説明

排気保温装置

【課題】フューエルカット時に、触媒上流の排気管における排気を保温することの可能な装置を提案する。
【解決手段】提案に係る排気保温装置10は、エンジンの出力軸に備えられたリターダ5を囲むケーシング11と、触媒よりも上流の排気管3を覆う外套管12と、ケーシング11と外套管12とを連結するダクト13と、を含んで構成される。フューエルカット時に作動するリターダ5から発生する熱を利用して排気管3を暖め、排気を保温することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置における排気の保温技術及び車両における廃熱回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン排気中のNOxを浄化するため排気系に還元触媒を組み込み、その上流において排気中に燃料や尿素水溶液などの還元剤(前駆体も含む)を添加する排気浄化装置では、還元触媒の触媒床温を所定の温度以上に維持すると、浄化効率が向上する。そこで、排気再循環(EGR)制御、パイロット噴射、ポスト噴射などの制御を実行して排気温度を調節し、触媒床温を極力低下させない技術がエンジンに適用されている。ところが、近年のエンジンは一般的に、アクセルオフに伴ってフューエルカットを実行するようになっており、このときには上記制御が実行されないために排気温度が低下し、長い降坂時など、フューエルカットの時間が長くなると、触媒床温を維持するのが難しくなる。
【0003】
この点に鑑みて、特許文献1に開示されるように、フューエルカット時にアフターターボ酸化触媒を利用して排気温度を高く維持する技術が提案されている。すなわち、フューエルカットで気筒内燃料噴射が無くなったときに、アフターターボ酸化触媒上流の排気中に燃料を添加し、アフターターボ酸化触媒でHC、COを燃焼させることにより、アフターターボ酸化触媒以降の排気温度を上昇させる技術である。
【0004】
一方、最近では、例えば特許文献2のように、還元触媒に加えてPM捕集フィルタ(DPF)も組み入れた排気浄化装置が普及している。このPM捕集フィルタを組み入れた排気浄化装置では、通常、排気の上流から下流へPM捕集フィルタ、還元触媒の順に配置され、そのPM捕集フィルタと還元触媒との間を連結する排気管に、還元剤を噴射するノズルが設置される。このノズルを設置した還元触媒上流の排気管は、還元剤の排気中への均一拡散を図るためにノズルから還元触媒までの長さがある程度必要なことから、あまり短くすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−150271号公報
【特許文献2】特開2003−184542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2のタイプの排気浄化装置の場合、特許文献1に係る排気保温技術を採用してあっても、フューエルカット時の触媒床温低下を防ぎきれない場合がある。すなわち、特許文献2に係る排気浄化装置では、フューエルカット時にアフターターボ酸化触媒を利用して排気温度を上昇させても、高車速での降坂時などでは、PM捕集フィルタ及び還元触媒上流の排気管を経る間に排気温度が下がってしまい、良好な浄化効率を保つ還元触媒の触媒床温を維持するに至らない場合がある。特に、短くすることのできない還元触媒上流の排気管が走行風に曝されるため、ここで排気が冷やされることの影響が大きいと考えられる。さらに言えば、アフターターボ酸化触媒上流の排気中に燃料を添加することによる燃料消費も課題である。
【0007】
本発明はこの点に着目したもので、降坂時などのフューエルカット時に、燃料消費を少なく保ちつつ、還元触媒上流の排気管における排気を保温することの可能な装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために提案する排気保温装置は、エンジンの出力軸に備えられたリターダを囲むケーシングと、触媒よりも上流の排気管を覆う外套管と、前記ケーシングと前記外套管とを連結するダクトと、を含んで構成される。
【発明の効果】
【0009】
