排気浄化システムの異常判別装置
【課題】選択還元触媒を備えた排気浄化システムの異常判別装置であって、部品点数を増加させることなく排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する異常判別装置を提供すること。
【解決手段】選択還元触媒から還元成分がスリップする推定スリップタイミングと、還元成分のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較するとともに、還元成分のスリップ発生後に、選択還元触媒に供給すべき還元剤又は前駆体溶液の目標供給量と、供給手段の駆動状態に基づいて算出される還元剤又は前駆体溶液の実供給量と、を比較し、これらの比較結果に基づいて、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する。
【解決手段】選択還元触媒から還元成分がスリップする推定スリップタイミングと、還元成分のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較するとともに、還元成分のスリップ発生後に、選択還元触媒に供給すべき還元剤又は前駆体溶液の目標供給量と、供給手段の駆動状態に基づいて算出される還元剤又は前駆体溶液の実供給量と、を比較し、これらの比較結果に基づいて、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化システムの異常判別装置に関する。特に、還元成分の存在下において排気中のNOxを還元する選択還元触媒を備えた排気浄化システムの異常判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア等の還元成分により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を内燃機関の排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側から前駆体溶液である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでアンモニアを生成し、このアンモニアにより排気中のNOxを選択的に還元する。なお、このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなアンモニアの化合物を加熱することでアンモニアを生成し、このアンモニアや還元剤であるアンモニア含有物を直接添加するシステムも提案されている。
【0003】
選択還元触媒を備えた排気浄化システムにおいて、その排気浄化性能を高く維持し続けるためには、選択還元触媒の劣化がある程度進行すると、これを新しいものに交換する必要がある。そこで近年の排気浄化システムには、選択還元触媒の交換の目安となる時期を運転者や整備者に報知するため、選択還元触媒を車載したまま、すなわち車両の走行中に劣化を判定する劣化判定装置が搭載されている。以下では、尿素添加式の排気浄化システムを例として、選択還元触媒の劣化を判定する従来の技術について説明する。
【0004】
特許文献1には、選択還元触媒の温度がNOxを浄化可能な温度域より低いときに、アンモニアスリップが発生するまで尿素水を供給し、この過程で供給した尿素水の総量をアンモニアのストレージ量に変換し、更にこのアンモニアのストレージ量に基づいて選択還元触媒の劣化を診断する装置が示されている。アンモニアスリップは、選択還元触媒のストレージ量がストレージ容量を超えたことに応じて発生することから、過剰供給した尿素水の総量は選択還元触媒のストレージ容量に相関があると考えられるので、この特許文献1の装置では、選択還元触媒のストレージ容量に基づいて触媒の劣化を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−127496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置のように選択還元触媒の劣化を判定する際には、触媒劣化だけでなく、還元剤や前駆体溶液の供給量の過剰や不足、及び、還元剤や前駆体溶液の濃度の濃淡といった他の要因が絡むことになる。よって、触媒劣化だけを正確に判定することはできなかった。また、これらの要因を切り分けるためには還元剤や前駆体溶液を貯めるタンク等に設ける濃度センサ等の特定センサを用いる必要があると考えられた。このため、部品点数を増加させず選択還元触媒の下流に配置された還元成分センサのみを用い排気浄化システム稼動時の挙動でこれらの要因を切り分けて見つけ出すことはできないと考えられていた。
【0007】
本発明は、上述した点を考慮してなされたものであり、その目的は、選択還元触媒を備えた排気浄化システムの異常判別装置であって、部品点数を増加させることなく排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する異常判別装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関の排気通路(11)に設けられ、還元成分(アンモニア)の存在下で前記排気通路(11)を流通する排気中のNOxを還元する選択還元触媒(23)と、
前記選択還元触媒(23)よりも上流の前記排気通路(11)へ還元成分(アンモニア)を含んだ還元剤又は前記還元成分(アンモニア)の前駆体を含んだ前駆体溶液(尿素水)を供給する供給手段(尿素水噴射弁253)と、
前記選択還元触媒(23)よりも下流の前記排気通路(11)に設けられ、前記選択還元触媒(23)からの還元成分(アンモニア)のスリップを検出する還元成分スリップ検出手段(アンモニアセンサ26)と、
前記選択還元触媒(23)から還元成分(アンモニア)がスリップする推定スリップタイミングを推定するスリップタイミング推定手段(ECU3)と、
前記選択還元触媒(23)に供給すべき還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の目標供給量を算出する目標供給量算出手段(ECU3)と、
前記供給手段(尿素水噴射弁253)の駆動状態に基づいて、還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の実供給量を算出する実供給量算出手段(ECU3)と、
前記目標供給量算出手段(ECU3)が算出する還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の目標供給量が供給されるように、前記供給手段(尿素水噴射弁253)を駆動する制御手段(ECU3)と、
前記スリップタイミング推定手段(ECU3)で推定される推定スリップタイミングと、前記還元成分スリップ検出手段(アンモニアセンサ26)が還元成分(アンモニア)のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較する第1比較手段(ECU3、ステップS6、S8)と、
還元成分のスリップ発生後に、前記目標供給量算出手段(ECU3)が算出する目標供給量と、前記実供給量算出手段(ECU3)が算出する実供給量と、を比較する第2比較手段(ECU3、ステップS9、S10、S12、S16)と、
前記第1比較手段(ECU3、ステップS6、S8)及び前記第2比較手段(ECU3、ステップS9、S10、S12、S16)の比較結果に基づいて、少なくとも前記選択還元触媒(23)の劣化異常を含む、還元成分(アンモニア)のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム(2)の複数の部位又は要素内の異常を特定する異常特定手段(ECU3、ステップS7、S11、S13、S14、S15、S17、S18)と、
を備えることを特徴とする排気浄化システム(2)の異常判別装置を提供する。
【0009】
この発明によれば、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、部品点数を増加させることなく既存の排気浄化システムの構成で、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、還元剤のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定することができる。
【0010】
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較される推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときは、排気浄化システムは正常であると判定することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとから排気浄化システムが正常であることを判定することができる。ここで、排気浄化システムが正常と判定される、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が収まる許容範囲とは、排気浄化システムが正常である場合に採り得る範囲である。
また、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときには、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素が、正負逆に還元剤のスリップタイミングに影響を及ぼし合っている場合もある。この場合であっても、トータルで還元成分のスリップタイミングに影響が無ければ、還元成分の過剰なスリップが無く排気エミッションを低減した状態に維持することができ、排気浄化システムとしては問題が無い。
【0012】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定することが好ましい。
【0013】
この発明によると、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高い場合と、還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常と、選択還元触媒の劣化異常と、を切り分けて特定することができる。ここで、選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、選択還元触媒の劣化異常が発生している場合に採り得る範囲である。
【0014】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記選択還元触媒の還元成分のストレージ量を推定するストレージ量推定手段を更に備え、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記ストレージ量推定手段が推定する前記選択還元触媒に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定することが好ましい。
【0015】
この発明によると、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低い場合と、還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。ここで、ストレージ量推定に誤りが発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、ストレージ量推定に誤りが発生している場合に採り得る範囲である。
【0016】
前記還元成分スリップ検出手段よりも下流の前記排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備え、
前記異常特定手段は、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する場合には、前記下流側選択還元触媒にも劣化異常が発生していると判定することが好ましい。
【0017】
