説明

排気浄化装置

【課題】排気浄化装置に関し、フィルタに捕集されたPMの燃焼量を正確に把握し、正確に再生制御を実施する。
【解決手段】エンジンの排気通路上にPMを捕集して燃焼させるフィルタ3と、フィルタ3の通過前の排気中に含まれる第一NOx量を取得する第一センサ8と、フィルタ3の通過後の排気中に含まれる第二NOx量を取得する第二センサ9とを備える。
また、第一センサ8で取得された前記第一NOx量及び第二センサ9で取得された前記第二NOx量に基づき、フィルタ3の通過後における前記排気中の二酸化窒素の減少量を演算する第一演算手段7fと、前記減少量に基づきフィルタ3で燃焼した前記PMの燃焼量を演算する第二演算手段7gとを備える。
さらに、第二演算手段7gで算出された前記燃焼量に基づき、フィルタ3を再生させる制御を行う再生制御手段7dを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気通路上のフィルタに捕集された排気中の粒子状物質を燃焼させてフィルタを再生させる排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排ガスに含まれる粒子状物質(Particulate Matter、以下PMと呼ぶ)を除去するための浄化装置として、パティキュレートフィルタ(DPF,Diesel Particulate Filter、以下フィルタと呼ぶ)が知られている。PMとは、炭素からなる黒煙(すす)の周囲に燃え残った燃料や潤滑油の成分,硫黄化合物等が付着したものであり、フィルタ上にはこれらのPMに見合った大きさの多数の細孔が形成されている。これにより、PMはフィルタの表面や細孔内部に捕集され、排気が浄化される。
フィルタに堆積したPMは、細孔を目詰まりさせて排気圧を増大させる原因となるため、適宜、焼却して除去する必要がある。PMの除去方式には、その焼却のタイミングで分類すると、おもに連続再生方式と強制再生方式との二種類がある。
【0003】
連続再生方式は、例えばフィルタの上流側に二酸化窒素(NO2)等の酸化剤を生成する酸化触媒を配置し、酸化剤をフィルタに供給することによってPMを燃焼させる方式である。この方式は、車両の通常走行時にフィルタを浄化再生させたい場合に用いて好適である。なお、PMの燃焼反応を促進すること等を目的として、フィルタに触媒層を設けたもの(コーテッドDPF)も開発されている。
【0004】
一方、強制再生方式は、フィルタの温度を上昇させる操作を加えることによってフィルタ上のPMを強制的に燃焼させる方式である。この方式は、排気温度の低いエンジンの運転状態が長時間継続したような場合に用いて好適である。なお、フィルタの温度を上昇させるための手法としては、フィルタをヒーター等で加熱する手法や、フィルタの上流側の酸化触媒に炭化水素(未燃燃料,HC)等を供給して酸化熱を発生させることで排気温度を上昇させる手法等がある。
【0005】
上記の何れの再生方式においても、フィルタ性能,排気性能,制御の信頼性,精度を高めるためには、フィルタ上に堆積しているPMの堆積量や再生制御によって焼却されたPMの燃焼量を正確に把握することが重要な課題となる。
このような課題に対し、予め設定された特性マップに基づいてPMの堆積量や燃焼量を演算する排気浄化装置が提案されている。例えば、特許文献1に記載の技術では、エンジン回転数や燃料噴射量を用いて、エンジンから排出されるPM排出量を演算している。また、フィルタのベッド温度や前回の演算周期で演算されたPM堆積量を用いてPM燃焼量を求め、PM排出量からPM燃焼量を減算した値を積算し、今回の演算周期でのPMの堆積量を算出している。PM堆積量に基づいてPM燃焼量を求めることで、PMの燃焼速度を正確に補正することができ、PM堆積量を精度よく推定することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術で得られるPM燃焼量は、実験等を通して得られたマップに基づいて推定される値であって、実際の燃焼反応が反映されたものではない。そのため、運転状態によっては誤差が増大する場合があり、再生制御の精度,確度を向上させることが難しいという課題がある。
本件は上記のような課題に鑑み創案されたもので、フィルタに捕集されたPMの燃焼量を正確に把握し、正確に再生制御を実施することができるようにした排気浄化装置を提供することを目的とする。
【0008】
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する排気浄化装置は、エンジンの排気通路上に設けられ、排気中のPMを捕集するとともに前記PMを燃焼させて再生するフィルタと、前記フィルタの通過前の排気中に含まれる第一NOx量を取得する第一センサと、前記フィルタの通過後の排気中に含まれる第二NOx量を取得する第二センサとを備える。
