説明

排気浄化用触媒要素の保持方法および保持構造。

【課題】網状多孔質体に触媒が担持された安価な排気浄化用触媒要素をその周囲に隙間なく安定して保持することにより排気ガスの高い浄化能力を発揮させる。
【解決手段】排気通路12に設けられた仕切板17に、網状多孔質体31に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素23を保持させるに際して、仕切板17に排気ガスGの通過口22を含む仮凹部37を形成したのち、仮凹部37の内側に触媒要素23を入れて、成形型38により、触媒要素23の仮凹部37から露出した一端面23aを押圧しながら、仮凹部37の壁37b,37cを、仮凹部37の外側から内側へ絞り加工することにより触媒要素23の側面23bおよび他端面23cに仮凹部37の壁37b,37cを圧接変形させて、完成した凹部21内に触媒要素23を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網状多孔質体に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素を排気通路の仕切板に保持させる排気浄化用触媒要素の保持方法および保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、刈払機や清掃用ブロワのような携帯型作業機の動力源として用いられる小型エンジンでは、エンジンからの排気ガスに含まれるHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)およびNOX (窒化酸化物)などを触媒反応によって除去するための触媒要素がマフラ内に装着されている(特許文献1参照)。触媒要素は、主として、ハニカム構造体の表面に白金およびロジウムなどの触媒を担持させたものが用いられているが、高価である。
【0003】
一方、本件出願人は、主として汎用エンジンのマフラ音を低減する用途に好適に用いることができる安価なマフラ用の金属製網状多孔質体を先に提案している(特許文献2参照)。この網状多孔質体は、一枚のフラットなメリヤス編み金網が、波付けの上、その波の方向を交差させて数枚を積み重ねた状態で圧縮されることにより、各メリヤス編み金網がランダムに絡み合って三次元方向に連通した微小な隙間が略均一に分散形成されたものである。この網状多孔質体は、形状を若干工夫した上で、触媒を担持させれば、ハニカム構造体に触媒を担持させた触媒要素と比較して安価な触媒要素を構成することができる。ここで、触媒要素は、一般に触媒コンバータ、触媒担持体または単に触媒と呼ばれるものも含む。
【0004】
【特許文献1】特開2005−325808号公報
【特許文献2】特公平7−83913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の網状多孔質体に触媒を担持させた触媒要素を例えばマフラの排気通路に設ける場合には、その触媒要素を安定して保持するための新たな手段を案出する必要がある。すなわち、網状多孔質体は、形成素材となるメリヤス編み金網を正確に寸法管理して製作するのが困難であり、±2mm程度の寸法誤差が生じてしまうので、この網状多孔質体に触媒を担持させた触媒要素を触媒ケースに収容する場合、その触媒ケースは、触媒要素を確実に挿入できるようにするために、大きめの寸法に形成される。その結果、触媒要素の周囲に大きい隙間が生じやすくなり、触媒ケース内に流入した排気ガスの一部が、触媒要素を通過せずに隙間を通ってバイパスして外部に排出されてしまうので、排気ガスの浄化能力が低下する。特に、このような隙間があると、触媒要素が、エンジン回転時の振動を受けて周囲の隙間の分だけ触媒ケース内で揺り動かされ、触媒ケースの内面にくり返し衝突することにより収縮して、触媒要素と触媒ケースの内壁との隙間がさらに大きくなる。
【0006】
本発明は、網状多孔質体に触媒が担持された安価な排気浄化用触媒要素をその周囲に隙間なく安定して保持することにより排気ガスの高い浄化能力を発揮できる排気浄化用触媒要素の保持方法および保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る排気浄化用触媒要素の保持方法は、排気通路に設けられる仕切板に、網状多孔質体に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素を保持させる方法であって、前記仕切板に、前記排気ガスの通過口を含む仮凹部を形成したのち、前記仮凹部の内側に前記触媒要素を入れて、成形型により、前記触媒要素の仮凹部から露出した一端面を押圧しながら、前記仮凹部の壁を該仮凹部の外側から内側へ絞り加工することにより前記触媒要素の側面および他端面に前記仮凹部の壁を圧接変形させて、所定形状に成形した凹部内に前記触媒要素を保持させる。
