説明

振動ジャイロ

【課題】 駆動モードでの振動だけでは検出電極に電荷が発生しないような振動ジャイロ用素子を提供し、SN比が高く、2軸の角速度の検出が可能で、安価な振動ジャイロを提供すること。
【解決手段】 平面的に形成された付加質量部4a、4b、4c、4dを、それぞれ、同じ平面内に形成された第1のビーム3a、3b、3c、3dで支え、隣り合う第1のビーム3a、3dの接続部を一方の第2のビーム3eの一端で支え、別の隣り合う第1のビーム3b、3cの接続部を他方の第2のビーム3fの一端で支え、さらに、リング状の第4のビーム3gの直交する接続端の対向する接続端に第2のビーム3e、ビーム3fの他端を接続した振動子1を、第4のビームの別の対向する接続端にそれぞれ接続した第3のビーム3h、3iを介して外周部の枠体2で支持し、励振部および検出部として機能させた振動ジャイロ用素子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度センサとして使用される振動ジャイロに関し、特に自動車のナビゲーションシステムや姿勢制御装置、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラおよび携帯電話の手振れ防止装置等に用いられるジャイロスコープに好適な振動ジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動ジャイロとは、速度を持つ物体に回転角速度が与えられると、その物体自身に速度方向と直角な方向にコリオリ力が発生するという力学現象を利用した角速度センサである。振動ジャイロは電気的な信号を印加することで機械的な振動(以下、駆動モードと呼ぶ)を励起することができ、且つ、駆動モードの振動と直交する方向の機械的な振動(以下、検出モードと呼ぶ)の大きさを電気的に検出可能とした系を有し、予め、駆動モードを励振した状態で、駆動モードの振動面と検出モードの振動面との交線と平行な軸を中心とした回転角速度を与えると、前述のコリオリ力の作用により、検出モードが発生し、出力電圧として検出できる。この検出された出力電圧は駆動モードの大きさおよび回転角速度に比例するので、駆動モードの大きさを一定にした状態では、出力電圧の大きさから回転角速度の大きさを求めることができる。
【0003】
近年、振動ジャイロにおいても、その他の電子部品と同様に小型化、低価格化が急速に進められている。また、例えば、手振れ防止装置等では、一般に2軸の回転角速度の検出が必要であるため、1軸の回転角速度を検出できる製品を2つ使用している場合が一般的である。このような状況の中で、振動ジャイロの小型化、低価格化へのアプローチの1つとして、2軸の回転角速度の検出を1つの製品内で可能にする検討がなされている。このような構成の場合、1軸の製品を別々に生産するのに比べ、回路や外部入出力端子等の共通部分を共有することが可能となり、小型・低価格化を図ることができる。
【0004】
従来の振動ジャイロとして、略四角の平板に貫通穴加工を施し、振動可能な付加質量部をビームで支える構造を形成することで励振部および検出部として機能させ、支持をその外縁部で行う振動ジャイロ用素子を用いた振動ジャイロが特許文献1に開示されている。図6は、特許文献1に開示されている従来の振動ジャイロ用素子の振動モードを示す図である。図6において、図6(a)、図6(b)、図6(c)は、振動子が振動していないときのそれぞれ斜視図、正面図、側面図で、同様に図6(d)、図6(e)、図6(f)は駆動モード(Xモード)で素子を振動させた図、図6(g)、図6(h)、図6(i)は第2の検出モード(Yモード)で素子を振動させた図、図6(j)、図6(k)図6、(l)は第1の検出モード(Zモード)で素子を振動させた図である。ここでは、振動による変位の大きさを実際よりも誇張して示している。
【0005】
図7は、電極パターンが形成された上記の従来の振動ジャイロ用素子の上面図である。図7に示すように、4つの付加質量部24a、24b、24c、24dと、4つの柱状の第1のビーム23a、23b、23c、23dと、2つの柱状の第2のビーム23e、23fとが平板状に同一平面内に形成されてなり、付加質量部24a、24b、24c、24dは時計回りに配置され、第1のビーム23a、23b、23c、23dの一端が、付加質量部24a、24b、24c、24dにそれぞれ接続され、隣り合う第1のビーム23a、23dの付加質量部に接続されない他端同士および別の隣り合う第1のビーム23b、23cの付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、第2のビーム23e、23fの一端が、それぞれ隣り合う第1のビーム23a、23dの接続部および別の隣り合う第1のビーム23b、23cの接続部に接続され、第1のビーム23a、23b、23c、23dに接続されない第2のビーム23e、23fの他端同士を接続した構造を有する振動子21を用いる振動ジャイロであり、時計回りに、最初の第1のビーム23aの表面に検出電極26a、基準電位電極27c、27dを、次の第1のビーム23bの表面に検出電極26b、基準電位電極27f、27gを、さらに次の第1のビーム23cの表面に検出電極26c、基準電位電極27f、27hを、最後の第1のビーム23dの表面に検出電極26d、基準電位電極27c、27eを、第2のビーム23eの表面には駆動電極25a、基準電位電極27aを、別の第2のビーム23fの表面には駆動電極25b、基準電位電極27bを形成している。
【0006】
【特許文献1】特開2008−145325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来の振動ジャイロ用素子では、駆動信号に含まれる変調成分やノイズ成分が直接検出されてしまうという問題がある。すなわち、図7の検出電極26a〜26dには素子が検出モードで振動したときに第1のビーム23a〜23dが歪むことにより電荷が発生し、それが検出回路で検出されるが、この検出電極26a〜26dには素子が駆動モードで振動しただけでも電荷が発生してしまう。そこで、実際にはこの駆動モードで発生する電荷がキャンセルされるように電極の引き回し設計がなされているが、加工寸法のずれなどの製作上の誤差要因でキャンセルできない成分がノイズとして出力にあらわれてしまう。
【0008】
したがって、本発明は、上記の従来技術の問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の課題は、駆動モードでの振動だけでは検出電極に電荷が発生しないような振動ジャイロ用素子を提供し、この素子を用いた、SN比が高く、2軸の角速度の検出が可能で、安価な振動ジャイロを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による振動ジャイロは、4つの付加質量部(4a、4b、4c、4d)と、4つの柱状の第1のビーム(3a、3b、3c、3d)と、2つの柱状の第2のビーム(3e、3f)と、2つの柱状の第3のビーム(3h、3i)と、直交する4つの接続端を有するリング状の第4のビーム(3g)とが平板状に同一平面内に形成されてなり、前記4つの付加質量部(4a、4b、4c、4d)は時計回りに配置され、前記第1のビーム(3a、3b、3c、3d)の一端が、前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)にそれぞれ接続され、隣り合う前記第1のビーム(3a、3d)の前記付加質量部に接続されない他端同士が接続され、該接続部に前記第2のビーム(3e)の一端が接続され、他端が前記第4のビーム(3g)の第1の接続端に接続され、別の隣り合う前記第1のビーム(3b、3c)の前記付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、該接続部に別の前記第1のビーム(3e、3f)の一端が接続され、他端が前記第4のビーム(3g)の前記第1の接続端の反対側の第3の接続端に接続され、前記第4のビーム(3g)の前記第1の接続端と第3の接続端から90度回転した位置の第2の接続端と第4の接続端にそれぞれ前記第3のビーム(3h、3i)の一端が接続された構造を有する振動子を用いる振動ジャイロであって、前記接続された隣り合う前記第1のビーム(3a、3d)に接続された2つの付加質量部(4a、4d)が同位相で、前記接続された別の隣り合う前記第1のビーム(3b、3c)に接続された別の2つの付加質量部(4b、4c)が同位相で、かつ前記2つの負荷質量部(4a、4d)と前記別の2つの負荷質量部(4b、4c)とが互いに逆位相で4つの前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)が形成された面の面内方向に振動する駆動モードの駆動手段と、前記2つの付加質量部(4a、4b)の重心間の中点および前記別の2つの付加質量部(4c、4d)の重心間の中点を通る第1の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段と、前記2つの付加質量部(4a、4d)の重心間の中点および前記別の2つの付加質量部(4b、4c)の重心間の中点を通り、前記第1の軸に直交する第2の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