説明

捲縮糸およびそれらを用いてなる繊維構造体

【課題】耐摩耗性に優れるだけでなく、かつ芯鞘界面の耐剥離性にも優れ、外観変化の無い、高品位かつ耐久性に優れる繊維構造体を与える脂肪族ポリエステル捲縮糸、およびそれからなる繊維構造体を提供する。
【解決手段】芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)からなり、鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂(B)からなる芯鞘型複合繊維から構成される捲縮糸であって、以下の(1)〜(3)の物性を具有することを特徴とする捲縮糸。(1)強度:1.5〜3.0cN/dtex(2)単繊維繊度:5〜40dtex(3)沸収:6%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単繊維の芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂を含んでなり、単繊維鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂を含んでなる芯鞘型複合繊維からなる捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、非石油由来の繊維素材の開発が切望されている。従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。このため近年では、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっており、脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。バイオマス由来のプラスチックの中でも、特に微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。しかしながら近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、かつ製造コストも比較的低いバイオマス利用のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0005】
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、石油由来の汎用プラスチックと比較するとやはり高価であり、脂肪族ポリエステル樹脂の生分解性などの特徴を活かせ、かつ価格の通る、ごく少量の用途にしか応用されていないのが現実であった。しかしながら最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。
【0006】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用が期待されている。特に車両内装用、インテリア用のカーペット用途は大型であり、該用途へ利用できれば、大量の繊維を非石油由来素材へと置き換えることが可能となる。すなわちポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂を、上記のような大型の用途へできる限り多く利用し、石油由来の素材を非石油由来の素材へ置き換えることによって、石油資源枯渇、および地球温暖化の問題を和らげられる可能性があるのである。
【0007】
このとき上記のような衣料用途や産業資材用途においてポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを用いるには、少なくとも従来のポリエステルやポリアミドといった汎用樹脂からなる合成繊維と比較して、同等の特性を有することが要求される。そして上記用途に用いられる合成繊維は、未捲縮糸よりも、むしろ柔軟でふくらみ感を有する捲縮糸が多くを占めており、特に捲縮糸において、従来の合成繊維と同等の特性を有するポリ乳酸等の繊維を創出できれば、大きな市場拡大が期待できる。
【0008】
しかしながら、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸は、分子間の相互作用が低いため、外力が加えられた際に繊維の破壊が生じて削れ易い、すなわち耐摩耗性が低く耐久性に乏しいことが大きな問題となる。
【0009】
例えば、耐摩耗性の低いポリ乳酸繊維は、衣料用途などの、比較的低い外力が加わる用途であっても、擦過等により容易に色移りが生じたり、酷い場合には繊維がフィブリル化して白ぼけし品位の低下が著しい。また皮膚に過度の刺激を与える等の問題も生じ易く、実用上の耐久性に乏しいことがわかってきている。衣料用途などの比較的弱い擦過が加わる用途であっても、耐摩耗性の問題があるポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル繊維は、むろんさらに高い耐摩耗性を要求されるカーペット等への利用には制限があった。
【0010】
さらに特にポリ乳酸は結晶性が低く、かつ結晶相同士、あるいは結晶相と非晶相の相互作用が低い。これは結晶がカルボニル基を内部に有する螺旋構造で構成されるためである。このため延伸行程、捲縮加工工程、染色工程などにおいて熱セットを施して繊維内部に結晶相を形成したとしても、繊維の内部構造は固定化され難く、非晶相の分子鎖は経時的に構造変化し易いことが分かってきている(繊維軸方向に配列した分子鎖が、無秩序な分子鎖配置へと変化する)。そして特に捲縮糸とした場合、前記した非晶相の構造変化によって、捲縮が経時的にへたり易い(捲縮の堅牢度が低い)問題を抱えていた。この経時変化はパッケージ形態での保管、高次加工工程、製品使用などのすべてにおいて起こるため、捲縮特性を高く保持することは困難であった。
【0011】
すなわち脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸繊維を、カーペット用途などの大型用途へ応用するために、耐摩耗性、捲縮の堅牢度に優れる捲縮糸が切望されていた。
【0012】
例えば、ポリ乳酸単一成分からなるカーペット用捲縮糸が提案されている(特許文献1参照)。しかし、該捲縮糸を自動車内装用のカーペット等の特に高い外力を断続的に受ける用途に用いた場合、ポリ乳酸の削れが生じ、酷い場合には穴が開くこともあった。また、経時的に該捲縮糸の捲縮がへたり、外力によってパイル倒れが起こり易くなる。そして、パイル倒れが起こるとポリ乳酸の削れがパイル根元部から侵攻し、耐摩耗性は経時的に悪化する傾向にあった。これらは製品寿命が短いことを意味し、製品展開を図る上での欠点となる。
【0013】
一方、鞘成分に耐摩耗性の高いポリアミドを配置することによって、耐摩耗性を改善した複合繊維が開示されている(特許文献2〜3)。確かに脂肪族ポリエステルを鞘成分のポリアミドで被覆することによって、繊維の削れを抑制することができる。しかしながら、複合繊維とした場合には、高次加工工程、あるいは製品使用時において、外力が接着性の弱い芯成分と鞘成分の界面(以下芯鞘界面と記載する)に集中し、芯鞘界面が剥離して外観変化(白ボケする)を起こすという新たな問題を生じる。芯鞘界面の剥離が生じると、繊維の長手方向へと伝播し、部分的に白い筋状の欠点が散見されるものとなる。これは特に外観が重視される、すなわち人目に触れる用途に用いる場合に欠点となる。そしていったん芯鞘界面の剥離が生じると、芯成分と鞘成分の摩耗によって鞘成分の割れ(以下鞘割れと記載する)が生じ、露出した脂肪族ポリエステルは簡単に削れて、耐摩耗性が低下し易い問題があった。
【0014】
例えば、特許文献2には鞘成分としてポリアミド6を有し、特定の総繊度、特定の強度を有する複合繊維とすることによって、漁網等の産業資材用途に利用できる未捲縮の複合繊維が提案されている。しかしながら、脂肪族ポリエステルとポリアミドの親和性が低いため、芯鞘界面の接着性が不十分であり、外力によって容易に界面剥離を生じて外観変化がおこってしまう技術であった。このため漁網などの用途への応用はできるものの、外観変化への要求が厳しいカーペットなどの用途への応用はできないものであった。
【0015】
また、特許文献3には鞘成分として特定厚さの熱可塑性ポリアミドを有することにより、耐摩耗性を向上させた複合繊維が開示されている。該複合繊維は衣料用途などの比較的低い擦過しか受けない用途では十分な効果を発揮する。しかしながら、やはり脂肪族ポリエステルとポリアミドの親和性は低いため、カーペット等の高い外力が断続的に加わる用途では、容易に界面剥離を生じて外観変化がおこり易い技術であった。また特許文献3には該複合繊維を用いてなる捲縮糸(仮撚加工糸)について開示されているが、複合繊維からなる捲縮糸は、未捲縮糸よりも芯鞘界面の剥離が生じ易いことが判明した。さらに、その耐剥離性は脂肪族ポリエステルの経時変化によって悪化する傾向にあった。すなわち鞘成分としてポリアミドを配置した複合繊維は、捲縮糸とした場合、耐摩耗性には優れるものの、耐剥離性は不十分で製品の外観変化が起こりやすいという欠点を有していた。
【特許文献1】特開2002−180340号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−197276号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−36035号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記課題を解決し、耐摩耗性に優れるだけでなく、かつ芯鞘界面の耐剥離性にも優れ、外観変化の無い、高品位かつ耐久性に優れる繊維構造体を与える脂肪族ポリエステル捲縮糸、およびそれからなる繊維構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが複合繊維を用いてなる捲縮糸において、芯鞘界面の剥離現象と、捲縮糸の形態および捲縮糸を構成する芯成分、鞘成分の繊維構造との関係について鋭意検討した結果、複合繊維を用いてなる捲縮糸が特定の繊維構造を有することにより、初めて芯鞘界面の剥離を抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。そして該捲縮糸は、従来の脂肪族ポリエステルからなる捲縮糸の課題であった、耐摩耗性、堅牢度の高い捲縮をも達成する捲縮糸となることをも見いだしたのである。さらに、該捲縮糸を用いた繊維構造体は、高い外力が加わっても、外観変化を起こすことが無く、高い品位が長期に渡って維持される耐久性に優れたものである。
【0018】
すなわち本発明は、芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)からなり、鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂(B)からなる芯鞘型複合繊維から構成される捲縮糸であって、以下の(1)〜(3)の物性を有することを特徴とする捲縮糸、および該捲縮糸を少なくとも一部に含むことを特徴とする繊維構造体によって達成することができる。
(1)強度:1.5〜3.0cN/dtex
(2)単繊維繊度:5〜40dtex
(3)沸収:6%以下。
【0019】
また、本発明は、直接紡糸・延伸・捲縮加工装置を用い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を芯成分とし、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を鞘成分として口金吐出孔にて合流させて吐出することにより紡出糸を形成し、該紡出糸を総合延伸倍率2〜5倍で延伸し、延伸後の最終ロールの温度を160〜220℃として熱セットしてから、エアスタッファ捲縮加工装置にて捲縮加工を施すことを特徴とする捲縮糸の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外力が加わっても芯鞘界面の剥離が起こらず、外観変化の無い捲縮糸、およびそれからなる繊維構造体が得られる。該捲縮糸は、耐摩耗性に優れ、高捲縮かつ捲縮の堅牢度の高い捲縮糸とすることが出来るため、一般衣料用途や産業資材用途に最適であり、特に、家庭用や自動車内装用のカーペット用途などの極めて高い耐摩耗性が要求される用途にも好適に用いられる捲縮糸、およびそれらを用いてなる繊維構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の捲縮糸とは、一般的に知られている、仮撚加工糸、バイメタル捲縮糸、機械捲縮糸、BCFヤーン(BCF:bulked continuous filament、BCFヤーンはエアスタッファ捲縮糸などとも称される)などの捲縮糸を指し、単繊維の屈曲や、単繊維同士の絡み合いによって嵩高性を有する繊維である。本発明の捲縮糸は、長繊維のままであってもよいし、得られた捲縮糸を、適度な長さに切断して短繊維として扱ってもよい。
【0022】
本発明の捲縮糸は、単繊維がそれぞれ不規則な方向にループ状に屈曲しており、ループの振幅が不規則であり、周期性が無く、該単繊維同士が絡み合っている形態を有することで、外力が分散され易く、芯鞘界面の耐剥離性を飛躍的に向上できるため好ましい。このようなランダムな捲縮形態は、後述するエアジェットスタッファ捲縮加工装置により形成し易く、一般にBCFヤーンと称される捲縮糸であることが好ましい。該BCFヤーンは過度な折れ曲がり部分を有さず、バルキー性が高いだけでなく、仮撚加工糸などと比較して、残留トルクが小さい特徴も有することから、捲縮糸あるいは捲縮糸を用いてなる繊維製品が擦過された際に、外力がそれぞれの単繊維に分散されて局部に集中し難いため、芯鞘界面の耐剥離性を向上せしめることができる。
【0023】
本発明の捲縮糸について、図1、図2の繊維の形状の写真にて説明する。図1は本発明のBCFヤーンの一態様をマルチフィラメントの状態で黒紙の上に置き上面から観察した写真であり、図2は本発明のBCFヤーンの一態様を単繊維にばらして黒紙の上に置き、上面から観察した写真である(共に倍率は1倍)。図1から明らかなように単繊維がループがランダムな方向に形成されており、2本以上の単繊維が絡み合った捲縮形態を有する。また図2から明らかなように単繊維が有するループの振幅、周期は不規則である。
【0024】
BCFヤーンは、エアジェットスタッファ捲縮加工装置内に繊維をオーバーフィードで供給し、加熱流体(スチームや空気等)の乱流効果によって得られる捲縮糸であって、それぞれの単繊維に上述のごとく不規則なループ状の捲縮形態を有する捲縮糸である。詳しくは日本繊維機械学会編集の「フィラメント加工技術マニュアル(下巻)」の第1章(25〜39頁)にその形態について詳述されている。
【0025】
高い外力が断続的に加わるカーペット用途などにも応用できるレベルまで芯鞘界面の耐剥離性を高めるためには、芯鞘型複合繊維において、特定の繊維構造を有することが必要である。これにより、耐剥離性が飛躍的に向上し、優れた耐剥離性が長期に渡って維持されるのである。
【0026】
本発明者らが芯鞘複合繊維を用いてなる捲縮糸の芯鞘界面の剥離現象について鋭意検討を行った結果、捲縮糸の耐剥離性を高めるには、芯成分、鞘成分のそれぞれにおける非晶相の配向度が低く、かつ芯成分、鞘成分のそれぞれにおける結晶化度が高い、すなわち、芯成分、鞘成分の各成分において、結晶相と無配向な非晶相の2相構造を有することにより、芯鞘複合繊維を用いてなる捲縮糸の耐剥離性を格段に向上できることを見いだしたのである。まず、本発明者らは捲縮糸において耐剥離性が低くなりやすい要因について検討した。そしてその要因が、芯鞘界面に隣接する芯成分と鞘成分の分子配向が、他の領域に比べて高くなりやすいことに起因することを掴んだ。芯鞘界面に隣接する各成分の分子配向が高いことで、捲縮糸の芯鞘界面には残留応力を有し易く、外力が加わると界面剥離を生じて、該応力を開放しようとすることが判明した。
【0027】
捲縮糸の芯鞘界面に隣接する芯成分と鞘成分の分子配向が、他の領域に比べて高くなる要因については定かではないが、恐らく捲縮加工において、芯成分、鞘成分が熱収縮する際に、芯鞘界面において無理な歪みが加わるためであると推定している。つまり繊維の熱収縮は、芯成分、鞘成分、それぞれにおける非晶相の分子配向が緩和することによって起こるが、このとき芯成分と鞘成分が互いに異なる成分からなる芯鞘型複合繊維の場合、通常両成分は熱収縮特性に差を有する。この熱収縮特性の差によって、各成分は、自己の熱収縮を他の成分によって抑制されたり、あるいは促進されたりする。そして芯鞘界面に隣接する、芯成分と鞘成分の分子鎖は、熱収縮を互いの成分へと伝達する際に無理な歪みを受け、結果として十分に分子配向が緩和されずに、配向が不安定な状態で残存してしまうものと推定される。このような不安定な配向状態の分子鎖が、配向緩和しようとする分子運動によって、芯鞘界面には残留応力が発生する。そして外力が加えられた際に、該残留応力を界面剥離によって開放しようとするのである。
【0028】
仮撚加工糸や、機械捲縮糸などの捲縮糸においては、前記した芯鞘界面に隣接する芯成分と鞘成分の分子配向が高くなりやすく、芯鞘界面に残留応力が発生して界面剥離し易い場合がある。一方で、芯鞘型複合繊維を用いてなるマルチフィラメントをBCFヤーンとした場合には、前記したような他の加工とは異なり、芯鞘界面の残留応力の発生を大幅に抑制し、界面剥離が起こりにくい内部構造をとしうることを見いだした。この理由については必ずしも明確ではないが、エアジェットスタッファ捲縮加工では、加熱流体の乱流効果によって、それぞれの単繊維の芯成分と鞘成分とを熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点(Tmb)近傍まで均一かつ短時間で加熱でき、同時に無張力状態で熱収縮せしめ、かつ即座に冷却ロールで急冷されることにより、芯鞘界面に隣接する領域においても非晶相の分子配向を十分に緩和せしめることができ、各成分の熱収縮特性の差による履歴が残り難いためと推定している。該エアスタッファ捲縮加工の方法については、後述する製造方法にて詳細に示す。
