説明

振動片

【課題】Q値が高く、スプリアスの少ない厚み滑り振動子と、その量産手段を得る。
【解決手段】円形または矩形の平板状の圧電基板の中央に基板の上下に対向する所定の大きさの突起部(メサ部)を一体的に形成すると共に、該突起部の上面と、基板の周縁部(べベル部)の面とが同一球面状になるように圧電基板を構成する。その製造方法は、平板状の圧電基板上にフォトリソ技術とエッチング手法とを用いてメサ形圧電基板を形成し、該圧電基板を研磨剤と共に円筒容器に入れ、所定の回転速度で回転してメサ−ベベル型圧電基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板とその製造方法に関し、特に小型圧電振動子のQ値を高めると共に量産に適した圧電基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子は小型であること、経年変化が小さいこと、高精度、高安定な周波数が容易に得られること等のため、通信機器から電子機器まで広く用いられている。特に厚み滑りモードを主振動とする水晶振動子は数MHzから数百MHz帯で多く用いられている。厚み滑りモードを主振動とする水晶振動子の水晶基板としては、ATカット、BTカット、FCカット、ITカット、SCカット、NYカット等が知られている(例えば、特許文献1を参照)。中でも周波数−温度特性が3次曲線を呈するATカット水晶振動子は携帯電話等に多量に用いられている。
【0003】
ATカット水晶振動子の振動モードは、周知のように厚みすべり振動であり、振動子の周波数は厚さに逆比例する。つまり、水晶振動子の周波数が高くなるに従って水晶基板の厚さは薄くなり、水晶振動子の諸特性は電極の大きさと、電極による周波数低下量に大きく依存することになる。これに対し水晶振動子の周波数が低くなると、水晶基板の厚さに対する輪郭寸法(辺比という)が重要な要素となり、辺比を如何に適切に設定して、高次の輪郭振動を避けるかが設計の要点となる。
【0004】
図3は円板状の水晶基板の構造を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。水晶振動子の周波数が低い場合には、水晶基板11の厚さtに対する直径Dの比、辺比D/tの値が小さくなり、主振動である厚みすべりモードの振動エネルギ分布が十分に中央部に集中せず、端部にまで達することになる。端部に達した振動エネルギは輪郭振動、例えば高次の屈曲振動、高次面滑り振動等を励起し、その結果、主振動のQ値は劣化し、スプリアスの多い水晶振動子となる。そこで、図3(a)に示すように、水晶基板の両端部を研磨し、ベベル12を付加することにより主振動の振動エネルギを中央部に集中させることができる。水晶振動子の設計は、水晶基板11の辺比D/t、ベベル12の幅W、端厚dを如何に設計し、Q値が高く、スプリアスの少ない振動子を実現するかである。
【0005】
図4はプラノコンベック(Plano-convex)型水晶基板の断面図を示す図で、主振動の振動エネルギを基板中央部に集中させるべく、一方の主面をレンズ状(球面状)に研磨した水晶基板であり、主として高安定用水晶振動子に用いられる。他方の主面を平面とすることで、基板の切断角度が保持できるので、プラノコンベック型水晶基板を用いて構成した水晶振動子は、Q値が大きいと共に良好な周波数温度特性を有するという特徴がある。
【0006】
また、図5は両面コンベックス(Double-convex)型水晶基板の断面図を示す図で、高いQ値を有する水晶振動子が得られるが、球面加工の精度により周波数温度特性に若干のバラツキが生ずることがある。
【0007】
最近、水晶振動子の更なる小型化と低価格とが要求されるようになり、これを満たす方法として水晶基板の主面をメサ状に加工したメサ型水晶基板がある。図6(a)、(b)はメサ型水晶基板の断面図を示す図で、平板の水晶基板20にフォトリソ技術とエッチング手法とを用いることにより、同図(a)の斜線部をエッチングし、同図(b)のようなメサ型水晶基板を形成する。このような水晶基板は、フォトリソ技術とエッチング手法とが利用できるので、小型水晶基板を多量にしかも安価に製造することができる。この小型水晶基板の特徴は、主振動の振動エネルギをメサ部に集中させることができるので、Q値の高い水晶振動子を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−284978号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】滝貞夫著、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業出版、49年5月発行
