはプラスチック表面への捕捉分子の簡単な吸着によることが多い。この手順は、通常、室温で数時間、または37℃で約2時間のインキュベーションを必要とする。暖かいチャンバ(インキュベーター)中で高温加熱が起こる。本発明は、分子を固定化することができる2つの新しい改善された方法を開示する。これらの新しい方法は、単独でまたは一緒に使用することができる。1つの方法は、下にある誘電体のマイクロ波加熱を使用して表面を約37℃で徐々にインキュベートするものである。もう1つの方法は、下にあるセラミック誘電体の圧電特性を使用して超音波振動(超音波処理)を起こし、生体分子を、超音波処理のないときよりも速く固体担体に結合させるものである。これら2つの方法を以下でさらに詳細に述べる。
【0146】
(1)標的マイクロ波加熱を用いた高速固定。タンパク質、核酸などの巨大分子の結合は表面現象である。表面が加温されている場合には、結合は速く起こる。マイクロ波表面標的加温の利点が驚くべきことに発見された。通常行われるバルク液相ではなく結合表面をマイクロ波加熱することによって、熱は表面近くの分子に向けられる。誘電体表面加熱を使用する別の利点は、前例のない捕捉分子結合速度に加えて、同じ誘電体を後で分析目的に使用することができることである。タンパク質またはDNA捕捉分子は、マイクロ波を用いて結合され、次いでマイクロ波を用いて分析物検出における反応(例えば、化学発光)が加速される。(標準手順で述べたように)37℃などの高温でインキュベートすると、表面へのタンパク質の非特異的付着と、固相上の生体特異的(例えば、抗体−抗原)結合の両方が加速されることが見出された。本明細書に記載する指向性マイクロ波表面加熱によって、両方のタイプの結合を加速することができる。
【0147】
(2)超音波処理を起こすセラミック誘電体の圧電効果を用いた高速固定。タンパク質または核酸結合を容易にする第2の方法は、誘電体、特にセラミック誘電体の圧電効果を利用するものである。圧電効果が溶液超音波処理を起こし、それが生体分子−表面結合を加速することがこれまでに判明している(Sizto & Gallup、1996;Wohlstadter等、2002)。本発明は、誘電体が、結合の加速と分析/調製化学反応(例えば、化学発光)の加速の両方で機能することができることを見出した。圧電超音波処理は、ガラスまたはプラスチック表面に対する分子の結合を加速し、生体分子−生体分子(分析物)結合(捕捉)も加速する。
【0148】
固相コンビナトリアルケミストリーにおける本発明の利点:
次第に大きな低分子量化合物ライブラリが、タンパク質または核酸がそれらに結合するかどうかでスクリーニングされ、または試験されている。本発明は、驚くべきことに、(チップまたはプレートまたは他の固体担体上での)合成と後続の分析の両方で使用することができる。まず、指向性マイクロ波加熱は、表面上での化学合成を加速するのに使用され、次いで、表面の分析(例えば、化学発光受容体結合アッセイまたは免疫測定法に使用される。小規模合成と後続の分析の利点は、発生する廃棄物が少なく(環境に対する感受性が高い方法)、小規模でのマイクロ波加熱はエネルギー消費が少ないということである(マイクロ波加熱は一般に「環境に配慮した技術(green technology)」とみなされている)。
【0149】
多数の化学固相ライブラリが合成されている。例えば、タンパク質受容体に結合するリード化合物を探索するためにペプチドライブラリを作製することができる。合成は、本発明者らのロボット工学を用いて、外気中、または空気に敏感な反応では気密プラスチックチャンバに入れて、表面で行うことができる。
【0150】
より小さなライブラリ(2〜1000個の異なる化学物質)は、集中型(focused)ライブラリと呼ばれる。マイクロ波表面誘電加熱を用いて集中型化合物ライブラリを作製することができる。次いで、同じチップ上でマイクロ波加速反応を用いてライブラリを分析して、結合または触媒作用を検出することができる。
【0151】
マイクロ波加速化学反応は、ほぼ20年間文献に掲載されており、コンビナトリアルケミストリーおよび創薬に関わる有機化学者に次第に普及している(Lew等、2002;Wathey等 2002;Kappe、2002)。増大する要求を満たすために、少なくとも3つの会社、すなわち、Personal Chemistry(Uppsala、Sweden)、CEM(Wilson、NC)およびMilestone(Italy)が、溶液相反応用機器およびキットを提供している。市販の製品はすべて照射管中での溶液相合成を必要とする。まだ十分に商用化されていないが、固相、無溶媒マイクロ波化学も科学文献に次第に見られるようになってきている(Wathey等、2002)。マイクロ波化学は、反応時間を1/10以下に短縮することが多く、一方、収率は実質的に増加する(表4)。
【0152】
【表5】
【0153】
オンチップ誘電体指向性マイクロ波コンビナトリアルケミストリー(MATTR)は今までに報告されていない。MATTRにおいては、反応混合物はマイクロ波の直接標的とはならない。誘電体チップが標的であり、近くの反応物への熱伝達によって反応が進められる。蒸発は、必要に応じて、不活性PTFEチップカバーによって最小限に抑えられる。本質において、MATTRによって初めて、マイクロアレイ、コンビナトリアルケミストリーおよびマイクロ波化学の各分野が統合される。
【0154】
今まで、オンチップ合成は、実験で得られる情報によって労力が報われることが少ないので、注目されなかった。1回または2回しか使用されず、次いで、廃棄されるチップを調製するのに従来の(長い)反応時間を必要とした。MATTRによって、合成時間が著しく減少し、合成と分析を1日で実施することができる。さらに、MATTRは、廃棄物をほとんど生成しない、低溶媒体積化学である。ここまで本発明を概説してきたが、本発明は以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるはずである。以下の実施例は、説明のために提供するものであって、特に示さない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0155】
水中懸濁炭素粒子を優先的に対象とするマイクロ波
水中の炭素粒子が、それらが懸濁されている水よりも実質的に速く加熱されるかどうかを試験するために実験を実施した。実験には、従来の台所用マイクロ波オーブン(Panasonic NN−S949、出力1100W、2.45GHz)を使用した。炭素は、この放出周波数では水よりも損失の大きいことが知られている。したがって、炭素(約200mg)の水(約100mL)中懸濁液は、純粋な水よりも速く加熱されるはずである。(木炭練炭(Super G、Landover、MD)を乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉体にした)粉末炭素の非存在下または存在下で水(100mL)を加熱した。マイクロ波加熱1.0分後に、炭素含有水は水単体(74°F(23℃))よりも9°F(5℃)高く(83°F(28℃)加温された。(加熱された炭素はその熱を水に伝達し、それを本発明者が測定した)。実験を繰り返し、類似の結果(炭素存在下で9°F(5℃)の上昇)を得た。これは、誘電加熱によって物質を水中で優先的に加熱することができることを示している。あるいは、2.45GHzにおいて炭素よりもはるかに速く加熱される異なる誘電材料を使用することができ、または水をあまり加熱しない異なる周波数を使用することができ、またはそれら両方を使用することができる。
【実施例2】
【0156】
水和粘土を優先的に対象とするマイクロ波
水和粘土が水よりも実質的に速く加熱されるかどうかを試験するために3通りの実験を実施した。Buffler & Rismanによる報告(1996)によれば、粘土は、特に915MHzにおいて、水よりも速く加熱される。粘土は成形可能であり、ビーズのコア誘電体として、またはカートリッジ中の平面として使用することができる。この仮説を検定するために、2450MHz放射マイクロ波オーブンを使用した。Buffler & Rismanの報告に基づいて、これらの(2450MHz)実験におけるあらゆる明白な結果は、915MHzにおいてはるかに良好な結果が得られることを示している。