また、前記第一センサで取得された前記第一NOx量及び前記第二センサで取得された前記第二NOx量に基づき、前記フィルタの通過後における前記排気中の二酸化窒素(NO2)の減少量を演算する第一演算手段と、前記第一演算手段で演算された前記減少量に基づき、前記フィルタで燃焼した前記PMの燃焼量を演算する第二演算手段とを備える。
さらに、前記第二演算手段で算出された前記燃焼量に基づき、前記フィルタを再生させる制御を行う再生制御手段を備える。
つまり、フィルタの通過の前後におけるNOx量の変化からNO2の減少量を演算し、この減少量に見合った量のPMがフィルタ上で燃焼したと判断する。NO2の減少量と炭素(C)の燃焼量との比率は、PMの燃焼反応の化学式(2NO2 + C→ 2NO + CO2)によって定まり、モル比で2:1である。したがって、NO2の減少量が得られれば、これと同じ精度でPMの燃焼量が正確に演算される。
【0010】
(2)また、前記フィルタの上流側に設けられ、排気中の成分に対する酸化能を有する酸化触媒を備え、前記第一センサが、前記酸化触媒と前記フィルタとの間に設けられることが好ましい。
(3)また、前記エンジンの回転数及び前記エンジンの負荷に基づき、前記エンジンから排出される第三NOx量を取得するエンジン演算手段を備え、前記第一演算手段が、前記第一NOx量,前記第二NOx量及び前記第三NOx量に基づき、前記減少量を演算することが好ましい。
【0011】
(4)また、前記エンジン演算手段で演算された前記第三NOx量と前記第一センサで取得された前記第一NOx量とに基づいて、前記酸化触媒の通過時における前記排気中の二酸化窒素の増加量を演算する酸化触媒演算手段とをさらに備えることが好ましい。
(5)また、前記第一演算手段が、前記排気中の二酸化窒素の濃度に応じた前記第一センサ及び第二センサの出力特性の変化を利用して、前記減少量を演算することが好ましい。
(6)また、前記第二演算手段で演算された前記燃焼量を報知する報知手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
(1)開示の排気浄化装置によれば、フィルタの前後でのセンサ検出値を用いて、フィルタの通過後に減少する二酸化窒素量を算出することで、PMの燃焼量を正確に把握することが可能となり、フィルタの再生制御の精度を向上させることができる。また、強制再生方式でフィルタを再生させる場合には、再生のインターバルを正確に制御でき、排気性能を向上させつつ燃費を向上させることができる。
【0013】
(2)フィルタでのPMの燃焼反応のみによるNOx濃度の検出値の変化を検出することができ、PMの燃焼量を正確に把握することができる。
(3)エンジンから排出されるNOx量を演算に用いることで、酸化触媒及びフィルタのそれぞれを通過した排気中に含まれるNO2量を正確に演算することができる。
【0014】
(4)酸化触媒でのNO2の増分を正確に把握することができる。これにより、酸化触媒の劣化の度合いを診断することも可能となり、排気浄化性能をさらに向上させることができる。
(5)第一センサ及び第二センサの出力特性の変化を利用することで、容易に二酸化窒素の減少量を把握することができる。
(6)フィルタでのPM燃焼量を報知することで、例えばドライバーや乗員等が再生状態を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る排気浄化装置の全体構成を模式的に例示する図である。
【図2】図1のエンジンの運転状態と排気中に含まれる窒素酸化物濃度との関係を例示するグラフである。
【図3】図1の排気浄化装置で用いられる第一センサ及び第二センサの出力特性を示すグラフである。
【図4】図1の排気浄化装置での制御内容を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して開示の排気浄化装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0017】
[1.構成]
[1−1.全体構成]
本実施形態の排気浄化装置10は、図1に例示する車両の吸排気システムに適用されている。図1中のエンジン20は軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、このエンジン20には排気通路16及び吸気通路17が接続される。エンジン20の各気筒の燃焼室には吸気通路17を介して吸気が導入され、燃焼後の排気は排気通路16を介して外部へ排出される。
