説明

掃除空気の水滴分離器汚染防止構造およびこれを備えた船舶

【課題】簡素且つ安価な構成により、エンジンの掃気ポート側から逆流するドレンオイルが水滴分離器に付着することを防止する。
【解決手段】本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造47は、過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管22内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器24と掃気トランク室25とが設けられ、掃気トランク室25が水滴分離器24の上方に向かって延びて前記掃気ポートに接続されている場合に、エンジン停止後に掃気ポート側から掃気トランク室25内に滴り落ちるドレンオイルが水滴分離器24に降り掛からないように、水滴分離器24の上部を空気導管22内に固定する上部固定部材57を、水滴分離器24の上面を覆うカバー状に形成するとともに、この上部固定部材57の、掃気トランク室25側の端部を庇状に延長して前側延長部62を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を備えた大型ディーゼルエンジン等に付設される掃除空気の水滴分離器汚染防止構造およびこれを備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶用の大型ディーゼルエンジンでは、エンジン効率を高めるためにターボチャージャー等に代表される過給機を備えたものが多い。エンジンに供給される空気は、過給機で圧縮される際に圧縮熱により発熱するため、この熱を冷却するために空気冷却器が設けられている。圧縮されて高温化した空気は空気冷却器において冷却される際に多量のドレン水を発生させる。このドレン水を含んだ圧縮空気(以下、「掃除空気」と呼ぶ)をそのままエンジンに供給すると、水分がシリンダライナの摺動面等を腐食させる等の虞があるため、特許文献1,2に開示されているように、空気冷却器の下流側に水滴分離器(ドレンセパレータ)が設置され、ここで掃除空気に含まれるドレン水が結露作用により分離され、水分が除去された掃除空気のみがエンジンに供給(掃気)される。水滴分離器にて分離されたドレン水は、ドレン水排出管を経て船外(海上等)に排出される。
【0003】
船舶用エンジンのディーゼルエンジンでは、特許文献1に開示されているように、水滴分離器にてドレン水を除去された掃除空気が、水滴分離器から上方に向かって延びる空気導管、掃気トランク一次室および掃気トランク二次室を経てエンジンの掃気ポートに供給されるレイアウトになっている。一方、エンジンのシリンダライナとピストン間を潤滑するべく供給されているオイルの一部が、エンジン停止後に掃気ポート側から掃気トランク二次室および掃気トランク一次室内にドレンオイルとなって滴り落ちてくる。このため、最も低い位置である掃気トランク一次室の底部に、このドレンオイルを排出するためのドレンオイル排出管が配設されている。掃気トランク一次室には水滴分離器が面しているため、掃気トランク一次室の底面に流れ落ちたドレンオイルが水滴分離器側に流れないように、掃気トランク一次室の底面と水滴分離器との間に堰状の遮蔽板や、水滴分離器側の方が高くなるような段差部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4233878号公報
【特許文献2】特開平11−350964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、上記のようにエンジン停止後に掃気ポート側からドレンオイルが滴り落ちてきた場合に、このドレンオイルが、前記遮蔽板や段差部を越えて水滴分離器に付着してしまうことが多かった。このように水滴分離器に付着したドレンオイルは、水滴分離器に付着するドレン水と共にドレン水排出管に流れ込み、そのまま外部に排出されて環境汚染を招く懸念があった。この問題点については、これまで何の改善策も講じられて来なかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、簡素且つ安価な構成により、エンジンの掃気ポート側から逆流するドレンオイルが水滴分離器に付着することを防止することのできる掃除空気の水滴分離器汚染防止構造およびこれを備えた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
即ち、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第1の態様は、過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部を庇状に延長して前側延長部を形成したことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、水滴分離器の上部を空気導管内に固定するための上部固定部材が、水滴分離器の上面を覆うカバーとしても機能し、この上部固定部材がエンジン停止後に掃気ポート側から滴り落ちて来るドレンオイルを水滴分離器に対して遮蔽する。このため、水滴分離器にドレンオイルが付着することが防止される。
