説明

振動制御装置

【課題】制振手段のエネルギ消費量及び出力を低減することができ、制振手段が小型で移動体への搭載性を高く、エネルギ効率を高くすることができるようにする。
【解決手段】荷重支持部は、第1方向に移動可能、かつ、第2方向に移動不能に設置部に取り付けられ、カウンタバランス部は、第1方向に移動不能、かつ、第2方向に移動可能に設置部に取り付けられたスライダと、設置部に一端が固定された荷重支持用ばね部材と、一端がスライダに枢支され、他端が荷重支持部に枢支され、中間部が荷重支持用ばね部材の他端に枢支された天秤部と、天秤部に配設されレバー比を調整するプリロード調整手段とを備え、振動制御部は、荷重支持部の変位を抑制する制振手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両や、船舶及び飛行機を含む陸海空の各種移動体に設置されている座席には、設置されている床等から振動が伝達される。そこで、このような振動を抑制又は低減するために、座席の下に配設された直動型電動アクチュエータの動作を制御する振動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図2は従来の振動制御装置を示す図である。
【0004】
図2(a)に示される例においては、座席111と該座席111が設置されている床112との間にアクチュエータ121が配設され、該アクチュエータ121によって前記座席111が支持されるようになっている。また、図2(b)に示される例においては、座席111と床112との間にスプリング122も配設され、アクチュエータ121のみならず、スプリング122によっても座席111が支持されるようになっている。
【特許文献1】特開平11−180202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の振動制御装置においては、図2(a)に示されるように、座席111がアクチュエータ121のみによって支持される場合、座席111を支持するために常にアクチュエータ121が出力を発揮する必要があるので、アクチュエータ121によるエネルギ消費量が多くなってしまう。
【0006】
また、図2(b)に示されるように、座席111がアクチュエータ121及びスプリング122によって支持される場合、座席111の荷重がスプリング122のばね力と釣り合っていれば、アクチュエータ121が出力を発揮する必要がなく、アクチュエータ121によるエネルギ消費を抑制することができる。しかし、座席111の振動を抑制するためには、スプリング122の振動も抑制する必要があるので、アクチュエータ121は、スプリング122のばね力を打ち消すための出力も含めた大きな出力を発揮する必要がある。
【0007】
本発明は、前記従来の振動制御装置の問題点を解決して、制振手段のエネルギ消費量及び出力を低減することができ、制振手段が小型で移動体への搭載性が高く、エネルギ効率の高い振動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明の振動制御装置においては、設置部に取り付けられた荷重支持部と、該荷重支持部に連結され、荷重と釣り合う負荷を付与するカウンタバランス部と、前記荷重支持部の設置部に対する振動を制御する振動制御部とを有する振動制御装置であって、前記荷重支持部は、第1方向に移動可能、かつ、第2方向に移動不能に前記設置部に取り付けられ、前記カウンタバランス部は、第1方向に移動不能、かつ、第2方向に移動可能に前記設置部に取り付けられたスライダと、前記設置部に一端が固定された荷重支持用ばね部材と、一端が前記スライダに枢支され、他端が前記荷重支持部に枢支され、中間部が前記荷重支持用ばね部材の他端に枢支された天秤(びん)部と、該天秤部に配設されレバー比を調整するプリロード調整手段とを備え、前記振動制御部は、前記荷重支持部の変位を抑制する制振手段を備える。
【0009】
本発明の他の振動制御装置においては、さらに、前記制振手段は、前記スライダに連結され、該スライダの第2方向の変位を抑制することにより、前記荷重支持部の第1方向の変位を抑制する。
【0010】
本発明の更に他の振動制御装置においては、さらに、前記制振手段は、前記荷重支持部に連結され、前記荷重支持部の第1方向の変位を抑制する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、カウンタバランス部が荷重との釣り合いを取っているので、制振手段が荷重を支持するための出力を発揮させる必要がないので、制振手段のエネルギ消費量及び出力を低減することができる。そして、制振手段を小型化することができるので、振動制御装置の移動体への搭載性が向上する。また、スライダが荷重支持部ではなく、設置部に取り付けられているので、スライダの騒音や振動が乗員に伝達されることがない。
【0012】
請求項2の構成によれば、制振手段の第2方向の変位が荷重支持部の第1方向の変位に変換されるので、制振手段をわずかに変位させただけでも、荷重支持部を大きく変位させることができ、制振手段を作動させることによる荷重支持部の振動制御における応答性を向上させ、制御性を高めることができる。また、制振手段の騒音や振動が乗員に伝達されることがない。
【0013】
請求項3の構成によれば、制振手段を大きく変位させても、荷重支持部の変位が大きくならないので、荷重支持部の微小変位の制御が可能となり、制振手段を作動させることによる荷重支持部の振動制御における正確性を向上させ、制御性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の構成を示す図である。
【0016】
図において、10は、本実施の形態における振動制御装置であり、例えば、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両や、船舶及び飛行機を含む陸海空の各種移動体に設置されている座席11に、移動体から伝達される振動を抑制又は低減するために使用される。
【0017】
そして、前記振動制御装置10は、設置部12に取り付けられた荷重支持部20、該荷重支持部20の設置部12に対する振動を抑制する振動制御部30、及び、前記荷重支持部20に連結され、荷重と釣り合う負荷を付与するカウンタバランス部40を有する。
【0018】
前記荷重支持部20は、荷重支持部材21を備え、該荷重支持部材21上に座席11が取り付けられている。なお、荷重支持部材21と座席11とは一体的に形成されていてもよいが、ここでは、別個に形成されているものとして説明する。また、前記荷重支持部材21は、第1方向に延在する第1方向部21a、及び、前記第1方向と交差する第2方向に延在する第2方向部21bを備える。なお、前記荷重支持部材21の第2方向部21bと座席11との間には、検知手段としての荷重センサ13及び加速度センサ14が配設されている。
【0019】
また、前記設置部12は、移動体の床等に取り付けられ、前記第1方向に延在する第1方向部12a、及び、前記第2方向に延在する第2方向部12bを備える。図に示される例において、前記第1方向は上下(鉛直)方向であり、前記第2方向は水平方向であるが、これに限定することなく、前記第1方向及び第2方向はいかなる方向に設定することもできる。また、前記第1方向と第2方向とは必ずしも直交する必要はなく、相互に交差する角度は、任意に設定することができる。なお、本実施の形態においては、説明の都合上、前記第1方向は上下方向であり、前記第2方向は水平方向である場合について説明する。
【0020】
そして、前記荷重支持部材21は、図において矢印で示されるように、第1方向に移動可能、かつ、第2方向に移動不能に、前記設置部12に取り付けられている。具体的には、荷重支持部材21の第1方向部21aに移動手段としての第1スライド部材22が取り付けられ、設置部12の第1方向部12aに第1スライドレール23が取り付けられ、第1スライド部材22が第1スライドレール23に対して第1方向にスライド可能、かつ、第2方向に移動不能に係合している。例えば、第1スライド部材22と第1スライドレール23との間にボール、ローラ等の転動体を介在させることによって、第1スライド部材22を第1スライドレール23に対してスムーズにスライドさせることができる。
【0021】
また、前記カウンタバランス部40は、移動手段としてのスライダ41、天秤部としての天秤ロッド44、プリロード調整手段としてのプリロード調整用アクチュエータ45、及び、荷重支持用ばね部材としてのスプリング46を備える。
【0022】
ここで、前記スライダ41は、図において矢印で示されるように、第2方向に移動可能、かつ、第1方向に移動不能に、前記設置部12に取り付けられている。具体的には、スライダ41に第2スライド部材42が取り付けられ、設置部12の第2方向部12bに第2スライドレール43が取り付けられ、第2スライド部材42が第2スライドレール43に対して第2方向にスライド可能、かつ、第1方向に移動不能に係合している。例えば、第2スライド部材42と第2スライドレール43との間にボール、ローラ等の転動体を介在させることによって、第2スライド部材42を第2スライドレール43に対してスムーズにスライドさせることができる。
【0023】
そして、前記天秤ロッド44は、長手方向の一端(図における左端)に支点部44aを備え、該支点部44aにおいて、前記スライダ41の上面にピボット結合、すなわち、枢支されている。これにより、前記天秤ロッド44は、支点部44aを中心としてスライダ41に対して回転することができる。また、前記天秤ロッド44は、長手方向の他端(図における右端)に作用点部44bを備え、該作用点部44bにおいて、前記荷重支持部材21の第2方向部21bの下面にピボット結合、すなわち、枢支されている。さらに、前記天秤ロッド44は、長手方向の中間に力点部44cを備え、該力点部44cにおいて、前記スプリング46の上端にピボット結合、すなわち、枢支されている。
【0024】