【0018】
排気通路16には排気の流れの上流側から順に、ターボチャージャー18,DPF装置1及びSCR(Selective Catalytic Reduction)装置4が介装される。DPF装置1は連続再生方式及び強制再生方式を併用した濾過装置であり、SCR装置4は排気中に含まれるNOxを除去するための浄化装置である。
【0019】
ターボチャージャー18は、排気通路16及び吸気通路17のそれぞれを跨ぐように介装された過給器であり、排気通路16を流通する排気の排気圧でタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサを駆動することにより、吸気通路17からの吸気を圧縮してエンジン20への過給を行う。
排気通路16上におけるDPF装置1とSCR装置4との間には、ユリアインジェクタ11が設けられる。ユリアインジェクタ11は、排気中に尿素〔CO(NH2)2〕の水溶液を噴霧供給するノズルである。ここで排気中に添加された尿素は排気熱によって熱分解,加水分解されNH3となる。
【0020】
吸気通路17上の任意の位置(例えば、スロットルバルブよりも上流側)には、エアフローセンサ22が設けられる。エアフローセンサ22は、エンジン20のシリンダ内に導入される吸気量Qを検出する流量センサである。また、本吸排気システムの任意の位置には、アクセル開度センサ23が設けられる。アクセル開度センサ23は運転者によるアクセルペダルの操作量θAC(アクセル開度)を検出するものである。なお、エンジン20は図示しないエンジンECUの働きによりアクセル開度θACに応じた出力となるように制御される。したがって、アクセル開度θACはエンジン20のトルク(負荷)の指標となる。
【0021】
さらに、エンジン20のクランクシャフト21の近傍には、エンジン回転数Nを検出するエンジン回転数センサ24が設けられる。エアフローセンサ22で検出された吸気量Q,アクセル開度センサ23で検出されたアクセル開度θAC,エンジン回転数センサ24で検出されたエンジン回転数Nは、後述するコントローラ7へと入力されている。
【0022】
[1−2.DPF装置]
DPF装置1は、上流側に配置されるDOC(Diesel Oxidation Catalyst)触媒2と下流側に配置されるフィルタ3とを内蔵する。このDPF装置1は、排気中に含まれるPM(Particulate Matter,粒子状物質)を捕集する機能と、捕集したPMを連続的に酸化させて除去する機能とを併せ持つ。なお、PMとは、炭素からなる黒煙(すす)の周囲に燃え残った燃料や潤滑油の成分,硫黄化合物等が付着した粒子状の物質である。
【0023】
DOC触媒2は、排気中の成分に対する酸化能を持った酸化触媒であり、金属,セラミックス等からなるハニカム状の担体に触媒物質を担持したものである。DOC触媒2によって酸化される排気中の成分には、一酸化窒素(NO)や未燃燃料中の炭化水素等が挙げられる。例えば、NOがDOC触媒2で酸化されると二酸化窒素(NO2)が生成される。なお、DOC触媒2におけるNOの酸化反応の化学反応式を以下に例示する。
2NO + O2 → 2NO2 ・・・(式1)
【0024】
フィルタ3は、PMを捕集する多孔質フィルタ(例えば、セラミックフィルタ)である。フィルタ3の内部は、多孔質の壁体によって排気の流通方向に沿って複数に分割されている。この壁体には、PMの微粒子に見合った大きさの多数の細孔が形成される。排気が壁体の近傍や内部を通過する際に壁体内,壁体表面にPMが捕集され、排気が濾過される。
また、フィルタ3の表面では、排気中のNO2等を酸化剤として排気微粒子が焼却される。このようなPMの除去方式を連続再生方式と呼ぶ。この方式は、車両の通常走行時にフィルタを浄化再生させたい場合に用いて好適である。なお、PMの燃焼反応を促進すること等を目的として、フィルタに触媒層を設けたもの(コーテッドDPF)も開発されている。
【0025】
また、本実施形態のフィルタ3では、連続再生方式の再生制御だけでなく、フィルタ3の温度を上昇させることによってPMを強制的に燃焼させる強制再生方式の再生制御も実施される。フィルタ3の温度を上昇させる手法は任意であり、例えば、DOC触媒2に炭化水素(未燃燃料,HC)等を供給して酸化熱を発生させることで排気温度を上昇させる手法や、フィルタ3をヒーター等で加熱する手法等を採用することができる。強制再生方式の再生制御時にフィルタ3上でPMを燃焼させるのに必要な排気温度のことを再生温度TF(例えば550〜600[℃])と呼ぶ。
【0026】