段とを備え、前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)および前記第1のビーム(3a、3b、3c、3d)、第2のビーム(3e、3f)、第3のビーム(3h、3i)、第4のビーム(3g)からなる構造が前記第2の軸に関して略対称で、且つ前記第1の軸に関して非対称であり、前記第1の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相の前記接続された隣り合う第1のビーム(3a、3d)と、別の2つの同位相の前記接続された別の隣り合う第1の第1のビーム(3b、3c)とが互いに逆位相で、前記第1の軸回りの方向に回転振動する第1の検出モードを用い、前記第2の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相の隣り合わない前記第1のビーム(3a、3c)と、別の2つの同位相の隣り合わない前記第1のビーム(3b、3d)とが互いに逆位相で、前記第2の軸回りの方向にねじれ振動する第2の検出モードを用いたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記振動子の外周部には前記付加質量部と略同一平面内に枠体が形成され、前記第3のビーム(3h、3i)の前記リング状の第4のビーム(3g)の接続端に接続されない他端がそれぞれ前記枠体に接続され、該枠体を介して、前記振動子が支持されていてもよい。
【0011】
また、前記振動子が圧電単結晶板で一体的に形成されていてもよい。
【0012】
以上のように、本発明は、従来と同様に略四角の平板に貫通穴加工を施し、振動可能な付加質量部を第1のビームと第2のビームと第3のビームとで支える構造を形成することで励振部および検出部として機能させているが、本発明においては、従来と異なり、新たなリング状の第4のビームを設けることによりコリオリ力によって発生する振動および電荷の発生を適切に制御し、且つ、駆動モードにおいてほとんど変位しない第3のビーム上に検出電極を設けることにより、振動モードによる検出電極での電荷の発生を回避している。
【発明の効果】
【0013】
本発明は平面的な構造をとっており、四角形状の圧電単結晶板に穴あけ加工を施すことで容易に形成でき、生産性が高い。さらに、ニオブ酸リチウムなどの高結合材料を用い、駆動モードの励振、検出モードの検出を行うことで、SN比の高い振動ジャイロ用素子が得られる。
【0014】
以上のように、本発明によれば、駆動モードでの振動だけでは検出電極に電荷が発生しないような振動ジャイロ用素子が得られる。したがって、この素子を使用して、ノイズが小さくSN比の高い、且つ、2軸の角速度の検出が可能である安価な振動ジャイロを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図3は、本発明の一実施の形態の振動ジャイロに用いる振動子と枠体からなる振動ジャイロ用素子を示す上面図である。本実施の形態の振動子1は、4つの付加質量部4a、4b、4c、4dと、4つの柱状の第1のビーム3a、3b、3c、3dと、2つの柱状の第2のビーム3e、3fと、リング状の第4のビーム3gと、2つの柱状の第3のビーム3h、3iとが平板状に同一平面内に形成されてなり、付加質量部4a、4b、4c、4dは時計回りに配置され、第1のビーム3a、3b、3c、3dの一端が、付加質量部4a、4b、4c、4dにそれぞれ接続され、隣り合う第1のビーム3a、3dの付加質量部に接続されない他端同士および別の隣り合う第1のビーム3b、3cの付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、第2のビーム3e、3fの一端が、それぞれ第1のビーム3a、3dの接続部および別の第1のビーム3b、3cの接続部に接続され、リング状の第4のビーム3gは直交する4つの接続端を供え、接続端の対向する第1の接続端と第3の接続端に、それぞれ第2のビーム3e、3fの第1のビーム3a、3b、3c、3dに接続されない他端に接続され、リング状の第4のビーム3gの対向する第1の接続端と第3の接続端から90度回転した位置の対向する第2の接続端と第4の接続端が、それぞれ第3のビーム3h、3iの一端に接続された構造を有している。また、振動子1の外周部には付加質量部と略同一平面内に枠体2が形成され、第3のビーム3h、3iのリング状の第4のビーム3gに接続されない他端がそれぞれ枠体2に接続され、枠体2を介して、振動子1が支持されている。
【0017】
