説明

振動判別方法、及び振動判別装置

【課題】従来よりも「再生型びびり振動」であるか「強制びびり振動」であるかを精度良く判別することができる振動判別方法、及び振動判別装置を提供する。
【解決手段】びびり振動の発生を検出すると、パラメータ演算装置において第1周波数範囲や第2周波数範囲を求めるとともに、回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfを考慮し、更に「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲と「再生型びびり振動」の周波数範囲との割合によって求めた判別妥当性Cをもとにして、発生したびびり振動が「再生型びびり振動」であるか、「回転周期型強制びびり振動」であるか、それとも「刃通過周期型強制びびり振動」であるかを判別するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具又はワークを回転させながら加工を行う工作機械において、加工中に発生するびびり振動の種類を判別するための振動判別方法、及び該振動判別方法を実行する振動判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸を回転させて加工を行う工作機械では、切り込み量や回転軸の回転速度などの加工条件が適切でない等に起因して加工中に所謂「びびり振動」が生じるおそれがある。そして、びびり振動が生じると、加工面の仕上げ精度が悪化したり工具が破損してしまうといった問題が生じることから、びびり振動の抑制が求められている。
【0003】
このびびり振動としては、工具とワークとの間に生じる自励振動である「再生型びびり振動」と、工作機械自身が振動源となる「強制びびり振動」との2つのびびり振動がある。そして、本件出願人は、この2種類のびびり振動を区別するとともに、びびり振動の種類に応じて夫々対応可能とした振動抑制装置(特許文献1)を本件出願に先立ち考案している。この特許文献1に記載の振動抑制装置では、振動センサで検出した時間領域の振動加速度をFFT解析して周波数領域の振動加速度を求め、その周波数領域の振動加速度が最大値をとるびびり周波数fcを求めるとともに、下記式(1)〜(3)からk’値、k値、及び位相差εを算出し、位相差εが0に近い(たとえば0.1以内である)場合、すなわちk’値が整数に近い場合を「強制びびり振動」と判別し、それ以外を「再生型びびり振動」として判別していた。
k’=60×fc/(Z×S) ・・・(1)
k=|k’」 ・・・(2)
ε=k’−k ・・・(3)
尚、式(1)におけるZは工具刃数であり、Sは回転軸の1分あたりの回転速度である。また、式(2)における|x」は、xよりも小さい最大の整数を表す床関数である(つまり、式(2)ではk’値の整数部を求めている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の振動抑制装置では、上下2つの定数の範囲内に位相差εがあるか否かにより、位相差εが0に近いか否かを判断している。つまり、回転軸の回転速度と、びびり振動のびびり周波数との関係を示す図7で見てみると、従来のk’値を用いる方法により判別した場合、実線を隔てた2つの点線で示す範囲が「強制びびり振動」と判別する範囲となる。したがって、図7からも明らかなように、「強制びびり振動」と判別する範囲は、回転速度及びびびり周波数に比例しており、回転速度及びびびり周波数が共に高い領域では、「強制びびり振動」と判別する範囲が広くなる。そのため、そのような加工条件においては、位相差εが0に近い「再生型びびり振動」を誤って「強制びびり振動」と判別してしまうおそれがあるという問題がある。
【0006】
また、振動加速度や回転速度の検出精度にも限界があり、どうしても誤差が生じる。そこで、回転速度検出分解能をΔS、FFT演算装置における周波数分解能をΔfとすると、位相差εがとり得る最大誤差εerrは、下記式(4)により求められる。したがって、たとえば回転速度及びびびり周波数の少なくとも何れかが低いような「強制びびり振動」と判別する範囲が狭くなる加工条件においては、上記誤差εerrにより位相差εが上下2つの定数の範囲から超えてしまうことが考えられる。すなわち、「強制びびり振動」を誤って「再生型びびり振動」と判別してしまうというおそれもある。
【0007】
さらに、「強制びびり振動」には、工具の刃部がワークの表面を通過する際における通過周期の整数倍で発生する「刃通過周期型強制びびり振動」と、回転軸の回転周期で発生する「回転周期型強制びびり振動」との2種類がある。そして、「刃通過周期型強制びびり振動」については、上記特許文献1に記載の振動抑制装置により判別することができるものの、「回転周期型強制びびり振動」については、回転周期を基本周波数とするため、その位相差εspは下記式(5)で求められることになる。したがって、振動次数Nが刃数Zの倍数ではないびびり振動は、位相差ε(εsp)が0とならないため、「強制びびり振動」として検出することができないという問題がある。
【0008】
【数1】

