排ガス浄化装置
【課題】アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができるようにする。
【解決手段】内燃機関の運転状態と、NOx還元触媒より上流のNOx濃度とに基づいて、触媒の1/5番目の分割部分及び2/5番目の分割部分の各々におけるNH3吸着量を推定する(104、110)。1/5番目の分割部分に対するNH3の目標吸着量との差分に基づいて、尿素添加量を算出する(106、108)。2/5番目の分割部分に対するNH3の目標吸着量との差分に基づいて、尿素添加量を算出する(112、114)。触媒温度が低いほど、1/5番目に対する重みを大きくし、触媒温度が高いほど、2/5番目に対する重みを大きくして、尿素添加量の重み付き加算を算出し、尿素の添加を制御する(116、118)。
【解決手段】内燃機関の運転状態と、NOx還元触媒より上流のNOx濃度とに基づいて、触媒の1/5番目の分割部分及び2/5番目の分割部分の各々におけるNH3吸着量を推定する(104、110)。1/5番目の分割部分に対するNH3の目標吸着量との差分に基づいて、尿素添加量を算出する(106、108)。2/5番目の分割部分に対するNH3の目標吸着量との差分に基づいて、尿素添加量を算出する(112、114)。触媒温度が低いほど、1/5番目に対する重みを大きくし、触媒温度が高いほど、2/5番目に対する重みを大きくして、尿素添加量の重み付き加算を算出し、尿素の添加を制御する(116、118)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの排出経路におけるNOx還元触媒の上流に還元剤を供給して排ガスを浄化する排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンモニアを還元剤とする排気浄化装置において、SCR触媒が比較的高温の状態であると、アンモニア吸着量の限界値が小さくなるため、アンモニア吸着量の適正な管理が困難になる。また、高温条件下ではSCR触媒からのアンモニアの離脱が多くなり、アンモニアスリップが生じやすくなる。
【0003】
このため、SCR触媒温度が所定値以上である場合には、アンモニア吸着量をパラメータとする尿素水添加制御を停止し、アンモニア吸着量をパラメータとしない別の尿素水添加制御を実施する内燃機関の排気浄化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持するために、実NОx浄化率ηが目標NОx浄化率Mηを超えている場合には、アンモニアスリップの恐れがあるので尿素水の添加を禁止し、実NОx浄化率ηが目標NОx浄化率Mη未満である場合には、還元剤添加量DNH3(n)あるいは基本添加量DNH3のアンモニア量に相当する尿素水量を添加できるように、還元剤供給手段の尿素水供給部を駆動制御する内燃機関のNOx浄化装置が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293444号公報
【特許文献2】特開2003−293738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、高温時には吸着量に基づく制御が実施されないため、高温による浄化反応が活性化されるとしても、触媒上に十分なNH3が吸着されず、浄化率が低下する恐れがある、という問題がある。
【0007】
また、触媒温度は,浄化率とアンモニアスリップのしやすさを決める重要な要素であるが、触媒内のアンモニア分布も大きな要素である。例えば、上記の特許文献2に記載の技術では、実NOx浄化率が目標値を超えると、アンモニアスリップの危険が高いので、尿素添加を停止する制御を行なうが、発明者らの知見では、いくら浄化率が高くても、NH3が触媒内の上流側に分布していれば、アンモニアスリップは起こりにくい。逆に、NOx浄化率が低くても、NH3が下流側に分布していれば、アンモニアスリップの危険がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる排ガス浄化装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排ガス浄化装置は、排出ガスの排出経路に設けられたNOx還元触媒と、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記NOx還元触媒で前記排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する物理量取得手段と、前記NOx還元触媒の温度を取得する温度取得手段と、内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量とに基づいて、前記NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及び前記NOx還元触媒における前記第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された前記第1部分の前記還元剤の吸着量と、前記第1部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第1算出手段と、前記推定手段によって推定された前記第2部分の前記還元剤の吸着量と、前記第2部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第2算出手段と、前記温度取得手段によって取得された前記NOx還元触媒の温度が低いほど、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくし、前記NOx還元触媒の温度が高いほど、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくして、前記第1算出手段によって算出された前記還元剤の供給量と、前記第2算出手段によって算出された前記還元剤の供給量との重み付き加算を、前記NOx還元触媒に対する前記還元剤の供給量として算出する第3算出手段と、前記第3算出手段によって算出された前記還元剤の供給量を供給するように前記還元剤供給手段を制御する供給制御手段と、を含んで構成されている。
【0010】
本発明に係る排ガス浄化装置では、還元剤供給手段によって、排出経路におけるNOx還元触媒より上流に、NOx還元触媒で排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する。また、物理量取得手段によって、排出経路におけるNOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する。温度取得手段によって、NOx還元触媒の温度を取得する。
【0011】
そして、推定手段によって、内燃機関の運転状態と、物理量取得手段によって取得されたNOxに関する物理量とに基づいて、NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及びNOx還元触媒における第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する。第1算出手段によって、推定手段によって推定された第1部分の前記還元剤の吸着量と、第1部分に対する還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、第1部分に対する還元剤の供給量を算出する。第2算出手段によって、推定手段によって推定された第2部分の前記還元剤の吸着量と、第2部分に対する還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、第2部分に対する還元剤の供給量を算出する。
【0012】
そして、第3算出手段によって、温度取得手段によって取得されたNOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する還元剤の供給量の重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する還元剤の供給量の重みを大きくして、第1算出手段によって算出された還元剤の供給量と、第2算出手段によって算出された還元剤の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出する。供給制御手段によって、第3算出手段によって算出された還元剤の供給量を供給するように還元剤供給手段を制御する。
【0013】
このように、NOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する重みを大きくして、第1部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量と、第2部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。
【0014】
本発明に係る第1部分に対する目標吸着量を、第2部分に対する目標吸着量より大きくすることができる。これによって、アンモニアスリップをより抑制しつつNOx浄化率をより高く維持することができる。
【0015】
本発明に係る第1部分に対する目標吸着量は、予め定められた第1部分に対する目標吸着率と、NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められ、第2部分に対する目標吸着量は、予め定められた第2部分に対する目標吸着率と、NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められるようにすることができる。
【0016】
本発明に係る推定手段は、第1部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量、及び第2部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量を推定するようにすることができる。
【0017】
本発明において、NOx還元触媒を排出ガスの流れ方向に5分割したときの、最も上流側の分割部分を、第1部分とし、第1部分より下流側に隣接する分割部分を、第2部分とすることができる。
【0018】
本発明に係る推定手段は、内燃機関の運転状態と、物理量取得手段によって取得されたNOxに関する物理量と、還元剤供給手段によって供給された還元剤の供給量とに基づいて、第1部分におけるNOxの放出量と、還元剤の消費量、吸着量、及び放出量とを算出することにより、第1部分に吸着している還元剤の吸着量を推定し、算出された第1部分におけるNOxの放出量と還元剤の放出量とに基づいて、第2部分における還元剤の消費量、吸着量、及び放出量を算出することにより、第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定するようにすることができる。
【0019】
本発明に係る還元剤供給手段は、排出経路におけるNOx還元触媒の上流に尿素水を供給することにより、還元剤としてのアンモニアを供給するようにすることができる。
【0020】
本発明に係る還元剤供給手段は、排出経路におけるNOx還元触媒の上流に、還元剤としてのアンモニアを供給するようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明に係る排ガス浄化装置は、NOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する重みを大きくして、第1部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量と、第2部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る排ガス浄化装置の概略構成を示す図である。
【図2】5分割触媒モデルを説明するための図である。
【図3】1/5番目の触媒モデルを説明するための図である。
【図4】SCRモデルを説明するための図である。
【図5】NH3吸着モデルを説明するための図である。
【図6】NH3の目標吸着率の分布を示すグラフである。
【図7】触媒温度と重みとの関係を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る排ガス浄化装置のコントローラによる尿素添加制御処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】比較手法における流入するNOx濃度と放出されるNOx濃度との変化を示すグラフである。