また、前記プリロード調整用アクチュエータ45は、天秤ロッド44に配設され、該天秤ロッド44における作用点部44b及び力点部44c間の距離を調整する。具体的には、前記プリロード調整用アクチュエータ45は、伸縮可能な伸縮ロッド45aを備え、天秤ロッド44における作用点部44bと力点部44cとの間の部分に組み込まれ、前記伸縮ロッド45aを伸張させることによって作用点部44b及び力点部44c間の距離を長くし、前記伸縮ロッド45aを収縮させることによって作用点部44b及び力点部44c間の距離を短くする。これにより、天秤ロッド44における支点部44a及び力点部44c間の距離と支点部44a及び作用点部44b間の距離との比、すなわち、梃子(てこ)として機能する天秤ロッド44のレバー比を調整することができる。なお、前記プリロード調整用アクチュエータ45を、天秤ロッド44における支点部44aと力点部44cとの間の部分に組み込んで、支点部44a及び力点部44c間の距離を調整することもできる。
【0025】
前記スプリング46は、荷重支持部20に荷重と釣り合う負荷を付与するための付勢手段として機能する。ここで、前記スプリング46は、例えば、コイルスプリングから成る圧縮ばねであり、上端が、前述のように、天秤ロッド44の力点部44cを枢支するとともに、下端が設置部12の第2方向部12bの上面に固定されている。そして、座席11の荷重が、荷重支持部材21及び天秤ロッド44を介して、下向きの力として力点部44cに作用するので、前記スプリング46は、前記力点部44cに作用する下向きの力によって圧縮されることにより、その反力としてのばね力を発揮して、座席11の荷重を支持する。
【0026】
また、前記振動制御部30は、荷重支持部20の変位を抑制する制振手段としての制振用アクチュエータ31を備える。該制振用アクチュエータ31は、その本体が設置部12(図に示される例においては第1方向部12a)に固定されるとともに、前記本体に対して第2方向に伸縮可能な伸縮ロッド31aの自由端(図における右端)がスライダ41に連結されている。そして、前記本体内に配設されたボイスコイルモータ、リニアモータ、通常のモータとボールねじ機構とを組み合わせたもの等の駆動源によって前記伸縮ロッド31aを、図において矢印で示されるように、第2方向に伸縮させることにより、前記スライダ41を第2方向に変位させることができる。
【0027】
このように、スライダ41を第2方向に変位させることによって、荷重支持部材21を第1方向に変位させることができる。これは、傾斜した天秤ロッド44の支点部44aがスライダ41に取り付けられ、作用点部44bが荷重支持部材21に取り付けられているところ、スライダ41は第1方向に移動不能、かつ、荷重支持部材21は第2方向に移動不能となっているのであるから、スライダ41を第2方向に変位させると、前記天秤ロッド44の支点部44a及び作用点部44b間の第2方向の距離が変化することによって、天秤ロッド44の傾斜が変化して、その結果、支点部44a及び作用点部44b間の第1方向の距離も変化するためである。例えば、制振用アクチュエータ31の伸縮ロッド31aを伸張させると、スライダ41が図における右方向に変位するので、天秤ロッド44が反時計回り方向に回転し、荷重支持部材21及び座席11が上方向に変位する。また、例えば、制振用アクチュエータ31の伸縮ロッド31aを収縮させると、スライダ41が図における左方向に変位するので、天秤ロッド44が時計回り方向に回転し、荷重支持部材21及び座席11が下方向に変位する。
【0028】
したがって、振動によって座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21が変位する方向と逆方向の変位を荷重支持部材21に与えるように制振用アクチュエータ31を作動させることにより、振動による荷重支持部材21の変位を抑制し、座席11の振動を抑制又は低減することができる。
【0029】
なお、前記制振用アクチュエータ31の動作は、荷重センサ13及び加速度センサ14の検出信号に基づいて制御される。前記荷重センサ13は、荷重支持部材21に座席11から加えられる荷重を検出するセンサである。そして、プリロード調整用アクチュエータ45の動作は、主として、荷重センサ13の検出信号に基づいて制御される。また、加速度センサ14は、荷重支持部材21の加速度を検出するセンサである。そして、制振用アクチュエータ31の動作は、主として、加速度センサ14の検出信号に基づいて制御される。なお、加速度センサ14に代えて、荷重支持部材21の速度を検出する速度センサや荷重支持部材21の変位を検出する変位センサを使用することもできる。
【0030】
なお、各部材の配置は、図に示される例に限定されるものではなく、相互に干渉せず、正常に機能すれば、任意に変更することができる。
【0031】
次に、振動制御装置10の動作を制御する制御ユニットについて説明する。
【0032】