なお、式(4)におけるfcは上記同様びびり周波数であり、Sは回転軸の1分あたりの回転速度である。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、従来よりも「再生型びびり振動」であるか「強制びびり振動」であるかを精度良く判別することができる振動判別方法、及び振動判別装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記びびり振動の発生の有無を検出するとともに、前記回転軸にびびり振動が発生した際に生じる振動情報にもとづき、発生した前記びびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、前記時間領域の振動をもとに、びびり周波数及び該びびり周波数における周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動が所定の閾値を超えた場合に前記びびり振動が発生したと判断する第2工程と、前記回転軸の1分あたりの回転速度Sを用いた下記式(6)で回転周波数fcsを算出するとともに、前記回転周波数fcsを整数倍した値にオフセット値ofsを加算及び減算した値をそれぞれ上限及び下限とした第1周波数範囲と、回転速度S及び工具刃数Zを用いた下記式(7)で刃通過周波数fcfを算出するとともに、前記刃通過周波数fcfを整数倍した値にオフセット値offを加算及び減算した値を夫々上限及び下限とした第2周波数範囲とを求める第3工程と、前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れかの範囲に入るか否かを判断し、何れの範囲にも入らない場合には、前記びびり振動は再生型びびり振動であると判別する第4工程と、前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れかの範囲に入る場合には、前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れに入るかを特定し、前記第2周波数範囲に入る場合には、前記びびり振動は刃通過周期型強制びびり振動であると判別する第5工程と、前記第1周波数範囲に入る場合には、前記第1周波数範囲と再生型びびり振動として判別される周波数範囲との割合から判別妥当性を求めるとともに、前記判別妥当性にもとづいて前記びびり振動が前記回転周期型強制びびり振動であるか若しくは前記再生型びびり振動であるかを判別する第6工程とを実行することを特徴とする。
【数2】

【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第3工程において、前記オフセット値ofsを、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた下記式(8)で算出するとともに、前記オフセット値offを、工具刃数Z、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた下記式(9)で算出することを特徴とする。
【数3】

【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第3工程において、前記オフセット値ofsを、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び前記回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfの基準となる値の誤差を考慮するために必要な余裕値である分解能余裕値mを用いた下記式(16)で算出するとともに、前記オフセット値offを、工具刃数Z、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び分解能余裕値mを用いた下記式(17)で算出することを特徴とする。
【数4】

【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記第6工程において、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の発生周波数fCN及びfCN+1を、回転速度S及び振動次数Nを用いた下記式(11)及び(12)で算出するとともに、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1を、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた式(13)及び(14)で算出し、更に下記式(15)を用いて判別妥当性Cを算出することを特徴とする。
【数5】

【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記第6工程において、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の発生周波数fCN及びfCN+1を、回転速度S及び振動次数Nを用いた下記式(11)及び(12)で算出するとともに、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1を、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び分解能余裕値mを用いた式(18)及び(19)で算出し、更に下記式(15)を用いて判別妥当性Cを算出することを特徴とする。
【数6】