【図10】提案手法における流入するNOx濃度と放出されるNOx濃度との変化を示すグラフである。
【図11】比較手法における触媒の各分割部分の弱酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図12】提案手法における触媒の各分割部分の弱酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図13】比較手法における触媒の各分割部分の強酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図14】提案手法における触媒の各分割部分の強酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図15】比較手法におけるNH3噴射量及び重みの変化を示すグラフである。
【図16】提案手法におけるNH3噴射量及び重みの変化を示すグラフである。
【図17】比較手法におけるガス温度の変化を示すグラフである。
【図18】提案手法におけるガス温度の変化を示すグラフである。
【図19】(A)触媒温度と1/5番目の分割部分に対する重みとの関係を示す図、及び(B)触媒温度と2/5番目の分割部分に対する重みとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載された排ガス浄化装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0024】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る排ガス浄化装置10は、ディーゼルエンジン等の内燃機関12の排気管14中に供給される尿素でNOxを浄化する触媒16と、内燃機関12と触媒16との間の排気管14中に尿素水を噴射して添加するインジェクタ18を有する尿素噴射装置20と、尿素噴射装置20に供給される尿素水を蓄えておく尿素タンク22と、触媒16より上流側の排気管14中に設置されたNOxセンサ24と、触媒16より上流側の排気管14中に設置された温度センサ26と、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御するコントローラ28とを備えている。
【0025】
触媒16は、NOx還元触媒であり、尿素噴射装置20によって排気管14に供給された尿素水が転換されてアンモニアガスとして排気ガスと共に触媒16に流入される。触媒16では、アンモニアガスにより排気ガス中のNOxが選択的に還元又は分解され、これにより、排気ガス中のNOxガスが浄化されて大気中に放出される。
【0026】
排気管14には、尿素水を排気管14内に噴射するためのインジェクタ18が設けられており、尿素噴射装置20がコントローラ28によって制御されることにより、インジェクタ18から尿素水が排気管14内に噴射される。
【0027】
尿素噴射装置20は、尿素タンク22に貯留された尿素水を、吸入管30を介して吸い出すための尿素ポンプ(図示省略)を備えており、尿素ポンプによって吸入管30を介して吸い出された尿素水が、供給管32及びインジェクタ18を介して排気管14に供給される。なお、吸入管30の尿素タンク22側の端部にはフィルタ(図示省略)が設けられており、フィルタによって異物等が除去されて排気管14に尿素水が供給されるようになっている。
【0028】
NOxセンサ24は、排気管14の触媒16より上流側において、NOx濃度を検出する。また、温度センサ26は、排気管14の触媒16より上流側において、温度を検出する。
【0029】
コントローラ28は、CPU、RAM、ROMを備えたマイクロコンピュータで構成されている。ROMには、後述する尿素添加制御処理ルーチンを実行するためのプログラム、内燃機関12の運転状態と排出NOx量の関係を表わすマップなどの種々のマップ、各種データ等が記憶されており、RAMは、ROMに記憶されたプログラム等を展開して実行するための作業エリアとして機能する。
【0030】
また、コントローラ28は、内燃機関12に接続されており、内燃機関12に設けられた、内燃機関12の運転状態(負荷、回転数など)を検出する運転状態センサから、内燃機関の負荷及び回転数を取得する。
【0031】
また、コントローラ28は、尿素噴射装置20、NOxセンサ24、及び温度センサ26に接続されており、コントローラ28には、NOxセンサ24及び温度センサ26の検出結果が入力され、各センサの検出結果に基づいて、尿素噴射装置20が制御される。
【0032】
ここで、コントローラ28によって尿素噴射装置20を制御する原理について説明する。
【0033】
まず、コントローラ28は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF、図示省略)内に堆積したすす等を除去するために、ディーゼルエンジンの運転状態を変化させることで高温の排出ガスが排気管14に導入された時、触媒16が高温状態(例えば、400℃)になる。この時、触媒16に吸着しているNH3を全て放出したとして、NH3吸着量を0とする。そして、コントローラ28は、尿素噴射装置20による尿素水の供給を開始すると共に、内燃機関12の負荷、エンジン回転数、尿素水の供給量、NOxセンサ24の検出値、及び温度センサ26の検出値を継続的に取得する。
【0034】
また、コントローラ28は、図2に示すような、排気ガスの流れ方向に5分割した5分割触媒のモデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16A中に現在吸着しているNH3量、及び2/5番目の分割部分16B中に現在吸着しているNH3量を推定する。
【0035】
以下に、NH3吸着量の推定方法について説明する。
【0036】
まず、内燃機関12の負荷及びエンジン回転数と、ガス流速及び酸素濃度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するガスのガス流速Q_dot及び酸素濃度O2_concを推定する。また、内燃機関12の負荷及びエンジン回転数と、NOモル速度及びNO2モル速度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するNOモル速度NO_dot及びNO2モル速度NO2_dotを推定する。
【0037】
また、尿素水噴射量とNH3モル速度及びNH3モル濃度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するNH3モル速度NH3_dot及びNH3モル濃度NH_concを推定する。また、温度センサ26によって検出された値を、触媒16上流のガス温度T_gasとして取得する。また、NOxセンサ24によって検出された値を、触媒16の上流から流入するNOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_concとして取得する。
【0038】
そして、1/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16Aから下流側へ放出される、NOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを推定する。
【0039】
1/5番目の触媒モデルでは、図3に示すように、SCRモデル及びNH3吸着モデルを用いて、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concと、弱酸点でのNH3消費速度NH3_conと、弱酸点でのNH3吸着量NH3_adとを推定する。
【0040】
SCRモデルでは、図4に示すように、化学反応モデルを用いて、NO反応速度とNO2反応速度を推定する。
【0041】
化学反応モデルは、非特許文献(高田圭、草鹿仁、大聖泰弘(早稲田大学大学院理工学研究科)、「簡易型1次元反応モデルによるUrea−SCRシステムのNox 洗化履歴の予測法と尿素水供給方法の最適化に関する研究」、自動車技技術会論文集)に記載されているモデルであり、以下の3つの反応モデル(NOx反応モデル:総括モデル)を考慮している。
【0042】
(Standard反応)
4NH3+4NO+O2→4N2+6H2O ・・・(1)
(Fast反応)
2NH3+NO+NO2→2N2+3H2O ・・・(2)
(NO2反応)
8NH3+6NO2→7N2+12H2O ・・・(3)
【0043】
上記(1)式〜(3)式で表される各反応の反応速度v2、v3、v4は、以下の(4)〜(6)式のように表現される。
【0044】
v2=k1[NO][O2][NH3(σw)]α ・・・(4)
v3=k2[NO][NO2][NH3(σw)]β ・・・(5)
v4=k3*[NO2][NH3(σw)]γ ・・・(6)
【0045】
ここで、[ ]は、各濃度を表す。σwは、弱酸点への吸収を表す。k1、k2、k3は、以下の(7)式〜(9)式に示すアレニウスの形の式を用いて計算されている。
【0046】
【数1】
【0047】
ただし、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
【0048】
SCRモデルでは、以下の(10)式、(11)式に従って、NO、NO2の反応速度を算出する。
【0049】
【数2】
【0050】
また、SCRモデルでは、上記のように算出されるNOの反応速度(減少するNOモル速度)と、上流から流入するNOモル速度とを、ある時間刻みごとに計算し、計算されたNOの反応速度及びNOモル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、下流へ放出されるNOモル速度NO_dot及びNOモル濃度NO_concを算出する。
【0051】
また、SCRモデルでは、上記のように算出されるNO2の反応速度(減少するNO2モル速度)と、上流から流入するNO2モル速度とを、ある時間刻みごとに計算し、計算されたNO2の反応速度及びNO2モル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、下流へ放出されるNO2モル速度NO2_dot及びNO2モル濃度NO2_concを算出する。
【0052】
また、浄化されるNOとNO2と、消費される弱酸点でのNH3との間には、上記(1)式〜(3)式の関係があり、また反応速度は、上記(4)式〜(9)式で計算されるので、SCRモデルでは、各反応の反応速度v2、v3、v4に基づいて、所定の計算式に従って、弱酸点でのNH3消費速度NH3_conが算出される。
【0053】
NH3吸着モデルでは、図5に示すように、弱酸点NH3吸着モデルを用いて、弱酸点上に吸着するNH3量NH3_adを推定すると共に、強酸点NH3吸着モデルを用いて、強酸点上に吸着するNH3量NH3_adを推定する。
【0054】
なお、弱酸点、強酸点は、触媒上で、NH3が吸着する点であり、以下の特徴を持つ。
【0055】
弱酸点に吸着したNH3は気相及び強酸点の各々との間で、吸着・脱離する。また、弱酸点では、低温からNH3が脱離し、弱酸点上のNH3がNOx浄化に寄与する。一方、強酸点に吸着したNH3は、弱酸点との間でのみ、吸着・脱離する。強酸点では、高温でのみNH3が脱離し、強酸点上のNH3はNOx浄化には寄与しない。
【0056】
弱酸点NH3吸着モデルでは、以下の(12)式に従って、弱酸点への吸着速度vaを算出する。
【0057】
va=ka[NH3](1−s) ・・・(12)
【0058】
ここで、kaは弱酸点への吸着速度定数であり、sは弱酸点のNH3の飽和吸着率(最大吸着量に対する吸着量の比)である。また、[NH3]は、1/5番目の分割部分16Aへ流入するガス中のNH3濃度である。
【0059】
また、NH3吸着モデルでは、弱酸点NH3放出モデルを用いて、以下の(13)式に従って、弱酸点からの放出速度vbを算出する。
【0060】
vb=kb[NH3(σw)](1−s) ・・・(13)
【0061】
ここで、kbは弱酸点からの放出速度定数であり、[NH3(σw)]は、弱酸点に吸着しているNH3濃度であり、弱酸点のNH3吸着量から求められる。
【0062】