下流側選択還元触媒は、選択還元触媒とほぼ等しく熱負荷を受けることから、選択還元触媒が劣化する時期に下流側選択還元触媒も劣化する。よって、この発明によると、選択還元触媒の劣化異常が発生した場合には、選択還元触媒の下流に配置された下流側選択還元触媒も劣化異常が発生したと特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化システムと、その異常判別装置との構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアンモニアの供給状態と、選択還元触媒のストレージ量の変化との関係を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る選択還元触媒においてアンモニアスリップが発生した状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る選択還元触媒におけるストレージ容量の温度特性を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るストレージ容量の推定値を決定するための制御マップの一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まる場合の様子を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い場合の様子を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い場合の様子を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関(以下「エンジン」という)1の排気浄化システム2と、その異常判別装置の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0020】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気通路11に設けられ、この排気通路11を流通する排気中の窒素酸化物(以下、「NOx」という)を還元成分としてのアンモニアの存在下で浄化する選択還元触媒23と、選択還元触媒23よりも上流の排気通路11にアンモニアである還元成分の元となる前駆体である尿素を含む前駆体溶液である尿素水を供給する尿素水噴射装置25と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3と、を含んで構成される。排気通路11には、選択還元触媒23の他、酸化触媒21やスリップ抑制触媒24が設けられる。
【0021】
尿素水噴射装置25は、尿素水タンク251と、尿素水噴射弁253と、を備える。
尿素水タンク251は、尿素水を貯蔵するものであり、尿素水供給路254及び尿素水ポンプ255を介して、尿素水噴射弁253に接続されている。この尿素水タンク251には、尿素水レベルセンサ256と尿素水温度センサ257とが設けられている。尿素水供給路254には、尿素水圧力センサ258が設けられている。尿素水ポンプ255は、回転することで尿素水を尿素水噴射弁253へ送出し、ポンプ回転数に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水レベルセンサ256は、尿素水タンク251内の尿素水の水位を検出し、この水位に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水温度センサ257は、尿素水タンク251内の尿素水の温度を検出し、この温度に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水圧力センサ258は、尿素水ポンプ255で送出された尿素水供給路254内の尿素水の圧力を検出し、この圧力に略比例する検出信号をECU3に出力する。
尿素水噴射弁253は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により動作し、この制御信号に応じて尿素水を排気通路11内に噴射する。この制御信号で尿素水噴射弁253の開弁期間を調節する。すなわち、尿素水噴射制御が実行される。尿素水噴射制御では、ECU3により、エンジン1の運転状態に応じて選択還元触媒23に供給すべき尿素水の目標供給量が算出され、その目標供給量が供給されるように尿素水噴射弁253が駆動される。目標供給量としては、後述するNOxセンサ28から算出されるNOx量を浄化可能な量であり、選択還元触媒23におけるアンモニアのストレージ量がフルストレージになり、アンモニアセンサ26の検出値により許容可能なアンモニアスリップを生じさせつつ過剰なアンモニアスリップを生じさせないような量に設定される。このような目標供給量を設定する手法は、国際公開第2009/128169号に開示されている。
【0022】
酸化触媒21は、尿素水噴射弁253よりも上流の排気通路11に設けられ、排気中のNOの一部をNO2に変換することにより、選択還元触媒23におけるNOxの還元を促進する。
【0023】
選択還元触媒23は、還元成分であるアンモニアが存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。具体的には、尿素水噴射装置25により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されてアンモニアが生成される。生成されたアンモニアは選択還元触媒23に供給され、このアンモニアにより、排気中のNOxは選択的に還元される。
【0024】
この選択還元触媒23は、尿素水から生成されたアンモニアで排気中のNOxを還元する機能を有するとともに、生成されたアンモニアを所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されているアンモニア量をストレージ量とし、選択還元触媒23で貯蔵できるアンモニア量すなわちストレージ量の最大値をストレージ容量とする。
【0025】
このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたアンモニアは、排気中のNOxの還元にも適宜消費される。このため、ストレージ量が多くなるに従い、選択還元触媒23におけるNOx浄化率は高くなる。一方、ストレージ量がストレージ容量に達し選択還元触媒23が飽和状態になると、NOx浄化率も最高値に達するものの、NOxの還元に供されず余剰となったアンモニアが選択還元触媒23の下流側へ流出するアンモニアスリップが発生する。
【0026】
図2は、尿素水から生成されたアンモニアの供給状態と、選択還元触媒のストレージ量の変化との関係を模式的に示す図である。図2に示すように、アンモニアの供給状態は、選択還元触媒に流入する排気のNOx濃度に対する尿素水噴射量の大きさに応じて、最適状態(図2の(a))と、供給過剰(Over−dosing)状態(図2の(b))と、供給不足(Under−dosing)状態(図2の(c))との3つの状態に分類される。
【0027】
図2の(a)に示す最適状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が適切な状態、すなわち、排気中のNOxを最も効率良く還元できるアンモニアの量と、供給した尿素水から生成されるアンモニアの量とが略一致した状態をいう。この場合、ストレージ量は変化しない。
【0028】
図2の(b)に示す供給過剰状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が過剰な状態、すなわち、供給した尿素水から生成されたアンモニアの量が、排気中のNOxを最も効率良く還元できる量より多い状態をいう。この場合、余剰分のアンモニアは選択還元触媒に貯蔵される。したがって、このような供給過剰状態では、ストレージ量は増加する。
【0029】
図2の(c)に示す供給不足状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が不足した状態、すなわち、供給した尿素水から生成されたアンモニアの量が、排気中のNOxを最も効率良く還元できる量より少ない状態をいう。この場合、不足分は貯蔵されたアンモニアから補われる。したがって、このような供給不足状態では、ストレージ量は減少する。
【0030】
図3は、選択還元触媒においてアンモニアスリップが発生した状態を模式的に示す図である。
図3に示すように、選択還元触媒のストレージ量がストレージ容量に達した状態で尿素水を過剰に供給すると、NOxの還元に供されず余剰となったアンモニアは、選択還元触媒に貯蔵されずに下流へ流出する。すなわち、選択還元触媒からアンモニアスリップが発生する。
【0031】
図1に戻って、スリップ抑制触媒24は、選択還元触媒23よりも下流の排気通路11に設けられ、選択還元触媒23においてアンモニアスリップが発生した場合に、スリップしたアンモニアが外に排出されるのを抑制する。このスリップ抑制触媒24としては、例えば、選択還元触媒23からスリップしたアンモニアを酸化しNOxとH2Oに分解する酸化触媒や、スリップしたアンモニアを貯蔵したりN2に還元したりする選択還元触媒等を用いることができる。
【0032】
ECU3には、アンモニアセンサ26、触媒温度センサ27、及びNOxセンサ28の他、クランク角度位置センサ14、アクセル開度センサ15、及び触媒劣化警告灯17が接続されている。
【0033】
アンモニアセンサ26は、選択還元触媒23とスリップ抑制触媒24との間の排気通路11における排気のアンモニア濃度を検出し、検出したアンモニア濃度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0034】
触媒温度センサ27は、選択還元触媒23の温度(以下、「触媒温度」という)を検出し、検出した触媒温度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0035】
NOxセンサ28は、選択還元触媒23に流入する排気のNOxの濃度(以下、「NOx濃度」という)を検出し、検出したNOx濃度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0036】
クランク角度位置センサ14は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、クランク角1度ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に供給する。ECU3では、このパルス信号に基づいて、エンジン1の回転数を算出する。クランク角度位置センサ14は、更に特定気筒の所定クランク角度位置で気筒識別パルスを生成して、ECU3に供給する。
【0037】
アクセル開度センサ15は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出したアクセル開度に略比例した検出信号をECU3に供給する。ECU3では、このアクセル開度及び回転数に応じて、エンジン1の要求トルクが算出される。以下では、この要求トルクを、エンジン1の負荷を表す負荷パラメータとする。
【0038】
触媒劣化警告灯17は、例えば、車両のメータパネルに設けられ、後述の異常判別制御により選択還元触媒23が劣化したと判定されたことに応じて点灯する。これにより、選択還元触媒23が劣化した状態であることを運転者に警告する。
【0039】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路と、エンジン1や尿素水噴射弁253等に制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0040】
次に、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、アンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム2の複数の部位又は要素内の異常を特定する異常判別制御のアルゴリズムの概略について、従来の触媒劣化判定制御にあった課題とともに説明する。
【0041】
図4は、選択還元触媒におけるストレージ容量の温度特性を模式的に示す図である。
図4において、一点鎖線は新品の状態における選択還元触媒のストレージ容量を示す。実線は交換が必要な程度に劣化した状態における選択還元触媒のストレージ容量を示す。図4に示すように、選択還元触媒におけるストレージ容量は、新品状態から劣化状態になって行くと小さくなる。
【0042】
上述のように従来の特開2009−127496号公報に示された技術では、このような劣化の進行に応じて小さくなって行くストレージ容量の特性に基づいて、選択還元触媒の劣化を判定する。より具体的には、NOxを浄化できない低温域(例えば、約100℃)にある選択還元触媒に対し、アンモニアスリップが発生するまで尿素水を供給し続けることにより、選択還元触媒の劣化を判定する。しかしながら、従来の特開2009−127496号公報に示された技術のように選択還元触媒の劣化を判定する際には、触媒劣化だけでなく、尿素水供給量の過剰や不足、及び、尿素水濃度の濃淡といった他の要因が絡むことになる。よって、触媒劣化だけを正確に判定することはできなかった。また、これらの要因を切り分けるためには尿素水を貯めるタンク等に設ける尿素水濃度センサ等の特定センサを用いる必要があると考えられた。このため、部品点数を増加させず選択還元触媒の下流に配置されたアンモニアセンサのみを用い排気浄化システム稼動時の挙動でこれらの要因を切り分けて見つけ出すことはできないと考えられていた。
【0043】
以上のような従来の課題に鑑み、本実施形態の異常判別制御では、部品点数を増加させることなく排気浄化システム2の複数の部位又は要素内の異常を特定するように制御を行う。すなわち、本実施形態の異常判別制御は、尿素水濃度変化、尿素水供給量の正確性、選択還元触媒23の劣化等の何れかの要因を切り分けて特定する。