図3は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のユニットの構成を示すブロック図である。
【0033】
図において、50は、制御手段としてのECU(Electronic Control Unit)であり、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、荷重センサ13及び加速度センサ14の検出信号に基づいて、制振用アクチュエータ31及びプリロード調整用アクチュエータ45の動作を制御する。さらに、前記ECU50は、移動体に配設された他のセンサ、及び、移動体の制御手段としての図示されない移動体用ECUと連携して、制御を行うものであってもよい。
【0034】
次に、前記構成の振動制御装置10の動作について説明する。まず、プリロードを調整する動作について説明する。
【0035】
図4は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の乗員着座前後の状態を示す図、図5は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のプリロードを調整する動作を示すフローチャートである。なお、図4(a)は乗員が着座する前の状態を示し、図4(b)は乗員が着座した後の状態を示している。
【0036】
まず、プリロードを調整する場合、移動体が停止し、座席11が振動していない状態において、荷重センサ13は、荷重支持部材21に座席11から加えられる荷重の値、すなわち、荷重値を検出する(ステップS1)。そして、過去の一定時間に亘(わた)って荷重センサ13が検出した荷重値がECU50によって読み込まれる(ステップS2)。
【0037】
続いて、該ECU50は、読み込んだ過去の一定時間に亘る荷重値に基づいて、基準荷重値を算出する(ステップS3)。該基準荷重値は、例えば、前記荷重値の平均値である。そして、ECU50は、前記基準荷重値に基づいて、プリロード調整用アクチュエータ45を作動させ(ステップS4)、プリロードを調整する。この場合、プリロード調整用アクチュエータ45の伸縮ロッド45aを伸張又は収縮させることによって天秤ロッド44のレバー比を調整し、作用点部44bに加えられる荷重と、力点部44cに加えられるスプリング46のばね力とが釣り合うようにする。
【0038】
このようにしてプリロードが調整されると、座席11は、スプリング46の発揮するばね力によって支持され、第1方向に移動せずに静止した状態となる。すなわち、荷重がスプリング46によってキャンセルされた状態となる。そのため、制振用アクチュエータ31が荷重を支持するための出力を発揮させる必要がない。
【0039】
例えば、図4(a)に示されるように、だれも着座していない状態の座席11に乗員16が着座すると、図4(b)に示されるようになる。この場合、荷重支持部材21に座席11から加えられる荷重は、乗員16の体重分だけ増加し、天秤ロッド44の作用点部44bに加えられる下向きの力が増加する。
【0040】
そこで、ECU50は、プリロード調整用アクチュエータ45を作動させてプリロードを調整し、荷重によって作用点部44bに加えられる力と、力点部44cに加えられるスプリング46のばね力とが梃子の原理に従って釣り合うようにする。具体的には、プリロード調整用アクチュエータ45の伸縮ロッド45aを収縮させて支点部44a及び作用点部44b間の距離を減少させることにより、作用部44bに加えられる増加した荷重と、力点部44cに加えられるスプリング46のばね力とが梃子の原理に従って釣り合うように、天秤ロッド44のレバー比を調整する。
【0041】
このように、プリロード調整用アクチュエータ45を作動させることにより、荷重が変化した場合でも、荷重はスプリング46の発揮するばね力によって支持され、制振用アクチュエータ31が荷重を支持するための出力を発揮させる必要がない。そのため、制振用アクチュエータ31は、出力がゼロの状態から、振動制御のためのみに出力を発揮すればよいこととなる。
【0042】
次に、座席11が振動している場合における振動制御の動作について説明する。
【0043】
図6は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の振動制御を行っている状態を示す図、図7は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の制振用アクチュエータによる変位と座席の変位との関係を示すグラフ、図8は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の振動制御のシミュレーション結果を示すグラフ、図9は本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のプリロードを調整する動作を示すフローチャートである。なお、図6(a)は制振用アクチュエータを伸張させる場合を示し、図6(b)は制振用アクチュエータを収縮させる場合を示し、図8(a)及び(b)は従来例のシミュレーション結果を示し、図8(c)は本実施の形態のシミュレーション結果を示している。