また、NH3吸着モデルでは、1/5番目の分割部分16Aについて、上記の所定の計算式、(12)式、(13)式、後述する(14)式、(15)式に従って、ある時間刻みごとに、弱酸点でのNH3消費速度、弱酸点への吸着NH3速度、弱酸点からのNH3放出速度、強酸点へのNH3吸着速度、及び強酸点からのNH3放出速度を計算する。そして、弱酸点への吸着NH3速度と弱酸点でのNH3消費速度との差分を積算して、弱酸点へのNH3吸着量(吸着しているNH3のモル数)NH3_adを算出する。
【0063】
また、NH3吸着モデルでは、上流からのガスの温度に基づいて、予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わす関数、または予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わすマップに従って、弱酸点の飽和吸着量を計算する。
【0064】
強酸点NH3吸着モデルでは、以下の(14)式に従って、強酸点への吸着速度va’を算出する。
【0065】
va’=ka’[NH3(σw)](1−s’) ・・・(14)
【0066】
ここで、ka’は強酸点への吸着速度定数であり、s’は強酸点のNH3の飽和吸着率(最大吸着量に対する吸着量の比)である。また、[NH3(σw)]は弱酸点に吸着しているNH3濃度である。
【0067】
また、NH3吸着モデルでは、強酸点NH3放出モデルを用いて、以下の(15)式に従って、強酸点からの放出速度vb’を算出する。
【0068】
vb’=kb’[NH3(σs)] ・・・(15)
【0069】
ここで、kb’は強酸点からの放出速度定数であり、[NH3(σs)]は、強酸点に吸着しているNH3濃度であり、強酸点のNH3吸着量から求められる。
【0070】
また、NH3吸着モデルでは、上記の(14)式、(15)式に従って、ある時間刻みごとに、強酸点へのNH3吸着速度、及び強酸点からのNH3放出速度を計算し、強酸点へのNH3吸着量(吸着しているNH3のモル数)NH3_adを算出する。
【0071】
また、NH3吸着モデルでは、上流からのガスの温度に基づいて、予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わす関数、または予め定められた強酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わすマップに従って、弱酸点または強酸点の飽和吸着量を計算する。
【0072】
また、NH3吸着モデルでは、上流から1/5番目の分割部分16Aへ流入するNH3モル速度NH3_dot、弱酸点への吸着により減少するNH3モル速度、および弱酸点からの放出により増加するNH3モル速度を、ある時間刻みごとに計算し、計算された流入するNH3モル速度NH3_dot、減少するNH3モル速度、及び増加するNH3モル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、1/5番目の分割部分16Aより下流へ放出されるNH3モル速度NH3_dot及びNH3モル濃度NH3_concを算出する。
【0073】
また、2/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Aから下流へ放出される、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを推定する。
【0074】
2/5番目の触媒モデルでは、上記の1/5番目の触媒モデルと同様に、SCRモデル及びNH3吸着モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Bから下流側へ放出される、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concと、弱酸点でのNH3消費速度と、弱酸点でのNH3吸着量NH3_adとを推定する。このとき、上流から流入するNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concとして、1/5番目の触媒モデルにより算出された、触媒16の1/5番目の分割部分16Aから下流側へ放出するNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを用いる。
【0075】
以上のように、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上に現在吸着しているNH3量、及び2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を随時繰り返し推定する。
【0076】
また、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々について、推定された弱酸点上のNH3吸着量と、目標吸着量との差分を求める。このとき、1/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着量は、触媒16の温度に応じて求められる弱酸点上の飽和吸着量と、1/5番目の分割部分16Aに対して予め定められた目標吸着率とに基づいて算出される。また、2/5番目の分割部分16Bに対する目標吸着量は、触媒16の温度に応じて求められる弱酸点上の飽和吸着量と、2/5番目の分割部分16Bに対して予め定められた目標吸着率とに基づいて算出される。
【0077】
なお、図6に示すように上流にNH3が多く分布するように、1/5番目の分割部分16Aの目標吸着率が、2/5番目の分割部分16Bの目標吸着率より高く設定されている。これによって、触媒16上のNH3分布に着目し、触媒16の上流では、NH3吸着量を限界まで吸着させて浄化率を向上させる一方、その下流では、吸着量をある目標値に制御することで、NH3の流出を防止する。
【0078】
また、触媒16の温度と、飽和吸着量との関係を示すマップに従って、触媒16の温度に応じた弱酸点上の飽和吸着量が求められる。
【0079】
また、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々について、目標吸着量との差分に基づき、差分をなくすように、フィードバック制御を行って、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々に対する尿素添加量f1、f2を計算する。フィードバック制御としては、例えば、以下の(16)式で表されるPI制御を適用する。
【0080】
【数3】
【0081】
ここで、eは1/5番目もしくは2/5番目の分割部分の、弱酸点上の目標NH3吸着量と推定NH3吸着量の差分であり、iは1又は2である(1/5番目の分割部分については1、2/5番目の分割部分については2)。Kpは比例ゲインであり、KIは積分ゲインである。
【0082】
コントローラ28は、推定される触媒16の温度Tから、図7に示すような、触媒温度と重みθとの関係を示すマップに基づいて、重みθを求め、以下の(17)式により、最終の尿素添加量fを求める。
【0083】
f=θ×f1+(1−θ)×f2 ・・・(17)
【0084】
触媒温度と重みθとの関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθが大きくなり、触媒温度が高いほど、重みθが小さくなるように定められている。これによって、触媒温度が低いほど、触媒16の1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1による制御の重みが大きくなり、一方、触媒温度が高いほど、触媒16の2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2による制御の重みが大きくなる。
【0085】
コントローラ28は、求めた最終の尿素添加量fに応じて、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御する。
【0086】
上述したNH3吸着量の推定値及び尿素添加量の制御は、繰り返し行われる。
【0087】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0088】
自動車の内燃機関12の運転中に、コントローラ28は、随時、図8に示す尿素添加量制御処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0089】
まず、ステップ100において、内燃機関12の負荷、エンジン回転数、尿素水の供給量、NOxセンサ24の検出値、及び温度センサ26の検出値を取得する。そして、ステップ102では、上記ステップ100で取得した各種の値に基づいて、触媒16の温度(ガス温度)、触媒16に流入するガスのガス流速、流入するガスの酸素濃度、流入するガスのNOモル速度、NO2モル速度、NH3モル速度、NOモル濃度、NO2モル濃度、及びNH3モル濃度の各々を推定する。
【0090】
そして、ステップ104において、1/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を推定する。次のステップ106では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上の飽和吸着量を算出し、予め定められた1/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着率を用いて、1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上の目標吸着量を算出する。
【0091】
そして、ステップ108において、上記ステップ104で推定された弱酸点上のNH3吸着量と上記ステップ106で算出された弱酸点上の目標吸着量との差分を計算し、計算した差分に基づいて、1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1を算出する。
【0092】
次のステップ110では、2/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を推定する。次のステップ112では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上の飽和吸着量を算出し、予め定められた2/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着率を用いて、2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上の目標吸着量を算出する。
【0093】
そして、ステップ114において、上記ステップ110で推定された弱酸点上のNH3吸着量と上記ステップ112で算出された弱酸点上の目標吸着量との差分を計算し、計算した差分に基づいて、2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2を算出する。
【0094】
次のステップ116では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、重みθを決定し、ステップ118において、上記ステップ108で算出された尿素添加量f1と、上記ステップ114で算出された尿素添加量f2と、上記ステップ116で決定された重みθとに基づいて、尿素添加量fを算出し、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御し、尿素添加制御処理ルーチンを終了する。これによって、尿素噴射装置20によって、排気管14に尿素添加量fの尿素水が噴射される。
【0095】
次に、本実施の形態で提案する尿素添加量の制御方法を用いた実験の結果について説明する。比較手法では、図17、18に示すように、ガス温度(触媒温度)が提案手法と同様に変化する条件の下で、図9、10に示すように、提案手法と比較手法とでほぼ同じ浄化率となるように、各時刻の重みθ(=0又は1)を定めて、最終的な尿素添加量の制御を行った。
【0096】
図11、12に示すように、触媒の各分割部分について、弱酸点におけるNH3の飽和吸着率(飽和吸着量に対するNH3吸着量の比率)が得られた。図15、16に示すように、提案手法と比較手法とでほぼ同じ噴射量であるが、高温時の弱酸点へのNH3吸着量が抑制されていることがわかる。また、提案手法では、触媒内の下流の分割部分ほど、弱酸点のNH3吸着量が比較手法より少なくなっている(特に5/5番目触媒の吸着量が少ない)ので、NH3がスリップしにくいことがわかる。