異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始からの通常の尿素水噴射制御中に組み込まれて行われる。すなわち、コールドスタート開始後に選択還元触媒23が活性状態になり、尿素水噴射弁253を用いて尿素水噴射制御を実行開始したときに、実施される。
【0044】
具体的には、異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始後の選択還元触媒23からアンモニアがスリップする推定スリップタイミングを推定する。推定スリップタイミングは、選択還元触媒23のストレージ量の推定値が選択還元触媒23のストレージ容量の推定値をエンジン1のコールドスタート開始後に最初に上回ったときである。つまり、推定スリップタイミングは、選択還元触媒23のストレージ量の推定値がエンジン1のコールドスタート開始後に最初にフルストレージとなるときである。
【0045】
ここで、選択還元触媒23のストレージ容量の推定値は、以下の手順で算出される。
すなわち、触媒温度センサ27の検出した触媒温度に基づいて、図5に示す所定の制御マップを検索することによりストレージ容量を算出する。
図5は、ストレージ容量の推定値を決定するための制御マップの一例を示す図である。図5に示すように、この制御マップでは、ストレージ容量の推定値は、選択還元触媒23の特性に応じて、触媒温度が高くなるに従い小さくなるように決定される。
【0046】
選択還元触媒23のストレージ量の推定値は、以下の手順で算出される。
すなわち、選択還元触媒23には、尿素水噴射装置25から噴射された尿素水が熱分解又は加水分解されて生成されたアンモニアのうち、NOxの還元に供されなかった分が貯蔵される。したがって、今回制御時には、全尿素水噴射量から基準噴射量を減算した量に相当するアンモニアが選択還元触媒23に貯蔵される。また、選択還元触媒23に貯蔵されるアンモニアの量には、下限値(値0)と上限値(ストレージ容量)とがある。
したがって、ストレージ量の推定値の前回値に今回の貯蔵分を加算することでストレージ量の推定値の一時値を算出し、更にこの一時値に上限値と下限値のリミット処理を施すことにより、ストレージ量の推定値を決定することができる。
このようなストレージ容量の推定手法及びストレージ量の推定手法は、国際公開第2009/128169号に開示されている。
【0047】
次に、実際にアンモニアセンサ26を用い、エンジン1のコールドスタート開始後の選択還元触媒23からアンモニアがスリップする実スリップタイミングを検出する。
【0048】
そして、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとを比較する。このときの推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるか否かで切り分けを行う。
【0049】
図6は、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まる場合の様子を示す図である。
図6において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0050】
図6では、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとがほぼ一致しており、その差が許容範囲内に収まっている。なお、許容範囲は、排気浄化システム2が正常である場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。この場合、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとがほぼ一致しており、その差が許容範囲内に収まっているので、排気浄化システム2が正常であると判定することができる。
また、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときには、アンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム2の複数の部位又は要素が、正負逆にアンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼし合っている場合もある。この場合であっても、トータルでアンモニアのスリップタイミングに影響が無ければ、アンモニアの過剰なスリップが無く排気エミッションを低減した状態に維持することができ、排気浄化システムとしては問題が無い。
【0051】
図7は、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い場合の様子を示す図である。
図7において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0052】
図7では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い。この場合には、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いか、尿素水噴射装置25において尿素水の過剰供給異常が発生しているか、選択還元触媒23の劣化異常が発生しているかの何れかの要因が考えられる。
そこで、図7の場合には、アンモニアのスリップ発生後に、尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量とを比較する。
【0053】
ここで、尿素水の目標供給量は、上述のように尿素水噴射制御を行うために決定される。尿素水の実供給量は、ECU3から尿素水噴射弁253への制御信号で求められる開弁期間、噴射周期、及び尿素水圧力センサ258が検出する圧力に基づいて算出される。
【0054】
この尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量との比較によって、比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、尿素水の供給量が少なくても実スリップタイミングが早くなっているので、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いと判定する。比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、尿素水の供給量が多いために実スリップタイミングが早くなっているので、尿素水噴射装置25において尿素水の過剰供給異常が発生していると判定する。比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、尿素水の供給量が正常であるにもかかわらず実スリップタイミングが早くなっているので、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定する。また、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定するときに、アンモニアセンサ26の下流の排気通路11に、スリップ抑制触媒24として、還元成分であるアンモニアの存在下で排気通路11を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備える場合には、スリップ抑制触媒24にも劣化異常が発生していると判定するようにしてもよい。下流側選択還元触媒であるスリップ抑制触媒24は、選択還元触媒23とほぼ等しく熱負荷を受けることから、選択還元触媒23が劣化する時期にスリップ抑制触媒24も劣化する。よって、このように判定することで、選択還元触媒23の劣化異常が発生した場合には、選択還元触媒23の下流に配置された下流側選択還元触媒であるスリップ抑制触媒24も劣化異常が発生したと特定することができる。なお、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲は、選択還元触媒23の劣化異常が発生している場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。
この結果、尿素水の濃度が許容濃度よりも高い場合と、尿素水の過剰供給異常と、選択還元触媒23の劣化異常と、を切り分けて特定することができる。
【0055】
図8は、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い場合の様子を示す図である。
図8において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0056】
図8では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い。この場合には、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いか、尿素水噴射装置25において尿素水の供給不足異常が発生しているか、選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生しているかの何れかの要因が考えられる。
そこで、図8の場合には、アンモニアのスリップ発生後に、尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量とを比較する。
【0057】
この尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量との比較によって、比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、尿素水の供給量が多いにもかかわらず実スリップタイミングが遅いので、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いと判定する。比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、尿素水の供給量が少ないために実スリップタイミングが遅いので、尿素水噴射装置25において尿素水の供給不足異常が発生していると判定する。比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、尿素水の供給量が正常であるにもかかわらず実スリップタイミングが遅いので、ECU3による選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定する。なお、ストレージ量推定に誤りが発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、ストレージ量推定に誤りが発生している場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。
この結果、尿素水の濃度が許容濃度よりも低い場合と、尿素水の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。
【0058】
[異常判別制御の手順]
次に、異常判別制御の具体的な手順について、図9、図10を参照して説明する。
図9、図10は、ECU3により実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【0059】
ステップS1では、アンモニアセンサ26が活性状態か否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS2に移る。この判別がNOの場合には、ステップS1に戻る。
【0060】
ステップS2では、触媒温度センサ27の検出する触媒温度に基づいて選択還元触媒23の温度が200℃以上であるか否かを判別する。触媒温度が200℃以上となると、熱分解又は加水分解することで尿素水からアンモニアを生成可能となる。この判別がYESの場合には、ステップS3に移る。この判別がNOの場合には、ステップS1に戻る。
【0061】
ステップS3では、尿素水噴射弁253が正常か否かを判別する。この判別は、図11、図12に示すフローチャートの手順で行われる。
図11、図12は、ECU3により実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。以下では、一旦、図9、図10に示すフローチャートを離れ、図11、図12に示すフローチャートを説明する。
【0062】
ステップS101では、尿素水温度センサ257の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水の温度が凍結する位に低温か否かを判別する。この判別がYESの場合には、S102に移る。この判別がNOの場合には、S103に移る。
【0063】
ステップS102では、尿素水タンク251を温めるヒータに通電し、尿素水タンク251内の尿素水を昇温させる。本ステップの処理の後、ステップS103に移る。