【非特許文献2】V.E.Bottom著、「Introduction to Quartz Crystal Unit Design」、Van Nostrand出版、1982年1月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図6(b)に示すようなメサ型水晶基板の輪郭寸法D、振動部の寸法d、振動部の厚さt、端厚t3、エッチング部の厚さt4を適切に設定しても、形成された水晶基板の寸法のバラツキにより、水晶振動子のQ値がバラツキ、且つスプリアスが発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の発明は、平板状の圧電基板の中央に上下に対向する所定の大きさの突起部を一体的に形成すると共に、該突起部の上面と、平板の周縁部の面とが同一球面状になるように圧電基板を構成することを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、前記圧電基板の形状が円形であることを特徴とする請求項1に記載の圧電基板である。
【0013】
第3の発明は、前記圧電基板の形状が矩形であることを特徴とする請求項1に記載の圧電基板である。
【0014】
第4の発明は、フォトリソ技術及びエッチング手法を用いて、所定の厚さの圧電基板の中央部を残し、周辺部を所定の厚さだけエッチングし、平板部の中央に基板上下に対向する突起部が一体的に形成されたメサ型圧電基板を形成し、該メサ型圧電基板を円筒容器に研磨剤と共に入れ、容器を所定の回転速度で回転させることにより、平板の周縁部と前記突起部の上面とが同一球面状に研磨されることを特徴とする圧電基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の圧電基板は、中央のメサ型構造と基板の周縁部とを球面状に加工したので、主振動の振動エネルギを中央部に閉じ込め、高次の輪郭振動との結合を避けることができ、本圧電基板を用いて構成した圧電振動子のQ値は大きく、且つスプリアスの少ない圧電振動子が実現できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る水晶基板(メサ−ベベル型水晶基板)の構造を示した、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は本発明に係る水晶基板(メサ−ベベル型水晶基板)を製造する過程を示す断面図である。
【図3】従来のベベル加工水晶基板を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図4】プラノ・コンベックス水晶基板の構造を示す断面図である。
【図5】ダブル・コンベックス水晶基板の構造を示す断面図である。
【図6】(a)、(b)はメサ型水晶基板の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係る水晶基板の実施の形態を示す図であって、同図(a)は平面図、同図(b)断面図はである。平板状のATカット水晶基板1の中央部に上下対向する所定の大きさの突起部(メサ部)3を一体的に形成すると共に、該突起部3の上面と、突起部3に連なる平板の周縁部(ベベル部)4の面とが同一球面状になるように構成する。
【0018】
本発明に係る水晶基板(以下、メサ−ベベル型水晶基板と称す)の製造方法について、図2に示す断面図を用いて説明する。はじめに、図2(a)に示すように、フォトリソ技術、エッチング手法を用いて、所定の厚さのATカット平板1の中央部3を残し、周辺部5を所定の厚さだけエッチングし、同図(b)に示すように平板部2の中央に基板上下に対向する突起部3が一体的に形成された水晶基板(メサ型水晶基板)を形成する。次に、該メサ型水晶基板を円筒状の容器に研磨剤と共に入れ、容器を所定の回転速度で回転させることにより、容器の内側側壁に当たる平板の周縁部4が研磨され楔状となる。周縁部4の研磨がすすむと水晶基板1の中央に形成した突起部3の上面が円筒容器の側壁に接触し、摩擦により研磨される。つまり、突起部3の上面と平板の周縁部4の面とは円筒容器の内側形状が転写され、球面状となる。
【0019】