【0008】
この保持方法によれば、簡易で安価な網状多孔質体を用いた触媒要素を、別途触媒ケースを使用することなく、排気通路の仕切板に保持させることができるので、安価な触媒要素が得られる。ここで、触媒要素が入った状態で仮凹部を絞り加工することにより、仮凹部の内面に触媒要素の側面および他端面を圧接させるので、触媒要素は、所定形状に成形した凹部の内周壁面に略隙間なく密着した状態で保持される。したがって、触媒要素と所定形状に成形した凹部の内周壁面との間に殆ど隙間が存在しないことから、触媒要素をバイパスする排気ガスの流れが可及的に少なくなるので、触媒要素の排気ガス浄化能力が十分発揮される。また、エンジンの振動を受けて触媒要素が揺り動かされることが殆どないので、長期間にわたり凹部の内周壁面に対し略密着状態を保持し続けて、高い排気ガス浄化能力を維持する。また、仮凹部は、絞り加工により所要形状に変形するので、触媒要素の外形よりも十分大きな容積を有する形状に形成することができ、触媒要素を仮凹部に容易に挿入することができる。
【0009】
本発明において、前記仕切板に、前記触媒要素の前記一端面を前記仮凹部の底壁の方向へ押圧する押え部材を取り付けることが好ましい。これにより、触媒要素は、触媒の担持体が網状多孔質体であって弾力性を有していることから、押え部材により若干圧縮されたことによる復元力で凹部の底壁に押し付けられて、凹部内に強固に保持される。
【0010】
本発明において、前記所定形状に成形した凹部における開口の近傍に前記凹部の内側へ突出する触媒係止突起を設けることが好ましい。これにより、触媒係止突起は、触媒要素内に食い込んで触媒要素の凹部の開口方向への動きを阻止するくさび機能を有するものとなるので、触媒要素が、エンジンの振動や排気ガスの圧力などの衝撃に対しても揺り動かされることがない安定した状態で凹部内に保持される。
【0011】
前記網状多孔質体は、例えば、帯状の網材を折り曲げて重ね合わせたものとすることができる。これにより、所望の体積を持つ網状多孔質体が容易に得られる。
【0012】
本発明に係る排気浄化用触媒要素の保持構造は、排気通路の仕切板に、網状多孔質体に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素を保持させた構造であって、前記仕切板に、排気ガスを通過させる通過口を有する凹部が形成され、前記凹部に前記触媒要素が嵌め込まれ、前記仕切板に、前記触媒要素における、前記凹部の開口から露出した一端面を前記凹部の底壁の方向へ押圧する押え部材が取り付けられ、前記凹部における開口の近傍に前記凹部の内側へ突出する触媒係止突起が設けられている。
【0013】
この保持構造によれば、簡易で安価な網状多孔質体を用いた触媒要素を、別途触媒ケースを使用することなく、排気通路の仕切板に保持させることができるので、安価な触媒要素が得られる。また、触媒要素における凹部から突出している部分を押え部材により凹部内に強制的に押し込んで保持するので、弾力性を有する網状多孔質体が押え部材により若干圧縮されたことによる復元力で凹部の底壁に押し付けられ、触媒要素を凹部内に強固に保持できる。さらに、触媒係止突起は、触媒要素内に食い込んで触媒要素の凹部の開口方向への動きを阻止するくさび機能を有するものとなるので、触媒要素が、エンジンの振動によっても揺り動かされることが防がれる安定した状態で凹部内に保持される。
【0014】
本発明において、前記押え部材に、前記触媒要素を通過した排気ガスを変向させるバッフルプレートが形成されていることが好ましい。これにより、触媒要素を通過して浄化された排気ガスは、バッフルプレートに衝突して変向されることにより、運動エネルギを消耗して消音される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排気浄化用触媒要素の保持方法または保持構造によれば、簡易で安価な網状多孔質体を用いた触媒要素を、別途触媒ケースを使用することなく、排気通路の仕切板に保持させることができるので、安価な触媒要素の保持構造が得られる。また、仮凹部に入れた触媒要素における仮凹部の開口部から露出した一端面を押圧しながら、仮凹部の壁を外側から絞り加工することにより、仮凹部の内面に触媒要素の側面および他端面を圧接させるようにしたので、触媒要素は、所定形状に成形した凹部の内面に略隙間なく密着した状態で保持されるから、高い排気ガス浄化能力を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る排気浄化用触媒要素の保持方法により具現化した保持構造を適用したマフラを備えた小型エンジンを示す背面図であり、同図には、主に刈払機の動力源として用いられる小型エンジンを例示してある。