【0044】
まず、座席11が振動している状態において、荷重センサ13は、荷重支持部材21に座席11から加えられる荷重の値、すなわち、振動時荷重値を検出する(ステップS11)。そして、ECU50は、検出された振動時荷重値がプリロードを調整する場合に算出した基準荷重値と等しいか否かを判断する(ステップS12)。そして、振動時荷重値と基準荷重値とが等しい場合、ECU50は振動制御の処理を終了する。
【0045】
また、振動時荷重値と基準荷重値とが等しくない場合、ECU50は、振動時荷重値が基準荷重値より大きいか否かを判断する(ステップS13)。そして、振動時荷重値が基準荷重値より大きい場合、ECU50は、伸縮ロッド31aを伸張させるように制振用アクチュエータ31の動作を制御する、すなわち、制振用アクチュエータ31を伸張させる(ステップS14)。
【0046】
振動時荷重値が基準荷重値より大きいと、図6(a)に示されるように、座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21が下方向に変位した状態となる。前述のように、傾斜した天秤ロッド44の支点部44aがスライダ41に取り付けられ、作用点部44bが荷重支持部材21に取り付けられているところ、スライダ41は第1方向に移動不能、かつ、荷重支持部材21は第2方向に移動不能となっているのであるから、スライダ41を第2方向に移動させることによって荷重支持部材21を第1方向に移動させることができるだけでなく、荷重支持部材21を第1方向に移動させることによってスライダ41を第2方向に移動させることもできる。そのため、荷重支持部材21が下方向に変位すると、天秤ロッド44が時計回り方向に回転し、スライダ41が図における左方向に変位する。
【0047】
そこで、制振用アクチュエータ31を作動させて伸縮ロッド31aを伸張させることによって、スライダ41を図における右方向に変位させて荷重支持部材21を上方向に変位させるようにして、振動による荷重支持部材21の下方向の変位を打ち消すことができる。これにより、座席11の振動を抑制又は低減することができる。
【0048】
また、振動時荷重値が基準荷重値より大きいか否かを判断し、振動時荷重値が基準荷重値より大きくない場合、すなち、振動時荷重値が基準荷重値より小さい場合、ECU50は、伸縮ロッド31aを収縮させるように制振用アクチュエータ31の動作を制御する、すなわち、制振用アクチュエータ31を収縮させる(ステップS15)。
【0049】
振動時荷重値が基準荷重値より小さいと、図6(b)に示されるように、座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21が上方向に変位した状態となる。そして、荷重支持部材21が上方向に変位すると、天秤ロッド44が反時計回り方向に回転し、スライダ41が図における右方向に変位する。
【0050】
そこで、制振用アクチュエータ31を作動させて伸縮ロッド31aを収縮させることによって、スライダ41を図における左方向に変位させて荷重支持部材21を下方向に変位させるようにして、振動による荷重支持部材21の上方向の変位を打ち消すことができる。これにより、座席11の振動を抑制又は低減することができる。
【0051】
なお、本実施の形態においては、前記伸縮ロッド31aの自由端の変位、すなわち、制振用アクチュエータ31の第2方向の変位をスライダ41及び天秤ロッド44を含む一種のリンク機構を介して、荷重支持部材21の第1方向の変位に変換しているので、図7に示されるように、制振用アクチュエータ31の変位に関して、座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21の変位が敏感になっている。すなわち、前記リンク機構へのインプットである制振用アクチュエータ31の変位に対するアウトプットである座席11の変位のゲインが大きくなっているので、制振用アクチュエータ31をわずかに変位させただけでも、座席11を大きく変位させることができる。したがって、制振用アクチュエータ31を作動させることによる座席11の振動制御における応答性を向上させ、制御性を高めることができる。
【0052】
また、前述のように、プリロード調整用アクチュエータ45により、荷重はスプリング46の発揮するばね力によって支持され、制振用アクチュエータ31は、荷重を支持するための出力を発揮させる必要がなく、出力がゼロの状態から、振動制御のためのみに出力を発揮すればよいのであるから、制振用アクチュエータ31の出力が少なくて済む。また、図8(c)には、振動制御のシミュレーションを行った結果として、前記制振用アクチュエータ31の出力としての仕事率の変化が示されている。この場合、前記シミュレーションでは、移動体としての車両が、振幅25〔mm〕及び周期750〔mm〕の波状路を速度70〔km/h〕で走行する条件で、座席11の振動をゼロにするために必要な制振用アクチュエータ31の仕事率を求めた。