【0064】
ステップS103では、尿素水温度センサ257の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水が解凍したか否かを判別する。この判別がYESの場合には、S104に移る。この判別がNOの場合には、S101に移る。
【0065】
ステップS104では、尿素水ポンプ255が正常に作動しているか否かを判別する。尿素水ポンプ255の駆動時の回転数で判断できる。この判別がNOの場合には、ステップS105に移り、尿素水噴射装置25の故障と判定する。尿素水噴射装置25の故障と判定した場合には、後述するステップS112と同様に、尿素水噴射弁253が異常と扱う。この判別がYESの場合には、S106に移る。
【0066】
ステップS106では、尿素水圧力センサ258の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水の圧力が正常か否かを判別する。この判別がNOの場合には、S105に移り、尿素水噴射装置25の故障と判定する。尿素水噴射装置25の故障と判定した場合には、後述するステップS112と同様に、尿素水噴射弁253が異常と扱う。この判別がYESの場合には、S107に移る。
【0067】
ステップS107では、触媒温度センサ27が検出する触媒温度に基づいて選択還元触媒23の温度が200℃以上であるか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS108に移る。この判別がNOの場合には、ステップS103に戻る。
【0068】
ステップS108では、一旦、尿素水噴射弁253から尿素水を一時的に噴射する。本ステップの処理の後、ステップS109及びS110に移る。
【0069】
ステップS109では、尿素水レベルセンサ256の出力値変化(水位変化)に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。また、ステップS110では、尿素水噴射弁253を開弁する際に必要となる電流の通電時間に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。ステップS109及びS110の処理の後、ステップS111に移る。
【0070】
ステップS111では、ステップS109及びS110で推定した両噴射量の差分が予め定めた許容値以内に収まるか否かを判別する。この判別がNOの場合には、ステップS112に移り、尿素水噴射弁253が異常と判定する。なお、ここで判定する尿素水噴射弁253が異常とは、尿素水噴射制御を実施し続けることができない程度に大きく問題が生じている場合を示す。この判別がYESの場合には、ステップS113及びS114に移る。
【0071】
ステップS113では、尿素水圧力センサ258の出力値変化(圧力変化)に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。また、ステップS114では、尿素水噴射弁253を開弁する際に必要となる電流の通電時間に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。ステップS113及びS114の処理の後、ステップS115に移る。
【0072】
ステップS115では、ステップS113及びS114で推定した両噴射量の差分が予め定めた許容値以内に収まるか否かを判別する。この判別がNOの場合には、ステップS112に移り、尿素水噴射弁253が異常と判定する。なお、ここで判定する尿素水噴射弁253が異常とは、尿素水噴射制御を実施し続けることができない程度に大きく問題が生じている場合を示す。この判別がYESの場合には、ステップS116に移り、尿素水噴射弁253が正常と判定する。
以上説明した図11、図12に示すフローチャートのルーチンにより、図9、図10に示すフローチャートのステップS3において尿素水噴射弁253が正常か否かを判別する。
【0073】
図9、図10に示すフローチャートに戻り、ステップS3の判別がNOの場合には、ステップS4に移り、尿素水噴射弁253が異常のため異常判別を中止し、本ルーチンを終了する。この判別がYESの場合には、ステップS5に移る。
【0074】
ステップS5では、尿素水噴射制御を開始し、尿素水噴射弁253から尿素水を噴射する。本ステップの処理の後、ステップS6に移る。
【0075】
ステップS6では、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内であるか否かを判別する。この判別がYESの場合(図6参照)には、ステップS7に移り、排気浄化システム2が正常であると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS8に移る。
【0076】
ステップS8では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも早いか否かを判別する。この判別がYESの場合(図7参照)には、ステップS9に移る。この判別がNOの場合(図8参照)には、ステップS10に移る。
【0077】
ステップS9では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多いか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS11に移り、尿素水の過剰供給異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS12に移る。
【0078】
ステップS12では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ないか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS13に移り、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS14に移り、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。また、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定するときに、アンモニアセンサ26の下流の排気通路11にスリップ抑制触媒24として下流側選択還元触媒を更に備える場合には、スリップ抑制触媒24にも劣化異常が発生していると判定するようにしてもよい。
【0079】
一方、ステップS10では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多いか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS15に移り、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS16に移る。
【0080】
ステップS16では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ないか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS17に移り、尿素水の供給不足異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS18に移り、選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定し、本ルーチンを終了する。
なお、ステップS18に移り選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生している場合には、ECU3がストレージ量推定の修正を行うようにしてもよい。
【0081】
本実施形態の異常判別制御によれば、排気浄化システム2が正常であることと、尿素水の濃度が許容濃度よりも高い場合と、尿素水の過剰供給異常と、選択還元触媒23の劣化異常と、尿素水の濃度が許容濃度よりも低い場合と、尿素水の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。
【0082】
この異常判別制御では、部品点数を増加させることなく既存の排気浄化システム2の構成を用いている。このため、制御実施のための余計な部品が必要なく、コストアップを招かない。
【0083】
また、異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始からの通常の尿素水噴射制御中に組み込まれて行われる。このため、ワンドライビングサイクルに1回確実に異常判別制御の実行が見込まれる。また、通常の尿素水噴射制御を停止させる必要もない。
【0084】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記実施形態では、アンモニアを還元成分とし、かつ、この還元成分であるアンモニアの元となる前駆体を含む前駆体溶液として尿素水を供給する尿素添加式の排気浄化システムに、本発明を適用した例を示したが、これに限るものではない。
例えば、尿素水を供給しこの尿素水からアンモニアを生成せずに、直接アンモニアを含んだ還元剤を供給してもよい。また、アンモニアの元となる前駆体としては尿素に限るものではない。本発明は、NOxを還元するための還元成分として、アンモニアの代わりに、例えば炭化水素を用いた排気浄化システムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0085】
2…排気浄化システム
3…ECU(スリップタイミング推定手段、目標供給量算出手段、実供給量算出手段、制御手段、第1比較手段、第2比較手段、異常特定手段、ストレージ量推定手段)
11…排気通路
23…選択還元触媒
25…尿素噴射装置(供給系)
26…アンモニアセンサ(還元成分スリップ検出手段)
253…尿素水噴射弁(供給手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化システムの異常判別装置に関する。特に、還元成分の存在下において排気中のNOxを還元する選択還元触媒を備えた排気浄化システムの異常判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア等の還元成分により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を内燃機関の排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側から前駆体溶液である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでアンモニアを生成し、このアンモニアにより排気中のNOxを選択的に還元する。なお、このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなアンモニアの化合物を加熱することでアンモニアを生成し、このアンモニアや還元剤であるアンモニア含有物を直接添加するシステムも提案されている。
【0003】
選択還元触媒を備えた排気浄化システムにおいて、その排気浄化性能を高く維持し続けるためには、選択還元触媒の劣化がある程度進行すると、これを新しいものに交換する必要がある。そこで近年の排気浄化システムには、選択還元触媒の交換の目安となる時期を運転者や整備者に報知するため、選択還元触媒を車載したまま、すなわち車両の走行中に劣化を判定する劣化判定装置が搭載されている。以下では、尿素添加式の排気浄化システムを例として、選択還元触媒の劣化を判定する従来の技術について説明する。
【0004】
特許文献1には、選択還元触媒の温度がNOxを浄化可能な温度域より低いときに、アンモニアスリップが発生するまで尿素水を供給し、この過程で供給した尿素水の総量をアンモニアのストレージ量に変換し、更にこのアンモニアのストレージ量に基づいて選択還元触媒の劣化を診断する装置が示されている。アンモニアスリップは、選択還元触媒のストレージ量がストレージ容量を超えたことに応じて発生することから、過剰供給した尿素水の総量は選択還元触媒のストレージ容量に相関があると考えられるので、この特許文献1の装置では、選択還元触媒のストレージ容量に基づいて触媒の劣化を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−127496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置のように選択還元触媒の劣化を判定する際には、触媒劣化だけでなく、還元剤や前駆体溶液の供給量の過剰や不足、及び、還元剤や前駆体溶液の濃度の濃淡といった他の要因が絡むことになる。よって、触媒劣化だけを正確に判定することはできなかった。また、これらの要因を切り分けるためには還元剤や前駆体溶液を貯めるタンク等に設ける濃度センサ等の特定センサを用いる必要があると考えられた。このため、部品点数を増加させず選択還元触媒の下流に配置された還元成分センサのみを用い排気浄化システム稼動時の挙動でこれらの要因を切り分けて見つけ出すことはできないと考えられていた。
