説明

排ガス浄化装置

【課題】ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれるPMを効率的に浄化できる排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関20の排気通路21に設けられ、前記内燃機関20から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集して堆積するフィルタ11を備える排ガス浄化装置10であって、前記フィルタ11に流入する排ガス、前記フィルタ11内を流通している排ガス、又は前記フィルタ11に、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給する浄化液供給手段12を備えることを特徴とする排ガス浄化装置10によれば、排ガス中に含まれるPMを効率的に浄化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置に関し、特に、内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するために用いられる排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特にディーゼル機関より排出される排ガス中の粒子状物質(以下、PMともいう)は、ディーゼルパティキュレートフィルター(以下、DPFともいう)を用いて捕集されるのが一般的である。捕集されて堆積したPMは圧損上昇の原因となるため、排ガス温度を上昇させ、堆積したPMを燃焼させる必要がある。堆積したPMの燃焼温度は600℃程度と高温であることから、その燃焼の際にはDPFを昇温させる必要があり、燃費のロスや触媒の熱劣化といった問題が生じる。
【0003】
また、DPF昇温時に、排気工程で燃料を吹く手法を採用する場合がある。しかしながら、この手法を採用した場合には、オイルダイリューションによるエンジン焼き付きの懸念が生じる。従って、PM燃焼制御を行う時間を短く、望ましくは無くすべく、PM燃焼温度の低温化について検討が進められている。例えば、触媒をDPF上に担持(CSF)させる方法、燃料に燃料添加剤(FBC)を添加する方法、排ガス中に含まれるNOをNOに酸化させてNOとPMを反応させる方法、可燃性液体をPMに塗布して可燃性液体の燃焼を利用する方法等が挙げられる。
【0004】
これに対して、捕捉された煤に可燃液体を浸透させ、煤の燃焼特性を大幅に改善する試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、軽油、灯油、及び重油からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む液体燃料を、DPFに捕捉された煤や可溶有機物(SOF)に未燃のまま直接供給することにより、DPFを再生することができるとされている。
【0005】
また、ノニオン系界面活性剤を添加した水中に排ガスを通過させ、PMを水中に沈降させる試みがなされている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、ディーゼルエンジンの排気管を接続したボックス内に水とノニオン系界面活性剤を充填し、ディーゼルエンジンの排ガスをそのボックス内に導入することにより、排ガス中の煤を主成分とする微粒子を効率的に除去できるとされている。
【特許文献1】特開2005−69017号公報
【特許文献2】特開平6−248932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、燃料添加触媒では、フィルタに灰分(Ash)が堆積して圧損が上昇するという欠点がある。また、CSFにおいては、PMと触媒の接触性が良くないためか、十分な性能が得られないことが多い。オイル上がりに伴うAshが堆積した場合にあっては、触媒表面をAshが覆うことで性能が低下するという問題が生じる。
【0007】
これに対して、NOによる酸化はAsh等の影響を受けないものの、温度域が制限される。また、排ガス循環装置(EGR)を用いたエンジンの場合にあっては、PMを燃やしきるだけの十分なNOxが発生しないという問題がある。
【0008】
また、特許文献1で提案されている技術は、可燃性物質の着火を利用したものであり、燃料を用いた場合には燃費の悪化を招く。特許文献2で提案されている技術では、水中に沈降したPMを除去する必要がある。コジェネレーション等の定置内燃機関においては有効であるものの、自動車等の移動型の内燃機関においては排圧が著しく上昇する等の問題が生じ、実用的ではない。
【0009】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれるPMを効率的に浄化できる排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、PMを含む排ガスに対して、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給することにより、凝集していたPMが分散され、低温且つ短時間でフィルタの再生が可能となる結果、PMを効率的に浄化できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集して堆積するフィルタを備える排ガス浄化装置であって、前記フィルタに流入する排ガス、前記フィルタ内を流通している排ガス、又は前記フィルタに、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給する浄化液供給手段を備えることを特徴とする排ガス浄化装置。