さらに、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルが、上部固定部材の掃気トランク室側の端部を庇状に延長して形成した前側延長部の先端から滴下する。その際、この滴下するドレンオイルは水滴分離器の掃気トランク室側の面に対して前側延長部の延長量の分だけ離れた位置を通過して掃気トランク室の底部に落下する。このため、水滴分離器にドレンオイルが付着することをさらに有効に防止することができる。
このように、エンジン停止後に掃気ポート側から滴り落ちて来るドレンオイルが水滴分離器に付着しないため、水滴分離器によって吸入用の掃除空気から分離されたドレン水にドレンオイルが混ざってそのままドレン水排出管に流れ込み環境を汚染するといった事象を効果的に防止することができる。
なお、この水滴分離器汚染防止構造は、水滴分離器の上部を空気導管内に固定するための上部固定部材の形状を若干変更するだけで構成することができるため、簡素且つ安価に構成することができる。
【0009】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第2の態様は、前記第1の態様において、前記掃気トランク室の底部、且つ前記水滴分離器寄りの位置に、前記ドレンオイルが前記水滴分離器側に流れることを防止する堰止部が設けられ、前記前側延長部は、前記堰止部の真上を越えて前記水滴分離器の反対側までせり出していることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルが前側延長部の先端から滴下する際に、水滴分離器にかかることなく、堰止部よりも水滴分離器の反対側の領域となる掃気トランク室の底部に確実に落下し、掃気トランク室の底部に設けられているドレンオイル排出管に回収される。このため、ドレンオイルが水滴分離器に付着したり、水滴分離器によって分離されたドレン水が流れ込むドレン水排出管に流入したりすることを防止できる。
【0011】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第3の態様は、過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺に沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部を設けたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、前記第1の態様の場合と同じく、上部固定部材が水滴分離器の上面を覆うカバーとして機能し、エンジン停止時に掃気ポート側から滴り落ちて来るドレンオイルを水滴分離器に対し遮蔽して水滴分離器の汚染を防止する。
しかも、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルは、上部固定部材に設けられた縦壁状のフェンス部に遮られて上部固定部材の側辺からは下方に流れ落ちずに、上部固定部材の掃気トランク室側の端部の先端から下方に流れ落ちる。このため、特に水滴分離器の側面にドレンオイルが付着することを効果的に防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第4の態様は、前記第3の態様において、前記フェンス部は、L字形断面のアングル材を、前記側辺に沿わせて前記上部固定部材の上面に固定することによって設けたことを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、フェンス部を簡素かつ安価に形成することができる。しかも、上記アングル材を上部固定部材の固定具として共用することができるため、上部固定部材の変形や振動等を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第5の態様は、過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺の位置を、前記水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長して横側延長部を形成したことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、前記第1および第2の態様の場合と同じく、上部固定部材が水滴分離器の上面を覆うカバーとして機能し、掃気ポート側から滴り落ちて来るドレンオイルを水滴分離器に対し遮蔽して水滴分離器の汚染を防止する。
しかも、上部固定部材の側部に設けられた庇状の横側延長部が、水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長されているため、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルは、横側延長部に遮られて水滴分離器の側面を流れ落ちることがない。このため、特に水滴分離器の側面にドレンオイルが付着することを効果的に防止することができる。