【0007】
本発明は、上述した点を考慮してなされたものであり、その目的は、選択還元触媒を備えた排気浄化システムの異常判別装置であって、部品点数を増加させることなく排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する異常判別装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関の排気通路(11)に設けられ、還元成分(アンモニア)の存在下で前記排気通路(11)を流通する排気中のNOxを還元する選択還元触媒(23)と、
前記選択還元触媒(23)よりも上流の前記排気通路(11)へ還元成分(アンモニア)を含んだ還元剤又は前記還元成分(アンモニア)の前駆体を含んだ前駆体溶液(尿素水)を供給する供給手段(尿素水噴射弁253)と、
前記選択還元触媒(23)よりも下流の前記排気通路(11)に設けられ、前記選択還元触媒(23)からの還元成分(アンモニア)のスリップを検出する還元成分スリップ検出手段(アンモニアセンサ26)と、
前記選択還元触媒(23)から還元成分(アンモニア)がスリップする推定スリップタイミングを推定するスリップタイミング推定手段(ECU3)と、
前記選択還元触媒(23)に供給すべき還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の目標供給量を算出する目標供給量算出手段(ECU3)と、
前記供給手段(尿素水噴射弁253)の駆動状態に基づいて、還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の実供給量を算出する実供給量算出手段(ECU3)と、
前記目標供給量算出手段(ECU3)が算出する還元剤又は前駆体溶液(尿素水)の目標供給量が供給されるように、前記供給手段(尿素水噴射弁253)を駆動する制御手段(ECU3)と、
前記スリップタイミング推定手段(ECU3)で推定される推定スリップタイミングと、前記還元成分スリップ検出手段(アンモニアセンサ26)が還元成分(アンモニア)のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較する第1比較手段(ECU3、ステップS6、S8)と、
還元成分のスリップ発生後に、前記目標供給量算出手段(ECU3)が算出する目標供給量と、前記実供給量算出手段(ECU3)が算出する実供給量と、を比較する第2比較手段(ECU3、ステップS9、S10、S12、S16)と、
前記第1比較手段(ECU3、ステップS6、S8)及び前記第2比較手段(ECU3、ステップS9、S10、S12、S16)の比較結果に基づいて、少なくとも前記選択還元触媒(23)の劣化異常を含む、還元成分(アンモニア)のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム(2)の複数の部位又は要素内の異常を特定する異常特定手段(ECU3、ステップS7、S11、S13、S14、S15、S17、S18)と、
を備えることを特徴とする排気浄化システム(2)の異常判別装置を提供する。
【0009】
この発明によれば、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、部品点数を増加させることなく既存の排気浄化システムの構成で、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、還元剤のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定することができる。
【0010】
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較される推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときは、排気浄化システムは正常であると判定することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとから排気浄化システムが正常であることを判定することができる。ここで、排気浄化システムが正常と判定される、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が収まる許容範囲とは、排気浄化システムが正常である場合に採り得る範囲である。
また、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときには、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素が、正負逆に還元剤のスリップタイミングに影響を及ぼし合っている場合もある。この場合であっても、トータルで還元成分のスリップタイミングに影響が無ければ、還元成分の過剰なスリップが無く排気エミッションを低減した状態に維持することができ、排気浄化システムとしては問題が無い。
【0012】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定することが好ましい。
【0013】
この発明によると、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高い場合と、還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常と、選択還元触媒の劣化異常と、を切り分けて特定することができる。ここで、選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、選択還元触媒の劣化異常が発生している場合に採り得る範囲である。
【0014】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記選択還元触媒の還元成分のストレージ量を推定するストレージ量推定手段を更に備え、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記ストレージ量推定手段が推定する前記選択還元触媒に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定することが好ましい。
【0015】
この発明によると、第1比較手段及び第2比較手段の比較結果に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低い場合と、還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。ここで、ストレージ量推定に誤りが発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、ストレージ量推定に誤りが発生している場合に採り得る範囲である。
【0016】
前記還元成分スリップ検出手段よりも下流の前記排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備え、
前記異常特定手段は、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する場合には、前記下流側選択還元触媒にも劣化異常が発生していると判定することが好ましい。
【0017】
下流側選択還元触媒は、選択還元触媒とほぼ等しく熱負荷を受けることから、選択還元触媒が劣化する時期に下流側選択還元触媒も劣化する。よって、この発明によると、選択還元触媒の劣化異常が発生した場合には、選択還元触媒の下流に配置された下流側選択還元触媒も劣化異常が発生したと特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気浄化システムと、その異常判別装置との構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアンモニアの供給状態と、選択還元触媒のストレージ量の変化との関係を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る選択還元触媒においてアンモニアスリップが発生した状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る選択還元触媒におけるストレージ容量の温度特性を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るストレージ容量の推定値を決定するための制御マップの一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まる場合の様子を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い場合の様子を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い場合の様子を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態に係るECUにより実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関(以下「エンジン」という)1の排気浄化システム2と、その異常判別装置の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0020】
排気浄化システム2は、エンジン1の排気通路11に設けられ、この排気通路11を流通する排気中の窒素酸化物(以下、「NOx」という)を還元成分としてのアンモニアの存在下で浄化する選択還元触媒23と、選択還元触媒23よりも上流の排気通路11にアンモニアである還元成分の元となる前駆体である尿素を含む前駆体溶液である尿素水を供給する尿素水噴射装置25と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3と、を含んで構成される。排気通路11には、選択還元触媒23の他、酸化触媒21やスリップ抑制触媒24が設けられる。
【0021】
尿素水噴射装置25は、尿素水タンク251と、尿素水噴射弁253と、を備える。
尿素水タンク251は、尿素水を貯蔵するものであり、尿素水供給路254及び尿素水ポンプ255を介して、尿素水噴射弁253に接続されている。この尿素水タンク251には、尿素水レベルセンサ256と尿素水温度センサ257とが設けられている。尿素水供給路254には、尿素水圧力センサ258が設けられている。尿素水ポンプ255は、回転することで尿素水を尿素水噴射弁253へ送出し、ポンプ回転数に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水レベルセンサ256は、尿素水タンク251内の尿素水の水位を検出し、この水位に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水温度センサ257は、尿素水タンク251内の尿素水の温度を検出し、この温度に略比例する検出信号をECU3に出力する。尿素水圧力センサ258は、尿素水ポンプ255で送出された尿素水供給路254内の尿素水の圧力を検出し、この圧力に略比例する検出信号をECU3に出力する。
尿素水噴射弁253は、ECU3に接続されており、ECU3からの制御信号により動作し、この制御信号に応じて尿素水を排気通路11内に噴射する。この制御信号で尿素水噴射弁253の開弁期間を調節する。すなわち、尿素水噴射制御が実行される。尿素水噴射制御では、ECU3により、エンジン1の運転状態に応じて選択還元触媒23に供給すべき尿素水の目標供給量が算出され、その目標供給量が供給されるように尿素水噴射弁253が駆動される。目標供給量としては、後述するNOxセンサ28から算出されるNOx量を浄化可能な量であり、選択還元触媒23におけるアンモニアのストレージ量がフルストレージになり、アンモニアセンサ26の検出値により許容可能なアンモニアスリップを生じさせつつ過剰なアンモニアスリップを生じさせないような量に設定される。このような目標供給量を設定する手法は、国際公開第2009/128169号に開示されている。
【0022】
酸化触媒21は、尿素水噴射弁253よりも上流の排気通路11に設けられ、排気中のNOの一部をNO2に変換することにより、選択還元触媒23におけるNOxの還元を促進する。
【0023】
選択還元触媒23は、還元成分であるアンモニアが存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。具体的には、尿素水噴射装置25により尿素水を噴射すると、この尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されてアンモニアが生成される。生成されたアンモニアは選択還元触媒23に供給され、このアンモニアにより、排気中のNOxは選択的に還元される。