【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項6に記載の発明は、工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、該検出手段により検出された時間領域の振動にもとづいて、びびり周波数及び該びびり周波数における周波数領域の振動を算出するFFT演算装置と、請求項1に記載の方法により第1周波数範囲及び第2周波数範囲を求めるパラメータ演算装置と、前記周波数領域の振動が所定の閾値を超えた場合に前記びびり振動が発生したと判断するとともに、請求項1に記載の方法により前記第1周波数範囲及び前記第2周波数範囲にもとづき前記びびり振動の種類を判別する演算装置と、判別した前記びびり振動の種類を表示する表示装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、びびり振動の発生を検出すると、パラメータ演算装置において第1周波数範囲や第2周波数範囲を求めるとともに、更に「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲と「再生型びびり振動の周波数範囲」との割合によって求めた判別妥当性をもとにして、発生したびびり振動が「再生型びびり振動」であるか、「回転周期型強制びびり振動」であるか、それとも「刃通過周期型強制びびり振動」であるかを判別する。また、特に請求項2及び3に記載の発明によれば、回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfをも考慮に入れている。さらに、請求項4及び5に記載の発明によれば、判別妥当性Cを考慮に入れている。したがって、従来よりも「再生型びびり振動」であるか「強制びびり振動」であるかを精度良く判別することができるし、従来検出できなかった「回転周期型強制びびり振動」も検出することができ、ひいてはびびり振動の一層確実な抑制を期待することができる。
また、請求項6に記載の発明によれば、判別したびびり振動の種類を表示する表示装置を備えているため、作業者は発生しているびびり振動の種類を容易に把握することができ、その種類に応じた効果的な対応を迅速にとることができる。したがって、短時間でびびり振動を抑制することができるため、加工面の仕上げ精度の悪化や工具の摩耗等を最小限に抑えることができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】振動抑制装置のブロック構成を示した説明図である。
【図2】振動抑制の対象となる回転軸ハウジングを側方から示した説明図である。
【図3】回転軸ハウジングを軸方向から示した説明図である。
【図4】振動判別制御について示したフローチャート図である。
【図5】本発明に係る振動判別方法による判別範囲を示した回転軸の回転速度とびびり振動のびびり周波数との関係を示す関係図である。
【図6】本発明に係る振動判別方法によるとともに、分解能余裕値を考慮した判別範囲を示した回転軸の回転速度とびびり振動のびびり周波数との関係を示す関係図である。
【図7】従来の振動判別方法による判別範囲を示した回転軸の回転速度とびびり振動のびびり周波数との関係を示す関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態となる振動判別方法、及び振動判別装置を含んだ振動抑制装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0019】
図1は、振動抑制装置10のブロック構成を示した説明図である。図2は、振動抑制の対象となる回転軸ハウジング1を側方から示した説明図であり、図3は、回転軸ハウジング1を軸方向から示した説明図である。
振動抑制装置10は、回転軸ハウジング1にC軸周りで回転可能に備えられた回転軸3に生じる「びびり振動」を抑制するためのものであって、回転中の回転軸3に生じる振動に伴う特性値である時間領域の振動加速度(時間軸上の振動加速度を意味する)を検出するための振動センサ2a〜2cと、該振動センサ2a〜2cによる検出値を解析して「びびり振動」の発生の有無や「びびり振動」の種類を判別し、その判別結果を表示するとともに、回転軸3の回転速度を変更可能な制御装置5とを備えてなる。
【0020】
振動センサ2a〜2cは、図2及び図3に示す如く回転軸ハウジング1に取り付けられており、一の振動センサは、他の振動センサに対して直角方向への時間領域の振動加速度を検出するようになっている(たとえば、振動センサ2a〜2cにて、それぞれ直交するX軸、Y軸、Z軸方向での時間領域の振動加速度を検出するように取り付ける)。
【0021】
一方、制御装置5は、振動センサ2a〜2cから検出される時間領域の振動加速度をもとにした解析を行うFFT演算装置11と、びびり振動が発生しているか否かの判別に用いる閾値やびびり振動の種類を判別するための値を作業者が入力するための入力装置12と、作業者に入力された上記各種値や演算装置14での演算結果等を記憶するための記憶装置13と、びびり振動が発生しているか否か及びびびり振動の種類を判別するための演算装置14と、びびり振動の種類を判別するためのパラメータを演算するためのパラメータ演算装置15と、回転軸3の回転速度を制御するNC装置16と、回転軸3の回転速度を検出するための回転速度検出装置18とを備えており、NC装置16には、NCプログラムや機械の現在位置に加えて演算装置14での判別結果等を表示するためのモニター17が備えられている。
【0022】
ここで、本発明の要部となる振動判別制御について、図4のフローチャート図にもとづき詳細に説明する。
まず、加工を開始する前に、入力装置12により上述したような閾値やびびり振動の種類を判別するための値、工具刃数等の工具情報を入力し、記憶装置13に予め記憶させておく。そして、NC装置16を介して回転軸3の回転速度が指令されて加工が開始される(S1)と、制御装置5では、回転軸ハウジング1にびびり振動が生じているか否かを監視する(S2)。すなわち、振動センサ2a〜2cにより回転軸ハウジング1における時間領域の振動加速度を常時検出し、FFT演算装置11においてその時間領域の振動加速度のフーリエ解析を行い、振動情報である周波数領域の振動加速度の最大値(最大加速度)とその周波数(びびり周波数)fcとを取得する。また、演算装置14において、取得した最大加速度と記憶装置13に記憶されている閾値とを比較し、最大加速度が閾値以下である場合には、びびり振動は発生していないと判定する(S2でNOと判断)。
【0023】
一方、最大加速度が閾値を超えると、回転軸ハウジング1に抑制すべきびびり振動が発生していると判定し(S2でYESと判断)、パラメータ演算装置15において、そのびびり振動の種類を判別する、すなわち「再生型びびり振動」であるか、「回転周期型強制びびり振動」であるか、それとも「刃通過周期型強制びびり振動」であるかを判別するためのパラメータを演算する(S3)。このパラメータは、「回転周期型強制びびり振動」の可能性があると判別する第1周波数範囲、及び「刃通過周期型強制びびり振動」と判別する第2周波数範囲であって、第1周波数範囲については、下記式(6)を用いて回転周波数fcsを算出するとともに、該回転周波数fcsを整数倍した値に下記式(8)で算出するオフセット値ofsを加算及び減算した値をそれぞれ上限及び下限とした範囲として求める。一方、第2周波数範囲については、下記式(7)を用いて刃通過周波数fcfを算出するとともに、該刃通過周波数fcfを整数倍した値に下記式(9)で算出するオフセット値offを加算及び減算した値を夫々上限及び下限とした範囲として求める。
【0024】
【数7】