【0017】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第6の態様は、前記第1の態様において、前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺に沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部を設けたことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、上部固定部材が水滴分離器の上面を覆うカバーとして機能し、掃気ポート側から滴り落ちて来るドレンオイルを水滴分離器に対し遮蔽し、水滴分離器の汚染を防止する。また、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルが、上部固定部材の前側延長部の先端から滴下し、この前側延長部の延長量の分だけ掃気トランク室側に離れた位置を通過して掃気トランク室の底部に落下するめ、水滴分離器にドレンオイルが付着することを効果的に防止することができる。
さらに、上部固定部材の上に滴り落ちたドレンオイルは、上部固定部材に設けられた縦壁状のフェンス部に遮られて上部固定部材の側辺からは下方に流れ落ちずに、前側延長部の先端から下方に流れ落ちる。このため、特に水滴分離器の側面にドレンオイルが付着することを効果的に防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造の第7の態様は、前記第1または第3の態様において、前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺の位置を、前記水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長して横側延長部を形成したことを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、前記第1または第3の態様における作用効果に加えて、上部固定部材の側部に設けられた庇状の横側延長部が、水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長されたことにより、上部固定部材の上に滴り落ちるドレンオイルが横側延長部に遮られて水滴分離器の側面を流れ落ちず、水滴分離器の側面にドレンオイルが付着することを効果的に防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る船舶は、前記第1から第7のいずれかの態様の水滴分離器を備えたことを特徴とする。
【0022】
この船舶によれば、簡素且つ安価な構成により、エンジンの掃気ポートと過給機との間を結ぶ空気導管内において掃気ポート側から逆流するドレンオイルが水滴分離器に付着することを防止して、水滴分離器により吸入空気から分離されたドレン水にドレンオイルが混入してそのまま外部に排出されてしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造およびこれを備えた船舶によれば、簡素且つ安価な構成により、エンジンの掃気ポート側から逆流するドレンオイルが水滴分離器に付着することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造を具備した船舶用の大型ディーゼルエンジンと過給機と空気導管等の構造例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す空気導管、掃気トランク室、水滴分離器等を拡大した縦断面図である。
【図3】図2のIII矢視による水滴分離器等の正面図である。
【図4】図3のIV-IV線に沿う縦断面により、水滴分離器汚染防止構造の第1実施形態を示す図である。
【図5】図3のV部拡大図である。
【図6】フェンス部を構成するアングル材の斜視図である。
【図7】水滴分離器汚染防止構造の第2実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の2つの実施形態について、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る掃除空気の水滴分離器汚染防止構造を具備した船舶用の大型ディーゼルエンジンと過給機と空気導管等の構造例を示す縦断面図である。
【0027】
このディーゼルエンジン1は、例えば公知のユニフロー方式の2サイクル多気筒エンジンであり、クランクケース2の上に設置されたシリンダジャケット3の内部にシリンダライナ4が設けられ、このシリンダライナ4の上端にシリンダヘッド5が設けられている。シリンダライナ4の内部にはシリンダボア6が形成され、このシリンダボア6の内部にピストン7が摺動自在に挿入されている。ピストン7にはピストンロッド8が連結され、このピストンロッド8の下端が図示しないコンロッドを介してクランクシャフトに連接されている点は周知の通りである。
【0028】
シリンダライナ4の下部には複数の掃気ポート11が円周方向に並んで形成されている。また、これらの掃気ポート11の周囲を取り囲んで、シリンダジャケット3の内部に掃気通路12が画成されている。一方、シリンダヘッド5の頂部には排気ポート13およびこれを開閉する排気バルブ14が設けられている。排気バルブ14は図示しないカムシャフト、または電磁的に制御される油圧装置により開閉駆動され、ピストン7がシリンダボア6内を上昇するタイミングに同期して開弁する。