【0012】
(2) 前記浄化液が、スルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含む(1)記載の排ガス浄化装置。
【0013】
(3) 前記浄化液が、硫酸基を有する陰イオン界面活性剤を含む(1)又は(2)記載の排ガス浄化装置。
【0014】
(4) 前記浄化液が、アルキル硫酸ナトリウム及びアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムのうち少なくとも一方を含む(1)から(3)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0015】
(5) 前記浄化液が、ラウリル硫酸ナトリウムを含む(1)から(4)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0016】
(6) 前記浄化液に対する前記陰イオン界面活性剤の総含有量が、10ppm以上飽和溶解度以下である(1)から(5)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0017】
(7) 前記陰イオン界面活性剤を含むウォッシャー液が貯蔵されたウォッシャー液タンクと、前記陰イオン界面活性剤を含む尿素水が貯蔵された尿素水タンクと、をさらに備え、前記浄化液供給手段は、前記ウォッシャー液及び前記尿素水のうち少なくとも一方を前記浄化液として導入する導入手段を備える(1)から(6)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0018】
(8) 前記フィルタに流入する排ガス又は前記フィルタ内を流通している排ガスの温度を検知する排ガス温度検知手段と、前記排ガス温度検知手段により検知された排ガス温度が前記浄化液の沸点以下であるときに、前記浄化液供給手段を駆動させる第一制御手段と、をさらに備える(1)から(7)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0019】
(9) 前記フィルタの温度を検知するフィルタ温度検知手段と、前記浄化液の供給により粒子状物質が燃焼を開始する燃焼開始温度が予め記憶された記憶手段と、前記フィルタ温度検知手段により検知されたフィルタ温度が、前記記憶手段により記憶された燃焼開始温度を超えたときに、前記浄化液供給手段を駆動させる第二制御手段と、をさらに備える(1)から(8)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0020】
(10) 前記フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去するフィルタ除去手段と、前記フィルタの粒子状物質堆積量を推定する推定手段と、前記推定手段により推定された粒子状物質堆積量が所定値を超えたときに、前記浄化液供給手段を駆動させてから前記フィルタ除去手段を駆動させる第三制御手段と、をさらに備える(1)から(9)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0021】
(11) 前記フィルタの流入口壁面に形成され、前記フィルタの気孔率よりも高い気孔率を有する多孔質層をさらに備える(1)から(10)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0022】
(12) 前記多孔質層は、粒径1μm以下の酸化物微粒子が堆積して形成されたものである(11)記載の排ガス浄化装置。
【0023】
(13) 前記多孔質層の厚みが、5μm〜100μmである(11)又は(12)記載の排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る排ガス浄化装置によれば、内燃機関から排出された排ガス中に含まれる煤(PM)に陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給することにより、凝集していたPMが分散され、低温且つ短時間でフィルタの再生が可能となる結果、PMを効率的に浄化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、第1実施形態以外の実施形態の説明において、第1実施形態と共通する構成、作用、及び効果の説明については省略する。
【0026】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る排ガス浄化装置10の概略構成図を図1に示す。第1実施形態に係る排ガス浄化装置10は、内燃機関20、好ましくはディーゼルエンジンの排気通路21に設けられ、内燃機関20から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を浄化するために用いられる。排ガス浄化装置10は、内燃機関20から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集して堆積するフィルタ11を備え、フィルタ11に流入する排ガス、フィルタ11内を流通している排ガス、又はフィルタ11に、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給する浄化液供給手段12を備えることを特徴とする。