【0097】
また、図13、14に示すように、触媒の各分割部分について、強酸点におけるNH3の飽和吸着率が得られた。比較手法と比較して、提案手法では、触媒の5/5番目の分割部分におけるNH3吸着量が約1/2となっているので、NH3がスリップしにくいことがわかる。
【0098】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る排ガス浄化装置によれば、触媒の温度が低いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が高いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを大きくして、1/5番目の分割部分に対する弱酸点上の目標吸着量との差分に基づく尿素添加量と、2/5番目の分割部分に対する弱酸点上の目標吸着量との差分に基づく尿素添加量との重み付き加算を、最終的な尿素添加量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。また、1/5番目の分割部分に対する目標吸着率を、2/5番目の分割部分に対する目標吸着率より高く設定することにより、NOx浄化率を高く維持したまま、アンモニアスリップを抑制することができる。
【0099】
また、モデルに基づく制御を行うため、マップを適合する方式に比べ、システマティックな制御系の構築が可能となる。
【0100】
また、触媒内にNH3吸着量の分布をつけること、すなわち、触媒内の上流はNH3吸着量を多くし、触媒内の下流はNH3吸着量を少なくすることで、NOx浄化とアンモニアスリップの抑制を両立することが可能となる。また、本実施の形態では、この分布制御をより確実に実現するために、触媒温度に着目した。触媒温度が低い時ほど、触媒上のNH3の下流への移動やアンモニアスリップの危険性が低いため、浄化率を高めることが可能な、上流側の触媒のNH3分布制御の重みを大きくし、一方、触媒温度が高いほど、アンモニアスリップの危険が増すために、アンモニアスリップを抑制する目的で、下流側の触媒のNH3分布制御の重みを大きくすることにより、NOx浄化とアンモニアスリップの抑制とを両立することを可能とした。
【0101】
次に、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置について説明する。なお、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0102】
第2の実施の形態では、触媒16の温度Tから、触媒16の1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1の重みθ1と、触媒16の2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2の重みθ2とをそれぞれ決定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0103】
第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置では、コントローラ28によって、推定される触媒16の温度Tから、図19(A)に示すような、触媒温度と重みθ1との関係を示すマップに基づいて、重みθ1を求めると共に、図19(B)に示すような、触媒温度と重みθ2との関係を示すマップに基づいて、重みθ2を求める。そして、コントローラ28は、以下の(18)式により、最終の尿素添加量fを求める。
【0104】
f=θ1×f1+θ2×f2 ・・・(18)
【0105】
触媒温度と重みθ1との関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθ1が大きくなり、触媒温度が高いほど、重みθ1が小さくなるように定められている。また、触媒温度と重みθ2との関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθ2が小さくなり、触媒温度が高いほど、重みθ2が大きくなるように定められている。
【0106】
なお、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0107】
このように、触媒の温度が低いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が高いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを小さくした。また、触媒の温度が高いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が低いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを小さくした。これによって、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。
【0108】
なお、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、センサとして、触媒より上流にNOxセンサ及び温度センサを設けた場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、センサとして、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだNOxセンサを用いてもよい。この場合には、触媒に流入するNOx量を、エンジン運転条件(負荷、回転数)との関係を示すマップもしくは関係式に従って算出すればよい。また、NOxセンサを用いて2/5番目の分割部分から放出されるNOx量を計測し、流入するNOx量との差を求めることで、触媒入口から2/5番目の分割部分までの間に消費されたNOx量を算出することができる。
【0109】
また、センサとして、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第1NH3センサと、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだ第2NH3センサとを用いてもよい。また、センサとして、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第1NOxセンサと、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだ第2NOxセンサとを用いてもよい。また、センサとして、触媒より上流側に設けた第1NH3センサと、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第2NH3センサとを用いてもよい。また、センサとして、触媒より上流側に設けた第1NOxセンサと、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第2NOxセンサとを用いてもよい。
【0110】
また、触媒の上流から流入するNOx(NO、NO2)を、エンジンの運転状態と排出NOx量との関係を示すマップ又は関係式から推定するようにしてもよい。
【0111】
また、触媒の温度を、エンジンの運転状態と温度との関係を示すマップ又は関係式から推定するようにしてもよい。
【0112】
また、上記の実施の形態では、尿素水を排気管に噴射する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、アンモニアガスを排気管に直接供給するようにしてもよい。この場合には、コントローラによって、アンモニア供給装置によるアンモニアガスの供給量を制御するようにすればよい。
【符号の説明】
【0113】
10 排ガス浄化装置
12 内燃機関
14 排気管
16 触媒
16A 1/5番目の分割部分
16B 2/5番目の分割部分
18 インジェクタ
20 尿素噴射装置
22 尿素タンク
24 NOxセンサ
26 温度センサ
28 コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの排出経路におけるNOx還元触媒の上流に還元剤を供給して排ガスを浄化する排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンモニアを還元剤とする排気浄化装置において、SCR触媒が比較的高温の状態であると、アンモニア吸着量の限界値が小さくなるため、アンモニア吸着量の適正な管理が困難になる。また、高温条件下ではSCR触媒からのアンモニアの離脱が多くなり、アンモニアスリップが生じやすくなる。
【0003】
このため、SCR触媒温度が所定値以上である場合には、アンモニア吸着量をパラメータとする尿素水添加制御を停止し、アンモニア吸着量をパラメータとしない別の尿素水添加制御を実施する内燃機関の排気浄化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持するために、実NОx浄化率ηが目標NОx浄化率Mηを超えている場合には、アンモニアスリップの恐れがあるので尿素水の添加を禁止し、実NОx浄化率ηが目標NОx浄化率Mη未満である場合には、還元剤添加量DNH3(n)あるいは基本添加量DNH3のアンモニア量に相当する尿素水量を添加できるように、還元剤供給手段の尿素水供給部を駆動制御する内燃機関のNOx浄化装置が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293444号公報
【特許文献2】特開2003−293738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、高温時には吸着量に基づく制御が実施されないため、高温による浄化反応が活性化されるとしても、触媒上に十分なNH3が吸着されず、浄化率が低下する恐れがある、という問題がある。
【0007】
また、触媒温度は,浄化率とアンモニアスリップのしやすさを決める重要な要素であるが、触媒内のアンモニア分布も大きな要素である。例えば、上記の特許文献2に記載の技術では、実NOx浄化率が目標値を超えると、アンモニアスリップの危険が高いので、尿素添加を停止する制御を行なうが、発明者らの知見では、いくら浄化率が高くても、NH3が触媒内の上流側に分布していれば、アンモニアスリップは起こりにくい。逆に、NOx浄化率が低くても、NH3が下流側に分布していれば、アンモニアスリップの危険がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる排ガス浄化装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排ガス浄化装置は、排出ガスの排出経路に設けられたNOx還元触媒と、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記NOx還元触媒で前記排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する物理量取得手段と、前記NOx還元触媒の温度を取得する温度取得手段と、内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量とに基づいて、前記NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及び前記NOx還元触媒における前記第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された前記第1部分の前記還元剤の吸着量と、前記第1部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第1算出手段と、前記推定手段によって推定された前記第2部分の前記還元剤の吸着量と、前記第2部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第2算出手段と、前記温度取得手段によって取得された前記NOx還元触媒の温度が低いほど、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくし、前記NOx還元触媒の温度が高いほど、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくして、前記第1算出手段によって算出された前記還元剤の供給量と、前記第2算出手段によって算出された前記還元剤の供給量との重み付き加算を、前記NOx還元触媒に対する前記還元剤の供給量として算出する第3算出手段と、前記第3算出手段によって算出された前記還元剤の供給量を供給するように前記還元剤供給手段を制御する供給制御手段と、を含んで構成されている。