尚、式(6)〜(9)におけるSは回転軸3の1分あたりの回転速度、Zは工具刃数、Nは振動次数、ΔSは回転速度検出分解能、Δfは周波数分解能である。
【0025】
そして、パラメータ演算装置15において第1周波数範囲及び第2周波数範囲が求められると、演算装置14では、びびり周波数fcが第1周波数範囲若しくは第2周波数範囲にあるか否かを判断し(S4)、第1周波数範囲及び第2周波数範囲の何れの範囲にも入らない場合(S4でNO)、発生したびびり振動は「再生型びびり振動」であると判断し(S5)、モニター17にその旨を表示する(S11)。
【0026】
また、びびり周波数fcが第1周波数範囲若しくは第2周波数範囲の何れかの範囲内にあると、どちらの周波数範囲内にあるかを判別し(S6)、第2周波数範囲内にある場合、発生したびびり振動は「刃通過周期型強制びびり振動」であると判断し(S7)、モニター17にその旨を表示する(S11)。一方、びびり周波数fcが第1周波数範囲内にある場合、下記式(10)により、びびり周波数fcより小さく、且つ、最もびびり周波数に近い「回転周期型強制びびり振動」の振動周波数の振動次数Nを求める。また、求めた振動次数Nを用いて、下記式(11)及び(12)により振動次数N及びN+1における「回転周期型強制びびり振動」の発生周波数fCN及びfCN+1を算出するとともに、式(13)及び(14)により振動次数N及びN+1における「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1を算出し、更に下記式(15)を用いて「回転周期型強制びびり振動」であるか「再生型びびり振動」であるかを判別するための判別妥当性Cを算出する(S8)。すなわち、判別妥当性Cを、「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲と「再生型びびり振動」の周波数範囲との割合によって求める。
【0027】
【数8】