具体的な一例として、本実施の形態では、3.5mm×3.13mm、厚さ0.25mmの四辺形状のニオブ酸リチウム圧電単結晶板に穴加工を施すことで、1枚の圧電単結晶板の同一面内に、付加質量部4a〜4dと第1のビーム3a〜3d、第2のビーム3e、3f、第3のビーム3h、3i、第4のビーム3gからなる振動子1と、枠体2を形成し、振動ジャイロ用素子を構成する。付加質量部4a〜4dにはそれぞれ第1のビーム3a〜3dが接続されているが、各付加質量部の下端にビームが接続されているため、本実施の形態では、振動子1は、紙面に対して、左右対称、上下非対称な形状となっている。
【0018】
また、第1のビーム3a〜3dの表面には、2つの同位相の付加質量部4a、4dと別の2つの同位相の付加質量部4b、4cとが互いに逆位相で4つの付加質量部4a、4b、4c、4dが形成された面の面内方向に振動する駆動モードの駆動のため、駆動電極5a〜5dと基準電位電極7a〜7dを、第3のビーム3h、3iの表面には、接続された隣り合う第1のビーム3a、3dに接続された付加質量部4a、4bの重心間の中点および接続された別の隣り合う第1のビーム3b、3cに接続された別の付加質量部4c、4dの重心間の中点を通る第1の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出のため、および、この隣り合う付加質量部4a、4dの重心間の中点およびこの別の隣り合う付加質量部4b、4cの重心間の中点を通り、前記第1の軸に直交する第2の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出のため、検出電極6a〜6dをそれぞれ形成した。各電極は、クロムを下地とした金の膜により電極を形成した。
【0019】
ここで、本実施の形態による振動ジャイロの動作原理について説明する。図1は本実施の形態における振動ジャイロの振動モードを示す図である。図1(a)、図1(b)、図1(c)は未動作時の変形前の状態を示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図であり、図1(d)、図1(e)、図1(f)は駆動モード(Dモード)を示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図であり、図1(g)、図1(h)、図1(i)は第1の検出モード(Zモード)を示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図であり、図1(j)、図1(k)、図1(l)は第2の検出モード(Yモード)を示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図である。なお、本実施の形態に使用したニオブ酸リチウム圧電単結晶板は最大数十μmほどしか変位しないので、通常は枠に負荷質量部が接触することはないが、図1ではその変位を拡大し誇張して表示している。
【0020】
図4は、本実施の形態で用いる振動ジャイロ用素子の結晶方位を示す図である。図4に示すように、本実施の形態に使用したニオブ酸リチウム圧電単結晶板は、厚さ0.25mmにXカットされた素板から、この結晶のY’軸と振動子のY軸とが成す角度が45度になるように切り出されたものである。図2は各モードにおいて振動ジャイロ用素子の表面に発生する電荷の分布を示す模式図である。図2(a)はDモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(b)はZモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(c)はYモードでの電荷の分布を示す模式図である。図2において、「+」と「−」は、発生電荷の極性を示し、楕円は、その範囲を示している。この電荷分布を考慮して、図3に示すように、第1のビーム3a〜3dの表面に、Dモードの振動を励振させるための駆動電極5a、5b、5c、5dと、基準電位電極7a、7b、7c、7dとをそれぞれ配置した。
【0021】
同様に、第3のビーム3h、3iの表面に、YモードおよびZモードの振動検出用の検出電極6a、6b、6c、6dを配置した。検出電極6a〜6dには、YモードおよびZモードの電荷が発生するが、それぞれ発生する電荷の極性が異なるため、後に述べるように、加算や差動回路によって、Yモードによる発生電荷とZモードによる発生電荷とを区別することが可能である。
【0022】