エンジン1は、クランクケース2の上部にシリンダ3が連結され、クランクケース2に前後方向に延びるクランク軸20が回転自在に支持されている。前記シリンダ3の左側方にはキャブレタ4およびエアクリーナ7が、右側方にはマフラ8がそれぞれ配置されている。また、前記シリンダ3の頂部には点火プラグ9が設けられ、前記クランクケース2の下部には燃料タンク10が装着されている。前記シリンダ3は樹脂製のシュラウド35により覆われ、前記マフラ8は樹脂製のマフラカバー80により覆われている。クランクケース2の背面にはリコイルスタータ11が取り付けられている。
【0017】
マフラカバー80のエンジン後部側には、排気ガスを図1の手前側に向け排出する排出口80aが形成され、マフラカバー80のほぼ全面にわたって、放熱のための多数のスリット80bが形成されている。マフラ8には、先端の排気口14から排気ガスを排出口80aに向け排出させる排気キャップ33が取り付けられている。
【0018】
図2はマフラ8の縦断面図である。マフラ8は、ステンレス製の板材のような金属板からなるカップ状の第1および第2ボディ半体8A,8Bを結合させて、ほぼ直方体形状に形成されたマフラボディBを有しており、マフラボディBの内部全体が排気通路12となっている。マフラボディBの上部には、マフラ8をシリンダ3に結合するための図3に示すボルト25が挿通されるカラー28が一対設けられており、図2の第1ボディ半体8Aの左側の内端壁8Vにおける一対のカラー28の間の箇所には、シリンダ3の排気ポート3aからの排気ガスGを前記排気通路12内に導入する導入口13が設けられ、第2ボディ半体8Bの右側の外端壁8Wの上部にはエンジン後方R(図3)に向かって開口する排気ガスGの排気口14が形成されている。
【0019】
マフラ8は、内部の排気通路12を流れ方向に沿って上流側と下流側とに区画する縦方向に延びる仕切板17が配置されている。この仕切板17は、金属板材からなり、外周部が第1ボディ半体8Aと第2ボディ半体8Bのフランジ81,82間に挟まれ、第2ボディ半体8Bのフランジ82をかしめることによって、両ボディ半体8A,8Bと仕切板17の三つの部材が固定されている。こうして、マフラ8内に、仕切板17を挟んで上流室18と下流室19とが形成されている。仕切板17には、上流室18側に膨出して下流室19側に開口するカップ状の凹部21が設けられ、この凹部21の底壁に排気ガスGの通過口22が開口している。凹部21の内部には触媒要素23が挿入されているとともに、凹部21の開口21aの近傍箇所に溶接により固定された押え部材24により、前記触媒要素23が凹部21内に保持されている。これら触媒要素23、押え部材24およびバッフルプレート27の詳細については後述する。
【0020】
前記押え部材24にはバッフルプレート27が一体形成されている。第2ボディ半体8Bの内部には、触媒要素23を通過したのちバッフルプレート27に衝突して下流室19内に拡散した排気ガスGを、下流室19から上方の排気口14に導く導出通路29が形成されている。この導出通路29は、第2ボディ半体8Bの外端壁8Wとこの外端壁8Wに接合されたダクト壁36とにより形成されており、その下流端が外端壁8Wに設けた排出口30に連通している。排出口30の下流側はスパークアレスタ34により覆われている。排気口14は、外端壁8Wに固定された排気キャップ33の開口により形成されている。
【0021】
つぎに、前記マフラ8の作用について簡単に説明する。図2のシリンダ3の排気ポート3aからの排気ガスGは、マフラ8の導入口13から上流室18内に導入されて膨張することにより消音されたのち、仕切板17の通過口22から触媒要素23に入り、ここで触媒反応により、HCおよびCOの濃度が低減するよう浄化される。触媒要素23から出た排気ガスGは、バップルプレート27に衝突して下流室19内に拡散されることで消音される。下流室19内に入った排気ガスGは、導出通路29の下端の導入口29aから導出通路29内に入って排気キャップ33へと導かれ、排気キャップ33の排気口14からマフラ8外へ排出され、さらに、図1のマフラカバー80の排出口80aから外部に排出される。
【0022】