【0010】
本発明に係る排ガス浄化装置では、還元剤供給手段によって、排出経路におけるNOx還元触媒より上流に、NOx還元触媒で排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する。また、物理量取得手段によって、排出経路におけるNOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する。温度取得手段によって、NOx還元触媒の温度を取得する。
【0011】
そして、推定手段によって、内燃機関の運転状態と、物理量取得手段によって取得されたNOxに関する物理量とに基づいて、NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及びNOx還元触媒における第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する。第1算出手段によって、推定手段によって推定された第1部分の前記還元剤の吸着量と、第1部分に対する還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、第1部分に対する還元剤の供給量を算出する。第2算出手段によって、推定手段によって推定された第2部分の前記還元剤の吸着量と、第2部分に対する還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、第2部分に対する還元剤の供給量を算出する。
【0012】
そして、第3算出手段によって、温度取得手段によって取得されたNOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する還元剤の供給量の重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する還元剤の供給量の重みを大きくして、第1算出手段によって算出された還元剤の供給量と、第2算出手段によって算出された還元剤の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出する。供給制御手段によって、第3算出手段によって算出された還元剤の供給量を供給するように還元剤供給手段を制御する。
【0013】
このように、NOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する重みを大きくして、第1部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量と、第2部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。
【0014】
本発明に係る第1部分に対する目標吸着量を、第2部分に対する目標吸着量より大きくすることができる。これによって、アンモニアスリップをより抑制しつつNOx浄化率をより高く維持することができる。
【0015】
本発明に係る第1部分に対する目標吸着量は、予め定められた第1部分に対する目標吸着率と、NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められ、第2部分に対する目標吸着量は、予め定められた第2部分に対する目標吸着率と、NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められるようにすることができる。
【0016】
本発明に係る推定手段は、第1部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量、及び第2部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量を推定するようにすることができる。
【0017】
本発明において、NOx還元触媒を排出ガスの流れ方向に5分割したときの、最も上流側の分割部分を、第1部分とし、第1部分より下流側に隣接する分割部分を、第2部分とすることができる。
【0018】
本発明に係る推定手段は、内燃機関の運転状態と、物理量取得手段によって取得されたNOxに関する物理量と、還元剤供給手段によって供給された還元剤の供給量とに基づいて、第1部分におけるNOxの放出量と、還元剤の消費量、吸着量、及び放出量とを算出することにより、第1部分に吸着している還元剤の吸着量を推定し、算出された第1部分におけるNOxの放出量と還元剤の放出量とに基づいて、第2部分における還元剤の消費量、吸着量、及び放出量を算出することにより、第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定するようにすることができる。
【0019】
本発明に係る還元剤供給手段は、排出経路におけるNOx還元触媒の上流に尿素水を供給することにより、還元剤としてのアンモニアを供給するようにすることができる。
【0020】
本発明に係る還元剤供給手段は、排出経路におけるNOx還元触媒の上流に、還元剤としてのアンモニアを供給するようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明に係る排ガス浄化装置は、NOx還元触媒の温度が低いほど、第1部分に対する重みを大きくし、NOx還元触媒の温度が高いほど、第2部分に対する重みを大きくして、第1部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量と、第2部分に対する目標吸着量との差分に基づく還元の供給量との重み付き加算を、NOx還元触媒に対する還元剤の供給量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る排ガス浄化装置の概略構成を示す図である。
【図2】5分割触媒モデルを説明するための図である。
【図3】1/5番目の触媒モデルを説明するための図である。
【図4】SCRモデルを説明するための図である。
【図5】NH3吸着モデルを説明するための図である。
【図6】NH3の目標吸着率の分布を示すグラフである。
【図7】触媒温度と重みとの関係を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る排ガス浄化装置のコントローラによる尿素添加制御処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】比較手法における流入するNOx濃度と放出されるNOx濃度との変化を示すグラフである。
【図10】提案手法における流入するNOx濃度と放出されるNOx濃度との変化を示すグラフである。
【図11】比較手法における触媒の各分割部分の弱酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図12】提案手法における触媒の各分割部分の弱酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図13】比較手法における触媒の各分割部分の強酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図14】提案手法における触媒の各分割部分の強酸点上の飽和吸着率の変化を示すグラフである。
【図15】比較手法におけるNH3噴射量及び重みの変化を示すグラフである。
【図16】提案手法におけるNH3噴射量及び重みの変化を示すグラフである。
【図17】比較手法におけるガス温度の変化を示すグラフである。
【図18】提案手法におけるガス温度の変化を示すグラフである。
【図19】(A)触媒温度と1/5番目の分割部分に対する重みとの関係を示す図、及び(B)触媒温度と2/5番目の分割部分に対する重みとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載された排ガス浄化装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0024】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る排ガス浄化装置10は、ディーゼルエンジン等の内燃機関12の排気管14中に供給される尿素でNOxを浄化する触媒16と、内燃機関12と触媒16との間の排気管14中に尿素水を噴射して添加するインジェクタ18を有する尿素噴射装置20と、尿素噴射装置20に供給される尿素水を蓄えておく尿素タンク22と、触媒16より上流側の排気管14中に設置されたNOxセンサ24と、触媒16より上流側の排気管14中に設置された温度センサ26と、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御するコントローラ28とを備えている。
【0025】
触媒16は、NOx還元触媒であり、尿素噴射装置20によって排気管14に供給された尿素水が転換されてアンモニアガスとして排気ガスと共に触媒16に流入される。触媒16では、アンモニアガスにより排気ガス中のNOxが選択的に還元又は分解され、これにより、排気ガス中のNOxガスが浄化されて大気中に放出される。
【0026】
排気管14には、尿素水を排気管14内に噴射するためのインジェクタ18が設けられており、尿素噴射装置20がコントローラ28によって制御されることにより、インジェクタ18から尿素水が排気管14内に噴射される。
【0027】
尿素噴射装置20は、尿素タンク22に貯留された尿素水を、吸入管30を介して吸い出すための尿素ポンプ(図示省略)を備えており、尿素ポンプによって吸入管30を介して吸い出された尿素水が、供給管32及びインジェクタ18を介して排気管14に供給される。なお、吸入管30の尿素タンク22側の端部にはフィルタ(図示省略)が設けられており、フィルタによって異物等が除去されて排気管14に尿素水が供給されるようになっている。
【0028】
NOxセンサ24は、排気管14の触媒16より上流側において、NOx濃度を検出する。また、温度センサ26は、排気管14の触媒16より上流側において、温度を検出する。
【0029】
コントローラ28は、CPU、RAM、ROMを備えたマイクロコンピュータで構成されている。ROMには、後述する尿素添加制御処理ルーチンを実行するためのプログラム、内燃機関12の運転状態と排出NOx量の関係を表わすマップなどの種々のマップ、各種データ等が記憶されており、RAMは、ROMに記憶されたプログラム等を展開して実行するための作業エリアとして機能する。
【0030】
また、コントローラ28は、内燃機関12に接続されており、内燃機関12に設けられた、内燃機関12の運転状態(負荷、回転数など)を検出する運転状態センサから、内燃機関の負荷及び回転数を取得する。
【0031】
また、コントローラ28は、尿素噴射装置20、NOxセンサ24、及び温度センサ26に接続されており、コントローラ28には、NOxセンサ24及び温度センサ26の検出結果が入力され、各センサの検出結果に基づいて、尿素噴射装置20が制御される。
【0032】
ここで、コントローラ28によって尿素噴射装置20を制御する原理について説明する。
【0033】
まず、コントローラ28は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF、図示省略)内に堆積したすす等を除去するために、ディーゼルエンジンの運転状態を変化させることで高温の排出ガスが排気管14に導入された時、触媒16が高温状態(例えば、400℃)になる。この時、触媒16に吸着しているNH3を全て放出したとして、NH3吸着量を0とする。そして、コントローラ28は、尿素噴射装置20による尿素水の供給を開始すると共に、内燃機関12の負荷、エンジン回転数、尿素水の供給量、NOxセンサ24の検出値、及び温度センサ26の検出値を継続的に取得する。
【0034】
また、コントローラ28は、図2に示すような、排気ガスの流れ方向に5分割した5分割触媒のモデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16A中に現在吸着しているNH3量、及び2/5番目の分割部分16B中に現在吸着しているNH3量を推定する。