【0027】
[フィルタ11]
フィルタ11としては、三次元網目構造を有し、十分なPM捕集機能を有するものであれば特に限定されず、従来公知のフィルタが用いられる。具体的には、発泡金属や発泡セラミックス、金属やセラミックス繊維を重ね合わせた不織布、ウォールフロータイプのフィルタ等が挙げられる。これらのうち、捕集効率、及びPMと触媒との接触性の観点から、ウォールフロータイプのフィルタが好ましく用いられる。
【0028】
フィルタ11は、PM燃焼触媒を備えたものであることが好ましい。PM燃焼触媒としては特に限定されず、従来公知の触媒が用いられる。具体的には、アルカリ金属元素のうち少なくとも一種の元素と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、及び、Irよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が用いられる。アルカリ金属元素は炭酸塩、硫酸塩として用い、アルカリ金属元素以外は、Fe、Coのようにこれら元素の酸化物をそのまま用いたり、KNiO、KMnのように複合酸化物として用いるのが好ましい。また、アルミナ、シリカ等の高比表面積担体上に高分散担持して用いることもできる。
【0029】
[浄化液供給手段12]
浄化液供給手段12は、後述する浄化液を、フィルタ11に流入する排ガス、フィルタ11内を流通している排ガス、又はフィルタ11に供給できるものであればよく、その構成は特に限定されない。例えば、浄化液が貯蔵された浄化液タンクと、この浄化液タンク内に貯蔵された浄化液を、フィルタ11に流入する排ガス、フィルタ11内を流通している排ガス、又はフィルタ11に供給する供給ポートと、を有するものであってよい。また、本実施形態の変形例として、浄化液供給手段が、フィルタ11を浄化液中に浸漬させることが可能な浄化液槽を有するものであってもよい。
【0030】
〔浄化液〕
本実施形態で用いられる浄化液は、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含むことを特徴とする。陰イオン界面活性剤が発火点及び引火点を有さないことから、排気系中に供給した場合であっても燃焼することがなく、有効に作用する。ここで、「発火点」とは、炎の存在無しに大気中に置かれた物体が継続的に燃焼し始める最低温度を意味し、「引火点」とは、炎の存在下で大気中に置かれた物体が着火する最低温度を意味する。
【0031】
フィルタ上に堆積したPMの一部はフィルタ内部に堆積するものの、その大部分はフィルタ表面上にケーキ層状に堆積する。これらフィルタ表面上に堆積したPM間の凝集力はあまり強くないことから、陰イオン界面活性剤を含む浄化液が供給された場合には、PMと陰イオン界面活性剤とが接触することにより、凝集していたPMが分散すると推察される。このため、排ガス中の酸素とPMとの接触確率が向上し、PMの燃焼速度が向上すると考えられる。
【0032】
陰イオン界面活性剤としては特に限定されず、発火点及び引火点を有さないものであれば、従来公知の陰イオン界面活性剤が用いられる。好ましくは、スルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤であり、より好ましくは、硫酸基を有する陰イオン界面活性剤である。硫酸基を有する陰イオン界面活性剤のうち、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムが好ましく用いられ、特にラウリル硫酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0033】
ラウリル硫酸ナトリウム等のナトリウム塩を用いた場合にあっては、陰イオン界面活性剤によるPM分散後に、Na等がPMと直接接触できる状態にある。Na等はPMを低温から燃焼できる触媒としての効果を有することから、これらの相乗効果により、優れたPM燃焼効果を得ることができると推察される。
【0034】
陰イオン界面活性剤の含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されない。好ましくは、浄化液に対する陰イオン界面活性剤の総含有量が、10ppm以上飽和溶解度以下である。陰イオン界面活性剤の総含有量が10ppm未満である場合には、凝集したPMを分散させることができず、効率的にPMを燃焼除去することができない。
【0035】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る排ガス浄化装置は、基本構成は第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なる点として、陰イオン界面活性剤を含むウォッシャー液が貯蔵されたウォッシャー液タンクと、陰イオン界面活性剤を含む尿素水が貯蔵された尿素水タンクと、をさらに備える。また、浄化液供給手段が、ウォッシャー液及び尿素水のうち少なくとも一方を浄化液として導入する導入手段を備えることを特徴とする。