【0029】
このディーゼルエンジン1の複数の気筒の排気ポート13は、それぞれ排気管16を経て、気筒配列方向に沿う円筒状の排気静圧室17(サージタンク)に接続され、この排気静圧室17にターボチャージャー18(過給機)の排気タービン側流路19が接続される。また、ターボチャージャー18の吸気タービン側流路20が、略U字形の縦断面形状を備えた空気導管22を経て掃気通路12に接続されている。空気導管22の内部には、ターボチャージャー18側から順に、空気冷却器23と水滴分離器24が設置され、水滴分離器24の下流側、且つ空気導管22が掃気通路12に接続される部分に、上下方向に延びる掃気トランク室25が配置されている。空気冷却器23と水滴分離器24は、図示しない多層の空気通過部を備えており、冷却水等の冷媒によって内部から冷却されるようになっている。
【0030】
水滴分離器24は掃気トランク室25の底部に設置されており、掃気トランク室25は水滴分離器24から上方に向かって延びて掃気ポート11に接続されていて、下側(上流側)に位置する掃気トランク一次室25Aと、上側(下流側)に位置する掃気トランク二次室25Bとからなっている。掃気トランク一次室25Aと掃気トランク二次室25Bとの間を斜めに隔てている隔壁板27に複数のリード弁状の掃気弁28が設けられている。掃気弁28は、掃気トランク一次室25Aから掃気トランク二次室25Bへ流れる気流のみを通し、逆方向の気流を遮断する逆止弁である。また、掃気トランク一次室25Aと掃気トランク二次室25Bとの間を小さな開口面積で連通させている補助ブロワ29が設けられている。
【0031】
ディーゼルエンジン1が作動すると、高温、高圧な排気ガスが排気ポート13から排気管16と排気静圧室17とを経てターボチャージャー18の排気タービン側流路19に流れ、ターボチャージャー18のタービンを高速で回転させる。これにより、外気がターボチャージャー18に取り込まれ、圧縮された後に吸気タービン側流路20を経て掃除空気として空気導管22に入る。この掃除空気は圧縮熱により発熱しているため、空気冷却器23を通過する際に冷却される。その時に多量のドレン水が発生するため、空気冷却器23の下流側に設けられた水滴分離器24において結露作用により水分を除去され、乾燥した空気となって掃気トランク一次室25Aと掃気トランク二次室25Bを通過し、さらに掃気通路12を経て複数の掃気ポート11からシリンダボア6内に過給される。
【0032】
図2に拡大して示すように、水滴分離器24は略直方体形状であり、掃気トランク一次室25Aの内部に設置されている。掃気トランク一次室25Aの底部には、水滴分離器24の直下となる位置にドレン水排出孔32およびドレン水排出管33が配設されており、水滴分離器24にて分離されたドレン水は、このドレン水排出孔32とドレン水排出管33を経て船外(海上等)に排出される。また、掃気トランク一次室25Aの底部、且つ水滴分離器24寄りの位置には、上方に起立する堰状の遮蔽板36(堰止部)が設けられている。そして、この遮蔽板36を挟んで水滴分離器24の反対側となる掃気トランク一次室25Aの底部にドレンオイル排出孔38およびドレンオイル排出管39が配設されている。遮蔽板36は後述するように水滴分離器24の支持部材でもある。
【0033】
ディーゼルエンジン1の停止時には、シリンダライナ4とピストン7との間の摺動部を潤滑するべく供給されたオイルが掃気ポート11および掃気通路12から逆流し、隔壁板27に設けられた掃気弁28の隙間を経てドレンオイルとして掃気トランク室25(25A,25B)内に滴り、掃気トランク一次室25Aの底部に流れ落ちる。このように流れ落ちたドレンオイルは、遮蔽板36によって水滴分離器24側に移動することが防止され、ドレンオイル排出孔38とドレンオイル排出管39を経て図示しない廃油タンクに貯留される。なお、図2および図3に示すように、掃気トランク一次室25A内は、エンジン長手方向に沿って平行に設置された複数の吸気緩衝板41によって仕切られており、これらの吸気緩衝板41の略中央部に吸気流通孔42が穿設されるとともに、吸気緩衝板41の下部に前記のドレンオイルをドレンオイル排出管39にスムーズに流すための切欠き状のドレンオイル流通部43が形成されている。
【0034】
次に、水滴分離器汚染防止構造47について説明する。
掃気トランク一次室25Aと、空気冷却器23が設けられている部屋との間の縦壁部49(図2、図4参照)には、ターボチャージャー18から圧送される掃除空気を通すための開口部50が形成されており、この開口部50を塞ぐ形で水滴分離器24が縦壁部49に取り付けられている。ここで、説明を容易にするために、水滴分離器24を構成する各面のうち、縦壁部49に対向する面を「後面24R」と呼び、掃気トランク一次室25Aに対向する面を「前面24F」と呼び、吸気緩衝板41に平行する面を「側面24S」と呼び、上面には符号24Uを付与する。図2〜図5に示すように、水滴分離器24は、その側面24Sがアングル材等を用いた取付ブラケット53とボルト54によって縦壁部49に固定される一方、前面24Fの下部が遮蔽板36に重ねられてボルト55で固定されている。また、水滴分離器24の上部が上部固定部材57を介して縦壁部49に固定されている。
