説明

排ガス浄化フィルタ

【課題】PMの堆積による圧損の増大を抑制するとともに、堆積したPMが燃焼する際の局部的な過熱を防止する。
【解決手段】軸方向にウォールフロー部1とストレートフロー部2とが互いに間隔を隔てて隣接した軸方向隣接部3と、ウォールフロー部1とストレートフロー部2とが互いに隣接した径方向隣接部4と、ウォールフロー部1を迂回して排ガスが流通可能な迂回路5と、を有する。
ウォールフロー部1にPMがある程度堆積すると、排ガスは迂回路5を通じて隣接するストレートフロー部2又はウォールフロー部1を流れ、この作用が連鎖的に繰り返されるので、PMが局所的に過剰に堆積するのが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンからの排ガスなど、パティキュレートを含む排ガスを浄化できる排ガス浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンについては、排ガスの厳しい規制とそれに対処できる技術の進歩とにより、排ガス中の有害成分は確実に減少している。一方、ディーゼルエンジンについては、有害成分がパティキュレート(粒子状物質:炭素微粒子、サルフェート等の硫黄系微粒子、高分子量炭化水素微粒子( SOF)等、以下PMという)として排出されるという特異な事情から、ガソリンエンジンの場合より排ガスの浄化が難しい。
【0003】
現在までに開発されているディーゼルエンジン用排ガス浄化装置としては、大きく分けてトラップ型の排ガス浄化装置(ウォールフロー)と、オープン型の排ガス浄化装置(ストレートフロー)とが知られている。このうちトラップ型の排ガス浄化装置としては、セラミック製の目封じタイプのハニカム体(ディーゼルPMフィルタ(以下 DPFという))が知られている。この DPFは、セラミックハニカム構造体のセルの開口部の両端を例えば交互に市松状に目封じしてなるものであり、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画するセル隔壁とよりなり、セル隔壁の空孔で排ガスを濾過してPMを捕集することで排出を抑制するものである。
【0004】
しかし DPFでは、PMの堆積によって圧力損失(以下、圧損という)が上昇するため、何らかの手段で堆積したPMを定期的に除去して再生する必要がある。そこで従来は、圧損が上昇した場合に高温の排ガスを流してPMを燃焼させることで DPFを再生することが行われている。しかしながらこの場合には、PMの堆積量が多いほど燃焼時の温度が上昇し、 DPFが溶損したり熱応力で DPFが破損したりする損傷が生じる場合もある。
【0005】
また DPFの流入側端面では、流入側セルの開口と流出側セルの目詰め部とが隣接している。そのため端面開口率は50%以下となり、目詰め部などにPMやアッシュが堆積しやすい。そして入りガス温度が低い状態が連続した場合、あるいは軽油などの還元剤の噴霧が続いた場合などには、流入側セルの開口部までPM堆積層が成長し、流入側セルの開口が堆積したPMによって閉塞される結果、圧損が増大しエンジンの出力が低下するという問題が発生する。
【0006】
そこで特開2004−019498号公報には、ウォールフロー構造のハニカム体の排ガス上流側に、ストレートフロー構造のハニカム体を一体的に配置した排ガス浄化フィルタが提案されている。この排ガス浄化フィルタによれば、流出側セルの目詰め部のPM堆積層が成長しても流入側セルの開口を閉塞することが抑制されるので、圧損の増大を防止することができる。
【0007】
また特開2003−278524号公報には、ウォールフロー構造部の外周側にストレートフロー構造部を一体的に有するフィルタを上流側に配置し、ストレートフロー構造部の外周側にウォールフロー構造部を一体的に有するフィルタをその下流側に配置した排ガス浄化フィルタが提案されている。この排ガス浄化フィルタによれば、ストレートフロー構造部によって圧損の増大を抑制できる。またストレートフロー構造部を通過したPMは下流側のウォールフロー構造部で捕集することができるので、PM捕集率が低下することもない。
【0008】
しかしながら上記した排ガス浄化フィルタにおいても、ウォールフロー構造部にPMが多く堆積した場合には、それが再生時に一気に燃焼する際の熱により損傷しやすいという問題が依然として残る。
【0009】
さらに近年では、特開平09−094434号公報に記載されているように、セル隔壁のみならず、セル隔壁の細孔内にも触媒金属を担持したコート層を形成した連続再生式 DPFが用いられている。細孔内にも触媒金属を担持することで、PMと触媒金属との接触確率が高まり、細孔内に捕集されたPMも酸化燃焼させることができる。しかしながら、このような連続再生式 DPFでは、圧損の増大を防止するためにコート層を薄くせざるを得ない。したがって低温時などPMが堆積する条件が連続した場合には、触媒によるPM酸化量よりPM堆積量が上回り、上記と同様に損傷の問題が生じる。
【特許文献1】特開2004−019498号
【特許文献2】特開2003−278524号