つぎに、図2に示す触媒要素23の保持方法および保持構造の説明に先立って、触媒要素23について、その製造工程を図4(a)〜(d)に従って説明する。触媒要素23は、網状多孔質体31に触媒を担持させたものである。図4(a)に示すように、例えば、0.35mm程度の線径を有する1本の線材を、1平方インチ当たり60〜70目の編目サイズにメリヤス編みすることにより、図4(b)に示すように、帯状の一枚のメリヤス編み金網、例えばニットワイヤからなる網材32を製作する。この網材32を、図4(c)に示すように、約5mmピッチで高さ約2.5mmの波付け加工する。この網材32の表面に白金およびロジウムなどの触媒を焼成して担持させる。そののち、この網材32を、図4(d)に示すように、複数回折り曲げて重ね合わせることにより、所望の体積を持つ網状多孔質体31に触媒が担持された触媒要素23を得る。
【0023】
この触媒要素23は、1本の線材をメリヤス編みして帯状の金網状とした網材32を複数回折り曲げて重ね合わせた網状多孔質体31を触媒の担持体として用いるので、ハニカム構造体を触媒の担持体として用いるものに比べて、製造コストを大幅に低減できる。しかも、前記触媒要素23は、網状多孔質体31の空孔率(多孔率)が極めて高いのに伴って排気ガスの消音効果が向上するとともに、表面積が大きいことから触媒の担持量も増えるので、ハニカム構造体と同等の排気ガス浄化能力が得られる。また、網状多孔質体31を用いた触媒要素23は、線材の線径、線数、メリヤス編目サイズおよび折り重ね段数などを適宜変更することにより、空孔率を任意に選択して変更できるので、種々の使用態様に適応できる利点がある。メリヤス編み以外の編み方または織り方によって線材から網状多孔質体31を形成してもよい。
【0024】
ところが、前記網状多孔質体31は、正確に寸法管理して製作するのが困難であることから、±2mm程度の大きな寸法誤差が生じてしまうとともに、線材がランダムに絡み合って可撓性および弾力性を有しているので、変形し易く、特に、触媒要素23とした場合には、図4(d)に示す積層方向Xに容易に伸縮して変形する。
【0025】
つぎに、この可撓性および弾力性に富んだ触媒要素23を仕切板17の凹部21内に略隙間なく嵌め込んで保持する方法について説明する。図5に示す保持作業がスタートすると、先ず第1の工程P1において、図6に示すように、予備的な絞り加工と打ち抜き加工とにより、仕切板17に、底壁に略正方形の通過口22を有する仮凹部37を形成する。仮凹部37は、略正方形の開口37aを有するカップ形状であり、寸法誤差が生じる触媒要素23を容易に挿入できるように大きめの容積を有するとともに、側壁37bが底壁37cから開口37aに向け順次拡幅するテーパー状の縦断面形状に形成されている。前記通過口22および開口37aは、長方形、円、長円、楕円、三角形などの他の形状でもよい。
【0026】
つぎに、第2の工程P2(図5)において、図7に示すように、仮凹部37の内側に、触媒要素23を積層方向Xが仮凹部37の深さ方向に合致する姿勢で挿入する。このとき、仮凹部37の容積を触媒要素の寸法誤差を見込んで大きめの容積に形成していることから、挿入した触媒要素23と仮凹部37の側壁37bとの間には隙間が生じている。一方、触媒要素23の一端面(図の上端面)23aは、2点鎖線で示すように、挿入時に仮凹部37の開口37aから若干外方に飛び出している。この仮凹部37を以下のようにして仕上げの絞り加工により成形する。
【0027】
まず、第3の工程P3(図5)において、仕切板17を、固定型39と可動型40からなる成形型38に入れる。固定型39は平坦な板からなる。可動型40は、仮凹部37よりも小さな容積の所要形状に形成された加工穴45を有している。この加工穴45により、次の第4の工程P4(図5)において、触媒要素23の外形寸法のばらつきを吸収して仮凹部37の壁、つまり側壁37bおよび底壁37cを、触媒要素23の側面23cおよび他端面23cに圧接する形状に変形させるように、仮凹部37に仕上げの絞り加工を施す。
【0028】
すなわち、ばね受け台42に支持されたスプリング41の付勢力により固定型39を開口37a側から仕切板17に押し付けることにより、触媒要素23の一端面23aを仮凹部37内に押し込みながら、仕切板17の仮凹部37側にある可動型40を、図8に示すように、固定型39に向かって一気に上昇させる。これにより、図7の仮凹部37の開口37aから突出した、触媒要素23の一端面23aを、固定型39で押圧して触媒要素23を仮凹部37内に保持した状態で、加工穴45が仮凹部37の側壁37bおよび底壁37cを仮凹部37の外側から内側へ絞るように加工する。
【0029】
この絞り加工により、仮凹部37が可動型40の加工穴45で絞られて、所定形状に成形され、図8に示す凹部21が完成する。この所定形状に成形されて完成した凹部21の側壁21bおよび底壁21cが、触媒要素23の側面23bおよび他端面23cに圧接して、触媒要素23は、完成した凹部21の側壁21bおよび底壁21cの各内面に略隙間なく密着した状態で保持される。