【0029】
また芯鞘界面の残留応力は、染色などの高次加工工程や、製品使用時における経時変化において、芯鞘界面に隣接する芯成分、鞘成分の配向状態の不安定な分子鎖が、配向緩和する際にも蓄えられる。特に芯成分である脂肪族ポリエステル(A)は、熱に晒された場合はもとより、経時変化によっても非晶相の分子配向が緩和し易い。このため芯鞘界面に残留応力が発生し易く、界面剥離し易い。すなわち捲縮糸の芯成分、鞘成分、それぞれの非晶相の分子配向が低いほど、耐剥離性が優れるため好ましい。そしてさらに、芯成分、鞘成分に結晶相が多く存在するほど、非晶相の分子鎖の緩和運動は拘束されうるため、耐剥離性にすぐれたものとなるため好ましい。
【0030】
捲縮糸の繊維構造は、捲縮糸の糸物性に密接に関わっており、本発明の捲縮糸は、特定の強度、沸収、単繊維繊度を有することによって達成される。
【0031】
捲縮糸の強度は、繊維内部の非晶相の配向度が高いほど高くなる傾向にある。そして通常の単成分からなる捲縮糸であれば、強度は工程通過性や、製品使用時の耐久性の点で、高いほど好ましいのであるが、本発明の芯鞘型複合繊維を用いてなる捲縮糸は、非晶相の配向度が低いほど耐剥離性に優れることから、強度が3.0cN/dtex以下であることが必要である。本発明の捲縮糸の強度を3.0cN/dtex以下とすることにより、繊維内部の非晶相の配向度が十分に低いものとなり、芯鞘界面に残留応力が生じ難く、耐剥離性に優れた捲縮糸となるため好ましい。より耐剥離性にすぐれた捲縮糸となる点で、強度は2.9cN/dtex以下であることが好ましく、2.8cN/dtex以下であることがさらに好ましく、2.7cN/dtex以下であることがさらにより好ましい。一方で強度があまりに低いと、製糸性や、高次加工工程通過性や、製品としての耐久性に劣る場合がある。このため強度は1.5cN/dtex以上であることが必要であり、1.6cN/dtex以上であることが好ましく、1.7cN/dtex以上であることより好ましく、1.8cN/dtex以上であることがさらに好ましい。強度は実施例にて示す手法により測定することができる。
【0032】
沸水処理において、非晶相の分子配向が緩和され、繊維は収縮する。そしてこのとき繊維中に存在する結晶相は拘束点として作用し、非晶相の緩和を抑制する。つまり捲縮糸の沸収は、繊維内部の非晶相の配向度が低く、結晶化度が高いほど低くなる。すなわち本発明の捲縮糸は沸収が低いほど、繊維内部の非晶相の配向度が低く、かつ結晶化度が高いため、芯鞘界面に残留応力が生じ難く、耐剥離性に優れるため好ましい。沸収は実施例にて示す手法によって測定することができ、フリーな状態で捲縮糸を沸水処理する前後における、捲縮糸の長さ変化を測定することによって算出できる。本発明の捲縮糸は沸収が6%以下であることが必要である。より耐剥離性に優れた捲縮糸となる点で、沸収は5.5%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4%以下であることが特に好ましい。沸収は低いほど好ましく、0〜3%であることが最も好ましい。沸収は理想的には0であってもよい。
【0033】
また本発明の捲縮糸は、単繊維繊度が5〜40dtexであることが必要である。単繊維繊度が40dtex以下であることにより、捲縮加工工程において、繊維が速やかに加熱され、単繊維の横断面内が均一加熱されるため、芯鞘界面に隣接する芯成分、鞘成分の分子鎖において無理な歪みがかかりにくく、芯鞘界面に残留応力が生じ難く、耐剥離性に優れるものとなるのである。また同時に結晶化も起こりやすいため、繊維構造が固定化されて、染色工程後や、経時変化後においても、耐剥離性が長期に渡って維持できるため好ましい。より非晶相の分子配向が低く、かつ結晶化度の高い、すなわち耐剥離性に優れた捲縮糸となる点で、単繊維繊度が細いほど好ましく、38dtex以下であることが好ましく、35dtex以下であることがより好ましく、33dtex以下であることがさらに好ましく、30dtex以下であることが特に好ましい。しかし一方で、単繊維繊度が過度に細いと、捲縮処理においては結晶相とランダムな非晶相の2相構造を形成し易いものの、後に捲縮を伸ばす工程で加わるストレッチ張力や、捲縮糸を巻き取る工程で加わる巻取張力、あるいは高次加工工程で加わる張力によって、捲縮糸が再び伸長されて、芯鞘界面に無理な歪みが生じ易い。このため単繊維繊度は5dtex以上であることが必要である。より耐剥離性に優れた捲縮糸となる点で、単繊維繊度は6dtex以上であることが好ましく、7dtex以上であることがより好ましく、8dtex以上であることがさらに好ましく、9dtex以上であることが特に好ましい。単繊維繊度は実施例にて示す手法により測定することが可能である。すなわち、本発明のマルチフィラメントからなる捲縮糸の繊度を測定し、該繊度をフィラメント数で除することにより、算出することができる。
【0034】
本発明では、上記のように、芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)からなり、鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂(B)からなる芯鞘型複合繊維から構成される捲縮糸において不可避であった剥離の問題を(1)強度:1.5〜3.0cN/dtex、(2)単繊維繊度:5〜40dtex、(3)沸収:6%以下とすることにより、結晶化度が高く、分子配向が押さえられた繊維構造を有する捲縮糸とすることができ、これにより芯鞘界面における歪みや残留応力の発生を相乗的に抑制し得たものであり、本発明はこれらの要件で最も適切に表現されるものである。そして、本発明の捲縮糸は、後述する本発明方法により製造することができるものである。
【0035】
本発明の捲縮糸は芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)(以下、成分Aと記す)からなることが必要である。芯成分が成分Aからなるとは、芯成分の90重量%以上が成分Aであることと定義する。芯成分に成分Aをより多く含むことで、より環境負荷が低減された素材となるため好ましく、93重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明でいう脂肪族ポリエステル樹脂(A)とは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいう。脂肪族ポリエステル樹脂(A)は一般的に結晶性が低いことが多く、前述したように、結晶性が低いと経時的に捲縮糸の耐剥離性が悪化する場合がある。このため本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては結晶性であることが好ましく、融点が150℃以上230℃以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が結晶性を有するとは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の昇温速度16℃/分での示差走査熱量計(DSC)測定で得た示差熱量曲線が、吸熱ピークを有し、かつその融解ピークの熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると定義する。結晶性が高いほど好ましいことから、20J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましい。本発明に用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が結晶性を有することで、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の繊維構造が固定化され易くなる。そして成分Aの経時変化による非晶相の配向緩和を抑制でき、長期的にも芯鞘界面における残留応力の発生を抑制でき、耐剥離性に優れたものとなるため好ましい。
【0038】
また、本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の種類としては、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、原料が植物由来であるため樹脂に含まれる炭素がもともと大気中に存在する二酸化炭素に由来し、燃焼時に発生する二酸化炭素を大気に放出させても地球温暖化の弊害を招き難い点でポリ乳酸が最も好ましい。
【0039】
上記ポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体(D−乳酸)のみからなるポリD乳酸と、L体(L−乳酸)のみからなるポリL乳酸、およびD−乳酸とL−乳酸の両者を含んでなるポリ乳酸がある。本発明におけるポリD乳酸とはD−乳酸を80重量%以上含んでなるポリ乳酸であると定義し、ポリL乳酸とはL−乳酸を80重量%以上含んでなるポリ乳酸であると定義する。ポリL乳酸に含まれるD−乳酸の重量分率(以下、単にD体分率と記載することがある)、ポリD乳酸に含まれるL−乳酸の重量分率(以下、単にL体分率と記載することがある)が高いと、ポリL乳酸、ポリD乳酸の結晶性が低くなり、融点が低下する傾向にある。融点は繊維の耐熱性の点、および耐剥離性を長期に渡って維持する点で、150℃以上であることが好ましい。このため、ポリL乳酸中のD体分率は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることが好ましい。同様の理由により、ポリD乳酸中のL体分率は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることが好ましい。
【0040】
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、好ましい。この場合、成分Aは、ポリL乳酸とポリD乳酸の混合物を指し、そのブレンド比は40/60〜60/40であると、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ、最良である。
【0041】
また、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、延伸・熱処理での加熱ロールや加熱プレートの汚れ、捲縮加工での加熱ノズル内部の汚れ、あるいは染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下である。
【0042】
また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、例えばポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合したものであっても良い。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でも、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)(以下、成分Bと記す場合もある)との相溶性が良いポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。このような共重合成分の共重合割合は融点降下による耐熱性低下を損なわない範囲で、ポリ乳酸に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。成分Aには、さらに改質剤として粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加物が含まれていても良い。
【0043】
また、ポリ乳酸重合体の分子量は、耐摩耗性を高めるためには高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、溶融紡糸での成形性や延伸性が低下する傾向にある。重量平均分子量は耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、10万以上がより好ましい。さらに好ましくは12万以上である。また、分子量が35万を越えると、前記したように成形性や延伸性が低下するため、製造工程での通過性が悪くなる場合がある。そのため、重量平均分子量は35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。さらに好ましくは25万以下である。上記重量平均分子量は実施例に記載の手法を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0044】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に好ましく用いられるポリ乳酸の製造方法は、特に限定されないが、具体的には、乳酸を有機溶媒および触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法(特開平6−65360号公報参照。)、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法(特開平7−173266号公報参照。)、さらには、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法(米国特許第2,703,316号明細書参照。)が挙げられる。 本発明の捲縮糸は成分Aの含有量(繊維総重量に対する成分Aの重量%)が高いほど、環境負荷低減素材となることから、成分Aの含有量が高いことが好ましい。20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが特に好ましい。一方で、耐剥離性、耐摩耗性、捲縮の堅牢度、といった特性に優れる点で、成分Aの含有量は80重量%以下であることが好ましく、75重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが特に好ましい。捲縮糸の成分Aの含有量(繊維総重量に対する成分Aの重量%)は、実施例に記載の手法により算出することができる。すなわち、捲縮糸から成分Aのみを溶出した後の繊維の重量と、もとの捲縮糸の重量の差を成分Aの重量と見なし、該重量の差をもとの捲縮糸の重量で除することにより算出する。
【0045】
本発明の捲縮糸は鞘成分が熱可塑性ポリアミド(B)(以下成分Bと略記する)からなることが必要である。鞘成分として熱可塑性ポリアミド(B)を有することで、繊維の表面がポリアミドで形成されるため耐摩耗性が飛躍的に高くなるため好ましい。ここで鞘成分が成分Bからなるとは、鞘成分の90重量%以上が成分Bであることと定義する。鞘成分に成分Bをより多く含むことがより耐摩耗性、耐熱性に優れた素材となるため好ましく、93重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましい。 本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいうが、本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、例えばポリカプロアミド(ナイロン6)や、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)等を挙げることができる。
【0046】
また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)がポリ乳酸である場合、芯鞘界面での親和性を高くし、芯鞘界面での接着性を高めて耐剥離性を高めることを目的として、成分Bの分子鎖同士の凝集性を低くすること、すなわち、メチレン鎖長を長くしても良く、その点でナイロン11やナイロン12、ナイロン610、ナイロン510も好ましく用いられる。これらの中でも環境負荷低減素材を提供するという点では、非石油由来のモノマーからなる熱可塑性ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、ヒマシ油から得られるセバシン酸や、サトウキビ由来のリジンから酵素法(脱炭酸反応)で得られる1,5−ペンタメチレンジアミンをモノマーとして含む、ナイロン610、ナイロン510、ナイロン56も好ましく用いられる。ナイロン510は、例えば特開2003−292614に記載の方法で得られ、ナイロン56は、例えば特開2003−292612に記載の手法で得られる。なお、成分Bはホモポリマーであっても共重合ポリマーであっても良い。
【0047】
熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点は150℃以上250℃以下であることが好ましい。一般に脂肪族ポリエステルは、融点を有する場合、その融点は通常200℃以下であるなど、耐熱性が高いとはいえず、溶融貯留時250℃を越えると急激に物性が悪化する傾向にあるため、鞘成分として用いる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点が250℃以下であることが好ましい。より好ましくは熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点は230℃以下である。一方、繊維の耐熱性、あるいは捲縮や染色などの堅牢度を考慮すると、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点の下限は150℃以上であることが好ましい。より好ましくは熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点は180℃以上である。熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は前記したように、共重合ポリマーであっても良いが、本発明の捲縮糸は、結晶相を多く含むほど、高次加工工程、あるいは製品使用時の経時変化などによっても、非晶相の配向緩和を抑制することができ、芯鞘界面に残留応力が生じ難く、耐剥離性に優れるため好ましい。このため熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は結晶性を有することが好ましい。本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が結晶性を有するとは、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の昇温速度16℃/分での示差走査熱量計(DSC)測定で得た示差熱量曲線が、吸熱ピークを有し、かつその融解ピークの熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると定義する。結晶性が高いほど好ましいことから、20J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましい。
【0048】
熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点が上記範囲にあり、かつ結晶性が高いほど本発明の繊維が耐剥離性、耐摩耗性、耐熱性に優れるため好ましく、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)としては、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン610(融点225℃)、ナイロン510(融点218℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点180℃)であることが好ましい。より結晶性が高く耐剥離性が高くなるだけでなく、低価格で用途による縛りがなく汎用的に幅広く用いられ易い点でナイロン6が最も好ましい。
【0049】
熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度(ηb)は10〜300Pa・sec−1であることが好ましく、20〜250Pa・sec−1であることがより好ましく、30〜200Pa・sec−1であることがさらに好ましい。熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度を高くすることによって、延伸後の熱処理、および捲縮加工工程において、単繊維間での融着を起こさせることなく繊維の温度を熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点(Tmb)近傍まで高めることができる。これにより、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)中の非晶相の分子鎖は、結晶化する分子鎖と、配向緩和してランダムな配置となる分子鎖との、2極化し易くなり、耐剥離性に優れるため好ましい。一方で、紡糸工程において芯鞘複合異常を抑制し、鞘成分を繊維横断面、繊維の長手方向において均一に被覆させる観点で、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度は適度な高さに抑えることが好ましい。以上のことから、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度は上記範囲であることが好ましい。なお、溶融粘度ηbの測定方法の詳細については後述するが、測定温度240℃、剪断速度1216sec−1で測定したときの溶融粘度である。また成分Bには、粒子、難燃剤、帯電防止剤、耐熱安定剤等の添加物が含まれていても良い。
【0050】
本発明の脂肪族ポリエステル(A)と、熱可塑性ポリアミド(B)は通常ほとんど反応しない(エステル−アミド交換がほとんど起こらない)ため、前記二者のポリマーで形成される芯鞘界面の接着性高めることを目的として、相溶化剤(C)(以下成分Cと略記す場合がある)を添加することも好ましい。成分Cは、成分Aと成分Bとの界面接着性を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、一分子中に二個以上の活性水素反応性基を有する化合物であると、芯鞘界面の接着性を飛躍的に向上でき、好ましい。一分子中に二個以上の活性水素反応性基を有する化合物を、成分Aおよび/または成分Bに添加して溶融ブレンドして紡糸を行うことで、該化合物が成分Aと成分Bのいずれの成分とも反応して架橋構造をとるため、芯鞘界面の剥離現象を抑制できるのである。
【0051】
ここで、活性水素反応性基とは、ポリ乳酸樹脂や熱可塑性ポリアミド樹脂の末端に存在するCOOH末端基やOH末端基、NH末端基との反応性を有するもので、例えばグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基などが好ましく用いられる。また、本発明の捲縮糸の製法である溶融紡糸では、250℃以下と比較的低温で成形を行うため、低温反応性に優れたものが選択される。上記反応性基の中でもグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、酸無水物基(無水マレイン酸から生成する基(無水マレイン酸基と記す場合もある)等)が好ましく用いられ、特にグリシジル基やカルボジイミド基が好ましく用いられる。上記反応性基は二個以上であれば相溶化剤としての役割を満たすことができる。一方、一分子中に20個を越えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にあるので、一分子中の活性水素反応性基の数は二個以上、20個以下が好ましい。より好ましくは10個以下、さらに好ましくは3個以下である。また、一分子中の反応性基の種類は複数のものを含んでいても構わない。また、上記した活性水素反応性基を二個以上有する化合物は、重量平均分子量で250〜30,000の分子量を持つものであると、溶融成形時の耐熱性、分散性に優れるため好ましい。より好ましくは250〜20,000である。
【0052】
また、これらの反応性基を有する化合物として、重合体の主鎖に反応性基を有する側鎖をグラフト共重合した共重合体であると、1分子の中に多数の官能基を導入することが可能となる事に加え、一般に融点等の熱的性質も安定となるため好ましい。この反応性基がグラフトされる主鎖となる重合体は任意に選択することが可能であるが、合成のし易さからポリエステル系重合体、ポリアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリ(アルキル)メタアクリレートなどのアクリレート系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体などの群から適宜選択することができる。
【0053】
本発明に用いることのできる成分Cのうち、グリシジル基を有する化合物としては、例えばグリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対してグリシジル基がグラフト共重合されている化合物、更にはポリエーテルユニットの末端にグリシジル基を有するものが挙げられる。上述したグリシジル基を持つモノマー単位としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートなどが挙げられる。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。また、グリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体の重量平均分子量は250〜30,000の範囲であると高濃度添加を行った際の溶融粘度の上昇を抑制することができ好ましい。重量平均分子量は250〜20,000の範囲であるとより好ましい。また、この他、トリアジン環にグリシジルユニットを二個以上有する化合物も耐熱性が高いため好ましい。例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(MADGIC)等が好ましく用いられる。
【0054】
また、この他、主鎖にグリシジルメタクリレート基を含み、かつ側鎖としてポリメチルメタクリレートがグラフト重合されたポリマーが、成分Aとの相溶性に優れ、かつ成分A、成分Bとの反応性に富むため好ましい。このような構造を有する化合物として、日本油脂株式会社製、“モディパーA4200”が挙げられ、好ましく用いられる。
【0055】
また、本発明に用いることのできる成分Cのうち、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基を有する化合物についても同様に使用可能である。上記の中でも、カルボジイミド基を有するものが極めて低温反応性に優れており、より好ましい。例えば、カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノまたはジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドの重合体が挙げられ、このうち耐熱性が高く熱分解しにくく、かつ反応性にも優れる点で、(株)日清紡製“カルボジライトHMV−8CA”や、(株)日清紡製“カルボジライトHMV−8PI”や、(株)日清紡製“カルボジライトLA−1”などが特に好ましく用いられる。 また、二個以上の活性水素反応性基は同じ反応性基であっても、異なるものであってもよいが、反応性を制御するためには同じ反応性基であることが好ましい。
【0056】
また、成分Cとして用いる化合物には、上記の活性水素反応性基を有するものの他に、ポリアルキレンエーテルグリコールが特異的に耐摩耗性を向上させるので好ましい。該化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられるが、中でも耐熱性、分散性、価格の点で重量平均分子量400〜20,000のポリエチレングリコールが好ましい。より好ましくは重量平均分子量600〜6,000のポリエチレングリコールである。また、該化合物の両末端をグリシジル基に変性したものであれば、より好ましい。また、前記の活性水素反応性基を二個以上有する化合物と併用することも好ましい。
【0057】
また、成分Cとして用いる化合物は、本発明の繊維を製造する上で200〜250℃にて溶融紡糸されるため、それに耐え得る高い耐熱性が要求される。そのため、熱重量(TG)測定による200℃到達点の熱減量率が3%以下であることが好ましい。熱減量率が3%を越えると、紡糸時に熱分解物がブリードアウトして紡糸口金や紡糸装置を汚すために、紡糸性が低下するとともに、熱分解ガスの発煙により、作業環境を悪化させる傾向にある点が問題となる場合がある。より好ましくは熱減量率2%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、200℃熱減量率は熱重量(TG)測定にて窒素雰囲気下、常温(10〜30℃)から10℃/分の速度で300℃まで昇温し、200℃時点での減量率を求めたものである。
【0058】
成分Cの添加量は、使用する化合物の反応性基の単位重量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、成分Aの含有量により適宜決めることができるが、芯鞘界面の剥離を抑制する点では成分A、成分Bおよび成分Cの合計量(100重量%)に対し、0.005重量%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。成分Cの添加量が少なすぎると、芯鞘界面における反応量が少なく、芯鞘界面の接着性を向上させる効果が限定的となることがある。一方、成分Cが繊維の基材となる成分Aおよび成分Bの特性や、製糸性を阻害することなく性能を発揮させるためには、成分Cの添加量は5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。さらに好ましくは1重量%以下である。
【0059】
さらに、上記反応性基を有する化合物の反応を促進する目的で、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属、アルカリ土類金属とした触媒を添加すると、反応効率を高めることができ好ましい。その中でも、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることが好ましい。その他、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独または併用することもできる。なお、該触媒の添加量は、分散性、反応性を制御する上で、合成繊維に対して5〜2000ppm添加することが好ましい。より好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜500ppmである。
【0060】
そして成分Bと、成分Cの融点が近いほど、溶融紡糸時にそれぞれのポリマーが熱劣化を起こしにくい紡糸温度を選定することができ、得られる繊維が耐摩耗性に優れるため好ましい。このため、成分Bと成分Cの融点の差は30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明の捲縮糸は芯鞘比(重量比)が10/90〜65/35であることが好ましい。本発明の捲縮糸は環境負荷を低減する素材であるために、芯成分の比率は高いことが好ましい。また芯成分の比率が高いほど、芯鞘界面の面積は増加するが、芯成分の比率が高いと、結晶性が低く経時変化を起こしやすい成分Aを多く含むことになるため、経時変化によって芯鞘界面に残留応力が生じ易く、耐剥離性が悪化する傾向にある。つまり、耐剥離性を高めるためには、芯成分の単位体積当たりの芯鞘界面の面積が大きいことが好ましく、この観点で芯成分の比率は低いことが好ましい。さらに鞘成分の比率が増えることにより、捲縮の堅牢度が高まり、捲縮がヘタリ難くなるメリットもある。このため芯鞘比は上記範囲にあることが好ましく、10/90〜50/50であることがより好ましく、10/90〜45/55であることが特に好ましい。
【0062】
本発明の芯鞘比とは、溶融紡糸に供する際の芯成分と鞘成分の重量の和を100と見なし、それに対する芯成分、鞘成分、それぞれの比率を計算することにより算出できる。しかしながら製造時の芯成分と鞘成分の重量比率が不明である場合には、簡易的に下記式を用いて算出することもできる。すなわち、本発明の捲縮糸の芯成分は成分Aとその他の少量成分を含むことがあり、鞘成分は成分Bとその他の少量成分を含むことがあるが、かかる場合であっても、芯成分が実質的に成分Aのみからなり、鞘成分が成分Bのみからなるものとみなすことができ、芯成分と鞘成分の重量比として芯鞘比を算出することができる。まず、捲縮糸の横断面スライスを透過型電子顕微鏡(TEM)にて4千倍で観察し、芯成分を構成する領域の総面積(Aa)と、鞘成分を構成する領域の総面積(Ab)とを求める。そして成分Aの比重を1.26、成分Bの比重を1.14として、下記の式を用いて算出した。
芯鞘比 = 芯成分の重量比率/鞘成分の重量比率
芯成分の重量比率 =[(Aa×1.26)/(Aa×1.26+Ab×1.14)]×100
鞘成分の重量比率 =[(Ab×1.14)/(Aa×1.26+Ab×1.14)]×100。
【0063】
本発明の捲縮糸の単繊維の横断面形状は、丸型、Y型、多葉型、多角形型、扁平型、中空型などの多種多様の断面形状を取ることができる。またマルチフィラメントである場合、それぞれの単繊維の断面形状は同一であっても異なっていても良い。本発明の捲縮糸の単繊維の横断面形状の一態様について図4に例示する。図4において各々23は成分A、24は成分Bを示す。図4には丸形、Y型、多様型の各態様が図示されている。本発明の捲縮糸の単繊維の横断面形状は具体的にはY型、多葉型、扁平型であることが好ましく、Y型あるいは扁平型であることが特に好ましい。
【0064】
本発明の捲縮糸は、単繊維の異形度(D3/D4)が1.3〜4であることが好ましい。単繊維の異形度が高いほど、繊維の表面積が大きくなるため、捲縮加工工程において、繊維が速やかに加熱され、繊維の横断面内が均一加熱されるため、芯鞘界面に隣接する芯成分、鞘成分の分子鎖において無理な歪みがかかりにくく、耐剥離性に優れるものとなるため好ましい。このため単繊維の異形度は1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。しかし一方で、異形度が過度に高いと、断面形状が鋭角部を有し易くなり、該鋭角部に外力が集中して耐摩耗性が悪化する場合がある。また芯成分を長手方向に渡って均一に、鞘成分で被覆することが難しくなる製造工程状のデメリットもある。これらの点を抑制する点で、異形度は4以下であることが好ましく、3.8以下であることがより好ましく、3.5以下であることがさらに好ましく、3.3以下であることが特に好ましい。
【0065】
本発明の単繊維の異形度は、単繊維の横断面をTEMを用いて実施例の方法で観察し、横断面の外接円の直径D3と、内接円の直径D4の比(D3/D4)として定義する。異形断面が概ね線対称性、点対称性を保持すると判断される場合、内接円とは単繊維の横断面において輪郭をなす曲線に内接する円であり、外接円とは単繊維の横断面において輪郭をなす曲線に外接する円である。異形断面が線対称性、点対称性を全く保持しない形状であると判断される場合には、単繊維の輪郭をなす曲線と少なくとも2点で内接し、繊維の内部にのみ存在して内接円の円周と、単繊維の輪郭をなす曲線とが交差しない範囲においてとりうる最大の半径を有する円を内接円とする。外接円は単繊維の輪郭を示す曲線において少なくとも2点で外接し、単繊維の横断面の外部にのみ存在し、外接円の円周と単繊維の輪郭が交差しない範囲においてとりうる最小の半径を有する円を外接円とする。異形度の算出においては異なる箇所を切削して得た横断面10カ所について異形度を算出して平均化して求めた。