このようなフィルタ3の再生制御は、後述するコントローラ7によって制御される。本実施形態では、車両の通常走行時にはNO2でPMを燃焼させる連続再生方式でフィルタ3が再生浄化されるとともに、必要に応じてO2でPMを燃焼させる強制再生方式でフィルタ3が再生浄化される。
フィルタ3におけるPMの燃焼反応の化学反応式を以下に例示する。式2に示す反応は低温時のPM燃焼反応であり、おもに連続再生方式による再生制御時に進行する。また、式3に示す反応は高温時のPM燃焼反応であり、おもに強制再生方式による再生制御時に進行する。
2NO2 + C → 2NO + CO2 ・・・(式2)
C + O2 → CO2 ・・・(式3)
【0027】
DPF装置1の直下流側及び内部のそれぞれには、排気中に含まれるNOxの濃度を検出する第一センサ8及び第二センサ9(NOxセンサ)が設けられる。第一センサ8はフィルタ3の上流側に配置され、フィルタ3を通過する直前の排気中のNOx量を検出するNOxセンサである。また、第二センサ9はフィルタ3の下流側に配置され、フィルタ3を通過した直後の排気中のNOx量を検出するNOxセンサである。なお、第一センサ8はDOC触媒2とフィルタ3との間の排気通路上に設けられ、第二センサ9はSCR装置4とフィルタ3との間の排気通路上に設けられる。
以下、第一センサ8で検出されたNOx濃度のことを第一NOx濃度C1と呼び、第二センサ9で検出されたNOx濃度のことを第二NOx濃度C2と呼ぶ。ここで検出された第一NOx濃度C1及び第二NOx濃度C2は、後述するコントローラ7に伝達される。
【0028】
[1−3.SCR装置]
SCR装置4は、上流側に配置されるSCR触媒5(選択還元触媒)とその下流側に配置されるCUC触媒6(後段酸化触媒)とを内蔵する。
SCR触媒5は、尿素添加型の窒素酸化物選択還元触媒であり、上流側のユリアインジェクタ11から供給される尿素水を受けてNH3を生成し、そのNH3を吸着するとともに、吸着したNH3を還元剤として排気中のNOxを窒素へと還元する機能を持つ。
CUC触媒6は、SCR触媒5での還元反応における余剰分のNH3(スリップNH3)を除去するための酸化触媒である。CUC触媒6は、NH3を酸化させる酸化触媒層と、NH3の酸化によって生じたNOxを還元する還元触媒層とを有する。
【0029】
[1−4.NO2比率]
ここで、SCR触媒5でのNOxの還元反応に関連して、排気中に含まれるNOxのモル分率(モル濃度,物質量)に対するNO2のモル分率をNO2比率と呼ぶ。例えば、NO2が存在しない排気のNO2比率は0であり、NOとNO2とが等モルで存在する排気のNO2比率は0.5である。また、NOxの全成分がNO2である状態(すなわち、NOが存在しない状態)では、NO2比率が1.0となる。
なお、NO2比率の代わりにNO及びNO2のモル分率(物質量)の比を用いてもよい。これらの値は互いに換算することができる。例えば、NO2比率が0.5であることと、NO及びNO2の数(物理量)の比が一対一であることとは同義である。
【0030】
DOC触媒2では排気中のNOがNO2に変換されるため、排気のNO2比率はDOC触媒2の通過前よりも通過後の方が増加する。また、フィルタ3では排気中のNO2がPMの燃焼時に消費されるため、排気のNO2比率はフィルタ3の通過前よりも通過後の方が減少する。一方、DOC触媒2及びフィルタ3の何れにおいても、通過の前後で排気中に含まれるNO及びNO2の総量は変化しないため、NOx濃度の真の値も変化しないはずである。したがって、仮にNOx濃度の検出値が通過の前後で変化したとすれば、その変化はNO2比率の変動のみの影響で生じた変化であるとみなすことができる。
【0031】
なお、DOC触媒2における上記の式1の化学反応の進行速度は、NO,NO2の濃度,酸素濃度,触媒温度(DOC触媒2の内部の排気温度)等に応じて増減する。また、フィルタ3でのPMの燃焼速度は、PM,NO2の濃度,酸素濃度,排気流量,フィルタ温度(フィルタ3の内部の排気温度)等に応じて増減する。したがって、化学反応の反応速度に基づいてDOC触媒2,フィルタ3の状態を推定するには多種のパラメータが必要になり、演算が複雑となる。
これに対し、本排気浄化装置10ではNO2比率の変動からNO2量の増減を把握する。このNO2量は、DOC触媒2及びフィルタ3での実際の化学反応に即応したパラメータであるから、NOの酸化量やPMの燃焼量Bと行った化学反応に係る物理量を把握するのに用いて好適であるといえる。
【0032】
[2.コントローラ]