図1(d)〜図1(f)に示すDモードでは、2つの同位相の接続された隣り合う第1のビーム3a、3dに接続された付加質量部4aおよび4dと、2つの同位相の接続された別の隣り合う第1のビーム3b、3cに接続された付加質量部4bおよび4cとが互いに逆位相で、且つ、YZ平面の面内方向に振動する(図3参照)。このときそれぞれの付加質量部はYZ平面のY軸あるいはZ軸のみに変位するのではない。この4つの負荷質量部4a,4b、4c、4dを時計回りに説明すると、最初の付加質量部4aであれば第1のビーム3aによって下端を接続されているので+Y軸方向に変位したときには同時に−Z方向へも変位する。逆に−Y軸方向に変位したときには+Z方向へも変位する。次の付加質量部4bも同様の変位となる。その次の付加質量部4cと最後の負荷質量部4dは逆に+Y軸方向に変位したときには+Z方向に、−Y方向に変位したときには−Z方向に変位する。付加質量部の変位をY軸およびZ軸の各軸ごとに考えてみると、Y軸方向には最初の付加質量部4aと最後の負荷質量部4dが同相で、また次の付加質量部4bとその次の負荷質量部4cが同相である。Z軸方向には最初の付加質量部4aとその次の負荷質量部4cが同相で、また次の付加質量部4bと最後の負荷質量部4dが同相である。
【0023】
この駆動モードは、2つの同位相の隣り合い接続された第1のビーム3a、3dと、2つの同位相の別の隣り合い接続された第1のビーム3b、3cとが互いに逆位相で、面内方向に屈曲振動する。隣り合い接続された第1のビーム3a、3bと、別の隣り合い接続された第1のビーム3c、3dが、それぞれ音叉振動する振動モードである。音叉振動であるため、隣り合い接続された第1のビーム3a、3dの振動による力と、別の隣り合い接続された第1のビーム3b、3cの振動による力は、リング状の第4のビーム3gで相殺され、その結果、第3のビーム3h、3iに接続された枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。
【0024】
Dモードを励振した状態で、Z軸(第1の軸)と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、Y軸の駆動振動速度に対してコリオリ力が働き、最初の付加質量部4aおよび最後の負荷質量部4dと、次の付加質量部4bおよびその次の負荷質量部4cとが互いに逆位相で、X軸方向に力を受ける。その結果、第3のビーム3h、3iを中心としてZ軸回りの方向に振動する。この振動の検出には、図1(g)〜図1(i)に示すZモードを利用できる。このZモードは、2つの同位相の隣り合い接続された第1のビーム3a、3dと、2つの同位相の別の隣り合い接続された第1のビーム3b、3cとが互いに逆位相で、Z軸回りの方向に回転振動する。最初の付加質量部4aと最後の負荷質量4dとそれに接続された隣り合い接続された第1のビーム3a、3dとそれに接続された第2のビーム3eと、次の付加質量部4bとその次の負荷質量部4cとそれに接続された別の隣り合い接続された第1のビーム3b、3cとそれに接続された第2のビーム3fが、それぞれ遠心力で外に引かれる力が、リング状の第4のビーム3gで相殺され、その結果、第3のビーム3h、3iにはねじりの力が働くが、接続された枠体2との接続部で吸収され、枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。この時、Dモードの振動速度が一定であれば、これらの発生した、Zモードの振幅の大きさは、印加した角速度に比例し、これらの振動を電気的に取り出せば、角速度センサとして機能する。
【0025】
同様に、Dモードを励振した状態で、Y軸(第2の軸)と平行な軸回りの角速度を印加すると、付加質量部には、Z軸の駆動振動速度に対してコリオリ力が働き、最初の付加質量部4aと隣り合わない負荷質量部4cと、次の付加質量部4bと隣り合わない負荷質量部4dとが互いに逆位相で、X軸方向に力を受ける。その結果、それらの負荷質量部が接続される隣り合わない第1のビーム3a、3cと、別の隣り合わない第1のビーム3b、3dとが互いに逆位相で、第2のビーム3eおよび3fを中心としてY軸回りの方向にねじれ振動する。
【0026】
この振動の検出には、Yモードを利用できる。このYモードは、非常に対称性が良く、第2のビーム3e、3fにねじれを発生させ、リング状の第4のビーム3gで方向が変換され、第3のビーム3h、3iにねじれが発生するが、枠体2との接続部で吸収され、枠体2への振動の伝播は少なく、枠体2全体がノード点となる。この時、Dモードの振動速度が一定であれば、これらの発生した、Yモードの振幅の大きさは、印加した角速度に比例し、これらの振動を電気的に取り出せば、角速度センサとして機能する。
【0027】
上記の振動の励振および検出には、振動子1に配置した電極を用いる。図3に示した第1のビーム3a、3b、3c、3dに形成した駆動電極5a、5b、5c、5dにDモードの共振周波数の電気信号を入力することでDモードを励振し、第3のビーム3h、3iに形成した検出電極6a〜6dに生じる電荷を検出することで、ZモードおよびYモードの振動が検出できる。