【0066】
本発明の捲縮糸は、芯成分の異形度(D1/D2)が1.3〜4であることが好ましい。芯成分の異形度が高いほど、芯成分の単位体積当たりの芯鞘界面の面積が大きくなり、耐剥離性に優れたものとなるため好ましい。このため芯成分の異形度は1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらに好ましく、2以上であることが特に好ましい。一方、芯成分の異形度が大きすぎると、単繊維の横断面内、長手方向内において、鞘成分を均一に被覆させることが難くなって、耐剥離性が悪化する場合がある。このため、芯成分の異形度は4以下であることが好ましく、3.8以下であることがより好ましく、3.5以下であることがさらに好ましく、3.3以下であることが特に好ましい。
【0067】
本発明の芯成分の異形度は、単繊維の横断面をTEMを用いて実施例の方法で観察し、芯成分の外接円の直径D1と、芯成分の内接円の直径D2の比(D1/D2)として定義する。芯成分が概ね線対称性、点対称性を保持すると判断される場合、内接円とは単繊維の横断面において芯成分の輪郭をなす曲線に内接する円であり、外接円とは単繊維の横断面において芯成分の輪郭をなす曲線に外接する円である。芯成分が線対称性、点対称性を全く保持しない形状であると判断される場合には、芯成分の輪郭をなす曲線と少なくとも2点で内接し、芯成分の内部にのみ存在して、内接円の円周と芯成分の輪郭をなす曲線とが交差しない範囲においてとりうる最大の半径を有する円を内接円とする。外接円は芯成分の輪郭を示す曲線において少なくとも2点で外接し、芯成分の輪郭の外部にのみ存在し、外接円の円周と芯成分の輪郭が交差しない範囲においてとりうる最小の半径を有する円を外接円とする。芯成分の異形度の算出においては異なる箇所を切削して得た横断面10カ所について異形度を算出して平均化して求めた。
【0068】
本発明において好ましい捲縮糸の断面形状を例示する。捲縮糸を構成する単繊維の芯成分の横断面形状については任意であるが、芯鞘界面の接着性が高まり、捲縮糸の芯成分の比率、しいては成分Aの含有量が多くとも耐剥離性に優れる点で、芯成分の断面形状は、単繊維の断面形状と相似形であることが好ましい。ここで相似形とは、数学的に厳密な相似を意味するものではなく、例えば単繊維の断面形状がY型であり、芯成分の断面形状がY型であり、両者の異形度が異なる場合であっても、相似形と見なすものとする。勿論本発明の捲縮糸は図4の断面形状に限定されるものではない。なお本発明の捲縮糸の芯成分の数については任意であり、単繊維が内部に1個の芯成分を有しても良いし、複数個の芯成分を有しても良い。単繊維の横断面の輪郭がなす形状の重心と、芯成分の輪郭がなす形状の重心が同一であっても、異なっていても良いが、繊維表面が均一に鞘成分で被覆されているほど耐摩耗性に優れるため、単繊維の輪郭がなす形状の重心と、芯成分の輪郭がなす形状の重心は同一であることが好ましい。またマルチフィラメントにおいて、それぞれの単繊維の横断面において、芯成分の輪郭がなす形状は、同一であっても異なっていても良い。
【0069】
また本発明の捲縮糸は、単繊維の横断面において複数の芯成分が存在する、いわゆる海島複合型繊維を用いてなる捲縮糸であると、芯成分の単位体積当たりの芯鞘界面の面積が大きくなり、耐剥離性が良好となるため好ましい。このため芯成分は3島以上であることが好ましく、9島以上であることがより好ましく、24島以上であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明の捲縮糸は、耐摩耗性に優れた繊維となる点で、長手方向全てにおいて繊維表面が実質的に鞘成分で構成されてなり、特に成分Aが繊維表面に露出していないことが好ましい。本発明の捲縮糸は耐剥離性に優れ、かつ繊維表面が実質的に鞘成分で被覆されていることによって、耐摩耗性が飛躍的に向上するのである。ここで、繊維表面が実質的に鞘成分で被覆されているとは実施例に記載の手法で単繊維の横断面を観察した際、横断面の輪郭すべてにおいて厚み0.1μm以上の鞘成分が被覆されていることを意味する。そして、耐摩耗性、耐剥離性を高めるには、繊維の横断面の全てにおいて鞘成分が厚いことが好ましく、鞘成分の厚さの最小値は0.4μm以上であることが好ましい。0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。鞘成分の厚さの最小値を厚くするためには、芯鞘比、単糸繊度、単繊維の異形度は前記範囲とすることが好ましく、成分Aと成分Bの溶融粘度比、紡糸温度は後述の範囲とすることが好ましい。
【0071】
本発明の捲縮糸は結晶化度が高いほど、すなわち結晶相を多数含むほど、芯成分、鞘成分の非晶相の配向緩和運動を抑制し易く、耐剥離性に優れた捲縮糸となるため好ましい。さらに結晶化度が高いほど耐摩耗性、耐熱性、染色や捲縮の堅牢性などにも優れるものとなるため好ましい。本発明における結晶化度は、昇温速度16℃/分で測定した示差熱量曲線の融解ピークの熱容量の総和により評価することができ、該融解ピークの熱容量の総和が、50J/g以上であることが好ましく、より好ましくは55J/g以上であり、さらに好ましくは60J/g以上であり、特に好ましくは65J/g以上であり、70J/g以上であることが最良である。このような融解ピークを示すために、成分A、成分Bとして結晶性の高いポリマーを用いることが好適である。また後述するように、各成分の結晶化を促すべく、延伸倍率や、延伸後の熱処理温度、および捲縮加工工程における捲縮ノズル温度などの製造条件を調整することが好ましい。
【0072】
本発明の捲縮糸は、溶融紡糸工程において芯成分と鞘成分とを均一に分子配向させることによって、後の延伸工程でもそれぞれの成分の分子配向の均一性を維持しながら延伸され易くなり、捲縮加工時に芯成分と鞘成分の熱収縮特性に差を生じ難く、芯鞘界面に隣接する分子鎖に無理な歪みがかかり難くなって耐剥離性が向上する。芯成分、鞘成分の分子配向は伸長変形においてそれぞれの成分に加わる応力によって支配されるため、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度(ηA)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度(ηB)とが近いことが好ましく、成分Aと成分Bの溶融粘度の比である溶融粘度比(ηB/ηA)が0.2〜2であることが好ましい。より好ましくは、0.4〜1.7であり、さらに好ましくは0.6〜1.4である。
【0073】
ここで本発明における溶融粘度ηA、ηBは、捲縮糸に用いるポリマーの温度240℃、剪断速度1216sec−1における溶融粘度(Pa・sec−1)であり、実施例にて記載の手法により測定することができる。また捲縮糸に用いる成分A、成分Bを入手することが出来ない場合は、捲縮糸中の成分Aの相対粘度(ηrA)、捲縮糸中の成分Bの相対粘度(ηrB)を測定することにより、簡便的にηA、ηBを求めることができる。図7のプロットに示すように、ηrAとηA、ηrBとηBは、それぞれ下記式の関係にある。
成分Aの溶液粘度と溶融粘度の関係
log(ηA)=4.3049×log(ηrA)成分Bの溶液粘度と溶融粘度の関係log(ηB)=5.2705×log(ηrB)。
【0074】
ここで相対粘度とは実施例にて示す手法により測定することができる。すなわちオストワルド粘度計を用い、成分Aはo−クロロフェノール溶液、成分Bは硫酸溶液を用い、それぞれ特定の濃度、温度、時間で溶解させた溶液と、各成分を溶解させない溶媒との滴下時間の比により表されるものであり、溶液粘度を示す指標である。
【0075】
本発明の捲縮糸は、より耐摩耗性に優れた繊維となる点で滑剤を含むことが好ましい。滑剤を含むことにより繊維の表面摩擦抵抗を下がり、繊維に摩擦力が加わりにくくなるため耐摩耗性が向上する。本発明の滑剤としては成分A、成分Bのそれぞれとの親和性が高いほど繊維に滑剤が担持され易く、滑剤の効果を長期に渡って維持し易いため好ましい。また滑剤の耐熱性が高いほど、溶融紡糸工程において揮発してしまうことがなく、やはり繊維に担持され易く、滑剤の効果を長期に渡って発揮できるため好ましい。
【0076】
成分A、成分Bとの親和性、耐熱性の両観点から滑剤としては、脂肪酸ビスアミド、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドが好ましく、脂肪酸ビスアミドが特に好ましい。本発明にて好ましい滑剤とされる脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0077】
また本発明で好ましい滑剤とされるアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
また本発明の芯鞘型複合繊維からなる捲縮糸は、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、光沢改善剤(酸化チタン、炭酸カルシウム等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を含んでも良い。
【0078】
本発明の捲縮糸は、捲縮糸のバルキー性に優れるほど、製品品位に優れる点で、捲縮糸のバルキー性の指標である沸騰水処理後の捲縮伸長率が高いことが好ましい。このため沸騰水処理後の捲縮伸長率が5%以上であることが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が特に好ましい。沸騰水処理後の捲縮伸長率の上限については、特に制限されるものではないが、あまりに高いと、単繊維に折れ曲がり部を有し易く、耐剥離性が悪化する場合がある。この点で、沸騰水処理後の伸長率は35%以下であることが好ましく、33%以下であることがより好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
【0079】
本発明の捲縮糸は、染色工程や高次加工工程、あるいは繊維構造体とした後の長期使用において、捲縮がへたり難く(捲縮の堅牢度が高く)、製品のボリューム感が長期に渡って維持されることが好ましい。このため、捲縮の堅牢度の指標である、2mg/dtex荷重下で沸騰水処理した後の捲縮伸長率(以下、2mg/dtex荷重下で沸騰水処理した後の捲縮伸長率のことを、単に「拘束荷重下伸長率」と記載することがある)が2%以上であることが好ましい。より好ましくは3%以上であり、さらにより好ましくは5%以上であり、特に好ましくは7%以上である。上限については特に制限はないが、例えばチーズ染色加工をする時に巻き締まってしまい、パッケージの端面で染色の濃淡斑がおこるなどの悪影響を抑制するという点で30%以下であることが好ましい。拘束荷重下伸長率は、実施例にて示す方法で測定することができる。
【0080】
また、本発明の捲縮糸の伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。このような伸度を有する捲縮糸は後述する製造方法において、延伸倍率を好ましい範囲とすることで製造することが可能である。より好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%である。
【0081】
本発明の捲縮糸の糸斑は小さいことが好ましい。糸斑を小さくすることで、擦過を受けた際に外力が局部に集中することを抑制することが可能となり、耐剥離性を高められるため好ましい。このため糸斑の指標である糸斑(ウスター)(U%)(Normal)は2.5%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1.0以下が特に好ましい。本発明の捲縮糸の糸斑を低減するには、溶融粘度比が本発明にて好ましい範囲にある成分Aと成分Bを選定し、紡糸線の細化挙動を安定化させたり、溶融紡糸、延伸、捲縮処理を1段階で連続的に施すことにより、未延伸糸を経時変化させずに直接延伸、捲縮処理することなどにより、糸斑を低減できる。
【0082】
本発明の捲縮糸には必要に応じて、交絡処理が施されてもよく、CF値(CoherenceFactor)は3〜30の範囲で選択できる。ここでCF値とは、JIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)7.13の交絡度に示される条件で測定されるものであり、試験回数は50回とし、交絡長の平均値L(mm)から下式より求めた。
CF値=1000/L
本発明の捲縮糸は単繊維繊度を特定の範囲とすることが必要であり、トータル繊度については特に制限はないが、捲縮ノズル内部で捲縮糸が滞在する時間を長くし易い点で、トータル繊度は3000dtex以下とすることが好ましく、2500dtex以下であることがより好ましく、2000dtex以下とすることがさらに好ましい。またカーペットに外力が加わった場合のパイル倒れを抑制し易くする点で、トータル繊度は500dtex以上とすることが好ましく、600dtex以上とすることがより好ましく、700dtex以上とすることがさらにより好ましい。
なお、捲縮糸を構成する単繊維の本数(フィラメント数)は本発明の単繊維繊度の範囲となるように自由に選択することができる。
【0083】
また、本発明の捲縮糸を繊維構造体として用いる場合には、織物、編物、不織布、パイル、綿等に適用でき、他の繊維を含んでいても良い。例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維との引き揃え、撚糸、混繊であっても良い。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアクリロニトルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などが適用できる。
【0084】
また、本発明の繊維を用いた繊維構造体の用途としては、耐摩耗性が要求され、かつ外観変化が起こらないことが要求される衣料、例えばアウトドアウェアやゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェアおよびそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウターがある。また、ユニフォーム、掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の側地やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等の寝装資材用途があり、これらにも好ましく用いることができる。そして、高い耐摩耗性を有し、かつ外観変化も起こらない本発明の捲縮糸は、自動車用の内装資材にも好適に用いることができる。中でも高い耐摩耗性と湿老化特性が要求される自動車用カーペットに用いることが最適である。なお、これら用途に限定されるものではなく、例えば農業用の防草シートや建築資材用の防水シート等に用いても良い。
【0085】
ここで、本発明における好ましい繊維構造体の用途である自動車用カーペットは、その加工形態は限定されるものではなく、例えば、段通、ウイルトン、ダブルフェイス、アキスミンスター等の織りカーペットや、タフティング、フックドラグ等の刺繍カーペットや、ボンデッド、電着、コード等の接着カーペットや、ニット、ラッセル等の編みカーペットや、ニードルパンチ等の圧縮カーペットに代表されるパイルをもつカーペット、あるいはその組み合わせを用いることができる。より低コストでボリューム感に富むカーペットを得るためには、少なくともパイル繊維糸である表糸と、この表糸をタフトした基布と、この基布の裏に張り付けたバッキング材から構成されるタフティングカーペットとすることが好ましい。
【0086】
本発明の捲縮糸は例えば以下の様な方法により製造できる。
【0087】
直接紡糸・延伸・捲縮加工装置を用い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を芯成分とし、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を鞘成分とし、芯鞘比(重量比)65/35〜10/90で口金吐出孔にて合流させて吐出させるに際し、溶融粘度比(ηB/ηA)が0.2〜2範囲となる組み合わせとし、紡糸温度を熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点Tmbに対し、Tmb〜Tmb+30℃とし、口金吐出孔での吐出線速度を1〜20m/分として紡出糸を形成し、該紡出糸を口金面から鉛直下方0.01〜0.15mを冷却開始点とし、口金面の鉛直方向に直交する方向から風速0.3〜1m/秒、風温15〜25℃の気体で冷却したマルチフィラメントを、総合延伸倍率2〜5倍で、2段階で延伸した後、捲縮加工を施すに際し、1段目の延伸ロールを50〜90℃とし、2段目の延伸ロールを90〜150℃とし、延伸後の最終ロール温度を160〜220℃として熱セットし、エアジェットスタッファ捲縮加工装置に供給するに際し、該装置のノズル温度を延伸後の最終ロール温度よりも5〜100℃高い温度として捲縮加工を行って捲縮糸を形成し、冷却ドラムに当てて引取り、延伸後の最終ロールより10〜30%低い速度で巻き取る方法である。
【0088】
