説明

振動エネルギー吸収装置を有する建物

【課題】建物の振動エネルギーをより効果的に吸収できるようにすること、一方の最外側の柱と他方の最外側の柱との間の領域を有効に利用できるようにすること及び振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を効率的に行えるようにすること。
【解決手段】建物は、水平方向に間隔を置かれた複数の柱と、少なくとも一方の最外側の柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記最外側の柱からその外方へ前記水平方向に伸びる複数の第1部材と、互いに隣接する2つの第1部材の間に配置され、上端部が上方の第1部材に取り付けられ、下端部が下方の第1部材に取り付けられた振動エネルギー吸収装置とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギー吸収装置を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高層の建物には、中央部と、該中央部の周囲の周縁部とを有し、前記中央部を取り囲む耐震壁と、前記周縁部に間隔を置いて設けられた複数の柱とを含むものがある(特許文献1参照)。前記耐震壁と各柱との間に、上下方向に間隔を置かれた複数の梁が設けられており、各梁は振動エネルギー吸収装置を介して前記柱に接続されている。前記振動エネルギー吸収装置は、その上端部が前記梁に取り付けられ、その下端部が前記柱に取り付けられている。
【特許文献1】特開平7−26783号公報
【0003】
前記振動エネルギー吸収装置は液圧シリンダーからなる。前記液圧シリンダーは、油を収容する筒状の本体と、該本体の内部にこれと同軸的に配置され、前記本体からその外方へ伸びるロッドと、前記本体の内部にあって前記ロッドに固定されたピストンとを有する。前記本体の内部に、前記ピストンにより隔てられた2つの空間が存在し、該空間は通路を介して連通している。
【0004】
前記耐震壁が地震時に水平力を受けて振動することにより、前記耐震壁が曲げ変形して前記梁が上下方向に変位する。これにより、前記ピストンが前記本体の内部で移動し、前記油が一方の空間から他方の空間へ前記通路を経て流れる。このとき、前記油が粘性抵抗を受けて前記建物の振動エネルギーが消費される。このようにして前記振動エネルギー吸収装置は前記振動エネルギーを吸収する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記振動エネルギー吸収装置による前記振動エネルギーの吸収量は前記梁の上下方向の変位量に応じて決まる。このため、前記梁の前記変位量が小さいと、前記振動エネルギー吸収装置は前記振動エネルギーを効果的に吸収することができない。
【0006】
ところで、前記柱の内方の領域は住居や事務所として利用される。しかし、前記領域に前記振動エネルギー吸収装置が存在し、該振動エネルギー吸収装置により前記領域が狭められている。このため、前記領域を有効に利用することができない。また、前記振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域において行わなければならず、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況によって制限される。このため、前記維持管理作業を効率的に行うことができない。
【0007】
本発明の目的は、前記振動エネルギーをより効果的に吸収できるようにすることである。また、本発明の他の目的は、前記領域を有効に利用できるようにし、かつ前記振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を効率的に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建物が、水平方向に間隔を置かれた複数の柱と、少なくとも一方の最外側の柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記最外側の柱からその外方へ前記水平方向に伸びる複数の水平部材と、互いに隣接する2つの水平部材の間に配置された振動エネルギー吸収装置とを含む。これにより、前記振動エネルギー吸収装置による振動エネルギーの吸収量が前記水平部材の変位量に応じて決まるようにし、前記吸収量が梁の変位量に応じて決まる場合と比べて前記振動エネルギーを効果的に吸収できるようにする。また、一方の最外側の柱と他方の最外側の柱との間の領域が前記振動エネルギー吸収装置により狭められることがないようにし、前記領域を有効に利用できるようにする。また、前記振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域の外において行えるようにし、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況によって制限されることがないようにし、前記維持管理作業を効率的に行えるようにする。