【0028】
この各電極の配置は、上述のように、図2に示したそれぞれの振動モードにおけるビームの表面に発生する電荷の分布を解析して決定した。この電荷分布は、選択した材料によって異なり、さらに異方性材料であれば、結晶の方位によっても様々な分布を示す。
【0029】
ここで、Yモードにおいて第2のビーム3eおよび3fはY軸回りにねじれ振動が発生し、最も応力が加わる部分であるが、今回選択した結晶方位ではこのY軸回りのねじれでは電荷がほとんど発生しない。そのため本発明ではこのY軸回りのねじれ振動をリング状の第4のビーム3gを介してZ軸回りのねじれに変換し、第3のビーム3hおよび3iがZ軸回りにねじられ、電荷が発生するように工夫している。このことによって、ZモードおよびYモードがともに第3のビーム3hおよび3iに電荷が発生するので、検出電極6a〜6dは第3のビーム3hおよび3iに配置するだけでよく、電極の引き回しが簡潔にまとまるという利点もある。
【0030】
また、図1(d)〜図1(f)および図2(a)に示される通り、検出電極6a〜6dが配置されている第3のビーム3hおよび3iはDモードにおいてほとんど変位しない部分であり、電荷も発生しない部分であるので、駆動信号に含まれる変調成分やノイズ成分が検出されてしまうことがない。
【0031】
図5は、本発明の一実施の形態の振動ジャイロに用いる回路とそれに接続された振動ジャイロ用素子を示すブロック図である。駆動手段として、電流検出回路9eと、位相回路10aと、AGC回路11(オートゲインコントロール回路)とを有し、検出手段として、電流検出回路9a、9b、9c、9dと、加算回路14a、14b、14c、14dと、差動回路13a、13bと、位相回路10bと、同期検波回路15a、15bと、フィルタ回路16a、16bとを有する。
【0032】
Dモードの周波数で、駆動電極5a〜5dを駆動するには、駆動状態を一定に保つためのAGC回路11の出力を駆動電極5a〜5dに接続し、電流検出回路9eを基準電位電極7a〜7dに接続する。電流検出回路9eの仮想接地の効果により、基準電位電極7a〜7dの電位は、基準電位に固定され、駆動電極5a〜5dと基準電位電極7a〜7dの間に駆動電圧を印加することが可能となる。
【0033】
駆動電極5a〜5dに流れる駆動電流は、電流検出回路9eで検出、移相回路10aで位相調整、AGC回路11で振幅調整され、駆動電極5a〜5dに再び印加される。この閉ループにより、Dモードの共振周波数で自励発振させることができる。同時に、AGC回路11の出力は、移相回路10bを通り、同期検波回路15aおよび15bの参照信号として入力される。
【0034】
Dモードを自励発振させた状態で、Z軸回りの角速度を印加すると、Zモードの振動が発生する。Zモードの振動により、図2(b)のような電荷が発生する。したがって、検出電極6aおよび6dと検出電極6bおよび6cには、互いに逆位相の電荷が発生する。加算回路14cには、電流検出回路9aと9d、加算回路14dには、電流検出回路9bと9cが接続され、同相成分同士の信号を加え合わせる。加算回路14cと14dは、逆相の信号が出力されるため、差動回路13bで増幅することができ、同期検波回路15b、フィルタ回路16bによって、Z軸回りの角速度に比例した電気信号として取り出すことが可能となる。
【0035】
同様に、Y軸回りの角速度を印加するとYモードの振動が発生する。Yモードの振動により、図2(c)に示す電荷が発生する。したがって、検出電極6aおよび6cと検出電極6bおよび6dには、互いに逆位相の電荷が発生する。検出電極6a〜6dには、電流検出回路9a〜9dがそれぞれ接続され、それぞれの信号が電圧に変換される。加算回路14aには、電流検出回路9aと9c、加算回路14bには、電流検出回路9bと9dが接続され、同相成分同士の信号を加え合わせる。加算回路14aと14bは、逆相の信号が出力されるため、差動回路13aで増幅することができ、同期検波回路15a、フィルタ回路16aによって、Y軸回りの角速度に比例した電気信号として取り出すことが可能となる。
【0036】
また、Zモードによる発生電荷は、加算回路14a、14bによって相殺され、Yモードによる発生電荷は、加算回路14c、14dによって相殺される。したがって、フィルタ回路16bの出力は、Z軸回りのみの回転角速度に比例した出力、フィルタ回路16aの出力は、Y軸回りのみの角速度に比例した出力が得られる。すなわち、本実施の形態による振動ジャイロは、Z軸およびY軸の2軸の角速度検出が可能な角速度センサとして機能する。