【0157】
実験1:実施例1で示したのと同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で湧水約100mLを60秒間加熱した。温度は、25.0℃から92.5℃に上昇した。約200mgの粘土(Great Lakes Clay and Supply Co.、Carpentersville、ILから乾燥粉体として供給されたベントナイト200粘土)を含む同じ体積の水もマイクロ波によって加熱された。温度は25.0℃から94.5℃に上昇した。この実験によれば、粘土は水よりも加熱され、粘土存在下での温度変化は(熱い)粘土粒子からバルク水への(わずかな)熱伝達によるものである。
【0158】
実験2:同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で湧水約200mLを45秒間加熱した。温度は19.0℃から49.0℃に上昇した。同じ電子レンジを用いて、約50mgの粘土(ベントナイト200粘土)を含む同じ体積の水も加熱した。温度は19.0℃から52.0℃に上昇した。この実験によって、粘土が水よりも加熱され、粘土存在下での温度変化は(熱い)粘土粒子からバルク水への(わずかな)熱伝達によるものであることが検証された。
【0159】
実験3:同じ電子レンジを用いて、電子レンジ用プラスチックカップ中で室温の湧水約50mLを30秒間加熱した。温度は68.0℃に上昇した。同じ電子レンジを用いて、同体積の室温の水和ベントナイト200粘土(最低量の液体の水)も加熱した。温度は84.0℃に上昇した。この実験によって、2450MHz(1100W)マイクロ波照射に曝すと粘土は水よりも速く加熱されることが確認された。この実験は、実験1および2における粘土含有水の温度上昇が、実質的により熱い粘土からより冷たい水への(わずかな)熱伝達によるものであることも示している。マイクロ波加熱は、水の存在下で粘土に向けられた。
【実施例3】
【0160】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドに結合する炭素含有分子刷り込みポリマー粒子の調製
人工生体分子がマイクロ波加熱誘電体に熱的に近接した物理形式は多数考えられる。形式の1つは、ビーズまたは粒子である。本明細書に記載する実施形態においては、炭素粒子(誘電体)と分子刷り込みポリマー(人工生体分子)は複合材料粒子を形成する。
【0161】
ポリマーは、プリント(テンプレート)分子の両方を含有する溶液中でモノマーと架橋剤から調製される。懸濁液中には炭素粒子も存在する。重合が起こると、成長する架橋ポリマーは、テンプレート分子と炭素粒子の両方を包み込む。ポリマー/炭素粒子複合材料は小さな断片に粉砕される。この、炭素粒子とポリマー中の刷り込み結合部位とは近接して存在する。
【0162】
この実施例は、このような誘電体/人工生体分子複合材料の調製について詳述する。複合材料は、L−とD−鏡像異性体の混合物からL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドを選択的に加水分解するために使用することができる。
【0163】
D−およびL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドの合成(O’Shannessy等、1989a)。D−およびL−フェニルアラニンアニリドは、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド/1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを縮合剤として用いてN,N−ジメチルホルムアミド中で、対応するBOC−誘導体をアニリンとカップリングさせることによって合成される。トリフルオロ酢酸を用いて脱保護した後、得られた固体を0.1M HC1を用いて可溶化し、ろ過し、トルエンで抽出する。1M NaOHを添加して水相のpHを9に調節し、アニリドの遊離塩基を酢酸エチル中に抽出した。次いで、このアニリドの遊離塩基を1−プロパノール/へキサンから結晶化させる。
【0164】
炭素粒子の調製。小さな炭素粒子は、上記実施例1に記載したとおり木炭から調製することができる。あるいは、活性炭(Darco(登録商標)KB、100メッシュ、Aldrich Chemical Co.、Milwaukee、WI)を使用することができる。どちらの場合においても、炭素を乳鉢と乳棒を用いて粉砕して微粒子を作製する。炭素粒子をクロロホルム中に懸濁させ、10μmのふるいにかける。ふるいを通過するクロロホルムを、炭素粒子がある程度濃縮された懸濁液が得られるまで蒸発させる。この炭素懸濁液を、分子刷り込み重合中の溶媒として使用する。
【0165】
分子刷り込みポリマー/炭素複合材料の調製(O’Shannessy等、1989a;O’Shannessy等、1989b)。上記炭素粒子含有クロロホルムを溶媒として使用する。50mLガラス管に、プリント分子のL−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(PPNA)1.956mmol、官能基モノマーのメタクリル酸(MMA)7.86mmol、架橋剤のエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)39.3mmol、溶媒12mL、および開始剤の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(AIBN)0.57mmolを添加する。この管を密封し、超音波処理によって完全に溶解させる。この混合物を超音波処理によって脱気し、窒素を5分間注入する。混合物を4℃に冷却する。この温度で、懸濁炭素粒子が沈降するのを防止するためにごく緩やかに撹拌しながら、標準の実験室用UV源(366nm)を用いて、混合物に終夜照射する。
【0166】
形成されたポリマー(固体)を小さな豆粒大の断片に粉砕し、次いで、乳鉢と乳棒を用いて粉体にすり潰す。この粉体をクロロホルムに懸濁し、次いで、100μmふるいを通してろ過する。焼結ガラス漏斗を用いて、溶媒交換によってプリント分子を除去する。水酸化アンモニウム(NH4OH)とアセトニトリル(CH3CN)の30:70混合物を使用し、続いてCH3CNのみを使用する。最後に、複合材料粒子を乾燥させる。
【実施例4】
【0167】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドのマイクロ波加水分解;反応物溶液に接触している分子刷り込みポリマー誘電体粒子
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(L−PPNA)を、実施例3に記載した刷り込み複合材料粒子の存在下で加水分解する。粒子(0.2g)をL−PPNA溶液(0.1mM)50mL中に懸濁させる。L−PPNA溶媒は80%CH3CN/20%H2Oである(水は中性pHである)。
【0168】
粒子/基質溶液を1100W/2.450GHzマイクロ波中に置く。粒子表面の反応を加速するのに十分な時間マイクロ波を発生させる。対照として、同じ実験(L−PPNA溶液のマイクロ波加熱)を粒子の非存在下で反復する。
【0169】
p−ニトロアニリン量の分析を、分光光度分析またはHPLC分析(両方のタイプの分析が当業者には知られている)によって実施する。結果は、粒子の存在下ではより多くのp−ニトロアニリンが生成されることを示している。
【0170】
マイクロ波加水分解が、粒子に対するL−PPNAの非特異的結合の結果ではないことを示すために、D−PPNAを用いて実験を繰り返す。その結果、同一条件下では、L−PPNAがD−PPNAよりも加水分解されることがわかる。これらの結果は、加水分解性結合部位が、L−PPNAの場合に鏡像異性特異性を有することを示している。
【0171】