【0009】
本発明に係る建物は、水平方向に間隔を置かれた複数の柱と、少なくとも一方の最外側の柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記最外側の柱からその外方へ前記水平方向に伸びる複数の水平部材と、互いに隣接する2つの水平部材の間に配置され、上端部が上方の水平部材に取り付けられ、下端部が下方の水平部材に取り付けられた振動エネルギー吸収装置とを含む。前記振動エネルギー吸収装置は、少なくとも1つの液圧シリンダーからなるものとすることができる。
【0010】
前記建物が地震又は風による水平力を受けて振動するとき、前記建物が曲げ変形して前記水平部材が上下方向に変位する。前記水平部材が前記最外側の柱からその外方へ伸びるため、前記水平部材の上下方向の変位量は、前記水平部材と前記最外側の柱との境界部分から前記水平部材の先端部に向けて漸増する。このため、前記水平部材の前記変位量は、前記最外側の柱とこれに隣接する他の柱との間に設けられた梁の上下方向の変位量より大きい。互いに隣接する2つの水平部材の間に配置された前記振動エネルギー吸収装置による振動エネルギーの吸収量は前記水平部材の前記変位量に応じて決まる。このため、前記吸収量が前記梁の前記変位量に応じて決まる場合と比べて前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0011】
前記振動エネルギー吸収装置が前記最外側の柱の外方に存在するため、一方の最外側の柱と他方の最外側の柱との間の領域が前記振動エネルギー吸収装置により狭められることはなく、前記領域を有効に利用することができる。また、前記振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域の外において行うことができ、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況により制限されることはなく、前記維持管理作業を効率的に行うことができる。
【0012】
互いに隣接する2つの柱の間に、上下方向に間隔を置かれた複数の第1梁と、互いに隣接する2つの第1梁の間に位置する少なくとも1つの第2梁とが設けられており、各第1梁の断面積及び断面二次モーメントは、それぞれ、前記第2梁の断面積及び断面二次モーメントより大きく、各水平部材は前記第1梁と同じ高さに位置する。
【0013】
前記建物が前記水平力を受けて振動するとき、前記建物は、その上端部が前記水平方向における一方の側へ変位するような曲げ変形と、前記上端部が他方の側へ変位するような曲げ変形とを繰り返す。前記上端部が前記一方の側へ変位したとき、前記一方の側の最外側の柱は圧縮力を受け、前記他方の側の最外側の柱は引張力を受ける。これに対して、前記上端部が前記他方の側へ変位したとき、前記一方の側の最外側の柱は引張力を受け、前記他方の側の最外側の柱は圧縮力を受ける。このように各最外側の柱は圧縮力と引張力とを繰り返し受ける。
【0014】
前記第1梁の断面積及び断面二次モーメントがそれぞれ前記第2梁の断面積及び断面二次モーメントより大きいため、前記建物が前記水平力を受けたとき、前記建物は前記第1梁及び前記第2梁のうち主に前記第1梁により前記水平力を負担し、前記最外側の柱は前記第1梁から前記圧縮力と前記引張力とを受ける。前記水平部材が前記第1梁と同じ高さに位置するため、前記水平部材が前記振動エネルギー吸収装置から受ける抵抗力を前記第1梁に伝えやすく、前記抵抗力により前記圧縮力と前記引張力とを効果的に弱めることができる。これにより前記建物の振動を効果的に低減することができる。
【0015】