【0037】
前述の通り、振動子1を駆動モードの振動が少ない枠体2で支持できるので、駆動モードの振動を阻害することなく、安定な支持特性が得られる。そして、センサ出力が安定化し、出力ドリフトも低減する。また、枠体2の全周を支持できるので、振動子1に衝撃が加わっても、力を分散でき、耐衝撃性の高い構造となる。さらに、振動子1の平面内の直交する2軸に対する回転角速度の検出が可能となるので、駆動回路や検出回路および外部端子等の共通部分を共有することができる。加えて、枠体2を支持固定することができるため、実装が容易で、生産性も高くなる。
【0038】
製造工程においては、圧電単結晶のウエハ上に複数個の前記振動ジャイロ用素子を同時に形成し、枠体2同士が接合した状態であっても、特性を検査することが容易となる。また振動子を1つずつ切り出すことなく、振動特性の検査、周波数調整、バランス調整を行うこともでき、容易に検査や調整が可能で、後工程の歩留まりも改善できる。
【0039】
本実施の形態では、ニオブ酸リチウム圧電単結晶板を利用しているが、タンタル酸リチウム、水晶、ランガサイト、酸化亜鉛、PZT、圧電薄膜等を用いても、本発明による振動ジャイロを構成できる。
【0040】
また、本実施の形態は、圧電性を利用した振動ジャイロであるが、駆動、検出方法の一部または全部を、電磁誘導や静電力を利用したトランスジューサ、或いは、電極間の容量変化による変位検出手段によって置換えても良い。また、振動子の内部で振動による運動モーメントが相殺されるような構造を用いることにより枠体を用いないことも可能である。
【0041】
以上のように、本発明によれば、駆動モードでの振動だけでは検出電極に電荷が発生しないような振動ジャイロ用素子、およびこの素子を用いた、SN比が高く、2軸の角速度の検出が可能で、安価な振動ジャイロが得られる。さらに、評価や実装等が容易で生産性が良く、出力ドリフトが小さく、安定した出力が得られ、外部からの衝撃に対しても堅牢な振動ジャイロを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態の振動ジャイロの振動モードを示す図、図1(a)、図1(b)、図1(c)は未動作時の変形前の状態を示す図、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図1(d)、図1(e)、図1(f)はDモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図1(g)、図1(h)、図1(i)はZモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図1(j)、図1(k)、図1(l)はYモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図。
【図2】振動ジャイロ用素子の電荷の分布を示す模式図。図2(a)はDモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(b)はZモードでの電荷の分布を示す模式図、図2(c)はYモードでの電荷の分布を示す模式図。
【図3】本発明の一実施の形態に用いる振動ジャイロ用素子を示す上面図。
【図4】本発明の一実施の形態に用いる振動ジャイロ用素子の結晶方位を示す図。
【図5】本発明の一実施の形態の振動ジャイロの回路とそれに接続された振動ジャイロ用素子を示すブロック図。
【図6】従来の振動ジャイロの振動モードを示す図、図6(a)、図6(b)、図6(c)は未動作時の変形前の状態を示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図6(d)、図6(e)、図6(f)はXモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図6(g)、図6(h)、図6(i)はYモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図、図6(j)、図6(k)、図6(l)はZモードを示し、それぞれ、斜視図、正面図、側面図。
【図7】従来の振動ジャイロに用いる振動ジャイロ用素子を示す上面図。
【符号の説明】
【0043】
1、21 振動子
2 枠体
3a〜3d、23a〜23d 第1のビーム
3e,3f、23e,23f 第2のビーム
3g 第4のビーム
3h,3i、23g、23h 第3のビーム
4a〜4d、24a〜24d 付加質量部
5a〜5d、25a、25b 駆動電極
6a〜6d、26a〜26d 検出電極
7a〜7d、27a〜27h 基準電位電極
9a〜9e 電流検出回路