【0035】
上部固定部材57は、エンジン停止後に掃気ポート11側から掃気トランク室25(25A,25B)内に滴り落ちるドレンオイルが水滴分離器24に降り掛からないように、水滴分離器24の上面24Uを覆うカバー状に形成されている。図4に示すように、上部固定部材57は、水滴分離器24の上面24Uに間隔を空けて平行する固定部上面57Uと、この固定部上面57Uの後縁から立ち上がって縦壁部49にボルト58で締結される後部固定面57Rと、固定部上面57Uの前縁から垂れ下がってスペースカラー59を挟んでボルト60により水滴分離器24の前面24Fに締結される前部固定面57Fとを備えている。
【0036】
上部固定部材57の掃気トランク一次室25A側の端部は、水滴分離器24の前面24Fに対して庇状に延長されており、延長量Lを備えた前側延長部62となっている。この前側延長部62は、遮蔽板36の真上を越えて水滴分離器24の反対側までせり出している。即ち、上部固定部材57の前部固定面57Fが前側延長部62の先端部となっているが、この前部固定面57Fの位置が、水滴分離器24から見て遮蔽板36よりも遠くに位置している。この前側延長部62の長さ(延長量L)は、スペースカラー59の長さによって決定される。
【0037】
一方、図5の右半分および図3に示すように、上部固定部材57の、掃気トランク一次室25A側の端部(前部固定面57F)に隣接する側辺57Sの位置が、水滴分離器24の側面24Sよりも外方に庇状に延長して横側延長部64が形成されている。本実施形態では、この横側延長部64が吸気緩衝板41に接していないが、吸気緩衝板41に接するまで横側延長部64を延長してもよい。また、本実施形態では、横側延長部64が水滴分離器24の片側にのみ設けられているが、両側に設けてもよい。
【0038】
さらに、上部固定部材57(固定部上面57U)の側辺57Sに沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部66が設けられている。このフェンス部66は、例えば図6にも示すL字形断面のアングル材67を上部固定部材57の側辺57Sに沿わせて上面57Uにボルト68とナット69で固定することによって設けられている。アングル材67の両端部には四角い仕切板70が溶接等によって固着されている。なお、本実施形態ではフェンス部66が吸気緩衝板41に接しており、吸気緩衝板41に対して特に固定はされていないが、フェンス部66を溶接やボルト締め等によって吸気緩衝板41に固定することにより、フェンス部66を形成するアングル材67を上部固定部材57の固定具として活用し、上部固定部材57の変形や振動等を効果的に抑制することができる。
【0039】
あるいは、フェンス部66を吸気緩衝板41から少々離間させてもよい。さらに、アングル材67を用いずに、上部固定部材57(固定部上面57U)の側部を所定の幅に亘って上方に折り曲げることによってフェンス部66を形成してもよい。また、複数基設けられた水滴分離器24の間に吸気緩衝板41が介在しないレイアウトの場合は、各上部固定部材57の間の空隙を覆うように蓋部材を被装し、この蓋部材を横側延長部64としてもよい。
【0040】
以上のように構成された水滴分離器汚染防止構造47によれば、図4中に示すように、ディーゼルエンジン1の停止後に掃気ポート11側から掃気トランク室25(25A,25B)の内部に滴り落ちて来るドレンオイルDOが、水滴分離器24の上面24Uを覆うカバー状に形成された上部固定部材57によって遮蔽され、水滴分離器24に付着することが防止される。さらに、上部固定部材57の上に滴り落ちたドレンオイルDOが、上部固定部材57の先端に形成された前側延長部62(前部固定面57F)から滴下する際に、水滴分離器24の前面24Fに対して前側延長部62の延長量Lだけ離れた位置を通過して掃気トランク一次室25Aの底部に落下する。このため、水滴分離器24にドレンオイルDOが付着することをさらに有効に防止することができる。
【0041】
このように、エンジン停止後に掃気ポート11側から掃気トランク室25(25A,25B)内に滴り落ちて来るドレンオイルDOが水滴分離器24に付着しないため、水滴分離器24によって吸入用の掃除空気から分離されたドレン水DWにドレンオイルDOが混ざってそのままドレン水排出管33に流れ込み、環境を汚染してしまう懸念を効果的に排除することができる。
【0042】
また、ドレンオイルDOが水滴分離器24側に流れることを防止する遮蔽板36に対して、前側延長部62の先端部をなす前部固定面57Fが、この遮蔽板36の真上を越えて水滴分離器24の反対側にせり出しているため、上部固定部材57の上に滴り落ちたドレンオイルDOが前部固定面57Fから下方に滴下する際に、水滴分離器24にかかることなく、遮蔽板36よりも水滴分離器24の反対側の領域となる掃気トランク一次室25Aの底部に確実に落下し、掃気トランク一次室25Aの底部に設けられているドレンオイル排出管39に回収される。このため、ドレンオイルDOが水滴分離器24に付着したり、水滴分離器24によって分離されたドレン水DWが流れ込むドレン水排出管33に流入したりすることを効果的に防止できる。