【0024】
この選択還元触媒23は、尿素水から生成されたアンモニアで排気中のNOxを還元する機能を有するとともに、生成されたアンモニアを所定の量だけ貯蔵する機能も有する。以下では、選択還元触媒23において貯蔵されているアンモニア量をストレージ量とし、選択還元触媒23で貯蔵できるアンモニア量すなわちストレージ量の最大値をストレージ容量とする。
【0025】
このようにして選択還元触媒23に貯蔵されたアンモニアは、排気中のNOxの還元にも適宜消費される。このため、ストレージ量が多くなるに従い、選択還元触媒23におけるNOx浄化率は高くなる。一方、ストレージ量がストレージ容量に達し選択還元触媒23が飽和状態になると、NOx浄化率も最高値に達するものの、NOxの還元に供されず余剰となったアンモニアが選択還元触媒23の下流側へ流出するアンモニアスリップが発生する。
【0026】
図2は、尿素水から生成されたアンモニアの供給状態と、選択還元触媒のストレージ量の変化との関係を模式的に示す図である。図2に示すように、アンモニアの供給状態は、選択還元触媒に流入する排気のNOx濃度に対する尿素水噴射量の大きさに応じて、最適状態(図2の(a))と、供給過剰(Over−dosing)状態(図2の(b))と、供給不足(Under−dosing)状態(図2の(c))との3つの状態に分類される。
【0027】
図2の(a)に示す最適状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が適切な状態、すなわち、排気中のNOxを最も効率良く還元できるアンモニアの量と、供給した尿素水から生成されるアンモニアの量とが略一致した状態をいう。この場合、ストレージ量は変化しない。
【0028】
図2の(b)に示す供給過剰状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が過剰な状態、すなわち、供給した尿素水から生成されたアンモニアの量が、排気中のNOxを最も効率良く還元できる量より多い状態をいう。この場合、余剰分のアンモニアは選択還元触媒に貯蔵される。したがって、このような供給過剰状態では、ストレージ量は増加する。
【0029】
図2の(c)に示す供給不足状態とは、選択還元触媒に流入するNOxに対して、尿素水噴射量が不足した状態、すなわち、供給した尿素水から生成されたアンモニアの量が、排気中のNOxを最も効率良く還元できる量より少ない状態をいう。この場合、不足分は貯蔵されたアンモニアから補われる。したがって、このような供給不足状態では、ストレージ量は減少する。
【0030】
図3は、選択還元触媒においてアンモニアスリップが発生した状態を模式的に示す図である。
図3に示すように、選択還元触媒のストレージ量がストレージ容量に達した状態で尿素水を過剰に供給すると、NOxの還元に供されず余剰となったアンモニアは、選択還元触媒に貯蔵されずに下流へ流出する。すなわち、選択還元触媒からアンモニアスリップが発生する。
【0031】
図1に戻って、スリップ抑制触媒24は、選択還元触媒23よりも下流の排気通路11に設けられ、選択還元触媒23においてアンモニアスリップが発生した場合に、スリップしたアンモニアが外に排出されるのを抑制する。このスリップ抑制触媒24としては、例えば、選択還元触媒23からスリップしたアンモニアを酸化しNOxとH2Oに分解する酸化触媒や、スリップしたアンモニアを貯蔵したりN2に還元したりする選択還元触媒等を用いることができる。
【0032】
ECU3には、アンモニアセンサ26、触媒温度センサ27、及びNOxセンサ28の他、クランク角度位置センサ14、アクセル開度センサ15、及び触媒劣化警告灯17が接続されている。
【0033】
アンモニアセンサ26は、選択還元触媒23とスリップ抑制触媒24との間の排気通路11における排気のアンモニア濃度を検出し、検出したアンモニア濃度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0034】
触媒温度センサ27は、選択還元触媒23の温度(以下、「触媒温度」という)を検出し、検出した触媒温度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0035】
NOxセンサ28は、選択還元触媒23に流入する排気のNOxの濃度(以下、「NOx濃度」という)を検出し、検出したNOx濃度に略比例した検出信号をECU3に供給する。
【0036】
クランク角度位置センサ14は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するとともに、クランク角1度ごとにパルスを発生し、そのパルス信号をECU3に供給する。ECU3では、このパルス信号に基づいて、エンジン1の回転数を算出する。クランク角度位置センサ14は、更に特定気筒の所定クランク角度位置で気筒識別パルスを生成して、ECU3に供給する。
【0037】
アクセル開度センサ15は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下、「アクセル開度」という)を検出し、検出したアクセル開度に略比例した検出信号をECU3に供給する。ECU3では、このアクセル開度及び回転数に応じて、エンジン1の要求トルクが算出される。以下では、この要求トルクを、エンジン1の負荷を表す負荷パラメータとする。
【0038】
触媒劣化警告灯17は、例えば、車両のメータパネルに設けられ、後述の異常判別制御により選択還元触媒23が劣化したと判定されたことに応じて点灯する。これにより、選択還元触媒23が劣化した状態であることを運転者に警告する。
【0039】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路と、エンジン1や尿素水噴射弁253等に制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0040】
次に、少なくとも選択還元触媒の劣化異常を含む、アンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム2の複数の部位又は要素内の異常を特定する異常判別制御のアルゴリズムの概略について、従来の触媒劣化判定制御にあった課題とともに説明する。
【0041】
図4は、選択還元触媒におけるストレージ容量の温度特性を模式的に示す図である。
図4において、一点鎖線は新品の状態における選択還元触媒のストレージ容量を示す。実線は交換が必要な程度に劣化した状態における選択還元触媒のストレージ容量を示す。図4に示すように、選択還元触媒におけるストレージ容量は、新品状態から劣化状態になって行くと小さくなる。
【0042】
上述のように従来の特開2009−127496号公報に示された技術では、このような劣化の進行に応じて小さくなって行くストレージ容量の特性に基づいて、選択還元触媒の劣化を判定する。より具体的には、NOxを浄化できない低温域(例えば、約100℃)にある選択還元触媒に対し、アンモニアスリップが発生するまで尿素水を供給し続けることにより、選択還元触媒の劣化を判定する。しかしながら、従来の特開2009−127496号公報に示された技術のように選択還元触媒の劣化を判定する際には、触媒劣化だけでなく、尿素水供給量の過剰や不足、及び、尿素水濃度の濃淡といった他の要因が絡むことになる。よって、触媒劣化だけを正確に判定することはできなかった。また、これらの要因を切り分けるためには尿素水を貯めるタンク等に設ける尿素水濃度センサ等の特定センサを用いる必要があると考えられた。このため、部品点数を増加させず選択還元触媒の下流に配置されたアンモニアセンサのみを用い排気浄化システム稼動時の挙動でこれらの要因を切り分けて見つけ出すことはできないと考えられていた。
【0043】
以上のような従来の課題に鑑み、本実施形態の異常判別制御では、部品点数を増加させることなく排気浄化システム2の複数の部位又は要素内の異常を特定するように制御を行う。すなわち、本実施形態の異常判別制御は、尿素水濃度変化、尿素水供給量の正確性、選択還元触媒23の劣化等の何れかの要因を切り分けて特定する。
異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始からの通常の尿素水噴射制御中に組み込まれて行われる。すなわち、コールドスタート開始後に選択還元触媒23が活性状態になり、尿素水噴射弁253を用いて尿素水噴射制御を実行開始したときに、実施される。
【0044】
具体的には、異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始後の選択還元触媒23からアンモニアがスリップする推定スリップタイミングを推定する。推定スリップタイミングは、選択還元触媒23のストレージ量の推定値が選択還元触媒23のストレージ容量の推定値をエンジン1のコールドスタート開始後に最初に上回ったときである。つまり、推定スリップタイミングは、選択還元触媒23のストレージ量の推定値がエンジン1のコールドスタート開始後に最初にフルストレージとなるときである。
【0045】
ここで、選択還元触媒23のストレージ容量の推定値は、以下の手順で算出される。
すなわち、触媒温度センサ27の検出した触媒温度に基づいて、図5に示す所定の制御マップを検索することによりストレージ容量を算出する。
図5は、ストレージ容量の推定値を決定するための制御マップの一例を示す図である。図5に示すように、この制御マップでは、ストレージ容量の推定値は、選択還元触媒23の特性に応じて、触媒温度が高くなるに従い小さくなるように決定される。
【0046】
選択還元触媒23のストレージ量の推定値は、以下の手順で算出される。
すなわち、選択還元触媒23には、尿素水噴射装置25から噴射された尿素水が熱分解又は加水分解されて生成されたアンモニアのうち、NOxの還元に供されなかった分が貯蔵される。したがって、今回制御時には、全尿素水噴射量から基準噴射量を減算した量に相当するアンモニアが選択還元触媒23に貯蔵される。また、選択還元触媒23に貯蔵されるアンモニアの量には、下限値(値0)と上限値(ストレージ容量)とがある。
したがって、ストレージ量の推定値の前回値に今回の貯蔵分を加算することでストレージ量の推定値の一時値を算出し、更にこの一時値に上限値と下限値のリミット処理を施すことにより、ストレージ量の推定値を決定することができる。
このようなストレージ容量の推定手法及びストレージ量の推定手法は、国際公開第2009/128169号に開示されている。
【0047】
次に、実際にアンモニアセンサ26を用い、エンジン1のコールドスタート開始後の選択還元触媒23からアンモニアがスリップする実スリップタイミングを検出する。
【0048】
そして、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとを比較する。このときの推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるか否かで切り分けを行う。
【0049】
図6は、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まる場合の様子を示す図である。
図6において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0050】
図6では、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとがほぼ一致しており、その差が許容範囲内に収まっている。なお、許容範囲は、排気浄化システム2が正常である場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。この場合、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとがほぼ一致しており、その差が許容範囲内に収まっているので、排気浄化システム2が正常であると判定することができる。
また、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときには、アンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システム2の複数の部位又は要素が、正負逆にアンモニアのスリップタイミングに影響を及ぼし合っている場合もある。この場合であっても、トータルでアンモニアのスリップタイミングに影響が無ければ、アンモニアの過剰なスリップが無く排気エミッションを低減した状態に維持することができ、排気浄化システムとしては問題が無い。
【0051】
図7は、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い場合の様子を示す図である。