【特許文献3】特開平09−094434号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、PMの堆積による圧損の増大を抑制するとともに、堆積したPMが燃焼する際の局部的な過熱を防止することを主たる目的とする。また本発明のもう一つの目的は、低温での使用時に局所的なヒートスポットを形成し、その熱によりPMの燃焼をさらに促進することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化フィルタの特徴は、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画する多孔質のセル隔壁と、を有するウォールフロー部と、
排ガス上流側及び排ガス下流側共に目詰めされないストレートセルからなるストレートフロー部と、をもち、複数のウォールフロー部と複数のストレートフロー部とが接合されてなる排ガス浄化フィルタであって、
軸方向にウォールフロー部とストレートフロー部とが互いに間隔を隔てて隣接した軸方向隣接部と、軸方向と交差する方向にウォールフロー部とストレートフロー部とが互いに隣接した径方向隣接部と、ウォールフロー部を迂回して排ガスが流通可能な迂回路と、を有することにある。
【0012】
排ガス下流側では、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部の熱伝導性をウォールフロー部又はストレートフロー部の熱伝導性と同等以上とすることが望ましい。
【0013】
また排ガス流入側端面近傍では、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部の熱伝導性をウォールフロー部又はストレートフロー部の熱伝導性と同等以下とすることが望ましい。
【0014】
そしてセル隔壁及びストレートセルの少なくとも一部には、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなる酸化触媒層を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排ガス浄化フィルタによれば、ウォールフロー部にPMがある程度堆積すると、排ガスは迂回路を通じて径方向隣接部あるいは軸方向隣接部のストレートフロー部又はウォールフロー部を流れる。その部位のウォールフロー部にPMがある程度堆積すると、排ガスは迂回路を通じてさらに隣接する径方向隣接部あるいは軸方向隣接部のストレートフロー部又はウォールフロー部を流れる。この作用が連鎖的に繰り返されるので、過剰なPM堆積には至らず圧損の増大が抑制され、再生処理までの時間を延長することができるので燃費が向上する。またウォールフロー部にPMが局所的に多く堆積することがないので、再生時における過熱による損傷が防止される。また酸化触媒層を有すれば、堆積したPMが少量のうちに酸化浄化することができ、過熱による損傷がさらに防止される。
【0016】
また排ガス下流側で、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部を高熱伝導とすれば、PM燃焼の際に温度上昇が著しいウォールフロー部後端付近の熱がストレートフロー部に効率よく逃がされるため、局所的に高温となるのが防止され過熱による損傷をさらに防止できる。
【0017】
さらに排ガス流入側端面近傍では、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部を低熱伝導とし、あるいは少なくともストレートフロー部を低熱伝導材料から形成すれば、排ガスはストレートフロー部に優先的に流入することから、蓄熱によりストレートフロー部の昇温特性が向上する。したがって温度の高い排ガスがストレートフロー部からウォールフロー部に流入することで、ウォールフロー部に堆積したPMの燃焼を促進することができ圧損の増大をさらに抑制できる。また酸化触媒層を有することで、始動時などの低温時であっても触媒活性が早期に発現され、HC及びCOの浄化性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の排ガス浄化フィルタは、軸方向にウォールフロー部とストレートフロー部とが互いに間隔を隔てて隣接した軸方向隣接部と、軸方向と交差する方向にウォールフロー部とストレートフロー部とが互いに隣接した径方向隣接部と、ウォールフロー部を迂回して排ガスが流通可能な迂回路と、を有している。すなわち複数のウォールフロー部と複数のストレートフロー部が、軸方向(排ガス流れ方向)と径方向にそれぞれ配置されている。この配置状態は、規則正しく配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。
【0019】
ウォールフロー部は、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画する多孔質のセル隔壁と、を有する、従来の DPFと同様の構造のものである。そのセル数あるいはセルの断面形状は、特に制限がない。なおセル隔壁の気孔率は、50〜75%であることが望ましい。気孔率がこの範囲にあることで、PMを効率よく捕集することができ、かつ酸化触媒層を50〜 200g/L形成しても圧損の上昇を抑制することができる。