【0028】
そして、S8で算出した判別妥当性Cと予め記憶装置13に記憶されている妥当性閾値とを比較し(S9)、判別妥当性Cが妥当性閾値以上である(S9でYES)と、発生したびびり振動は「回転周期型強制びびり振動」であると判断する(S10)一方、判別妥当性Cが妥当性閾値に満たない場合(S7でNO)には、発生したびびり振動は「再生型びびり振動」であると判断し(S5)、夫々その旨をモニター17に表示する(S11)。
そして、作業者が、モニター17における表示結果にもとづいて発生しているびびり振動の種類を判別し、発生したびびり振動に応じて回転軸3の回転速度を変更すれば、びびり振動は抑制されることになる。
【0029】
以上のような構成を有する振動抑制装置10によれば、びびり振動の発生を検出すると、パラメータ演算装置15において第1周波数範囲や第2周波数範囲を求めるとともに、回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfを考慮し、更に「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲と「再生型びびり振動」の周波数範囲との割合によって求めた判別妥当性Cをもとにして、発生したびびり振動が「再生型びびり振動」であるか、「回転周期型強制びびり振動」であるか、それとも「刃通過周期型強制びびり振動」であるかを判別する。つまり、回転軸の回転速度と、びびり振動のびびり周波数との関係を示す図5で見てみると、本実施形態に係る判別方法によれば点線で示す範囲が「強制びびり振動」と判別する範囲となり、従来のk’値を用いた判別方法と異なり、「強制びびり振動」と判別する範囲が回転速度及びびびり周波数に比例して広くなったりしない。また、上記の如く各種検出誤差や判別妥当性Cを考慮している。したがって、従来よりも「再生型びびり振動」であるか「強制びびり振動」であるかを精度良く判別することができるし、従来検出できなかった「回転周期型強制びびり振動」も検出することができ、ひいてはびびり振動の一層確実な抑制を期待することができる。
【0030】
また、判別したびびり振動の種類をモニター17に表示するため、作業者は発生しているびびり振動の種類を容易に把握することができ、その種類に応じた効果的な対応を迅速にとることができる。したがって、短時間でびびり振動を抑制することができるため、加工面の仕上げ精度の悪化や工具の摩耗等を最小限に抑えることができることになる。
【0031】
なお、本発明に係る振動判別装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、検出手段、及びびびり振動の種類の判別に係る制御や判別後の制御等に係る構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0032】
たとえば、上記実施形態では、第1周波数範囲や第2周波数範囲を求めるに際し、式(8)で算出するオフセット値ofsや式(9)で算出するオフセット値offを用いているが、より明確に第1周波数範囲や第2周波数範囲を特定するために、回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfに所定の分解能余裕値mを掛けた下記式(16)や式(17)で第1周波数範囲や第2周波数範囲を求めるようにしてもよい。なお、分解能余裕値mとは、回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfを用いるに際し、基準となる値(図5や図6における実線値)の誤差をも考慮に入れるための余裕値であって、たとえば図6に示すようにm=1.5を採用すると、上記誤差をも考慮に入れた極めて精度の良い「再生型びびり振動」と「強制びびり振動」との判別が可能となる。また、分解能余裕値mとしては、m=1.5である必要はなく、m=1.5以上の値を採用することも可能である。
【0033】
【数9】

【0034】
また、判別妥当性Cを算出するに際しての振動次数N及びN+1における「回転周期型強制びびり振動」の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1についても、式(13)及び式(14)で求める代わりに、上記同様に所定の分解能余裕値mを用いた下記式(18)及び式(19)で求めても何ら問題はない。
【0035】
【数10】

【0036】
さらに、上記実施形態では、振動センサにより回転軸の振動加速度を検出するよう構成しているが、振動による回転軸の変位や音圧を検出し、当該変位や音圧にもとづいて安定回転速度を算出するようにしてもよく、他には、回転軸の位置や回転を検出する検出器、回転軸モータや送り軸モータの電流を測定する電流測定器を検出手段として採用することも可能である。
さらにまた、振動抑制装置において、びびり振動の種類を判別した後、夫々の種類に対応した演算式(たとえば、特許文献1に記載されているような演算式)を用いて当該びびり振動を抑制可能な安定回転速度を算出し、NC装置が自動的に安定回転速度へと回転速度を変更するようにすることも可能である。
【0037】
またさらに、「びびり振動」の検出にあたって、周波数領域の振動加速度が最大値を示す波形のみではなく、周波数領域の振動加速度の値が上位となる複数(たとえば、3つ)の波形を用いるようにし、「びびり振動」の検出精度の向上を図ってもよい。
加えて、上記実施形態では、工作機械の回転軸における振動を検出する構成としているが、回転しない側(固定側)の振動を検出し、びびり振動の発生の有無を検出してもよい。また、工具を回転させるマシニングセンタに限らず、ワークを回転させる旋盤等といった工作機械にも適用可能であるし、振動センサ等の設置位置や設置数、閾値や判別妥当性と比較する閾値等を、工作機械の種類、大きさ等に応じて適宜変更してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1・・回転軸ハウジング、2a、2b、2c・・振動センサ(検出手段)、3・・回転軸、5・・制御装置、10・・振動抑制装置(振動判別装置)、11・・FFT演算装置、12・・入力装置、13・・記憶装置、14・・演算装置、15・・パラメータ演算装置、16・・NC装置(表示装置)、17・・モニター、18・・回転速度検出装置(検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記びびり振動の発生の有無を検出するとともに、前記回転軸にびびり振動が発生した際に生じる振動情報にもとづき、発生した前記びびり振動の種類を判別する振動判別方法であって、
回転中の前記回転軸の時間領域での振動及び前記回転軸の回転速度を検出する第1工程と、
前記時間領域の振動をもとに、びびり周波数及び該びびり周波数における周波数領域の振動を算出するとともに、算出した前記周波数領域の振動が所定の閾値を超えた場合に前記びびり振動が発生したと判断する第2工程と、
前記回転軸の1分あたりの回転速度Sを用いた下記式(6)で回転周波数fcsを算出するとともに、前記回転周波数fcsを整数倍した値にオフセット値ofsを加算及び減算した値をそれぞれ上限及び下限とした第1周波数範囲と、回転速度S及び工具刃数Zを用いた下記式(7)で刃通過周波数fcfを算出するとともに、前記刃通過周波数fcfを整数倍した値にオフセット値offを加算及び減算した値を夫々上限及び下限とした第2周波数範囲とを求める第3工程と、
前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れかの範囲に入るか否かを判断し、何れの範囲にも入らない場合には、前記びびり振動は再生型びびり振動であると判別する第4工程と、
前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れかの範囲に入る場合には、前記びびり周波数が前記第1周波数範囲若しくは前記第2周波数範囲の何れに入るかを特定し、前記第2周波数範囲に入る場合には、前記びびり振動は刃通過周期型強制びびり振動であると判別する第5工程と、
前記第1周波数範囲に入る場合には、前記第1周波数範囲と再生型びびり振動として判別される周波数範囲との割合から判別妥当性を求めるとともに、前記判別妥当性にもとづいて前記びびり振動が前記回転周期型強制びびり振動であるか若しくは前記再生型びびり振動であるかを判別する第6工程と
を実行することを特徴とする振動判別方法。
【数1】