本発明に係る、四角形の平面形状を有する中央部と、該中央部の周囲の周縁部とを有する建物は、前記中央部に該中央部の周方向に間隔を置いて設けられた複数の内柱であって前記中央部の隅部に位置する4つの第1内柱を含む複数の内柱と、前記周縁部に間隔を置いて設けられた複数の外柱であってそれぞれが前記第1内柱を横方向に結ぶ直線上に位置する複数の第1外柱とそれぞれが前記第1内柱を縦方向に結ぶ直線上に位置する複数の第2外柱とを含む複数の外柱と、互いに隣接する2つの内柱の間、前記横方向に互いに隣接する前記第1内柱と前記第1外柱との間、前記縦方向に互いに隣接する前記第1内柱と前記第2外柱との間及び互いに隣接する2つの外柱の間のそれぞれに上下方向に間隔を置いて設けられた複数の梁と、各第1外柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記第1外柱からその外方へ前記横方向に伸びる複数の第1水平部材と、各第2外柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記第2外柱からその外方へ前記縦方向に伸びる複数の第2水平部材と、互いに隣接する2つの第1水平部材の間に配置され、上端部が上方の第1水平部材に取り付けられ、下端部が下方の第1水平部材に取り付けられた第1振動エネルギー吸収装置と、互いに隣接する2つの第2水平部材の間に配置され、上端部が上方の第2水平部材に取り付けられ、下端部が下方の第2水平部材に取り付けられた第2振動エネルギー吸収装置とを含む。
【0016】
前記建物は、地震又は風により、前記横方向の水平力に加え、前記縦方向の水平力を受ける。前記第1振動エネルギー吸収装置は、前記横方向の水平力により生じる前記建物の振動を低減し、前記第2振動エネルギー吸収装置は、前記縦方向の水平力により生じる前記建物の振動を低減する。
【0017】
前記第1振動エネルギー吸収装置が、前記横方向に間隔を置かれた前記第1内柱及び前記第1外柱のうち最も外側に位置する前記第1外柱の外方に存在するため、一方の第1外柱と他方の第1外柱との間の空間が前記第1振動エネルギー吸収装置により狭められることはない。また、前記第2振動エネルギー吸収装置が、前記縦方向に間隔を置かれた前記第1内柱及び第2外柱のうち最も外側に位置する前記第2外柱の外方に存在するため、一方の第2外柱と他方の第2外柱との間の空間が前記第2振動エネルギー吸収装置により狭められることはない。このため、前記外柱の内方の領域を有効に利用することができる。また、前記第1振動エネルギー吸収装置及び前記第2振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域の外において行うことができ、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況によって制限されることはなく、前記維持管理作業を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、建物が、水平方向に間隔を置かれた複数の柱と、少なくとも一方の最外側の柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記最外側の柱からその外方へ前記水平方向に伸びる複数の水平部材と、互いに隣接する2つの水平部材の間に配置された振動エネルギー吸収装置とを含むため、該振動エネルギー吸収装置による振動エネルギーの吸収量は前記建物の振動時における前記水平部材の上下方向の変位量に応じて決まる。前記水平部材が前記最外側の柱からその外方へ伸びているため、前記水平部材の前記変位量は、前記最外側の柱とこれに隣接する他の柱との間に設けられた梁の上下方向の変位量より大きい。このため、前記吸収量が前記梁の前記変位量に応じて決まる場合と比べて前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0019】
前記振動エネルギー吸収装置が前記最外側の柱の外方に存在するため、一方の最外側の柱と他方の最外側の柱との間の領域が前記振動エネルギー吸収装置により狭められることはなく、前記領域を有効に利用することができる。また、前記振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域の外において行うことができ、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況により制限されることはなく、前記維持管理作業を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に示すように、高層の建物10が基礎12の上に構築されている。建物10は、基礎12の上に水平方向に間隔を置いて設けられた複数の柱14を含む。柱14のうち最も外側に位置する柱14aに、上下方向に間隔を置かれた複数の水平部材16が設けられており、各水平部材16は最外側の柱14aからその外方(最外側の柱14aに隣接する柱14に向けての方向と反対の方向)へ前記水平方向に伸びている。互いに隣接する2つの水平部材16の間に振動エネルギー吸収装置18が配置されている。