【0020】
ストレートフロー部は、排ガス上流側及び排ガス下流側共に目詰めされないストレートセルからなり、従来の三元触媒などに用いられているハニカム体と同様の構造のものである。そのセル数あるいはセルの断面形状は、特に制限がない。
【0021】
本発明の排ガス浄化フィルタを製造するには、ウォールフロー部を構成するブロック及びストレートフロー部を構成するブロックをそれぞれ用い、軸方向(排ガス流れ方向)及び径方向(排ガス流れ方向と交差する方向、一般には直交する方向)に適宜配置して、各ブロックどうしを径方向で無機接着剤などで接合する。このとき、軸方向及び径方向で、ウォールフロー部ブロックとストレートフロー部ブロックとを互いに隣接するように配置する。なお軸方向では、ウォールフロー部ブロックとストレートフロー部ブロックとを互いに間隔を隔てて配置する。これにより軸方向隣接部及び径方向隣接部を形成することができる。そして得られたブロック集積体を、円柱形状など所定のフィルタ形状に切り出すことで、排ガス浄化フィルタを製造することができる。
【0022】
径方向隣接部では、排ガス流れ方向に接着剤が塗布されない部分が連続的に形成されるように接着剤を部分的に塗布して接合すれば、接着剤が塗布されていない部分を排ガスが流通可能となるので、その部分に迂回路を形成することができる。なお排ガス流入側端面では、隙間が存在するとPMがその隙間に堆積して過熱により損傷する恐れがあるので、各ブロックどうしを全面で接合することが望ましい。したがって径方向隣接部における迂回路は、排ガス流入側端面より下流側から開始されることが望ましい。
【0023】
軸方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との間隔は、PMを含む排ガスが流通可能であれば特に制限されない。これにより迂回路を通過した排ガスは、軸方向隣接部を通過して下流側のストレートフロー部に流入可能となる。また軸方向隣接部の位置は、排ガス流入側及び流出側端面以外であれば制限されないが、軸方向の様々な位置に軸方向隣接部を形成することが望ましい。このようにするには、長さが異なるブロックを用いることで容易に行うことができる。
【0024】
排ガス下流側では、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部の熱伝導性をウォールフロー部又はストレートフロー部の熱伝導性と同等以上とすることが望ましい。このようにすることで、PM燃焼の際に温度上昇が著しいウォールフロー部後端付近の熱がストレートフロー部に効率よく逃がされるため、局所的に高温となるのが防止され過熱による損傷をさらに防止できる。ウォールフロー部又はストレートフロー部と同等以上の熱伝導性とするには、ウォールフロー部の少なくとも後端部をウォールフロー部又はストレートフロー部と同等以上の熱伝導率をもつ高熱伝導材料から形成してもよいが、高熱伝導率を有する接着剤を用いるのが簡便である。熱伝導率が高い接着剤を用いてもよいし、無機接着剤中にSiC 粉、金属粉などの高熱伝導材を混合してもよい。
【0025】
排ガス流入側端面近傍では、径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部を、例えば熱伝導率がウォールフロー部又はストレートフロー部の熱伝導性と同等以下の無機接着剤を用いる、あるいは空気層を形成するなど、熱伝導率をウォールフロー部又はストレートフロー部と同等以下とすることが望ましい。蓄熱により排ガス流入側端面近傍にヒートスポットが形成されやすくなるので、排ガス温度が低い場合でもPMの燃焼が促進される。さらに酸化触媒層を有することで、始動時などの低温時であっても触媒活性が早期に発現され、HC及びCOの浄化性能が向上する。なお迂回路を形成すれば、空気層が形成されることになるので、その断熱作用によって低熱伝導とすることができる。
【0026】
さらに排ガス流入側端面近傍では、ストレートフロー部を低熱容量とすることも好ましい。このようにすれば、ヒートスポット形成までの昇温を速やかに行うことができるので、さらに酸化触媒層を有することで、HC及びCOの低温浄化性能が向上する。
【0027】
セル隔壁及びストレートセルの少なくとも一部には、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなる酸化触媒層を有することが望ましい。これにより、堆積したPMを堆積と同時にあるいは堆積後に速やかに酸化燃焼することができるとともに、HC及びCOを浄化することができる。酸化触媒層は、酸化触媒であってもよいし、三元触媒を用いることもできる。
【0028】
多孔質酸化物は触媒金属の担体として機能するものであり、 Al2O3、ZrO2、CeO2、TiO2、SiO2などの酸化物の少なくとも一種、あるいはこれらの複数種からなる複合酸化物を用いることができる。