触媒作用による分子刷り込みポリマー(人工酵素)は、すでに記述されているが(LeonhardtおよびMosbach、1987;Bystrom等、1993)、これは、マイクロ波による指向性加熱によって触媒作用が加速される人工酵素の最初の記述である。
【実施例5】
【0172】
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリドのマイクロ波加水分解;空気に接している分子刷り込みポリマー誘電体粒子
L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(L−PPNA)の加水分解を、実施例3に記載の刷り込み複合材料粒子の存在下で実施する。粒子(0.2g)をL−PPNAの溶液(0.1mM)50mLに懸濁させる。L−PPNA溶媒は、80%CH3CN/20%H2O(水は中性pHである)である。
【0173】
L−PPNAが分子刷り込みポリマーと結合平衡に達するのに十分な時間の後に、複合材料粒子を反応物溶液からろ過し、水で簡単に洗浄して過剰の反応物を除去する。
【0174】
ろ過粒子を1100W/2.450GHzマイクロ波オーブン中に置く。マイクロ波を、粒子表面での反応を加速するのに十分な時間発生させる。対照として、同じ実験(マイクロ波加熱L−PPNA溶液)を粒子の非存在下で繰り返す。
【0175】
p−ニトロアニリン量の分析を、分光光度分析またはHPLC分析(両方のタイプの分析が当業者には知られている)によって実施する。結果は、対照(非刷り込み)粒子よりも刷り込み粒子の存在下でより多くのp−ニトロアニリンが生成されることを示している。
【0176】
マイクロ波加水分解が、粒子に対するL−PPNAの非特異的結合の結果ではないことを示すために、D−PPNAを用いて実験を繰り返す。その結果、同一条件下では、L−PPNAがD−PPNAよりも加水分解されることがわかる。これらの結果は、加水分解性結合部位が、L−PPNAの場合に鏡像異性特異性を有することを示している。
【実施例6】
【0177】
ゼオライト被覆粘土誘電体表面の調製
ゼオライトは、原油からガソリンへの転化、ならびに排ガスからCO、NOxおよび炭化水素を除去する自動車用マフラーを含めて、多数の用途において特異的化学反応を触媒するのに使用される多孔質無機固体である(Rouhi、2000)。これらの反応は、ゼオライト内部の狭い空隙内で起こる。あらゆる化学反応と同様に、ゼオライト空間における反応速度は温度とともに増加する。
【0178】
ゼオライトは、誘電マイクロ波反応性材料の表面を含めて、多孔質および非多孔質固体表面に固定することができる(van Bekkum等、1994;Jansen等、1994)。ゼオライトコーティングは、フィルムでも層でもよい。フィルムは、担体上に並列したマイクロ多孔質結晶の連続固相である。層は、担体上に多少無秩序に配向したマイクロ多孔質結晶の(不)連続固相である。ゼオライトコーティングの調製は周知である(Jansen等、1994)。コーティングは、形成されたゼオライトを適用することによって、または表面上でゼオライトを成長させることによって、形成させることができる。
【0179】
この実施例においては、Yゼオライト(Zeolyst International、Valley Forge、PA)を、ベントナイト200粘土の約0.5cm×0.5cmの表面に浸漬コーティング技術によって固定する。(あるいは、炭素などの他の誘電材料を担体として使用することができる。)浸漬コーティングは、表面にゼオライトを塗布する効率的で十分実績のある方法であり、ほとんどの担体表面に使用することができる(van Bekkum等、1994)。Yゼオライトは、溶解重合物質を含むスラリーにされ、溶媒除去後、連続相の層を形成する。通常添加されるバインダーは、硬化すると、表面に強く結合したゼオライト層を形成するのに役立つ。
【実施例7】
【0180】
ゼオライトY被覆粘土誘電体表面での1−ナフチルフェニルアセテートのマイクロ波加速均等開裂
ゼオライトY被覆粘土チップ(実施例6)を50mLビーカーの底に置く。1−ナフチルフェニルアセテート(NP)(10mM)を含有するへキサン(20mL)を添加する(Gu等、1999)。ビーカーをマイクロ波オーブン(Panasonic NN−S949、出力1100W、2.45GHz)中に置き、ゼオライト表面で反応が起きるまでマイクロ波を発生させる。照射後、バルクへキサン溶液を既報のとおりガスクロマトグラフィーで分析する(Gu等、1999)。表面ゼオライトを純粋なへキサン中に抽出し、抽出物をやはりGCで分析する。NPの反応率は、バルクへキサン溶液中よりもゼオライト抽出物中の方が高い(生成物/反応物濃度比が高い)。
【0181】
第2の実験においては、2個のゼオライト被覆粘土チップを、10mM NPのへキサン溶液を含む別々のビーカーに浸漬する。一方のビーカーをマイクロ波照射に曝し、もう一方のビーカーをマイクロ波照射に曝さない。ゼオライト粘土チップをへキサンで抽出し、GCで分析する。マイクロ波照射ゼオライトは、非マイクロ波加熱ゼオライトよりも生成物/反応物比が高い。
【実施例8】
【0182】
誘電分子刷り込みポリマーへの絶縁メソ孔質シリカ層のコーティング
誘電体/人工酵素複合材料をさらに封じ込める必要がある場合もある。多孔質断熱カプセルまたは層は、誘電体からバルク溶媒への熱伝達を低下させる。(冷却容器を用いてバルク溶液を冷却することによって同じ結果が得られることも上で述べた。)
【0183】
いくつかの材料、主にポリマーを絶縁層として使用することができる。このような材料の要件は、少なくとも最低限、反応物を通過させながら、熱伝達を抑えなければならないことである。多孔質層の厚さは、触媒すべき反応、使用する材料のタイプ、および所望の特定の用途を含めて様々な要因に応じて最適化することができる。
【0184】
分子刷り込みポリマーの場合には、1つの技術は、刷り込みポリマー表面を、プリント分子を除いた同じポリマーでコーティングすることである。したがって、各材料の順序は、誘電体/刷り込みポリマー/非刷り込みポリマー/バルク溶液の順である。上で言及したように、ポリマー層を形成することは当分野で既知である。
【0185】
本実施例は、多孔質シリカ層を使用して誘電体/人工酵素複合材料をコーティングし、断熱する方法について述べる。分子刷り込みポリマー層をコーティングした誘電体表面をシリカでコーティングする。刷り込みポリマーをシリカ層でコーティングするために、原液をまず調製する(Makote等、1998)。この溶液は、テトラメトキシシラン(TMOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、エトキシエタノール(EE)、水および0.1M塩酸を含む。TMOSとPTMOSの比は10:1である。溶液のpHは、水酸化カリウムを用いて7まで上げられる。30分後に、この溶液を誘電体/分子刷り込みポリマーにコーティングする。コーティング方法には、スピンコーター(Makote等、1998)、またはスプレー、または浸漬コーティングを使用することができる。得られた被覆表面をデシケーター中で室温で乾燥させる。シリカコートの絶縁特性をさらに向上させるために、コーティングプロセスを複数回繰り返して複数の層を形成させることができる。
【実施例9】
【0186】
マイクロ波加速化学発光のフィルムによる検出
化学発光反応を使用して本発明を試験するためにいくつかの実験を実施した。実験では、顕微鏡スライドを、ルミノール/過酸化物反応がその上で起こり発光する「チップ」として調製した。このチップは、簡単なもの(ガラス)でも誘電体を有していてもよい。使用される誘電体はチタン酸バリウムまたは活性炭である。マイクロ波照射してもしなくても、CL反応からの光を検出するためにフィルムを使用した。
【0187】
実験:
チップ:誘電体チップを標準顕微鏡スライド(1インチ×3インチ(3cm×8cm)×1mm)(VWR Micro Slides)から作製した。2つのタイプのチップを作製した。誘電体スラリーを顕微鏡スライド上に置くことによって1つのタイプを作製した。スポットは、直径が約0.5cmであった。次いで、CL反応を誘電体上で(誘電体に接触して)直接行った。他のタイプのチップは、2個の顕微鏡スライドを何も挟まずに重ねたもの(対照チップ)またはスライド間に接触誘電体フィルムをサンドイッチしたものであった。「サンドイッチチップ」を用いて、誘電体層に接触していない上部ガラススライド上でCL反応を実施した。使用した誘電体は、チタン酸バリウム(Aldrich Chemical Co.、20、810−8)および活性炭(Sigma Chem.Co.C4386)であった。水と混合して高濃度誘電体スラリーを調製した。チタン酸バリウムは高濃度ペーストを形成し、木炭はそれよりも薄い混合物を形成した。
【0188】
化学発光反応:ルミノール(3−アミノフタルヒドラジド一ナトリウム塩、Alfa Aesar 44007)は、アルカリ性pHで過酸化水素と反応する。ルミノール溶液は、約7.9〜10.2の様々なpHで調製された。これらの溶液は、硫酸銅(II)五水和物および緩衝剤(重炭酸ナトリウム)も含んだ。様々な濃度およびpH値を試したが、pH8.0を使用することに最終的に決定し、ルミノールのルミノール濃度は4.4mMであった(過酸化物溶液と1:1で混合されて反応を開始する原液)。pH値がこれよりも高いと反応が速すぎ、1分で半分以上終了してしまうことが明白であった。pHがこれよりも低いと反応ははるかに遅く進行する。これよりも低いルミノール濃度も可能であったが、フィルム上で鮮やかなスポットを得るためには4.4mMが望ましかった。
【0189】
ルミノール溶液を等体積の希過酸化水素と混合してCL反応を開始した。過酸化水素3%を1:20希釈した。これを原液(0.15%)とした。
【0190】
チップ上で、スポットの総容積は、6.0μL(ルミノールおよび過酸化物それぞれ3.0)または3.0μL(それぞれ1.5)であった。
【0191】
データ記録:この技術は、感度を最大にするためにCL光のCCDまたはPMT検出および分析を使用する。あるいは、特に、定量化が重要ではないが、ある信号を定性的に測定する必要がある場合には、フィルムを使用することが好都合である。また、使い捨てが必要である場合には、例えばCCDカメラではなく、フィルムを用いるシステムが注目されることがある。
【0192】
データは、Amersham Hyper ECLフィルムのシート上に記録され、従来の方法によって現像された。すべての場合において、マイクロ波照射下でもそうでなくても、フィルムをCLチップに20秒間暴露した。フィルム現像は従来の手段によった(Kodak D−19現像液)。
【0193】
チップホルダー:チップホルダーを音楽CDケースから作製した。透明メタクリル酸メチル製ケースは断熱体として働き、フィルムが熱くなるのを防止した。これによって、フィルムが反応表面に接触するのも防止された。CDケースは、その中に厚紙を挿入してチップが動くのを防止した。フィルムの縁部をチップ越しにCDボックスの外側にテープで軽く留め、光を通さない段ボール箱内にCDボックスを置いた。次いで、この箱をマイクロ波オーブンに入れた(オーブンの説明については実施例1参照)。
【0194】
実施した実験および結果:すべての場合において、チップを1回使用して廃棄した。マイクロ波加熱を回転トレイ上で実施して不均一な加熱を抑えた。不均一加熱による人為的結果の形跡は認められなかった(複数の実験から、互いに一致する結果が得られた)。
【0195】
1)スポットチップ。スポットチップを用いた初期の研究ではあいまいな結果が得られた。これは、試薬が誘電材料上に直接置かれたためと考えられる。反応物が誘電体層中にいくらか染み込む場合もあり、不均一に広がる場合もあった。このため、炭素誘電体層とチタン酸バリウム誘電体層の両方を用いても実験の成功や失敗を決定することは困難であった。誘電体と結合試薬が直接接触することは本発明の要件ではないことに留意されたい(図2C参照)。
【0196】
2)サンドイッチチップ。いわゆるサンドイッチチップを用いた結果は、スポットチップよりもはるかに良好であった。上述したように、サンドイッチチップは、3層、すなわち、顕微鏡スライド、中間誘電体層、および別の顕微鏡スライドを含む。これらのチップは、上で使用したスポットチップよりも2つの主要な利点がある。1つは、反応が、平坦でない誘電体スポット上ではなくガラス(既知の表面)上で起こることである。第2の利点は、誘電体層が大きく、スライド全体の1×3インチ(3×8cm)の表面を覆うことである。誘電体が大きいということは、チップがより高温になるということである。(サンドイッチチップ表面は、追加の非隣接層を加えることによって高温領域と低温領域に分割できることに留意されたい。)
【0197】
a)一実験においては、ルミノール原液3μLを過酸化物原液3μLと混合した。ガラス(誘電体なし)、チタン酸バリウムおよび活性炭の3個のチップの各々の上には2個のスポットがあった。これらのチップはチップホルダー中に並列して置かれ、フィルムがホルダーにテープで留められた。チップを20秒間マイクロ波加熱し、フィルムを現像した。現像されたフィルムによって、ガラスチップからはいくらか光が放出されたが(2個のスポットを見ることができた)、チタン酸バリウムスポットおよび木炭スポットからはそれよりもはるかに多量の光が放出されたことが判明した。実際、木炭チップは膨大な量の散乱光を放出し、熱(20秒)があまりにも強力で試薬スポットが吹き飛ばされたことが示唆された。マイクロ波加熱後にチップホルダーを開けると、チップはすべて目視では無傷であり、誘電体チップは、触れると、対照チップよりも格段に熱かった。
【0198】
b)第2の実験においては、a)で述べた実験を繰り返した。本質的に同じ結果が得られた。
【0199】
c)第3の実験においては、1回のアッセイにつきルミノールおよび過酸化物の各々1.5μL(上記使用量の半分)を用いて3個のチップに再度スポットを形成した。室温で数分間安定して発光したことが目視によって観察された。このため、チップを最初に室温で評価し(フィルムに20秒間暴露)、次いで、新しいフィルムとともに電子レンジに置き、マイクロ波加熱中にさらに20秒間暴露した。現像後、2つのフィルムを比較した。マイクロ波加熱前にチップ(20秒)に暴露したフィルムでは、3個すべての船(ship)上でCL反応に対応する光スポットが見られた。(すべてかなり弱かったが、チタン酸バリウムチップでは、対照実験において一貫してより暗いスポットが得られ、誘電体の白色が光を上方のフィルムに反射したことが示唆された。)マイクロ波加熱中にスライドに暴露されたフィルムは、まったく異なって見えた。ガラス(誘電体なし)チップは、室温暴露と変わりがなく、スポットは明るかった。しかし、フィルムは、誘電体チップ上で格段に多量の光を捕捉した。チタン酸バリウムチップでは、対照(室温)実験においてより暗いスポットが得られた。先に見られたように、活性炭スポット画像は極めて強く散乱し、極めて多量の光が放出され、温度が極めて高かったことが示唆された。この実験によって、上記同様、マイクロ波加熱が誘電体チップ上のCL反応を加速することが示された。
【0200】
d)c)に記載した実験を繰り返し実質的に同一の結果が得られた。室温スポットは弱いが、(対照スポット以外は)マイクロ波スポットでは、フィルム上で暗い画像が得られた。これらのデータは、マイクロ波標的加速反応の進行が遅いことを明確に示している。
【0201】
e)フィルム上に見られた暗いスポットが実際にCL反応によるものであり、チップ自体の人為的結果ではないことを検証するために実験を行った。4個のチップ、すなわち、対照(2枚のガラス顕微鏡スライド)、チタン酸バリウム、活性炭、および(脱イオン水を用いて粉体から調製された)ベントナイト粘土を含む別の誘電体チップを調製した。CL試薬はチップ上に置かなかった。これら4個のチップをチップホルダー中に置き、X線フィルムを取り付け、ホルダーを20秒間マイクロ波加熱した。現像されたフィルムにはまったく何も写されておらず、フィルム上に見られた暗黒はすべてCL発光に起因していることが示唆された。
【0202】