制動時の補助として車両に搭載されるリターダは、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して放散することにより制動力を得る装置であり、ほぼ、フューエルカット時に作動する。上記提案に係る排気保温装置は、フューエルカット時に、そのリターダから発生する熱を利用して触媒上流の排気管を暖め、燃料消費を低く抑えつつ、排気を保温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】排気保温装置の第1実施形態を示す概略図。
【図2】第1実施形態に係る排気保温装置の動作フローチャート。
【図3】排気保温装置の第2実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る排気保温装置は、一例として、PM捕集とNOx除去の機能を備えた、ディーゼルエンジンの排気浄化装置において用いられている。ただし、排気保温装置の適用範囲はこのような排気浄化装置に限らず、排気系に触媒を備えた排気浄化装置において触媒上流の排気を保温する用途全般に適用することができる。
【0012】
図1及び図3に示す排気浄化装置は、排気ターボ過給器以降の排気系に、第1の筐体1に収納された酸化触媒DOC及びPM捕集フィルタDPFと、第2の筐体2に収納された還元触媒SCR及びアンモニアスリップ触媒ASCと、を配置して構成されている。本実施形態の場合、排気の上流から下流へ、酸化触媒DOC、PM捕集フィルタDPF、還元触媒SCR、アンモニアスリップ触媒ASCの順に配置される。このうち酸化触媒DOCは、前述の特許文献1のようなアフターターボ酸化触媒の機能を担わせ得る。
【0013】
本例のSCR式の排気浄化装置は、PM捕集フィルタDPFから還元触媒SCRへ排気を送る排気管3、つまり、還元触媒SCRよりも上流の排気管3において排気中にノズル4から還元剤(前駆体を含む)を噴射して添加することにより、排気中のNOxと還元剤とを触媒還元反応させて、NOxを無害成分に浄化処理するものである。その還元反応は、NOxと反応性が良好なアンモニアを用いるものが主流であり、このための還元剤としては、排気熱及び排気中の水蒸気により加水分解してアンモニアを容易に発生する尿素水溶液やアンモニア水溶液などの液体還元剤が用いられる。前述の特許文献1にもあるように、このような反応による浄化効率を良好に保つには、触媒床温がある程度以上であることが好ましい。
【0014】
一方、エンジンからトランスミッションを経て駆動輪へ延びる出力軸に、リターダ5が設けられている。リターダ5の位置は、図示のようにトランスミッション以降の出力軸に介在させるだけでなく、エンジンとトランスミッションの間などその他の位置であり得る。抑速機であるリターダ5は、制動力の補助として使用されるもので、電磁式、永久磁石式、流体式といった構造があり、いずれも車両の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して放散することにより、制動力を得る。従来では、その熱は大気へ放散されていたが、本実施形態ではこれを排気の保温に活用する。
【0015】
このための排気保温装置10は、図1に示す第1実施形態の場合、リターダ5を囲むケーシング11と、還元触媒SCRよりも上流の排気管3を覆う外套管12と、ケーシング11及び外套管12を連結するダクト13と、を含んで構成される。さらに、第1実施形態の場合、リターダ5の動作に連動してダクト13を開閉するバルブ14を含み、また、外套管12に設けられた圧力制御弁15を含んでいる。
【0016】
リターダ5は、制御器6により動作制御され、運転席のスイッチ操作あるいは自動制御に従ってアクセルオフに伴い動作ONとなる。作動したリターダ5は、出力軸に制動力を付与すると共に発熱し、その冷却のための冷却風が、ケーシング11の図示せぬ冷却風取入口から入り、その廃熱が、ケーシング11からダクト13を経て外套管12へ送られて排気管3を暖める。排気管3は、外套管12により周囲を覆われて走行風に直に曝されておらず且つリターダ5による熱で暖められるので、還元触媒SCRへ流入する排気が保温される。したがって、フューエルカット時の触媒床温低下を極力食い止めることができる。
【0017】
ダクト13の途中に設けられたバルブ14は、制御器6により制御されており、リターダ5が動作ONするときにダクト13を開通させ、リターダ5が動作OFFのときにはダクト13を閉鎖する。ダクト13を閉鎖しているときのバルブ14は、ケーシング11からの送風を大気開放する。すなわち、リターダ5が動作OFFで発熱していないときには、バルブ14により、外套管12への送風が抑止される。