コントローラ7〔ECU,Engine (electronic) Control Unit〕は、エンジン20を含む吸排気システムを統括管理する電子制御装置であり、マイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスである。コントローラ7では、フィルタ3でのPMの堆積量S及びPMの燃焼量Bの演算のほか、フィルタ3の再生制御やユリアインジェクタ11からの尿素水の噴射制御等が実施されている。
【0033】
コントローラ7の入力側には、前述の第一センサ8,第二センサ9,エアフローセンサ22,アクセル開度センサ23及びエンジン回転数センサ24が接続される。また、コントローラ7の出力側には、ユリアインジェクタ11やエンジン20の制御装置(エンジンECU),報知装置15(報知手段)が接続される。報知装置15は、ディスプレイ,ランプ等の表示装置とスピーカ,ブザー等の音響装置とを内蔵した出力装置であり、例えば車室内のインストルパネルに取り付けられる。
【0034】
本実施形態では、コントローラ7に実装される機能のうち、おもにPM燃焼量Bの演算制御及びフィルタ3の強制再生制御について説明する。
PM燃焼量Bの演算制御とは、フィルタ3に捕集されたPMの連続再生時の燃料量を演算する制御であり、例えば強制再生時以外は常に実施される。この制御では、フィルタ3の通過の前後におけるNOx濃度の検出値の変化からNO2の減少量を演算し、この減少量に見合った量のPMがフィルタ3上で燃焼したものと判断する。
【0035】
なお、NO2の減少量と炭素(C)の燃焼量との比率は、上記の式2に示すように、モル比で2:1である。したがって、NO2の減少量が得られれば、これと同じ精度でPMの燃焼量Bが正確に演算される。
フィルタ3の強制再生制御は、フィルタ3上でのPMの堆積量Sが所定量S0以上となったときに、エンジン20から排出される排気温度を再生温度TFまで昇温させてPMを強制的に燃焼させる制御である。PMの堆積量Sは、コントローラ7で随時演算される。
【0036】
[3.コントローラの機能]
コントローラ7の内部にソフトウェア又はハードウェア回路としてプログラミングされている機能を、図1中に模式的に示す。なお、ソフトウェアとする場合には、そのソフトウェアを図示しないメモリや記憶装置に記録し、図示しないCPU(Central Processing Unit,中央処理装置)に随時読み込むことによって以下に説明する機能を実現する。
コントローラ7には、エンジン演算部7a,酸化触媒演算部7b,フィルタ演算部7c,再生制御部7dが設けられる。
【0037】
エンジン演算部7a(エンジン演算手段)には、図2に示すように、エンジン20の運転状態とその時にエンジン20から排出されるNOx濃度との対応関係が記述されたマップが記憶されている。エンジン演算部7aは、アクセル開度θAC及びエンジン回転数Nとこのマップとに基づき、エンジンアウトの第三NOx濃度C3を演算する。なお、第三NOx濃度C3に排気流量を乗じるとエンジン20から排出されるNOx量が算出される。また、排気流量の代わりに吸気流量Qを用いてもよい。
【0038】
第三NOx濃度C3は、エンジン20に作用する負荷が大きいほど(エンジン20で発生するトルクが大きいほど)増加する傾向にある。また、図2中に破線で示すように、運転状態をエンジン回転数Nの大きさに応じて便宜的に三つの領域に分割すると、低回転領域及び高回転領域の運転状態では、その中間の中回転領域の運転状態よりもエンジン20で発生するNOx濃度が増大する傾向が見られる。このような傾向は、エンジン20に作用する負荷が大きいほど顕著となる。
【0039】
酸化触媒演算部7b(酸化触媒演算手段)は、DOC触媒2を通過した直後の排気に含まれるNO2量を演算するものである。ここでは、図3に示すNOxセンサ特性マップと第一センサ8で検出された第一NOx濃度C1とに基づき、まずDOC触媒2の直下流でのNO2比率R1が演算される。
図3のNOxセンサ特性マップは、排気中のNO2がNOxセンサの出力に与える影響を調査した結果として得られたマップであり、コントローラ7の内部に予め記憶されている。このマップの横軸はNO2比率であり、縦軸はNOxセンサの出力誤差Gである。第一センサ8及び第二センサ9はともにこのNOxセンサ特性マップに示される出力特性を持つ。
【0040】
一般に、NOxセンサはエンジン20から排出された直後の(すなわち、エンジンアウトの)排気中に含まれるNOx濃度が正確に計測されるようにその出力が調整されている。エンジンアウトの排気のNO2比率をX(エンジン20の典型的な運転状態では、X=0.1前後である)とおくと、NO2比率がXよりも高くなるほどNOxセンサの出力値は低下し、Xよりも低くなるほどNOxセンサの出力値は上昇する。
【0041】