【0035】
以下に、NH3吸着量の推定方法について説明する。
【0036】
まず、内燃機関12の負荷及びエンジン回転数と、ガス流速及び酸素濃度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するガスのガス流速Q_dot及び酸素濃度O2_concを推定する。また、内燃機関12の負荷及びエンジン回転数と、NOモル速度及びNO2モル速度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するNOモル速度NO_dot及びNO2モル速度NO2_dotを推定する。
【0037】
また、尿素水噴射量とNH3モル速度及びNH3モル濃度との関係を示すマップに従って、触媒16の上流から流入するNH3モル速度NH3_dot及びNH3モル濃度NH_concを推定する。また、温度センサ26によって検出された値を、触媒16上流のガス温度T_gasとして取得する。また、NOxセンサ24によって検出された値を、触媒16の上流から流入するNOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_concとして取得する。
【0038】
そして、1/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16Aから下流側へ放出される、NOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを推定する。
【0039】
1/5番目の触媒モデルでは、図3に示すように、SCRモデル及びNH3吸着モデルを用いて、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concと、弱酸点でのNH3消費速度NH3_conと、弱酸点でのNH3吸着量NH3_adとを推定する。
【0040】
SCRモデルでは、図4に示すように、化学反応モデルを用いて、NO反応速度とNO2反応速度を推定する。
【0041】
化学反応モデルは、非特許文献(高田圭、草鹿仁、大聖泰弘(早稲田大学大学院理工学研究科)、「簡易型1次元反応モデルによるUrea−SCRシステムのNox 洗化履歴の予測法と尿素水供給方法の最適化に関する研究」、自動車技技術会論文集)に記載されているモデルであり、以下の3つの反応モデル(NOx反応モデル:総括モデル)を考慮している。
【0042】
(Standard反応)
4NH3+4NO+O2→4N2+6H2O ・・・(1)
(Fast反応)
2NH3+NO+NO2→2N2+3H2O ・・・(2)
(NO2反応)
8NH3+6NO2→7N2+12H2O ・・・(3)
【0043】
上記(1)式〜(3)式で表される各反応の反応速度v2、v3、v4は、以下の(4)〜(6)式のように表現される。
【0044】
v2=k1[NO][O2][NH3(σw)]α ・・・(4)
v3=k2[NO][NO2][NH3(σw)]β ・・・(5)
v4=k3*[NO2][NH3(σw)]γ ・・・(6)
【0045】
ここで、[ ]は、各濃度を表す。σwは、弱酸点への吸収を表す。k1、k2、k3は、以下の(7)式〜(9)式に示すアレニウスの形の式を用いて計算されている。
【0046】
【数1】
【0047】
ただし、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
【0048】
SCRモデルでは、以下の(10)式、(11)式に従って、NO、NO2の反応速度を算出する。
【0049】
【数2】
【0050】
また、SCRモデルでは、上記のように算出されるNOの反応速度(減少するNOモル速度)と、上流から流入するNOモル速度とを、ある時間刻みごとに計算し、計算されたNOの反応速度及びNOモル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、下流へ放出されるNOモル速度NO_dot及びNOモル濃度NO_concを算出する。
【0051】
また、SCRモデルでは、上記のように算出されるNO2の反応速度(減少するNO2モル速度)と、上流から流入するNO2モル速度とを、ある時間刻みごとに計算し、計算されたNO2の反応速度及びNO2モル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、下流へ放出されるNO2モル速度NO2_dot及びNO2モル濃度NO2_concを算出する。
【0052】
また、浄化されるNOとNO2と、消費される弱酸点でのNH3との間には、上記(1)式〜(3)式の関係があり、また反応速度は、上記(4)式〜(9)式で計算されるので、SCRモデルでは、各反応の反応速度v2、v3、v4に基づいて、所定の計算式に従って、弱酸点でのNH3消費速度NH3_conが算出される。
【0053】
NH3吸着モデルでは、図5に示すように、弱酸点NH3吸着モデルを用いて、弱酸点上に吸着するNH3量NH3_adを推定すると共に、強酸点NH3吸着モデルを用いて、強酸点上に吸着するNH3量NH3_adを推定する。
【0054】
なお、弱酸点、強酸点は、触媒上で、NH3が吸着する点であり、以下の特徴を持つ。
【0055】
弱酸点に吸着したNH3は気相及び強酸点の各々との間で、吸着・脱離する。また、弱酸点では、低温からNH3が脱離し、弱酸点上のNH3がNOx浄化に寄与する。一方、強酸点に吸着したNH3は、弱酸点との間でのみ、吸着・脱離する。強酸点では、高温でのみNH3が脱離し、強酸点上のNH3はNOx浄化には寄与しない。
【0056】
弱酸点NH3吸着モデルでは、以下の(12)式に従って、弱酸点への吸着速度vaを算出する。
【0057】
va=ka[NH3](1−s) ・・・(12)
【0058】
ここで、kaは弱酸点への吸着速度定数であり、sは弱酸点のNH3の飽和吸着率(最大吸着量に対する吸着量の比)である。また、[NH3]は、1/5番目の分割部分16Aへ流入するガス中のNH3濃度である。
【0059】
また、NH3吸着モデルでは、弱酸点NH3放出モデルを用いて、以下の(13)式に従って、弱酸点からの放出速度vbを算出する。
【0060】
vb=kb[NH3(σw)](1−s) ・・・(13)
【0061】
ここで、kbは弱酸点からの放出速度定数であり、[NH3(σw)]は、弱酸点に吸着しているNH3濃度であり、弱酸点のNH3吸着量から求められる。
【0062】
また、NH3吸着モデルでは、1/5番目の分割部分16Aについて、上記の所定の計算式、(12)式、(13)式、後述する(14)式、(15)式に従って、ある時間刻みごとに、弱酸点でのNH3消費速度、弱酸点への吸着NH3速度、弱酸点からのNH3放出速度、強酸点へのNH3吸着速度、及び強酸点からのNH3放出速度を計算する。そして、弱酸点への吸着NH3速度と弱酸点でのNH3消費速度との差分を積算して、弱酸点へのNH3吸着量(吸着しているNH3のモル数)NH3_adを算出する。
【0063】
また、NH3吸着モデルでは、上流からのガスの温度に基づいて、予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わす関数、または予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わすマップに従って、弱酸点の飽和吸着量を計算する。
【0064】
強酸点NH3吸着モデルでは、以下の(14)式に従って、強酸点への吸着速度va’を算出する。
【0065】
va’=ka’[NH3(σw)](1−s’) ・・・(14)
【0066】
ここで、ka’は強酸点への吸着速度定数であり、s’は強酸点のNH3の飽和吸着率(最大吸着量に対する吸着量の比)である。また、[NH3(σw)]は弱酸点に吸着しているNH3濃度である。
【0067】
また、NH3吸着モデルでは、強酸点NH3放出モデルを用いて、以下の(15)式に従って、強酸点からの放出速度vb’を算出する。
【0068】
vb’=kb’[NH3(σs)] ・・・(15)
【0069】
ここで、kb’は強酸点からの放出速度定数であり、[NH3(σs)]は、強酸点に吸着しているNH3濃度であり、強酸点のNH3吸着量から求められる。
【0070】
また、NH3吸着モデルでは、上記の(14)式、(15)式に従って、ある時間刻みごとに、強酸点へのNH3吸着速度、及び強酸点からのNH3放出速度を計算し、強酸点へのNH3吸着量(吸着しているNH3のモル数)NH3_adを算出する。
【0071】
また、NH3吸着モデルでは、上流からのガスの温度に基づいて、予め定められた弱酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わす関数、または予め定められた強酸点の飽和吸着量と温度との関係を表わすマップに従って、弱酸点または強酸点の飽和吸着量を計算する。
【0072】
また、NH3吸着モデルでは、上流から1/5番目の分割部分16Aへ流入するNH3モル速度NH3_dot、弱酸点への吸着により減少するNH3モル速度、および弱酸点からの放出により増加するNH3モル速度を、ある時間刻みごとに計算し、計算された流入するNH3モル速度NH3_dot、減少するNH3モル速度、及び増加するNH3モル速度と、ガス流速Q_dotとを用いて、1/5番目の分割部分16Aより下流へ放出されるNH3モル速度NH3_dot及びNH3モル濃度NH3_concを算出する。
【0073】
また、2/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Aから下流へ放出される、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを推定する。
【0074】
2/5番目の触媒モデルでは、上記の1/5番目の触媒モデルと同様に、SCRモデル及びNH3吸着モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Bから下流側へ放出される、放出されるNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concと、弱酸点でのNH3消費速度と、弱酸点でのNH3吸着量NH3_adとを推定する。このとき、上流から流入するNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concとして、1/5番目の触媒モデルにより算出された、触媒16の1/5番目の分割部分16Aから下流側へ放出するNOモル速度NO_dot、NO2モル速度NO2_dot、NOモル濃度NO_conc、NO2モル濃度NO2_conc、NH3モル速度NH3_dot、及びNH3モル濃度NH3_concを用いる。
【0075】
以上のように、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上に現在吸着しているNH3量、及び2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を随時繰り返し推定する。
【0076】
また、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々について、推定された弱酸点上のNH3吸着量と、目標吸着量との差分を求める。このとき、1/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着量は、触媒16の温度に応じて求められる弱酸点上の飽和吸着量と、1/5番目の分割部分16Aに対して予め定められた目標吸着率とに基づいて算出される。また、2/5番目の分割部分16Bに対する目標吸着量は、触媒16の温度に応じて求められる弱酸点上の飽和吸着量と、2/5番目の分割部分16Bに対して予め定められた目標吸着率とに基づいて算出される。
【0077】
なお、図6に示すように上流にNH3が多く分布するように、1/5番目の分割部分16Aの目標吸着率が、2/5番目の分割部分16Bの目標吸着率より高く設定されている。これによって、触媒16上のNH3分布に着目し、触媒16の上流では、NH3吸着量を限界まで吸着させて浄化率を向上させる一方、その下流では、吸着量をある目標値に制御することで、NH3の流出を防止する。
【0078】
また、触媒16の温度と、飽和吸着量との関係を示すマップに従って、触媒16の温度に応じた弱酸点上の飽和吸着量が求められる。
【0079】