【0021】
互いに隣接する2つの柱14の間に、上下方向に間隔を置かれた複数の第1梁20aと、互いに隣接する2つの第1梁20aの間に位置する少なくとも1つの第2梁20bとが設けられている。各第1梁20aの断面積及び断面二次モーメントは、それぞれ、第2梁20bの断面積及び断面二次モーメントより大きい。各水平部材16は第1梁20aと同じ高さに位置する。
【0022】
互いに隣接する2つの水平部材16のうち下方の水平部材に、該水平部材から上方へ伸びる垂直部材22が設けられている。振動エネルギー吸収装置18の上端部は上方の水平部材16に取り付けられ、振動エネルギー吸収装置18の下端部は垂直部材22を介して下方の水平部材16に取り付けられている。柱14、第1梁20a、第2梁20b、水平部材16及び垂直部材22のそれぞれは、鉄筋コンクリートからなるが、これに代え、鉄筋鉄骨コンクリートからなるものでもよいし、鉄骨からなるものでもよい。
【0023】
各柱14は免震装置24により基礎12の上に支持されている。免震装置24は、例えば、交互に重ねられた鋼板及びゴムを有する積層ゴムからなる。免震装置24は、地震時に基礎12から建物10へ伝わる振動を低減する。
【0024】
図2に示すように、振動エネルギー吸収装置18は液圧シリンダーからなる。前記液圧シリンダーは、油を収容する筒状の本体26と、該本体の内部にこれと同軸的に配置され、本体26からその外方へ伸びるロッド28と、本体26の内部にあってロッド28に固定されたピストン(図示せず)とを有する。本体26の内部に、前記ピストンにより隔てられた2つの空間(図示せず)が存在し、該空間は通路(図示せず)を介して連通している。本体26は垂直部材22に取り付けられており、ロッド28は上方の水平部材16に取り付けられている。これに代え、本体26が上方の水平部材16に取り付けられ、ロッド28が垂直部材22に取り付けられていてもよい。
【0025】
ところで、建物10は地震又は風による水平力を受けて振動する。このとき、建物10は、その上端部が前記水平方向における一方の側(図1における左側)へ変位するような曲げ変形と、前記上端部が他方の側(図1における右側)へ変位するような曲げ変形とを繰り返す。前記上端部が前記一方の側へ変位したとき、前記一方の側の最外側の柱14a(図1において最も左側に位置する柱14a)は圧縮力を受け、前記他方の側の最外側の柱14a(図1において最も右側に位置する柱14a)は引張力を受ける。これに対して、前記上端部が前記他方の側へ変位したとき、前記一方の側の最外側の柱14aは引張力を受け、前記他方の側の最外側の柱14aは圧縮力を受ける。このように各最外側の柱14aは圧縮力と引張力とを繰り返し受ける。
【0026】
前記一方の側の最外側の柱14aが圧縮力を受けたとき(図3に、圧縮力を受ける前の最外側の柱14aを破線で示し、圧縮力を受けた後の最外側の柱14aを実線で示す。)、前記一方の側の最外側の柱14aに設けられた水平部材16のうちの互いに隣接する2つの水平部材16の間の間隔は、最外側の柱14aが圧縮力を受ける前における前記間隔と比べて短くなる。これに対して、前記一方の側の最外側の柱14aが引張力を受けたとき(図4に、引張力を受ける前の最外側の柱14aを破線で示し、引張力を受けた後の最外側の柱14aを実線で示す。)、互いに隣接する2つの水平部材16の間の間隔は、最外側の柱14aが引張力を受ける前における前記間隔と比べて長くなる。
【0027】
互いに隣接する2つの水平部材16の間の間隔が変化することにより、前記液圧シリンダーが伸縮する。すなわち、前記液圧シリンダーは、最外側の柱14aが圧縮力を受けて前記間隔が短くなったときに縮み、最外側の柱14aが引張力を受けて前記間隔が長くなったときに伸びる。前記液圧シリンダーが伸縮することにより、本体26の内部で前記ピストンが移動して前記油が前記通路を経て一方の空間から他方の空間へ流れる。このとき、前記油が粘性抵抗を受けて建物10の振動エネルギーが消費される。このように前記液圧シリンダーは、前記振動エネルギーを吸収し、建物10の振動を低減する。
【0028】
水平部材16が最外側の柱14aの外方に存在するため、互いに隣接する2つの水平部材16の間の間隔の変化量は、上下方向に互いに隣接する2つの第1梁20aの間の間隔の変化量と比べて大きい。このため、前記液圧シリンダーの伸縮量は比較的大きく、前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0029】