このようなNOxセンサ特性マップの特性に鑑み、酸化触媒演算部7bはエンジン演算部7aで演算された第三NOx濃度C3を第一NOx濃度C1で除算して出力誤差Gを演算し、図3のマップを用いてこれに対応するNO2比率R1を演算する。なお、ここでいう出力誤差Gは、第三NOx濃度C3に対する第一NOx濃度C1の比である。
【0042】
例えば、第三NOx濃度C3と第一NOx濃度C1とが同一であれば、出力誤差GがG=1.0となり、これに対応するNO2比率R1はR1=X(エンジンアウトの排気のNO2比率と同一の値)となる。第一NOx濃度C1が小さいほど出力誤差Gの値も小さくなり、NO2比率R1が増大する。
また、酸化触媒演算部7bは、上記のNO2比率R1に第一NOx濃度C1を乗算して、NO2量S1を演算する。ここで演算されるNO2量S1は、フィルタ3に流入する直前の排気中に含まれるNO2の量である。
【0043】
フィルタ演算部7cは、フィルタ3を通過した直後の排気に含まれるNO2量を演算するものである。ここでは、図3に示すNOxセンサ特性マップと第二センサ9で検出された第二NOx濃度C2とに基づき、まずフィルタ3の直下流でのNOx濃度が演算される。例えば、エンジン演算部7aで演算された第三NOx濃度C3を第二NOx濃度C2で除算して出力誤差Gを演算し、図3のマップを用いてこれに対応するNO2比率R2を演算する。
【0044】
また、フィルタ演算部7cは、上記のNO2比率R2に第二NOx濃度C2を乗算して、NO2量S2を演算する。ここで演算されるNO2量S2は、フィルタ3を通過した直後の排気中に含まれるNO2の量である。
さらに、フィルタ演算部7cには、堆積量演算部7e,第一演算部7f及び第二演算部7gが設けられる。
【0045】
堆積量演算部7eは、フィルタ3に堆積したPMの堆積量Sを演算するものである。ここでは、例えばエンジン20からのPM排出量の積算値に基づいて堆積量Sが演算されるが、具体的なPMの堆積量Sの推定手法は任意である。エンジン20からのPM排出量は、エンジンの運転状態(例えば、エンジン回転数Nや燃料噴射量等)毎に予め設定された図示しないPM排出量マップを用いて演算される。
【0046】
第一演算部7f(第一演算手段)は、フィルタ3の通過前から通過後にかけて減少したNO2の量を演算するものである。NO2の減少量Dは以下の式4で与えられる。
減少量D=NO2量S1−NO2量S2 ・・・(式4)
【0047】
第二演算部7g(第二演算手段)は、第一演算部7fで演算されたNO2の減少量Dに基づき、フィルタ3で燃焼したPMの燃焼量Bを演算する。ここでは、NO2の減少量Dと炭素(C)の燃焼量Bとの比率がモル比で2:1であるものとしてPMの燃焼量Bを演算する。なお、ここで演算された燃焼量Bは堆積量演算部7eに伝達され、それまでの堆積量Sから減算されて新たな堆積量Sの演算に用いられる。PMの堆積量Sはこのような演算の繰り返しによって随時更新される。
【0048】
再生制御部7d(再生制御手段)は、フィルタ3の強制再生制御を実施するものである。再生制御部7dは、PMの堆積量Sが所定量S0以上であることを制御の開始条件として、エンジン20から排出される排気温度を昇温させる。これにより、フィルタ3に導入される排気温度が上昇し、フィルタ3に捕集されたPMが燃焼する。
【0049】
[4.フローチャート]
図8は、排気浄化装置10での制御の一例を説明するためのフローチャートである。このフローは、コントローラ7の内部で繰り返し実施されている。なお、第一センサ8及び第二センサ9でのNOx値の検出は常時行われている。
【0050】
ステップA10では、アクセル開度センサ23で検出されたアクセル開度θAC及びエンジン回転数センサ24で検出されたエンジン回転数Nがコントローラ7に入力される。続くステップA20では、これらの値と図示しないPM排出量マップに基づき、堆積量演算部7eにおいてエンジン20からのPM排出量が演算される。また、このPM排出量の積算値としてPMの堆積量Sが演算される。
【0051】
ステップA30では、第一センサ8で検出された第一NOx濃度C1及び第二センサ9で検出された第二NOx濃度C2がコントローラ7に入力される。また、続くステップA40では、図2に示すマップに基づき、エンジン演算部7aにおいて第三NOx濃度C3が演算される。第一NOx濃度C1及び第二NOx濃度C2はセンサでの検出値であるから、これらの値は図3に示すセンサの出力特性に従って真のNOx濃度の値とは相違する値である。
【0052】
一方、DOC触媒2やフィルタ3ではNOxが還元浄化される訳ではないため、これらを通過した排気中に含まれるNOxの総量は、エンジン20から排出された排気中に含まれるNOxの総量と同一である。したがって、第一NOx濃度C1及び第二NOx濃度C2と第三NOx濃度C3とを比較することで、DOC触媒2の通過直後やフィルタ3の通過直後の排気のNO2比率、延いてはNO2量を計測することができる。