また、コントローラ28は、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々について、目標吸着量との差分に基づき、差分をなくすように、フィードバック制御を行って、触媒16の1/5番目の分割部分16A及び2/5番目の分割部分16Bの各々に対する尿素添加量f1、f2を計算する。フィードバック制御としては、例えば、以下の(16)式で表されるPI制御を適用する。
【0080】
【数3】
【0081】
ここで、eは1/5番目もしくは2/5番目の分割部分の、弱酸点上の目標NH3吸着量と推定NH3吸着量の差分であり、iは1又は2である(1/5番目の分割部分については1、2/5番目の分割部分については2)。Kpは比例ゲインであり、KIは積分ゲインである。
【0082】
コントローラ28は、推定される触媒16の温度Tから、図7に示すような、触媒温度と重みθとの関係を示すマップに基づいて、重みθを求め、以下の(17)式により、最終の尿素添加量fを求める。
【0083】
f=θ×f1+(1−θ)×f2 ・・・(17)
【0084】
触媒温度と重みθとの関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθが大きくなり、触媒温度が高いほど、重みθが小さくなるように定められている。これによって、触媒温度が低いほど、触媒16の1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1による制御の重みが大きくなり、一方、触媒温度が高いほど、触媒16の2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2による制御の重みが大きくなる。
【0085】
コントローラ28は、求めた最終の尿素添加量fに応じて、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御する。
【0086】
上述したNH3吸着量の推定値及び尿素添加量の制御は、繰り返し行われる。
【0087】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0088】
自動車の内燃機関12の運転中に、コントローラ28は、随時、図8に示す尿素添加量制御処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0089】
まず、ステップ100において、内燃機関12の負荷、エンジン回転数、尿素水の供給量、NOxセンサ24の検出値、及び温度センサ26の検出値を取得する。そして、ステップ102では、上記ステップ100で取得した各種の値に基づいて、触媒16の温度(ガス温度)、触媒16に流入するガスのガス流速、流入するガスの酸素濃度、流入するガスのNOモル速度、NO2モル速度、NH3モル速度、NOモル濃度、NO2モル濃度、及びNH3モル濃度の各々を推定する。
【0090】
そして、ステップ104において、1/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を推定する。次のステップ106では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上の飽和吸着量を算出し、予め定められた1/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着率を用いて、1/5番目の分割部分16Aの弱酸点上の目標吸着量を算出する。
【0091】
そして、ステップ108において、上記ステップ104で推定された弱酸点上のNH3吸着量と上記ステップ106で算出された弱酸点上の目標吸着量との差分を計算し、計算した差分に基づいて、1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1を算出する。
【0092】
次のステップ110では、2/5番目の触媒モデルを用いて、触媒16の2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上に現在吸着しているNH3量を推定する。次のステップ112では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上の飽和吸着量を算出し、予め定められた2/5番目の分割部分16Aに対する目標吸着率を用いて、2/5番目の分割部分16Bの弱酸点上の目標吸着量を算出する。
【0093】
そして、ステップ114において、上記ステップ110で推定された弱酸点上のNH3吸着量と上記ステップ112で算出された弱酸点上の目標吸着量との差分を計算し、計算した差分に基づいて、2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2を算出する。
【0094】
次のステップ116では、上記ステップ102で推定した触媒16の温度(ガス温度)に基づいて、重みθを決定し、ステップ118において、上記ステップ108で算出された尿素添加量f1と、上記ステップ114で算出された尿素添加量f2と、上記ステップ116で決定された重みθとに基づいて、尿素添加量fを算出し、尿素噴射装置20による尿素水の噴射を制御し、尿素添加制御処理ルーチンを終了する。これによって、尿素噴射装置20によって、排気管14に尿素添加量fの尿素水が噴射される。
【0095】
次に、本実施の形態で提案する尿素添加量の制御方法を用いた実験の結果について説明する。比較手法では、図17、18に示すように、ガス温度(触媒温度)が提案手法と同様に変化する条件の下で、図9、10に示すように、提案手法と比較手法とでほぼ同じ浄化率となるように、各時刻の重みθ(=0又は1)を定めて、最終的な尿素添加量の制御を行った。
【0096】
図11、12に示すように、触媒の各分割部分について、弱酸点におけるNH3の飽和吸着率(飽和吸着量に対するNH3吸着量の比率)が得られた。図15、16に示すように、提案手法と比較手法とでほぼ同じ噴射量であるが、高温時の弱酸点へのNH3吸着量が抑制されていることがわかる。また、提案手法では、触媒内の下流の分割部分ほど、弱酸点のNH3吸着量が比較手法より少なくなっている(特に5/5番目触媒の吸着量が少ない)ので、NH3がスリップしにくいことがわかる。
【0097】
また、図13、14に示すように、触媒の各分割部分について、強酸点におけるNH3の飽和吸着率が得られた。比較手法と比較して、提案手法では、触媒の5/5番目の分割部分におけるNH3吸着量が約1/2となっているので、NH3がスリップしにくいことがわかる。
【0098】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る排ガス浄化装置によれば、触媒の温度が低いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が高いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを大きくして、1/5番目の分割部分に対する弱酸点上の目標吸着量との差分に基づく尿素添加量と、2/5番目の分割部分に対する弱酸点上の目標吸着量との差分に基づく尿素添加量との重み付き加算を、最終的な尿素添加量として算出することにより、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。また、1/5番目の分割部分に対する目標吸着率を、2/5番目の分割部分に対する目標吸着率より高く設定することにより、NOx浄化率を高く維持したまま、アンモニアスリップを抑制することができる。
【0099】
また、モデルに基づく制御を行うため、マップを適合する方式に比べ、システマティックな制御系の構築が可能となる。
【0100】
また、触媒内にNH3吸着量の分布をつけること、すなわち、触媒内の上流はNH3吸着量を多くし、触媒内の下流はNH3吸着量を少なくすることで、NOx浄化とアンモニアスリップの抑制を両立することが可能となる。また、本実施の形態では、この分布制御をより確実に実現するために、触媒温度に着目した。触媒温度が低い時ほど、触媒上のNH3の下流への移動やアンモニアスリップの危険性が低いため、浄化率を高めることが可能な、上流側の触媒のNH3分布制御の重みを大きくし、一方、触媒温度が高いほど、アンモニアスリップの危険が増すために、アンモニアスリップを抑制する目的で、下流側の触媒のNH3分布制御の重みを大きくすることにより、NOx浄化とアンモニアスリップの抑制とを両立することを可能とした。
【0101】
次に、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置について説明する。なお、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0102】
第2の実施の形態では、触媒16の温度Tから、触媒16の1/5番目の分割部分16Aに対する尿素添加量f1の重みθ1と、触媒16の2/5番目の分割部分16Bに対する尿素添加量f2の重みθ2とをそれぞれ決定している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0103】
第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置では、コントローラ28によって、推定される触媒16の温度Tから、図19(A)に示すような、触媒温度と重みθ1との関係を示すマップに基づいて、重みθ1を求めると共に、図19(B)に示すような、触媒温度と重みθ2との関係を示すマップに基づいて、重みθ2を求める。そして、コントローラ28は、以下の(18)式により、最終の尿素添加量fを求める。
【0104】
f=θ1×f1+θ2×f2 ・・・(18)
【0105】
触媒温度と重みθ1との関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθ1が大きくなり、触媒温度が高いほど、重みθ1が小さくなるように定められている。また、触媒温度と重みθ2との関係を示すマップでは、触媒温度が低いほど、重みθ2が小さくなり、触媒温度が高いほど、重みθ2が大きくなるように定められている。
【0106】
なお、第2の実施の形態に係る排ガス浄化装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0107】
このように、触媒の温度が低いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が高いほど、1/5番目の分割部分に対する重みを小さくした。また、触媒の温度が高いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを大きくし、触媒の温度が低いほど、2/5番目の分割部分に対する重みを小さくした。これによって、アンモニアスリップを抑制しつつNOx浄化率を高く維持することができる。
【0108】
なお、上記の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、センサとして、触媒より上流にNOxセンサ及び温度センサを設けた場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、センサとして、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだNOxセンサを用いてもよい。この場合には、触媒に流入するNOx量を、エンジン運転条件(負荷、回転数)との関係を示すマップもしくは関係式に従って算出すればよい。また、NOxセンサを用いて2/5番目の分割部分から放出されるNOx量を計測し、流入するNOx量との差を求めることで、触媒入口から2/5番目の分割部分までの間に消費されたNOx量を算出することができる。
【0109】
また、センサとして、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第1NH3センサと、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだ第2NH3センサとを用いてもよい。また、センサとして、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第1NOxセンサと、2/5番目の分割部分と3/5番目の分割部分との間に埋め込んだ第2NOxセンサとを用いてもよい。また、センサとして、触媒より上流側に設けた第1NH3センサと、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第2NH3センサとを用いてもよい。また、センサとして、触媒より上流側に設けた第1NOxセンサと、1/5番目の分割部分と2/5番目の分割部分の間に埋め込んだ第2NOxセンサとを用いてもよい。