【0029】
触媒層を形成するには、多孔質酸化物粉末をアルミナゾルなどのバインダ成分及び水とともにスラリーとし、そのスラリーをセル隔壁に付着させた後に焼成してコート層を形成し、そのコート層に触媒金属を担持すればよい。また多孔質酸化物粉末に予め触媒金属を担持した触媒粉末からスラリーを調製し、それを用いてコート層を形成することもできる。スラリーをセル隔壁に付着させるには通常の浸漬法を用いることができるが、エアブローあるいは吸引によって、セル隔壁の空孔に強制的にスラリーを充填するとともに、空孔内に入ったスラリーの余分なものを除去することが望ましい。
【0030】
この場合のコート層あるいは触媒層の形成量は、排ガス浄化フィルタ1Lあたり50〜 200gとすることが好ましい。コート層あるいは触媒層が50g/L未満では、触媒金属の耐久性の低下が避けられず、 200g/Lを超えると圧損が高くなりすぎて実用的ではない。
【0031】
触媒層に含まれる触媒金属としては、少なくともPt、Rh、Pdなどの白金族の貴金属から選ばれた一種あるいは複数種を用いることが好ましい。貴金属の担持量は、排ガス浄化フィルタ1リットルあたり1〜10gの範囲とすることが好ましい。担持量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く担持しても活性が飽和するとともにコストアップとなってしまう。また貴金属を担持するには、貴金属の硝酸塩などを溶解した溶液を用い、吸着担持法、含浸担持法などによって担持させることができる。
【0032】
触媒層は、アルカリ金属,アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれるNOx 吸蔵材を含むことも好ましい。触媒層にNOx 吸蔵材を含めば、触媒金属による酸化によって生成したNOx をNOx 吸蔵材に吸蔵できるので、NOx の浄化活性が向上する。このNOx 吸蔵材としては、K,Na,Cs,Liなどのアルカリ金属、Ba,Ca,Mg,Srなどのアルカリ土類金属、あるいはSc,Y,Pr,Ndなどの希土類元素から選択して用いることができる。中でもNOx 吸蔵能に長けたアルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一種を用いることが望ましい。
【0033】
このNOx 吸蔵材の担持量は、排ガス浄化フィルタ1リットルあたり0.15〜0.45モルの範囲とすることが好ましい。担持量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く担持すると貴金属を覆って活性が低下するようになる。またNOx 吸蔵材を担持するには、酢酸塩、硝酸塩などを溶解した溶液を用い、含浸担持法などによってコート層に担持すればよい。また多孔質酸化物粉末に予めNOx 吸蔵材を担持しておき、その粉末を用いて触媒層を形成することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0035】
(実施例1)
図1及び図2に本発明の一実施例の排ガス浄化フィルタを示す。この排ガス浄化フィルタは、排ガス下流側で目詰めされた流入側セル10と、流入側セル10に隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セル11と、流入側セル10と流出側セル11を区画する多孔質のセル隔壁12と、を有するウォールフロー部1と、
排ガス上流側及び排ガス下流側共に目詰めされないストレートセルからなるストレートフロー部2と、をもち、複数のウォールフロー部1と複数のストレートフロー部2とが、軸方向及び径方向に互いに隣接するように厚さ約1mmの接着層20を介して接合されている。
【0036】
そして軸方向にウォールフロー部1とストレートフロー部2とが互いに間隔30を隔てて隣接した軸方向隣接部3と、軸方向と交差する径方向にウォールフロー部1とストレートフロー部2とが隣接した径方向隣接部4と、ウォールフロー部1を迂回して排ガスが流通可能な迂回路5と、を有している。
【0037】
以下、この排ガス浄化フィルタの製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0038】
図3に示す直方体形状のウォールフローブロック1’と、ストレートフローブロック2’を用意した。ウォールフローブロック1’はコージェライトから形成され、35mm×35mm×80mmの直方体形状をなし、長手方向に延びる複数の流入側セル10及び流出側セル11を有している。セル密度は 300cpsiであり、セル隔壁12は厚さ 250μm、気孔率60%、平均細孔径15〜30μmである。またストレートフローブロック2’はコージェライトから形成され、35mm×35mm×50mmの直方体形状をなし、セル密度は 300cpsiであり、セル隔壁は厚さ 200μm、気孔率35%である。
【0039】