上記のメサ−ベベル型水晶基板を用いて構成した水晶振動子のQ値は、メサ型水晶基板、あるいはベベル型水晶基板を用いて構成した水晶振動子のQ値よりも高く、且つメサ型、ベベル型水晶基板を用いた水晶振動子よりもスプリアスが少ないという特徴がある。この理由は、メサ−ベベル型水晶基板はメサ部の上面が球面状に加工されている上に、基板の周縁部に球面状のベベル加工が施されているので、主振動の振動エネルギがより中央部に集中し、端部で高次の輪郭振動を励起する振動エネルギが小さくできるからと推測される。
【0020】
水晶基板の周縁部が研磨される量は、水晶基板の自重と円筒容器の回転スピードとによりほぼ決まる。そのため、水晶振動子の小型化により水晶基板が小さく、自重が軽くなると、ベベル加工時間の増加をきたす。また、長時間のベベル加工を行うと、水晶基板が円筒容器内を自由に動くため、特に水晶基板の角が必要以上に研磨されるもの、円筒容器の曲率と異なった形状になるもの等がしばしば生じる。本発明のメサ−ベベル型水晶基板は、球面状に加工された突起部(メサ部)により主振動の振動エネルギがメサ部に十分に閉じ込められるので、周縁部のベベル加工量を減らすことができる。例えば図5に示すものの場合、図1(c)に斜線で示すようにベベル加工における研磨量が多いのに対し、予めメサ型に加工した水晶基板については、図1(d)に斜線で示すように研磨量は大幅に少ないのである。ベベル加工時間の減少により水晶基板の形状は、より設計形状に近づいたものが得られ、水晶振動子の諸特性も良好なものが得られる。さらに、ベベル加工時間が少なくできるのでベベルのバラツキも少なく、水晶振動子の諸特性のバラツキも少ないものが得られる。
【0021】
以上では円形の平板を用いて、メサ型水晶基板を形成した後、円筒容器内でベベル加工を行い、メサ−ベベル型水晶基板を形成する工程を説明したが、矩形の平板を用いも同様にメサ−ベベル型水晶基板を構成できることは説明するまでもない。なお、小型のメサ−ベベル型水晶基板を多量に製造するには、フォトリソ技術とエッチング手法を用いて、所定の厚さの大きなATカット基板上にマトリクス状に多数のメサ構造を形成し、カッタで切断して個片にした後、円筒容器を用いてメサ部と平板周縁部に球面加工を施すプロセスが量産に適している。
【0022】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲内において上記の実施形態に様々な変更・変形を加えて実施することができる。例えば、本発明はATカット水晶基板だけでなく、主振動が厚み滑りモードとなる水晶基板(例えばBTカット、FCカット、ITカット、SCカット、NYカット等の水晶基板)にも適用することができる。また、主振動が厚み滑りモードであれば、水晶基板以外の圧電基板(例えばニオブ酸リチウム基板、タンタル酸リチウム基板、四硼酸リチウム基板、ランガサイト基板、圧電セラミックス基板等の圧電基板)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 水晶基板、2 平板部、3 突起部(メサ部)、4 周縁部(ベベル部)、5 エッチングされる部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の圧電基板の中央に上下に対向する所定の大きさの突起部を一体的に形成すると共に、該突起部の上面と、平板の周縁部の面とが同一球面状になるように構成されたことを特徴とする圧電基板。
【請求項2】
前記圧電基板の形状が円形であることを特徴とする請求項1に記載の圧電基板。
【請求項3】
前記圧電基板の形状が矩形であることを特徴とする請求項1に記載の圧電基板。
【請求項4】
フォトリソ技術及びエッチング手法を用いて、所定の厚さの圧電基板の中央部を残し、周辺部を所定の厚さだけエッチングし、平板部の中央に基板上下に対向する突起部が一体的に形成されたメサ型圧電基板を形成し、
該メサ型圧電基板を円筒容器に研磨剤と共に入れ、容器を所定の回転速度で回転させることにより、平板の周縁部と前記突起部の上面とが同一球面状に研磨されることを特徴とする圧電基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−135043(P2012−135043A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68950(P2012−68950)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2006−36078(P2006−36078)の分割
【原出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】