【0043】
さらに、上部固定部材57の側辺57Sに沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部66を設けたため、上部固定部材57の上に滴り落ちたドレンオイルDOは、このフェンス部66に遮られて上部固定部材57の側辺57Sからは下方に流れ落ちずに、上部固定部材57の先端、即ち前部固定面57Fから下方に流れ落ちる。このため、特に水滴分離器24の側面にドレンオイルDOが付着することを効果的に防止することができる。なお、フェンス部66は、L字形断面のアングル材67を、上部固定部材57の側辺57Sに沿わせて上部固定部材57(固定部上面57U)の上面に固定することによって設けられているため、簡素かつ安価に形成することができる。フェンス部66には仕切板70が設けられているため、ドレンオイルDOが上部固定部材57の後部固定面57Rとフェンス部66との隅角部にできる隙間から流れ出ることが防止される。
【0044】
また、上部固定部材57の側辺57Sの位置を、水滴分離器24の側面よりも外方に庇状に延長して横側延長部64を形成したことにより、上部固定部材57の上に滴り落ちたドレンオイルDOが横側延長部64に遮られて水滴分離器24の側面を流れ落ちることがない。この点でも水滴分離器24の側面24SにドレンオイルDOが付着することを効果的に防止することができる。なお、数基の水滴分離器24が横並びに設置され、各々の水滴分離器24の間にスペースが設けられている場合は、各水滴分離器24の上部固定部材57の横側延長部64を互いに連結してもよい。
【0045】
この水滴分離器汚染防止構造47は、水滴分離器24の上部を空気導管22内に固定するための上部固定部材57の形状を若干変更するだけで構成することができるため、非常に簡素且つ安価に構成することができる。そして、この水滴分離器汚染防止構造47を備えた船舶によれば、簡素且つ安価な構成により、エンジンの掃気ポート11とターボチャージャー18との間を結ぶ空気導管22内において掃気ポート11側から逆流するドレンオイルDOが水滴分離器24に付着することを防止して、水滴分離器24により吸入空気から分離されたドレン水DWにドレンオイルDOが混入してそのまま外部に排出されてしまうことを防止し、海洋の環境保全に貢献することができる。
【0046】
[第2実施形態]
図7は、水滴分離器汚染防止構造の第2実施形態を示す縦断面図である。この水滴分離器汚染防止構造71においては、上部固定部材57の先端部をなす前側延長部72付近の構成以外は、図4に示す第1実施形態の水滴分離器汚染防止構造47と同じ構成であるため、同一部分には同符号を付して説明を省略する。
【0047】
この水滴分離器汚染防止構造71では、上部固定部材57の前側延長部72を構成している前部固定面57Fが、スペースカラー等を挟むことなく水滴分離器24の前面24Fに直接ボルト73で締め付けられている。そして、前部固定面57Fは、固定部上面57Uの前縁から鉛直に垂下した後、締結用のボルト73よりも下方の位置で、水滴分離器24の前面24Fから離れる方向に折り曲げられて傾斜面57Iが形成されている。この傾斜面57Iの角度は、例えば水平に対して30度とされているが、より浅い角度にしてもよい。つまり、傾斜面57Iが根元側から先端側に向かって下降していればよい。そして、この前側延長部72の、水滴分離器24の前面24Fからの延長量Lが、第1実施形態の水滴分離器汚染防止構造47における前側延長部62の延長量Lと同一に設定されている。
【0048】
このように構成された水滴分離器汚染防止構造71において、エンジンの掃気ポート11側から掃気トランク室25(25A,25B)内に滴り落ちて来るドレンオイルDOは、上部固定部材57によって遮蔽され、さらに傾斜面57Iに沿って流れ、前側延長部72の延長量Lだけ水滴分離器24の前面24Fから離れた位置を通過し、掃気トランク一次室25Aの底部に落下する。この時には水滴分離器24から見て遮蔽板36よりも向こう側にドレンオイルDOが落ちる。このため、水滴分離器24にドレンオイルDOが付着することを防止できる。
【0049】
この水滴分離器汚染防止構造71によれば、上部固定部材57の先端部を、スペースカラーを用いずに直接ボルト73で締着できるため、第1実施形態の水滴分離器汚染防止構造47と同様に水滴分離器24の汚染を防止しながら、部品点数を省くとともに組立を容易にして製造コストダウンを図ることができる。
【0050】
なお、本発明は上記の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更や改良を加えることができ、このように変更や改良を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。