図7において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0052】
図7では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早い。この場合には、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いか、尿素水噴射装置25において尿素水の過剰供給異常が発生しているか、選択還元触媒23の劣化異常が発生しているかの何れかの要因が考えられる。
そこで、図7の場合には、アンモニアのスリップ発生後に、尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量とを比較する。
【0053】
ここで、尿素水の目標供給量は、上述のように尿素水噴射制御を行うために決定される。尿素水の実供給量は、ECU3から尿素水噴射弁253への制御信号で求められる開弁期間、噴射周期、及び尿素水圧力センサ258が検出する圧力に基づいて算出される。
【0054】
この尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量との比較によって、比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、尿素水の供給量が少なくても実スリップタイミングが早くなっているので、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いと判定する。比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、尿素水の供給量が多いために実スリップタイミングが早くなっているので、尿素水噴射装置25において尿素水の過剰供給異常が発生していると判定する。比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、尿素水の供給量が正常であるにもかかわらず実スリップタイミングが早くなっているので、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定する。また、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定するときに、アンモニアセンサ26の下流の排気通路11に、スリップ抑制触媒24として、還元成分であるアンモニアの存在下で排気通路11を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備える場合には、スリップ抑制触媒24にも劣化異常が発生していると判定するようにしてもよい。下流側選択還元触媒であるスリップ抑制触媒24は、選択還元触媒23とほぼ等しく熱負荷を受けることから、選択還元触媒23が劣化する時期にスリップ抑制触媒24も劣化する。よって、このように判定することで、選択還元触媒23の劣化異常が発生した場合には、選択還元触媒23の下流に配置された下流側選択還元触媒であるスリップ抑制触媒24も劣化異常が発生したと特定することができる。なお、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲は、選択還元触媒23の劣化異常が発生している場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。
この結果、尿素水の濃度が許容濃度よりも高い場合と、尿素水の過剰供給異常と、選択還元触媒23の劣化異常と、を切り分けて特定することができる。
【0055】
図8は、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い場合の様子を示す図である。
図8において、太破線は選択還元触媒23のストレージ量の推定値を示す。太破線がエンジン1のコールドスタート開始後にフルストレージに到達したポイントが、推定スリップタイミングである。推定スリップタイミングの前後には許容範囲が設定される。太実線はアンモニアセンサ26のアンモニア検出値を示す。太実線が0から立ち上がったポイントが、実スリップタイミングである。また、細実線は触媒温度センサ27で検出する触媒温度を示す。
【0056】
図8では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅い。この場合には、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いか、尿素水噴射装置25において尿素水の供給不足異常が発生しているか、選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生しているかの何れかの要因が考えられる。
そこで、図8の場合には、アンモニアのスリップ発生後に、尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量とを比較する。
【0057】
この尿素水の目標供給量と尿素水の実供給量との比較によって、比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、尿素水の供給量が多いにもかかわらず実スリップタイミングが遅いので、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いと判定する。比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、尿素水の供給量が少ないために実スリップタイミングが遅いので、尿素水噴射装置25において尿素水の供給不足異常が発生していると判定する。比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、尿素水の供給量が正常であるにもかかわらず実スリップタイミングが遅いので、ECU3による選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定する。なお、ストレージ量推定に誤りが発生していると判定する、目標供給量と実供給量との差が収まる許容範囲とは、ストレージ量推定に誤りが発生している場合に採り得る範囲であり、予め定められたりする。
この結果、尿素水の濃度が許容濃度よりも低い場合と、尿素水の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。
【0058】
[異常判別制御の手順]
次に、異常判別制御の具体的な手順について、図9、図10を参照して説明する。
図9、図10は、ECU3により実行される異常判別制御の手順を示すフローチャートである。
【0059】
ステップS1では、アンモニアセンサ26が活性状態か否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS2に移る。この判別がNOの場合には、ステップS1に戻る。
【0060】
ステップS2では、触媒温度センサ27の検出する触媒温度に基づいて選択還元触媒23の温度が200℃以上であるか否かを判別する。触媒温度が200℃以上となると、熱分解又は加水分解することで尿素水からアンモニアを生成可能となる。この判別がYESの場合には、ステップS3に移る。この判別がNOの場合には、ステップS1に戻る。
【0061】
ステップS3では、尿素水噴射弁253が正常か否かを判別する。この判別は、図11、図12に示すフローチャートの手順で行われる。
図11、図12は、ECU3により実行される尿素水噴射弁正常判別制御の手順を示すフローチャートである。以下では、一旦、図9、図10に示すフローチャートを離れ、図11、図12に示すフローチャートを説明する。
【0062】
ステップS101では、尿素水温度センサ257の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水の温度が凍結する位に低温か否かを判別する。この判別がYESの場合には、S102に移る。この判別がNOの場合には、S103に移る。
【0063】
ステップS102では、尿素水タンク251を温めるヒータに通電し、尿素水タンク251内の尿素水を昇温させる。本ステップの処理の後、ステップS103に移る。
【0064】
ステップS103では、尿素水温度センサ257の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水が解凍したか否かを判別する。この判別がYESの場合には、S104に移る。この判別がNOの場合には、S101に移る。
【0065】
ステップS104では、尿素水ポンプ255が正常に作動しているか否かを判別する。尿素水ポンプ255の駆動時の回転数で判断できる。この判別がNOの場合には、ステップS105に移り、尿素水噴射装置25の故障と判定する。尿素水噴射装置25の故障と判定した場合には、後述するステップS112と同様に、尿素水噴射弁253が異常と扱う。この判別がYESの場合には、S106に移る。
【0066】
ステップS106では、尿素水圧力センサ258の出力値に基づいて尿素水噴射装置25の尿素水の圧力が正常か否かを判別する。この判別がNOの場合には、S105に移り、尿素水噴射装置25の故障と判定する。尿素水噴射装置25の故障と判定した場合には、後述するステップS112と同様に、尿素水噴射弁253が異常と扱う。この判別がYESの場合には、S107に移る。
【0067】
ステップS107では、触媒温度センサ27が検出する触媒温度に基づいて選択還元触媒23の温度が200℃以上であるか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS108に移る。この判別がNOの場合には、ステップS103に戻る。
【0068】
ステップS108では、一旦、尿素水噴射弁253から尿素水を一時的に噴射する。本ステップの処理の後、ステップS109及びS110に移る。
【0069】
ステップS109では、尿素水レベルセンサ256の出力値変化(水位変化)に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。また、ステップS110では、尿素水噴射弁253を開弁する際に必要となる電流の通電時間に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。ステップS109及びS110の処理の後、ステップS111に移る。
【0070】
ステップS111では、ステップS109及びS110で推定した両噴射量の差分が予め定めた許容値以内に収まるか否かを判別する。この判別がNOの場合には、ステップS112に移り、尿素水噴射弁253が異常と判定する。なお、ここで判定する尿素水噴射弁253が異常とは、尿素水噴射制御を実施し続けることができない程度に大きく問題が生じている場合を示す。この判別がYESの場合には、ステップS113及びS114に移る。
【0071】
ステップS113では、尿素水圧力センサ258の出力値変化(圧力変化)に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。また、ステップS114では、尿素水噴射弁253を開弁する際に必要となる電流の通電時間に基づいて、ステップS108で実施した尿素水噴射の噴射量を推定する。ステップS113及びS114の処理の後、ステップS115に移る。
【0072】
ステップS115では、ステップS113及びS114で推定した両噴射量の差分が予め定めた許容値以内に収まるか否かを判別する。この判別がNOの場合には、ステップS112に移り、尿素水噴射弁253が異常と判定する。なお、ここで判定する尿素水噴射弁253が異常とは、尿素水噴射制御を実施し続けることができない程度に大きく問題が生じている場合を示す。この判別がYESの場合には、ステップS116に移り、尿素水噴射弁253が正常と判定する。
以上説明した図11、図12に示すフローチャートのルーチンにより、図9、図10に示すフローチャートのステップS3において尿素水噴射弁253が正常か否かを判別する。
【0073】
図9、図10に示すフローチャートに戻り、ステップS3の判別がNOの場合には、ステップS4に移り、尿素水噴射弁253が異常のため異常判別を中止し、本ルーチンを終了する。この判別がYESの場合には、ステップS5に移る。
【0074】
ステップS5では、尿素水噴射制御を開始し、尿素水噴射弁253から尿素水を噴射する。本ステップの処理の後、ステップS6に移る。
【0075】
ステップS6では、推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内であるか否かを判別する。この判別がYESの場合(図6参照)には、ステップS7に移り、排気浄化システム2が正常であると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS8に移る。
【0076】