すなわち、ポリL乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)と、ナイロン6などの熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B)を乾燥して、成分Aの水分率が100〜10ppm、成分Bの水分率が500〜100ppmであるものを予め調整しておく。そして成分Aと成分Bを、別々の2軸押出混練機または1軸押出混練機により溶融させた後、芯鞘比(重量比)65/35〜10/90で別々のギヤポンプで計量した後、紡糸パック内部に配置した口金として、口金を図6のごとく組み合わせ、成分Aと成分Bを合流させて吐出させることにより紡出糸を得る。図6は本発明方法で使用する口金の一態様を示す側面断面模式図であり、口金は吐出直前の口金である口金1(30)と口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有する口金2(29)を組み合わせて構成されている。
【0089】
成分A、成分Bを混練機で溶融させる際に、成分Aを成分Aの融点(Tma)〜成分Aの融点(Tma)+40℃の温度で溶融させることが好ましく、例えば成分Aが融点170℃のポリ乳酸である場合、170〜210℃の範囲で成分Aを溶融させることが好ましい。前記の範囲で成分Aを溶融させることにより、耐熱性の低い成分Aの加水分解を抑制でき、成分Aの長手方向における粘度斑が生じ難くなり、紡糸性が良好となり、得られる繊維が均一性に優れるため好ましい。また成分Bは、成分Bの融点(Tmb)〜成分Bの融点(Tmb)+40℃の温度で、溶融させることが好ましく、例えば成分Bが融点225℃のナイロン6である場合、225〜265℃の範囲で溶融させることが好ましい。前記の範囲で成分Bを溶融させることにより、成分Bのゲル化や着色を抑制できるため好ましい。
【0090】
紡糸温度は成分B(ポリアミド)の融点により決めることができ、最適な範囲は成分Bの融点Tmb〜Tmb+30℃(例えば、成分Bの融点Tmbが225℃の場合は225〜255℃)である。但し成分Aの耐熱性はあまり高くなく、溶融貯留時250℃を越えると急激に物性が悪化する傾向にある。このため前記したように、鞘成分として融点が250℃以下の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を選択し、紡糸温度は260℃以下とすることが好ましい。
【0091】
口金吐出孔での吐出線速度は1〜20m/分であることが好ましい。吐出線速度を20m/分以下とすることによって、単繊維の断面内に均一に剪断応力を加えることができ、芯成分と鞘成分の分子を均一に配向させることができ、結果としてその後の捲縮加工における熱収縮において芯鞘界面に無理な歪みが加わりにくく、耐剥離性に優れた捲縮糸となるため好ましい。また吐出線速度を1m/分以上とすることにより、紡糸線の急激な細化を抑制することが可能であり、製糸性、あるいは捲縮糸の均一性が良好となるため好ましい。吐出線速度は2〜15m/分とすることがより好ましく、3〜12m/秒とすることがさらに好ましい。なお本発明における吐出線速度は、図6のポリマー吐出直前の口金1(30)について、吐出孔面積、総吐出量、孔数から下記式を用いて計算する。紡糸口金の孔形状が孔間で異なる場合、すべての孔の吐出面積の平均値を算出し、その面積に最も近い孔の吐出面積を用いて下記式にて吐出線速度を算出した。
【0092】
図5は吐出孔長、孔径、スリット長、スリット幅を説明する口金下面部側面平面断面模式図であり、Y孔、多葉孔、扁平孔における、スリット長とスリット幅とは、図5に示した口金下面部の模式図において、スリット長さは27の長さ、スリット幅は28の長さを指すものである。また、吐出孔長は25で表される。
吐出線速度(m/分)=Q/H/ρ/A/100
Q:総吐出量(g/分)
H:ホール数
ρ:溶融密度(g/分)
ρ=1.08×繊維総重量に対する成分Aの含有量(wt%)/100+1.00×(1−繊維総重量に対する成分Aの含有量(wt%)/100)
A:吐出面積(cm)。
【0093】
例えば、口金孔形状がY孔の場合(図5(C)参照)には、A(cm)=3×スリット幅(cm)×スリット長(cm)+(スリットで囲まれた真ん中の三角形)の式で吐出面積を計算できるが、スリット幅がスリット長に比べ、無視できる位小さい場合には、(スリットで囲まれた真ん中の三角形)の面積を無視して、A(cm)=3×スリット幅(cm)×スリット長(cm)の式で吐出面積を計算しても良い。
【0094】
また、口金吐出孔での孔径(D)と吐出孔長(L)の比である、L/Dを0.6〜10とすることが好ましい。L/Dを10以下とすることにより、芯成分が繊維の中心に配置されやすくなり、耐剥離性に優れた捲縮糸となるため好ましい。またL/Dを0.6以上とすることにより、それぞれの孔に芯成分、鞘成分が均一に分配され、芯鞘比が単繊維間で均一となるため、マルチフィラメントを構成するすべての繊維が均一に耐剥離性に優れるため好ましい。0.7〜8であることがより好ましく、0.8〜6であることがさらに好ましく、0.9〜4であることが特に好ましい。本発明における、吐出孔長とは、図5に示した口金孔の断面模式図における25の長さを指すものであり、孔形状が吐出孔の形状と同形状に保たれた部分の長さであり、ポリマーを吐出する際の流速を制御する部分である。また吐出孔が丸穴である場合、孔径とは図5に示した口金下面部の模式図において26の長さを指すものである。なお吐出孔が丸孔でない場合、吐出線速度の説明にて記載した方法により、吐出面積A(cm)を計算し、該吐出面積を円と見なした場合の直径を孔径とした。
【0095】
かくして、口金にて成分Aと成分Bを合流させて吐出するとき、芯鞘比や、成分Aと成分Bの溶融粘度比、成分Bの溶融粘度、口金吐出孔での吐出線速度を上記範囲内とすることにより、紡糸、延伸工程において、芯成分と鞘成分の分子配向を均一に配向させ易くなり、かつ繊維の長手方向に鞘成分を均一に被覆させることができるため好ましい。
【0096】
また、口金面から鉛直下方0.01〜0.15mを冷却開始点とすることが好ましい。冷却開始点を0.15m以下とすることで、紡糸線が急冷されることとなり、芯成分と鞘成分とを均一に分子配向させ易いため好ましい。また冷却開始点を0.01m以上とすることにより、口金面が冷えて紡出糸が未溶融のポリマーを含んで吐出不良を招くなどの不具合を生じ難くなり、製造工程の通過性が高くなるため好ましい。このため冷却開始点は0.02〜0.14mであることがより好ましく、0.03〜0.13mであることがさらに好ましく、0.04〜0.12mであることが特に好ましい。また口金面の温度が低くならないように、口金面の周囲にリングヒーターを配置し、口金面を積極的に加熱する手法も好ましい。
【0097】
冷却風は、口金面の温度が低くならないように、口金面の鉛直方向に直交する方向から、風速0.3〜1m/秒として、風温15〜25℃として、紡出糸に吹き当てることが好ましい。
【0098】
また本発明の繊維は未延伸糸の状態、あるいは延伸糸で放置すると配向緩和が生じやすく、未延伸糸パッケージ間で延伸するまでの時間差があると、あるいは延伸糸パッケージ間で捲縮加工するまでの時間差があると、特に配向緩和を生じ易い芯成分の非晶相の分子配向が先に緩和して、芯成分と鞘成分の熱収縮特性の差が大きくなってしまって、結果として捲縮加工して得た捲縮糸の芯鞘界面において残留応力を生じ易い傾向にある。このため、紡糸、延伸、捲縮処理、のそれぞれの工程の間で、各成分の非晶相の分子配向の緩和を抑制し、捲縮加工において、芯成分と鞘成分の熱収縮特性に差を生じ難くすることが好ましいことから、紡糸、延伸、捲縮処理を1段階で連続的に行う、直接紡糸・延伸・捲縮加工を施すことが好ましい。すなわち、紡出糸を引取ロールにて引き取った後、巻き取ることなく連続的に延伸、熱処理した後、直接捲縮加工を施すことが好ましい。
【0099】
紡出糸を引き取ることにより、未延伸糸を得、該未延伸糸を延伸して得た延伸糸に、捲縮処理するが、本発明の捲縮糸の耐剥離性を高めるためには、捲縮処理において、芯鞘界面に無理な歪みを生じさせずに、結晶相、ランダムな非晶相の2極化した繊維構造を形成させることが重要である。これには捲縮処理に供する前の、延伸糸において、両成分を均一に高配向化させることが好ましいことから、低い紡糸速度で得た未延伸糸に延伸を施し、延伸工程で繊維の分子配向を高めることが好ましい。これは紡糸速度を高めて溶融状態で芯成分と鞘成分の分子鎖を配向させようとすると、各成分の分子配向度に差を生じ易く、両成分の分子配向を均一化しにくいためである。溶融状態では成分Aと成分Bの溶融粘度比に応じて、各成分に加わる応力が決まり、紡糸速度が高い、すなわち紡糸張力が高いプロセスほど、各成分に加わる応力差が大きくなってしまう。このため紡糸速度を低くし、未延伸糸中の芯成分、鞘成分の配向度を均一化することが好ましい。紡糸速度の最適値は、成分Aと成分Bとの溶融粘度比、および芯鞘比により異なるが、紡糸速度を3000m/分以下とすることにより、紡糸張力を低く保つことができ、未延伸糸中の芯成分、鞘成分の分子配向度を均一化できるため好ましい。一方で、紡糸速度を300m/分以上とすることにより、紡糸張力が適度に高いものとなり、紡糸線の糸揺れが抑制され、細化挙動が安定化するため好ましい。紡糸速度は350〜2500m/分であることがより好ましく、400〜2000m/分であることがさらに好ましく、450〜1500m/分であることが特に好ましい。
【0100】
芯成分と鞘成分の分子配向が低い未延伸糸を、後の延伸工程において分子配向させるが、このとき延伸を2段階以上で段階的に施し、かつ延伸温度を段階的に高めることにより、芯成分と鞘成分の分子配向を均一に高めることができるため好ましい。
【0101】
そして延伸後の最終ロールにて160〜220℃で熱セットすることが極めて重要である。熱セット温度を極限まで高め、分子鎖の運動性を高めることにより、脂肪族ポリエステル(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)、それぞれにおける非晶相の分子鎖を、結晶化する分子鎖と、配向緩和してランダムな配置となる分子鎖との、2極化させることができるため好ましい。さらに上記の温度範囲は脂肪族ポリエステルの融点Tma近傍であることから、最終ロール上にて芯成分の一部が溶融し、熱セット前までに蓄えられた芯鞘界面の歪みが解放され、得られる捲縮糸の耐剥離性が飛躍的に高まるのである。より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。一方で、最終ロールの温度を220℃以下とすることで、鞘成分の溶融により単繊維の断面が変形し、芯成分が表面に露出してしまうという不具合を回避できるため好ましい。より好ましくは、210℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。そして最終ロールで上記範囲にて熱セットを施した後、即座にノズル内に供糸する、すなわち予熱効果によって、捲縮ノズル内における糸温度を熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点(Tmb)近傍まで短時間で加熱でき、同時に無張力状態で熱収縮せしめることができるため、結果として芯成分、鞘成分ともに、結晶相とランダムな非晶相の2相構造を有する捲縮糸が得られ、これにより初めて芯鞘界面における歪みや残留応力の発生を抑制し、耐剥離性を格段に向上できるのである。捲縮ノズル内における糸温度を高くするために、最終ロールから捲縮ノズルまでの距離を短くする手法や、繊維を保温ボックスで保温する手法や、非接触ヒーターで加熱する手法も好適に用いられる。
【0102】
なお、本発明の芯鞘型複合繊維からなる捲縮糸のバルキー性の指標である「沸騰水処理後の捲縮伸長率」、あるいは捲縮の堅牢度の指標である「拘束荷重下伸長率」をコントロールする上でも最終ロール温度は重要であり、最終ロール温度を高くするほど、沸騰水処理後の捲縮伸長率、拘束荷重下伸長率を高くできる。本発明にて耐剥離性に優れる捲縮糸を得ることを目的として、必要とされる範囲の強度を有するものとするには、総合延伸倍率、延伸ロールの温度、延伸後の最終ロールの温度、捲縮ノズルの温度を好ましいとされる範囲で調整し、捲縮加工において、非晶相の分子配向を十分に緩和せしめることが好ましい。また本発明の捲縮糸の沸収を必要とされる範囲とするには、延伸後の最終ロールの温度、捲縮ノズルの温度を好ましい範囲で調整し、その後冷却ドラムに当てて引き取った後、延伸後の最終ロールより低い速度で巻き取ることが好ましい。
【0103】
例えば、延伸を2段階で施す場合、1段目の延伸ロールを50〜90℃とし、2段目の延伸ロールを90〜150℃とし、延伸後の最終ロールを160〜220℃として熱セットすることが好ましい。より好ましくは、1段目の延伸ロールは60〜80℃、2段目の延伸ロールは100〜140℃、延伸後の最終ロールは170〜210℃である。
【0104】
また延伸を3段階で施す場合、1段目の延伸ロールを50〜90℃とし、2段目の延伸ロールを90〜130℃とし、3段目の延伸ロールを130〜160℃とし、延伸後の最終ロールを160〜220℃とすることが好ましい。より好ましくは、1段目の延伸ロールを60〜80℃とし、2段目の延伸ロールを100〜120℃とし、3段目の延伸ロールを140〜150℃とし、延伸後の最終ロールを170〜210℃である。
【0105】
そして総合延伸倍率を2〜5倍として、分子配向を適度に高めることによって、捲縮ノズル内で熱収縮を即座に完了させることができ、芯鞘界面に無理な歪みが加わった履歴が残存し難く好ましい。また上記のごとく適度な延伸倍率で延伸することによって芯成分、鞘成分の結晶化をも促進でき、耐剥離性をより長期に渡って維持できる捲縮糸となり、かつ捲縮の堅牢度をも高められるため好ましい。総合延伸倍率は2.5〜4.5倍であることがより好ましく、2.8〜4.3倍であることがさらに好ましい。本発明の総合延伸倍率は1段目の延伸ロールと、延伸後の最終ロールとの速度比によって定義され、下記式によって算出することができる。
総合延伸倍率 = [延伸後の最終ロールの速度(m/分)]/[1段目の延伸ロールの速度(m/分)]。
【0106】
延伸後の最終ロールにて熱セットされた延伸糸は、エアジェットスタッファ捲縮加工装置内のノズルにて捲縮を付与されることが好ましい。本発明にて好ましいとされる捲縮形態であるBCFヤーンを形成する、捲縮加工装置としては、通常の加熱流体加工処理を施す捲縮付与装置を用いればよく、例えば、ジェットノズルタイプ、ジェットスタッファタイプ、さらにあるいはギヤ方式など各種の捲縮付与方法が採用される。高い捲縮付与とその顕在化を達成するためにはジェットノズル方式が好ましく、例えば米国特許第3,781,949号明細書に記載の捲縮ノズルなどが好ましく使用される。捲縮糸の耐剥離性を高めるためには、捲縮ノズル内における糸温度を高くして、それぞれの単繊維の芯成分と鞘成分を均一かつ即座に高温状態へと昇温して、熱収縮させることが好ましく、捲縮ノズルの温度を延伸後の最終ロール温度よりも5〜100℃高くすることが好ましい。
【0107】
本発明において、延伸工程、捲縮加工を別工程で行う場合には、捲縮ノズルに供糸する前に、熱ロールや熱プレートなどの熱源により延伸糸に再度、熱処理を施すことが極めて有効である。再熱処理を行うことにより、捲縮ノズル内における糸温度を高くし易くなり、前記したように、芯成分と鞘成分の熱収縮特性の差の履歴が、芯鞘界面に残存し難くなるため好ましい。再熱処理の温度は160〜220℃とすることが好ましく、170〜210℃とすることがより好ましく、180〜200℃とすることが特に好ましい。
【0108】
また捲縮を付与した後に、冷却ドラムに当てて引取ことにより、捲縮糸の繊維構造を固定化することができ、沸収を低くできるため好ましい。冷却ドラムと捲縮糸が接触している長さ(接触長)が長いほど、より繊維構造を固定化でき、その後の巻き取り工程、あるいは高次加工工程において、捲縮糸に歪みが加わっても捲縮糸の繊維構造が再度変化し難く、沸収を低く保てるため好ましい。接触長は20cm以上であることが好ましく、30cm以上であることがより好ましく、40cm以上であることがさらに好ましい。
【0109】
冷却ドラムに当てて引取った後、延伸後の最終ロールより低い速度で捲縮糸に過度な歪みを加えないようにして巻き取ることが好ましい。冷却ドラムの温度は通常、常温(25℃)である。このとき巻取速度が最終ロールの速度の10〜30%低い場合、これにより冷却ドラムにより固定化された繊維構造を、再度変化させることが無く、沸収を低い状態に保つことができ、芯鞘界面に残留応力を生じ難いため耐剥離性に優れた捲縮糸となるため好ましい。
【0110】
また冷却ドラムと巻取機の間において適度な張力でストレッチすることにより、捲縮の均一性を高められるため好ましい(捲縮の偏り、ムラを抑えられる)。例えば冷却ドラムと、巻取機の間に、2つのロールを配置し、ロール間の速度差によって張力を加える方法を採用することができる。このとき張力が過度に高いと捲縮がへたる場合があるため、ストレッチする張力は0.02〜0.2cN/dtexとすることが好ましく、0.04〜0.15cN/dtexであることがより好ましい。
【0111】
捲縮糸を巻取機で巻き取る前、巻き取った後の任意の段階で、交絡処理を施してもよい。交絡処理の回数、処理圧力は、捲縮糸のCF値が3〜30となるように調整するのが好ましいが、延伸工程前で施した交絡は、延伸によって解かれることがあるため、巻き取り直前で施すことが好ましい。また、巻き取り直前の糸条は、低張力下にあるため、低圧力の圧空で交絡がかかり易い(CF値を高め易い)。このため、捲縮糸に無理な歪みが加わらず、耐剥離性を向上できるため好ましい。処理圧空は0.05〜0.5MPaであることが好ましい。
【0112】
一方、エアジェットスタッファ捲縮加工に限定されず、仮撚加工によって捲縮加工を施すこともできる。この場合、解撚後に加熱しながら高リラックス処理を行う加工(ブレリア加工)を施すことで、結晶相と無配向化した非晶相の2相構造を形成せしめることができ、耐剥離性を向上し易いため好ましい。