【0053】
なお、図8(a)には、「背景技術」の項において説明した図2(a)に示されるような構成の従来の振動制御装置を使用したシミュレーションを行った結果が示されており、図8(b)には、同様に、図2(b)に示されるような構成の従来の振動制御装置を使用したシミュレーションを行った結果が示されている。図8(c)を図8(a)及び(b)と比較することによって、本実施の形態における振動制御装置10が消費するエネルギ量がいかに少ないかを容易に理解することができる。
【0054】
このように、本実施の形態においては、カウンタバランス部40が、スライダ41、天秤ロッド44、プリロード調整用アクチュエータ45及びスプリング46を備え、プリロード調整用アクチュエータ45によって天秤ロッド44のレバー比を調整し、座席11の荷重をスプリング46の発揮するばね力によって支持して、釣り合いを取るようになっている。これにより、制振用アクチュエータ31は、荷重を支持するための出力を発揮させる必要がなく、出力がゼロの状態から、振動制御のためのみに出力を発揮すればよい。そのため、制振用アクチュエータ31の出力を低減させることができ、制振用アクチュエータ31の消費するエネルギ量を抑制することができ、制振用アクチュエータ31を小型化することができる。したがって、振動制御装置10を小型化して、座席11の下方の狭いスペースに配設することができる。
【0055】
また、スライダ41は、座席11又は該座席11を支持する荷重支持部材21ではなく、移動体の床等に取り付けられた設置部12の第1方向部12aに取り付けられている。そのため、スライダ41がスライドする際に不可避的に発生する騒音や振動が座席11に着座している乗員16に伝達されることがない。したがって、座席11の座り心地が向上する。
【0056】
さらに、制振用アクチュエータ31の第2方向の変位をスライダ41及び天秤ロッド44を含む一種のリンク機構を介して、荷重支持部材21の第1方向の変位に変換するようになっている。そのため、制振用アクチュエータ31をわずかに変位させただけでも、座席11を大きく変位させることができ、制振用アクチュエータ31を作動させることによる座席11の振動制御における応答性を向上させ、制御性を高めることができる。また、制振用アクチュエータ31が、座席11又は該座席11を支持する荷重支持部材21を直接に変位させないので、制振用アクチュエータ31が作動する際に不可避的に発生する騒音や振動が座席11に着座している乗員16に伝達されることがない。したがって、座席11の座り心地が向上する。
【0057】
さらに、スプリング46は、圧縮されることによってその反力としてのばね力を発揮するタイプ、すなわち、圧縮ばねなので、端部の加工が容易であり、かつ、汎(はん)用品の入手が容易である。そのため、スプリング46のコストを低減することができ、それにより、振動制御装置10のコストを低減することができる。
【0058】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0059】
図10は本発明の第2の実施の形態における振動制御装置の構成を示す図、図11は本発明の第2の実施の形態における振動制御装置の制振用アクチュエータによる変位と座席の変位との関係を示すグラフである。
【0060】
本実施の形態において、振動制御部30の制振用アクチュエータ31は、その本体が設置部12(図に示される例においては第2方向部12b)に固定されるとともに、前記本体に対して第1方向に伸縮可能な伸縮ロッド31aの自由端(図における上端)が荷重支持部材21に連結されている。そして、前記本体内に配設された駆動源によって前記伸縮ロッド31aを、図において矢印で示されるように、第1方向に伸縮させることにより、前記荷重支持部材21を第1方向に変位させることができる。
【0061】
したがって、振動によって座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21が変位する方向と逆方向の変位を荷重支持部材21に与えるように制振用アクチュエータ31を作動させることにより、振動による荷重支持部材21の第1方向の変位を抑制し、座席11の振動を抑制又は低減することができる。
【0062】
なお、前記第1の実施の形態においては、制振用アクチュエータ31の第2方向の変位をスライダ41及び天秤ロッド44を含む一種のリンク機構を介して、荷重支持部材21の第1方向の変位に変換するようになっているのに対し、本実施の形態においては、制振用アクチュエータ31の第1方向の変位を直接に荷重支持部材21に伝達して該荷重支持部材21を第1方向に変位させるようになっている。そのため、前記リンク機構を介することによって生じる摩擦等によるエネルギ損失がないので、より効率的に座席11の振動制御を行うことができる。
【0063】