ステップS8では、実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも早いか否かを判別する。この判別がYESの場合(図7参照)には、ステップS9に移る。この判別がNOの場合(図8参照)には、ステップS10に移る。
【0077】
ステップS9では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多いか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS11に移り、尿素水の過剰供給異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS12に移る。
【0078】
ステップS12では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ないか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS13に移り、尿素水の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS14に移り、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。また、選択還元触媒23の劣化異常が発生していると判定するときに、アンモニアセンサ26の下流の排気通路11にスリップ抑制触媒24として下流側選択還元触媒を更に備える場合には、スリップ抑制触媒24にも劣化異常が発生していると判定するようにしてもよい。
【0079】
一方、ステップS10では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多いか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS15に移り、尿素水の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS16に移る。
【0080】
ステップS16では、尿素水の実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ないか否かを判別する。この判別がYESの場合には、ステップS17に移り、尿素水の供給不足異常が発生していると判定し、本ルーチンを終了する。この判別がNOの場合には、ステップS18に移り、選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定し、本ルーチンを終了する。
なお、ステップS18に移り選択還元触媒23に対するストレージ量推定に誤りが発生している場合には、ECU3がストレージ量推定の修正を行うようにしてもよい。
【0081】
本実施形態の異常判別制御によれば、排気浄化システム2が正常であることと、尿素水の濃度が許容濃度よりも高い場合と、尿素水の過剰供給異常と、選択還元触媒23の劣化異常と、尿素水の濃度が許容濃度よりも低い場合と、尿素水の供給不足異常と、ストレージ量推定に誤りが発生している場合と、を切り分けて特定することができる。
【0082】
この異常判別制御では、部品点数を増加させることなく既存の排気浄化システム2の構成を用いている。このため、制御実施のための余計な部品が必要なく、コストアップを招かない。
【0083】
また、異常判別制御は、エンジン1のコールドスタート開始からの通常の尿素水噴射制御中に組み込まれて行われる。このため、ワンドライビングサイクルに1回確実に異常判別制御の実行が見込まれる。また、通常の尿素水噴射制御を停止させる必要もない。
【0084】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記実施形態では、アンモニアを還元成分とし、かつ、この還元成分であるアンモニアの元となる前駆体を含む前駆体溶液として尿素水を供給する尿素添加式の排気浄化システムに、本発明を適用した例を示したが、これに限るものではない。
例えば、尿素水を供給しこの尿素水からアンモニアを生成せずに、直接アンモニアを含んだ還元剤を供給してもよい。また、アンモニアの元となる前駆体としては尿素に限るものではない。本発明は、NOxを還元するための還元成分として、アンモニアの代わりに、例えば炭化水素を用いた排気浄化システムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0085】
2…排気浄化システム
3…ECU(スリップタイミング推定手段、目標供給量算出手段、実供給量算出手段、制御手段、第1比較手段、第2比較手段、異常特定手段、ストレージ量推定手段)
11…排気通路
23…選択還元触媒
25…尿素噴射装置(供給系)
26…アンモニアセンサ(還元成分スリップ検出手段)
253…尿素水噴射弁(供給手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する選択還元触媒と、
前記選択還元触媒よりも上流の前記排気通路へ還元成分を含んだ還元剤又は前記還元成分の前駆体を含んだ前駆体溶液を供給する供給手段と、
前記選択還元触媒よりも下流の前記排気通路に設けられ、前記選択還元触媒からの還元成分のスリップを検出する還元成分スリップ検出手段と、
前記選択還元触媒から還元成分がスリップする推定スリップタイミングを推定するスリップタイミング推定手段と、
前記選択還元触媒に供給すべき還元剤又は前駆体溶液の目標供給量を算出する目標供給量算出手段と、
前記供給手段の駆動状態に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の実供給量を算出する実供給量算出手段と、
前記目標供給量算出手段が算出する還元剤又は前駆体溶液の目標供給量が供給されるように、前記供給手段を駆動する制御手段と、
前記スリップタイミング推定手段で推定される推定スリップタイミングと、前記還元成分スリップ検出手段が還元成分のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較する第1比較手段と、
還元成分のスリップ発生後に、前記目標供給量算出手段が算出する目標供給量と、前記実供給量算出手段が算出する実供給量と、を比較する第2比較手段と、
前記第1比較手段及び前記第2比較手段の比較結果に基づいて、少なくとも前記選択還元触媒の劣化異常を含む、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する異常特定手段と、
を備えることを特徴とする排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項2】
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較される推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときは、排気浄化システムは正常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項3】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項4】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記選択還元触媒の還元成分のストレージ量を推定するストレージ量推定手段を更に備え、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記ストレージ量推定手段が推定する前記選択還元触媒に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項5】
前記還元成分スリップ検出手段よりも下流の前記排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備え、
前記異常特定手段は、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する場合には、前記下流側選択還元触媒にも劣化異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する選択還元触媒と、
前記選択還元触媒よりも上流の前記排気通路へ還元成分を含んだ還元剤又は前記還元成分の前駆体を含んだ前駆体溶液を供給する供給手段と、
前記選択還元触媒よりも下流の前記排気通路に設けられ、前記選択還元触媒からの還元成分のスリップを検出する還元成分スリップ検出手段と、
前記選択還元触媒から還元成分がスリップする推定スリップタイミングを推定するスリップタイミング推定手段と、
前記選択還元触媒に供給すべき還元剤又は前駆体溶液の目標供給量を算出する目標供給量算出手段と、
前記供給手段の駆動状態に基づいて、還元剤又は前駆体溶液の実供給量を算出する実供給量算出手段と、
前記目標供給量算出手段が算出する還元剤又は前駆体溶液の目標供給量が供給されるように、前記供給手段を駆動する制御手段と、
前記スリップタイミング推定手段で推定される推定スリップタイミングと、前記還元成分スリップ検出手段が還元成分のスリップを検出した実スリップタイミングと、を比較する第1比較手段と、
還元成分のスリップ発生後に、前記目標供給量算出手段が算出する目標供給量と、前記実供給量算出手段が算出する実供給量と、を比較する第2比較手段と、
前記第1比較手段及び前記第2比較手段の比較結果に基づいて、少なくとも前記選択還元触媒の劣化異常を含む、還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素内の異常を特定する異常特定手段と、
を備えることを特徴とする排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項2】
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較される推定スリップタイミングと実スリップタイミングとの差が許容範囲内に収まるときは、排気浄化システムは正常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項3】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて早いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも高いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の過剰供給異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項4】
前記還元成分のスリップタイミングに影響を及ぼす排気浄化システムの複数の部位又は要素には、前記供給手段を含む還元剤又は前駆体溶液の供給系と、還元剤又は前駆体溶液の濃度と、を有し、
前記選択還元触媒の還元成分のストレージ量を推定するストレージ量推定手段を更に備え、
前記異常特定手段は、
前記第1比較手段によって比較された実スリップタイミングが推定スリップタイミングよりも許容範囲を超えて遅いときにおいて、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて多い場合には、還元剤又は前駆体溶液の濃度が許容濃度よりも低いと判定し、
前記第2比較手段によって比較された実供給量が目標供給量よりも許容範囲を超えて少ない場合には、前記供給系において還元剤又は前駆体溶液の供給不足異常が発生していると判定し、
前記第2比較手段によって比較された目標供給量と実供給量との差が許容範囲内に収まる場合には、前記ストレージ量推定手段が推定する前記選択還元触媒に対するストレージ量推定に誤りが発生していると判定することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【請求項5】
前記還元成分スリップ検出手段よりも下流の前記排気通路に設けられ、還元成分の存在下で前記排気通路を流通する排気中のNOxを還元する下流側選択還元触媒を更に備え、
前記異常特定手段は、前記選択還元触媒の劣化異常が発生していると判定する場合には、前記下流側選択還元触媒にも劣化異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の排気浄化システムの異常判別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−7371(P2013−7371A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142149(P2011−142149)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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