【0030】
スプリング41は、可動型40が仕切板17を介在して固定型39に当接する瞬間に触媒要素23の変形による押し上げ力を受けて固定型39が僅かに後退する程度の強いばね圧に設定されている。これにより、スプリング41のばね圧が弱い場合に、完成した凹部21が開口21aで内側に食い込むように縮径するアンダカット気味の形状になるのを防止できる。
【0031】
上述した仕上げの絞り加工後に、第5の工程P5(図5)において仕切板17を成形型38から取り出すと、図9に示すように、触媒要素23は、固定型39(図8)による押圧力を解除されたことにより、自身の弾力性で一端面23aが凹部21の開口部から所定範囲H内で僅かに突出する。そこで、第6の工程P6(図5)において、図10に示すように、押え部材24を仕切板17に押し当てた状態で溶接(スポット)51のような固定方法により仕切板17に固定して、この押え部材24により、触媒要素23の一端面23aを凹部21内に強制的に押し込む。こうして保持作業が完了し、触媒要素23が、図2に示した状態で仕切板17に保持される。
【0032】
図11(a),(b)は、前記押え部材24を示す斜視図および平面図である。この実施形態では、一対の押え部材24とバッフルプレート27とを板材により一体形成した場合が例示されている。バッフルプレート27は頂壁27aと一対の相対向する側壁27b,27bとを有する断面コ字形状を有し、各側壁27bの下端縁に連続して、バッフルプレート27のコ字形状の内方へ向かって頂壁27aと平行に延びる一対の押え部材24が、折り曲げにより形成されている。このバッフルプレート27は、図2に示す触媒要素23を出た排気ガスGを衝突させて上下方向に変向させることにより、排気ガスGの運動エネルギを消耗させて消音効果を得るものである。
【0033】
また、図11(a)の各押え部材24の両端部は、バッフルプレート27の外方へ向けはみ出すように延びて、それぞれ一対ずつの取付片部53が形成されている。取付片部53の×印で示した箇所は、仕切板17への溶接(スポット)51の箇所である。一対の押え部材24は、図11(b)に二点鎖線で示す触媒要素23を、その一端面23aの対向辺23aa,23abの近傍で押さえ付けて、図10の凹部21内に押し込む。こうして、触媒要素23の凹部21からの突出部分が、押え部材24により凹部21内に強制的に押し込まれるので、触媒要素23における弾力性を有する網状多孔質体31が、押え部材24により若干圧縮されたことによる復元力で凹部21の底壁21cに押し付けられて、触媒要素23が一層強固に保持される。
【0034】
上述のように押え部材24は、バッフルプレート27を一体に備えていることにより、バッフルプレート27の取付部材としての機能をも兼備しており、これにより、部品点数の減少を図ることができる。なお、押え部材24とバッフルプレート27とを一体形成するのに代えて、別体に形成した押え部材24とバッフルプレート27とを互いに溶接などの接合手段で一体化してもよい。
【0035】
上述のように、本発明の保持方法により図10の触媒要素23を仕切板17に保持させた保持構造では、触媒要素23を、完成した凹部21の側壁21bおよび底壁21cとの間に隙間が殆ど存在しない状態で保持できることから、この隙間を通って触媒要素23をバイパスする排気ガスGが可及的に少なくなるので、触媒要素23による排気ガスGの浄化能力が高く維持される。また、エンジンの振動を受けても凹部21内で隙間の分だけ触媒要素23が揺り動かされて収縮することがないので、長期間にわたり凹部21の壁21b,21cに対し密着状態を保持し続けて、高い排気ガス浄化能力を維持することができる。
【0036】
なお、仮凹部37を形成することなく、仕切板17に、容積が網状多孔質体31の体積よりも若干小さい完成した凹部21を形成して、この凹部21内に触媒要素を圧入して嵌合させるようにしても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
図12は、本発明の第2実施形態に係る触媒要素23の保持構造を示す縦断面図である。この保持構造は、第1実施形態と同様の保持構造により触媒要素23を仕切板17の完成した凹部21内に保持したのちに、凹部21における開口21aの近傍で、1つ以上の側壁21b、この例では対向する2つの側壁21b,21bに、凹部21の内側へ突出する触媒係止突起44を設けている。この触媒係止突起44を設ける工程は、図5の第4の工程P4に続いて実行される。これにより、図12の触媒係止突起44が、触媒要素23内に食い込んで触媒要素23の凹部21の開口21a方向への動きを確実に阻止するくさび機能を発揮するので、触媒要素23を凹部21内に強固に保持できる。前記触媒係止突起44は凹部21の所要箇所をかしめ加工することにより容易に形成できる。ただし、かしめ加工に代えて、ピンを凹部21の側壁21bに貫通させて触媒要素23内に食い込ませるようにしても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0038】