例えば、本発明に係る水滴分離器汚染防止構造は、過給機が備えられたエンジンであれば、ディーゼルエンジンに限らず、他の形式のエンジンにも適用することができる。またディーゼルエンジンに適用する場合は、必ずしもユニフロー方式の2サイクルディーゼルエンジンでなくてもよい。さらには、船舶以外のエンジンにも幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ディーゼルエンジン
11 掃気ポート
12 掃気通路
18 ターボチャージャー(過給機)
22 空気導管
23 空気冷却器
24 水滴分離器
25 掃気トランク室
25A 掃気トランク一次室
25B 掃気トランク二次室
36 遮蔽板(堰止部)
47 水滴分離器汚染防止構造
57 上部固定部材
57S 上部固定部材の側辺
62 前側延長部
64 横側延長部
66 フェンス部
67 アングル材
DO ドレンオイル
DW ドレン水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、
前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、
前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、
前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部を庇状に延長して前側延長部を形成したことを特徴とする掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項2】
前記掃気トランク室の底部、且つ前記水滴分離器寄りの位置に、前記ドレンオイルが前記水滴分離器側に流れることを防止する堰止部が設けられ、前記前側延長部は、前記堰止部の真上を越えて前記水滴分離器の反対側までせり出していることを特徴とする請求項1に記載の掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項3】
過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、
前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、
前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、
前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺に沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部を設けたことを特徴とする掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項4】
前記フェンス部は、L字形断面のアングル材を、前記側辺に沿わせて前記上部固定部材の上面に固定することによって設けたことを特徴とする請求項3に記載の掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項5】
過給機とエンジンの掃気ポートとの間を結ぶ空気導管内に、前記過給機側から順に空気冷却器と水滴分離器と掃気トランク室とが設けられ、
前記掃気トランク室が前記水滴分離器の上方に向かって延びて前記掃気ポート側に接続されている場合における掃除空気の水滴分離器汚染防止構造であって、
前記エンジン停止後に前記掃気ポート側から滴り落ちるドレンオイルが前記水滴分離器に降り掛からないように、前記水滴分離器の上部を前記空気導管内に固定するための上部固定部材を、前記水滴分離器の上面を覆うカバー状に形成するとともに、
前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺の位置を、前記水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長して横側延長部を形成したことを特徴とする掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項6】
前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺に沿って、上方に起立する縦壁状のフェンス部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項7】
前記上部固定部材の、前記掃気トランク室側の端部に隣接する側辺の位置を、前記水滴分離器の側面よりも外方に庇状に延長して横側延長部を形成したことを特徴とする請求項1または3に記載の掃除空気の水滴分離器汚染防止構造。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の掃除空気の水滴分離器を備えたことを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60919(P2013−60919A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200804(P2011−200804)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】