前記一方の側の最外側の柱14aと前記他方の側の最外側の柱14aとの間の領域は住居や事務所として利用される。振動エネルギー吸収装置18が、互いに隣接する2つの水平部材16の間に配置されている、すなわち前記領域の外側に存在するため、前記領域が振動エネルギー吸収装置18により狭められることはなく、前記領域を有効に利用することができる。
【0030】
振動エネルギー吸収装置18が前記領域の外側に存在するため、振動エネルギー吸収装置18の維持管理作業を前記領域の外において行うことができる。このため、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況によって制限されることはなく、前記維持管理作業を効率的に行うことができる。なお、最外側の柱14aと垂直部材22との間の領域はベランダ、廊下等として利用することができる。
【0031】
各最外側の柱14aに、図1に示した例では、3以上の水平部材16が設けられており、各最外側の柱14aの外方に複数の振動エネルギー吸収装置18が存在する。これに代え、各最外側の柱14aに2つの水平部材16が設けられ、各最外側の柱14aの外方に1つの振動エネルギー吸収装置18が存在していてもよい。各最外側の柱14aの外方に複数の振動エネルギー吸収装置18が存在する場合、各最外側の柱14aの外方に1つの振動エネルギー吸収装置18が存在する場合と比べて、1つの振動エネルギー吸収装置18に吸収させる振動エネルギー量を小さくすることができ、振動エネルギー吸収装置18を小型化することができる。
【0032】
振動エネルギー吸収装置18は、図1に示した例では、建物10の上端部だけでなく、建物10の中間部にも存在する。ところで、建物10は様々な振動モードで振動する。建物10が1次の振動モードで振動する場合、図3、4に示したように、建物10の上端部が前記水平方向に変位するが、建物10が2次以上の振動モードで振動する場合、建物10の上端部は前記水平方向に変位せず、建物10の中間部のみが前記水平方向に変位する。このため、仮に、振動エネルギー吸収装置18が建物10の上端部のみに存在し、建物10の中間部に存在しない場合、建物10が1次の振動モードで振動する場合には建物10の振動を効果的に低減することができるが、建物10が2次以上の振動モードで振動する場合には建物10の振動を効果的に低減することができない。これに対して、振動エネルギー吸収装置18が、建物10の上端部だけでなく、建物10の中間部にも存在する場合、建物10が1次の振動モードで振動する場合に加えて、建物10が2次以上の振動モードで振動する場合にも、建物10の振動を効果的に低減することができる。なお、振動エネルギー吸収装置18の位置は建物10の振動モードに応じて変更することができる。
【0033】
第1梁20aの断面積及び断面二次モーメントがそれぞれ第2梁20bの断面積及び断面二次モーメントより大きいため、建物10が前記水平力を受けたとき、建物10は第1梁20a及び第2梁20bのうち主に第1梁20aにより前記水平力を負担し、最外側の柱14aは第1梁20aから前記圧縮力と前記引張力とを受ける。水平部材16が第1梁20aと同じ高さに位置するため、前記液圧シリンダーが前記振動エネルギーを吸収するときに水平部材16が前記液圧シリンダーから受ける抵抗力を第1梁20aに伝えやすく、前記抵抗力により前記圧縮力と前記引張力とを効果的に弱めることができる。これにより建物10の振動を効果的に低減することができる。
【0034】
第1梁20aの断面積及び断面二次モーメントがそれぞれ第2梁20bの断面積及び断面二次モーメントより大きい図1に示した例に代え、第1梁20aの断面積及び断面二次モーメントがそれぞれ第2梁20bの断面積及び断面二次モーメントと等しくてもよい。各水平部材16は、第1梁20aと同じ高さに位置する図1に示した例に代え、第1梁20a及び第2梁20bのそれぞれと同じ高さに位置していてもよい。
【0035】
振動エネルギー吸収装置18の前記下端部が垂直部材22を介して下方の水平部材16に取り付けられている図1に示した例に代え、下方の水平部材16に垂直部材22が設けられておらず、振動エネルギー吸収装置18の前記下端部が垂直部材22を介さずに下方の水平部材16に直接取り付けられていてもよい。また、振動エネルギー吸収装置18の前記上端部が上方の水平部材16に直接取り付けられている図1に示した例に代え、上方の水平部材16に、該水平部材から下方へ伸びる他の垂直部材(図示せず)が設けられており、振動エネルギー吸収装置18の前記上端部が前記他の垂直部材を介して上方の水平部材16に取り付けられていてもよい。この場合において、振動エネルギー吸収装置18の前記下端部は、垂直部材22を介して下方の水平部材16に取り付けられてもよいし、垂直部材22を介さずに下方の水平部材16に直接取り付けられていてもよい。