本発明の保持方法および保持構造は、マフラへの適用に限られるものではなく、排気通路内のいずれの場所にでも採用できる。さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成を追加、削除、変更でき、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係る排気浄化用触媒要素の保持構造が設けられたマフラを備える小型エンジンを示す背面図である。
【図2】同上のマフラを示す縦断面図である。
【図3】同上のマフラを示す側面図である。
【図4】(a)〜(d)は触媒要素の製造過程を工程順に示した平面図および斜視図である。
【図5】仕切板に触媒要素を保持させる作業を示す工程図である。
【図6】仕切板に触媒要素を保持させる工程の縦断面図である。
【図7】仕切板に触媒要素を保持させる工程の縦断面図である。
【図8】仮凹部に触媒要素を保持させる工程の縦断面図である。
【図9】完成した凹部を持つ仕切板を成形型から取り外した状態の縦断面図である。
【図10】押え部材を仕切板に取り付けた状態の縦断面図ある。
【図11】(a),(b)はバッファプレートを一体に備えた押え部材を示す斜視図および平面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る触媒要素の保持構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0040】
12 排気通路
17 仕切板
21 完成した凹部
21a 開口
22 通過口
23 触媒要素
23a 触媒要素の一端面
23b 触媒要素の側面
23c 触媒要素の他端面
24 押え部材
27 バッフルプレート
31 網状多孔質体
32 網材
37 仮凹部
38 成形型
44 触媒係止突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設けられる仕切板に、網状多孔質体に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素を保持させる方法であって、
前記仕切板に、前記排気ガスの通過口を含む仮凹部を形成したのち、
前記仮凹部の内側に前記触媒要素を入れて、成形型により、前記触媒要素の前記仮凹部から露出した一端面を押圧しながら、前記仮凹部の壁を該仮凹部の外側から内側へ絞り加工することにより前記触媒要素の側面および他端面に前記仮凹部の壁を圧接変形させて、所定形状に成形した凹部内に前記触媒要素を保持させる排気浄化用触媒要素の保持方法。
【請求項2】
請求項1において、前記仕切板に、前記触媒要素の前記一端面を前記仮凹部の底壁の方向へ押圧する押え部材を取り付ける排気浄化用触媒要素の保持方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記所定形状に成形した凹部における開口の近傍に前記凹部の内側へ突出する触媒係止突起を設ける排気浄化用触媒要素の保持方法。
【請求項4】
請求項1、2または3において、前記網状多孔質体は、帯状の網材を折り曲げて重ね合わせてなる排気浄化用触媒要素の保持方法。
【請求項5】
排気通路の仕切板に、網状多孔質体に触媒が担持された排気浄化用の触媒要素を保持させた構造であって、
前記仕切板に、排気ガスを通過させる通過口を有する凹部が形成され、
前記凹部に前記触媒要素が嵌め込まれ、
前記仕切板に、前記触媒要素における、前記凹部の開口から露出した一端面を前記凹部の底壁の方向へ押圧する押え部材が取り付けられ、
前記凹部における開口の近傍に前記凹部の内側へ突出する触媒係止突起が設けられた排気浄化用触媒要素の保持構造。
【請求項6】
請求項5において、前記押え部材に、前記触媒要素を通過した排気ガスを変向させるバッフルプレートが形成されている排気浄化用触媒要素の保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−162070(P2009−162070A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339769(P2007−339769)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】