【請求項2】
前記第3工程において、前記オフセット値ofsを、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた下記式(8)で算出するとともに、前記オフセット値offを、工具刃数Z、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた下記式(9)で算出することを特徴とする請求項1に記載の振動判別方法。
【数2】

【請求項3】
前記第3工程において、前記オフセット値ofsを、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び前記回転速度検出分解能ΔSや周波数分解能Δfの基準となる値の誤差を考慮するために必要な余裕値である分解能余裕値mを用いた下記式(16)で算出するとともに、前記オフセット値offを、工具刃数Z、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び分解能余裕値mを用いた下記式(17)で算出することを特徴とする請求項1に記載の振動判別方法。
【数3】

【請求項4】
前記第6工程において、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の発生周波数fCN及びfCN+1を、回転速度S及び振動次数Nを用いた下記式(11)及び(12)で算出するとともに、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1を、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、及び周波数分解能Δfを用いた式(13)及び(14)で算出し、更に下記式(15)を用いて判別妥当性Cを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の振動判別方法。
【数4】

【請求項5】
前記第6工程において、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の発生周波数fCN及びfCN+1を、回転速度S及び振動次数Nを用いた下記式(11)及び(12)で算出するとともに、振動次数N及びN+1における回転周期型強制びびり振動の周波数範囲のオフセット値ofSN及びofSN+1を、振動次数N、回転速度検出分解能ΔS、周波数分解能Δf、及び分解能余裕値mを用いた式(18)及び(19)で算出し、更に下記式(15)を用いて判別妥当性Cを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の振動判別方法。
【数5】

【請求項6】
工具又はワークを回転させるための回転軸を備えた工作機械において、前記回転軸を回転させた際に生じるびびり振動の種類を判別するための振動判別装置であって、
回転中の前記回転軸による時間領域の振動及び前記回転軸の回転速度を検出するための検出手段と、該検出手段により検出された時間領域の振動にもとづいて、びびり周波数及び該びびり周波数における周波数領域の振動を算出するFFT演算装置と、
請求項1に記載の方法により第1周波数範囲及び第2周波数範囲を求めるパラメータ演算装置と、
前記周波数領域の振動が所定の閾値を超えた場合に前記びびり振動が発生したと判断するとともに、請求項1に記載の方法により前記第1周波数範囲及び前記第2周波数範囲にもとづき前記びびり振動の種類を判別する演算装置と、
判別した前記びびり振動の種類を表示する表示装置と
を備えたことを特徴とする振動判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−213851(P2012−213851A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−63979(P2012−63979)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】