【0110】
また、触媒の上流から流入するNOx(NO、NO2)を、エンジンの運転状態と排出NOx量との関係を示すマップ又は関係式から推定するようにしてもよい。
【0111】
また、触媒の温度を、エンジンの運転状態と温度との関係を示すマップ又は関係式から推定するようにしてもよい。
【0112】
また、上記の実施の形態では、尿素水を排気管に噴射する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、アンモニアガスを排気管に直接供給するようにしてもよい。この場合には、コントローラによって、アンモニア供給装置によるアンモニアガスの供給量を制御するようにすればよい。
【符号の説明】
【0113】
10 排ガス浄化装置
12 内燃機関
14 排気管
16 触媒
16A 1/5番目の分割部分
16B 2/5番目の分割部分
18 インジェクタ
20 尿素噴射装置
22 尿素タンク
24 NOxセンサ
26 温度センサ
28 コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出ガスの排出経路に設けられたNOx還元触媒と、
前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記NOx還元触媒で前記排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する還元剤供給手段と、
前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する物理量取得手段と、
前記NOx還元触媒の温度を取得する温度取得手段と、
内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量とに基づいて、前記NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及び前記NOx還元触媒における前記第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する推定手段と、
前記推定手段によって推定された前記第1部分の前記還元剤の吸着量と、前記第1部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第1算出手段と、
前記推定手段によって推定された前記第2部分の前記還元剤の吸着量と、前記第2部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第2算出手段と、
前記温度取得手段によって取得された前記NOx還元触媒の温度が低いほど、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくし、前記NOx還元触媒の温度が高いほど、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくして、前記第1算出手段によって算出された前記還元剤の供給量と、前記第2算出手段によって算出された前記還元剤の供給量との重み付き加算を、前記NOx還元触媒に対する前記還元剤の供給量として算出する第3算出手段と、
前記第3算出手段によって算出された前記還元剤の供給量を供給するように前記還元剤供給手段を制御する供給制御手段と、
を含む排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記第1部分に対する前記目標吸着量を、前記第2部分に対する前記目標吸着量より大きくした請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第1部分に対する前記目標吸着量は、予め定められた前記第1部分に対する目標吸着率と、前記NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められ、
前記第2部分に対する前記目標吸着量は、予め定められた前記第2部分に対する目標吸着率と、前記NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められる請求項1又は2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記第1部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量、及び前記第2部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量を推定する請求項1〜請求項3の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記NOx還元触媒を前記排出ガスの流れ方向に5分割したときの、最も上流側の分割部分を、前記第1部分とし、前記第1部分より下流側に隣接する分割部分を、前記第2部分とした請求項1〜請求項4の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量と、前記還元剤供給手段によって供給された還元剤の供給量とに基づいて、前記第1部分におけるNOxの放出量と、還元剤の消費量、吸着量、及び放出量とを算出することにより、前記第1部分に吸着している還元剤の吸着量を推定し、
前記算出された前記第1部分におけるNOxの放出量と前記還元剤の放出量とに基づいて、前記第2部分における還元剤の消費量、吸着量、及び放出量を算出することにより、前記第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する請求項1〜請求項5の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記還元剤供給手段は、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に尿素水を供給することにより、前記還元剤としてのアンモニアを供給する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記還元剤供給手段は、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記還元剤としてのアンモニアを供給する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項1】
排出ガスの排出経路に設けられたNOx還元触媒と、
前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記NOx還元触媒で前記排ガスと接触して該排ガスを浄化する還元剤を供給する還元剤供給手段と、
前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流のNOxに関する物理量を取得する物理量取得手段と、
前記NOx還元触媒の温度を取得する温度取得手段と、
内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量とに基づいて、前記NOx還元触媒における上流側の第1部分に吸着している還元剤の吸着量、及び前記NOx還元触媒における前記第1部分より下流側の第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する推定手段と、
前記推定手段によって推定された前記第1部分の前記還元剤の吸着量と、前記第1部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第1算出手段と、
前記推定手段によって推定された前記第2部分の前記還元剤の吸着量と、前記第2部分に対する前記還元剤の目標吸着量との差分に基づいて、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量を算出する第2算出手段と、
前記温度取得手段によって取得された前記NOx還元触媒の温度が低いほど、前記第1部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくし、前記NOx還元触媒の温度が高いほど、前記第2部分に対する前記還元剤の供給量の重みを大きくして、前記第1算出手段によって算出された前記還元剤の供給量と、前記第2算出手段によって算出された前記還元剤の供給量との重み付き加算を、前記NOx還元触媒に対する前記還元剤の供給量として算出する第3算出手段と、
前記第3算出手段によって算出された前記還元剤の供給量を供給するように前記還元剤供給手段を制御する供給制御手段と、
を含む排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記第1部分に対する前記目標吸着量を、前記第2部分に対する前記目標吸着量より大きくした請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第1部分に対する前記目標吸着量は、予め定められた前記第1部分に対する目標吸着率と、前記NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められ、
前記第2部分に対する前記目標吸着量は、予め定められた前記第2部分に対する目標吸着率と、前記NOx触媒の温度に応じて決定される飽和吸着量とに基づいて求められる請求項1又は2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記第1部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量、及び前記第2部分の弱酸点上に吸着している還元剤の吸着量を推定する請求項1〜請求項3の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記NOx還元触媒を前記排出ガスの流れ方向に5分割したときの、最も上流側の分割部分を、前記第1部分とし、前記第1部分より下流側に隣接する分割部分を、前記第2部分とした請求項1〜請求項4の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記内燃機関の運転状態と、前記物理量取得手段によって取得された前記NOxに関する物理量と、前記還元剤供給手段によって供給された還元剤の供給量とに基づいて、前記第1部分におけるNOxの放出量と、還元剤の消費量、吸着量、及び放出量とを算出することにより、前記第1部分に吸着している還元剤の吸着量を推定し、
前記算出された前記第1部分におけるNOxの放出量と前記還元剤の放出量とに基づいて、前記第2部分における還元剤の消費量、吸着量、及び放出量を算出することにより、前記第2部分に吸着している還元剤の吸着量を推定する請求項1〜請求項5の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記還元剤供給手段は、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に尿素水を供給することにより、前記還元剤としてのアンモニアを供給する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記還元剤供給手段は、前記排出経路における前記NOx還元触媒より上流に、前記還元剤としてのアンモニアを供給する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の排ガス浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−154229(P2012−154229A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13308(P2011−13308)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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