【0113】
かくして得られた捲縮糸は繊維構造体に使用することができる。さらには得られた捲縮糸を常法によりカーペットに加工し、自動車内装用のカーペットとして使用することができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0115】
A.脂肪族ポリエステルの重量平均分子量
試料(脂肪族ポリエステルポリマー)のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。測定条件は下記の通りである。
GPC装置:Waters2690
カラム:Shodex GPC K−805L (8mmID*300mmL)2本連結して使用
溶媒:クロロホルム(和光、HPLC用)
温度:40℃
流速:1ml/分
試料濃度:10mg/4ml
濾過:マイショリディスク0.5μ−TOSOH
注入量:200μl
検出器:示差屈折計RI(Waters 2410)
スタンダード:ポリスチレン(濃度:サンプル0.15mg/溶媒1ml)
測定時間:40分。
【0116】
B.ポリ乳酸の残存ラクチド量
試料(ポリ乳酸ポリマー)1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
【0117】
C.熱可塑性ポリアミドの相対粘度(ηrB)
熱可塑性ポリアミドの硫酸相対粘度は、0.01g/mLの98%硫酸溶液を調製し25℃で測定した。
【0118】
D.脂肪族ポリエステルの相対粘度
脂肪族ポリエステルの相対粘度は、0.01g/mLのo−クロロフェノール溶液を調製し25℃で測定した。
【0119】
E.ポリマーの融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、捲縮糸の元ポリマーである試料(成分A、成分B)20mgを昇温速度16℃/分にて測定して得た示差熱量曲線において吸熱側に極値を与える温度を融点(℃)とし、該ピークをそのポリマーの融解ピークと判断した。元ポリマーの結晶性の有無は、融解ピークの面積から算出される熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると判断した。
【0120】
元ポリマーを入手出来ない場合は、繊維の示差熱量曲線を持って、元ポリマーの融点を判別する。繊維の示差熱量曲線の融解ピークがどの成分に帰属するかについては下記の方法より判別した。
【0121】
まず、捲縮糸(繊維1:成分A、成分Bを含む捲縮糸)を試料とし、上記と同じ測定条件でDSC測定を行い、示差熱量曲線1を得た。次に、捲縮糸(繊維1)中の成分Aを溶媒(クロロホルム)にて除去し、得られた繊維を水洗し、24時間室温にて真空乾燥した後の繊維(繊維2:成分Bを含む捲縮糸)について、上記と同条件にてDSC測定を行い、示差熱量曲線2を得た。示差熱量曲線2の融点ピークを成分Bの融点ピークと判断し、Tmbを求めた。また示差熱量曲線1と2を比較して、消失した融解ピークを、成分Aの融解ピークであると判断し、示差熱量曲線1からTmaを求めた。
【0122】
F.捲縮糸の示差熱量曲線の融解ピークの熱容量の総和
本発明の芯鞘型複合繊維を試料とし、E項と同じ条件で示差熱量曲線を得た。示差熱量曲線に存在する吸熱側に極値を示すピークを融解ピークと判断し、それぞれの融解ピークの面積から求められる熱容量を積算して熱容量の総和とした。
【0123】
G.溶融粘度(ηA、ηB)
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において、融点が240℃以下の樹脂については温度240℃で、融点が240℃以上の樹脂の場合には融点+20℃で、剪断速度1216sec−1における脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)および熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B)の溶融粘度を、それぞれ測定をした。測定は3回行い平均値を溶融粘度とした。
【0124】
H.芯鞘比
溶融紡糸に供する際の、芯成分(成分Aからなる)の重量と、鞘成分(成分Bからなる)の重量とを、それぞれ計量し、芯成分と鞘成分の重量の和を100と見なし、それに対する芯成分、鞘成分、それぞれの重量比率を計算することにより算出した。
【0125】
製造時の芯成分と鞘成分の重量比率が不明である場合には、簡易的に下記式を用いて算出することもできる。すなわち、本発明の捲縮糸の芯成分は成分Aとその他の少量成分を含むことがあり、鞘成分は成分Bとその他の少量成分を含むことがあるが、かかる場合であっても、芯成分が実質的に成分Aのみからなり、鞘成分が成分Bのみからなるものとみなすことができ、芯成分と鞘成分の重量比として芯鞘比を算出することができる。
【0126】
まず、捲縮糸の横断面スライスを作製し、該スライスのポリアミド成分をリンタングステン酸にて金属染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて4千倍で捲縮糸の横断面を観察・撮影した。このとき染色されていない領域を成分Aと判断し、染色されている領域を成分Bと判断することにより、芯鞘界面を判別し、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」にて画像解析することにより、芯成分を構成する領域の総面積(Aa)と、鞘成分を構成する領域の総面積(Ab)とを求めた。そして成分Aの比重を1.26、成分Bの比重を1.14として、下記の式を用いて算出した。
芯鞘比= 芯成分の重量比率/鞘成分の重量比率
芯成分の重量比率=[(Aa×1.26)/(Aa×1.26+Ab×1.14)]×100
鞘成分の重量比率=[(Ab×1.14)/(Aa×1.26+Ab×1.14)]×100
TEM装置:日立社製H−7100FA型
条件:加速電圧 100kV。
【0127】
I.鞘成分の厚さの最小値
Hの項において示した、捲縮糸の横断面の観察方法に準じて撮影した画像を用い、該断面に内において、最も鞘成分の厚さが小さい部分についてし、厚さを計測する。捲縮糸の横断面スライスを採取する部分をランダムに変更して、10枚の撮影画像を採取し、それぞれについて上記計測を行い、平均値を鞘成分の厚さの最小値とした。
【0128】
J.成分Aの含有量
10gの芯鞘型複合繊維を取り出し、その重量(W1)を秤量して試料とした。該試料を25℃のクロロホルム500mlに24時間浸して、成分Aを完全に溶脱処理した。溶脱処理後の芯鞘型複合繊維を水洗し、25℃で24時間乾燥した後、繊維の重量(W2)を秤量した。W1、W2を用いて、成分Aの含有量を下記の式にて算出した。
成分Aの含有量(重量%)=(W1−W2)×100/W1。
【0129】
K.総繊度
検尺機にて100mの捲縮糸をかせ状に測長し、100mの捲縮糸の重量を測定し、該重量を100倍することにより総繊度(dtex)を算出する。測定は3回行い、平均値をもって総繊度(dtex)とした。
【0130】
L.単繊維繊度
総繊度をフィラメント数で除することにより、単繊維繊度(dtex)を算出した。
【0131】
M.強度および伸度
JIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件に準じ、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、捲縮糸の強度および伸度を測定した。このとき、試料長200mm、引張速度200m/分として、強度はS−S曲線における最大強力を示した点の強力を総繊度で除することにより求め、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0132】
N.沸収
捲縮糸無荷重な状態で沸騰水に15分間浸積し、取り出した沸水処理後の捲縮糸を25℃、乾湿度65%で24時間乾燥する。沸水処理前、沸水処理後の捲縮糸の寸法をそれぞれ測定し、次式により沸収を求めた。
沸収(%)=[(L0−L1)/L0]×100
L0:試料をかせ取りし、初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせ長。
L1:L0を測定したかせを荷重フリーの状態で沸騰水処理し、25℃、乾湿度65%で24時間乾後、初荷重0.088cN/dtex下で測定されるかせ長。
【0133】
O.糸斑U%
芯鞘型複合繊維を試料とし、Zellwegen Uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:1分間でU%(Normal)を測定した。
【0134】
P.捲縮糸の異形度
Hの項において示した、捲縮糸の横断面の観察方法に準じて撮影した画像を用いて、捲縮糸の横断面の外接円の直径D1と、単繊維横断面の内接円の直径D2から次式により求めた。
異形度=D1/D2。
【0135】
Q.芯成分の異形度
Hの項において示した、捲縮糸の横断面の観察方法に準じて撮影した画像を用いて、芯成分の横断面の外接円の直径D3と、芯成分の横断面の内接円の直径D4から次式により求めた。
異形度=D3/D4
R.沸騰水処理後の捲縮伸長率
室温25℃、相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置されていたパッケージから解舒した捲縮糸を、無荷重状態で、30分間沸騰水で浸漬処理した後、室温25℃、相対湿度65%で24時間乾燥し、これを沸騰水処理後の捲縮伸長率を測定する試料とした。この試料に、室温25℃、相対湿度65%の雰囲気下において、2mg/dtexの初荷重をかけ、30秒経過した後に試料長50cm(L1)にマーキングをした。次いで初荷重を除去した後、同試料に100mg/dtexの定荷重をかけて30秒経過後に伸びた試料長(L2)を測定する。そして下記式により、沸騰水処理後の伸長率(%)を求めた。
沸騰水処理後の伸長率(%)=[(L2−L1)/L2]×100。
【0136】
S.2mg/dtex荷重下での沸騰水処理後の伸長率(拘束荷重下伸長率)
Rの項において、沸騰水で浸漬処理する際に、捲縮糸に2mg/dtexの荷重を吊り下げた状態で、該捲縮糸を沸騰水処理する以外は、Pの項と同様にして、拘束荷重下伸長率を測定した。
【0137】
T.製糸性の評価
100kgのチーズパッケージを得るに際し、糸切れが起こった回数により製糸性の評価を行った。評価は優れる(二重丸)、良好(○)、可(△)、不可(×)の4段階で評価した。
二重丸:糸切れ無し
○:糸切れ1〜5回
△:糸切れ6〜10回
×:糸切れ11以上。
【0138】
U.捲縮糸の耐摩耗性評価
捲縮糸にS撚、Z撚をかけて双糸2本合わせて撚糸した後の巻取糸をチーズパッケージ形態にて、含金染料(“イルガランレッド4GL”[チバガイギ社製])を0.6%owf、浴比1:50(捲縮糸として)、pH=7にて98℃×60分処理して、染色した。染色後、水洗し、50℃24時間熱風乾燥して染色後の撚糸を得た。該撚糸を表糸としてPPスパンボンド不織布にタフティングした後、基布の裏にバッキング材を塗布して乾燥し、タフティングカーペットを得た(目付1200g/m)。
【0139】
前記タフティングカーペットを直径120mmの円形状に切り出し、中央に6mmの穴を空けて試験片とした。該試験片を、ASTM D 1175(1994)に規定されるテーバー摩耗試験機(Rotary Abraster)に表面を上にして取り付け、H#18摩耗綸、圧縮荷重1kgf、試料ホルダ回転速度70rpm、摩耗回数5500回の摩耗試験を行った前後の試料重量を測定した。これらの測定値と下記の式を用いて摩耗減量率を算出した。
摩耗減量率(%)=(W0−W1)×100/(W2×A1/A0)
W0:測定前の円形カーペットの重量(g)
W1:測定後の円形カーペットの重量(g)
W2:カーペットの目付(g/m
A0:円形カーペットの全面積(m
A1:摩耗輪が接触する部分の全面積(m)。
【0140】
V.耐剥離性
捲縮糸からなる筒編地を作製し、該筒編みを含金染料(“イルガランレッド4GL”[チバガイギ社製])を0.6%owf、浴比1:50(筒編地として)、pH=7にて98℃×60分処理して染色した。染色後、水洗し、50℃24時間熱風乾燥して染色後の筒編地を得た。染色後の筒編地から50×100mmの短冊を切り出して試料とし、スコット形耐揉摩擦試験機(SCOTT TYPE CREASE−FLEX ABRATION TESTER、(株)大栄科学精器製作所社製、型式:CF−10N)を用い、試験回数1000回、チャック間隔0mm、摩擦ストローク45mm、押圧荷重0.5kgで揉摩擦を施した後、該試料を取り出し、揉摩擦を加えた部分の外観変化を下記の基準にて評価した。そして同一の丸編みについて、5回の測定を行い、それぞれの評価の合計点により、総合評価を決定した。
【0141】
<評価基準>
5点:外観に変化なし
4点:部分的に淡色化が見られる
3点:淡色化が見られ、部分的に毛玉が見られる。
2点:白化が見られ、毛玉が多発している。
1点:白化が見られ、毛玉が多発しており、試料の穴あきも見られる。
【0142】
<総合評価>
二重丸(優れる):21〜25点
○(良好) :16〜20点
△(可) :11〜15点
×(劣る) :5〜10点。
【0143】
W.カーペット、筒編地の柔軟性、バルキー性
U項で作製したカーペット、およびV項で作製した筒編地について、手のひらで押した
ときの触感(柔軟性)、目視における膨らみ感(バルキー性)を、二重丸(優れる)、○(良好)、△(可)、×(劣る)の4段階で評価した。
【0144】
[製造例1](ポリ乳酸(PLA−1)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−1)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−1)の重量平均分子量は21万であった。また、残留しているラクチド量は0.13重量%であった。ポリマー(PLA−1)の融点は170℃、融解ピークの熱容量が45J/g、溶融粘度は200Pa・sec−1、相対粘度3.42であった。
【0145】
[製造例2](ポリ乳酸(PLA−2)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で350分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−2)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−2)の重量平均分子量は26万であった。また、残留しているラクチド量は0.14重量%であった。ポリマー(PLA−2)の融点は170℃、融点ピークの熱容量45J/gあった。溶融粘度は300Pa・sec−1であった。相対粘度3.76であった。
【0146】
[製造例3](ポリ乳酸(PLA−3)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で150分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−3)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−3)の重量平均分子量は15万であった。また、残留しているラクチド量は0.10重量%であった。ポリマー(PLA−3)の融点は170℃、融解ピークの熱容量48J/g、溶融粘度は120Pa・sec−1、相対粘度3.04であった。
【0147】
[製造例4](ポリ乳酸(PLA−4)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドと、光学純度99.5%のD乳酸から製造したラクチドと、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(L乳酸ラクチド:D乳酸ラクチド:触媒モル比=8900:1100:1)とを存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−4)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−4)の重量平均分子量は21万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。ポリマー(PLA−4)の融点は130℃、融解ピークの熱容量38J/g、溶融粘度は200Pa・sec−1であった。相対粘度3.42であった。
【0148】
[製造例5](MADGICを10重量%含有したポリ乳酸(PLA−5)の製造) PLA−1と成分C(四国化成(株)製モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(以下、MADGICと称する))を乾燥した後、PLA−1:MADGIC=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練してMADGICを10重量%含有したポリ乳酸(PLA−5)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−5)の残留ラクチド量は0.15重量%であった。ポリマー(PLA−5)の融点は170℃、融解ピークの熱容量が44J/g、溶融粘度は190Pa・sec−1、相対粘度3.38であった。
【0149】
[製造例6](ポリカルボジイミドを10重量%含有したポリ乳酸(PLA−6)の製造)
PLA−1と成分C(日清紡(株)製ポリカルボジイミド“LA−1”)を乾燥した後、PLA−1:LA−1=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練してLA−1を10重量%含有したポリ乳酸(PLA−6)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−6)の残留ラクチド量は0.15重量%であった。ポリマー(PLA−6)の融点は170℃、融解ピークの熱容量が44J/g、溶融粘度は190Pa・sec−1、相対粘度3.38であった。