【0036】
本実施形態によれば、陰イオン界面活性剤を含むウォッシャー液が貯蔵されたウォッシャー液タンクから浄化液を供給することにより、浄化液を貯蔵するためのタンクが不要となるため、レイアウト上有利である。また、UREA−SCRシステムを採用している場合にあっては、陰イオン界面活性剤を含む尿素水が貯蔵された尿素水タンクから浄化液を供給することができるため、やはりレイアウト上有利である。
【0037】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る排ガス浄化装置も、基本構成は第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なる点として、フィルタに流入する排ガス又はフィルタ内を流通している排ガスの温度を検知する排ガス温度検知手段と、排ガス温度検知手段により検知された排ガス温度が浄化液の沸点以下であるときに、浄化液供給手段を駆動させる第一制御手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0038】
排ガス温度検知手段としては、フィルタに流入する排ガス又はフィルタ内を流通している排ガスの温度を検知できるものであれば特に限定されず、熱電対等の従来公知のものを用いることができる。本実施形態では、排ガス温度検知手段で検知された排ガス温度が浄化液の沸点以下であるときに、第一制御手段により、浄化液供給手段の駆動が開始される。排ガス温度が浄化液の沸点以上の温度である場合には、フィルタに到達する前に水分が揮発してしまう結果、PMと陰イオン界面活性剤との接触性が悪化する。即ち、期待する高いPM燃焼性能が得られないところ、本実施形態によればこれを回避できる。
【0039】
<第4実施形態>
第4実施形態に係る排ガス浄化装置も、基本構成は第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なる点として、フィルタの温度を検知するフィルタ温度検知手段と、浄化液の供給により粒子状物質が燃焼を開始する燃焼開始温度が予め記憶された記憶手段と、フィルタ温度検知手段により検知されたフィルタ温度が、記憶手段により記憶された燃焼開始温度を超えたときに、浄化液供給手段を駆動させる第二制御手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0040】
フィルタ温度検知手段としては、フィルタの温度を検知できるものであれば特に限定されず、熱電対等の従来公知のものを用いることができる。また、記憶手段により、浄化液の供給により粒子状物質が燃焼を開始する燃焼開始温度が予め記憶されており、検知されたフィルタ温度が燃焼開始温度を超えたときに、第二制御手段により、浄化液供給手段の駆動が開始される。
【0041】
従来のDPFでは、先に燃焼開始温度に達するのはDPF中心部であり、中心部からPM燃焼が開始される。このため、燃焼開始時には、温度の低い周辺部は燃焼開始温度に達していない。排ガスは圧力の低い方に流れ易いため、周辺部に排ガスが流れ難くなる結果、周辺部の温度が上昇し難いという問題が生じる。この点、本実施形態では、PM燃焼開始温度が予め設定されているため、実際のDPF温度が燃焼開始温度に達したときに浄化液が供給されることから、上記のような問題は生じない。
【0042】
<第5実施形態>
第5実施形態に係る排ガス浄化装置も、基本構成は第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なる点として、フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去するフィルタ除去手段と、フィルタの粒子状物質堆積量を推定する推定手段と、推定手段により推定された粒子状物質堆積量が所定値を超えたときに、浄化液供給手段を駆動させてからフィルタ除去手段を駆動させる第三制御手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0043】
フィルタ除去手段は、フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去できるものであれば特に限定されず、加熱装置等の従来公知のものを用いることができる。推定手段も、フィルタの粒子状物質堆積量を推定できるものであれば特に限定されず、内燃機関の運転履歴、フィルタ前後の差圧、温度センサ等を利用したものを用いることができる。本実施形態では、推定手段により推定された粒子状物質堆積量が所定値を超えたときに、第三制御手段により、浄化液供給手段を駆動させてからフィルタ除去手段の駆動が開始される。このため、フィルタの再生が必要でないときに浄化液を供給する無駄を回避でき、フィルタの再生が必要とされるときのみ浄化液を供給することができる。
【0044】
<第6実施形態>
第6実施形態に係る排ガス浄化装置も、基本構成は第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なる点として、フィルタの流入口壁面に多孔質層をさらに備えることを特徴とする。多孔質層は、フィルタの気孔率よりも高い気孔率を有するものであればよく、特に限定されない。フィルタの流入口壁面にこの多孔質層が存在することにより、フィルタ内に流入する排ガスの拡散性が良好となり、排ガス中の酸素がPMに効率的に供給される。その結果、PMの燃焼が促進され、上記陰イオン界面活性剤との相乗効果により、PM燃焼性能が著しく向上する。このため、フィルタの流入口壁面に触媒を塗布するまでもなく、優れたPM燃焼性能が得られる。