ウォールフローブロック1’と、ストレートフローブロック2’を軸方向に20mmの間隔を隔て、径方向には隣接して、交互に積層配置した。それぞれ図3に斜線で示す接合面に無機接着剤を塗布して接着層20を形成し、90〜 150℃で2時間加熱して接合した。排ガス入口側端部と排ガス出口側端部では、ウォールフローブロック1’とストレートフローブロック2’は上下左右の四面の端部のみが全面で接合され、中間部では上下左右の四面の角部のみが接合され、接合された角部を除く中央部には厚さ約1mm、幅12mmの空気層21が形成された。この空気層21は両端が開口し迂回路5となる。なお、排ガス入口側端部の接着層20は、ウォールフローブロック1’又はストレートフローブロック2’と同等以下の熱伝導率をもつコージェライト系の無機接着剤を用い、中間部と排ガス出口側端部の接着層20はそれにSiC 粉末を30〜40重量%含みウォールフローブロック1’又はストレートフローブロック2’と同等以上の熱伝導率をもつ高熱伝導性接着剤を用いた。
【0040】
得られた長さ 150mmの角柱を、両端面が各ブロックの端面となるように、外径が 150mmの円柱形状に切り出した。
【0041】
次に Al2O3粉末、TiO2粉末、ZrO2粉末、CeO2粉末、アルミナゾル及びイオン交換水からなるスラリーを調製し、固形分粒子の平均粒径が1μm以下となるようにミリングした。そして形成された円柱状のフィルタをこのスラリーに浸漬してセル内部にスラリーを流し込み、引き上げて浸漬側と反対側の端面から吸引することで余分なスラリーを除去し、通風乾燥後 450℃で2時間焼成した。この操作は2回行われ、流入側セル10及び流出側セル11にほぼ同量のコート層が形成されるように調整した。コート量は、フィルタの1リットルあたり60gである。コート層は、流入側セル10及び流出側セル11の表面及び細孔内に形成されている。
【0042】
その後、所定濃度のジニトロジアンミン白金硝酸塩の水溶液の所定量を含浸させ、乾燥・焼成して、コート層にPtを担持し、図示しない触媒層を形成した。Ptの担持量は、フィルタの1リットルあたり1gである。
【0043】
得られたフィルタ触媒では、図2の(a)に示すように、初期には排ガスは抵抗の小さなストレートフロー部2に優先的に流入し、触媒層によってHCとCOが浄化される。その後排ガスは下流側のウォールフロー部1に流入し、PMが捕集されるとともに触媒層によって酸化される。
【0044】
使用時間の経過に伴って下流側のウォールフロー部1のPM堆積量が増大したり、その端面にPMが堆積すると、ウォールフロー部1の圧損が増大する。したがってストレートフロー部2から出た排ガスは、図2の(b)に示すように、軸方向隣接部3から迂回路5を経由して流れ、これがフィルタ触媒全体で生じるので、フィルタ触媒全体としての圧損の増大が抑制されている。
【0045】
また中間部の接着層20は高熱伝導性接着剤を用いているので、PM燃焼の際に温度上昇が著しいウォールフロー部1後端付近の熱がストレートフロー部2に効率よく逃がされるため、局所的に高温となるのが防止され過熱による損傷が防止される。
【0046】
さらに、排ガス入口側端部では接着層20が入口側端部にのみ形成されているので、ストレートフロー部2の大部分は空気層21を介してウォールフロー部1と隣接している。したがって空気層の断熱作用によって、ストレートフロー部2はヒートスポットが形成されやすく、HC及びCOを低温域から浄化することができる。
【0047】
(実施例2)
SiC 製のウォールフローブロック1’及びストレートフローブロック2’を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。
【0048】
(実施例3)
全ての接着層20を、コージェライト系の無機接着剤から形成したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。
【0049】
(実施例4)
全ての接着層20を、 SiCを含む高熱伝導性接着剤から形成したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。
【0050】
(実施例5)
SiC 製のウォールフローブロック1’と、コージェライト製のストレートフローブロック2’とを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。
【0051】
(実施例6)
図4に示すように、中間部の接着層20を、角部を除き端面における各辺の中心部から軸方向に延びるように形成したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。この場合には、中間部における各ブロックの角部が迂回路5となる。
【0052】
(実施例7)
図5に示すように、中間部の接着層20を、X−Y平面には形成せずY−Z平面にのみ形成したこと以外は、実施例1と同様にしてフィルタ触媒を調製した。この場合は、中間部における各ブロックのX−Y平面の全面が迂回路5となる。
【0053】
(比較例1)