f)c)およびd)に記載された実験を、2つの変更点を除いて繰り返した。1つの変更点は、より少量の活性炭をチップに使用したことであった。もう1つの変更点は3個の代わりに4個のチップを使用した、すなわち、ベントナイト粘土誘電体チップを追加したことであった。図7に結果を示す。各垂直レーンは、顕微鏡スライドを用いた1個のチップから得られた画像である。フィルム上では、対照レーンに2個のかすかなスポットが見られる。これらは、ガラスのみのチップ上の2個のアッセイスポットから得られるCL放射である。他のチップ、すなわち、チタン酸バリウムスポット、活性炭、およびベントナイト粘土は、より強い発光を示す。これらの物質はすべて、チップ上で化学反応を加速するために使用することができる。
【実施例10】
【0203】
グルコースオキシダーゼによって生成される過酸化水素を用いたMATTR信号増幅
核酸アッセイまたは免疫測定法において信号を増幅する酵素を使用することが有利または必要な場合がある。これは、従来の核酸アッセイおよび免疫測定法(酵素結合免疫吸着検定法またはELISA)によってなされることが多い。酵素によって生成される信号は、比色、蛍光、化学発光などである。手短に述べると、ELISAにおいては、分析物は免疫特異的固相に捕捉される。生体特異的分析物の結合を、信号発生酵素で標識された分析物と競合させることができる(競合アッセイ)。あるいは、信号発生酵素で標識された二次抗体を使用することができる(サンドイッチアッセイ)。両方の場合において、結合した酵素は、基質を生成物に触媒作用によって変換して、信号変化を生じる。信号の増幅は、各酵素(標識)分子が多数の基質(信号)分子を代謝回転することによって起こる。
【0204】
マイクロ波によって誘導されるELISA信号の生成は今まで報告されていない。マイクロ波誘導ELISAにおいては、酵素は、1個または複数の分子の物理化学的諸特性が変化する反応を触媒するが、試料がマイクロ波加熱されるまで信号変化はほとんどまたはまったく生じない。信号変化(化学発光など)は、マイクロ波照射によって起こる。
【0205】
マイクロ波誘導ELISAを試験するために、標識酵素としてアスペルギルスニガー(A.niger)由来のグルコースオキシダーゼ(GOx)(Sigma G−9010)を用いて実験を行った。GOxは、ELISAにおける信号発生酵素として使用されることが多い。これは、グルコースの酸化を触媒して過酸化水素を発生し、過酸化水素は比色または発光反応に関与することができる。この系は、マイクロ波誘導ルミノール−過酸化物化学発光に理想的である。グルコースオキシダーゼはpH5.0〜7.0で最も効率的に機能するが、ルミノール−過酸化物はpH9.0〜11.0でより速く反応する。したがって、酵素反応は、まず、pH7.0で効率的に進行して過酸化物を生成する。この中性pHでは、過酸化物は、マイクロ波を照射されるまでルミノールとほとんど反応しない。照射によって反応物が加熱され、その速度が大きく加速され、すぐに化学発光を起こす。
試薬:(a)グルコースオキシダーゼ(2.0単位/1.5μL)、(b)グルコース(10mM/1.5μL)、(c)0.2g/Lおよび0.4g/Lのルミノール/CuSO4原液それぞれを18μM/1.5μLのルミノール濃度に250mM NaHCO3で希釈した。
誘電体チップ:チタン酸バリウムサンドイッチチップを使用した(2個の顕微鏡スライド間の水性ペースト)。
計測手段/検出:マイクロ波オーブンおよびX線フィルム検出は、実施例9に記載したとおりである。
実験1:グルコースおよびGOx(上記体積)の反応をオンチップで2分間実施した。また、グルコースのみおよびGOxのみの対照スポットをインキュベートした。ルミノールをスポットに添加し、チップを15秒間マイクロ波加熱した。X線フィルム上にスポットは見られなかった。
実験2:反応を15分間行う以外は実験を繰り返した。今回は、GOx/グルコーススポットはフィルム上で暗いスポットとなったが、2個の対照スポットは検出可能な光を放出しなかった。先の対照実験(実施例9)は、類似の条件下ではマイクロ波加熱なしではほとんどまたはまったく発光しなかった。
【0206】
この実験によれば、マイクロ波誘導化学発光信号を酵素によって増幅することができる。生化学物質(GOxおよびグルコース)はこのシステムを用いて検出できることも示された。マイクロ波加熱は反応を加速することができるので、両立しない反応(酸性pHにおいて最適なGOxとアルカリ性pHにおいて最適なルミノール/過酸化物)をこの系で一緒に実施できることも示された。
【実施例11】
【0207】
マイクロタイタープレートのアビジンコーティングを加速するための指向性マイクロ波加熱の使用
誘電体被覆プレートのマイクロ波加熱が、マイクロタイタープレートウェルへのタンパク質の結合を促進することができるかどうか試験するために実験を行った。
【0208】
材料および方法:
プレート:「誘電体プレート」を以下のとおり調製した。Nunc MaxiSorp96ウェル平底マイクロタイタープレート(ストリップウェル形式)の下面に誘電体ペーストを手塗りした。ペーストは、チタン酸バリウム粉体と、ポリ酢酸ビニルを主成分とする接着剤(Elmer’s Glue−All)とを混合して作製した。ペーストを乾燥させてからプレートを使用した。
試薬:ImmunoPureアビジン(Pierce Prod.#21121)、ビオチン標識西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP−ビオチン)(Pierce Prod.#29139)。
マイクロ波オーブン:GEモデル JE635、600W
分光光度計:Tecan SLTプレートリーダー
【0209】
実験および結果:
実験1)アビジンコーティングに対するマイクロ波加熱マイクロタイタープレートの効果を試験した。3タイプ、すなわち、(1)対照−非加熱、塗装プレート、(2)対照−加熱、非塗装プレート、および(3)加熱、塗装プレートのプレート処理を実施した。加熱すべきプレートウェル(プレート処理2および3)を1.0分間マイクロ波加熱して予熱した(解凍サイクル、60W)。コーティング溶液(アビジン(10μg/mL)100μLの炭酸塩緩衝剤溶液、pH8.5)を3タイプのプレートのすべてに添加した。次いで、加熱すべきプレートウェル(2および3)を同じ方法で再度加熱した。プレートを5分間静置し、次いで、PBSで1回リンスした。遮断薬のBSA(0.1mg/mLを250μL)を添加し、プレートを終夜4℃で貯蔵した。次いで、プレートをPBSで4回洗浄した。HRP−ビオチン(100μL、10,000:1希釈)を各ウェルに添加し、プレートを20分間インキュベートした。次いで、プレートをPBS/Tween(0.05%)で4回、PBSのみで1回洗浄した。TMB基質(100μL)を各ウェルに添加し、60秒間インキュベートし、次いで、1M H2SO4(100μL)を添加した。吸光度を450nmで読取った。
【0210】
その結果、平均吸光度は、対照1(非加熱、塗装)が1.243(n=8)、対照2(加熱、非塗装)が0.610(n=8)、および実験ウェル(加熱、塗装)が2.482(n=8)であった。これらのデータによれば、実験塗装プレートは、対照プレートよりもアビジン結合が多かった。結合アビジンが生物活性(ビオチン結合能力)を保持していることも示された。この方法を使用して生物分析用プレートを調製できることも判明した。これらの結果は、すべての場合において高度の結合が見られたので(使用したアビジン量はおそらく過剰であった)、使用試薬の量を最適化するためにある軽微な実験が必要であることを示した。