【0045】
上記多孔質層は、粒径1μm以下の酸化物微粒子が堆積して形成されたものであることが好ましい。上記多孔質層の形成方法としては、スプレードライ、噴霧熱分解法等で作成した酸化物微粒子を、フィルタに導入して堆積させる手法が挙げられる。なお、必要に応じて、堆積した酸化物微粒子を仮焼してもよい。仮焼温度は、堆積した酸化物微粒子の焼結が進行しない温度であればよく、雰囲気は問われない。
【0046】
上記多孔質層の厚みは、本発明の効果が奏される範囲内で適宜設定される。好ましくは、5μm〜100μmである。5μm未満であると、排ガスの拡散性が十分でないため、上記相乗効果を十分に得ることができない。また、100μmを超えると、圧損が急激に上昇するため、出力低下を招く。より好ましくは、10μm〜50μmである。
【0047】
なお、本発明は、上述した説明に限定されることなく、上記各実施形態の組み合わせ等、種々の態様で実施することができる。また、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することができる。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
[PM堆積テスト]
07MYCR−V2.2Lディーゼルエンジンを用い、定常状態(2500rpm 110N.m)にて排出されたPMを、図2に示すような単体評価装置(堀場製作所製)を用いて、気孔率42.3%、平均気孔径10.7μmのイビデン社製SiC DPF 44ccに2g/L堆積させた。
【0050】
[PM燃焼テスト]
その後、窒素雰囲気(21.31/min)まで昇温させた後、酸素15%、及び窒素85%の混合ガス(25.11/min)を流通させた。発生したCO及びCO濃度を、堀場製作所製「MEXA−7500D」により計測し、下記の式(1)によりPM残存率(%)を算出した。なお、式(1)中、PM堆積量とは、PM堆積テストにて堆積したPM量を表し、単位はいずれもgである。
【数1】

・・・数式(1)
【0051】
<実施例1>
上記PM堆積テストに従って、DPFにPMを堆積させた。次いで、堆積したPMに、関東化学株式会社製鹿1級n−ドデシル硫酸ナトリウム1000ppmを溶解させた水溶液6gを滴下した後、上記PM燃焼テストに供した。
【0052】
<実施例2>
n−ドデシル硫酸ナトリウムの濃度を100ppmとした以外は、実施例1と同様の処理を行い、上記PM燃焼テストに供した。
【0053】
<実施例3>
n−ドデシル硫酸ナトリウムの濃度を10ppmとした以外は、実施例1と同様の処理を行い、上記PM燃焼テストに供した。
【0054】
<実施例4>
n−ドデシル硫酸ナトリウム1000ppmの代わりに、アルキル(C12−15)エーテル硫酸エステルナトリウム1000ppmを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、上記PM燃焼テストに供した。
【0055】
<実施例5>
n−ドデシル硫酸ナトリウム1000ppmの代わりに、関東化学株式会社製鹿1級ラウリルベンゼンスルホン硫酸ナトリウム1000ppmを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、上記PM燃焼テストに供した。
【0056】
<比較例1>
比表面積130m/gを有するアルミナ40gを秤量し、水と湿式粉砕してスラリー化し、上記イビデン社製SiC DPF(径:34mm、長さ:40mm)をスラリーに浸漬し、余分なスラリーを取除き、200℃で3時間乾燥後、800℃で4時間焼成して、アルミナを担持した構造体を得た。
【0057】
次いで、純度99.9%のジニトロジアミン白金酸0.2gと硝酸セリウム2gを純水30gに溶解させ、この溶液にアルミナを担持した三次元構造体を浸漬させた後、余分な溶液を取除き、200℃で3時間乾燥し、次いで500℃で2時間焼成して、完成CSFを得た。このCSFに対して、上記PM堆積テスト及びPM燃焼テストを行った。
【0058】
<比較例2>
DPFにPMを堆積させた後、軽油6gを滴下させた後、上記PM燃焼テストに供した。
【0059】
<比較例3>
DPFにPMを堆積させた後、蒸留水6gを滴下させた後、上記PM燃焼テストに供した。
【0060】
<比較例4>
DPFにPMを堆積させた後、日本エマルジョン株式会社製ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油「EMALEX HC−40」1000ppmを溶解させた水溶液6gを滴下させた後、上記PM燃焼テストに供した。
【0061】
<比較例5>
DPFにPMを堆積させた後、関東化学株式会社製(純度90%以上)N,N−ジメチル−n−ドデシルアミン1000ppmを溶解させた水溶液6gを滴下させた後、上記PM燃焼テストに供した。
【0062】
[考察]