【0053】
このような見地に基づき、ステップA50では、酸化触媒演算部7bにおいて出力誤差G(G=C1/C3)が演算され、図3のマップからこれに対応するNO2比率R1が演算される。また、このNO2比率R1に第一NOx濃度C1が乗算されて、DOC触媒2の直下流でのNO2量S1が演算される。同様に、ステップA60では、フィルタ演算部7cにおいて出力誤差G(G=C2/C3)が演算され、これに対応するNO2比率R2が演算される。また、このNO2比率R2に第二NOx濃度C2が乗算されて、フィルタ3の直下流でのNO2量S2が演算される。
【0054】
続くステップA70では、第一演算部7fにおいて、ステップA50で演算されたNO2量S1からステップA60で演算されたNO2量S2が減算され、NO2の減少量Dが演算される。この減少量Dは、フィルタ3の通過の前後でPMの連続再生に伴って消費されたNO2量であり、換言すれば、フィルタ3の通過時にNOに還元されたNO2量である。また、続くステップA80では、第二演算部7gにおいて、前ステップで得られた減少量Dに基づきPMの燃焼量Bが演算される。
【0055】
ステップA90では、堆積量演算部7eにおいて、その時点でのPMの堆積量Sから燃焼量Bが減算され、PMの堆積量Sが更新される。なお、ステップA95では、堆積量演算部7eから報知装置15に燃焼量B及び堆積量Sが伝達され、これらの情報がディスプレイ等に表示される。燃焼量B及び堆積量Sの情報は随時更新される。
【0056】
また、ステップA100では、堆積量演算部7eにおいて、堆積量Sが所定量S0以上であるか否かが判定される。ここで、S≧S0である場合にはステップA110に進み、フィルタ3の強制再生制御が実施される。強制再生制御では、例えば、インジェクタ25からのポスト燃料噴射によって排気中の未燃燃料成分が増加するような制御が実施される。これにより、DOC触媒2よりも下流側の排気温度が再生温度TFまで昇温し、フィルタ3上のPMが強制的に燃焼除去される。一方、S<S0である場合には、そのままこのフローを終了する。
【0057】
[5.作用,効果]
このように、上記の排気浄化装置10では、フィルタ3の上流側及び下流側のそれぞれに配置された第一センサ8,第二センサ9でのNOx濃度検出値を用いて、フィルタ3の通過後に減少するNO2量が演算される。これにより、フィルタ3上でのPMの燃焼量Bを正確に演算することが可能となり、フィルタ3での連続再生の状態を正確に把握することができる。また、強制再生制御の開始条件を正確に判定することができる。
【0058】
例えば、従来の制御ではPMの堆積量の演算誤差を見越して、強制再生制御を開始するための堆積量Sの閾値を小さめに設定する必要があったが、上記の排気浄化装置10ではこのような設定が不要となり、強制再生制御のインターバル(制御間隔)を長くすることができる。したがって、排気性能を向上させつつ燃費を向上させることができる。
【0059】
また、上記の排気浄化装置10では、第一センサ8がDOC触媒2とフィルタ3との間に設けられるため、フィルタ3でのPMの燃焼反応のみによるNOx濃度の検出値の変化を検出することができ、PMの燃焼量Bを正確に把握することができる。
また、上記の排気浄化装置10では、エンジン演算部7aにおいて、エンジン20から排出される第三NOx濃度C3を演算し、これに対するセンサ検出値の比を用いてNO2比率R1,R2及びNO2量S1,S2を演算している。これにより、DOC触媒2及びフィルタ3のそれぞれでのNO2量の増減量を正確に把握することができる。
【0060】
また、上記の排気浄化装置10では、図3に示すようなNOxセンサの出力特性を利用することで、簡素な構成で容易にNO2の変動量を把握することができるという利点がある。
さらに、燃焼量B及び堆積量Sの情報が随時、報知装置15から乗員に報知されるため、乗員はフィルタ3での連続再生の実施状態を確認しながら車両を運転することができ、ユーザビリティを向上させることができる。
【0061】
[6.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0062】
上述の実施形態では、エンジン演算部7aにおいて、エンジンの運転状態に基づいてエンジンアウトのNOx濃度C3を演算するものを例示したが、DOC触媒2よりもさらに上流側にNOxセンサを設けてもよい。この場合、第三NOx濃度C3の値の信頼性がさらに向上し、PMの燃焼量B及び堆積量Sの演算精度をさらに向上させることができる。