実験2)第1の実験の結果を最適化し検証するために第2の実験を実施した。アビジンを炭酸塩緩衝剤で濃度5μg/mL(ウェル当たり100μLを使用した、または5μg)に希釈した。実験には以下のウェルセット、すなわち、実験(加熱、塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照1(加熱、非塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照2(非加熱、非塗装、5分間アビジンインキュベーション)、対照3(非加熱、非塗装、30分間アビジンインキュベーション)を使用した。上で特に断らない限り、以下の加熱処理を実施した。すなわち、ウェルを1分間マイクロ波照射し(機器全出力)、次いで、アビジン(100μL)を添加し、次いで、ウェルを20秒間照射し(10秒オン/20秒オフ/10秒オン/20秒オフ)、次いで、室温で5分間(対照3は30分間)インキュベートした。すべてのプレートのウェルをPBSでリンスし、次いで、0.1mg/ml BSAを添加してウェルを終夜4℃でブロックした。実験1)に記載したようにHRP−ビオチンに結合できるかどうかウェルを分析した。
【0211】
実験データおよび2個の対照の結果を図8に示す。対照2は、データが信頼できないと考えられたので示していない(読みは0.539であった)。これらの結果は、実験1)の知見を裏づけるものであり、わずか1回の試行で最適化に大きな前進が見られた。誘電体塗装プレートを使用することによって、マイクロタイタープレートへのアビジン結合が明らかに改善される。
【実施例12】
【0212】
誘電体アレイチップ上でのc−Mycペプチドの合成
マイクロ波加熱は、表面での化合物の合成を加速することによって、誘電体チップまたはマイクロタイタープレートの調製を加速することができる。固相マイクロ波化学は周知の分野である。しかし、本明細書での他と異なる特徴は、分子がその上に構築される足場として固相が使用されることである。本明細書での他と異なる別の特徴は、完成した、化学的に改変された表面が、生体特異的結合現象を含む生体分子分析に使用されることである。
【0213】
固相ペプチド合成の前に2個の誘電体チップを作製する。まず、チタン酸バリウムの水性ペーストを2個の標準ガラス顕微鏡スライドの間にサンドイッチし、その縁部を塞いでチタン酸バリウムを密封する。この「サンドイッチ誘電体チップ」の表面に、それに合わせて切ったセルロースの「スポット」膜(Sigma−Genosys)の切片を(縁部の周囲で)接着する。このセルロース膜は、ペプチド合成用の4個の受容体スポットを有する。2個のスポットはc−mycペプチド用であり、2個は非c−mycペプチド用の対照スポットである。したがって、1個は「マイクロ波」チップと呼ばれ、もう1個は「非マイクロ波」チップと呼ばれる2個の同一のチップを調製する。両方のチップは、c−mycペプチド用の2つ組スポットと、非c−mycペプチド用の2つ組スポットの4個のスポットを含む(図9)。
【0214】
マイクロ波加熱チップ:SPOTsキット(Sigma−Genosys)を使用して、スポット上で2種類のペプチドを合成する。一方のペプチドは、EQKLISEEDL(配列番号:1)であり、これはc−mycタンパク質に由来する(p62c-mycプロト−オンコプロテイン)(Hilpert等、2001)。もう一方の対照ペプチドは同じペプチドであるが、ペプチドの第4の残基においてロイシンがヒスチジンで置換されている(すなわち、EQKHISEEDL(配列番号:2))。Hilpert等によれば、マウス抗体9E10がc−mycペプチドに強く結合するためにはこの位置のロイシンが必須である。合成手順は、反応時間が適宜1/2〜1/20に短縮され、短縮された反応がマイクロ波オーブン中でのマイクロ波照射下で実施される以外は、既報(Hilpert等、2001およびその中で引用されている参考文献、ならびにSigma−Genosys技術書)のとおりである。
【0215】
非マイクロ波加熱チップ:マイクロ波をチップに照射しない以外は、マイクロ波加熱チップの手順を繰り返す(反応時間は文献値よりも短縮されている)。
【0216】
成功の決定:成功したかどうかは、3通りの方法で測定される。第1に、カップリング収率が酸加水分解、溶液相ニンヒドリン染色および可視分光法によって求められる。第2に、ペプチド分析として定量アミノ酸分析を実施する。最後に、合成されたペプチドの免疫測定を以下の実施例13に示すように実施する。
【実施例13】
【0217】
ペプチドライブラリ誘電体チップ上での標識抗体を用いた抗c−mycペプチドのアッセイ
抗体9E10がc−mycペプチドに結合し、置換ペプチドに結合しないかどうかを明らかにするために、実施例12において調製された2個のペプチド改変誘電体チップである「マイクロ波加熱」および「非マイクロ波加熱」を評価する。MATTR技術を使用してチップを評価する。アッセイ手順には、抗c−mycマウスモノクローナル抗体9E10(Research Diagnostics,Inc、Flanders、NJ)が必要である。抗体9E10をスポットとともにインキュベートする。結合させ、洗浄して過剰の抗体を除去した後に、スポットをグルコースオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体(ICN、カタログ#55571)とともにインキュベートする。洗浄して非結合性抗体を除去した後に、結合グルコースオキシダーゼを、過酸化物を生成するグルコースを用いて検出し、次いで、過酸化物をルミノールを用いて中性pHで検出する。信号は、上述したように、マイクロ波加熱によって生成され、X線フィルムによって可視化される。
【0218】
「マイクロ波加熱」チップの結果は、光が、置換ペプチドからではなく、c−mycペプチドの場所から主に放出されていることを示している。これは、マイクロ波合成が成功し、調製されたペプチドを免疫測定法において検出することができることを示している。また、これらの結果は、マイクロ波を使用してチップ上で化学物質ライブラリを構築することができ、ライブラリもマイクロ波発光技術を用いてスクリーニングできることを示している。
【0219】
「非マイクロ波加熱」チップの結果によれば、マイクロ波加熱なしでは、合成手順がマイクロ波加熱ほどには成功しないことが示された。このチップ上のc−mycスポットから放出される光は、「マイクロ波加熱」チップ上よりも少なかった。
【実施例14】
【0220】
マイクロ波感受性誘電体の圧電特性を用いた生体分子の高速結合
マイクロ波と十分結合して熱を発生する誘電材料の中には、偶然、圧電特性を有するものもある。例えば、チタン酸バリウムを含むものなどのセラミックスは、マイクロ波加熱可能であり、かつ圧電特性を有する。これは、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートまたはMATTRマイクロ波発生機器の誘電体成分を使用して、熱を発生して化学反応を引き起こすだけでなく、印加電圧下で振動することができることを意味する。圧電振動(音波処理または超音波処理)を使用して、生体分子の反応、特に結合反応、例えばリガンドとその受容体の結合反応の速度を加速することができることが示された(Sizto & Gallup、米国特許第4,575,485号;Wohlstadter等、米国特許第6,413,783号)。
【0221】
セラミック誘電体含有プレートまたはチップによって、電流は誘電材料を通過することができる。必要以上の実験をせずに、適切な電圧を印加して圧電バジングを起こすことができる。マイクロタイタープレート中またはマイクロアレイチップ上での表面または別のタンパク質へのタンパク質の結合速度は、少なくとも2倍、好ましくは10倍以上加速される(Sizto & Gallup、米国特許第4,575,485号;Wohlstadter等、米国特許第6,413,783号)。続いて、免疫測定アッセイを実施することができる(マイクロ波干渉または火花発生を防止するために必要に応じて誘電体へのリード線は外される)。セラミック誘電体は、マイクロ波加熱の標的となり、加熱によって情報伝達反応(例えば、化学発光)が加速される。
【0222】
参考文献
本明細書において引用された刊行物は次のとおりである。
【0223】
誘電加熱、誘電材料及びマイクロ波化学
【表6】
【表7】
【0224】
分子刷り込み、ゼオライト、及び他の結合分子
【表8】
【表9】
【0225】
マイクロチップ/マイクロアレイ/マイクロタイタープレート及びアレイ
【表10】
【0226】
生体医学における応用
【表11】