界面活性剤による効果の確認結果を図3に示す。縦軸はPM残存率(%)を表し、横軸は窒素及び酸素混合ガスを流通させた時間(秒)を表す。図3に示されるように、ラウリル硫酸ナトリム1000ppmを添加した場合(実施例1)のPM残存率は、CSF(比較例1)、蒸留水を添加した場合(比較例3)、及び軽油を添加した場合(比較例2)に比して、格段に低く、PM燃焼性が優れていることが確認された。
【0063】
陰イオン界面活性剤による効果の確認結果を図4に示す。図4に示されるように、陰イオン界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリム1000ppmを添加した場合(実施例1)のPM残存率は、両性界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油1000ppmを添加した場合(比較例4)、及びノニオン界面活性剤であるN,N−ジメチル−n−ドデシルアミン1000ppmを添加した場合(比較例5)に比して、格段に低く、PM燃焼性が優れていることが確認された。
【0064】
陰イオン界面活性剤の種類による効果の確認結果を図5に示す。図5に示されるように、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム1000ppmを添加した場合(実施例5)、アルキル(C12−15)エーテル硫酸エステルナトリウム1000ppmを添加した場合(実施例4)、及びラウリル硫酸ナトリウム1000ppmを添加した場合(実施例1)いずれも、比較例に比して優れたフィルタ再生率を有することが確認された。また、スルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤よりも、硫酸基を有する陰イオン界面活性剤の方がより優れたフィルタ再生率を有することも確認された。
【0065】
陰イオン界面活性剤の濃度変化による効果の確認結果を図6に示す。図6に示されるように、ラウリル硫酸ナトリウム10ppm添加した場合(実施例3)であっても、比較例より良好なフィルタ再生率を有しており、10ppm以上であれば本発明の効果が奏されることが確認された。また、ラウリル硫酸ナトリウム10ppm添加した場合(実施例3)、100ppm添加した場合(実施例2)、1000ppm添加した場合(実施例1)の順に、添加濃度が高くなるにつれてフィルタ再生率が向上することも確認された。陰イオン界面活性剤の濃度が高いほど、界面活性剤の塗布量が増える結果、高い効果が得られると考えられ、界面活性剤の溶解限界を超えない範囲(即ち、飽和溶解度以下)の浄化液を用いることができる。
【0066】
ここで、図6のデータに基づいて、陰イオン界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)の濃度を変化させた場合における、PM50%再生時のPM燃焼速度を比較した結果を図7に示す。図7に示されるように、ラウリル硫酸ナトリウム無添加のときの燃焼速度を1とすると、ラウリル硫酸ナトリウム10ppm添加(実施例3)では1.7倍、100ppm添加(実施例2)では4.0倍、1000ppm添加(実施例1)では7.4倍の燃焼速度を有することが確認された。
【0067】
<実施例6>
硝酸セリウム2gを1Lの純水に溶解した後、噴霧熱分解装置を用いて酸化セリウムを調製した。調製した酸化セリウムをキャリアーガスと共にDPFに導入し、酸化セリウムのみを、DPFの流入口壁面に堆積させた。噴霧熱分解装置の炉内の温度は800℃であり、キャリアーガスは1L/min、溶液は0.02L/minにて炉内に滴下させた。これにより、DPFの流入口壁面に、酸化セリウムが堆積することにより多孔質層が形成された。
【0068】
形成された多孔質層を分析した結果、平均粒径600nmで気孔率が約70%の酸化セリウム多孔質体であることが確認された。なお、DPFの平均気孔率、気孔径は、上記の通り42.3%、10.7μmであった。また、形成された多孔質層の重量を測定した結果、酸化セリウムが0.8g担持されていることも分かった。このように、DPF流入口壁面上に高い気孔率を有する多孔質層を形成してPM堆積テストを行った後、関東化学株式会社製鹿1級n−ドデシル硫酸ナトリウム1000ppmを溶解させた水溶液6gを滴下させ、その後PM燃焼テストに供した。
【0069】
<比較例6>
実施例6のように、DPF流入口壁面に多孔質層が形成されたものについて、界面活性剤を添加することなく、上記PM堆積テスト及びPM燃焼テストに供した。
【0070】
DPF流入口壁面に形成された多孔質層による効果の確認結果を図8に示した。図8に示されるように、何も担持されていないDPFにラウリル硫酸ナトリウム1000ppmを添加した場合(実施例1)、及びDPF流入口壁面に多孔質層を形成したが界面活性剤を添加しなかった場合(比較例6)に比して、DPF流入口壁面に多孔質層を形成したものにラウリル硫酸ナトリウム1000ppmを添加した場合(実施例6)には、著しく再生率が向上することが分かった。この結果から、陰イオン界面活性剤の添加による効果と多孔質層の形成による効果との相乗効果により、PM燃焼速度が著しく向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】排ガス浄化装置10の概略構成図である。
【図2】単体評価装置の概略構成図である。
【図3】界面活性剤による効果の確認結果を示す図である。