【0018】
外套管12に設けられた圧力制御弁15は、例えばリリーフ弁であり、外套管12内の圧力が上がると開いて管内を減圧する。圧力制御弁15は、リターダ5からの熱風がある程度外套管12内に留まっていた方が排気管3を暖めるのに好ましいために、設けられている。圧力制御弁15の代わりに、バルブ14の開閉と連動して開弁するバルブ15としてもよい。また、圧力制御弁15を設けずに単なる通気孔を外套管12に開けるだけでもよいが、圧力制御弁15又はバルブ15を設けてあった方が保温効果に優れる。
【0019】
図2には、制御器6に従う排気保温装置10の動作フローをフローチャートで示してある。以下のフローは、一例としてイグニッションスイッチがOFFになるまで実行される。
イグニッションスイッチのONでスタートした後、ステップS1で制御器6は、リターダ5を動作させるか否か監視しており、運転席のリターダスイッチオンや一定条件下のアクセルオフ検知で自動的に、リターダ5を動作ONにする。制御器6がリターダ5を動作ONにしない場合は、ステップS2においてバルブ14の閉が維持されてステップS1へ戻り、制御器6によりリターダ5の動作ONが監視される。
【0020】
ステップS1で制御器6がリターダ5を動作ONにする場合は、ステップS3においてバルブ14が制御器6により開とされ、ダクト13が開通してリターダ5の熱風が外套管12へ送風される。バルブ14を開にした後、ステップS4において、制御器6がリターダ5を動作OFFにするか否か監視しており、アクセルオンなど所定条件に応じてリターダ5が動作OFFにされる。制御器6がリターダ5を動作OFFにしない間はステップS3へ戻ってバルブ14の開が維持され、リターダ5を動作OFFにする場合は、ステップS2でバルブ14が閉とされ、ステップS1で次のリターダ5の動作ONが監視される。
【0021】
図3に示す第2実施形態の排気保温装置10は、第1実施形態同様のケーシング11、外套管12、ダクト13、及び圧力制御弁15を含んで構成される。そして、第2実施形態の場合は、ケーシング11の内部温度を検出する温度センサ16を含み、ダクト13を開閉するバルブ14が、その温度センサ16の出力に応じて開閉制御される。なお、温度センサ16は、バルブ14よりケーシング11側のダクト13内の温度を検出するように設けてあってもよい。
【0022】
第2実施形態においては、温度センサ16の出力信号が制御器16へ入力され、これに応じて制御器16がバルブ14を開閉させる。すなわち、温度センサ16により検出されるケーシング11内温度が所定のしきい値を上回るときに、制御器6がバルブ14を開いてダクト13を開通させる。この第2実施形態の場合は、リターダ5の動作に関係なくバルブ14を制御してもよく、ケーシング11の内部温度が一定以上であれば熱風が外套管12へ送風され、排気管3を暖めることができる。
【符号の説明】
【0023】
3 触媒上流の排気管
5 リターダ
6 制御器
10 排気保温装置
11 ケーシング
12 外套管
13 ダクト
14 バルブ
15 圧力制御弁又はバルブ
16 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸に備えられたリターダを囲むケーシングと、
触媒よりも上流の排気管を覆う外套管と、
前記ケーシングと前記外套管とを連結するダクトと、
を含んで構成される、排気保温装置。
【請求項2】
前記リターダの動作に連動して前記ダクトを開閉するバルブをさらに含む、請求項1記載の排気保温装置。
【請求項3】
前記ケーシング内温度又は前記ダクト内温度を検出する温度センサと、
該温度センサの出力に応じて前記ダクトを開閉するバルブと、
をさらに含む、請求項1記載の排気保温装置。
【請求項4】
前記外套管に設けられた圧力制御弁をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の排気保温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122440(P2012−122440A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275724(P2010−275724)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】