直径 150mm、長さ50mmのストレートフロー構造のコージェライト製ハニカム基材( 300cpsi、壁厚 200μm、気孔率35%)と、直径 150mm、長さ80mmのウォールフロー構造のコージェライト製フィルタ基材( 300cpsi、壁厚 250μm、気孔率60%、平均細孔径15〜30μm)を用い、実施例1と同様にしてそれぞれにPtを担持した触媒層を形成した後、ストレートフロー構造のハニカム触媒を排ガス上流側に、ウォールフロー構造のフィルタ触媒をその下流側に配置した。
【0054】
(比較例2)
ウォールフロー構造のフィルタ触媒のフィルタ基材としてSiC 製のものを用いたこと以外は、比較例1と同様である。
【0055】
<試験・評価>
上記した各実施例のフィルタ触媒及び各比較例のタンデム触媒を 2.0Lディーゼルエンジンの排気系にそれぞれ搭載し、10−15モード 300km 走行後に、 120km/h走行時に燃料添加によりPM強制燃焼を実施後アイドルまで負荷を落とし、その際の触媒最高温度を測定した。また10−15モード 300km 走行後に、10−15モードの条件でHCとCOのエミッションを測定し、比較例1のタンデム触媒の結果に対する比を算出した。それぞれの結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、各実施例のフィルタ触媒は、比較例1のタンデム触媒に比べて強制再生時の最高温度が低いことがわかり、これは、各実施例のフィルタ触媒ではPMが過剰に堆積せず、また分散して堆積したことを意味している。すなわち各実施例のフィルタ触媒によれば、PMが局所的に多く堆積するのが抑制されていることが明らかである。
【0058】
また各実施例のフィルタ触媒は、比較例1〜2のタンデム触媒に比べてHC及びCOの浄化活性が高く、低温活性に優れている。これは、各実施例では触媒内の排ガスの流れが複雑になり、触媒金属との接触時間が長くなったためと考えられる。また実施例どうしの比較より、上流側のストレートフロー基材で接着剤を低熱伝導性とすることでHC及びCOの浄化活性が向上していることがわかり、これはヒートスポットが形成されやすいためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施例の排ガス浄化フィルタの斜視図である。
【図2】本発明の一実施例の排ガス浄化フィルタの断面図である。
【図3】本発明の一実施例の排ガス浄化フィルタの製造方法を説明する斜視図である。
【図4】本発明の第6の実施例の排ガス浄化フィルタの製造方法を説明する斜視図である。
【図5】本発明の第7の実施例の排ガス浄化フィルタの製造方法を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1:ウォールフロー部 2:ストレートフロー部 3:軸方向隣接部
4:径方向隣接部 5:迂回路 20:接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、該流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、該流入側セルと該流出側セルを区画する多孔質のセル隔壁と、を有するウォールフロー部と、
排ガス上流側及び排ガス下流側共に目詰めされないストレートセルからなるストレートフロー部と、をもち、複数の該ウォールフロー部と複数の該ストレートフロー部とが接合されてなる排ガス浄化フィルタであって、
軸方向に該ウォールフロー部と該ストレートフロー部とが互いに間隔を隔てて隣接した軸方向隣接部と、
軸方向と交差する方向に該ウォールフロー部と該ストレートフロー部とが隣接した径方向隣接部と、
該ウォールフロー部を迂回して排ガスが流通可能な迂回路と、を有することを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
排ガス下流側では、前記径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部の熱伝導性を該ウォールフロー部又は該ストレートフロー部の熱伝導性と同等以上とした請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
排ガス流入側端面近傍では、前記径方向隣接部におけるウォールフロー部とストレートフロー部との接合部の熱伝導性を該ウォールフロー部又は該ストレートフロー部の熱伝導性と同等以下とした請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記セル隔壁及び前記ストレートセルの少なくとも一部には、多孔質酸化物に触媒金属を担持してなる酸化触媒層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−204979(P2006−204979A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17266(P2005−17266)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】