10a、10b 移相回路
11 AGC回路
13a、13b 差動回路
14a、14b、14c、14d 加算回路
15a、15b 同期検波回路
16a、16b フィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つの付加質量部(4a、4b、4c、4d)と、4つの柱状の第1のビーム(3a、3b、3c、3d)と、2つの柱状の第2のビーム(3e、3f)と、2つの柱状の第3のビーム(3h、3i)と、直交する4つの接続端を有するリング状の第4のビーム(3g)とが平板状に同一平面内に形成されてなり、
前記4つの付加質量部(4a、4b、4c、4d)は時計回りに配置され、
前記第1のビーム(3a、3b、3c、3d)の一端が、前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)にそれぞれ接続され、隣り合う前記第1のビーム(3a、3d)の前記付加質量部に接続されない他端同士が接続され、該接続部に前記第2のビーム(3e)の一端が接続され、他端が前記第4のビーム(3g)の第1の接続端に接続され、別の隣り合う前記第1のビーム(3b、3c)の前記付加質量部に接続されない他端同士がそれぞれ接続され、該接続部に別の前記第2のビーム(3f)の一端が接続され、他端が前記第4のビーム(3g)の前記第1の接続端の反対側の第3の接続端に接続され、
前記第4のビーム(3g)の前記第1の接続端と第3の接続端から90度回転した位置の第2の接続端と第4の接続端にそれぞれ前記第3のビーム(3h、3i)の一端が接続された構造を有する振動子を用いる振動ジャイロであって、
前記接続された隣り合う前記第1のビーム(3a、3d)に接続された2つの付加質量部(4a、4d)が同位相で、前記接続された別の隣り合う前記第1のビーム(3b、3c)に接続された別の2つの付加質量部(4b、4c)が同位相で、かつ前記2つの負荷質量部(4a、4d)と前記別の2つの負荷質量部(4b、4c)が互いに逆位相で4つの前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)が形成された面の面内方向に振動する駆動モードの駆動手段と、
前記2つの付加質量部(4a、4b)の重心間の中点および前記別の2つの付加質量部(4c、4d)の重心間の中点を通る第1の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段と、
前記2つの付加質量部(4a、4d)の重心間の中点および前記別の2つの付加質量部(4b、4c)の重心間の中点を通り、前記第1の軸に直交する第2の軸に平行な軸回りの角速度によって生じるコリオリ力による変位の検出手段とを備え、
前記付加質量部(4a、4b、4c、4d)および前記第1のビーム(3a、3b、3c、3d)、第2のビーム(3e、3f)、第3のビーム(3h、3i)、第4のビーム(3g)からなる構造が前記第2の軸に関して略対称で、且つ前記第1の軸に関して非対称であり、
前記第1の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相の前記接続された隣り合う第1のビーム(3a、3d)と、別の2つの同位相の前記接続された別の隣り合う第1の第1のビーム(3b、3c)とが互いに逆位相で、前記第1の軸回りの方向に回転振動する第1の検出モードを用い、
前記第2の軸と平行な軸回りの角速度の検出には、2つの同位相の隣り合わない前記第1のビーム(3a、3c)と、別の2つの同位相の隣り合わない前記第1のビーム(3b、3d)とが互いに逆位相で、前記第2の軸回りの方向にねじれ振動する第2の検出モードを用いたことを特徴とする振動ジャイロ。
【請求項2】
請求項1記載の振動ジャイロにおいて、
前記振動子の外周部には前記付加質量部と略同一平面内に枠体が形成され、前記第3のビーム(3h、3i)の前記リング状の第4のビーム(3g)の接続端に接続されない他端がそれぞれ前記枠体に接続され、該枠体を介して、前記振動子が支持されたことを特徴とする振動ジャイロ。
【請求項3】
請求項1または2記載の振動ジャイロにおいて、
前記振動子が圧電単結晶板で一体的に形成されてなることを特徴とする振動ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−96695(P2010−96695A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269579(P2008−269579)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】