【表12】
【0227】
マイクロ波化学/化学的マイクロアレイ
【表13】
【表14】
【0228】
本明細書に記載するすべての出版物および特許は、個々の出版物または特許出願の各々が参照によりその全体を本明細書に援用されるように具体的かつ個々に示されたとおなじ程度に、参照により本明細書に援用される。
【0229】
本発明をその具体的実施形態に関連して記述したが、さらなる改変形態が可能であり、本願は、一般に本発明の原理に従い、本発明が関係する技術分野で公知または慣行となり上に記載した本質的特徴に適用することができる本開示からの逸脱を含めて、本発明のあらゆる変形、使用または手直しを含むものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】指向性マイクロ波化学を示す図である。2つの最も重要な特徴は、(1)マイクロ波を吸収し、(2)に接触または接近している目的誘電体、(2)目的反応物を捕捉する結合表面である。要するに、マイクロ波吸収誘電体によって熱が反応物に向けられる。それによって、マイクロ波照射は、誘電体表面またはその近くで特異反応を引き起こす。
【図2A】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図2B】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図2C】指向性マイクロ波化学用平面材料(例えば、マイクロアレイチップ上またはマイクロタイタープレートのウェル中)を示す図である。最も重要な特徴は、図1の凡例に記載されている。反応が起こる表面は、図2Aに示すように誘電体を含むことができ、または図2Bおよび図2Cに示すように誘電体に隣接することができる。誘電体が反応表面に隣接する場合には、誘電体は、図2Bに示すように、常に付着している成分とすることができ(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレートの一部)、あるいは図2Cに示すように、反応表面(例えば、マイクロアレイチップまたはマイクロタイタープレート)は、マイクロ波反応中に誘電体プラットホーム上に単に置くことができる(例えば、誘電体をマイクロ波放出機器の恒久成分とすることができる)。
【図3】アダマンチリデンアダマンティン1,2−ジオキセタンの半減期と温度を示すグラフである。この図は、ジオキセタン半減期が温度に大きく依存することを示している(ジオキセタンの分解によってCLが惹起される)。横軸スケールは対数であることに注意されたい。
【図4】マイクロ波加速標的トリガー反応(「MATTR」)機器を示す図である。機器の構成成分は、MATTR使い捨てチップ用一体型ホルダーを備えたマイクロ波オーブンである。このチップは、マイクロ波加熱すると発光し、その光はPMT(窓を通して直接的に、または光ファイバーを介して)またはCCDカメラによって捕捉される。マイクロ波発生、カメラ記録および画像解析はすべてPCを用いて実施される。あるいは、光をオートラジオグラフィーフィルムで捕捉することができ、電子画像装置およびコンピュータは不要である。
【図5】MATTRに基づくサンドイッチ免疫測定法TNFα免疫測定法を示す図である。マイクロ波加熱すると、複数のCL標識からの発光によって分析物TNFαが存在することがわかる。
【図6】MATTRに基づく核酸マイクロアレイアッセイを示す図である。マイクロ波加熱すると、複数のCL標識からの発光によって分析物が存在することがわかる。
【図7】マイクロ波加速トリガー化学発光反応(Microwave−Accelerated Triggered Chemiluminescent Reaction)実験を示す図である。この図は、「ブランク」のガラス顕微鏡スライドを用いたチップ(標識対照)と比較して、チタン酸バリウム、活性炭またはベントナイト粘土を含む誘電体チップが、マイクロ波照射下でルミノール/過酸化物の化学発光反応を実質的に加速することを示している。
【図8】マイクロタイタープレートへのMATTRに基づくタンパク質結合の効果を示すグラフである。
【図9】MATTRチップ上で合成されるC−myc由来ペプチドアレイ(2×2)を示す図である。指向性マイクロ波加熱を使用してオンチップ反応が加速される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応物を含む化学反応を加速する方法であって、
(a)誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を前記反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加するステップと、
(c)加熱中の前記複合材料を前記反応物と反応させるステップと、
を含み、
得られる生成物が前記複合材料中に含まれ、それによって前記化学反応が加速される方法。
【請求項2】
前記化学反応の程度または速度を測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記追加の反応物を1つまたは複数の生体特異的相互作用において反応させるステップと、
(f)前記生体特異的相互作用の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(d)1つまたは複数のさらなる反応のために前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された追加の反応物を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(g)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(d)前記反応の程度または速度を測定するステップと、
(e)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(f)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(g)前記加熱された第2の反応物の1個または複数を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(h)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応物が、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が非共有結合性吸着反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応物がアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応が共有結合性共役反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化学反応の1つまたは複数が、化学発光反応、可視色または紫外色の変化をもたらす反応、および蛍光特性の変化を含む反応からなる群から選択される、請求項1、3、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記反応物の1個または複数が酵素反応の生成物である、請求項1、3、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、請求項1、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法によって得られる複合材料を含む複合材料。
【請求項15】
誘電加熱に応答し、反応分子と生体特異的相互作用し得る表面分子を有する固体材料を含む複合材料。
【請求項16】
前記表面分子が、非共有結合性吸着反応によって前記表面に結合または固定されている、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記表面が前記反応分子と共有結合性共役反応し得る、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項18】