【0036】
水平部材16は、図1に示した例では、前記一方の側の最外側の柱14a及び前記他方の側の最外側の柱14aの双方に設けられているが、これに代え、前記一方の側の最外側の柱14a及び前記他方の側の最外側の柱14aのいずれか一方に設けられていてもよい。振動エネルギー吸収装置18は、前記液圧シリンダーのようなオイルダンパーからなる上記の例に代え、気圧シリンダーのようなエアダンパーからなるものでもよく、粘弾性ダンパーや弾塑性ダンパーのような他のダンパーからなるものでもよい。
【0037】
図5に示す例では、建物10は、中央部30と、該中央部の周囲の周縁部32とを有し、中央部30に該中央部の周方向に間隔を置いて設けられた複数の内柱34、36と、周縁部32に間隔を置いて設けられた複数の外柱38、40、42とを有する。中央部30は四角形の平面形状を有し、内柱34、36は、中央部30の隅部に位置する4つの第1内柱34と、互いに隣接する2つの第1内柱34の間に位置する少なくとも1つの第2内柱36とを含む。建物10は、内柱34、36に代え、中央部30を取り囲む耐震壁(図示せず)を有するものでもよい。
【0038】
周縁部32は、中央部30とほぼ等しい平面形状を有する。外柱38、40、42は、それぞれが第1内柱34を横方向(図5における左右方向)に結ぶ直線上に位置する複数の第1外柱38と、それぞれが第1内柱34を縦方向(図5における上下方向)に結ぶ直線上に位置する複数の第2外柱40と、互いに隣接する2つの第1外柱38の間、互いに隣接する2つの第2外柱40の間及び互いに隣接する第1外柱38と第2外柱40との間のそれぞれに位置する複数の第3外柱42とを含む。互いに隣接する2つの内柱34、36の間、前記横方向に互いに隣接する第1内柱34と第1外柱38との間、前記縦方向に互いに隣接する第1内柱34と第2外柱40との間及び互いに隣接する2つの外柱38、40、42の間のそれぞれに、上下方向に間隔を置かれた複数の梁44が設けられている。
【0039】
各第1外柱38に、上下方向に間隔を置かれた複数の第1水平部材16が設けられており、各第1水平部材16は第1外柱38からその外方へ前記横方向に伸びている。図6に示すように、互いに隣接する2つの第1水平部材16の間に第1振動エネルギー吸収装置18が配置されている。第1振動エネルギー吸収装置18の上端部は上方の第1水平部材16に取り付けられている。互いに隣接する2つの第1水平部材16のうち下方の第1水平部材に、該第1水平部材から上方へ伸びる第1垂直部材22が設けられており、第1振動エネルギー吸収装置18の下端部は第1垂直部材22を介して下方の第1水平部材16に取り付けられている。第1振動エネルギー吸収装置18は、図7に示す例では、1つの液圧シリンダーからなる図1に示した例に代え、互いに平行な複数の液圧シリンダー48からなる。各液圧シリンダー48は、その上端部が上方の第1水平部材16に取り付けられ、その下端部が第1垂直部材22に取り付けられている。
【0040】
各第2外柱40に、上下方向に間隔を置かれた複数の第2水平部材50が設けられており(図5)、各第2水平部材50は第2外柱40からその外方へ前記縦方向に伸びている。互いに隣接する2つの第2水平部材50の間に第2振動エネルギー吸収装置(図示せず)が配置されている。前記第2振動エネルギー吸収装置の上端部は上方の第2水平部材50に取り付けられており、互いに隣接する2つの第2水平部材50のうち下方の第2水平部材に、該第2水平部材から上方へ伸びる第2垂直部材52が設けられており、前記第2振動エネルギー吸収装置の下端部は第2垂直部材52を介して下方の第2水平部材50に取り付けられている。
【0041】
建物10は、地震又は風により、前記横方向の水平力に加え、前記縦方向の水平力を受ける。第1振動エネルギー吸収装置18は、前記横方向の水平力により生じる建物10の振動を低減し、前記第2振動エネルギー吸収装置は、前記縦方向の水平力により生じる建物10の振動を低減する。
【0042】