また、前記リンク機構を介さないので、図11に示されるように、制振用アクチュエータ31の変位に関して、座席11及び該座席11を支持する荷重支持部材21の変位が鈍感になっている。すなわち、制振用アクチュエータ31の変位に対する座席11の変位が小さくなっているので、制振用アクチュエータ31を大きく変位させても、座席11の変位が大きくならない。したがって、座席11の微小変位の制御が可能となり、制振用アクチュエータ31を作動させることによる座席11の振動制御における正確性を向上させ、制御性を高めることができる。
【0064】
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0065】
このように、本実施の形態においては、制振用アクチュエータ31が荷重支持部材21に連結され、制振用アクチュエータ31の第1方向の変位を直接に荷重支持部材21に伝達するようになっている。そのため、制振用アクチュエータ31を大きく変位させても、座席11の変位が大きくならないので、制振用アクチュエータ31を作動させることによる座席11の振動制御における正確性を向上させ、制御性を高めることができる。また、リンク機構等を介することによって生じる摩擦等によるエネルギ損失がないので、より効率的に座席11の振動制御を行うことができる。
【0066】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の構成を示す図である。
【図2】従来の振動制御装置を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のユニットの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の乗員着座前後の状態を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のプリロードを調整する動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の振動制御を行っている状態を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の制振用アクチュエータによる変位と座席の変位との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置の振動制御のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】本発明の第1の実施の形態における振動制御装置のプリロードを調整する動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施の形態における振動制御装置の構成を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態における振動制御装置の制振用アクチュエータによる変位と座席の変位との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
10 振動制御装置
12 設置部
20 荷重支持部
30 振動制御部
31 制振用アクチュエータ
40 カウンタバランス部
41 スライダ
44 天秤ロッド
45 プリロード調整用アクチュエータ
46 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置部に取り付けられた荷重支持部と、
該荷重支持部に連結され、荷重と釣り合う負荷を付与するカウンタバランス部と、
前記荷重支持部の設置部に対する振動を制御する振動制御部とを有する振動制御装置であって、
前記荷重支持部は、第1方向に移動可能、かつ、第2方向に移動不能に前記設置部に取り付けられ、
前記カウンタバランス部は、第1方向に移動不能、かつ、第2方向に移動可能に前記設置部に取り付けられたスライダと、前記設置部に一端が固定された荷重支持用ばね部材と、一端が前記スライダに枢支され、他端が前記荷重支持部に枢支され、中間部が前記荷重支持用ばね部材の他端に枢支された天秤部と、該天秤部に配設されレバー比を調整するプリロード調整手段とを備え、
前記振動制御部は、前記荷重支持部の変位を抑制する制振手段を備えることを特徴とする振動制御装置。
【請求項2】
前記制振手段は、前記スライダに連結され、該スライダの第2方向の変位を抑制することにより、前記荷重支持部の第1方向の変位を抑制する請求項1に記載の振動制御装置。
【請求項3】
前記制振手段は、前記荷重支持部に連結され、前記荷重支持部の第1方向の変位を抑制する請求項1に記載の振動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−23429(P2009−23429A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186908(P2007−186908)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】