前記表面が、マイクロアレイチップ、マクロアレイチップ、試験管、ペトリ皿およびマイクロタイタープレートからなる群から選択される、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項19】
前記固体材料が圧電特性を有する、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項20】
反応物の化学反応を加速する方法であって、
(a)圧電超音波処理および誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を1個または複数の反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を圧電振動させるのに十分な電流を前記複合材料に印加するステップと、
(c)前記反応物を前記複合材料と反応させ、それによって前記化学反応を加速するステップと、
を含む方法。
【請求項21】
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された第2の反応物を反応させ、それによって前記第2の反応を加速するステップと、
(g)前記第2の反応の程度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複合材料がセラミック材料を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項1】
反応物を含む化学反応を加速する方法であって、
(a)誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を前記反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加するステップと、
(c)加熱中の前記複合材料を前記反応物と反応させるステップと、
を含み、
得られる生成物が前記複合材料中に含まれ、それによって前記化学反応が加速される方法。
【請求項2】
前記化学反応の程度または速度を測定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記追加の反応物を1つまたは複数の生体特異的相互作用において反応させるステップと、
(f)前記生体特異的相互作用の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(d)1つまたは複数のさらなる反応のために前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された追加の反応物を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(g)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(d)前記反応の程度または速度を測定するステップと、
(e)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(f)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(g)前記加熱された第2の反応物の1個または複数を反応させ、それによって前記さらなる反応の1つまたは複数を加速するステップと、
(h)前記さらなる反応の1つまたは複数の程度または速度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応物が、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が非共有結合性吸着反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応物がアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応が共有結合性共役反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化学反応の1つまたは複数が、化学発光反応、可視色または紫外色の変化をもたらす反応、および蛍光特性の変化を含む反応からなる群から選択される、請求項1、3、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記反応物の1個または複数が酵素反応の生成物である、請求項1、3、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記印加される電磁場の波長が1cm〜100mである、請求項1、4または5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法によって得られる複合材料を含む複合材料。
【請求項15】
誘電加熱に応答し、反応分子と生体特異的相互作用し得る表面分子を有する固体材料を含む複合材料。
【請求項16】
前記表面分子が、非共有結合性吸着反応によって前記表面に結合または固定されている、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記表面が前記反応分子と共有結合性共役反応し得る、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項18】
前記表面が、マイクロアレイチップ、マクロアレイチップ、試験管、ペトリ皿およびマイクロタイタープレートからなる群から選択される、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項19】
前記固体材料が圧電特性を有する、請求項14または15に記載の複合材料。
【請求項20】
反応物の化学反応を加速する方法であって、
(a)圧電超音波処理および誘電加熱されやすい固体材料を含む複合材料を1個または複数の反応物と接触させるステップと、
(b)前記固体材料を圧電振動させるのに十分な電流を前記複合材料に印加するステップと、
(c)前記反応物を前記複合材料と反応させ、それによって前記化学反応を加速するステップと、
を含む方法。
【請求項21】
(d)前記複合材料を1個または複数の追加の反応物と接触させるステップと、
(e)前記固体材料を誘電加熱するのに十分な電磁場を前記複合材料に印加し、前記加熱固体材料からの熱伝達によって前記追加の反応物を加熱するステップと、
(f)前記加熱された第2の反応物を反応させ、それによって前記第2の反応を加速するステップと、
(g)前記第2の反応の程度を測定するステップと、
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複合材料がセラミック材料を含む、請求項20に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2006−501050(P2006−501050A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−534253(P2004−534253)
【出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2003/023365
【国際公開番号】WO2004/023144
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(503123059)ミラリ バイオサイエンシズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2003/023365
【国際公開番号】WO2004/023144
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(503123059)ミラリ バイオサイエンシズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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