第1振動エネルギー吸収装置18が、前記横方向に間隔を置かれた第1内柱34及び第1外柱38のうち最も外側に位置する第1外柱38の外方に存在するため、一方の第1外柱38と他方の第1外柱38との間の空間が第1振動エネルギー吸収装置18により狭められることはない。また、前記第2振動エネルギー吸収装置が、前記縦方向に間隔を置かれた第1内柱34及び第2外柱40のうち最も外側に位置する第2外柱40の外方に存在するため、一方の第2外柱40と他方の第2外柱40との間の空間が前記第2振動エネルギー吸収装置により狭められることはない。このため、外柱38、40、42の内方の領域を有効に利用することができる。また、第1振動エネルギー吸収装置18及び前記第2振動エネルギー吸収装置の維持管理作業を前記領域の外において行うことができ、前記維持管理作業を行う時間や方法が前記領域の利用状況によって制限されることはなく、前記維持管理作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施例に係る建物の正面図。
【図2】図1の線2における振動エネルギー吸収装置の拡大図。
【図3】建物が振動してその上端部が水平方向における一方の側へ変位したときの振動エネルギー吸収装置の拡大図。
【図4】建物が振動してその上端部が水平方向における他方の側へ変位したときの振動エネルギー吸収装置の拡大図。
【図5】本発明の第2実施例に係る建物の水平断面図。
【図6】図5の線6における建物の縦断面図。
【図7】図6の線7における振動エネルギー吸収装置の正面図。
【符号の説明】
【0044】
10 建物
14 柱
14a 最外側の柱
16 水平部材(第1水平部材)
18 振動エネルギー吸収装置(第1振動エネルギー吸収装置)
20a 第1梁
20b 第2梁
30 中央部
32 周縁部
34 第1内柱
38 第1外柱
40 第2外柱
44 梁
50 第2水平部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に間隔を置かれた複数の柱と、
少なくとも一方の最外側の柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記最外側の柱からその外方へ前記水平方向に伸びる複数の水平部材と、
互いに隣接する2つの水平部材の間に配置され、上端部が上方の水平部材に取り付けられ、下端部が下方の水平部材に取り付けられた振動エネルギー吸収装置とを含む、建物。
【請求項2】
互いに隣接する2つの柱の間に、上下方向に間隔を置かれた複数の第1梁と、互いに隣接する2つの第1梁の間に位置する少なくとも1つの第2梁とが設けられており、各第1梁の断面積及び断面二次モーメントは、それぞれ、前記第2梁の断面積及び断面二次モーメントより大きく、各水平部材は前記第1梁と同じ高さに位置する、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記振動エネルギー吸収装置は少なくとも1つの液圧シリンダーからなる、請求項1に記載の建物。
【請求項4】
四角形の平面形状を有する中央部と、該中央部の周囲の周縁部とを有する建物であって、
前記中央部に該中央部の周方向に間隔を置いて設けられた複数の内柱であって前記中央部の隅部に位置する4つの第1内柱を含む複数の内柱と、
前記周縁部に間隔を置いて設けられた複数の外柱であってそれぞれが前記第1内柱を横方向に結ぶ直線上に位置する複数の第1外柱とそれぞれが前記第1内柱を縦方向に結ぶ直線上に位置する複数の第2外柱とを含む複数の外柱と、
互いに隣接する2つの内柱の間、前記横方向に互いに隣接する前記第1内柱と前記第1外柱との間、前記縦方向に互いに隣接する前記第1内柱と前記第2外柱との間及び互いに隣接する2つの外柱の間のそれぞれに上下方向に間隔を置いて設けられた複数の梁と、
各第1外柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記第1外柱からその外方へ前記横方向に伸びる複数の第1水平部材と、各第2外柱に上下方向に間隔を置いて設けられ、それぞれが前記第2外柱からその外方へ前記縦方向に伸びる複数の第2水平部材と、
互いに隣接する2つの第1水平部材の間に配置され、上端部が上方の第1水平部材に取り付けられ、下端部が下方の第1水平部材に取り付けられた第1振動エネルギー吸収装置と、互いに隣接する2つの第2水平部材の間に配置され、上端部が上方の第2水平部材に取り付けられ、下端部が下方の第2水平部材に取り付けられた第2振動エネルギー吸収装置とを含む、建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−116692(P2010−116692A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289473(P2008−289473)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】