【0150】
[製造例7](エチレン−グリシジルアクリレートを主鎖とし、ポリメチルメタクリレートがグラフト化された化合物を10重量%含有したポリ乳酸(PLA−7)の製造)
PLA−1と成分C(日本油脂(株)製“モディパーA4200”(以下“モディパー”と略記する))を乾燥した後、PLA−1:“モディパー”=80:20(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練して“モディパー”を20重量%含有したポリ乳酸(PLA−7)を得た。得られたポリ乳酸(PLA−7)の残留ラクチド量は0.15重量%であった。ポリマー(PLA−7)の融点は170℃、融解ピークの熱容量が44J/g、溶融粘度は190Pa・sec−1、相対粘度3.38であった。
【0151】
(実施例1)
図3に示す、芯成分、鞘成分それぞれについて1軸混練機を備えた紡糸延伸連続捲縮付与装置を用い、溶融紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を連続的に施し、BCFヤーンを得た。
【0152】
図3に示した芯成分ホッパー1に、成分A(PLA−1)を投入し、鞘成分ホッパー2には成分B(N6−1 融点225℃、融点ピークの熱容量79J/g、相対粘度2.59、溶融粘度150Pa・sec−1)を投入し、成分Aと成分Bを、それぞれ1軸押出混練機3、4にて別々に溶融および混練して紡糸ブロック5に導き、ギヤポンプ6、7にてそれぞれのポリマーを計量、排出し、内蔵された紡糸パック8に導き、三葉断面用の細孔を96ホール有する、紡糸口金9から紡出した。この時、芯鞘比=40/60(重量比)となるように、芯成分、鞘成分のギヤポンプ6,7の回転数を選定した。そしてユニフロー冷却装置10で糸条11を冷却固化し、給油装置12により給油した。さらに第1ロール13で引き取った後、第2ロール14の速度を第1ロール13の速度の1.02倍の速度として未延伸糸にストレッチを加えた後、第2ロール14と第3ロール15の速度比により延伸を施し、第3ロール15で熱処理を施し、第3ロール15と第4ロール16の速度比により再度延伸を施し、第4ロール16で再度熱処理を施し、第4ロール16と第5ロール(冷却ドラム)18との間で糸条をリラックス(オーバーフィード)させながら加熱流体を用いる捲縮ノズル17にてエアースタッファ捲縮を付与し、第5ロール(冷却ドラム)18の表面において捲縮糸を冷却して構造固定し、第6ロール19、第7ロール20の間で捲縮を伸ばさない程度の張力(0.08cN/dtex、繊度は巻取った捲縮糸の繊度を用いる)をかけ、第7ロール20と巻取機22の間で捲縮を伸ばさない程度の張力(0.08cN/dtex、繊度は巻取った捲縮糸の繊度を用いる)かけて、巻き取ることにより、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を1段階で施した1920デシテックス96フィラメントのBCFヤーンを得た(チーズパッケージ21)を得た。約100kgサンプリングしたが糸切れ、単繊維流れ等は発生せず、製糸は極めて安定していた。実施例1の結果を表1に示す。 なお溶融紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理条件は以下のとおりである。
・混練機温度:230℃
・紡糸温度:245℃
・濾層:30#モランダムサンド充填
・フィルター:20μm不織布フィルター
・口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット幅0.15mm、スリット長1.5mm、孔数96
・口金2(図6の模式図29の口金。口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの):
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長1.2mm、1フィラメントに対して孔数1
・吐出量:498.6g/分(1パック1糸条、96フィラメント)
・冷却:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒、冷却開始位置は口金面下0.1m
・油剤:脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10%付着
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:70℃
・第3ロール温度:135℃
・第4ロール温度:190℃
・第5ロール温度:25℃
・第6ロール温度:25℃
・第7ロール温度:25℃
・加熱蒸気処理温度:230℃
・第1ロール速度:840m/分(=第2ロール速度/1.02)
・第2ロール速度:857m/分
・第3ロール速度:2400m/分
・第4ロール速度:3000m/分
・第5ロール速度:80m/分
・第6ロール速度:2550m/分
・第7ロール速度:2600m/分
・巻取速度:2550m/分
・総合延伸倍率:3.5倍(第2〜第3ロール:2.8倍、第3〜第4ロール:1.25倍)。 得られたBCFヤーンは、単繊維が不規則な方向にループ状に屈曲してたるみを形成し、単繊維が絡み合っている捲縮形態を有していた。強度は2.3cN/dtex、沸収は2.2%、単繊維繊度は20dtexであった。また捲縮伸長率25%、拘束荷重下伸長率13%と、優れた捲縮特性を示し、へたり難い捲縮を有する捲縮糸であった。そして該捲縮糸を用いて筒編地、カーペットを作製したところ、いずれもボリューム感があり、ソフトなタッチで、審美性のある光沢を呈し、風合いに優れていた。
【0153】
得られた捲縮糸からなる筒編地にて耐剥離性評価した結果、外観変化は全く無く、優れた耐剥離性を示した。また、得られた捲縮糸を用いてなるカーペットの耐摩耗試験を行った結果、摩耗減量率は10%と優れた耐摩耗性を有しており、摩耗後のカーペット地において、捲縮糸の白化、および鞘割れは観察されなかった。
【0154】
得られた捲縮糸の単繊維の横断面をTEM観察した結果、芯成分は単繊維の中心に位置しており、鞘成分の厚みの最小値は3.0μmであり、芯成分はすべて鞘成分で被覆されていた。そして単繊維の異形度は3.0、芯成分の異形度は3.0であった。また該捲縮糸のDSCでの融点は169℃(成分Aに由来するピーク)および224℃(成分Bに由来するピーク)と、各成分起因の融解ピークが観測され、それぞれの融解ピークの熱容量の総和は72J/gであり、十分な結晶性を示した。
【0155】
(比較例1)
実施例1において、成分Bを用いず、口金を変更した以外は、実施例1と同一条件にて成分AのみからなるBCFヤーンを得ようと試みたが、第4ロール16、捲縮ノズル17において単繊維融着が激しく、製糸不可能であった。そこで、第3ロール15温度、第4ロール16温度、捲縮ノズル17温度を変更して比較例1の捲縮糸を得た(このとき第6ロール19速度、第7ロール20速度、巻取速度は実施例1で示した張力の範囲に収まるよう変更した。また単糸繊度が20dtexとなるように、吐出量を調整した)。製糸性は不良であり、100kgのサンプリングで15回の糸切れが起こった。比較例1の結果を表1に、比較例1の口金スペック、第3ロール15温度、第4ロール16温度、捲縮ノズル17温度、巻取速度を下記に示す。
・比較例1の口金2:芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長1.2mm、1フィラメントに対して孔数1(鞘成分の流路はなし)
・比較例1の第3ロール15温度:90℃
・比較例1の第4ロール16温度:110℃
・比較例1の捲縮ノズル17温度:150℃
・比較例1の巻取速度:2670m/分。
【0156】
実施例1と比較例1から、本発明の捲縮糸は鞘成分を有することで耐摩耗性、捲縮特性に優れた捲縮糸となることが分かる。比較例1は耐剥離性試験において、鞘成分を有さないため、芯鞘界面の剥離現象は観察されなかったが、捲縮糸の削れ、フィブリル化が散見され、穴が空いた部分も観察された。また比較例1の捲縮糸は、融着
部が散見され、強度が1.2cN/dtexと低く、筒編地、カーペットを作製する工程において糸切れが多発した。また捲縮糸中には配向度の高い分子鎖が残存して沸収が10%と高いため、該捲縮糸の耐剥離性、耐摩耗性、捲縮特性は経時的に悪化するものであった。
【0157】
(実施例2〜3、比較例2〜3)
実施例1において、第4ロール16温度を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3、比較例2〜3の捲縮糸を得た(このとき第6ロール19速度、第7ロール20速度、巻取速度は実施例1で示した張力となるよう調整した)。実施例2、3は問題となるレベルではないが糸切れがそれぞれ1回おこった。比較例2、3の製糸性は不良であり、それぞれの糸切れは比較例2は12回、比較例3は13回であった。実施例2〜3、比較例2〜3の結果を表1に示す。実施例2〜3、比較例2〜3の紡糸条件を下記する。
・第4ロール16温度
実施例2:170℃
実施例3:220℃
比較例2:130℃
比較例3:225℃。
実施例1〜3、比較例2〜3を比較すると分かるように、延伸後の最終ロールの熱処理温度160〜220℃を採用することにより、本発明にて好ましいとされる強度、沸収を有する捲縮糸となり、耐剥離性に優れる捲縮糸を生産性良く得ることができる。これは、上記の好ましい製造条件を採用することにより、捲縮ノズル内において繊維が即座に高温状態になるため、芯成分と鞘成分の熱収縮特性の差による影響を受けずに、芯成分と鞘成分の分子配向が十分に低く、かつ結晶相をより多く含む捲縮糸となるためと考えられる。
【0158】
また実施例1〜3を比較すると分かるように、本発明にてより好ましいとされる製造方法を採用することにより、捲縮特性にも優れた捲縮糸となった。このため実施例1の捲縮糸からなる筒編地、カーペットは、実施例2〜3と比較して優れた風合いを呈するものであった。
【0159】
【表1】

【0160】
(実施例4〜5、比較例4〜5)
実施例1において、総合延伸倍率を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜5、比較例4〜5の捲縮糸を得た(第1〜3ロール速度は下記の倍率となる様に変更し、第1ロール13速度は第2ロール14速度を1.02で除した値とした)。実施例4〜5では問題となるレベルではないが、糸切れがそれぞれ1回起こった。比較例4〜5の製糸性は不良であり、比較例4では糸切れが12回、比較例5では糸切れが14回、観察された。実施例4〜5、比較例4〜5の結果を表2に示す。実施例4〜5、比較4〜5の紡糸条件を下記する。
・総合延伸倍率
実施例4:2.1倍(第2〜第3ロール:1.68倍、第3〜第4ロール:1.25倍)
実施例5:4.6倍(第2〜第3ロール:3.68倍、第3〜第4ロール:1.25倍)
比較例4:1.9倍(第2〜第3ロール:1.52倍、第3〜第4ロール:1.25倍)
比較例5:5.1倍(第2〜第3ロール:4.08倍、第3〜第4ロール:1.25倍)
。 実施例1、4〜5、比較例4〜5を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる総合延伸倍率採用することにより、本発明にて好ましいとされる強度、沸収を有する捲縮糸となり、耐剥離性に優れる捲縮糸となることが分かる。上記の総合延伸倍率で延伸を施すことにより、延伸糸の芯成分と鞘成分が均一に配向するため、捲縮加工において、芯成分と鞘成分との熱収縮特性の差が生じ難く、芯鞘界面に隣接する分子鎖が無理な歪みを受けないためと考えられる。そして実施例1は、実施例4〜5と比べて、より好ましい強度、沸収を有するため、耐剥離性に優れた捲縮糸であった。
【0161】
【表2】

【0162】
(実施例6〜8、比較例6〜7)
実施例1において、口金1の孔数を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6〜8、比較例6〜7の捲縮糸を得た。問題となるレベルではないが、実施例6〜8のいずれも糸切れが1回起こった。比較例6〜7は製糸性が不良であり、比較例6では糸切れが12回、比較例7では糸切れが11回起こった。実施例6〜8、比較例6〜7の結果を表3に示す。実施例6〜8、比較6〜7の紡糸条件を下記する。
・口金孔数
実施例6:320
実施例7:72
実施例8:48
比較例6:480
比較例7:40。
【0163】
実施例1、6〜8、比較例6〜7を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる単繊維繊度の捲縮糸とすることにより、耐剥離性に優れた捲縮糸となることが分かる。これは、本発明にて好ましいとされる単繊維繊度とすることにより、溶融紡糸工程で芯成分と鞘成分とが均一に配向した延伸糸とすることができるため、捲縮加工において芯鞘界面に隣接する分子鎖に無理な歪みが生じないためと考えられる。
また実施例6〜8の捲縮糸からなる筒編地や、カーペットと比較して、実施例1からなる筒編地やカーペットは、ボリューム感に優れ、ボリューム感が長期に渡って維持されるものであった。すなわち、本発明にてより好ましい単繊維繊度の捲縮糸とすることにより、捲縮の堅牢度も高い捲縮糸となった。
【0164】
【表3】

【0165】
(実施例9〜12)
実施例1において、成分A、成分Bとして用いる樹脂を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例9〜12の捲縮糸を得た。実施例9、10では糸切れは確認されなかった。実施例11、12では問題となるレベルではないがそれぞれ糸切れが1回起こった。実施例9〜12の結果を表4に示す。実施例9〜12で用いた樹脂を下記する。
・芯成分、鞘成分に用いた樹脂
実施例9:成分A=PLA−1、成分B=N6−2(融点225℃、融点ピークの熱容量77J/g、相対粘度2.95、溶融粘度300Pa・sec−1
実施例10:成分A=PLA−1、成分B=N6−3(融点225℃、融点ピークの熱容量78J/g、相対粘度2.10、溶融粘度50Pa・sec−1
実施例11:成分A=PLA−2、成分B=N6−3
実施例12:成分A=PLA−3、成分B=N6−2。
【0166】
実施例1、9〜12を比較すると分かるように、本発明に用いる成分Aと成分Bの溶融粘度比を本発明にて好ましいと範囲とすることにより、耐剥離性に優れた捲縮糸となることが分かる。本発明にて好ましいとされる溶融粘度比とすることにより、溶融紡糸工程において、芯成分と鞘成分へかかる応力を均一にすることが可能となり、未延伸糸の芯成分と鞘成分との分子配向の差がほとんどないため、延伸工程において芯成分と鞘成分を均一に配向させることができ、各成分の熱収縮特性の差が小さくなり、捲縮加工において芯鞘界面に隣接する分子鎖が無理な歪みを受けにくくなるためと考えられる。 また実施例9〜12の捲縮糸からなる筒編地や、カーペットと比較して、実施例1からなる筒編地やカーペットは、耐剥離性に優れるため、鞘割れが起こって芯成分がむき出しになることが無く、耐摩耗性にも優れることが分かる。
【0167】
【表4】

【0168】
(実施例13〜17)
実施例1において、芯鞘比(重量比)を変更した以外は実施例1と同様にして実施例13〜17の捲縮糸を得た。実施例13〜17の結果を表5に、それぞれにおける芯鞘比を下記に示す。
・実施例13:芯成分/鞘成分=20/80
・実施例14:芯成分/鞘成分=30/70
・実施例15:芯成分/鞘成分=60/40
・実施例16:芯成分/鞘成分=70/30・実施例17:芯成分/鞘成分=80/20。
【0169】
実施例1、13〜17からわかるように、本発明にて好ましいとされる芯鞘比を採用することにより、耐剥離性がより優れた捲縮糸を得ることができる。そして芯鞘界面の剥離を抑制できるため、摩耗時に芯成分が剥き出しになって削れてしまうことが無く、より耐摩耗性に優れた捲縮糸なった。さらに実施例1の捲縮糸は、実施例13〜17と比較して耐剥離性、堅牢度の高い捲縮を有し、バルキー性、柔軟性が長期に渡って維持されるものとなった。
【0170】
【表5】

【0171】
(実施例18〜22)
実施例1において、口金を変更して、単繊維の異形度と芯成分の異形度を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例18〜22のBCFヤーンを得た。実施例18〜22の結果を表6に、それぞれにおける口金スペックを下記に示す。
・実施例18の口金1:スリット幅0.3mm、スリット長1.5mm、孔数96
・実施例18の口金2:
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長0.6mm、1フィラメントに対して孔数1
・実施例19の口金1:スリット幅0.15mm、スリット長2.25mm、孔数96
・実施例19の口金2:
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長1.8mm、1フィラメントに対して孔数1
・実施例20の口金1:スリット幅0.25mm、スリット長0.75mm、孔数96
・実施例20の口金2:
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長0.48mm、1フィラメントに対して孔数1
・実施例21の口金1:スリット幅0.15mm、スリット長2.70mm、孔数96
・実施例21の口金2:
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長2.16mm、1フィラメントに対して孔数1。