【0063】
また、上述の実施形態の酸化触媒演算部7bにおいて、DOC触媒2で生成されたNO2量を演算する構成を付加することも考えられる。つまり、酸化触媒演算部7bで演算されるNO2量S1からエンジンアウトの排気中に含まれるNO2量を減算すれば、DOC触媒2のみでのNO2の増分を正確に演算することができる。
【0064】
DOC触媒2は、触媒温度が高いほどNO2を多く生成する特性を有するが、同じ触媒温度でも劣化度(劣化の進行度合い)が小さい場合、すなわち新品の場合のほうが、劣化度の大きいものよりも多くのNO2を生成することができる。そのため、DOC触媒2で生成されるNO2量から、DOC触媒2の劣化度を判定することが可能である。
【0065】
なお、上述の実施形態の排気浄化装置10は、DPF装置1及びSCR装置4を排気通路16上に直列配置したものを例示したが、少なくともフィルタ3の上流側及び下流側に第一センサ8及び第二センサ9を備えた吸排気システムであれば上記の技術効果を奏する装置を実現することが可能である。
また、上述の実施形態ではディーゼルエンジンの排気系に本発明を適用したものが例示したが、ガソリンエンジンの排気系への適用も可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 DPF装置
2 DOC触媒(酸化触媒)
3 フィルタ
4 SCR装置
5 SCR触媒
6 CUC触媒
7 コントローラ
7a エンジン演算部(エンジン演算手段)
7b 酸化触媒演算部(酸化触媒演算手段)
7c フィルタ演算部
7e 堆積量演算部
7f 第一演算部(第一演算手段)
7g 第二演算部(第二演算手段)
7d 再生制御部(再生制御手段)
8 第一センサ
9 第二センサ
10 排気浄化装置
11 ユリアインジェクタ
15 報知装置(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路上に設けられ、排気中のPMを捕集するとともに前記PMを燃焼させて再生するフィルタと、
前記フィルタの通過前の排気中に含まれる第一NOx量を取得する第一センサと、
前記フィルタの通過後の排気中に含まれる第二NOx量を取得する第二センサと、
前記第一センサで取得された前記第一NOx量及び前記第二センサで取得された前記第二NOx量に基づき、前記フィルタの通過後における前記排気中の二酸化窒素の減少量を演算する第一演算手段と、
前記第一演算手段で演算された前記減少量に基づき、前記フィルタで燃焼した前記PMの燃焼量を演算する第二演算手段と、
前記第二演算手段で算出された前記燃焼量に基づき、前記フィルタを再生させる制御を行う再生制御手段と
を備えたことを特徴とする、排気浄化装置。
【請求項2】
前記フィルタの上流側に設けられ、排気中の成分に対する酸化能を有する酸化触媒を備え、
前記第一センサが、前記酸化触媒と前記フィルタとの間に設けられる
ことを特徴とする、請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記エンジンの回転数及び前記エンジンの負荷に基づき、前記エンジンから排出される第三NOx量を取得するエンジン演算手段を備え、
前記第一演算手段が、前記第一NOx量,前記第二NOx量及び前記第三NOx量に基づき、前記減少量を演算する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記エンジン演算手段で演算された前記第三NOx量と前記第一センサで取得された前記第一NOx量とに基づいて、前記酸化触媒の通過時における前記排気中の二酸化窒素の増加量を演算する酸化触媒演算手段とをさらに備えた
ことを特徴とする、請求項3記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記第一演算手段が、前記排気中の二酸化窒素の濃度に応じた前記第一センサ及び第二センサの出力特性の変化を利用して、前記減少量を演算する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記第二演算手段で演算された前記燃焼量を報知する報知手段を備えた
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36859(P2012−36859A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178839(P2010−178839)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】