【図4】陰イオン界面活性剤による効果の確認結果を示す図である。
【図5】陰イオン界面活性剤の種類による効果の確認結果を示す図である。
【図6】陰イオン界面活性剤の濃度変化による効果の確認結果を示す図である。
【図7】PM50%再生時のPM燃焼速度を比較した結果を示す図である。
【図8】多孔質層による効果の確認結果を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10 排ガス浄化装置
11 フィルタ
12 浄化液供給手段
20 内燃機関
21 排ガス通路
30 単体評価装置
31 加熱炉
32 DPF
33 Nボンベ
34 Oボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集して堆積するフィルタを備える排ガス浄化装置であって、
前記フィルタに流入する排ガス、前記フィルタ内を流通している排ガス、又は前記フィルタに、発火点及び引火点を有さない陰イオン界面活性剤を含む浄化液を供給する浄化液供給手段を備えることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記浄化液が、スルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含む請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記浄化液が、硫酸基を有する陰イオン界面活性剤を含む請求項1又は2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記浄化液が、アルキル硫酸ナトリウム及びアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムのうち少なくとも一方を含む請求項1から3いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記浄化液が、ラウリル硫酸ナトリウムを含む請求項1から4いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記浄化液に対する前記陰イオン界面活性剤の総含有量が、10ppm以上飽和溶解度以下である請求項1から5いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記陰イオン界面活性剤を含むウォッシャー液が貯蔵されたウォッシャー液タンクと、前記陰イオン界面活性剤を含む尿素水が貯蔵された尿素水タンクと、をさらに備え、
前記浄化液供給手段は、前記ウォッシャー液及び前記尿素水のうち少なくとも一方を前記浄化液として導入する導入手段を備える請求項1から6いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記フィルタに流入する排ガス又は前記フィルタ内を流通している排ガスの温度を検知する排ガス温度検知手段と、
前記排ガス温度検知手段により検知された排ガス温度が前記浄化液の沸点以下であるときに、前記浄化液供給手段を駆動させる第一制御手段と、をさらに備える請求項1から7いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記フィルタの温度を検知するフィルタ温度検知手段と、
前記浄化液の供給により粒子状物質が燃焼を開始する燃焼開始温度が予め記憶された記憶手段と、
前記フィルタ温度検知手段により検知されたフィルタ温度が、前記記憶手段により記憶された燃焼開始温度を超えたときに、前記浄化液供給手段を駆動させる第二制御手段と、をさらに備える請求項1から8いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
前記フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼除去するフィルタ除去手段と、
前記フィルタの粒子状物質堆積量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された粒子状物質堆積量が所定値を超えたときに、前記浄化液供給手段を駆動させてから前記フィルタ除去手段を駆動させる第三制御手段と、をさらに備える請求項1から9いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項11】
前記フィルタの流入口壁面に形成され、前記フィルタの気孔率よりも高い気孔率を有する多孔質層をさらに備える請求項1から10いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項12】
前記多孔質層は、粒径1μm以下の酸化物微粒子が堆積して形成されたものである請求項11記載の排ガス浄化装置。
【請求項13】
前記多孔質層の厚みが、5μm〜100μmである請求項11又は12記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−47064(P2009−47064A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213659(P2007−213659)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】