・実施例22の口金1:口金孔径0.6mm、吐出孔長0.6mm、孔数96
・実施例22の口金2:
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 孔径0.6mm、吐出孔長0.6mm、1フィラメントに対して孔数1。 実施例1、18〜22からわかるように、単繊維の異形度を本発明にて好ましい範囲とすることにより、耐剥離性、耐摩耗性に優れた捲縮糸となった。
【0172】
【表6】

【0173】
(実施例23〜25)
実施例17において、芯成分ホッパーに供給するチップを変更した以外は、実施例17と同様にして実施例23〜25のBCFヤーンを得た。実施例23〜25の結果を表7に、それぞれにおける芯成分ホッパーに供給したチップを下記に示す。
・実施例23の芯成分のチップ:PLA−1/PLA−5=90/10(重量比)チップブレンド
・実施例24の芯成分のチップ:PLA−1/PLA−6=90/10(重量比)チップブレンド
・実施例25の芯成分のチップ:PLA−1/PLA−7=90/10(重量比)チップブレンド。
【0174】
実施例17、23〜25からわかるように、捲縮糸が成分C(相溶化剤)を含有することにより、芯鞘界面の接着性が高まり、耐剥離性、耐摩耗性に優れた捲縮糸となることが分かる。
【表7】

【0175】
(実施例26〜30)
実施例1において、成分A、成分Bとして用いるチップを変更した以外は実施例1と同様にして実施例26〜30のBCFヤーンを得た。なお実施例29においては実施例1と
同一紡糸温度では紡糸ができなかったため、紡糸温度270で実施した。実施例26〜30の結果を表8に、それぞれにおける成分A、成分Bを下記に示す。
・実施例26:成分A/成分B=PLA−1/N11
・実施例27:成分A/成分B=PLA−1/(N6/N66)
・実施例28:成分A/成分B=PLA−1/N610
・実施例29:成分A/成分B=PLA−1/N66
・実施例30:成分A/成分B=PLA−4/N6−1。
N11:ナイロン11、溶融粘度150Pa・sec−1、融点185℃、融解ピーク熱容量42J/g
N6/N66:ナイロン6とナイロン66のモノマーが、モル比80/20で共重合されたナイロン、相対粘度2.59、融点200℃、融解ピーク熱量50J/g、溶融粘度150Pa・sec−1
N610:ナイロン610、相対粘度2.59、融点225℃、融解熱量ピーク68J/g、溶融粘度150Pa・sec−1
N66:ナイロン66、相対粘度2.59、融点260℃、融解熱量ピーク73J/g、溶融粘度150Pa・sec−1
実施例1、実施例26〜28からわかるように、本発明にて結晶性が高い成分Bを鞘成分とすることにより、より耐剥離性に優れた捲縮糸となることが分かる。また捲縮糸の結晶性が高いほど、捲縮の堅牢度が高くなり、筒編地やカーペットのバルキー性や柔軟性が維持され、風合いに優れたものであった。
【0176】
実施例1と実施例29〜30からわかるように、本発明にて好ましい範囲の融点を有する成分A、成分Bを用いることにより、成分Aが熱劣化して粘度低下することにより、成分Aの内部に粘度斑が生じることを抑制でき、耐剥離性に優れた捲縮糸となることがわかる。成分Aの内部に粘度斑が無いことにより、紡糸・延伸工程で芯成分と鞘成分とを均一に配向させ易いため、捲縮加工において芯成分と鞘成分の熱収縮特性の差が生じ難く、沸収の低い捲縮糸となるため、耐剥離性に優れた捲縮糸となる。
【0177】
また、実施例1は実施例29〜30と比較して、芯成分を繊維の横断面において中心部に配置しており、芯成分を均一に鞘成分で被覆できているため、耐摩耗性にも優れたものとなった。
【0178】
(実施例31)
実施例1において、紡糸温度を270℃とした以外は実施例1と同様にして、実施例31のBCFヤーンを得た。紡糸性はあまり良いとは言えず、100kgの紡糸で、10回糸切れが発生した。
【0179】
実施例1と実施例31を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる紡糸温度を採用することにより、成分Aの熱劣化を抑制でき、製糸性が向上できることが分かる。また成分Aの熱劣化による粘度斑を抑えるほど、紡糸・延伸工程で芯成分と鞘成分とを均一に配向させ易く、捲縮加工において芯成分と鞘成分の熱収縮特性の差が生じ難い。この結果として沸収の低い捲縮糸となるため、耐剥離性に優れた捲縮糸となる。
【0180】
さらに、成分Aの熱劣化を抑えることで、芯成分を繊維の横断面において中心部に配置させることができ、繊維表面を均一に鞘成分で被覆させることができるため(鞘成分の厚みの最小値が大きい)、耐摩耗性にも優れる捲縮糸となった。
【0181】
【表8】

【0182】
(実施例32)
実施例17において、図8に示すように、紡糸延伸連続熱処理装置すなわち熱処理後にエアスタッファ捲縮加工を施さずに、巻き取る装置を用いた以外は、実施例17と同様にして、未捲縮の延伸糸を得た。延伸糸作製条件を下記に示す。
【0183】
延伸糸作製条件
・混練機温度:230℃
・紡糸温度:245℃
・濾層:30#モランダムサンド充填
・フィルター:20μm不織布フィルター
・口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット幅0.15mm、スリット長1.5mm、孔数96
・口金2(図6の模式図29の口金。口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの):
鞘成分 孔径0.5mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数3
芯成分 スリット幅0.12mm、スリット長1.2mm、1フィラメントに対して孔数1
・吐出量:498.6g/分(1パック1糸条、96フィラメント)
・芯鞘比:芯成分/鞘成分=80/20
・冷却:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒、冷却開始位置は口金面下0.1m
・油剤:脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10%付着
・第1ロール13温度:25℃
・第2ロール14温度:70℃
・第3ロール15温度:135℃
・第4ロール16温度:190℃
・第7ロール20温度:25℃
・第1ロール13速度:840m/分(=第2ロール速度/1.02)
・第2ロール14速度:857m/分
・第3ロール15速度:2400m/分
・第4ロール16速度:3000m/分
・第7ロール20速度:2900m/分
・巻取速度:2860m/分
・総合延伸倍率:3.5倍(第2〜第3ロール:2.8倍、第3〜第4ロール:1.25倍)。
【0184】
得られた延伸糸について、図9に示す仮撚加工装置を用いて仮撚加工(ブレリア加工)を施した。すなわち延伸糸チーズ31から解舒した延伸糸33を糸道ガイド32、34,35を経て供給ロール36で引き取った後、第1ヒーター37により加熱して撚りを熱セットし、糸道ガイド38を経て冷却板39にて冷却する。その後3軸ツイスター40により解撚し、延伸ロール41にて引き取る。ついで、第2ヒーター42により加熱し、デリベリロール43、糸道ガイド44、45を各々経て、仮撚加工糸46を巻き取る。このとき延伸倍率を1.05倍(=延伸ロール41の速度/供給ロール36の速度)、第1ヒーター37の温度を200℃、第2ヒーター42の温度を120℃、3軸ツイスター40(ウレタンディスク)のD/Y比(=ウレタンディスクの周速度/延伸ロール41の速度)を1.7、オーバーフィード率([{延伸ロール41の速度−デリバリーロール43の速度}/延伸ロール41の速度]×100)を15%、デリバリーロール43の速度を600m/分、延伸仮撚加工を実施した。糸掛け性、工程通過性は良好とは呼べず、100kgの仮撚加工糸を得る際に糸切れが5回発生した。得られた仮撚加工糸は沸騰水処理後の捲縮伸長率20%、強度2.4cN/dtex、単繊維繊度20dtex、沸収6%、伸度45%であった。実施例32の仮撚加工糸の耐剥離性評価においては、白化、毛玉が発生し易く、試料の穴あきが観察されるなど外観変化する場合があり、耐剥離性の点で用途が制限されるものであった(耐剥離性の総合評価は△(可)総合評価11点)。実施例29の仮撚加工糸は単繊維がループ状の屈曲を有する捲縮形態であったが、実施例17の捲縮糸の方が、よりループの方向性、振幅が不規則である単繊維で構成される捲縮糸であった。すなわち本発明にて好ましいとされる捲縮形態を有するBCFヤーンとすることにより、捲縮糸に加えられた外力を分散させることが可能となり、耐剥離性に優れた捲縮糸となった。 (比較例8)
実施例32において、得られた延伸糸について、図10に示す仮撚加工装置を用い、下記に示す条件で仮撚加工(ウーリー加工)を施した以外は実施例32と同様にして仮撚加工糸を得た。すなわち延伸糸チーズ31から解舒した延伸糸33を糸道ガイド32、34,35を経て供給ロール36で引き取った後、第1ヒーター37により加熱して撚りを熱セットし、糸道ガイド38を経て冷却板39にて冷却する。その後3軸ツイスター40により解撚し、延伸ロール41にて引き取る。ついで、デリベリロール43、糸道ガイド44、45を各々経て、仮撚加工糸46を巻き取る。このとき延伸倍率を1.05倍(=延伸ロール41の速度/供給ロール36の速度)、第1ヒーター37の温度を200℃、3軸ツイスター40(ウレタンディスク)のD/Y比(=ウレタンディスクの周速度/延伸ロール41の速度)を1.7、延伸ロール41の速度およびデリバリーロール43の速度を600m/分、として延伸仮撚加工を実施した。このとき糸掛け性、工程通過性は良好とは呼べず、100kgの仮撚加工糸を得る際に糸切れが5回発生した。得られた仮撚加工糸は沸騰水処理後の捲縮伸長率25%と良好な嵩高性を有する捲縮糸であり、強度3.7cN/dtex、伸度28%、沸収13%であった。比較例8の仮撚加工糸の耐剥離性評価においては、白化、毛玉が発生し易く、試料の穴あきが観察されるなど外観変化が著しく、耐剥離性の点で実用性に乏しい繊維であった(耐剥離性の総合評価は×(不可)総合評価6点)。実施例32と比較例8を比較すると分かるように、解撚後に加熱しながら高リラックス処理を行う加工(ブレリア加工)を施すことにより、非晶部の配向度を低くして沸収の低い仮撚加工糸とすることにより、耐剥離性の向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】本発明のBCFヤーンの一態様をマルチフィラメントの状態で黒紙の上に置き上面から観察した繊維の形状の写真である。
【図2】本発明のBCFヤーンの一態様を単繊維にばらして黒紙の上に置き、上面から観察した繊維の形状の写真である。
【図3】本発明の実施例1で使用した紡糸延伸連続捲縮付与装置の一態様を示す概略図である。
【図4】捲縮糸の断面形状を示す模式図である。
【図5】吐出孔長、孔径、スリット長、スリット幅を説明する口金下面部側面平面断面模式図である。
【図6】本発明方法で使用する口金の一態様を示す側面断面模式図である。
【図7】溶融粘度と相対粘度の関係を説明する図である。
【図8】本発明の実施例33および比較例8で使用した紡糸延伸連続熱処理装置の一態様を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例33で使用した延伸糸に仮撚加工を施す装置の一態様を示す概略図である。
【図10】本発明の比較例8で使用した延伸糸に仮撚加工を施す装置の一態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0186】
1:芯成分ホッパー
2:鞘成分ホッパー
3:芯成分の1軸押出混練機
4:鞘成分の1軸押出混練機
5:紡糸ブロック
6:芯成分のギヤポンプ
7:鞘成分のギヤポンプ
8:紡糸パック
9:紡糸口金
10:ユニフロー冷却装置
11:糸条
12:給油装置
13:第1ロール
14:第2ロール
15:第3ロール
16:第4ロール
17:捲縮ノズル
18:第5ロール
19:第6ロール
20:第7ロール
21:チーズパッケージ
22:巻取機
23:芯成分
24:鞘成分
25:吐出孔長
26:孔径
27:スリット長
28:スリット幅
29:口金1(吐出直前の口金)
30:口金2(口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの)
31:延伸糸チーズ
32:糸道ガイド
33:糸条
34:糸道ガイド
35:糸道ガイド
36:供給ロール
37:第1ヒーター
38:糸道ガイド
39:冷却板
40:3軸ツイスター
41:延伸ロール
42:第2ヒーター
43:デリベリロール
44:糸道ガイド
45:糸道ガイド
46:仮撚加工糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)からなり、鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂(B)からなる芯鞘型複合繊維から構成される捲縮糸であって、以下の(1)〜(3)の物性を有することを特徴とする捲縮糸。
(1)強度:1.5〜3.0cN/dtex
(2)単繊維繊度:5〜40dtex
(3)沸収:6%以下
【請求項2】
捲縮糸がBCFヤーンである請求項1に記載の捲縮糸。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度(ηA)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の溶融粘度(ηB)の比である溶融粘度比(ηB/ηA)が0.2〜2である請求項1または2に記載の捲縮糸。
【請求項4】
芯鞘型複合繊維の芯鞘比(重量比)が10/90〜65/35である請求項1〜3のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項5】
捲縮糸の単繊維の異形度(D3/D4)が1.3〜4である請求項1〜4のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項6】
捲縮糸の沸騰水処理後の捲縮伸長率が5〜35%である請求項1〜5のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項7】
捲縮糸を2mg/dtex荷重下で沸騰水処理した後に測定した捲縮伸長率(拘束荷重下伸長率)が2〜30%である請求項1〜6のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項8】
捲縮糸を昇温速度16℃/分で測定した示差熱量曲線の融解ピークの熱容量の総和が50J/g以上である請求項1〜7のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項9】
捲縮糸が、さらに一分子中に二個以上の活性水素反応性基を含有する化合物(C)を相溶化剤として含有してなる請求項1〜8のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の捲縮糸を少なくとも一部に用いられてなる繊維構造体。
【請求項11】
繊維構造体が自動車内装用のカーペットである、請求項10記載の繊維構造体。
【請求項12】
直接紡糸・延伸・捲縮加工装置を用い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を芯成分とし、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を鞘成分として口金吐出孔にて合流させて吐出することにより紡出糸を形成し、該紡出糸を総合延伸倍率2〜5倍で延伸し、延伸後の最終ロールの温度を160〜220℃として熱セットしてから、エアスタッファ捲縮加工装置にて捲縮加工を施すことを特徴とする捲縮糸の製造方法。
【請求項13】
直接紡糸・延伸・捲縮加工装置を用い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を芯成分とし、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を鞘成分とし、芯鞘比(重量比)65/35〜10/90で口金吐出孔にて合流させて吐出させるに際し、溶融粘度比(ηB/ηA)が0.2〜2範囲となる組み合わせとし、紡糸温度を熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点Tmbに対し、Tmb〜Tmb+30℃とし、口金吐出孔での吐出線速度を1〜20m/分として紡出糸を形成し、該紡出糸を口金面から鉛直下方0.01〜0.15mを冷却開始点とし、口金面の鉛直方向に直交する方向から風速0.3〜1m/秒、風温15〜25℃の気体で冷却したマルチフィラメントを、総合延伸倍率2〜5倍で、2段階で延伸した後、捲縮加工を施すに際し、1段目の延伸ロールを50〜90℃とし、2段目の延伸ロールを90〜150℃とし、延伸後の最終ロール温度を160〜220℃として熱セットし、エアジェットスタッファ捲縮加工装置に供給するに際し、該装置のノズル温度を延伸後の最終ロール温度よりも5〜100℃高い温度として捲縮加工を行って捲縮糸を形成し、冷却ドラムに当てて引取り、延伸後の最終ロールより10〜30%低い速度で巻き取ることを特徴とする請求項12記載の捲縮糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−106410(P2008−106410A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48809(P2007−48809)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】